特許第6589102号(P6589102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6589102
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】飼料添加剤
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/10 20160101AFI20191007BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20191007BHJP
   A61P 15/00 20060101ALN20191007BHJP
   A61K 36/484 20060101ALN20191007BHJP
【FI】
   A23K50/10
   A23K10/30
   !A61P15/00 171
   !A61K36/484
【請求項の数】6
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2018-178878(P2018-178878)
(22)【出願日】2018年9月25日
【審査請求日】2018年12月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513234743
【氏名又は名称】宏輝システムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517298688
【氏名又は名称】大西 誉郎
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】青柳 敬人
(72)【発明者】
【氏名】小岩 政照
(72)【発明者】
【氏名】大西 誉郎
【審査官】 佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/041449(WO,A1)
【文献】 特開2016−013116(JP,A)
【文献】 特開2011−167184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 50/10
A23K 10/30
A61K 36/484
A61P 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
甘草エキスを含む、過剰排卵処理後に得られる移植可能な胚の個数および移植可能な胚の比率を改善するための、哺乳動物の飼料添加剤。
【請求項2】
哺乳動物が、ウシである、請求項1に記載の飼料添加剤。
【請求項3】
過剰排卵処理された哺乳動物を、甘草エキスを添加した飼料を用いて飼育することを含む、過剰排卵処理後に得られる移植可能な胚の個数および移植可能な胚の比率を改善するための方法。
【請求項4】
哺乳動物が、ウシである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
甘草エキスを、20g/日/頭の用量で投与する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
甘草エキスを60日以上投与する、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甘草エキスを含む、過剰排卵処理後に得られた胚の品質を改善するための、哺乳動物の飼料添加剤、及び過剰排卵処理された哺乳動物を、甘草エキスを添加した飼料を用いて飼育することを含む、過剰排卵処理後に得られる移植可能な胚の個数増大およびその品質(移植可能な胚の比率)を改善するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物の改良、増殖を効率的に進めるために、受精卵移植が広く行われている。この移植用の受精卵には、体内受精卵が適している。そこで、受精した雌の哺乳動物から、体内受精卵を回収するために、過剰排卵処理が行われている。過剰排卵処理は、卵胞刺激ホルモンを一日2回、3〜5日間、雌の哺乳動物に漸減投与することにより行われている。ただし、雌の哺乳動物の体調等により、この処理の後に得られる受精卵から正常胚が発生する頻度が低くなる場合があるという問題があった。また、過剰排卵処理によって得た受精卵からの正常胚発生率を向上させるためには、処理前にエストラジオールなどの女性ホルモンを注射する方法が知られていた。しかし、注射のような獣医師による処置は、酪農家にとって負担であることから、繁殖農家において自家で実施可能な手段が求められていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、過剰排卵処理後に得られた胚の品質の改善をもたらす、哺乳動物用飼料添加剤又は方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、カンゾウ抽出物を哺乳動物用飼料に添加することにより、その飼料を摂取した哺乳動物の過剰排卵処理後に得られた胚の品質を改善することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。即ち、本発明は以下のとおりである。
【0005】
[1] 甘草エキスを含む、過剰排卵処理後に得られる移植可能な胚の個数および移植可能な胚の比率を改善するための、哺乳動物の飼料添加剤、
[2] 哺乳動物が、ウシである、[1]に記載の飼料添加剤、
[3] 過剰排卵処理された哺乳動物を、甘草エキスを添加した飼料を用いて飼育することを含む、過剰排卵処理後に得られる移植可能な胚の個数および移植可能な胚の比率を改善するための方法、
[4] 哺乳動物が、ウシである、[3]に記載の方法、
[5] 甘草エキスを、20g/日/頭の用量で投与する、[4]に記載の方法、
[6] 甘草エキスを60日以上投与する、[5]に記載の方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、過剰排卵処理後に得られた胚の品質を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明において、甘草とは、カンゾウ属(Glycyrrhiza)に属する植物をいう。カンゾウ属は、地中海地方、小アジア、ロシア南部、中央アジア、中国北部、北アメリカなどに自生するマメ科の多年草である。本発明においては、たとえば、Glycyrrhiza acanthocarpa、G.aspera、G.astragalina、G.bucharica、G.echinata(ロシアカンゾウ)、G.eglandulosa、G.foetida、G.foetidissima、G.glabra(スペインカンゾウ)、G.gontscharovii、G.iconica、G.inflate、G.korshinskyi、G.lepidota(アメリカカンゾウ)、G.pallidiflora、G.squamulosa、G.triphylla、G.uralensis(ウラルカンゾウ)、G.yunnanensis、G.inflata(新疆カンゾウ)を用いることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0008】
本発明で使用される甘草エキスは、植物体の根及び/又は茎を適宜加工して使用することができる。本発明においては、市販品を使用してもよく、また当該分野で公知の方法で製造したものを使用することもできる。本発明で使用される甘草エキスのグリチルリチン酸の含量は、2.5%以上、好ましくは、5%以上、より好ましくは、10%以上、さらに好ましくは13%以上である。
【0009】
甘草エキスの抽出溶媒は特に限定はされないが、たとえば、水、アルコール(たとえば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノールなど)、アセトン、酢酸エチルなどを用いることができる。また、その乾燥粉末を得る場合は、例えば減圧乾燥や噴霧乾燥等、当業者が通常用いる方法によりエキスの溶媒を除去することで得ることができる。
【0010】
過剰排卵処理とは、たとえば、ウシでは通常1回に1個しか排卵しない卵子を、ホルモン処理によりいくつも排卵させ、さらに人工授精を行うことで体内に複数の受精卵を発生させ、これらの受精卵を子宮内に液を流して回収する技術をいう。
【0011】
本発明において、「過剰排卵処理後に得られた胚の品質を改善する」とは、たとえば、移植可能な胚の平均数の増加、平均胚品質スコアの改善、移植可能な胚の割合の増加である。
【0012】
本発明において哺乳動物とは、たとえば、サル、イヌ、ネコ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、モルモット、ウサギ、マウス、ラットおよびヒトであり、好ましくは、ウシである。
【0013】
本発明において「飼料」は、哺乳動物による摂取に適し、またはそれが意図される、あらゆる化合物、調製品、混合物、または組成物を意味する。本発明において飼料添加剤とは、家畜等の栄養に供することを目的として使用される餌(飼料)に添加して飼料の品質保持や補助栄養として利用される添加剤のことである。
【0014】
本発明の1つの態様は、過剰排卵処理された哺乳動物、たとえばウシを、甘草エキスを添加した飼料を用いて飼育することを含む、過剰排卵処理後に得られた胚の品質を改善するための方法である。
【0015】
本発明の甘草エキスの投与量は、効果が得られる限り特に制限されないが、10〜40g/日/頭、好ましくは、15〜25g/日/頭、より好ましくは、20g/日/頭である。
【0016】
本発明の甘草エキスの投与期間は、所望の効果が得られる限り、任意の期間であることできるが、60以上投与することが好ましい。
【実施例】
【0017】
1〜4回の出産経験があり、最後の出産から少なくとも60日後に超音波検査によって見られた正常な子宮を有する黒毛和種(n=136)を実験動物として用いた。処理群(n=90)の動物に、20g/日/頭の甘草エキス(ファブリック大西、少なくとも13%のグリチルリチン酸含量を有する)を、胚を回収するまで60〜90日間、持続的に給餌した。対照群(n=46)は、最後の出産日から胚の回収まで甘草を全く摂取しなかった。
【0018】
総量で20AU(アーマー単位)の卵胞刺激ホルモン(FSH)を、両方の群において発情後8〜11日で過剰排卵処理をしたウシに、連続3日間(逓減用量:5AU×2、3AU×2及び2AU×2)、一日に2回、朝及び夕方に筋肉注射で与えた。プロスタグランジンF2α(プロナルゴンF)25mg及び15mgを、FSH投与の第3日の朝及び夕方にそれぞれ投与した。発情期の開始後12時間及び24時間に人工授精を行い、胚を、発情後第7日に子宮潅流法を用いて回収した。
【0019】
処理群及び対照群における、回収された移植可能な胚の卵子/胚の平均数、及び(IETSガイドラインによる)平均胚品質スコアを、t検定によって比較した。カイ二乗検定を用いて、2つの群の移植可能な胚の割合を比較した。
【0020】
処理群(21.7±11.8)及び対照群(15.8±11.3)間では卵子/胚の平均数に有意差は認められなかったが、前者は、より多くの卵母細胞を与える傾向にあった。処理群(13.1±8.3)及び対照群(8.1±5.3)間では移植可能な胚の平均数に有意差が認められた(p<0.05)。また、平均胚品質スコアにおいても、処理群(1.6±0.4)は、対照群(2.2±0.6)に対して有意に優れていた。移植可能な胚の割合においても、処理群(60.3±26.4%)は、対照群(51.2±26.0%)に比べて有意に優れていた(p<0.05)。
【0021】
これらの結果は、60日間以上の黒毛和種に対する甘草抽出物の給餌が、過剰排卵処理後に得られた胚の品質を改善し、ウシ当たりの移植可能な胚の平均数の増加をもたらすことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の飼料添加剤は、過剰排卵処理後に得られた胚の品質を改善するために有用である。
【要約】      (修正有)
【課題】過剰排卵処理後に得られた胚の品質の改善をもたらす、哺乳動物用飼料添加剤又は方法を提供する。
【解決手段】甘草エキスを含む、過剰排卵処理後に得られた胚の品質を改善するための、哺乳動物の飼料添加剤、及び過剰排卵処理された哺乳動物を、甘草エキスを添加した飼料を用いて飼育することを含む、過剰排卵処理後に得られた胚の品質を改善するための方法。
【選択図】なし