【文献】
TSAO, Chia-Wen,Bonding of themoplastic polymer microfluidics,Microfluid Nanofluid,2009年,Vol. 6,pp. 1-16
【文献】
TSAO, C. W.,Low temperature bonding of PMMA and COC microfluidic substrates using UV/ozone surface treatment,Lab Chip,2007年,Vol. 7,pp. 499-505
【文献】
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【文献】
YOON, Sang Youl,CONTINUOUS SEPARATION OF BLOOD PLASMA USING SEDIMENTATION IN A MICROCHANNEL,Procedings of μTAS2006,2006年,pp. 1154-1156
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、血液から血漿を抽出するために遠心分離を利用する場合には、比較的多量の血液が必要とされ、また、遠心分離機を使用するため、大型の装置を構成することが必要となる、という問題がある。このため、遠心分離を利用せずに、微量の血液から血漿成分を分離することができる手段が望まれている。
【0005】
そこで、本発明の目的は、外部から遠心力などの運動学的作用を加えることなしに、微量の検体から特定の成分を分離することができるマイクロ流路チップを提供することにある。
本発明の他の目的は、上記のマイクロ流路チップを確実に製造することができるマイクロ流路チップの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のマイクロ流路チップは、液状の検体を流通させる第一流路と、この第一流路から分岐して形成された、当該第一流路に連通する第二流路とを内部に有する板状体よりなり、
前記第二流路は、前記第一流路を流通する検体から特定の成分を分離することが可能な幅を有
し、
荷重たわみ温度が40℃以上100℃以下、ガラス転移温度が−40℃以上−20℃以下である樹脂組成物よりなるチップ基体を有し、
前記樹脂組成物は、
ポリプロピレン系樹脂と、
前記ポリプロピレン系樹脂に相溶しないポリマーブロックXおよび共役ジエンによるエラストマー性のポリマーブロックYよりなるブロックコポリマーの水素添加誘導体と
を含有してなる、自己融着性を示すものであることを特徴とする。
【0007】
本発明のマイクロ流路チップにおいては、前記第二流路は、前記検体から分離された特定の成分が充填される測定部に接続されていることが好ましい。
また、前記第一流路の幅が10μm以上1000μm以下であり、
前記第二流路の幅が0.1μm以上5μm以下であることが好ましい。
また、前記測定部における厚み方向の幅が10μm以上1000μm以下であることが好ましい。
【0008】
また
、本発明のマイクロ流路チップにおいては
、前記ポリマーブロックXがポリスチレンブロックであり、ポリマーブロックYが、1,2結合、3,4結合および/または1,4結合によるポリイソプレンブロック、または、1,2結合および/または1,4結合によるポリブタジエンブロックであることが好ましい。
【0009】
本発明のマイクロ流路チップの製造方法は、それぞれ樹脂組成物により形成されたる第一基板および第二基板よりなるチップ基体を有し、前記第一基板および前記第二基板が接合されてなり、内部に形成された少なくとも一部の流路の幅が5μm以下であるマイクロ流路チップを製造する方法であって、
前記第一基板と前記第二基板とを重ね合わせて接触させる工程と、
前記第一基板および前記第二基板を、各々を構成する樹脂組成物の融点よりも低い温度で、かつ各々を構成する樹脂組成物のガラス転移温度よりも高い温度で加熱することにより、前記第一基板と前記第二基板とを接合する工程と
を有
し、
前記第一基板および前記第二基板を構成する樹脂組成物は、荷重たわみ温度が40℃以上100℃以下、ガラス転移温度が−40℃以上−20℃以下であり、
前記第一基板および前記第二基板を構成する樹脂組成物は、
ポリプロピレン系樹脂と、
前記ポリプロピレン系樹脂に相溶しないポリマーブロックXおよび共役ジエンによるエラストマー性のポリマーブロックYよりなるブロックコポリマーの水素添加誘導体と
を含有してなることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のマイクロ流路チップの製造方法においては、前記第一基板と前記第二基板とを重ね合わせて接触させる工程を実行する前に、前記第一基板および前記第二基板の各接合面のうち少なくとも一方の面に対して真空紫外線を照射する工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のマイクロ流路チップによれば、第二流路は、第一流路を流通する検体から特定の成分を分離することが可能な幅を有するため、外部から遠心力などの運動学的作用を加えることなしに、検体から特定の成分を分離することができる。
本発明のマイクロ流路チップの製造方法によれば、第一基板および第二基板を、これらを構成する樹脂組成物の融点よりも低い温度で接合するため、接合する際の加熱によって、第一基板および第二基板が変形することがない。従って、製造すべきマイクロ流路チップが、微細な第二流路を有するものであっても、所期のマイクロ流路チップを確実に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のマイクロ流路チップの実施の形態について説明する。
〈マイクロ流路チップの構造〉
図1は、本発明のマイクロ流路チップの一例における構成を示す説明図である。
図2は、
図1に示すマイクロ流路チップの要部を示す説明図であり、(a)は、第一流路、第二流路および測定部を拡大して示す平面図、(b)は、(a)のA−A断面端面図である。
このマイクロ流路チップ10は、第一基板12および第二基板15よりなるチップ基体11を有し、第一基板12と第二基板15とが自己融着性により接合された板状体によって構成されている。
第一基板12および第二基板15の各々の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば0.1mm以上5.0mm以下である。
【0016】
マイクロ流路チップ10は、液状の検体を流通させる第一流路20と、この第一流路20に連通する複数の第二流路25とを有する。第二流路25の各々は、第一流路20から分岐して当該第一流路20に対して垂直方向に伸び、等間隔で離間して配列された状態で形成されている。
第一流路20における上流側端は、検体導入部21から導入された検体を貯留する検体貯留部22に接続されている。第一流路20の下流側端は、第一排出部23に接続されている。また、第二流路25の各々の下流側端は、検体から分離された特定の成分が充填される測定部26が接続されている。この測定部26には、第三流路27が接続されており、この第三流路27の下流側端は、第二排出部28に接続されている。
【0017】
図示の例では、第一流路20は、第一基板12に形成された第一流路用溝13aの内壁面と、第二基板15とによって区画されることにより形成されている。また、第二流路25は、第二基板15に形成された第二流路用溝16の内壁面と、第一基板12とによって区画されることにより形成されている。また、測定部26は、第一基板12に形成された測定部用凹所13bの内壁面と、第二基板15とによって区画されることにより形成されている。
第一流路20、第二流路25および測定部26の各々の内壁面には、親水化処理が施されていることが好ましい。具体的には、第一流路20、第二流路25および測定部26の各々の内壁面における水の接触角が90°以下であることが好ましく、より好ましくは50°以下である。
【0018】
第一流路20は、液状の検体(例えば血液)を流通させることが可能な幅を有する。本発明において、流路の「幅」とは、流路における当該流路が伸びる方向に垂直な断面において、当該流路の最も小さい幅を意味する。図示の例の第一流路20および第二流路25においては、マイクロ流路チップ10の厚み方向の幅が最も小さい幅である。
このような第一流路20の幅は、10μm以上1000μm以下であることが好ましく、より好ましくは50μm以上100μm以下である。第一流路20の幅が過小である場合には、第一流路20において、流路抵抗が大きくなることによって検体の流量が低下し、第二流路25への特定の成分(例えば血漿成分)の供給量が不足する虞がある。一方、第一流路20の幅が過大である場合には、要求される検体の量が増大する虞がある。また毛細管力が小さくなるため、第一流路20を流れる検体の流速が小さくなり、特定の成分が測定部26に到達するのに相当に長い時間を要する虞れがある。
また、第一流路20の上流側端から第二流路25との分岐点までの長さは、特に限定されるものではないが、例えば10mm以上100mm以下である。
【0019】
第二流路25は、第一流路20を流通する検体(例えば血液)から特定の成分(例えば血漿成分)を分離することが可能な幅を有する。
このような第二流路25の幅は、0.1μm以上5μm以下であることが好ましく、より好ましくは1.0μm以上3.0μm以下である。第二流路25の幅が過小である場合には、測定部26に供給することができる特定の成分の量が少なくなり、特定の成分の抽出に相当に長い時間を要する虞れがある。一方、第二流路25の幅が過大である場合には、検体中における特定の成分以外の成分(例えば赤血球などの血球成分)が混入してしまい分離機能を示さない虞がある。
また、第二流路25の長さは、特に限定されるものではないが、例えば0.1mm以上10mm以下である。
また、第二流路25の数は、例えば10本以上1000本以下である。
【0020】
また、測定部26における厚み方向の幅が10μm以上1000μm以下であることが好ましく、より好ましくは100μm以上500μm以下である。
また、測定部26における面方向の幅は、それぞれ0.1mm以上1.0mm以下であることが好ましい。
【0021】
〈チップ基体の構成材料〉
チップ基体11(第一基板12および第二基板15)を構成する材料としては、樹脂組成物を用いることが好ましく、特に、荷重たわみ温度が40℃以上100℃以下、ガラス転移温度が−40℃以上−20℃以下である樹脂組成物を用いることが好ましい。
ここで、樹脂組成物の荷重たわみ温度およびガラス転移温度は、JIS K7191およびJIS K7121に規定される方法で測定されるものをいう。
【0022】
このような樹脂組成物としては、ポリプロピレン系樹脂と、ポリプロピレン系樹脂に相溶しないポリマーブロックX(以下、単に「ポリマーブロックX」という。)および共役ジエンによるエラストマー性のポリマーブロックY(以下、単に「ポリマーブロックY」という。)よりなるブロックコポリマー(以下、「特定のブロックコポリマー」という。)の水素添加誘導体(以下、「特定の水素添加誘導体」という。)とを含有してなる、自己融着性を示す樹脂組成物(以下、「特定の樹脂組成物」という。)を用いることが好ましい。
【0023】
〈ポリプロピレン系樹脂〉
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンのホモポリマーや、プロピレンと、エチレン、またはブテン−1 、ヘキセン−1 などのプロピレン以外のα―オレフィンとのランダムコポリマーを用いることができる。
【0024】
〈特定のブロックコポリマー〉
特定のブロックコポリマーは、それぞれ1つ以上、好ましくは1つ以上5つ以下のポリマーブロックXおよびポリマーブロックYを有するものであればよく、具体的な構造は、(X−Y)
n (但し、n=1〜5)で表される構造、X−Y−Xで表される構造、Y−X−Yで表される構造などのいずれであってもよい。
【0025】
〈ポリマーブロックX〉
特定のブロックコポリマーにおいて、ポリマーブロックXとしては、ポリプロピレン系樹脂に相溶しないものであれば特に限定されず、例えばビニル芳香族モノマー(例えばスチレン)、エチレンまたはメタクリレート(例えばメチルメタクリレート)等を重合して得られるポリマーブロックを用いることができる。具体的なポリマーブロックXの例としては、ポリスチレン系のものや、ポリオレフィン系のものが挙げられる。
【0026】
ポリスチレン系のポリマーブロックXの例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ο−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンから選択された1種または2種以上のビニル芳香族化合物を重合して得られるポリマーブロックが挙げられる。
【0027】
また、ポリオレフィン系のポリマーブロックXの他の例としては、エチレンと炭素数3〜10のα−オレフィンとを共重合して得られるポリマーブロックが挙げられる。このポリマーブロックには、非共役ジエンが共役重合されていてもよい。
前記α−オレフィンの具体例としては、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ペンテン、1−オクテン、1 −デセンなどが挙げられる。
前記非共役ジエンの具体例としては、1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,5−ヘキサジエン、1,4−オクタジエン、シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、シクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボネル、5−ブチリデン−2−ノルボネル、2−イソプロペニル−5−ネルボルネンなどが挙げられる。
ポリオレフィン系のポリマーブロックXの具体例としては、エチレン−プロピレン共重合体ブロック、エチレン−1−ブテン共重合体ブロック、エチレン−1−オクテン共重合体ブロック、エチレン−プロピレン−1,4−ヘキサジエン共重合体ブロック、エチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体ブロックなどが挙げられる。
【0028】
特定のブロックコポリマーにおいて、ポリマーブロックXの含有率は、例えば10質量%以上20質量%以下である。
【0029】
〈ポリマーブロックY〉
ポリマーブロックYとしては、水素添加前のものとして、2−ブテン−1,4−ジイル基およびビニルエチレン基からなる群から選択される少なくとも1種の基よりなる構造単位によって構成されるポリブタジエンブロック、2−メチル−2−ブテン−1,4−ジイル基、イソプロペニルエチレン基および1−メチル−1−ビニルエチレン基からなる群から選択される少なくとも1種の基よりなる構造単位によって構成されるポリイソプレンブロックが挙げられる。
更に、水素添加前のポリマーブロックYとして、イソプレン単位が2−メチル−2−ブテン−1,4−ジイル基、イソプロペニルエチレン基および1−メチル−1−ビニルエチレン基からなる群から選択される少なくとも1種の基よりなる構造単位であり、ブタジエン単位が2−ブテン−1,4−ジイル基および/またはビニルエチレン基よりなる構造単位によって構成されるイソプレン/ブタジエン共重合体ブロックなどが挙げられる。イソプレン/ブタジエン共重合体ブロックにおけるイソプレンに由来の構造単位とブタジエンに由来の構造単位との配置は、ランダム状、ブロック状、テーパブロック状のいずれの形態であってもよい。
【0030】
また、ポリマーブロックYは、ビニル芳香族化合物が共重合されてなるものであってもよい。このようなポリマーブロックYとしては、ビニル芳香族化合物に由来の単位が、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンのうちから選択された1種のモノマー単位であり、共役ジエン単位が、2−ブテン1,4−ジイル基および/またはビニルエチレン基である共重合体ブロックを用いることができる。また、ビニル芳香族化合物に由来の構造単位と共役ジエン由来の構造単位の配置は、ランダム状、ブロック状、テーパブロック状のいずれの形態であってもよい。
【0031】
〈特定の水素添加誘導体〉
特定の水素添加誘導体は、上記の特定のブロックコポリマーを水素添加することによって得られる。特定の水素添加誘導体における水素添加の状態は、部分水素添加であっても、また完全水素添加であってもよい。
このような特定の水素添加誘導体としては、水素添加する前の特定のブロックコポリマーにおいて、ポリマーブロックXがポリスチレンブロックであり、ポリマーブロックYが、1,2結合、3,4結合および/または1,4結合のポリイソプレンブロックであるもの、或いは、ポリマーブロックXがポリスチレンブロックであり、ポリマーブロックYが、1,2結合および/または1,4結合のポリブタジエンブロックであるものが、容易に入手可能である。
また、ポリスチレンブロックは、ポリプロピレン系樹脂との相溶しにくいため、ポリスチレンブロックの割合が高い特定の水素添加誘導体を用いる場合には、特定の樹脂組成物の調製(特定の水素添加誘導体とポリプロピレン系樹脂と混合)に長い時間を要するので、マスターバッチ化することなどによって、予め十分に混合しておくことが好ましい。
【0032】
〈特定の樹脂組成物の調製〉
特定の樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂と特定の水素添加誘導体とを、加熱溶融した状態で混合(混練)することによって得られる。このような特定の樹脂組成物においては、ポリプロピレン系樹脂とポリマーブロックXとは、互いに相溶していない状態である。
【0033】
ここで、特定の樹脂組成物においてポリプロピレン系樹脂とポリマーブロックXとが相溶しているか否かは、以下のようにして確認することができる。
ポリマーブロックXがポリプロピレン系樹脂に相溶しないものである場合には、特定の樹脂組成物において、ポリマーブロックXはその慣性半径程度のサイズを有するミクロドメインを形成する。このようなミクロドメインは透過型電子顕微鏡で観察したり、小角X線散乱により孤立ドメインの散乱パターンを測定・解析したりすることにより確認することができる。
また、ポリマーブロックXがポリプロピレン系樹脂に相溶しないものである場合には、ポリマーブロックXのガラス転移温度は、ポリプロピレン系樹脂と混合されても変化することがない。このようなポリマーブロックXのガラス転移温度の変化の有無は、示差走査熱量測定(DSC)や動的粘弾性測定などにより確認することができる。
【0034】
ポリマーブロックYがポリプロピレン系樹脂に相溶するものである場合には、ポリマーブロックYのガラス転移温度およびポリプロピレンのガラス転移温度の各々が変化して、これらの間の温度に新たなガラス転移温度が現れる。
このようなガラス転移温度の変化の有無は、動的粘弾性測定などにより確認することができる。
【0035】
ポリマーブロックXおよびポリマーブロックの両方がポリプロピレン系樹脂に相溶しない場合には、特定の樹脂組成物において、形態的には特定のブロックコポリマーによるポリマー相(ポリマーブロックXの相とポリマーブロックYの相とからなるミクロドメイン構造による相)と、ポリプロピレン系樹脂によるポリマー相とに分離する。一方、ポリマーブロックYがポリプロピレン系樹脂に相溶するものである場合には、特定の樹脂組成物において、ポリマーブロックXのミクロドメイン同士の間隔が大きくなったり、ポリマーブロックXのミクロドメインがポリプロピレン系樹脂中に均一に分散したりするようになる。
このようなポリマーブロックYがポリプロピレン系樹脂に相溶するときの形態的変化は、透過型電子顕微鏡によりミクロドメインの相互位置を観察したり、小角X線散乱によりミクロドメイン間距離を解析したりすることにより確認することができる。
【0036】
特定の樹脂組成物において、特定の水素添加誘導体の割合は、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して40質量部以上50質量部以下となる割合であることが好ましい。
【0037】
特定の樹脂組成物には、必要に応じて種々の添加剤、例えばポリプロピレン系樹脂用の造核剤などが含有されていてもよい。かかる造核剤としては、核化効果によって物性や透明性を向上させる金属塩型(リン酸金属塩、カルボン酸金属塩)の造核剤や、ネットワーク形成によって透明性を付与するベンジリデンソルビトール型の造核剤を用いることができる。ベンジリデンソルビトール型の造核剤は、ベンズアルデヒドとソルビトールとの縮合物よりなり、分子中に水酸基を有するものである。
【0038】
〈マイクロ流路チップの製造方法〉
上記のマイクロ流路チップは、例えば以下の第1の方法または第2の方法によって製造することができる。
【0039】
《第1の方法》
先ず、上記の樹脂組成物好ましくは特定の樹脂組成物を、例えば射出成形法によって成形することにより、
図3に示すような第一基板12および第二基板15を作製する。図示の例では、第一基板12に、第一流路20を形成するための第一流路用溝13aおよび測定部26を形成するための測定部用凹所13bが形成され、第二基板15に、第二流路25を形成するための第二流路用溝16が形成されている。
【0040】
第1の方法においては、第一基板12における第一流路用溝13aおよび測定部用凹所13bの表面を含む接合面、並びに第二基板15における第二流路用溝16を含む接合面に対して、表面活性化処理を施すことが好ましい。表面活性化処理の方法としては、親水剤をコーティングする方法、真空紫外線を照射することによって表面処理する方法、プラズマによって表面処理する方法などを利用することができ、これらの中では、真空紫外線を照射することによって表面処理する方法が好ましい。このような表面活性化処理を行うことにより、第一基板12と第二基板15とをより強固に且つ短時間で接合することができる。
真空紫外線を照射することによって表面活性化処理を行う場合において、真空紫外線の照射条件の具体的な例を挙げると、紫外線光源としてキセノンガスを封入したエキシマランプを用い、波長172nmの真空紫外線を照度30mW/cm
2 の条件で10分間照射する。
【0041】
その後、
図4に示すように、第二基板15の接合面に、第一基板12を位置合わせした状態で重ね合わせて接触させる。
そして、第一基板12および第二基板15を同時に加熱することにより、第一基板12と第二基板15とを自己融着性を利用して接合する。
【0042】
以上において、第一流路用溝、測定部用溝および第二流路溝の全てが、第一基板12および第二基板15のいずれか一方に形成されていてもよい。
また、第一基板12および第二基板15の加熱温度は、第一基板12および第二基板15を構成する樹脂組成物の融点よりも低い温度で、かつ第一基板12および第二基板15を構成する樹脂組成物のガラス転移温度よりも高い温度とされる。特に、加熱温度は、樹脂組成物の融点よりも80℃以上低い温度で、かつ樹脂組成物のガラス転移温度よりも60℃以上高い温度の範囲から選択されることが好ましい。
第一基板12および第二基板15の具体的な加熱温度を示すと、例えば50℃以上70℃以下である。また、第一基板12および第二基板15の具体的な加熱時間を示すと、加熱温度が60℃である場合において例えば1時間以上2時間以下である。
【0043】
《第2の方法》
先ず、第1の方法と同様にして、
図3に示すような第一基板12および第二基板15を作製する。
次いで、第一基板12における第一流路用溝13aおよび測定部用凹所13bの表面を含む接合面、並びに第二基板15における第二流路用溝16を含む接合面に対して、真空紫外線を照射することによって表面活性化処理が施される。
表面活性化処理における真空紫外線の照射条件の具体的な例を挙げると、紫外線光源としてキセノンガスを封入したエキシマランプを用い、波長172nmの真空紫外線を照度30mW/cm
2 の条件で10分間照射する。
【0044】
そして、
図4に示すように、第二基板15の接合面に、第一基板12を位置合わせした状態で重ね合わせて接触させ、加熱することなしに常温で放置することにより、第一基板12と第二基板15とを接合する。
【0045】
このような第1の方法または第2の方法によれば、第一基板12および第二基板15を、これらを構成する樹脂組成物の融点よりも低い温度で接合するため、接合する際の加熱によって、第一基板12および第二基板15が変形することがない。従って、製造すべきマイクロ流路チップが、例えば幅5μm以下の微細な第二流路25を有するものであっても、所期のマイクロ流路チップ10を確実に製造することができる。
また、第一基板12および第二基板15が、上記したポリプロピレン系樹脂と特定の水素添加誘導体とを含有してなる特定の樹脂組成物により構成されていることにより、特定の樹脂組成物の融点未満の温度で第一基板12および第二基板15を接合可能である。よって、第一基板12および第二基板15を接合する際に、第一基板12および第二基板15を比較的低温の加熱で接合することができるため、第二基板15に形成された微細な第二流路用溝16が熱変形して潰れることが防止される。
【0046】
上記のマイクロ流路チップ10においては、液状の検体例えば血液が検体導入部21から導入されることにより、当該検体が検体貯留部22に貯留される。検体貯留部22に貯留された検体は、毛細管現象によって第一流路20を流通し、第二流路25との分岐点に到達する。そして、この分岐点においては、検体中における第二流路25の幅より大きいサイズの成分、例えば血球成分は、第二流路25に進入することができないため、第一流路20を下流側に向かって流通する。一方、検体中における第二流路25の幅より小さいサイズの特定の成分、例えば血漿成分は、第二流路25に進入することができるため、第二流路25を流通し、測定部26に充填される。
その後、特定の成分が充填された測定部26に対して、当該マイクロ流路チップ10の厚み方向に光が照射されると共に、当該測定部26を透過する光が検出される。そして、検出された透過光の強度から、測定部26に充填された特定の成分の吸光度が求められ、この吸光度の値から特定の成分中の検査対象成分の濃度が求められる。
【0047】
以上のように、上記のマイクロ流路チップ10によれば、第二流路25は、第一流路20を流通する検体から特定の成分を分離することが可能な幅を有するため、外部から遠心力などの運動学的作用を加えることなしに、微量の検体から特定の成分を分離することができる。
【実施例】
【0048】
〈実施例1〉
(1)第一基板および第二基板の製造
ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ( 株) 社製「ノバック(R)PP」)50質量部と、水添スチレン・イソプレン・ブタジエンブロック共重合物((株)クラレ社製「ハイブラー7311」,ポリスチレンブロックの含有率=12質量%)50質量部とを、加熱混練することにより、特定の樹脂組成物を調製した。得られた特定の樹脂組成物の融点は、142℃、荷重たわみ温度は、43℃、ガラス転移温度は−35℃であった。
次いで、調製した特定の樹脂組成物を射出成形することにより、表面に第一流路用溝および測定部用凹所が形成された第一基板、並びに表面に第二流路用溝が形成された第二基板を製造した。得られた第一基板において、第一流路用溝は、長さが20mm、第一基板の厚み方向の幅(深さ)が100μm、第一基板の面方向の幅が300μmであり、測定部用凹所は、第一基板の厚み方向の幅(深さ)が100μm、第一基板の面方向の幅が200μm×200μmである。また、得られた第二基板において、第二流路用溝は、長さが0.5mm、第二基板の厚み方向の幅(深さ)が2μm、第二基板の面方向の幅が50μmであり、第二流路用溝の数は300である。
【0049】
(2)第一基板および第二基板の表面活性化処理
得られた第一基板における第一流路用溝および測定部用凹所の表面を含む接合面、並びに第二基板における第二流路用溝を含む接合面に対して、真空紫外線を照射することによって、表面活性化処理を行った。表面活性化処理が施された表面について、水の接触角を測定したところ、45°であった。
以上において、真空紫外線の照射による表面活性化処理は、紫外線光源としてキセノンガスを封入したエキシマランプを用い、波長172nmの真空紫外線を照度30mW/cm
2 の条件で10分間照射することにより行った。
【0050】
(3)マイクロ流路チップの製造
第二基板の接合面上に、第一基板を位置合わせした状態で重ね合わせて接触させた。そして、第一基板および第二基板を60℃で加熱することにより、第一基板と第二基板とを自己融着性を利用して接合し、以て、マイクロ流路チップを製造した。
得られたマイクロ流路チップにおいて、第一流路の上流側端から、当該第一流路の最も上流側において分岐した第二流路との分岐点までの長さは、5mmである。
また、得られたマイクロ流路チップの第二流路を顕微鏡によって観察したところ、変形等の異常は認められなかった。
【0051】
(4)試験
上記のマイクロ流路チップに、ヒトの血液5μLを導入し、10分間放置した。そして、マイクロ流路チップの測定部に充填された液体の分光吸収スペクトルを測定したところ、測定部に充填された液体は血漿成分であり、血液から血漿成分が分離されていることが確認された。