特許第6589222号(P6589222)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6589222電圧推定装置、電圧推定方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6589222
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】電圧推定装置、電圧推定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B60M 3/00 20060101AFI20191007BHJP
   G01R 19/00 20060101ALI20191007BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20191007BHJP
   B60M 3/06 20060101ALN20191007BHJP
【FI】
   B60M3/00 D
   G01R19/00 B
   H02J13/00 301A
   !B60M3/06 B
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-142645(P2016-142645)
(22)【出願日】2016年7月20日
(65)【公開番号】特開2018-12401(P2018-12401A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2018年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】吉井 剣
(72)【発明者】
【氏名】小川 知行
(72)【発明者】
【氏名】森本 大観
【審査官】 笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−241677(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/010540(WO,A1)
【文献】 特開平10−104324(JP,A)
【文献】 特開平11−195423(JP,A)
【文献】 特開2011−133414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/00− 7/00
G01R 19/00
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両へ電力を供給する母線における電圧をサンプリングする電圧サンプリング部と、
前記電圧サンプリング部が前記電圧をサンプリングするタイミングと同一のタイミングに変電所から前記母線へ流れる電流をサンプリングする電流サンプリング部と、
前記電圧サンプリング部がサンプリングした電圧と、前記電流サンプリング部がサンプリングした電流とに基づいて、前記サンプリングを行う時間間隔よりも長い所定のシフト時間が経過する毎に、現在時刻からシフト時間よりも長い時間だけさかのぼった時刻から前記現在時刻までの期間である算出期間に対して、前記変電所における無負荷時の直流電圧を推定する無負荷直流電圧推定部であって、前記サンプリングを行う全体の対象期間において推定された直流母線電圧と直流統括電流とに対して回帰分析を行い、前記回帰分析の結果が示す相関係数Rの2乗が所定値未満である場合、対応するサンプリングを行った時刻に推定した前記無負荷時の直流電圧を直近のタイミングにおける無負荷直流電圧に置き換える無負荷直流電圧推定部と、
を備える電圧推定装置。
【請求項2】
前記無負荷直流電圧推定部は、
前記算出期間毎に、前記同一のタイミングにサンプリングされた前記電圧と前記電流との組み合わせから成るデータの集合に基づいて、前記電圧と前記電流との関係を示す近似式を特定し、前記近似式の電流にゼロを代入して前記変電所における無負荷時の直流電圧を推定する、
請求項1に記載の電圧推定装置。
【請求項3】
前記無負荷直流電圧推定部は、
最小二乗法を用いて前記近似式を特定する、
請求項2に記載の電圧推定装置。
【請求項4】
前記近似式は、前記電圧と前記電流との関係を一次関数で示す式である、
請求項2または請求項3に記載の電圧推定装置。
【請求項5】
前記電圧サンプリング部がサンプリングした電圧と、前記電流サンプリング部がサンプリングした電流とを記憶し、記憶領域のすべてが記憶に使用された場合には、古い記憶データの順に上書きして前記記憶を継続するリングバッファ、
を備え、
前記無負荷直流電圧推定部は、
前記リングバッファが記憶している前記電圧と、前記電流とに基づいて、前記算出期間毎に、前記変電所における無負荷時の直流電圧を推定する、
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の電圧推定装置。
【請求項6】
車両へ電力を供給する母線における電圧をサンプリングすることと、
前記電圧をサンプリングするタイミングと同一のタイミングに変電所から前記母線へ流れる電流をサンプリングすることと、
前記サンプリングした電圧と、前記サンプリングした電流とに基づいて、前記サンプリングを行う時間間隔よりも長い所定のシフト時間が経過する毎に、現在時刻からシフト時間よりも長い時間だけさかのぼった時刻から前記現在時刻までの期間である算出期間に対して、前記変電所における無負荷時の直流電圧を推定することと、
前記サンプリングを行う全体の対象期間において推定された直流母線電圧と直流統括電流とに対して回帰分析を行い、前記回帰分析の結果が示す相関係数Rの2乗が所定値未満である場合、対応するサンプリングを行った時刻に推定した前記無負荷時の直流電圧を直近のタイミングにおける無負荷直流電圧に置き換えることと、
を含む電圧推定方法。
【請求項7】
コンピュータに、
車両へ電力を供給する母線における電圧をサンプリングすることと、
前記電圧をサンプリングするタイミングと同一のタイミングに変電所から前記母線へ流れる電流をサンプリングすることと、
前記サンプリングした電圧と、前記サンプリングした電流とに基づいて、前記サンプリングを行う時間間隔よりも長い所定のシフト時間が経過する毎に、現在時刻からシフト時間よりも長い時間だけさかのぼった時刻から前記現在時刻までの期間である算出期間に対して、前記変電所における無負荷時の直流電圧を推定することと、
前記サンプリングを行う全体の対象期間において推定された直流母線電圧と直流統括電流とに対して回帰分析を行い、前記回帰分析の結果が示す相関係数Rの2乗が所定値未満である場合、対応するサンプリングを行った時刻に推定した前記無負荷時の直流電圧を直近のタイミングにおける無負荷直流電圧に置き換えることと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電圧推定装置、電圧推定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
モータにより駆動する車両は、減速時に回生電力を発生させる。車両が発生させた回生電力は、有効に利用されている。例えば、鉄道の車両(以下、「鉄道車両」と記載)が発生させた回生電力は、高圧配電線路に戻され、有効に利用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】伊東和彦、山野井隆、西村康之、和田良、川原敬治、米田孝史、田中憲、藤田敬喜、「電鉄用回生インバータの高効率化に関する一検討」、平成26年電気学会産業応用部門大会、No.5-9、pp.V-167-168(2014)
【非特許文献2】藤田徹夫、小倉秀文、中平雅士、鈴木高志、林屋均、寺島章、吉山栄二、「ニッケル水素電池を用いた電力貯蔵装置と整流器の出力相関の考察」、第21回鉄道技術・政策連合シンポジウム(J-RAIL2014)、S3-3-6 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、鉄道車両が発生させた回生電力を吸収する場合、鉄道用の直流変電所(以下、「鉄道用直流変電所」と記載)に設けられた回生インバータを動作させて高圧配電線路へ戻したり、電力貯蔵装置を動作させて蓄電媒体(例えば、リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ、フライホイールなど)を充電したりする必要がある。
回生インバータや電力貯蔵装置には、動作開始電圧が設定され、直流母線電圧が動作開始電圧を超えると動作を開始する。
回生インバータや電力貯蔵装置の動作開始電圧は、鉄道用直流変電所における無負荷時の直流電圧((JEC−2410規格においては「規約無負荷直流電圧」、以下、「無負荷直流電圧」と記載)の値に応じて設定される。しかしながら、鉄道用直流変電所の多くは、敷地面積やコストなどの理由により計器用変圧器VT(Voltage Transformer)を備えていない。そのため、鉄道用直流変電所では、無負荷直流電圧を直接計測することができない場合が多く、回生インバータや電力貯蔵装置の動作開始電圧を適切に設定することが困難である。
そのため、変電所が計器用変圧器を備えていない場合であっても、変電所における無負荷直流電圧を推定することのできる技術が求められていた。
【0005】
そこで、この発明は、上記の課題を解決することのできる電圧推定装置、電圧推定方法及びプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、電圧推定装置は、車両へ電力を供給する母線における電
圧をサンプリングする電圧サンプリング部と、前記電圧サンプリング部が前記電圧をサン
プリングするタイミングと同一のタイミングに変電所から前記母線へ流れる電流をサンプ
リングする電流サンプリング部と、前記電圧サンプリング部がサンプリングした電圧と、
前記電流サンプリング部がサンプリングした電流とに基づいて、前記サンプリングを行う
時間間隔以上の所定のシフト時間が経過する毎に、現在時刻からシフト時間よりも長い時
間だけさかのぼった時刻から前記現在時刻までの期間である算出期間に対して、前記変電
所における無負荷時の直流電圧を推定する無負荷直流電圧推定部であって、前記サンプリングを行う全体の対象期間において推定された直流母線電圧と直流統括電流とに対して回帰分析を行い、前記回帰分析の結果が示す相関係数Rの2乗が所定値未満である場合、対応するサンプリングを行った時刻に推定した前記無負荷時の直流電圧を直近のタイミングにおける無負荷直流電圧に置き換える無負荷直流電圧推定部と、を備える。
【0007】
本発明の第2の態様によれば、第1の態様における電圧推定装置において、前記無負荷直流電圧推定部は、前記算出期間毎に、前記同一のタイミングにサンプリングされた前記電圧と前記電流との組み合わせから成るデータの集合に基づいて、前記電圧と前記電流との関係を示す近似式を特定し、前記近似式の電流にゼロを代入して前記変電所における無負荷時の直流電圧を推定してもよい。
【0008】
本発明の第3の態様によれば、第2の態様における電圧推定装置において、前記無負荷直流電圧推定部は、最小二乗法を用いて前記近似式を特定してもよい。
【0009】
本発明の第4の態様によれば、第2の態様または第3の態様における電圧推定装置において、前記近似式は、前記電圧と前記電流との関係を一次関数で示す式であってもよい。
【0010】
本発明の第5の態様によれば、第1の態様から第4の態様の何れかにおける電圧推定装置は、前記電圧サンプリング部がサンプリングした電圧と、前記電流サンプリング部がサンプリングした電流とを記憶し、記憶領域のすべてが記憶に使用された場合には、古い記憶データの順に上書きして前記記憶を継続するリングバッファ、を備え、前記無負荷直流電圧推定部は、前記リングバッファが記憶している前記電圧と、前記電流とに基づいて、前記算出期間毎に、前記変電所における無負荷時の直流電圧を推定してもよい。
【0012】
本発明の第の態様によれば、電圧推定方法は、車両へ電力を供給する母線における電
圧をサンプリングすることと、前記電圧をサンプリングするタイミングと同一のタイミン
グに変電所から前記母線へ流れる電流をサンプリングすることと、前記サンプリングした
電圧と、前記サンプリングした電流とに基づいて、前記サンプリングを行う時間間隔以上
の所定のシフト時間が経過する毎に、現在時刻からシフト時間よりも長い時間だけさかの
ぼった時刻から前記現在時刻までの期間である算出期間に対して、前記変電所における無
負荷時の直流電圧を推定することと、前記サンプリングを行う全体の対象期間において推定された直流母線電圧と直流統括電流とに対して回帰分析を行い、前記回帰分析の結果が示す相関係数Rの2乗が所定値未満である場合、対応するサンプリングを行った時刻に推定した前記無負荷時の直流電圧を直近のタイミングにおける無負荷直流電圧に置き換えることと、を含む。
【0013】
本発明の第の態様によれば、プログラムは、コンピュータに、車両へ電力を供給する
母線における電圧をサンプリングすることと、前記電圧をサンプリングするタイミングと
同一のタイミングに変電所から前記母線へ流れる電流をサンプリングすることと、前記サ
ンプリングした電圧と、前記サンプリングした電流とに基づいて、前記サンプリングを行
う時間間隔以上の所定のシフト時間が経過する毎に、現在時刻からシフト時間よりも長い
時間だけさかのぼった時刻から前記現在時刻までの期間である算出期間に対して、前記変
電所における無負荷時の直流電圧を推定することと、前記サンプリングを行う全体の対象期間において推定された直流母線電圧と直流統括電流とに対して回帰分析を行い、前記回帰分析の結果が示す相関係数Rの2乗が所定値未満である場合、対応するサンプリングを行った時刻に推定した前記無負荷時の直流電圧を直近のタイミングにおける無負荷直流電圧に置き換えることと、を実行させる。


【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態による電圧推定装置によれば、変電所が計器用変圧器を備えていない場合であっても、変電所における無負荷直流電圧を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に共通の変電所の構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態に共通の変電所の等価回路を示す図である。
図3】本発明の第一の実施形態による電圧推定装置の構成を示す図である。
図4】本発明の第一の実施形態による電圧推定装置の処理フローを示す図である。
図5】本発明の第一の実施形態における算出期間を説明するための図である。
図6】本発明の第一の実施形態における近似式の特定を説明するための図である。
図7】本発明の第一の実施形態における電圧推定の実測結果を示す第1の図である。
図8】本発明の第一の実施形態における電圧推定の実測結果を示す第2の図である。
図9】本発明の第二の実施形態による電圧推定装置の構成を示す図である。
図10】本発明の第二の実施形態による電圧推定装置の処理フローを示す図である。
図11】本発明の第三の実施形態による電圧推定装置の処理フローを示す図である。
図12】本発明の第三の実施形態において直流統括電流が小さい場合の無負荷直流電圧の推定を説明するための第1の図である。
図13】本発明の第三の実施形態において直流統括電流が小さい場合の無負荷直流電圧の推定を説明するための第2の図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態による電圧推定装置について図面を参照して説明する。
本発明の実施形態に共通の変電所1の等価回路について説明する。
本発明の実施形態による変電所1は、図1に示すように、トランス10と、整流器20と、電圧センサ30と、電流センサ40と、電圧推定装置50と、回生電力吸収装置60と、端子Aと、端子Bと、端子Cと、を備える。
【0017】
端子Aは、電力会社からの電力を受電する端子である。
端子Bは、各回線のき電線に接続される端子である。き電線は、架線を介して車両に接続されている。
端子Cは、レール(帰線)に接続される端子である。
【0018】
トランス10は、端子Aと整流器20との間に備えられる。トランス10は、電力会社から端子Aを介して供給された電力の受電電圧Vを整流器20が扱う電圧まで低下させる。
【0019】
整流器20は、トランス10と端子Cとの間に備えられる。整流器20は、トランス10から電圧を受ける。整流器20は、受けた電圧を整流する。
【0020】
電圧センサ30は、端子Bと端子Cとの間に備えられる。電圧センサ30は、直流母線電圧Vdcを検出する。直流母線電圧Vdcは、端子Cの電位に対する端子Bの電位を表す電圧である。
【0021】
電流センサ40は、例えば、直流変流器(Direct Current Transformer)である。電流センサ40は、整流器20と端子Cとの間に備えられる。電流センサ40は、直流統括電流Idcを検出する。直流統括電流Idcは、変電所1の負荷(車両)に供給される電流の総和を表す電流である。
【0022】
電圧推定装置50は、電圧センサ30と、電流センサ40と、回生電力吸収装置60とに接続される。電圧推定装置50は、無負荷直流電圧Vを算出する。また、電圧推定装置50は、回生電力吸収装置60を制御する。なお、無負荷直流電圧Vは、直流統括電流Idcがゼロであるときの直流母線電圧Vdcである。
【0023】
ところで、トランス10の漏れリアクタンスをXsとすると、変電所1の出力インピーダンスZoは、Zo=(p・Xs)/(2π)と表される。pは相数である。
また、変電所1は、図2に示す等価回路によって表される。
図2に示す等価回路から、直流母線電圧Vdcは、無負荷直流電圧V、変電所1の出力インピーダンスZo、直流統括電流Idcを用いて、Vdc=V−Zo・Idcと表すことができる。
したがって、電圧推定装置50は、直流母線電圧Vdcを表す式を求め、その式の直流統括電流Idcにゼロを代入したときの直流母線電圧Vdcを算出することにより、無負荷直流電圧Vを推定することができる。
このように、電圧推定装置50は、変電所1が計器用変圧器を備えていない場合であっても、変電所1における無負荷直流電圧Vを推定することができる。
電圧推定装置50は、推定した無負荷直流電圧Vに基づいて、回生電力吸収装置60を動作させる動作信号を生成する。
電圧推定装置50は、生成した動作信号を回生電力吸収装置60に送信する。
【0024】
回生電力吸収装置60は、電圧推定装置50から動作信号を受信した場合、動作信号に基づいて動作を開始する。
回生電力吸収装置60は、動作を開始すると、車両からの回生電力を受電する。
回生電力吸収装置60は、受電した回生電力を他装置に供給する。
回生電力吸収装置60は、例えば、回生インバータや電力貯蔵装置などである。
【0025】
下記の実施形態では、電圧推定装置50が無負荷直流電圧Vを推定する方法を詳細に説明する。
【0026】
<第一の実施形態>
本発明の第一の実施形態による電圧推定装置50は、図3に示すように、電圧サンプリング部501と、電流サンプリング部502と、無負荷直流電圧推定部503と、記憶部504と、制御部505と、を備える。
【0027】
電圧サンプリング部501は、車両へ電力を供給する母線における電圧(すなわち、直流母線電圧Vdc)をサンプリングする。
具体的には、電圧サンプリング部501は、電圧センサ30が検出している直流母線電圧Vdcを、例えば1秒毎にサンプリングする。
【0028】
電流サンプリング部502は、電圧サンプリング部501が直流母線電圧Vdcをサンプリングするタイミングと同一のタイミングに変電所1から母線へ流れる電流(すなわち、直流統括電流Idc)をサンプリングする。
具体的には、電圧サンプリング部501が1秒毎にサンプリングする場合には、電流サンプリング部502は、電流センサ40が検出した直流統括電流Idcを、同一のタイミングに1秒毎にサンプリングする。
【0029】
無負荷直流電圧推定部503は、電圧サンプリング部501がサンプリングした電圧と、電流サンプリング部502がサンプリングした電流とを取得する。
無負荷直流電圧推定部503は、サンプリングを行う時間間隔以上の所定のシフト時間が経過する毎に、取得した最新の電圧と電流と、過去に取得した電圧と電流とに基づいて、それぞれの算出期間に対して、変電所1における無負荷直流電圧Vを推定する。なお、それぞれの算出期間は、所定のシフト時間に基づいて決定される期間であって、所定のシフト時間よりも長い期間である。
【0030】
記憶部504は、電圧推定装置50が行う処理に必要な種々の情報を記憶する。
例えば、記憶部504は、電圧サンプリング部501が直流母線電圧Vdcをサンプリングした電圧の値と、電流サンプリング部502が直流統括電流Idcをサンプリングした電流の値とを記憶する。
【0031】
制御部505は、電圧推定装置50が行う処理に必要な種々の制御を行う。
例えば、制御部505は、回生電力吸収装置60を動作させる動作信号を生成する。制御部505は、生成した動作信号を回生電力吸収装置60に送信し、回生電力吸収装置60の動作を開始させる。
【0032】
次に、図4に示す本発明の第一の実施形態による電圧推定装置50の処理フローについて説明する。
ここでは、変電所1における本発明の第一の実施形態による電圧推定装置50の処理について説明する。
なお、電圧推定装置50の処理の初期段階では、車両は回生電力を発生させておらず、回生電力吸収装置60は動作していないものとする。
【0033】
変電所1において、トランス10は、電力会社から端子Aを介して受電電圧Vの電力を受電する。
トランス10は、受電した電力の受電電圧Vを整流器20が扱う電圧まで低下させる。
トランス10は、低下させた電圧を整流器20に供給する。
【0034】
整流器20は、トランス10から供給された電圧を整流する。
整流器20から供給される整流後の電力は、端子Bを介して負荷に供給される。
具体的には、整流器20から供給される整流後の電力は、直流母線電圧Vdcと、直流統括電流Idcとにより表される電力である。
【0035】
電圧サンプリング部501は、電圧センサ30が検出した直流母線電圧Vdcを、例えば1秒毎にサンプリングする(ステップS1)。
電圧サンプリング部501は、サンプリングした直流母線電圧Vdcを記憶部504に記憶させる。
【0036】
電流サンプリング部502は、電圧サンプリング部501が直流母線電圧Vdcをサンプリングするタイミングと同一のタイミング(例えば1秒毎)に電流センサ40が検出した直流統括電流Idcをサンプリングする(ステップS2)。
電流サンプリング部502は、サンプリングした直流統括電流Idcを同一のタイミングにサンプリングされた直流母線電圧Vdcと対応付けて記憶部504に記憶させる。
【0037】
無負荷直流電圧推定部503は、記憶部504が記憶する電圧サンプリング部501がサンプリングした電圧と、電流サンプリング部502がサンプリングした電流とに基づいて、変電所1における無負荷直流電圧Vを推定する(ステップS3)。
【0038】
例えば、無負荷直流電圧推定部503は、サンプリングを行う時間間隔以上の所定のシフト時間が経過する毎に、シフト時間に基づいて決定されシフト時間よりも長い算出期間に対して直流母線電圧Vdcと直流統括電流Idcとの関係を示す近似式を特定する。なお、サンプリングを行う時間間隔は、例えば1秒である。また、算出期間は、例えば1分であり、図5において「U1」で示される期間である。また、シフト時間は、例えば1秒であり、図5において算出期間が「U1」となる時刻からシフト時間が経過した時刻における算出期間は、図5において「U2」で示される期間である。
この近似式は、同一のタイミングにサンプリングされた直流母線電圧Vdcと直流統括電流Idcとの組み合わせから成るデータの集合に基づいて特定される。具体的には、無負荷直流電圧推定部503は、図6に示すように、直流母線電圧Vdcと直流統括電流Idcとの組み合わせD1〜D9から成るデータの集合に対して、最小二乗法を用いて直流母線電圧Vdcと直流統括電流Idcとの関係を示す一次関数の式Vdc=V−Zo・Idcを特定する。無負荷直流電圧推定部503は、特定した直流母線電圧Vdcと直流統括電流Idcとの関係を示す近似式の直流統括電流Idcにゼロを代入して変電所1における無負荷直流電圧Vを推定する。無負荷直流電圧推定部503は、特定した近似式がVdc=V−Zo・Idcである場合、直流統括電流Idcにゼロを代入して算出された直流母線電圧Vdcを無負荷直流電圧Vと推定する。
【0039】
制御部505は、予め設定された判定しきい値Vthと、無負荷直流電圧推定部503が特定した無負荷直流電圧Vとを比較する。そして、制御部505は、無負荷直流電圧Vが判定しきい値Vthを超えている否かを判定する(ステップS4)。
制御部505は、無負荷直流電圧Vが判定しきい値Vthを超えていると判定した場合、車両が回生電力を発生させていると推定する。
また、制御部505は、無負荷直流電圧Vが判定しきい値Vth以下であると判定した場合、車両が回生電力を発生させていないと推定する。なお、判定しきい値Vthは、無負荷直流電圧Vよりも少し高い電圧(例えば、無負荷直流電圧Vが1620ボルトの場合、無負荷直流電圧Vよりも15ボルト高い1635ボルト)に設定される。
【0040】
制御部505は、無負荷直流電圧Vが判定しきい値Vth以下であると判定した場合(ステップS4においてNO)、回生電力吸収装置60を動作させる動作信号を生成せずに、ステップS1の処理に戻す。
【0041】
また、制御部505は、無負荷直流電圧Vが判定しきい値Vthを超えていると判定した場合(ステップS4においてYES)、回生電力吸収装置60を動作させる動作信号を生成する(ステップS5)。
制御部505は、生成した動作信号を回生電力吸収装置60に送信し(ステップS6)、ステップS1の処理に戻す。
回生電力吸収装置60は、制御部505から動作信号を受信した場合、受信した動作信号に基づいて動作を開始する。
回生電力吸収装置60は、動作を開始すると、車両からの回生電力を受電する。
回生電力吸収装置60は、受電した回生電力を他装置に供給する。
【0042】
なお、サンプリングを行う全体の対象期間においてサンプリングを行う時間間隔が例えば1秒で、算出期間が1分である場合、無負荷直流電圧推定部503は、電圧推定装置50の動作が開始してから1分後に、1〜60秒までの間にサンプリングした直流母線電圧Vdcと直流統括電流Idcとの組み合わせから成るデータの集合に基づいて、無負荷直流電圧Vを推定するステップS3の処理を初めて行う。そして、制御部505は、ステップS4以降の処理を行う。
また、無負荷直流電圧推定部503は、初めてステップS3の処理を行って以降、所定のシフト時間毎(例えば1秒毎)に、ステップS3の処理を行う。そして、制御部505は、ステップS4以降の処理を行う。例えば、無負荷直流電圧推定部503は、初めてステップS3の処理を行ってから所定のシフト時間が経過した後(例えば、電圧推定装置50の動作が開始してから61秒後)には、現在時刻からシフト時間よりも長い時間だけさかのぼった時刻から現在時刻までの算出期間(例えば、初めてステップS3の処理を行ったときの算出期間に対してサンプリングを行う時間間隔に等しい所定の時間の分だけ遅い2〜61秒までの間)にサンプリングした直流母線電圧Vdcと直流統括電流Idcとの組み合わせから成るデータの集合に基づいて無負荷直流電圧Vを推定する。そして、制御部505は、ステップS4以降の処理を行う。なお、所定のシフト時間は、上述のように一定時間であってよい。また、所定のシフト時間は、1秒、3秒、2秒、・・・のように処理を行う毎に時間が変動する変動時間であってもよい。また、現在時刻からシフト時間よりも長い時間は、シフト時間に応じた一定時間であってもよい。また、現在時刻からシフト時間よりも長い時間は、シフト時間に応じた変動時間であってもよい。
【0043】
(シミュレーション例)
本発明の第一の実施形態における電圧推定装置50が計器用変圧器VTを用いずに無負荷直流電圧Vを推定したシミュレーション結果を図7(A)に示す。また、変電所1が備える計器用変圧器VTが受電電圧を測定し、測定した受電電圧から無負荷直流電圧Vを推定したシミュレーション結果を図7(B)に示す。図7(A)と図7(B)を比較するために両方のシミュレーション結果を重ねた図を図8に示す。図8からわかるように、電圧推定装置50が推定した無負荷直流電圧Vは、計器用変圧器VTを用いて推定した無負荷直流電圧V図8における円R内に示した部分を除いてほぼ同一であることがわかる。なお、円Rに示した部分の違いは、算出期間内における過去のデータ集合を用いて現在の無負荷直流電圧Vを推定するという本発明の実施形態における算出方式の原理によるものであり、過去に推定した無負荷直流電圧Vが大きく変動した場合に生じるものである。無負荷直流電圧Vが大きく変動する原因は、電力会社のタップ切替や調相設備入切などによるものである。電力会社のタップ切替や調相設備入切などによる無負荷直流電圧Vの変動は、30分から1時間、あるいはそれ以上のインターバルで発生する場合が多い。したがって、実際には、円Rに示した部分の違いは頻繁には生じないものと思われる。また、図8は、無負荷直流電圧Vが変動したときの数分間程度を拡大したものであり、電圧推定装置50がサンプリングを行う全体の対象期間(例えば1日)に対して充分に短い期間である。そのため、円Rに示した部分における無負荷直流電圧Vの違いは、全体の対象期間においては誤差とみなすことができる。また、算出期間を調整し、算出期間における直流母線電圧Vdcが大きく変動する期間の割合を小さくすることで、過去に推定した無負荷直流電圧Vの変動による現在の無負荷直流電圧Vの推定への影響を小さくすることができる。したがって、図7及び図8から、本発明の第一の実施形態による電圧推定装置50が無負荷直流電圧Vを充分な精度で推定できたということができる。
【0044】
なお、電力会社は、負荷の状態に応じて変電所1に供給する電圧を変更している。そのため、変電所1が電力会社から受電する受電電圧は、1日のうちで変動する可能性がある。
変電所1が電力会社から受電する受電電圧が変動する場合、その変動に応じて無負荷直流電圧Vも変動する。
そのため、電圧推定装置50がサンプリングを行う全体の対象期間を1日とし、全体の対象期間を算出期間とした場合、算出期間内で無負荷直流電圧Vが変動する。
その結果、全体の対象期間を算出期間とし電圧推定装置50が推定した無負荷直流電圧Vは、無意味な電圧となってしまう。
一方、算出期間を短くし過ぎた場合、電圧推定装置50が最小二乗法などを用いて近似式を算出する際の計算誤差が大きくなってしまう。
そこで、電圧推定装置50では、過去の直流負荷の実測データから直流負荷の変動パターンを検討し、必要最小限な算出期間やサンプリングを行う時間間隔を決定すればよい。そのように決定した算出期間の一例は列車が一回の加速または一回の減速を行う時間(およそ数十秒〜2分間)であり、サンプリングを行う時間間隔は1秒毎である。
【0045】
また、図5で示したように、直流母線電圧Vdcは、時刻によって無負荷直流電圧Vと大きく異なる場合がある。そのため、算出期間においてサンプリングを行う時間間隔が例えば無負荷直流電圧Vと大きく異なる直流母線電圧Vdcを多く取得する時間間隔となっている場合、電圧推定装置50が推定した無負荷直流電圧Vは、算出期間における実際の無負荷直流電圧と異なってしまう。
そこで、電圧推定装置50では、算出期間においてサンプリングを行う時間間隔を直流母線電圧Vdcの極小値どうしの最小時間間隔よりも充分に短い時間間隔(例えば1秒)としている。なお、サンプリングを行う時間間隔は、過去の実測データを統計処理して誤差の許容範囲の結果が得られるサンプリングを行う時間間隔を決定すればよい。
【0046】
以上のように、本発明の第一の実施形態による電圧推定装置50は、電圧サンプリング部501と、電流サンプリング部502と、無負荷直流電圧推定部503と、記憶部504と、を備える。電圧サンプリング部501は、車両へ電力を供給する母線における電圧(すなわち、直流母線電圧Vdc)をサンプリングする。電流サンプリング部502は、電圧サンプリング部501が直流母線電圧Vdcをサンプリングするタイミングと同一のタイミングに変電所1から母線へ流れる電流(すなわち、直流統括電流Idc)をサンプリングする。無負荷直流電圧推定部503は、電圧サンプリング部501がサンプリングした電圧と、電流サンプリング部502がサンプリングした電流とを取得する。無負荷直流電圧推定部503は、取得した電圧と電流とに基づいて、サンプリングを行う時間間隔以上の所定のシフト時間が経過する毎に、それぞれの算出期間に対して、変電所1における無負荷直流電圧Vを推定する。それぞれの算出期間は、所定のシフト時間に基づいて決定される期間であって、所定のシフト時間よりも長い期間である。記憶部504は、電圧推定装置50が行う処理に必要な種々の情報を記憶する。制御部505は、電圧推定装置50が行う処理に必要な種々の制御を行う。
こうすることで、電圧推定装置50は、変電所1が計器用変圧器VTを備えていない場合であっても、変電所1における無負荷直流電圧Vを推定することができる。その結果、電圧推定装置50が推定した無負荷直流電圧に基づいて回生電力吸収装置60の動作開始電圧を適切に設定することができる。電圧推定装置50は、無負荷直流電圧Vが判定しきい値Vthを超えた場合に回生電力吸収装置60の動作を開始させることができる。回生電力吸収装置60は、動作を開始すると、車両からの回生電力を受電する。回生電力吸収装置60は、受電した回生電力をその他の装置(例えば、空調、照明、エレベータ、など)に供給する。
【0047】
また、本発明の第一の実施形態による電圧推定装置50において、過去の直流負荷の実測データから直流負荷の変動パターンを検討し、必要最小限な算出期間やサンプリングを行う時間間隔を決定する。
こうすることで、電圧推定装置50は、算出期間における無負荷直流電圧Vの変動を低減することができ、実際の無負荷直流電圧とほぼ同一の無負荷直流電圧Vを推定することができる。
【0048】
また、本発明の第一の実施形態による電圧推定装置50において、サンプリングを行う時間間隔を直流母線電圧Vdcの極小値どうしの最小時間間隔よりも短い時間間隔とする。
こうすることで、電圧推定装置50は、算出期間における無負荷直流電圧Vの変動を低減することができ、実際の無負荷直流電圧とほぼ同一の無負荷直流電圧Vを推定することができる。
【0049】
また、本発明の第一の実施形態による電圧推定装置50において、シフト時間をサンプリングを行う時間間隔とする。
こうした場合には、電圧推定装置50は、サンプリングを行う全体の対象期間において推定する無負荷直流電圧Vの数を最も多くすることができ、また、受電電圧変化に応じた制御遅れの小さい制御信号を生成することができるため、回生電力吸収装置60の動作を開始させる制御を短い時間間隔で行った場合であっても、適切に回生電力吸収装置60の動作を開始させることができる。
なお、電圧推定装置50は、受電電圧変化に応じた制御遅れが許容できる場合、シフト時間を長くし、制御系統の計算負荷を低減する構成とすることにより、製造コストを低減することもできる。
【0050】
<第二の実施形態>
本発明の第二の実施形態による電圧推定装置50は、図8に示すように、電圧サンプリング部501と、電流サンプリング部502と、無負荷直流電圧推定部503と、記憶部504と、制御部505と、リングバッファ506と、を備える。
【0051】
リングバッファ506は、電圧サンプリング部501がサンプリングした直流母線電圧Vdcと、電流サンプリング部502がサンプリングした直流統括電流Idcとを記憶する。
リングバッファ506は、記憶領域のすべてが記憶に使用された場合には、古い記憶データの順に上書きして、直流母線電圧Vdcと、直流統括電流Idcとの記憶を継続する。
【0052】
無負荷直流電圧推定部503は、リングバッファ506が記憶している直流母線電圧Vdcと、直流統括電流Idcとに基づいて、それぞれの算出期間毎に、変電所1における無負荷直流電圧Vを推定する。
【0053】
次に、図10に示す本発明の第二の実施形態による電圧推定装置50の処理フローについて説明する。
ここでは、変電所1における本発明の第二の実施形態による電圧推定装置50の処理について説明する。
なお、電圧推定装置50の処理の初期段階では、無負荷直流電圧Vが判定しきい値Vth以下であり(すなわち車両は回生電力を発生させていないと推定し)、回生電力吸収装置60は動作していないものとする。
【0054】
変電所1において、トランス10は、電力会社から端子Aを介して受電電圧Vの電力を受電する。
トランス10は、受電した電力の受電電圧Vを整流器20が扱う電圧まで低下させる。
トランス10は、低下させた電圧を整流器20に供給する。
【0055】
整流器20は、トランス10から供給された電圧を整流する。
整流器20から供給される整流後の電力は、端子Bを介して負荷に供給される。
具体的には、整流器20から供給される整流後の電力は、直流母線電圧Vdcと、直流統括電流Idcとにより表される電力である。
【0056】
電圧サンプリング部501は、ステップS1の処理により、電圧センサ30が検出した直流母線電圧Vdcを、例えば1秒毎にサンプリングする。
【0057】
電圧サンプリング部501は、サンプリングした直流母線電圧Vdcをリングバッファ506に記憶させる(ステップS7)。なお、リングバッファ506は、記憶領域のすべてが記憶に使用された場合には、古い記憶データの順に上書きする。
【0058】
電流サンプリング部502は、ステップS2の処理により、電圧サンプリング部501が直流母線電圧Vdcをサンプリングするタイミングと同一のタイミング(例えば1秒毎)に電流センサ40が検出した直流統括電流Idcをサンプリングする。
【0059】
電流サンプリング部502は、サンプリングした直流統括電流Idcを同一のタイミングにサンプリングされた直流母線電圧Vdcと対応付けてリングバッファ506に記憶させる(ステップS8)。なお、リングバッファ506は、記憶領域のすべてが記憶に使用された場合には、古い記憶データの順に上書きする。
【0060】
無負荷直流電圧推定部503は、リングバッファ506に記憶されている電圧サンプリング部501がサンプリングした電圧と、電流サンプリング部502がサンプリングした電流とに基づいて、変電所1における無負荷直流電圧Vを推定する(ステップS9)。
電圧推定装置50は、ステップS4〜ステップS6の処理を行う。
【0061】
回生電力吸収装置60は、制御部505から動作信号を受信した場合、受信した動作信号に基づいて動作を開始する。
回生電力吸収装置60は、動作を開始すると、車両からの回生電力を受電する。
回生電力吸収装置60は、受電した回生電力を他装置に供給する。
【0062】
なお、リングバッファ506の記憶容量は、算出期間にサンプリングした直流母線電圧Vdcと直流統括電流Idcとの組み合わせから成るデータの集合のすべてを記憶可能な記憶容量である。そして、リングバッファ506の記憶容量は、算出期間にサンプリングした直流母線電圧Vdcと直流統括電流Idcとの組み合わせから成るデータの集合が示すデータ容量と同一の記憶容量である場合に、最も少ない記憶容量となる。
例えば、算出期間が1分であり、算出期間においてサンプリングを行う時間間隔が1秒である場合、リングバッファ506の記憶容量は、1〜60秒までの間にサンプリングした直流母線電圧Vdcと直流統括電流Idcとの組み合わせから成るデータの集合のすべてを記憶可能な記憶容量である。また、リングバッファ506の記憶容量は、1〜60秒までの間にサンプリングした直流母線電圧Vdcと直流統括電流Idcとの組み合わせから成るデータの集合が示すデータ容量と同一の記憶容量である場合に、最も少ない記憶容量となる。
【0063】
以上のように、本発明の第二の実施形態による電圧推定装置50は、電圧サンプリング部501と、電流サンプリング部502と、無負荷直流電圧推定部503と、記憶部504と、制御部505と、リングバッファ506と、を備える。リングバッファ506は、電圧サンプリング部501がサンプリングした直流母線電圧Vdcと、電流サンプリング部502がサンプリングした直流統括電流Idcとを記憶する。リングバッファ506は、記憶領域のすべてが記憶に使用された場合には、古い記憶データの順に上書きして、直流母線電圧Vdcと、直流統括電流Idcとの記憶を継続する。無負荷直流電圧推定部503は、リングバッファ506が記憶している直流母線電圧Vdcと、直流統括電流Idcとに基づいて、それぞれの算出期間毎に、変電所1における無負荷直流電圧Vを推定する。
こうすることで、電圧推定装置50は、少ない記憶容量のリングバッファ506が記憶している直流母線電圧Vdcと、直流統括電流Idcとに基づいて、それぞれの算出期間毎に、変電所1における無負荷直流電圧Vを推定する。その結果、リングバッファ506の少ない記憶容量を用いて電圧推定装置50が推定した無負荷直流電圧に基づいて回生電力吸収装置60の動作開始電圧を適切に設定することができる。電圧推定装置50は、無負荷直流電圧Vが判定しきい値Vthを超えた場合に回生電力吸収装置60の動作を開始させることができる。回生電力吸収装置60は、動作を開始すると、車両からの回生電力を受電する。回生電力吸収装置60は、受電した回生電力をその他の装置に供給する。
【0064】
また、本発明の第二の実施形態による電圧推定装置50において、リングバッファ506の記憶容量を算出期間にサンプリングした直流母線電圧Vdcと直流統括電流Idcとの組み合わせから成るデータの集合が示すデータ容量と同一の記憶容量にする。
こうした場合には、電圧推定装置50は、リングバッファが記憶する直流母線電圧Vdcと直流統括電流Idcとの組み合わせから成るそれぞれのデータをインデックスを用いなくても全データを参照することができる。
【0065】
<第三の実施形態>
本発明の第三の実施形態による電圧推定装置50は、図3で示した本発明の第一の実施形態による電圧推定装置50と同様に、電圧サンプリング部501と、電流サンプリング部502と、無負荷直流電圧推定部503と、記憶部504と、制御部505と、を備える。
【0066】
無負荷直流電圧推定部503は、それぞれの算出期間のタイミングにおいて、電流サンプリング部502がサンプリングした電流が所定値以下である場合、当該タイミングの電圧と電流とを、電流サンプリング部502がサンプリングした電流が所定値を超えたタイミングのうちそれぞれの算出期間のタイミングに直近のタイミングにおける電圧と電流とに置き換える。
【0067】
次に、図11に示す本発明の第三の実施形態による電圧推定装置50の処理フローについて説明する。
ここでは、変電所1における本発明の第三の実施形態による電圧推定装置50の処理について説明する。
なお、電圧推定装置50の処理の初期段階では、車両は回生電力を発生させておらず、回生電力吸収装置60は動作していないものとする。
【0068】
変電所1において、トランス10は、電力会社から端子Aを介して受電電圧Vの電力を受電する。
トランス10は、受電した電力の受電電圧Vを整流器20が扱う電圧まで低下させる。
トランス10は、低下させた電圧を整流器20に供給する。
【0069】
整流器20は、トランス10から供給された電圧を整流する。
整流器20から供給される整流後の電力は、端子Bを介して負荷に供給される。
具体的には、整流器20から供給される整流後の電力は、直流母線電圧Vdcと、直流統括電流Idcとにより表される電力である。
【0070】
電圧推定装置50は、ステップS1〜ステップS2の処理を行う。
無負荷直流電圧推定部503は、電圧サンプリング部501がサンプリングした電圧と、電流サンプリング部502がサンプリングした電流とに基づいて、変電所1における無負荷直流電圧Vを推定する(ステップS10)。
【0071】
直流統括電流Idcが小さい軽負荷の場合には、整流器20のスナバコンデンサや車両が備えるフィルタのコンデンサなどの影響が無視できなくなり、無負荷直流電圧Vが急激に増大することがわかっている(JEC−2410規格等参照)。
そのため、無負荷直流電圧推定部503は、それぞれの算出期間のタイミング(例えば図12(A)に示すタイミング)において、図12(B)に示すように電流サンプリング部502がサンプリングした電流が所定値を超えた場合のみ、無負荷直流電圧推定部503は、サンプリングしたタイミングの電圧と電流を時刻に関連づけて記憶部504に書き込む。具体的には、無負荷直流電圧推定部503は、図13に示すような直流統括電流Idcが所定の電流しきい値Ith以下の直流統括電流Idcと、その直流統括電流Idcと同一のタイミングにサンプリングされた直流母線電圧Vdcとの組み合わせから成るデータは除外し、直流統括電流Idcが所定の電流しきい値Ithを超えたタイミングにおける直流母線電圧Vdcと直流統括電流Idcとの組み合わせから成るデータをサンプリングされた時刻に関連づけて記憶部504に書き込む。無負荷直流電圧推定部503は、例えば図12(C)に示すように、記憶部504に書き込んだ算出期間における直流母線電圧Vdcと直流統括電流Idcとの組み合わせから成るデータの集合に対して最小二乗法を用いて最小二乗法を用いて直流母線電圧Vdcと直流統括電流Idcとの関係を示す一次関数の式Vdc=V−Zo・Idcを特定する。無負荷直流電圧推定部503は、特定した直流母線電圧Vdcと直流統括電流Idcとの関係を示す近似式の直流統括電流Idcにゼロを代入して変電所1における無負荷直流電圧Vを推定する。このとき、無負荷直流電圧推定部503は、例えば図12(D)に示すように、各タイミングにおける直流母線電圧Vdcと直流統括電流Idcとに対して回帰分析を行い、相関係数R2乗が所定値(例えば0.7)以上である場合のみ推定した無負荷直流電圧Vを採用し、相関係数R2乗が所定値(例えば0.7)未満の場合には、直近のタイミングにおける無負荷直流電圧Vを採用する。こうすることで、無負荷直流電圧推定部503は、実在しない無負荷直流電圧Vのサグを削除することができる。
【0072】
電圧推定装置50は、ステップS4〜ステップS6の処理を行う。
回生電力吸収装置60は、制御部505から動作信号を受信した場合、受信した動作信号に基づいて動作を開始する。
回生電力吸収装置60は、動作を開始すると、車両からの回生電力を受電する。
回生電力吸収装置60は、受電した回生電力を他装置に供給する。
【0073】
以上のように、本発明の第三の実施形態による電圧推定装置50は、電圧サンプリング部501と、電流サンプリング部502と、無負荷直流電圧推定部503と、記憶部504と、を備える。無負荷直流電圧推定部503は、それぞれの算出期間のタイミングにおいて、電流サンプリング部502がサンプリングした電流が所定値以下である場合、当該タイミングの電圧と電流とを、電流サンプリング部502がサンプリングした電流が所定値を超えたタイミングのうちそれぞれの算出期間のタイミングに直近のタイミングにおける電圧と電流とに置き換える。
こうすることで、電圧推定装置50は、変電所1が計器用変圧器VTを備えていない場合であっても、整流器20のスナバコンデンサや車両が備えるフィルタのコンデンサなどの無負荷直流電圧Vの推定への影響を低減することができ、変電所1における無負荷直流電圧Vを充分な精度で推定することができる。そのため、電圧推定装置50は、無負荷直流電圧Vが判定しきい値Vthを超えた場合に回生電力吸収装置60の動作を開始させることができる。回生電力吸収装置60は、動作を開始すると、車両からの回生電力を受電する。回生電力吸収装置60は、受電した回生電力をその他の装置に供給する。
【0074】
なお、本発明における記憶部504、リングバッファ506、その他の記憶部は、適切な情報の送受信が行われる範囲においてどこに備えられていてもよい。また、記憶部504、リングバッファ506、その他の記憶部は、適切な情報の送受信が行われる範囲において複数存在しデータを分散して記憶していてもよい。
【0075】
なお実施形態について説明したが、上述の電圧推定装置50は内部に、コンピュータシステムを有していてもよい。そして、上述した処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0076】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0077】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定するものではない。また、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、省略、置き換え、変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0078】
1・・・変電所
10・・・トランス
20・・・整流器
30・・・電圧センサ
40・・・電流センサ
50・・・電圧推定装置
60・・・回生電力吸収装置
501・・・電圧サンプリング部
502・・・電流サンプリング部
503・・・無負荷直流電圧推定部
504・・・記憶部
505・・・制御部
506・・・リングバッファ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13