(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記回転軸から前記第1部分における前記第1流路の接続位置までの距離は、前記回転軸から前記壁部分の前記回転軸に最も近い点までの距離よりも長い請求項1に記載の試料分析用基板。
前記第1空間の前記第1部分は、前記回転軸を中心とし、前記回転軸と前記壁部分の前記回転軸に最も近い点とを結ぶ線分を半径とする円弧よりも外側に位置する部分を含む、請求項1または2に記載の試料分析用基板。
前記第2空間は、前記第1空間の第1部分の、前記回転軸に平行な方向から見て、前記回転軸を中心とし、前記回転軸と前記壁部分の前記回転軸に最も近い点を結ぶ線分を半径とする円の外側位置する部分の容積よりも大きい請求項1から5のいずれかに記載の試料分析用基板。
前記基板内において、前記第2チャンバーよりも前記回転軸から遠くに位置し、前記第2チャンバーから排出される前記液体を保持するための第3空間を有する第3チャンバーと、
前記基板内に位置しており、前記第2チャンバーおよび前記第3チャンバーを接続する経路を有し、毛細管現象により前記第2空間内に保持された液体で満たすことが可能な第2流路と、
をさらに備える請求項1から6のいずれかに記載の試料分析用基板。
前記第2流路は、前記回転軸と反対側に凸状の第1屈曲部および前記回転軸側に凸状の第2屈曲部とを含み、前記第1屈曲部は前記第2屈曲部と第2チャンバーとの間に位置し、
前記回転軸から前記第3チャンバーまでの距離は、前記回転軸から前記第1屈曲部の頂点までの距離より長く、
前記回転軸から前記第3チャンバーに保持された液体の、前記基板の回転による遠心力で形成される液面までの距離は、前記回転軸から前記第2屈曲部の頂点までの距離より長い請求項7に記載の試料分析用基板。
前記第1流路は、前記回転軸と反対側に凸状の第1屈曲部および前記回転軸側に凸状の第2屈曲部とを含み、前記第1屈曲部は前記第2屈曲部と第1チャンバーとの間に位置し、
前記回転軸から前記第2チャンバーまでの距離は、前記回転軸から前記第1屈曲部の頂点までの距離より長く、
前記回転軸から前記第1チャンバーに保持された液体の、前記基板の回転による遠心力で形成される液面までの距離は、前記回転軸から前記第2屈曲部の頂点までの距離より長い
請求項8に記載の試料分析用基板。
前記工程(a)および(b)の少なくとも一方において、前記試料分析用基板の回転を停止後、前記基板を、時計回りおよび反時計回りに所定の角度で交互に回転させる請求項11に記載の試料分析システム。
【発明を実施するための形態】
【0009】
尿や血液等の検体の成分の分析法には、分析対象物であるアナライトと、アナライトと特異的に結合するリガンドとの結合反応が用いられる場合がある。このような分析法には、例えば、免疫測定法や遺伝子診断法が挙げられる。
【0010】
免疫測定法の一例として、競合法および非競合法(サンドイッチイムノアッセイ法)が挙げられる。また、遺伝子診断法の一例として、ハイブリダイゼーションによる遺伝子検出法が挙げられる。これら免疫測定法や遺伝子検出法は、例えば、磁性粒子(「磁性ビーズ」、「磁気粒子」または「磁気ビーズ」等と称することもある。)が用いられる。これら分析法の一例として、磁性粒子を用いたサンドイッチイムノアッセイ法で具体的に説明する。
【0011】
図1に示すように、まず、磁性粒子302の表面に固定化された一次抗体304(以下、「磁性粒子固定化抗体305」と称する。)と測定対象物である抗原306とを抗原抗体反応とにより結合させる。次に標識物質307が結合された2次抗体(以下、「標識抗体308」と称する。)と抗原306とを抗原抗体反応により結合させる。これにより、抗原306に対して磁性粒子固定化抗体305及び標識抗体308が結合した複合体310が得られる。
【0012】
この複合体310に結合した標識抗体308の標識物質307に基づくシグナルを検出し、検出したシグナルの量に応じて抗原濃度を測定する。標識物質307には、例えば、酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ルシフェラーゼ等がある。)、化学発光物質、電気化学発光物質、蛍光物質等が挙げられ、それぞれの標識物質307に応じた色素、発光、蛍光等のシグナルを検出する。
【0013】
この一連の反応において、反応物である複合体310を得る上で、検体中の未反応物、磁性粒子等に非特異的に吸着した物質、複合体310の形成に関与しなかった標識抗体308等である未反応物とを分離する必要がある。この分離をB/F分離(Bound/Free Separation)と呼ぶ。競合法による免疫測定法やハイブリダイゼーションによる遺伝子検出法においても、同様に、B/F分離の工程が必要である。磁性粒子を用いない場合は、例えば、ポリスチレンやポリカーボネートといった素材で構成された固相に対し、物理吸着により固定化されたリガンド)、化学結合により固相に固定化されたリガンド、金等で構成された金属基板表面へ固定化(たとえば、自己組織化単分子膜(SAM:self−Assembled Monolayer)を用いた固定化)されたリガンドを用いる場合等が挙げられる。
【0014】
B/F分離を十分に行うには、洗浄液で複合体310を含む磁性粒子を複数回洗浄することが好ましい。具体的には、まず、複合体310と、未反応の抗原306、標識抗体308等とを含む反応溶液において、磁石によって磁性粒子を含む複合体310を捕捉した状態で、反応溶液のみを除去する。その後、洗浄液を加えて複合体310を洗浄し、洗浄液を除去する。この洗浄を複数回繰り返し行うことによって、未反応物や非特異吸着物質が十分に除去されたB/F分離が達成され得る。
【0015】
従来、このような複数回洗浄を行う操作は、分析器具を用いて操作者が手動で行ったり、複雑な機構を有する大型の分析機器によって実現されていた。このため、より簡単に複数回洗浄を行う技術が求められていた。
【0016】
本願発明者らは、特許文献1に開示されるような試料分析用基板を用いて、複数回の洗浄工程を可能にする技術を詳細に検討し、新規な試料分析用基板、試料分析装置、試料分析システムおよび試料分析システム用プログラムを想到した。本願の一態様に係る試料分析用基板、試料分析装置、試料分析システムおよび試料分析システム用プログラムは、以下の通りである。
【0017】
[項目1]
回転運動によって液体の移送を行う試料分析用基板であって、
回転軸を有する基板と、
前記基板内に位置し、液体を保持するための第1空間を有する第1チャンバーと、
前記基板内に位置し、前記第1チャンバーから排出される前記液体を保持するための第2空間を有する第2チャンバーと、
前記基板内に位置しており、前記第1チャンバーおよび前記第2チャンバーを接続する経路を有し、毛細管現象により前記第1空間内に保持された液体で満たすことが可能な第1流路と、
を備え、
前記第1チャンバーの第1空間は、第1部分および第2部分と、前記第1部分および前記第2部分の間に位置しており前記第1部分および前記第2部分を連結する連結部分とを有し、
前記基板は、第1空間の前記第1部分および前記第2部分を区切る壁部分を有し、
前記第2チャンバーは前記第1チャンバーの第1部分よりも回転軸から遠くに位置し、
前記第1空間の前記連結部分は、前記基板の前記壁部分よりも前記回転軸側に位置し、
前記第1流路は、前記第1空間の前記第1部分と接続されている、試料分析用基板。
[項目2]
前記回転軸から前記第1部分における前記第1流路の接続位置までの距離は、前記回転軸から前記壁部分の前記回転軸に最も近い点までの距離よりも長い項目1に記載の試料分析用基板。
[項目3]
前記第1空間の前記第1部分は、前記回転軸を中心とし、前記回転軸と前記壁部分の前記回転軸に最も近い点とを結ぶ線分を半径とする円弧よりも外側に位置する部分を含む、項目1または2に記載の試料分析用基板。
[項目4]
前記第1空間の前記第2部分は、前記回転軸を中心とし、前記回転軸と前記壁部分の前記回転軸に最も近い点とを結ぶ線分を半径とする円弧よりも外側に位置する部分を含む、項目1から3のいずれかに記載の試料分析用基板。
[項目5]
前記第1空間の前記第2部分は、前記第1部分よりも前記回転軸から遠くに位置する部分を含む、項目3に記載の試料分析用基板。
[項目6]
前記第1空間の第1部分の、前記回転軸に平行な方向から見て、前記回転軸を中心とし、前記回転軸と前記壁部分の前記回転軸に最も近い点とを結ぶ線分を半径とする円の外側位置する部分の容積は、前記第1空間の1/2以下である項目1から5のいずれかに記載の試料分析用基板。
[項目7]
前記第2空間は、前記第1空間の第1部分の、前記回転軸に平行な方向から見て、前記回転軸を中心とし、前記回転軸と前記壁部分の前記回転軸に最も近い点を結ぶ線分を半径とする円の外側位置する部分の容積よりも大きい項目1から6のいずれかに記載の試料分析用基板。
[項目8]
前記基板内において、前記第2チャンバーよりも前記回転軸から遠くに位置し、前記第2チャンバーから排出される前記液体を保持するための第3空間を有する第3チャンバーと、
前記基板内に位置しており、前記第2チャンバーおよび前記第3チャンバーを接続する経路を有し、毛細管現象により前記第2空間内に保持された液体で満たすことが可能な第2流路と、
をさらに備える項目1から7のいずれかに記載の試料分析用基板。
[項目9]
前記第2流路は、前記回転軸と反対側に凸状の第1屈曲部および前記回転軸側に凸状の第2屈曲部とを含み、前記第1屈曲部は前記第2屈曲部と第2チャンバーとの間に位置し、
前記回転軸から前記第3チャンバーまでの距離は、前記回転軸から前記第1屈曲部の頂点までの距離より長く、
前記回転軸から前記第3チャンバーに保持された液体の、前記基板の回転による遠心力で形成される液面までの距離は、前記回転軸から前記第2屈曲部の頂点までの距離より長い項目8に記載の試料分析用基板。
[項目10]
前記第1流路は、前記回転軸と反対側に凸状の第1屈曲部および前記回転軸側に凸状の第2屈曲部とを含み、前記第1屈曲部は前記第2屈曲部と第1チャンバーとの間に位置し、
前記回転軸から前記第2チャンバーまでの距離は、前記回転軸から前記第1屈曲部の頂点までの距離より長く、
前記回転軸から前記第1チャンバーに保持された液体の、前記基板の回転による遠心力で形成される液面までの距離は、前記回転軸から前記第2屈曲部の頂点までの距離より長い
項目9に記載の試料分析用基板。
[項目11]
前記第2チャンバーに近接して位置する磁石をさらに備える項目1から10のいずれかに記載の試料分析用基板。
[項目12]
項目11に記載の試料分析用基板と、
重力方向に対して0°より大きく90°以下の角度で前記回転軸を傾斜させた状態で、前記試料分析用基板を前記回転軸周りに回転させるモータ、
前記モータの回転軸の角度を検出する回転角度検出回路、
前記回転角度検出回路の検出結果に基づき、前記モータの回転および停止時の角度を制御する駆動回路、および
演算器、メモリおよびメモリに記憶され、前記演算器に実行可能なように構成されたプログラムを含み、前記プログラムに基づき、前記モータ、前記回転角度検出回路、前記原点検出器および前記駆動回路の動作を制御する制御回路
を有する試料分析装置と、
を備えた試料分析システムであって、
前記プログラムは、
前記第1チャンバーに液体が充填された試料分析用基板が前記試料分析装置のターンテーブルに載置された場合において、
(a) 前記試料分析用基板を所定の第1の角度で停止させることにより前記液体の一部を前記第1チャンバー内において重力によって移動させ、前記第1チャンバーの前記第1部分の少なくとも一部を前記液体の一部で満たし、かつ、毛細管現象によって、前記液体の他の一部を前記第1流路に移送させ、
(b) 前記試料分析基板を基板の回転による遠心力で、前記第1流路に満たされた液体にかかる毛細管力よりも強い遠心力が働く速度で回転させることによって、前記第1部分で前記液体の一部を秤量するとともに、過剰な液体を前記第2部分へ移動させることによって残りの液体を前記第2部分に保持し、かつ、秤量した前記第1部分にある前記液体の一部を、前記第1流路を通って前記第2チャンバーへ移動させ、
(c) 前記試料分析用基板を所定の第2の角度で停止させることにより前記残りの液体の一部を前記第1チャンバー内において重力によって移動させ、前記第1チャンバーの前記第1部分の少なくとも一部を前記残りの液体の一部で満たし、かつ、毛細管現象によって、前記残りの液体の他の一部を前記第1流路に移送させ、
(d) 前記試料分析基板を基板の回転による遠心力で、前記第1流路に満たされた液体にかかる毛細管力よりも強い遠心力が働く速度で回転させることによって、前記第1部分で前記残りの液体の一部を秤量するとともに、過剰な液体を前記第2部分へ移動させることによって余剰の液体を前記第2部分に保持し、かつ、秤量した前記第1部分にある前記残りの液体の一部を、前記第1流路を通って前記第2チャンバーへ移動させる、
工程を含む、試料分析システム。
[項目13]
前記工程(b)と工程(c)との間に、
(e) 前記試料分析用基板を、所定の第3の角度で停止させることによって、前記第2チャンバーの液体の一部を毛細管現象によって前記第2流路に移送させ、
(f) 前記試料分析基板を基板の回転による遠心力で、前記第2流路に満たされた液体にかかる毛細管力よりも強い遠心力が働く速度で回転させ、前記第2チャンバーの前記液体を、前記第2流路を通って前記第3チャンバーへ移動させる、
工程をさらに含む、項目12に記載の試料分析システム。
[項目14]
前記工程(d)の後に、
(g) 前記試料分析用基板を、所定の第4の角度で停止させることによって、前記第2チャンバーの液体の一部を毛細管現象によって前記第2流路に移送させ、
(h) 前記試料分析基板を基板の回転による遠心力で、前記第2流路に満たされた液体にかかる毛細管力よりも強い遠心力が働く速度で回転させ、前記第2チャンバーの前記液体を、前記第2流路を通って前記第3チャンバーへ移動させる、
工程をさらに含む、項目13に記載の試料分析システム。
[項目15]
前記工程(a)および(b)の少なくとも一方において、前記試料分析用基板の回転を停止後、前記基板を、時計回りおよび反時計回りに所定の角度で交互に回転させる項目12に記載の試料分析システム。
[項目16]
重力方向に対して0°より大きく90°以下の角度で前記回転軸を傾斜させた状態で、項目8に記載の試料分析用基板を前記回転軸周りに回転させるモータ、
前記モータの回転軸の角度を検出する回転角度検出回路、
前記回転角度検出回路の検出結果に基づき、前記モータの回転および停止時の角度を制御する駆動回路、および
演算器、メモリおよびメモリに記憶され、前記演算器に実行可能なように構成されたプログラムを含み、前記プログラムに基づき、前記モータ、前記回転角度検出回路および前記駆動回路の動作を制御する制御回路
を備え、
前記プログラムは、
前記第1チャンバーに液体が充填された試料分析用基板が前記試料分析装置のターンテーブルに載置された場合において、
(a) 前記試料分析用基板を所定の第1の角度で停止させることにより前記液体の一部を前記第1チャンバー内において重力によって移動させ、前記第1チャンバーの前記第1部分の少なくとも一部を前記液体の一部で満たし、かつ、毛細管現象によって、前記液体の他の一部を前記第1流路に移送させ、
(b) 前記試料分析基板を基板の回転による遠心力で、前記第1流路に満たされた液体にかかる毛細管力よりも強い遠心力が働く速度で回転させることによって、前記第1部分で前記液体の一部を秤量するとともに、過剰な液体を前記第2部分へ移動させることによって残りの液体を前記第2部分に保持し、かつ、秤量した前記第1部分にある前記液体の一部を、前記第1流路を通って前記第2チャンバーへ移動させ、
(c) 前記試料分析用基板を所定の第2の角度で停止させることにより前記残りの液体の一部を前記第1チャンバー内において重力によって移動させ、前記第1チャンバーの前記第1部分の少なくとも一部を前記残りの液体の一部で満たし、かつ、毛細管現象によって、前記残りの液体の他の一部を前記第1流路に移送させ、
(d) 前記試料分析基板を基板の回転による遠心力で、前記第1流路に満たされた液体にかかる毛細管力よりも強い遠心力が働く速度で回転させることによって、前記第1部分で前記残りの液体の一部を秤量するとともに、過剰な液体を前記第2部分へ移動させることによって余剰の液体を前記第2部分に保持し、かつ、秤量した前記第1部分にある前記残りの液体の一部を、前記第1流路を通って前記第2チャンバーへ移動させる、
試料分析装置。
[項目17]
項目8に記載の試料分析用基板と、
重力方向に対して0°より大きく90°以下の角度で前記回転軸を傾斜させた状態で、前記試料分析用基板を前記回転軸周りに回転させるモータ、
前記モータの回転軸の角度を検出する回転角度検出回路、
前記回転角度検出回路の検出結果に基づき、前記モータの回転および停止時の角度を制御する駆動回路、および
演算器、メモリおよびメモリに記憶され、前記演算器に実行可能なように構成されたプログラムを含み、前記プログラムに基づき、前記モータ、前記回転角度検出回路、前記原点検出器および前記駆動回路の動作を制御する制御回路
を有する試料分析装置と、
を備えた試料分析システム用プログラムであって、
前記プログラムは、
前記第1チャンバーに液体が充填された試料分析用基板が前記試料分析装置のターンテーブルに載置された場合において、
(a) 前記試料分析用基板を所定の第1の角度で停止させることにより前記液体の一部を前記第1チャンバー内において重力によって移動させ、前記第1チャンバーの前記第1部分の少なくとも一部を前記液体の一部で満たし、かつ、毛細管現象によって、前記液体の他の一部を前記第1流路に移送させ、
(b) 前記試料分析基板を基板の回転による遠心力で、前記第1流路に満たされた液体にかかる毛細管力よりも強い遠心力が働く速度で回転させることによって、前記第1部分で前記液体の一部を秤量するとともに、過剰な液体を前記第2部分へ移動させることによって残りの液体を前記第2部分に保持し、かつ、秤量した前記第1部分にある前記液体の一部を、前記第1流路を通って前記第2チャンバーへ移動させ、
(c) 前記試料分析用基板を所定の第2の角度で停止させることにより前記残りの液体の一部を前記第1チャンバー内において重力によって移動させ、前記第1チャンバーの前記第1部分の少なくとも一部を前記残りの液体の一部で満たし、かつ、毛細管現象によって、前記残りの液体の他の一部を前記第1流路に移送させ、
(d) 前記試料分析基板を基板の回転による遠心力で、前記第1流路に満たされた液体にかかる毛細管力よりも強い遠心力が働く速度で回転させることによって、前記第1部分で前記残りの液体の一部を秤量するとともに、過剰な液体を前記第2部分へ移動させることによって余剰の液体を前記第2部分に保持し、かつ、秤量した前記第1部分にある前記残りの液体の一部を、前記第1流路を通って前記第2チャンバーへ移動させる、試料分析システム用プログラム。
【0018】
以下、図面を参照しながら本実施形態の試料分析用基板、試料分析装置、試料分析システムおよび試料分析システム用プログラムを詳細に説明する。本実施形態の試料分析用基板、試料分析装置および試料分析システムは、1つのチャンバーに保持されている液体を、一定量秤量し、複数回に分けて、別のチャンバーへ移送することができる。実施形態では、液体が洗浄液であると説明するが、液体は洗浄液に限られず、試料分析に用いられる種々の液体であってもよい。
【0019】
図2Aは、試料分析システム501の全体の構成を示す模式図である。試料分析システム501は、試料分析用基板100と試料分析装置200とを含む。
【0020】
(試料分析装置200の構成)
試料分析装置200は、モータ201と、原点検出器203と、回転角度検出回路204と、制御回路205と、駆動回路206と、光学測定ユニット207とを備える。
【0021】
モータ201は、ターンテーブル201aおよび重力方向に対して0°より大きく90°以下の角度θで重力方向から傾いた回転軸Aを有し、ターンテーブル201aに載置された試料分析用基板100を回転軸A周りに回転させる。回転軸Aが傾いていることにより、試料分析用基板100における液体の移送に、回転による遠心力に加え、重力による移送を利用することができる。回転軸Aの重力方向に対する傾斜角度は、5°以上であることが好ましく、10°以上45°以下であることがより好ましく、20°以上30°以下であることがさらに好ましい。モータ201は例えば、直流モータ、ブラシレスモータ、超音波モータ等であってよい。
【0022】
原点検出器203は、モータ201に取り付けられた試料分析用基板100の原点を検出する。例えば、
図2Bに示すように、原点検出器203は、光源203a、受光素子203bおよび原点検出回路203cを含み、光源203aと受光素子203bとの間に試料分析用基板100が位置するように配置される。例えば、光源203aは発光ダイオードであり、受光素子203bはフォトダイオードである。試料分析用基板100は特定の位置に設けられたマーカ210を有する。マーカ210は例えば、光源203aから出射する光の少なくとも一部を遮光する遮光性を有する。試料分析用基板100において、マーカ210の領域は透過率が小さく(例えば10%以下)、マーカ210以外の領域では透過率が大きい(例えば60%以上)。
【0023】
試料分析用基板100がモータ201によって回転すると、受光素子203bは、入射する光の光量に応じた検出信号を原点検出回路203cへ出力する。回転方向に応じて、マーカ210のエッジ210aおよびエッジ210bにおいて検出信号は増大または低下する。原点検出回路203cは、例えば、試料分析用基板100が矢印で示すように、時計回りに回転している場合において、検出光量の低下を検出し、原点信号として出力する。本明細書では、マーカ210のエッジ210aの位置を、試料分析用基板100の原点位置(試料分析用基板100の基準となる角度位置)として取り扱う。ただし、マーカ210のエッジ210aの位置から任意に定められる特定の角度の位置を原点として定めてもよい。また、マーカ210が扇形であり、その中心角が、試料分析に必要な角度の検出精度よりも小さい場合には、マーカ210自体を原点位置として定めてもよい。
【0024】
原点位置は、試料分析装置200が試料分析用基板100の回転角度の情報を取得するために利用される。
【0025】
原点検出器203は、他の構成を備えていてもよい。例えば、試料分析用基板100に原点検出用の磁石を備え、原点検出器203は、受光素子203bの代わりに、この磁石の磁気を検出する磁気検出素子を備えていてもよい。また、後述する磁性粒子を捕捉するための磁石を原点検出に用いてもよい。また、試料分析用基板100がターンテーブル201aに特定の角度でのみ取り付け可能である場合には、原点検出器203はなくてもよい。
【0026】
回転角度検出回路204は、モータ201の回転軸Aの角度を検出する。例えば、回転角度検出回路204は回転軸Aに取り付けられたロータリーエンコーダであってもよい。モータ201がブラシレスモータである場合には、回転角度検出回路204は、ブラシレスモータに備えられているホール素子およびホール素子の出力信号を受け取り、回転軸Aの角度を出力する検出回路を備えていてもよい。
【0027】
駆動回路206はモータ201を回転させる。具体的には、制御回路205からの指令に基づき、試料分析用基板100を時計方向または反時計方向に回転させる。また、回転角度検出回路204および原点検出器203の検出結果および試料分析用基板100を制御回路205からの指令に基づき、揺動および回転の停止を行う。
【0028】
光学測定ユニット207は、試料分析用基板100に保持された複合体310(
図1)に結合した標識抗体308の標識物質307に応じたシグナル(例えば、色素、発光、蛍光等)を検出する。
【0029】
制御回路205は、たとえば試料分析装置200に設けられたCPUである。制御回路205は、RAM(Random Access Memory;図示せず)に読み込まれたコンピュータプログラムを実行することにより、当該コンピュータプログラムの手順にしたがって他の回路に命令を送る。その命令を受けた各回路は、本明細書において説明されるように動作して、各回路の機能を実現する。制御回路205からの命令は、たとえば
図2Aに示されるように、駆動回路206、回転角度検出回路204、光学測定ユニット207等に送られる。コンピュータプログラムの手順は、添付の図面におけるフローチャートによって示されている。
【0030】
なお、コンピュータプログラムが読み込まれたRAM、換言すると、コンピュータプログラムを格納するRAMは、揮発性であってもよいし、不揮発性であってもよい。揮発性RAMは、電力を供給しなければ記憶している情報を保持できないRAMである。たとえば、ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ(DRAM)は、典型的な揮発性RAMである。不揮発性RAMは、電力を供給しなくても情報を保持できるRAMである。たとえば、磁気抵抗RAM(MRAM)、抵抗変化型メモリ(ReRAM)、強誘電体メモリ (FeRAM)は、不揮発性RAMの例である。本実施の形態においては、不揮発性RAMが採用されることが好ましい。揮発性RAMおよび不揮発性RAMはいずれも、一時的でない(non-transitory)、コンピュータ読み取り可能な記録媒体の例である。また、ハードディスクのような磁気記録媒体や、光ディスクのような光学的記録媒体も一時的でない、コンピュータ読み取り可能な記録媒体の例である。すなわち本開示にかかるコンピュータプログラムは、コンピュータプログラムを電波信号として伝搬させる、大気などの媒体(一時的な媒体)以外の、一時的でない種々のコンピュータ読み取り可能な媒体に記録され得る。
【0031】
本明細書では、制御回路205は回転角度検出回路204および原点検出器203の原点検出回路203cと別個の構成要素として説明している。しかしながら、これらは共通のハードウェアによって実現されていてもよい。たとえば、試料分析装置200に設けられたCPU(コンピュータ)が、制御回路205として機能するコンピュータプログラム、回転角度検出回路204として機能するコンピュータプログラムおよび原点検出器203の原点検出回路203cとして機能するコンピュータプログラムを直列的、または並列的に実行してもよい。これにより、そのCPUを見かけ上、異なる構成要素として動作させることができる。
【0032】
(試料分析用基板100)
図3Aおよび
図3Bは、試料分析用基板100の平面図および分解斜視図である。試料分析用基板100は、回転軸101および回転軸に平行な方向に所定の厚さを有する板形状の基板100’を備える。本実施形態では、試料分析用基板100の基板100’は円形形状を有しているが、多角形形状、楕円形状、扇形形状等を有していてもよい。基板100’は、2つの主面100c、100dを有している。本実施形態では、主面100cおよび主面100dは互いに平行であり、主面100cおよび主面100dの間隔で規定される基板100’の厚さは、基板100’のどの位置でも同じである。しかし、主面100c、100dは、平行でなくてもよい。例えば、2つの主面の一部分が非平行または平行であってもよいし、全体的に非平行であってもよい。また、基板100’の主面100c、100dの少なくとも一方に凹部または凸部を有する構造を備えていてもよい。試料分析用基板100は、それぞれ基板100’内に位置する第1チャンバー102と、第2チャンバー103と、第3チャンバー104と、第1貯蔵チャンバー108と、第2貯蔵チャンバー109と、反応チャンバー107とを有する。各チャンバーの形状は、以下において特に言及しない限り、制限はなく、任意の形状を有していてもよい。第1チャンバー102を除き、各チャンバーは、概ね、基板100’の2つの主面に平行な上面及び下面と、これらの間に位置する4つの側面とによって規定された空間を有する。上面、下面および側面のうちの隣接する2つの面は、明瞭な稜線によって分けられていなくてもよい。例えば、各チャンバーの形状は扁平な球あるいは、回転楕円体であってもよい。
【0033】
試料分析用基板100は、更に、それぞれ基板100’内に位置する第1流路110と、第2流路111と、第3流路112と、第4流路114と、第5流路115とを有する。第1流路110は第1チャンバー102と第2チャンバー103とを接続している。第2流路111は、第2チャンバー103と第3チャンバー104とを接続している。第3流路112は、反応チャンバー107と第2チャンバー103とを接続している。第4流路114は、第1貯蔵チャンバー108と第1チャンバー102とを接続している。第5流路115は、第1チャンバー102と第2貯蔵チャンバー109とを接続している。
【0034】
流路を介したチャンバー間の液体の移送は、種々の方法で実現することが可能である。たとえば、重力による移送および毛細管力と回転による遠心力とによる移送を利用することができる。以下この2つの移送方法を概括的に説明する。
【0035】
たとえば、試料分析用基板100を回転軸Aが鉛直方向に対して0度より大きく90度以下の範囲で傾けて支持する。そして、試料分析用基板100の回転角度位置を変更することにより、液体が存在する移送元のチャンバーを、移送先のチャンバーよりも高い位置に配置させる。「高い」とは鉛直方向でより上にあることを言う。これにより、重力を利用して液体を他のチャンバーに移送し得る。この場合、チャンバー間を連結する流路は、毛管路ではない。「毛管路」は、毛細管現象により内部に液体を満たすことができる狭い空間を有する流路を指す。
【0036】
また、毛管路を利用し、液体を他のチャンバーに移送をすることもできる。毛管路の液体の移送について、毛細管空間ではないチャンバーAおよびチャンバーBと、チャンバーAとチャンバーBを接続する毛管路を有する構成を例に挙げて説明する。チャンバーAに保持された液体は、チャンバーAと毛管路と接続部分である開口に接触すると、液体は毛細管力により毛管路内に吸引され、その流路内部が液体で満たされる。しかしながら、流路内部の液体にかかる毛細管力以下の遠心力を流路内部の液体にかけることができる回転数(停止状態も含む)で試料分析用基板100を回転させると、毛管路内の液体は、チャンバーBへは移送されず、毛細管空間内に留まっている。このように毛細管現象により毛管路内部で液体を満たすには、チャンバーB側、すなわち、毛管路の出口側に空気孔(外部環境とチャンバーとの空気の通り道)を備えなければならない。また、チャンバーA、チャンバーBおよび毛管路といった閉鎖された空間内で毛細管現象による液体の移送を行うには、各チャンバーおよび流路内の気圧の関係から、チャンバーA側、すなわち毛管路の入口側にも空気孔を設けなければならない。そして、チャンバーBが、回転軸に対してチャンバーAよりも遠い位置に配置されていれば、この毛管路に液体が満たされている状態で、毛管路内部の液体にかかる毛細管力よりも大きい遠心力をかけることができる回転数で試料分析用基板100を回転させると、その遠心力によりチャンバーA中の液体をチャンバーBに移送することができる。
【0037】
液体を毛細管力および回転による遠心力によって移送する場合、例えば、直径60mmの試料分析用基板100を100rpmから8000rpmの範囲で回転させることができる。回転速度は各チャンバーおよび流路の形状、液体の物性、液体の移送や処理のタイミング等に応じて決定される。
【0038】
本実施形態では、試料分析用基板100の基板100’は、ベース基板100aとカバー基板100bによって構成されている。第1チャンバー102、第2チャンバー103、第3チャンバー104、第1貯蔵チャンバー108、第2貯蔵チャンバー109および反応チャンバー107のそれぞれの空間はベース基板100a内に形成され、カバー基板100bでベース基板100aを覆うことにより、それぞれの空間の上部および下部が形成される。つまり、これらの空間は基板100’の内面によって規定されている。第1流路110、第2流路111、第3流路112、第4流路114および第5流路115もベース基板100aに形成されており、カバー基板100bでベース基板100aを覆うことにより、これらの流路の空間の上部および下部が形成される。本実施形態では、ベース基板100aおよびカバー基板100bがそれぞれ上面および下面と使用される。基板100’は、例えば、アクリル、ポリカーボネート、ポリスチレン等の樹脂によって生成され得る。
【0039】
反応チャンバー107は、
図1を参照して説明したように、磁性粒子固定化抗体305と、抗原306を含む検体と、標識抗体308とを反応させて、複合体310を形成させる反応場である。反応チャンバー107の形状に特に制限はない。反応チャンバー107と第3流路112との接続部分は、反応チャンバー107の回転軸101に平行な方向に位置する側面のうち、回転軸101から最も遠い側に位置する側面(最外周側面)か、または、最外周側面に隣接する側面であって、最外周側壁との接続位置を含む位置に設けられることが好ましい。反応チャンバー107中の液体を第2チャンバー103へ移送させるにあたり、反応チャンバー107中に液残りが生じることを抑制できるからである。なお、
図3Aの例では、反応チャンバー107と第3流路112との接続部分は、最外周側面であって、最外周側面に隣接する一方の側面との境界位置に設ける構成を示している。
【0040】
本実施形態では、試料分析用基板100は、複合体310を形成させる反応場として、反応チャンバー107を備えている。磁性粒子固定化抗体305、抗原306を含む検体および標識抗体308の反応チャンバー107への移送には、種々の手段を採り得る。例えば、予め磁性粒子固定化抗体305、抗原306を含む検体および標識抗体308を混合させた混合溶液を量りとり、試料分析用基板100内の反応チャンバー107に混合溶液を注入してもよい。また、試料分析用基板100は、磁性粒子固定化抗体305、抗原306を含む検体および標識抗体308のそれぞれを保持するチャンバーと、それぞれのチャンバーと反応チャンバー107とが連結する流路(例えば、毛管路)を備えていてもよい。この場合、磁性粒子固定化抗体305、抗原306を含む検体および標識抗体308をそれぞれのチャンバーに量りとり、各チャンバーに注入された磁性粒子固定化抗体305、抗原306を含む検体および標識抗体308を反応チャンバー107に移送して反応チャンバー107中で混合し、複合体310を形成させてもよい。また、磁性粒子固定化抗体305や標識抗体308を乾燥させてもよい(以下、「ドライ化試薬」と称する。)。この場合、例えば、反応チャンバー107にドライ化試薬を保持させ、抗原306を含む検体溶液を含む液体で溶解させることで複合体310を形成させてもよい。また、測定時にあるチャンバーに保持されたドライ化試薬を所定の溶液で溶解させ、抗原306を含む検体溶液を反応チャンバー107中で混合させることで複合体310を形成させてもよい。
【0041】
複合体310を含む溶液は、第3流路112を介して、第2チャンバー103へ移送される。
【0042】
第2チャンバー103において、複合体310を含む溶液のB/F分離が行われる。このために、試料分析用基板100は、磁石106を含む。第2チャンバー103は、反応チャンバー107および後述する第1チャンバー102の部分102baよりも回転軸101に対して遠い側に位置している。
【0043】
第2チャンバー103の形状は特に限定されないが、第2チャンバー103と第2流路111との接続部分は、第2チャンバー103の回転軸101に平行な方向に位置する側面のうち、回転軸101から最も遠い側に位置する側面(最外周側面)か、または、最外周側面に隣接する側面であって、最外周側壁との接続位置を含む位置に設けられることが好ましい。第2チャンバー103中の液体を第3チャンバー104へ移送させるにあたり、第2チャンバー103中に液残りが生じることを抑制できるからである。なお、
図3Aの例では、第2チャンバー103と第2流路111との接続部分は、最外周側面であって、最外周側面に隣接する一方の側面との境界位置に設ける構成を示している。
【0044】
また、第2チャンバー103と第3流路112との接続部分は、第2チャンバー103の回転軸101に平行な方向に位置する側面のうち、回転軸101から最も近い側に位置する側面(最内周側面)か、または、最内周側面に隣接する側面であって、最内周側壁との接続位置を含む位置に設けられることが望ましい。なお、
図3Aの例では、第2チャンバー103と第3流路112との接続部分は、最外周側面の一部に設ける構成を示している。
【0045】
磁石106は、試料分析用基板100内において、第2チャンバー103の空間に近接して位置している。より具体的には、磁石106は、第2チャンバー103の4つの側面のうち、回転軸から最も遠くに位置する側面103bに近接して配置されている。磁石106はB/F分離に応じて取外しできるように構成されていてもよいし、試料分析用基板に着脱不能に取り付けられていてもよい。
【0046】
試料分析用基板100における磁石106の配置は、第2チャンバー103の側面103bに近接する位置に限られない。磁石106によって、第2チャンバー103の壁面に磁性粒子を捕捉できれば、他の位置に磁石106を配置してもよい。例えば、第2チャンバー103の側面103b以外の上面や下面に近接する位置に磁石106を配置してもよい。すなわち、磁石106によって、第3チャンバー104の壁面に磁性粒子を捕捉できれば、その位置は特に限定されない。
【0047】
磁石106を着脱可能に構成した場合には、例えば、基板100’は、磁石106を収納することができる収納室を備える。例えば、
図3Cに示すように、基板100’は、主面100cに開口120aを有する凹状の収納室120を備えていてもよい。収納室120は磁石106を収納可能な空間を有する。開口120aaから収納室120に磁石106を挿入することにより、磁石106を基板100’に装填することができる。収納室120の開口120aは、主面100dに設けてもよいし、2つの主面100c、100dの間に位置する側面に設けてもよい。
【0048】
また、磁石106を試料分析装置200に設けてもよい。例えば、試料分析装置200は、磁石106を有するターンテーブル201aを備えていてもよい。この場合、試料分析用基板100がターンテーブル201aの所の位置に配置すると、第3チャンバー104の側面103b近傍など、磁性粒子を捕捉できる位置に磁石106が配置される。
【0049】
磁石106を試料分析装置200に設ける他の例として、例えば、試料分析装置200は、磁石106および磁石106を移動させる駆動機構を備えていてもよい。この場合、試料分析用基板100は磁石106を保持する収納室を備え、B/F分離に応じて、駆動機構が試料分析用基板100の収納室に磁石106を挿入し、収納室内の磁石106を取り出してもよい。
【0050】
第1貯蔵チャンバー108は、B/F分離の際の洗浄に用いる洗浄液を貯留する。以下において詳細に説明するように、本実施形態の試料分析システム501では、B/F分離の際、複合体310を複数回洗浄することができる。このため、第1貯蔵チャンバー108は、洗浄回数に応じた容量の洗浄液を保持し得る。
【0051】
第1チャンバー102は、第1貯蔵チャンバー108に貯留されていた全洗浄液を保持し、1回の洗浄に使う所定の量の洗浄液を量り取る。このために、第1チャンバー102の空間は第2部分102aと、第1部分102bと、第2部分102aおよび第1部分102bとを接続する連結部分102cとを含む。
【0052】
本実施形態では、第2部分102aの一部と第1部分102bとは、概ね、回転軸101を中心とする円周方向に配置されている。第2部分102aと第1部分102bとの間に、基板100’の内面によって構成される壁部分100fが位置している。壁部分100fは、第2部分102aと第1部分102bを区切る。連結部分102cは基板100’の壁部分100fと同じ半径方向上に位置し、かつ、壁部分100fよりも回転軸101側に位置している。連結部分102cは、毛細管現象によって液体で満たされることはなく、重力によって第1部分102bと第2部分102aとの間で液体を移動させる。
【0053】
第1部分102bは、回転軸101を中心とし、回転軸101と壁部分100fの回転軸に最も近い点100eとを結ぶ線分を半径とする円弧caよりも、外側に位置する(回転軸101から離れて位置する)部分102baを含む。この部分102baによって、1回の洗浄に使う所定の量の洗浄液を量り取ることができる。
【0054】
また、回転軸から第1部分102bにおける第1流路110の接続位置までの距離は、回転軸101から壁部分100fの回転軸に最も近い点100eまでの距離よりも長い。このため、部分102baによって量り取られた洗浄液は回転による遠心力によって第1流路110から第2チャンバー103へ移送させることができる。
【0055】
本実施形態では、第1チャンバー102の空間の第2部分102aは、側部102aaと底部102abを含む。側部102aaは、回転軸101を中心とする円周方向において、第1貯蔵チャンバー108の側方に位置している。底部102abは、第1貯蔵チャンバー108よりも回転軸101から遠くに位置している。また、第2部分102aの、側部102aaの一部および底部102abの全体は、第1部分102bよりも回転軸101から遠くに位置している。
【0056】
側部102aaは、好ましくは、円弧caよりも回転軸101側に位置する部分102aa’および外側に位置する部分102aa’’を含む。部分102aa’は、上述したように、第1部分102bと円周方向に隣接しており、連結部分102cと接続している。
【0057】
第1チャンバー102の第2部分102aのうち、円弧caよりも外側(回転軸101から遠く)に位置する部分、つまり、部分102aa’’と底部102abとの合計の容積は、第1貯蔵チャンバー108に保持される洗浄液の全量よりも大きいことが好ましい。
【0058】
第1チャンバー102の空間が底部102abを含むことで、試料分析用基板100が所定の角度で停止されている状態では、第4流路114に第1貯蔵チャンバー108に貯留されていた洗浄液の一部が毛細管現象により満たされる。そして、第4流路114に洗浄液が満たされた状態で試料分析用基板100を回転させることで、その遠心力によって第1貯蔵チャンバー108中の洗浄液は第4流路114を介して底部102abへ移送される。
【0059】
試料分析用基板100が所定の角度で保持されると、重力によって、第1チャンバー102の底部102abへ移送された洗浄液の一部が連結部分102cを通って第1部分102bへ流れ、第1部分102bの少なくとも一部を満たす。その後、試料分析用基板100を回転させると、第1部分102bを満たしている洗浄液に遠心力が働き、回転軸101と、壁部分100fの回転軸101に最も近い点100eとを結ぶ線分を半径とする円弧ca(
図3A中、破線で示している)と、第1部分102bの洗浄液の液面とが一致するように、第1部分102bに保持されていた洗浄液のうち、余分な量が第2部分102aへ戻される。これによって、洗浄液の所定量が量り取られる。第1部分102bの、回転軸101と、壁部分100fの回転軸101に最も近い点100eとを結ぶ線分を半径とする円弧caより外側位置する部分の容積は、第1チャンバー102の容積の1/2以下である。詳細については、以下において説明する。
【0060】
なお、本実施形態では、第2部分102aとして、側部102aaの一部および底部102abを含む構成を示したが、第2部分102aは、回転軸101を中心とし、回転軸101と壁部分100fの回転軸101に最も近い点とを結ぶ線分を半径とする円弧よりも外側に位置する部分を含めばよい。
【0061】
第2チャンバー103は、B/F分離を行う場を提供する。試料分析用基板100が所定の角度で停止されている状態では、第3流路112に反応チャンバー107中の複合体310および未反応物を含む液体(以下反応液と呼ぶ)の一部が毛細管現象により満たされる。そして、第3流路112に反応液が満たされた状態で試料分析用基板100を第3流路112内部の液体にかかる毛細管力よりも大きい遠心力をかけることができる回転数で回転させることで、その遠心力によって反応チャンバー107中の反応液は第3流路112を介して第2チャンバー103へ移送される。
【0062】
反応液が第2チャンバー103へ移送されると、反応液中の複合体310および未反応の磁性粒子固定化抗体305(以下、これら両方を指す場合には、単に磁性粒子311と呼ぶ)は、側面103bに近接して配置された磁石106の磁力によって、側面103b側に捕捉される。また、試料分析用基板100が所定の角度で停止されている状態では、第2流路111に第2チャンバー103中の反応液(磁石106によって側面103bに捕捉された磁性粒子311を除く)の一部が、毛細管現象により満たされ、その状態から試料分析用基板100を第2流路111内部の液体にかかる毛細管力よりも大きい遠心力をかけることができる回転数で回転させると、その遠心力によって、第2チャンバー103中の反応液(磁石106によって側面103bに捕捉された磁性粒子を除く)は、第2流路111を通って第3チャンバー104へ移送される。
【0063】
第1チャンバー102において、一定量が量り取られた洗浄液は、毛細管現象により第1流路110を満たし、その後、試料分析用基板100を第1流路110内部の液体にかかる毛細管力よりも大きい遠心力をかけることができる回転数で回転させることで、その遠心力により第1流路110を通って第2チャンバー103へ移送される。このため、第2チャンバー103は、第1チャンバー102の第1部分102bの円弧より外側位置する部分の容積よりも大きい。
【0064】
第3チャンバー104は、試料分析用基板100を回転させ、その遠心力によって、第2流路111を通って第2チャンバー103から排出される液体を貯蔵する。このために、第3チャンバー104は、第2チャンバー103よりも回転軸101から遠くに位置している。
【0065】
第2貯蔵チャンバー109は、第1チャンバー102に保持されていた洗浄液のうち、洗浄に使用されなかった分を貯める。第1チャンバー102と第2貯蔵チャンバー109とは、第5流路115によって接続されている。
【0066】
第1チャンバー102、第2チャンバー103、第3チャンバー104、第1貯蔵チャンバー108、第2貯蔵チャンバー109および反応チャンバー107のそれぞれには少なくとも1つの空気孔118が設けられている。これにより、各チャンバー内が環境下の気圧に保たれ、毛管路およびサイフォン構造を用いることによって各流路が液体の移動・停止を制御し得る。また、第1貯蔵チャンバー108および反応チャンバー107には、検体溶液、反応溶液、洗浄液等などの液体を注入したり、排出するための開口119が設けられていてもよい。
【0067】
空気孔118および開口119は、各チャンバーにおいて、上面であって、回転軸101に近接する側面側に配置されていることが好ましい。これにより、各チャンバーに液体が満たされた状態で試料分析用基板100が回転しても、空気孔118および開口119が液体と接し、液体が、空気孔118および開口119から試料分析用基板100の外部へ移動するのを抑制することができる。空気孔118および開口119は、各チャンバーの側面部分に設けてもよい。
【0068】
また、各チャンバーの空間は、回転軸101側に突出した凸状部分を有しており、凸状部分に空気孔118および開口119が位置していることが好ましい。この構成により、各チャンバーにおける空気孔118および開口119の位置を半径方向においてできるだけ回転軸101に近づけることができる。よって、試料分析用基板100が回転した状態において、空気孔118および開口119と接しないで、各チャンバーが保持し得る液体の量を増大させることができ、これらのチャンバーの空間のうち、液体の保持に利用できないデッドスペースを小さくすることができる。
【0069】
次に
図4を参照しながら各流路を説明する。第1流路110、第2流路111、第3流路112および第4流路114は、毛細管現象によって内部を液体で満たすことが可能である。具体的には、第1流路110、第2流路111、第3流路112および第4流路114は、それぞれ、毛細管現象により、第1チャンバー102、第2チャンバー103、反応チャンバー107および第1貯蔵チャンバー108に満たされた液体で内部を満たすことができる。つまり、第1流路110、第2流路111、第3流路112および第4流路114は、毛管路(capillary channel)あるいは毛細管(capillary tube)であることが好ましい。
【0070】
例えば、第1流路110、第2流路111、第3流路112および第4流路114は、それぞれ流路が伸びる方向に垂直な断面において、0.1mm〜5mmの幅および50μm〜300μmの深さを有していてもよく、50μm以上(好ましくは50μm〜300μm)の幅および0.1mm〜5mmの深さを有していてもよい。これに対して、第5流路115および連結部100eは、重力によって液体が移動可能な程度に大きな断面積を有している。
【0071】
上述した流路が毛管路である場合、流路を規定する基板100’の内面、ならびに、流路が接続しているチャンバーの接続部分近傍の内面は、親水処理が施されていてもよい。親水処理によって毛細管力が大きく働く。親水処理は、例えば、上述した内面に、非イオン系、カチオン系、アニオン系または両イオン系の界面活性剤を塗布したり、コロナ放電処理を行ったり、物理的な微細凹凸を設けるなどによって行うことができる(例えば、特開2007−3361号公報を参照。)。
【0072】
また、第1流路110、第2流路111および第3流路112はサイフォンの原理によって、液体の移動を制御し得る。このために、サイフォン構造として、第1流路110、第2流路111および第3流路112はそれぞれ第1屈曲部および第2屈曲部を有している。第1屈曲部は回転軸101と反対側に凸形状を有し、第2屈曲部は回転軸101側に凸形状を有する。第1屈曲部は、流路が接続する2つチャンバーのうち、回転軸101に近い側に位置するチャンバーと、第2屈曲部との間に位置している。
【0073】
ここでいうサイフォンの原理とは、試料分析用基板100の回転により液体にかかる遠心力と流路の毛細管力とのバランスで送液制御が行われる。具体的に、反応チャンバー107から第2チャンバー103に液体が移送され、さらに第3チャンバー104に液体が移送される例で説明する。
【0074】
例えば、第2流路111がサイフォン構造を有しない毛管路である場合、試料分析用基板100の回転による遠心力で、反応チャンバー107から第3流路112を介して第2チャンバー103へ移送される過程において、第2チャンバー103へ移送された液体は、第2流路111の毛細管力により第2流路111内に液体が満たされる。この状態で、試料分析用基板100の回転が継続していると、液体は、第2チャンバー103中に保持されず、第3流路112を介して第3チャンバー104に移送されてしまう。ここでいう試料分析用基板100の回転は、第2流路111の毛細管力よりも強い遠心力をかけることができる回転数である。
【0075】
一方、第2流路111がサイフォン構造を有していれば、反応チャンバー107から第2チャンバー103へ移送された液体は、第2流路111の毛細管力により、第2流路111中に液体が引き込まれる。しかしながら、試料分析用基板100の回転が継続して回転し、第2流路111の毛細管力よりも強い遠心力をかけることができる回転数で回転していれば、液体にかかる毛細管力よりも遠心力の方が強いため、第2流路111内全てを液体で満たされることはない。すなわち、第2流路111には、回転軸101に対して第2チャンバー103に存する液体の液面の距離と同じ高さまでしか液体が満たされない。そして、第2チャンバー103中の液体を第3チャンバー104へ移送したい場合には、試料分析用基板100の回転を、第2流路111の毛細管力以下の遠心力をかけることができる回転数(回転停止も含む)にすることで、毛細管力により第2流路111内全てに液体が満たされる。その後、第2流路111の毛細管力よりも強い遠心力をかけることができる回転数で試料分析用基板100を回転させると、第2チャンバー103内の液体を、第3チャンバー104へ移送させることができる。
【0076】
したがって、上述の回転数で反応チャンバー107から第2チャンバー103に液体を移送し、そのまま第3チャンバー104に液体を移送することなく、一旦、第2チャンバー103に液体を保持したい場合には、第2流路111をサイフォン構造で構成することが好ましい。
【0077】
第1流路110および第3流路112についても同様であるが、上述の液体制御が不要な場合であってもサイフォン構造を採用してもよい。
【0078】
サイフォン構造を構成するには、回転軸101と、回転軸101から遠くに位置するチャンバーの最も回転軸に近い側面との距離をR1とし、回転軸101から、第1屈曲部の最も回転軸101から遠い側に位置する点までの距離をR2とした場合、R1>R2(条件1)を満たすことが好ましい。
【0079】
また、回転軸101に近くに位置するチャンバーに保持された液体が、遠心力によって、側面に偏って保持されている場合において、回転軸から液体の液面までの距離をR4とし、回転軸101から、第2屈曲部の最も回転軸101に近い側に位置する点までの距離をR3とした場合、R4>R3(条件2)を満たすことが好ましい。
【0080】
第1流路110、第2流路111および第3流路112について、距離R1〜R4をそれぞれ、距離1R1〜1R4、2R1〜2R4、3R1〜3R4とした場合、条件1、2は以下のように示される。
第1流路110
条件1:1R1>1R2
条件2:1R4>1R3
第2流路111
条件1:2R1>2R2
条件2:2R4>2R3
第3流路112
条件1:3R1>3R2
条件2:3R4>3R3
【0081】
第2流路111が条件1、2を満たしていることによって、反応チャンバー107から反応液を第2チャンバー103へ遠心力によって移送させる場合に、第2チャンバー103へ移送された反応液がそのまま第3チャンバー104へ移送されるのを防止し得る。また、第1チャンバー102から洗浄液を第2チャンバー103へ遠心力によって移送させる場合に、第2チャンバー103へ移送された洗浄液がそのまま第3チャンバー104へ移送されるのを防止し得る。
【0082】
なお、本実施形態では、前述の通り、第2流路111がサイフォン構造を有する毛管路である例を説明したが、第1流路110、第2流路111および第3流路112は、サイフォン構造を有さない毛管路または、重力を利用した流路であってもよい。
【0083】
反応チャンバー107から第2チャンバー103を介して第3チャンバー104に液体を移送する過程において、第2流路111がサイフォン構造を有さない毛管路であって、第2チャンバー103に一旦、液体を保持するには、次のような構成であることが好ましい。まず、反応チャンバー107から第2チャンバー103へ液体を移送するにあたって、第2流路111中に液体が満たされた液体にかかる毛細管力以下の遠心力をかけることができる試料分析用基板100の回転数(停止状態も含む)で行わなければならない。この場合、第3流路112は、重力を利用した流路であることが好ましい。また、第3流路112が重力を利用した流路であることから、反応チャンバー107の側面部分107b(
図3Aに示す)は、試料分析用基板100を所定の角度で保持した場合に、側面部分107bで液体を保持できるように側面部分107bを凹形状となるように形成することが好ましい。この場合、反応チャンバー107から第2チャンバー103へ液体を移送するには、側面部分107bの凹部に保持された液体が、重力により第3流路112を介して移動するように試料分析用基板100の回転角度を変更することで行われる。
【0084】
一方、反応チャンバー107から第2チャンバー103を介して第3チャンバー104に液体を移送する過程において、第2流路111が重力を利用した流路であって、第2チャンバー103に一旦、液体を保持する場合には、次のような構成であることが好ましい。第3流路112は、毛管路(サイフォン構造を含む)であっても重力を利用した流路のいずれでもよいが、第3流路112が重力を利用した流路である場合、第2チャンバー103の側面部分103b(
図3Aに示す)は、試料分析用基板100を所定の角度で保持した場合に、側面部分107bで液体を保持できるように側面部分107bを凹形状となるように形成することが好ましい。この場合、第2チャンバー103から第3チャンバー104へ液体を移送するには、側面部分103bの凹部に保持された液体が、重力により第2流路111を介して移動するように試料分析用基板100の回転角度を変更することで行われる。
【0085】
以上のとおり、第1流路110、第2流路111および第3流路112はの構成は、種々の方式を採用することができる。
【0086】
本実施形態では、第1流路110および第3流路112もサイフォン構造を備えている。しかし、第1流路110および第3流路112はサイフォン構造を備えていなくてもよい。また、本実施形態では、第4流路114は、サイフォンを構成していないが、サイフォンを構成していてもよい。以下において詳細に説明するように、第1流路110、第2流路111および第3流路112におけるサイフォンの構造には、試料分析用基板100の回転による遠心力に対してサイフォンの原理が働く。
【0087】
(試料分析システム501の動作)
試料分析システム501の動作を説明する。
図5は、試料分析システム501の動作を示すフローチャートである。以下の工程に先立ち、試料分析用基板100を試料分析装置200に装填し、試料分析用基板100の原点を検出する。
【0088】
[ステップS1]
まず、
図6に示すように、洗浄液を試料分析用基板100の第1貯蔵チャンバー108に導入する。また、反応チャンバー107に、磁性粒子固定化抗体305と、抗原306を含む検体と、標識抗体308を導入する。例えば、反応チャンバー107に磁性粒子固定化抗体305を含む液体が保持されており、試料分析用基板100に設けられた図示しないチャンバーが抗原306および標識抗体308を含む液体をそれぞれ別々に保持しており、試料分析用基板100の回転による遠心力でこれらが反応チャンバー107へ移送されてもよい。反応チャンバー107において、磁性粒子固定化抗体305と、抗原306を含む検体と、標識抗体308とを抗原抗体反応により、同時に反応させて複合体310を形成させる。この時点で第4流路114および第3流路112は、毛細管現象によって、それぞれ、洗浄液および複合体310を含む反応液で満たされている。
【0089】
[ステップS2]
複合体310が生成した後、試料分析用基板100を回転させ、複合体310を含む反応液を第2チャンバー103へ移動させる。この際、第3流路112は、毛細管現象によって、反応液で満たされている。このため、反応チャンバー107の複合体310を含む反応に、回転により第3流路112内の反応液にかかる毛細管力よりも強い遠心力が働くと、反応液は第2チャンバー103へ移送される。第2チャンバー103へ移送された反応液は、試料分析用基板100が回転している状態では、続いて第3チャンバー104へ移送されることはない。前述したように第2流路111がサイフォンを構成しているため、遠心力に逆らって、液体が、第2流路111を回転軸101に向かう方向へ移動しないからである。
【0090】
試料分析用基板100の回転速度は、回転による遠心力が生じることにより、反応液等の液体が重力によって移動せず、各毛管路の毛細管力よりも強い遠心力をかけられるような速度が設定される。以下、遠心力を利用する回転には、この回転速度が設定される。
【0091】
反応液の移動と同時に、洗浄液が第1貯蔵チャンバー108から第4流路114を通って、第1チャンバーの第1部分の底部102abへ移送される。底部102abの容量(空間の大きさ)および洗浄液の量によっては、洗浄液は、側部102aaの一部を満たしてもよい。
【0092】
反応液および洗浄液をそれぞれすべて第2チャンバー103および第1チャンバー102へ移送させた後、所定の角度で試料分析用基板100を停止させる。
図7に示すように、例えば、所定の角度とは、試料分析用基板100において、第1チャンバー102の第1部分の底部102abが下方に位置する角度Aである。以下、分かりやすさのため、
図7に示すように、回転軸101が重力方向から角度θで傾斜して保持される試料分析用基板100において、回転軸101の鉛直方向を基準として、試料分析用基板100の角度を示す。この時点で第2流路111は、毛細管現象によって、反応液で満たされている。角度Aは、第1チャンバー102の第2部分102aにある洗浄液が重力で第1部分102bへ移動しない角度範囲から選ばれる。
【0093】
[ステップS3]
試料分析用基板100を回転させる。回転にともない遠心力が発生し、第2チャンバー103内の反応液および磁性粒子311に働く。この遠心力は、
図3Aに示すように、液体及び複合体が第2チャンバー103の側面103b側へ移動するように働く。遠心力が働く方向は、磁性粒子311が磁石106から受ける吸引力の方向と一致する。このため、複合体310は、強く側面103bに押し付けられる。
【0094】
遠心力を受けた反応液は第2流路111から排出され、第3チャンバー104へ移送される。遠心力および磁石106の吸引力の和によって、磁性粒子311は側面103bに強く押し付けられ、捕捉される。このため、反応液のみが第2流路111から排出され、磁性粒子311は第2チャンバー103にとどまる。
【0095】
この時、第1チャンバー102の第1部分102bの底部102abに位置していた洗浄液は、遠心力によって底部102abの回転軸101から遠くに位置する側面側に押し付けられるため、洗浄液は、実質的に第1部分102b内にとどまっている。
【0096】
図8に示すように、液体が第3チャンバー104へすべて移動した後、例えば、角度Bで試料分析用基板100の回転を停止させる。これにより、反応液と磁性粒子311とが分離される。具体的には、反応液は、第3チャンバー104へ移動し、磁性粒子311は第2チャンバー103にとどまる。
図8に示すように、試料分析用基板100の回転が停止しても磁石106から受ける吸引力により、磁性粒子311は、側面103bに集まったままの状態を維持し得る。角度Bは角度Aと同じであってもよいし、次のステップの角度Cと一致してもよい。この場合には、基板の回転の停止とともに第1チャンバー102の第2部分102aにある洗浄液が重力で第1部分102bへ移動する。
【0097】
[ステップS4(工程(a))]
図9に示すように、試料分析用基板100を少し回転させ角度C(第1の角度)で停止させる。これにより、第1チャンバー102の第1部分102bが第2部分102aよりも重力方向において下に位置し、第2部分102aの洗浄液の一部が第1チャンバー102内において重力によって移し、第1部分102bの少なくとも一部を満たす。第1部分102bを確実に洗浄液で満たすよう、角度Cを中心として、時計回りおよび反時計回りに交互に数度程度回転させる、つまり揺動させてもよい。これにより
図9に示すように、例えば、第1部分102bおよび第2部分102aの側部102aaが洗浄液で満たされる。第1部分102bが洗浄液で満たされると、第1流路110は毛細管現象により洗浄液を引き込む。すなわち、第1流路110は、毛細管現象によって、洗浄液で満たされている。角度Cは、重力によって洗浄液を第2部分102aから第1部分102bへ移動させることができる角度であればよい。
【0098】
[ステップS5(工程(b))]
続いて、試料分析用基板100を回転させる。
図10Aおよび
図10Bに示すように、回転による遠心力が第1部分102bおよび第2部分102aの側部102aaにある洗浄液に働く。遠心力は、回転軸101から遠ざかるように洗浄液に働く。このため、
図10Cに示すように、第1部分102bに位置する洗浄液は、連結部分102cを通って第2部分102aの側部102aaへ移動する。第2部分102aの側部102aaにある洗浄液は、より回転軸から離れて位置する底部102abへ移動する。その結果、回転軸101と、壁部分100fの回転軸101に最も近い点100eとを結ぶ線分を半径とする円弧caと、第1部分102bの洗浄液の液面とが一致するように、第1部分102bに保持されていた洗浄液のうち、余分な量が第2部分102aへ戻される。これによって、第1部分102bにおいて洗浄液の所定量が量り取られる。量り取られた洗浄液は、回転による遠心力によって、
図10Dに示すように第1流路110を介して第2チャンバー103へ移送される。
【0099】
[ステップS6(工程(e))]
洗浄液が第2チャンバー103へ移動したら、例えば、
図11に示すように、角度D(第3の角度)で試料分析用基板100の回転を停止させる。これにより、第2チャンバー103に捕捉されていた磁性粒子311が洗浄液で洗浄される。また、第2チャンバー103の洗浄液の一部が毛細管現象によって第2流路111に移動する。
【0100】
[ステップS7(工程(f))]
試料分析用基板100を回転させる。回転にともない遠心力が発生し、第2チャンバー103内の洗浄液が第2流路111を通って第3チャンバー104へ移送される。遠心力および磁石106の吸引力の和によって、磁性粒子311は側面103bに強く押し付けられ、捕捉される。このため、
図12に示すように、洗浄液のみが第2流路111から排出され、磁性粒子311は第2チャンバー103にとどまる。
【0101】
一方、第1チャンバー102中の洗浄液は、遠心力により、概ね第2部分102aで保持された状態に保たれる。したがって、第1チャンバー102中の洗浄液から第2チャンバー103への移送は実質的に生じない。
【0102】
[ステップS8(工程(c))]
実質的に、ステップS4と同じである。
図13に示すように、試料分析用基板100を角度E(第2の角度)で停止させる。これにより、第1チャンバー102の第1部分102bが第2部分102aよりも重力方向において下に位置し、第2部分102aの洗浄液の一部が第1チャンバー102内において重力によって移し、第1部分102bの少なくとも一部を満たす。第1部分102bを確実に洗浄液で満たすよう、角度Eを中心として、時計回りおよび反時計回りに数度程度回転させる、つまり揺動させてもよい。これにより例えば、第1部分102bおよび第2部分102aの側部102aa一部が洗浄液で満たされる。第1部分102bが洗浄液で満たされると、第1流路110は、毛細管現象により、洗浄液を引き込む。すなわち、第1流路110は、毛細管現象によって、洗浄液で満たされている。角度Eは、重力によって洗浄液を第2部分102aから第1部分102bへ移動させることができる角度であればよい。角度Eは、角度Cとおなじであってもよい。第1チャンバー102において保持している洗浄液がステップS4のときより少なくなっているため、角度Aを基準として角度Cより大きな角度で停止させてもよい。
【0103】
[ステップS9(工程(d))]
続いて、試料分析用基板100を回転させる。ステップS5で説明したように、回転による遠心力が第1部分102bおよび第2部分102aの側部102aaにある洗浄液に働く。このため、第1部分102bに位置する洗浄液は、連結部分102cを通って第2部分102aの側部102aaへ移動する。第2部分102aの側部102aaにある洗浄液は、より回転軸から離れて位置する底部102abへ移動する。その結果、第1部分102bに保持されていた洗浄液のうち、余分な量が第2部分102aへ戻される。これによって、第1部分102bにおいて洗浄液の所定量が量り取られる。また、第1部分102bに保持された洗浄液のうち、余分な量は第2部分102aへ戻される。量り取られた洗浄液は、回転による遠心力によって、
図10Dに示すように、第1流路110を介して第2チャンバー103へ移送される。とともに、概ね所定量が量り取られた洗浄液は、第1流路110を介して第2チャンバー103へ移送される。
【0104】
[ステップS10(工程(g))]
洗浄液が第2チャンバー103へ移動したら、例えば、
図14に示すように、角度F(第4の角度)で試料分析用基板100の回転を停止させる。これにより、第2チャンバー103に捕捉されていた磁性粒子311が再度洗浄液で洗浄される。また、第2チャンバー103の洗浄液の一部が毛細管現象によって第2流路111に移動する。
【0105】
[ステップS11(工程(h))]
試料分析用基板100を回転させる。回転にともない遠心力が発生し、第2チャンバー103内の洗浄液が第2流路111を通って第3チャンバー104へ移送される。遠心力および磁石106の吸引力の和によって、磁性粒子311は側面103bに強く押し付けられ、捕捉される。このため、
図15に示すように、洗浄液のみが第2流路111から排出され、磁性粒子311は第2チャンバー103にとどまる。
【0106】
この時、第1チャンバー102の第1部分102bの底部102abに位置していた洗浄液は、遠心力によって底部102abの回転軸101から遠くに位置する側面側に押し付けられるため、洗浄液は、実質的に第1部分102b内にとどまっている。
【0107】
[ステップS12]
図16に示すように、洗浄液が第3チャンバー104へすべて移動した後、例えば、角度Gで試料分析用基板100の回転を停止させる。角度Gは、第1チャンバー102に残っている洗浄液が重力によって、第5流路115を通って第2貯蔵チャンバー109へ移動し得る角度が選択される。
【0108】
以上の工程によって、B/F分離、具体的には、磁性粒子311と種々の未反応物とが分離される。
【0109】
その後、光学測定ユニット207を用いて、磁性粒子311に含まれる複合体310に結合した標識抗体308の標識物質307に応じた色素、発光、蛍光等のシグナルを検出する。これにより、抗原306の検出、抗原306の濃度の定量等を行うことができる。
【0110】
このように本実施形態の試料分析用基板、試料分析装置及び試料分析システムによれば、同じチャンバーに、液体を複数回に分けて、導入することができる。このため、試料分析用基板を用いてB/F分離をする場合、十分な洗浄を行うことができる。また、この動作は、試料分析用基板の回転および停止の制御と、停止時の角度の制御によって、実現し得る。このため、大型の分析機器を用いたり、操作者が手動で操作することなく、B/F分離を含む複雑な反応ステップを介して検体中の成分の分析が行われる分析法に好適に適用可能である。
【0111】
なお、上記実施形態では、B/F分離の洗浄の例を説明したが、本実施形態の試料分析用基板、試料分析装置及び試料分析システムは、洗浄液以外の溶液を、上述したように複数回に分けて同じチャンバーへ導入する種々の試料分析方法へ適用可能である。また、上記実施形態では、液体のチャンバーへの導入を続けて行っているが、試料分析用基板の回転および停止の制御と、停止時の角度の制御を適切に行うことにより、間に他の工程を含めることも可能である。
【0112】
また、上記実施形態では2回洗浄を行っているが、必要に応じて3回以上行ってもよい。
【0113】
また、上記実施形態では、磁性粒子を用いて試料の分析を行う例を説明したが、本開示の試料分析用基板、試料分析装置、試料分析システムおよび試料分析システム用プログラムは、磁性粒子を用いた試料の分析に限られない。例えば、1次抗体が固定化される対象は、磁性粒子ではなく、チャンバー内の壁面であってもよい。
【0114】
具体的には、チャンバーがポリスチレンやポリカーボネートといった素材で構成されている場合、チャンバー内の壁面に物理吸着により1次抗体を固定させることができる。このため、チャンバー内で抗原や標識抗体とのサンドイッチ型の結合反応を行わせることができる。また、チャンバー内の壁面に1次抗体と結合可能な官能基(例えば、アミノ基やカルボキシル基)を有し、化学結合により1次抗体を固定化させることができる。これにより、チャンバー内で抗原や標識抗体とのサンドイッチ型の結合反応を行わせることができる。また、チャンバー内の壁面に金属基板を設け、SAMを用いて1次抗体を金属基板に結合させることにより、1次抗体を固定させることができる。これにより、チャンバー内で抗原や標識抗体とのサンドイッチ型の結合反応を行わせることができる。
【0115】
一次抗体をチャンバーの壁面に物理吸着や化学結合で固定させる形態は、例えば、色素、化学発光または蛍光のシグナルを検出する測定系に使用することができる。一方、一次抗体を金属基板に固定させる形態は、シグナルとして、主に電気化学的シグナル(例えば、電流)、電気化学発光のシグナルを検出する測定系に使用することができる。
【0116】
これらの場合、
図3に示した磁石106は不要である。また、複合体310形成の反応場は反応チャンバー107ではなく、第3チャンバー104である。したがって、一次抗体は、第3チャンバー104の壁面に固定される。また、本開示の試料分析用基板、試料分析装置、試料分析システムおよび試料分析システム用プログラムは、非競合法(サンドイッチイムノアッセイ法)だけでなく、競合法、ハイブリダイゼーションによる遺伝子検出法にも適用可能である。