(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6589096
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】Ni含有鋼の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/12 20060101AFI20191007BHJP
B22D 11/00 20060101ALI20191007BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20191007BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
B22D11/12 F
B22D11/00 A
C22C38/00 301A
C22C38/58
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-135993(P2015-135993)
(22)【出願日】2015年7月7日
(65)【公開番号】特開2017-18961(P2017-18961A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(72)【発明者】
【氏名】清▲瀬▼ 明人
(72)【発明者】
【氏名】音松 侑貴
(72)【発明者】
【氏名】古川 洋嗣
【審査官】
藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−023049(JP,A)
【文献】
特開2001−138019(JP,A)
【文献】
特開2000−237858(JP,A)
【文献】
特開平08−010920(JP,A)
【文献】
特開平11−197809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00−11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni含有鋼を、垂直曲げ型連続鋳造機または湾曲型連続鋳造機を用いて連続鋳造する方法であって、
質量%で、溶鋼中のNi濃度を0.2〜3%、Si濃度を0.25〜0.5%とし、復熱せずに、鋳片の表面温度が800℃以上で鋳片の矯正を行うことを特徴とするNi含有鋼の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni含有鋼の連続鋳造方法に関し、特に、垂直曲げ型または湾曲型連続鋳造機を用いて製造されるNi含有鋼において、表面割れの発生を抑制する連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の靭性向上のため、鋼中にNiを添加することが一般に行われている。しかしながら、Ni含有鋼を垂直曲げ型または湾曲型連続鋳造機で鋳造する場合、鋳片表面に割れ(以下、単に表面割れともいう。)が発生する場合があり、手入れ処理などの増工程の原因となる。このような表面割れは、連続鋳造の2次冷却時に鋳片の表面温度がオーステナイト相からフェライト相へ変態する温度(γ→α変態温度)近傍(700℃〜900℃)になって熱間延性が低下し、このような温度範囲内にて鋳片矯正による応力を受けることにより発生する。
【0003】
したがって、Ni含有鋼の生産性向上のためには、このような鋳片表面割れを抑制することが課題となっている。
【0004】
このような課題を解決する手段として、特許文献1には、鋳型内溶鋼のメニスカス部から鋳型下端までの鋳片の引き抜き所要時間を1分以内とし、鋳型から引き抜いた後、直ちに2次冷却を行い、1分以内に鋳片表面温度をA
3変態温度以下まで冷却することを特徴とする鋼の連続鋳造時における鋳片表面割れの抑制方法、さらに、鋳片表面温度をA
3変態温度以下まで冷却した後、復熱させ、曲げ点および矯正点における鋳片表面温度を850℃以上とし、鋳型内溶鋼のメニスカス通過後20分以内に鋳片の矯正を終了することを特徴とする鋼の連続鋳造時における鋳片表面割れの抑制方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、質量%で、Ni:5.5〜10%を含有し、Cが0.1%以下、Siが0.5%以下、Mnが1.0%以下であるNi含有鋼を連続鋳造する方法であって、溶鋼中のPを0.0010%以下、Sを0.0010%以下、Alを0.002〜0.030%、Nを0.0040%以下とし、さらにAlとNの%濃度積[Al]×[N]を6×10
−5未満とし、かつ鋳片の2次冷却において下記(1)式で表される鋳片の寸法比Rと下記(2)式で表される冷却水量の総和の比W
Rとの関係が下記(3)式を満たす条件で鋳造することを特徴とするNi含有鋼の連続鋳造方法が開示されている。
R=W/T ・・・(1)
W
R=W
W/W
N ・・・(2)
R<W
R ・・・(3)
ただし、W:鋳片の幅(mm)、T:鋳片の厚み(mm)、W
W:鋳片の長辺面の冷却水量の総和(リットル/min)、W
N:鋳片の短辺面の冷却水量の総和(リットル/min)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−47854号公報
【特許文献2】特開平10−166126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の方法では、以下の問題点がある。
【0008】
特許文献1記載の鋼の連続鋳造時における鋳片表面割れの抑制方法は、鋳型から引き抜いた後、直ちに2次冷却を行い、1分以内に鋳片表面温度をA
3変態温度以下に冷却するものであるが、通常よりも多量の冷却水を用いなければならず、鋳片幅方向、鋳造方向の冷却が不均一になり、表面割れが助長されるおそれがある。
【0009】
特許文献2記載の連続鋳造方法では、Sだけでなく、P濃度も0.0010%以下にしなければならず、精錬負荷が非常に高いという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、垂直曲げ型または湾曲型連続鋳造機を用いて製造されるNi含有鋼において、表面割れの発生を抑制することが可能な連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ここで、垂直曲げ型または湾曲型連続鋳造機を用いて製造されるNi含有鋼の表面割れは、上述したように、鋳片表面温度が700℃〜900℃で矯正されるときに生じ、このとき、オーステナイト粒界(以下、γ粒界と記載する場合がある)に沿って割れることが知られている。そのため、γ粒界の脆化を防止することで、割れ深さを低減することができ、手入れの必要がない浅い割れに抑制することができると着想した。
【0012】
そこで、本発明者らは、表面割れを抑制するべく、γ粒界を脆化させる鋼組成について鋭意検討した。その結果、鋼中のSi濃度を制御することで、γ粒界の脆化を防止して表面割れを抑制できることを見出した。
【0013】
本発明は、得られた知見を基に更に検討を加えてなされたもので、その要旨は以下の通りである。
【0014】
Ni含有鋼を、垂直曲げ型連続鋳造機または湾曲型連続鋳造機を用いて連続鋳造する方法であって、質量%で、溶鋼中のNi濃度を0.2〜3%、Si濃度を0.25〜0.5%とし、
復熱せずに、鋳片の表面温度が800℃以上で鋳片の矯正を行なうことを特徴とするNi含有鋼の連続鋳造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、垂直曲げ型または湾曲型連続鋳造機を用いて製造される高靭性のNi含有鋼において、製造コストや製造工数を増加させることなく、鋼組成を制御することにより表面割れの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態における、絞り値に及ぼす引張温度と鋼成分の影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るNi含有鋼の連続鋳造方法について説明する。
【0018】
まず、表面割れを抑制すべくγ粒界の脆化に影響を及ぼす鋼組成について検討した結果を説明する。
【0019】
上述したように、本発明者らは、垂直曲げ型または湾曲型連続鋳造機を用いて製造されるNi含有鋼において、鋳片の表面に発生する表面割れを抑制するため、鋼組成について鋭意検討し、表面割れの要因となるγ粒界の脆化を防止することに着目した。その結果、鋼中のSi濃度を0.25〜0.5%とすることで、Ni含有鋼の鋳片表面割れを抑制できることを見出した。以下に詳細に説明する。
【0020】
γ粒界を脆化させる元素について検討を行った結果、Ni含有鋼においてはSiが大きな影響を及ぼすことが分かった。
図1に、Ni含有鋼の絞り値に及ぼすSi濃度と引張温度の影響を、熱間引張り試験機を用いて調査した結果を示す。この試験は、鋼成分を調整したNi含有鋼から直径10mm、長さ100mmの試験片を採取し、20℃/秒で1350℃まで加熱昇温して10分間保定した後、5℃/秒で所定の温度まで降温して2分間保定し、その後、0.005/秒のひずみ速度で引張り破断させ、絞り値を求めたものである。
【0021】
図1に示すグラフより分かるように、0.2%のSiを含有する鋼では引張温度がγ→α変態温度域である700℃〜900℃の範囲で絞り値が40%以下となった。なお、熱間引張り試験機で評価される絞り値が40%以下の場合に、連続鋳造鋳片で表面割れが生じると言われている。一方、Si濃度を0.25%とした場合、800〜900℃の絞り値は40%超となり、鋳片の割れが生じにくい範囲まで延性が回復している。さらに、Si濃度が0.5%にした場合も、800〜900℃における絞り値が40%を超えている。
【0022】
なお、Siによるγ粒界の脆化防止メカニズムについては十分明らかになっていないが、本発明者らは、Ni>0.2%かつSi<0.25%の場合に、γ粒界が著しく脆化することを見出した。これは、γ粒界に偏析したNiとSの相互作用による粒界脆化を、SiがSの粒界偏析を抑制することで防止していると考えられる。
【0023】
以上の調査結果をふまえ、本発明のNi含有鋼の連続鋳造方法について詳細に説明する。
【0024】
本実施形態のNi含有鋼の連続鋳造方法は、Ni含有鋼を、垂直曲げ型連続鋳造機または湾曲型連続鋳造機を用いて連続鋳造する方法であって、質量%で、溶鋼中のNi濃度を0.2〜3%、Si濃度を0.25〜0.5%にし、鋳片の表面温度が800℃以上で、鋳片の矯正を行なうことを特徴とする。
【0025】
以下、本実施形態の鋼の化学組成を限定した理由を説明する。以降、「%」との表記は「質量%」のことである。
【0026】
[Ni:0.2〜3%]
鋼中のNiは、鋼材の強度、靭性を向上させるために添加される元素である。強度、靭性を向上させるために必要な添加量は0.2%以上である。一方、3%を超えて過剰に添加すると、オーステナイト粒界酸化が大きくなり過ぎ、粒界割れの起点が発生するため、S濃度を低減し、オーステナイト粒界の脆化を防止しても、割れ深さを低減することが困難となる。したがって、上限は3%とする。なお、Ni濃度が0.2%未満であれば、Siの添加を行なわずとも、通常の連続鋳造において表面割れが発生することはない。
【0027】
ここで、NiはFeよりも貴な元素で、酸化されにくいという性質を有している。一方、γ粒界には、Alなどの酸化されやすい元素が偏析している。粒内は酸化されにくく、粒界が酸化されやすい状態にあるため、一般的には、粒界が優先的に酸化される。従って、Ni添加量が多い場合は、酸化されにくいNiが多いということになり、酸化されやすい元素が偏析する傾向にあるγ粒界の酸化が大きくなる。そして、このようにγ粒界だけが大きく酸化されるので、鋼板表面にあたかもノッチ(切り欠き)が入ったようになり、鋳片表面に引張り応力がかかった際に、ノッチが起点となり割れやすくなる。
【0028】
以上のように、本発明においては、Ni濃度を0.2〜3%とすることが重要である。
【0029】
[Si:0.25〜0.5%]
Siはオーステナイト粒界を脆化させるSの粒界偏析を防止する元素であり、Ni含有鋼の表面割れ抑制に有効に作用する。0.25%以上含有することによりSの粒界偏析防止が可能となる。0.5%を超えて添加しても効果は同等であるが鋼板表面のスケールの剥離性が悪化するため、上限を0.5%とする。
【0030】
以上説明した組成は、鋳造を開始するまでの溶鋼段階で、常法により調整することで実施できる。例えば、Siは、転炉工程、二次精錬工程で、例えば金属Siやフェロシリコンなどを添加することで0.25〜0.5%含有させることができる。
【0031】
本発明に係る連続鋳造方法は、上述してきたような組成を有するNi含有鋼を、垂直曲げ型連鋳機または湾曲型連鋳機を用いて鋳造する。
【0032】
[鋳片の矯正を行う際の鋳片表面温度:800℃以上]
上述したように、垂直曲げ型連鋳機または湾曲型連鋳機を用いて鋼を鋳造する場合、鋳片を矯正する際に鋳片上面に表面割れが生じるという問題がある。したがって、表面割れを抑制するためには、鋼が脆化する温度範囲を回避するよう2次冷却や鋳造速度を調整する。
【0033】
図1に示すように、Si濃度を本発明の範囲である0.25〜0.5%とすると、引張温度が800℃以上のときに、40%を超える絞り値を確保することができる。これより、鋳片の矯正を行う際の鋳片表面温度を800℃以上とする。なお、表面温度の上限については特には制限しないが、温度が高すぎると内部割れや鋳片酸化量の増大が生じるため、900℃以下が望ましい。
【0034】
また、本発明において、鋳造速度や2次冷却の比水量(鋳片単位重量当たりの2次冷却水の量)については、鋳造速度は、0.8〜1.5mpm、2次冷却の比水量は、0.7〜1.5リットル/kgとすることが好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明の効果を説明するが、本発明は、以下の実施例で用いた条件に限定されるものではない。
【0036】
表1に示すNo.1〜No.7の化学成分を有する鋼を、それぞれ垂直曲げ型連続鋳造機または湾曲型連続鋳造機を用いて鋳造した。その際、2次冷却の冷却条件、鋳造速度を変更することで、矯正帯での鋳片表面温度を、表1に示すように変更した。
【0037】
鋳造後の鋼において、鋳造方向に垂直な断面を観察し、断面内の最も深い割れの深さを測定し、指数付けをおこなった。割れ深さが0.2mm未満で手入れの必要のないものを鋳片表面割れ指数1、深さ0.2mm以上1mm未満で手入れの必要のあるものを2、深さ1mm以上で屑化しなければならないものを3とした。
【0038】
【表1】
【0039】
No.1〜3は化学成分、製造条件ともに本発明例である。いずれも、鋳片表面割れ指数は1であり、手入れが不要であった。
【0040】
一方、No.4〜No.7は比較例である。No.4はSi濃度が低いために、手入れが必要な割れが発生した。No.5はNi濃度が高すぎるため、1mm以上の深い割れが発生し、屑化せざるを得なかった。No.6は、矯正帯での鋳片表面温度が低すぎたため、1mm以上の深い割れが発生し、屑化せざるを得なかった。No.7は、割れは発生しなかったものの、Ni濃度が低すぎたため、鋼の強度・靭性が不足してしまった。