特許第6589119号(P6589119)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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▶ ザ・リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ミシガンの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6589119
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】異所性骨化を治療する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/198 20060101AFI20191007BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20191007BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20191007BHJP
   A61P 19/04 20060101ALI20191007BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20191007BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   A61K31/198ZNA
   A61K31/436
   A61K31/704
   A61P19/04
   A61P19/08
   A61P43/00 105
   A61P43/00 111
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-533651(P2018-533651)
(86)(22)【出願日】2016年12月9日
(65)【公表番号】特表2019-501177(P2019-501177A)
(43)【公表日】2019年1月17日
(86)【国際出願番号】US2016065810
(87)【国際公開番号】WO2017112431
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2019年4月17日
(31)【優先権主張番号】62/387,439
(32)【優先日】2015年12月24日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511000957
【氏名又は名称】ザ・リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ミシガン
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF MICHIGAN
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン レビ
(72)【発明者】
【氏名】シャイレッシュ アガーウォール
【審査官】 参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】 Molecular Therapy,2011年,Vol.19(8),pp.1426-1432
【文献】 J. Oral. Biosci.,2008年,Vol.50, Suppl.,p.181, P-183
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/198
A61K 31/436
A61K 31/704
A61P 19/04
A61P 19/08
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝性異所性骨化(HO)を有する対象、又は、遺伝性HOを患うおそれを有する対治療するための医薬品であって、ラパマイシン、テムシロリムス、エベロリムス、デフォロリムス、ゾタロリムス、32デオキシ−ラパマイシン、ジゴキシン、イマチニブ、又はPX−478を含む医薬品
【請求項2】
X−478を含む、請求項1記載の医薬品
【請求項3】
パマイシンを含む、請求項1記載の医薬品
【請求項4】
対象が、遺伝的に異所性骨病変形成の素因を有し、又は、遺伝疾患を有する、請求項1〜3の何れか一項に記載の医薬品。
【請求項5】
対象が、進行性骨化性線維異形成症を患う、請求項4に記載の医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異所性骨化を治療するための方法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年12月24日に出願された米国特許仮出願第62/387,439号の優先権を主張するものであり、その開示内容は参照により組み込まれる。
【0003】
政府所有権に関する陳述
本発明は、国立衛生研究所によって与えられたGM109105の下で政府支援により行われた。政府は本発明に対し一定の権利を有する。
【0004】
電子的に提出された資料の参照による援用
本出願は、本開示の別個の部分として、コンピュータ可読形式の配列表を含み、これは参照によりその全体が組み込まれ、以下の通りに識別される:ファイル名:50313A_Seqlisting.txt、サイズ:1,488バイト、2016年12月6日作成。
【背景技術】
【0005】
異所性骨化(HO)は、軟組織における病的な骨外性骨化である。Vanden Bossche and Vanderstraeten,J Rehabil Med 27,129(2005)。このプロセスは、広範囲表面積の熱傷、筋骨格損傷、整形外科手術、及び脊髄損傷を含む重度の外傷を有する患者集団において、ならびに進行性骨化性線維異形成症(FOP)として知られる遺伝疾患を有する患者集団において生じる。FOPは、I型骨形成タンパク質(BMP)受容体ACVR1における過剰活性化変異によって引き起こされ、FOPを有する患者は、実質的外傷が何ら存在しない状態で異所性骨病変を発症する。これらの病的な異所性骨化の臨床的後遺症には、外傷の設定であれ遺伝的変異の設定であれ、治癒しない創傷、慢性疼痛、及び関節の硬直が含まれる。FOPの症例において、進行性の骨化は、胸郭コンプライアンスの喪失に起因して死につながり得る。
【0006】
HOに対する治療選択肢は、外科的切除の後に骨が再発し、一部の患者ではHOがその繊細な位置に起因して切除不能であり得ることから、限定されている。手術の危険性は、とりわけ再発に直面して、切除の有益性を上回り得る。危険性のある患者においてHOが最初に出現する前にそれを予防することができる治療選択肢が必要とされる。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、例えば、異所性骨化の治療を必要とする対象において異所性骨化を治療する方法であって、酸素誘導因子−1α(Hif−1α)を対象に投与することを含む、方法を含む。種々の実施形態において、Hif−1α阻害剤は、PX−478、ラパマイシン、またはジゴキシンである。
【0008】
本発明はまた、異所性骨化の治療を必要とする対象において異所性骨化を治療する方法であって、ラパマイシンの機構的標的(mTor)阻害剤を対象に投与することを含む、方法も含む。
【0009】
種々の実施形態において、異所性骨化は遺伝性であり、任意選択で、対象は進行性骨化性線維異形成症を患う。代替的な実施形態において、異所性骨化は、熱傷、筋骨格損傷、整形外科手術(例えば、股関節全置換術後、関節形成術後)、脊髄損傷、脳卒中、灰白髄炎、骨髄異形成、一酸化炭素中毒、脊髄腫瘍、脊髄空洞症、破傷風、または多発性硬化症などの外傷から生じる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】熱傷したまたは熱傷していない「対照」患者由来の脂肪組織から単離されたmRNA転写物のインジェニュイティ経路解析(ingenuity pathway analysis)を例示する。
図1B】HIF1α、vWF、PECAM、FLT1、CDH5、及びVEGFを含むプロ血管性経路の上方制御を例示する図である。
図1C】熱傷していない「対照」患者と比較したときの、熱傷患者の遺伝子発現における数倍の増加を示すチャートである。
図2A-C】図2Aは、マウスに後肢アキレス腱横切開と共に30%総体表面積の背部中間層熱傷損傷を与えて、踵骨に沿ってまた軟組織内に近位にHO形成をもたらす、HOの外傷誘導モデルを例示する。図2Bは、Ad.cre及び心臓毒をcaACVR1fl:flマウスの腓腹筋に注射して、筋肉内HO形成をもたらす、ハイブリッドモデルを例示する。図2Cは、遺伝性HOのモデルにおいてマウスに生後4〜5日で概して関節に限局したHOを発症させた、Nfatc1−Cre/caACVR1fl:野生型マウスモデルを例示する。
図3A】PX−478処置及び対照処置熱傷/腱切除マウスのマイクロCTスキャンによる3次元再建及び連続断面図を図示する。
図3B】対照処置(左側の棒)マウス及びPX−478処置(右側の棒)マウスにおいての、熱傷/腱切除モデルにおける軟組織HO体積(y軸(mm))(9週目の体積:0.90mmv.0.00mm、p=0.05;9週目の正規化体積:1.0v.0.0、p=0.05;肯定/否定:χ2=9.5、p<0.01)、及び熱傷/腱切除マウスにおける総HO体積(y軸(mm))(5週目の体積:4.3mmv.1.5mm、p<0.05;9週目の体積:5.8mmv.2.3mm、p<0.05;9週目の正規化体積:1.0v.0.4、p<0.05)を例示する棒グラフである。PX−478は、総HO体積を有意に減少させ、軟組織HOを排除した。
図3C】ラパマイシン処置及び対照処置熱傷/腱切除マウスのマイクロCTスキャンによる3次元再建及び連続断面図を図示する。
図3D】対照処置(左側の棒)及びラパマイシン処置(右側の棒)マウスの熱傷/腱切除モデルにおける軟組織HO体積及び総HO体積(y軸(mm))を例示する棒グラフである。ラパマイシン処置は、デノボHO形成を有意に低減した(9週目の体積:1.60mmv.0.81mm、p<0.05;9週目の正規化体積:1.0v.0.51、p<0.05)。*体積測定値に関してp<0.05;†二値解析(肯定/否定)に関してp<0.05。矢印=「軟組織」異所骨;薄い破線の円=踵骨異所骨;PX−478処置マウスに関してn=3;PX−478対照マウスに関してn=11;ラパマイシン処置マウスに関してn=5;ラパマイシン対照マウスに関してn=4。
図4A】PX−478処置及び対照処置ハイブリッドモデルマウスのマイクロCTスキャンによる3次元再建及び連続断面図を図示する。
図4B】対照処置及びPX−478処置マウスにおける総HO体積(y軸)を例示する棒グラフである。PX−478処置ハイブリッドモデルマウスは、対照処置マウスと比較したとき、マイクロCTにおいてHOの形跡をほとんど生じなかった(対照:n=12脚、PX−478:n=12脚)(体積:18.1mmv.0.01mm、p=0.01;正規化体積:1.0v.0.0、p=0.01;肯定/否定:χ2=13.6、p<0.001)。
図4C】ラパマイシン処置及び対照処置ハイブリッドモデルマウスのマイクロCTスキャンによる3次元再建及び連続断面図を図示する。
図4D】対照処置及びラパマイシン処置マウスにおける総HO体積(y軸)を例示する棒グラフである。ラパマイシン処置ハイブリッドモデルマウスは、対照処置マウスと比較したとき、マイクロCTにおいてHOの形跡を何ら生じなかった(対照:n=8脚、ラパマイシン:n=10脚)(体積:17.5mmv.0.00mm、p<0.001;正規化体積:1.0v.0.0、p<0.05;肯定/否定:χ2=14.3、p<0.001)。
図4E】対照処置及びPX−478処置遺伝性HOマウスの足首再建を例示する。
図4F】対照またはPX−478で処置された遺伝性HOマウスの足首の骨外性骨体積の定量比(体積)を例示する棒グラフである。(800ハウンスフィールド単位)(体積:6.8mmv.2.2mm、p<0.01;正規化体積:1.0v.0.32、p<0.01;n=4対照処置脚;n=4PX−478処置脚)。*体積測定値に関してp<0.05;†二値解析(肯定/否定)に関してp<0.05;矢印=異所骨。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、少なくとも部分的に、ラパマイシンまたはPX−478などのHif1α阻害剤がHOの異なるモデルにおいて骨外性骨化を強力に減少させるという発見に基づく。異所性骨化の治療を必要とする対象において異所性骨化を治療する方法が、本開示によって提供される。本方法は、低酸素誘導因子−1α(Hif−1α)阻害剤を対象に投与することを含む。HIF−1αは、HIF転写因子ヘテロ二量体の構成要素であり、特徴がよく解明されている。例えば、Prior et al.,Physiological Genomics 15(1),20(2003)を参照されたい。Hif−1α阻害剤の例としては、PX−478(例えば、Koh et al.,Mol Cancer Ther 7(1),90(2008)に記載される、S−2−アミノ−3−[4′−N,N,−ビス(クロロエチル)アミノ]フェニルプロピオン酸N−オキシドジヒドロクロリド)、ラパマイシン、及びジゴキシンが挙げられるが、これらに限定されない。他のHif−1α阻害剤には、例えば、CJ−3k及びその誘導体(例えば、Massoud et al.,Anticancer Res.35(7)、3849−59(2015)に記載される)、エキノマイシン、トポテカン、LAQ824(例えば、Qian et al.,Cancer Res 66,8814(2006)に記載される)、メトホルミン、イマチニブ、ウアバイン、及びプロスシラリジンが含まれ、追加の阻害剤が当該技術分野で知られている。種々の実施形態において、Hif−1α阻害剤は、siRNAまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドではない。Hif−1α阻害剤は、治療効果を達成するためにHif−1αを完全に阻害する必要はなく、本阻害剤は好ましくは、Hif−1α活性を少なくとも50%(例えば、50%〜99%)、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%阻害する。本阻害剤は、Hif−1αタンパク質レベル、活性化、脱ユビキチン化などを阻害または低減してHif−1α活性を阻害し得る。
【0012】
加えて、本発明は、異所性骨化の治療を必要とする対象において異所性骨化を治療する方法であって、ラパマイシンの機構的標的(mTor)阻害剤を対象に投与することを含む、方法を含む。mTorは、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ関連キナーゼタンパク質ファミリーのセリン/スレオニンタンパク質キナーゼであり、特徴がよく解明されている。例えば、Laplante et al.,Cell 149(2),274(2012)、Sauer et al.,Biochem Soc Trans 41,889(2013)を参照されたい。mTor阻害剤の例としては、ラパマイシン、テムシロリムス、エベロリムス、デフォロリムス、ビンクリスチン、ゾタロリムス、32デオキシ−ラパマイシン、NVP−BEZ235、BGT226、SF1126、PKI−587、INK128、AZD8055、AZD2014、GNE477(チエノピリミジン)、PI−103(三環系ピリドフロピリミジン)、XL765、WJD008(5−シアノ−6−モルホリノ−4−置換ピリミジン類似体)、PP242、PP30、Torin1、WYE−354、WAY−600、WYE−687、Ku−0063794、クルクミン、レスベラトロール、没食子酸エピガロカテキン、ゲニステイン、3,3−ジインドリルメタン、及びカフェインが挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
種々の実施形態において、異所性骨化は遺伝性であり、任意選択で、対象は進行性骨化性線維異形成症を患う。代替的な実施形態において、異所性骨化は、熱傷、筋骨格損傷、整形外科手術、または脊髄損傷などの外傷から生じる。それ故、種々の態様において、対象は、異所性骨化を患うか、または異所性骨化を患う危険性がある(例えば、遺伝性的に異所性骨病変の形成の素因がある、外傷を受けたなど)。種々の実施形態において、本方法は、対象にHif−1α阻害剤(及び/またはmTor阻害剤)を、異所性骨化を全体的にまたは部分的に治療するのに有効な量及び条件下で投与することを含む。異所性骨化「を治療すること」には、対象における異所性骨化の形成もしくは進行を予防するもしくはそれを緩徐にする、ならびに/または異所性骨化に関連する症状の発現を低減するもしくは遅延させることが含まれる(しかしこれらに限定されない)。本方法は、有益な(例えば、治療)効果を達成するために異所性骨化の進行を完全に予防するまたは停止する必要はないことが理解されよう。異所性骨化の発現もしくは進行または異所性骨化に関連する症状の重症度のいずれの阻害も企図される。例えば、骨が通常は存在しない軟組織構造内側の層板骨の形成のいずれの低減も企図される。
【0014】
異所性骨化を治療する上での本方法の有効性を判定する方法が当該技術分野で知られており、本明細書に記載される。例えば、異所性骨化の進行は、x線、骨スキャン、対象の可動域、24時間の尿中のプロスタグランジンE2排泄、超音波、及び/または関節腫脹もしくは疼痛の評価を用いて監視される。
【0015】
本発明は、異所性骨化の治療におけるHif−1α阻害剤及び/またはmTor阻害剤の使用をさらに含む。例えば、Hif−1α阻害剤及び/またはmTor阻害剤は、本明細書に詳述されるように、異所性骨化の治療用の医薬品の製造において使用することができる。
【0016】
Hif−1α阻害剤は、消炎剤、鎮痛剤、放射線療法、及び理学療法を含むがこれらに限定されない、他の活性剤または治療法と併用投与することができる。同様に、mTor阻害剤は、消炎剤、鎮痛剤、放射線療法、及び理学療法を含むがこれらに限定されない、他の活性剤または治療法と併用投与することができる。
【実施例】
【0017】
この実施例は、臨床的に関連性のある動物モデルにおいて外傷誘導性及び遺伝系異所性骨化の両方を治療するHIF−1α阻害剤の能力を実証するものであり、本発明の方法のさらなる説明を提供する。
【0018】
材料及び方法
遺伝子発現プロファイリング患者登録及び試料採取:患者登録及び患者の試料採集については以前に記載されている。Cobb,J.P.,et al.Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 102,4801−4806(2005)。2000年〜2009年に4つの熱傷センターのうちの1つにおいて244人の熱傷患者を登録した。入院が損傷後96時間以内に生じた場合、TBSAの少なくとも20%が侵され、少なくとも1回の切除及び移植術が必要とされた。加えて、2004〜2007年に35人の健常な対照被験者(16〜55歳)を募集した。熱傷患者及び対照患者の両方において、脂肪組織を採集し、RNA転写物レベルについて分析した。細かい剪刀または外科用メスを使用して、80mgの脂肪組織を得、氷冷ペトリ皿の上に即座に置き、2〜5mmの立方体へと切り刻んだ。標準作業手順書(SOP)B001.03に従って、試料を、2mlのRNAlaterを含有するクライオジェニックチューブに入れて組織を安定化させ、SOP G026.01に従って、商業的RNA精製キット(RNeasy、Qiagen,Valencia,CA)を使用して組織を総細胞RNAにプロセスした。ビオチン化cRNAを4μgの総細胞RNAから生成し、製造業者の推奨に従ってHU133 Plus 2.0 GeneChips(Santa Clara,CA)上にハイブリダイズし、染色し、洗浄した。総計25,000の遺伝子をクエリし、このうち3,500が有意に変化し、偽発見率(FDR)<0.001及び定義された倍率変化≧1.5であった。
【0019】
時系列遺伝子発現データの解析:RNAlater(Ambion)を使用して検体を即座に安定化させた。総細胞RNAを、商業的RNA精製キット(RNeasy、Qiagen)を使用して質の良い残りの検体から抽出した。ビオチン化cRNAを、3′IVT Express Kit及びAffymetrixのプロトコルを使用して1μgの総細胞RNAから生成し、HU133 Plus 2.0 GeneChip (Affymetrix)上にハイブリダイズした。EDGE(差次的遺伝子発現の抽出(Extraction of Differential Gene Expression))を用いて、1,000のランダム置換につき各遺伝子の発現変化の有意性を推定した。有意な遺伝子は、FDR<0.001及び倍率変化≧1.5を基準に選択した。これらの遺伝子をIngenuity Pathway Analysis36を用いてさらに解析した。
【0020】
動物:骨外性骨評価に含めたマウスは、野生型C57BL/6(Charles River Laboratory)、Cdh5−Cre/tdTomatofl/野生型、Prx−Cre/Hif1αfl/fl、Prx−Cre/ROSA26mTmG、caAcvr1fl/fl、Nfatc1−Cre/caAcvr1fl/野生型、または同腹仔対照であった。テールゲノムDNAを遺伝子型決定に用いた。生物発光イメージングに使用したマウスは、ODD−luc導入遺伝子にホモ接合性であった。これらのマウスにおいて、低酸素誘導因子1α酸素依存的分解ドメイン(ODD)のC末端部分は、蛍ルシフェラーゼ(luc)遺伝子に融合されている。低酸素は、融合タンパク質の安定化を引き起こし、それによってルシフェリン投与時の蛍光を増加させる。
【0021】
骨外性骨モデル:全てのマウスに、0.1mg/kgのブプレノルフィンからなる術前麻酔、続いてイソフルラン吸入による麻酔を与え、麻酔投与により術後の綿密な監視を行った。熱傷/腱切除マウスにおいては、剃毛した背部に30%総体表面積(TBSA)中間層熱傷を与え、続いて左後肢アキレス腱横切開を行った。背部は、水浴中で60℃に加熱した金属ブロックを用いて、背部に18秒間継続的に適用して熱傷させた。腱切除部位は、一本の5−0バイクリル縫合を皮膚のみに通して適用することにより閉じた。caAcvr1fl:flマウスには、後肢心臓毒及びAd.cre注射をP24で与えた。次いで、マウスを22日後(PX−478)または15日後(ラパマイシン)に安楽死させた。安楽死日における差異を説明するために、各薬物処置につき別個の対照を使用した。Nfatc1−Cre+マウスをcaAcvr1fl:野生型マウスと交配させることによって、Nfatc1−Cre/caAcvr1fl:野生型マウスを生成した。結果として生じた変異体は、P4〜5までに骨外性骨を発症した。
【0022】
薬物処置:熱傷/腱切除またはハイブリッドHOマウスに、腹腔内注射を介してPBS溶液中のPX−478(100mg/kg)またはラパマイシン(5mg/kg)を投与した。マウスには、本研究の継続期間にわたって1日おきに注射を与えた。Nfatc1−Cre/caACVR1fl:野生型マウスには、PX−478(100mg/kg)を総計2週間にわたって1日おきに投与した。
【0023】
間葉系幹細胞の単離及び培養:マウス間葉系幹細胞(MSCs)を、野生型マウス踵骨から始まり腓骨及び脛骨の合流部までの腱横切開部位から採取した。全ての組織を機械的に細かく切り刻み、コラゲナーゼA及びディスパーゼで消化させ、その後プレートした。Hif1α発現に対する薬物処理を試験するために、細胞を0.5%酸素を含む低酸素チャンバで培養した。低酸素処理の24時間前にPX−478(10μM)またはラパマイシン(5μM)での細胞処理を開始し、再び低酸素に24時間供した。タンパク質を採取し、ウェスタンブロットを使用してHif1α及びα−チューブリンについて分析した。軟骨形成に対するPX−478処理の効果を試験するために、腱から単離された細胞を軟骨形成分化培地(PT−3925&PT−4121,Lonza,Basel,Switzerland)中で培養した。全ての体外実験は、生物学的及び技術的3連で行った。
【0024】
組織学及び免疫蛍光:組織学的評価を、熱傷/腱切除、Ad.cre/心臓毒、またはNfatc1−Cre/ca−Acvr1fl:野生型変異体において指定された時点で行った。後肢をホルマリン中に4℃で一晩固定し、その後、x線により脱灰が検証されるまで19%EDTA溶液中で4℃で3〜5週間脱灰した。後肢をパラフィンパラフィン包埋または凍結包埋し、5−7μm切片を切り出し、Superfrost plusスライド(Fisher)に載置し、室温で保管した。足首領域のヘマトキシリン/エオシン及びモバットペンタクローム染色を行った。骨外性異所性骨の染色の免疫染色を、以下の一次抗体を用いて、再水和したワックス切片に対して行なった。マウス抗マウス抗Hif1α(Santa Cruz、カタログ番号53546)、ヤギ抗マウス抗Cdh5(Santa Cruz、カタログ番号6458)、ヤギ抗マウス抗pSmad 1/5(Santa Cruz、カタログ番号12353)、ヤギ抗マウス抗CD31(Santa Cruz、カタログ番号1506)、ウサギ抗マウス抗Sox9(Santa Cruz、カタログ番号20095)、または抗マウスPDGFRα。採集画像を達成する前に適切な希釈を決定した。適切な蛍光二次抗体を適用し、蛍光顕微鏡法を用いて可視化した。二次抗体は、抗ウサギまたは抗ヤギAlexafluor−488(緑)または−594(赤)からなっていた。全てのマウス切片は熱傷/腱切除から3週間後に採取された。全ての計数は、盲検化された観察者が各試料につき15の高倍率視野で行った。
【0025】
蛍光及び生物発光撮像:全ての蛍光及び生物発光画像は、PerkinElmer IVIS Spectrumシステムを使用して取得した。血管灌流を評価するために野生型C57BL/6マウスを蛍光撮像に用いた。マウスに尾静脈注射を介してAngiosense 750 EXを投与した。蛍光画像を注射から24時間後に770nm波長で取得した。全ての生物発光撮像にODD−lucを用いた。撮像の10分前にマウスにルシフェリン腹腔内注射を与えた。
【0026】
定量的PCR:組織を熱傷/腱切除マウスの腱切除部位から、または対応する対側の対照後肢から、指定された時点で採取した。製造業者の仕様に従ってRNeasy Mini Kit (Qiagen,Germantown,MD)を使用してRNAを組織から採集した。Taqman Reverse Transcription Reagents(Applied Biosystems,Foster City,CA)を使用して1μg RNAで逆転写を行った。Applied Biosystems Prism 7900HT Sequence Detection System及びSybr Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)を使用して定量的リアルタイムPCRを実行した。これらの遺伝子に対する特異的プライマーをそれらのPrimerBank配列に基づいて選択した(表1)。
【表1】
【0027】
μCT及びナノ−CT分析:μCTスキャン(80kVp、80mA、及び1,100ms露光を使用したSiemens Inveon)を用いて、熱傷/腱切除、Ad.cre/心臓毒、または変異体Nfatc1−cre/caAcvr1fl:野生型マウスにおける骨外性骨成長を定量化した。熱傷/腱切除マウスには、スキャンを腱切除から5週間及び9週間後に行った。Ad.cre/心臓毒マウスには、μCTスキャンをAd.cre及び心臓毒注射による誘導後22日目に行った。Nfatc1−cre/caAcvr1fl:野生型マウス及び同腹仔対照には、μCTスキャンを生後13日目に行った。画像を再構築し、HO体積を、MicroView μCTビューア(Parallax Innovations,Ilderton,Canada)で以前に記載された較正撮像プロトコルを用いて定量化した。
【0028】
顕微鏡法:全ての蛍光染色済みの画像を、標準DAPI、488nm、及びOlympus DP−70高解像度デジタルカメラに取り付けたTRITCキューブを装着したOlympus BX−51直立光学顕微鏡を使用して取得した。各部位を全てのチャネルにおいて撮像し、DPViewerで重ね合わせてから、Adobe Photoshopにおいて検査した。
【0029】
統計分析:PX−478処置群に何匹のマウスが必要であるかを決定するために、検定力分析を最初に行った。検定力分析について、目的とする主要評価項目は、処置によるHO体積の差異である。0.8の検定力でHO体積の50%の減少を確認するために、未処置マウスにおける標準偏差1.5mm及び平均HO体積7.5mmを想定して、群当たり3匹のマウスが必要とされた。文字、図、及び図の説明文に提示されるように、平均値及び標準偏差を数的データから算出した。図において、棒グラフは平均値を表す一方で、エラーバーは1標準偏差を表す。3つ以上の群を比較した適切な分散分析を用いて統計分析を行い、続いて事後スチューデントのt検定(Bonferroniの補正を用いて)を行って2つの群を直接比較した。標準偏差の不等は、ルビーン検定を使用することによって除外した。外れ値は、外れ値に対するグラブス検定を使用して除外した。p値を図の説明文に含める。
【0030】
結果
ヒト外傷患者はHIF1αの上方制御及び関連する下流血管シグナル伝達メディエーターを呈する:熱傷していない「対照」患者と比較するための、広域表面積の熱傷に起因してHOの危険性が高い244人の患者のゲノムデータベースを検査した。総計25,000の遺伝子をクエリし、このうち3,500が、熱傷患者由来の組織において対照患者と比較したときに有意に異なることが認められた。総計25,000の遺伝子をクエリし、このうち3,500が、熱傷患者由来の組織において対照患者と比較したときに有意に異なることが認められた。特に、上方制御された遺伝子転写物の上位50位内に入る、HIF1αの有意な上方制御が観察された。加えて、vWF、PECAM、FLT1、CDH5、及びVEGFを含む関連する下流遺伝子転写物が上方制御された(図1A〜C)。HIF1αの評価において、Ingenuity Pathway Knowledgebaseを、発現レベルがHIF1αの活性化により変化することが以前に知られているHIF1α下流遺伝子についてクエリした。Rajicic,N.,et al.PloS one 5,e14380 (2010)、Desai,K.H.,et al.PLoS medicine 8,e1001093(2011)。HIF1αの発現レベルは、熱傷後に有意に上方制御され(倍率変化=2.103、FDR<0.05)、このうち経路活性化zスコアは4.965であり、上方制御された遺伝子の上位50位内に入った。
【0031】
3つの別個の動物モデルにおいてHOは上昇したHif1α発現を特徴とする:次の3つの別個のHOモデルを研究した。1)熱傷/腱切除、2)Ad.cre/心臓毒誘導性caACVR1発現、及び3)先天性HO(Nfatc1−cre/caACVR1fl/野生型)(図2A〜C)。Yu,P.B.,et al.Nature medicine 14,1363−1369(2008)、Peterson,J.R.,et al.Science translational medicine 6,255ra132(2014)、Peterson,J.R.,et al.Annals of surgery 259,993−998(2014)、Asai,S.,et al.Stem cells 32,3266−3277(2014)。注目すべきことに、熱傷/腱切除をODD−LucHif1αレポーターマウスにおいて行ったとき、腱切除部位において、損傷していない部位と比較して高度に正のシグナルが観察されたが、これは腱切除部位が高度に低酸素となることを示している。Hif1αに対する免疫染色により、これらの3つのモデルの各々においてその発現が観察された。重要なことに、Hif1αは、熱傷/腱切除モデルにおける前軟骨及び未成熟HO期中に存在しており、成熟HOの形成と共に徐々に低減された。熱傷/腱切除モデルにおいて、Hif1αは軟骨形成マーカーSox9と共局在化していたことから、このモデルの軟骨形成においてそれが果たす密接な役割が示唆される。外傷から9週間後に観察された成熟HO内で、Hif1α発現は、異所骨の骨髄腔内でのみ存在したが、類骨内またはHO病変の周囲に沿ってはもはや存在しなかった。
【0032】
同様に、Ad.cre/心臓毒モデルにおいて発症したHO病変は、骨発達の既知の調節因子であるSox9及びpSmad 1/5との共局在化を伴う、同様のHif1α発現パターンを実証した。
【0033】
Hif1αが、患者過剰活性ACVR1を有する患者に見られるような、炎症性外傷の不在下でのHOの形成に役割を果たすかどうかを理解するために、ACVR1の構成的活性に起因してHOが自発的に発症するモデル(Nfatc1−Cre/caACVR1fl:野生型)を用いた。Agarwal,S.,et al.「BMP signaling mediated by constitutively active Activin type 1 receptor(ACVR1)results in ectopic bone formation localized to distal extremity joints.」Developmental biology(2015)。これらのマウスは、付随の外傷またはAd.Creもしくは心臓毒注射なしに生後4〜5日以内に自発的にHO病変を発症する。病変は、足首、膝、肘、及び指を含む関節に概して局在化される。免疫染色により、このモデルにおいても未成熟HO内で強力なHif1α発現が観察され、これは、炎症性外傷の不在にもかかわらずHif1αが過剰活性BMP受容体シグナル伝達の設定でHO形成において役割を果たすことを示す。再び、Hif1αのSox9及びpSmad 1/5との強力な共局在化が認められた。
【0034】
まとめて、このデータは、Hif1α発現がHOの外傷誘導性及び遺伝性モデルにおける共通項であり、軟骨形成及び軟骨骨化に先立って存在することを実証しており、それによってHif1αを治療標的として検証する。
【0035】
Hif1αの薬理的阻害は熱傷/腱切除後のHOを制限する:Hif1α阻害によりHOを阻止する能力を、Hif1α転写及び翻訳を阻害することが示された代表的なHif1α阻害剤である、薬物PX−478を使用して特徴付けた。Zhao,T.,et al.Oncotarget 6,2250−2262(2015)。損傷から3週間後の腱切除部位(3WLST)に由来し、低酸素条件で培養した細胞の体外処理において、PX−478での処理後にHif1α転写物ならびに軟骨生成遺伝子転写物Sox9及びAcanのレベルの減少が示された。加えて、同じくHif1α阻害剤であるPX−478及びラパマイシンは、腱から単離された間葉系細胞によって産生されるHif1αを有意に減少させたことから、再び、これらの薬物が将来のHO部位に属する細胞におけるHif1αレベルに影響を及ぼすことが確認された。
【0036】
次に、PX−478での処理が体内でHif1α発現及び軟骨形成を減少させ、結果的にHOの全体的な発症を阻害したことが決定された。マウスに熱傷/腱切除を与え、その後PX−478で処置した。3週間後の組織学的評価により、3週間後に典型的に存在する軟骨原基の実質的な減少が確認された。さらに、Hif1α発現は、損傷から3週間後に減少した。これらのデータと一致して、Sox9の発現は、PX−478処置群において相当に減少した。その上、PX−478で処置された熱傷/腱切除マウスは、損傷から5週目(4.3mmv.1.5mm3、p<0.05)、及び9週目(5.8mmv.2.3mm、p<0.05)に、総HO体積の有意な低減を示した。図3A及び3B。最後に、PX−478処置は、二値解析(肯定/否定:χ2=9.5、p<0.01)及び定量比較(0.90mmv.0.00mm、p=0.05)によって示されるように、9週間後に、「軟組織」HO、すなわち、近位の横切開された腱及び遠位腓腹筋内で、ただし踵骨からは離れて形成する骨外性骨を完全に阻害した。図3B。これは、「軟組織」HOが、通常は踵骨の骨外性骨に近接して位置する隣接の軟骨、骨、または骨膜の影響なしにデノボで形成する可能性が高いため、顕著である。全てをまとめると、これらの知見は、Hif1αが軟骨形成に許容的な因子であり、その阻害が非骨軟骨始原細胞系細胞の、軟骨及び最終的には骨外性骨を形成する細胞への移行を防止し得ることを示唆する。注目すべきことに、熱傷の創傷治癒に対してまたは後肢腱切除部位において、PX−478の有害作用は何ら観察されなかった。第2のHif1α阻害剤を試験するために、マウスをラパマイシンで処置したところ、有意に減少したデノボHO形成がもたらされた(1.60mmv.0.81mm,p<0.05)。図3C及び3D。Zhang,H.,et al.Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America105,19579−19586(2008)。
【0037】
Hif1αの薬理的阻害はACVR1構成的活性によって引き起こされるHOを制限する:上述の知見を、caACVR1(ACVR1 Q207D)変異の発現によって引き起こされる構成的ACVR1活性のモデルにおいて確認した。心臓毒及びAd.creを注射したcaACVR1fl/flマウスは強固なHOを発症するため、このモデルは、ACVR1シグナル伝達の阻害剤を研究するのに使用されてきた。PX−478で処置したcaACVR1fl/flマウスは、Ad.cre/心臓毒誘導後のペンタクローム染色に基づいて軟骨または骨がほぼ排除されたことを実証した。同様に、免疫染色に基づいてHif1α及びSox9の排除が見られた。最後に、マイクロCT分析により、二値解析(肯定/否定;χ2=13.6、p<0.001)及び定量比較(18.1mmv.0.01mm3、p=0.01)に基づいて、PX−478処置群においてHOの完全な不在が確認された。図4A及び4B。これらの知見は、文献における他のBMP阻害剤を上回って実質的に改善された有効性のため顕著であった。ペンタクローム染色により軟骨及び骨の不在が確認され(図4A)、免疫染色によりHif1α及びSox9発現の不在がさらに確認された(図4B)。再び、これらの知見は、ラパマイシンを使用して再現され、そこにおいては処置マウスにおけるHOの完全な不在を示した(17.5mmv.0.0mm、p<0.001;肯定/否定;χ2=14.3、p<0.001)。図4C及び4D。
【0038】
最後に、PX−478を、先天性HO(Nfatc1−cre/caACVR1fl/fl)を有するマウスに、生後から開始して2週間、1日おきに投与した。処置マウスは、ビヒクルで処置された変異体マウスと比較したとき、足首関節において有意により少ない異所性骨を有した(6.8mmv.2.2mm、p<0.01)。図4E及び4F。
【0039】
間葉系前駆細胞におけるの遺伝性喪失は異所性骨化の形成を阻止する:全体的Hif1αノックアウトが胚性致死的であることから、条件的Hif1αノックアウトマウスモデルもまた検査した。Prx−cre/ROSA26mTmGマウスを用いた一連の系譜追跡実験を使用して、熱傷/腱切除後の異所性骨化はPrx系譜由来の細胞からなることが最初に確証された。重要なことに、軟組織内で及び軟組織内でより近位に形成したHOは両方とも、Prx−cre細胞のほぼ100%の存在を示した。実際、存在した唯一の非Prx−cre細胞は、成熟HOの骨髄腔を形成する細胞であった。
【0040】
Prx−cre細胞における条件的Hif1αノックアウトのマウスモデル(Prx−cre/Hif1αfl/fl)を用いた。これらのマウスは、欠陥のある正常軟骨発達を示す。Provot,S.,et al.The Journal of cell biology 177,451−464(2007)。しかしながら、病的な異所性骨化に及ぼす影響は実証されてこなかった。したがって、Prx−cre/Hif1αfl/flマウスにおいて熱傷/腱切除を行った。変異体マウスは踵骨の周りでのみ最小のHOを発症し、これらの病変でさえ、対照におけるよりも実質的に小さかった(5.02mmv.0.18mm、p<0.01)。加えて、「軟組織」HOは、PX−478処置を用いた本発明者らの知見と一致するように、体積(0.32mmv.0.01mm)、及び二値解析(肯定/否定;χ2=3.7、p=0.05)に基づいて変異体マウスにおいてほぼ完全に消滅した。
【0041】
この研究で使用された条件的Hif1αノックアウトマウスが成長板異常を示すことを認識して、損傷していないアキレス腱及び脛骨を最初に評価した。損傷していない変異体の腱断面積は、同腹仔対照の60%であった一方で、損傷していない変異体の脛骨長は、同腹仔対照の32%であった。重要なことに、腱の組織学的外観は正常に見え、脛骨皮質も同様であった。これらの表現型の差異に起因して、HO値を腱断面積または脛骨長のいずれかに対して正規化した。予想通り、この差異は、変異体モデルにおけるHOのほぼ完全な不在に起因して有意なままであった。
【0042】
連続的なペンタクローム染色による組織学的評価を行ったところ、発明者らは、踵骨の近くでも軟組織内でも、異所性骨化のいずれの領域も特定することができなかった。したがって、組織学的評価は、変異体マウスにおいて軟骨存在の形跡を何ら示さず、Hif1αのほぼ完全な不在、及び最小限のみのSox9またはpSmad 1/5発現を示した。これらの知見は、間葉系前駆細胞におけるHif1αの遺伝的喪失が、骨外性骨の形成を阻止するのに十分であることを示す。
【0043】
Hif1αの喪失はHOモデルにおいて間葉凝縮の形成を阻止する:条件的Hif1αノックアウトマウス及び同腹仔対照のHO間葉を熱傷/腱切除損傷から3週間後に評価した。H&Eを用いた通例の組織学的評価により、ノックアウトマウスにおける間葉凝縮の不在が実証された。さらに、間葉凝縮内の間葉系細胞の以前に記載されたマーカーであるPDGFRα、及びSOX9の免疫染色により、間葉凝縮の不在が確認された。Hif1αノックアウトと同様に、PX−478及びラパマイシン処置は、H&E染色、ならびにPDGFRα及び/またはSOX9免疫染色によって示されるように、間葉系前駆細胞の存在及び間葉凝縮の形成を実質的に減少させた。処置または未処置マウス、及びCre−条件的Hif1αノックアウトマウスの損傷していない後肢の腱−踵骨挿入部位を含む、発達中のHOの外側の部位におけるPDGFRα+/SOX9+細胞を分析した。Ad.cre/心臓毒モデルに対するHif1α阻害の効果を確認するために、同様の染色をPDGFRα/SOX9+細胞に対して行った。再び、誘導から2週間後の処置の設定において有意に減少したこれらの細胞の数が観察された。早期損傷後のこれらの細胞における同様の減少を実証するために、損傷から5日後のAd.cre/心臓毒モデル由来の切片の分析により、同様の結果、すなわち、損傷後のPDGFRα/SOX9+細胞の同様の減少が示された。
【0044】
考察
異所性骨化(HO)は、2つの別個の患者集団、すなわち重度の熱傷及び筋骨格外傷を有する患者集団、ならびに過剰活性を付与するACVR1遺伝子における遺伝性変異を有する患者集団における、病的なプロセスである。現在まで、ACVR1変異を有する患者の治療に重点が置かれており、HOの2つの形態間で共通のシグナル伝達メディエーターは、治療有効性について特定され、評価されてこなかった。上述のデータは、Hif1αが異所性骨化の両形態についての共通の標的を代表することを実証する。Hif1αの遺伝性喪失または薬理的阻害は、HOを有意にかつ一貫して低減または排除した。これらの知見は、熱傷/腱切除を有する外傷誘導性HOのモデル、ならびに遺伝性HOの2つの異なるモデル、すなわち、1つ目は、構成的に活性なACVR1遺伝子が、炎症を刺激する外来性Ad.cre注射及び心臓毒により活性化されるもの(caACVR1fl/fl)、2つ目は、構成的に活性なACVR1遺伝子が生後、条件的に発現される非外傷モデル(Nfatc1−cre/caACVR1fl/fl)において、一貫している。
【0045】
トランスクリプトーム分析により、熱傷患者から単離された脂肪組織におけるHif1αの有意な上方制御が示された。骨形成分化の能力を有し、HO前駆細胞として機能し得る間葉系細胞は、脂肪組織内に常在することから、脂肪組織は、アッセイするのに適切な組織型となっている。加えて、熱傷患者は、外傷誘導性HO発症の危険性がある重要な患者集団である。TBSA>30%の熱傷を有する患者は、より小さな表面積熱傷を有する患者と比較したとき、HOを発症する確率が23倍高いことから、トランスクリプトーム分析のために>20%TBSA熱傷を有するこの患者のコホートの使用が有効である。Levi,B.,et al.The journal of trauma and acute care surgery 79,870−876(2015)。インジェニュイティ経路解析により、Hif1αシグナル伝達経路が熱傷患者の脂肪組織において上方制御されることが示され、これは下流における結果を示唆する。
【0046】
外傷誘導性HOの設定において、最初の工程は、発達中に生じる凝縮事象を模倣する線維増殖段階である。間葉系細胞におけるHif1αの遺伝性喪失及びHif1αの薬理的阻害は両方とも、間葉凝縮の形成を阻止することによってHO形成を重度に損なう。Prx−cre細胞内の条件的Hif1αノックアウトのモデルにおいて、最小のHO形成が観察され、間葉凝縮または軟骨形成はほぼなかった。Prx−cre/ROSA26mTmGマウスを使用して、Prx−cre陽性細胞が早期軟骨形成から後期骨化までの発達期間にわたってHOを形成することが決定された。この系譜を用いて、この系譜におけるHif1αの遺伝性喪失がどのようにHOに影響を及ぼすかを、Prx−cre/Hif1αfl/flマウスを使用して評価した。熱傷/腱切除後の軟骨形成の不在は、これらのマウスにおける成長板形成の障害を実証する研究と一致している。この公開データに基づいて、腱横切開部位における間葉凝縮の完全な不在は予想外で、しかし顕著であった。加えて、遺伝子ノックアウトは、PDGFRαの発現によって決定したとき、間葉系前駆細胞の数を低減した。処置または遺伝子ノックアウトは、これらの細胞が損傷の不在下では存在しないため、損傷していない部位(例えば腱−踵骨挿入部または付着部)における凝縮間葉系細胞の存在を変化させなかった。PDGFRα17−19及びSOX97のH&E及び免疫染色による組織学的評価により、間葉凝縮の不在が確認された。PDGFRα及びSOX9は両方とも、発達中の間葉のマーカーとして以前に記載されたものである一方で、H&Eもまた間葉凝縮を特定するために使用することができる。Barna,M. et al.Nature 436,277−281(2005)
【0047】
本文献に記載される研究において、異なる機構を介してHif1αを阻害する2つの異なる薬物、PX−478及びラパマイシンが、HOに対して治療効果を実証した。PX−478は、Hif1αmRNAレベルを減少させ、Hif1αmRNA翻訳を遮断することによって、体外及び体内の両方でHif1αを減少させる。構成的VEGFシグナル伝達は、下流血管新生シグナル伝達に対するPX−478の効果を抑止することから、その効果がVEGFの上流であることが確認される。PX−478は、HO形成に影響を及ぼすことが以前に示された経路である、レチノイン酸シグナル伝達を変化させるようには思われない。Land,S.C.&Tee,A.R.The Journal of biological chemistry 282,20534−20543(2007).ラパマイシンは、哺乳類ラパマイシン標的(mTOR)を通してHif1αを阻害する。Zhang,H.,et al.Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 105,19579−19586(2008)。薬物を、腱から単離し、低酸素で培養した間葉系細胞に対して体外で試験したとき、Hif1αの有意な減少が観察された。PX−478及びラパマイシンは両方ともオフターゲット効果を有し得るが、本明細書に記載される条件的Hif1αノックアウトマウスからの結果と共に、Hif1αに対するそれらの共有される効果は、Hif1αの薬理的阻害がHOを阻止することを示す。遺伝性喪失の効果と同様に、Hif1αの薬理的阻害αは、デノボ異所骨を有意に減少または排除し、間葉系前駆細胞及び間葉凝縮の数を減少させた。
【0048】
際だったことに、ACVR1変異の設定において、PX−478またはラパマイシンによる薬理的Hif1α阻害は再び、HO形成を阻止した。これは、構成的ACVR1活性が単独ではHOを誘導するのに十分でないことを示唆し、ACVR1(ACVR1R206H)において過剰活性化変異を有する進行性骨化性線維異形成症の患者が軽微な外傷の後に異所性骨病変を発症するという本発明者らの臨床知識と一致する。熱傷/腱切除モデルと同様に、PDGFRα及びSox9の共発現を特徴とする間葉系細胞が未処置マウスの発達中の病変に存在したが、治療的Hif1α阻害の設定において排除されたことが観察された。
【0049】
初めて、外傷誘導性と遺伝性HOとの間の共通の標的が明らかとなる。本明細書に記載される知見は、PX−478またはラパマイシンなどのHif1α阻害剤が、過剰活性ACVR1シグナル伝達によって引き起こされるHOに対してさえも治療選択肢であることを実証する。
【0050】
本明細書全体は、統合された開示として関連し、本明細書に記載される特徴の全ての組み合わせが、その特徴の組み合わせが本明細書の同じ文章、または段落、または節内で一緒に見られない場合であっても企図されることを理解されるべきである。本発明はまた、例えば、上記に具体的に言及された変形形態よりも範囲の狭い本発明の全ての実施形態も含む。属として記載される本発明の態様に関して、全ての個々の種は、本発明の別個の態様と見なされる。「a」または「an」を用いて記載または特許請求される本発明の態様に関して、これらの用語は、文脈上より制限された意味が明確に求められない限り、「1つ以上」を意味することを理解されたい。本発明の態様がある特徴「を含む(comprising)」ものとして記載される場合、その特徴「からなる(consisting of)」またはその特徴「から本質的になる(consisting essentially of)」実施形態もまた企図される。
【0051】
本明細書に引用される刊行物、特許及び特許出願は全て、あたかも個々の刊行物または特許出願の各々が参照により組み込まれることが明確かつ個別に示されたかのように、参照により本明細書に組み込まれる。
図1A
図1B
図1C
図2A-C】
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]