特許第6589277号(P6589277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士電機株式会社の特許一覧

特許6589277高耐圧受動素子および高耐圧受動素子の製造方法
<>
  • 特許6589277-高耐圧受動素子および高耐圧受動素子の製造方法 図000002
  • 特許6589277-高耐圧受動素子および高耐圧受動素子の製造方法 図000003
  • 特許6589277-高耐圧受動素子および高耐圧受動素子の製造方法 図000004
  • 特許6589277-高耐圧受動素子および高耐圧受動素子の製造方法 図000005
  • 特許6589277-高耐圧受動素子および高耐圧受動素子の製造方法 図000006
  • 特許6589277-高耐圧受動素子および高耐圧受動素子の製造方法 図000007
  • 特許6589277-高耐圧受動素子および高耐圧受動素子の製造方法 図000008
  • 特許6589277-高耐圧受動素子および高耐圧受動素子の製造方法 図000009
  • 特許6589277-高耐圧受動素子および高耐圧受動素子の製造方法 図000010
  • 特許6589277-高耐圧受動素子および高耐圧受動素子の製造方法 図000011
  • 特許6589277-高耐圧受動素子および高耐圧受動素子の製造方法 図000012
  • 特許6589277-高耐圧受動素子および高耐圧受動素子の製造方法 図000013
  • 特許6589277-高耐圧受動素子および高耐圧受動素子の製造方法 図000014
  • 特許6589277-高耐圧受動素子および高耐圧受動素子の製造方法 図000015
  • 特許6589277-高耐圧受動素子および高耐圧受動素子の製造方法 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6589277
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】高耐圧受動素子および高耐圧受動素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/32 20060101AFI20191007BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20191007BHJP
   H01F 19/04 20060101ALI20191007BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20191007BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   H01F27/32 130
   H01F17/00 B
   H01F19/04 Z
   H01F41/04 C
   H01G4/30 544
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-5138(P2015-5138)
(22)【出願日】2015年1月14日
(65)【公開番号】特開2016-131211(P2016-131211A)
(43)【公開日】2016年7月21日
【審査請求日】2017年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山路 将晴
【審査官】 木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−270465(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/069662(WO,A1)
【文献】 特開平06−267935(JP,A)
【文献】 特開平9−330815(JP,A)
【文献】 特開平10−189577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/32
H01F 27/28
H01F 17/00
H01F 19/04
H01F 30/10
H01F 41/04
H01F 5/06
H01G 4/14
H01G 4/18
H01G 4/30
H01G 4/32
H01L 21/316
H01L 21/768
H01L 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に積層された下部金属層および上部金属層と、
前記下部金属層および前記上部金属層の間に形成された絶縁部と
を備え、
前記絶縁部は、
前記基板の熱膨張率よりも熱膨張率が小さい第1の絶縁膜と、
前記第1の絶縁膜に積層され、前記基板の熱膨張率よりも熱膨張率が大きい第2の絶縁膜と
を有し、
前記第1の絶縁膜は、プラズマCVD膜であり、
前記第2の絶縁膜は、PSG膜、BPSG膜またはNSG膜である高耐圧受動素子。
【請求項2】
基板と、
前記基板の上面側に積層された絶縁部と、
前記絶縁部の上面側の同一面に設けられた金属層と
を備え、
前記絶縁部は、
前記基板の上面側に積層された、前記基板の熱膨張率よりも熱膨張率が小さい第1の絶縁膜と、前記基板の熱膨張率よりも熱膨張率が大きい第2の絶縁膜と
を有し、
前記第1の絶縁膜は、プラズマCVD膜であり、
前記第2の絶縁膜は、PSG膜、BPSG膜またはNSG膜である高耐圧受動素子。
【請求項3】
基板と、
前記基板上に積層された下部金属層および上部金属層と、
前記下部金属層および前記上部金属層の間に形成された絶縁部と
を備え、
前記絶縁部は、
前記基板の熱膨張率よりも熱膨張率が小さい第1の絶縁膜と、
前記第1の絶縁膜に積層され、前記基板の熱膨張率よりも熱膨張率が大きい第2の絶縁膜と
を有し、
前記第1の絶縁膜および前記第2の絶縁膜の各々の厚みは、0.5〜3.0μmである高耐圧受動素子。
【請求項4】
基板と、
前記基板の上面側に積層された絶縁部と、
前記絶縁部の上面側の同一面に設けられた金属層と
を備え、
前記絶縁部は、
前記基板の上面側に積層された、前記基板の熱膨張率よりも熱膨張率が小さい第1の絶縁膜と、前記基板の熱膨張率よりも熱膨張率が大きい第2の絶縁膜と
を有し、
前記第1の絶縁膜および前記第2の絶縁膜の各々の厚みは、0.5〜3.0μmである高耐圧受動素子。
【請求項5】
前記第1の絶縁膜の膜厚と前記第2の絶縁膜の膜厚とは、前記基板の反り量を相殺する比率である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の高耐圧受動素子。
【請求項6】
前記第1の絶縁膜は、プラズマTEOS膜であり、
前記第2の絶縁膜は、ポリイミド膜またはポリベンゾオキサゾール膜である
請求項3または4に記載の高耐圧受動素子。
【請求項7】
前記絶縁部における最上層の絶縁膜は、他の絶縁膜よりも膜厚が大きい
請求項1からのいずれか一項に記載の高耐圧受動素子。
【請求項8】
前記絶縁部の厚みは5μm以上である
請求項1からのいずれか一項に記載の高耐圧受動素子。
【請求項9】
前記第1の絶縁膜の膜厚と前記第2の絶縁膜の膜厚との比は、1:1から2:1である、請求項1からのいずれか一項に記載の高耐圧受動素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐圧受動素子および高耐圧受動素子の製造方法に関する。
【0002】
従来、積層型の受動素子を有する駆動装置が知られている(例えば、特許文献1)。また、平面型の受動素子を有する駆動装置も知られている(例えば、特許文献2)。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特開2013−051547号公報
[特許文献2] 特許3441082号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
受動素子は、例えば半導体ウエハ上に形成される。受動素子は、半導体ウエハ上に絶縁膜を有する。当該受動素子の製造工程において、半導体ウエハと絶縁膜と熱膨張率の差に起因して、半導体ウエハに反りが生じる。半導体ウエハの反りは、製造工程での加工不良および搬送不良ならびに半導体ウエハの割れの原因となる。製造工程での加工不良は、ステッパー装置でのデフォーカスおよびアライメントずれ等を含む。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、基板と、基板上に積層された下部金属層および上部金属層と、下部金属層および上部金属層の間に形成された絶縁部とを備え、絶縁部は、基板の熱膨張率よりも熱膨張率が小さい第1の絶縁膜と、第1の絶縁膜に積層され、基板の熱膨張率よりも熱膨張率が大きい第2の絶縁膜とを有する高耐圧受動素子を提供する。
【0005】
本発明の第2の態様においては、基板と、基板の上面側に積層された絶縁部と、絶縁部の上面側の同一面に設けられた金属層とを備え、絶縁部は、基板の上面側に積層された、基板の熱膨張率よりも熱膨張率が小さい第1の絶縁膜と、基板の熱膨張率よりも熱膨張率が大きい第2の絶縁膜とを有する高耐圧受動素子を提供する。
【0006】
第1の絶縁膜の膜厚と第2の絶縁膜の膜厚とは、基板の反り量を相殺する比率である。第1の絶縁膜は、プラズマTEOS膜であってよく、第2の絶縁膜は、ポリイミド膜またはポリベンゾオキサゾール膜であってよい。また、第1の絶縁膜は、プラズマCVD膜であってよく、第2の絶縁膜は、PSG膜、BPSG膜またはNSG膜であってよい。
【0007】
絶縁部は、第2の絶縁膜を挟む2つの第1の絶縁膜を有してよい。また、絶縁部は、第1の絶縁膜を挟む2つの第2の絶縁膜を有してよい。絶縁部における最上層の絶縁膜は、他の絶縁膜よりも膜厚が大きくてよい。絶縁部の厚みは5μm以上であってよい。
【0008】
第1の絶縁膜および第2の絶縁膜の各々の厚みは、0.5〜3.0μmであってよい。第1の絶縁膜の膜厚と第2の絶縁膜の膜厚との比は、1:1から2:1であってもよい。
【0009】
本発明の第3の態様においては、高耐圧受動素子の製造方法であって、基板の表面側に、下部金属層を設ける段階と、下部金属層の表面側に、基板の熱膨張率よりも熱膨張率が小さい第1の絶縁膜、および、基板の熱膨張率よりも熱膨張率が大きい第2の絶縁膜を積層した絶縁部を設ける段階と、絶縁部の表面側に、上部金属層を設ける段階とを備え、第1の絶縁膜および第2の絶縁膜のいずれか一方の膜を成膜する温度は、既に成膜した他方の膜の膜質を変化させない温度である、高耐圧受動素子の製造方法を提供する。
【0010】
本発明の第4の態様においては、高耐圧受動素子の製造方法であって、基板上に、基板の熱膨張率よりも熱膨張率が小さい第1の絶縁膜、および、基板の熱膨張率よりも熱膨張率が大きい第2の絶縁膜を設ける段階と、第1の絶縁膜および第2の絶縁膜上に、金属層を設ける段階とを備え、第1の絶縁膜および第2の絶縁膜のいずれか一方の膜を成膜する温度は、既に成膜した他方の膜の膜質を変化させない温度である、高耐圧受動素子の製造方法を提供する。
【0011】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】駆動装置100を示す図である。
図2】積層型の高耐圧受動素子50を示す図である。
図3】積層型の高耐圧受動素子50の第1の例を示す図である。
図4】積層型の高耐圧受動素子50の第2の例を示す図である。
図5】積層型の高耐圧受動素子50の第3の例を示す図である。
図6】平面型の高耐圧受動素子50を示す図である。
図7】平面型の高耐圧受動素子50の第1の例を示す図である。
図8】平面型の高耐圧受動素子50の第2の例を示す図である。
図9】平面型の高耐圧受動素子50の第3の例を示す図である。
図10】積層型の高耐圧受動素子50の下部金属層30を設ける段階を示す図である。
図11】積層型の高耐圧受動素子50における絶縁部40を設ける段階を示す図である。
図12】積層型の高耐圧受動素子50における上部金属層20を設ける段階を示す図である。
図13】平面型の高耐圧受動素子50における第1の絶縁膜42および第2の絶縁膜44を設ける段階を示す図である。
図14】平面型の高耐圧受動素子50における金属層35を設ける段階を示す図である。
図15】高耐圧コンデンサ55を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0014】
図1は、駆動装置100を示す図である。駆動装置100は、送信回路10、高耐圧受動素子50、受信回路60、制御部70およびゲートドライバ80を有する。そして、駆動装置100によりスイッチ素子であるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)90を駆動される。送信回路10には、電源電圧VDD1および接地電圧GND1を有する第1系統の電源が接続する。送信回路10は、第1の半導体チップに設けられてよい。送信回路10には入力データVINが入力される。送信回路10は、入力データVINをパルス状の電気信号に変換して高耐圧受動素子50に出力する。
【0015】
高耐圧受動素子50は一対のコイルを有する。高耐圧受動素子50は、第1の半導体チップとは異なる第2の半導体チップに設けられてよい。本例の高耐圧受動素子50は、基板上に積層された下部金属層30および上部金属層20を有する。つまり、本例の高耐圧受動素子50は、いわゆる積層型である。
【0016】
本例の高耐圧受動素子50は、上部金属層20に形成された1次コイルを有する。本例において、1次コイルは送信回路10に接続される。また、本例の高耐圧受動素子50は、下部金属層30に形成された2次コイルを有する。本例において、2次コイルは受信回路60に接続される。
【0017】
なお、高耐圧受動素子50は、基板の上面側に積層された絶縁部と、絶縁部の上面側の同一面に設けられた金属層とを有してもよい。つまり、高耐圧受動素子50は、いわゆる平面型であってもよい。
【0018】
また、他の例においては、下部金属層30に1次コイルが形成され、上部金属層20に2次コイルが形成されてもよい。つまり、下部金属層30が送信回路10に接続され、上部金属層20が受信回路60に接続されてもよい。第1の半導体チップに高耐圧受動素子50を形成する場合は、第1の半導体チップの送信回路10が形成される側の表面上方に下部金属層30(1次コイル)および上部金属層20(2次コイル)を形成することが望ましい。
【0019】
本例では、送信回路10から出力されたパルス状の電気信号は、上部金属層20の1次コイルによって磁気信号に変換される。下部金属層30の2次コイルは、上部金属層20の1次コイルの磁気信号に応じて、電気信号を生成する。つまり、下部金属層30の2次コイルは、磁気信号の磁界変化に起因して、電磁誘導により電気信号を生成する。受信回路60は、当該生成された電気信号を受信する。
【0020】
受信回路60、制御部70およびゲートドライバ80には、電源電圧VDD2および負荷駆動電圧VSを有する第2系統の電源が接続する。電源電圧VDD2は、負荷駆動電圧VSの変動に追従して変動する。第2系統の電源は、図示しないコンデンサなどにより構成される。受信回路60、制御部70およびゲートドライバ80は、第1の半導体チップおよび第2の半導体チップとは異なる第3の半導体チップに設けられてよい。第1から第3の半導体チップは、Si(シリコン)チップであってよく、SiC(炭化シリコン)チップであってもよい。
【0021】
受信回路60は、2次コイルにより生成された電気信号である出力データVOUTを、制御部70に入力する。これにより、送信回路10に入力された入力データVINは、出力データVOUTとして受信回路60により再生される。
【0022】
制御部70は、出力データVOUTが正常であるか異常であるかを判断する。制御部70は、出力データVOUTが正常であると判断した場合には、出力データVOUTをゲートドライバ80に入力する。ただし、制御部70は、出力データVOUTが異常である判断した場合には、動作停止信号をゲートドライバ80に入力する。この場合、ゲートドライバ80は動作しない。
【0023】
例えば、出力データVOUTの電圧値が予め定められたしきい値を超えた場合には、制御部70は出力データVOUTが異常であると判断する。この場合、制御部70は、出力データVOUTをゲートドライバ80に入力せず、動作停止信号を入力する。制御部70は、出力データVOUTの電気信号のパルス幅が予め定められたしきい値を超えた場合、または、電源電圧VDD1と電源電圧VDD2との差電圧が予め定められたしきい値を超えた場合に、出力データVOUTが異常であると判定してもよい。これにより、駆動装置100の誤作動を防止することができる。
【0024】
ゲートドライバ80は、出力データVOUTが入力された場合、出力データVOUTに応じたゲート信号VGをIGBT90のゲートに入力する。例えば、出力データVOUTの電気信号のHighまたはLowレベルに応じて、HighまたはLowレベルの電気信号をゲート信号VGとしてIGBT90のゲートに入力する。
【0025】
IGBT90のコレクタには、電源電圧VDD2よりも高い電圧である電源電圧HVDDが接続する。IGBT90は、ゲート信号VGがHighレベルであるタイミングにおいてオン状態となり、ゲート信号VGがLowレベルであるタイミングにおいてオフ状態となる。IGBT90がオン状態である場合、エミッタから負荷駆動電圧Vsが出力される。負荷駆動電圧Vsにより、IGBT90に接続された負荷が駆動される。なお、ゲートドライバ80は、制御部70から動作停止信号が入力された場合、動作しない。したがってこの場合、IGBT90も動作しない。なお、IGBT90に代えて、パワーMOSFETが用いられてもよい。
【0026】
本例の高耐圧受動素子50は、高電圧の電源電圧HVDDを扱う場合に、送信回路10と受信回路60およびIGBT90とを電気的に絶縁する。これにより、送信回路10側を扱う人間が、高電圧の電源電圧HVDDに感電する事故を防ぐことができる。また、第1から第3の半導体チップがSiCチップである場合、従来のフォトカプラでは困難である200℃の温度においても、駆動装置100は動作することができる。
【0027】
図2は、積層型の高耐圧受動素子50を示す図である。(a)は、高耐圧受動素子50の上面図を示す。(b)は、高耐圧受動素子50の断面図を示す。(c)は、高耐圧受動素子50の底面図を示す。(a)のA1‐A2断面および(c)のB1‐B2断面を、(b)に合わせて示す。
【0028】
(a)上面図に示す様に、上部金属層20には1次コイルが形成される。上部金属層20の一端と他の一端とは、配線16を介して送信回路10に接続される。(b)断面図に示す様に、本例の高耐圧受動素子50は、上部金属層20および下部金属層30を有する。下部金属層30および上部金属層20の間には絶縁部40が設けられる。(c)上面図に示す様に、下部金属層30には2次コイルが形成される。下部金属層30の一端と他の一端とは、配線66を介して受信回路60に接続される。
【0029】
配線16および配線66は、絶縁部40中には設けない。配線16および配線66は、1次コイルおよび2次コイルに設けられる引き出し配線部に電気的に接続する。また、引き出し配線部は、下部金属層30に接して設けられるシリコン基板を貫通して設けられた電極であるTSV(Through Silicon Via)に設けられてもよい。
【0030】
図3は、積層型の高耐圧受動素子50の第1の例を示す図である。本明細書においては、高耐圧受動素子50の基板32から平坦化膜24に向かう方向を上方向と称し、その逆を下方向と称する。例えば、基板32上に絶縁部40が設けられるとは、基板32の上方向に絶縁部40が位置することを意味する。
【0031】
本例の高耐圧受動素子50は、基板32を有する。本例の基板32はシリコン基板である。シリコン基板は625μm〜725μmの厚みを有してよい。基板32は両面に酸化膜34を有する。酸化膜34はシリコンの熱酸化膜であってよい。なお、基板32はSiC基板であってもよい。この場合、酸化膜34はSiO(二酸化シリコン)膜であってよい。
【0032】
本例の高耐圧受動素子50は、基板32上に積層された下部金属層30および上部金属層20を備える。また、本例の高耐圧受動素子50は、下部金属層30および上部金属層20の間に形成された絶縁部40を備える。下部金属層30は酸化膜34に接して設けられる。
【0033】
一般的に、ポリイミド膜は4MV/cm程度、材料にTEOS(Tetraethoxysilane)を用いた酸化シリコン膜は8MV/cm程度、シリコンの熱酸化膜は10〜14MV/cm程度の絶縁破壊電界強度をそれぞれ有する。なお、Mは10の6乗を意味する。5kVrms(Voltage root mean square)以上の絶縁破壊電界強度を得るためには、膜質にも依存するが、ポリイミド膜で25μm以上、TEOSを用いた酸化シリコン膜で15μm以上、または、シリコンの熱酸化膜で10μm以上が必要とされる。なお、kは10の3乗を意味する。
【0034】
例えば、6インチのシリコン基板上にポリイミド膜の単層を形成する場合、まず、液体状のポリイミド膜を16μm程度塗布する。その後、400℃程度でキュア(硬化)する。さらにその後、ポリイミド膜は室温まで冷却される。このとき、ポリイミド膜は10μm程度の膜厚まで収縮する。このとき、シリコン基板はポリイミドが設けられた面とは反対方向に凸状態となる。つまり、シリコン基板はいわゆる凹状態となる。シリコン基板の反り量は100〜140μm程度である。25μmの膜厚のポリイミド膜を設ける場合、シリコン基板の反り量はさらに増加する。
【0035】
シリコンの熱膨張率は3ppm/℃である。これに対して、ポリイミドの熱膨張率は30〜60ppm/℃である。つまり、ポリイミドの熱膨張率は、シリコンの熱膨張率よりも約1桁大きい。熱膨張率が大きい材料は、昇温により熱膨張率が小さい材料よりも大きく膨張する。それゆえ、熱膨張率が大きい材料は、昇温後の降温において熱膨張率が小さい材料よりも大きく収縮する。
【0036】
上述の様に、シリコン基板上にポリイミド膜を形成する場合、硬化後の冷却の際に、ポリイミド膜はシリコン基板よりも大きく収縮する。それゆえ、シリコン基板はポリイミド膜が設けられた面とは反対方向に凸状態となる。つまり、シリコン基板は、いわゆる凹状態となる。
【0037】
これに対して、酸化シリコン膜の熱膨張率は0.3ppm/℃である。つまり、酸化シリコン膜の熱膨張率は、シリコンの熱膨張率よりも約1桁小さい。
【0038】
シリコン基板を1,000℃で加熱することにより、シリコン基板上に熱酸化膜(酸化シリコン膜)を設けることができる。また、CVD装置を用いて基板を加熱しながら酸化シリコン膜を堆積させることにより、シリコン基板上に酸化シリコン膜を設けることができる。熱酸化膜とCVD装置を用いて堆積した酸化シリコン膜は、ともに酸化シリコン膜でるが、膜質が異なる。
【0039】
熱酸化膜の場合および酸化シリコン膜の場合においても、酸化シリコン膜を成膜後、シリコン基板は例えば室温まで冷却される。この冷却の際に、シリコン基板は酸化シリコン膜よりも大きく収縮する。シリコンは酸化シリコン膜よりも収縮率が大きいので、シリコン基板は酸化シリコン膜が設けられた面の方向に凸状態となる。つまり、シリコン基板は、いわゆる凸状態となる。
【0040】
材料にTEOSを用いた酸化シリコン膜をシリコン基板に形成する場合は、枚葉式方式を採用することとなる。枚葉式方式において、シリコン基板の表面だけに酸化シリコン膜を10μm以上厚く堆積すると、シリコン基板は酸化シリコン膜が設けられた側に反る。つまり、シリコン基板は、いわゆる凸状態となる。
【0041】
SOI基板では、熱酸化によってTensile mode(凸状態)の反り発生する(特許第3378135号)。埋め込み酸化膜の膜厚が厚いほど反り量は増加する。埋め込み酸化膜の厚みが5μmの場合、SOI基板は200μm以上反る。それゆえ、埋め込み酸化膜上のシリコン層を全て熱酸化膜とする場合、さらに反り量は増加する。
【0042】
このように、シリコン基板上にポリイミド膜または酸化シリコン膜の単層を設けると、熱膨張率の差異に起因して、製造プロセス中にシリコン基板の反りが生じる問題がある。シリコン基板の反りが100μm以上であると、製造工程での加工不良および搬送不良ならびに半導体ウエハの割れの原因となる。また、ステッパー装置においてデフォーカスおよびアライメントズレの問題も生じる。
【0043】
なお、SOG(Spin on glass)膜は、高耐圧受動素子50において絶縁性を確保するべく厚膜化することには向いていない。また、シリコンウエハの表裏両面に酸化シリコン膜を設けることにより反りを低減することが知られている(特開2005−026404号公報)。当該文献は、バッチ式の減圧CVD装置を用いる。当該文献では、シリコンウエハの表面および裏面の応力バランスを取りながらTEOS膜を成膜する。しかし、減圧CVDの場合、成膜レートがプラズマCVDに比べて低い。つまり、製造時間が長くなる。それゆ、減圧CVDは、高耐圧受動素子50において絶縁性を確保するべく厚膜化することには向いていない。加えて、仮に減圧CVDを用いて長時間かけてTEOS膜を厚く堆積する場合、吸排気系の詰まりの問題およびボート部にシリコンウエハが固着して剥がれなくなる問題がある。
【0044】
なお、減圧CVD装置を用いて、シリコンウエハの裏両面に窒化シリコン膜を設けることも考えられる。しかし、窒化シリコン膜は、TEOS膜を設けるよりもさらに成膜レートが低い。それゆえ、高耐圧受動素子50において絶縁性を確保するべく厚膜化することには向いていない。
【0045】
また、シリコンウエハの裏面に、応力を緩和する膜を設けることが知られている(特開平08−227834号公報)。しかし、シリコンウエハの裏面に、表面と同等程度の厚膜の絶縁膜を設けると、生産効率が低下し、コストが著しく上昇する。
【0046】
他の反り低減の手法として、受動素子間の絶縁膜に、ガラス、エポキシ樹脂またはDAF(Die Attach Film)を用いることが知られている(非特許文献:ECCE2014 p.265−270 Insulated Signal Transmission System using Planar Resonant Coupling Technology for High Voltage IGBT Gate Driver、および、非特許文献:ISPSD2014 p.442−445 A Face−to−Face Chip Stacking 7kV RMS Digital Isolator for Automotive And Industrial Motor Drive Applications)。
【0047】
ガラス、エポキシ樹脂またはDAFを用いる手法は、チップ作製後の組立工程で行われる。それゆえ、チップ毎の加工が必要となるので製造コストが高くなる。また、受動素子間の均一な膜厚制御が困難である。加えて、チップ同士のアライメントズレの問題もある。
【0048】
その他に、リン濃度を2wt%程度に低下させることで、PSG(Phosphosilicate Glass)膜およびBPSG(Boron Phosphosilicate Glass)膜の熱膨張係数をシリコンと同程度の熱膨張係数として、シリコンウエハの反りを低減することが知られている(特開平07−142707号公報)。しかしながら、リン濃度の少ないPSG膜は硬いので、厚膜化の際にクラックが発生する問題がある。BPSG膜およびNSG(Nondoped Silicate Glass)膜も同様に、リン濃度が少ない場合、厚膜化の際にクラックが発生する。
【0049】
そこで、本例の絶縁部40は、基板32の熱膨張率よりも熱膨張率が小さい第1の絶縁膜42と、第1の絶縁膜42に積層され、基板32の熱膨張率よりも熱膨張率が大きい第2の絶縁膜44とを有する。第1の絶縁膜42は、プラズマTEOS膜であり、かつ、第2の絶縁膜44は、ポリイミド膜またはポリベンゾオキサゾール(Polybenzobisoxazole)膜(以下、PBO膜と略記する。)であるとしてよい。
【0050】
第1の絶縁膜42としてのプラズマTEOS膜は、TEOSを原料としてプラズマCVDで作成した酸化シリコン膜である。上述の様に、酸化シリコン膜の熱膨張率は0.3ppm/℃である。また、第2の絶縁膜44としてのポリイミド膜の熱膨張率は30〜60ppm/℃である。また、第2の絶縁膜44としてのPBO膜の熱膨張率は30〜50ppm/℃である。なお、炭化珪素の熱膨張率は4.5ppm/℃である。
【0051】
このように、基板32よりも熱膨張率が小さい第1の絶縁膜42と基板よりも熱膨張率が大きい第2の絶縁膜44とを積層することにより、基板32の反りを低減することができる。本例では、第1の絶縁膜42の膜厚と第2の絶縁膜44の膜厚とは、基板32の反り量を相殺する比率であればよい。第1の絶縁膜42の膜厚と第2の絶縁膜44の膜厚との比は、1:1から2:1であってよい。具体的には、第1の絶縁膜42および第2の絶縁膜44の各々の厚みは、0.5〜3.0μmであってよく、1〜3.0μm以上であってもよい。当該膜厚比または各絶縁膜の膜厚により、基板32の反り量を100μmよりも小さい値に相殺することができる。例えば、基板32の反り量を10〜20μmとすることができる。なお、基板32と第1の絶縁膜42との熱膨張率の差よりも基板32と第2の絶縁膜44との熱膨張率の差が大きい場合には、第1の絶縁膜42の厚みを第2の絶縁膜44の厚みよりも大きくすることにより、第1の絶縁膜42の厚みと第2の絶縁膜44の厚みとが同じ場合と比較して、基板32の反りをさらに相殺することができる。
【0052】
本例の絶縁部40の厚みは、5μm以上であってよい。また、絶縁部40の厚みは6μm以上であってよく、8μm以上であってもよい。絶縁部40の厚みを厚くするほど、より高い絶縁性を確保することができる。本例では、高い絶縁性を確保するべく絶縁部40を厚膜化しても基板32の反り量を相殺することができる。なお、本例では、第1の絶縁膜42の上に第2の絶縁膜44を設けるが、第2の絶縁膜44の上に第1の絶縁膜42を設けてもよい。第1の絶縁膜42と第2の絶縁膜44とは同じ厚みであってよい。他の例では、第1の絶縁膜42と第2の絶縁膜44とを複数層積層させてもよい。
【0053】
なお、第1の絶縁膜42と第2の絶縁膜44とは他の材料であってもよい。具体的には、第1の絶縁膜42は、プラズマCVD膜であり、かつ、第2の絶縁膜44は、PSG膜、BPSG膜またはNSG膜であるとしてもよい。
【0054】
第1の絶縁膜42としてのプラズマCVD膜は、プラズマTEOS膜またはプラズマ窒化シリコン膜である。プラズマ窒化シリコン膜は、プラズマCVDで作成した窒化シリコン膜である。上述の様に、酸化シリコン膜の熱膨張率は0.3ppm/℃である。また、プラズマ窒化シリコン膜の熱膨張率は、シリコンと同程度の3ppm/℃程度である。プラズマ窒化シリコン膜の熱膨張率は、シリコンよりも小さな熱膨張率であってよい。第2の絶縁膜44としてのPSG膜、BPSG膜およびNSG膜はリン濃度の低い膜であってよい。一般的に、PSG膜、BPSG膜およびNSG膜の熱膨張率は5〜10ppm/℃である。しかし、リン濃度を低くすることにより、熱膨張率をよりシリコンの熱膨張率に近づけることができる。当該構成によっても、基板32の反りを低減することができる。
【0055】
上部金属層20上には、パッシベーション膜22が設けられる。パッシベーション膜22は、プラズマTEOS膜であってよく、プラズマ窒化シリコンであってもよい。さらに、パッシベーション膜22上には、平坦化膜24が設けられる。平坦化膜24は、ポリイミド膜であってよく、PBO膜であってもよい。
【0056】
上述の第1の絶縁膜42および第2の絶縁膜44を有する絶縁部40により、下部金属層30と上部金属層20との間の耐圧を確保することができる。加えて、当該絶縁部40により、基板32の反りを100μmより小さい値に抑えることができる。例えば、基板32の反りを10〜20μmに抑えることができる。これにより、製造工程での加工不良および搬送不良ならびに半導体ウエハの割れを解消することができる。
【0057】
図4は、積層型の高耐圧受動素子50の第2の例を示す図である。本例では、第1の絶縁膜42と第2の絶縁膜44とを複数層積層させる。係る点が、図3における第1の例と異なる。その他は、第1の例と同じである。
【0058】
本例では、絶縁部40は、第2の絶縁膜44を挟む2つの第1の絶縁膜42を有する。また、絶縁部40は、第1の絶縁膜42を挟む2つの第2の絶縁膜44を有する。なお、第1の絶縁膜42および第2の絶縁膜44の各々の厚みは、0.5〜3.0μmであってよい。0.5〜3.0μmの絶縁膜の厚みは、チャンバーまたは炉内に付着する膜のストレスによって上限が決まる。成膜する際に、厚膜化すると膜ストレスが耐え切れず、チャンバーや炉内に堆積した膜が剥がれ落ちて異物としてウエハに付着する可能性があるため、1度に成膜できる膜厚にはおおよそ3.0μmとしている。また、第1の絶縁膜42の膜厚と第2の絶縁膜44の膜厚との比は、1:1から2:1であってよい。絶縁部40の厚みは5μm以上であってよい。また、絶縁部40の厚みは6μm以上であってよく、8μm以上であってもよい。当該絶縁部40により、基板32の反りを10〜20μmに抑えることができる。また、下部金属層30と上部金属層20との絶縁性を確保することができる。なお、成膜レートが高く、かつ、厚膜化が容易であるプラズマ窒化シリコン膜をバッファ層として絶縁部40に設けてもよい。また、基板32と第1の絶縁膜42との熱膨張率の差よりも基板32と第2の絶縁膜44との熱膨張率の差が大きい場合には、基板32の反りをさらに相殺するべく、第1の絶縁膜42の厚みを第2の絶縁膜44の厚みよりも大きくしてよい。
【0059】
図5は、積層型の高耐圧受動素子50の第3の例を示す図である。本例では、絶縁部40における最上層の絶縁膜は、他の絶縁膜よりも膜厚が大きい。係る点が、図4における第2の例と異なる。その他は、第2の例と同じである。
【0060】
本例の最上層の絶縁膜は、第1の絶縁膜42である。本例の最上層の絶縁膜は、第1の絶縁膜42を複数回成膜することにより、最上層の絶縁膜よりも下層における第1の絶縁膜42の膜厚よりも大きく形成してよい。最上層の絶縁膜の膜厚を他の絶縁膜の膜厚よりも大きくすることにより、絶縁部40の平坦性を確保することができる。なお、最上層の絶縁膜は、第2の絶縁膜44であってもよい。
【0061】
図6は、平面型の高耐圧受動素子50を示す図である。(a)は、高耐圧受動素子50の上面図を示す。(b)は、高耐圧受動素子50の断面図を示す。(a)のC1‐C2断面を、(b)に示す。
【0062】
(a)上面図に示す様に、金属層35には1次コイルおよび2次コイルが形成される。1次コイルの一端と他の一端とは、配線16を介して送信回路10に接続される。また、2次コイルの一端と他の一端とは、配線66を介して受信回路60に接続される。(b)断面図に示す様に、絶縁部40の上面側の同一面に、金属層35は設けられる。配線16および配線66は、絶縁部40中には設けられない。配線16および配線66は、1次コイルおよび2次コイルに設けられる引き出し配線部に電気的に接続してよい。
【0063】
図7は、平面型の高耐圧受動素子50の第1の例を示す図である。本例の高耐圧受動素子50は、基板32の上面側に積層された絶縁部40と、絶縁部40の上面側の同一面に設けられた金属層35とを備える。本例では、金属層35に1次コイルおよび2次コイルが形成される。これに対して、積層型の高耐圧受動素子50の第1の例(図3)では、上部金属層20に1次コイルが設けられ、下部金属層30に2次コイルが設けられる。係る点において、本例と図3の例とは異なる。他の点において、本例と図3の例とは同じである。
【0064】
本例においても、第1の絶縁膜42および第2の絶縁膜44を有する絶縁部40により、基板32の反りを100μmより小さい値に抑えることができる。例えば、基板32の反りを10〜20μmに抑えることができる。これにより、製造工程での加工不良および搬送不良ならびに半導体ウエハの割れを解消することができる。なお、本例では、パッシベーション膜22および平坦化膜24が1次コイルと2次コイルとを絶縁する。
【0065】
図8は、平面型の高耐圧受動素子50の第2の例を示す図である。本例は、積層型の高耐圧受動素子50の第2の例(図4)に対応する。但し、本例では、金属層35に1次コイルおよび2次コイルが形成される。これに対して図4の例では、上部金属層20に1次コイルが設けられ、下部金属層30に2次コイルが設けられる。係る点において、本例と図4の例とは異なる。他の点において、本例と図4の例とは同じである。
【0066】
図9は、平面型の高耐圧受動素子50の第3の例を示す図である。本例は、積層型の高耐圧受動素子50の第3の例(図5)に対応する。但し、本例では、金属層35に1次コイルおよび2次コイルが形成される。これに対して図5の例では、上部金属層20に1次コイルが設けられ、下部金属層30に2次コイルが設けられる。係る点において、本例と図5の例とは異なる。他の点において、本例と図5の例とは同じである。
【0067】
(積層型の高耐圧受動素子50の製造方法)図10は、積層型の高耐圧受動素子50の下部金属層30を設ける段階を示す図である。本例では、まず、基板32としてのシリコン基板を1,000℃以上の高温環境でアニールする。これによりシリコン基板の表面および裏面に酸化膜34としての熱酸化膜を形成する。表面および裏面の熱酸化膜は、それぞれ3μmの厚みを有してよい。なお、基板32が炭化シリコン基板である場合には、炭化シリコン基板の表面および裏面に酸化シリコン膜を形成してもよい。
【0068】
次に、基板32の表面側に、下部金属層30を設ける。まず、Al(アルミニウム)またはCu(銅)の薄膜をスパッタリングにより成膜する。その後、当該薄膜をパターニングする。これにより、2次コイルが形成される下部金属層30を形成する。
【0069】
図11は、積層型の高耐圧受動素子50における絶縁部40を設ける段階を示す図である。下部金属層30の表面側に、基板32の熱膨張率よりも熱膨張率が小さい第1の絶縁膜42、および、基板32の熱膨張率よりも熱膨張率が大きい第2の絶縁膜44を積層した絶縁部40を設ける。第1の絶縁膜42および第2の絶縁膜44は、積層型の高耐圧受動素子50の第1の例(図3)における第1の絶縁膜42および第2の絶縁膜44と同じであってよい。
【0070】
本例の絶縁部40では、第1の絶縁膜42および第2の絶縁膜44を複数層積層させる。第1の絶縁膜42および第2の絶縁膜44の膜厚、比率および積層の順序は、積層型の高耐圧受動素子50の第2の例(図4)と同じであってよい。これに代えて、積層型の高耐圧受動素子50の第3の例(図5)と同じであってもよい。
【0071】
本例では、第1の絶縁膜42および第2の絶縁膜44のいずれか一方の膜を成膜する温度は、既に成膜した他方の膜の膜質を変化させない温度である。膜質を変化させない温度とは、絶縁膜の成膜時の温度以下の温度を意味する。これにより、下部金属層30が融点の低い材料である場合でも、下部金属層30が融解することを防ぐことができる。また、既に成膜した第2の絶縁膜44がポリイミド膜またはPBO膜である場合には、第2の絶縁膜44が熱分解することを防ぐことができる。
【0072】
第2の絶縁膜44としてのポリイミド膜の硬化温度は400℃程度である。硬化したポリイミド膜を500℃以上に加熱すると、熱分解する。PBO膜も同程度の温度で硬化および熱分解する。それゆえ、500℃を超える温度で基板を加熱するCVD法も採用できない。例えば、800℃〜1,000℃の反応炉で基板を加熱するCVD法は採用できない。
【0073】
これに対して、プラズマCVD法は、比較的低温で成膜することができる。例えば、プラズマCVD膜(プラズマTEOS膜およびプラズマ窒化シリコン膜)は、350℃〜450℃で成膜することができる。それゆえ、第1の絶縁膜42としてのプラズマCVD膜を第2の絶縁膜44としてのポリイミド膜上に成膜してもポリイミド膜が熱分解しない。この場合、膜質を変化させない温度は450℃であってよい。プラズマCVD膜を450℃以下で成膜することにより、ポリイミド膜の膜質の変化を防ぐことができる。また、ポリイミド膜の耐性および他の膜との密着性の悪化を防ぐことができる。
【0074】
図12は、積層型の高耐圧受動素子50における上部金属層20を設ける段階を示す図である。アルミニウムまたは銅の薄膜をスパッタリングにより成膜し、当該薄膜をパターニングする。これにより、絶縁部40の表面側に、1次コイルが形成される上部金属層20を形成する。その後、上部金属層20上にパッシベーション膜22を形成し、パッシベーション膜22上に平坦化膜24を形成する。
【0075】
(平面型の高耐圧受動素子50の製造方法)図13は、平面型の高耐圧受動素子50における第1の絶縁膜42および第2の絶縁膜44を設ける段階を示す図である。まず、基板32に酸化膜34を設ける。これは、図10の例と同じである。次に、本例では、下部金属層30を設けることなく、酸化膜34上に第1の絶縁膜42および第2の絶縁膜44を設ける。これは、図11の例と同じである。
【0076】
図14は、平面型の高耐圧受動素子50における金属層35を設ける段階を示す図である。第1の絶縁膜42および第2の絶縁膜44上に、アルミニウムまたは銅の薄膜をスパッタリングにより成膜する。その後、当該薄膜をパターニングする。これにより、1次コイルおよび2次コイルが形成される金属層35を形成する。次に、さらにその後、上部金属層20上にパッシベーション膜22を形成し、パッシベーション膜22上に平坦化膜24を形成する。
【0077】
図15は、高耐圧コンデンサ55を示す図である。本例の上部金属層20および下部金属層30には、コイルが形成されない。本例の上部金属層20および下部金属層30は、平板形状である。係る点以外において、本例の高耐圧コンデンサ55は、積層型の高耐圧受動素子50の第2の例(図4)と同じ構造を有する。なお、高耐圧コンデンサ55は、積層型の高耐圧受動素子50の第1の例(図3)および第3の例(図5)のいずれかと同じ構造を有してもよい。これにより、耐圧と基板の反り抑制とを同時に実現したコンデンサを実現することができる。
【0078】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
例えば、送電線、鉄道、揚水式発電などでは、10kV以上の超高耐圧のトランスが求められている。その中の、送電線では、12kVACバスからダウントランスを介して低圧に変圧されるが、この変圧に本発明の高耐圧受動素子50やSiCデバイスからなるスイッチング素子を備えたパワーモジュールを用いることができる。
【0079】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順序で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0080】
10・・送信回路、16・・配線
20・・上部金属層、22・・パッシベーション膜、24・・平坦化膜
30・・下部金属層、32・・基板、34・・酸化膜、35・・金属層
40・・絶縁部、42・・第1の絶縁膜、44・・第2の絶縁膜
50・・高耐圧受動素子、55・・高耐圧コンデンサ
60・・受信回路、66・・配線
70・・制御部、80・・ゲートドライバ、90・・IGBT、100・・駆動装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15