(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
位相制御弁による弁開閉時期制御装置の制御を例に挙げると、相対回転位相を、任意の中間位相に保持する場合には、位相制御弁の制御により進角室又は遅角室に流体を供給して相対回転位相を目標とする中間位相まで変位させる。そして、この中間位相に達した後には、位相制御弁の制御により進角室と遅角室とに対する流体の給排が停止される。
【0008】
このような制御として、例えば、進角室と遅角室とに流体が各別に供給される弁開閉時期制御装置では、内燃機関の始動時において進角室にのみ流体を供給した場合には、相対回転位相が目標とする中間位相まで変位した時点で進角室にのみ流体が充填されるものの、遅角室には流体が貯留されない状態となる。
【0009】
また、内燃機関の稼動時には、カムシャフトのカム変動トルクが進角方向と遅角方向とに交互に作用する。従って、内燃機関の始動直後のように、進角室及び遅角室に流体が殆ど貯留されない状態では、カム変動トルクの作用により相対回転位相が遅角方向の方向に大きく変動することになり、弁開閉時期制御装置の内部でベーンが限界まで変位して当接音を発生させることもあった。
【0010】
このような不都合に対して、特許文献1に示される構成では、相対回転位相を中間位相に保持する場合には、遅角室の流体の一部を進角室に送り、振動を抑制することも可能である。しかしながら、この特許文献1の技術では流体の圧力の値によっては流体を送れないことがあり、しかも、部品点数が多くコスト上昇を招くものである。
【0011】
更に、特許文献2に示される構成では、中間保持動作において進角室と遅角室とに対して流体を同時に供給できるため、相対回転位相の変動(バタツキ)の抑制が可能となる。しかしながら、この特許文献2の構成では、中間保持動作においては流体が継続的に流れるため流体を無駄に消費し、内燃機関の燃費を低下させる点で改善の余地がある。
【0012】
本発明の目的は、相対回転位相を任意の中間位相に保持する場合にも相対回転位相の変動を抑制し得る弁開閉時期制御装置を構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の特徴は、内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、
弁開閉用のカムシャフトと同じ回転軸芯上で前記カムシャフトと一体回転する従動側回転体と、
前記駆動側回転体及び前記従動側回転体との間に形成される少なくとも第1および第2流体圧室とを備え、
各流体圧室が、前記従動側回転体に形成された対応する仕切部で仕切られることにより進角室と遅角室とに区画され、流体が前記進角室に供給された場合に前記駆動側回転体及び前記従動側回転体の相対回転位相が進角方向に変位すること、流体が前記遅角室に供給された場合に前記相対回転位相が遅角方向に変位することと、
前記仕切部が前記第2流体圧室に形成された前記遅角室の周方向壁部に接するときの相対回転位相となる最進角位相と、前記仕切部が前記第1流体圧室に形成された前記進角室の周方向壁部に接するときの相対回転位相となる最遅角位相
と、を除く前記最進角位相と前記最遅角位相との中間の所定の位相に前記相対回転位相が位置する場合に、前記仕切部を挟んで隣り合う前記進角室及び前記遅角室を連通する連通路が前記駆動側回転体に備えられている点にある。
【0014】
この構成によると、相対回転位相を最遅角位相から進角方向に変位させるため、進角室に流体を供給した場合には、相対回転位相が進角方向に変位すると共に、進角室に供給された流体の一部が連通路を介して遅角室に供給される。これにより、進角室だけではなく遅角室にも流体を貯留することが可能となり、相対回転位相が目標とする位相に達し、進角室と遅角室とに対する流体の給排が停止した場合でも進角室と遅角室とに流体が貯留された状態となる。これにより、カム変動トルクが作用しても進角室と遅角室とに貯留された流体がダンパーのように機能して相対回転位相が進角方向と遅角方向との何れの方向にも大きく変位する現象を阻止する。特に、本構成によると最遅角位相と最進角位相との中間の何れの位相においても、相対位相の変動を抑制できる。
従って、相対回転位相を最進角位相と最遅角位相との間の任意の中間位相に保持する場合にも相対回転位相の変動を抑制し得る弁開閉時期制御装置が構成された。
【0015】
本発明は、前記連通路が、前記駆動側回転体の内壁面に溝状に形成されても良い。
【0016】
これによると、駆動側回転体の内壁面に対して溝を形成するだけで連通路を形成できるため、例えば、専用の孔部や、専用の管路を形成するものと比較して単純な構成で連通路を形成できる。
【0017】
本発明は、第1および第2のいずれか一方の前記流体圧室を構成する前記駆動側回転体の部位に前記連通路が形成されても良い。
【0018】
弁開閉時期制御装置は、複数の流体圧室を備えた構成が多く、例えば、本発明のように少なくとも1つの前記流体圧室に対応する部位に連通路を形成することによっても相対回転位相の変動を抑制できる。また、複数の流体圧室に対応する位置に連通路を形成した場合には、相対回転位相の変動を一層良好に抑制できる。
【0019】
本発明は、前記相対回転位相が前記最遅角位相に対応する最遅角ロック位相にある場合に、前記相対回転位相の変位を阻止するロック機構を備え、
前記連通路は、前記相対回転位相が前記最遅角ロック位相より進角方向の領域にあるときに前記進角室と前記遅角室とを連通しても良い。
【0020】
これによると、ロック機構による最遅角ロック状態を解除した後に相対回転位相を進角方向に変位させる場合には、進角室への流体の供給に伴い、相対回転位相は直ちに進角方向に変位する。この時、進角室に供給された流体の一部が遅角室に供給されるため、カム変動トルクの作用による相対回転位相の変動を抑制し、相対回転位相を安定させた制御が可能となる。
【0021】
本発明は、前記相対回転位相が前記最進角位相と前記最遅角位相との間の任意の中間ロック位相にある場合に、前記相対回転位相の変位を阻止するロック機構を備え、
前記連通路は、前記相対回転位相が前記中間ロック位相より遅角方向の領域にあるときに前記進角室と前記遅角室とを連通しても良い。
【0022】
これによると、例えば、相対回転位相を最遅角位相と中間ロック位相との間で変位させる場合には、進角室と遅角室との何れに流体が供給されても、その流体の一部が連通路を介して他方に供給されるため、この流体供給時にカム変動トルクの作用による相対回転位相の変動を抑制できる。特に、内燃機関の停止時に中間ロック位相でロック状態に達していない場合には、この後の内燃機関の始動時に敢えて流体を供給しないことにより、進角室と遅角室との間で連通路に自由に空気を流し、相対回転位相を大きく変位させて中間ロック位相への移行を早期に行える。
【0023】
本発明は、前記相対回転位相が前記最進角位相と前記最遅角位相との間の任意の中間ロック位相にある場合に、前記相対回転位相の変位を阻止するロック機構を備え、
前記連通路は、前記相対回転位相が前記中間ロック位相より進角方向の領域にあるときに前記進角室と前記遅角室とを連通しても良い。
【0024】
これによると、例えば、内燃機関が中間ロック位相より進角側で停止した場合には、この後に内燃機関を始動する場合に、流体を遅角室に供給した場合には、その流体の一部が進角室に供給されるため、カム変動トルクにより相対回転位相が遅角方向に変位しやすい傾向にあるに拘わらず、遅角方向へ変位速度の抑制が可能となり、中間ロック位相でロック状態に移行することも容易となる。
【0025】
本発明は、前記相対回転位相が前記最進角位相と前記最遅角位相との間の任意の中間ロック位相にある場合に、前記相対回転位相の変位を阻止するロック機構を備え、
前記連通路は、前記相対回転位相が前記中間ロック位相より遅角方向の領域、及び、前記相対回転位相が前記中間ロック位相より進角方向の領域にあるときに前記進角室と前記遅角室とを連通しても良い。
【0026】
これによると、例えば、相対回転位相を最遅角位相と中間ロック位相との間で変位させる場合、及び、最進角位相と中間ロック位相との間で変位させる場合の何れの場合でも、進角室又は遅角室の一方に供給された流体の一部が連通路を介して他方に供給され、カム変動トルクの作用による相対回転位相の変動を抑制できる。また、相対回転位相が中間ロック位相にある場合ときに進角室と遅角室とを連通させないため、例えば、相対回転位相が中間ロック位相に接近する場合には、中間ロック位相に接近した時点で相対回転位相の変位速度を高速化して迅速なロック状態への移行が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
〔全体構成〕
図1及び
図2に示すように、駆動側回転体としての外部ロータ10と、従動側回転体としての内部ロータ20と、外部ロータ10と内部ロータ20との相対回転位相(以下、相対回転位相と称する)を最遅角ロック位相に保持するロック機構Lとを備えて弁開閉時期制御装置Aが構成されている。
【0029】
弁開閉時期制御装置Aは、外部ロータ10(駆動側回転体の一例)と内部ロータ20(従動側回転体の一例)との間に形成された流体圧室Cを、例えばベーン状の仕切部22で仕切ることにより進角室Caと遅角室Cbとが形成されている。弁開閉時期制御装置Aは、進角室Caと遅角室Cbとに対して位相制御弁Va(OCV:オイルコントロールバルブ)で作動油(流体の一例)を給排することにより相対回転位相の設定が可能である。位相制御弁VaはECUとしての制御ユニット60により制御される。
【0030】
制御ユニット60は、弁開閉時期制御装置Aの相対回転位相を検知する位相センサ61からの信号がフィードバックすると共に、目標とする相対回転位相に基づいて位相制御弁Vaの電磁ソレノイドに供給する電力を設定する。
【0031】
エンジンE(内燃機関の一例)は、下部にクランクシャフト1を備え、上部にシリンダブロック2を備え、シリンダブロック2のシリンダボアにピストン3を収容しており、このピストン3の作動力をコネクティングロッド4でクランクシャフト1に伝える4サイクル型に構成されている。
【0032】
シリンダブロック2の上部には、吸気弁5と排気弁(図示せず)とを備え、吸気弁5を開閉作動させる吸気カムシャフト6と、排気弁を開閉作動させる排気カムシャフト(図示せず)とを備えている。尚、弁開閉時期制御装置Aは、排気弁の開閉時期を制御するように排気カムシャフトに備えて良く、吸気カムシャフト6と排気カムシャフトとの双方に備えても良い。
【0033】
内部ロータ20は、外部ロータ10に内包され、各々が相対回転できるように回転軸芯Xと同軸芯上に配置されている。また、内部ロータ20は吸気カムシャフト6と一体的に回転するように連結ボルト7により吸気カムシャフト6に連結されている。
【0034】
〔弁開閉時期制御装置〕
外部ロータ10は、円筒状となるロータハウジング11と、回転軸芯Xに沿う方向でエンジンEから離間する位置のフロントプレート12と、エンジンEに近接する位置のリヤプレート13とを備え、これらが複数の締結ボルト14で締結されている。リヤプレート13の外周にはタイミングスプロケット13sが形成され、このタイミングスプロケット13sと、クランクシャフト1の出力スプロケット1sとに亘ってタイミングチェーン8が巻回されている。
【0035】
ロータハウジング11の内周には、回転軸芯Xの方向(中心方向)に突出する複数(実施形態では4つ)の突出部11aが形成されている。複数の突出部11aが形成されることにより、内部ロータ20の外周部との間には複数の流体圧室Cが形成される。
【0036】
内部ロータ20は、円柱状となる内部ロータ本体21と、内部ロータ本体21の外周から外方に突出形成された複数(実施形態では4つ)の仕切部22とを備えている。この内部ロータ20は、フロントプレート12とリヤプレート13とに挟まれる位置に配置されるものであり内部ロータ本体21の外周が、外部ロータ10の突出部11aの突出端に接触するように各々の直径が設定されている。
【0037】
また、仕切部22は、内部ロータ本体21の外周に嵌め込んだ状態で支持される板状部材で構成され、バネ材23により突出端を外方に突出付勢されている。これにより仕切部22の突出端がバネ材23の付勢力によりロータハウジング11の内周に接触し、各々の仕切部22が流体圧室C(後述する4つの流体圧室の総称)を仕切ることにより、仕切部22を挟む位置に進角室Caと遅角室Cbとが形成される。つまり、
図2に示すように、流体圧室Cを、第1流体圧室C1、第2流体圧室C2、第3流体圧室C3、第4流体圧室C4とした場合に、これらを、各々の仕切部22が仕切ることにより、第1〜4流体圧室C1〜C4に対して進角室Caと遅角室Cbとが形成される。
【0038】
弁開閉時期制御装置AはエンジンEの稼働時には駆動回転方向Sに回転する。また、外部ロータ10に対して内部ロータ20が駆動回転方向Sと同方向に変位する方向を進角方向Saと称し、外部ロータ10に対して内部ロータ20が駆動回転方向Sと逆方向に変位する方向を遅角方向Sbと称する。
【0039】
この構成から、進角室Caに作動油が供給されることにより相対回転位相は進角方向Saに変位し、遅角室Cbに作動油が供給されることにより相対回転位相は遅角方向Sbに変位する。
【0040】
図2に示すように、第1流体圧室C1のうち進角室Caに面する突出部11aには第1周方向壁部W1が形成され、第2流体圧室C2のうち遅角室Cbに面する突出部11aには第2周方向壁部W2が形成されている。この構成から、相対回転位相が進角方向Saに変位し、第2流体圧室C2の仕切部22が第2周方向壁部W2に接する位相が最進角位相Qaとなり、相対回転位相が遅角方向Sbに変位し、第1流体圧室C1の仕切部22が、第1周方向壁部W1に接する位相が最遅角位相Qbとなる。なお、第2流体圧室C2の仕切部22が最進角位相Qaまで移動した時点では、第1流体圧室C1の仕切部22は同図に仮想線(二点鎖線)で示される位置まで移動するが突出部11aには当接しない。これと同様に、第1流体圧室C1の仕切部22が最遅角位相Qbまで位相した時点では、第2流体圧室C2の仕切部22は同図に実線で示す位置まで移動するが突出部には当接しない。また、最進角位相Qaと最遅角位相Qbとの中間において仕切部22が移動可能となる領域を中間領域Qeと称する。
【0041】
外部ロータ10と内部ロータ20との間には、相対回転位相を最遅角位相Qbから
図2に示す中間位相Qmの方向に付勢するトーションスプリング15を備えている。冷熱状態のエンジンEの始動を良好に行うに最適な位相として中間位相Qmを設定しており、トーションスプリング15は相対回転位相が最遅角位相Qbから中間位相Qmまで付勢力を作用させるように構成されている。
【0042】
〔弁開閉時期制御装置:ロック機構〕
図2に示すように、ロック機構Lは、内部ロータ20の内部ロータ本体21の外周に形成された最遅角ロック凹部25と、外部ロータ10の突出部11aに対し、半径方向に出退自在に支持されたプレート状のロック部材26と、このロック部材26を最遅角ロック凹部25に向けて付勢するロックスプリング27とを備えて構成されている。
【0043】
最遅角ロック凹部25は、内部ロータ本体21の外周の1箇所に形成され、これに対応して、ロック部材26も1箇所の突出部11aに備えられている。最遅角ロック凹部25に対して、ロック部材26が係合する相対姿勢が最遅角ロック位相であり、この最遅角ロック位相は最遅角位相Qbと一致する。
【0044】
〔弁開閉時期制御装置:流路構成〕
内部ロータ20の内部ロータ本体21には進角室Caに連通する進角流路31と、遅角室Cbに連通する遅角流路32とが形成されている。特に、この弁開閉時期制御装置Aでは、最遅角ロック位相(最遅角位相Qb)においてロック機構Lがロック状態に達する構成であるため、ロック解除のための専用の流路を備えず進角流路31がロック解除流路に兼用されている。つまり、ロック機構Lに隣接する位置の進角室Caに作動油を供給するための進角流路31を、最遅角ロック凹部25に連通させており、最遅角ロック凹部25に供給された作動油を進角室Caに供給するための補助流路31aが内部ロータ本体21の外周に形成されている。
【0045】
これにより、最遅角ロック位相にある状態で、進角流路31に作動油を供給することにより、流体圧によりロック部材26を最遅角ロック凹部25から離脱させ、この後に、進角室Caに作動油が供給され、相対回転位相が進角方向Saに変位する。
【0046】
エンジンEで駆動される油圧ポンプPから作動油を位相制御弁Vaに供給する作動油供給流路35が形成されている。位相制御弁Vaは、作動油供給流路35からの作動油を進角流路31と遅角流路32との何れかに供給すると共に、進角流路31と遅角流路32とから作動油の排出を行う。尚、油圧ポンプPは、エンジンEのオイルパンに貯留される潤滑油を作動油として供給するように構成されている。
【0047】
〔位相制御弁〕
図3〜6に示すように、位相制御弁Vaは、円筒状のスリーブ51と、これに収容される円柱状のスプール52と、スプール52を付勢するスプールスプリング53と、スプール52を作動させる電磁ソレノイド54とを備えて構成されている。
【0048】
スリーブ51には、油圧ポンプPから作動油が供給されるポンプポート51pと、進角流路31に連通する進角ポート51aと、遅角流路32に連通する遅角ポート51bと、端部位置のドレンポート51dとが形成されている。
【0049】
スプール52には、進角ポート51aにおける作動油の給排を制御する第1ランド部52aと、遅角ポート51bにおける作動油の給排を制御する第2ランド部52bとが形成されている。
【0050】
電磁ソレノイド54は、鉄等の磁性体で構成されるプランジャ54aの外周にソレノイドコイル54bを配置して構成されている。この電磁ソレノイド54は、ソレノイドコイル54bに供給される電力が増大するほどスプールスプリング53の付勢力に抗してスプール52を変位させる。
【0051】
この位相制御弁Vaは、電磁ソレノイド54に電力が供給されない状態でスプールスプリング53の付勢力によりスプール52が、遅角ポジションRbに設定される。そして、電磁ソレノイド54に供給する電力を増大することにより、スプール52が、中立ポジションRnと、微小進角ポジションRsと、進角ポジションRaとに、この順序で設定される。
【0052】
この位相制御弁Vaではスプール52が、
図3に示す遅角ポジションRbに設定されることにより、第1ランド部52aが進角ポート51aを閉じ、第2ランド部52bが遅角ポート51bを開放する。これにより、ポンプポート51pに供給された作動油を遅角ポート51bから遅角室Cbに送り出し、進角室Caの作動油を進角ポート51aから受け入れドレンポート51dから排出する。その結果、相対回転位相の遅角方向Sbへの変位が実現する。
【0053】
尚、スプール52を遅角ポジションRbに設定して、相対回転位相を遅角方向Sbに変位させ、最遅角位相Qbに達した場合には、ロック部材26がロックスプリング27の付勢力により最遅角ロック凹部25に係合し、ロック機構Lがロック状態に達する。
【0054】
また、スプール52が、
図4に示す中立ポジションRnに設定されることにより、第1ランド部52aが進角ポート51aを閉じ、第2ランド部52bが遅角ポート51bを閉じる。これにより、進角室Caと遅角室Cbとに対する作動油の給排が阻止される。その結果、進角室Caと遅角室Cbとに対する作動油の給排を阻止して相対回転位相の維持が実現する。
【0055】
また、スプール52が、
図5に示す微小進角ポジションRsに設定されることにより、第1ランド部52aが進角ポート51aを僅かに開放し、第2ランド部52bが遅角ポート51bを閉じる。これにより、進角室Caに対して僅かな量の作動油を供給し、遅角室Cbからの作動油の排出を阻止し、相対回転位相の維持が実現する。つまり、この微小進角ポジションRsでは、遅角室Cbから流体が排出されないため、相対回転位相の維持を可能にする。尚、
図2に示す連通路17と微小進角ポジションRsとの機能については後述する。
【0056】
また、スプール52が、
図6に示す進角ポジションRaに設定されることにより、第1ランド部52aが進角ポート51aを開放し、第2ランド部52bが遅角ポート51bを閉じる。これにより、ポンプポート51pに供給された作動油を進角ポート51aから進角室Caに送り出し、遅角室Cbの作動油を遅角ポート51bから受け入れドレンポート51dから排出する。その結果、相対回転位相の進角方向Saへの変位が実現する。
【0057】
〔連通路〕
弁開閉時期制御装置Aでは、外部ロータ10(駆動側回転体)に対し、仕切部22を挟んで隣合う位置の進角室Caと遅角室Cbとを連通させる連通路17が溝状に形成されている。つまり、連通路17は、外部ロータ10を構成するリヤプレート13のうち流体圧室Cに露出する内壁面に対して溝状に形成されている。特に、弁開閉時期制御装置Aは比較的高速で回転するため、遠心力が作用する状況でも作動油を確実に流すために、連通路17を流体圧室Cの外周側(回転軸芯Xから離間する側)に形成している。
【0058】
従って、例えば、エンジンEの始動時に進角室Caに作動油を供給した場合には、作動油が進角室Caに対して充満する時間の経過後に、最遅角ロック凹部25に供給される作動油の油圧が上昇しロック機構Lのロック状態が解除される。これに続いて相対回転位相が進角方向Saに変位する。また、進角方向Saへの変位に伴い、連通路17が仕切部22を挟んで進角室Caと遅角室Cbとを連通する相対回転位相に達した時点で、進角室Caに供給された作動油の一部を仕切部22の側端を通過させて遅角室Cbに供給する。
【0059】
弁開閉時期制御装置Aは、ロータハウジング11とフロントプレート12との間隙、あるいは、ロータハウジング11とリヤプレート13との間隙等から作動油がリークする。また、弁開閉時期制御装置Aには、進角室Caと遅角室Cbとが連通路17で連通している。この構成から、相対回転位相が目標とする中間位相Qmに達した場合には、位相制御弁Vaのスプール52を微小進角ポジションRsに設定することにより、カム変動トルクに抗するに必要な油量の作動油を進角室Caに供給すると同時に、供給された作動油の一部を、連通路17を介して遅角室Cbに供給することで、進角室Caと遅角室Cbとから仕切部22に作用する圧力をバランスさせて相対回転位相を目標とする中間位相Qmに保持できるようにしている。
【0060】
つまり、相対回転位相を、最遅角位相Qbから任意の中間位相Qmまで変位させ、その中間位相Qmに保持する場合の制御が以下のように行われる。この制御では、制御ユニット60が位相制御弁Vaを進角ポジションRaに設定して進角室Caに作動油を供給し、ロック機構Lのロック状態を解除し、進角室Caに供給した作動油の圧力により相対回転位相を進角方向Saに変位させる。このように作動油が進角室Caに供給された場合には、その作動油の一部が連通路17を介して遅角室Cbに供給される。
【0061】
遅角流路32は内部ロータ20の内部ロータ本体21の外周に開口する構造であり、しかも、弁開閉時期制御装置Aは、高速で回転するため、連通路17を介して遅角室Cbに供給された作動油は遠心力により遅角室Cbの外周側に貯留される。このような理由から、遅角流路32から排出されることはなく、連通路17を介して遅角室Cbに供給された作動油の多くは遅角室Cbに残留する。
【0062】
このように、相対回転位相を進角方向Saに変位させる過程でも、進角室Caに作動油が充填され、遅角室Cbにも作動油が貯留されるため、吸気カムシャフト6のカム変動トルクが作用する状況でも、進角室Caと遅角室Cbとに存在する作動油がダンパーのように機能し、相対回転位相を変動させることはない。
【0063】
この後に、相対回転位相が目標とする中間位相Qmに達した場合には、相対回転位相が中間位相Qmに達したことを位相センサ61で検出したタイミングで制御ユニット60が位相制御弁Vaを微小進角ポジションRsに設定する。なお、このタイミングで位相制御弁Vaを中立ポジションRnに設定することも考えられる。しかしながら、弁開閉時期制御装置Aは、ロータハウジング11とフロントプレート12との間隙、あるいは、ロータハウジング11とリヤプレート13との間隙等から作動油がリークするため、中立ポジションRnに設定した場合には、作動油がリークするため相対回転位相を中間位相Qmに長時間維持することは困難となる。
【0064】
このような理由から、相対回転位相が中間位相Qmに達したタイミングで位相制御弁Vaを微小進角ポジションRsに設定する制御が行われる。この微小進角ポジションRsは、前述したように、遅角室Cbから作動油の排出を阻止する状態で、進角室Caに対して制限された量の作動油を供給する。制限された量の作動油とは、カム変動トルクに抗して相対回転位相を維持するに必要な量である。つまり、カム変動トルクが作用する状況では進角室Caに存在する作動油が連通路17を介して遅角室Cbに流れる現象を招くことになるため、前述したリーク量と、連通路17を介して遅角室Cbに流れる作動油の油量とを併せた量を超える値である。
【0065】
従って、位相制御弁Vaが微小進角ポジションRsに設定されることにより、進角室Caと遅角室Cbとからリークする作動油を充分に補いつつ、カム変動トルクに抗する力を進角室Caに与え、しかも、進角室Caと遅角室Cbとに貯留される作動油でカム変動トルクをダンパーのように受け止め、しかも、進角室Caと遅角室Cbとに作動油を充満させることも可能となるため、振動を抑制しつつ相対回転位相を中間位相Qmに維持することが可能となる。
【0066】
このように、連通路17を形成し、位相制御弁Vaの微小進角ポジションRsと組み合わせることにより、相対回転位相を中間位相Qmに保持するために専用のロック機構Lを備えずとも、相対回転位相を予め設定された中間位相Qmに移行し、カム変動トルクの影響を抑制した状態で良好に保持することが可能となる。また、例えば、相対回転位相を最遅角位相Qbから中間位相Qmに変位させる場合にも、カム変動トルクにより変動させる不都合を招くことがない。
【0067】
〔第1実施形態の変形例〕
(a)本第1実施形態では、複数の流体圧室Cの1つに対応して連通路17を形成していたが、
図7に示すように、複数の流体圧室Cに対応して連通路17を形成しても良い。このように複数の連通路17を形成する場合には、全ての流体圧室Cに対応して連通路17を形成することや、複数となる一部の流体圧室Cに対応して連通路17を形成することが可能である。
【0068】
このように複数の流体圧室Cに対応して連通路17を形成することにより、進角室Caと遅角室Cbとに貯留される作動油をダンパーのように機能させて相対回転位相の変動を抑制できる。また、連通路17は、フロントプレート12に形成しても良い。このようにフロントプレート12に連通路17を形成する構成では、リヤプレート13に連通路17を併せて形成しても良い。
【0069】
(b)
図8に示すように、ロータハウジング11のうち仕切部22の突出端が接触する内壁面に連通路17を形成しても良い。このようにロータハウジング11に連通路17を形成するものでは、更に、複数の流体圧室Cに連通路17を形成して良く、フロントプレート12とリヤプレート13との少なくとも何れか一方に連通路17を形成する構成と併せた構成であっても良い。
【0070】
(c)
図9に示すように、仕切部22を内部ロータ20の内部ロータ本体21の外周から突出するブロック状で内部ロータ本体21と一体的に形成する。この変形例の構成においても、前述した変形例(a),(b)のように複数の連通路17を形成することや、ロータハウジング11の内壁面に連通路17を形成しても良い。
【0071】
以下、本発明の第2実施形態を
図11及び
図12に基づいて説明する。
この第2実施形態は、第1実施形態と共通する構成を有するものであるが、ロック機構Lにより相対回転位相を、最遅角位相Qbと中間位相Qmとに保持する構成を有し、ロック機構Lを制御するためのロック制御弁Vb(OSV:オイルスイッチングバルブ)を有する点が第1実施形態と異なっている。
【0072】
この第2実施形態において第1実施形態と同様に機能する構成には、第1実施形態と共通する符号を付しており、共通する構成の説明を省略して異なる点を以下に説明する。
【0073】
〔弁開閉時期制御装置:ロック機構〕
ロック機構Lは、最遅角位相Qbに対応して内部ロータ本体21の外周に形成された単一の最遅角ロック凹部25と、中間位相Qmに対応して内部ロータ本体21の外周に形成された一対の中間ロック凹部28と、外部ロータ10の突出部11aに対し、半径方向に出退自在に支持されたプレート状の一対のロック部材26と、各々のロック部材26を凹部の方向に向けて付勢するロックスプリング27とを備えて構成されている。
【0074】
この弁開閉時期制御装置Aでは、一方のロック機構Lのロック部材26が最遅角ロック凹部25に係合することにより相対回転位相が最遅角ロック位相(最遅角位相Qbと一致する)に保持される。また、2つのロック機構Lの各々のロック部材26が対応する中間ロック凹部28に係合することにより相対回転位相が中間ロック位相(中間位相Qmと一致する)に保持される。
【0075】
〔弁開閉時期制御装置:流路構成〕
内部ロータ20の内部ロータ本体21には進角室Caに連通する進角流路31と、遅角室Cbに連通する遅角流路32と、一対の中間ロック凹部28に連通するロック解除流路33とが形成されている。特に、この弁開閉時期制御装置Aでは、最遅角ロック位相において一方のロック機構Lがロック状態に達する構成であるため、ロック解除のための専用の流路を備えず進角流路31がロック解除流路に兼用されている。
【0076】
これにより、最遅角ロック位相にある状態で、進角流路31に作動油を供給することにより、流体圧によりロック部材26を最遅角ロック凹部25から離脱させ、この後に、進角室Caに作動油が供給され、相対回転位相が進角方向Saに変位する。また、中間ロック位相にある状態でロック解除流路33に作動油が供給されることにより一対の中間ロック凹部28からロック部材26が離脱する。
【0077】
この弁開閉時期制御装置Aは、内部ロータ20に対して回転軸芯Xを中心する連通用空間が形成され、この連通用空間には進角流路31と遅角流路32とロック解除流路33とが連通するポートが形成されている。この連通用空間に対して流路形成軸部36が挿通する状態で配置され、流路形成軸部36には位相制御弁Vaとロック制御弁Vbとが備えられている。
【0078】
この流路形成軸部36の外周には、進角流路31と遅角流路32とロック解除流路33とに連通する3種の流路(進角流路31、遅角流路32、ロック解除流路33と)が形成されている。また、流路形成軸部36の外周と連通用空間との間には、各ポートを流路とを各別に連通させるためのシール37が配置されている。
【0079】
更に、エンジンEで駆動される油圧ポンプPから作動油を位相制御弁Vaとロック制御弁Vbとに供給する作動油供給流路35が形成されている。
【0080】
位相制御弁Vaは電磁弁として構成され、遅角ポジションRbと、中立ポジションRnと、微小進角ポジションRsと、進角ポジションRaとに操作自在に構成されている。尚、この位相制御弁Vaの構成は第1実施形態で説明したものと共通する。
【0081】
ロック制御弁Vbは、ロックポジションとロック解除ポジションとに操作自在に構成されている。このロック制御弁Vbは電磁ソレノイドに電力を供給しない状態で、ロック解除流路33から作動油を排出する状態となり、ロック解除ポジションではロック解除流路33に作動油を供給する状態となる。
【0082】
〔連通路〕
この弁開閉時期制御装置Aでは、外部ロータ10(駆動側回転体)に対し、仕切部22を挟んで隣合う位置の進角室Caと遅角室Cbとを連通させる一対の連通路17(第1連通路17aと第2連通路17bの上位概念)が外部ロータ10のうち流体圧室Cの内壁面に溝状に形成されている。
【0083】
第1連通路17aは、相対回転位相が、中間ロック位相(中間位相Qmと一致する)と最遅角ロック位相(最遅角位相Qbと一致する)との中間にある場合に、進角室Caと遅角室Cbとを連通させるようにリヤプレート13のうち流体圧室Cに露出する部位に溝状に形成されている。
【0084】
第2連通路17bは、相対回転位相が、中間ロック位相(中間位相Qmと一致する)と最進角位相Qaとの間にある場合に進角室Caと遅角室Cbとを連通させるようにリヤプレート13のうち流体圧室Cに露出する部位に溝状に形成されている。
【0085】
第1連通路17aと第2連通路17bとは、互いに作動油が流通しない位置関係に形成されるものであり、仕切部22がこれら第1連通路17a又は第2連通路17bに重なり合う位置に存在する場合には、流体圧室Cの内部において、進角室Caと遅角室Cbとの間で作動油が流動することはない、また、仕切部22が中間ロック位相から外れた位置にある場合には、作動油を仕切部22の側端を介して第1連通路17a又は第2連通路17bに流す。
【0086】
これにより、例えば、位相制御弁Vaを進角ポジションRaに設定した場合には進角室Caに作動油が供給され、遅角室Cbの作動油を、遅角流路32を介して排出できる状態となるため、相対回転位相が進角方向Saに変位する。しかしながら、遅角流路32は内部ロータ20の内部ロータ本体21の外周に開口する構造であり、しかも、遅角室Cbに供給された作動油は遠心力により遅角室Cbの外周側に貯留されるため、第1連通路17aを介して遅角室Cbに供給された作動油の殆どは遅角室Cbに残留する。
【0087】
これにより、吸気カムシャフト6のカム変動トルクが作用する状況でも、進角室Caと遅角室Cbとに存在する作動油がダンパーのように機能し、相対回転位相を変動させることはない。
【0088】
特に、微小進角ポジションRsは、前述した通り、微小進角ポジションRsに設定することにより、カム変動トルクに抗するに必要な油量の作動油を進角室Caに供給すると同時に、供給された作動油の一部を、連通路17を介して遅角室Cbに供給することで、進角室Caと遅角室Cbとから仕切部22に作用する圧力をバランスさせて相対回転位相を目標とする中間位相Qmに保持することも可能となる。
【0089】
また、例えば、相対回転位相を最進角位相Qaから中間位相Qmまで変位させて中間ロック位相に保持する場合には、位相制御弁Vaを遅角ポジションRbに設定して遅角室Cbに作動油を供給する。このように遅角室Cbに作動油を供給する場合には、作動油の一部が第2連通路17bを介して進角室Caに供給される。中間位相Qmに達するまでは低速で相対回転位相が変位し、中間ロック位相に接近した時点で相対回転位相を高速化して迅速なロック状態へに移行が可能となる。
【0090】
このように、相対回転位相を最進角位相Qaから中間位相Qmまで変位させる場合にも、遅角室Cbと進角室Caとに作動油を貯留することが可能であるため、カム変動トルクの作用による相対回転位相の変動を良好に抑制する。
【0091】
〔第2実施形態の変形例〕
(a)第2実施形態でも、第1実施形態の変形例(a)と同様に、複数の流体圧室Cに第1連通路17aと第2連通路17bとを形成しても良い。また、連通路17(第1連通路17aと第2連通路17bとの上位概念)は、フロントプレート12に形成しても良い。このようにフロントプレート12に連通路17を形成する構成では、リヤプレート13に連通路17を併せて形成しても良い。
【0092】
(b)第1実施形態の変形例(b)と同様に、ロータハウジング11のうち仕切部22の突出端が接触する内壁面に連通路17を形成しても良い。このようにロータハウジング11に連通路17を形成するものでは、複数の流体圧室Cに連通路17を形成して良く、フロントプレート12とリヤプレート13との少なくとも何れか一方に連通路17を形成する構成と併せた構成であっても良い。
【0093】
(c)
図12に示すように、仕切部22を内部ロータ20の内部ロータ本体21の外周から突出するブロック状となるように内部ロータ本体21と一体的に形成する。この変形例は、第2実施形態とは異なり、最遅角位相Qbにおいて相対回転位相がロックされるものではない構成であり、油路構成が多少異なるものであるが、第1連通路17aと第2連通路17bが形成されている点で第1実施形態と共通する。
【0094】
この変形例では、仕切部22が周方向で幅を持つものであるため、中間位相Qmを除く位相において、第1連通路17aと第2連通路17bとが機能するように、これら第1連通路17aと第2連通路17bとが周方向で重複する位置に形成されている。
【0095】
更に、この変形例(c)の構成においても、前述した変形例(a),(b)のように複数の連通路17を形成することや、ロータハウジング11の内壁面に連通路17を形成しても良い。
【0096】
(d)相対回転位相を中間位相Qmに対応する中間ロック位相に保持するロック機構Lを備えた構成において、中間ロック位相より遅角方向Sb又は進角方向Saの何れか一方にだけに連通路17を形成しても良い。