(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6589354
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】下肢トレーニング装置
(51)【国際特許分類】
A63B 23/04 20060101AFI20191007BHJP
A61B 5/11 20060101ALN20191007BHJP
【FI】
A63B23/04 A
!A61B5/11 220
!A61B5/11 230
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-88321(P2015-88321)
(22)【出願日】2015年4月23日
(65)【公開番号】特開2016-202612(P2016-202612A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年4月20日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 [発行者名] SCITEPRESS [刊行物名] icSPORTS2014 [発行年月日] 平成26年10月24日 [刊行物等] [集会名] 第27回日本トレーニング科学会大会 [開催日] 平成26年11月22日〜11月23日 [刊行物等] [発行者名] 第23回日本バイオメカニクス学会大会事務局 [刊行物名] 第23回日本バイオメカニクス学会大会論集 [発行年月日] 平成27年3月31日 [刊行物等] [発行者名] 株式会社エヌ・ティー・エス [刊行物名] アンチ・エイジングシリーズ4 進化する運動科学の研究最前線 [発行年月日] 平成26年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(72)【発明者】
【氏名】本城 豊之
(72)【発明者】
【氏名】伊坂 忠夫
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 成弘
【審査官】
大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−209874(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/095636(WO,A1)
【文献】
特開2007−213015(JP,A)
【文献】
特開2009−219557(JP,A)
【文献】
特開平10−258099(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0221487(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0043308(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 22/00−24/00
A61B 5/06− 5/22
A61H 1/00− 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が脚を屈曲させた状態から伸展させる動作を行う下肢トレーニング装置であって、
前記使用者の胴体が拘束されて前記使用者の脚伸展動作に連動してスライド移動するスライド部と、
前記使用者の頭部が足部よりも上方に位置するように傾斜して設けられる傾斜部と前記傾斜部の下端から略垂直方向に突出するように設けられる底部とを有し、前記スライド部を傾斜方向にスライド可能に案内するための傾斜ユニット部と、
前記スライド部を介して前記使用者に負荷を与える負荷発生手段と、
前記使用者の脚伸展動作に伴う前記スライド部の移動量を計測する移動量計測手段と、
前記傾斜ユニット部の前記底部に固定されて前記使用者の脚伸展動作時の床反力を計測する床反力計測手段と、
前記使用者の股関節、膝関節、及び足関節の関節角度を計測する関節角度計測手段と、
前記移動量計測手段によって計測される前記スライド部の移動量と、前記床反力計測手段によって計測される前記床反力と、前記関節角度計測手段によって計測されるそれぞれの関節角度と、胴体、大腿部、下腿部、足部の4つの剛体セグメントが股関節、膝関節、足関節の3つの関節で連結されて表現される人体モデルとを用いて逆動力学計算により、前記それぞれの関節の関節トルクを算出する演算手段と、を備えることを特徴とする下肢トレーニング装置。
【請求項2】
前記人体モデルは、下肢の主要な複数の筋を配置した筋骨格モデルであって、
前記演算手段は、前記筋骨格モデルと、前記逆動力学計算によって算出された前記それぞれの関節トルクとを用いて最適化計算により、前記複数の筋のそれぞれの筋張力を推定することを特徴とする請求項1に記載の下肢トレーニング装置。
【請求項3】
前記負荷発生手段は、前記使用者の脚伸展動作時に前記スライド部を介して制動力による負荷を発生させることを特徴とする請求項1又は2に記載の下肢トレーニング装置。
【請求項4】
前記関節角度計測手段によって計測された前記膝関節の関節角度に基づいて、前記負荷発生手段の前記制動力を制御する制御手段を備えることを特徴とする請求項3に記載の下肢トレーニング装置。
【請求項5】
前記スライド部は、前記使用者の背中が当接される背当て部材と、前記背当て部に前記使用者の背中が当接された状態で前記使用者の上半身を拘束する拘束部材とを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の下肢トレーニング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者が脚を屈曲させた状態から伸展させる動作を行う下肢トレーニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から多く利用されている筋力トレーニング装置としては、例えば、バーベル式やウエイトスタック式のもの等がある。これらの筋力トレーニング装置では、事前に錘の量等を調節することによって負荷の調節が行われる。また、使用者の関節発揮力を評価するための計測には、例えば、Biodex等の装置が用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
一方で、本発明者らは、これまでに使用者が脚を屈曲させた状態から伸展させる動作を行う下肢トレーニング装置において、コンピュータ制御によってトレーニング動作中の負荷を操作できるものを開発した(例えば、非特許文献2参照。)この非特許文献2では、負荷を途中でコンピュータ制御によって変えた場合の筋活動がどのようになるかを筋電計によって計測している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】http://www.biodex.com/physical-medicine/products/dynamometers
【非特許文献2】T. Honjo, N. Shiozawa, T. Isaka 「Development of new training machine using variable load control」、Proceedings of Life Engineering Symposium 2013, pp.375-377, Sep. 12, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1のような装置では、単関節運動時の関節発揮力は評価することができるが、多関節運動時の各関節発揮力を評価することはできないという問題がある。また、非特許文献2では、筋活動を計測するために、トレーニング動作時に筋電計を使用者に装着しておく必要がある。
【0006】
本発明は、上記のような種々の課題に鑑みてなされたものであって、多関節運動である脚伸展動作時の計測対象となる使用者の各関節にトルクを計測するための計測装置を装着することなく、各関節トルクを算出することができる下肢トレーニング装置を提供することを目的とする。また、本発明は、使用者の脚伸展動作時の筋活動を計測する筋電計を装着することなく、脚伸展動作時の筋張力を推定することができる下肢トレーニング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る下肢トレーニング装置は、使用者が脚を屈曲させた状態から伸展させる動作を行う下肢トレーニング装置であって、
前記使用者の胴体が拘束されて前記使用者の脚伸展動作に連動してスライド移動するスライド部と、
前記使用者の頭部が足部よりも上方に位置するように傾斜して設けられる傾斜部と前記傾斜部の下端から略垂直方向に突出するように設けられる底部とを有し、前記スライド部を傾斜方向にスライド可能に案内するための傾斜ユニット部と、前記スライド部を介して前記使用者に負荷を与える負荷発生手段と、前記使用者の脚伸展動作に伴う前記スライド部の移動量を計測する移動量計測手段と、
前記傾斜ユニット部の前記底部に固定されて前記使用者の脚伸展動作時の床反力を計測する床反力計測手段と、前記使用者の股関節、膝関節、及び足関節の関節角度を計測する関節角度計測手段と、前記移動量計測手段によって計測される前記スライド部の移動量と、前記床反力計測手段によって計測される前記床反力と、前記関節角度計測手段によって計測されるそれぞれの関節角度と、胴体、大腿部、下腿部、足部の4つの剛体セグメントが股関節、膝関節、足関節の3つの関節で連結されて表現される人体モデルとを用いて逆動力学計算により、前記それぞれの関節の関節トルクを算出する演算手段と、を備えることを特徴としている。
【0008】
また、本発明に係る下肢トレーニング装置は、前記人体モデルが、下肢の主要な複数の筋を配置した筋骨格モデルであって、前記演算手段は、前記筋骨格モデルと、前記逆動力学計算によって算出された前記それぞれの関節トルクとを用いて最適化計算により、前記複数の筋のそれぞれの筋張力を推定することを特徴としている。
【0009】
また、本発明に係る下肢トレーニング装置は、前記負荷発生手段が、前記使用者の脚伸展動作時に前記スライド部を介して制動力による負荷を発生させることを特徴としている。
【0010】
また、本発明に係るトレーニング装置は、前記関節角度計測手段によって計測された前記膝関節の関節角度に基づいて、前記負荷発生手段の前記制動力を制御する制御手段を備えることを特徴としている。
【0011】
また、本発明に係るトレーニング装置は、前記スライド部が、前記使用者の背中が当接される背当て部材と、前記背当て部に前記使用者の背中が当接された状態で前記使用者の上半身を拘束する拘束部材とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る下肢トレーニング装置によれば、使用者の脚伸展動作に連動してスライド移動するスライド部の移動量が移動量計測手段によって計測され、使用者の脚伸展動作時の床反力が床反力計測手段によって計測され、使用者の股関節、膝関節、及び足関節の関節角度が関節角度計測手段によって計測される。そして、演算手段では、これらの計測されたスライド部の移動量、床反力、及び、それぞれの関節角度と、胴体、大腿部、下腿部、足部の4つの剛体セグメントが股関節、膝関節、足関節の3つの関節で連結されて表現される人体モデルとを用いて逆動力学計算により、それぞれの関節の関節トルクを算出する。これにより、本発明に係る下肢トレーニング装置では、使用者の脚伸展動作時の計測対象となるそれぞれの関節にトルクを計測するためのトルクメータのような計測装置を装着することなく、それぞれの関節トルクを算出することができる。また、トルクメータのような計測装置を使用者は装着する必要がないので、脚伸展動作時にこのような計測装置によって下肢の可動域が拘束されることを防止することができる。
【0013】
また、本発明に係る下肢トレーニング装置によれば、演算手段は、下肢の主要な複数の筋を配置した筋骨格モデルと、逆動力学計算によって算出したそれぞれの関節トルクとを用いて最適化計算により、複数の筋のそれぞれの筋張力を推定する。従って、本発明に係る下肢トレーニング装置では、使用者の脚伸展動作時の筋活動を計測する筋電計を使用者に装着することなく、脚伸展動作時の筋張力を推定することができる。
【0014】
また、本発明に係る下肢トレーニング装置によれば、負荷発生手段は、使用者の脚伸展動作時にスライド部を介して制動力(ブレーキ)によって負荷を発生させるので、使用者がスライド部から受ける抗力は使用者が発揮している力を超えることがなく、疲労等によって使用者の発揮力が低下したような場合でも過度な負荷が使用者に与えられることがないため、安全に脚伸展動作のトレーニングを行うことができる。
【0015】
また、本発明に係る下肢トレーニング装置によれば、関節角度計測手段によって計測された膝関節の関節角度に基づいて、負荷発生手段の制動力を制御するので、脚伸展動作中の膝関節角度に応じた負荷を与えることができる。
【0016】
また、本発明に係る下肢トレーニング装置によれば、スライド部は、使用者の背中が当接される背当て部材と、背当て部に使用者の背中が当接された状態で使用者の上半身を拘束する拘束部材とを有しているので、脚伸展動作時に使用者がバランス等を崩すことを防止し、適切な姿勢を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る下肢トレーニング装置の一例を示す概略模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る下肢トレーニング装置の一例を示す概略平面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る下肢トレーニング装置の構成の一例を示す概略ブロック図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る下肢トレーニング装置を用いた筋張力の推定処理の流れの一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る下肢トレーニング装置の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本発明に係る下肢トレーニング装置1は、使用者Aが脚を屈曲させた状態から伸展させる脚伸展動作を行うためのものであって、
図1及び
図3に示すように、使用者Aの脚伸展動作に連動してスライド移動するスライド部2と、スライド部2を介して使用者Aに負荷を与える電磁ブレーキ(負荷発生手段)3と、使用者Aの脚伸展動作に伴うスライド部2の移動量を計測するためのロータリーエンコーダ(移動量計測手段)4と、使用者Aの脚伸展動作時の床反力を計測するフォースプレート(床反力計測手段)5と、使用者の股関節、膝関節、及び足関節にそれぞれ取り付けられ、各関節角度を計測するためのゴニオメータ(関節角度計測手段)6と、各種の演算処理を行うための演算部(演算手段)14や各部の制御を行うための制御部(制御手段)15等を有するコンピュータ7とを備えている。尚、
図1及び
図2では、使用者Aに取り付けられるゴニオメータ6については省略して図示している。
【0019】
また、下肢トレーニング装置1は、
図1及び
図2に示すように、土台となるベースユニット部8と、ベースユニット部8上に設けられ、スライド部2を傾斜方向にスライド可能に案内するための傾斜ユニット部9とを備えている。ベースユニット部8は、床に設置される土台部81と、土台部81の使用者Aの頭部が位置する側の端部側から平行に立設される2本の支柱部82と、支柱部82の強度を確保するために一端が土台部81に固定され、他端が支柱部82を支えるように所定の傾斜角を有して固定される支持部83とを有している。
【0020】
傾斜ユニット部9は、脚伸展動作時に使用者Aの頭部が足部よりも上方に位置するように、使用者Aの頭部が位置する一端側(上端側)が支柱部82にボルト・ナット等の固定具10を介して固定されることによって所定の角度だけ傾斜して設けられる略矩形状の傾斜部91と、脚伸展動作時に使用者Aの足部が置かれるフォースプレート5を固定できるように、傾斜部91の他端(下端)から略垂直方向に突出するように設けられる底部92と、傾斜部91と同じ傾斜角になるように、上端及び下端がそれぞれ傾斜部91の上端部及び下端部に固定されることにより平行に設けられる2本のレール93と、傾斜部91の上端側及び下端側の裏面にそれぞれ設けられる上部側プーリ94a、下部側プーリ94bと、上部側プーリ94a及び下部側プーリ94bに巻き掛けられるタイミングベルト95とを有している。また、ベースユニット部8の支柱部82には、傾斜部91を固定具10によって着脱自在に取り付けるための複数のボルト孔82aが異なる高さに形成されており、傾斜ユニット部9では、傾斜部91の支柱部82への取り付け位置を変更することによって傾斜角度を変更することができる。
【0021】
スライド部2は、
図1及び
図2に示すように、使用者Aの脚伸展動作に連動してレール93に沿って矢印方向へスライド移動するものであって、レール93に沿って転動する複数の車輪21と、車輪21が取り付けられ、レール93上に配置される略長方形状の板材であるスライド板22と、スライド板22上に固定され、脚伸展動作を行う際に仰向けになった状態の使用者Aの背中が当接される背当て部材23と、背当て部材23に使用者Aの背中を当接した状態で使用者Aの上半身を拘束するための2本のベルト部材(拘束部材)24と、スライド板22の移動に連動してタイミングベルト95を回動させるように、スライド板22とタイミングベルト95を連結させる連結部材25とを有している。背当て部材23としては、例えば、ウレタン等の若干のクッション性を有するものを用いることが好ましいが、これに限定されるものでなく、脚伸展動作に使用者Aの背中を当接した状態で胴体を支えられるものであれば良い。
【0022】
電磁ブレーキ3は、使用者Aの脚伸展動作時にスライド部2を介して制動力による負荷を発生させるためのものであって、下部側プーリ94bに回転軸11を介して連結されている。この電磁ブレーキ3による制動力は、使用者Aの脚伸展動作に連動してスライド部2がレール93上をスライド移動する際に、抗力として発生する。従って、電磁ブレーキ3の制動力による負荷は、使用者Aが脚伸展動作を行った際に、下部側プーリ94b、タイミングベルト95、及びタイミングベルト95に連結される連結部材25を有するスライド部2を介して、背当て部材23に背中を当接した状態で上半身が拘束されている使用者Aへ抗力(トーニング負荷)として作用する。このように下肢トレーニング装置1では、電磁ブレーキ3の制動力によって負荷を発生させているので、使用者Aがスライド部2から受ける抗力は使用者Aが発揮している力を超えることがなく、疲労等によって使用者Aの発揮力が低下したような場合でも過度な負荷が使用者に与えられることがないため、安全に脚伸展動作を行うことができる。尚、この電磁ブレーキ3は、不図示のケーブルによってコンピュータ7に接続されており、
図3に示すように、コンピュータ7の制御部15からの制御信号によって直流電源20からの入力を調整することにより制動力を制御できるように構成されている。また、制御部15では、ゴニオメータ6によって計測される膝伸展動作時の使用者Aの膝関節角度に応じて、電磁ブレーキ3の制動力を制御するようにしても良い。尚、本実施形態に係る下肢トレーニング装置1では、負荷発生手段として安全性等を考慮し、電磁ブレーキ3を適用しているが、これに限定されるものではなく、従来公知の負荷を用いるようにしても良い。
【0023】
ロータリーエンコーダ4は、使用者Aの脚伸展動作に伴うスライド部2の移動量を計測するためのものであって、上部側プーリ94aの回転軸の端に設けられている。下肢トレーニング装置1では、このロータリーエンコーダ4によって検出された上部側プーリ94aの回転情報の検出信号はコンピュータ7へと入力され、演算部14で、この回転情報に基づいてスライド部2の移動量が算出される。下肢トレーニング装置1では、スライド部2は、使用者Aの脚伸展動作に連動してスライド移動するので、このスライド部2の移動量を使用者Aの胴体の移動量(変位)としてみなすことができる。
【0024】
フォースプレート5は、使用者Aが脚を屈曲させた状態から脚伸展動作を行う際の床反力及び床反力作用点(COP)を計測するためのものであって、傾斜ユニット部9の底部92に取り付けられている。使用者Aは、このフォースプレート5に足部を乗せた状態で脚伸展動作を行う。下肢トレーニング装置1では、このフォースプレート5によって検出される床反力の検出信号は、コンピュータ7へと入力される。
【0025】
ゴニオメータ6は、使用者Aの脚伸展動作時の矢状面における股関節、膝関節、及び足関節の関節角度を計測するためのものであって、使用者Aの股関節、膝関節、及び足関節にそれぞれ取り付けられている。下肢トレーニング装置1では、このゴニオメータ6によって検出された股関節、膝関節、及び足関節の関節角度の検出信号は、コンピュータ7へと入力される。
【0026】
コンピュータ7は、ロータリーエンコーダ4、フォースプレート5、及びゴニオメータ6によって検出された情報に基づいて、外力に抗して各関節が発生するトルクである使用者Aの関節トルクの算出や筋張力の推定等のための演算処理等を行うものであって、
図3に示すように、例えば、CPU(Central Proceessing Unit)12と、ハードディスク13と、演算部14と、制御部15と、RAM(Random Access Memory:記憶部)16と、表示部17と、操作部18等を備えている。また、これら各部は、互いにシステムバス19に接続され、このシステムバス19を介して種々のデータ等が入出力されて、CPU12の制御の下、種々の処理が実行される。
【0027】
ハードディスク13は、ロータリーエンコーダ4、フォースプレート5、及びゴニオメータ6によって検出された情報に基づいて、使用者Aの関節トルクの算出や筋張力の推定等を行うための処理プログラム等を格納している。尚、本実施形態では、処理プログラムをハードディスク13に格納している例を示しているが、これに代えて、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体(不図示)に格納しておき、この記録媒体から処理プログラムを読み出すように構成することも可能である。
【0028】
演算部14は、ハードディスク13に格納される処理プログラムに基づいて、CPU12の制御の下、各種の演算処理等を行う。また、制御部15は、ハードディスク13に格納される処理プログラムに基づいて、CPU12の制御の下、電磁ブレーキ3の制動力の制御を行う。
【0029】
RAM16は、ハードディスク13から読み出された処理プログラムを一時的に記憶したり、CPU12の作業領域等として用いられるものである。また、RAM16では、演算部14によって行われる関節トルクの算出や筋張力の推定に用いられる人体モデルに関するデータを予め記憶している。この人体モデルとしては、例えば、
図5に示すように、胴体(頭部、左右腕部、及び骨盤を含む)、大腿部、下腿部、足部の4つの剛体セグメントが股関節、膝関節、足関節の3つの関節で連結されて表現される剛体リンクモデルに、下肢の主要な複数の筋を配置した筋骨格モデルを用いることができる。
図5に示すl
i,(i=0,1,2,3)は剛体セグメントの長さ、a
i,(i=0,1,2,3)は関節からそれぞれの剛体セグメントの質量中心までの距離、m
i,(i=0,1,2,3)は剛体セグメントの質量、I
i,(i=1,2,3)は剛体セグメントの慣性モーメントを表わしている。尚、胴体はベルト部材24によって固定され、回転しないので、後述する数式(2)で表わされる人体モデルの運動方程式には胴体の慣性モーメントは影響しない。また、実装する主要な下肢屈曲・伸展筋としては、例えば、大腰筋、大臀筋、大腿二頭筋、大腿直筋、広筋群、前脛骨筋、ヒラメ筋、腓腹筋等がある。このような筋張力の推定のために必要な身体物理パラメータと筋の配置に関しては、例えば、阿江通良、湯海鵬、横井孝志:Society of Biomechanisms Japan,11,pp.23−33(1992)、P.Allard et al:Three-Dimensional Analysis of Human Movement,human Kinetics,pp.224−225(1995)やその他の筋の起始・停止位置に関する従来の文献等に基づいて行うことができる。
【0030】
表示部17は、例えば、液晶ディスプレイ等から構成されるものであって、演算部14での算出結果等を表示したりするものである。操作部18は、マウスやキーボード等で構成されており、使用者Aや補助者等が種々のデータ及び操作指令等の入力を行うために使用されるものである。尚、表示部17と操作部18をタッチパネルとして、一体的に構成しても良い。
【0031】
以下、下肢トレーニング装置1による各関節トルクの算出及び筋張力の推定の演算処理の流れについて図面を参照しながら説明する。尚、下肢トレーニング装置1による演算処理は、ハードディスク13に格納された処理プログラムに従ってCPU12の制御の下、オフラインで演算部14によって実行されるものである。
【0032】
まず、下肢トレーニング装置1による演算処理を行うに際して、使用者Aは、
図1に示すように、脚を屈曲させた状態で足部をフォースプレート5の上に乗せ、背中が背当て部材23に合うように仰向けで凭れた状態で、ベルト部材24によって上半身を固定する。また、使用者Aの股関節、膝関節、及び足関節にはそれぞれゴニオメータ6が装着される。そして、この状態から使用者Aは、脚伸展動作を行う。
【0033】
使用者Aの脚伸展動作が開始されると、下肢トレーニング装置1では、使用者Aの脚伸展動作時のロータリーエンコーダ4、フォースプレート5、及びゴニオメータ6によって検出されたそれぞれの検出信号が順次コンピュータ7へ入力される。コンピュータ7では、
図4に示すように、それぞれの検出信号に基づいて、演算部14で使用者Aの脚伸展動作時のスライド部2の移動量、床反力及び床反力作用点(COP)、各関節角度(股関節、膝関節、及び足関節の関節角度)がそれぞれ算出される。尚、この際、制御部15では、計測された膝関節の関節角度に応じた制御信号によって直流電源20からの入力を調整することにより、電磁ブレーキ3の制動力を制御するようにしても良い。
【0034】
その後、演算部14では、
図4に示すように、各関節角度及びスライド部2の移動量に対してローパスフィルタ処理を行うことによってノイズ除去を行う。また、ローパスフィルタ処理を行った各関節角度及びスライド部2の移動量に対して、それぞれ微分処理を施し、各関節の脚伸展動作時の角速度、角加速度、及びスライド部2の速度、加速度をそれぞれ算出する。
【0035】
そして、
図3及び
図4に示すように、関節トルク算出部141では、
図5に示す人体モデルの運動方程式として表わされる下記の数式(1)にスライド部2の移動量、床反力及び床反力作用点(COP)、各関節角度と、微分処理によって算出された各関節の角速度、角加速度、及びスライド部2の速度、加速度を適用して逆動力学計算を行う。
【数1】
【0036】
これにより、関節トルク算出部141では、下記の数式(2)及び数式(3)に示すように、各関節の関節トルクであるベクトルτ、及び使用者Aがスライド部から受ける抗力F
Rを算出することができる。
【数2】
【数3】
【0037】
また、関節トルク算出部141では、人体モデルに配置した下肢の代表的な各筋の二次元的な起始・停止位置を求め、初期姿勢から各筋が対応する関節に対して発生させるモーメントのモーメントアームを幾何学的に計算する。次に、関節トルク算出部141では、モーメントアームと筋張力とモーメントの関係を成立させる下記の数式(4)に示すヤコビアンJを求める。
【0038】
そして、筋張力推定部142では、関節トルク算出部141で算出した関節トルクベクトルτとヤコビアンJに基づいて、数式(4)の最適化計算を行って筋張力ベクトルfを算出する。ここでは、筋張力の計算は、筋の生み出すトルクが関節トルクと一致し、且つ、筋張力の総和が最小となるように求めている。
【数4】
【0039】
このように本発明に係る下肢トレーニング装置1では、使用者Aの脚伸展動作時の計測対象となるそれぞれの関節にトルクを計測するためのトルクメータのような計測装置を装着することなく、それぞれの関節トルクを算出することができる。また、下肢トレーニング装置1では、使用者の脚伸展動作時の筋活動を計測する筋電計を使用者に装着することなく、この算出したそれぞれの関節トルクを用いて最適化計算によって複数の筋のそれぞれの筋張力を推定することができる。尚、本実施形態に係る下肢トレーニング装置1では、センサ数の軽減のために、両脚の動作は左右で同じであると仮定し、動作を矢状面内に限定して演算を行っているが、片脚スクワット等の解析を行う場合には、センサの追加及び計算モデルの修正を行うことで対応可能である。
【0040】
また、本発明の実施の形態は上述の形態に限るものではなく、本発明の思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 下肢トレーニング装置
2 スライド部
23 背当て部材
24 ベルト部材(拘束部材)
3 電磁ブレーキ(負荷発生手段)
4 ロータリーエンコーダ(移動量計測手段)
5 フォースプレート(床反力計測手段)
6 ゴニオメータ(関節角度計測手段)
7 コンピュータ
14 演算部(演算手段)
15 制御部(制御手段)
A 使用者