(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
<アルミニウム合金板>
本発明のAl−Si−Mg系アルミニウム合金板について詳細に説明する。
本発明のAl−Si−Mg系アルミニウム合金板は、Siの含有量が3質量%〜6質量%、Mgの含有量が0.4質量%〜2.4質量%、Feの含有量が1質量%以下、残部がAl及び不可避的不純物であり、24℃での導電率が45%IACS以下のアルミニウム合金板である。
【0018】
ここで、導電率について説明する。
上記導電率(%IACS)は、国際標準軟銅(International Annealed Copper Standerd)の電気抵抗値、1.7241×10−8Ω・mを100とし、合金板の導電率を相対比(%)で表示したものである。
【0019】
導電率は電子の流れやすさを示す指標であり、電子の流れやすさは、アルミニウム合金板の結晶構造や結晶組織によって変化する。そして、結晶構造や結晶組織は、アルミニウム合金板の強度と伸びに影響を与えるため、アルミニウム合金板の組成と共に上記導電率はアルミニウム合金板の機械的特性を表すものである。
【0020】
つまり、アルミニウムは高い導電率を示すものであるが、固溶体を多く含有する場合は他の元素がアルミニウム中に均一かつ無秩序に分布するため、純アルミニウムの導電経路が寸断されて導電率が大きく減少する。これに対し、晶出物、析出物はアルミニウム中に偏析し、純アルミニウムの導電経路が確立されるため、導電率への影響は小さい。
したがって、導電率はアルミニウム合金板の耐力及び伸びの代用評価とすることができる。高純度アルミニウムの電気抵抗を増加させる添加元素の影響を表1に示す。
【0022】
本発明のAl−Si−Mg系アルミニウム合金板は、24℃での導電率が45%IACS以下であり、30%IACS以上40%IACS以下であることが好ましい。
Al−Si−Mg系アルミニウム合金板の導電率が45%IACS以下であることで、固溶体を多く含み、アルミニウムの結晶形が多く保たれているため、110MPa〜200MPaの耐力と、24%〜50%の伸びを有する。
【0023】
次に、本発明のAl−Si−Mg系アルミニウム合金板を構成する各元素について説明する。
【0024】
本発明のAl−Si−Mg系アルミニウム合金板は、ケイ素(Si)を3〜6質量%含む。ケイ素は、砂塵の混入や、サッシ屑やロードホイール等のアルミニウムスクラップ材に多く含まれるものであり、ケイ素を含有するアルミニウム合金板とすることでアルミニウムスクラップ材を有効に利用できる。
【0025】
アルミニウム合金板がケイ素を含有することで、板材鋳造時の湯流れ性が向上し、アルミニウム合金板の耐力及び引張強さ、伸び性が向上する。ケイ素の含有量が3質量%未満では、鋳造時の流動性が低下することがあり、6質量%を超えると、24%以上の伸びが得られず成形性が低下することがある。
【0026】
本発明のAl−Si−Mg系アルミニウム合金板は、マグネシウム(Mg)を0.4〜2.4質量%含むものであり、マグネシウムの含有量は0.5質量%〜1.5質量%であることがさらに好ましい。
本発明においては、ケイ素(Si)の含有量3〜6質量%と上記マグネシウムの含有量とが相俟って、アルミニウム合金板の耐力及び引張強さ、伸びを向上させることができる。マグネシウムの含有量が0.4質量%未満では、耐力及び引張強さの向上が認められないことがあり、2.4質量%を超えると、24%以上の伸びが得られず成形性が低下することがある。
【0027】
本発明のAl−Si−Mg系アルミニウム合金板は、鉄(Fe)を1.0質量%以下含有する。鉄は、ステンレス鋼や鉄粉がスクラップ処理施設で混入し易いため、アルミニウムスクラップ材に多く含まれるものであり、鉄を含有するアルミニウム合金板とすることでアルミニウムスクラップ材を有効に利用できる。
【0028】
また、アルミニウム合金板が鉄を含有することで鋳造時の焼付き性が向上するが、鉄の含有量が1.0質量%を超えると、24%以上の伸びが得られず成形性が低下することがある。
【0029】
さらに、本発明のAl−Si−Mg系アルミニウム合金板は、銅(Cu)を1.2質量%以下含むことが好ましく、さらに、0.5質量%以上1.0質量%以下含むことが好ましい。
アルミニウム合金板が銅を含有することで耐力及び引張強さ、伸びを向上させることができる。Cuの含有量が1.2質量%を超えると、24%以上の伸びが得られず成形性が低下することがあり、また耐食性が低下することがある。
なお、銅は、銅線やダイカスト部品等から混入することが多い。
【0030】
上記不可避的不純物としては、例えば、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)等が挙げられる。これらの含有量は少ないことが好ましく、これら不可避的不純物の含有量は、Mnは0.6質量%以下、Tiは0.2質量%以下、Znは0.3質量%以下、その他、Cr、Ni, Pb、Sn等は各0.05質量%以下であることが好ましい。
【0031】
<製造方法>
本発明のAl−Si−Mg系アルミニウム合金板の製造方法について説明する。
本発明のAl−Si−Mg系アルミニウム合金板は、双ロールキャスト式による連続鋳造法により鋳造板を作製し、該鋳造板を冷間圧延、焼鈍、急冷することで板厚0.5〜3mmのアルミニウム合金板とすることができる。
【0032】
(鋳造板の作製)
双ロールキャスト式による連続鋳造法は、回転する一対の冷却された銅ロール(双ロール)の 間に、耐火物製の給湯ノズルにアルミニウム合金溶湯を注湯して、上記双ロール間で圧下すると共に急冷して、アルミニウム合金の薄板を作製する方法である。
双ロールキャストは、縦型の双ロールキャストであることが好ましい。双ロールキャストが縦型であることとでロール間隙において固相率が変化し難くアルミニウム合金溶湯が詰まり難い。
【0033】
双ロールキャスト式による連続鋳造法は、例えば100℃/秒以上で冷却することができ、この冷却速度は、従来のダイレクトチル鋳造法(DC鋳造法)やベルト式連続鋳造法に比べて1〜3桁大きい。 したがって、双ロールキャスト式による連続鋳造法で得られる鋳造板は非常に微細な組織となり、プレス成形性などの加工性に優れるアルミニウム合金板を得ることができる。
なお、DC鋳造などで鋳造した鋳塊を均熱処理後に熱間圧延を行う通常の製造方法では、鋳造の際の鋳塊にSi、Mg、Fe等が偏析するため、通常の熱間圧延では、Al−Si−Mg系アルミニウム合金の延性が著しく低下して割れが発生するため、加工すること自体が困難である。
【0034】
上記双ロールの表面は潤滑されていないことが好ましい。酸化物粉末(アルミナ粉、酸化亜鉛粉等)、SiC粉末、グラファイト粉末、油、溶融ガラスなどの潤滑剤を双ロール表面に供給すると冷却速度が遅くなり、結晶粒が粗大化してアルミニウム合金板の成形性が低下することがある。
また、潤滑剤の濃度や厚みの不均一による冷却のムラの発生が防止され、均一かつ充分な冷却速度が得られ、偏析が防止されて成形性を均一にすることができる。
【0035】
なお、上記冷却速度は、鋳造された板の鋳造組織における、互いに隣接するデンドライト二次アーム(二次枝)の平均間隔dを、交線法を用いて計測し(視野数3以上、交点数は10以上)、このdを用いて次式、d=62×C−0.337(但し、d:デンドライト二次アーム間隔mm、C:冷却速度℃/秒)から求めることができる。
【0036】
上記双ロールに注湯するアルミニウム合金溶湯の注湯温度は、液相線温度+5℃以上とすることが好ましい。液相線温度+5℃未満では成形時の固相率が高くなり、空気の巻き込み、または板厚中心相などのSi濃度が高くなり、冷間圧延性や成形性の低下が生じることがある。また、冷却速度を100℃/秒以上にすることができれば、注湯温度が高くても構わないが、液相線温度+30℃以下であることが好ましい。
【0037】
冷却速度が低下すると、金属間化合物等が粗大化したり、多量に晶出したりすることがあり、強度伸びバランスが低下し、プレス成形性が著しく低下することがある。
また、双ロールの圧下効果が小さくなって中心欠陥が多くなり、アルミニウム合金板の基本的な機械的性質が低下することがある。
【0038】
上記双ロールを回転させるときの周速は、10m/min以上とすることが好ましく、320m/min以上100m/min以下であることがより好ましい。ロールの周速が10m/min未満では、アルミニウム合金溶湯とロールとの接触時間が長くなり、鋳造板の表面品質が低下することがある。また、周速が速すぎると、充分凝固できず表面や内部に欠陥が生じやすくなり、実用板材として充分な品質が確保できない可能性がある。
【0039】
本発明では、選択的に、あるいは必要に応じて、前記双ロールに注湯後に、双ロール間で凝固しつつある板状鋳塊に対して、双ロールによって、300kN/m以下の圧下荷重を負荷しつつ鋳造してもよい。
【0040】
上記圧下荷重の負荷によって、注湯時や凝固中に発生したガスが、板状鋳片内から外部に放出されやすくなり、空隙の発生が抑制される。そして、後述する冷間圧延と相俟って空隙等の鋳造欠陥の量を、成形特性に影響を及ぼすことがない範囲にまで抑制することができる。
【0041】
双ロールキャスト式による連続鋳造法により、2〜5mmの鋳造板を作製することが好ましい。鋳造板の板厚を2〜5mmとすることで熱間粗圧延、熱間仕上げ圧延等の工程を省略することができ、生産性を向上させることができる。
【0042】
(冷間圧延)
本発明においては、上記双ロールキャスト式による連続鋳造法で作製された鋳造板に対して冷間圧延を行う。冷間圧延することで鋳造板中の結晶粒を微細化することができる。
【0043】
冷間圧延の圧下率((冷間圧延前の板厚−冷間圧延後の板厚)/冷間圧延前の板厚×100)は、50%〜90%であることが好ましく、60%を超えることがさらに好ましい。
冷間圧延の圧下率が50%以上とすることで、鋳造板の内部組織が細かく均質になると共に、板厚を均一に薄くすることができ、また、接触するロール表面が転写されて鋳造板の表面に光沢を付与することができる。
【0044】
(焼鈍)
焼鈍の温度範囲は、500℃以上液相線温度以下で行う必要があり、520℃〜550℃で焼鈍を行うことが好ましい。500℃以上であることでアルミ合金中の溶け込んでない元素を均一に溶け込ませて固溶体にすることができる。500℃未満では、十分な固溶状態が作れず、耐力が向上しないことがあり、液相線温度を超えると、液体と固体が共存している状態になり部分的に溶けてしまう。
【0045】
焼鈍を行う時間は5分間以上である。焼鈍は長時間行っても構わないが生産効率の観点から4時間以下であることが好ましい。
焼鈍は、バッチ式の空気炉や連続式の処理炉で行うことができる。
【0046】
(急冷)
本発明のアルミニウム合金板の製造方法では、焼鈍した後、直ちに急冷を行う。焼鈍によって得られた固溶状態を急速に冷却して過飽和固溶体とすることで、室温においても、高温と同じような結晶状態を保つことができ、耐力が向上する。
【0047】
急冷は、冷却速度10℃/秒以上で行うが、冷却速度はできるだけ速いことが好ましく、50℃/秒以上であることが好ましく、100℃/以上であることがより好ましい。冷却温度が遅いと、良好な過飽和固溶体が形成されず、機械的特性が低下することがある。急冷は板材を水に入れる等の水冷法により行うことができる。
上記冷却速度は熱電対で測定できる。
【0048】
<自動車部品>
本発明のAl−Si−Mg系アルミニウム合金板は、耐力が110MPa以上、伸びが24%以上であり、自動車用部品に要求される高い伸び性と高い耐性とを有し、プレス加工に優れるため、自動車の外装部品等に好適に使用することができる。
【0049】
また、自動車用部品、特にボディパネルとして用いられるアルミニウム合金板は、通常、室温に保持されてプレス加工された後に塗装焼付け処理が行われる。すなわち、アルミニウム合金板は自然時効の後、高温時効を受ける。
【0050】
しかし、本発明のAl−Si−Mg系アルミニウム合金板は、プレス加工や塗装焼付け処理等の自動車作製工程によっても、機械的特性、特に伸びの変化が少なく、耐力と伸びとのバランスが維持され、自動車用ボディパネル材料として好適に使用できる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0052】
<鋳造板の作製>
縦型の双ロール式連続鋳造装置を用いて、成分組成が異なる8種類の[鋳造板A〜H]を作製した。
具体的には、成分組成が調節された、液相線温度+20℃のアルミニウム合金溶湯を30m/分で回転する一対の銅製の双ロール間に、耐火性の給湯ノズルを用いて注湯し、冷却速度100℃/秒で凝固させて鋳造板を作製した。
[鋳造板A〜H]の組成及び板厚を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
[実施例1]
[鋳造板A]を冷間圧延で厚さ1mmの板材とし、100℃/分で昇温させ、550℃で1時間焼鈍した後、直ちに水冷により5秒間で30℃まで急冷して[合金板1]を作製した。
【0055】
[実施例2]
[鋳造板A]を[鋳造板B]に代える他は、[合金板1]と同様にして[合金板2]を作製した。
【0056】
[実施例3]
[鋳造板A]を[鋳造板C]に代える他は、[合金板1]と同様にして[合金板3]を作製した。
【0057】
[実施例4]
[鋳造板A]を[鋳造板D]に代える他は、[合金板1]と同様にして[合金板4]を作製した。
【0058】
[実施例5]
[鋳造板A]を[鋳造板E]に代える他は、[合金板1]と同様にして[合金板5]を作製した。
【0059】
[比較例1]
[鋳造板A]を[鋳造板F]に代える他は、[合金板1]と同様にして[合金板6]を作製した。
【0060】
[比較例2]
[鋳造板A]を[鋳造板G]に代える他は、[合金板1]と同様にして[合金板7]を作製した。
【0061】
[比較例3]
[鋳造板A]を[鋳造板H]に代える他は、[合金板1]と同様にして[合金板8]を作製した。
【0062】
[比較例4]
[鋳造板A]を冷間圧延で厚さ1mmの板材とし、100℃/分で昇温させ、550℃で1時間焼鈍した後、炉内で冷却速度70℃/時間で室温まで徐冷して[合金板9]を作製した。
【0063】
[比較例5]
[鋳造板A]を[鋳造板B]に代える他は、[合金板9]と同様にして[合金板10]を作製した。
【0064】
[比較例6]
[鋳造板A]を[鋳造板C]に代える他は、[合金板9]と同様にして[合金板11]を作製した。
【0065】
[比較例7]
[鋳造板A]を[鋳造板D]に代える他は、[合金板9]と同様にして[合金板12]を作製した。
【0066】
[比較例8]
[鋳造板A]を[鋳造板E]に代える他は、[合金板9]と同様にして[合金板13]を作製した。
【0067】
[比較例9]
[鋳造板A]を[鋳造板F]に代え、冷間圧延で厚さ0.5mmの板材の板材とする他は、[合金板9]と同様にして[合金板14]を作製した。
【0068】
[比較例10]
[鋳造板A]を[鋳造板G]に代える他は、[合金板9]と同様にして[合金板15]を作製した。
【0069】
[比較例11]
[鋳造板A]を[鋳造板H]に代える他は、[合金板9]と同様にして[合金板16]を作製した。
【0070】
<評価>
上記合金版1〜16を以下の方法で評価した。評価結果を表3に示す。
(導電率)
渦流導電率測定装置(AutoSigma 3000、GEインスペクション・テクノロジーズ株式会社製)を用いて、アルミニウム合金板1〜16の表面を任意に5箇所測定し、平均して平均導電率を測定した。
(引張試験)
JIS5号試験片を模擬して、
図1に示す形状の試験片を、試験片の長手方向が圧延方向と一致するように作製し、室温での引張試験により、0.2%耐力、引張強度、伸びを測定した。
【0071】
【表3】
【0072】
上記の評価結果から、Al−Si−Mg系アルミニウム合金板においては、焼鈍後に直ちに急冷することで導電率を45%IACS以下にすることができ、耐力が110MPa以上の合金板が得られることがわかる。
また、Al−Si−Mg系アルミニウム合金板の成分が、Siの含有量が3質量%〜6質量%、Mgの含有量が0.4質量%〜2.4質量%、Feの含有量が1質量%以下を具備することで伸びが24%以上の合金板が得られ、上記導電率と相俟って、自動車用部品に要求される耐力と伸びとを両立させたAl−Si−Mg系アルミニウム合金板が得られることがわかる。
【0073】
また、[合金板3]と[合金板5]について、自動車用部品の作製工程と同様に、引張塑性歪を与えて、加熱処理を行って評価した。
図2に[合金板3]の機械特性の変化、
図3に[合金板5]の機械特性の変化を示す。
【0074】
図2中、Aは[合金板3]の作製後、7日間室温で放置した後の
図1に示す形状の試験片、Bは[合金板3]の作製後、1日間室温で放置した後、引張り塑性予歪なしで170℃×20minのBH(Bake Hard)処理を行ったJIS5号試験片、Cは、[合金板3]の作製後、2日間室温で放置した後に2%の引張り塑性予歪を加えた後に170℃×20minのBH処理を行ったJIS5号試験片の機械特性(耐力(YS)、引張り強度(TS)、伸び(EL))を評価したものである。
【0075】
[合金板3]は、引張り予歪が加わったことによる若干の耐力の増加があるが、引張り強度、伸びは、BH処理の前後で大きな変化がないことが分かる。このときの導電率(%IACS)は、BH処理前後でほとんど変化は見られなかった。
【0076】
図3中、Aは[合金板5]の作製後、1日間室温で放置した後の
図1に示す形状の試験片、Bは[合金板3]の作製後、室温で1日間放置した後、2%の引張り塑性予歪を加えた後に170℃×20minのBH(Bake Hard)処理を行った
図1に示す形状の試験片の機械特性(耐力(YS)、引張り強度(TS)、破断伸び(EL))を評価したものである。
【0077】
引張り強度、伸びは、BH処理の前後で大きな変化がないことが分かる。特に伸びはBH処理前後で25%以上になった。このときの導電率(%IACS)はBH処理前後でほとんど変化は見られなかった。
【0078】
引張り塑性予歪を加えることによって、耐力の上昇がみられるが、引張り強度、破断伸びは、BH処理の前後で大きな変化がないことが分かる。特に伸びはBH処理前後でほぼ同等の値を示した。このときの導電率(%IACS)はBH処理前後でほとんど変化は見られなかった。
【0079】
本発明のAl−Si−Mg系アルミニウム合金板は、アルミニウムを主成分とし、Si、Mgが添加されたものである。A6016をはじめとする自動車用6000系アルミニウム合金は、本発明のアルミニウム合金板とはSi、Mgの添加量が異なるものの、BH処理によって耐力が上昇することが知られている。これは溶体化処理後のBH処理によってGP帯の形成による材料強化機構で説明されている。
【0080】
しかし、本発明の合金は6000系合金を上回るSi、Mgを添加しているにも関わらず、耐力の上昇等の強化が認められない。すなわち、冷間圧延後、550℃の熱処理の後に水中への投入による急冷を行っているにもかかわらず、170℃×20minのBH処理を行った後も強度、伸びは大きく変化していない。
そして、導電率もBH処理前後で大きく変化していないことから、本発明のアルミニウム合金板は、上記BH処理では材料の添加元素の固溶状態に大きな変化がないことがわかる。
【0081】
このような、本発明のアルミニウム合金板は、耐力と伸びとのバランスが自動車製造工程を経ても維持され、自動車パネル用材料として好適に使用できることがわかる。