特許第6589181号(P6589181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6589181
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】宿主異物排除応答依存的除菌剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/047 20060101AFI20191007BHJP
   A61K 31/09 20060101ALI20191007BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20191007BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20191007BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   A61K31/047
   A61K31/09
   A61K31/05
   A61P31/04
   A61P1/04
【請求項の数】14
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-521134(P2016-521134)
(86)(22)【出願日】2015年5月20日
(86)【国際出願番号】JP2015064525
(87)【国際公開番号】WO2015178428
(87)【国際公開日】20151126
【審査請求日】2018年5月2日
(31)【優先権主張番号】特願2014-106192(P2014-106192)
(32)【優先日】2014年5月22日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度独立行政法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀和
(72)【発明者】
【氏名】津川 仁
(72)【発明者】
【氏名】榊原 康文
【審査官】 小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0129302(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0199057(US,A1)
【文献】 Toyoda,T.,et al.,"Inhibitory effect of nordihydroguaiaretic acid, a plant lignan, on Helicobacter pylori-associated g,Cancer Sci.,2007年11月,Vol.98,No.11,pp.1689-1695
【文献】 広瀬一雄 他2名,"抗酸化剤の抗菌作用について",岐阜薬科大学紀要,1956年11月30日,Vol.6,p.66
【文献】 Journal of Ethnopharmacology,2008年,Vol.118,No.3,p522−526
【文献】 Hwu,J.R.,et al.,"Antiviral Activities of Methlated Nordihydroguaiaretic Acids. 1. Synthesis, Structure Identification, and Inhibition of Tat-Regulated HIV Transactivation”,J. Med. Chem.,1998年 7月30日,Vol.41,No.16,pp.2994-3000
【文献】 Chen,H.,et al.,”Antiviral Activities of Methlated Nordihydroguaiaretic Acids. 2. Targeting Herpes Simplex Virus Replication by the Mutation Insensitive Transcription Inhibitor Tetra-O-methyl-NDGA”,J. Med. Chem.,1998年 7月30日,Vol.41,No.16,pp.3001-3007
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/047
A61K 31/05
A61K 31/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セコイソラリシレシノール又はその塩を含む宿主異物排除応答依存的グラム陰性病原細菌用除菌剤であって、グラム陰性病原細菌がヘリコバクターピロリ、サルモネラ菌及び腸管病原性大腸菌からなる群より選択される少なくとも一種である、除菌剤
【請求項2】
2,3,4,4'-テトラヒドロキシジフェニルメタン又はその塩を含む宿主異物排除応答依存的グラム陰性病原細菌用除菌剤であって、グラム陰性病原細菌がヘリコバクターピロリ、サルモネラ菌及び腸管病原性大腸菌からなる群より選択される少なくとも一種である、除菌剤
【請求項3】
テラメプロコール又はその塩を含む宿主異物排除応答依存的グラム陰性病原細菌用除菌剤であって、グラム陰性病原細菌がヘリコバクターピロリ、サルモネラ菌及び腸管病原性大腸菌からなる群より選択される少なくとも一種である、除菌剤
【請求項4】
薬学的に許容される担体を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の除菌剤。
【請求項5】
宿主異物排除応答依存的グラム陰性病原細菌用除菌剤を製造するための、セコイソラリシレシノール又はその塩の使用であって、グラム陰性病原細菌がヘリコバクターピロリ、サルモネラ菌及び腸管病原性大腸菌からなる群より選択される少なくとも一種である、使用
【請求項6】
宿主異物排除応答依存的グラム陰性病原細菌用除菌剤を製造するための、2,3,4,4'-テトラヒドロキシジフェニルメタン又はその塩の使用であって、グラム陰性病原細菌がヘリコバクターピロリ、サルモネラ菌及び腸管病原性大腸菌からなる群より選択される少なくとも一種である、使用。
【請求項7】
宿主異物排除応答依存的グラム陰性病原細菌用除菌剤を製造するための、テラメプロコール又はその塩の使用であって、グラム陰性病原細菌がヘリコバクターピロリ、サルモネラ菌及び腸管病原性大腸菌からなる群より選択される少なくとも一種である、使用。
【請求項8】
前記グラム陰性病原細菌用除菌剤が薬学的に許容される担体を含む、請求項5〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
セコイソラリシレシノール又はその塩を含む、グラム陰性病原細菌の抗酸化活性低下剤であって、グラム陰性病原細菌がヘリコバクターピロリ、サルモネラ菌及び腸管病原性大腸菌からなる群より選択される少なくとも一種である、抗酸化活性低下剤。
【請求項10】
2,3,4,4'-テトラヒドロキシジフェニルメタン又はその塩を含む、グラム陰性病原細菌の抗酸化活性低下剤であって、グラム陰性病原細菌がヘリコバクターピロリ、サルモネラ菌及び腸管病原性大腸菌からなる群より選択される少なくとも一種である、抗酸化活性低下剤。
【請求項11】
テラメプロコール又はその塩を含む、グラム陰性病原細菌の抗酸化活性低下剤であって、グラム陰性病原細菌がヘリコバクターピロリ、サルモネラ菌及び腸管病原性大腸菌からなる群より選択される少なくとも一種である、抗酸化活性低下剤。
【請求項12】
セコイソラリシレシノール又はその塩を含む、グラム陰性病原細菌の酸化ストレス感受性亢進剤であって、グラム陰性病原細菌がヘリコバクターピロリ、サルモネラ菌及び腸管病原性大腸菌からなる群より選択される少なくとも一種である、酸化ストレス感受性亢進剤。
【請求項13】
2,3,4,4'-テトラヒドロキシジフェニルメタン又はその塩を含む、グラム陰性病原細菌の酸化ストレス感受性亢進剤であって、グラム陰性病原細菌がヘリコバクターピロリ、サルモネラ菌及び腸管病原性大腸菌からなる群より選択される少なくとも一種である、酸化ストレス感受性亢進剤。
【請求項14】
テラメプロコール又はその塩を含む、グラム陰性病原細菌の酸化ストレス感受性亢進剤であって、グラム陰性病原細菌がヘリコバクターピロリ、サルモネラ菌及び腸管病原性大腸菌からなる群より選択される少なくとも一種である、酸化ストレス感受性亢進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2014年5月22日に出願された、日本国特許出願第2014−106192号明細書(その開示全体が参照により本明細書中に援用される)に基づく優先権を主張する。
【0002】
本発明はヘリコバクターピロリをはじめとするグラム陰性病原細菌に対する宿主異物排除応答依存的除菌剤に関する。
【背景技術】
【0003】
ヘリコバクターピロリ(H. pylori)の除菌療法に限らず、現行の細菌感染症に用いられる抗菌薬は、種々の細菌を広く標的化した薬剤であり、病原細菌を特異的に標的化した薬剤ではない。従って、抗生剤投与によって、腸内細菌叢も影響を受け、その結果、腸内細菌叢の破綻が誘導され、下痢や腸炎が誘発される。現行のH. pyloriの一次、二次除菌療法の実施により、30%程度の患者で、腸内フローラへの影響から、下痢症状が認められる。
【0004】
また、プロトンポンプ阻害薬 (PPI) と抗生物質2剤を組み合わせたH. pyloriの現行の3剤除菌療法の除菌成功率は、一次除菌療法で65%であり、成功率は低下傾向にある。また、一次除菌療法失敗症例に対するメトロニダゾールを用いた二次除菌療法の成功率は85%となっており、保険治療によりH. pyloriの除菌が成功しない症例が5%程度存在する。
【0005】
一方、FecA1はH. pyloriの鉄トランスポーターの一種で、ホモログタンパク質としてグラム陰性細菌間で保存されている蛋白質である。これまでに発明者らは、fecA1遺伝子欠損H. pyloriはスナネズミへの感染・定着能が低下することを明らかとした。その機序は、fecA1遺伝子欠損株では、H. pyloriの抗酸化分子である鉄イオン共役型superoxid dismutase(SodB)活性が有意に低下するため、宿主の酸化ストレス依存的異物排除応答抵抗性が失われるためであると考えられる。
【0006】
また、H. pyloriの二次除菌療法で用いられるメトロニダゾールは、プロドラックであり、菌体内で還元活性化されsuperoxideを発生することで抗菌活性を発揮する。そのため、SodB強発現誘導させたH. pylori菌株はメトロニダゾール耐性を示す。実際に、臨床分離されたメトロニダゾール耐性菌株の中には、SodBの強発現株(KS0145, KS0048)が存在し、これら菌株に対してfecA1遺伝子を欠損させることで、SodB活性は有意に低下し、メトロニダゾール感受性も亢進する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Free Radical Biol. Med., 52: 1003-1010, 2012
【非特許文献2】Antioxid. Redox Signal. 14: 15-23, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、H. pyloriをはじめとするグラム陰性病原細菌のSodB依存的抗酸化活性を破綻させ、宿主の酸化ストレス依存的異物排除応答を利用した新規な除菌剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意研究を進めた結果、FecA1親和性化合物がH. pyloriをはじめとするグラム陰性病原細菌のSodB依存的抗酸化活性を破綻させ、宿主の酸化ストレス依存的異物排除応答により、H. pyloriをはじめとするグラム陰性病原細菌の除菌を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下を提供するものである。
【0011】
(1)鉄取り込みトランスポーターFecA1と特異的に結合する化合物又はその塩を含む宿主異物排除応答依存的グラム陰性病原細菌用除菌剤。
【0012】
(2)下記一般式(I)で表わされる化合物又はその塩を含む宿主異物排除応答依存的グラム陰性病原細菌用除菌剤:
【0013】
【化1】
【0014】
[式中、Aは、置換されていてもよい炭素数1〜5の直鎖状アルキレン基を示す。
該炭素数1〜5の直鎖状アルキレン基が置換基を有する場合、該置換基は低級アルキル基、水酸基、低級アルコキシ基、低級ヒドロキシアルキル基及び低級アルコキシ低級アルキル基からなる群より選択される少なくとも一種を示す。
mは1〜3を示す。
nは1〜3を示す。
1及びR2は同一又は異なって、水素原子又は低級アルキル基を示す。
mが2以上の場合、複数のR1は同一でも異なっていてもよい。
nが2以上の場合、複数のR2は同一でも異なっていてもよい。]。
【0015】
(3)グラム陰性病原細菌がヘリコバクターピロリ、サルモネラ菌及び腸管病原性大腸菌からなる群より選択される少なくとも一種である、(1)又は(2)に記載の除菌剤。
【0016】
(4)前記化合物又はその塩がノルジヒドログアイヤレチン酸(Nordihydroguaiaretic acid)である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の除菌剤。
【0017】
(5)前記化合物又はその塩がセコイソラリシレシノール(Secoisolariciresinol)である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の除菌剤。
【0018】
(6)前記化合物又はその塩が2,3,4,4'-テトラヒドロキシジフェニルメタン(2,3,4,4'-Tetrahydroxy diphenylmethane)である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の除菌剤。
【0019】
(7)前記化合物又はその塩がテラメプロコール(Terameprocol)である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の除菌剤。
【0020】
(8)前記化合物又はその塩がフィランチン(Phyllanthin)である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の除菌剤。
(9)患者に鉄取り込みトランスポーターFecA1と特異的に結合する化合物又はその塩を投与する工程を含む、グラム陰性病原細菌を除菌する方法。
(10)患者に、下記一般式(I)で表わされる化合物又はその塩を投与する工程を含む、グラム陰性病原細菌を除菌する方法:
【化2】
[式中、Aは、置換されていてもよい炭素数1〜5の直鎖状アルキレン基を示す。
該炭素数1〜5の直鎖状アルキレン基が置換基を有する場合、該置換基は低級アルキル基、水酸基、低級アルコキシ基、低級ヒドロキシアルキル基及び低級アルコキシ低級アルキル基からなる群より選択される少なくとも一種を示す。
mは1〜3を示す。
nは1〜3を示す。
1及びR2は同一又は異なって、水素原子又は低級アルキル基を示す。
mが2以上の場合、複数のR1は同一でも異なっていてもよい。
nが2以上の場合、複数のR2は同一でも異なっていてもよい。]。
(11)グラム陰性病原細菌を除菌するための鉄取り込みトランスポーターFecA1と特異的に結合する化合物又はその塩。
(12)グラム陰性病原細菌を除菌するための、下記一般式(I)で表わされる化合物又はその塩:
【化3】
[式中、Aは、置換されていてもよい炭素数1〜5の直鎖状アルキレン基を示す。
該炭素数1〜5の直鎖状アルキレン基が置換基を有する場合、該置換基は低級アルキル基、水酸基、低級アルコキシ基、低級ヒドロキシアルキル基及び低級アルコキシ低級アルキル基からなる群より選択される少なくとも一種を示す。
mは1〜3を示す。
nは1〜3を示す。
1及びR2は同一又は異なって、水素原子又は低級アルキル基を示す。
mが2以上の場合、複数のR1は同一でも異なっていてもよい。
nが2以上の場合、複数のR2は同一でも異なっていてもよい。]。
(13)グラム陰性病原細菌用除菌剤を製造するための、鉄取り込みトランスポーターFecA1と特異的に結合する化合物又はその塩の使用。
(14)グラム陰性病原細菌用除菌剤を製造するための、下記一般式(I)で表わされる化合物又はその塩の使用:
【化4】
[式中、Aは、置換されていてもよい炭素数1〜5の直鎖状アルキレン基を示す。
該炭素数1〜5の直鎖状アルキレン基が置換基を有する場合、該置換基は低級アルキル基、水酸基、低級アルコキシ基、低級ヒドロキシアルキル基及び低級アルコキシ低級アルキル基からなる群より選択される少なくとも一種を示す。
mは1〜3を示す。
nは1〜3を示す。
1及びR2は同一又は異なって、水素原子又は低級アルキル基を示す。
mが2以上の場合、複数のR1は同一でも異なっていてもよい。
(15)グラム陰性病原細菌がヘリコバクターピロリ、サルモネラ菌及び腸管病原性大腸菌からなる群より選択される少なくとも一種である、(9)もしくは(10)に記載の方法、(11)もしくは(12)に記載の化合物又はその塩、又は(13)もしくは(14)に記載の使用。
(16)前記化合物又はその塩がノルジヒドログアイヤレチン酸又はその塩である、(9)もしくは(10)に記載の方法、(11)もしくは(12)に記載の化合物又はその塩、(13)もしくは(14)に記載の使用、又は(15)に記載の方法、化合物又はその塩もしくは使用。
(17)前記化合物又はその塩がセコイソラリシレシノール又はその塩である、(9)もしくは(10)に記載の方法、(11)もしくは(12)に記載の化合物又はその塩、(13)もしくは(14)に記載の使用、又は(15)に記載の方法、化合物又はその塩もしくは使用。
(18)前記化合物又はその塩が、2,3,4,4'-テトラヒドロキシジフェニルメタン又はその塩である、(9)もしくは(10)に記載の方法、(11)もしくは(12)に記載の化合物又はその塩、(13)もしくは(14)に記載の使用、又は(15)に記載の方法、化合物又はその塩もしくは使用。
(19) 前記化合物又はその塩がテラメプロコール又はその塩である、(9)もしくは(10)に記載の方法、(11)もしくは(12)に記載の化合物又はその塩、(13)もしくは(14)に記載の使用、又は(15)に記載の方法、化合物又はその塩もしくは使用。
(20)前記化合物又はその塩がフィランチンである、(9)もしくは(10)に記載の方法、(11)もしくは(12)に記載の化合物又はその塩、(13)もしくは(14)に記載の使用、又は(15)に記載の方法、化合物又はその塩もしくは使用。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、H. pyloriをはじめとするグラム陰性病原細菌のSodB依存的抗酸化活性を破綻させ、宿主の酸化ストレス依存的異物排除応答を利用した新規な除菌剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】NDGAによるH. pyloriのH2O2感受性試験結果
図2】NDGAによるH. pyloriのH2O2感受性の用量依存性試験結果。* P < 0.05 (Tukey test)
図3】NDGA及びNDGA類縁化合物によるH. pyloriのH2O2感受性試験結果
図4】NDGA及びNDGA類縁化合物のH. pyloriのH2O2感受性の用量依存性試験結果。* P < 0.05 (Tukey test)
図5】NDGA及びNDGA類縁化合物によるH. pyloriの増殖能試験結果
図6】NDGA及びTerameprocolのH. pylori 野生株(ATCC700392)及びSodB強発現メトロニダゾール耐性株(KS0145)のH2O2感受性試験結果。* P < 0.05 (Tukey test)
図7】NDGAによるSalmonella typhimurium及びO157の増殖能試験結果
図8】NDGAのSalmonella typhimurium及びO157のH2O2感受性試験結果。** P < 0.01 (Student's t test)
図9図9左、NDGA曝露したH. pylori 野生株及び H. pylori 野生株のfecA1欠損株(ΔfecA1)の細胞内Fe2+レベル。* P < 0.05; ** P < 0.01 (Tukey test)。図9右、NDGA 曝露したH. pylori 野生株及びH. pylori 野生株のfecA1欠損株(ΔfecA1)のSodB 活性。* P < 0.05; ** P < 0.01 (Tukey test)
図10】50 μM NDGA存在下でのSodB強発現H. pyloriの細胞内Fe2+レベル及びSOD活性。図10上、pHel3コントロールvector形質転換によるH. pylori 野生株(pHel3 ctrl.)、pHel3::sodB vector形質転換によるH. pylori 野生株のSodB強発現株 (pHel3::sodB)、 SodB強発現メトロニダゾール耐性株(KS0048及びKS0048)と、KS0048のfecA1欠損株(KS0048ΔfecA1)、KS0145のfecA1欠損株(KS0145ΔfecA1)の細胞内Fe2+レベル。* P < 0.05; ** P < 0.01 (Tukey test).。図10下、pHel3コントロールvector形質転換によるH. pylori 野生株(pHel3 ctrl.)、pHel3::sodB vector形質転換によるH. pylori 野生株のSodB強発現株 (pHel3::sodB)、 SodB強発現メトロニダゾール耐性株(KS0048及びKS0048)と、KS0048のfecA1欠損株(KS0048ΔfecA1)、KS0145のfecA1欠損株(KS0145ΔfecA1)のSOD活性。 * P < 0.05; ** P < 0.01 (Tukey test)
図11】NDGA存在下でのSodB強発現H. pyloriのH2O2感受性。pHel3コントロールvector形質転換によるH. pylori 野生株(pHel3 ctrl.)、pHel3::sodB vector形質転換によるH. pylori 野生株のSodB強発現株 (pHel3::sodB)、 SodB強発現メトロニダゾール耐性株(KS0048及びKS0048)と、KS0048のfecA1欠損株(KS0048ΔfecA1)、KS0145のfecA1欠損株(KS0145ΔfecA1)のH2O2感受性。 * P < 0.05; ** P < 0.01 (Tukey test).
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、および、そのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をこれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0024】
本発明はFecA1と特異的に結合する化合物又はその塩を含む宿主異物排除応答依存的グラム陰性病原細菌用除菌剤を提供する。
【0025】
本発明において除菌剤とは、所定の細菌の増殖を抑えるための薬剤を意味し、抗菌剤と換言することもできる。グラム陰性病原細菌としては、サルモネラ菌、腸管病原性大腸菌、ヘリコバクターピロリ等が挙げられ、好ましくはヘリコバクターピロリ等が挙げられる。
【0026】
本発明における宿主異物排除応答依存的グラム陰性病原細菌用除菌剤の有効成分である化合物は、FecA1の活性を阻害することによりグラム陰性病原細菌のSodB依存的抗酸化活性を破綻させる。その結果、宿主の酸化ストレス依存的異物排除応答等により標的となるグラム陰性病原細を除菌することができる。従って、本発明において、宿主異物排除応答依存的グラム陰性病原細菌用除菌剤とは、標的となるグラム陰性病原細菌の抗酸化活性を低下させることにより、宿主由来の酸化ストレス依存的異物排除応答等により標的となるグラム陰性病原細を除菌するような除菌剤を意味する。従って、本発明において、宿主異物排除応答依存的グラム陰性病原細菌用除菌剤とは、グラム陰性病原細菌の抗酸化活性低下型除菌剤、グラム陰性病原細菌の抗酸化活性低下剤と示すこともできる。従って、本発明の宿主異物排除応答依存的グラム陰性病原細菌用除菌剤は、その有効成分自体が単独で除菌作用を有さなくてもよい。
【0027】
また、本発明は、下記一般式(I)で表わされる化合物又はその塩を含む宿主異物排除応答依存的グラム陰性病原細菌用除菌剤を提供する:
【0028】
【化5】
【0029】
[式中、Aは、置換されていてもよい炭素数1〜5の直鎖状アルキレン基を示す。
該炭素数1〜5の直鎖状アルキレン基が置換基を有する場合、該置換基は低級アルキル基、水酸基、低級アルコキシ基、低級ヒドロキシアルキル基及び低級アルコキシ低級アルキル基からなる群より選択される少なくとも一種を示す。
mは1〜3を示す。
nは1〜3を示す。
1及びR2は同一又は異なって、水素原子又は低級アルキル基を示す。
mが2以上の場合、複数のR1は同一でも異なっていてもよい。
nが2以上の場合、複数のR2は同一でも異なっていてもよい。]。
上記化合物がFecA1の活性の阻害作用を有することは本発明者らが初めて見出した新規の知見である。
尚、以下、本明細書において、「FecA1と特異的に結合する化合物」及び「上記一般式(I)で表わされる化合物」を単に「本発明の有効成分である化合物」と示すこともある。
【0030】
前記一般式(I)において示される各基は、具体的には次の通りである。
【0031】
低級アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、2,2−ジメチルプロピル、1−エチルプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、n−ヘキシル基等の炭素数1〜6(好ましくは1〜3、より好ましくは1)の直鎖又は分枝鎖状アルキル基を挙げることができる。
【0032】
低級アルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、2,2−ジメチルプロポキシ、1−エチルプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、tert−ブトキシ、n−ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、n−ヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6(好ましくは1〜3、より好ましくは1)の直鎖又は分枝鎖状アルコキシ基を挙げることができる。
【0033】
低級ヒドロキシアルキル基としては、例えば、ヒドロキシ基が1〜3個、好ましくは1個置換した、前記に列挙した低級アルキル基等を挙げることができる。
【0034】
低級アルコキシ低級アルキル基としては、例えば、前記に列挙した1個の低級アルコキシ基で置換した、前記に列挙した低級アルキル基等を挙げることができる。
炭素数1〜5の直鎖状アルキレン基等を挙げることができる。
【0035】
炭素数1〜5の直鎖状アルキレン基としては、メチレン、エチレン基(ジメチレン基)、トリメチレン基、テトラメチレン基及びペンタメチレン基が挙げられる。
【0036】
本発明においてAは炭素数1〜5(好ましくは1〜4)の直鎖状アルキレン基を示し、当該炭素数1〜5の直鎖状アルキレン基は置換されていてもよい。該炭素数1〜5の直鎖状アルキレン基が置換基を有する場合、置換基の数は限定されず、例えば、1〜4個が好ましく、1〜2個がより好ましい。該置換基は低級アルキル基、水酸基、低級アルコキシ基、低級ヒドロキシアルキル基及び低級アルコキシ低級アルキル基からなる群より選択される少なくとも一種を示す。置換基を複数有する場合、それらの置換基は同一であっても、異なっていてもよい。
【0037】
本発明において、Aで示される「置換されていてもよい炭素数1〜5の直鎖状アルキレン基」としては、好ましくは
【0038】
【化6】
【0039】
(これらの式中、R3は、同一又は異なって、水素原子、水酸基、低級アルキル基、低級アルコキシ基、低級ヒドロキシアルキル基又は低級アルコキシ低級アルキル基を示す。)等を挙げることができ、好ましくは
【0040】
【化7】
【0041】
(これらの式中、R3は、前述の通り。)
等を挙げることができる。
【0042】
また、本発明において、
m、nの好ましい組み合わせとしては、
(m,n)=(1,3)、
(m,n)=(2,2)
等が挙げられる。
m、nの好ましい組み合わせ及びOR1及びOR2の位置としては、
m=1(例えば、パラ位)、n=3(例えば、オルト位、メタ位及びパラ位1箇所ずつ置換)
m=2(例えば、メタ位及びパラ位1箇所ずつ置換)、n=2(例えば、メタ位及びパラ位1箇所ずつ置換)
等が挙げられる。ここで、オルト位、メタ位及びパラ位とは、置換基−A−が結合している炭素原子に対し、それぞれオルト、メタ及びパラの位置を意味する。
【0043】
より具体的には、ノルジヒドログアイヤレチン酸(Nordihydroguaiaretic acid)、セコイソラリシレシノール(Secoisolariciresinol)、2,3,4,4'-テトラヒドロキシジフェニルメタン(2,3,4,4'-Tetrahydroxy diphenylmethane)、テラメプロコール(Terameprocol)、フィランチン(Phyllanthin)、これらの化合物の塩等が挙げられる。
【0044】
【化8】
【0045】
【化9】
【0046】
【化10】
【0047】
【化11】
【0048】
【化12】
【0049】
本発明の有効成分である化合物の塩は、酸付加塩と塩基との塩を包含する。酸付加塩の具体例として、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩等の有機酸塩、及びグルタミン酸塩、アスパラギン酸塩等の酸性アミノ酸塩が挙げられる。塩基との塩の具体例としては、ナトリウム塩、カリウム塩又はカルシウム塩のようなアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、ピリジン塩、トリエチルアミン塩のような有機塩基との塩、リジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸との塩が挙げられる。
【0050】
本発明の有効成分である化合物及びその塩は、水和物又は溶媒和物の形で存在することもあるので、これらの水和物及び溶媒和物もまた本発明の有効成分である化合物に包含される。また、式(I) の化合物及びそのプロドラッグは、場合により1個以上の不斉炭素原子を有し、また幾何異性を生じることがある。したがって、本発明の有効成分である化合物及びそのプロドラッグは、場合により、数種の立体異性体として存在しうる。これらの立体異性体、それらの混合物及びラセミ体は本発明の有効成分である化合物に包含される。
【0051】
溶媒和物を形成する溶媒としては、水、エタノール、プロパノール等のアルコール、酢酸等の有機酸、酢酸エチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル類、DMSO等が例示される。
【0052】
本発明においては、本発明の有効成分である化合物そのものを除菌剤として用いても、医薬的に許容可能な賦形剤等と組み合わせてとして用いても、薬学的に許容される各種担体( 賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤等が含まれる)と配合した医薬組成物として用いてもよい。上記医薬組成物は慣用の添加剤を含んでいてよい。
【0053】
また、上記医薬組成物は、抗菌作用を有することが知られている化合物(本明細書において、単に抗菌化合物と示すこともある)をさらに含んでいてもよい。かかる抗菌化合物としてはメトロニダゾール、アモキシシリン、クラリスロマイシン等を挙げることができる。ここでメトロニダゾールは、H. pyloriの二次除菌療法で用いられる、プロドラックであり、菌体内で還元活性化されsuperoxideを発生することで抗菌活性を発揮する。これらの抗菌化合物は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の有効成分である化合物は標的とするグラム陰性病原細菌の抗酸化活性を破綻させることができる。従って、メトロニダゾール等のようなsuperoxideを発生することで抗菌活性を発揮する抗菌化合物と組み合わせることにより、当該抗菌化合物の抗菌活性を増強させることができるため非常に有用である。
【0054】
本発明にかかる除菌剤の製剤形態は、特に限定されず、例えば錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等の経口投与剤; 注射剤(静脈注射、筋肉注射)、点滴剤、外用剤、座剤等の非経口投与剤等などの各種製剤形態を挙げることができる。
【0055】
本発明にかかる除菌剤は哺乳動物等の患者に投与される。哺乳動物としては、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ等が挙げられ、好ましくはヒト等が挙げられる。
【0056】
本発明にかかる除菌剤の投与量は、投与経路、患者の年齢、体重、症状等によって異なり一概に規定できないが、本発明の有効成分である化合物の1日投与量が通常10〜5000mg程度、より好ましくは100〜1000mg程度になる量とすればよい。1日1回投与する場合は、1製剤中にこの量が含まれていればよく、1日3回投与する場合は、1製剤中にこの3分の1量が含まれていればよい。
【実施例】
【0057】
<実施例1>NDGAによるH. pyloriのH2O2感受性試験
(実験方法および結果)
H. pylori ATCC700392株を血液寒天培地にて24時間培養し、菌体を回収後、OD600 nmを0.1に調整し、NDGAを0, 10, 50, 100 μMを含む血液寒天培地へそれぞれ100 μLずつプレーティングした。5 M H2O2を10 μL添加したろ紙を載せて、3日間、37℃、微好気条件下で培養後、阻止円長を測定した。その結果、NDGA含有血液寒天培地で培養した阻止円の大きさがNDGA非含有血液寒天培地で培養した阻止円よりも大きくなり、NDGAは、H. pylori のH2O2感受性を亢進することが示された(図1)。また、NDGAのH. pylori に対するH2O2感受性亢進活性は、NDGA用量依存的に認められた(図2)。
【0058】
<実施例2>NDGA及びNDGA類縁化合物によるH. pyloriのH2O2感受性試験 (実験方法および結果)
H. pylori ATCC700392株と、H. pylori ATCC700392株を親株とし、相同組み換え法により作製したfecA1遺伝子欠損株(ATCC700392 △fecA1)並びに、SodBのORF領域をライゲーションしたpHel3発現vector (pHel3::sodB)をH. pylori ATCC700392株へ形質転換させて構築したSodB強発現株(ATCC700392 pHel3::sodB)の3菌株を用いた。これら菌株を血液寒天培地にて24時間培養し、菌体を回収後、OD600 nmを0.1に調整し、NDGA、Secoisolariciresinol、2,3,4,4'-Tetrahydroxy diphenylmethane、Terameprocol、Phyllanthinを各20 μM含有する血液寒天培地へそれぞれ100 μLプレーティングした。5 M H2O2を10 μL添加したろ紙を載せて、3日間、37℃、微好気条件下で培養後、阻止円の長さを測定した。その結果、Terameprocol、2,3,4,4'-Tetrahydroxy diphenylmethane、NDGA、Phyllanthin、Secoisolariciresinolの順に、H. pyloriのH2O2感受性が亢進した。特に、Terameprocol、2,3,4,4'-Tetrahydroxy diphenylmethane及びNDGA処理したH. pyloriのH2O2感受性はATCC700392 △fecA1が示すH2O2感受性レベルにまで亢進した(図3)。さらに、これら薬剤は、ATCC700392 pHel3::sodBに対してもH2O2感受性を亢進させた(図3)。
【0059】
<実施例3>NDGA及びNDGA類縁化合物によるH. pyloriのH2O2感受性の用量依存性試験 (実験方法および結果)
実施例2において、H2O2感受性レベルをATCC700392 △fecA1株と同レベルにまで亢進させたTerameprocol、2,3,4,4'-Tetrahydroxy diphenylmethane及びNDGAの活性に用量依存性があるかを明らかとする目的で、0, 20, 40, 80 μMのTerameprocol、2,3,4,4'-Tetrahydroxy diphenylmethane及びNDGAをそれぞれ調整し、以下の方法により、H. pylori ATCC700392株に対するH2O2感受性変化への影響を評価した。血液寒天培地にて24時間培養した菌体を回収後、OD600nmを0.1に調整し、上記各濃度の各薬剤を含有させた血液寒天培地へそれぞれ100 μLプレーティングした。5 M H2O2を10 μL添加したろ紙を載せて、3日間、37℃、微好気条件下で培養後、阻止円の長さを測定した。その結果、Terameprocol、2,3,4,4'-Tetrahydroxy diphenylmethane及びNDGAの各薬剤は、用量依存的にH. pylori ATCC700392株のH2O2感受性を亢進させた(図4)。
【0060】
<実施例4>NDGA及びNDGA類縁化合物によるH. pyloriの増殖能試験 (実験方法および結果)
NDGA、Secoisolariciresinol、2,3,4,4'-Tetrahydroxy diphenylmethane、Terameprocol、Phyllanthinの各薬剤が、H. pylori の増殖に直接的な影響を与えるかを明らかとする目的で次の実験を行った。血液寒天培地にて24時間培養したH. pylori ATCC700392株を回収し、OD600nmを0.06に調整し、20 μMのNDGA、Secoisolariciresinol、2,3,4,4'-Tetrahydroxy diphenylmethane、Terameprocol、Phyllanthinをそれぞれ添加した7% FBS含有Brucella Brothへ播種した。この時OD600nmを測定し、37℃、微好気条件下で24時間培養した後、OD600nmを測定した。その結果、各薬剤の存在によりH. pyloriの増殖が抑制されることはなく、これらの薬剤は、H. pylori の増殖に影響しないことが示された(図5)。
【0061】
<実施例5>NDGA及びTerameprocolのH. pylori 野生株及びSodB強発現メトロニダゾール耐性株のH2O2感受性試験
(実験方法および結果)
H. pylori ATCC700392及び、臨床分離されたSodB強発現メトロニダゾール耐性H. pylori(KS0145)を用いた。各菌株を血液寒天培地にて24時間培養後、OD600 nmを0.1に調整し、7% FBS含有Brucella Brothに懸濁後、40 μMのNDGA及びTerameprocolを添加し、37℃、微好気条件下で、30分間 pre-cultureした。その後、菌液をニッスイプレート・ヘリコバクター寒天培地へ100 μLプレーティングし、5 M H2O2を10 μL添加したろ紙を載せて、3日間、37℃、微好気条件下で培養後、阻止円の長さを測定した。KS0145は、SodB強発現株であることから、H2O2感受性はH. pylori ATCC700392株に比べて低かったが、NDGA及びTerameprocolは共に、KS0145株に対してもH2O2感受性を亢進させた(図6)。前述のようにメトロニダゾールは、菌体内で還元活性化されsuperoxideを発生することで抗菌活性を発揮する。そのため、SodB強発現誘導させたH. pylori菌株はメトロニダゾール耐性を示す。実際に、臨床分離されたメトロニダゾール耐性菌株の中には、SodBの強発現株(KS0145, KS0048)が存在し、これら菌株に対してfecA1遺伝子を欠損させることで、SodB活性は有意に低下し、メトロニダゾール感受性も亢進する。40 μM Terameprocol処理では、SodB強発現メトロニダゾール耐性株に対しても、H2O2感受性をメトロニダゾール感受性株と同レベルにまで亢進させた。この結果から、FecA1機能阻害化合物によるH. pyloriの抗酸化能破綻活性が、メトロニダゾール耐性解除にも貢献する可能性が示された。
【0062】
<実施例6>NDGAによるサルモネラ菌及び腸管出血性大腸菌O157の増殖能試験 (実験方法および結果)
NDGAが、サルモネラ菌及びO157 の増殖に直接的な影響を与えるかを明らかとする目的で次の実験を行った。LB寒天培地にて24時間培養したSalmonella enterica serovar Typhimuriumを回収し、OD600nmを0.1に調整し、50 μMのNDGAを添加したLB Brothへ播種した。この時OD600nmを測定し、37℃、好気条件下で3時間培養した後、OD600 nmを測定した。また、Salmonella enterica serovar Typhimuriumに代えてEscherichia coli O157 Sakai株を用いる以外、上記と同様にして、試験を行った。結果を図7に示す。その結果、NDGAの存在によりサルモネラ菌及びO157の増殖が抑制されることはなく、NDGAは、これらの細菌の増殖に影響しないことが示された(図7)。
【0063】
<実施例7>NDGAのサルモネラ菌及び腸管出血性大腸菌O157のH2O2感受性試験
(実験方法および結果)
Salmonella enterica serovar Typhimurium及びEscherichia coli O157 Sakai株を用いた。各菌株をLB寒天培地にて24時間培養後、OD600nmを0.1に調整し、LB Brothに懸濁後、50 μMのNDGAを添加し、37℃、好気条件下で、3時間 pre-cultureした。その後、菌液をLB寒天培地へ100 μLプレーティングし、5 M H2O2を10 μL添加したろ紙を載せて、24時間、37℃、好気条件下で培養後、阻止円の長さを測定した。結果を図8に示す。図8に示されるように、NDGAは、サルモネラ菌及び腸管出血性大腸菌O157のH2O2感受性を亢進した。
【0064】
<実施例8>
材料及び方法
菌株及び培養条件
本試験において、H. pylori ATCC700392株、KS0048株及びKS0145株を用いた。KS numberの H. pylori菌株は、臨床分離された菌株で、25% (vol/vol) グリセロールを含むBrucella broth培地中で-80°Cで保存した。KS0048株及びKS0145株は、SodBの過剰発現をもたらすferric uptake regulator (Fur)アミノ酸変異を有するメトロニダゾール(Mtz)耐性株である。SodBのORF領域をライゲーションしたpHel3発現vector (pHel3::sodB)と、pHel3発現vectorのみ(pHel3 ctrl)をH. pylori ATCC700392株へそれぞれ形質転換させて構築したSodB強発現株(ATCC700392 pHel3::sodB)とそのコントロール株(ATCC700392 pHel3 ctrl)を用いた(H. Tsugawa, H. Suzuki, K. Satoh et al., Antioxidants and Redox Signaling, vol. 14, no. 1, pp. 15-23, 2011.)。ATCC700392 pHel3::sodBは、そのSodB 活性がATCC700392 pHel3 ctrl株よりも高いことが確認されている(同上)。また、H. pylori ATCC700392株、H. pylori KS0048株並びにH. pylori KS0145株を親株として相同組み換え法により構築した各菌株のfecA1遺伝子欠損株(ATCC700392ΔfecA1株、KS0048ΔfecA1株、及びKS0145ΔfecA1株)を用いた(H. Tsugawa, H. Suzuki, J. Matsuzaki, K. Hirata, and T. Hibi, Free Radical Biology and Medicine, vol. 52, no. 6, pp. 1003-1010, 2012.)。各菌株のfecA1欠損株のSodB活性は、親株よりも著しく低下することが確認されている(同上)。これらの株は、25% (vol/vol)グリセロールを含むBrucella broth培地中、-80°Cで保存した。これらの菌を、7%ヒツジ血液及び7%ウシ胎児血清を含むBrucella 寒天培地で、AnaeroPack MicroAeroにより微好気条件下、37°C で2日間培養した。
【0065】
細胞内Fe2+レベルの測定
OD600nmを0.5に調整した菌株を、NDGA添加又は未添加で3時間インキュベートした。菌株をHBSSで3回洗浄後、10 μM RhoNox-1を添加した(T. Hirayama, K. Okuda, and H. Nagasawa, Chemical Science, vol. 4, no. 3, pp. 1250-1256, 2013)。37°C、1時間のインキュベーションの後、菌株をHBSSで洗浄し、OD600nmを0.1に調整した。蛍光強度を560nm excitation及び595nm emissionを用いて測定した。
【0066】
SOD 活性の測定
OD600nmを0.5に調整した菌株を、NDGA添加又は未添加で3時間インキュベートした。各菌株をPBS洗浄後、超音波処理(25% powerで1.5min)し、蛋白質を回収した。その後、SOD活性をSOD Assay Kit (Dojindo, Kumamoto, Japan)を用いて測定した(H. Tsugawa, H. Suzuki, J. Matsuzaki, K. Hirata, and T. Hibi, Free Radical Biology and Medicine, vol. 52, no. 6, pp. 1003-1010, 2012.)。回収した蛋白質濃度は、BCA assayにより測定した。
【0067】
Mtz のMICの測定
OD600nmを0.5に調整した菌株を、50 μM NDGA添加又は未添加で3時間インキュベートした。菌株(OD600nm=0.1)を、2倍ずつ段階希釈したMt z (0.5-128 μg/mL).を含む寒天プレートに播種した。全てのプレートを37℃、微好気性条件でインキュベートし、最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration (MIC))を決定した(Free Radical Biology and Medicine, vol. 52, no. 6, pp. 1003-1010, 2012)。
【0068】
H2O2 感受性の測定
OD600nmを0.5に調整した菌株を、50 μM NDGA添加又は未添加で3時間インキュベートした。各菌株をPBS洗浄後、OD600nmを0.1に調整し、Nissui Helicobacter agarへ100 μL播種した。5 M 過酸化水素 (H2O2)を10 μL添加した直径5mmのろ紙をプレートに載せ、37℃、微好気性条件で3日間培養後、ろ紙周辺の発育阻止円の長さを測定した(Free Radical Biology and Medicine, vol. 52, no. 6, pp. 1003-1010, 2012)。
【0069】
統計的解析
全ての値を平均 ±SDで示した。3群以上の統計的有意差は、Tukey testを用いて評価した。P < 0.05の場合、統計的に有意差があると評価した。
【0070】
結果
H. pyloriの細胞内Fe2+レベル及び SodB活性に対するNDGAの効果
Fe2+ を選択的に検出するためにturn-on蛍光プローブRhoNox-1を用いて細胞内Fe2+レベルに対するNDGAの効果を試験した(Chemical Science, vol. 4, no. 3, pp. 1250-1256, 2013)。H. pyloriの細胞内Fe2+ レベルは、NDGA用量依存的に有意に低下した(図9左)。本発明者らは、既に、fecA1欠損株が野生株よりも低いSodB活性を示すことを実証している(Free Radical Biology and Medicine, vol. 52, no. 6, pp. 1003-1010, 2012.)。従って、今回、SodB活性に対するNDGAの効果を調べた。SodB活性は、NDGAへの曝露に伴い、用量依存的有意に低下した(図9、右)。また、50 μM NDGAでの処理により、fecA1欠損株(ΔfecA1)が示すレベルまでSodB活性は低下した(図9右)。また、本発明者らは、Mtz耐性株(KS0048 and KS0145)のSodB活性がFurアミノ酸変異に起因して上昇することを実証している(Antioxidants and Redox Signaling, vol. 14, no. 1, pp. 15-23, 2011.)。従って、KS0048及びKS0145で増強されたSodB 活性がNDGAにより抑制されるか否かを試験した。まず、50 μM NDGAへの曝露によりSodB強発現株(ATCC700392 pHel3::sodB)の細胞内Fe2+レベルは、コントロール株(ATCC700392 pHel3 ctrl)に比べ、有意に減少した(図10上)。同様に、KS0048 及びKS0145の細胞内Fe2+レベルも50 μM NDGA曝露により有意に減少した(図10上)。その結果、50 μM NDGA曝露により各菌株のSodB活性は、fecA1欠損株(KS0048ΔfecA1及びKS0145ΔfecA1)が示すレベルまで有意に減少した(図10下)。これらの結果から、NDGAがKS0048及びKS0145の増強されたSodB活性も抑制することが示唆される。
【0071】
H. pyloriのMtz 感受性に対するNDGAの効果
既に、本発明者らは、KS0048 及びKS0145のfecA1欠損株においてMtzに対するMICが減少することを実証している(Free Radical Biology and Medicine, vol. 52, no. 6, pp. 1003-1010, 2012)。従って、KS0048及びKS0145のMtz耐性がNDGA処理によって変化するか試験した。50 μM NDGA曝露によりKS0048及びKS0145のMICは、それぞれ、32 μg/mLから8 μg/mL、及び128 μg/mLから16 μg/mLへと減少した(表1)。特に、ATCC700392 pHel3::sodBのMtz耐性は、50 μM NDGA (MIC < 8 μg/mL)での処理により解除された(表1)。
【0072】
【表1】
【0073】
H. pyloriのH2O2感受性に対するNDGAの効果
H. pyloriのSodB強発現株の抗酸化活性をNDGA が抑制するか調べるために、H. pyloriのH2O2感受性をディスクアッセイで試験した。SodB強発現株 (ATCC700392 pHel3::sodB, KS0048、及びKS0145)のH2O2感受性は、NDGA曝露により、容量依存的に有意に上昇した(図11)。fecA1遺伝子欠損により増強されたH2O2感受性(KS0048ΔfecA1及びKS0145ΔfecA1)は、NDGAにより影響を受けなかった(図11)。これらの結果から、NDGAは、FecA1の阻害を介してH. pyloriのSodB依存抗酸化活性を低下させているものと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11