(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも1つの窒化タングステン系吸収層が、最上のNiCr酸化物系バリア層と、前記Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZr酸化物系誘電体層との間に、かつそれらと直接接触して前記中央反射防止層内に位置する、請求項6に記載の前記被覆ガラス板。
少なくとも1つの窒化タングステン系吸収層が、最上のNiCr酸化物系バリア層と、前記Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZr酸化物系前記誘電体層との間に、かつそれらと直接接触して前記上方反射防止層内に位置する、請求項9に記載の前記被覆ガラス板。
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽制御被覆を有する熱処理可能な被覆ガラス板に関する。本発明は、該板を組み込む多重グレージングにも関する。
【0002】
安全特性を与えるために強化され、かつ/または曲げられた熱処理されたガラス板は、例えば、建築用グレージングまたは自動車用グレージングなど、多数の用途領域に必要とされている。ガラス板を熱的に強化し、かつ/またはそれを曲げるために、使用されるガラスの軟化点の近くまたはそれを上回る温度での熱処理によりガラス板を加工し、次いで急速冷却によってそれらを強化するか、または曲げ手段を活用してそれらを曲げることのいずれかが必要であることは既知である。ソーダ石灰シリカ系の標準フロートガラスの関連温度範囲は、典型的には約580〜690℃であり、ガラス板は、実際の強化及び/または曲げプロセスを開始する前に、数分間この温度範囲内に維持される。
【0003】
以下の説明及び特許請求の範囲の「熱処理」、「熱処理された」、及び「熱処理可能な」は、先に述べたような熱による曲げ及び/または強化プロセス、ならびに被覆ガラス板が数分の期間、例えば最大約10分間、約580〜690℃の範囲内の温度に達するその他の熱によるプロセスを指す。被覆ガラス板は、致命的な損傷なく熱処理に耐え抜いた場合に、熱処理可能であると見なされ、熱処理によっもたらされる典型的な損傷とは、高いヘイズ値、小さい穴、または染みである。
【0004】
特定の要求を満たすためには、様々な光透過値及び/または伝熱値を有する幅広い被覆ガラス板を製造することができることが望ましい。この目標に取り組むための1つのアプローチは、異なる製品種類(例えば、低放射及び太陽制御、ならびに熱処理可能な製品及び加熱処理不可能な製品の両方)のそれぞれに対して共通の多層スタックまたはプラットフォームを使用し、次いで異なる厚さの少なくとも1つの吸収層をスタックのそれぞれに追加することによってスタックの光学特性を調整することである。
【0005】
本発明の文脈において、層が「吸収層」であると言われる場合、その層は、スペクトルの可視域を含むがそれに限定されない、太陽エネルギースペクトル内での測定可能な吸収量を有することを意味する。したがって、そのような吸収層は、被覆ガラス板を通した太陽エネルギー伝達を制御(減少)するという一般目的に役立ち得る。
【0006】
ある特定の吸収層は、当該技術分野において既知である。例えば、欧州特許第EP 0718250 A2号は、銀などの機能金属層の上に直接位置する保護金属層(例えば、Nb、Ta、Ti、Cr、Ni、NbTa、TaCr、またはNiCr)を有する被覆スタックについて記載する。保護金属層の厚さは、光透過を調節するために修正され得る。
【0007】
国際特許第WO2008/075107 A1号は、好ましくは銀系機能層の真上及び真下の両方に、窒化タングステンバリア層を吸収層として使用することについて記載する。十分なバリア及び太陽制御機能を達成するために、窒化タングステンWN
x(x<1)を備えるバリア層は、少なくとも約2nmの厚さを有するべきである。バリア層が最小限の厚さを有しなければならない(バリア層が、その後の誘電体層を反応被覆する間、銀系層を反応性プラズマから適切に保護するため)ということは、実現され得る光学特性に関して完全な自由がないように窒化タングステン層の厚さを制限することを意味する。さらには、窒化タングステン系バリア層の銀系層への接着性は、他のバリア層の接着性よりも低いことが分かっている。被覆スタックの個々の層間の低接着性は、例えば熱処理中、被覆スタックの層間剥離を引き起こし得る。
【0008】
国際特許第WO2009/067263 A1号は、吸収バリア層で保護され得る少なくとも2つの銀層を有する被覆について記載する。吸収バリア層は、幅広い材料より選択され得るが、NiCrが好ましい。NiCr系吸収層は、熱処理中に酸化し、それによってその光学特性を著しく変化させる傾向がある。
【0009】
国際特許第WO2009/001143 A1号は、吸収層が、低放射及び/または太陽制御被覆スタックの反射防止層の一部であるAl(オキシ)窒化物層内に組み込まれている被覆ガラス板について開示する。この吸収層は、金属窒化物、好ましくはNiCr、タングステン、またはそれらの窒化物を含み得る。そのような配置は、スタックの複雑性を増大させる。
【0010】
例えばAl及び/またはSiの(オキシ)窒化物の保護層内に窒化タングステン系吸収層を組み入れる必要なしに、光学特性が変化しないように熱処理時に熱的に安定しており、実現され得る光学特性に関してより大きな柔軟性を可能にし、かつバリア層の銀系層へのより良好な接着性を可能にする、少なくとも1つの窒化タングステン系吸収層を組み込む太陽制御被覆を提供することが望ましいであろう。
【0011】
本発明の第一の態様に従って、少なくとも以下の層、
ガラス基板と、
下方反射防止層と、
銀系機能層と、
少なくとも1つのさらなる反射防止層と、を順に備える被覆ガラス板であって、さらなる反射防止層が、少なくとも以下の層、
少なくとも1つのバリア層と、
少なくとも1つの窒化タングステン系吸収層と、
少なくとも1つの誘電体層とを順に備える、被覆ガラス板が提供される。
【0012】
本発明は、太陽エネルギー及び/または光透過などの板の光学特性を吸収層の厚さに従って微調整することを可能にする、窒化タングステン系吸収層を含む多層被覆ガラス板を提供する。本発明の配置は、比較的薄い吸収層が使用されるときにさえ、太陽エネルギー及び/または光の高吸収を可能にする。
【0013】
本発明の板は、低ヘイズ及び安定性、具体的には熱処理前後に(本試験では、6mm厚の試料を610℃で5分間加熱した)比較的中性の透過及び反射色を示し得る。実際、光学特性は全体としては、熱処理中に微小変化を受け得、それは製造の視点から見れば有利である。これらの被覆ガラス板は、具体的には、熱処理によって引き起こされる反射色の変更を示し得、それは、熱処理された被覆ガラス板及び熱処理されていない被覆ガラス板が、被覆ガラス板において不可避の製造ばらつきより著しく大きい反射色の差がなく互いに隣接してはめられるほどの小ささである。驚くべきことに、Al及びSi(オキシ)窒化物の保護層内に吸収層を組み入れることなしに、これらの利益を達成することができる、すなわち、窒化タングステン層がNiCrOxなどの酸化層と接触していても、依然として熱処理中に安定した光学特性を有することができるということが分かった。さらには、本発明の特定の配置は、実現され得る光学特性(例えば、色特性)に関してより大きな柔軟性を可能にし、少なくとも1つのバリア層に加えて窒化タングステン系吸収層を、それがそのようなバリア層(複数可)によって下位銀系機能層から離間されるように提供することによって、窒化タングステンよりも銀系層へのより良好な接着性を有するバリア層の使用を可能にする。
【0014】
少なくとも1つのバリア層は、NiCr、Nb、Ti、Zr、Zn、Sn、In、及び/もしくはCr、ならびに/またはそれらの酸化物及び/または窒化物系のものであり得る。
【0015】
所与の反射防止層内に位置する少なくとも1つのバリア層は、好ましくは、少なくとも0.5nm、より好ましくは少なくとも1nm、さらにより好ましくは少なくとも3nm、最も好ましくは少なくとも5nm、好ましくは最大で12nm、より好ましくは最大で10nm、さらにより好ましくは最大で8nm、最も好ましくは最大で7nmの全厚を有し得る。これらの好まれる厚さは、機械的耐久性を維持しつつ、ヘイズなどの光学特性の堆積及び改善をさらに容易にすることができる。少なくとも1つのバリア層が反射防止層内に位置しつつ、該バリア層は、該反射防止層の反射防止特性に著しく寄与しないように十分に薄い全厚を有することが好まれる。
【0016】
少なくとも1つの誘電体層は、Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金系誘電体層、ならびに/または、Zn及びSn酸化物などの、Ti、Zr、Zn、Sn、In、及び/またはNbのうちの1つ以上の酸化物などの金属酸化物系誘電体層を備え得る。
【0017】
好ましくは、少なくとも1つの窒化タングステン系吸収層は、下位バリア層と直接接触して位置する(すなわち、下位バリア層は、少なくとも1つの吸収層よりもガラス基板の近くに位置する)。好ましくは、該下位バリア層は、下位最上バリア層である。本発明の文脈において、バリア層に関して「最上」という用語の使用は、ガラス基板から最も遠くに位置する所与の反射防止層の特定のバリア層を意味する。
【0018】
好ましくは、少なくとも1つの窒化タングステン系吸収層は、上位誘電体層と直接接触して位置する(すなわち、少なくとも1つの吸収層は、上位誘電体層よりもガラス基板の近くに位置する)。
【0019】
好ましい実施形態において、上位誘電体層は、Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金系のものである。該上位誘電体層がSi(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金系のものであるとき、好ましくは、少なくとも1つの吸収層と直接接触する下位層は、Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金系のものではない。
【0020】
好ましくは、少なくとも1つの窒化タングステン系吸収層は、下位最上バリア層及び上位誘電体層の両方と直接接触して位置する。この配置は、最低ヘイズを示し、かつ熱処理前後に最も中性の透過及び反射色を達成する可能性を有するという点で有益である。
【0021】
ガラス基板から最も遠くに位置するさらなる反射防止層は、「上方反射防止層」と呼ばれる。好ましくは、少なくとも1つの窒化タングステン系吸収層は、上方反射防止層内に位置する。この位置は、所与の被覆スタックの光透過及び/またはエネルギー伝達特性が吸収層の厚さの修正によって様々であるとしても、板がほぼ同じ外観を示すことができるように、観測者によって判断されるガラス側の反射色への吸収層の影響を最小限にするため、有利である。さらには、この位置は、実現され得る光学特性に関して、吸収層が他の反射防止層内に位置する場合と比較してより大きな柔軟性を提供する。
【0022】
いくつかの実施形態において、本板は、1つの銀系機能層のみを備える。これらの実施形態において、唯一のさらなる反射防止層は、上方反射防止層である。
【0023】
他の実施形態において、本板は、1つより多くの銀系機能層を備える。例えば、本板は、2つ、3つ、またはそれ以上の銀系機能層を備え得る。本板が1つより多くの銀系機能層を備えるとき、各銀系機能層は、中央反射防止層によって隣接する銀系機能層から離間されてファブリーペロー干渉フィルタを形成し、それによって太陽制御被覆の光学特性は、当該技術分野において周知のように、それぞれの用途のためにさらに最適化され得る。
【0024】
本板が1つより多くの銀系機能層を備える実施形態において、少なくとも1つのさらなる反射防止層は、機能的に、上に定義されるような中央反射防止層及び/または上方反射防止層であり得る。したがって、少なくとも1つの窒化タングステン系吸収層は、上方反射防止層内、及び/または1つより多くの銀系機能層を備える被覆の少なくとも1つの中央反射防止層内に位置し得る。
【0025】
各吸収層は、好ましくは、少なくとも0.5nm、より好ましくは少なくとも1nm、さらにより好ましくは少なくとも2nm、最も好ましくは少なくとも3nm、好ましくは最大で25nm、より好ましくは最大で15nm、さらにより好ましくは最大で8nm、最も好ましくは最大で5nmの厚さを有し得る。
【0026】
各窒化タングステン系吸収層は、例えば、窒化タングステン吸収層をタングステンターゲットからスパッタするときに十分な窒素を供給することによって、好ましくは、本質的に化学量論的な窒化物として堆積する。しかしながら、本発明は、そのような本質的に化学量論的な窒化タングステン層に限定されない。
【0027】
下方反射防止層は、以下の層、
Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金系誘電体層、
Ti酸化物及び/またはZr酸化物系誘電体層、
Zn及びSn酸化物、Sn酸化物、ならびに/またはNb酸化物などの金属酸化物系誘電体層、
ならびにZn酸化物系誘導体上層、のうちの1つ以上を備え得る。
【0028】
好ましくは、下方反射防止層は、ガラス基板から順に、
○Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはTi酸化物、ならびに/またはZr酸化物系誘導体基層、
○Zn及びSn酸化物、Sn酸化物、ならびに/またはNb酸化物などの金属酸化物系誘電体層、ならびに
○Zn酸化物系誘導体上層、を少なくとも備える。
【0029】
下方反射防止層は、上に示したような順で3つの層から成り得る。
【0030】
いくつかの実施形態において、下方反射防止層は、ガラス基板から順に、
○Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはTi酸化物、ならびに/またはZr酸化物系誘導体基層、
○Zn及びSn酸化物、Sn酸化物、ならびに/またはNb酸化物などの金属酸化物系誘電体層、ならびに
○Zn酸化物系誘導体上層、を少なくとも備える。
【0031】
誘導体基層は、ガラス基板に隣接する下方反射防止層の最下部である。それは、少なくとも5nm、好ましくは5〜60nm、より好ましくは10〜50nm、さらにより好ましくは20〜45nm、最も好ましくは20〜35nmの厚さを有し得る。誘導体基層は、1つより多くの層を備え得る。誘導体基層は、中でも特にガラス側の拡散バリアとして機能し得る。
【0032】
「Si(オキシ)窒化物」という用語は、Si窒化物(SiN
x)及びSiオキシ窒化物(SiO
xN
y)の両方を包含し、「Al(オキシ)窒化物」という用語は、Al窒化物(AlN
x)及びAlオキシ窒化物(AlO
xN
y)の両方を包含する。Si窒化物、Siオキシ窒化物、Al窒化物、及びAlオキシ窒化物層は、好ましくは、本質的に化学量論的である(例えば、Si窒化物=Si
3N
4、x=1.33、Al窒化物=AlN、x=1)が、被覆の熱処理性がそれによって悪影響を受けない限り、準化学量論的、または超化学量論的でもあり得る。好ましい実施形態において、下方反射防止層の基層は、本質的に化学量論的な混合窒化物Si
90Al
10N
xの層を備えるか、またはそれから成る。
【0033】
Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金の層は、窒素及びアルゴンを含むスパッタリング雰囲気において、それぞれSi及び/またはAl系ターゲットから反応的にスパッタされ得る。Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金系基層の酸素含有量は、スパッタリング雰囲気内の残留酸素、または該雰囲気内に追加される酸素の制御された含有量に起因し得る。Si(オキシ)窒化物及び/またはAl(オキシ)窒化物の酸素含有量がその窒素含有量よりも著しく低い場合、すなわち、層内の原子比率O/Nが著しく1未満に維持される場合が一般に好まれる。下方反射防止層の基層にSi窒化物及び/またはAl窒化物をごく少量の酸素含有量で使用することが最も好まれる。この特徴は、層の屈折率が無酸素Si窒化物及び/またはAl窒化物層の屈折率と著しく異ならないことを確実にすることによって制御され得る。
【0034】
混合Si及び/もしくはAlターゲットを使用すること、または下方反射防止層の基層の必須のバリア及び保護特性が失われない限り、この層のSi及び/もしくはAl構成要素に金属もしくは半導体を別途追加することは、本発明の範囲内である。AlをSiターゲットと混合することは周知であり、実証されているが、他の混合ターゲットは除外されない。追加の構成要素は、典型的に、最大約10〜15重量%の量で存在し得る。Alは、通常、約10重量%の量で混合Siターゲット内に存在する。
【0035】
下方反射防止層の誘導体基層は、代替的に、または追加として、xが1.5〜2.0である少なくとも1つのTiO
x及び/またはZrO
x系層を備え得る。
【0036】
下方反射防止層のZn及びSn酸化物、Sn酸化物、及び/またはNb酸化物などの金属酸化物系誘電体層は、基層上に位置する。それは、高密度の熱的に安定した層を提供し、熱処理後にヘイズを減少させることに寄与することによって、熱処理中の安定性を高めるのに役立つ。金属酸化物系誘電体層は、少なくとも0.5nm、好ましくは0.5〜10nm、より好ましくは0.5〜9nm、さらにより好ましくは1〜8nm、さらにより好ましくは1〜7nm、さらにより好ましくは2〜6nm、さらにより好ましくは3〜6nm、最も好ましくは3〜5nmの厚さを有し得る。光学干渉条件に起因して、及び熱処理性の低下により、機能層を反射防止するための光学干渉境界条件を維持する必要がある誘導体基層の厚さにおいて結果として生じる減少に起因して、約8nmの厚さ上限が好まれる。
【0037】
金属酸化物系誘電体層は、好ましくは、Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金系誘導体基層の直上に位置する。
【0038】
金属酸化物系誘電体層がZn及びSn酸化物(略記:ZnSnO
x)系のものである場合、それは、好ましくは、その総金属含有量の重量%で、約10〜90重量%のZn及び90〜10重量%のSn、より好ましくは約40〜60重量%のZn及び約40〜60重量%のSn、好ましくはそれぞれ約50重量%のZn及びSnを含む。Zn及びSn酸化物系層は、O
2の存在下での混合ZnSnターゲットの反応性スパッタリングによって堆積し得る。
【0039】
下方反射防止層のZn酸化物系誘導体上層は、その後に堆積する銀系機能層のための成長促進層として主に機能する。Zn酸化物系誘導体上層は、任意に、Al、Sn、またはGaなどの金属と最大約10重量%の量で混合される(ターゲット金属含有量に対する重量%)。Al、Sn、またはGaなどの該金属の典型的な含有量は、約2重量%であり、実際にはAlが好まれる。他の好ましい実施形態において、Zn酸化物系上層は、最大で18重量%のSn、より好ましくは最大で15重量%のSn、さらにより好ましくは最大で10重量%のSnを含み得る。ZnO及び混合Zn酸化物は、その後に堆積する銀系機能層の所与の厚さでの低いシート抵抗の達成を支援する成長促進層として非常に効果的であることが証明されている。下方反射防止層の誘導体上層がO
2の存在下でZnターゲットから反応的にスパッタされる場合、または、酸素を全く含有しない、もしくは低量、一般に約5体積%以下を含有する雰囲気内で、例えばZnO:Al系などのセラミックターゲットをスパッタリングすることによって堆積する場合が好まれる。Zn酸化物系誘導体上層は、少なくとも2nm、好ましくは2〜20nm、より好ましくは4〜15nm、さらにより好ましくは5〜13nm、さらにより好ましくは5〜11nmの厚さを有し得る。
【0040】
銀系機能層(複数可)は、本来、低放射及び/または太陽制御被覆の領域における事例のように、いかなる添加物も有さず本質的に銀で合成され得る。しかしながら、ドープ剤、合金添加物、もしくは同様のものを追加すること、または非常に薄い金属もしくは金属化合物層を追加することによって銀系機能層(複数可)の特性を修正することは、高光透過及び低光吸収IR反射層(複数可)としての銀系機能層(複数可)の機能に必要なその(それらの)特性がそれによって著しく損なわれない限り、本発明の範囲内である。
【0041】
銀系機能層の厚さは、その技術的目的により支配される。典型的な太陽制御目的のために、単一の銀系層に好まれる層厚は、5〜20nm、より好ましくは5〜15nm、さらにより好ましくは5〜12nm、さらにより好ましくは7〜11nm、最も好ましくは8〜10nmである。そのような層厚では、熱処理後の86%超の光透過値及び0.05未満の垂直放射率は、単一の機能銀系層を備える被覆において容易に達成することができる。より良好な太陽制御特性が目的とされる場合、銀系機能層の厚さが適切に増大され得るか、またはいくつかの離間された銀系機能層が提供され得る。
【0042】
板が2つの銀系機能層を備えるとき、ガラス基板から最も遠くに位置する銀系機能層は、好ましくは、5〜25nm、より好ましくは10〜21nm、さらにより好ましくは13〜19nm、さらにより好ましくは14〜18nm、最も好ましくは15〜18nmの厚さを有し得る。
【0043】
板が3つの銀系機能層を備えるとき、ガラス基板から最も遠くに位置する2つの銀系機能層は、それぞれ独立して、好ましくは、5〜25nm、より好ましくは10〜21nm、さらにより好ましくは13〜19nm、さらにより好ましくは14〜18nm、最も好ましくは15〜18nmの厚さを有し得る。
【0044】
好ましくは、下方反射防止層内のZn酸化物系誘導体上層は、その後に堆積する銀系機能層と直接接触している。
【0045】
中央反射防止層は、以下の層、
少なくとも1つのNiCr酸化物系バリア層、
少なくとも1つのZn酸化物、Ti酸化物、及び/またはTi系バリア層、
Zn及びSn酸化物、Sn酸化物、ならびに/またはNb酸化物などの金属酸化物系誘電体層、ならびに
Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZr酸化物系誘電体層、のうちの1つ以上の組み合わせを少なくとも備え得る。
【0046】
いくつかの好ましい実施形態において、各銀系機能層は、中央反射防止層によって隣接する銀系機能層から離間され、
各中央反射防止層は、
中央反射防止層が間に位置する銀系機能層のうちのガラス基板の最も近くに位置する銀系機能層から順に、
少なくとも1つのZn酸化物、Ti酸化物、及び/またはTi系バリア層、
Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZr酸化物系誘電体層、
Zn及びSn酸化物ならびに/またはSn酸化物などの金属酸化物系誘電体層、ならびに
Zn酸化物系誘導体上層を少なくとも備える。
【0047】
窒化タングステン系吸収層は、先の段落に従う該中央反射防止層内に位置し得、例えばそれは、少なくとも1つのZn酸化物、Ti酸化物、及び/またはTi系バリア層と、Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZr酸化物系誘電体層との間に位置し得る。窒化タングステン系吸収層が該中央反射防止層内に位置する場合、好ましくは該吸収層は、最上のZn酸化物、Ti酸化物、及び/またはTi系バリア層とSi(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZr酸化物系誘電体層との間に、かつそれらと直接接触して位置する。
【0048】
いくつかの他の好ましい実施形態において、各銀系機能層は、中央反射防止層によって隣接する銀系機能層から離間され、
各中央反射防止層は、
中央反射防止層が間に位置する銀系機能層のうちのガラス基板の最も近くに位置する銀系機能層から順に、
少なくとも1つのNiCr酸化物系バリア層、
任意に、少なくとも1つのZn酸化物、Ti酸化物、及び/またはTi系バリア層、
Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZr酸化物系誘電体層、
Zn及びSn酸化物ならびに/またはSn酸化物などの金属酸化物系誘電体層、ならびに
Zn酸化物系誘導体上層を少なくとも備える。
【0049】
窒化タングステン系吸収層は、先の段落に従う該中央反射防止層内に位置し得、例えばそれは、少なくとも1つのNiCr酸化物系バリア層と、Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZr酸化物系誘電体層との間に位置し得る。窒化タングステン系吸収層が先の段落に従う該中央反射防止層内に位置するとき、好ましくは、任意の少なくとも1つのZn酸化物、Ti酸化物、及び/またはTi系バリア層は存在しない。好ましくは、該吸収層は、最上のNiCr酸化物系バリア層と、Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZr酸化物系誘電体層との間に、かつそれらと直接接触して位置する。吸収層が存在するときは、驚くべきことに、Zn酸化物、Ti酸化物、及び/またはTi系バリア層が必要とされないことが実証されている。任意の少なくとも1つのZn酸化物、Ti酸化物、及び/またはTi系バリア層及び窒化タングステン系吸収層が共に、先の段落に従う該中央反射防止層内に存在するとき、好ましくは、吸収層は、最上のZn酸化物、Ti酸化物、及び/またはTi系バリア層と、Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZr酸化物系誘電体層との間に、かつそれらと直接接触して位置する。
【0050】
少なくとも1つのNiCr酸化物系バリア層は、好ましくは、少なくとも0.3nm、より好ましくは少なくとも0.4nm、さらにより好ましくは少なくとも0.5nm、最も好ましくは少なくとも0.6nm、好ましくは最大で10nm、より好ましくは最大で5nm、さらにより好ましくは最大で2nm、最も好ましくは最大で1nmの厚さを有し得る。これらの好まれる厚さは、機械的耐久性を維持しつつ、ヘイズなどの光学特性の堆積及び改善をさらに容易にすることができる。
【0051】
中央反射防止層の任意の少なくとも1つのZn酸化物、Ti酸化物、及び/またはTi系バリア層は、独立して、好ましくは、少なくとも1nm、より好ましくは少なくとも2nm、さらにより好ましくは少なくとも3nm、最も好ましくは少なくとも4nm、好ましくは最大で10nm、より好ましくは最大で7nm、さらにより好ましくは最大で6nm、最も好ましくは最大で5nmの厚さを有し得る。これらの好まれる厚さは、機械的耐久性を維持しつつ、ヘイズなどの光学特性の堆積及び改善をさらに容易にすることができる。
【0052】
本発明の文脈において、バリア層は、下位銀系機能層をその後の層の堆積プロセス中及び熱処理中の損傷から保護することを主に目的とする。それらは、銀系機能層と誘電体層または吸収層などのその後の層との間の接着性を提供することにさらに役立つ。選択した材料によって、それらを実施可能な限り薄くすることにより、それらは、反射防止層の反射防止機能に著しく寄与しないように設計される。反対に、本発明に従う誘電体層は、主な機能として、光学干渉に基づいて銀系機能層(複数可)を反射防止するため、それらは、バリア層よりも著しく大きい厚さであることを特性とする必要がある。
【0053】
堆積プロセス中の銀系機能層(複数可)の優れた保護及び熱処理中の高い光学安定性は、バリア層が、混合金属酸化物ターゲットからスパッタされた混合金属酸化物の層を備える場合に達成され得ることが一般に分かっている。バリア層がZn酸化物系のものであるとき、該酸化物は、ZnO:Alなどの混合金属酸化物であり得る。ZnO:Al系バリア層が導電性ZnO:Alターゲットからスパッタされる場合に、良い結果が特に達成される。ZnO:Alは、完全に酸化されて、またはそれがわずかに亜酸化であるように堆積し得る。好ましくは、ZnO:Alバリア層は、本質的に化学量論的である。金属性よりも本質的に化学量論的なZnO:Alバリア層、または95%未満の化学量論的なZnO:Alバリア層の使用は、熱処理中の被覆の極めて高い光学安定性をもたらし、熱処理中の光学修正を小さく保つことを効果的に支援する。加えて、本質的に化学量論的な金属酸化物系バリア層の使用は、機械的耐久性の点で利益を提供する。
【0054】
バリア層がNiCr酸化物系のものであるとき、それは、好ましくは、準化学量論的な酸化物として堆積する。これは、層が熱処理中に脱酸素剤/酸素吸収剤として機能することを可能にする。
【0055】
銀系機能層と直接接触するバリア層の少なくとも一部分は、好ましくは、銀損傷を回避するために酸化物ターゲットの非反応性スパッタリングを使用して堆積する。
【0056】
好ましくは、Zn酸化物、Ti酸化物、及び/またはTi系バリア層は、非反応性スパッタリングによって堆積する。酸化物バリア層の場合、それらは、好ましくは、セラミックターゲットからスパッタされる。本発明の文脈において、「非反応性スパッタリング」という用語は、本質的に化学量論的な酸化物を提供するために低酸素雰囲気(無酸素または最大5体積%の酸素)において酸化物ターゲットをスパッタすることを含む。
【0057】
バリア層がTiOx系のものである場合、xは1.5〜2.0であり得る。
【0058】
バリア層に関する先の一般的な開示は、さらに以下で議論される上方反射防止層のバリア層にも当てはまる。
【0059】
中央反射防止層のZn酸化物、ならびにSn及び/またはSn酸化物などの金属酸化物系誘電体層は、好ましくは、少なくとも2nm、より好ましくは少なくとも5nm、さらにより好ましくは少なくとも8nm、最も好ましくは少なくとも10nm、好ましくは最大で40nm、より好ましくは最大で30nm、さらにより好ましくは最大で20nm、最も好ましくは最大で15nmの厚さを有し得る。
【0060】
中央反射防止層のSi(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZr酸化物系誘電体層は、好ましくは、少なくとも10nm、より好ましくは少なくとも30nm、さらにより好ましくは少なくとも40nm、最も好ましくは少なくとも50nm、好ましくは最大で80nm、より好ましくは最大で70nm、さらにより好ましくは最大で60nm、最も好ましくは最大で55nmの厚さを有し得る。
【0061】
中央反射防止層のZn酸化物系誘導体上層は、好ましくは、少なくとも2nm、より好ましくは少なくとも7nm、さらにより好ましくは少なくとも12nm、最も好ましくは少なくとも15nm、好ましくは最大で25nm、より好ましくは最大で20nm、さらにより好ましくは最大で18nm、最も好ましくは最大で17nmの厚さを有し得る。
【0062】
上方反射防止層は、以下の層、
少なくとも1つのNiCr酸化物系バリア層、
少なくとも1つのZn酸化物、Ti酸化物、及び/またはTi系バリア層、
Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZr酸化物系誘電体層、ならびに
Zn及びSn酸化物ならびに/またはSn酸化物などの金属酸化物系誘電体層、のうちの1つ以上の組み合わせを少なくとも備え得る。
【0063】
いくつかの好ましい実施形態において、上方反射防止層は、ガラス基板から最も遠くに位置する銀系機能層から順に、
少なくとも1つのZn酸化物、Ti酸化物、及び/またはTi系バリア層、
少なくとも1つのSi(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZr酸化物系誘電体層、ならびに
Zn及びSn酸化物ならびに/またはSn酸化物などの金属酸化物系誘電体層を少なくとも備え得る。
【0064】
窒化タングステン系吸収層は、先の段落に従う該上方反射防止層内に位置し得、例えばそれは、少なくとも1つのZn酸化物、Ti酸化物、及び/またはTi系バリア層と、Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZr酸化物系誘電体層との間に位置し得る。好ましくは、該吸収層は、最上のZn酸化物、Ti酸化物、及び/またはTi系バリア層と、Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZr酸化物系誘電体層との間に、かつそれらと直接接触して位置する。
【0065】
いくつかの他の好ましい実施形態において、上方反射防止層は、ガラス基板から最も遠くに位置する銀系機能層から順に、
少なくとも1つのNiCr酸化物系バリア層、
任意に、少なくとも1つのZn酸化物、Ti酸化物、及び/またはTi系バリア層、
Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZr酸化物系誘電体層、ならびに
Zn及びSn酸化物ならびに/またはSn酸化物などの金属酸化物系誘電体層を少なくとも備え得る。
【0066】
窒化タングステン系吸収層は、先の段落に従う該上方反射防止層内に位置し得、例えばそれは、少なくとも1つのNiCr酸化物系バリア層と、Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZr酸化物系誘電体層との間に位置し得る。そのような場合、好ましくは、任意の少なくとも1つのZn酸化物、Ti酸化物、及び/またはTi系バリア層は存在しない。好ましくは、該吸収層は、最上のNiCr酸化物系バリア層と、Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZr酸化物系誘電体層との間に、かつそれらと直接接触して位置する。吸収層が存在するときは、驚くべきことに、Zn酸化物、Ti酸化物、及び/またはTi系バリア層が必要とされないことが実証されている。Zn酸化物、Ti酸化物、及び/またはTi系バリア層及び窒化タングステン系吸収層が共に、先の段落に従う該上方反射防止層内に存在するとき、好ましくは、吸収層は、最上のZn酸化物、Ti酸化物、及び/またはTi系バリア層と、Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZr酸化物系誘電体層との間に、かつそれらと直接接触して位置する。
【0067】
上方反射防止層のNiCr酸化物系バリア層は、好ましくは、少なくとも0.3nm、より好ましくは少なくとも0.4nm、さらにより好ましくは少なくとも0.5nm、最も好ましくは少なくとも0.6nm、好ましくは最大で10nm、より好ましくは最大で5nm、さらにより好ましくは最大で2nm、最も好ましくは最大で1nmの厚さを有し得る。これらの好まれる厚さは、機械的耐久性を維持しつつ、ヘイズなどの光学特性の堆積及び改善をさらに容易にすることができる。
【0068】
上方反射防止層のZn酸化物及び/またはTi酸化物系バリア層は、好ましくは、少なくとも1nm、より好ましくは少なくとも2nm、さらにより好ましくは少なくとも3nm、最も好ましくは少なくとも4nm、好ましくは最大で10nm、より好ましくは最大で7nm、さらにより好ましくは最大で6nm、最も好ましくは最大で5nmの厚さを有し得る。これらの好まれる厚さは、機械的耐久性を維持しつつ、ヘイズなどの光学特性の堆積及び改善をさらに容易にすることができる。
【0069】
上方反射防止層のSi(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZr酸化物系誘電体層は、好ましくは、少なくとも2nm、より好ましくは少なくとも5nm、さらにより好ましくは少なくとも10nm、最も好ましくは少なくとも15nm、好ましくは最大で40nm、より好ましくは最大で30nm、さらにより好ましくは最大で25nm、最も好ましくは最大で20nmの厚さを有し得る。そのような厚さは、被覆板の機械的耐久性の点でさらなる改善を提供する。該Si(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系誘電体層は、上方反射防止が窒化タングステン系吸収層を備えないとき、好ましくは、上方反射防止層の最上バリア層と直接接触し得る。
【0070】
いくつかの場合において上方反射防止層の大部分を形成することができるSi(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系誘電体層は、安定性(熱処理中のより良好な保護)及び拡散バリア特性を提供する。該層は、好ましくは、N
2含有雰囲気におけるSi、Al、または混合SiAlターゲット、例えばSi
90Al
10ターゲットの反応性スパッタリングによって、Al窒化物及び/またはSi窒化物層として堆積する。Al(オキシ)窒化物及び/またはSi(オキシ)窒化物系誘電体層の組成は、本質的に化学量論的なSi
90Al
10N
xであり得る。
【0071】
上方反射防止層のZn及びSn酸化物ならびに/またはSn酸化物などの金属酸化物系誘電体層は、好ましくは、少なくとも1nm、より好ましくは少なくとも4nm、さらにより好ましくは少なくとも6nm、最も好ましくは少なくとも8nm、好ましくは最大で20nm、より好ましくは最大で15nm、さらにより好ましくは最大で12nm、最も好ましくは最大で10nmの厚さを有し得る。そのような厚さは、被覆板の機械的耐久性の点でさらなる改善を提供する。該層がZn及びSn酸化物であるとき、それは、好ましくは、その総金属含有量の重量%で、約10〜90重量%のZn及び90〜10重量%のSn、より好ましくは約40〜60重量%のZn及び約40〜60重量%のSn、好ましくはそれぞれ約50重量%のZn及びSnを含む。該層は、O
2の存在下での混合ZnSnターゲットの反応性スパッタリングによって堆積し得、上方反射防止層の反射防止特性に寄与する。
【0072】
上方反射防止層のSi(オキシ)窒化物及び/もしくはAl(オキシ)窒化物及び/もしくはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系誘電体層は、さらなる誘電体層のいかなる介在もなしに、本明細書に定義される上方反射防止層の金属酸化物系誘電体層と直接接触し得る。
【0073】
好ましくは、上方反射防止層の金属酸化物系誘電体層は、Zn及びSn酸化物ならびに/またはSn酸化物系層を備える。
【0074】
上方反射防止層は、20〜60nm、好ましくは20〜50nm、より好ましくは20〜40nm、さらにより好ましくは25〜35nmの全厚を有し得る。
【0075】
保護層は、機械的及び/または化学的耐久性、例えば引っかき抵抗性の改善のために、上方反射防止層の上層(最も外側の層)として堆積し得る。該保護層は、Al、Si、Ti、及び/もしくはZr酸化物系層を備え得る。
【0076】
熱処理中の光透過増大を減少させるため、バリア層から離れた上方、中央、及び下方反射防止層の個々の層は全て、好ましくは、本質的に化学量論的な組成で堆積する。
【0077】
被膜板の光学特性をさらに最適化するため、上方及び/または下方反射防止層は、一般的には低放射及び/または太陽制御被覆の誘電体層で知られる好適な材料から成る、具体的には、Ce、Hf、Ta、Al、またはそれらの組み合わせの酸化物のうちの1つ以上より選択されるさらなる部分的層を備え得る。しかしながら、そのようなさらなる部分的層を追加するとき、本明細書で目的とされる熱処理性がそれによって損なわれないことが検証されなければならない。
【0078】
任意のさらなる部分的層が、その特性を修正、及び/またはその製造を促進する添加剤、例えば、ドープ剤、または反応性プラッタリングガスの反応生成物を含有し得ることが理解されよう。酸化物系層の場合、窒素がスパッタリング雰囲気に追加されて酸化物よりもオキシ窒化物の形成をもたらし、窒化物系層の場合は、酸素がスパッタリング雰囲気に追加されて窒化物よりもオキシ窒化物の形成をまたもたらす。
【0079】
任意のそのような部分的層を本発明の板の基層配列に追加するときには、主に目的とされる特性、例えば、高い熱安定性がそれによって著しく損なわれないように、適切な材料、構造、厚さの選択を実行することによって注意が払われなければならない。
【0080】
本発明は、被覆のための特定の産生プロセスに限定されない。しかしながら、層の少なくとも1つ及び最も好ましくは全ての層が、DCモード、パルス状モード、中波モード、または任意の他の好適なモードのいずれかでマグネトロン陰極スパッタリングによって適用され、それによって金属または半導体ターゲットが好適なスパッタリング雰囲気内で内反応的または非反応的にスパッタされる場合が好まれる。スパッタされる材料によって、平面または回転管状ターゲットが使用され得る。
【0081】
被覆プロセスは、好ましくは、被覆の反射防止層のいかなる酸化物(または窒化物)層のいかなる酸素(または窒素)欠損も、熱処理中の被覆ガラス板の光透過及び色の高い安定性を達成するために低く保たれるように好適な被覆条件を設定することによって実行される。
【0082】
本発明に従う被覆ガラス板の熱安定性は、熱処理された被覆ガラス板が許容できないレベルのヘイズを示さないという事実に反映される。ヘイズ値の大きな増大が熱処理中に検出される場合、被覆が損傷され始めていることを示す。
【0083】
本発明の別の態様に従って、本発明に従う被覆ガラス板を組み込む多重グレージングが提供される。例えば、多重グレージングは、合わせガラス、または絶縁ガラスであり得る。
【0084】
本発明は、これより、以下の特定の実施形態によってさらに説明され、それらは例示の目的で示されるのであり、限定するものではない。
【0085】
全ての実施例において、約89%の光透過を有する6mm厚の標準フロートガラス板(10cm×10cm)上に、AC及び/またはDCマグネトロンスパッタリング装置を使用して被覆を堆積させ、必要に応じて中波スパッタリングを適用した。被覆前に、ガラスをBenteler(RTM)洗浄機で2回洗浄した。
Zn及びSn酸化物(ZnSnO
x、重量比Zn:Sn≒50:50)の全誘電体層を、Ar/O
2スパッタ雰囲気内で亜鉛−スズターゲットから反応的にスパッタした。
下方、中央、及び上方反射防止層のZnO:Al成長促進誘導体上層を、Ar/O
2スパッタ雰囲気内でAlドープZnターゲット(Al含有量約2重量%)からスパッタした。
全実施例において本質的に純銀(Ag)から成る機能層を、いかなる追加酸素もなしに、10
−5mbar未満の残留酸素の分圧で、Arスパッタ雰囲気内で銀ターゲットからスパッタした。
準化学量論的なNiCrO
xのバリア層を、Ar/O
2スパッタ雰囲気内でニッケル−クロムターゲットから反応的にスパッタした。
NiCrの吸収バリア層を、残留酸素のみを含有するArスパッタ雰囲気内でニッケル−クロムターゲットからスパッタした。
Alドープ亜鉛酸化物(ZnO:Al、「ZAO」)のバリア層を、酸素含有量の少ないAr/O
2スパッタ雰囲気内で導電性セラミックZnO
x:Alターゲットからスパッタした。
混合ケイ素アルミニウム窒化物(Si
90Al
10N
x)の誘電体層を、残留酸素のみを含有するAr/N
2スパッタ雰囲気内で、混合Si
90Al
10ターゲットから反応的にスパッタした。Al窒化物の層を、残留酸素のみを含有するAr/N
2スパッタ雰囲気内でAlターゲットから反応的にスパッタした。
窒化タングステンの吸収層を、残留酸素のみを含有するAr/N
2スパッタ雰囲気内でWターゲットから反応的にスパッタした。
【表1】
【0086】
表1:比較用被覆ガラス板及び本発明に従う被覆ガラス板におけるヘイズスコア、光透過、及び反射特性。表中、AD=堆積時、HT=熱処理後、色Rf=板の被覆側から見たときの反射の色、色Rg=板の非被覆(ガラス)側から見たときの反射の色、ΔE=熱処理時の反射色の変化、及びT
L%=光透過の割合。表1中のデータを収集するために使用された方法を以下に示す。表1中、各実施例において、提示される最初の層から始めて順に層をガラス板上に堆積した。
【0087】
熱処理性試験
実施例の被覆の堆積後、T
L及び色値を測定し、試料を約610℃で約5分間熱処理した。その後、ヘイズ、T
L、及び色値を測定した。結果は上の表1に示す。
【0088】
本実施例における被覆ガラス板の光透過% T
L%に記載される値を、EN 140に従う測定値から算出した。
【0089】
既知のCIE LAB a
*、b
*座標を使用して、色特性を測定し、報告した。(例えば、国際特許第2004−063 111 A1号内の[0030]及び[0031]を参照のこと)。好ましくは、被覆板は、熱処理によって引き起こされる反射色修正を示し、それは、加熱処理された被覆ガラス板及び熱処理されていない被覆ガラス板が、被覆ガラス板において不可避の製造ばらつきより著しく大きい反射色の差がなく互いに隣接してはめられるほどの小ささである。これを達成するためには、被覆板は、ΔE
*≦3、好ましくはΔE
*≦2(熱処理時の反射色の変化、ΔE
*=SQR[(L
*1−L
*2)
2+(a
*1−a
*2)
2+(b
*1−b
*2)
2]、L
*i、a
*i、及びb
*iは熱処理前後の反射色値)を示すべきである。色の変化、ΔE
*は、D65光源及び10°観測者を使用して1976 CIE(L
*a
*b
*)により定義される。
【0090】
主観的可視ヘイズ採点システムを本実施例に適用した。以下に説明される品質アセスメントシステムは、明るい光条件下での被覆の見た目の品質、ASTM D 1003−61に従って測定される標準ヘイズ値によって完全には反映されない特性をより良く識別することが必要とされることが分かった。
本評価システムは、被覆が損傷されているまたは不完全である局部的な色のバリエーション(表1内のヘイズスコア)を引き起こす、被覆内の目に見える欠陥のより肉眼的な影響を検討する。熱処理後の被覆における目に見える欠陥の肉眼的な影響(全ての実施例が熱処理前はヘイズを示さない)を、明るい光の下で試料を検分することによって主観的に評価した。本評価は、0(完全、欠陥なし)から3(明らかに目に見える欠陥及び/または染みが多い)を経て最大5(濃いヘイズ、多くの場合すでに肉眼で見える)までのスコアを使用する完全性採点(評価)システムに基づき、熱処理後の被覆ガラス試料の外観を評価する。
視覚的評価は、250万カンデラパワービーム(トーチ)を使用し、それを約−90°〜約+90°の入射角で(垂直入射に対して)、黒い箱の前に置かれた被覆ガラス板上の2つの直交面に当てる(すなわち、最初に水平面に、次いで垂直面にトーチを向ける)ことによって実行した。黒い箱は、数枚の被覆ガラス試料を同時に評価することができるように十分に大きいサイズを有する。被覆ガラス板を観測し、上記の入射角を変化させることにより、被覆ガラス板を通して観測者から光線を当てることにより、それらの見た目の品質を評価した。被覆ガラス板を、それらの被覆が観測者の方を向くように黒い箱の前に置いた。3以上のスコアを有する熱処理された被覆ガラス板は、試験に不合格であったと見なされる。
【0091】
結果の概要
比較用実施例1の被覆板は、吸収及びバリア両方の特性を提供するために、上方反射防止層内にNiCr吸収バリア層を利用する。この被覆板は、熱処理時に検出可能なヘイズを示さない。しかしながら、この板は、被覆側及びガラス側両方からの観測に対するΔE値が共に高く、熱処理時に反射色特性に大きな変化を示す。
【0092】
対照的に、上方反射防止層内のNiCrO
xバリア層上に窒化タングステン吸収層を使用する実施例2の被覆板は、被覆側及びガラス側両方からの観測に対するΔE値が非常に低く、熱処理時に反射色特性に非常に小さな変化を示す。低い光透過値は、窒化タングステン吸収層の影響を示し、熱処理時の光透過の微小変化もある。光透過の微小変化は、主に、熱処理中にさらに酸化される2つのNiCrO
x層に起因する。さらには、被覆板は、熱処理時に検出可能なヘイズを示さない。
【0093】
上記の本発明の説明において、逆に記載されない限り、パラメータの許容範囲の上限または下限のための代替値の開示は、それらの値のうちの1つが他の値よりもより多く好まれるという兆候を加味して、代替値のより好まれるものとそれほど好まれないものとの間に位置するパラメータの各中間値が、それほど好まれないものよりも、またそれほど好まれないものと中間値との間に位置する各値よりも好まれるという暗黙の記述として解釈される。
【0094】
本発明の文脈において、層が特定の材料(複数可)「系」であると言われる場合、これは、その層がその材料(複数可)から主に成ることを意味し、典型的には、その材料(複数可)を少なくとも約50at.%含むことを意味する。
【0095】
本発明の文脈において、「本質的に化学量論的な酸化物」とは、少なくとも95%、最大で105%化学量論的である酸化物を意味し、「わずかに準化学量論的な酸化物」とは、少なくとも95%、100%未満化学量論的である酸化物を意味する。
【0096】
他に指定のない場合、本明細書で言及される光透過値は、一般に、被覆なしで89%の光透過T
Lを有する4mm厚の標準フロートガラス板を備える被覆ガラス板に関して指定される。
【0097】
本発明の一態様に適用可能な追加の機能を、任意の組み合わせ及び任意の数で使用することができることが理解されよう。さらに、それらを、本発明の他の態様のうちのいずれかと共に、任意の組み合わせ及び任意の数で使用することもできる。これは、本出願の特許請求の範囲内の任意の他の請求項のための独立請求項として使用されている任意の請求項からの独立請求項を含むが、それらに限定されない。
【0098】
読者の注意は、本明細書に関連して本明細書と同時に、またはそれより前に提出され、かつ本明細書と共に公衆の閲覧に付された全文書に向けられ、そのような全文書の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0099】
本明細書(添付の特許請求の範囲、要約、及び図面)に開示される機能の全て、及び/またはそのように開示される任意の方法及びプロセスのステップの全ては、そのような機能及び/またはステップのうちの少なくともいくつかが相互排他的である組み合わせを除き、任意の組み合わせで組み合わされ得る。
【0100】
本明細書(添付の特許請求の範囲、要約、及び図面)に開示される各機能は、明示的に別段の記載がない限り、同じ、同等、または類似の目的を果たす代替機能によって置き換えられ得る。したがって、明示的に別段の記載のない限り、開示される各機能は、包括的な一連の同等または類似の機能のうちの1つの例にすぎない。
【0101】
本発明は、前述の実施形態の詳細に限定されない。本発明は、本明細書(添付の特許請求の範囲、要約、及び図面)に開示される機能の、任意の新規のもの、もしくは任意の新規の組み合わせ、またはそのように開示される任意の方法もしくはプロセスのステップの、任意の新規のもの、もしくは任意の新規の組み合わせにまで及ぶ。