特許第6589232号(P6589232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6589232
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】クロロプレンゴム接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 111/00 20060101AFI20191007BHJP
   C09J 161/06 20060101ALI20191007BHJP
   C09J 113/00 20060101ALI20191007BHJP
   C09J 11/00 20060101ALI20191007BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   C09J111/00
   C09J161/06
   C09J113/00
   C09J11/00
   C09J11/04
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-29803(P2015-29803)
(22)【出願日】2015年2月18日
(65)【公開番号】特開2016-150994(P2016-150994A)
(43)【公開日】2016年8月22日
【審査請求日】2017年11月15日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 進一
(72)【発明者】
【氏名】陳 亮
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−131764(JP,A)
【文献】 特開2006−316214(JP,A)
【文献】 特開2006−160909(JP,A)
【文献】 特開平05−179216(JP,A)
【文献】 特開昭63−139967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレンゴム、ノボラック型フェノール樹脂および有機溶媒を含有するクロロプレンゴム接着剤組成物であって、
前記クロロプレンゴムは、カルボキシル変性クロロプレンゴムを含み、
前記クロロプレンゴムは、前記カルボキシル変性クロロプレンゴムを1質量%〜99質量%含有し、
前記クロロプレンゴム100質量部に対して、前記ノボラック型フェノール樹脂を1質量部〜100質量部含有し、
前記ノボラック型フェノール樹脂は、重量平均分子量が300〜10000であり、
前記ノボラック型フェノール樹脂は、二価金属の弱酸塩の存在下、フェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られた樹脂であり、
前記クロロプレンゴムは、カルボキシル変性クロロプレンゴムを1質量%〜10質量%含むことを特徴とするクロロプレンゴム接着剤組成物。
【請求項2】
前記クロロプレンゴム100質量部に対して、老化防止剤を0.1質量部〜10質量部含有することを特徴とする請求項1に記載のクロロプレンゴム接着剤組成物。
【請求項3】
前記クロロプレンゴム100質量部に対して、金属酸化物、金属塩類およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種を合計0.1質量部〜30質量部含有することを特徴とする請求項1または2に記載のクロロプレンゴム接着剤組成物。
【請求項4】
前記金属酸化物は、酸化マグネシウムまたは酸化亜鉛であることを特徴とする請求項に記載のクロロプレンゴム接着剤組成物。
【請求項5】
前記金属塩類は、酢酸マグネシウムまたは酢酸亜鉛であることを特徴とする請求項に記載のクロロプレンゴム接着剤組成物。
【請求項6】
固形分の含有量が1質量%〜29.2質量%であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のクロロプレンゴム接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロプレンゴム接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱反応性レゾール型フェノール樹脂および塩基性金属酸化物をクロロプレンゴムに加えたクロロプレンゴム接着剤組成物は、接着性と共に耐熱性にも優れていることから、工業的に有用であることが知られている(例えば、特許文献1および2参照)。このような優れた耐熱性は、キレートを形成し得る熱反応性レゾール型フェノール樹脂のメチロール基、ジメチレンエーテル基およびフェノール性水酸基と、塩基性金属酸化物との錯体によりもたらされると考えられている。そのため、現在、耐熱性が求められるクロロプレンゴム接着剤組成物には、メチロール基、ジメチレンエーテル基およびフェノール性水酸基を多く有する熱反応性レゾール型フェノール樹脂が用いられている。
【0003】
ところが、耐熱性に優れるクロロプレンゴム接着剤組成物ほどタック性が低くなる傾向があるため、初期接着力が必要な用途あるいは冬場などの低温環境下では、このような接着剤組成物は充分な性能を発揮することができないという課題がある。そこで、従来、メチロール基、ジメチロール基、ジメチレンエーテル基の含有量が低い熱反応性アルキルフェノール樹脂(例えば、昭和電工社製のCKM−904、CKM−919など)で代用したり、クマロン・インデン樹脂、石油樹脂、ポリテルペン樹脂などの熱可塑性粘着付与樹脂を併用してタック性を向上させたりしているが、耐熱性およびタック性、初期接着性を両立させたクロロプレンゴム接着剤組成物は未だ開発されていない。
【0004】
一方、「シックスハウス症候群」および「化学物質過敏症」の発生により、2003年7月に改正された建築基準法で室内中のホルムアルデヒド濃度が厳しく制限されている。このような背景から、低ホルムアルデヒド化、非ホルムアルデヒド化などの環境対応型のクロロプレンゴム接着剤組成物の開発も重要な課題となっている。
上記のような熱反応性レゾール型フェノール樹脂を含む、従来のクロロプレンゴム接着剤組成物では、熱反応性レゾール型フェノール樹脂からホルムアルデヒドが徐々に放散されるという課題がある。そのため、現在、ホルムアルデヒドキャッチャー剤を含むレゾール型フェノール樹脂(例えば、特許文献3参照)で代用したり、ホルムアルデヒドキャッチャー剤をクロロプレンゴム接着剤組成物に添加したりしている。しかし、これらの対策はホルムアルデヒド放散量を低減させているに過ぎず、環境温度が室温より高い場合には、ホルムアルデヒドキャッチャー剤が捕捉効果を失い、ホルムアルデヒドがさらに多量に放出される。また、ノボラック型フェノール樹脂とクロロプレン系ゴムを用いた接着剤(例えば、特許文献4参照)は、強度およびタックタイムの点において性能が不充分であるといった課題がある。すなわち、ホルムアルデヒドを全く放散せず、充分な強度を有するクロロプレンゴム接着剤組成物は未だ開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭46−40877号公報
【特許文献2】特公昭54−7820号公報
【特許文献3】特開2001−164089号公報
【特許文献4】特許第4865303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、上記のような実情に鑑みてなされたものであり、耐熱性およびタック性、初期強度を両立するとともに、接着性に優れかつホルムアルデヒドを放散しないクロロプレンゴム接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、カルボキシル変性クロロプレンゴムを必須成分とするクロロプレンゴムに、特定の触媒存在下でフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られるノボラック型フェノール樹脂および有機溶媒を配合することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
(1)クロロプレンゴム、ノボラック型フェノール樹脂および有機溶媒を含有するクロロプレンゴム接着剤組成物であって、前記クロロプレンゴムは、カルボキシル変性クロロプレンゴムを含み、前記クロロプレンゴムは、前記カルボキシル変性クロロプレンゴムを1質量%〜99質量%含有し、前記クロロプレンゴム100質量部に対して、前記ノボラック型フェノール樹脂を1質量部〜100質量部含有し、前記ノボラック型フェノール樹脂は、重量平均分子量が300〜10000であり、前記ノボラック型フェノール樹脂は、二価金属の弱酸塩の存在下、フェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られた樹脂であり、前記クロロプレンゴムは、カルボキシル変性クロロプレンゴムを1質量%〜10質量%含むことを特徴とするクロロプレンゴム接着剤組成物。
【0009】
(2)前記クロロプレンゴム100質量部に対して、老化防止剤を0.1質量部〜10質量部含有する(1)に記載のクロロプレンゴム接着剤組成物。
【0010】
(3)前記クロロプレンゴム100質量部に対して、金属酸化物、金属塩類およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種を合計0.1質量部〜30質量部含有する(1)または(2)に記載のクロロプレンゴム接着剤組成物。
【0011】
(4)前記金属酸化物は、酸化マグネシウムまたは酸化亜鉛である(3)に記載のクロロプレンゴム接着剤組成物。
【0012】
(5)前記金属塩類は、酢酸マグネシウムまたは酢酸亜鉛である()に記載のクロロプレンゴム接着剤組成物。
【0013】
(6)固形分の含有量が1質量%〜29.2質量%である(1)〜(6)のいずれかに記載のクロロプレンゴム接着剤組成物。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐熱性およびタック性、初期強度を両立するとともに、接着性に優れかつホルムアルデヒドを放散しないクロロプレンゴム接着剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明によるクロロプレンゴム接着剤組成物を詳細に説明する。
【0020】
[クロロプレンゴム接着剤組成物]
本発明のクロロプレンゴム接着剤組成物は、カルボキシル変性クロロプレンゴムを含むクロロプレンゴム、ノボラック型フェノール樹脂および有機溶媒を含有することを特徴とする。
カルボキシル変性クロロプレンゴムを必須成分として含むクロロプレンゴムに、特定のノボラック型フェノール樹脂を配合することにより、タック性および初期強度を向上させつつ、優れた耐熱性および接着性を付与することができる。
【0021】
本発明のクロロプレンゴム接着剤組成物におけるクロロプレンゴムは、硬度上昇開始所要時間が50時間以下のものであることが好ましく、25時間以下のものであることがより好ましい。
硬度上昇開始所要時間が50時間を超えると、所望の接着性能が得られ難くなるので好ましくない。ここで、硬度上昇開始所要時間とは、クロロプレンゴムのチップをプレスして作製した平板を70℃のオーブンに入れ、1時間保温して除晶した後、−10℃の低温恒温槽中、JIS A硬度計を用いて平板の硬度の経時変化を測定した際に、硬度が測定開始の値から10%以上上昇するまでの時間を意味する。
【0022】
本発明のクロロプレンゴム接着剤組成物におけるカルボキシル変性クロロプレンゴムとしては、特に限定されず、例えば、2−クロロ−1,3−ブタジエン(クロロプレン)を単独で重合したものや、他の単量体と共重合したものを用いることができる。ここで、他の単量体としては、2−クロロ−1,3−ブタジエンと共重合可能なものであれば特に限定されず、例えば、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンなどが挙げられる。2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンなどは、2−クロロ−1,3−ブタジエン100質量部に対して、1質量部〜10質量部配合することが好ましい。
2−クロロ−1,3−ブタジエンを単独で重合する方法、および、2−クロロ−1,3−ブタジエンと他の単量体とを共重合する方法としては、ラジカル重合やイオン重合等の公知の重合方法が用いられる。
【0023】
カルボキシ変性されていないクロロプレンゴムとしては、市販のAタイプと呼ばれる接着剤用クロロプレンゴム、市販のWタイプと呼ばれる接着剤用クロロプレンゴムなどが用いられる。Aタイプと呼ばれる接着剤用クロロプレンゴムとしては、例えば、昭和電工社製のショウプレン(登録商標)ADおよびショウプレン(登録商標)ACが挙げられる。Wタイプと呼ばれる接着剤用クロロプレンゴムとしては、例えば、昭和電工社製のショウプレン(登録商標)Wおよびショウプレン(登録商標)WHVなどが挙げられる。これらの中でも、耐熱性や接着性に優れる点から、ショウプレン(登録商標)ADおよびショウプレン(登録商標)ACが好ましい。
【0024】
カルボキシ変性クロロプレンゴムは、クロロプレンゴム中1質量%〜99質量%であることが好ましく、40質量%〜100質量%であることがより好ましく、60質量%〜100質量%であることがさらに好ましい。
クロロプレンゴムにおけるカルボキシル変性クロロプレンゴムの含有量を、上記の範囲内とすると、所望の接着性能が得られる。
【0025】
本発明におけるカルボキシル変性クロロプレンゴムの重合方法は、特に限定されず、例えば、クロロプレン単量体と、カルボキシル基含有ビニル単量体とを重合する方法や、クロロプレン単量体と、カルボキシル基含有ビニル単量体とを、必要に応じてその他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体と共に重合する方法が挙げられる。
カルボキシル基含有ビニル単量体は、高温接着力を発現させるための架橋点として必須成分である。カルボキシル基含有ビニル単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸、2−メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、フマル酸、無水マレイン酸、クロトン酸などの不飽和脂肪酸などが挙げられる。これらの中でも、クロロプレン単量体との共重合性の点から、メタクリル酸が好ましい。
【0026】
カルボキシル基含有ビニル単量体としてメタクリル酸を用いる場合、クロロプレン単量体100質量部に対して、メタクリル酸を0.1質量部〜10質量部配合することが好ましく、0.5質量部〜5質量部配合することがより好ましい。
メタクリル酸の配合量を、上記の範囲内とすると、充分な接着強度が得られるとともに、カルボキシル変性クロロプレンゴムが化学的に安定する。
【0027】
また、必要に応じて、共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸等の(メタ)アクリル酸エステル類、ブタジエン、2,3−ジクロロブタジエン、1−クロロブタジエン等のジエン系単量体、スチレン、アクリロニトリルなどの通常クロロプレンの共重合に用いられる単量体も用いることができる。
これらの単量体は、クロロプレン単量体100質量部に対して、20質量部以下の配合量で適宜用いられる。
【0028】
カルボキシル変性クロロプレンゴムムの重合に用いられる重合開始剤としては、公知のフリーラジカル生成物質が挙げられる。重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸化物、過酸化水素、t−ブチルヒドロパーオキサイドなどの無機過酸化物または有機過酸化物などが挙げられる。これらの重合開始剤は、1種のみを単独で用いてもよく、また、還元性物質と併用する併用レドックス系として用いてもよい。還元性物質としては、例えば、チオ硫酸塩、チオ亜硫酸塩、有機アミンなどが挙げられる。
【0029】
カルボキシル変性クロロプレンゴムの重合温度は、0℃〜80℃であることが好ましく、5℃〜50℃であることがより好ましい。重合温度を適宜変えることにより、所望の結晶性のカルボキシル変性クロロプレンゴムが得られる。
【0030】
カルボキシル変性クロロプレンゴムの重合に用いられる連鎖移動剤としては、例えば、アルキルメルカプタン、ハロゲン化炭化水素、アルキルキサントゲンジスルフィド、テトラアルキルチウラムジスルフィド、α−メチルスチレンダイマー、1,1−ジフェニルエチレン、硫黄などの分子量調節剤が挙げられる。
【0031】
カルボキシル変性クロロプレンゴムの重合転化率は、50%〜100%であることが好ましい。単量体が残存する場合には、モノマーストリップなどにより単量体を除去すればよい。
【0032】
カルボキシル変性クロロプレンゴムの重合に用いられる重合停止剤としては、通常用いられる停止剤であれば特に限定されず、例えば、フェノチアジン、2,6−t−ブチル−4−メチルフェノール、ヒドロキシルアミンなどが挙げられる。
【0033】
このようなカルボキシル変性クロロプレンゴムとしては、市販のAFタイプと呼ばれる接着剤用クロロプレンゴムなどが用いられる。AFタイプと呼ばれる接着剤用クロロプレンゴムとしては、例えば、昭和電工社製のショウプレン(登録商標)AFなどが挙げられる。これらの中でも、耐熱性や初期強度に優れる点から、ショウプレン(登録商標)AFが好ましい。
【0034】
本発明のクロロプレンゴム接着剤組成物におけるノボラック型フェノール樹脂の含有量は、クロロプレンゴム100質量部に対して、1質量部〜100質量部であることが好ましく、10質量部〜90質量部であることがより好ましい。
ノボラック型フェノール樹脂の含有量を、上記の範囲内とすると、所望の接着性能が得られる。
【0035】
また、本発明のクロロプレンゴム接着剤組成物において、ノボラック型フェノール樹脂とクロロプレンゴムの配合量の比は、クロロプレンゴム100質量部に対して、ノボラック型フェノール樹脂が10質量部〜100質量部であることが好ましく、40質量部〜90質量部であることがより好ましく、60質量部〜90質量部であることがさらに好ましい。
【0036】
本発明におけるノボラック型フェノール樹脂は、触媒である二価金属の弱酸塩の存在下、フェノール類とアルデヒド類とを反応させることによって得られる。
フェノール類としては、一般的なフェノール樹脂の製造に用いられるものであれば、特に限定されず、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、フェニルフェノール、シクロヘキシルフェノール、ナフトール、ナフタレンジオール、ビスフェノールA 、ビスフェノールF 、ビスフェノールSなどが挙げられる。これらのフェノール類は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、クロロプレンゴムとの相溶性の観点から、ブチルフェノールなどのアルキルフェノールを用いることが好ましい。
【0037】
アルデヒド類としては、一般的なフェノール樹脂の製造に用いられるものであれば、特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、フルフラールなどが挙げられる。これらのアルデヒド類は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、アルデヒド類の配合量は、フェノール類1モルに対して、0.1モル〜 2.0モルであることが好ましい。
アルデヒド類の配合量を、上記の範囲内とすると、所望の重量平均分子量を有するノボラック型フェノール樹脂が得られる。
【0038】
触媒である二価金属の弱酸塩としては、Ca、Mg、Zn、Mn、Pbなどの二価金属と、酢酸、ギ酸、ホウ酸などの弱酸との塩が用いられる。二価金属の弱酸塩としては、例えば、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウム、酢酸マンガン、酢酸鉛、ギ酸亜鉛、ギ酸マンガン、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マンガンなどが挙げられる。これらの二価金属の弱酸塩は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
二価金属の弱酸塩の添加量は、フェノール類100質量部に対して、0.1質量部〜80質量部であることが好ましく、1質量部〜50質量部であることがより好ましい。
二価金属の弱酸塩の添加量を、上記の範囲内とすると、所望の重量平均分子量を有するノボラック型フェノール樹脂が得られ、また、残存触媒の影響を受けることがなく、所望の接着性能が得られる。
【0039】
フェノール類とアルデヒド類との反応は、一般的なフェノール樹脂の製造に用いられる公知の方法が挙げられる。このような反応としては、例えば、フェノール類、アルデヒド類および二価金属の弱酸塩を一括して仕込み、所定の温度にて反応させる方法や、フェノール類および二価金属の弱酸塩を仕込み、所定の温度にてアルデヒド類を添加して反応させる方法などが挙げられる。
反応温度は、50℃ 〜180℃であることが好ましく、80℃ 〜150℃であることがより好ましい。
反応温度を、上記の範囲内とすると、反応速度が低くなることがなく、反応に時間が掛かることを防止でき、また、所定の温度に制御し易い。
反応時間は、特に制限されず、各成分の配合量および反応温度などに応じて適宜調整される。
【0040】
上記の反応により得られたノボラック型フェノール樹脂は、油変性、ゴム変性などの変性をさらに行ってもよい。
【0041】
このようにして得られたノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、300〜10000であることが好ましく、300〜8000であることがより好ましい。
ノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量を、上記の範囲内とすると、所望の接着性能が得られる。
ノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量は、実施例に記載の方法に基づいて測定される。
【0042】
本発明のクロロプレンゴム接着剤組成物における有機溶媒としては、一般的なクロロプレンゴム接着剤組成物に用いられるものであれば、特に限定されない。有機溶媒としては、例えば、トルエンおよびキシレンなどの芳香族溶剤、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ヘキサン、シクロヘキサン、2−メチル−1−ペンテン、酢酸エチル、アセトン並びにゴム用揮発油などが挙げられる。これらの有機溶媒は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
本発明のクロロプレンゴム接着剤組成物は、老化防止剤、金属酸化物、金属塩類などを含有していてもよい。
老化防止剤としては、例えば、2,6−t−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,2 ’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)などの公知のフェノール類酸化防止剤が挙げられる。これらの老化防止剤は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
本発明のクロロプレンゴム接着剤組成物における老化防止剤の含有量は、クロロプレンゴム100質量部に対して、0.1質量部〜10質量部であることが好ましく、0.5質量部〜7質量部であることがより好ましい。
老化防止剤の含有量を、上記の範囲内とすると、所望の老化防止効果および接着性能が得られる。
【0045】
金属酸化物としては、酸化マグネシウム(MgO)および酸化亜鉛(ZnO)などが挙げられる。
金属塩類としては、酢酸マグネシウム(Mg(CHCOO))および酢酸亜鉛(Zn(CHCOO))などが挙げられる。
これらの金属酸化物および金属塩類は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
本発明のクロロプレンゴム接着剤組成物における金属酸化物、金属塩類およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の含有量は、クロロプレンゴム100質量部に対して、合計で0.1質量部〜30質量部であることが好ましい。
金属酸化物、金属塩類およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の含有量を、上記の範囲内とすると、所望の耐熱性能および接着性能が得られる。
本発明のクロロプレンゴム接着剤組成物が、酸化マグネシウムを単独で含有する場合、クロロプレンゴム100質量部に対して、酸化マグネシウムを0.1質量部〜20質量部含有することが好ましい。また、本発明のクロロプレンゴム接着剤組成物が、酸化亜鉛および金属塩類からなる群から選択される少なくとも1種を含有する場合、クロロプレンゴム100質量部に対して、酸化亜鉛および金属塩類からなる群から選択される少なくとも1種を1質量部〜30質量部含有することが好ましく、1質量部〜20質量部含有することがより好ましい。
【0047】
本発明のクロロプレンゴム接着剤組成物の調製方法は、特に限定されず、一般的なクロロプレンゴム接着剤組成物の調製方法が用いられる。このような調製方法としては、例えば、有機溶媒に、クロロプレンゴム、ノボラック型フェノール樹脂、必要に応じて老化防止剤、金属酸化物、金属塩類などを直接溶解する方法、クロロプレンゴム、必要に応じて老化防止剤、金属酸化物、金属塩類などをロール機などで均一に混合した後、この混合物をノボラック型フェノール樹脂と共に有機溶媒に溶解させる方法などが挙げられる。
【0048】
このようにして得られたクロロプレンゴム接着剤組成物における固形分の含有量は、所望の用途に応じて調整されるが、1質量%〜90質量%であることが好ましく、10質量%〜50質量%であることがより好ましい。
固形分の含有量を、上記の範囲内とすると、所望の接着性能が得られ、また、クロロプレンゴム接着剤組成物を使用する際に所望の作業性が得られる。
なお、本明細書において、「作業性」とは、対象物に対して、クロロプレンゴム接着剤組成物を塗工する際の塗りやすさなどのことである。
【0049】
本発明のクロロプレンゴム接着剤組成物によれば、耐熱性およびタック性、初期強度を両立するとともに、接着性に優れかつホルムアルデヒドを放散しない接着剤組成物を提供することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
[重量平均分子量の測定方法]
以下に示すノボラック型フェノール樹脂(樹脂A〜樹脂D)の合成例において、重合体(樹脂A〜樹脂D)の重量平均分子量Mwおよび分子量分布Mw/Mnを、東ソー社製のGPC8220により、次の条件で測定した。
溶離液=テトラヒドロフラン、流速=1.0mL/min、カラム温度=40℃、ピーク検出=示差屈折計、充填カラム=TSK−gel(登録商標)G7000Hxl/TSK−gel(登録商標)GMHxl/TSK−gel(登録商標)GMHxl/G3000Hxl/ガードカラムH−L、分子量計算=ポリスチレン換算。
【0052】
実施例として、ノボラック型フェノール樹脂(樹脂A〜樹脂D)の合成例を示す。
【0053】
[樹脂Aの合成]
p−tert−ブチルフェノール(pTBP)50.0質量部、フェノール50.0質量部、37.0質量%のホルマリン水溶液50.0質量部および酢酸亜鉛5.0質量部からなる混合物を、攪拌器および温度計を備えた四つ口フラスコに仕込み、100℃で3時間反応させた。
その後、160℃で減圧脱水して、重量平均分子量が2100のノボラック型フェノール樹脂(樹脂A)112.4質量部を得た。
【0054】
[樹脂Bの合成]
pTBP50.0質量部、フェノール50.0質量部、37.0質量%のホルマリン水溶液70.0質量部および酢酸亜鉛5.0質量部からなる混合物を、攪拌器および温度計を備えた四つ口フラスコに仕込み、100℃で3時間反応させた。
その後、160℃で減圧脱水して、重量平均分子量が5100のノボラック型フェノール樹脂(樹脂B)120.9質量部を得た。
【0055】
[樹脂Cの合成]
pTBP50.0質量部、フェノール50.0量部、37.0質量% のホルマリン水溶液70.0質量部および酢酸マグネシウム5.0質量部からなる混合物を、攪拌器および温度計を備えた四つ口フラスコに仕込み、100℃で3時間反応させた。
その後、160℃で減圧脱水して、重量平均分子量が5000のノボラック型フェノール樹脂(樹脂C)119.8質量部を得た。
【0056】
[樹脂Dの合成]
pTBP50.0質量部、3,5−キシレノール50.0質量部、37.0質量%のホルマリン水溶液50.0質量部および酢酸亜鉛5.0質量部からなる混合物を、攪拌器および温度計を備えた四つ口フラスコに仕込み、100℃で3時間反応させた。
その後、160℃で減圧脱水して、重量平均分子量が3020のノボラック型フェノール樹脂(樹脂D)113.3 質量部を得た。
【0057】
比較例として、ノボラック型フェノール樹脂(樹脂E,F)およびレゾール型フェノール樹脂(樹脂G)の合成例を示す。
【0058】
[樹脂Eの合成]
pTBP50.0質量部、フェノール50.0質量部、37.0質量%のホルマリン水溶液50.0質量部および蓚酸2.0質量部からなる混合物を、攪拌器および温度計を備えた四つ口フラスコに仕込み、100℃で3時間反応させた。
その後、160℃で減圧脱水して、重量平均分子量が2100のノボラック型フェノール樹脂(樹脂E)118.5質量部を得た。
【0059】
[樹脂Fの合成]
pTBP50.0質量部、フェノール50.0質量部、37.0質量%のホルマリン水溶液70.0質量部および蓚酸3.0質量部からなる混合物を、攪拌器および温度計を備えた四つ口フラスコに仕込み、100℃で3時間反応させた。
その後、160℃で減圧脱水して、重量平均分子量が5100のノボラック型フェノール樹脂(樹脂F)125.9質量部を得た。
【0060】
[樹脂Gの合成]
pTBP100.0質量部、37.0質量%のホルマリン水溶液170.0質量部および10.0質量%の苛性ソーダ水溶液5.0質量部からなる混合物を、攪拌器および温度計を備えた四つ口フラスコに仕込み、100℃で2時間反応させた。
反応終了後、トルエン100.0質量部および10.0質量% 硫酸水溶液1.0質量部をさらに加えて混合し、再度静置し、前と同様に下層の水を除去した。
その後、100℃で減圧脱水して、重量平均分子量が2280のレゾール型フェノール樹脂(樹脂G)125.9質量部を得た。
【0061】
ノボラック型フェノール樹脂(樹脂A〜F)およびレゾール型フェノール樹脂(樹脂G)の配合組成を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
次に、クロロプレンゴム接着剤組成物の調製例を示す。
【0064】
参考例1]
樹脂A50.0質量部を、メチルエチルケトン(MEK)50.0質量部に溶解し、樹脂Aの含有量が50.0質量%の樹脂溶液1を100.0質量部調製した。
クロロプレンゴム50.0質量部(商品名:ショウプレンAD、昭和電工社製)および2,6−t−ブチル−4−メチルフェノール(BHT、商品名:ノクラック200、大内新興化学工業社製)2.0質量部を、2本ロール機により、60℃以下で20分間混練した後、この混練物を、カルボキシル変性クロロプレンゴム50.0質量部(商品名:ショウプレンAF、昭和電工社製)と共に、MEK100.0質量部、酢酸エチル150.0質量部およびシクロヘキサン150.0質量部からなる混合溶液に溶解して、ゴム溶液2を得た。
樹脂溶液1およびゴム溶液2を攪拌器により均一に混合し、クロロプレンゴム接着剤組成物602.0質量部を得た。このクロロプレンゴム接着剤組成物の固形分は25.2質量%であった。
【0065】
参考例2〜11、実施例]
参考例1と同様にして、表2に示す配合にて、各樹脂溶液1および2を調製し、参考例2〜11、実施例のクロロプレンゴム接着剤組成物を得た。
なお、表2において、ショウプレンADを「クロロプレンゴムA」と記し、ショウプレンAFを「クロロプレンゴムB」と記した。
【0066】
[比較例1]
樹脂F50.0質量部を、MEK50.0質量部に溶解し、樹脂Eの含有量が50.0質量%の樹脂溶液1を100.0質量部調製した。
クロロプレンゴム100.0質量部(商品名:ショウプレンAD、昭和電工社製)、BHT2.0質量部、酸化マグネシウム4.0質量部(商品名:キョーワマグ150、協和化学工業社製)および酸化亜鉛5.0質量部を、2本ロール機により、60℃ 以下で20分間混練した後、この混練物を、MEK100.0 質量部、酢酸エチル150.0質量部およびシクロヘキサン150.0質量部からなる混合溶液に溶解して、ゴム溶液2を得た。
樹脂溶液1およびゴム溶液2を攪拌器により均一に混合し、クロロプレンゴム接着剤組成物611.0質量部を得た。このクロロプレンゴム接着剤組成物の固形分は26.4質量%であった。
【0067】
[比較例2]
比較例1において、樹脂Aを用いた以外は比較例1と同様の操作を行い、クロロプレンゴム接着剤組成物611.0質量部を得た。このクロロプレンゴム接着剤組成物の固形分は26.4質量% であった。
【0068】
[比較例3]
攪拌器および温度計を備えた反応装置に、樹脂G50.0質量部およびトルエン50.0質量部を仕込み、内温を50℃に昇温して溶解させた。
その後、酸化マグネシウム4.0質量部(商品名:キョーワマグ150、協和化学工業社製)3.5質量部および水0.5質量部を加え、そのまま5時間キレート化反応を行い、レゾール型フェノール樹脂のキレート化物(樹脂溶液1)104.0質量部を得た。
また、比較例1と同様にして、ゴム溶液2を得た。
樹脂溶液1の100質量部およびゴム溶液2を攪拌器により均一に混合し、クロロプレンゴム接着剤組成物611.0質量部を得た。このクロロプレンゴム接着剤組成物の固形分は26.7質量%であった。
【0069】
参考例1〜11、実施例および比較例1〜3で得られたクロロプレンゴム接着剤組成物について、各成分の含有量および特性評価の結果を表2に示す。
【0070】
[評価]
参考例1〜11、実施例および比較例1〜3で得られたクロロプレンゴム接着剤組成物の特性評価を行った。
【0071】
(1) 接着性、耐熱性およびタック性の評価
接着性および耐熱性の評価を、JIS K−6854−1994のT型剥離接着強さ試験に準拠して行った。
(1−1)接着性
クロロプレンゴム接着剤組成物を、25mm×150mmの11号帆布の25mm×75mmの面積に、刷毛を用いて0.03g/cm塗布し、室温にて1時間放置した。この操作を3回繰り返した後、室温にて20分間放置した。その後、クロロプレンゴム接着剤組成物を塗布した帆布を2枚ずつ貼り合わせ、5kgのハンドロールで片道5回圧着し、恒温恒湿室(25℃、湿度60%) で1時間養生して初期強度測定用試験片を作製した。その後、1週間養生して常態強度および耐熱強度測定用試験片を作製した。
その後、テンシロン(登録商標)を用いて、25℃雰囲気下、200mm/minの速度でT型剥離接着強さを測定した。なお、測定を5回行い、その平均値を25℃ 雰囲気下における剥離強度とした。25℃雰囲気下における剥離強度(初期強度および常態強度)が高い程、接着性に優れていることを意味する。
【0072】
(1−2)耐熱性
耐熱強度測定用試験片を、80℃大気雰囲気下にて20分間放置した後、80℃雰囲気下、200mm/minの速度でT型剥離接着強さを測定した。なお、測定を5回行い、その平均値を80℃雰囲気下における剥離強度とした。80℃雰囲気下における剥離強度が高い程、耐熱性に優れていることを意味する。
【0073】
(1−3)タック性
ガラス板およびクラフト紙の表面それぞれに、クロロプレンゴム接着剤組成物を、厚み250μmで塗布し、恒温恒湿室(25℃、湿度60%)に放置し、10分間隔で、ガラス板にクラフト紙を貼り合せ、接着しなくなるまでの時間をタックタイムとして測定した。タックタイムが長い程、タック性に優れていることを意味する。
【0074】
(2)ホルムアルデヒド放散速度評価
ホルムアルデヒド放散速度試験は、JIS A−1901−2003「建築材料の揮発性有機化合物(VOC) 、ホルムアルデヒド及び他のカルボニル化合物放散測定方法−小形チャンバー法」に準拠して行った。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示す結果から、参考例1〜11、実施例のクロロプレンゴム接着剤組成物は、比較例1のクロロプレンゴム接着剤組成物よりも、初期強度およびタック性に優れることが分かった。また、参考例1〜11、実施例のクロロプレンゴム接着剤組成物は、比較例2のクロロプレンゴム接着剤組成物よりも、初期強度および常態強度に優れることが分かった。また、参考例1〜11、実施例のクロロプレンゴム接着剤組成物は、比較例3のレゾール型フェノール樹脂を用いたクロロプレンゴム接着剤組成物よりも、耐熱強度およびタック性に優れることが分かった。さらに、参考例1〜11、実施例のクロロプレンゴム接着剤組成物は、ホルムアルデヒドを放散しないことが確認された。