特許第6589108号(P6589108)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6589108
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】無呼吸及び/又は低呼吸診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/08 20060101AFI20191007BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   A61B5/08
   A61B5/11 100
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-256969(P2014-256969)
(22)【出願日】2014年12月19日
(65)【公開番号】特開2016-116590(P2016-116590A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】508131381
【氏名又は名称】株式会社スリープシステム研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100126398
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】根本 新
【審査官】 北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−156029(JP,A)
【文献】 特表2014−505566(JP,A)
【文献】 特開2009−118965(JP,A)
【文献】 特開2008−110138(JP,A)
【文献】 特開平05−095914(JP,A)
【文献】 特開2006−280615(JP,A)
【文献】 特開平08−131421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00− 5/03
A61B 5/06− 5/22
A61B 9/00−10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
睡眠時に無侵襲且つ無拘束で検出した生体信号に基づいて利用者の呼吸状態が無呼吸及び/又は低呼吸であるか否かを診断する無呼吸及び/又は低呼吸診断装置において、
前記利用者の呼吸信号を無侵襲且つ無拘束で検出する呼吸信号検出手段と、
前記利用者の体動を検出する体動検出手段と、
前記呼吸信号検出手段によって検出された呼吸信号のうち、所定時間の呼吸信号における最大値と最小値との差分値に基づいて正規化値を求め、前記呼吸信号の正規化を行う正規化手段と、
前記正規化手段によって正規化された正規化呼吸信号に基づいて、前記利用者が無呼吸状態及び/又は低呼吸状態であるか否かを判定する呼吸状態判定手段とを備え、
前記正規化手段は、前記呼吸信号における時間的に連続した3点の最大値と最小値との差分値Lmn,Lmn+1,Lmn+2をとり、これらの3点の差分値Lmn,Lmn+1,Lmn+2が所定の第1の閾値未満となるように、前記生体信号の源波形の利得を低下させるような制御を繰り返し行い、前記差分値Lmnが前記第1の閾値未満となった場合には利得制御を中止し、前記体動検出手段によって前記利用者の体動が検出されると、前記3点の差分値Lmn,Lmn+1,Lmn+2を比較して体動区間における差分値の最大値を決定し、前記差分値の最大値を用いて前記正規化値を求めて前記呼吸信号を正規化すること
を特徴とする無呼吸及び/又は低呼吸診断装置。
【請求項2】
前記正規化手段は、前記3点の差分値Lmn,Lmn+1,Lmn+2の間の関係が、
|Lmn−Lmn+1|<所定値
|Lmn+1−Lmn+2|<所定値
|Lmn−Lmn+2|<所定値
となる差分値を選択し、選択した前記3点の差分値Lmn,Lmn+1,Lmn+2の最大値を用いて前記正規化値を求めて前記呼吸信号を正規化すること
を特徴とする請求項1記載の無呼吸及び/又は低呼吸診断装置。
【請求項3】
前記正規化手段は、前記3点の差分値Lmn,Lmn+1,Lmn+2の間の関係が、Lmn<Lmn+1<Lmn+2である場合には、
(Lmn+2−Lmn)*100/Lmn+2<A%
となる差分値を選択し、選択した前記3点の差分値Lmn,Lmn+1,Lmn+2の最大値を用いて前記正規化値を求めて前記呼吸信号を正規化すること
を特徴とする請求項1又は請求項2記載の無呼吸及び/又は低呼吸診断装置。
【請求項4】
前記正規化手段は、前記体動検出手段によって体動が検出された直前及び直後の所定時間の間を不感帯とすること
を特徴とする請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項記載の無呼吸及び/又は低呼吸診断装置。
【請求項5】
前記正規化手段は、前記3点の差分値Lmn,Lmn+1,Lmn+2の最大値が測定レンジの100%となるように前記正規化値を求めて前記呼吸信号を正規化すること
を特徴とする請求項1記載の無呼吸及び/又は低呼吸診断装置。
【請求項6】
前記呼吸状態判定手段は、前記正規化手段によって正規化された正規化呼吸信号のうち、所定時間の正規化呼吸信号における最大値と最小値との差分値である正規化差分値を算出し、前記正規化差分値が連続して測定レンジにおける50%以下であった場合には、低呼吸状態であると判定し、前記正規化差分値が連続して10%以下であった場合には、無呼吸状態であると判定すること
を特徴とする請求項1記載の無呼吸及び/又は低呼吸診断装置。
【請求項7】
前記体動検出手段は、前記生体信号の源波形に基づいて前記利用者の体動を検出すること
を特徴とする請求項1記載の無呼吸及び/又は低呼吸診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠時に無侵襲且つ無拘束で検出した生体信号に基づいて利用者の呼吸状態が無呼吸及び/又は低呼吸であるか否かを診断する無呼吸及び/又は低呼吸診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、睡眠時に無呼吸状態及び/又は低呼吸状態に陥ることにより、昼間に眠くなったり活力がなくなったりする等の症状が数多く報告されている。特に、睡眠時無呼吸症候群及び/又は低呼吸症候群(以下、無呼吸症候群と総称する)に起因した居眠り運転等は、社会的な問題を生じ、深刻な事態を引き起こす場合があることから、これらの疾患の治療の必要性が高まっている。
【0003】
日本における10歳以上の人口のうち、不眠症若しくは不眠傾向のある者は人口の20%約2400万人と推定されており、そのうち、無呼吸症候群の患者はその10%の240万人と推定されている。
【0004】
無呼吸状態とは、10秒以上の呼吸停止状態をいい、60秒といった長時間の呼吸停止状態が継続するケースもみられる。また、低呼吸状態とは、呼吸による空気の取り入れ量が最大取り入れ量から50%以上低下した状態が10秒以上継続する状態をいう。症状が強い人は、1時間に30回を超える無呼吸状態が発生するといわれている。そして、無呼吸/低呼吸指数AHIが5以上の場合には、無呼吸症候群であるとされる。なお、AHI=5とは、1時間あたり5回以上の無呼吸状態/低呼吸状態が発生することを意味している。
【0005】
呼吸がなくなる原因には2種類ある。1つ目は中枢神経の異常であり、2つ目は気道が舌で閉塞される場合である。このうち、無呼吸症候群の原因の大部分は2つ目のものであり、深い睡眠状態に移行するときに、気道が舌で閉塞されてしまう場合が多い。これにより、深い睡眠に移行することができず、十分な睡眠が取れなくなり、日中も眠さを感じる症状が起こる。また、無呼吸状態や低呼吸状態によって酸欠状態が継続すると、血液中の酸素飽和度が4%以上も低下しやすいことが知られている。
【0006】
ここで、睡眠時における呼吸状態の判定を行う手法としては、口や鼻を通過する気流の流速測定や、胸部及び腹部の変位をストレインゲージ等の抵抗変化測定によるものも存在するが、これらの測定器を身体に装着するために拘束感があり、測定器を顔面で固定するために睡眠を阻害するとともに、装着した測定器が容易に外れてしまう場合が多い。また、胸部及び腹部の変位の測定においては、圧迫感と低呼吸の場合には変位が少ないため、測定が困難な場合がある。さらに、最近では、圧電素子等を用いた無呼吸測定装置が開発されているが、寝姿(横向き、上向き等)によって呼吸の振幅が変化するため、また、同じ睡眠状態(覚醒段階、レム睡眠段階、浅いノンレム睡眠段階、深いノンレム睡眠段階等)であっても睡眠初期と睡眠後期とでは振幅が異なるため、正確な測定を行いにくいという問題がある。さらにまた、いわゆる睡眠ポリソムノグラフ(PSG)による睡眠状態の判定と、鼻出口に呼気流速の測定装置を装着することによる呼吸測定とを組み合わせた手法も一般的に採用されている。しかしながら、これらの方法は、利用者の負担が大きく、通常の睡眠状態とは異なる結果が得られてしまう可能性があることが指摘されている。PSG法以外では、血液中の酸素濃度を測定し、血中酸素量の変化に基づいて無呼吸状態及び/又は低呼吸状態を判定する手法や、胸や腹の動き等を記録する装置も考案されているが、いずれも利用者を拘束するため、利用者の負担が大きい。また、これらの方法は、利用者が大きく動いたり、装置が外れてしまったりすると、計測を行うことができないという問題がある。
【0007】
ところで、呼吸信号は、その振幅が利用者によって様々であり、また、体動等によっても信号振幅が大きく変化することから、無呼吸状態及び/又は低呼吸状態を判定するためには、呼吸信号を適切に正規化する必要がある。
【0008】
このような正規化に関する技術としては、特許文献1のように、呼吸信号の所定期間毎の分散値を演算し、正規化された分散値に基づいて睡眠時の呼吸の状態を判定するものがある。また、特許文献2には、血中酸素濃度と脈波の周波数解析とに基づいて無呼吸状態を判定する際に、正規化データを生成する技術が記載されている。
【0009】
さらに、実製品における正規化手法としては、日本光電社のクラスII医療機器である「SAS2100」において、鼻及び口にノズルを挿入して呼気の流速を測定するものがある。この装置は、呼吸量の基準値を所定値に設定し、安定した呼吸波形時における信号振幅を100として正規化し、信号振幅が50%以下の場合を低呼吸状態と判定するとともに10%以下の場合を無呼吸状態と判定している。ただし、この装置においては、正規化のための安定した基準となる呼吸波形の取得状況によって測定精度が大きく変化するという問題がある。また、この装置においては、測定中にノズルが外れたり、鼻呼吸ではなく口呼吸になったりした場合には大きな誤差が生じるという問題もある。
【0010】
また、スズケン社のクラスII医療機器である「SD-102」は、多数点の圧力センサを用いて呼吸を検出し、測定初期の安定時期を基準として呼吸信号を正規化し、信号振幅が50%以下の場合を低呼吸状態と判定するとともに10%以下の場合を無呼吸状態と判定するという手法を採用している。しかしながら、この装置においても、正規化のための安定した呼吸波形の決定如何によって測定精度が大きく変化するという問題がある。例えば、利用者が横向き状態で横臥している場合における呼吸信号の振幅を正規化の基準とした場合には、利用者の体の傾き等が変化することによって基準から大幅に外れた信号が取得されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−283030号公報
【特許文献2】特開2007−44331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、無呼吸状態及び/又は低呼吸状態を判定するためには、呼吸信号を適切に正規化する必要があるが、正規化を行うための基準となる信号振幅を適切に設定しない限り、必要な精度は得られない。
【0013】
例えば、上向き横臥状態で睡眠している場合における呼吸信号を求めた場合、睡眠前期では、図6に示すように比較的大きい振幅が得られるものの、睡眠中期では、図7に示すように振幅が小さくなり、睡眠後期では、図8に示すように振幅が極小となる、といった状況が頻出する。また、横向き横臥状態で睡眠している場合における呼吸信号を求めた場合には、例えば図9に示すように、上向き横臥状態で睡眠している場合よりも一般的には小さい振幅の呼吸信号が得られ、さらに感度(利得)が低下した場合には、図10に示すように、図9に示した振幅よりもさらに小さい振幅で推移する呼吸信号が得られる。
【0014】
このような状態で、正規化を行うための基準となる信号振幅、すなわち、呼吸による空気の最大取り入れ量に相当する信号振幅を一意に設定した場合には、呼吸状態を適切に判定することは極めて困難となる。上述した特許文献に記載された技術や実製品における手法は、正規化を行うための基準となる信号振幅の設定が不明確であるか、若しくは、一意に設定するものであるため、実際には正常呼吸である振幅が低呼吸値であると判定されることが多く、呼吸信号に基づいて呼吸状態を適切に判定することはできないものであった。そのため、従来は、呼吸信号のみならず、血中酸素飽和度計を併用して呼吸状態を判定していた。
【0015】
また、寝返り等による体動の影響は無視することができず、体動があると呼吸振幅が大きくなる。無呼吸症候群の判定は、主に無呼吸時及び/又は低呼吸時に振幅が小さくなり、呼吸が回復するのにともなって呼吸振幅が大きくなる現象を目視して行うが、体動等があると同じような現象が起こり、誤判断してしまう事態を招来することから、血中酸素飽和度計等を併用する必要があった。
【0016】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、体動が検出された場合に有効に適用可能な正規化手法を採用することにより、血中酸素飽和度計等を併用することなく、睡眠時に無侵襲且つ無拘束で検出した生体信号に基づいて利用者の呼吸状態が無呼吸及び/又は低呼吸であるか否かを高精度に診断することができる無呼吸及び/又は低呼吸診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち、上述した目的を達成する本発明にかかる無呼吸及び/又は低呼吸診断装置は、睡眠時に無侵襲且つ無拘束で検出した生体信号に基づいて利用者の呼吸状態が無呼吸及び/又は低呼吸であるか否かを診断する無呼吸及び/又は低呼吸診断装置において、前記利用者の呼吸信号を無侵襲且つ無拘束で検出する呼吸信号検出手段と、前記利用者の体動を検出する体動検出手段と、前記呼吸信号検出手段によって検出された呼吸信号のうち、所定時間の呼吸信号における最大値と最小値との差分値に基づいて正規化値を求め、前記呼吸信号の正規化を行う正規化手段と、前記正規化手段によって正規化された正規化呼吸信号に基づいて、前記利用者が無呼吸状態及び/又は低呼吸状態であるか否かを判定する呼吸状態判定手段とを備え、前記正規化手段は、前記呼吸信号における時間的に連続した3点の最大値と最小値との差分値Lmn,Lmn+1,Lmn+2をとり、これらの3点の差分値Lmn,Lmn+1,Lmn+2が所定の第1の閾値未満となるように、前記生体信号の源波形の利得を低下させるような制御を繰り返し行い、前記差分値Lmnが前記第1の閾値未満となった場合には利得制御を中止し、前記体動検出手段によって前記利用者の体動が検出されると、前記3点の差分値Lmn,Lmn+1,Lmn+2を比較して体動区間における差分値の最大値を決定し、前記差分値の最大値を用いて前記正規化値を求めて前記呼吸信号を正規化することを特徴としている。
【0018】
このような本発明にかかる無呼吸及び/又は低呼吸診断装置並びに無呼吸及び/又は低呼吸診断方法は、体動が検出された場合に有効に適用可能な正規化手法を採用することにより、無侵襲且つ無拘束で検出した呼吸信号のみに基づいて正規化を行う。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、体動が検出された場合に有効に適用可能な正規化手法を採用することから、測定に影響する大きな体動と測定に影響しない小さな体動とを区別し、体動期間について呼吸信号の正規化を行うための適正な正規化値を算出することができ、従来のように血中酸素飽和度計等を併用することなく、利用者の呼吸状態が無呼吸及び/又は低呼吸であるか否かを高精度に診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態として示す無呼吸及び/又は低呼吸診断装置の構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態として示す無呼吸及び/又は低呼吸診断装置の構成を示す図であり、図1において矢視方向からみたときの一部断面図である。
図3】呼吸信号と生体信号(源波形)の例を示す図であり、体動検出部の動作を説明するための図である。
図4】呼吸信号及び正規化呼吸信号と、これに対応する呼吸状態の判定結果を示す図である。
図5】他の生体信号検出部の構成を示す図である。
図6】上向き横臥状態で睡眠している場合において、睡眠前期の呼吸信号の例を示す図である。
図7】上向き横臥状態で睡眠している場合において、睡眠中期の呼吸信号の例を示す図である。
図8】上向き横臥状態で睡眠している場合において、睡眠後期の呼吸信号の例を示す図である。
図9】横向き横臥状態で睡眠している場合における呼吸信号の例を示す図である。
図10】横向き横臥状態で睡眠している場合において、感度低下時の呼吸信号の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
この実施の形態は、睡眠時に利用者の呼吸状態が無呼吸及び/又は低呼吸であるか否かを診断する無呼吸及び/又は低呼吸診断装置である。特に、この無呼吸及び/又は低呼吸診断装置は、適切な正規化を行うことによって高精度な診断を実現するものである。
【0023】
図1に、本発明の実施の形態として示す無呼吸及び/又は低呼吸診断装置の処理をブロックとして表した構成を示し、図2に、図1において矢視方向からみたときの一部断面図を示している。すなわち、無呼吸及び/又は低呼吸診断装置は、寝台21上に横臥している利用者の生体信号を検出する生体信号検出部1と、この生体信号検出部1によって検出された生体信号を増幅する信号増幅部2と、この信号増幅部2によって増幅された生体信号に対してフィルタリング処理を施すフィルタ部3と、このフィルタ部3を通過した呼吸信号を検出する呼吸信号検出部4と、フィルタ部3を通過した心拍信号を検出する心拍信号検出部5と、信号増幅部2によって増幅された生体信号の源波形に基づいて利用者の体動を検出する体動検出部6と、心拍信号検出部5によって検出された心拍信号に基づいて睡眠段階を判定する睡眠段階判定部7と、体動検出部6によって検出された体動信号に基づいて呼吸信号検出部4によって検出された呼吸信号を正規化する正規化部8と、心拍信号検出部5によって検出された心拍信号及び正規化部8によって得られた正規化呼吸信号に基づいて利用者の呼吸状態を判定する呼吸状態判定部9とを備える。なお、これら各部のうち、少なくとも、呼吸信号検出部4、心拍信号検出部5、体動検出部6、睡眠段階判定部7、正規化部8、及び、呼吸状態判定部9は、例えば、信号処理を行うコンピュータにおけるCPU(Central Processing Unit)やメモリ等のハードウェアを用いて実行可能なプログラムとして実装したり、コンピュータに装着可能な拡張ボードに搭載されたDSP(Digital Processing Unit)等の専用プロセッサを用いて実装したりすることができる。
【0024】
生体信号検出部1は、利用者の微細な生体信号を検出する無侵襲且つ無拘束センサである。具体的には、生体信号検出部1は、圧力検出チューブ1aと、この圧力検出チューブ1aの内部に収容されている空気の微小な圧力変動を検出するセンサである微差圧センサ1bとから構成され、無侵襲且つ無拘束な生体信号の検出手段を構成している。
【0025】
圧力検出チューブ1aとしては、生体信号の圧力変動範囲に対応して内部の圧力が変動するように適度な弾力を有するものを使用する。また、圧力検出チューブ1aとしては、圧力変化を適切な応答速度で微差圧センサ1bに伝達するために、チューブの中空部の容積を適切に選択する必要がある。圧力検出チューブ1aが適度な弾性と中空部容積とを同時に満足できない場合には、圧力検出チューブ1aの中空部に適切な太さの芯線をチューブ長さ全体にわたって装填し、中空部の容積を適切にとることができる。
【0026】
このような圧力検出チューブ1aは、寝台21上に敷設された硬質シート22上に配置される。無呼吸及び/又は低呼吸診断装置においては、硬質シート22上に弾性を有するクッションシート23が敷設されており、圧力検出チューブ1aの上に利用者が横臥することになる。なお、圧力検出チューブ1aは、クッションシート23等に組み込んだ構成とすることにより、圧力検出チューブ1aの位置を安定させる構造としてもよい。
【0027】
微差圧センサ1bは、微小な圧力の変動を検出するセンサである。本実施の形態においては、微差圧センサ1bとして、低周波用のコンデンサマイクロフォンタイプのものを使用するが、これに限定されるものではなく、適切な分解能とダイナミックレンジとを有するものであればよい。本実施の形態において使用した低周波用のコンデンサマイクロフォンは、一般の音響用マイクロフォンが低周波領域に対して配慮されていないのに引き替え、受圧面の後方にチャンバーを設けることによって低周波領域の特性を大幅に向上させたものであり、圧力検出チューブ1a内の微小圧力変動を検出するのに好適なものである。また、このコンデンサマイクロフォンは、微小な差圧を計測するのに優れており、0.2Paの分解能と約50Paのダイナミックレンジとを有し、通常使用されるセラミックを利用した微差圧センサと比較して数倍の性能を持つものであり、生体信号が体表面に通して圧力検出チューブ1aに加えた微小な圧力を検出するのに好適なものである。また、周波数特性は、0.1Hz〜30Hzの間で略平坦な出力値を示し、心拍及び呼吸等の微小な生体信号を検出するのに適している。
【0028】
本実施の形態においては、一方が利用者の胸部の部位の生体信号を検出し、他方が利用者の臀部の部位を検出するように、2組の圧力検出チューブ1aが設けられており、利用者の就寝の姿勢にかかわらず生体信号を検出するように構成されている。なお、無呼吸及び/又は低呼吸診断装置においては、胸部の部位又は臀部の部位の一方のみに圧力検出チューブ1aを配置する構成としてもよい。このような生体信号検出部1によって検出された生体信号は、信号増幅部2に供給される。無呼吸及び/又は低呼吸診断装置は、このような無侵襲且つ無拘束で生体信号を検出する構成とすることにより、日常生活において容易に使用することができ、特に高齢者の使用に極めて好適である。
【0029】
信号増幅部2は、後の処理工程で処理できるように生体信号検出部1によって検出された信号を増幅し、さらに、明らかに異常なレベルの信号を除去する等して適切な信号整形処理を行う。この信号増幅部2によって増幅された生体信号は、フィルタ部3に供給される。
【0030】
フィルタ部3は、信号増幅部2によって増幅された生体信号から不要な信号をバンドパスフィルタ等によって除去することにより、呼吸信号及び心拍信号を抽出する。すなわち、生体信号検出部1によって検出された生体信号は、人体から発する様々な振動が混ざり合った信号であり、その中に呼吸信号や心拍信号の他、寝返り等による体動信号等の様々な信号が含まれている。このうち、呼吸信号は、肺の動きに基づく体動の変化が振動となって生体信号に含まれるものである。また、心拍信号は、心臓のポンプ機能に基づく圧力の変化(すなわち血圧)が振動となって生体信号に含まれるものである。無呼吸及び/又は低呼吸診断装置においては、これをフィルタ部3によって抽出することにより、呼吸信号及び心拍信号として認識する。このフィルタ部3を通過した呼吸信号及び心拍信号は、それぞれ、呼吸信号検出部4及び心拍信号検出部5に供給される。なお、呼吸信号及び心拍信号のサンプル周期は、4ミリ秒としている。なお、フィルタ部3は、呼吸信号検出部4に供給する呼吸信号を得るためには、信号増幅部2によって増幅された生体信号に対して所定時間による短時間移動平均処理を行ってノイズ除去を行う等、簡単な処理を施せば本発明の目的を達成可能な呼吸信号を得ることができる。
【0031】
呼吸信号検出部4は、フィルタ部3によって抽出された呼吸信号を検出する。この呼吸信号検出部4によって検出された時系列波形からなる呼吸信号は、測定された生の信号波形によって表され、そのときの装置の感度設定等にかかわらず、振幅にも制限がない状態である。呼吸信号検出部4は、検出した呼吸信号を正規化部8に供給する。
【0032】
心拍信号検出部5は、フィルタ部3によって抽出された心拍信号を検出する。この心拍信号検出部5によって検出された時系列波形からなる心拍信号は、測定された生の信号波形によって表され、そのときの装置の感度設定等にかかわらず、振幅にも制限がない状態である。心拍信号検出部5は、検出した心拍信号を睡眠段階判定部7に供給する。
【0033】
体動検出部6は、信号増幅部2によって増幅された生体信号の源波形に基づいて、利用者の身体が移動して測定位置が変化した場合や体位が変化した場合等、利用者の体動を検出する。例えば、体動検出部6は、図3に示すように、生体信号の源波形の振幅の測定レンジが0から1000までであったとすると、生体信号の振幅HL1が上下2つの所定値(例えば800と200)を通過する状態が所定時間(例えば3秒)継続する場合には、体動があったものと判定する。なお、体動検出部6による体動の検出方法は、特に限定されるものではない。体動検出部6は、検出した体動情報を正規化部8に供給する。
【0034】
睡眠段階判定部7は、心拍信号検出部5によって検出された心拍信号に基づいて、睡眠中の利用者の睡眠段階、すなわち、覚醒段階、レム睡眠段階、第1のノンレム睡眠段階及び第2のノンレム睡眠段階(浅いノンレム睡眠段階)、並びに、第3のノンレム睡眠段階及び第4のノンレム睡眠段階(深いノンレム睡眠段階)の6段階の種別を判定する。例えば、睡眠段階判定部7は、心拍信号検出部5によって検出された心拍信号に対して所定の信号レベルの範囲内に入るように自動利得制御を行い、その利得制御を行った際の利得の値(係数)に基づいて心拍信号の強度を算出し、算出した信号強度のデータについて、所定時間のデータのばらつきを示す分散値を算出し、この分散値の時系列データに基づいて、睡眠段階を判定することができる。また、睡眠段階判定部7は、心拍信号検出部5によって検出された心拍信号に基づいて求めた脳波成分比率の時系列データに基づいて、睡眠段階を判定することもできる。その他、本件出願人による特開2012−65853号公報に記載された手法等を適用してもよい。すなわち、睡眠段階判定部7による睡眠段階の判定方法は、特に限定されるものではない。睡眠段階判定部7は、判定した睡眠段階情報を呼吸状態判定部9に供給する。
【0035】
正規化部8は、呼吸信号検出部4によって検出された呼吸信号を、その振幅が所定の測定レンジにおさまるように正規化する。具体的には、正規化部8は、呼吸信号検出部4によって検出された呼吸信号のうち、所定時間(例えば5秒)の呼吸信号における最大値と最小値との差分値(呼吸信号の振幅値)を所定の第1の閾値未満となるように制御を行う。すなわち、正規化部8は、先に図9図10に示したように横向き横臥状態における呼吸信号の振幅が一般的に小さいことから、この状態での所定時間(例えば5秒)の呼吸信号における最大値と最小値との差分値が所定の第1の閾値未満となるようにし、差分値が第1の閾値未満となった場合には制御を中止する。そして、正規化部8は、この第1の閾値を100%として、呼吸信号の正規化を行う。特に、正規化部8は、信号測定を開始したときに正規化を行うとともに、それ以降は体動検出部6によって体動が検出されるたびに正規化を行う。正規化部8は、正規化した正規化呼吸信号を呼吸状態判定部9に供給する。また、正規化部8は、体動が検出された場合にも適切な正規化を行うことができるが、これについては後述するものとする。
【0036】
呼吸状態判定部9は、正規化部9によって正規化された正規化呼吸信号に基づいて、利用者の呼吸状態が無呼吸状態及び/又は低呼吸状態であるか否かを判定する。呼吸状態判定部9は、判定した呼吸状態情報を出力し、図示しない表示装置に表示させたり、印刷装置によって印刷させたり、記憶装置にデータとして記憶させたりする。このとき、呼吸状態判定部9は、睡眠段階判定部7によって判定された睡眠段階と対応付けて、判定した呼吸状態を記録するのが望ましい。
【0037】
このような無呼吸及び/又は低呼吸診断装置は、生体信号検出部1によって生体信号を取り込んで検出した生体信号を信号増幅部2によって増幅し、フィルタ部3によって不要な信号を短時間移動平均処理やバンドパスフィルタ等によって除去する。これにより、後段の呼吸信号検出部4及び心拍信号検出部5によって検出可能な呼吸信号と心拍信号とが抽出される。なお、体動信号は心拍信号と比較して大きい信号であることから、心拍信号は体動信号に内包された信号となる。そして、無呼吸及び/又は低呼吸診断装置においては、呼吸信号検出部4によって呼吸信号を検出するとともに、心拍信号検出部5によって心拍信号を検出する。呼吸信号は、正規化部8による正規化が行われ、呼吸状態判定部9による呼吸状態の判定に用いられる。一方、心拍信号は、睡眠段階判定部7による睡眠段階の判定に用いられる。
【0038】
ここで、正規化が必要な状況は、利用者が入床して信号測定を開始したときと、睡眠中に利用者の身体が移動して測定位置が変化したときと、体位が上向きと横向きとの間で変化したときである。このうち、後者2つの場合は、利用者の体動を検出したときと言い換えることができる。そこで、無呼吸及び/又は低呼吸診断装置は、利用者が入床して信号測定を開始したときに正規化を行うとともに、それ以降は体動検出部6によって大きな体動が検出されるたびに正規化を行う。
【0039】
まず、信号測定を開始したときの正規化は、以下のようにして行う。すなわち、無呼吸及び/又は低呼吸診断装置において、正規化部8は、呼吸信号検出部4によって検出された呼吸信号のうち、所定時間(例えば5秒)の呼吸信号における最大値と最小値との差分値Lmnを算出し、この差分値Lmnに着目して正規化を行う。
【0040】
具体的には、正規化部8は、呼吸信号の振幅の測定レンジが0から1000までであったとすると、横向き横臥状態における所定時間(例えば5秒)の呼吸信号における最大値と最小値との差分値Lmnが所定の第1の閾値L1(例えば800)未満となるように、生体信号の源波形の利得(感度)を所定値だけ徐々に低下させるような制御を繰り返し行い、差分値Lmnが第1の閾値L1未満となった場合には、利得制御を中止する(利得を変化させない)。すなわち、正規化部8は、差分値Lmnが第1の閾値L1を上回らないように呼吸信号の利得を設定する。そして、正規化部8は、このように利得を設定することにより、呼吸信号の波形を測定レンジの0〜100%におさまる波形に正規化して正規化呼吸信号を得ることができる。
【0041】
また、利用者の体動を検出したときの正規化は、以下のようにして行う。すなわち、無呼吸及び/又は低呼吸診断装置において、正規化部8は、心拍信号の振幅HL1が上下2つの所定値(例えば800と200)を通過する状態が所定時間(例えば3秒)継続する場合に体動検出部6によって体動があったものと判定されると、この体動区間において正規化を行う。具体的には、正規化部8は、体動区間において、所定時間(例えば5秒)の呼吸信号における時間的に連続した3点の最大値と最小値との差分値Lmn,Lmn+1,Lmn+2をとり、これらの3点の差分値Lmn,Lmn+1,Lmn+2を比較して体動区間における差分値の最大値を決定し、その最大値を用いて正規化値を求めて呼吸信号全体を正規化する。特に、正規化部8は、無呼吸及び/又は低呼吸状態が検出された場合には、無呼吸及び/又は低呼吸後に発生する大きな呼吸(深呼吸)による信号を基準とすると、通常の呼吸信号を正規化した場合に振幅が小さくなり過ぎることから、正規化処理を所定時間(約100秒間)の間隔で、ある体動から次の体動までの区間の正規化値を求める。そして、正規化部8は、最後の体動区間が所定時間(約100秒間)未満である場合であっても、最小の所定時間(約30秒間)について正規化値を求める。
【0042】
このとき、正規化部8は、以下の4つの条件を満たすような体動区間における差分値を選択する。
【0043】
まず、正規化部8は、第1の条件として、
Lmn,Lmn+1,Lmn+2<第1の閾値L1(例えば800)
となる差分値を選択する。
【0044】
また、正規化部8は、第2の条件として、これら差分値Lmn,Lmn+1,Lmn+2の間の関係が、
|Lmn−Lmn+1|<所定値(例えば100)
|Lmn+1−Lmn+2|<所定値(例えば100)
|Lmn−Lmn+2|<所定値(例えば100)
となる差分値を選択する。
【0045】
さらに、正規化部8は、第3の条件として、Lmn<Lmn+1<Lmn+2である場合には、
(Lmn+2−Lmn)*100/Lmn+2<A%(例えば35%)
となる差分値を選択する。なお、正規化部8は、第4の条件として、体動が検出された直前及び直後の所定時間t0(例えば15秒)の間を不感帯とする。
【0046】
正規化部8は、これら4つの条件を満たす3点の差分値Lmn,Lmn+1,Lmn+2を取得すると、これら差分値Lmn,Lmn+1,Lmn+2の最大値TLMNを取得する。そして、正規化部8は、この最大値TLMNが測定レンジの100%となるように、すなわち、
Lmn*100/TLMN、Lmn+1*100/TLMN、Lmn+2*100/TLMN
となるように正規化値を求めて正規化を行う。正規化部8は、このような制御を繰り返し行う。
【0047】
このように、正規化部8は、呼吸信号の正規化を行うための基準、すなわち、呼吸による空気の最大取り入れ量に相当する信号振幅を条件に合致したときに随時設定して正規化を行うことができる。なお、無呼吸及び/又は低呼吸診断装置は、このような正規化処理を行っている最中は、体動の検出処理と呼吸状態の判定処理とを行わないように制御する。
【0048】
無呼吸及び/又は低呼吸診断装置は、このようにして得られた正規化呼吸信号に基づいて、呼吸状態判定部9によって利用者が無呼吸状態及び/又は低呼吸状態であるか否かを判定する。このとき、呼吸状態判定部9は、正規化部8によって正規化された正規化呼吸信号のうち、所定時間(例えば5秒)の正規化呼吸信号における最大値と最小値との差分値(正規化差分値という)LNmnを算出し、この正規化差分値LNmnに着目して呼吸状態の判定を行う。なお、無呼吸状態及び/又は低呼吸状態であるか否かの判定に際して、制御ピッチと判定ピッチは別個に取り扱う。
【0049】
具体的には、呼吸状態判定部9は、無呼吸状態の定義である「10秒以上の呼吸停止状態」と、低呼吸状態の定義である「呼吸による空気の取り入れ量が最大取り入れ量から50%以上低下した状態が10秒以上継続する状態」に基づいて、10秒間の正規化呼吸信号の状況によって判定する。呼吸状態判定部9は、1秒ピッチで10秒間の正規化差分値LNmnを算出し、この正規化差分値LNmnが連続して0〜100%の測定レンジにおける50%以下であった場合には、低呼吸状態であると判定し、正規化差分値LNmnが連続して10%以下であった場合には、無呼吸状態であると判定する。そして、呼吸状態判定部9は、次回の正規化差分値LNmnの算出処理ピッチとして10秒経過した後に、再度1秒ピッチで同様に正規化差分値LNmnの算出による呼吸状態の判定を行う。なお、呼吸状態判定部9によって無呼吸及び/又は低呼吸状態が検出された場合には、上述したように、呼吸状態判定部9による判定では、正常の呼吸状態における小さな振幅の信号が低呼吸状態に相当する振幅にならず、かかる信号を検出することができる。
【0050】
図4に、無呼吸状態の判定例として、体動検出時を含む実際の呼吸信号及び正規化呼吸信号と、これに対応する呼吸状態の判定結果を示す。なお、同図には、本発明にかかる手法による信号及び判定結果とともに、圧電素子を用いた従来の無拘束呼吸測定装置による信号及び判定結果と、病院において呼吸に起因する腹部の変位を測定したときの信号及び判定結果とを比較例として示し、さらに酸素濃度を実測した信号も示している。これらは同一被験者について同時に測定した結果である。同図からわかるように、従来の無拘束呼吸測定装置による判定結果は、実際に無呼吸状態及び/又は低呼吸状態と判定されるべき時間よりも遅れて無呼吸状態及び/又は低呼吸状態と判定したものとなっているのに対して、正規化部8によって測定レンジの0〜100%におさまるように正規化した正規化呼吸信号による判定結果は、病院における腹部の変位による判定結果と同様に、ほぼ遅延なく無呼吸状態及び/又は低呼吸状態と判定したものとなっている。
【0051】
以上説明したように、本発明の実施の形態として示す無呼吸及び/又は低呼吸診断装置においては、無侵襲且つ無拘束で体動を随時測定し、その体動期間について呼吸信号の正規化を行うための適正な正規化値を算出することにより、正規化を自動的に行うことから、従来のように血中酸素飽和度計等を併用することなく、利用者の呼吸状態が無呼吸及び/又は低呼吸であるか否かを高精度に診断することができる。
【0052】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。
【0053】
例えば、上述した実施の形態では、生体信号を検出する方法として、利用者の身体の下に敷設した無拘束の生体信号検出部1によって得られた生体信号から呼吸信号や心拍信号を抽出する方法を示したが、本発明は、継続的に呼吸信号や心拍信号又はこれらと同等の信号が得られる検出手段であれば適用可能である。また、本発明は、呼吸信号と心拍信号とを同じ生体信号から抽出するのではなく、別個に検出するようにしてもよい。例えば、本発明は、呼吸信号については上述したような手法で検出する一方で、体動測定用振動系等については手首や上腕部等の身体に装着するタイプの心拍計や脈拍計であってデータを連続的に記録することが可能なものを用いて検出するようにしてもよい。
【0054】
また、生体信号検出部1としては、上述した中空チューブを用いる代わりに、図5に示すようなエアマット式の検出手段を用いてもよい。すなわち、図5に示す生体信号検出部30は、内部に空気を封入したエアマット30aの一端にエアチューブ30bが接続され、さらに、このエアチューブ30bに微差圧センサ30cが接続されて構成される。なお、微差圧センサ30cは、中空チューブを用いた生体信号検出部1の場合において説明したものと同様のものを用いることができる。
【0055】
さらに、上述した実施の形態では、体動検出部6が信号増幅部2によって増幅されたフィルタリング前の生体信号の源波形に基づいて体動を検出するものとして説明したが、本発明は、適切に体動を検出できるものであれば適用することができる。
【0056】
このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0057】
1,30 生体信号検出部
1a 圧力検出チューブ
1b,30c 微差圧センサ
2 信号増幅部
3 フィルタ部
4 呼吸信号検出部
5 心拍信号検出部
6 体動検出部
7 睡眠段階判定部
8 正規化部
9 呼吸状態判定部
21 寝台
22 硬質シート
23 クッションシート
30a エアマット
30b エアチューブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10