(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は、本発明の制御方法にて制御される電動車両を示す図である。
【0011】
電動車両に搭載されるバッテリ1は、充放電可能な電池である。バッテリ1から放電される電力は、インバータ2を介してモータ3に供給される。また、モータ3にて回生電力が発生する時には、モータ3で生じる回生電力が、インバータ2を介してバッテリ1に充電される。なお、インバータ2とモータ3との間には、電流センサ4が設けられており、電流センサ4はインバータ2とモータ3との間の電流を測定する。
【0012】
インバータ2は、複数の電子デバイスにより構成される回路であり、直流と交流との変換を行う。例えば、インバータ2は、各相で2個のスイッチング素子で構成されている。なお、例えば、スイッチング素子として、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOS−FET(Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)等のパワー半導体素子が用いられる。
【0013】
インバータ2においては、モータコントローラ5が生成するPWM信号に応じてスイッチング素子のON/OFFの切り替え操作が行われる。このような切り替え操作によって、バッテリ1からインバータ2に供給される直流の電流が交流に変換され、モータ3に所望の大きさの交流電流が印加される。なお、モータ3が回生制動を行う時には、モータ3にて発生する回生電力は交流電流として出力され、インバータ2によって直流に変換された後にバッテリ1に充電される。
【0014】
モータコントローラ5は、モータ3の駆動トルクを制御するコントローラである。モータコントローラ5には、車速V、アクセル開度θ、モータ3の回転子位相α、モータ3に流れる電流I、直流電源ラインにおける直流電流値Vdc等の車両変数の信号がデジタル信号として入力される。
【0015】
なお、モータコントローラ5に入力される回転子位相αは、モータ3に併設された回転センサ6(例えば、レゾルバやエンコーダ)により測定される。直流電流値Vdcは、バッテリ1を制御するバッテリコントローラ1aにより測定される。また、モータ3は三相交流モータであるため、電流センサ4は、モータ3に流れる電流iu、iv、iwを測定し、その測定した電流値をモータコントローラ5に出力する。
【0016】
モータコントローラ5は、入力される車両変数に基づいてモータ3の回転制御に用いるPWM信号を生成する。そして、モータコントローラ5は、ドライブ回路(不図示)を用いて、PWM信号に応じたインバータ2の駆動信号を生成する。
【0017】
モータ3は、インバータ2から供給される交流電流によって駆動トルクを発生させる。モータ3の駆動トルクは、減速機7及び駆動軸(ドライブシャフト)8を介して駆動輪9a、9bに伝達される。また、モータ3は、車両の走行時に駆動輪8に連れて回転し、回生制動力を発生させるとともに回生電力を発生させる。このようにして、車両の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収することができる。
【0018】
図2は、モータコントローラ5により行われるモータ制御のフローチャートである。このモータ制御の処理は、所定の時間間隔で繰り返し行われる。
【0019】
ステップS201においては、入力処理が行われる。具体的には、モータ制御に必要な車両情報を示す信号(車両変数)が、センサ入力または他のコントローラとの通信により取得される。
【0020】
上述のように、モータ3に流れる三相電流iu、iv、iwは、電流センサ4により取得される。なお、三相の電流値の合計はゼロになることが知られており、例えばiwはセンサ入力でなく、iuとivとから計算で求めてもよい。
【0021】
モータ3の回転子位相α(電気角)[rad]は、レゾルバやエンコーダなどの回転センサにより取得される。その回転子位相α(電気角)を微分することで、回転子角速度ω(電気角)[rad/s]が求められる。そして、モータ3の機械的な角速度であるモータ角速度ωm[rad/s]は、回転子角速度ω(電気角)をモータ3の極対数で除することで求められる。
【0022】
車速V[km/h]は、以下のように算出することができる。まず、モータ角速度ωmにタイヤ動半径Rを乗じ、ファイナルギヤのギヤ比で除することにより、車両速度v[m/s]を求める。そして、車両速度v[m/s]に、[m/s]から[km/h]への単位変換係数(3600/1000)を乗ずることで、車速V[km/h]を求めることができる。なお、車速V[km/h]は、不図示のメータやブレーキコントローラ等の他のコントローラより通信にて取得してもよい。
【0023】
アクセル開度θ[%]は、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に応じた値である。アクセル開度θは、アクセル開度センサにより取得してもよいし、車両コントローラや他のコントローラより通信により取得してもよい。
【0024】
直流電圧値Vdc[V]は、バッテリコントローラ1aにより送信される電源電圧値により求められる。なお、直流電圧値Vdc[V]は、直流電源ラインに設けられた電圧センサにより測定されてもよい。
【0025】
ステップS202においては、第1のトルク目標値の算出処理が行われる。モータコントローラ5は、
図3に示されるアクセル開度とトルクとの関係を示すテーブルを用いて、アクセル開度θ及びモータ3の回転数Nに基づき、第1のトルク目標値Tm
1*を設定する。
【0026】
ここで、
図3を参照すると、アクセル開度θの値に応じて、モータ3が回転数N[rpm]である時に、モータ3が発生すべきトルク[T・m]が示されている。モータコントローラ5は、このテーブルを用いてアクセル開度θ及びモータ角速度ω
mから求められるトルクを、第1のトルク目標値Tm
1*として設定する。なお、モータ3の回転数N[rpm]は、モータ角速度ω
m[rad/s]から変換することができる。
【0027】
ステップS203においては、停止制御処理が行われる。この処理においては、電動車両を停止させる制御を行っているか否かを示す停止制御フラグが用いられる。
【0028】
停止制御状態においては、外乱トルクに応じた外乱トルク推定値が求められ、この外乱トルク推定値に収束するような第2のトルク目標値Tm
2*が算出される。尚、外乱トルク推定値は、登坂路では正トルク、降坂路では負トルク、平坦路では概ねゼロとなる。
【0029】
停止制御フラグが立っておらず(0)、停止制御が行われていない場合には、まず、加速又は減速時のモータ側のギアと駆動軸側のギアとの間にて発生するバックラッシュを緩和するために、第1のトルク目標値Tm
1*に対して、ローパスフィルタでフィルタリング処理を行うことで、第3のトルク目標値Tm
3*を算出する。そして、第3のトルク目標値Tm
3*をモータ3の制御に用いるトルク指令値Tm
*として設定する。
【0030】
一方、停止制御フラグが立っており(1)、停止制御が行われている場合には、第2のトルク目標値Tm
2*をモータ3の制御に用いるトルク指令値Tm
*として設定する。このようにすることで、滑らかに停車することができるとともに、停車後においても勾配によらず停車状態を保持することができる。
【0031】
なお、停止制御処理の詳細については、後に、
図5〜8を用いて説明する。
【0032】
ステップS204においては、電流指令値算出処理が行われる。モータコントローラ5は、S203にて算出されたトルク指令値Tm
3*、モータ角速度ω
m、直流電圧値Vdcから、モータ3に流すべき電流の目標値を同期回転座標で示したdq軸電流目標値id
*、iq
*を求める。具体的には、モータコントローラ5は、直流電圧値Vdc、モータ角速度ω
m、及び、トルク指令値T
m*と、d軸電流目標値id
*及びq軸電流目標値iq
*との関係が示されたテーブルを予め記憶しており、このテーブルを用いて、dq軸電流目標値id
*、iq
*を求める。
【0033】
ステップS205においては、電流制御演算処理が行われる。モータコントローラ5は、まず、三相電流値iu、iv、iwと、モータ3の回転子位相αとから、dq軸電流値id、iqを演算する。次に、S204で算出したdq軸電流目標値id
*、iq
*と、dq軸電流id、iqとの偏差を求め、その偏差に応じてdq軸電圧指令値vd、vqを演算する。なお、この部分には非干渉制御を加えてもよい。
【0034】
そして、モータコントローラ5は、dq軸電圧指令値vd、vqとモータ3の回転子位相αとから三相電圧指令値vu、vv、vwを算出する。この三相電圧指令値vu、vv、vwと直流電圧Vdcとから、PWM信号(on duty)tu[%]、tv[%]、tw[%]を求める。
【0035】
S201〜S205により求められたPWM信号を用いて、インバータ2のスイッチング素子のON/OFFを操作する。このようにすることで、モータ3には所望の電力が供給されるので、モータ3はトルク指令値に応じたトルクで駆動することになる。
【0036】
ここで、S203の停止制御処理は、電動車両の駆動力伝達系をモデル化した車両モデルに基づいて行われる。そこで、電動車両の駆動力伝達系を示す車両モデルについて説明する。
【0037】
図4は、電動車両の駆動力伝達系をモデル化した図である。
【0038】
まず、この図を用いて、モータトルTmからモータ3の回転速度ω
mまでの伝達特性Gp(s)について説明する。
【0039】
この図におけるパラメータは、以下の値を示している。
J
m:モータイナーシャ
J
w:駆動軸イナーシャ(1軸分)
M:車両の質量
K
D:駆動軸のねじり剛性
K
t:タイヤと路面の摩擦に関する係数
N:オーバーオールギア比
r:タイヤ荷重半径
ω
m:モータの角速度
T
m:トルク目標値Tm
*
T
D:駆動輪のトルク
F:車両に加えられる力
V:車両の速度
ω
w:駆動軸の角速度
そして、この図から、以下の運動方程式を導くことができる。なお、以下の式において右肩に付与された「*」は、そのパラメータが時間微分されていることを示している。
【0045】
これらの(1)〜(5)式に基づいて伝達特性Gp(s)を求めると、以下のようになる。
【0047】
ただし、これらの式における各パラメータは下記の通りである。
【0049】
ここで、(6)式の伝達関数G
p(s)の極と零点を調べると、次の式のように近似することができる。
【0051】
そして、伝達関数G
p(s)の1つの極と1つの零点は極めて近い値を示すため、(7)式におけるαとβが極めて近い値を示すことに相当する。そこで、(7)式における極零相殺(α=βと近似する)を行うことにより、次の式に示すような(2次)/(3次)の伝達特性G
p(s)を構成することができる。
【0053】
ここで、
図2のS203の停止制御処理を行う詳細な構成について、
図5を用いて説明する。
【0054】
図5は、停止制御処理を行うブロック図である。
【0055】
モータ回転速度F/Bトルク設定部501では、モータ3の回転速度ω
mに基づき、モータ回転速度F/BトルクTωを算出する。モータ回転速度F/Bトルク設定部501の詳細な構成は、
図6を用いて、後に説明する。
【0056】
外乱トルク推定部502は、モータ3の回転速度ω
mと、トルク指令値Tm
*に基づき、外乱トルク推定値T
dを算出する。外乱トルク推定部502の詳細な構成は、
図7を用いて、後に説明する。
【0057】
加算器503は、モータ回転速度F/Bトルク設定部501により算出されたモータ回転速度F/BトルクTωと、外乱トルク推定部502により算出された外乱トルク推定値T
dの和を演算して、第2のトルク目標値Tm
2*として出力する。
【0058】
トルク指令値設定部504では、S202にて算出された第1のトルク目標値Tm
1*と、加算器503から出力される第2のトルク目標値Tm
2*に基づき、モータトルク指令値Tm
*を設定する。トルク指令値設定部504における詳細な処理は、
図8を用いて、後に説明する。
【0059】
図6は、モータ回転速度F/Bトルク設定部501の詳細な構成を示す図である。
【0060】
モータ回転速度F/Bトルク設定部501は、ゲインKvrefのブロック601により構成される。ブロック601は、入力されたモータ回転速度ω
mに対してゲインKvrefを乗算することで、モータ回転速度F/BトルクTωを算出する。なお、モータ回転速度ω
mの低下に伴ってモータ回転速度F/BトルクTωが小さくなり、モータ3へのトルク指令値Tm
*が小さくなるように、Kvrefは負の値であるものとする。
【0061】
図6においては、モータ回転速度F/BトルクTωはモータ回転速度ω
mに所定の負のゲインを乗算して算出したがこれに限らない、モータ回転速度ω
mと回生トルクとを対応させたテーブルや、モータ回転速度ω
mの減衰率を示す減衰率テーブルなどを使って、モータ回転速度F/BトルクTωを算出しても良い。
【0062】
図7は、外乱トルク推定部502の詳細な構成を示す図である。ここで、車両モデルにおいては、外乱の影響によって指令値と応答値との差が生じる。そのため、指令値であるモータトルク指令値Tm
*と、応答値であるモータ回転速度ω
mとを用いて、外乱トルク推定値T
dが推定される。
【0063】
外乱トルク推定部502は、ブロック701とブロック702とにより構成される。
【0064】
ブロック701は、H(s)/G
p(s)で構成されており、応答値であるモータ3の回転速度ω
mに応じたモータトルク推定値T
e1を算出する。H(s)/G
p(s)は、モータトルク指令値Tm
*からモータ回転速度ω
mまでの伝達関数G
p(s)の逆伝達関数である1/G
p(s)と、分母と分子の次数の差が伝達関数G
p(s)以上であるローパスフィルタH(s)とにより構成される。このような構成のブロック701によって、応答値であるモータ3の回転速度ω
mに応じた第1のモータトルク推定値T
e1が求められる。
【0065】
ブロック702は、ローパスフィルタH(s)で構成されている。このようなブロック702によって指令値であるモータトルク指令値Tm
*がフィルタリング処理され、第2のモータトルク推定値T
e2が算出される。
【0066】
そして、減算器703を用いて、モータ3の指令値に応じた第2のモータトルク推定値T
e2から、モータ3への応答値に応じた第1のモータトルク推定値T
e1を減算することで、外乱トルク推定値T
dが求められる。
【0067】
図7においては、伝達関数やフィルタなどにて構成される外乱オブザーバを用いて外乱トルクを推定したがこれに限らない。例えば、車両前後加速度センサなどの計測器を使って外乱トルクを推定してもよい。
【0068】
なお、外乱には、空気抵抗、車両質量の変動(乗員数、積載量)によるモデル化誤差、タイヤの転がり抵抗、勾配抵抗などあるが、停車間際において影響が大きな外乱は勾配抵抗である。また、外乱要因は運転条件により異なるが、本発明では、外乱トルク推定部502によって、モータトルク指令値Tm
*、モータ回転速度ω
m、及び、車両モデルG
p(s)に基づいて外乱トルク推定値T
dを算出することができる。したがって、これらの外乱要因を一括して推定することができるので、運転条件によらず滑らかに停車することができる。
【0069】
図8は、トルク指令値設定部504で実行される停止制御処理のフローチャートである。
【0070】
ステップ801では、停止制御フラグの前回値(flag_z)が0か1かを判定する。なお、停止制御フラグの初期値は0であるものとする。
【0071】
停止制御フラグの前回値が0である場合は(S801:Yes)、電動車両は通常の走行状態であり停止制御が行われていないと判断して、ステップS802に進む。
【0072】
一方、停止制御フラグの前回値が1である場合は(S801:No)、電動車両は通常の走行状態でなく停止制御が行われていると判断して、ステップS806に進む。
【0073】
まず、停止制御が行われていない場合(S801:Yes)の処理について説明する。
【0074】
ステップS802では、第1のトルク目標値Tm
1*をローパスフィルタHlpf(s)を用いてフィルタ処理することで、第3のトルク目標値Tm
3*を算出する。フィルタ処理を行うことで、加速又は減速時に第1のトルク目標値Tm
1*が変化する場合などにおいてモータ側のギアと駆動軸側のギアとの間にて発生するバックラッシュを緩和することができる。
【0075】
ステップS803では、第2のトルク目標値Tm
2*と、第3のトルク目標値Tm
3*とを比較する。ここで、電動車両が完全に停車する時には、第2のトルク目標値Tm
2*は、第3のトルク目標値Tm
3*よりも小さな値から、大きな値に収束するように変化する。そのため、第2のトルク目標値Tm
2*が第3のトルク目標値Tm
3*よりも大きくなるタイミングが、電動車両100が停車間際の状態になるタイミングと判断することができる。
【0076】
そこで、第3のトルク目標値Tm
3*が第2のトルク目標値Tm
2*以上である場合(Tm
2*≦Tm
3*)には(S803:Yes)、停車間際の状態にはなっていないと判断して、ステップS804に進む。
【0077】
一方、第3のトルク目標値Tm
3*が第2のトルク目標値Tm
2*より小さい場合(Tm
2*>Tm
3*)には(S803:No)、停車間際の状態になったと判断して、ステップS805に進む。
【0078】
ステップS804では、停止制御が行われないので、停止制御フラグ(flag)に0を設定する。そして、モータトルク指令値Tm
*に第3のトルク目標値Tm
3*を設定して、ステップS811に進む。
【0079】
一方、ステップS805では、停止制御が行われるので、停止制御フラグ(flag)を1に設定する。そして、モータトルク指令値Tm
*に第2のトルク目標値Tm
2*を設定して、ステップS811に進む。
【0080】
ステップS811では、停止制御が行われたか否かを示す停止制御フラグ(flag)が、停止制御フラグの前回値(flag_z)に設定される。
【0081】
次に、停止制御が行われている場合(S801:No)の処理について説明する。
【0082】
ステップS806では、第1のトルク目標値Tm
1*と、第2のトルク目標値Tm
2*にオフセットトルクαを加算した値とを比較する。オフセットトルクαは、予め定められた値であり、後述のように停止制御のオンとオフとのハンチングを防ぐために用いられている。そのため、オフセットトルクαはゼロであってもよいが、正の値であるほうが望ましい。
【0083】
第1のトルク目標値Tm
1*が第2のトルク目標値Tm
2*にオフセットトルクαを加算した値以下である場合(Tm
1*≦Tm
2*+α)には(S806:Yes)、アクセルが踏み込まれておらず、停車処理を継続すると判断して、S807に進む。
【0084】
一方、第1のトルク目標値Tm
1*が第2のトルク目標値Tm
2*にオフセットトルクαを加算した値よりも大きい場合(Tm
1*>Tm
2*+α)には(S806:No)、アクセルが踏み込まれて再加速をしており、停止制御を終了させて通常の制御に切り替えると判断して、S808に進む。
【0085】
ステップS807では、停止制御が行われるので、停止制御フラグ(flag)を1に設定する。そして、モータトルク指令値Tm
*に第2のトルク目標値Tm
2*を設定して、ステップS811に進む。
【0086】
一方、ステップS808〜S809では、停止制御ではなく通常の走行状態における制御が行われる。
【0087】
ステップS808では、ローパスフィルタHlpf(s)の初期化処理が行われる。一般に、本実施形態のように制御処理が繰り返し行われる場合には、ローパスフィルタHlpf(s)においては、前回の入力値及び出力値と、入力される値(今回の入力値)とに応じて、出力される値(今回の出力値)が求められる。そのため、S808においては、ローパスフィルタHlpf(s)の前回の入力値(u_z)及び前回の出力値(y_z)が、第2のトルク目標値Tm
2*で初期化されることで、ローパスフィルタHlpf(s)が初期化されることになる。なお、オフセットトルクαがゼロである場合には、第1のトルク目標値Tm
1*でローパスフィルタHlpf(s)を初期化してもよい。また、この初期化処理は、第1のトルク目標値Tm
1*が第2のトルク目標値Tm
2*にオフセットトルクαを加算した値よりも大きくなった(Tm
1*>Tm
2*+α)後の処理においてのみ行われてもよいし、このような初期化処理が複数回行われてもよい。
【0088】
ステップS809では、第1のトルク目標値Tm
1*をローパスフィルタHlpf(s)にてフィルタリング処理することで、第3のトルク目標値Tm
3*を算出する。
【0089】
ステップS810では、停止制御を行わないため、停止制御フラグ(flag)を0に設定する。そして、モータトルク指令値Tm
*に第3のトルク目標値Tm
3*を設定して、ステップS811に進む。
【0090】
ここで、ステップS806〜S810までの処理は次のように説明できる。ステップS806においては、停車間際状態においてアクセルペダルが踏み込まれて電動車両が再加速しているか否かが判定される。ここで、再加速している時における、モータトルク指令値Tm
*の、第2のトルク目標値Tm
2*(S807)から、第3のトルク目標値Tm
3*(S810)への切り替えについて検討する。このような切り替えが行われる場合には、第2のトルク目標値Tm
2*(S807)から、第2のトルク目標値Tm
2*で初期化処理された(S808)ローパスフィルタHlpf(s)を用いて求められた(S809)第3のトルク目標値Tm
3*に切り替えられる(S810)ことになるので、切り替えが滑らかに行われることになる。
【0091】
なお、本実施例ではS802及びS809にてローパスフィルタを用いたが、これに限らない。例えば、レートリミッタなどのようにギアバックラッシュを緩和できるような構成を用いてもよい。
【0092】
次に、本発明による効果を説明するために、本実施形態における
図8に示された停止制御が行われる場合と、
図9に示されるような停止制御が行われる場合の電動車両の走行状態について説明する。
【0093】
図9に示された停止制御においては、
図8のS802〜805の処理だけが行われており、停止制御フラグflag及び停止制御フラグの前回値flag_zに関連する処理は行われていないものとする。
【0094】
図10は、
図9に示された停止制御が行われる場合の電動車両の状態を示す図である。時刻t0では登坂路において電動車両が停車している状態であり、時刻t1にてアクセルペダルが踏まれたものとする。
【0095】
図10(a)には電動車両の速度V[km/h]が示され、
図10(b)にはアクセル開度θ[%]が示され、
図10(c)にはモータ3のトルクが示され、
図10(d)には停止制御フラグ(flag)が示されている。なお、
図10(c)には、第1のトルク目標値Tm
1*が二点鎖線で、第2のトルク目標値Tm
2*が点線で、第3のトルク目標値Tm
3*が一点鎖線で、モータトルク指令値Tm
*が実線で示されている。
【0096】
まず、時刻t0においては、停車状態であるので停止制御が行われる(S805)。そのため、モータトルク指令値Tm
*は外乱に応じて第2のトルク目標値Tm
2*となる。ここで、電動車両が登坂路にある場合には、第2のトルク目標値Tm
2*は正の値であるので、
図10(a)に示すように電動車両は停止状態を保つことができる。
【0097】
時刻t1においては、
図10(b)に示すようにアクセルが踏みこまれる。そのため、時刻t1〜t2においては、
図10(c)に示すように第1のトルク目標値Tm
1*が徐々に増加する。また、第3のトルク目標値Tm
3*は、フィルタの影響によって第1のトルク目標値Tm
1*に対して遅れて増加する。第3のトルク目標値Tm
3*は第2のトルク目標値Tm
2*よりも小さいため(S803:No)、
図10(d)に示すように停止制御が継続される(S805)。
【0098】
時刻t2においては、
図10(c)を参照すると、第1のトルク目標値Tm
1*は第2のトルク目標値Tm
2*と同じ大きさになる。しかしながら、停止制御を行うか否かの判定に用いられる第3のトルク目標値Tm
3*は、第2のトルク目標値Tm
2*よりも小さい(Tm
2*>Tm
3*)ので(S803:No)、
図10(d)に示すように停止制御が継続される(S805)。
【0099】
時刻t3においては、
図10(c)を参照すると、第2のトルク目標値Tm
2*は第3のトルク目標値Tm
3*以下となる(Tm
2*≦Tm
3*)ので(S803:Yes)、
図10(d)に示すように停止制御が行われずに、アクセル開度に応じた第3のトルク目標値Tm
3*がトルク指令値Tm
*に設定される(S804)。このようにして、
図10(a)に示すように時刻t3から電動車両は加速することになる。
【0100】
図10に示されたような動作をする場合には、アクセルペダルを踏み込み始めた時刻t1から、電動車両が加速し始める時刻t3までの間、遅延時間が発生することになる。
【0101】
次に、
図8に示した本実施形態の停止制御が行われる場合について説明する。
【0102】
図11は、
図8に示された停止制御が行われる場合の電動車両の状態を示す図である。
【0103】
まず、時刻t0においては、停車状態であるので停止制御が行われている。停止制御フラグの前回値(flag_z)が1である場合には(S801:No)、
図11(c)に示すように、第1のトルク目標値Tm
1*が第2のトルク目標値Tm
2*とオフセット値αとの和よりも小さい(Tm
1*>Tm
2*+α)ため(S806:No)、停止制御が行われ、第2のトルク目標値Tm
2*がモータトルク指令値Tm
*に設定される(S807)。
【0104】
時刻t1においては、
図11(b)に示すようにアクセルペダルが踏みこまれて再加速されるので、
図11(c)に示すように第1のトルク目標値Tm
1*が徐々に増加する。しかしながら、また、第1のトルク目標値Tm
1*は第2のトルク目標値Tm
2*とオフセット値αとの和以下である(Tm
1*≦Tm
2*+α)ため(S806:Yes)、停止制御(S807)が行われる。
【0105】
時刻t2’においては、
図11(c)を参照すると、第2のトルク目標値Tm
2*は第1のトルク目標値Tm
1*とオフセット値αとの和より大きくなる(Tm
1*>Tm
2*+α)(S806:No)。そのため、ローパスフィルタHlpf(s)を、第2のトルク目標値Tm
2*で初期化する(S808)。
【0106】
そして、初期化処理が行われたローパスフィルタHlpf(s)を用いて、第1のトルク目標値Tm
1*をフィルタ処理することで、第3のトルク目標値Tm
3*が求められる(S809)。その第3のトルク目標値Tm
3*がモータトルク指令値Tm
*に設定される(S810)。
【0107】
ここで、時刻t2’では、第2のトルク目標値Tm
2*を用いた停止制御処理(S807)から、第3のトルク目標値Tm
3*を用いた再加速処理(S810)に切り替わる。切り替わった後の第3のトルク目標値Tm
3*は、切り替わる前の第2のトルク目標値Tm
2*に対して、初期化処理された(S808)ローパスフィルタHlpf(s)処理を行うことで求められている(S809)ので、
図11(a)に示すように時刻t2’から電動車両は滑らかに加速することになる。
【0108】
図11に示されたような動作をする場合には、アクセルペダルを踏み込み始めた時刻t1から、電動車両が加速し始める時刻t2’までの間、遅延時間が発生することになる。
【0109】
ここで、
図10における遅延時間(時刻t1〜t3)よりも、
図11における遅延時間(時刻t1〜t2’)は短くなる。このように、本実施形態によって、遅延時間を短くすることができることがわかる。したがって、以上の処理を行うことで、アクセルレスポンスの良い、滑らかな加速/発進を行うことができる。
【0110】
本発明の実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0111】
本発明の実施形態によれば、各種車両情報に基づき決まる第3のトルク目標値Tm
3*と、モータ回転速度ω
mの低下とともに外乱トルク推定値Tdに収束する第2のトルク目標値Tm
2*とを比較する(S803)。そして、第2のトルク目標値Tm
2*が第3のトルク目標値Tm
3*よりも大きい(Tm
2*>Tm
3*)場合には(S803:No)、停車間際と判断して、モータトルク指令値Tm
*を第3のトルク目標値Tm
3*(S804)から第2のトルク目標値Tm
2*(S805)に切り替える。これにより、平坦路、登坂路、降坂路に依らず、加速度振動の無い常に滑らかな減速を停車間際で実現することができ、なおかつ停車状態を保持することができる。また、停車間際で摩擦ブレーキを使わなくとも減速できるため、停車間際においても回生することができ、電費向上が期待できる。
さらに、アクセル操作のみで減速し、勾配に依らず停車できるため、ペダルの踏み変え操作の必要が無く、ドライバの負担を軽減できる。
【0112】
停車間際の状態でアクセル操作を行われて再加速が行われている場合には、モータ側のギアと駆動輪と接続された駆動軸側のギアとの間にて、バックラッシュショックが発生してしまう。これに対して、第1のトルク目標値Tm
1*に対してローパスフィルタ処理を行うことで(S810)、再加速時にはフィルタ処理後の第1のトルク目標値Tm
1*である第3のトルク目標値Tm
3*を用いることができるので(S810)、ギアバックラッシュに起因する車両のゆれを低減することができる。
【0113】
また、再加速しているか否かを判定する判定ステップ(S806)においては、フィルタ処理されていない第1のトルク目標値Tm
1*を用いて判断されるので、フィルタ処理に起因する再加速判定の遅れを抑制することができる。
【0114】
さらに、
図11(c)を参照すれば、時刻t2’において、モータトルク指令値Tm
*は、第2のトルク目標値Tm
2*(S807)から第3のトルク目標値Tm
3*(S810)に切り替えられる。切り替え後においては、第2のトルク目標値Tm
2*を用いて初期化された(S808)ローパスフィルタHlpf(s)を用いて第3のトルク目標値Tm
3*が求められる(S809)。このようにすることで、停車制御を行う第2のトルク目標値Tm
2*から、再加速を行う第3のトルク目標値Tm
3*へ滑らかに切り替えが行われるので、電動車両は滑らかに加速することができる。
【0115】
また、本実施形態の制御方法によれば、再加速しているか否かの判断において、第1のトルク目標値Tm
1*と、オフセット値αが加算された第2のトルク目標値Tm
2*とが比較される(S806)。
【0116】
ここで、停止制御が行われていない間(S801:Yes)における、停止制御を開始するタイミングの判定は(S803)、第1のトルク目標値Tm
1*にフィルタ処理を行った第3のトルク目標値Tm
3*と、第2のトルク目標値Tm
2*とを比較することで行われる。一方、停止制御が行われている間(S801:No)において、停止制御を終えて再加速するための通常の運転制御に切り替えるタイミングの判定は(S806)、第1のトルク目標値Tm
1*と、第2のトルク目標値Tm
2*とオフセット値αとの和とを比較することで行われる。
【0117】
このように、停止制御が行われていない間(S801:Yes)の停止制御を行うか否かの判定(S803)の条件と、停止制御が行われている間(S801:No)の停止制御を終えるか否かの判定(S806)との条件との間にヒステリシスが設けられている。そのため、停止制御の開始と終了とがハンチングすることを抑制することができる。これにより、停止制御が行われているか否かにに連動して作動する他制御への影響を無くすことができる。
【0118】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。