特許第6588997号(P6588997)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6588997安定化された転動要素を備えた振り子式ダンパ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6588997
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】安定化された転動要素を備えた振り子式ダンパ装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/14 20060101AFI20191001BHJP
   F16D 13/64 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
   F16F15/14 Z
   F16D13/64 Z
【請求項の数】15
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-3782(P2018-3782)
(22)【出願日】2018年1月12日
(62)【分割の表示】特願2015-516520(P2015-516520)の分割
【原出願日】2013年4月26日
(65)【公開番号】特開2018-91487(P2018-91487A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2018年2月9日
(31)【優先権主張番号】1255488
(32)【優先日】2012年6月12日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】503041177
【氏名又は名称】ヴァレオ アンブラヤージュ
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】ロエル、ベルオーグ
(72)【発明者】
【氏名】ティモテ、ブリオレ
【審査官】 大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第102009042812(DE,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102011101162(DE,A1)
【文献】 特開2007−239929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/14
F16D 13/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に接続されるように構成された振り子式ダンパ装置(1)であって、
支持軸といわれる軸を中心として回転移動する少なくとも1つの支持体(2)と、
少なくとも1つの転動要素(10)によって前記支持体(2)に可動式に取り付けられた少なくとも1つの第1のおもり(4)を含む少なくとも1つの振り子と、を備え、
前記装置(1)は、更に第2のおもり(6)を有しており、前記第1のおもり(4)と前記第2のおもり(6)とが、前記支持体(2)の2つの対向面に向かい合って可動式に取り付けられ、これらのおもりが、少なくとも1つの結合要素(8)を介して互いに結合され、
−前記転動要素(10)が、少なくとも1つの軸受面、いわゆる第1の安定軸受面(12)を有し、前記第1の安定軸受面(12)が、転動軸といわれる同一の軸(16)を中心として回転対称であり、
−前記第1の安定軸受面(12)は、当該第1の安定軸受面(12)に向かい合って配置されて前記支持体(2)の軸受面、いわゆる係合軸受面(14)とがり接触する、半径方向かつ周方向の2個の第1の突起(17)を有し、
−前記2個の第1の突起(17)が、それぞれ、最大直径(D、DM1)のゾーン(19)を有し、この最大直径が、前記2個の第1の突起(17)についてほぼ同じであり、
−前記2個の第1の突起(17)の最大直径のゾーン(19)の間に、前記最大直径(D、DM1)よりも小さい一定または可変直径の第1の中央環状ゾーン(18)を有し、
−前記転動要素(10)は、更に前記第1のおもりと転がり接触する第2の軸受面と、前記第2のおもり(6)と転がり接触する第3の軸受面とを有する、振り子式ダンパ装置。
【請求項2】
前記第1の突起(17)が、連続曲線を形成する軸方向の輪郭を有し、前記第1の安定軸受面(12)において、前記2個の第1の突起(17)の最大直径のゾーン(19)の各々が、前記最大直径(D、DM1)よりも小さい一定または可変直径の端部環状ゾーン(20)から前記第1の中央環状ゾーン(18)を分離している、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1の突起(17)の各々に対して、最大直径(D、DM1)の前記第1の突起の位置は、一つの円上にある、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記第1の安定軸受面(12)の最大直径(D、DM1)と、前記第1の中央環状ゾーン(18)の最小直径(D)との値の差が、1〜80マイクロメートルの範囲に含まれる、請求項1から3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記第1の中央環状ゾーン(18)以外のゾーンにおける、前記第1の安定軸受面(12)と前記係合軸受面(14)との間の半径方向の最大距離が、16〜160マイクロメートルの範囲に含まれる、請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記第2の軸受面は、前記第1のおもり(4)と転がり接触する、半径方向かつ周方向の2個の第2の突起(22)を有する第2の安定軸受面であり、
前記第2の突起(22)が、それぞれ、最大直径(DM2)のゾーンを有し、前記2個の第2の突起(22)の最大直径は、ほぼ同じであり、
前記2個の第2の突起(22)の最大直径のゾーンの間に、当該2個の第2の突起(22)の最大直径(DM2)よりも小さい一定または可変直径の第2の中央環状ゾーンを有し、
前記第3の軸受面は、前記第2のおもり(6)と転がり接触する、半径方向かつ周方向の2個の第3の突起(24)を有する第3の安定軸受面であり、
前記第3の突起(24)が、それぞれ、最大直径(DM3)のゾーンを有し、前記2個の第3の突起(24)の最大直径は、ほぼ同じであり、
前記2個の第3の突起(24)の最大直径のゾーンの間に、当該2個の第3の突起(24)の最大直径(DM3)よりも小さい一定または可変直径の第3の中央環状ゾーンを有している、請求項1から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記第2の突起(22)が、連続曲線を形成する軸方向の輪郭を有し、前記第2の安定軸受面において、前記2個の第2の突起(22)の最大直径のゾーンの各々が、前記2個の第2の突起(22)の最大直径(DM2)よりも小さい一定または可変直径の端部環状ゾーンから前記第2の中央環状ゾーンを分離しており、
前記第3の突起(24)が、連続曲線を形成する軸方向の輪郭を有し、前記第3の安定軸受面において、前記2個の第3の突起(24)の最大直径のゾーンの各々が、前記2個の第3の突起(24)の最大直径(DM3)よりも小さい一定または可変直径の端部環状ゾーンから前記第3の中央環状ゾーンを分離している、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
内燃機関に接続されるように構成された振り子式ダンパ装置(1)であって、
支持軸といわれる軸を中心として回転移動する少なくとも1つの支持体(2)と、
少なくとも1つの転動要素(10)によって前記支持体(2)に可動式に取り付けられた少なくとも1つの第1のおもり(4)を含む少なくとも1つの振り子と、を備え、
前記装置(1)は、更に第2のおもり(6)を有しており、前記第1のおもり(4)と前記第2のおもり(6)とが、前記支持体(2)の2つの対向面に向かい合って可動式に取り付けられ、これらのおもりが、少なくとも1つの結合要素(8)を介して互いに結合され、
−前記転動要素(10)が、少なくとも1つの第1の軸受面(12)を有し、
前記第1の軸受面(12)は、転動軸といわれる同一の軸(16)を中心として回転対称であり、かつ、記支持体(2)の軸受面、いわゆる係合軸受面(14)とがり接触し、
−前記転動要素(10)は、更に前記第1のおもりと転がり接触する第2の軸受面と、前記第2のおもり(6)と転がり接触する第3の軸受面とを有し、
前記第2の軸受面は、前記第1のおもりの軸受面と転がり接触する、半径方向かつ周方向の2個の第2の突起(22)を有する第2の安定軸受面であり、
前記第2の突起(22)が、それぞれ、最大直径(DM2)のゾーンを有し、この最大直径が、前記2個の第2の突起(22)についてほぼ同じであり、
前記2個の第2の突起(22)の最大直径のゾーンの間に、当該2個の第2の突起(22)の最大直径(DM2)よりも小さい一定または可変直径の第2の中央環状ゾーンを有する、振り子式ダンパ装置。
【請求項9】
前記第2の突起(22)が、連続曲線を形成する軸方向の輪郭を有し、前記第2の安定軸受面において、前記2個の第2の突起(22)の最大直径のゾーンの各々が、前記2個の第2の突起(22)の最大直径(DM2)よりも小さい一定または可変直径の端部環状ゾーンから前記第2の中央環状ゾーンを分離している、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記第2の突起(22)の各々に対して、最大直径(DM2)の前記第2の突起の位置は、一つの円上にある、請求項8または9に記載の装置。
【請求項11】
前記第2の安定軸受面の最大直径(DM2)と、前記第2の中央環状ゾーンの最小直径との値の差が、1〜80マイクロメートルの範囲に含まれる、請求項8から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記第2の中央環状ゾーン以外のゾーンにおける、前記第2の安定軸受面と前記第1のおもり(4)の軸受面との間の半径方向の最大距離が、16〜160マイクロメートルの範囲に含まれる、請求項8から11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記第3の軸受面は、前記第2のおもりの軸受面と転がり接触する、半径方向かつ周方向の2個の第3の突起(24)を有する第3の安定軸受面であり、
前記第3の突起(24)が、それぞれ、最大直径(DM3)のゾーンを有し、この最大直径が、前記2個の第3の突起(24)についてほぼ同じであり、
前記2個の第3の突起(24)の最大直径のゾーンの間に、当該2個の第3の突起(24)の最大直径(DM3)よりも小さい一定または可変直径の第3の中央環状ゾーンを有している、請求項8から12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記第3の突起(24)が、連続曲線を形成する軸方向の輪郭を有し、前記第3の安定軸受面において、前記2個の第3の突起(24)の最大直径のゾーンの各々が、前記2個の第3の突起(24)の最大直径(DM3)よりも小さい一定または可変直径の端部環状ゾーンから前記第3の中央環状ゾーンを分離している、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の装置である、振り子式ダンパ装置を備えたクラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定化された転動要素を備えた振り子式ダンパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術では、限定的ではないが特に自動車のトランスミッションに装備され、振り子式ダンパまたは振り子ダンパとも呼ばれる、振り子式のトーショナルダンパ装置が知られている。
【0003】
自動車のトランスミッションでは、少なくとも1つのトーショナルダンパ装置は、エンジンの非周期性による振動をフィルタリングするために、一般に、摩擦クラッチまたは、ロックアップクラッチを備えた流体力学的な連結装置等の、エンジンをギヤボックスに選択的に接続可能なクラッチに結合される。
【0004】
実際、内燃機関は、エンジンの気筒内で爆発が連続するために非周期性を有し、この非周期性は、特に気筒数に応じて変化する。
【0005】
したがって、トーショナルダンパ装置のダンパ手段は、非周期性により生じた振動をフィルタリングする機能を有し、エンジントルクがギヤボックスに伝達される前に介在する。
【0006】
ダンパ手段がないと、振動がギヤボックスに伝えられて、動作時に、特に望ましくない衝撃、ノイズまたは騒音を発生することになる。
【0007】
少なくとも1つの所定の周波数の振動をフィルタリング可能な1つまたは複数のダンパ手段を用いる理由の1つはそれである。
【0008】
特許文献1は、振り子式のダンパ装置を記載している。
【0009】
このダンパ装置は、エンジンシャフトに回転結合される支持体と、支持体に周方向に配分された少なくとも1組のおもり、一般には複数組のおもりとを備えている。
【0010】
複数組のおもりは、エンジンシャフトの回転軸の周囲に配置されており、各組のおもりは、エンジンシャフトの回転軸にほぼ平行でかつ当該回転軸を中心として回転駆動される振動軸を中心として、振動自在である。
【0011】
回転不規則性に反応する場合、おもりは、上記振動軸を中心として各おもりの重心が振動するように移動する。これらのおもりの慣性作用によってエンジンの非周期性が低減される。
【0012】
エンジンシャフトの回転軸に対する各おもりの質量中心の半径方向の位置は、振動軸に対するこの質量中心の距離と同様に、遠心力の作用下で、各おもりの振動周波数がエンジンシャフトの回転速度に比例するように特に設定されており、この倍数は、たとえば、アイドリングに近い著しく不規則な回転の原因となりうる振動の支配的な高調波次数に近い値をとることがある。
【0013】
一般に、支持体は半径方向に延びており、複数の振り子が可動式に取り付けられる2個の向かい合った平面を備えている。
【0014】
各振り子は、一般に2個のおもりを有し、これらのおもりの各々が、通常は2個の転動要素を用いて支持体の片面に可動式に取り付けられる。各々の転動要素は、支持体と各おもりとに同時に転がり接触し、あるいは場合によっては、これらのおもりの結合を可能にする結合要素と転がり接触する。
【0015】
支持体と振り子との回転駆動のために、転動要素とおもりは、大きな遠心力を受け、この遠心力は、一方では支持体との接触点で、他方では、おもりまたは結合要素との接触点で、局所的な応力あるいは高い圧力となって現れる。これらの応力あるいは圧力は、転動要素の縁では、「エッジ作用」と呼ばれる現象のためにさらに増加する。
【0016】
その結果、特に、縁の位置で転動要素の表面が劣化するリスクを生じ、あるいは、縁の変形によって「樽型」の形状に至る変形を生じる。
【0017】
従来技術では、新品状態ですでに樽型の輪郭を有する軸受面を備えるように、転動要素を設計することがすでに知られている。
【0018】
これにより、エッジ作用が回避され、こうした縁の劣化リスクが回避される。同様に、縁の位置でやや丸みを帯びた輪郭を構成することも可能である。しかし、完全な形状の円筒部分を縁ゾーンの間に形成するのでなければ(これは工業的にほぼ不可能である)、接触縁の形状は、ほぼ樽型の形状に向かって変化していく可能性がある。
【0019】
そのため、樽型の形状の接触縁を備えた転動要素を直接形成しようと、あるいは、縁の変形のために形状が樽型形状に向かって変化していこうと、転動要素が樽型の形状を得る傾向になるリスクが存在する。
【0020】
ところで、このような形状は、制御されない単一の接触点により転動要素を不安定にし、転動軸に対して垂直な転動要素の半径方向の面は、支持体の面に対して角度的にさまざまに揺動しうる。こうした安定性の問題は、明らかに振り子式のシステムの適正な動作を損ない、システムの劣化を招く可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許第2010/0122605号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、形状を改善することによって安定性を高めた1つまたは複数の転動要素を備えた振り子式のダンパ装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
このため、本発明は、内燃機関に接続されるように構成された振り子式ダンパ装置であって、支持軸といわれる軸を中心として回転移動する少なくとも1つの支持体と、少なくとも1つの転動要素によって支持体に可動式に取り付けられた少なくとも1つの第1のおもり(および任意選択により第2のおもり)を含む少なくとも1つの振り子と、を備えている装置を目的とし、この装置は、転動要素が、少なくとも1つの軸受面、いわゆる安定軸受面を有し、安定軸受面の各々が、転動軸といわれる同一の軸を中心として回転対称であり、この安定軸受面の各々が、また、
−安定軸受面に向かい合って配置されて第1のおもりと支持体とのうちの選択された1つの要素に属する1つの軸受面、いわゆる係合軸受面と転がり接触する、半径方向かつ周方向の2個の突起を有し、これらの突起が、それぞれ、最大直径のゾーンを有し、この最大直径が、2個の突起に対してほぼ同じであり、
−2個の突起の最大直径のゾーンの間に、この最大直径よりも小さい一定または可変直径の中央環状ゾーンを有し、2個の突起が、支持体または第1のおもりと転がり接触可能であることを特徴とする。
【0024】
周方向直径が最大直径よりも小さい2個の突起間の中央環状ゾーンの存在によって、転動要素は、2個の突起に対応する同じ最大直径の2個のゾーンに対応して互いに分離された平行な2個の異なる接触ゾーンで転動可能である。これにより、転動要素は、「樽型」の軸受面の輪郭で製造されるものとは違って、軸方向にも半径方向にも高い安定性を付与される。樽型の場合、樽型の楕円形の輪郭に沿って、位置制御が行われない1つの接触点しか得られない。
【0025】
有利には、上記突起の各々が、連続曲線を形成する軸方向の輪郭を有し、2個の突起の最大直径のゾーンの各々が、この最大直径よりも小さい一定または可変の直径の端部環状ゾーンから中央環状ゾーンを分離している。軸方向の回転ゾーンの一定または可変の直径、すなわち周方向直径は、半径方向の面に配置された、この軸受面の1つの円の直径に対応することが分かる。
【0026】
上記突起の各々に対して、最大直径の各ゾーンは、半径方向の面に配置された1つの円にほぼ帰着させることができる。
【0027】
一般に、最大直径の2個の環状ゾーンにより画定される中央環状ゾーンは、周方向の直径が最大直径よりわずかに小さいゾーンであり、軸受面の輪郭の変化は非常に限られたものであるので、転動要素の摩耗につれて、接触する軸受面の表面の弾性変形時の接触をより大きくすることができる。最大直径と、中央環状ゾーンの最小直径との間の値の差は、一般に1〜80マイクロメートルの範囲に含まれ、しばしば8〜80マイクロメートル、好ましくは20〜60マイクロメートル、非常に好ましくは40〜50マイクロメートルの範囲に含まれる。
【0028】
中央環状ゾーンの外で、安定軸受面と係合軸受面との間の半径方向の最大距離は、一般に16〜160マイクロメートル、好ましくは40〜80マイクロメートルの範囲に含まれる。これによって、輪郭の変化を少なく保ち、転動要素の摩耗につれて接触を最大化し、エッジ作用をなくすことができる。
【0029】
一般に、安定軸受面と係合軸面は、少なくとも1つの軸方向端部の円をそれぞれが含み、この2つの円が、同一の半径方向の面、いわゆる、向かい合った上記軸受面の軸方向端部の面において、向かい合って配置される。有利には、最大直径の2つのゾーンのいずれか一方に属する一点と、上記の軸方向端部の面との間の最小距離が、200〜800マイクロメートル、好ましくは400〜500マイクロメートルの範囲に含まれる。このようにして、2個の突起は、軸受面の縁から十分に離隔されるが、しかし、その一方で相互の間に、たとえば1〜8ミリメートル、好ましくは2.5〜6.5ミリメートルの著しい距離を保持するので、安定回転軸受面に高い安定性がもたらされる。
【0030】
しかし、好ましくは、装置は、第2のおもりを有しており、第1のおもりと第2のおもりは、支持体の2つの対向面に向かい合って可動式に取り付けられ、転動要素は、第1および第2のおもりとそれぞれ転がり接触する第1および第2の安定軸受面を有し、突起の最大直径が、この2つの安定軸受面に対してほぼ同じである。
【0031】
装置は、また、第2のおもりを有しており、第1のおもりと第2のおもりは、支持体の2つの対向面に向かい合って可動式に取り付けられ、これらのおもりが、少なくとも1つの結合要素を介して互いに結合され、2個の突起が、支持体に属する第1の係合軸受面と、結合要素に属する第2の軸受面(同様に係合軸受面と呼ぶこともできる)とに転がり接触する。
【0032】
さらに好ましくは、転動要素は、支持体と転がり接触する第3の安定軸受面をさらに有し、好ましくは、この第3の安定軸受面の突起の最大直径が、第1および第2の安定軸受面の共通の最大直径よりも大きい。このタイプの転動要素は、ときとして「2個の直径を持つローラ」と呼ばれる。
【0033】
好ましくは、すべての振り子のためのすべての転動要素が、それらに結合されるおもりと接触する場合も、支持体と接触する場合も、安定軸受面を有している。
【0034】
さらに、本発明の別の目的は、上記のような振り子式ダンパ装置を備えた、シングル、デュアル、または多段式クラッチにある。
【0035】
本発明は、添付図面を参照しながら例としてのみ挙げられた以下の説明を読めば、いっそう理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】振り子の支持体と、この支持体に取り付けられた複数の振り子式おもりとを備えた、本発明の第1の実施形態による振り子式ダンパ装置の部分斜視図である。
図2】1つの転動要素を示す、図1の装置の別の部分斜視図である。
図3図2の転動要素の安定軸受面を図2のIII−III線に沿って示す断面図である。
図4図2の転動要素の安定軸受面を、図3に示されたこの転動要素の変形実施形態で示す断面図である。
図5】本発明の第2の実施形態による振り子式ダンパ装置の転動要素を示す断面図である。
図6】本発明の第3の実施形態による振り子式ダンパ装置の転動要素を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1から図4は、本発明の第1の実施形態による振り子式ダンパ装置1を部分的に示しており、2個のおもりは、1つまたは複数の転動要素と協働する少なくとも1つの結合要素8によって結合されている(その場合、おもりと転動要素は直接協働しない)。図1では、装置1が、複数の振り子のための支持体2を含み、これらの振り子が、たとえばクラッチの位相合わせリングである支持体2に周方向に配分されていることが分かる。支持体2は、半径方向に延びる、ほぼ平らな環状である。
【0038】
図1は、2個の第1のおもり4と、2個の第2のおもり6とを示しており、第1のおもりの各々が、支持体2の片面に配置され、この第1のおもりの各々が、第1の面の反対側にある支持体2の第2の面に配置された第2のおもりに結合されている。向かい合って組み合わされる2個のおもり4と6は、互いに結合され、各おもりが、これらのおもりに設けられた刳り抜きに嵌め込まれる2個の結合要素8に結合されて取り付けられている。これらの結合要素は、それぞれが、一般には軸方向に延びており、すなわち、支持体2の軸に平行に延びている。
【0039】
図2は、支持体2と、結合要素8と、断面が円形の円筒ローラからなる転動要素10とを示す図1の装置の別の部分斜視図であり、転動要素は、結合要素8の軸受面8Aと、支持体2の縁2Aに配置された係合軸受面とで転動可能な、安定軸受面を含んでいる。図3では、安定軸受面と係合軸受面とが示されている。縁2Aは、結合要素8と転動要素10とを通過可能にする支持体2の刳り抜きを画定している。
【0040】
変形実施形態では、結合要素8を第1のおもり4または第2のおもり6に組み込むことも可能である。
【0041】
第1のおもり4と、この第1のおもりに組み合わされる第2のおもり6と、対応する2個の結合要素8とからなるアセンブリが、支持体2で振動可能な振り子を構成する。
【0042】
図3は、図2に示されたIII−III線を含む転動要素の軸方向の面において、支持体と接触する転動要素10の安定軸受面を示す断面図である。転動要素10の安定軸受面12は、地点AとBとの間に延び、支持体2に配置されて地点Cと地点Dとの間に延びる平らな係合軸受面14に向かい合っている。
【0043】
転動軸16を中心として回転対称なこの安定軸受面12は、図3の軸方向の面において、地点A、E、F、GおよびBを通る可変輪郭を形成する。
【0044】
以下、便宜上、軸方向および半径方向という表現は、転動軸16を基準とする。
【0045】
図3の面において、各地点EとGは、周方向の直径Dが最大になる、半径方向かつ周方向の突起17の地点に対応する。地点EとGの間に含まれる輪郭部分は、周方向の最小直径D1に対応する下部地点Fを特に含む凹部を形成する。
【0046】
安定軸受面12は回転対称であるので、凹部の輪郭は、安定軸受面に属する中央環状面18の軸方向の輪郭であり、中央環状面は、周方向の直径Dが最大になる地点EとGをそれぞれ含んで2個の半径方向の面に配置された、2個の円により画定される。この中央環状面18(地点EとGを通る安定軸受面12の2個の円の間に厳密には含まれる)では、周方向の直径が最大直径Dより小さい。
【0047】
2個の周方向の突起17の存在により、軸方向の面において2個の離れた地点EとGの間の優先的な支点に対応する上記の2個の円に沿って、転動要素10と支持体2との間(ならびに、図2に示すように転動要素10と結合要素8との間)で、優先的な転がり接触が保証される。これは、接触点が場合によっては1個しかなくて制御が行われない樽型形状を持つ接触輪郭の場合とは異なり、軸受面に高い安定性が付与される。
【0048】
安定軸受面12と、支持体2における係合軸受面14との間の距離が(中央環状面18の外にある向かい合ったゾーンに関しては少なくとも)最大になる端部地点AとBとの位置で、周方向の直径Dが最大直径D付近にとどまるように、安定軸受面12の輪郭は、わずかに変化するにすぎない。このようにして、地点AとCを中心としてわずかに変化する輪郭によって、エッジ作用を回避するとともに、転動要素10の摩耗につれて、この摩耗により突起の輪郭の曲率の減少あるいは突起頂部の部分的な平坦化が生じ、大きな接触が確保される。
【0049】
図4は、同様に転動要素の軸16に対する軸方向の面において、本発明による装置の安定軸受面の輪郭の1つの変形実施形態を示しており、この輪郭は、周方向の直径Dが最大になる2個の地点区間HIとJKとを含んで、これらの区間の各々が、転動要素10を中心とする最大直径Dの環状ゾーン19を形成している。これにより、転動要素が新品であるとき、転動要素と支持体2との接触が増す。最大直径の面19は、輪郭がそれぞれ一方ではAとHとの間、他方ではKとBとの間に延びている2個の端部環状ゾーン20を同様に画定している。
【0050】
図5図6は、それぞれ本発明の第2および第3の実施形態による振り子式ダンパ装置の転動要素を示しており、これらの実施形態では、2個のおもりの結合要素と転動要素とが協働するのではなく、これらの2個のおもりの各々と転動要素とが直接協働している。
【0051】
図5は、本発明の第2の実施形態による装置の転動要素10を示しており、おもりとの接触のための樽型の輪郭の2個の安定化されない軸受面21と、支持体との接触のための2個の突起17を含む安定軸受面とを有している。
【0052】
図6は、さらに、本発明の第3の実施形態(好適な実施形態)による装置の転動要素を示しており、3個の安定軸受面すなわち、支持体との接触のために2個の突起17を含む第1の安定軸受面と、第1のおもりとの接触のために2個の突起22を含む第2の安定軸受面と、第2のおもりとの接触のために2個の突起24を含む第3の安定軸受面とを備えている。
【0053】
このような転動要素は、安定性が最大化する。第1の安定軸受面の位置における転動要素10の最大直径DM1は、おもりとの接触軸受面に対応する最大直径DM2およびDM3よりも大きく、これによって、支持体との接触を増すことができ、支持体は、2個のおもり全体の慣性作用にしたがう。通常は、直径DM2と直径DM3は同じである。
【0054】
図5図6の装置は、1つの軸受面は支持体との、2つの軸受面おもりとの、3個の軸受面を含んでおり、支持体と、おもりの結合要素8とに同時に接触するたった1個の軸受面を含んでいるわけではない。
【0055】
本発明は、上記の実施形態に制限されるものではなく、当業者は、特に、従来技術から公知の他の要素を本発明と一緒に用いることが可能である。
【0056】
特に、以下のような1つまたは複数の変形実施形態による振り子式ダンパ装置を同様に使用可能である。
【0057】
−1つまたは複数の転動要素と協働する、2個のおもりの単一の結合要素を備えた装置
−2個の支持体要素の間に配置された単一のおもりを有する装置
−振り子ごとに少なくとも3個の転動要素を備えている装置
など。
図1
図2
図3
図4
図5
図6