(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記センシング部は、複数の前記静電パッドから出力されるセンサ値から前記リード部材に接触する前記唇の重心位置を取得することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のリード部材。
前記センシング部は、複数の前記静電パッドから出力されるセンサ値に、前記静電パッド夫々のセンサ値の最大出力値を用いてセンサ値の補正を行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のリード部材。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1から
図6を参照しつつ、本発明に係るリード部材、マウスピース及びこれを備える電子管楽器の一実施形態について説明する。
なお、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0010】
図1は、本実施形態における電子管楽器の側面図であり、
図2は、本実施形態における電子管楽器の制御構成を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施形態の電子管楽器100は、管楽器本体1と、この管楽器本体1の先端部分(すなわち吹口部)に取り付けられたマウスピース2と、を備えている。
本実施形態の電子管楽器100は、シングルリードを用いる木管楽器であるアコースティック管楽器の奏法(例えば、ピッチベンドやビブラート)に応じて演奏を表現する電子管楽器である。本実施形態では、サクソフォン型の電子管楽器100を例として説明する。
【0011】
図1に示すように、管楽器本体1は、サクソフォンの管楽器本体を模した形状を有する筐体部分である。
管楽器本体1には、操作子11が設けられている。
操作子11は、例えば、音高を決定する演奏キー、サクソフォン、トラペット、シンセリード、オーボエ、クラリネット、フルート等の各種管楽器の音色の設定機能、楽曲のキーに合わせて音高を変える機能、音高の微調整を行う機能等を設定する設定キーを有し、演奏者(ユーザ)が指で操作する操作部である。
操作子11は、演奏者から各種キー操作を受け付け、その操作情報をCPU3に出力する。なお、設定キーは、各種管楽器の音色の設定機能、楽曲のキーに合わせて音高を変える機能、音高の微調整を行う機能以外にも、リップ検出部20において検出されたリップLの接触位置(本実施形態ではリップLの重心位置)及びリップLの接触面積に応じて微調整されるモードを楽音の音色、音量、高さの中から予め選択する機能を設定する。
【0012】
また、
図1における電子管楽器100の管楽器本体1の内部には、
図1(
図1において破線)及び
図2に示すように、制御手段としてのCPU(Central Processing Unit)3、ROM(Read Only Memory)4、RAM(Random Access Memory)5、息圧検出部6、音源7等が設けられている。CPU3、ROM4、RAM5、息圧検出部6、音源7等は、例えば図示しない基板上に搭載されている。
【0013】
CPU3は、電子管楽器100の各部を制御する。本実施形態において、CPU3は、後述するセンシング部26によりセンシングされた結果等に応じて、音源7の楽音制御を行う制御手段である。
CPU3は、ROM4から指定されたプログラムを読み出してRAM5に展開し、展開されたプログラムとの協働で、各種処理を実行する。
より具体的には、CPU3は、操作子11から入力された操作情報と、息圧検出部6から入力された息圧情報と、後述するリップ検出部20から入力されたリップLの接触の検出情報、噛圧検出部28から入力された噛圧の検出情報と、に基づいて、楽音の生成を音源7に指示する。すなわち、CPU3は、操作子11から入力された操作情報としての音高情報に基づいて、楽音の音高を設定し、息圧検出部6から入力された息圧情報に基づいて、楽音の音量等を設定し、リップ検出部20から入力されたリップLの検出情報に基づくリップLの接触位置(本実施形態では、リップLの重心位置)及びリップLの接触面積等や、噛圧検出部28から入力された噛圧の検出情報にしたがい、例えば、楽音の音色、音量、高さの少なくとも1つを微調整する。
ROM4は、読み出し専用の半導体メモリであり、各種データ及び各種プログラムを記憶する。
RAM5は、揮発性の半導体メモリであり、データやプログラムを一時的に格納するワークエリアを有する。
【0014】
息圧検出部6は、演奏者からマウスピース2に吹き込まれた息の圧力(息圧)を検出するセンサである。
息圧検出部6は、マウスピース2の近傍であって、マウスピース2から吹き込まれた息の通路上等に配置され、息の圧力を検出する。
また、音源7は、楽音信号を生成する回路である。
音源7は、操作子11での操作情報や、リップ検出部20からのリップLの検出情報等に基づいたCPU3の楽音の生成指示(楽音制御)に従って楽音合成を行い、これにより生成される楽音信号をサウンドシステム8に出力する。音源7は、楽音信号をフィルタリングするLPFを有するものとする。なお、LPFは、音源7とサウンドシステム8との間や、サウンドシステム8内に設けられる構成としてもよい。
図2に示すように、CPU3、ROM4、RAM5、息検出部6、音源7、操作子11、及び後述するセンシング部26は、バス10を介して互いに接続されている。
【0015】
また、電子管楽器100の管楽器本体1は、
図1(
図1において破線)及び
図2に示すように、サウンドシステム8を備えている。
サウンドシステム8は、例えば図示しないイコライザー、アンプ、スピーカ等を含んでおり、音源7から入力された楽音信号に信号増幅等を施して楽音に変換する。そして、当該楽音を図示しない内蔵のスピーカから出力させる。
なお、サウンドシステム8は、外部のスピーカと接続される出力端子や、ヘッドホンと接続されるヘッドホン端子等を含んでいてもよい。この場合には演奏者による演奏を外部のスピーカからより高音質で出力させたり、ヘッドホンによって演奏者が自身の演奏を聴きながら演奏の練習等を行うことができる。
【0016】
図3は、演奏者の口腔とマウスピースとの接触状態を示す図である。
図3に示すように、マウスピース2は、電子管楽器100において演奏者の口に咥えられる部分であり、演奏時において、上唇及び上歯がマウスピース2の上側に当接し、下唇L及び下歯や舌Tがマウスピース2の下側に当接する。アコースティックの管楽器では、唇や歯、舌T等の当接する位置や範囲、当接させる強さ等によって楽音に微妙な差が生じる。電子管楽器100でもこのような唇や歯、舌T等の当接する位置や範囲、当接させる強さ等をセンシングして楽音の生成に反映させることにより、アコースティックの管楽器に近い微妙な楽音の差等を表現することが考えられている。
【0017】
マウスピース2は、マウスピース本体21と、マウスピース本体21の長手方向に沿ってマウスピース本体21に重ねて配置され、演奏時において演奏者のリップL(本実施形態では下唇)が接触するリード部材22とを備えている。リード部材22は、固定部材23によってマウスピース本体21に固定されている。
マウスピース本体21は、演奏者が息を吹き込む開口部を有するマウスピース2の本体部分であり、管楽器本体1に接続される。
リード部材22は、一枚の薄片の形状を有し、マウスピース本体21の下方であって、アコースティックの管楽器のリードの位置に対応して設けられている。なお、アコースティックの管楽器のリードは、演奏者の息により振動して音源となるが、電子管楽器100におけるリード部材22は、音源ではないため、振動する部材としなくてもよい。
【0018】
図4(a)は、リード部材22の側面図であり、
図4(b)は、リード部材22を
図4(a)における矢視b方向から見た平面図(
図3及び
図4(a)における下面図)であり、
図4(c)は、リード部材22を
図4(a)における矢視c方向から見た平面図(
図3及び
図4(a)における上面図)である。
図4(a)から
図4(c)に示すように、リード部材22は、基板24a,24bを備えている。
本実施形態では、演奏者がマウスピース2を咥えた場合の咥え込み方向の奥側(
図2及び
図4(a)から
図4(c)において左側)に配置される基板24aは、柔軟性のない絶縁体基材を用いたプリント基板(PCB(Printed Circuit Board)、リジット基板)であり、咥え込み方向の手前側(
図3及び
図4(a)から
図4(c)において右側)に配置される基板24bは、絶縁体基材に薄く柔軟性のある材料を用いたプリント基板(FPC(Flexible Printed Circuit)、フレキシブル基板)となっている。
このうち、フレキシブル基板である基板24bにおけるリップL(本実施形態では下唇)との接触側の面(
図3及び
図4(a)において下側面)には、当該面に対向してヴァンプ部であるリードカバー27が設けられている。
リードカバー27(ヴァンプ部)は、
図4(a)に示すように、咥え込み側の一端から他端側に向かって(咥え込み方向の手前側から奥側に向かって、すなわち、
図3及び
図4(a)における右側から左側に向かって)厚みが増加(暫増)する板状の部材である。
リードカバー27(ヴァンプ部)は、衛生上安全上の観点から、演奏者のリップLや舌Tが直接基板24bに接触しないようにカバーするものである。
リードカバー27は、基板24bにおけるリップL(本実施形態では下唇)との接触側の面(
図3及び
図4(a)において下側面)に両面テープ等により貼着されている。
【0019】
フレキシブル基板である基板24b上(本実施形態では、
図3及び
図4(a)において上側面)には、マウスピース本体21の長手方向(
図3及び
図4(a)から
図4(c)において左右方向)に沿って静電パッド25(
図4(c)においてP1からP11)が複数並列配置されている。
静電パッド25(P1からP11)は、後述のセンシング部26とともに静電容量方式のタッチセンサであるリップ検出部20を構成するものであり、静電容量方式のタッチセンサの電極である。
静電パッド25(P1からP11)は、リードカバー27の厚みの変化に応じて、咥え込み側の一端から他端側に向かって(咥え込み方向の手前側から奥側に向かって、すなわち、
図3及び
図4(a)における右側から左側に向かって)徐々に表面積が大きくなるように形成されている。
【0020】
ここで、静電容量方式のタッチセンサであるリップ検出部20の感度は、検出対象であるリップLと静電パッド25との間で生じる静電容量によって左右され、静電容量が低くなるほど静電パッド25(P1からP11)から出力されるセンサ値が低くなるところ、静電容量をC、電極間物質の比誘電率 をk ε
0、電極の面積をA、電極との間の距離をdとした場合、静電容量Cは、下記の式1によって示すことができる。
C = kε
0A/d …式1
【0021】
式1に示すように、静電容量Cは、電極間物質の比誘電率κに比例し、電極の面積Aに比例し、電極との間の距離dに反比例する。
すなわち、検出対象(リップL)と電極との間の距離dが大きくなる(電極と検出対象(リップL)との距離が遠くなる)ほど静電容量Cが低くなり、リップ検出部20の感度は、低くなるとの関係が認められる。
また、電極の面積Aが大きくなる(静電パッド25(P1からP11)の表面積が大きくなる)ほど静電容量Cが高くなり、リップ検出部20の感度は、高くなるとの関係が認められる。
【0022】
この点、本実施形態では、電極である静電パッド25(P1からP11)が配置されている基板24bの下面側にリードカバー27が配置されており、静電パッド25(P1からP11)との間で静電容量を生じさせる検出対象であるリップL(下唇)は、このリードカバー27を介して静電パッド25(P1からP11)に接離する。
このため、リードカバー27の厚みが薄い咥え込み方向の手前側(すなわち、
図3及び
図4(a)における右側)では、リップL(下唇)と電極(静電パッド25)との間の距離dが比較的小さいために、リップL(下唇)がリードカバー27の側からマウスピース2に触れた際には、静電パッド25とリップL(下唇)との間で生じる静電容量Cが大きくなる。このため、高いセンサ値を得ることができる。
これに対して、リードカバー27の厚みが厚い咥え込み方向の奥側(すなわち、
図3及び
図4(a)における左側)では、リップL(下唇)と電極(静電パッド25)との間の距離dが比較的大きいために、リップL(下唇)がリードカバー27の側からマウスピース2に触れた際、静電パッド25とリップL(下唇)との間で生じる静電容量Cがあまり大きくならない。このため、得られるセンサ値が低くなってしまう。
【0023】
このため、本実施形態では、
図4(c)に示すように、リードカバー27の厚みが厚く、リップL(下唇)と電極(静電パッド25)との間の距離dが遠くなってしまう咥え込み方向の奥側(すなわち、
図3及び
図4(c)における左側)ほど、電極の面積A、すなわち、静電パッド25の表面積を大きくしている。
これにより、咥え込み側の一端(すなわち、咥え込み方向の手前側、
図3及び
図4(c)における右側)に位置する静電パッド25(例えば
図4(c)におけるP1)でも、咥え込み側の他端側(すなわち、咥え込み方向の奥側、
図3及び
図4(c)における左側))に位置する静電パッド25(例えば
図4(c)におけるP11)でも、静電パッド25とリップL(下唇)との間で生じる静電容量Cがほぼ同じとなり、静電パッド25から出力されるセンサ値の最大出力値がほぼ同じになるように調整される。
なお、
図4(c)に示す静電パッド25(P1からP11)の大きさや形状は一例であり、リードカバー27の厚みや形状に応じて適宜調整される。
また、本実施形態では、静電パッド25を11個配置する場合を例示したが、リップ検出部20の静電パッド25の数量、配置及び形状等については、必要とされる仕様等に基づいて、適宜設定することができる。
【0024】
基板24aには、静電パッド25(P1からP11)の静電容量の変化をセンサ値としてセンシングするセンシング部26が設けられている。
本実施形態では、センシング部26はマイコンで構成されている。なお、センシング部26は、静電パッド25(P1からP11)の静電容量の変化をセンシングすることのできるものであればよく、マイコンに限定されない。また、本実施形態では、センシング部26が基板24aの下面(
図4(a)において下側の面)に設けられている場合を図示しているが、センシング部26が設けられる位置等も図示例に限定されない。
前述のように、センシング部26は、静電パッド25(P1からP11)とともに静電容量方式のタッチセンサであるリップ検出部20を構成する。
【0025】
本実施形態では、複数の静電パッド25(本実施形態ではP1からP11)のそれぞれについてセンサ値の最大出力値が予め取得されており、各静電パッド25毎の最大出力値に応じた係数がROM4等のメモリに予め記憶されている。
そして、センシング部26は、複数の静電パッド25(P1からP11)から出力されるセンサ値に、静電パッド毎の最大出力値に応じた係数をかけてセンサ値の補正を行う。
図5に、メモリに記憶される補正用の係数の一例を示す。
例えば、静電パッド25のうち、最も咥え込み方向の手前側に配置されている静電パッド25(P1)のセンサ値の最大出力値(
図5において「最大センサ値」)が、静電パッド25の最大センサ値(すなわち直接触れた際に出力される最大の出力値)255に対して255である場合、係数は255/255となり「1」である。また、この静電パッド25(P1)よりも咥えこみ方向の奥側に配置されている静電パッド25(P7)のセンサ値の最大出力値(
図5において「最大センサ値」)が、225である場合、係数は255/225となり「1.1333・・・・」である。さらに、咥え込み方向の最も奥側に配置されている静電パッド25(P11)のセンサ値の最大出力値(
図5において「最大センサ値」)が、165である場合、係数は255/165となり「1.5454・・・・」である。
なお、前述のように、本実施形態では、各静電パッド25は、リードカバー27の厚みに応じて表面積を調整されており、各静電パッド25(P1からP11)における最大センサ値のばらつきは
図5に示すほど大きくはないと予想されるが、製造上のばらつきや誤差等もあるため、各静電パッド25(P1からP11)について予め補正用の係数を持つことが好ましい。
【0026】
また、センシング部26は、複数の静電パッド25(P1からP11)から出力されるセンサ値から、センサ値の合計やリップL(下唇)の接触面積を算出する。
例えば、複数の静電パッド25(P1からP11)から出力されるセンサ値が下記表1に示すようなものであった場合、センサ値の合計は、90+120+150+120+90であり、「570」となる。
また、同様に、センサ値が表1に示すようなものである場合、リップL(下唇)は、静電パッド25のうちP5からP9までの5つに接触している。このため、リップL(下唇)の接触面積は、「5」となる。
【表1】
【0027】
さらに、本実施形態のセンシング部26は、複数の静電パッド25(P1からP11)から出力されるセンサ値から、リード部材22に接触しているリップL(下唇)の重心位置を算出し取得する。
リップL(下唇)の重心位置x
Gは、下記式2により算出することができる。
式2において「m
1〜xm
n」は各静電パッド25(P1からP11)のセンサ値(「
1〜
n」は「P1〜P11」に対応。なお、係数をかけることで補正されている場合には補正後の値)であり、「x
1〜x
n」は各静電パッド25の位置(すなわち、パッド番号「P1〜P11」)である。
【数1】
【0028】
この式2に、表1に示す数値を当てはめると式3のようになる。
複数の静電パッド25(P1からP11)から出力されるセンサ値が表1に示すようなものである場合、リード部材22に接触しているリップL(下唇)の重心位置は、式3に示すように「7」となる。
【数2】
【0029】
なお、ここでは、簡易的に、リップL(下唇)の重心を静電パッド25のP1からP11のいずれか(すなわち11段階のいずれか)に位置付けたが、リップL(下唇)の重心位置はこれに限定されない。
センシング部26がリップL(下唇)の重心位置を算出する場合、例えば、P1からP11の静電パッド25を1軸のスライダとして扱い、例えばP1からP11を「0」から「127」の128段階に対応付けてもよい。
この場合、例えばリップL(下唇)の重心位置がP1からP11のうちのP6にある場合には、128段階中の64と位置づけられる。
このように、P1からP11を「0」から「127」の128段階に対応付けてリップL(下唇)の重心位置を算出することにより、例えばリップL(下唇)の重心位置がP1からP11のうちのP6とP7の間にある場合等、P1からP11の11段階で算出した場合には端数が出るような場合でも、より細かく重心位置を特定することができる。
【0030】
また、センシング部26は、静電パッド25から何らかのセンサ値が出力された場合でも、当該出力されたセンサ値が所定のノイズ閾値よりも低い場合には、当該静電パッド25からの出力をノイズであるとみなして、当該当該静電パッド25からのセンサ値を「0」とする。なお、所定のノイズ閾値をどの程度とするかは、適宜設定される。
静電パッド25は、リップLが触れていなくてもわずかな刺激等によってセンサ値を出力することがある。このため、上記のように、所定値以下のセンサ値をカットすることにより、ノイズが除去されたより正確なリップL(下唇)の位置検出を行うことができる。
【0031】
また、基板24aの上面(本実施形態ではセンシング部26の設けられている面とは反対側の面。
図4(a)において上側の面)には、噛圧検出部28が設けられている。
噛圧検出部28は、演奏者が歯によって噛む圧力を検出する圧力センサで構成される。
【0032】
次に、本実施形態におけるリード部材22、マウスピース2及びこれを適用した電子管楽器100の作用について説明する。
【0033】
本実施形態において、マウスピース2のリード部材22を形成する際には、リップ検出部20の静電パッド25(P1〜P11)のセンサ値の最大出力値がほぼ同じとなるように、予めリードカバー27の厚み形状に応じて静電パッド25の表面積を調整する。すなわち、リードカバー27の厚みが薄い咥えこみ方向の手前側(
図4(a)から
図4(c)において右側)では電パッド25の表面積を小さくし、咥えこみ方向の奥側(
図4(a)から
図4(c)において左側)に向かってリードカバー27の厚みが次第に厚くなっていくにしたがい、電パッド25の表面積を大きくしていく。
また、このように表面積を調整した状態の各静電パッド25について、それぞれ予め最大出力値を検出し、静電パッド25の性能上本来得られるべき最大出力値に応じた係数を算出して、これをROM4等のメモリに格納する。
このようにして、各静電パッド25(P1〜P11)のセンサ値の最大出力値がほぼ同じとなるように調整したリード部材22をマウスピース本体21に取り付け、マウスピース2が完成する。そして、これを管楽器本体1の一端側に取り付けることにより、本実施形態の電子管楽器100が完成する。
【0034】
本実施形態の電子管楽器100は、
図6に示すように、電源がONとなると(ステップS1)、CPU3が操作子11から入力された操作情報と、息圧検出部6から入力された息圧情報と、リップ検出部20から入力されたリップLの接触の検出情報、噛圧検出部28から入力された噛圧の検出情報と、に基づいて、楽音の生成を音源7に指示する。
例えば、息圧検出部6から入力された息圧情報が一定レベルを超えると、CPU3はノートオン信号を出力して、楽音を生成するよう音源7に指示する。
音源7により生成される楽音は、例えば、操作子11からCPU3に入力された操作情報としての音高情報に基づいて音高が設定され、リップ検出部20から入力されたリップLの検出情報に基づくリップLの接触位置(本実施形態では、リップLの重心位置)及びリップLの接触面積等や、噛圧検出部28から入力された噛圧の検出情報等にしたがい、例えば、楽音の音色、音量、高さの少なくとも1つが微調整される。
【0035】
ここで、
図6を参照しつつ、リップ検出部20のセンシング部26によるリップLの接触の検出情報の取得処理について説明する。
本実施形態において、センシング部26は、11個の静電パッド25(P1〜P11)全てからセンサ値を取得する(ステップS2)。また、取得されたセンサ値に各静電パッド25毎の係数をかけて(ステップS3)、静電パッド25(P1〜P11)毎のセンサ値の最大出力値のばらつきを補正する。
そして、補正後のセンサ値が所定のノイズ閾値よりも低い静電パッド25については、何らかの出力があってもこれをノイズとみなして、当該静電パッド25からのセンサ値を「0」とする(ステップS4)。
【0036】
センシング部26は、11個の静電パッド25(P1〜P11)全てのセンサ値の合計が「0」であるか否かを判断し(ステップS5)、センサ値の合計が「0」である場合(ステップS5;YES)には、センシング部26は、リード部材22に全くリップL(下唇)が触れていない状態であると判断してステップS2に戻り、以降の処理を繰り返す。
他方、センサ値の合計が「0」でない場合(ステップS5;NO)には、センシング部26は、前記式2を用いてリップLの重心位置を算出する(ステップS6)。また、センシング部26は、11個の静電パッド25(P1〜P11)から取得したセンサ値の合計を算出する(ステップS7)。さらに、センシング部26は、リップLの接触面積を算出する(ステップS8)。
ステップS6からステップS8でセンシング部26により算出された結果(検出情報)は、CPU3に出力されて、上述のように、音源7により生成される楽音を調整する要素として用いられ、リップLの接触状態等に応じた楽音がサウンドシステム8のスピーカ等から出力される。
【0037】
以上のように、本実施形態によれば、電子管楽器100は、静電容量方式のタッチセンサであるリップ検出部20によってリップLのリード部材22への接触状態等を検出する。
リード部材22には、演奏者のリップLや舌Tが直接基板24等に接触しないように、咥え込み方向の手前側から奥側に向かって厚みが暫増する板状のリードカバー27(ヴァンプ部)が設けられているが、本実施形態では、静電パッド25は、リードカバー27の厚みの変化に応じて、咥え込み方向の手前側から奥側に向かって徐々に表面積が大きくなるように形成されている。
これにより、各静電パッド25の最大出力値をほぼ一定とすることができ、リップLの重心位置を算出する際に正確な値を算出することができる。
そして、このようにして算出されたリップLの重心位置をCPU3による音源7の楽音制御に用いることができるため、演奏者の意図に沿ったアコースティック管楽器の演奏表現をよりよく実現でき、良好な楽音を表現することができる。
また、センシング部26は、リップLの検出情報として、複数の静電パッド25から出力されるセンサ値からリード部材22に接触するリップLの重心位置を取得する。
このように、リップLの重心位置を取得することにより、ノイズに左右されにくい正確なリップLの位置情報を取得することができる。また、リップLの重心位置をリップLの位置情報とする場合には、静電パッド25の数にかかわらず、例えば128段階等の詳細な位置情報を得ることができ、より演奏者の意図に沿った楽音制御を実現することができる。
このようにリップLの検出情報としてリップLの重心位置を取得する場合でも、各静電パッド25の最大出力値がほぼ一定となるように調整されているため、正確な重心位置を算出することができる。
また、本実施形態では、複数の静電パッド25のそれぞれについて予めセンサ値の最大出力値を取得し、センシング部26は、複数の静電パッド25から出力されるセンサ値に、静電パッド25毎の最大出力値に応じた係数をかけてセンサ値の補正を行う。このため、静電パッド25の表面積を調整するのみでは解消きれない製造段階でのばらつき等が生じている場合でも、各静電パッド25の最大出力値をより正確に揃えることができ、リップLの重心位置を算出する際等により正確な値を算出することができる。
【0038】
なお、以上本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で、種々変形が可能であることは言うまでもない。
【0039】
例えば、本実施形態では、複数の静電パッド25のセンサ値の最大出力値を揃えるために、ヴァンプ部としてのリードカバー27の厚みに応じて静電パッド25の表面積を変えるとともに、静電パッド25毎の最大出力値に応じた係数をかけてセンサ値の補正を行うこととしたが、複数の静電パッド25のセンサ値の最大出力値を揃える手法はこれに限定されない。
例えば、リードカバー27の厚みに応じて静電パッド25の表面積を変えることで対応し、係数によるセンサ値の補正は行わないこととしてもよい。
このようにすることで、予めROM4等に持たせておくデータ量が少なくて済み、また、センサ値を補正するための演算処理の時間も省略することができ、より迅速な楽音制御処理を行うことができる。
【0040】
また、本実施形態では、リードカバー27が、咥え込み側の一端から他端側に向かって(すなわち、咥え込み方向の手前側から奥側に向かって)厚みが増加(暫増)しており、静電パッド25は、リードカバー27の厚みの変化に応じて、咥え込み側の一端から他端側に向かって(すなわち、咥え込み方向の手前側から奥側に向かって)徐々に表面積が大きくなるように形成されている場合を例示したが、リードカバー27の形状はこれに限定されない。
本発明は、リードカバー27(ヴァンプ部)が、その厚みが不均一な(すなわち、厚みが場所により異なる)板状の部材である場合に広く適用することができ、この場合でも、静電パッド25は、リードカバー27の厚みが薄い部分ほど表面積が小さく厚みが厚い部分ほど表面積が大きくなるように形成される。
これにより、リード部材の厚みにかかわらず、各静電パッド25から出力可能なセンサ値の最大出力値をほぼ一定に揃えることができる。
【0041】
また、本実施形態では、電子管楽器本体1の形状が、アコースティック管楽器のサクソフォンの形状を模しており、電子管楽器100がサクソフォンである場合を例示したが、本発明を適用可能な電子管楽器100は、サクソフォンに限定されない。
例えば、クラリネット等、シングルリードを用いる他の管楽器のリード部材、マウスピース及び電子管楽器に本発明を適用してもよい。
【0042】
また、上記実施形態における電子管楽器100の各構成要素の細部構成及び細部動作に関しては、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能であることは勿論である。
【0043】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明の範囲は、上述の実施の形態に限定するものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲とその均等の範囲を含む。
以下に、この出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲に記載した発明を付記する。付記に記載した請求項の項番は、この出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の通りである。
〔付記〕
<請求項1>
マウスピース本体に対向配置され、唇が接触する面を有し、厚みが不均一であるヴァンプ部と、
前記ヴァンプ部と前記マウスピース本体との間に設けられた複数配列される静電パッドと、
前記静電パッドの静電容量をセンシングするセンシング部と、
を備え、
前記ヴァンプ部の厚みがより厚い部分に配置された前記静電パッドほど、前記ヴァンプ部の厚みが薄い部分に配置された静電パッドよりも表面積が大きいことを特徴とするリード部材。
<請求項2>
前記ヴァンプ部は、咥え込み側の一端から他端側に向かって厚みが増加しており、
前記静電パッドは、前記ヴァンプ部の厚みに応じて、前記咥え込み側の一端から他端側に向かって表面積が大きくなるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のリード部材。
<請求項3>
前記センシング部は、複数の前記静電パッドから出力されるセンサ値から前記リード部材に接触する前記唇の重心位置を取得することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のリード部材。
<請求項4>
前記センシング部は、複数の前記静電パッドから出力されるセンサ値に、前記静電パッド夫々のセンサ値の最大出力値を用いてセンサ値の補正を行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のリード部材。
<請求項5>
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のリード部材と、
マウスピース本体と、
を備えることを特徴とするマウスピース。
<請求項6>
請求項5に記載のマウスピースと、
前記マウスピースが取り付けられる管楽器本体と、
前記管楽器本体に設けられ、前記センシング部によりセンシングされた結果に応じて、楽音の楽音制御を行う制御手段と、
前記制御手段によって制御された楽音を生成する音源部と、
を備えることを特徴とする電子管楽器。