特許第6589440号(P6589440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6589440
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/26 20060101AFI20191007BHJP
   H01M 10/28 20060101ALI20191007BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20191007BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALN20191007BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALN20191007BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20191007BHJP
   H01M 12/06 20060101ALN20191007BHJP
   H01M 12/08 20060101ALN20191007BHJP
【FI】
   H01M10/26
   H01M10/28 Z
   H01M2/16 P
   !H01M10/0567
   !H01M10/0585
   !H01M10/052
   !H01M12/06 G
   !H01M12/08 K
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-151179(P2015-151179)
(22)【出願日】2015年7月30日
(65)【公開番号】特開2017-33717(P2017-33717A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年4月13日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新型蓄電池先端科学基礎研究事業/革新型蓄電池先端科学基礎研究開発」共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】掛谷 忠司
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 憲一
(72)【発明者】
【氏名】中田 明良
(72)【発明者】
【氏名】荒井 創
(72)【発明者】
【氏名】小久見 善八
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−021956(JP,A)
【文献】 特開2011−040400(JP,A)
【文献】 特開2011−023358(JP,A)
【文献】 特開2006−120647(JP,A)
【文献】 特開平09−199163(JP,A)
【文献】 特開平07−161376(JP,A)
【文献】 特開2003−151569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00−10/04
H01M 10/06−10/34
H01M 10/05−10/0587
H01M 12/06
H01M 12/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンドライトを生成し得る金属及び/又はその化合物を活物質とする負極と、
正極と、
セパレータと、
デンドライトの生成を抑制するための添加物を含む電解質とを有する蓄電池であって、
前記添加物は前記電解質中を拡散又は泳動によって移動することができ、分子量が1000以上であり、
前記セパレータは、電池反応に寄与するイオンは透過するが、前記添加物の透過率がこれらのイオンよりも低いという、分子量による選択的な透過性を有する半透膜であり、
前記セパレータで区切られた前記負極側の領域における前記電解質中の前記添加物の濃度が、前記正極側の領域における濃度よりも高く、前記添加物が、正極側の領域で分解消失したり、副反応を起こすことが抑制されていることを特徴とする蓄電池。
【請求項2】
前記セパレータがイオン交換膜であることを特徴とする請求項1に記載の蓄電池。
【請求項3】
前記添加物は、前記蓄電池における前記負極の充放電特性を高めることが可能な物質であることを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄電池。
【請求項4】
前記添加物は、前記デンドライトを生成し得る金属及び/又はその化合物の前記電解質への溶解度を低下させることが可能な物質であることを特徴とする請求項1〜のいずれか記載の蓄電池。
【請求項5】
前記添加物は、有機物であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の蓄電池。
【請求項6】
前記負極側の領域における前記電解質の粘度が、70Pa・s以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の蓄電池。
【請求項7】
前記電解質がアルカリ電解液であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の蓄電池。
【請求項8】
前記正極の最大作動電位が、Hg/HgO電極の電位に対して、0.4V以上であることを特徴とする請求項に記載の蓄電池。
【請求項9】
前記セパレータが陰イオン交換膜であることを特徴とする請求項又はに記載の蓄電池。
【請求項10】
前記セパレータがグラフト重合された膜であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の蓄電池。
【請求項11】
前記イオン交換膜は、ポリオレフィンを基材としていることを特徴とする請求項10のいずれかに記載の蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型軽量化が進む中で、電源として高エネルギー密度電池の需要が増々高まっている。リチウムや亜鉛等の金属を負極活物質に含む蓄電池は、単位質量当りのエネルギー密度や出力密度が高いという利点があり、電子機器や車載用の電源として実用化や可能性の検討が行われている。
【0003】
しかしながら、負極活物質に含まれるリチウムや亜鉛等の金属からはデンドライトが成長してセパレータの貫通ショートを起こすという問題があり、充放電サイクル寿命が短くなる原因になっていた。このような問題に対して、電解質に添加物を加えることが従来から行われている。
【0004】
特許文献1には、「分子内に炭素原子を2個以上有し且つヒドロキシル基を1個以上有する有機物を少なくとも含むことを特徴とするアルカリ電池用電解液。」(請求項1)の発明について記載されている。
この発明は、段落[0007]に記載の「副反応により生じる水素ガスの発生や、亜鉛の析出時に発生するデンドライト、亜鉛の形状変化を抑制して、長期の充放電サイクル及び優れた充放電効率を実現し得るアルカリ電池用電解液及びアルカリ電池を提供する」ことを目的とするものである。
そして、段落[0017]には、「ヒドロキシル基は5個以下であることが好ましい。」と記載され、段落[0019]、[0020]には、前記有機物として、炭素数2〜6の一価アルコール、二価アルコール、三価アルコールが挙げられている。
【0005】
特許文献2には、「負極と正極とを電解液を介して配置した二次電池であって、前記負極は、金属イオンを吸蔵放出する材料を負極活物質とするものであり、前記電解液は、ポリアルキレンイミン類、ポリアリルアミン類及び非対称ジアルキルスルフォン類からなる群より選ばれた少なくとも1種のデンドライト生成防止剤を含むものである、二次電池。」(請求項1)であって、「前記負極は、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム及びそれらの合金からなる群より選ばれた材料を含む、‥二次電池。」(請求項6)の発明が記載されている。
この発明は、「デンドライトの生成を抑制して充放電を繰り返し実行することが可能な二次電池を提供することを主目的とする」(段落[0005])ものである。
そして、段落[0018]には、ポリエチレンイミン(PEI)を1%重量添加した6N水酸化水溶液を電解液とする亜鉛−空気電池では、デンドライトの生成が抑制され、充放電を繰り返し実行することが可能であったことが記載されている。
【0006】
特許文献3には、「負極活物質として亜鉛あるいは亜鉛合金を含有する負極と、正極と、セパレータと、アルカリ電解液とを備えてなるアルカリ亜鉛電池であって、上記アルカリ電解液が、10重量%〜30重量%の水酸化カリウム水溶液にカチオン性有機物を含有させてなる‥アルカリ亜鉛電池。」(請求項1)であって、前記カチオン性有機物が、「第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、第三級スルホニウム塩のいずれか1種以上」(請求項2)であり、「二次電池である‥アルカリ亜鉛電池。」(請求項7)の発明について記載されている。
この発明は、段落[0076]に記載の「水素ガス発生に伴う電池の膨張、漏液や、亜鉛負極における樹枝状あるいは海綿状の亜鉛の不均一な成長による内部短絡を防止し、漏液性やサイクル寿命に優れたアルカリ亜鉛二次電池を実現する」ことを目的とするものである。
また、アルカリ亜鉛二次電池についての実施例(段落[0171]〜[0245])として、電解液に添加するカチオン性有機物には、「塩化n−ドデシルトリメチルアンモニウム」をはじめ、長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩が記載されており、段落[0216]には、「カチオン性有機物を0.1M以上飽和量以下において確実に溶解させるには、水酸化カリウム水溶液の濃度を30重量%以下とすることが好ましい」と記載され、段落[0229]には、「、カチオン性有機物の長鎖アルキル基の炭素数が3以上の場合に、アルカリ亜鉛二次電池の漏液および内部短絡が著しく抑制されることが判る。但し、前記置換基が炭素数15より大きい場合、特に21以上の場合においては放電容量が低下するため、カチオン性有機物の長鎖アルキル基の炭素数は3〜20、特に3〜15の範囲が好ましい」と記載されている。
【0007】
特許文献4には、段落[0001]に記載の「ニトリル化合物を用いた電極表面被覆形成剤」についての発明が記載されている。段落[0003]には、「リチウムイオン電池安全性の向上のために高温での電解液の安定性の向上が求められている。」という課題が記載されており、段落[0051]には、ニトリル化合物について、「これらの化合物によって電極表面に安定な保護膜が形成されることにより、充放電効率が向上し得る。また、リチウム金属のデンドライト現象も安定な保護膜により抑制され得る。」、段落[0052]には、「本発明の電極表面被膜形成剤に用いられるニトリル基を有する化合物は、単独で用いても良いが、通常用いられている有機溶媒系電解液に対して通常0.1〜80重量%程度、好ましくは1〜50重量%程度、より好ましくは5〜30重量%程度含まれる。」と記載されている。
【0008】
特許文献5には、電極活物質が「金属亜鉛」である「金属空気電池」(請求項1、11)について、「空気極6は、電解液槽1に溜める電解液3と接触するイオン交換膜8と接触するように設けてもよい。イオン交換膜8は、アニオン交換膜であってもよい。‥アニオン交換膜は、固定イオンである陽イオン基を有するため、電解液中の陽イオンは空気極6に伝導することはできない。これに対し、空気極6で生成した水酸化物イオンは陰イオンであるため、電解液へと伝導することができる。このことにより、金属空気電池45の電池反応が進行させることができ、かつ、電解液3中の陽イオンが空気極6に移動するのを防止することができる。このことにより、空気極6における金属や炭酸化合物の析出を抑制することができる。」と記載されている。
【0009】
特許文献6には、「電解液保持性の多孔性絶縁膜と陽イオン交換膜からなるセパレータの多孔性絶縁膜側に正極層を有し、陽イオン交換膜側に負極層を有することを特徴とするLi二次電池。」(請求項1)の発明について記載されている。段落[0003]には、「電池寿命の短期化問題は、起電力や充放電容量の向上を目的にリチウムやリチウム合金、特にリチウムがリッチなリチウム合金を負極に用いるほど著しい。」との課題が記載されており、段落[0008]には、「従来の多孔性絶縁膜からなるセパレータの負極層側に陽イオン交換膜を付加することにより、負極表面でリチウムが化合物化して析出することを防止、ないし抑制した」と記載されている。
【0010】
特許文献7には、「空気拡散層、撥水膜、正極触媒層、及びセパレ−タが、空気孔を有する正極缶に順次積層され、負極容器に収容されたゲル状亜鉛負極がセパレ−タを介して前記正極触媒層に対向配置される空気亜鉛電池であって、前記セパレータは、半透膜もしくは微多孔膜からなる第1の層、及び不織布もしくは織布からなる第2の層を有しており、前記第2の層が前記正極触媒層側に位置するようにセパレータを配置することを特徴とする空気亜鉛電池。」(請求項1)について、「セパレータの正極触媒層側に配置される不織布、もしくは織布は、半透膜や微多孔膜と比較して保液性に優れており、セパレータと触媒層との間での接触抵抗を低下させることで、水、水酸化物イオンがスムーズに移動する。特に、触媒層側のセパレータにおける電解液不足に起因する内部抵抗の上昇を抑制することができる。」(段落[0014])と記載されている。
【0011】
特許文献8には、「汞化亜鉛粉末とアルカリ電解液とゲル化剤とを混練したゲル状亜鉛陰極を用いる空気電池において、前記アルカリ電解液が苛性ソーダ、もしくは苛性カリの水溶液から成り、その溶液濃度を4〜12mol/l、配合比を0.3〜3wt%の範囲とし、前記ゲル化剤が分子量100,000〜5,000,000のカルボキシビニルポリマーから成り、その配合比を0.3〜3wt%の範囲としたことを特徴とする空気電池。」の発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2013−84349号公報
【特許文献2】特開2009−93983号公報
【特許文献3】特開2003−297375号公報
【特許文献4】特開2014−199815号公報
【特許文献5】特開2014−44908号公報
【特許文献6】特開平8−130034号公報
【特許文献7】特開2005−123059号公報
【特許文献8】特開昭60−136182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1〜4に記載された発明は、リチウムや亜鉛等のデンドライトを生成し得る金属を負極活物質に含む蓄電池において、前記金属の電解質への溶解度を低下させる特定の添加物を電解質に有することにより、充放電サイクル性能の悪化を誘発するデンドライドの生成等を抑制するものである。
しかし、これらの添加物は、高電位における安定性が不十分であるから、正極側の領域で分解消失して,充放電効率を低下させるため、実用化が困難であった。
【0014】
特許文献5には、金属空気電池において、セパレータにアニオン交換膜を用いることが記載されており、電解質中を陽イオンが正極へ移動することを防止し、正極における金属の析出を抑制することが記載されている。
また特許文献6には、リチウムやリチウム合金を負極に用いる電池の負極側に陽イオン交換膜からなるセパレータを配置することにより、負極表面でリチウムが化合物化して析出することを抑制することが記載されている。
しかし、特許文献5,6には、蓄電池におけるデンドライトの生成等を抑制するための添加剤を加えた電解質について、何ら記載されていない。
【0015】
特許文献7には、ゲル状亜鉛極側に半透膜もしくは微多孔膜からなる第1の層が位置するようにセパレータを配置した亜鉛−空気電池が記載されているから、この亜鉛−空気電池では、半透膜に接する亜鉛極側の電解質にゲル化剤が添加されているといえる。しかし、特許文献8に記載されるように、亜鉛極のゲル化剤は、100,000〜5,000,000の分子量を有する添加物を電解質に添加してゲル化するものであるから、ゲル化剤が空気極側に移動することは考えにくい。
【0016】
本発明は、デンドライトを生成し得る金属を負極活物質に含む蓄電池において、デンドライトの生成を抑制するための電解質中の添加物が、正極側の領域で分解消失したり、副反応を起こすことを抑制し、充放電サイクル性能の優れた蓄電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するための本発明は、以下のとおりである。
本第一発明に係る蓄電池は、デンドライトを生成し得る金属及び/又はその化合物を活物質とする負極と、正極と、セパレータと、デンドライトの生成を抑制するための添加物を含む電解質とを有する蓄電池であって、前記添加物は前記電解質中を拡散又は泳動によって移動することができ、分子量が1000以上であり、前記セパレータは、電池反応に寄与するイオンは透過するが、前記添加物の透過率がこれらのイオンよりも低いという、分子量による選択的な透過性を有する半透膜であり、前記セパレータで区切られた前記負極側の領域における前記電解質中の前記添加物の濃度が、前記正極側の領域における濃度よりも高く、前記添加物が、正極側の領域で分解消失したり、副反応を起こすことが抑制されていることを特徴とする。
【0019】
本第発明に係る蓄電池は、前記第一発明において、前記セパレータがイオン交換膜であることを特徴とする。
【0020】
本第発明に係る蓄電池は、前記第一又は第二の発明において、前記蓄電池における前記負極の充放電特性を高めることが可能な物質であることを特徴とする。
【0021】
本第発明に係る蓄電池は、前記第一から第いずれかの発明において、前記添加物は、前記デンドライトを生成し得る金属及び/又はその化合物の前記電解質への溶解度を低下させることが可能な物質であることを特徴とする。
【0022】
本第発明に係る蓄電池は、前記第一から第いずれかの発明において、前記添加物は、有機物であることを特徴とする。
【0023】
本第発明に係る蓄電池は、前記第一から第いずれかの発明において、前記負極側の領域における前記電解質の粘度が、70Pa・s以下であることを特徴とする。
【0024】
本第発明に係る蓄電池は、前記第一から第いずれかの発明において、前記電解質がアルカリ電解液であることを特徴とする。
【0025】
本第発明に係る蓄電池は、前記第発明において、前記正極の最大作動電圧が、Hg/HgO電極の電位に対して、0.4V以上であることを特徴とする。
【0026】
本第発明に係る蓄電池は、前記第又は第の発明において、前記セパレータが陰イオン交換膜であることを特徴とする。
【0027】
本第発明に係る蓄電池は、前記第一から第いずれかの発明において、前記セパレータがグラフト重合された膜であることを特徴とする。
【0028】
本第十一発明に係る蓄電池は、前記第から第いずれかの発明において、前記イオン交換膜は、ポリオレフィンを基材としていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明による手段を採用することにより、充放電サイクル性能の優れた蓄電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明に係る蓄電池内における液分離の概念図
図2】透過試験に用いる二部屋式セルの概略図
図3】透過試験における添加物の分子量と透過度との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係る蓄電池は、デンドライトを生成し得る金属及び/又はその化合物を活物質とする負極と、正極と、セパレータと、添加物を含む電解質とを有し、セパレータによって、添加物の移動を抑制し、セパレータで区切られた負極側の領域における電解質中の添加物の濃度が、正極側の領域における濃度よりも高く構成されている。蓄電池を充放電せずに静置した状態で、負極側領域の添加物の濃度は、正極側の濃度よりもわずかでも高ければ、本発明の効果は奏しうる。なお、蓄電池の充放電中に一時的に発生する電解質中のイオンや添加物の偏在は、充放電していない状態ではイオンや添加物が均一に拡散してしまい、結局は正極側で分解されることになるため,本発明の範囲に含まれない。
【0033】
この電池構造を実現するためには、正極と負極とを隔離するセパレータとして、電池反応に寄与するイオン等は透過するが、添加物の透過率がこれらのイオン等よりも低いという、選択的な透過性を有する膜を用いることが好ましく、分子量による選択的な透過性を有する膜(半透膜)であることがより好ましい。半透膜は細孔径などの調整により、透過可能な分子量を調整することが比較的容易にできるため、電池設計の自由度が高くすることが可能である。
また、前記セパレータはイオン交換膜であることがさらに好ましい。電池反応に寄与するイオンは透過させやすくすることができるためである。
【0034】
上記の電池構造の概念図を、図1に示す。図1の隔膜(セパレータ)は、添加物の透過率が電池反応に寄与するイオンの透過率より低い半透膜又はイオン交換膜であることが好ましい。
【0035】
ここで、セパレータに用いる膜の選択的な透過性を確認する試験として、本発明の実験に用いた25μm厚のポリエチレンフィルムにアクリル酸をグラフト重合した膜(以下、「グラフト膜」という。)について、以下の透過試験を行った。
【0036】
<透過試験>
図2に示す二部屋式セルを用意し、直径12cmのグラフト膜(二部屋式セルの連通部直径が12cm)よりなる隔膜(セパレータ)で二部屋間を仕切り、一方の部屋には10mLの水を入れ、他方の部屋には表1に記載の各添加物が10mass%溶解している水溶液10mLを入れた。
25℃にて10日間保存後、添加物を添加しなかった部屋の水に含まれる炭素量を測定し、その炭素量から、添加物の含有量に換算した透過量を求めた。
また、二部屋の添加物濃度が等しくなる場合(換算透過量が5mass%)を透過率100%として、グラフト膜のそれぞれの添加物に対する透過率を求めた。その結果を表1及び図3に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
この透過試験の結果、当該膜は添加物の分子量の増大につれて透過率が低下し、分子量による選択的な透過性を有することがわかった。なお、本発明において、透過性を有さないとするのは、上記透過試験において5%未満の透過率を示す場合と定義する。すなわち、本実験にもちいた膜は、分子量1000以上の添加物に対して選択的な透過性を発現しているといえる。また、上記方法と同様の方法によって、4M水酸化カリウム溶液の透過試験を行った結果、当該膜はカリウムイオンおよび水酸化物イオンを透過することがわかった。
したがって、負極側の領域に電池特性を高める添加物を含有する電解質を配置し、正極側の領域に前記添加物が負極側の領域よりも少ない電解質を配置し、セパレータを当該膜とすることにより、負極側の領域の添加物の濃度を、正極側の領域の濃度よりも高く維持する蓄電池を得ることができる。
【0039】
本発明に係る添加物は、セパレータによる選択透過性を有する物質であれば、無機物、有機物のいずれでも使用可能である。中でも、有機物は、正極上で分解されることによって二酸化炭素などのガスが生じやすいため、密閉型電池では電池の変形が生じるなどの不都合が生じやすい。そこで,有機物添加剤を用いた場合でも選択透過性を有するセパレータと組み合わせることで、電池の密閉化を容易に達成できるなどの電池設計上の自由度が確保しやすいため好ましい。
【0040】
前記添加物は、蓄電池の充放電特性を高める性能を持つものであれば、どのようなものであってもよいが、負極の充放電特性を高めるものであるものが好ましく、特に負極の活物質上に安定な被膜を形成する等の機能を有することにより、デンドライトを生成し得る金属及び/又はその化合物の電解質への溶解度を低下させることが可能な物質であることが好ましい。例えば、特許文献1〜4に記載の添加物等を使用することが可能である。
ここで蓄電池および負極の充放電特性とは、サイクル特性のみならず、入出力抵抗や充電状態での容量維持などの特性も含みうる。また、負極の充放電特性を高める添加物を使用した場合、負極側の添加物濃度が高い本発明の効果は高い。
【0041】
前記添加物は、前記電解質中を拡散又は泳動によって移動することができるものであり、蓄電池を充放電をせずに静置した状態で、電解質中を移動することが可能なものである。すなわち、前記添加剤は、ゲル化するなどして負極近傍に固定化されていて、正極近傍に移動することができない添加剤は、本発明の範囲に含まれない。また、上記のような添加物が負極近傍に固定化されないということから、流動性をもつ液状の電解質を使用することができる。ここで液状とは一定以上の流動性を持っていればよく、前述のとおり負極近傍に添加剤が固定化され、正極近傍に移動することができない状態となっているものは、本発明の範囲に含まれない。
【0042】
前記添加物の負極側の領域における電解質の粘度は、高すぎないことが好ましい。流動性を有する粘度とすることにより、イオン伝導性を高め、蓄電池の充放電抵抗を下げることができる。また、電解質の流動性が高いと、負極側の添加物が正極側に移動しやすくなるから、選択透過性を有するセパレータが添加物の移動を抑制する効果が顕著に現れる。一方、後述する比較例4に示すように、分子量220,000のゲル化剤を添加し、粘度が70Pa・Sを超えてゲル化した電解質中では、ゲル化剤である添加物が電解質中を拡散又は泳動によって移動することができないため、選択透過性を有するセパレータを用いたことによる顕著な効果はない。
【0043】
負極側の添加物は、セパレータの選択透過性の効果が十分であるように、分子量が小さすぎないことが好ましい。分子量が1000以上であることが好ましく、5000以上であることがより好ましい。
一方、上記のように、分子量が大きい添加物を加えると、電解質の粘度が上昇してゲル化したり、溶解度が低下して、十分な量を添加することが困難になったりする傾向がある。そのような場合、例えば、ホモ重合体の一部のモノマーを他のモノマーに置換して、結晶性を乱したり、より親水性の高い官能基を導入したりすることにより、大きな分子量を有する添加物の溶解度を上げることができる。
【0044】
本発明は、デンドライトを生成し得る金属及び/又はその化合物を活物質とする負極を有する蓄電池であれば、水系、非水系のいずれの電解質を有する蓄電池に適用可能である。以下、電解質がアルカリ電解液であるアルカリ蓄電池の場合について説明する。
【0045】
本発明に係るアルカリ蓄電池は、負極が亜鉛、マグネシウム、アルミニウム又はそれらの合金を含有することが好ましい。亜鉛負極の場合、活物質は酸化亜鉛(ZnO)及び金属亜鉛(Zn)の一方又は両方であることが好ましい。
負極は、例えば、上記負極活物質の粉末、アセチレンブラック、PbO等の粉末に、水、及びポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンラバー等のバインダを加えてペーストを作製し、このペーストを発泡銅、発泡ニッケル等の基材に充填もしくは穿孔鋼板に塗布して、充分に乾燥させた後、ロール加工を施し、裁断することにより、作製することができる。
【0046】
本発明に係るアルカリ蓄電池は、正極が、ニッケル、酸化銀マンガン、空気等であることが好ましい。本発明では、添加物に対して選択透過性を有するセパレータを用いることにより、負極側の領域における添加物が正極側の領域へ透過することを抑制することができるため、最大作動電圧がHg/HgOの電極の電位に対して0.4V以上である正極を用いることができる。例えば、正極としては、オキシ水酸化ニッケルを主たる成分とする金属水酸化物と発泡ニッケルなどの集電体とで構成されたニッケル極、炭素材料と酸素還元触媒と結着剤で構成された空気極等を用いることができる。
【0047】
負極側の領域における添加物の添加量は、組成や分子量によって異なるが、後述の実施例によると、電解質100mLに対して下限として1g以上が好ましく,2.5g以上がより好ましく,特に5g以上が好ましい。上限としては15g以下が好ましく、12.5g以下がより好ましく、特に10g以下が好ましい。
1g/100mL以上とすることによって、充放電サイクル性能を向上させることができ、15g/100mL以下とすることによって、電解質の粘度が上がりすぎることを防ぐことができる。
【0048】
本発明における電解質としては、例えば、水にアルカリ金属の水酸化物を溶解させたものを用いることができ、アルカリ金属の水酸化物としては、KOH、NaOH、LiOH等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。水酸化物の濃度は、下限として3M以上であることが好ましく、4M以上であることがより好ましい。上限としては、9M以下であることが好ましく、6M以下であることがより好ましい。3M以上とすることにより、自己放電を抑制することができ、9M以下とすることにより、電解質の粘度の増大を抑制することができる。
【0049】
負極が亜鉛又はそれらの合金を含む場合、電解質は、酸化亜鉛を飽和濃度で含むことが好ましい。酸化亜鉛を含むことによって、負極に含まれる亜鉛の溶出を抑制することができる。
【0050】
本発明に係るセパレータは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン基材フィルムに、電子線加速装置によって加速された電子線を窒素雰囲気下で照射してラジカルを発生させた後、脱酸素されたアクリル酸溶液に浸漬してグラフト重合することにより得られた半透膜とすることができる。この膜はOHイオンを選択的に透過する陰イオン交換膜でもある。
ポリオレフィンを基材とすることにより、高い耐酸化性、耐アルカリ性を有するセパレータとすることができる。また、透水度や透気度を調整するために、この膜に不織布や微多孔膜等を積層して使用してもよい。
【0051】
本発明を非水電解質を有する蓄電池に適用する場合、負極は、リチウム又はリチウム合金を活物質とすることが好ましい。リチウム合金としては、リチウムにAl、Sn、Bi、In、Ag等を合金化したものが使用できる。
【0052】
正極の活物質としては、二酸化マンガン、五酸化バナジウムのような遷移金属化合物や、硫化鉄、硫化チタンのような遷移金属カルコゲン化合物、Li1+XMeO(1≦x、MeはCo、Ni及びMnから選択される一種以上の遷移金属)で表されるα−NaFeO型、又はLiMn等のスピネル型のリチウム遷移金属複合酸化物、これらの複合酸化物の遷移金属サイト又はリチウムサイトをAl、V、Fe、Cr、Ti、Zn、Sr、Mo、W、Mgなどの金属元素、若しくはP、Bなどの非金属元素で置換した化合物、LiFePO等のオリビン型のリン酸化合物を用いることができる。
【0053】
非水電解質に用いる非水溶媒は、非水電解質蓄電池に通常使用されるものから選択することができる。例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等を挙げることができるが、これらに限定されない。これらの溶媒は、通常、誘電率、粘度、作動温度域等を調整するために2種以上混合して用いられる。
【0054】
非水電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO、LiBF、LiAsF6、LiPF、LiB(C、LiSCN、LiBr、LiI、LiSO、Li10Cl10、NaClO、NaI、NaSCN、NaBr、KClO4、KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、(CHNBF、(CH)4NBr、(CNClO、(CNI、(CNBr、(n−CNClO、(n−CNI、(CN−maleate、(CN−benzoate、(CN−phthalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0055】
本発明においては、半透膜又はイオン交換膜であるセパレータで区切られた負極側の領域に、前記非水溶媒と前記電解質塩にさらに添加物を加えた電解質を配置し、正極側の領域には添加物を加えない電解質を配置して非水電解質蓄電池を組み立てればよく、イオン交換膜の選択透過性により、負極側の領域における添加物の濃度は、正極側の領域における濃度よりも高く維持される。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
<電解質の作製>
添加物として分子量13,000の変性ポリビニルアルコール(以下、「変性PVA-1」という。)を、純水に投入して、撹拌し、その後、温度を90℃まで上昇させてさらに撹拌した。変性PVA−1が十分に溶解することを確認した後、室温まで冷却し、添加物入りの水溶液を作製した。
純水にKOH粉末を溶解したアルカリ溶液を作製し、室温まで冷却した後、前記の添加物入りの水溶液を混合して、4M濃度のKOH(以下「4MKOH」と表記する。)100mLに添加物が5.0g含有されるように調整した。
さらに、その液にZnO粉末を過剰投入して25℃にて24時間撹拌した。その後、濾過して余剰分のZnOを取り除くことによって、添加物が添加された亜鉛飽和電解質を作製した。得られた電解質の粘度は4.93であった。
電解質の粘度(絶対粘度)は、相対粘度に密度を乗じて計算された値である。なお、本実験において各比重は、比重計(Anton Paar製DMA500)を用いて測定した。相対粘度は、粘度計(Anton Paar製AMVn)を用いて測定した。比重および相対粘度の測定温度は20℃であった。
【0057】
<電極の作製>
ZnO粉末、アセチレンブラック(AB)、PbO粉末を所定量秤量して撹拌した。その後、水およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョンを加えて、さらに撹拌してペーストを作製した。固形分は、それぞれ、ZnO:AB:PTFE:PbO=88:5:5:2(mass%)となるようにして、水分率はペースト全体の65mass%となるように調整した。そのペーストを厚み100mm、面積当たりの密度が0.45g/cmの発泡銅基材に充填して、充分に乾燥させた後、ロール加工を施した。これにより、厚さが0.35mmのZnO電極のシートを得た。この基材を2cm×2cmに裁断することによって、ZnO電極(以下、「亜鉛極」という。)を得た。この亜鉛極の理論容量は、100mAhとなるように、ペースト充填量を調整されている。
正極には、容量過剰のシンター式ニッケル電極を用いた。
【0058】
<イオン交換膜の作製>
厚さ25μmの架橋ポリエチレンフィルムに、電子線加速装置によって加速電圧を300kV、ビーム電流を10mAとした電子線を窒素雰囲気下で100kGy(キログレイ)照射し、あらかじめ窒素によって脱酸素されたアクリル酸20重量部、水79重量部、モール氏塩1重量部からなる溶液中に常温で3時間浸漬してグラフト重合したイオン交換膜を得た。
【0059】
<試験セルの作製>
上記のように作製した亜鉛極を、上記のイオン交換膜を用いて袋状に包んだ。さらにその上にポリプロピレンおよびポリエチレンを使用した繊維で構成された不織布を袋状に重ねて配置してセパレータとした。上記イオン交換膜の袋内に、上記の添加物が添加された電解質を、電極が十分に浸かる程度に注入した。この亜鉛極の両側に正極を配置し、これらの電極を容器に入れ、容器の正極側の領域には添加物が添加されていない4MKOHのアルカリ電解質を、正極が十分に浸かる程度、注入した。また、参照極としてHg/HgO電極を設けた。その後、電解質が充分に電極に浸透するまで静置した。これにより、実施例1に係る開放型の試験セルを作製した。
【0060】
(実施例2)
亜鉛極側の領域における電解質中の添加物が、分子量10,000の変性ポリビニルアルコール(以下、「変性PVA-2」という。)である以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る試験セルを作製した。亜鉛極側の領域における添加物を添加した電解質の粘度は、2.40であった。
【0061】
(実施例3)
実施例2で用いた変性PVA−2を4MKOH100mLに10.0g添加して亜鉛極側の領域における電解質を作製した以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る試験セルを作製した。亜鉛極側の領域における電解質の粘度は、3.79であった。
【0062】
(比較例1、2)
実施例1で用いたイオン交換膜に代えて、25μm厚のポリプロピレンの微多孔膜(水銀圧入法による孔径:0.043μm)で亜鉛極を包んだ以外は、それぞれ実施例1、2と同様にして、比較例1、2に係る試験セルを作製した。
なお、上記微多孔膜を用いて透過試験をおこなったところ、分子量22,000のポリビニルアルコールを11%透過した。すなわち、上記微多孔膜は、分子量22,000の添加物に対して、本発明における選択的な透過性を有していないことがわかった。
【0063】
(比較例3)
亜鉛極側の領域における電解質を、添加物を添加しないものにした以外は、実施例1と同様にして比較例3に係る試験セルを作製した。この電解質の粘度は1.50であった。
【0064】
(比較例4)
分子量が220,000であるポリアクリル酸(以下「PAA」という。)を、4MKOH100mLに対して1g添加したところ、粘度が70Pa・sを超えるゲル状電解質が得られた。このゲル状電解質を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例4に係る試験セルを作製した。
【0065】
<サイクル特性評価>
実施例1〜3、及び比較例1〜4の試験セルについて、以下の充電放電条件を繰り返して、25℃の環境下にて、サイクル試験を行った。
電流を0.5CmA(50mA)として、定電流定電圧(制限電位 1.55V)にて50mAh充電し、5分間休止した後、参照極に対して−0.8Vとなるように放電した。上記の条件にてサイクル試験を行い、初期容量の80%以下になったサイクル数をサイクル寿命として評価した。
サイクル試験の結果を、各添加物の分子量及び添加量、亜鉛極側のセパレータ、並びに亜鉛極側の電解質の粘度と合わせて、以下の表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
実施例1〜3、及び比較例1、2に係る試験セルでは、亜鉛極側の領域における電解質に、デンドライトの発生を抑制する添加物が添加されている。しかし、微多孔膜と不織布を積層したセパレータを用いた比較例1、2に係る試験セルでは、添加物が正極側の領域に容易に透過し、高電位による酸化分解を受けるため、添加効果が持続せず、サイクル寿命に至るサイクル数が少ないと考えられる。
これに対して、セパレータにイオン交換膜を用いた実施例1〜3に係る試験セルでは、イオン交換膜がOHイオンは透過するが、添加物の透過率がOHイオンの透過率より低い選択的な透過性(半透性)を有するため、正極側の領域への添加物の透過が抑制されて、亜鉛極側で有機添加物の濃度が維持されたことにより、サイクル寿命を長くすることができていたと考えられる。
【0068】
比較例3に係る試験セルでは、亜鉛極側の電解質にデンドライトの発生を抑制する効果をもたらす添加物が添加されていない。セパレータにイオン交換膜を用いても、サイクル寿命は短かった。
【0069】
比較例4に係る試験セルでは、電解質がゲル化しているので、添加剤がゲル電解質中を拡散又は泳動により移動し、正極上で酸化分解されることはないため、選択透過性を有するセパレータを用いたことによる顕著な効果がみられなかった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係る蓄電池は、電池反応に寄与するイオンは透過するが、電解液中の添加物は透過しない半透膜又はイオン交換膜をセパレータに用いることにより、負極側の領域における電解質に添加された添加物が正極へ透過することを抑制することができる。したがって、負極側の領域における前記添加物の濃度を、正極側の領域における濃度よりも高く維持することにより、負極に含まれる金属からのデンドライトの生成を抑制し、サイクル寿命を顕著に向上することができる。よって、電子機器、電気自動車等の電源としての利用が期待される。
図1
図2
図3