(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
熱間圧延後、加速冷却を行わずにH形鋼を製造する場合、鋼材の表面及び内部の冷却速度は共に小さな値となる。例えば、フランジ厚が100mmのH形鋼では、熱間圧延後、放冷すると、冷却速度は0.1℃/s以下となる。本発明者らは、冷却速度が遅い場合でも強度を確保できるように検討を行った。その結果、Cの含有量を0.03%以下に抑制し、Bを添加し、Ni量を高め、合金元素の添加により炭素当量C
eqを0.33〜0.50の範囲に制御すると、面積分率で80%以上の金属組織がベイナイトになり、硬質相であるMAの生成が抑制され、良好な靭性をも確保できるという知見を得た。
【0020】
さらに、本発明者らは、フランジ厚が40mm以上のH形鋼の靱性を低下させることなく強度を向上させるには、窒化物を形成するVを添加することが有効であるという知見を得た。Vは特に重要な元素であり、オーステナイト粒内にベイナイト変態の核生成サイトなるV窒化物を析出し、靭性の向上に寄与すると本発明者らは推定している。
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0022】
本発明のH形鋼が有する鋼組成は、質量%で、C:0.005〜0.03%、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.80〜1.60%、V:0.02〜0.12%、Ni:0.50〜1.00%、Al:0.005〜0.10%、Ti:0.001〜0.025%、N:0.0001〜0.0050%、B:0.0003〜0.0020%を含有し、残部がFe及び不純物からなる。以下に、本発明のH形鋼が有する鋼組成の成分について、説明する。ここで、含有量の「%」は、特に断りのない限り、質量%を意味する。
【0023】
(C:0.005〜0.03%)
Cは、鋼の強化に有効な元素であり、含有量の下限値を0.005%とする。好ましくは、Cの含有量を0.01%以上とする。一方、Cの含有量が0.03%を超えると、MAの生成量が過剰となり降伏強度の低下や靭性の低下を招く場合がある。そのため、C量の上限値を0.03%とする。靱性を向上させるためには、C量の上限値を0.02%とすることが好ましい。
【0024】
(Si:0.01〜0.50%)
Siは、脱酸元素であり、強度の向上にも寄与する。このような効果を得るため、本発明では、Si量の下限値を0.01%とする。一方、過剰なSiの含有は、MAの生成を助長し、降伏強度の低下と靱性の劣化をもたらす場合がある。そのため、Si含有量の上限値を0.50%とする。靱性を確保するためには、Si量の上限値は0.40%が好ましく、より好ましくは0.30%以下の含有量である。
【0025】
(Mn:0.80〜1.60%)
Mnは、焼入れ性を高める元素であり、ベイナイトの生成を促進し、H形鋼の強度の向上に寄与する。このような効果を得るために、Mnの含有量を0.80%以上とする。強度を高めるには、Mnの含有量を1.00%以上にすることが好ましく、1.30%以上が更に好ましい。一方、Mnの含有量が1.60%を超えると、MAの生成を助長し靱性を損なう場合がある。そのため、Mnの含有量の上限値を1.60%とする。Mnの含有量の好ましい上限値は、1.50%である。
【0026】
(V:0.02〜0.12%)
Vは、重要な元素であり、窒化物を形成して靱性の向上に寄与する。オーステナイトの粒内に析出したV窒化物は、変態核として作用し、ベイナイトの有効結晶粒を微細化する結果、靭性の向上に寄与すると推定される。このような効果を得るためには、Vの含有量を0.02%以上とする必要があり、好ましくはVの含有量を0.04%以上とする。しかし、Vを過剰に添加すると、析出物の粗大化に起因して靭性を損なうことがある。そのため、Vの含有量の上限値を0.12%とする。好ましくは、Vの含有量の上限値を0.10%とする。
【0027】
(Ni:0.50〜1.00%)
Niは、重要な元素であり、焼入れ性を高めてH形鋼の強度を上昇させる効果が大きい。また、靭性を低下させる悪影響が小さい。強度を上昇させる効果を得るためには、Niの含有量を0.50%以上とすることが必要である。一方、Niの含有量が過剰になると、MAの生成を助長して靭性の低下を招く場合がある。そのため、Niの含有量の上限値を1.00%とし、好ましくは0.90%以下の含有量とする。より好ましくは、Niの含有量の上限値を、0.80%とする。
【0028】
(Al:0.005〜0.10%)
Alは脱酸元素であり、本発明では、Alの含有量を0.005%以上とする。好ましくは、0.01%以上の含有量とする。ただし、Alの含有量が過剰になると、酸化物が粗大化して脆性破壊の起点となり、H形鋼の靭性が低下する場合がある。そのため、Alの含有量の上限値は0.10%とする。好ましくはAlの含有量の上限値を0.050%とする。
【0029】
(Ti:0.001〜0.025%)
Tiは、TiNを形成して、鋼中のNを固定する元素であり、BNの析出を抑制して固溶Bを増やし、焼入れ性を向上させる。このような効果を得るために、Tiの含有量、0.001%以上とする。また、TiNは、ピニング効果によってオーステナイトを細粒化する効果を有する。このような効果を得るために、Tiの含有量を0.008%以上とすることが好ましい。一方、Tiの含有量が0.025%を超えると、粗大なTiNが生成し、靱性を損なう場合がある。そのため、Tiの含有量の上限値を0.025%とする。好ましくはTiの含有量の上限を0.020%とする。
【0030】
(N:0.0001〜0.0050%)
Nは、TiNやVNを形成し、組織の細粒化や析出強化に寄与する元素であり、含有量を0.0001%以上とする。このような効果を得るために、Nの含有量を0.0010%以上とすることが好ましい。しかし、Nの含有量が過剰になると、母材の靭性が低下し、鋳造時の表面割れや、製造された鋼材の歪時効による材質不良の原因となる場合がある。そのため、上限値を0.0050%とする。好ましくは、N量の上限値を0.0040%とする。
【0031】
(B:0.0003〜0.0020%)
Bは、微量の添加で焼入性を上昇させる元素であり、ベイナイトの生成を促進し、強度を向上させる。このような効果を得るために、Bの含有量を0.0003%以上とする。好ましくは、Bの含有量を0.0008%以上とし、より好ましくは、0.00010%以上とする。一方、Bの含有量が0.0020%を超えると、MAの生成を助長して、靱性が低下することがある。そのため、Bの含有量の上限値を0.0020%とする。より好ましくは0.0015%である。
【0032】
P、S及びOは不純物であり、鋼組成に含まれる場合がある。これらの元素の含有量は、特に限定しないが、P及びSは、凝固偏析による溶接割れや靱性低下の原因となる場合がある。そのため、これらの元素の含有量は、低減することが好ましい。Pの含有量は、0.03%以下に制限することが好ましく、より好ましくは0.02%以下、更に好ましい上限値は0.01%である。また、Sの含有量は、0.02%以下に制限することが好ましく、より好ましくは0.01%以下、更に好ましい上限値は0.005%である。Oは過剰に含有させると、固溶酸素の影響や酸化物粒子の粗大化によって靭性が低下する場合がある。そのため、Oの含有量の上限値は0.005%とすることが好ましい。Oの含有量の上限値は、より好ましくは0.0030%、更に好ましくは0.0020%である。
【0033】
本発明のH形鋼は、強度や靭性を高めるために、Nb、Cr、Cu、Mo、W、Ca及びZrのうち、1種又は2種以上を含有することができる。
【0034】
(Nb:0.050%以下)
Nbは、焼入れ性を高める元素であり、強度の向上に寄与する。強度向上の効果を得るためには、Nbの含有量を0.001%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.010%以上である。ただし、Nbの含有量が過度になると、著しい靭性の低下を招くことがある。そのため、Nbの含有量の上限値を0.050%とする。より好ましいNbの含有量の上限値は、0.040%である。
【0035】
(Cr:0.50%以下)
Crは、焼入れ性を向上させて、H形鋼の強度の向上に寄与する元素である。焼入れ性を向上させるためには、Crの含有量を0.01%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.10%以上である。Crの含有量が0.50%を超えると、MAの生成を助長する場合や、Cr炭化物の粗大化を招き、靭性が低下する場合がある。そのため、Crを添加する場合は、Crの含有量の上限値は0.50%とする。より好ましくはCrの含有量の上限値を0.30%とする。
【0036】
(Cu:0.50%以下)
Cuは、焼入れ性を向上させ、析出強化によって鋼材の強化に寄与する元素である。これらの効果を得るには、Cuの含有量を0.01%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.10%以上である。しかし、Cuの含有量が過剰になると、MAの生成を助長する場合や、または強度が過剰となって、靭性が低下することがある。そのため、Cuを添加する場合は、Cuの含有量の上限値を0.50%とする。より好ましくは、Cuの含有量の上限値を0.30%とする。
【0037】
(Mo:0.50%以下)
Moは、鋼中に固溶して焼入れ性を高める元素であり、H形鋼の強度の向上に寄与する。特に、Bを添加する本発明のH形鋼においては、焼入れ性に関するBとMoとの相乗効果は顕著である。この相乗効果を得るために、Moを添加する場合は、Moの含有量の下限値を0.01%とすることが好ましい。より好ましくは、Moの含有量を0.05%以上とする。しかし、Moの含有量が0.50%を超えると、MAの生成を助長して靭性の低下を招くことがある。そのため、Moの含有量の上限値を0.50%とする。
【0038】
(W:0.50%以下)
Wは、鋼中に固溶して焼入れ性を高める元素であり、H形鋼の強度の向上に寄与する。この効果を得るためには、Wの含有量の下限値を0.01%とすることが好ましい。より好ましくは、Wの含有量を0.10%以上とする。しかし、Wの含有量が0.50%を超えると、MAの生成を助長して靭性の低下を招くことがある。そのため、Wの含有量の上限値を0.50%とする。
【0039】
(Ca:0.0050%以下)
Caは、硫化物の形態制御に有効な元素であり、粗大なMnSの生成を抑制し、靭性の向上に寄与する。この効果を得るためには、Caの含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。より好ましくは、Caの含有量を0.0010%以上とする。一方、Caの含有量が0.0050%を超えると、H形鋼の靭性が低下することがある。そのため、Caの含有量の上限値は、0.0050%とする。Caの含有量は、より好ましくは0.0030%以下である。
【0040】
(Zr:0.0050%以下)
Zrは、炭化物及び窒化物として析出し、鋼の析出強化に寄与する。また、窒化物として析出することにより、鋼中の固溶Nの低減に寄与し、固溶Bの確保による焼入れ性の向上にも有効である。これらの効果を得るためには、Zrの含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。Zrの含有量は、より好ましくは0.0010%以上とする。一方、Zrの含有量が0.0050%を超えると、Zrの炭化物及び窒化物の粗大化を招き、靭性が低下することがある。そのため、Zrの含有量の上限値は、0.0050%とすることが好ましい。
【0041】
その他、本発明では、母材靭性や溶接のHAZの靭性の向上を目的として、Mgや希土類元素(REM)のうちの1種または2種以上を添加することができる。これらの元素は、酸化物や硫化物の形態の制御に寄与する効果がある。このような効果を得るためには、これらの元素を合計で0.0001%以上を含有することが好ましい。含有量の上限値は0.0050%であることが好ましい。
【0042】
本発明のH形鋼は、上記の元素(ただし、P、S及びOは不純物)と、残部Fe及び不純物とからなる化学組成を有する。製造工程で、上記以外の元素がスクラップなどの原料や耐火材などに起因して不可避的に不純物として混入することがあるが、H形鋼の特性に影響しない程度の含有量であれば、許容される。
【0043】
本発明では、焼入れ性を高め、ベイナイトの生成を促進させるために、下記式(1)で求められる炭素当量C
eqを0.33〜0.50質量%とする。C
eqが0.33未満であるとベイナイトの生成が不十分になり、H形鋼の強度及び靭性が低下する。好ましくは、C
eqを0.40質量%以上とする。一方、C
eqが0.50質量%を超えると、H形鋼の強度が高くなりすぎて、靭性が低下する。好ましくは、C
eqを0.45質量%以下とする。
【0044】
炭素当量C
eqは、焼入性の指標であって、下記の式(1)で求める。ここで、C、Mn、Cr、Mo、V、Ni及びCuは、鋼中の各元素の含有量(質量%)であり、含有しない元素は0とする。
【0046】
本発明のH形鋼では、H形鋼のH形の断面において、フランジの長さ方向で表面から1/6の位置であって、フランジの厚さ方向で表面から1/4の位置における、金属のミクロ組織、強度及び靭性を評価する。H形鋼の前記位置であれば、H形鋼の平均的な強度と靭性を評価することができる。
【0047】
金属のミクロ組織は、光学顕微鏡による観察で判別することができる。ベイナイトの面積率は、200倍で撮影した光学顕微鏡による組織写真を用いて、一辺が50μmの格子状に測定点を配置し、400の測定点でベイナイトであるか否かを判別し、ベイナイトとカウントした測定点の数の割合として算出する。
【0048】
H形鋼のH形の断面において、フランジの長さ方向で表面から1/6の位置であって、フランジの厚さ方向で表面から1/4の位置において、十分な強度を確保するためには、金属組織がベイナイトを面積分率で80%以上含むことが必要である。なお、金属組織の残部は、フェライト、パーライト、MAの1種又は2種以上である。ベイナイトの面積率が80%未満であると、残部に軟質相であるフェライトが多い場合は、H形鋼の強度が低下する。また、残部に硬質相であるパーライト及びMAが多い場合は、靱性が低下する。ベイナイト面積分率の増加は、H形鋼の強度の向上に寄与するため、ベイナイト面積分率の上限は特に規定せず、100%でも良い。
【0049】
次に、本発明のH形鋼の形状と、機械的特性について述べる。本発明のH形鋼のフランジの厚みは、40〜150mmとする。フランジの厚みが40mm以上であるのは、高層建築構造物などに用いられるH形鋼として、フランジの厚みが40mm以上の強度部材であることが求められているためである。フランジの厚みが150mmを超えるH形鋼を製造しようとすると、フランジが厚くなりすぎて、圧延後に冷却する際に十分な冷却速度が得られず、H形鋼の強度と靭性の確保が難しい。そのため、フランジの厚みの上限を150mmとする。H形鋼のウェブの厚みは、特に規定しないが、20〜150mmであれば問題ない。
【0050】
H形鋼のフランジとウェブの厚みの比(フランジ/ウェブ)に関しては、H形鋼を熱間圧延で製造する場合を想定して、0.5〜2.0とすれば問題ない。厚みの比が2.0を超えると、ウェブが波打ち状の形状に変形することがある。一方、厚みの比が0.5未満の場合は、フランジが波打ち状の形状に変形することがある。熱間圧延後、フランジとウェブとの冷却速度の差に起因してH形鋼の変形が発生する場合があることを考慮すれば、フランジとウェブの厚みの比が0.7〜1.5であることが、より好ましい。
【0051】
本発明におけるH形鋼の機械特性の目標値は、室温での降伏強度又は0.2%耐力が385MPa以上であり、引張強度が490MPa以上である。なお、応力−歪曲線で、降伏現象が現れる場合は降伏強度を求め、降伏現象が現れない場合は、0.2%耐力を求める。降伏強度や引張強度が高すぎると、H形鋼の靱性を損なうことがあるため、室温での降伏強度又は0.2%耐力は、530MPa以下、引張強度は690MPa以下であることが好ましい。また、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーは、100J以上である。100Jよりも低いと、H形鋼の靱性が十分とはいえない。
【0052】
次に、本発明のH形鋼の製造方法について、説明する。
本発明のH形鋼の製造方法は、1100〜1350℃の鋼片を熱間圧延してフランジの厚みを40〜150mmとする熱間圧延工程、を含む。熱間圧延工程は、粗圧延、中間圧延及び仕上圧延を行う工程である。各圧延において、粗圧延ではブレークダウン圧延機、中間圧延ではユニバーサル圧延機及びエッジング圧延機、仕上圧延ではユニバーサル圧延機等を用いることができる。
【0053】
鋼片の温度は、1100℃未満であると仕上圧延時の変形抵抗が高くなる場合がある。そのため、変形抵抗が高くならないよう、鋼片の温度を1100℃以上とする。一方、鋼片の温度が1350℃よりも高温になると、素材である鋼片の表面のスケールが液体化して、製造に支障が出る場合がある。そのため、製造に支障が出ないよう、鋼片の温度の上限は1350℃とする。
【0054】
本発明では、熱間圧延をする際の鋼片の温度は、靭性の向上の観点から低くする方が好ましい。しかしながら、フェライト変態するAr
3点を下回る温度で圧延を行うと、靭性の低下を招く場合がある。H形鋼の靭性を考慮して、熱間圧延の終了温度はH形鋼の表面温度で750℃以上とする。熱間圧延の終了温度の上限は、組織の微細化による靭性の向上を考慮すれば、850℃であることが好ましい。
【0055】
なお、本発明のH形鋼の製造方法における熱間圧延工程では、鋼片を一次圧延して500℃以下に冷却した後、再度、1100〜1350℃に加熱し、二次圧延を行うことでH形鋼を製造するプロセス、いわゆる2ヒート圧延を採用してもよい。一次圧延では、鋼片(箱形のスラブ)を大まかなH型の形状とするこができ、二次圧延では、最終的な目標とする厳密なH形鋼の形状まで圧延することができる。このような2ヒート圧延を用いれば、熱間圧延での塑性変形量が少なく、また、圧延工程での温度の低下も小さくなるため、二次圧延の際の鋼片の温度を低めにすることができる。Nbなどの炭化物や窒化物を形成する元素を十分に固溶させるため、二次圧延の際の鋼片の温度の下限を1150℃以上とすることが好ましい。
【0056】
熱間圧延工程の終了後は、H形鋼は常温まで冷却される。H形鋼のフランジの厚みが厚いことから、H形鋼の内部の冷却が表面と比べて遅くなることにより、内部と表面とで温度履歴に大きな差が生じる場合があり、H形鋼の部位によって強度、延性、靱性といった機械特性に大きな差が生じることがある。そこで、H形鋼の温度が常温となるまで、前記温度履歴の差に留意することが好ましい。前記温度履歴の差が大きくならないように、例えば、空冷やミスト冷却等により冷却を制御することや、熱間圧延工程後のH形鋼をそのまま放冷する放冷工程を設けることができる。
【0057】
熱間圧延工程は、上記以外の工程を含むことができる。例えば、鋼片の温度を1100〜1350℃とするために、熱間圧延の前に、加熱炉等により鋼片を加熱する加熱工程を設けることができる。ただし、鋳造後の鋳片を高温のまま直送して圧延する場合は、この限りではない。また、本発明のH形鋼の製造方法では、熱間圧延工程のみならず、他の工程を含むことができる。例えば、熱間圧延工程後にH形鋼を切断して長手方向の長さを調製する鋸断工程や、冷却後のH形鋼の歪みや変形等を矯正する矯正工程等を設けることができる。
【0058】
また、鋼片は、通常の手順により準備される。例えば、高炉や転炉を経た鋼に対し、製鋼工程で溶鋼の化学成分を調整した後、鋳造して得ることができる。鋳造は、生産性の観点から、連続鋳造が好ましいが、製造されるH形鋼に近い形状のビームブランクでもよい。また、鋼片の厚みは、生産性の観点から、200mm以上とすることが好ましく、偏析の低減や、熱間圧延工程前に鋼片を加熱する場合における加熱温度の均質性などを考慮すると、350mm以下の厚みであることが好ましい。
【0059】
本発明のH形鋼の製造方法において、鋼片は、質量%で、C:0.005〜0.03%、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.80〜1.60%、V:0.02〜0.12%、Ni:0.50〜1.00%、Al:0.005〜0.10%、Ti:0.001〜0.025%、N:0.0001〜0.0050%、B:0.0003〜0.0020%を含有し、残部がFe及び不純物からなる鋼組成を有する。鋼組成については、本発明に係るH形鋼において説明したとおりである。前記鋼片は、質量%で、Nb:0.050%以下、Cr:0.50%以下、Cu:0.50%以下、Mo:0.50%以下、W:0.50%以下、Ca:0.0050%以下、Zr:0.0050%以下のうち、1種又は2種以上を含有することができる。
【0060】
また、本発明のH形鋼の製造方法において、鋼片は、炭素当量C
eqが0.33〜0.50質量%である。炭素当量については、本発明に係るH形鋼において説明したとおりである。
【実施例】
【0061】
以下、実施例に基づき、本発明を詳細に説明する。
【0062】
表1に示す成分組成を有する鋼を溶製し、連続鋳造により、厚みが240〜300mmの鋼片を製造した。鋼の溶製は転炉で行い、一次脱酸し、合金を添加して成分を調整し、必要に応じて、真空脱ガス処理を行った。このようにして得られた鋼片(No.1〜42)を、加熱炉を用いて加熱し、熱間圧延を行い、H形鋼を製造した。熱間圧延後のH形鋼は、常温までそのまま放冷した。表1に、鋼成分組成及び炭素当量C
eqを示す。表1に示した鋼成分組成は、製造後のH形鋼から採取した試料を化学分析して求めたものである。
【0063】
【表1】
【0064】
図1は、熱間圧延工程の製造ラインを示す図である。熱間圧延は、加熱炉2、粗圧延機3a、中間圧延機3b、仕上圧延機3c及び水冷装置4を備えるユニバーサル圧延装置列の製造ライン1で行った。熱間圧延をパス間水冷圧延とし、圧延パス間の水冷には、中間圧延機(中間ユニバーサル圧延機)3bの前後面に設けた水冷装置4を用い、フランジ外側面のスプレー冷却とリバース圧延を行った。使用した鋼片の種類、フランジの板厚、加熱炉2により加熱した鋼片の加熱温度、及び熱間圧延が終了したときのH形鋼の表面温度(終了温度)を、表2に示す。仕上圧延にて示した温度は、仕上圧延後のH形鋼の表面温度である。
【0065】
図2は、実施例において製造したH形鋼の、長手方向と垂直なH形の断面図である。H形鋼10は、フランジ11、ウェブ12を備える。Fは、断面におけるフランジの長さであり、HはH形鋼の高さを示す。また、t1は断面におけるウェブの厚みであり、t2は断面におけるフランジの厚みである。製造したH形鋼の強度、靭性、金属組織の評価について、フランジの長さ方向で表面から1/6の位置であって、フランジの厚さ方向で表面から1/4の位置を評価部位13とした。評価部位13から、引張試験、シャルピー試験及びベイナイト分率の測定に用いる試料を採取した。降伏強度又は0.2%耐力、引張強度及び靭性を評価し、ベイナイト分率を測定した。
【0066】
引張試験は、JIS Z 2241に準拠して行い、降伏挙動を示す場合は降伏点、降伏挙動を示さない場合は0.2%耐力を求め、降伏強度(YS)として評価した。シャルピー衝撃試験は、JIS Z 2242に準拠し、−20℃で行った。
【0067】
光学顕微鏡でベイナイトの面積分率は、200倍で撮影した光学顕微鏡による組織写真を用いて、一辺が50μmの格子状に測定点を配置し、400の測定点でベイナイトであるか否かを判別し、ベイナイトとカウントした測定点の数の割合として算出した。
【0068】
降伏強度(YS)、引張強度(TS)、−20℃におけるシャルピー吸収エネルギー(vE
-20)、及びベイナイト分率の結果を表2に示す。機械特性の目標値は、室温の降伏強度又は0.2%耐力(YS)が385MPa以上、引張強度(TS)が490MPa以上とした。また、−20℃でのシャルピー吸収エネルギー(vE
-20)は、100J以上とした。
【0069】
【表2】
【0070】
表2に示すように、本発明の製造No.1〜8、10、11、13、14、16〜24、26及び27のH形鋼は、降伏強度及び引張強度が、それぞれ、目標の下限値である385MPa及び490MPa以上を満足していた。更に、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーは、100J以上であり、機械特性の目標を十分に満たしていた。
【0071】
一方、製造No.9及び25のH形鋼は、熱間圧延の終了温度が低いことに起因して、ベイナイト分率が不足した結果、いずれの機械特性も満たさなかった。製造No.12のH形鋼は、加熱温度が低く、合金元素の固溶が不十分であるため、ベイナイト分率が不足した結果、降伏強度及び引張強度が目標を満たさなかった。製造No.15のH形鋼は、フランジの板厚が厚すぎて放冷の冷却速度が遅くなり、ベイナイト分率が不足したため、降伏強度と引張強度が目標を満たさなかった。
【0072】
製造No.28〜47のH形鋼は、鋼成分組成及びC
eqのいずれか1つ以上が本発明の範囲外である(表1)。そのため、これらのH形鋼は、降伏強度、引張強度又は−20℃でのシャルピー吸収エネルギーのうち、いずれか1つ以上が、上記の機械特性の目標を満たさない結果となった。