【実施例】
【0057】
<実施例1>NDGAによるH. pyloriのH
2O
2感受性試験
(実験方法および結果)
H. pylori ATCC700392株を血液寒天培地にて24時間培養し、菌体を回収後、OD600
nmを0.1に調整し、NDGAを0, 10, 50, 100 μMを含む血液寒天培地へそれぞれ100 μLずつプレーティングした。5 M H
2O
2を10 μL添加したろ紙を載せて、3日間、37℃、微好気条件下で培養後、阻止円長を測定した。その結果、NDGA含有血液寒天培地で培養した阻止円の大きさがNDGA非含有血液寒天培地で培養した阻止円よりも大きくなり、NDGAは、H. pylori のH
2O
2感受性を亢進することが示された(
図1)。また、NDGAのH. pylori に対するH
2O
2感受性亢進活性は、NDGA用量依存的に認められた(
図2)。
【0058】
<実施例2>NDGA及びNDGA類縁化合物によるH. pyloriのH
2O
2感受性試験 (実験方法および結果)
H. pylori ATCC700392株と、H. pylori ATCC700392株を親株とし、相同組み換え法により作製したfecA1遺伝子欠損株(ATCC700392 △fecA1)並びに、SodBのORF領域をライゲーションしたpHel3発現vector (pHel3::sodB)をH. pylori ATCC700392株へ形質転換させて構築したSodB強発現株(ATCC700392 pHel3::sodB)の3菌株を用いた。これら菌株を血液寒天培地にて24時間培養し、菌体を回収後、OD600
nmを0.1に調整し、NDGA、Secoisolariciresinol、2,3,4,4'-Tetrahydroxy diphenylmethane、Terameprocol、Phyllanthinを各20 μM含有する血液寒天培地へそれぞれ100 μLプレーティングした。5 M H
2O
2を10 μL添加したろ紙を載せて、3日間、37℃、微好気条件下で培養後、阻止円の長さを測定した。その結果、Terameprocol、2,3,4,4'-Tetrahydroxy diphenylmethane、NDGA、Phyllanthin、Secoisolariciresinolの順に、H. pyloriのH
2O
2感受性が亢進した。特に、Terameprocol、2,3,4,4'-Tetrahydroxy diphenylmethane及びNDGA処理したH. pyloriのH
2O
2感受性はATCC700392 △fecA1が示すH
2O
2感受性レベルにまで亢進した(
図3)。さらに、これら薬剤は、ATCC700392 pHel3::sodBに対してもH
2O
2感受性を亢進させた(
図3)。
【0059】
<実施例3>NDGA及びNDGA類縁化合物によるH. pyloriのH
2O
2感受性の用量依存性試験 (実験方法および結果)
実施例2において、H
2O
2感受性レベルをATCC700392 △fecA1株と同レベルにまで亢進させたTerameprocol、2,3,4,4'-Tetrahydroxy diphenylmethane及びNDGAの活性に用量依存性があるかを明らかとする目的で、0, 20, 40, 80 μMのTerameprocol、2,3,4,4'-Tetrahydroxy diphenylmethane及びNDGAをそれぞれ調整し、以下の方法により、H. pylori ATCC700392株に対するH
2O
2感受性変化への影響を評価した。血液寒天培地にて24時間培養した菌体を回収後、OD600nmを0.1に調整し、上記各濃度の各薬剤を含有させた血液寒天培地へそれぞれ100 μLプレーティングした。5 M H
2O
2を10 μL添加したろ紙を載せて、3日間、37℃、微好気条件下で培養後、阻止円の長さを測定した。その結果、Terameprocol、2,3,4,4'-Tetrahydroxy diphenylmethane及びNDGAの各薬剤は、用量依存的にH. pylori ATCC700392株のH
2O
2感受性を亢進させた(
図4)。
【0060】
<実施例4>NDGA及びNDGA類縁化合物によるH. pyloriの増殖能試験 (実験方法および結果)
NDGA、Secoisolariciresinol、2,3,4,4'-Tetrahydroxy diphenylmethane、Terameprocol、Phyllanthinの各薬剤が、H. pylori の増殖に直接的な影響を与えるかを明らかとする目的で次の実験を行った。血液寒天培地にて24時間培養したH. pylori ATCC700392株を回収し、OD600nmを0.06に調整し、20 μMのNDGA、Secoisolariciresinol、2,3,4,4'-Tetrahydroxy diphenylmethane、Terameprocol、Phyllanthinをそれぞれ添加した7% FBS含有Brucella Brothへ播種した。この時OD600nmを測定し、37℃、微好気条件下で24時間培養した後、OD600nmを測定した。その結果、各薬剤の存在によりH. pyloriの増殖が抑制されることはなく、これらの薬剤は、H. pylori の増殖に影響しないことが示された(
図5)。
【0061】
<実施例5>NDGA及びTerameprocolのH. pylori 野生株及びSodB強発現メトロニダゾール耐性株のH
2O
2感受性試験
(実験方法および結果)
H. pylori ATCC700392及び、臨床分離されたSodB強発現メトロニダゾール耐性H. pylori(KS0145)を用いた。各菌株を血液寒天培地にて24時間培養後、OD600 nmを0.1に調整し、7% FBS含有Brucella Brothに懸濁後、40 μMのNDGA及びTerameprocolを添加し、37℃、微好気条件下で、30分間 pre-cultureした。その後、菌液をニッスイプレート・ヘリコバクター寒天培地へ100 μLプレーティングし、5 M H
2O
2を10 μL添加したろ紙を載せて、3日間、37℃、微好気条件下で培養後、阻止円の長さを測定した。KS0145は、SodB強発現株であることから、H
2O
2感受性はH. pylori ATCC700392株に比べて低かったが、NDGA及びTerameprocolは共に、KS0145株に対してもH
2O
2感受性を亢進させた(
図6)。前述のようにメトロニダゾールは、菌体内で還元活性化されsuperoxideを発生することで抗菌活性を発揮する。そのため、SodB強発現誘導させたH. pylori菌株はメトロニダゾール耐性を示す。実際に、臨床分離されたメトロニダゾール耐性菌株の中には、SodBの強発現株(KS0145, KS0048)が存在し、これら菌株に対してfecA1遺伝子を欠損させることで、SodB活性は有意に低下し、メトロニダゾール感受性も亢進する。40 μM Terameprocol処理では、SodB強発現メトロニダゾール耐性株に対しても、H
2O
2感受性をメトロニダゾール感受性株と同レベルにまで亢進させた。この結果から、FecA1機能阻害化合物によるH. pyloriの抗酸化能破綻活性が、メトロニダゾール耐性解除にも貢献する可能性が示された。
【0062】
<実施例6>NDGAによるサルモネラ菌及び腸管出血性大腸菌O157の増殖能試験 (実験方法および結果)
NDGAが、サルモネラ菌及びO157 の増殖に直接的な影響を与えるかを明らかとする目的で次の実験を行った。LB寒天培地にて24時間培養したSalmonella enterica serovar Typhimuriumを回収し、OD600nmを0.1に調整し、50 μMのNDGAを添加したLB Brothへ播種した。この時OD600nmを測定し、37℃、好気条件下で3時間培養した後、OD600 nmを測定した。また、Salmonella enterica serovar Typhimuriumに代えてEscherichia coli O157 Sakai株を用いる以外、上記と同様にして、試験を行った。結果を
図7に示す。その結果、NDGAの存在によりサルモネラ菌及びO157の増殖が抑制されることはなく、NDGAは、これらの細菌の増殖に影響しないことが示された(
図7)。
【0063】
<実施例7>NDGAのサルモネラ菌及び腸管出血性大腸菌O157のH
2O
2感受性試験
(実験方法および結果)
Salmonella enterica serovar Typhimurium及びEscherichia coli O157 Sakai株を用いた。各菌株をLB寒天培地にて24時間培養後、OD600nmを0.1に調整し、LB Brothに懸濁後、50 μMのNDGAを添加し、37℃、好気条件下で、3時間 pre-cultureした。その後、菌液をLB寒天培地へ100 μLプレーティングし、5 M H
2O
2を10 μL添加したろ紙を載せて、24時間、37℃、好気条件下で培養後、阻止円の長さを測定した。結果を
図8に示す。
図8に示されるように、NDGAは、サルモネラ菌及び腸管出血性大腸菌O157のH
2O
2感受性を亢進した。
【0064】
<実施例8>
材料及び方法
菌株及び培養条件
本試験において、H. pylori ATCC700392株、KS0048株及びKS0145株を用いた。KS numberの H. pylori菌株は、臨床分離された菌株で、25% (vol/vol) グリセロールを含むBrucella broth培地中で-80°Cで保存した。KS0048株及びKS0145株は、SodBの過剰発現をもたらすferric uptake regulator (Fur)アミノ酸変異を有するメトロニダゾール(Mtz)耐性株である。SodBのORF領域をライゲーションしたpHel3発現vector (pHel3::sodB)と、pHel3発現vectorのみ(pHel3 ctrl)をH. pylori ATCC700392株へそれぞれ形質転換させて構築したSodB強発現株(ATCC700392 pHel3::sodB)とそのコントロール株(ATCC700392 pHel3 ctrl)を用いた(H. Tsugawa, H. Suzuki, K. Satoh et al., Antioxidants and Redox Signaling, vol. 14, no. 1, pp. 15-23, 2011.)。ATCC700392 pHel3::sodBは、そのSodB 活性がATCC700392 pHel3 ctrl株よりも高いことが確認されている(同上)。また、H. pylori ATCC700392株、H. pylori KS0048株並びにH. pylori KS0145株を親株として相同組み換え法により構築した各菌株のfecA1遺伝子欠損株(ATCC700392ΔfecA1株、KS0048ΔfecA1株、及びKS0145ΔfecA1株)を用いた(H. Tsugawa, H. Suzuki, J. Matsuzaki, K. Hirata, and T. Hibi, Free Radical Biology and Medicine, vol. 52, no. 6, pp. 1003-1010, 2012.)。各菌株のfecA1欠損株のSodB活性は、親株よりも著しく低下することが確認されている(同上)。これらの株は、25% (vol/vol)グリセロールを含むBrucella broth培地中、-80°Cで保存した。これらの菌を、7%ヒツジ血液及び7%ウシ胎児血清を含むBrucella 寒天培地で、AnaeroPack MicroAeroにより微好気条件下、37°C で2日間培養した。
【0065】
細胞内Fe
2+レベルの測定
OD600nmを0.5に調整した菌株を、NDGA添加又は未添加で3時間インキュベートした。菌株をHBSSで3回洗浄後、10 μM RhoNox-1を添加した(T. Hirayama, K. Okuda, and H. Nagasawa, Chemical Science, vol. 4, no. 3, pp. 1250-1256, 2013)。37°C、1時間のインキュベーションの後、菌株をHBSSで洗浄し、OD600nmを0.1に調整した。蛍光強度を560nm excitation及び595nm emissionを用いて測定した。
【0066】
SOD 活性の測定
OD600nmを0.5に調整した菌株を、NDGA添加又は未添加で3時間インキュベートした。各菌株をPBS洗浄後、超音波処理(25% powerで1.5min)し、蛋白質を回収した。その後、SOD活性をSOD Assay Kit (Dojindo, Kumamoto, Japan)を用いて測定した(H. Tsugawa, H. Suzuki, J. Matsuzaki, K. Hirata, and T. Hibi, Free Radical Biology and Medicine, vol. 52, no. 6, pp. 1003-1010, 2012.)。回収した蛋白質濃度は、BCA assayにより測定した。
【0067】
Mtz のMICの測定
OD600nmを0.5に調整した菌株を、50 μM NDGA添加又は未添加で3時間インキュベートした。菌株(OD600nm=0.1)を、2倍ずつ段階希釈したMt z (0.5-128 μg/mL).を含む寒天プレートに播種した。全てのプレートを37℃、微好気性条件でインキュベートし、最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration (MIC))を決定した(Free Radical Biology and Medicine, vol. 52, no. 6, pp. 1003-1010, 2012)。
【0068】
H
2O
2 感受性の測定
OD600nmを0.5に調整した菌株を、50 μM NDGA添加又は未添加で3時間インキュベートした。各菌株をPBS洗浄後、OD600nmを0.1に調整し、Nissui Helicobacter agarへ100 μL播種した。5 M 過酸化水素 (H
2O
2)を10 μL添加した直径5mmのろ紙をプレートに載せ、37℃、微好気性条件で3日間培養後、ろ紙周辺の発育阻止円の長さを測定した(Free Radical Biology and Medicine, vol. 52, no. 6, pp. 1003-1010, 2012)。
【0069】
統計的解析
全ての値を平均 ±SDで示した。3群以上の統計的有意差は、Tukey testを用いて評価した。P < 0.05の場合、統計的に有意差があると評価した。
【0070】
結果
H. pyloriの細胞内Fe
2+レベル及び SodB活性に対するNDGAの効果
Fe
2+ を選択的に検出するためにturn-on蛍光プローブRhoNox-1を用いて細胞内Fe
2+レベルに対するNDGAの効果を試験した(Chemical Science, vol. 4, no. 3, pp. 1250-1256, 2013)。H. pyloriの細胞内Fe
2+ レベルは、NDGA用量依存的に有意に低下した(
図9左)。本発明者らは、既に、fecA1欠損株が野生株よりも低いSodB活性を示すことを実証している(Free Radical Biology and Medicine, vol. 52, no. 6, pp. 1003-1010, 2012.)。従って、今回、SodB活性に対するNDGAの効果を調べた。SodB活性は、NDGAへの曝露に伴い、用量依存的有意に低下した(
図9、右)。また、50 μM NDGAでの処理により、fecA1欠損株(ΔfecA1)が示すレベルまでSodB活性は低下した(
図9右)。また、本発明者らは、Mtz耐性株(KS0048 and KS0145)のSodB活性がFurアミノ酸変異に起因して上昇することを実証している(Antioxidants and Redox Signaling, vol. 14, no. 1, pp. 15-23, 2011.)。従って、KS0048及びKS0145で増強されたSodB 活性がNDGAにより抑制されるか否かを試験した。まず、50 μM NDGAへの曝露によりSodB強発現株(ATCC700392 pHel3::sodB)の細胞内Fe
2+レベルは、コントロール株(ATCC700392 pHel3 ctrl)に比べ、有意に減少した(
図10上)。同様に、KS0048 及びKS0145の細胞内Fe
2+レベルも50 μM NDGA曝露により有意に減少した(
図10上)。その結果、50 μM NDGA曝露により各菌株のSodB活性は、fecA1欠損株(KS0048ΔfecA1及びKS0145ΔfecA1)が示すレベルまで有意に減少した(
図10下)。これらの結果から、NDGAがKS0048及びKS0145の増強されたSodB活性も抑制することが示唆される。
【0071】
H. pyloriのMtz 感受性に対するNDGAの効果
既に、本発明者らは、KS0048 及びKS0145のfecA1欠損株においてMtzに対するMICが減少することを実証している(Free Radical Biology and Medicine, vol. 52, no. 6, pp. 1003-1010, 2012)。従って、KS0048及びKS0145のMtz耐性がNDGA処理によって変化するか試験した。50 μM NDGA曝露によりKS0048及びKS0145のMICは、それぞれ、32 μg/mLから8 μg/mL、及び128 μg/mLから16 μg/mLへと減少した(表1)。特に、ATCC700392 pHel3::sodBのMtz耐性は、50 μM NDGA (MIC < 8 μg/mL)での処理により解除された(表1)。
【0072】
【表1】
【0073】
H. pyloriのH
2O
2感受性に対するNDGAの効果
H. pyloriのSodB強発現株の抗酸化活性をNDGA が抑制するか調べるために、H. pyloriのH
2O
2感受性をディスクアッセイで試験した。SodB強発現株 (ATCC700392 pHel3::sodB, KS0048、及びKS0145)のH
2O
2感受性は、NDGA曝露により、容量依存的に有意に上昇した(
図11)。fecA1遺伝子欠損により増強されたH
2O
2感受性(KS0048ΔfecA1及びKS0145ΔfecA1)は、NDGAにより影響を受けなかった(
図11)。これらの結果から、NDGAは、FecA1の阻害を介してH. pyloriのSodB依存抗酸化活性を低下させているものと考えられる。