(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6588991
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】インゴットを製造する装置及び方法
(51)【国際特許分類】
B22D 9/00 20060101AFI20191001BHJP
B22D 21/00 20060101ALI20191001BHJP
B22D 21/02 20060101ALI20191001BHJP
B22D 23/00 20060101ALI20191001BHJP
B22D 5/02 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
B22D9/00 A
B22D21/00 C
B22D21/02
B22D23/00 C
B22D5/02 C
【請求項の数】16
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-558445(P2017-558445)
(86)(22)【出願日】2016年5月9日
(65)【公表番号】特表2018-514391(P2018-514391A)
(43)【公表日】2018年6月7日
(86)【国際出願番号】EP2016060330
(87)【国際公開番号】WO2016180777
(87)【国際公開日】20161117
【審査請求日】2017年12月28日
(31)【優先権主張番号】102015107258.0
(32)【優先日】2015年5月8日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】507332907
【氏名又は名称】アー エル デー ヴァキューム テクノロジーズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ALD Vacuum Technologies GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】特許業務法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アルノー ニーブリング
(72)【発明者】
【氏名】ヨッヘン フリンシュパッハ
【審査官】
藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2014−516316(JP,A)
【文献】
特開2014−172093(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/090313(WO,A1)
【文献】
実開昭49−075908(JP,U)
【文献】
実開昭63−184663(JP,U)
【文献】
韓国公開特許第10−2016−0092619(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 1/00−5/04
B22D 21/00−23/06
B22D 25/00−25/08
B22D 7/00−9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属又は金属合金からインゴット(16)を製造する装置であって、
a.少なくとも1つの溶融装置と、
b.少なくとも1つの永久鋳型(21)と、
c.前記永久鋳型(21)の下部に少なくとも部分的に配置された、少なくとも1つの気密なインゴットチャンバ(10)とを備え、
d.前記インゴットチャンバ(10)内には、それぞれが少なくとも1つの前記インゴット(16)を受けるのに適する複数のインゴット保持部(11)が配置されており、
e.前記インゴット保持部(11)は、インゴットチャンバ(10)内で水平方向に移動可能であり、その結果、
i.一の前記インゴット保持部(11)が、前記インゴット(16)を受けるために前記永久鋳型(21)の下部の溶融位置に移動し、
ii.他の前記インゴット保持部(11)のために、前記溶融位置を空けるために、他の位置に移動でき、
f.前記永久鋳型(21)は、前記溶融装置から溶融した前記金属又は前記金属合金が供給されるように配置されている
装置。
【請求項2】
前記インゴット保持部(11)は、移動可能な板(15)に配置されている
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記移動可能な板(15)は、回転可能である
請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記永久鋳型(21)によって成型された前記インゴット(16)と着脱可能に接続し、前記インゴット(16)を前記溶融位置の前記インゴット保持部(11)へガイドすることに適する少なくとも1つの第1リフト装置(40)を備える
請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記インゴットチャンバ(10)の上部に少なくとも部分的に配置され、気密できる方法で、閉じることができる前記インゴットチャンバへの開口を有する、少なくとも1つの取り出しチャンバ(30)を備える
請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記インゴット(16)を、前記インゴットチャンバ(10)内で前記インゴット保持部(11)から前記取り出しチャンバ(30)の取り出し点へ持ち上げる少なくとも1つの第2リフト装置(40)を備える
請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記溶融装置は、好ましくは、プラズマトーチ及び/又は電子ビーム銃から選択される少なくとも1つの加熱部を備える
請求項1〜6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記インゴット保持部は、略垂直な回転軸に対して動作可能である
請求項1〜7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
少なくとも4つの前記インゴット保持部を備える
請求項1〜8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
金属又は金属合金からインゴット(16)を製造する方法であって、
a.前記金属又は前記金属合金を溶融するステップと、
b.永久鋳型(21)によって溶融物から前記インゴット(16)を鋳造するステップと、
c.前記永久鋳型(21)から気密なインゴットチャンバ(10)内のインゴット保持部(11)に、前記インゴット保持部(11)が溶融位置にある間に、前記インゴット(16)を下降するステップと、
d.前記インゴット保持部(11)をインゴットチャンバ(10)内で水平方向に移動し、その結果、前記インゴット(16)を保持している前記インゴット保持部(11)が、前記インゴットを保持していない他の前記インゴット保持部(11)のために、前記溶融位置を空けるステップと、
e.前記インゴット保持部(11)内で前記インゴットを冷却するステップと、
f.前記インゴットを保持している前記インゴット保持部(11)を、インゴットチャンバ(10)内の取り出し位置に移動させるステップと、
g.前記取り出し位置で、前記インゴットチャンバ(10)から前記インゴット(16)を取り出すステップと
を有する方法。
【請求項11】
前記金属又は前記金属合金は、Ni、Ti、V、Nb、Ta、Zr、Hf、及び、これらの金属を少なくとも1つ含む合金から選択される
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記合金がTiAl又はTiAlを含む合金である
請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記方法は、不活性ガス雰囲気中又は真空中で行われる
請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記不活性ガスは、ヘリウムである
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記インゴットチャンバ内が前記不活性ガス雰囲気中又は前記真空中である
請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記インゴットは、前記取り出し時、500℃よりも高くない温度である
請求項10〜15のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属又は金属合金からインゴットを製造する装置及び方法に関する。特に、方法は、連続鋳造法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、金属又は金属合金からインゴットを製造する方法及び装置に関する。この方法及び装置は、連続鋳造で、ニッケル、チタン、バナジウム、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、又は、これらの金属を1つ以上含む合金からインゴットを製造することに特に適している。装置は、複数の鋳造されたインゴットを受け入れ、内部でインゴットを冷却させるのに適したインゴットチャンバを有する。この目的のために、インゴットは、インゴット保持部上で水平方向に動作可能な方法でインゴットチャンバ内に配置される。
【0003】
インゴットを製造する装置は、数多くの実施形態に示された先行技術から知られている。よく知られた連続鋳造法では、インゴットは、一般に、永久鋳型を用いて鋳造され、その後、冷却される。反応性の高い金属や金属合金の場合、インゴットは、鋳造直後から空気に触れさせてはならない。空気に触れさせると、酸化物や、他の空気中の物質との反応物が形成され、このために製品の品質が低下する。このことは、特にチタンやチタン合金でみられる。それ故に、操業は不活性ガス雰囲気中又は真空中で行われる。
【0004】
従来は、連続鋳造の生産性がこのような事実により制限されており、他のインゴットを鋳造する前に、空気中の物質と反応することなく第1インゴットを取り出すために、第1インゴットが十分に冷却されるまで待つ必要があった。インゴットを鋳造するための処理時間が、一般的に、30分から90分程度と比較的短い場合は、冷却時間は特に重要である。
GB 720,205 Aは、連続鋳造法により鉄からインゴット製造する方法に関する。気密なインゴットチャンバは開示されていない。
【0005】
この問題を解決するための様々な方法が提案されている。例えば、DE 10 2014 100 976 A1は、インゴットを製造するための連続鋳造装置及び疑似連続法を開示するが、これは、多くの不利な点がある。この文献に開示されている装置は、複数のローラ(参照符号60、70)に鋳造したインゴットをガイドする必要がある。さらに、切断装置にインゴットを固定するために、インゴットが、クランプ装置(55A、55B)によってクランプされる。これらのすべては、装置全体を複雑にし、ローラやクランプ装置がインゴット表面に接触することにより、インゴットの表面の品質を低下させる。さらに装置で使用される切断装置は、処理の円滑な進行を妨げるような、チップや金属廃棄物を生じさせる。特に、空気中から分離するための気密な追加チャンバが必要であることは、装置のコストを増大させる。DE 10 2014 100 976 A1は、鋳造処理を停止することが、インゴットの冷却によってではなく、鋳造したインゴットと後続のインゴットとの分離、及び、取り出しチャン
バのガス交換時間によって決まる装置を明らかに開示する。しかし、このようなスループットの増加は、固有の問題を伴う複雑な装置設計の上に成り立つ。
【0006】
DE 1 558 248 Aは、金属の連続鋳造中にカットした鋳造ブロックを搬送する装置を開示する。得られた鋳造ブロックは、冷却後に、台車に乗せられて搬送される。特に、開示されている装置は複数のインゴット保持部を備えるインゴットチャンバを有さない。
【0007】
金属又は金属合金からインゴットを製造するときのスループットを増大させる他のアプローチは、WO 2012/138456 A1に開示されている。そこには、1つ以上の鋳型内で溶融物が鋳造される1つの装置のデザインが開示されている。これは、1つの溶融位置で2つのインゴット鋳型の使用を可能にする。1つのインゴットが第1鋳型で冷却されている間に、第2鋳型が既にモールディングプロセス中であることを可能にする。しかし、このようなシステムは、安全に取り出すために第1インゴットを十分に冷却するためには、第2インゴットの鋳造時間が十分ではないという不利な点を伴う。同様にUS 2004/0056394 A1は、2つの鋳造ストランドを備える装置を開示している。この装置は、複数のインゴットを受け入れるのに適したインゴットチャンバを備えていない。
【0008】
複数の溶融位置での並列操業も先行技術で提案されている。しかし、少なくともプラズマシステムの場合、このことは、プラズマトーチが、その比較的遅い動作のために、同時に複数の溶融位置を溶融状態に保つことができないので、相応に多数の加熱装置を必要とすることと関連する。さらに、多くの方法では、処理チャンバ内に空気が流入してしまう取り出しステップがあると考えられる。結果として、次の製造ステップの前に、再び真空状態にするか、又は、不活性ガスで空気を流出させる必要があり、処理を不経済なものにする。
【0009】
金属又は金属合金からインゴットを製造する装置が可能な限り単純な構成であることは、一般的に、有利な点であり、結果として、メンテナンスも容易である。特に、チャンバ内の設備の可動部品を少なくするべきである。交換や修理のために、操業は中断されなければならず、多くの場合、修理は特に厳しい安全条件下でのみ可能である。単純な構造は、真空に引かなければならない体積や不活性ガスが充填される体積を増大させず、このことはコストを低減できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それ故に、本発明の目的は、生産性を増大させ、同時に、設備の複雑さを過度に増加させないことに適する金属又は金属合金からインゴットを製造する装置及び方法を実現することである。さらに、製造されたインゴットは、先行技術に基づいて製造されたインゴットに比べて、少なくとも同等以上の品質である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
目的は、特許クレームの主題によって達成される。本発明による装置は、金属又は金属合金からインゴットを製造する装置であって、少なくとも1つの溶融装置と、少なくとも1つの永久鋳型と、前記永久鋳型の下部に少なくとも部分的に配置された、少なくとも1つのインゴットチャンバとを備え、前記インゴットチャンバは、それぞれが少なくとも1つの前記インゴットを受けるのに適する複数のインゴット保持部を備え、前記インゴット保持部は、水平方向に、特に、略垂直方向の回転軸に対して動作可能であり、その結果、1の前記インゴット保持部が、前記インゴットを受けるために前記永久鋳型の下部の溶融位置に移動し、その後、他の前記インゴット保持部のために、前記溶融位置を空けるために、他の位置に移動でき、前記永久鋳型は、前記溶融装置から溶融した前記金属又は前記金属合金が供給されるように配置されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】インゴットチャンバ、溶融チャンバ、取り出しチャンバ、及び、2つのリフト装置を備える本発明による装置の一部を示す。
【
図3】永久鋳型内のスターターブロックが通る領域の断面を示している。
【
図4】インゴットチャンバの下部領域の断面を示している。
【
図5】
図4と同じ領域の異なる断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明による装置は、第1インゴットの冷却を待つ必要なく、第2インゴットの鋳造処理をできるように、鋳造したインゴットを永久鋳型下部の領域から素早く移動させることを可能にする。この目的のために、1つのインゴットを配置できるインゴット保持部は可動できるようにデザインされている。インゴット保持部の可動性は、好ましくは、インゴット保持部を可動板内に又は可動板上に配置することで達成される。特に、板は、例えば、インゴット保持部を載置されたターンテーブルのように、回転可能である。回転板は、円形に設計されるのが好適である。インゴット保持部は、回転軸の周りにリング状に配置されるのが有利である。
【0014】
1つのインゴットのみをそれぞれ保持し、インゴットの下部領域、特に、インゴットを製造するためのスターターブロックを保持するようにインゴット保持部を設計することは有利である。その結果、インゴットは、インゴットチャンバ内で、覆われていない部分が多く残るので、インゴットが比較的早く冷却される。先行技術のいくつかでは、その中でインゴットが鋳造されるインゴット鋳型が用意される。この鋳型は、冷却剤によって冷却される。また、この鋳型は、冷却の妨げともなる。保守の費用を低減し、装置の複雑さを最小にし、冷却の妨げとならないようにするために、本発明の装置には、そのような鋳型を設けないのが好ましい。他の実施形態では、鋳造したインゴットを少なくとも部分的に囲むのに適した壁部を有するインゴット保持部を提供してもよい。この壁部は、冷却を加速させるか、又は、冷却を遅延させるかによって、冷却設計とすることもできるし、加熱設計とすることもできる。抵抗加熱器は、加熱部として好ましい。装置としては、特に、高さと直径がインゴットに合った管体を用いて実現してもよい。このような改良インゴット保持部の壁部を加熱することは、急速な冷却によってインゴットにひび割れが生じる恐れがある場合に、有利である。
【0015】
インゴット保持部は、特に円筒形状や円錐形状などの種々なホルダであってもよいが、例えば、管体である。ホルダ又は管体は、ガイド溝やガイド凸部などを設けて実装されてもよく、ガイド溝やガイド凸部を設けずに実装されてもよい。さらに、インゴット保持部の他の例は、長方形状のホルダ又はインゴットの周囲に設けられた複数のロッドである。鋳造されたインゴットは、固定されるようにインゴット保持部に配置される。インゴット保持部に配置された後は、インゴットに対しては、インゴット保持部から再度上方に持ち上げることのみ可能であるのが理想的である。この目的のために、インゴット保持部又は保持部は、例えば、円錐形状や円筒形状をしていてもよい(管体に設計されていてもよい)。円筒形状に設計されている場合、鋳造されたインゴットは、下端部に、特に、スターターブロックに、インゴットの他の部分よりも小径の部分を有しているのが好ましい。この保持部の設計は、精密にあらかじめ決められた位置にインゴットを固定し、特別に意図された方法で、例えば、ここでいうリフト装置を使用して、インゴットを取り扱うことを確実にする。
【0016】
本発明の装置は、好ましくは、特に、インゴットチャンバの上方に少なくとも部分的に配置されている、少なくとも1つの取り出しチャンバを備えている。取り出しチャンバは、好ましくは、気密に設計されている。特に、インゴットチャンバに向く、1つの開口を有する。開口は、好ましくは、特に、ロック機構やバルブで、インゴットチャンバに対して、気密に閉じることができるように設計される。開口はインゴットチャンバからインゴットを取り出す目的のために形成されている。開口時に、取り出しチャンバは、好ましくは、インゴットチャンバと同様に、不活性ガスで満たされるか真空に引かれる。インゴットは、開口を通って、取り出しチャンバ内で取り出し点へ移動され、そこに固定される。挿入されたリフト装置が収縮され、インゴットチャンバへつながる開口は再び閉じられる。インゴットのみが、例えばクレーンによって、取り出しチャンバから取り出されてもよい。ある実施形態では、取り出されたインゴットは、取り出しチャンバのドアに位置する保持要素によって、取り出し点で保持されてもよい。ドアは、例えば、クレーンによってインゴットを取り出せるように、外側に向かって開くようにしてもよい。
【0017】
本発明による装置は、好ましくは、永久鋳型によって成型されたインゴットへの着脱可能な接続を提供するのに適し、溶融位置で、インゴット保持部内に鋳造されたばかりのインゴットを、特に下方に、ガイドするのに適する少なくとも1つのリフト装置を有するのが好ましい。特に、着脱可能な接続は、クランプによる接続である。しかし、例えば、ねじ込みやプラグインのような接続もまた考えられる。
【0018】
本発明による装置は、さらに好ましくは、インゴットチャンバ内の取り出し位置にあるインゴット保持部から、インゴットを、特に持ち上げるようにして、取り出しチャンバ内の取り出し点に移動させるのに適する少なくとも1つの第2リフト装置を有している。この目的のために、第2リフト装置は、好ましくは、インゴットを取り外すために、インゴットとの着脱可能な接続ができるように設計される。着脱可能な接続は、好ましくは、第1のリフト装置と同タイプの接続、特に、クランプによる接続である。特に、取り出し位置は、インゴットチャンバ内で、取り出しチャンバの直下の位置であり、特に、取り出しチャンバの開口の直下である。
【0019】
結果として、本発明による装置は、特に、第1リフト装置によって、インゴット保持部に保持された状態で溶融位置に配置されることができるように、インゴットを鋳造することに適し、鋳造されたインゴットが移動可能なインゴット保持部に配置されることとなる。移動可能なインゴット保持部は、永久鋳型下部の領域から移動され、他のインゴットが鋳造されることができる。この時点では、最初に鋳造されたインゴットは、いまだインゴットチャンバ内にあることが好ましい。続いて鋳造されたインゴットは、このとき、溶融位置にある空のインゴット保持部に降ろされる。このようにして、複数のインゴットを継続的に製造することができ、それぞれが、後続する空のインゴット保持部に配置されることができる。
【0020】
どのくらいの大きさの設備を作るか又はどのくらいの時間が冷却に必要であるかによるが、インゴットチャンバ内に提供されるインゴット保持部の数は、適宜選定可能である。このように設計されたインゴットチャンバは、ガイドローラやそれと同様のものを必要としない点が、特に有利である。インゴットは、インゴット保持部により1つずつ保持されるのが好ましい。他の要素と接触することによるインゴット表面の品質の低下は効果的に回避される。さらに、インゴットチャンバ内に鉛直に配置されたインゴットは、比較的均一に冷却されることができる。
【0021】
本発明の装置の好ましい実施形態は、少なくとも4個のインゴット保持部を備え、さらに好ましくは、少なくとも6個のインゴット保持部を備え、より好ましくは、少なくとも8個のインゴット保持部を備え、さらに好ましくは、12個又16個のインゴット保持部を備える。所定時間毎に、1つのインゴット保持部が、精密に、溶融位置にあり、1つのインゴット保持部が、精密に、取り出し位置にあるのが好ましい。8つのインゴット保持部を備えている場合、4つのインゴットの鋳造が完了している処理のある時点では、例えば、1つのインゴット保持部が、精密に、溶融位置にあり、1つのインゴット保持部が、精密に、取り出し位置にあり、3つの冷却されたインゴットが、それぞれインゴット保持部に保持されて、溶融位置から取り出し位置への移動に際して通る場所の間にあるのが好ましい。取り出し位置から溶融位置への移動に際して通る場所の間には、インゴットを保持せず、場合によっては、スターターブロックを保持する3つのインゴット保持部がある。
【0022】
インゴット保持部内のインゴットが、インゴットチャンバ内で、インゴット保持部の移動により取り出し位置に到達するとすぐに、このインゴットは、好ましくは第2リフト装置によって、インゴット保持部から取り出しチャンバの取り出し位置に上昇させられる。他の手法により取り出す場合と比較すると、取り出し位置でインゴット保持部からインゴットを取り出すためにインゴットを上昇させることは、インゴット保持部を単純な設計にするのに有利である。例えば、インゴット保持部は、簡便な円錐形状に設計されてもよく、管状体として設計されてもよい。それ故に、インゴット保持部内のインゴットが、1つの方向、すなわち、上方にのみ移動できることを容易に実現できる。
【0023】
本発明による装置は、少なくとも1つの加熱部を有する溶融装置である。好ましい加熱部は、プラズマトーチ、及び/又は、電子ビーム銃から選択される。溶融装置は、溶融チャンバ内に配置される。溶融チャンバは、好ましくは、少なくとも1つの加熱部と、少なくとも1つの永久鋳型とを有する溶融装置を備える。金属又は金属合金からインゴットを製造する装置の生産性を向上させる他の試みと比較して、本発明の装置は、生産性を向上させるために複数の永久鋳型を用意する必要が全くないという点で際立っている。そうではあるが、本発明は、1つ以上の永久鋳型を有する、特に2つ、3つ、4つ、又は、それ以上の永久鋳型を有する実施形態も含む。1つ以上の永久鋳型を有する装置は、さらに加熱部を有する必要がある。
【0024】
本発明によれば、溶融チャンバは、好ましくは、少なくとも部分的に、インゴットチャンバの上方に配置される。そのため、鋳造されたインゴットが比較的直接にインゴットチャンバ内に移動される。
【0025】
本発明による装置は、空気を排除しながら製造しなければならないインゴットを製造するのに適している。これは、特に、チタンやチタン合金のような反応金属や反応金属の合金に適する。好ましい金属は、Ni、Ti、V、Nb、Ta、Zr、Hf、及び、これらの金属を少なくとも1つ含む合金である。特に好ましい合金は、チタンアルミナイド(TiAl)である。結果として、インゴットチャンバは、好ましくは、気密な設計である。好ましくは、取り出しチャンバ及び/又は溶融チャンバについても同様である。プロセスを促進するために、インゴットチャンバは、冷却剤により冷却される壁部を有していてもよい。
【0026】
本発明の装置及び方法によって得られるインゴットは、断面形状が、好ましくは、円形に近い形状をしており、特に好ましくは、円形状である。しかし、断面形状は、長方形状、特に正方形状、又は四角形より角の多い多角形状をしていてもよい。しかし、他の形状も考えられ、本発明に含まれる。当業者には、インゴットの基本形状は、本発明の操業の形態によってきまるものではないことは明らかである。さらには、従来技術によって、インゴット保持部をインゴットの形状に合わせることができる。
【0027】
本発明のインゴット保持部は、好ましくは、精密に、それぞれ1つずつインゴットを受けるのに適している。インゴット保持部を作り、通常の手順を可能な限り効率的に行うために、インゴットを製造するためのスターターブロックを使うことが有利であることは明らかである。スターターブロックは、好ましくは、溶融の開始前に、インゴット保持部に配置される。
【0028】
スターターブロックは、好ましくは、インゴット保持部の位置で、鋳造されたインゴット本体を保持するために必要ないくつかの手段からなる。特に、スターターブロックは、その形状に関して、インゴットをインゴット保持部に固定できるように設計されている。インゴットは、好ましくは、インゴット保持部で、スターターブロックのみによって保持される。
【0029】
スターターブロックは、好ましくは、少なくとも部分的に、より好ましくは、完全に、インゴット本体と同じ材料で作製されている。スターターブロックが一部のみインゴット本体と同じ材料で構成されている場合、このことは、好ましくは、鋳造中に溶融物と接触する領域に、少なくとも、適用される。スターターブロックとインゴット本体とは、好ましくは、インゴットを形成する。スターターブロックは、好ましくは、第1インゴットの鋳造前でさえ、溶融位置に位置するインゴット保持部に配置されている。スターターブロックは、その後、第1インゴットを鋳造するために永久鋳型内に上昇され、スターターブロック上に、溶融物を鋳造することによってインゴット本体を形成できる。一旦、インゴット本体が完全に鋳造されると、インゴット本体と共にスターターブロックは、溶融位置のインゴット保持部に下降され、その結果、インゴット本体の上端が永久鋳型から解放され、鋳造スタンドが分離される。スターターブロックはインゴット本体と接続されたままである。スターターブロックはインゴットと共に取り出しチャンバ内に搬送される。スターターブロックは、好ましくは、インゴットが取り外された後、インゴット本体からそれだけが分離され、再利用されてもよい。スターターブロックは、好ましくは、インゴット本体と同じ金属又は同じ金属合金で構成される。
【0030】
取り出しチャンバでは、処理が終わったインゴットとしてインゴット本体と共に取り外されたスターターブロックが、他のスターターブロックによって置き換えられてもよい。新しいスターターブロックは、その後、好ましくは、取り出しチャンバから、特に、第2リフト装置によってインゴットチャンバ内の取り出し位置にある空のインゴット保持部に、下降され、他のインゴット本体の製造に使用可能な状態となる。
【0031】
取り出しチャンバがあることで、インゴットを取り出すために、インゴットチャンバに空気を流し込む必要がない点で有利である。それどころか、取り出しチャンバがインゴットを取り出すためのロックとして機能するので、溶融処理を継続することができる。
【0032】
スターターブロックを使用することには、様々な有利な点がある。例えば、スターターブロックは、好ましくは、リフト装置への着脱可能な接続を提供するのに適する固定要素、特に、クランプ要素をすでに含んでいる。さらには、スターターブロックは、インゴットチャンバのインゴット保持部に精密にフィットするような特別な形状に、事前に形成されていてもよい。装置から処理が終了したインゴットを取り出した後は、スターターブロックがインゴット本体から分離されて再利用されてもよい。
【0033】
説明した通り、各インゴットは、好ましくは、インゴット本体とスターターブロックを有する。さらに、スターターブロックは、好ましくは、少なくとも1つの固定要素を有する。固定要素があることによって、スターターブロックは、好ましくは、1つ以上のリフト装置に着脱可能に接続されてもよい。この目的のために、1つ以上のリフト装置が、好ましくは、リフト装置とインゴット、特にスターターブロックの固定要素との間の着脱可能な接続、を提供するのに適する。1つ以上の固定ユニットを有していてもよい。リフト装置の固定ユニット及びスターターブロックの固定要素は、好ましくは、クランプによる着脱可能な接続を提供するのに適する。ここではスタブクランプが好ましい。
【0034】
第1リフト装置は、好ましくは、特に、例えば、ロッドや管体のような、インゴットチャンバの高さよりも長いガイドを少なくとも1つ有している。ガイドは、スターターブロック上にインゴットを形成する永久鋳型に、インゴット保持部にあるスターターブロックを上昇させるように、溶融位置にあるインゴット保持部の下部から動かされる。この目的のために、固定ユニットは、好ましくは、ガイドの上端に配置される。
【0035】
リフト装置は、好ましくは、スターターブロック上に形成されたインゴット本体をインゴット保持部内に下降するのに適し、永久鋳型の直下に位置する。一旦、インゴットが、溶融位置にあるインゴット保持部に下降されると、リフト装置又はガイドとの間の着脱可能な接続が解放され、ガイドは、好ましくは、インゴット保持部が移動できるように、十分に下降される。
【0036】
取り出し位置での動作も同様である。最初に、好ましくは、リフト装置、特に、ガイドと、インゴットとの間で着脱可能な接続がなされる。インゴットは、好ましくは、インゴット保持部から取り出しチャンバに上昇される。そこで、インゴットは、好ましくは、着脱可能な接続を解放できるように、固定される。ガイドは取り出しチャンバとインゴットチャンバとの間の開口を塞ぐように下降される。
【0037】
特に、上記の装置を用いて行う、本発明の金属又は金属合金からインゴットを製造する方法は、下記のステップを有する。
・金属又は金属合金を溶融するステップ
・永久鋳型によって溶融物からインゴットを鋳造するステップ
・インゴット保持部が溶融位置にある間に、永久鋳型からインゴットチャンバ内のインゴット保持部にインゴットを下降するステップ
・インゴット保持部を移動し、その結果、インゴットを保持しているインゴット保持部が、インゴットを保持していない他のインゴット保持部のために、溶融位置を空けるステップ
・後続のインゴットが鋳造されている間に、インゴット保持部内でインゴットを冷却するステップ
・インゴットを保持しているインゴット保持部を、インゴットチャンバ内の取り出し位置に移動させるステップ
・取り出し位置で、インゴットチャンバからインゴットを取り出しステップ
【0038】
取り出し位置にあるインゴット保持部からのインゴットの移動を、取り出しチャンバ内にある取り出し点にインゴットを移動するように行ってもよい。取り出しチャンバとインゴットチャンバとの間には、取り出しチャンバからインゴットを取り出す時に、インゴットチャンバ内の不活性ガス雰囲気や真空度を維持することができるように、好ましくは、バルブやロックがあるのが好ましい。ロックやバルブは、インゴットチャンバからインゴットを取り出すために解放され、インゴットが、特にリフト装置により、通される。インゴットが取り出しチャンバに保持されると、リフト装置を後退できる。ロックやバルブは、再度閉じられ、インゴットチャンバ内の不活性ガス雰囲気の状態や真空度の低下を招くことなく、インゴットを取り出しチャンバから取り出すことができる。
【0039】
他の実施形態としては、取り出されるインゴットは、インゴットチャンバのバルブや他の最適な開閉機構を通して取り出されてもよい。このような場合、まず、取り出す前に、インゴットチャンバ内のすべてのインゴット保持部がインゴットを保持することは有利な点である。取り出すことは、事前の空気の排出及び/又は流出を含む。
【0040】
ここで、インゴット保持部の動作について言及する。ここでは、特に水平方向の動作、好ましくは、垂直な軸に対する回転動作に言及する。
【0041】
本発明によって処理される金属又は金属合金は、好ましくは、Ni、Ti、V、Nb、Ta、Zr、Hf、及び、これらの金属を少なくとも1つ含む合金から選択される。方法は、特に不活性ガス雰囲気中又は真空中で実行される。このことは、特に、インゴットチャンバ内の雰囲気に適用される。ここで「真空」とは、400Pa、好ましくは、250Pa、特に好ましくは、100Paを超えない圧力を言う。不活性ガスを使用する場合であっても、操業を大気圧で行う必要はない。むしろ、圧力は、好ましくは500〜1100kPa、より好ましくは、1000kPa以下、特に好ましくは、800kPa以下である。好ましい不活性ガスは、ヘリウムである。
【0042】
本発明の方法及び装置で製造されたインゴットの長さは、好ましくは、少なくとも1m、より好ましくは1.5m、特に好ましくは2mである。長さは、取り扱いやすさの理由から、好ましくは5m、さらに好ましくは4m、特に好ましくは、3mを超えるべきではない。インゴットは、直径が、好ましくは、少なくとも50mm、より好ましくは、少なくとも100mmである。冷却の妨げとならないように、厚さは、400mm、さらに好ましくは300mmを超えるべきではない。
【0043】
取り出し時に、インゴットは、空気中の酸素と反応する恐れがあるので、好ましくは500℃、より好ましくは400℃を超えない温度にするべきである。インゴットは、3500℃の最高温度から、好ましくは、3000℃の最高温度から、より好ましくは2500℃の最高温度から、特に好ましくは1500℃の最高温度又は1200℃の最高温度からインゴットチャンバ内で冷却される。インゴットチャンバは、少なくとも1.5m、より好ましくは、少なくとも2m、特に好ましくは、少なくとも4mの直径である。好ましい実施形態では、インゴットチャンバは、実質的に、円形状の底表面を有する円筒形状をしている。
【0044】
本明細書で提示した装置及び方法を使用することで、特に複雑に構成された装置を用いることなく、約50%の生産性の向上を達成することができる。チャンバの数及びサイズと、再充填の回数とを少なくできるので、不活性ガスの消費量を削減できる。
【0045】
溶融処理の間に、インゴットチャンバ内の処理雰囲気の状態を、好ましくは、継続的に維持するのが良い。それにより、個々の溶融物の切り替え時間を数桁減少させることができる。インゴットは、インゴットチャンバ内で冷却される。多数の(例えば、3、4、5、又は、それ以上)インゴットの鋳造が終わったときだけに、好ましくは、取り出しが行われるので、この時間は、リスクなしにインゴットを取り出すために十分である。特に溶融時間が短い場合には、従来の切り替え時間は長すぎであり、冷却時間は短すぎである。
【0046】
図1は、インゴットチャンバ10、溶融チャンバ20、取り出しチャンバ30、及び、2つのリフト装置40を備える本発明による装置の一部を示す。溶融チャンバ20は、インゴットチャンバの上方に配置されている。取り出しチャンバ30は、インゴットチャンバ10の上方に配置されている。リフト装置40は、インゴットチャンバ10の下部に配置されている。永久鋳型21は、さらに、溶融チャンバ20に配置されている。
【0047】
図2は、
図1と同じ装置の一部の断面を示している。インゴット16はインゴットチャンバ10内にあり、各インゴットは、インゴット本体14とスターターブロック12とでなる。
図2は、スターターブロック12が永久鋳型21へ上昇されている状態の装置を示している。この目的のために、第1リフト装置40は、リフト機構42がインゴットチャンバ底部17直下に位置し、ガイド43がインゴットチャンバ10を通って永久鋳型21まで伸びている状態にある。リフト機構42は、ガイドロッド44上を移動できるリフトユニットの形式である。これに対して、第2リフト装置40は、リフト機構42が最も低い位置にある状態にある。ここでは、ガイド43が、インゴット保持部の真下にある。
【0048】
図3は、永久鋳型21内のスターターブロック12が通る領域の断面を示している。スターターブロック12は、インゴット保持部(図示せず)から、リフト装置のガイド43によって永久鋳型21の溶融位置に上昇している。処理の手順では、溶融された金属又は金属合金がスターターブロック12の接触表面18に注がれる。その場所で、金属又は金属合金は、インゴット本体を形成するために固化され、ガイド43によって、スターターブロック12がインゴット保持部に到達するまで、スターターブロック12が連続的に下降する。インゴット保持部に到達する前でさえ、例えば、材料の供給や熱の供給を止めることによって、インゴット本体の形成を停止させることができる。インゴット本体が形成されたスターターブロック12をインゴット保持部に下降することを継続することは、製造されたインゴット本体14が、分離され、インゴットチャンバ10の高さよりも低い高さで得られることを確実にする。
【0049】
図4は、インゴットチャンバ10の下部領域の断面を示している。図示された構成要素の中には、スターターブロック12を有するインゴット保持部11が配置されている回転板15がある。スターターブロック12は固定要素13を有する。スターターブロック12は、下部領域の直径が、当該下部領域より上部の領域よりも小さくなっている。結果として、スターターブロック12とスターターブロック12と結合しているインゴット本体14とが、保持部、特に、管体19によって固定される。インゴットは、横方向又は下方向に移動されることができず、上方へ持ち上げられることができるのみである。固定ユニット41もまた図示されており、固定ユニット41は、それに合うスターターブロック12の固定要素13が挿入されて着脱可能な接続を提供できる。インゴットチャンバ底部17を通ってインゴット保持部11へ移動可能なガイド43が、インゴット保持部11からインゴットを持ち上げることに適することは明らかである。
【0050】
図5は、
図4と同じ領域の異なる断面を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
10 インゴットチャンバ
11 インゴット保持部
12 スターターブロック
13 固定要素
14 インゴット本体
15 回転板
16 インゴット
17 インゴットチャンバ底部
18 接触表面
19 管体
20 溶融チャンバ
21 永久鋳型
30 取り出しチャンバ
40 リフト装置
41 固定ユニット
42 リフト機構
43 ガイド
44 ガイドロッド