特許第6589460号(P6589460)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6589460
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】パイ及びパイ複合食品
(51)【国際特許分類】
   A21D 13/19 20170101AFI20191007BHJP
   A21D 2/14 20060101ALI20191007BHJP
   A23G 9/50 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   A21D13/19
   A21D2/14
   A23G9/50
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-163503(P2015-163503)
(22)【出願日】2015年8月21日
(65)【公開番号】特開2017-38571(P2017-38571A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2018年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】太田 将明
(72)【発明者】
【氏名】山脇 祥夫
【審査官】 吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−057405(JP,A)
【文献】 特開平03−047030(JP,A)
【文献】 特開平06−292500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00−17/00
A23G 9/00−9/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
折りパイと、水分70重量%以下の冷菓素材を接着させた複合食品において、油脂を25〜50重量%含有する水中油型乳化油脂組成物を、8〜60重量%使用して油 分9.0〜30重量%の生地を調製し、当該生地で油脂組成物を折り込んだ後焼成する、折りパイの製造法で製造した折りパイを使用する、複合食品におけるパイの食感維持方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分の多い食品に接した状態で放置しても、サクサクとした食感を維持できるパイおよび、当該パイを使用したパイ複合食品に関する。
【背景技術】
【0002】
パイは、独特のサクサクとした食感が好まれる焼成菓子であり、他の素材と複合食品を形成して食される場合も多い。しかし、パイのサクサクとした食感は、水分により失われる場合がある。そのため、水分を含む素材と複合食品を形成する場合には、パイの食感を維持するための工夫がされる場合もある。
たとえば特許文献1においては、水分移行防止用組成物を低水分食品と高水分食品の界面に介在させることを特徴とする菓子の製造法について記載がある。また、含気泡チョコレート類を合わせて使用する方法として、特許文献2がある。
【0003】
一方、パイ生地に水中油型乳化油脂組成物を使用する発明を開示するものとして、特許文献3がある。ここでは、その効果として、「作業性が優れており、焼成後内層が均一で、浮きが良好で軽い食感、口溶けが良いパイ及び当該パイを得るためのパイ生地を提供する事が可能になった。更にパイ生地を含水物と共に焼成しても浮きが良好で軽い食感、口溶けの良いパイを提供することが可能になった。」旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−201985号公報
【特許文献2】特開2011−205958号公報
【特許文献3】特開2010−57405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、簡易な方法で、水分の多い食品と接した状態で放置してもサクサクとした食感を維持できるパイおよび、当該パイを使用したパイ複合食品を簡易な方法で提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意検討を行った。
特許文献1及び2に記載された方法では、いずれも、パイと他の高水分食品の間に他の素材を介在させる必要があり、作業が煩雑であった。
また、特許文献3においては、パイの食感維持について何ら開示がなく、参考とはならなかった。
【0007】
本発明者は更に検討を行った。すると、パイ生地において、油分を増やすことでサクサクとした食感を維持できる効果を付与できる可能性を見出した。しかし、パイ生地の油分を増やすと、それに伴いパイの調製が困難となり、簡易な方法とは言えなかった。
本発明者は、使用する油脂を、水中油型乳化油脂組成物として、パイ生地調製に使用した。そうしたところ、パイ生地中の油分を多くしても、パイ生地の調製が容易であり、かつ、サクサクとした食感維持もできることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、
(1)油脂を25〜50重量%含有する水中油型乳化油脂組成物を、8〜60重量%使用して油分68〜30重量%の生地を調製し、当該生地で油脂組成物を折り込んだ後焼成する、折りパイの製造法、
(2)(1)記載の方法で製造した折りパイを、水分を40〜70重量%含有する素材と接着させる、複合食品の製造法、
(3)折りパイと、水分を40〜70重量%含有する素材を接着させた複合食品において、(1)記載の方法で調製した折りパイを使用する、複合食品におけるパイの食感維持方法。
に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡易な方法で、サクサクとした食感を維持できるパイおよび、当該パイを使用したパイ複合食品を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
パイには、油脂をわずかしか含まない生地で、シート状油脂組成物を包み、何度も折り返して層を作る折りパイと、油脂を多く含む生地を使用する練りパイが存在する。
本発明では、通常は生地に油脂をわずかしか含まない生地を折りパイにおいて、生地に油脂を多く含有させることに特長がある。
【0011】
ここで、当該油脂をマーガリンやショートニングとして加えた場合は、パイ生地のまとまりが悪く、調製が困難となる場合がある。そのため本発明においては、油脂を25〜50重量%含有する水中油型乳化油脂組成物を使用する。ここで水中油型乳化油脂組成物における油脂の含有量は、26〜48重量%であることが望ましく、28〜46重量%であることがさらに望ましい。適切な油脂量の水中油型乳化油脂組成物を用いる事で、生地のまとまりがよく、容易に本発明の課題を解決できることとなる。
【0012】
本発明においては、水中油型乳化油脂組成物を8〜60重量%使用して生地を調製する。この量は、より望ましくは15〜58重量%であり、さらに望ましくは20〜56重量%である。適切な量の水中油型乳化油脂組成物を用いる事で、生地のまとまりがよく、容易に本発明の課題を解決できることとなる。
【0013】
本発明におけるパイ生地には、パイ生地として一般的に使用する素材を使用することができる。即ち、強力粉や薄力粉、食塩、水である。また、一部の油脂としてマーガリンやショートニングを使用することもできるし、それ以外の素材を使用することもできる。しかし、これらは本発明の効果に影響を与えない範囲での使用に限られることは言うまでもない。
【0014】
本発明においては、調製した生地でシート状の油脂組成物を包み、折り込みを行う。折り込み回数は適宜に設定することが出来るが、108〜432層が、良好な食感を発現するために望ましい。
【0015】
使用するシート状の油脂組成物としては油中水型乳化油脂組成物が望ましい。また、その使用量は生地に対して20〜40重量%が望ましく、より望ましくは25〜35重量%である。これら適切な条件のものとに折り込みを行うことで、サクサクと食感がよく、それを維持できるパイを得ることが出来る。
【0016】
本発明においては、シート状油脂組成物を折り込んだ後、焼成を行う。焼成条件としては、170〜190℃オーブンで20〜30分間焼成後、更に95〜110℃オーブンにて15〜25分間焼成することが望ましい。このような条件で焼成することで、食感の好ましいパイとすることが出来る。
【0017】
本発明においては、上記で調製したパイを、水分を40〜70重量%含有する素材と接着させ、複合食品とすることが出来る。
ここで、水分を40〜70重量%含有する素材としては、バニラアイス、チョコアイスを例示できる冷菓素材やカスタードクリーム、ジャム、餡を例示できるフィリング素材を挙げることが出来る。また、ミートペーストを例示できる惣菜素材を挙げる事ができる。このうち特に、冷菓素材を使用した場合に、本発明の効果がより顕著に現れ、好ましい複合食品、即ち複合食品を得ることが出来る。
なお、本発明で言う複合食品とは、パイと、それ以外の食品を接着して一体化し、そのまま食する食品のことをいう。すなわち、本発明に係るパイで、それ以外の食品を挟んだり、また、パイの中に他の食品を充填するような態様が想定される。
【0018】
以下に実施例を記載する。
【実施例】
【0019】
検討1
表1記載のパイ生地配合にて、以下に示す「○パイ生地調製法」に従い、パイ生地を調製した。
その後、当該生地を用いて、以下に示す「○折り込み、焼成法」により焼成パイとした。
得られたパイについて、「○食感維持評価法」により評価を行った。結果を表2に示した。
【0020】
表1 パイ生地配合
・ショートニングには不二製油株式会社製「パンパスデラックス30」を使用した。
・水中油型乳化油脂組成物Aには、不二製油株式会社製「ガトーノイエ22」を使用した。
・水中油型乳化油脂組成物Bには、不二製油株式会社製「クリアホイップN」を使用した。
【0021】
○パイ生地調製法
1.表に示す各実施例、比較例の原料すべてを、ミキサーボール(株式会社愛工舎製作所社製「ケンミックス メジャーKM−005」)へ入れた。
2.1速2分、2速5分で攪拌し、生地とした。
なお、上記条件で生地にオイルオフがみられる場合は、調製不可と判断した。
【0022】
○折り込み、焼成法
1.パイ生地に対し30重量%のシート状油中水型乳化油脂組成物を包み込んだ。シート状油中水型乳化油脂組成物としては不二製油株式会社製「アートピア200(M)」(油分82.1重量%)を使用した。
2.3つ折りを4回行った後、5℃で30分リタードし、更に3つ折りを 5回行い、5℃で30分リタードした。更に、2つ折りし、合計216層とした。
3.実厚1.8mmまで展延し、両面にピケを入れた。
4.40×80mmにカットした。
5.塗り卵及びグラニュー糖をつけ、上火160℃/下火140℃ 25分、100℃ 20分間焼成した。
【0023】
○食感維持評価法
1.「○折り込み、焼成法」で得られた焼成パイ(3×7cm)の表面に、アイスクリーム冷菓((明治社製「バニラ2L 業務用バルクアイス」)を3×7×1cmに切り出したものを載せ、更に、焼成同大きさのパイを載せサンドした。さらに、上から形が崩れない程度に抑え、アイスクリーム冷菓と焼成パイを密着させた。
2.1で得られたものを冷凍庫(−25℃)へ入れ、30日間放置した。
3.2の冷凍放置したもの(Aと称す)と、それぞれのサンプルについて焼成パイを載せてサンドしてすぐのもの(Bと称す)について、パネラー5名により食し、以下の基準で合議により評価採点した。
5点 AとBで食感が同等であると感じられるもの。
4点 AはBに比べわずかに湿気た食感であるが、ほとんど違和感ないと感じられるもの。
3点 AはBに比べ湿気た食感であるが、許容範囲と感じられるもの。
2点 AはBに比べ湿気た食感で、許容できないと感じられるもの。
1点 AはBに比べ明らかに湿気た食感で、許容できないと感じられるもの。
3点以上を合格とした。
【0024】
表2 結果
【0025】
考察
パイ生地の油分を一定の範囲とすることで、水分を比較的多く含む素材と接着保管しても、サクサクとした食感を維持できるパイを得ることが出来た。この場合、パイ生地の調製において一般的に使用される油脂組成物である、ショートニングの量を単に増やした場合は、生地調製時にオイルオフがみられ、調製できなかった。これに対し、水中油型乳化油脂組成物として添加した場合は、オイルオフも見られず、生地の調製ができた。