特許第6589219号(P6589219)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6589219温度センサー用樹脂組成物、温度センサー用素子、温度センサーおよび温度センサー用素子の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6589219
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】温度センサー用樹脂組成物、温度センサー用素子、温度センサーおよび温度センサー用素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/02 20060101AFI20191007BHJP
【FI】
   H01C7/02
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-561029(P2015-561029)
(86)(22)【出願日】2015年2月5日
(86)【国際出願番号】JP2015053272
(87)【国際公開番号】WO2015119205
(87)【国際公開日】20150813
【審査請求日】2018年1月31日
(31)【優先権主張番号】特願2014-21767(P2014-21767)
(32)【優先日】2014年2月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】関谷 毅
(72)【発明者】
【氏名】寺川 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】横田 知之
(72)【発明者】
【氏名】染谷 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】リーダー ジョナサン ティー
【審査官】 柴垣 俊男
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−337419(JP,A)
【文献】 特開2000−049004(JP,A)
【文献】 特開2003−289001(JP,A)
【文献】 特開2013−159805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/02
H01C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式CHCHCOOXで示される第1のアクリルモノマーと、一般式CHCHCOOXで示される第2のアクリルモノマーと、を共重合させたアクリルポリマーに、導電性粒子が分散され、
前記第1のアクリルモノマーのXが−(CHCHで表されるアルキル基であり、
前記第2のアクリルモノマーのXが−(CHCHで表されるアルキル基であり、
nが13〜21の整数であり、かつmが1〜7の整数である、温度センサー用樹脂組成物。
【請求項2】
前記第1のアクリルモノマーおよび前記第2のアクリルモノマーが、形状記憶樹脂に用いられるモノマーであることを特徴とする請求項1に記載の温度センサー用樹脂組成物。
【請求項3】
前記アクリルポリマー中の、前記第1のアクリルモノマーの質量比が、前記第2のアクリルモノマーの質量比よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の温度センサー用樹脂組成物。
【請求項4】
二枚の電極と、二枚の電極に挟まれるように配置された請求項1に記載の温度センサー用樹脂組成物と、を備えることを特徴とする温度センサー用素子。
【請求項5】
二枚の電極が同一平面上にあり、二枚の電極が請求項1に記載の温度センサー用樹脂組成物によって橋渡しされていることを特徴とする温度センサー用素子。
【請求項6】
前記温度センサー用樹脂組成物の、前記電極と反対側の面上に、補助電極を有することを特徴とする請求項5に記載の温度センサー用素子。
【請求項7】
前記二枚の電極の間に、前記温度センサー用樹脂組成物の他に、
前記第1のアクリルモノマーと前記第2のアクリルモノマーの配合比が前記温度センサー用樹脂組成物と異なる第2の温度センサー用樹脂組成物を備えることを特徴とする請求項4に記載の温度センサー用素子。
【請求項8】
前記二枚の電極の間に、前記温度センサー用樹脂組成物の他に、
前記第1のアクリルモノマーと前記第2のアクリルモノマーの配合比が前記温度センサー用樹脂組成物と異なる第2の温度センサー用樹脂組成物を備えることを特徴とする請求項5に記載の温度センサー用素子。
【請求項9】
請求項4〜8の温度センサー用素子と、前記温度センサー用素子のいずれか一方の電極と接続されたトランジスタとを備える温度センサー。
【請求項10】
一般式CHCHCOOXで示される第1のアクリルモノマーと一般式CHCHCOOXで示される第2のアクリルモノマーを共重合させてアクリルポリマーを作製する第1の工程と、
前記アクリルポリマーに導電性粒子を加えた材料を、溶融もしくは溶媒希釈して流動性を付与し、撹拌と脱泡を同時に行うことで、前記アクリルポリマー中に導電性粒子を均一に分散させたペースト状混合物を作製する第2の工程と、
前記ペースト状混合物を、二つの電極間に塗布または印刷する第3の工程と、を有し、
前記第1のアクリルモノマーのXが−(CHCHで表されるアルキル基であり、
前記第2のアクリルモノマーのXが−(CHCHで表されるアルキル基であり、
nが13〜21の整数であり、かつmが1〜7の整数である、温度センサー用素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度センサー用樹脂組成物、温度センサー用素子、温度センサーおよび温度センサー用素子の製造方法に関する。
本願は、2014年2月6日に、日本に出願された特願2014−021767号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体でつくるフレキシブルエレクトロニクスは、素材の軟らかさから、人体の表面や体内にフィットする。そのため、細胞や組織から直接生体情報を得る手段として、フレキシブルエレクトロニクスを利用することに、近年注目が集まっている。
【0003】
温度センサーは、その応用の一つとして注目されている。温度センサーは、機械制御のスイッチングや、熱ヒューズとしてよく用いられている。近年の素子の微細化および複雑化に伴い、よりフレキシブルで、設定温度の微調整が可能である温度センサーが求められている。フレキシブルで、設定温度を体温付近に調整することができる温度センサーは、医療分野においても人体への負担の少ない精度の高い測定が可能となるため、実現が求められている。
【0004】
例えば、温度センサーとしては、特定の温度領域に達すると温度の上昇と共に電気抵抗値が正の温度係数(Positive Temperature Cofficient)で急激に増大する特性(以下、「PTC特性」という)を有する温度センサーが提案されている。例えば、特許文献1および2には、このPTC特性を有する樹脂組成物が記載されている。PTC特性を有する温度センサー用樹脂組成物は、導電性粒子を含有するポリマーの熱膨張により温度変化を測定することができる。低温では導電性粒子が互いに接触しており、電極間の抵抗値は低くなる。一方で、温度が上昇し特定の温度を超えるとポリマーが熱膨張し、導電性粒子間に間隙が生じ抵抗値が増大する。このような抵抗値変化を測定することで、温度変化を測定することができる。また特定の温度以上になると抵抗値が急激に上昇する特性を利用して、熱ヒューズ等の温度による素子の制御を行うこともできる。
【0005】
このような温度センサーには、フレキシブルさが要求されており、このフレキシブル性を実現するためには、PTC特性を有し、より薄い温度センサー用樹脂組成物が求められている。例えば、特許文献3および4には、PTC特性を有する温度センサー用樹脂組成物を印刷や塗布の手段を用いて、20μmの厚さを実現することができることが記載されている。
【0006】
より高感度の温度センサーを得るためには、PTC特性が生じる温度(以下、「PTC温度」という)での抵抗値変化が大きいことが求められている。抵抗値変化が大きくなれば、温度変化に対するアウトプットが大きくなり、より感度の良い温度センサーとなる。例えば、特許文献5にはPTC温度での抵抗値変化を大きくする目的で、二つのポリマーを共結晶化させることが記載されている。
また特許文献6には、複数のPTC温度を有する温度センサー用樹脂組成物を用いることで、様々な温度領域で任意にPTC特性を得ることができることが記載されている。
【0007】
温度センサーは、安定的な測定を実現するためにPTC特性の繰り返し再現性が求められている。非特許文献1には、100回PTC温度をまたいで温度変化を繰り返してもPTC特性が変化しない温度センサー用樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5216009号公報
【特許文献2】特許第3312600号公報
【特許文献3】国際公開第2008/133073号
【特許文献4】特許第4126637号公報
【特許文献5】特許第3692141号公報
【特許文献6】特許第3882622号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. Jeon, et al., Adv. Mater., 25, 850−855 (2013).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1及び2に記載された温度センサー用樹脂組成物は、抵抗値変化が10Ω〜10Ω程度の変化率を示している。しかしながら、その厚みについては記載が無く、導電性粒子のサイズから少なくとも50μm以上の膜厚を有していると考えられる。特許文献1及び2には、繰り返し再現性についても記載が無い。
【0011】
特許文献3及び4に記載された温度センサー用樹脂組成物は、膜厚20μmと薄いが、その抵抗値変化率は10倍から100倍程度であり、十分な抵抗値変化を有しているとは言えなかった。抵抗値変化率は、PTC温度以上の温度での抵抗率(特許文献3では80℃)を、PTC温度以下の温度での抵抗率(特許文献3では30℃)で割ることで求められる。繰り返し再現性についても、特許文献3に5回の再現性が記載されているのみで、十分な再現性を有しているとは言えなかった。
【0012】
特許文献5には、温度センサー用樹脂組成物として、2つのポリマーを共結晶化させたものが記載されている。この組成物は、抵抗値変化率が1000倍近く、高い抵抗率変化を実現している。しかしながら、その膜厚は250μmと厚い。また二つのポリマーを用いて温度センサー用樹脂組成物を作製しているため、共結晶化して安定的とはいえ、相分離や結晶の乱れの発生がゼロとは言えない。すなわち、十分に均質で安定的な温度センサー用樹脂組成物を作製することができなかった。繰り返し再現性についての記載もなく、PTC温度も100℃と高いものであった。
【0013】
特許文献6には、複数のPTC温度を有する温度センサー用樹脂組成物を用いることで、様々な温度領域で任意にPTC特性を得ることができることが記載されている。しかしながら、それぞれの温度センサー用樹脂組成物は物質が異なるため、その物性も異なっている。異なる物質を用いるとそれぞれの作製条件が異なるため、様々な温度領域で任意にPTC特性を得ることができる温度センサー用樹脂組成物を簡便に作製することができない。特に塗布等の手段を用いて、温度センサー用素子を作製しようとすると、温度センサー用樹脂組成物の物性(例えば、粘度等)が異なるため、塗布条件等がそれぞれ異なり、非常に作業性が悪いという問題があった。また特許文献6には、膜厚、繰り返し再現性についての記載もない。
【0014】
非特許文献1では、100回の繰り返し再現性を実現することができる温度センサー用樹脂組成物が記載されている。しかしながら、その厚さは1mmであり、薄膜化した際に同様の繰り返し再現性を実現できないという問題があった。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、フレキシブル性が高く、より高感度で、繰り返し再現性が高いポリマーからなる温度センサー用樹脂組成物、温度センサー用素子及び温度センサー並びに温度センサーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用した。
(1)一般式CHCHCOOXで示される第1のアクリルモノマーと、一般式CHCHCOOXで示される第2のアクリルモノマーと、を共重合体させたアクリルポリマーに、導電性粒子が分散された温度センサー用樹脂組成物。
(2)前記第1のアクリルモノマーのXが−(CHCHで表されるアルキル基であり、前記第2のアクリルモノマーのXが−(CHCHで表されるアルキル基であり、nが13〜21の整数であり、かつmが1〜7の整数であることを特徴とする(1)に記載の温度センサー用樹脂組成物。
(3)前記第1のアクリルモノマーおよび前記第2のアクリルモノマーが、形状記憶樹脂に用いられるモノマーであることを特徴とする(1)または(2)のいずれかに記載の温度センサー用樹脂組成物。
(4)前記アクリルポリマー中の、前記第1のアクリルモノマーの質量比が、前記第2のアクリルモノマーの質量比よりも大きいことを特徴とする(1)〜(3)のいずれか一項に記載の温度センサー用樹脂組成物。
【0017】
(5)二枚の電極と、二枚の電極に挟まれるように配置された(1)〜(4)のいずれか一項に記載の温度センサー用樹脂組成物と、を備えることを特徴とする温度センサー用素子。
(6)二枚の電極が同一平面上にあり、二枚の電極が(1)〜(4)のいずれか一項に記載の温度センサー用樹脂組成物によって橋渡しされていることを特徴とする温度センサー用素子。
(7)前記温度センサー用樹脂組成物の、前記電極と反対側の面上に、補助電極を有することを特徴とする(6)に記載の温度センサー用素子。
(8)前記二枚の電極の間に、前記温度センサー用樹脂組成物の他に、前記第1のアクリルモノマーと前記第2のアクリルモノマーの配合比が前記温度センサー用樹脂組成物と異なる第2の温度センサー用樹脂組成物を備えることを特徴とする(5)〜(7)のいずれか一項に記載の温度センサー。
【0018】
(9)(5)〜(8)の温度センサー用素子と、前記温度センサー用素子のいずれか一方の電極と接続されたトランジスタとを備える温度センサー。
(10)第1のアクリルモノマーと第2のアクリルモノマーを共重合させてアクリルポリマーを作製する第1の工程と、前記アクリルポリマーに導電性粒子を加えた材料を、溶融もしくは溶媒希釈して流動性を付与し、撹拌と脱泡を同時に行うことで、前記アクリルポリマー中に導電性粒子を均一に分散させたペースト状混合物を作製する第2の工程と、前記ペースト状混合物を、二つの電極間に塗布または印刷する第3の工程と、を有することを特徴とする温度センサー用素子の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、フレキシブル性が高く、より高感度で、繰り返し再現性が高いポリマーからなる温度センサー用樹脂組成物、温度センサー用素子及び温度センサー並びに温度センサー用素子の製造方法を提供することを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A】本発明の一実施形態に係る温度センサー用樹脂組成物の断面を模式的に示した断面模式図であり、PTC温度より低い温度での温度センサー用樹脂組成物の断面模式図である。
図1B】本発明の一実施形態に係る温度センサー用樹脂組成物の断面を模式的に示した断面模式図であり、PTC温度より高い温度での温度センサー用樹脂組成物の断面模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る温度センサー用素子の断面を模式的に図示した断面模式図である。
図3A】本発明の他の実施形態に係る温度センサー用素子の断面を模式的に図示したものである。
図3B】本発明の一実施形態に係る温度センサー素子の断面模式図であって、補助電極を備えた温度センサー素子の断面模式図である。
図4】本発明の一実施形態に係る温度センサーの断面模式図である。
図5】本発明の他の実施形態に係る温度センサーの回路模式図である。
図6】本発明の一実施形態に係る温度センサーの使用態様を示した図である。
図7A】実施例1〜5のアクリルポリマーの融解熱を測定したグラフである。
図7B】実施例1〜5の温度センサー用樹脂組成物の融解熱を測定したグラフである。
図8】実施例1〜5の温度センサー用樹脂組成物をそれぞれ用いて作製した温度センサー用素子のPTC特性を測定したグラフである。
図9】実施例4の温度センサー用樹脂組成物を用いた温度センサー用素子の繰り返し再現性を測定したグラフである。
図10】実施例4の温度センサー用樹脂組成物を用いた温度センサーの、ゲート電圧に対するドレイン電流値の温度依存性を測定したグラフである。
図11】実施例6の温度センサー用素子のPTC特性の繰り返し再現性を測定したものである。
図12】実施例7の温度センサー用素子のPTC特性を測定したものである。
図13】実施例8の温度センサーの温度に対する抵抗値変化を、種々のゲート電圧において計測したグラフである。
図14】実施例9の温度センサー用素子のPTC特性を測定した。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を適用した温度センサー用樹脂組成物、温度センサー用素子、温度センサーおよび温度センサー用素子の製造方法について、図面を用いてその構成を説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際と同じであるとは限らない。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。本発明の温度センサー用樹脂組成物、温度センサー用素子、温度センサーは本発明の効果を損ねない範囲で以下に記載していない層などの構成要素を備えてもよい。
【0022】
(温度センサー用樹脂組成物)
図1Aは、本発明の一実施形態に係る温度センサー用樹脂組成物の断面を模式的に示した図であり、PTC温度より低い温度での温度センサー用樹脂組成物の断面模式図である。図1Bは、本発明の一実施形態に係る温度センサー用樹脂組成物の断面を模式的に示した図であり、PTC温度より高い温度での温度センサー用樹脂組成物の断面模式図である。
本発明の一実施形態に係る温度センサー用樹脂組成物10は、一般式CHCHCOOXで示される第1のアクリルモノマーと、一般式CHCHCOOXで示される第2のアクリルモノマーとを共重合体させたアクリルポリマー1に、導電性粒子2が分散されている。ここで、共重合とは、ランダム共重合でもブロック共重合でもよい。ランダム共重合であることが一般的である。
【0023】
PTC温度より低い温度では、図1Aに示すように、導電性粒子2同士が接触し互いに導通しているため、温度センサー用樹脂組成物10の抵抗値は低い。一方で、PTC温度より高い温度では、図1Bに示すように、導電性粒子2同士に間隙ができ、導電しにくくなり、温度センサー用樹脂組成物10の抵抗値は高くなる。
PTC温度は温度に対して抵抗変化が得られる感温領域より低温側の低抵抗値と高温側の高抵抗値との、平均の抵抗値を示す温度と定義した。抵抗値はその対数値で平均を算出した。
【0024】
温度センサー用樹脂組成物10の厚さは、1μm〜50μmであることが好ましく、1μm〜25μmであることがより好ましい。温度センサー用樹脂組成物10の厚さが50μmより厚いと、十分なフレキシブル性を得ることができない。温度センサー用樹脂組成物10の厚さを1μmより薄くすると、温度センサー用樹脂組成物10の厚さ方向の導電性粒子2の数が少なくなるため、十分に安定し場所によるばらつきが少ない抵抗値変化量を得ることができない。
【0025】
温度センサー用樹脂組成物10の融点は、30℃〜50℃の範囲にあることが好ましい。一般に、樹脂は融点を超えると流動性が高くなる為、膨張等の作用が生じやすくなる。PTC特性は、樹脂の膨張によって生じる為、温度センサー用樹脂組成物10と、温度センサー用樹脂組成物10のPTC温度とは近い値を示す。本発明者の鋭意検討の結果、温度センサー用樹脂組成物10の融点は、温度センサー用樹脂組成物10のPTC温度より10℃程度高いことが確認されている。そのため、融点を当該範囲とすることで、温度センサー用樹脂組成物10のPTC温度を、体温に近い温度とすることができる。温度センサー用樹脂組成物10のPTC温度が、体温付近であれば、この温度センサー用樹脂組成物10を用いた温度センサーで、人間の体温の測定を行うことができる。人体に組み込む素子の熱ヒューズ等として用いることで、素子が体温以上に過剰発熱することを防ぎ、人体への影響を最小限に抑えることができる。このPTC温度は後述するが、アクリルポリマー1の組成比およびアクリルポリマー1を重合する前のアクリルポリマーの種類を変えることで制御することができる。
【0026】
温度センサー用樹脂組成物10は成型時には流動性を有している。具体的には、ホットプレスの場合には融点以上に昇温することで容易にプレス成型をすることができる。印刷によるパターニングでは、溶剤で溶解することで粘度を低くしたインキとして用いることができる。例えば孔版印刷では粘度が100mPa・s〜10Pa・sであることが好ましい。インクジェットでは、1mPa・s〜30mPa・sの範囲の粘度が好適である。粘度が当該範囲であれば、温度センサー用樹脂組成物10を塗布または印刷等の方法で形成することができ、非常に薄膜の温度センサー用樹脂組成物10を形成することができる。
【0027】
アクリルポリマー1の融点は、30℃〜50℃の範囲であることが好ましい。温度センサー用樹脂組成物10は、アクリルポリマー1に導電性粒子2を分散させているだけであるため、温度センサー用樹脂組成物10とアクリルポリマー1の融点はほぼ同じ値を示す。従って、アクリルポリマー1の融点が、当該範囲内にあることにより、温度センサー用樹脂組成物10のPTC温度を体温付近とすることができ、人体等に用いる温度センサー用樹脂組成物10として使用することができる。
【0028】
アクリルポリマー1は、一般式CHCHCOOXで示される第1のアクリルモノマーと、一般式CHCHCOOXで示される第2のアクリルモノマーとを共重合体させて得る。このとき第1のアクリルモノマーのXの分子量は、第2のアクリルモノマーのXの分子量より大きい。これは後述するが、第1のアクリルモノマーが、温度センサー用樹脂組成物10のPTC温度の主要因となるためである。
【0029】
アクリルポリマー1は、アクリルモノマーが共重合されている。アクリルモノマー1は、単一のアクリルポリマーでもよく、重合度の異なるアクリルポリマーを混在させたものでもよい。「単一のアクリルポリマー」とは、二つのアクリルモノマーが同一の重合度で重合した重合物を意味し、「重合度の異なるアクリルポリマーを混在」とは、それぞれ同一の2種のアクリルモノマーからなり、重合度のみが異なるものを混在させていることを意味する。重合度の異なるアクリルポリマー同士は、相溶性が極めて高いため、単一のアクリルポリマー同様、相分離や結晶の乱れを発生させることはない。このような相分離や結晶の乱れは、分散させている導電性粒子の分散の均一性を大きく損なう原因となる。そのため、安定したPCT特性を得ることが難しくなる。したがって、2つのアクリルモノマーの共重合体であるアクリルポリマーを温度センサー用樹脂組成物として用いることで、均質で安定的な温度センサー用樹脂組成物10を得ることができる。
【0030】
このようなアクリルポリマーは、PTC温度を超えた際に膨張率も全体を通して一定である。相分離等が生じていると熱膨張率差が生じ、均一に膨張することが難しくなる。すなわち、均一に膨張することで、面内における抵抗率の不均一性が生ずることがなく、PTC温度前後で高い抵抗率変化を示すことができる。
さらに、このようなアクリルポリマーに溶媒等を加え、粘度を低下させた上で塗布・印刷等することで温度センサー用樹脂組成物10を作製した場合でも、非常に安定したPCT特性を得ることができる。従来の複数のポリマーや成分を混合させたものでは、溶媒の蒸発時に成分の偏りが生じてしまう。このような成分の偏りも、分散させている導電性粒子の分散の均一性を大きく損なう原因となる。すなわち、安定したPCT特性を得ることを阻害する。
【0031】
アクリルポリマー1が単一のアクリルポリマーからなる場合と、重合度の異なるアクリルポリマーを混在させてなる場合は、それぞれ有用な点がある。アクリルポリマー1が単一のアクリルポリマーであれば、温度センサー用樹脂組成物10の均質性を高めることができるため、PCT温度での急峻なPCT特性を実現することができる。これに対し、アクリルポリマー1が重合度の異なるアクリルポリマーを混在させてなる場合、PCT温度でのPCT特性をなだらかにすることができる。すなわち、測定したい態様に合せてPCT特性の感度を調整することができる。
【0032】
第1のアクリルモノマーは、PTC温度を設定する主要因であり、第2のアクリルモノマーは、PTC温度を設定温度付近で調整する役割を有する。アクリルポリマー1の融点と、第1のアクリルモノマーの融点とは必ずしも一致しないが、近い値を示す。すなわち、第1のアクリルモノマーの材料を変えて融点を設定することで、温度センサー用樹脂組成物10の融点およびPTC温度を設定することができる。
第2のアクリルモノマーを、第1のアクリルモノマーと共重合させると、その割合によって、得られるアクリルポリマーの融点を、第1のアクリルモノマーの融点付近で調整することができる。アクリルポリマーの融点と温度センサー用樹脂組成物10の融点とは関係性を有し、近い値を示すため、第2のアクリルモノマーはPTC温度を第1のアクリルモノマーの融点付近で調整することができる。
第1のアクリルモノマーのXの分子量は、第2のアクリルモノマーのXの分子量より大きければ、それぞれの機能が逆転することはない。
【0033】
第1のアクリルモノマーのXが−(CHCHで表されるアルキル基であり、第2のアクリルモノマーのXが−(CHCHで表されるアルキル基であることが好ましい。その他の基、例えばベンゼン環等を有する基と比較してアルキル基からなるアクリルモノマーは、合成が容易であり比較的簡単に入手することができ、産業上の利用可能性が高い。
【0034】
第1のアクリルモノマーのアルキル基−(CHCHのnの値は、13〜21の整数であり、かつ第2のアクリルモノマーのアルキル基−(CHCHのmの値は、1〜7の整数であることが好ましい。
【0035】
第1のアクリルモノマーのnが13〜21の整数の範囲であれば、第1のアクリルモノマーの融点を30℃〜50℃にすることができる。PTC温度と第1のアクリルモノマーの融点は、第2のアクリルモノマーと重合し、さらに導電性粒子2を混合するため、必ずしも一致はしないが、近い値を示す。そのため、第1のアクリルモノマーの融点を30℃〜50℃とすることで、PTC温度も体温付近に設定することができる。すなわち、人体等に用いる温度センサー用樹脂組成物として機能することができる。
【0036】
第2のアクリルモノマーのmが1〜7の整数の範囲であれば、PTC温度を体温付近で調整することができる。前述したように、第1のアクリルモノマーの融点とPTC温度は必ずしも一致しない。そのため、PTC温度を適切に調整する必要がある。mが1〜7の整数の範囲であれば、nが前述の値の場合に、体温付近でPTC温度を調整することができる。
【0037】
アクリルポリマー1中の、第1のアクリルモノマーの質量比が、第2のアクリルモノマーの質量比よりも大きいことが好ましい。第2のアクリルモノマーの質量比が、第1のアクリルモノマーの質量比より大きいと、温度に対する抵抗値変化がブロードになり、温度センサー用樹脂組成物の感度が劣化する。
【0038】
第1のアクリルモノマーおよび第2のアクリルモノマーは形状記憶樹脂に用いられるモノマーを用いることが好ましい。形状記憶樹脂とは、加熱するとゴムのように柔らかくなり好きな形に変形でき、常温に戻すと再び固くなりその形を固定することができるという特徴を有するものである。形状記憶樹脂としては、例えば、アクリル樹脂が挙げられ、形状記憶樹脂に用いられるモノマーとしては、例えば、オクタデシルアクリレート(ステアリルアクリレート)、ブチルアクリレート等が挙げられる。アクリル酸オクタデシルを重合して成るポリマーと、アクリル酸ブチルを重合して成るポリマーとを相互に架橋させて得られる樹脂は、良好な形状記憶特性を示す。一般に形状記憶樹脂は架橋されているため、その融点近傍での熱膨張係数は、それ程大きくは無い。しかし、形状記憶樹脂に用いられるモノマーを用いて、架橋されていないポリマーを形成すると、その融点近傍で大きな熱膨張が得られることを、本発明者らは見出した。すなわち、形状記憶樹脂に用いられるモノマーを用いることで、得られる温度センサー用樹脂組成物10のPTC温度前後での形状再現性が高くなり、PTC特性の高い繰り返し再現性を得ることができる。
【0039】
導電性粒子2は導電性を有していればよく、特に限定されるものではない。例えばカーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、銀ナノ粒子、金ナノ粒子、銀ナノフレーク、アルミニウムナノフレーク等を用いることができ、グラファイト、カーボンブラックが好ましい。これらの材料は、非常に材料が安定でセンサーに適した導電性を持つ。
【0040】
導電性粒子2のサイズは、10nm〜10μmであることが好ましい。導電性粒子2のサイズが、10μmより大きいと、印刷時の塗布性が悪くなる。例えば、スクリーン印刷等を用いて印刷する際に、スクリーンメッシュを導電性粒子2が均一に通過することができず、均一な温度センサー用樹脂組成物を形成することが難しい。導電性粒子2のサイズが、10nmより小さいと、粒子同士が凝集をし易くなる。この凝集は、アクリルポリマー1内に導電性粒子2を分散させる際の凝集のみならず、繰り返しの温度履歴による凝集も含まれる。このように導電性粒子2が凝集すると、測定感度および安定性が損なわれる。また、10mm未満の導電性粒子は、小さい粒子の製造に関連するコストが原因で、高価である。
【0041】
(温度センサー用素子)
図2は、本発明の一実施形態に係る温度センサー用素子の断面を模式的に図示した。本発明の一実施形態に係る温度センサー用素子100は、二枚の電極11と、二枚の電極11に挟まれるように配置された温度センサー用樹脂組成物10と、を備える。
温度センサー用素子100は薄膜であるため、温度センサー用樹脂組成物10はシート上に形成される。シート上に形成された温度センサー用樹脂組成物10は、その体積変化が厚み方向に大きく変化するため、そのPTC特性も厚さ方向で大きく変化する。そのため、二枚の電極11で温度センサー用樹脂組成物10を挟むように配置することにより感度の高い温度センサー用素子100を得ることができる。
【0042】
図3Aは、本発明の他の実施形態に係る温度センサー用素子の断面を模式的に図示したものである。図3Bは、補助電極を備えた本発明の一態様に係る温度センサー素子の断面模式図である。
本発明のその他の一実施形態に係る温度センサー用素子101は、図3Aで示すように、二枚の電極12が同一平面上にあり、二枚の電極12が温度センサー用樹脂組成物10によって橋渡しされている。
このような構成の温度センサー用素子101は、二枚の電極12を、同一平面上に並列に配置することで、温度センサー用素子101の総厚を薄くすることができる。またこのような構成の温度センサー用素子101は、その厚み方向への膨張を阻害する要因(電極等)が存在しないため、より精密な測定を可能とする。
【0043】
温度センサー素子は、図3Bで示すように、温度センサー用樹脂組成物10の二枚の電極12と反対側の面上に、補助電極13を有してもよい。図3Aで示すような温度センサー用素子101は、二枚の電極12が温度センサー用樹脂組成物10の平行方向に配置されているため、PTC温度前後での体積変化量が少なくなり、抵抗値変化量が少なくなる。しかし、温度センサー用素子102は、補助電極13を、温度センサー用樹脂組成物10の厚さ方向で、二枚の電極と対向するように配置することで、片方の電極12と補助電極13間の変化量と、もう片方の電極12と補助電極13間の変化量とを同時に測定することができ、より検出感度を高めることができる。
【0044】
二枚の電極間に、第1のアクリルモノマーと第2のアクリルモノマーの配合比の異なる第2の温度センサー用樹脂組成物をさらに備えてもよい。第1のアクリルモノマーと第2のアクリルモノマーの比が異なることで、第2の温度センサー用樹脂組成物は、前述の温度センサー用樹脂組成物と、異なるPTC温度を有する。すなわち、様々な温度領域で任意にPTC特性を得ることができることができる。第1のアクリルモノマーと第2のアクリルモノマーの比が異なる第nの温度センサー用樹脂組成物(nは3以上)をさらに備えることで、より広範な温度領域でPTC測定を得ることができる。
それぞれの温度センサー用樹脂組成物(第1の温度センサー用樹脂組成物〜第nの温度センサー用樹脂組成物)のアクリルポリマーは、同一のモノマー(第1のアクリルモノマーおよび第2のアクリルモノマー)の共重合体であるため、各温度センサー用樹脂組成物の間に不要な接触抵抗等が生じず、感度の高い測定をすることができる。また、これらの温度センサー用樹脂組成物は、温度センサー用素子を作製する際の塗布条件等をほぼ同一とすることができるため、均質な素子を簡便に作製することができる。
【0045】
(温度センサー)
図4は本発明の一実施形態に係る温度センサー200の断面模式図である。図4に示す温度センサー用素子10と、その温度センサー用素子10のいずれか一方の電極に接続されたトランジスタ20と、を有する。
温度センサー200では、温度センサー用素子10の抵抗値が変化することでトランジスタ20を流れる電流量が変化し、その電流値に応じた信号を外部に出力することで温度センサー200として機能する。例えば、トランジスタ20として図4に示すような電界効果トランジスタを用いた場合、PTC温度前後で温度センサー用素子10の抵抗値が変化し、ソース電極21とドレイン電極22間を流れる電流が変化する。例えば、温度がPTC温度前後で上昇すると、これにより、ソース電極21とドレイン電極22間に流れる電流量が減少する。この流れる電流量を測定することで温度変化を計測することができる。
【0046】
温度センサー200の総厚は、100μm以下であることが好ましい。更に50μmより薄ければ、非常にフレキシブルな温度センサーとして複雑な形状にも追従することができる。
【0047】
温度センサーは、図4の構成に限られない。温度センサーは、例えば、図5に示すような回路構造を有していてもよい。図5は、本発明の一態様に係る温度センサーの回路模式図である。図5の温度センサー210は、温度センサー用素子10と、温度センサー用素子10に接続されたトランジスタ20を有し、接続部における電圧をダイオード30を介して外部に出力する。
このとき、ダイオード30から外部に出力される電圧は、以下の関係式(1)を満たす。
EN=VDD×(R/(R+R))・・・(1)
このときVENは、図上EN部分の電圧であり、外部に出力されている電圧である。VDDはドレイン電圧であり、Rはトランジスタ20の抵抗値であり、Rは温度センサー用素子10の抵抗値である。
ゲート電圧Vを変えると、トランジスタ20の抵抗値Rが変化し、関係式(1)で示されるように外部に出力される電圧VENが変化する。すなわち、この温度センサー210は、トランジスタ20のゲート電圧Vを変化させることで、外部に出力される電圧VENを変化させることができる。測定者は、外部に出力される電圧VENによりPCT特性を計測するため、この外部に出力される電圧VENを調整できることは、温度センサー210全体としてのPCT特性が発現する温度を調整できることを意味する。したがって、特定のPCT温度に対して所定の抵抗値変化を示す温度センサー用素子10を用いる場合でも、温度センサー210全体としてPCT特性が発現する温度を調整することができる。このような温度センサー210は、温度センサー用素子10の汎用性を高めることができる。また温度センサー210は、測定態様に応じてゲート電圧Vを変化させるだけで、PCT特性が発現する温度を調整することができるため、広い用途で用いることができる。
【0048】
トランジスタ20は、温度センサー200、210がフレキシブルであるため、有機トランジスタであることが好ましい。その構造は特に限定するものではないが、例えば図4に示すような電界効果トランジスタ等を用いることができる。
【0049】
また一般に、有機トランジスタのオン抵抗はMΩオーダーと高く、ソース電極21とドレイン電極22間の電位差を変動させるためには、温度センサー用素子10の抵抗変化は数MΩから100kΩのオーダーで変動することが望ましいと考えられている。本実施形態に係る温度センサー用素子10は、幅広い抵抗値変化を示すため好適に用いることができる。
【0050】
温度センサーは、上述の構成要素以外の部材を含んでいてもよい。例えば、図6に示すように、温度センサー用素子に接続された有機トランジスタを含む回路40と、回路に接続された太陽電池50と、回路の裏面に配置されたスピーカー60とを有していてもよい。温度センサー用素子は、温度変化に応じて抵抗値を変化させ、この抵抗値変化を回路40が読み取る。回路40は、この情報をスピーカー60に伝え、スピーカー60から音が発せられる。この回路40やスピーカー60は、太陽電池50を電源として駆動する。そのため、例えば、図6に示すように、人の体表に温度センサーを巻きつけることもでき、簡易で追従性の高い温度センサーとして機能する。
【0051】
(温度センサー用素子の製造方法)
本発明の一実施形態に係る温度センサー用素子の製造方法は、第1のアクリルモノマーと第2のアクリルモノマーを共重合させてアクリルポリマーを作製する第1の工程と、アクリルポリマーに導電性粒子を加えた材料を、溶融もしくは溶媒希釈して流動性を付与し、撹拌と脱泡を同時に行うことで、アクリルポリマー中に導電性粒子を均一に分散させたペースト状混合物を作製する第2の工程と、ペースト状混合物を、二つの電極間に塗布する第3の工程とを有する。
【0052】
第1の工程は、第1のアクリルモノマーと第2のアクリルモノマーを共重合させてアクリルポリマーを作製する。第1のアクリルモノマーと第2のアクリルモノマーは、求めるPTC温度によりその組成比を調整することができる。
共重合は、例えば光触媒を加えて、UV照射することにより行うことができる。このとき光触媒としては、一般に入手可能な光ラジカル重合開始剤の中から、好適なものを選択して用いることができる。例えばUV重合開始剤として、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンが好ましい。これは、比較的広いUV波長に亘って感度を有し、比較的安価な光源で重合を行うことができる。
UV照射時間は、10分以上2時間以内であることが好ましい。10分より短いと、共重合反応を進めることができない。2時間以内であれば、十分共重合反応は進んでいるため、それ以上UV照射しても生産性の面で効率的ではない。
【0053】
第2の工程は、アクリルポリマーに導電性粒子を加えた材料を、溶融もしくは溶媒希釈して流動性を付与し、撹拌と脱泡を同時に行うことで、アクリルポリマー中に導電性粒子を均一に分散させたペースト状混合物を作製する。
この工程では、流動性を付与した材料を、撹拌と脱泡を同時に行うことが重要である。流動性を付与した材料に、導電性粒子を分散させようとすると、通常のスターラー等による撹拌では、十分に導電性粒子を分散させることができないことがある。特に粘度が高い材料では、この傾向が顕著になる。一方で、撹拌と脱泡を同時に行うと、流動性を付与した材料中に導電性粒子を均一に分散させたペースト状混合物を作製することができる。この撹拌と脱泡を同時に行うことは、例えば株式会社シンキー社のあわとり練太郎(商品名)を用いることで実現することができる。「流動性」とは、一定の形状を保つことができない状態であればよく、その粘度等は問わない。
【0054】
アクリルポリマーに対する導電性粒子の質量比は、カーボンブラックなどのカーボン材料を導電性粒子として用いる場合では、10:1〜2:1の範囲であることが好ましい。金属材料を導電性粒子として用いる場合では、1:1〜1:5の範囲があることが好ましい。導電性粒子の質量比が少なすぎると、PTC温度以下でも十分な導電パスを確保することができず、温度センサー用素子の感度が劣化してしまう。導電性粒子の質量比が多すぎると、アクリルポリマー中に導電性粒子を均一に分散させることが難しい。
【0055】
第3の工程は、ペースト状混合物を、二つの電極間に塗布または印刷する。「ペースト状混合物を、二つの電極間に塗布または印刷する」とは、図2のような温度センサー用素子100の場合は、いずれか一方の電極にペースト状混合物を塗布または印刷し、その後もう片方の電極を設置することを意味し、図3A及び図3Bのような温度センサー用素子101の場合、二つの電極間を橋渡しするようにペースト状混合物を塗布または印刷することを意味する。
塗布方法は、特に限定するものではないが、ディスペンサーや、インクジェットを用いた直接塗布を用いることができる。
印刷方法は、スクリーン印刷、グラビア印刷、孔版印刷等を用いることができる。
塗布または印刷の際にも脱泡しながら行うことが好ましい。温度センサー用樹脂組成に空気が噛むと、PTC特性が劣化してしまう。
【0056】
第3の工程において、ペースト状混合物は粘度が高いため、塗布又は印刷の前に溶剤を混ぜることが好ましい。溶剤としては、4−メチル2ペンタノン(4−methyl−2−pentanone)、その他一般のアクリル樹脂用溶剤を用いることができる。溶剤の添加量は、ペースト状混合物に対して、10wt%〜50wt%の範囲で混ぜることが好ましい。溶剤が少なすぎると、十分な粘度の緩和をすることができない。溶剤が多すぎると、内部に溶剤が残留し導電性粒子の凝集等でPTCの特性が低下するという問題がある。
【0057】
塗布または印刷以外の手段として、ペースト状混合物に、その融点以上の熱を加えて、適切な圧力を加えることで、板状の温度センサー用樹脂組成物を形成することもできる。適切な圧力とは、求める温度センサー用樹脂組成物によって異なるが、ペースト状混合物が目的の厚みになるまで力を印加するという意味であり、高圧等を加えるという意味ではない。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例について説明する。本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
第1のアクリルモノマーとして、オクタデシルアクリレートを用い、第2のアクリルモノマーとして、ブチルアクリレートを用いた。このオクタデシルアクリレートとブチルアクリレートを質量比で、60wt%:40wt%を用意し、これらの二つのモノマーを、光触媒として、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンを用いて、1時間UV照射することで、共重合させアクリルポリマーを得た。
このアクリルポリマー0.6gと、導電性粒子としてグラフェン0.2gとをあわとり練太郎(商品名:株式会社シンキー社)を用いて、撹拌と脱泡を同時に行い、ペースト状混合物を得た。このペースト状混合物に、40℃の温度条件下で、25μm厚になるまで圧力を加えて温度センサー用樹脂組成物を作製した。
【0060】
(実施例2)
実施例2は、第1のアクリルモノマーと第2のアクリルモノマーの質量比を、70wt%:30wt%としたこと以外は、実施例1と同様の条件で温度センサー用樹脂組成物を作製した。
【0061】
(実施例3)
実施例3は、第1のアクリルモノマーと第2のアクリルモノマーの質量比を、75wt%:25wt%としたこと以外は、実施例1と同様の条件で温度センサー用樹脂組成物を作製した。
【0062】
(実施例4)
実施例4は、第1のアクリルモノマーと第2のアクリルモノマーの質量比を、80wt%:20wt%としたこと以外は、実施例1と同様の条件で温度センサー用樹脂組成物を作製した。
【0063】
(実施例5)
実施例5は、第1のアクリルモノマーと第2のアクリルモノマーの質量比を、90wt%:10wt%としたこと以外は、実施例1と同様の条件で温度センサー用樹脂組成物を作製した。
【0064】
図7Aは実施例1〜5のアクリルポリマーの融解熱を測定したグラフであり、図7Bは実施例1〜5の温度センサー用樹脂組成物の融解熱を測定したグラフである。
以下の表1に、グラフの吸熱ピークから求めたそれぞれの融点を示す。
【0065】
【表1】
【0066】
図7A図7B及び表1から、各吸熱ピークが変化していることが分かる。すなわち、アクリルポリマーを構成するアクリルモノマーの質量比を変化させることにより、アクリルポリマーおよび温度センサー用樹脂組成物の融点が変化していることが分かる。また、アクリルポリマーの融点と温度センサー用樹脂組成物の融点が、ほぼ同じ温度を示していることが分かる。
融解熱は、示差走査熱量測定計として、Mettler−Toledo社製の「DSC 1 differential scanning calorimeter」を用いて測定した。
【0067】
図8は、実施例1〜5の温度センサー用樹脂組成物をそれぞれ用いて作製した温度センサー用素子のPTC特性を測定したグラフである。縦軸が抵抗値(Ω・cm)であり、横軸が温度(℃)である。PTC特性は、この温度センサー用樹脂組成物を挟むように、二枚の電極を配置し、電極/温度センサー用樹脂組成/電極の積層構造を有する厚さ175μmの温度センサー用素子を作製し、それぞれの電極間の抵抗値変化を測定した。ここで、電極を形成したシートは75μmのポリイミドを用いたが、これはPTC測定を平坦な状態で行うためで、例えば12.5μmのポリイミドを用いて、厚さ50μmの温度センサー用素子を作成できる。その結果、PTC温度前後で、抵抗値が10オーダーから10オーダーまで抵抗値が変化していることが分かる。すなわち、非常に感度の高い温度センサー用樹脂組成物が得られていることが分かる。温度センサー用樹脂組成物のPTC温度は、第1のアクリルモノマーと第2のアクリルモノマーの質量比を変えることで、調整できる。第1のアクリルモノマーをオクタデシルアクリレートとし、第2のアクリルモノマーをブチルアクリレートとすることで、人間の体温付近で特性の変化する温度センサー用樹脂組成物が得られている。
温度センサー用樹脂組成物における第2のアクリルモノマーの質量比が大きくなると、抵抗値変化が温度変化に対して緩やかになっていることが分かる。第1のアクリルモノマーの質量比が、第2のアクリルモノマーに対して大きい方が、より感度の高い温度センサー用樹脂組成物を得ることできる。
【0068】
図9は、実施例4の温度センサー用樹脂組成物を用いた温度センサー用素子の繰り返し再現性を測定したグラフである。実施例4の温度センサー用樹脂組成物を用いた温度センサー用素子を、30℃から37℃の間で、500回昇温してその抵抗値を測定した。その結果、昇温1回目と昇温50回目において、ほとんどPTC特性の劣化は確認されなかった。また昇温500回目でもPTC特性を有していることが確認できた。すなわち、非常に繰り返し再現性の高い温度センサー用素子が得られていることが分かる。
【0069】
図10は、実施例3の温度センサー用樹脂組成物を用いた温度センサーの、ゲート電圧に対するドレイン電流値の温度依存性を測定したグラフである。ドレイン電圧を−2Vとし、ゲート電圧を0V〜−2Vまで変化させた。また図中「w/oPTC」は、PTC素子を備えない場合を示す。
この温度センサーは、実施例3の温度センサー用樹脂組成物を、二つの電極で挟み積層構造とした温度センサー用素子と、その温度センサー用素子のいずれか一方の電極をソース電極と接続して作製した。温度センサー用樹脂組成物の温度が高くなるに従い、ドレイン電流量が小さくなっている。これは、ソース電極とドレイン電極間の電位差が小さくなり、ドレイン電流量が少なくなっているためである。電位差が小さくなるのは、温度センサー用樹脂組成物の温度が高くなるに従い、温度センサー用樹脂組成物の抵抗値が上がり、ソース電極に流れる電流量が少なくなるためである。
つまり、温度を入力することで、抵抗値が出力されており、温度センサーとして機能している。
【0070】
(実施例6)
実施例6は、実施例4と同じ条件で、温度センサー用樹脂組成物を作成した。この温度センサー用樹脂組成物を、同一平面上に配置した二枚の電極の橋渡しをするように配置し、温度センサー用素子を作製した。その温度センサー用素子の厚みは、100μmであった。実施例4の温度センサー素子よりも、薄い温度センサー用素子が得られた。
図11は、実施例6の温度センサー用素子のPTC特性の繰り返し再現性を測定したものである。縦軸は、各温度での電極間の抵抗値を示し、横軸は温度を示す。実施例6の温度センサー用樹脂組成物を用いた温度センサー用素子を、30℃から37℃の間で、1800回昇温してその抵抗値を測定した。その結果、昇温1800回目でも、急峻なPTC特性を示しており、昇温1回目と比較してもPTC特性の劣化は少ない。すなわち、同一平面上に電極を配置することで、より繰り返し再現性の高い温度センサー用素子が得られていることが分かる。
【0071】
(実施例7)
実施例7は、ペースト状混合物に圧力を加えることなく、直接電極に塗布している点以外は、実施例3の温度センサー用樹脂組成物と同様の条件で温度センサー用樹脂組成物を作製した。また温度センサー用素子は、電極/温度センサー用樹脂組成/電極の積層構造とした。このとき塗布による温度センサー用樹脂組成物の膜厚は25μmであった。
図12は、実施例7の温度センサー用素子のPTC特性を測定したものである。縦軸は、26℃における電極間の抵抗値に対する各温度の電極間の抵抗値を示し、横軸は温度を示す。実施例7の温度センサー素子は、PTC温度以下である26℃の電極間の抵抗値に対し、PTC温度以上では10000倍に近い抵抗値を示しており、十分なPTC特性が得られている。すなわち、塗布により得られた非常に薄い温度センサー用素子でも、十分なPTC特性が得られた。
【0072】
(実施例8)
実施例8は、実施例5の温度センサー用素子を用いて、図5の回路構造を有する温度センサーを作製した。図13は、実施例8の温度センサーの温度に対する抵抗値変化を、種々のゲート電圧において計測したグラフである。ゲート電圧Vは、10V,10.5V、11V、11.5V、12Vのそれぞれで、外部に出力される電圧VENの温度変化を計測した。このとき、ドレイン電圧は12Vとした。実施例5の温度センサー用素子のPTC特性は、図8に示すように、37℃付近を中心に大きく変化する。この温度センサー用素子を用いた温度センサーは、本来この温度を中心としたPTC特性しか示さない。しかしながら、図13に示すように、温度センサーに図5に示すような回路構造を採用し、印加するゲート電圧Vを変化させることで、PTC温度を調整することができる。図13では、印加するゲート電圧Vを1V変化させることで、PTC温度を約1度変化させることができている。
【0073】
(実施例9)
実施例9は、重合度の異なる複数のアクリルポリマーを混合している点が実施例1〜5と異なる。実施例9の温度センサー用樹脂組成物は、オクタデシルアクリレートとブチルアクリレートの質量比を75wt%:25wt%とした第1のアクリルポリマーと、オクタデシルアクリレートとブチルアクリレートの質量比を90wt%:10wt%とした第2のアクリルポリマーを1:1で混合して作製した。混合は、50℃の温度条件で、1時間マグネットスターラーにより撹拌した。それぞれのアクリルポリマーの重合比は、作製時の各ポリマーの質量比に対応する。
図14は、実施例9の温度センサー用素子のPTC特性を測定した。その結果、単一のアクリルポリマーからなる温度センサー用素子(実施例1〜5)と比較して、PTC特性がブロードになっていることがわかる。
【符号の説明】
【0074】
1…アクリルポリマー;2…導電性粒子;10…温度センサー用樹脂組成物;11、12…電極;13…補助電極;100、101、102…温度センサー用素子;20…トランジスタ;21…ソース電極;22…ドレイン電極;30…ダイオード;200、210…温度センサー
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14