特許第6589330号(P6589330)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6589330
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】構造色を呈する着色膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/26 20060101AFI20191007BHJP
   G02F 1/19 20190101ALI20191007BHJP
【FI】
   G02B5/26
   G02F1/19 501
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-67399(P2015-67399)
(22)【出願日】2015年3月27日
(65)【公開番号】特開2016-186608(P2016-186608A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2018年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大庭 一敏
(72)【発明者】
【氏名】木村 秀一
【審査官】 岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−256528(JP,A)
【文献】 特開2007−126646(JP,A)
【文献】 特開2005−060654(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0182968(US,A1)
【文献】 特開2002−341161(JP,A)
【文献】 特開2002−286962(JP,A)
【文献】 特開2006−224231(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/090705(WO,A1)
【文献】 特開2008−094861(JP,A)
【文献】 特開2002−361767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/26
G02F 1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電性の球状微粒子を媒体に分散させた帯電性のアクリル系有機ポリマー球状微粒子分
散体を、前記球状微粒子とは逆の電荷を持ったカチオン基またはアニオン基を含む重合体
または共重合体により表面がコーティングされた基板表面上に塗布し、前記帯電性球状微
粒子分散体を乾燥させることにより、前記球状微粒子が縦方向に規則的に整合した積層物
にすることを特徴とする、構造色を呈する着色膜の製造方法。
【請求項2】
帯電性球状微粒子の平均粒子径が100nm〜600nmの範囲にあり且つ粒子径の変
動係数Cv値が30%以下のアクリル系有機ポリマー球状微粒子であることを特徴とする
請求項記載の構造色を呈する着色膜の製造方法。
【請求項3】
帯電性の球状微粒子分散体が、球状微粒子に対して黒色系無彩物を0.001質量%以
上含有する球状微粒子分散体であることを特徴とする請求項1〜いずれか記載の構造色
を呈する着色膜の製造方法
【請求項4】
帯電性の球状微粒子が、黒色系無彩色で着色させた球状微粒子であることを特徴とする
請求項1〜いずれか記載の構造色を呈する着色膜の製造方法。
【請求項5】
帯電性アクリル系有機ポリマー球状微粒子のガラス転移温度が、20℃以上であること
を特徴とする請求項いずれか記載の構造色を呈する着色膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子材料となりうるコロイド粒子を用いた構造色を呈する着色膜の製造方法およびそれらから得られる着色膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造色とは、光の波長あるいはそれ以下の微細構造による発色現象を指し、身近な構造色の例にはコンパクトディスクやシャボン玉、モルフォ蝶、玉虫などが挙げられる。上記例では、それ自身には色がついていないが、その微細な構造によって光が干渉するため、色づいて見える。構造色の発色は例えば目に見える色の範囲であれば、非常に小さな粒径の樹脂粒子、例えば粒子径が0.15〜0.35μmの範囲にある粒子を規則正しく周期的に並べても発現することも知られている。
【0003】
このような簡単な構成で綺麗な外観が得られるので、小さな粒子を製造することにより、容易にしかも簡単に構造発色によるパール色の外観が得られる筈ではあるが、実際には簡単にパール色の外観を取り出すことは難しい。例えば、通常コロイド粒子による結晶構造
作成では、液中で作成した結晶構造を取り出そうと乾燥すると、一応構造色の外観が得られるのであるが、結晶状態がちょっとした力で簡単に崩れてしまう。
【0004】
コロイドが配列して結晶構造を作ったときにそれを固定化する方法としては、いくつかの方法が提案されてきた。例えば、粒子表面に反応性の官能基を持たせた配列後に反応させる方法、粒子をコア・シェル構造にして配列後に加熱融着させる方法、配列した粒子の間隙に樹脂を浸透させる方法、配列した粒子を膜状にしたうえから樹脂コーティングすることにより樹脂粒子間隙には空気が入ったまま固定する方法などが存在する。
【0005】
特開2004−73123号公報(特許文献1)には、有機又は無機の球状粒子が、縦および横方向に規則的に整合されて粒子状積層物を形成し、その粒子状積層物は少なくも樹脂バインダーで係止され、粒子状積層物面は、可視光波長領域光の照射下に視感される垂直反射光色が構造色として有採光色を呈するカラーシートが開示されている。この特許文献1のカラーシートは樹脂粒子から構成されるフォトニック結晶膜であって、粒子間にバインダー樹脂を塗布又は噴霧させることで、固定化している。
【0006】
特開2005−60654号公報(特許文献2)には、樹脂粒子サスペンジョンからグリーンシートを作成し、それを乾燥して、縦・横方向に規則的に配列する球状微細粒子の3次元粒子整合体を形成させ、次いでその表面および粒子間隙を満たすように重合性有機モノマー液、有機ポリマー液又は無機バインダー液のいずれかを塗布又は散布させた後、重合又は硬化させてなる球状微細粒子の3次元粒子整合体の製造方法を開示する。特許文献1および2両方とも、粒子結晶構造を形成した後、別に調製したモノマーやポリマー液を塗布あるいは噴霧する方法を用いており、塗布や噴霧時にフォトニック結晶構造が壊れることがある。また、形成されたフォトニック結晶構造の上から塗布や噴霧するので、粒子間に存在する空気がそのまま封入されたままになることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−73123号公報
【特許文献2】特開2005−60654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のような状況下にあって、構造色を呈する着色膜としては、以下のような固定化に向けた課題があった。
(a)粒子と粒子間の密着性が弱く、できあがった膜が強度的に脆いものであった。
(b)上記(a)と同じ理由で、乾燥時にひび割れ等が入りやすかった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、構造色を呈する着色膜が所定の基板上において、上記(a)、(b)のような強度的に脆く、ひび割れ等の問題が生じないような球状微粒子を安定的に規則正しく配列・固定化するとともに、簡易的なプロセスで低コストに構造色の着色膜を作成できる方法を提供することを解決すべき技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、帯電性の球状微粒子を媒体に分散させた帯電性の球状微粒子分散体を、前記球状微粒子とは逆の電荷を持った基板表面上に塗布し、前記帯電性球状微粒子分散体を乾燥させることにより、前記球状微粒子が縦方向に規則的に整合した積層物にすることを特徴とする、構造色を呈する着色膜の製造方法に関する。
【0011】
また本発明は、帯電性の球状微粒子分散体がアクリル系有機ポリマー球状微粒子分散体であることを特徴とする上記構造色を呈する着色膜の製造方法に関する。
【0012】
また本発明は、帯電性球状微粒子の平均粒子径が100nm〜600nmの範囲にあり且つ粒子径の変動係数Cv値が30%以下のアクリル系有機ポリマー球状微粒子及び黒色系無彩物であることを特徴とする上記構造色を呈する着色膜の製造方法に関する。
【0013】
また本発明は、帯電性の球状微粒子分散体が球状微粒子に対して、黒色系無彩物を0.001質量%以上含有する球状微粒子分散体であることを特徴とする上記構造色を呈する着色膜の製造方法に関する。
【0014】
また本発明は、帯電性の球状微粒子が、黒色系無彩色で着色させた球状微粒子であることを特徴とする上記構造色を呈する着色膜の製造方法に関する。
【0015】
また本発明は、帯電性アクリル系有機ポリマー球状微粒子のガラス転移温度が、20℃以上であることを特徴とする上記構造色を呈する着色膜の製造方法に関する。
【0016】
また本発明は、上記構造色を呈する着色膜の製造方法により得られる着色膜に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、帯電性の球状微粒子分散体を前記球状微粒子とは逆の電荷を持った基板表面上に、前記帯電性球状微粒子分散体を塗布・乾燥させる簡便な操作法のみで、膜の脆さや乾燥時のひび割れ等を緩和し、縦方向に規則的に整合させてなる構造色を呈する粒子状積層物にすることを可能とする構造色を呈する着色膜を生成することができた。また、基材と球状微粒子の密着性の向上、更に、粒子配列の規則正向上により球状微粒子の粒子径に応じた目的の最大反射率が向上した着色膜を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の構造色を呈する着色膜の特徴について更に説明する。
【0019】
既に上述した如く、本発明の帯電性の球状微粒子分散体を前記球状微粒子とは逆の電荷を持った基板表面上に、前記帯電性球状微粒子分散体を塗布・乾燥させる簡便な操作法で
得られる着色膜は、従来課題であった膜の脆さや乾燥時のひび割れ等を緩和し、縦方向に規則的に整合させてなる構造色を呈する粒子状積層物にすることを可能とする構造色を呈する着色膜である。また、基材と球状微粒子の密着性の向上、更に、粒子配列の規則正向上により球状微粒子の粒子径に応じた目的の最大反射率が向上した着色膜を提供することができた。
【0020】
本発明による構造色を呈する着色膜の製造方法では、有彩色の染料及び/又は顔料等で
着色されていない単分散の帯電性球状微粒子分散体において、上記分散体を所定の方法で塗布・乾燥させた膜の太陽光もしくは通常の可視光領域の光が照射されて視感される垂直反射光が、乳白色の淡い構造色のようなものではなく、赤(R)、青(B)、緑(G)及び黄(Y)等の色みの構造色を明確に視感させる着色膜の製造方法を構築することができるものである。
【0021】
また、このような特徴を有する本発明の有彩光色種が、この帯電性球状微粒子の明確な所定の粒子径との係わりを有し、しかも、恰も光源色のように発色する構造色であることが顕著な特徴である。
【0022】
すなわち、既に上述したように、照射された可視光の一部が、この構造色を呈する着色膜の表面である粒子状積層物面で、その粒子の周辺で生ずる本発明が目的とする反射光以外に生じる散乱、透過等による迷光を適宜効果的に吸収し、削減させる効果を発揮させる。
【0023】
そこで、本発明において用いても良い黒色系無彩物は、この反射光色の色みをより鮮明にさせることから、好ましくは、マンセル色標におけるこの明度が5以下、更に好ましくは3以下の色みの無い黒色系無彩物である。
【0024】
本発明において、黒色系無彩物とは、具体的に、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック)、油煙、黒鉛、黒染料(ニグロシン、アジン他)、イカ墨、墨汁、インスタントコーヒー粉末などが挙げられ、また、黒色系無彩色の有機ポリマー又は無機ポリマーの粒子なども含む。ただし、本発明で使用する黒色系無彩物は上記例のこれらに限定されるものではない。
【0025】
本発明において、帯電性球状微粒子分散体に対して、黒色系無彩物を添加する、もしくは黒色系無彩色で着色させた球状微粒子分散体を用いても良い理由は、媒体中にシリカ粒子やポリスチレン粒子などの微粒子を利用する系では、一般的にその構造により、レイリー散乱やミー散乱などの光の散乱で全体的に乳白色の淡い構造色となるため、カーボンブラック等の黒色系無彩物の添加、もしくは黒色系無彩色で着色させることによる彩度の顕著な向上を発揮させる。
【0026】
本発明において、「帯電性」とは、微粒子のゼータ電位の絶対値を意味する。球状微粒子が溶液中に存在するとき、粒子の表面電荷と逆符号のイオンが引き寄せられ、電気二重層を形成し、粒子の周りに集まったイオンは固定層と拡散層を形成する。粒子からある距離までの厚みの溶媒は粒子と共に動き、この境界面が滑り面である。また滑り面での電位がゼータ電位である。つまり、本発明での「帯電性」とはゼータ電位のことを意味し、ゼータ電位の絶対値が0mV以上である場合は帯電性を有することを意味する。また、本発明においてはゼータ電位の絶対値が10mV以上、より好ましくは20mV以上が着色膜の形成において好適である。
【0027】
また、このような特徴を有する本発明による帯電性の球状微粒子は、体積基準で表される平均粒子径が100〜600nmの範囲にある特定の粒子径を有している。その有彩光
色をより鮮明に発色させる観点から、好ましくは、この平均粒子径が150〜350nmの範囲にあることが好適である。
【0028】
本発明において、帯電性球状微粒子分散体は、単分散で球状微粒子の分散濃度は70質量%を超えない範囲になるように調整することが好適である。また好ましくは、30〜60質量%、更に好ましくは30〜40質量%であることが本発明による構造色を呈する着色膜を形成しや
すい面で好適である。
【0029】
また、既に上述する如く、このような特徴を有する本発明による帯電性の球状微粒子分散体もしくは積層物としての着色膜は、恰も規則的整合した粒子によって、結晶格子面を形成しているように観察される。従って、その表面に照射される可視光が、この粒子状格子面(粒子状積層物面)に係わって回折干渉して反射される反射効率が、光発色部材の発色する色みに及ぼすことから、好ましくは、この球状粒子が単分散粒子であることが好適である。
【0030】
そこで、本発明においては、その単分散性を表す粒子径の均斉度であるCv値が、30%以下であって、反射光色の色みの濃さ、鮮明さから、より好ましくは20%以下の単分散粒子であることが好適である。
【0031】
また、本発明で用いる黒色無彩色で着色させた帯電性球状微粒子は、体積基準で表される平均粒子径が100〜600nmの範囲にある球状微粒子に、予め黒色染料や顔料等の黒色系無彩物で着色された球状微粒子であっても良い。
ここで挙げる黒色系無彩物とは、既に上述した如く、マンセル色標におけるこの明度が5以下、更に好ましくは3以下の色みの無い黒色系無彩物である。ただし、本発明で使用する黒色系無彩色はこれらに限定されるものだけではない。
【0032】
また、本発明においては、この帯電性球状微粒子分散体もしくは積層物は、好ましくは厚さ方向の規則配列が、少なくとも2配列以上であることが、垂直反射光色をより鮮明に、より深みのある色みの構造色を呈するのに有効である。
【0033】
そこで、本発明による構造色を呈する着色膜に使用する、帯電性球状微粒子分散体もしくは積層物を形成する、例えば、帯電性球状微粒子に係わる表面に、可視光線が照射されて視感されるその垂直反射光色は、例えば、紫色系、青色系、緑色系、黄色系及び赤色系等の色みの垂直反射光色である。
【0034】
<Cv値:変動係数>
また、本発明においては、その単分散性を表す粒子径の均斉度であるCv値が、30%以下(より好ましくは10%以下、更に詳しくは1〜5%)である必要がある。このような粒子径のCv値が30%を超える微粒子は、粒径のばらつきが大きいため、アモルファス構造を形成した際の短距離秩序構造を形成することが困難となる傾向にある。また、ここにいう「粒子径のCv値」は、下記式で定義される値(単位:%)をいう。

[Cv値]=([粒子径の標準偏差]/[平均粒子径])×100
【0035】
このような単分散微粒子の平均粒子径及び粒子径の標準偏差は、日機装株式会社の粒度分布測定器Microtrac(ナノトラックWave)を用いて、粒径分布をヒストグラムで表し、粒径分布をCv値で算出して求めることが出来る。Cv値とは粒子径の均一さを表す値で、平均粒径dで標準偏差σを割った値、すなわち、変動係数である。
【0036】
<平均粒子径>
また、本発明における球状微粒子分散体の平均粒子径は、日機装株式会社の粒度分布測定器Microtrac (ナノトラックWave)を用いて、算出した値である。
具体的には、粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒子径を50%径(μm)とし、その50%径は累積中位径(Median径)として一般的に粒子径分布を評価するパラメータであり、その値を平均粒子径として用いた。
【0037】
<有機ポリマー設計Tg算出方法>
調整されたエマルションのTg(以下、粒子Tgと表記する)は個々の樹脂Tgを用い、Foxの式(式1)で算出した。

1/Tg=w1/Tg1+w2/Tg2・・・・(式1)

Tg1,Tg2:成分1,2のTg(K)
w1、w2 :成分1,2の質量分率
例えば、モノマー組成として、アクリル酸-2-エチルヘキシル(50質量%、218K)、スチレン(45質量%、373K)、アクリル酸(5質量%、379K)での有機ポリマーの場合は、Tg(K)=275K=3℃
【0038】
<表面電位の測定方法 ゼータ電位測定>
また、本発明において「帯電性」の指標となるゼータ電位測定は、大塚電子株式会社製のELSZ−2000を用いて、球状微粒子濃度が0.005質量%、積算回数10回、測定温度10℃を測定条件にした。また、pHはHCl及びNaOHを用いての調整を行った。
ゼータ電位の測定原理は、電気泳動光散乱法(レーザードップラー法)である。
【0039】
本発明で用いる帯電性球状微粒子は、液状の媒体が水である場合、静電斥力の強いアクリル系有機ポリマー球状微粒子分散体が好ましく、また同様の斥力の強いポリスチレンも好ましい。特に、カルボキシル基、スルホン基、アミノ基等を有するアクリル系有機ポリマー球状微粒子等、表面電荷を持った帯電性のアクリル系有機ポリマー球状微粒子が好ましい。
【0040】
以上のような特徴を発揮する本発明の構造色を呈する粒子状分散体もしくは積層物に係わって、上述する、アクリル系有機ポリマー球状微粒子分散体としては、必ずしも以下に記載するポリマー種に特定されないが、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、テトラフルオロエチレンン、ポリ-4-メチルペンテン-1、ポリベンジルメタアクリレート、ポリフェニレンメタクリレート、ポリシクロヘキシルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。本発明においては、既に上述した如く太陽光等の自然光又は白色光の照射下に、その可視光波長領域光に係わる光発色部材の反射光色を視感することから、そのポリマー樹脂は、特に耐候性に優れて樹脂自体が、光劣化変色を起こし難い耐候性に優れていることも重要である。このような観点から、好ましくは、従来から周知の事実である耐候性に優れる(メタ)アクリル系、(メタ)アクリル−スチレン系、フッ素置換(メタ)アクリル系及びフッ素置換(メタ)アクリル−スチレン系から選ばれる何れかのアクリル系の有機ポリマー微粒子が適宜好適に使用される。
【0041】
そこで、モノマー種で表すアクリル系樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル,(メタ)アクリル酸エチル,(メタ)アクリル酸プロピル,(メタ)アクリル酸イソプロピル,(メタ)アクリル酸ブチル,(メタ)アクリル酸イソブチル,(メタ)アクリル酸ペンチル,(メタ)アクリル酸ヘキシル,(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル,(メタ)アクリル酸オクチル,(メタ)アクリル酸ラウリル,(メタ)アクリル酸ノニル,(メタ)アクリル酸デシル,(メタ)アクリル酸ドデシル,(メタ)アクリル酸フェニル,(メタ)アクリル酸メトキシエチル,(メタ)アクリル酸エトキシエチル,(メタ)アクリル酸プロポキシエチル,(メタ)アクリル酸ブトキシエチル,(メタ)アクリル酸エトキシプロピル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド,N-メチロール(メタ)アクリルアミド及びジアセトンアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類並びにグリシジル(メタ)アクリレート;エチレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル,ジエチルグリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル,トリエチレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル,ポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル,ジプロピレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル,トリプロピレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル等の(ポリ)アルキレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル類等を挙げることができる。また、上述する(メタ)アクリル系モノマー以外のその他のモノマーとしては、例えば、スチレン,メチルスチレン,ジメチルスチレン,トリメチルスチレン,エチルスチレン,ジエチルスチレン,トリエチルスチレン,プロピルスチレン,ブチルスチレン,ヘキシルスチレン,ヘプチルスチレン及びオクチルスチレン等のアルキルスチレン;フロロスチレン,クロルスチレン,ブロモスチレン,ジブロモスチレン,クロルメチルスチレン等のハロゲン化スチレン;ニトロスチレン,アセチルスチレン,メトキシスチレン等のスチレン系モノマーを挙げることができる。更に、スチレン系モノマー以外の他のモノマーとして、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有ビニル系モノマー;酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル,n−酪酸ビニル,イソ酪酸ビニル,ピバリン酸ビニル,カプロン酸ビニル,パーサティック酸ビニル,ラウリル酸ビニル,ステアリン酸ビニル,安息香酸ビニル,p−t−ブチル安息香酸ビニル、サリチル酸ビニル等のビニルエステル類;塩化ビニリデン、クロロヘキサンカルボン酸ビニル等が挙げられる。更にはまた、必要に応じて、官能基を有するモノマーとして、例えば、(メタ)アクリル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ノルボルネンジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸等の不飽和カルボン酸が挙げられ、また、これらの誘導体として、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、また、例えば、水酸基(OH;ヒドロキシル基)を有するモノマーとしては、1,1,1-トリヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレート,1,1,1-トリスヒドロキシメチルメチルエタントリ(メタ)アクリレート,1,1,1-トリスヒドロキシメチルプロパントリ(メタ)アクリレート,ヒドロキシビニルエーテル,ヒドロキシプロピルビニルエーテル,ヒドロキシブチルビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル,2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート,2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート,ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの単独又は2種以上の複合モノマーを適宜好適に使用することができる。更にはまた、(メタ)アクリル酸の部分又は完全フッ素置換系モノマーとして、例えば、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル,(メタ)アクリル酸−2−トリフルオロメチルエチル,(メタ)アクリル酸−2−パ−フルオロメチルエチル,(メタ)アクリル酸−2−パ−フルオロエチル−2−パ−フルオロブチルエチル,(メタ)アクリル酸−2−パ−フルオロエチル,(メタ)アクリル酸パ−フルオロメチル,(メタ)アクリル酸ジパ−フルオロメチルメチル等のフッ素置換(メタ)アクリル酸モノマー(又はフルオロ(メタ)アルキルアクリレート)が挙げられ、また、フルオロエチレン、ビニリデンフルオリド、テトラフルオロエチレ
ン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール等のフロオロオレフィンが挙げられる。本発明においては、これらの単独重合体、又は他の重合性モノマーとの共重合体であってもよい。
【0042】
また、本発明に用いても良いアクリル系有機ポリマー球状微粒子は、上述する如く、黒色系無彩物をアクリル系有機ポリマー微粒子に対して、0.001質量%以上添加する以外に、必要に応じて予め、帯電性微粒子に影響を与えない程度で他の添加剤として、例えば、滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、帯電付与剤、界面活性剤、分散安定剤、消泡剤、安定剤、等を目的用途等に応じて適宜添加させることができる。
【0043】
そこで、これらの重合性モノマーを用いて本発明による光発色部材を調製させる平均粒子径(d)が100〜600nmの範囲にあるアクリル系有機ポリマーの単分散球状微粒子は、通常、一般的に用いられているソープフリー乳化重合、乳化重合、懸濁重合等で適宜調製することができる。
【0044】
例えば、ソープフリー乳化重合では、通常、用いる重合開始剤として、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩が重合時に水性媒体に可溶であればよい。通常、重合単量体100質量部に対して、重合開始剤を0.1〜10質量部、好ましくは0.2〜2質量部の範囲で添加すればよい。また、乳化重合法の場合では、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリエチレングリコールノニルフェニルエーテル等のポリエチレングリコールアルキルエーテル等の乳化剤を重合単量体100質量部に対して、通常、0.01〜5質量部、好ましくは0.1〜2質量部で水性媒体に混合させて乳化状態にし、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩の重合開始剤を、重合単量体100質量部に対して、0.1〜10質量部、好ましくは0.2〜2質量部で添加すればよい。また、懸濁重合を含め、上記する乳化剤も特に特定する必要がなく、通常に使用されているアニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤又は必要に応じてノニオン系界面活性剤等から選んで、その単独又は組合わせて使用することができる。例えば、アニオン系界面活性剤としてはドデシルベンゼンスルホネート、ウンデシルベンゼンスルホネート、トリデシルベンゼンスルホネート、ノニルベンゼンスルホネート、これらのナトリウム、カリウム塩等が挙げられ、また、カチオン系界面活性剤としてはセチルトリメチルアンモニウムプロミド、塩化ヘキサデシルピリジニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等が挙げられ、また、ノニオン系界面活性剤としては、リピリジニウム等が挙げられる。また、反応性乳化剤(例えば、アクリロイル基、メタクロイル基等の重合性基を有する乳化剤)としては、例えば、アニオン性、カチオン性又はノニオン性の反応性乳化剤が挙げられ、特に限定することなく使用される。また、乳化剤に係わって従来から、分散性や、着色粒子の粒子径が大きくなる傾向からアニオン性の反応性乳化剤が好適に使用され、例えば、スルホン酸(塩)型、カルボン酸(塩)型、リン酸エステル型等が挙げられ、具体的には、例えば、ポリオキシエチレンアリルグリシジルノニルフェニルエーテルの硫酸塩、ポリオキシエチレンノニルプロペニルエーテルの硫酸エステル塩等が挙げられる。
【0045】
また、本発明での帯電性球状微粒子は、粒径が約1nm〜約1000nmで、略球形になる材料であれば、どのような材料を用いてもよく、例えば、二酸化珪素、ホウ珪酸ガラス、アルミン酸カルシウム、ニオブ酸リチウム、カルサイト、二酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、酸化アルミニウム、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、酸化イットリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、セレン化亜鉛、臭ヨウ化タリウム、ダイアモンド、珪素、ゲルマニウム、各種強誘電体(チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛(PLZT)など)などを用いても良い。
【0046】
また、本発明の球状微粒子には、ポリスチレン,ポリメタクリル酸メチル,二酸化珪素
,二酸化チタンの内のいずれか2種以上の混合体や、これらの内の1種をコアとして他の1種以上によりコアを被覆したコアシェル構造なども用いることができる。
【0047】
球状微粒子の製造方法には、例えば、UV(紫外線)重合法、乳化重合法、懸濁重合法、二段階鋳型重合法、化学気相反応法、電気炉加熱法、熱プラズマ法、レーザ加熱法、ガス中蒸発法、共沈法、均一沈殿法、化合物沈殿法、金属アルコキシド法、水熱合成法、ゾルゲル法、噴霧法、凍結法、硝酸塩分解法などがある。
【0048】
ただし、本発明は、前記各局面および前記実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様も本発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【0049】
本発明で使用する黒色系無彩物は、反射光色の色みをより鮮明にさせることから、好ましくは、この明度が5以下、更に好ましくは3以下の色みの無い黒色系無彩物である。具体的には、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック)、油煙、黒鉛、黒染料(ニグロシン、アジン他)、イカ墨、墨汁、インスタントコーヒー粉末などが挙げられ、また、黒色系無彩色の有機ポリマー又は無機ポリマーの粒子なども含む。ただし、本発明で使用する黒色系無彩物は上記例のこれらに限定されるものではない。
【0050】
また、本発明で用いることができる構造色を呈する着色膜を形成させる基板材料として、上述するが如く、前記帯電性の球状微粒子とは逆の電荷を持った基板であれば良い。
例えば、負に帯電させた球状微粒子を用いる場合、基板としてはカチオン性(正)を有した性質を示す基板であれば良く、上記それとは逆の場合も含む。
具体的には、市販品で、ガラス表面が高密度にアミノ基で覆われた(カチオン性)のMASコート、APSコート、PLLコートのスライドグラス(全て松浪硝子社製)などがその一例である。ただし、本発明で使用する基板としては上記例のこれらに限定されるものではない。
【0051】
また、本発明では、構造色を呈する着色膜を形成させる基板材料に予めカチオン基やアニオン基を含んだ樹脂をスピンコート等で表面塗工した基板に対して、前記帯電性の球状微粒子分散体を塗布・乾燥しても良い。
【0052】
上述するカチオン基とは、カチオン性基を有するモノマーを含み、アニオン基とはアニオン性基を有するモノマーに分けられ、上記モノマーを含んだ重合体、共重合体である。ただし、本発明で使用する重合体としては上記例のこれらに限定されるものではない。
【0053】
カチオン性基を有するモノマーとしては、分子中に重合可能な官能基、例えばビニル基を有し、同一分子中に1級、2級、3級アミノ基や4級アンモニウム基を含むモノマーが代表的である。
3級アミノ基を有する単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル〔以下、(メタ)アクリルはアクリルとメタクリルを表す〕、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジプロピルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル化合物、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド化合物等が挙げられる。
【0054】
4級アンモニウム基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエチルクロライド、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエチル硫酸、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルリン酸、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエチルリン酸、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルメチルクロライド、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルエチルクロライド、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルエチル硫酸、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルメチルリン酸、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルエチルリン酸、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドメチルクロライド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドエチルクロライド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドエチル硫酸、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドメチルリン酸、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドエチルリン酸、アリルアミン、N−メチルアリルアミン、ジアリルアミン、N−メチルジアリルアミン、N,N−ジメチルアリルアンモニウム塩酸塩、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、メタクロイルコリンクロリド、ビニルピリジンなどを挙げることができる。またN−ビニルホルムアミドのように重合反応後アミノ基や置換アミノ基、更には4級アンモニウム基に変換できるモノマーもこれに含まれる。カチオン性モノマーは、単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0055】
アニオン性モノマーとしては、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸類、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルベンゼンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸クロトン酸、マレイン酸、等のビニル基を有するカルボン酸類、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、アシッドホスホキシエチル(メタ)アクリレート等のリン酸類などが挙げられる。アニオン性ビニルモノマーは、単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、本発明で用いられているアニオンモノマーは、その塩または酸との混合物の形で用いることもできる。これらの塩には、アルカリ金属塩の他、アンモニアやトリエチルアミン、トリエタノールアミン等の塩基性化合物との塩を挙げることができる。また、本発明で得られる共重合体のアニオン性ビニルモノマーをアルカリ剤で中和して本発明の両性両親媒性高分子共重合体としてもよい。
【0056】
以上から、本発明によって作成される構造色を呈する着色膜は、帯電性の球状微粒子分散体を前記球状微粒子とは逆の電荷を持った基板表面上に、前記帯電性球状微粒子分散体を塗布・乾燥させるだけの非常に簡便な操作法で、従来からの構造色成形体の課題であった、膜の脆さや乾燥時のひび割れ等を緩和し、縦方向に規則的に整合させてなる構造色を呈する粒子状積層物にすることを可能とする構造色を呈する着色膜である。また、基材と球状微粒子の密着性の向上、更に、粒子配列の規則性向上により球状微粒子の粒子径に応じた目的の最大反射率が向上した着色膜を提供することができる。
【0057】
本発明による構造色を呈する着色膜の製造方法では、有彩色の染料及び/又は顔料等で
着色されていない単分散の帯電性球状微粒子分散体において、上記分散体を所定の方法で塗布・乾燥させた膜の太陽光もしくは通常の可視光領域の光が照射されて視感される垂直反射光が、乳白色の淡い構造色のようなものではなく、赤(R)、青(B)、緑(G)及び黄(Y)等の色みの構造色を明確に視感させる着色膜の製造方法を構築することができるものである。その構造色を有する着色膜は、各種の用途に着色材もしくは赤外反射等の光学材料として好適に用いられる。従って、この光発色部材を単独又は二次加工材として、例えば、電着カラー板、カラーシート、カラーフィルター、偏光フィルム、インクジェット記録用インク、グラビア印刷用インク、ホログラム部材、顔料として用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明は以下の実施例にいささかも限定されるものではない。なお、特に、断らない限り「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
【0059】
<S−1(分散液);光学発色体の分散体の調整(アクリル系微粒子分散体)>
容量2リットルの四つ口フラスコに、純水300部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.55部仕込み、撹拌しながら80℃に加温した。次いで、開始剤として過硫酸カリウム1.2部を用い、モノマーとしてスチレン142.6部、アクリル酸2-エチルヘキシル45.8部、アクリル酸8.6部、アクリル酸アミド3.0部の混合液を、微粒子を形成する重合性モノマー混合物として100分間かけて滴下した。滴下終了後、さらに2時間重合反応を行った。この乳化重合で得られた分散液(S−1)中には、体積基準で表す平均粒子径212.5nmの均一な粒子径を有する球状の白色重合体粒子を得た。また、重合終了時の水分散体のpHは3.8であった。その後、28%アンモニア水溶液(関東化学社製)を約0.13ml添加し、pH=9.5の分散体に調整を行った。また、調整した分散体の表面電位(ゼータ電位)を測定したところ-55.6mVの負に帯電しているアクリル系球状微粒子分散体である
ことを確認した。
その後、黒色系無彩物(CB:BONJETBLACKCW−1 オリエント化学工業社製)を上記pH調整後のpH=9.5のアクリル系有機ポリマー球状微粒子及び黒色系無彩物をアクリル系有機ポリマー球状微粒子に対して、1.0質量%添加した後、10回手振り分散を行うことで構造色を呈する着色膜を製造するための原料となるアクリル系微粒子分散体を得た。
【0060】
<S−2(共重合体);カチオン性樹脂の合成>
容量2リットルの四つ口フラスコに、2−プロパノール300部、メタクロイルコリンクロリド80%水溶液10部、メタクリル酸メチル54.5部、メタクリル酸ブチル55部、メタクリル酸2−エチルヘキシル44.8部を仕込み、撹拌しながら、窒素気流下、200rpmで80℃に加温した。その後、80℃で4時間保つことによりモノマーを重合させた。次いで、モノマーを重合させた後の前記溶液を30℃まで冷却した後、メタノールで希釈し、この溶液を10倍当量のアセトン/ヘキサン(50%/50%)混合溶媒に注ぎ込み、再沈殿により精製を行い、乾燥により溶媒を留去して共重合体(S−2)を得た。更に、乾燥後の共重合体(S−2)を適量の2−プロパノールで希釈し、超音波で完全に溶解させた後、共重合体(S−2)10%溶解液を得た。
【0061】
<実施例1:構造発色基板準備工程 ガラス基板>
構造発色基板材料として、前記調整後のS−1(分散液)を所定のカチオン性に表面処理されたガラス基板上に、基板上全表面を覆うように塗布した後、スピンコーター(ミカサ社製 MSA−150)にて2000rpmで10秒、更に1000rpmで8秒の回転数と時間でコーティングを行った。次いで、70℃で3分間、乾燥及び熱処理に供することにより、実施例1の構造発色基板を作成した。また、上記ガラス基板としては、表面が高密度アミノ基で覆われた剥離防止用MASコートスライドグラス(松浪硝子社製)を用いた。
<実施例2:構造発色基板準備工程 ガラス基板>
構造発色基板材料として、前記S−2(共重合体)樹脂溶解液を未処理のスライドガラス基板上(松浪硝子社製)に、基板上全表面を覆うように塗布した後、スピンコーターにて2000rpmで10秒の回転数と時間でコーティングを行った。その後、70℃で5分間、乾燥及び熱処理に供することにより、前処理基板(4級アミンモノマー含有・カチオン性樹脂で表面コート)を作成した。
更に、前記調整後のS−1(分散液)を前記、前処理ガラス基板(4級アミンモノマー含有・カチオン性樹脂で表面コート)上に、基板上全表面を覆うように塗布した後、スピンコーターにて2000rpmで10秒、更に1000rpmで8秒の回転数と時間でコーティングを行った。次いで、70℃で3分間、乾燥及び熱処理に供することにより、実
施例2の構造発色基板を作成した。
【0062】
<実施例3:構造発色基板準備工程 ガラス基板>
構造発色基板材料として、前記調整後のS−1(分散液)を所定のカチオン性に表面処理されたガラス基板上に、基板上全表面を覆うように塗布した後、スピンコーターにて500rpmで8秒、更に1000rpmで10秒の回転数と時間でコーティングを行った。次いで、70℃で3分間、乾燥及び熱処理に供することにより、実施例3の構造発色基板を作成した。また、上記ガラス基板としては、表面が高密度アミノ基で覆われた剥離防止用MASコートスライドグラスを用いた。
【0063】
<実施例4:構造発色基板準備工程 ガラス基板>
構造発色基板材料として、前記S−2(共重合体)樹脂溶解液を未処理のスライドガラス基板上(レギュラースライドグラス 松浪硝子社製)に、基板上全表面を覆うように塗布した後、スピンコーターにて2000rpmで10秒の回転数と時間でコーティングを行った。その後、70℃で5分間、乾燥及び熱処理に供することにより、前処理基板(4級アミンモノマー含有・カチオン性樹脂で表面コート)を作成した。
更に、前記調整後のS−1(分散液)を前記、前処理ガラス基板(4級アミンモノマー含有・カチオン性樹脂で表面コート)上に、基板上全表面を覆うように塗布した後、スピンコーターにて500rpmで8秒、更に1000rpmで10秒の回転数と時間でコーティングを行った。次いで、70℃で3分間、乾燥及び熱処理に供することにより、実施例4の構造発色基板を作成した。
【0064】
<実施例5:構造発色基板準備工程 PET基板>
構造発色基板材料として、前記S−2(共重合体)樹脂溶解液をポリエステルフィルム上に塗布した後、フィルムアプリケーター装置(DKSHジャパン株式会社製)を用いて、ポリエステルフィルム上に乾燥塗膜が約2.0μmとなるようにS−2(共重合体)樹脂溶解液をバーコーターNo.3(第一理化社製)で塗布し、オーブンで70℃5分加熱し、前処理の樹脂塗工された試験基板を得た。更に、上記、樹脂塗工されたポリエステルフィルム上に、構造発色基板材料として、前記調整後のS−1(分散液)を基板上表面に塗布した後、フィルムアプリケーター装置を用いて、前記樹脂塗工物を除いたポリエステルフィルム上の乾燥塗膜が約2.0μmとなるように着色組成物をバーコーターNo.3で塗布し、オーブンで70℃5分加熱し、実施例5の構造発色基板を作成した。
【0065】
<比較例1:構造発色基板準備工程 ガラス基板>
構造発色基板材料として、前記調整後のS−1(分散体)を未処理品のスライドガラス基板上(レギュラースライドグラス/松浪硝子社製)に、基板上全表面を覆うように塗布
した後、スピンコーターにて2000rpmで10秒、更に1000rpmで8秒の回転数と時間でコーティングを行った。次いで、70℃で3分間、乾燥及び熱処理に供することにより、比較例1の構造発色基板を作成した。
【0066】
<比較例2:構造発色基板準備工程 ガラス基板>
構造発色基板材料として、前記調整後のS−1(分散液)を未処理品のスライドガラス基板上(レギュラースライドグラス/松浪硝子社製)に、基板上全表面を覆うように塗布
した後、スピンコーターにて500rpmで8秒、更に1000rpmで10秒の回転数と時間でコーティングを行った。次いで、70℃で3分間、乾燥及び熱処理に供することにより、比較例2の構造発色基板を作成した。
【0067】
<比較例3:構造発色基板準備工程 PET基板>
構造発色基板材料として、前記調整後のS−1(分散液)をポリエステルフィルム上に塗布した後、フィルムアプリケーター装置を用いて、ポリエステルフィルム上の乾燥塗膜
が約2.0μmとなるように着色組成物をバーコーターNo.3で塗布し、オーブンで70℃5分加熱し、構造発色基板を得た。
【0068】
<発色評価試験>
評価は、上記で調整した実施例1〜5、比較例1〜3の構造発色基板における発色性を分光反射スペクトルで評価した。具体的には、分光光度計(日立分光光度計/U−410
0 日立ハイテクノロジーズ社製)で、上記作成した構造発色基板の反射スペクトルの測
定を行った。発色度合いの評価方法は次の通りである。上記作成した基板を粒子径に応じた目的の最大反射スペクトルの反射率/分光反射率のベースラインの反射率比を最大反射
率(R%)として算出した。
分光反射率のベースラインの反射率は、検出器が設置された球の内面に直径30mmの円状、厚さ10mmの硫酸バリウムの白色を用いてベースライン補正を行い、粒子径に応じた目的の最大反射スペクトルの反射率をそれとした。
【0069】
<付着性(クロスカット法)試験>
試験は、上記で調整した実施例1〜5、比較例1〜3の構造発色基板における碁盤目テープ試験(旧 JIS K5400)に沿って、下記の通り評価を行った。
1)試験面にカッターナイフを用いて、
素地に達する11本の切り傷をつけ100個の碁盤目を作る。
切り傷の間隔は1mm、2mm、5mm等が用いられる。
2)碁盤目部分にセロハンテープを強く圧着させ、テープの端を45°の角度で
一気に引き剥がし、碁盤目の状態を標準図と比較して評価する。
どの格子の目もはがれがない◎、カットの交差点における塗膜の小さなはがれ。明確に5%を上回らない○、塗膜がカットの線に沿って、交差点においてはがれている。5%以上30%未満△、塗膜がカットの線に沿って部分的、全面的にはがれている。30%以上×として評価を行った。
【0070】
<耐屈曲性試験>
試験は、上記で調整した実施例5、比較例3の塗装された構造発色基板(PET塗工物)を折り曲げて割れや剥離を調べた。
使用した基材(PET)の塗装膜を平面に対して170°以上 折り曲げた時の塗膜の割れ
および剥がれを以下の指標で評価した。(目視判断)
塗膜の割れや剥離が全く無い◎、折り曲げ面における塗膜の剥離が明確に5%を上回らな
い○、5%以上20%未満△、20%以上×として評価を行った。
【0071】
以上の構造発色基板の発色評価試験結果と付着性試験、耐屈曲性試験結果を表1に示した。(実施例1〜5、比較例1〜3)
【0072】
【表1】
【0073】
<実施例1〜5及び比較例1〜3発色評価試験>
得られた構造発色基板、表1の実施例1〜5、比較例1〜3の発色評価結果より、同様のスピンコート塗工条件化(初期が2000rpm回転数)で比較した場合、例えば、実施例1、2と比較例1では、ガラス基板上の表面が高密度アミノ基で覆われたMASコート(松浪硝子社製)実施例1とガラス基板表面を前処理で4級アミンモノマーを含んだカチオン性樹脂で表面コートした実施例2では、どちらの場合においても比較例1(未処理
ガラス)に対して、負に帯電したアクリル系微粒子球状微粒子分散体(S−1)を塗工、
乾燥後の構造発色基板の発色評価試験の結果が約5〜6%反射率が向上し、良好な結果で
あった。
同様に、スピンコート塗工条件化(初期が500rpm回転数)を変更した実施例3、4、比較例2を比較してみたところ、上記同様、実施例3、4では、未処理のガラスを用いた比較例2よりも負に帯電したアクリル系微粒子球状微粒子分散体(S−1)を塗工、乾燥後の構造発色基板の発色評価試験の結果が約1〜5%反射率が向上し、良好な結果であった。
更に、ポリエステルフィルム上に塗工した実施例5、比較例3においても同様に、負に帯電したアクリル系微粒子球状微粒子分散体(S−1)をポリエステルフィルム上に塗工、乾燥後の構造発色基板の発色評価試験の結果がカチオン性樹脂で前処理塗工した実施例5の方が未処理ポリエステルフィルム上に塗工した比較例2よりも約4〜5%反射率が向上し、良好な結果でとなった。
【0074】
<実施例1〜5及び比較例1〜3 付着性試験>
実施例1〜5、比較例1〜3の付着性試験結果を比較すると、実施例1〜5では全てにおいて比較例1〜3より塗装膜の付着性が良好であった。これは基材(MASコート、カチオン系樹脂)と負に帯電したアクリル系微粒子分散体(S−1)がプラスマイナスの電荷作用で球状微粒子が高密着していると考えられる。
【0075】
<実施例5及び比較例3 耐屈曲性試験>
上記同様、耐屈曲性試験においても塗工したポリエステルフィルムを170°以上折り曲げた際に、負に帯電したアクリル系球状微粒子分散体とは逆の電荷で表面処理された基材を用いた実施例5では、塗膜の割れや剥離が全く無く、良好な結果であった。これも上記同様、電荷作用で基材との密着性が顕著に向上した結果であると推測される。
【0076】
以上から、本発明によって作成される構造色を呈する着色膜は、帯電性の球状微粒子分散体を前記球状微粒子とは逆の電荷を持った基板表面上に、前記帯電性球状微粒子分散体を塗布・乾燥させるだけの非常に簡便な操作法で、従来からの構造色成形体の課題であった、膜の脆さや乾燥時のひび割れ等を緩和し、縦方向に規則的に整合させてなる構造色を呈する粒子状積層物にすることを可能とする構造色を呈する着色膜である。また、基材と球状微粒子の密着性の向上、更に、粒子配列の規則正向上により球状微粒子の粒子径に応じた目的の最大反射率が飛躍的に向上した着色膜を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明による構造色を呈する着色膜の製造方法では、有彩色の染料及び/又は顔料等で
着色されていない単分散の帯電性球状微粒子分散体において、上記分散体を所定の方法で塗布・乾燥させた膜の太陽光もしくは通常の可視光領域の光が照射されて視感される垂直反射光が、乳白色の淡い構造色のようなものではなく、赤(R)、青(B)、緑(G)及び黄(Y)等の色みの構造色を明確に視感させる着色膜の製造方法を構築することができるものである。その構造色を有する着色膜は、各種の用途に着色材もしくは赤外反射等の光学材料として好適に用いられる。従って、この光発色部材を単独又は二次加工材として、例えば、電着カラー板、カラーシート、カラーフィルター、偏光フィルム、インクジェット記録用インク、グラビア印刷用インク、ホログラム部材、顔料として用いることができる。
【0078】
また、特に、本発明の製造方法によって得られる特定の粒子サイズを有する構造色を有する着色膜は、紫外線又は赤外線照射に対する特性反射スペクトルに基づく紫外線又は赤外線反射を発揮させることから、各種の形状の新規な紫外線又は赤外線遮熱材料を提供することができる。