(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記トナー粒子の断面において、前記糸状結晶構造体の平均長径が、400〜2000nmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の静電潜像現像用トナーの製造方法。
前記トナー粒子の断面において、前記糸状結晶構造体の平均短径が、8〜50nmの範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の静電潜像現像用トナーの製造方法。
前記金属濃度は、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)及び鉄(Fe)から選ばれる少なくとも1種の金属元素に由来する金属の濃度であることを特徴とする請求項4に記載の静電潜像現像用トナーの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の静電潜像現像用トナーの製造方法は、少なくとも、結着樹脂及び離型剤を含有するトナー粒子を含む静電潜像現像用トナーの製造方法であって
、前記トナー粒子は、コア粒子表面にシェル層が被覆されてなるコア・シェル構造を有し、前記結着樹脂として、非晶性ポリエステル樹脂と
結晶性樹脂として結晶性
ポリエステル樹脂を含有し、前記非晶性ポリエステル樹脂を、前記トナー粒子中に含有される樹脂の主成分として含有し、前記結晶性樹脂が、前記トナー粒子中に糸状結晶構造体のドメインとして存在し、かつ、前記トナー粒子の断面において、前記糸状結晶構造体の平均長径が、300〜2000nmの範囲内であ
り、かつ、
結晶性樹脂微粒子の分散液と非晶性ポリエステル樹脂微粒子の分散液とをそれぞれ別々に調製して、その後、コア粒子形成工程において、少なくとも前記結晶性樹脂微粒子、前記非晶性樹脂微粒子及び離型剤微粒子が分散されてなる分散液に、金属塩を含有する凝集剤を添加することにより、コア粒子を形成することを特徴とする。この特徴は、各請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0025】
本発明の実施態様としては、本発明の効果をより有効に発現させる観点から、前記トナー粒子の断面において、前記糸状結晶構造体の平均長径が、400〜2000nmの範囲内であることが好ましい。
【0026】
本発明の実施態様としては、本発明の効果をより有効に発現させる観点から、前記トナー粒子の断面において、前記糸状結晶構造体の平均短径が、8〜50nmの範囲内であることが好ましい。
【0027】
本発明の実施態様としては、低温定着性と定着分離性とを良好にできる観点から、前記結晶性樹脂として、結晶性ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。
【0028】
本発明の実施態様としては、低温定着性と定着分離性とを良好にできる観点から、前記トナー粒子中の金属濃度が、20〜2000質量ppmの範囲内であることが好ましい。トナー粒子中に含有されている金属元素由来の金属イオンが、結晶性樹脂と非晶性樹脂との間でイオン結合することによって、結晶性樹脂の糸状結晶構造体をトナー粒子中に安定に存在させることができるため、上述した効果を有効に発現できるものと考えられる。
【0029】
本発明の実施態様としては、本発明の効果をより有効に発現させる観点から、前記金属濃度は、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)及び鉄(Fe)から選ばれる少なくとも1種の金属元素に由来する金属の濃度であることが好ましい。
【0030】
本発明の実施態様としては、トナー飛散を抑える観点から、前記トナー粒子に、外添剤として、平均粒子径が0.5〜3.0μmの範囲内の無機チタン酸化合物微粒子を含有することが好ましい。
【0031】
本発明の実施態様としては、定着分離性を向上させる観点から、前記トナー粒子に、外添剤として、平均粒子径が0.1〜1.0μmの範囲内の大径シリカ微粒子を含有することが好ましい。
【0032】
本発明の静電潜像現像用トナーは、トナー粒子中に結晶性樹脂の糸状結晶構造体を良好に形成させる観点から、金属塩を含有する凝集剤を用いて、乳化凝集法によって前記トナー粒子を製造することが好ましい。
【0033】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、数値範囲を表す「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。また、特記しない限り、操作及び物性等の測定は、室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で測定した値である。
【0034】
[静電潜像現像用トナー]
本発明の静電潜像現像用トナー(トナー)は、トナー粒子の集合体である。
【0035】
<トナー粒子>
本発明に係るトナー粒子は、少なくとも結着樹脂と離型剤を含んで構成されており、結着樹脂としては、非晶性樹脂及び結晶性樹脂を含有する。また、本発明に係るトナー粒子は、コア粒子表面にシェル層が被覆されてなるコア・シェル構造を有している。
また、トナー粒子中の金属濃度が所定の範囲内となっていることが好ましい。また、トナー粒子には、更に必要に応じて、着色剤、荷電制御剤等の内添剤を含有しても良い。また、本発明のトナー粒子は、外添剤を添加したトナー粒子を用いることが好ましい。
また、以下の説明においては、外添剤を添加されていない状態のトナー粒子を、トナー母体粒子ともいう。
なお、本発明でいう、「トナー粒子中」とは、トナー粒子内部のみ、つまり、トナー母体粒子内部のことを意味し、外添剤は含まない。
【0036】
<トナー粒子中の結晶性樹脂のドメインの存在状態>
本発明のトナーは、トナー粒子中に、結晶性樹脂からなる糸状結晶構造体のドメインが適切な大きさで存在する点に特徴の一つがある。
ここでいう、糸状結晶構造体のドメインとは、トナー粒子を構成する樹脂成分の連続層(マトリクス)中にあって、糸状に孤立分散して存在している領域をいう。
また、本発明でいう「糸状結晶構造体」とは、結晶性樹脂が、結晶性部分と非晶性部分が積層構造を持ついわゆるラメラ状結晶構造体ではなく、非積層型の糸状の結晶構造体であり、トナー粒子の断面において、結晶構造体の平均長径が平均短径に対して少なくとも10倍以上となっている結晶構造体のことである。
【0037】
ここでいう「非積層型」とは、正確には、トナー粒子の断面を観察した際に、ルテニウム染色しても、明確な積層構造が確認できない構造型のことである。具体的には、
図1にルテニウム染色後のトナー粒子の断面の拡大図の模式図を示すように、マトリクス1としての非晶性樹脂の中に、「結晶性樹脂の糸状結晶構造体のドメイン2」と「離型剤のドメイン3」が存在するものである。また、参考例として、
図2には、「積層型」の結晶構造体である「結晶性樹脂のラメラ状結晶構造体のドメイン4」を示す。
本発明に係るトナー粒子中には、積層構造をもつラメラ状結晶構造体を含んでいてもよいが、トナー粒子の断面積に対して、断面積の比率で1%未満であることが好ましく、存在していないこと、すなわち、断面積の比率で0%であることがより好ましい。
【0038】
<糸状結晶構造体>
結晶性樹脂の糸状結晶構造体は、トナー粒子の断面において、平均長径が300〜2000nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは400〜2000nmの範囲内である。その効果としては、明確ではないが、以下のように推測している。結晶性樹脂の糸状結晶構造体が素早く非晶性樹脂と相溶することで、糸状結晶構造体が存在していた部分には擬似的な界面が形成され、その部分を経路として離型剤が染み出しやすくなる。糸状結晶構造体の平均長径を300nm以下とすると、結晶性樹脂部分の連続性が絶たれ、離型剤が染み出しにくくなり、定着分離性が低下する。また、2000nm以上とすると、結晶性樹脂の糸状結晶構造体の融解速度が不均一となることで経路の連続性が絶たれ、離型剤が染み出しにくくなり、定着分離性が低下する。
糸状結晶構造体の平均長径は、例えば、結晶性樹脂の添加量や組成、及び、結晶性樹脂分散液中の結晶性樹脂の分散径で制御することができる。例えば、結晶性樹脂の添加量を増やしたり、結晶性樹脂分散液の結晶性樹脂の分散径を大きくしたりすると、糸状結晶構造体が大きくなる傾向がある。さらに、形状制御後に冷却し、撹拌しながら時間を置くことで、結晶成長が進み、細長い糸状結晶構造体をとることができる。
また、結晶性樹脂として、ハイブリッド構造を有さない構造のものを用いると、より糸状結晶構造を形成しやすくなる傾向がある。さらに、結晶性樹脂が結晶性ポリエステルの場合、酸とアルコールのモノマーとして、両者の炭素鎖長が近いものが結晶化しやすいため好ましい。
【0039】
<トナー粒子の断面の観察方法>
トナー粒子の断面の観察は、透過型電子顕微鏡、電子顕微鏡、走査型プローブ顕微鏡(SPM)等などで観察できる。以下に、その一例をあげるが、同等の観察ができれば、これに限定されるわけではない。
(観察条件)
以下のような、観察条件により、トナー粒子の断面を観察することができる。
装置:電子顕微鏡「JSM−7401F」(日本電子株式会社製)
試料:四酸化ルテニウム(RuO
4)によって染色したトナー粒子の切片(切片の厚さ:60〜100nm)
加速電圧:30kV
倍率:50000倍、明視野像
【0040】
(トナー粒子の切片の作製方法)
作製したトナーを3質量部、ポリオキシエチルフェニルエーテルの0.2%水溶液35質量部に添加して分散させた後、超音波(株式会社日本精機製作所製、US−1200T)により25℃で5分間処理を行い、外添剤をトナー表面から取り除き、観察用のトナー粒子を得る。
上記で得られたトナー粒子1〜2mgを10mLサンプル瓶に広げるように入れ、下記で示す四酸化ルテニウム(RuO
4)蒸気染色条件下で染色後、光硬化性樹脂「D−800」(日本電子社製)中に分散させ、光硬化させてブロックを形成する。次いで、ダイヤモンド歯を備えたミクロトームを用いて、上記のブロックから厚さ60〜100nmの超薄片状のサンプルを切り出す。
【0041】
(四酸化ルテニウム染色条件)
染色は、真空電子染色装置VSC1R1(フィルジェン株式会社製)を用いて行う。装置手順に従い、染色装置本体に四酸化ルテニウムが入った昇華室を設置し、作製した上記超薄切片を染色チャンバー内に導入後、四酸化ルテニウムによる染色条件として、室温(24〜25℃)、濃度3(300Pa)、時間10分の条件下で染色する。
【0042】
(結晶構造の観察)
染色後、24時間以内に電子顕微鏡「JSM−7401F」(日本電子株式会社製)を用いて透過電子検出器にて観察する。ここで、四酸化ルテニウムによって染色されたコントラストの差によって、トナー粒子中のドメインを判別することができる。観察されるドメインの内、より薄く染色されたドメイン部分を離型剤のドメイン、より濃く染色されたドメイン部分を結晶性樹脂のドメイン(糸状結晶構造体)として観察する。染色度合いの区別が難しい場合は、結晶構造体の平均長径が平均短径に対して少なくとも10倍以上となっているドメインを結晶性樹脂のドメイン(糸状結晶構造体)として測定する。また、糸状結晶構造体の平均長径と平均短径は、以下のように測定する。
【0043】
<糸状結晶構造体の平均長径と平均短径の測定方法>
糸状結晶構造体の平均長径と平均短径は、例えば、上記のような方法で観察した画像を市販の画像処理ソフトを利用して算出することができる。
具体的には、上記と同様にして作製したトナー粒子の断面を撮影した写真画像を、スキャナーにより取り込み、画像処理解析装置LUZEX AP(ニレコ社製)を用いて、糸状結晶構造体の長径(長軸)は最大長(MX LNG)を、短径(短軸)は幅(BR’DTH)を測定する。なお、幅(BR’DTH)は、最大長(MX LNG)に平行な2本の直線で画像を挟んだときの2直線間の最短距離である。測定は、トナー粒子100個について行い、測定した100個のトナー粒子の算術平均値として算出する。
ここで、平均長径と平均短径の測定の際に選ぶトナー粒子の断面は、トナー粒子の体積平均粒子径の±10%(例えば、5.8μm±0.58μm)となるトナー粒子の断面を選択する。
【0044】
また、上記の方法でトナー粒子100個の断面を観察した際、その断面において、上記の糸状結晶構造体の平均長径を満たすトナー粒子が全体の60%(60個)以上存在していればよく、80%(80個)以上存在していることが好ましい。上記の規定を満たすトナー粒子が全体の60%以上であれば、低温定着性、分離性の向上、及びトナー飛散の抑制の効果が得られる。また、本発明においては、結晶性樹脂が糸状結晶構造体以外の構造、例えばラメラ状結晶構造体等を含んでもよいが、本発明の効果を得るためには糸状結晶構造体以外の構造を有する結晶性樹脂は、断面積比率で1%未満であることが好ましい。
【0045】
<トナー粒子の形態>
トナー粒子は、コア・シェル構造(コア粒子の表面にシェル層を形成する樹脂を凝集、融着させた形態)を有するものである。コア・シェル構造の樹脂粒子は、着色剤や離型剤等を含有した樹脂粒子(コア粒子)表面に、樹脂領域(シェル層)を有する。これにより、トナー粒子中の結晶性樹脂のドメインがトナー粒子表面から露出しにくくなるため、トナー飛散の発生を効果的に抑制できると考えられる。
なお、コア・シェル構造は、シェル層がコア粒子を完全に被覆した構造のものに限定されるものではなく、例えば、シェル層がコア粒子を完全に被覆せず、所々コア粒子が露出しているものも含む。
コア・シェル構造の断面構造は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型プローブ顕微鏡(SPM)等の公知の手段を用いて確認することが可能である。
【0046】
<トナー粒子の平均円形度>
本発明に係るトナーにおいては、このトナーを構成する個々のトナー粒子について、帯電特性の安定性、低温定着性の観点から、平均円形度が0.920〜1.000であることが好ましく、0.950〜0.995であることがより好ましい。平均円形度が上記の範囲であることにより、個々のトナー粒子が破砕しにくくなって摩擦帯電付与部材の汚染が抑制されてトナーの帯電性が安定し、また、形成される画像において画質が高いものとなる。トナーの平均円形度は、「FPIA−2100」(Sysmex社製)を用いて測定した値である。具体的には、測定試料(トナー)を界面活性剤入り水溶液にてなじませ、超音波分散処理を1分間行って分散させた後、「FPIA−2100」(Sysmex社製)によって、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3000〜10000個の適正濃度で撮影を行い、個々のトナー粒子について下記式に従って円形度を算出し、各トナー粒子の円形度を加算し、全トナー粒子数で除することにより算出した値である。HPF検出数が上記の範囲であれば、再現性が得られる。
【0047】
トナー粒子の円形度=(粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
<トナー粒子の粒径>
本発明に係るトナー粒子の体積基準のメジアン径(体積平均粒径)は、好ましくは3〜10μm、より好ましくは4〜8μmである。この範囲内のトナー粒子であることにより、細線の再現性や、写真画像の高画質化が達成できると共に、トナーの消費量を、大粒径のトナー粒子を用いた場合に比して削減することができる。また、トナー流動性も確保できる。トナー粒子の体積平均粒径は、後述のトナー粒子の製造時の凝集・融着工程における凝集剤の濃度や溶剤の添加量、又は融着時間、さらには樹脂成分の組成等によって制御することができる。トナーの体積基準のメジアン径は、例えば、「Multisizer3」(ベックマン・コールター株式会社製)により測定できる。
【0048】
<トナー粒子中の金属濃度>
本発明に係るトナー粒子中の金属濃度は、20〜2000質量ppmの範囲内であることが好ましい。これは、トナー粒子中に含有されている金属元素由来の金属イオンが、結晶性樹脂と非晶性樹脂との間でイオン結合により架橋し、結晶性樹脂の糸状結晶構造体をトナー粒子中に安定に存在させることができるためと推測している。そのため、結晶性樹脂の糸状結晶構造体を含有したことによる低温定着性の効果をより有効に発現することができ、定着温度を低くしても、定着分離性が良好であるという効果を得ることができる。また、金属濃度が20質量ppmよりも濃い場合に、上記の定着分離性向上の効果を得ることができ、2000質量ppmより薄い場合に、イオン結合による架橋量を増やしすぎることなく低温定着性の効果を十分に得られる。
【0049】
また、上記の金属濃度は、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)及び鉄(Fe)から選ばれる少なくとも1種の金属元素に由来する金属の濃度であることが好ましい。さらには、着色の観点から、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)であることがさらに好ましい。また、これらの金属元素は、トナーの製造において用いられる凝集剤由来の金属元素であることが好ましい。
【0050】
凝集剤としては、例えば、2価又は3価の金属元素を有する水溶性金属塩を用いることができ、具体例としては、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸マンガンなどの2価の金属塩;塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化第2鉄、硫酸第2鉄、などの3価の金属塩などが挙げられる。これらの金属塩は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
(金属濃度の測定方法)
トナー粒子中に存在する金属元素量は、微量な定量が可能であれば、特に限定されないが、酸分解/誘導結合プラズマ発光分光分析法で求めることができる。以下に、測定の一例を示す。
【0052】
(1.前処理)
トナー粒子100mgを、密閉式マイクロ波分解装置「マイルストーンゼネラル社製、ETHOS1」にて硫酸、硝酸による分解で行う。未分解物がある場合は塩酸、フッ化水素酸、過酸化水素などを用いて目的成分を溶出する。分解液は、超純水を用いて適宜希釈する。
【0053】
(2.測定)
高周波誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP−OES、株式会社日立ハイテクサイエンス製、SPS3520UV)を用いて測定する。波長は干渉がなく感度の高いものであれば以下に限定されないが、例えば、Alは167.079nm、Mgは279.553nm、Feは259.940nmにて測定することができる。検量線は、試料を含まない分解液に、各元素の原子吸光用標準液を添加し、試料液と同じ酸濃度になるように調整し使用する。
以下、本発明のトナーを構成する結晶性樹脂、非晶性樹脂及び離型剤等の各構成成分について説明する。
【0054】
<結晶性樹脂>
糸状結晶構造体を形成する結晶性樹脂としては、結晶性を有する樹脂であれば特に制限はなく、本技術分野における従来公知の結晶性樹脂を用いることができる。その具体例としては、結晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリウレタン樹脂、結晶性ポリウレア樹脂、結晶性ポリアミド樹脂、結晶性ポリエーテル樹脂等が挙げられる。結晶性樹脂は、単独でも又は2種以上組み合わせても用いることができる。これらのなかでも、低温定着性を良好にできる観点から、結晶性ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。
【0055】
ここで、「結晶性ポリエステル樹脂」とは、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)及びその誘導体と、2価以上のアルコール(多価アルコール)及びその誘導体との重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂のうち、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有する樹脂をいう。明確な吸熱ピークとは、具体的には、示差走査熱量測定(DSC)において、昇温速度10℃/minで測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。
【0056】
多価カルボン酸誘導体としては、多価カルボン酸のアルキルエステル、酸無水物及び酸塩化物が例示でき、多価アルコール誘導体としては、多価アルコールのエステル化合物及びヒドロキシカルボン酸が例示できる。
【0057】
多価カルボン酸とは、1分子中にカルボキシ基を2個以上含有する化合物である。このうち、2価のカルボン酸は1分子中にカルボキシ基を2個含有する化合物であり、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、n−ドデシルコハク酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,11−ウンデカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、1,13−トリデカンジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸を挙げることができる。また、2価のカルボン酸以外の多価カルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸を挙げることができる。また、多価カルボン酸の誘導体として、これらカルボン酸化合物の無水物、又は炭素数1〜3のアルキルエステルなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
多価アルコールとは、1分子中にヒドロキシ基を2個以上含有する化合物である。このうち、2価のポリオール(ジオール)は1分子中にヒドロキシ基を2個含有する化合物であり、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオールなどの脂肪族ジオールを挙げることができる。また、2価のポリオール以外のポリオールとしては、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトールなどの3価以上の多価アルコールなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
また、重縮合性モノマーのカルボン酸価数、アルコール価数の選択などによって一部枝分かれや架橋などを有していてもよい。
【0060】
また、本発明の結晶性樹脂を、ハイブリッド構造を有する結晶性樹脂(ハイブリッド樹脂)としてもよいが、糸状結晶構造体を形成させやすくする観点から、ハイブリッド構造を有しない結晶性樹脂とすることが好ましい。
ここでいう、ハイブリッド構造を有する結晶性樹脂とは、「結晶性樹脂セグメント」と「結晶性樹脂以外の樹脂セグメント」が化学的に結合した樹脂である。「結晶性樹脂セグメント」とは、結晶性樹脂に由来する部分を示し、「結晶性樹脂以外の樹脂セグメント」とは、結晶性樹脂以外の樹脂に由来する部分を示す。結晶性樹脂以外の樹脂としては、例えば、スチレンアクリル系樹脂などのビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレア系樹脂、結晶性を持たないポリエステル樹脂などが挙げられる。結晶性樹脂以外の樹脂ユニットは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0061】
結晶性樹脂の融点(Tm)は、55〜90℃であることが好ましく、より好ましくは65〜85℃である。結晶性樹脂の融点が55〜90℃の範囲内であれば、十分な低温定着性及び優れた耐ホットオフセット性が得られる。なお、結晶性樹脂の融点は、樹脂組成や分子量によって制御することができる。
【0062】
結晶性樹脂の融点は、示差熱量分析装置(DSC)により測定することができる。例えば、「ダイアモンドDSC(Diamond DSC)」(パーキンエルマー社製)を用いて行うことができる。測定手順としては、トナー3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、ホルダーにセットする。リファレンスの測定には空のアルミニウム製パンを使用し、昇温速度10℃/分で0℃から200℃まで昇温する第1昇温過程、冷却速度10℃/分で200℃から0℃まで冷却する冷却過程、及び昇温速度10℃/分で0℃から200℃まで昇温する第2昇温過程をこの順に経る測定条件(昇温・冷却条件)によってデータを取得する。この測定によって得られるDSC曲線に基づいて、その第2昇温過程における結晶性樹脂に由来する吸熱ピークのピークトップの温度を融点とする。
【0063】
結晶性樹脂の含有量は、トナー粒子中に含有される樹脂全量に対して、1〜45質量%の範囲内であることが好ましく、5〜45質量%の範囲内であることがより好ましい。結晶性樹脂量が1質量%以上であると、低温定着性の効果を発揮することができ、5質量%以上であるとさらにその効果が大きくなる傾向がある。また、結晶性樹脂量が増加しすぎると、相対的に非晶性ポリエステル樹脂量が減少するため、低温定着性と耐熱保管性を高いレベルで両立できず、トナーの耐熱保管性が悪化する傾向が見られることから45質量%以下であることが好ましい。
【0064】
なお、ここでいう結晶性樹脂の含有量とは、結晶性樹脂がハイブリッド構造をとった場合には、結晶性樹脂セグメントと化学的に結合したハイブリッド樹脂の含有量は除くものとする。
また、本発明でいう「トナー粒子中に含有される樹脂全量」とは、トナー粒子中に含まれる樹脂成分の全量を意味し、上述した内添剤や外添剤を含まない。
【0065】
結晶性ポリエステル樹脂の形成方法は特に制限されず、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価カルボン酸及び多価アルコールを重縮合する(エステル化する)ことにより当該樹脂を形成することができる。製造方法の詳細については後述する。
【0066】
<非晶性樹脂>
非晶性樹脂としては、非晶性ポリエステル樹脂を、トナー粒子中に含有される樹脂の主成分として含有している。ここで「トナー粒子中に含有される樹脂の主成分」とは、トナー粒子中に含有される樹脂全量に対して、50〜99質量%の範囲内で含有することを意味する。また、50〜95質量%の範囲内で含有することがより好ましく、65〜95質量%で含有することがさらに好ましい。トナー粒子中に含有される樹脂全量に対して、非晶性ポリエステル樹脂量が50質量%以上含有されていると、低温定着性と耐熱保管性を高いレベルで両立でき、65質量%以上であると、さらにその効果が大きくなる傾向がある。また、非晶性ポリエステル樹脂の含有量が増加しすぎると、相対的に結晶性樹脂量が減少して低温定着性向上の効果が弱まることから、トナー粒子中に含有される樹脂全量に対して99質量%以下であり、95質量%以下であることが好ましい。
【0067】
非晶性ポリエステル樹脂としては、非晶性を有するものであれば特に限定されるものではなく、公知の非晶性ポリエステル樹脂を使用することもできる。ここで、「非晶性ポリエステル樹脂」とは、示差走査熱量測定法(DSC)において、その吸熱量変化で吸熱ピークを有さないポリエステル樹脂のことをいうものである。
【0068】
本発明で用いられる非晶性ポリエステル樹脂の製造方法としては、特に制限はなく、芳香族ジカルボン酸と多価アルコールとを反応させる一般的なポリエステルの重合法で製造することができる。また、非晶性ポリエステル樹脂は、1種の非晶性ポリエステル樹脂でもよいが、2種以上の非晶性ポリエステル樹脂の混合であってもよい。
【0069】
非晶性ポリエステル樹脂を構成する酸成分としては、芳香族ジカルボン酸が好ましく、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、マロン酸、メサコニン酸、イソフタル酸ジメチル、フマル酸、ドデセニルコハク酸等を挙げることができる。これらの中では、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸、ドデセニルコハク酸、トリメリット酸が好ましい。
非晶性ポリエステル樹脂を構成するアルコール成分としては、多価アルコールが好ましく、例えば、2価又は3価のアルコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、グリセリン、ソルビトール、1,4−ソルビタン、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。これらの中ではビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物が好ましい。
【0070】
非晶性樹脂としては、上述した非晶性ポリエステル系樹脂以外の樹脂成分として、ビニル系樹脂等を含有してもよい。
【0071】
<離型剤(ワックス)>
本発明に係るトナー粒子中に含まれる離型剤としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等の低分子量ポリオレフィン類、加熱により軟化点を示すシリコーン類;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類;カルナウバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油等の植物系ワックス;ミツロウ等の動物系ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の炭化水素系ワックス類、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸プロピル、モノステアリン酸グリセリド、ジステアリン酸グリセリド、ペンタエリスリトールテトラベヘン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアレート、ジプロピレングリコールジステアレート、ジステアリン酸ジグリセリド、ソルビタンモノステアレート、コレステリルステアレート等のエステルワックス類などを挙げることができる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。低温定着性及び離型性を得る観点から、その融点が50〜95℃であるものを用いることが好ましい。
【0072】
離型剤の含有量は、トナー粒子中に含有される樹脂全量に対して2〜20質量%の範囲内であることが好ましい。
また、本発明に係る結晶性樹脂の糸状結晶構造体が形成されやすくする観点から、離型剤としてモノエステルワックス類を用いることが特に好ましい。これは、離型剤と、トナー粒子中の離型剤、結晶性樹脂、や非晶性樹脂との親和性のバランスにより、本発明に係る離型剤と結晶性樹脂がそれぞれ独立して存在しやすくなるためであると考えられる。
【0073】
<着色剤>
本発明に係るトナー粒子には、着色剤を含んでも良い。着色剤としては、カーボンブラック、黒色酸化鉄、染料、顔料等が挙げられる。
【0074】
カーボンブラックとしては、例えばチャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラックなどが挙げられ、黒色酸化鉄としては、例えばマグネタイト、ヘマタイト、三酸化チタン鉄などが挙げられる。
【0075】
染料としては、例えばC.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同63、同111、同122、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93、同95などが挙げられる。
【0076】
顔料としては、例えばC.I.ピグメントレッド5、同48:1、同48:3、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同139、同144、同149、同150、同166、同177、同178、同222、同238、同269、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同156、同158、同180、同185、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントブルー15:3、同60などが挙げられる。
【0077】
各色のトナーを得るための着色剤は、各色について、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。トナー粒子中の着色剤の含有割合は、1〜10質量%であることが好ましい。
【0078】
<荷電制御剤>
本発明に係るトナー粒子には、荷電制御剤を含んでもよい。荷電制御剤の例としては、例えば、サリチル酸誘導体の亜鉛やアルミニウムによる金属錯体(サリチル酸金属錯体)、カリックスアレーン化合物、有機ホウ素化合物、及び含フッ素4級アンモニウム塩化合物などを挙げることができる。
【0079】
荷電制御剤の含有割合は、トナー中の樹脂成分100質量部に対して通常0.1〜10質量部であることが好ましく、0.5〜5質量部であることがより好ましい。
【0080】
<外添剤>
本発明に係るトナー粒子には、トナーとしての帯電性能や流動性、又はクリーニング性を向上させる観点から、その表面に公知の無機微粒子や有機微粒子などの微粒子や、滑剤等を外添剤として添加することが好ましい。外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。
外添剤として添加される微粒子としては、例えば、シリカ微粒子、アルミナ微粒子及びチタニア微粒子などの無機酸化物微粒子や、ステアリン酸アルミニウム微粒子、ステアリン酸亜鉛微粒子などの無機ステアリン酸化合物微粒子、又はチタン酸ストロンチウム微粒子、チタン酸亜鉛微粒子などの無機チタン酸化合物微粒子などが挙げられる。
【0081】
これら外添剤のなかでも、平均粒子径が0.1〜1.0μmの範囲内の大径シリカ微粒子をトナー母体粒子に添加することが好ましい。大径シリカ微粒子の粒子径を0.1μm以上とすることにより、定着部材と接する表面に硬い成分を存在させることができ、定着分離性を向上させることができる。また、大径シリカ微粒子の粒子径を1.0μm以下とすることにより、トナー粒子に付着しやすくして外添剤の効果を得ることができる。
【0082】
さらには、これら外添剤のなかで、平均粒子径が0.5〜3.0μmの範囲内の微粒子等のチタン酸化合物微粒子を、トナー母体粒子に添加することが好ましい。チタン酸化合物微粒子の粒子径を0.5μm以上とすることにより、正帯電性のチタン酸化合物微粒子が、疑似キャリアのように作用することで、帯電量分布を狭くでき、トナー飛散を抑えることができる。また、チタン酸化合物微粒子の粒子径を3.0μm以下とすることにより、正帯電性のチタン酸化合物微粒子が、抵抗を下げすぎることによる転写不良を防ぐことができる。
【0083】
滑剤としては、ステアリン酸の亜鉛、アルミニウム、銅、マグネシウム、カルシウム等の塩、オレイン酸の亜鉛、マンガン、鉄、銅、マグネシウム等の塩、パルミチン酸の亜鉛、銅、マグネシウム、カルシウム等の塩、リノール酸の亜鉛、カルシウム等の塩、リシノール酸の亜鉛、カルシウム等の塩等の高級脂肪酸の金属塩が挙げられる。
これら外添剤は、耐熱保管性及び環境安定性の観点から、シランカップリング剤やチタンカップリング剤、高級脂肪酸又はシリコーンオイルなどによって表面処理が行われたものであってもよい。
【0084】
これらの外添剤の添加量は、トナー母体粒子100質量部に対して、好ましくは0.05〜5質量部である。
【0085】
[静電潜像現像用トナーの製造方法]
トナー粒子を製造する方法としては、例えば、粉砕法、懸濁重合法、ミニエマルション法、乳化凝集法、その他の公知の方法などを挙げることができるが、本発明のトナー粒子を製造する方法としては、乳化凝集法が特に好ましい。
【0086】
本発明のトナーの製造方法は、少なくとも結着樹脂と離型剤を含有し、必要に応じて着色剤や荷電制御剤などのトナー構成成分を含有するトナー粒子からなるトナーを製造する方法であって、「水系媒体中に、少なくとも結晶性樹脂微粒子、非晶性樹脂微粒子及び離型剤微粒子が分散されてなる分散液に、金属塩を含有する凝集剤を添加することにより、コア粒子を形成するコア粒子形成工程」、及び、「コア粒子が分散されてなる水系媒体中に、シェル樹脂微粒子を添加してコア粒子の表面にシェル樹脂微粒子を凝集、融着させてコア・シェル構造を有するトナー母体粒子を形成するシェル化工程」を有する方法である。
【0087】
ここで、本発明に係るトナー粒子を製造する方法としては、結晶性樹脂微粒子の分散液と非晶性樹脂微粒子の分散液をそれぞれ別々に調製して、金属塩の凝集剤を用いて凝集することが望ましい。分散液中の結晶性樹脂微粒子の粒子径を制御することによって、非晶性樹脂中での結晶性樹脂微粒子のドメイン径を制御することができ、本発明に係る結晶性樹脂の糸状結晶構造体を形成することができる。さらに、トナー母体粒子を形成した後、冷却後に再度昇温して、十分結晶化できる時間を適宜付与することで、結晶性樹脂の糸状結晶構造体の長軸径を制御することができる。
【0088】
上述した本発明のトナーの製造方法について、一例を示して説明する。例えば、トナー構成成分として着色剤、結晶性樹脂、非晶性樹脂及び離型剤を含有するトナー粒子を得る場合には、以下の工程を含む製造方法によって製造することができる。
【0089】
(1)着色剤微粒子の分散液を調製する工程
(2)結晶性樹脂微粒子の分散液を調製する工程
(3)非晶性樹脂微粒子の分散液を調製する工程
(4)離型剤微粒子の分散液を調製する工程
(5)水系媒体中に、着色剤微粒子、結晶性樹脂微粒子、非晶性樹脂微粒子及び離型剤微粒子が分散されてなる分散液に、金属塩を含有する凝集剤を添加することにより、コア粒子を形成するコア粒子形成工程
(6)コア粒子が分散されてなる水系媒体中に、シェル樹脂微粒子を添加してコア粒子の表面にシェル樹脂微粒子を凝集、融着させてコア・シェル構造を有するトナー粒子を形成するシェル化工程
(7)凝集粒子を熱エネルギーによって熟成させることにより、形状を制御してトナー粒子を形成する熟成工程
(8)必要に応じて、冷却後に結晶性樹脂の結晶化を進める結晶成長化工程
(9)トナー粒子の分散系からトナー粒子を濾別し、当該トナー粒子から凝集剤、凝集停止剤、界面活性剤などを除去する濾過・洗浄工程
(10)洗浄処理されたトナー粒子を乾燥する乾燥工程
(11)乾燥処理されたトナー粒子に外添剤を添加する工程
なお、以下の説明において、上記(5)から(8)までの工程は、トナー母体粒子形成工程ともいう。
【0090】
<(1)着色剤微粒子の分散液を調製する工程>
着色剤微粒子の分散液は、着色剤を水系媒体中に分散することにより調製することができる。着色剤の分散処理は、着色剤が均一に分散されることから、水系媒体中において界面活性剤濃度を臨界ミセル濃度(CMC)以上にした状態で行われることが好ましい。着色剤の分散処理に使用する分散機としては、公知の種々の分散機を用いることができる。この着色剤微粒子の分散液を調製する工程において調製される分散液中の着色剤微粒子の分散径は、体積基準のメジアン径で10〜300nmの範囲内であることが好ましい。この着色剤微粒子分散液中の着色剤微粒子の体積基準のメジアン径は、例えば、「マイクロトラックUPA−150」(日機装社製)を用いて動的光散乱法によって測定することができる。
【0091】
<(2)結晶性樹脂微粒子の分散液を調製する工程>
本工程は、下記工程を含んで構成されることが好ましい。
(A−1)結晶性ポリエステル樹脂合成工程
(A−2)結晶性ポリエステル樹脂溶液調製工程
(A−3)脱溶剤工程
【0092】
(A−1)結晶性ポリエステル樹脂合成工程
結晶性ポリエステル樹脂の製造方法としては、特に制限はなく、多価カルボン酸及び多価アルコールとを反応させる一般的なポリエステル重合法で製造することができ、例えば、直接重縮合、エステル交換法等を、モノマーの種類によって使い分けて製造する。結晶性ポリエステル樹脂の製造の際に使用可能な触媒としては、ナトリウム、リチウム等のアルカリ金属化合物;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属化合物;亜鉛、マンガン、アンチモン、チタン、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム等の金属化合物;亜リン酸化合物、リン酸化合物、及びアミン化合物等が挙げられ、具体的には、以下の化合物が挙げられる。例えば、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、酢酸リチウム、炭酸リチウム、酢酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸マンガン、ナフテン酸マンガン、チタンテトラエトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキサイド、三酸化アンチモン、トリフェニルアンチモン、トリブチルアンチモン、ギ酸スズ、シュウ酸スズ、テトラフェニルスズ、ジブチルスズジクロライド、ジブチルスズオキシド、ジフェニルスズオキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、ナフテン酸ジルコニウム、炭酸ジルコニール、酢酸ジルコニール、ステアリン酸ジルコニール、オクチル酸ジルコニール、酸化ゲルマニウム、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−t−ブチルフェニル)ホスファイト、エチルトリフェニルホスホニウムブロマイド、トリエチルアミン、トリフェニルアミン等の化合物が挙げられる。
【0093】
(A−2)結晶性ポリエステル樹脂溶液調製工程
上記のようにして合成した結晶性ポリエステル樹脂を有機溶剤に溶解し、結晶性ポリエステル樹脂溶液を調製する。その後、当該結晶性ポリエステル溶液を、水系媒体中に乳化分散させることにより、結晶性ポリエステル溶液よりなる油滴を形成する。この工程においては、転相乳化法により調製されたものを用いると、ポリエステルのカルボキシ基の安定性を変化させることによって油滴を均一分散させることができ、機械乳化法のように無理矢理せん断力で分散させない点で優れている。「転相乳化法」では、有機溶媒に樹脂を溶解し、樹脂溶解液を得る溶解工程と、樹脂溶解液に中和剤を投入する中和工程と、中和後の樹脂溶解液を水系分散媒中に乳化分散させ、樹脂乳化液を得る乳化工程と、樹脂乳化液から有機溶媒を除去する脱溶媒工程と、を経ることで、樹脂微粒子の分散液が得られる。なお、分散液中の樹脂微粒子の粒径は、中和剤添加量を変更することによって制御可能である。中和剤添加量が少ない、すなわち、中和度が低いほど、分散液中の樹脂微粒子の粒径は大きくなる傾向が見られる。
【0094】
(有機溶剤)
有機溶剤としては、結晶性ポリエステル樹脂を溶解可能であればよく、酢酸エチル、メチルエチルケトン、トルエンなどを好ましく用いることができる。
【0095】
(水系媒体)
本実施形態において、「水系媒体」とは、水50〜100質量%と、水溶性の有機溶媒0〜50質量%とからなる媒体をいう。水溶性の有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランを例示することができ、樹脂を溶解しないアルコール系有機溶媒を用いることが好ましい。また、水系媒体には、必要に応じて、アミンやアンモニアが溶解されていてもよい。
【0096】
(界面活性剤)
上記の水系媒体中においては、必要に応じて、通常のカチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤などの界面活性剤が溶解されていてもよい。界面活性剤としては、結晶性ポリエステル樹脂による油滴の分散安定性に優れ、また、温度変化に対する安定性が得られることから、アニオン系界面活性剤を用いることが好ましい。アニオン系界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウムなどの高級脂肪酸塩類;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩類;ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸エステル塩類;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリエトキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類;モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウムなどのアルキルスルホコハク酸エステル塩、及びその誘導体類などを挙げることができる。以上の界面活性剤は、所望に応じて、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0097】
(A−3)脱溶剤工程
工程(A−2)において形成された油滴から、有機溶剤を留去することにより、結晶性ポリエステル樹脂の微粒子が生成され、結晶性ポリエステル樹脂微粒子の分散液が調製される。有機溶剤の留去は、具体的には、真空度が400〜50000Paの範囲内とされた状態において、かつ、30〜50℃の範囲内の温度において行うことが好ましい。
【0098】
結晶性ポリエステル樹脂の微粒子の粒径は、例えば体積基準のメジアン径で30〜500nmの範囲内にあることが好ましい。結晶性ポリエステル樹脂の微粒子の粒径は、例えば、「マイクロトラックUPA−150」(日機装社製)を用いて動的光散乱法によって測定することができる。
結晶性ポリエステル樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される重量平均分子量は、5000〜100000の範囲内であることが好ましく、より好ましくは10000〜50000の範囲内である。分子量が5000以上であると、非晶性ポリエステル樹脂と相溶することが抑制され、耐熱性の悪化が抑制される。100000以下であると、低温定着性の悪化を抑制できる。
【0099】
<(3)非晶性樹脂微粒子の分散液を調製する工程>
本工程は、下記工程を含んで構成されることが好ましい。
【0100】
(B−1)非晶性ポリエステル樹脂合成工程
(B−2)非晶性ポリエステル樹脂溶液調製工程
(B−3)脱溶剤工程
【0101】
(B−1)から(B−3)までの具体的な合成、調製及び脱溶剤工程については、前記結晶性ポリエステル分散液調製工程における(A−1)から(A−3)までの工程に準ずるので省略する。
【0102】
非晶性ポリエステル樹脂の微粒子の粒径は、体積基準のメジアン径が50〜300nmの範囲内であることが好ましい。非晶性ポリエステル樹脂の微粒子の粒径は、例えば、「「マイクロトラックUPA−150」(日機装社製)を用いて動的光散乱法によって測定されるものである。
【0103】
非晶性ポリエステル樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される重量平均分子量は、5000〜100000の範囲内であることが好ましく、より好ましくは5000〜50000の範囲内である。分子量が5000以上であると、耐熱保管性の悪化を抑制できる。100000以下であると、低温定着性の悪化を抑制できる。
【0104】
<(4)離型剤微粒子の分散液を調製する工程>
離型剤微粒子分散液の調製は、離型剤を水系媒体中に微粒子状に分散させて行う。
当該水系媒体は上記「2.結晶性樹脂微粒子の分散液を調製する工程」の項で説明したとおりであり、この水系媒体中には、分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤や樹脂微粒子などが添加されていても良い。
【0105】
離型剤微粒子の分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、このような分散機としては、特に限定されるものではなく、例えば、高圧式ホモジナイザー、回転せん断型ホモジナイザー、超音波分散機、高圧衝撃式分散機や、メディアを有するボールミル、サンドミル、ダイノミルなどの一般的な分散方法を使用することができ、なんら制限されるものではない。
【0106】
離型剤微粒子分散液における離型剤微粒子の含有量は、10〜50質量%の範囲内とすることが好ましく、15〜40質量%の範囲内とすることがより好ましい。このような範囲内であると、ホットオフセット防止及び分離性確保の効果が得られる。
【0107】
<(5〜8)トナー母体粒子形成工程>
トナー母体粒子形成工程においては、結晶性樹脂微粒子(結晶性ポリエステル樹脂微粒子)、非晶性樹脂微粒子(非晶性ポリエステル樹脂微粒子)、離型剤微粒子及び着色剤微粒子とともに、必要に応じて、荷電制御剤などのその他のトナー構成成分の粒子を凝集させることもできる。
結晶性ポリエステル樹脂微粒子、非晶性ポリエステル樹脂微粒子、離型剤微粒子及び着色剤微粒子を凝集、融着する具体的な方法としては、水系媒体中に凝集剤を臨界凝集濃度以上となるよう添加し、次いで、樹脂粒子のガラス転移点以上であって、かつ、これら混合物の融解ピーク温度以下の温度に加熱することによって、結晶性ポリエステル樹脂微粒子、非晶性ポリエステル樹脂微粒子、離型剤微粒子及び着色剤微粒子などの粒子の塩析を進行させると同時に、融着を並行して進め、所望の粒子径まで成長したところで、凝集停止剤を添加するか、pHを調整するなどして粒子成長を停止させ、さらに、必要に応じて粒子形状を制御するために加熱を継続して行う方法である。
この方法においては、凝集剤を添加した後に放置する時間をできるだけ短くして速やかに、これらの樹脂粒子のガラス転移点以上であって、かつ、これら混合物の融解ピーク温度以下の温度に加熱することが好ましい。この理由は明確ではないが、塩析した後の放置時間によっては粒子の凝集状態が変動して粒径分布が不安定になったり、融着させた粒子の表面性が変動したりする問題が発生することが懸念されるためである。この昇温までの時間としては通常30分間以内であることが好ましく、10分間以内であることがより好ましい。また、昇温速度としては1℃/分以上であることが好ましい。昇温速度の上限は特に規定されるものではないが、急速な融着の進行による粗大粒子の発生を抑制する観点から、15℃/分以下とすることが好ましい。
【0108】
さらに、反応系がガラス転移点以上の温度に到達した後、当該反応系の温度を一定時間保持することにより、融着を継続させることが肝要である。これにより、トナー母体粒子の成長と、融着とを効果的に進行させることができ、最終的に得られるトナー粒子の耐久性を向上することができる。本発明においては、凝集・融着工程で、シェル形成用樹脂粒子を添加し、単層構造の粒子(コア粒子)の表面にシェル層形成用樹脂を凝集・融着させる。具体的には、コア粒子の分散液はコア粒子形成工程における温度を維持した状態でシェル樹脂微粒子の分散液を添加し、加熱撹拌を継続しながらゆっくりとシェル樹脂微粒子をコア粒子の表面に凝集、融着させることによってシェル層を被覆させてトナー粒子を形成する。その際、シェル樹脂微粒子同士の凝集が生じないようにpHを調整しながら、ゆっくりと温度を上昇させる。
これにより、コア・シェル構造を有するトナー粒子が得られる。この際、シェル化工程に引き続き、コア粒子表面へのシェル層形成用樹脂の凝集・融着をより強固にし、かつ粒子の形状が所望の形状になるまで、更に反応系の加熱処理を行うと良い。この加熱処理は、コア・シェル構造を有するトナー粒子の平均円形度が、上記平均円形度の範囲内になるまで行えば良い。なお、コア・シェル構造は、シェル層がコア粒子を完全に被覆した構造のものに限定されるものではなく、例えば、シェル層がコア粒子を完全に被覆せず、所々コア粒子が露出しているものも含む。
このトナー母体粒子形成工程において得られるトナー母体粒子の粒径は、例えば、体積基準のメジアン径(D50%径)が2〜9μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは4〜7μmの範囲内である。トナー母体粒子の体積基準のメジアン径は、例えば、「粒度分布測定装置Multisizer3」(ベックマン・コールター社製)によって測定することができる。
【0109】
(凝集工程)
上述した凝集工程は、水系媒体中に着色剤微粒子、非晶性樹脂微粒子、結晶性樹脂微粒子及び離型剤微粒子が分散されてなる分散液に、2価又は3価の金属元素を有する化合物よりなる凝集剤を添加することにより、これらの微粒子を凝集させて凝集粒子を形成する工程である。この凝集工程においては、その終始若しくは適宜の間にわたって、非晶性樹脂のガラス転移点以上で加熱して凝集粒子を構成する非晶性樹脂微粒子同士を融着させてもよい。
【0110】
凝集剤としては、2価又は3価の金属元素を有する化合物が用いられる。このような凝集剤としては、例えば、2価又は3価の金属元素を有する水溶性金属塩又はその水和物、ポリシリカ鉄、ポリ塩化アルミニウムなどが挙げられる。2価又は3価の金属元素を有する水溶性金属塩としては、例えば、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸マンガンなどの2価の金属塩;塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムなどの3価の金属塩などが挙げられる。これらの凝集剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。凝集剤としては、凝集時の粒径制御性の観点から、2価又は3価の金属元素がMg又はAlのものであることが好ましい。凝集剤の添加量は、分散液中の水系媒体1Lに対して1〜500mmolとされることが好ましく、2〜200mmolとされることがより好ましい。凝集工程において、凝集剤を添加する際の分散液の温度は特に限定されないが、非晶性樹脂のガラス転移点以下であることが好ましい。
これらの凝集剤は、ポリエステル樹脂の末端にある複数のカルボキシ基とイオン結合し、金属架橋しているものと推定している。よって、結晶性ポリエステル樹脂の乳化粒子と非晶性ポリエステル樹脂の乳化粒子の間に、金属架橋が形成され、その部分は、熱を付与されても、ある程度リジットな構造を形成しており、非晶性ポリエステル樹脂中の結晶性ポリエステル樹脂のドメイン保持することができ、かつ、離型剤の染み出す経路も補助できるものと推定している。
トナー粒子中の凝集剤由来の金属イオン含有量は、20〜2000質量ppmの範囲内であることが好ましい。これは、ICP発光分析装置を用いて定量できる。20質量ppmよりも少ないと、定着分離性向上の効果が小さくなり、2000質量ppmより多いと架橋構造による低温定着性の効果が小さくなる。
【0111】
(冷却工程)
トナー母体粒子が所望の平均円形度となった後、分散液の冷却を行う。この際、冷却条件を制御することで、それぞれのトナー母体粒子を構成する材料のトナー粒子中での存在状態(例えば、各材料のドメイン径や形状、存在位置等)が変化する。冷却速度を遅くすると、例えば、結晶化物質の結晶成長を促進することが起こり得る。一方、冷却速度を早くすると、例えば、結晶化物質の結晶化が促進せずに熟成工程での構造を保ったままになる傾向がある。本発明では、結晶成長を促進する目的で、冷却速度を遅くすることが好ましい。
【0112】
(結晶成長化工程)
本発明では、必要に応じて、冷却後に結晶性樹脂の結晶化を進める結晶成長化工程を入れることができる。この結晶化成長工程を入れることで、結晶性樹脂が結晶化する時間を十分に与え、結晶性樹脂の糸状結晶構造体を、より細長い形状に成長させることができる。
結晶成長化工程とは、結晶性樹脂の融点以下の温度で保持することで、分子の折りたたみ構造が再配列され、結晶化度が向上するもので、結晶性樹脂の融点より10℃以上低い温度で保持することが望ましい。さらには、20℃以上低い温度で保持することが好ましい。
【0113】
<(9)濾過・洗浄工程、(10)乾燥工程>
濾過・洗浄工程及び乾燥工程は、公知の種々の方法を採用して行うことができる。すなわち、上記熟成工程にて所望の平均円形度まで熟成し、冷却した後、例えば遠心分離器などの公知の方法により、固液分離し洗浄を行い、減圧乾燥にて有機溶媒を除去し、さらに、フラッシュジェットドライヤー及び流動層乾燥装置など公知の乾燥装置にて水分及び微量の有機溶媒を除去する。乾燥温度は、トナー母体粒子が融着しない範囲であればよい。
【0114】
<(11)外添剤を添加する工程>
外添剤を添加する工程は、乾燥処理したトナー母体粒子に必要に応じて外添剤を添加、混合することにより、トナー粒子を調製する工程である。乾燥工程までの工程を経て作製されたトナー母体粒子は、そのままトナー粒子として使用することが可能であるが、トナーとしての帯電性能や流動性、又はクリーニング性を向上させる観点から、その表面に公知の無機微粒子や有機微粒子などの粒子、滑材を外添剤として添加することが好ましい。
外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。無機微粒子としては、例えば、シリカ微粒子、アルミナ微粒子及び酸化チタン微粒子などの無機酸化物微粒子や、ステアリン酸アルミニウム微粒子及びステアリン酸亜鉛微粒子などの無機ステアリン酸化合物微粒子、又はチタン酸ストロンチウム及びチタン酸亜鉛などの無機チタン酸化合物微粒子などが挙げられる。これら無機微粒子は、耐熱保管性及び環境安定性の観点から、シランカップリング剤やチタンカップリング剤、高級脂肪酸又はシリコーンオイルなどによって表面処理が行われたものであることが好ましい。
本発明においては、複数の外添剤を併用することが好ましく、さらに、平均粒子径が500nm以上3μm以下のチタン酸ストロンチウムおよび平均粒子径が100nm以上1μm以下のシリカを併用することが、定着分離性とトナー飛散を高いレベルで両立する観点でさらに好ましい。
これらの外添剤の添加量は、トナー母体粒子100質量部に対して0.05〜5質量部の範囲内、好ましくは0.1〜3質量部の範囲内とされる。外添剤の添加方法としては、乾燥されたトナー母体粒子に外添剤を粉体で添加する乾式法が挙げられ、混合装置としては、ヘンシェルミキサー及びコーヒーミルなどの機械式の混合装置が挙げられる。
【0115】
[静電潜像現像用現像剤]
本発明のトナーは、磁性又は非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。トナーを二成分現像剤として使用する場合において、キャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来から公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子が好ましい。また、キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂などの被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散してなる分散型キャリアなど用いてもよい。
【0116】
キャリアの体積基準のメジアン径としては20〜100μmであることが好ましく、25〜80μmであることがより好ましい。キャリアの体積基準のメジアン径は、代表的には湿式分散機を備えたレーザー回折式粒度分布測定装置「ヘロス(HELOS)」(シンパティック社製)により測定することができる。
【0117】
[電子写真画像形成方法]
本発明に係る静電潜像現像用トナー及び現像剤は、電子写真方式の公知の種々の画像形成方法において用いることができる。例えば、モノクロの画像形成方法やフルカラーの画像形成方法に用いることができる。フルカラーの画像形成方法では、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの各々に係る4種類のカラー現像装置と、一つの静電潜像担持体(「電子写真感光体」又は単に「感光体」とも称する)とにより構成される4サイクル方式の画像形成方法や、各色に係るカラー現像装置及び静電潜像担持体を有する画像形成ユニットを、それぞれ色別に搭載するタンデム方式の画像形成方法など、いずれの画像形成方法も用いることができる。
【0118】
電子写真画像形成方法としては、具体的には、本発明に係る静電潜像現像用現像剤を使用して、例えば静電潜像担持体上に帯電装置にて帯電(帯電工程)し、像露光することにより静電的に形成された静電潜像(露光工程)を、現像装置において本発明に係る静電潜像現像用現像剤中のキャリアでトナーを帯電させて現像することにより顕像化させてトナー画像を得る(現像工程)。そして、このトナー画像を記録媒体に転写(転写工程)し、その後、記録媒体上に転写されたトナー画像を接触加熱方式の定着処理によって記録媒体に定着(定着工程)させることにより、可視画像が得られる。
【0119】
記録媒体(メディア、記録材、記録紙、記録用紙等ともいう)は、一般に用いられているものでよく、トナー像を保持するものであれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、薄紙から厚紙までの普通紙、上質紙、アート紙、ラフ紙又はコート紙等の塗工された印刷用紙、市販の和紙やはがき用紙、OHP用のプラスチックフィルム、布、軟質透明フィルム、ユポ紙などの合成紙等が挙げられる。
【実施例】
【0120】
本発明の効果を、以下の実施例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0121】
<結晶性樹脂(結晶性ポリエステル樹脂)の合成>
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた反応容器に、多価カルボン酸:オクタン二酸(分子量174.2)258.0質量部と、多価アルコール:1,8−オクタンジオール(分子量146.2)192.0質量部を投入した。触媒としてジブチルスズオキシド0.7質量部、及びハイドロキノン0.4質量部を加えて、窒素ガス雰囲気下、170℃で5時間反応させた。さらに、3.3kPaにて所望の融点の樹脂が得られるまで170℃で反応させて結晶性樹脂(C1)を得た。この結晶性樹脂(C1)をDSCにて昇温速度10℃/分で測定したところ、明確なピークを有し、ピークトップの温度は70℃であり、重量平均分子量は、15000であった。
また、多価カルボン酸と多価アルコールの種類と添加量を「表1」のように変える他は結晶性樹脂C1の合成方法と同様にして、結晶性樹脂C2〜C5を作製した。表1には、融点(℃)と重量平均分子量(Mw)も合わせて示す。
【0122】
【表1】
【0123】
<結晶性樹脂微粒子(結晶性ポリエステル樹脂微粒子)の水系分散液の調製>
結晶性樹脂(C1)を300質量部溶融させて溶融状態のまま、乳化分散機「キャビトロンCD1010」(株式会社ユーロテック製)に対して毎分100質量部の移送速度で移送した。また、この溶融状態の結晶性樹脂(C1)の移送と同時に、当該乳化分散機に対して、水性溶媒タンクにおいて試薬アンモニア水をイオン交換水で希釈した濃度0.37質量%の希アンモニア水を、熱交換機で100℃に加熱しながら毎分0.1リットルの移送速度で移送した。そして、この乳化分散機を、回転子の回転速度60Hz、圧力5kg/cm
2の条件で運転することにより、結晶性樹脂微粒子分散液(CA−1)を調製した。なお、希アンモニア水は中和度が60%になるように添加した。結晶性樹脂部粒子分散液(CA−1)中の結晶性樹脂微粒子の分散粒子径は、体積基準のメジアン径で91.8nmであった。
結晶性樹脂の種類及び中和度を下記「表2」のように変更したこと以外は、上記、結晶性樹脂微粒子分散液(CA−1)と同様にして、結晶性樹脂微粒子分散液(CA−2〜CA−11)を作製した。各分散液の結晶性樹脂種類と中和度、分散粒子径を「表2」に示す。
【0124】
【表2】
【0125】
なお、中和度は、中和に用いたアンモニア水の量を、中和に用いる水酸化カリウム(KOH)の質量(g)に換算した上で、下記数式で算出される値を中和度(%)とした。
中和度(%)=[(中和に用いるKOH量[g])/(結晶性樹脂(結晶性ポリエステル樹脂)の末端を100%中和できるKOH量[g])]×100
【0126】
<非晶性樹脂(非晶性ポリエステル樹脂)の合成>
テレフタル酸(TPA)112質量部、トリメリット酸(TMA)6質量部、フマル酸(FA)12質量部、アジピン酸60質量部、ビスフェノールAプロピレンオキシド付加物(BPA・PO)290質量部、ビスフェノールAエチレンオキシド付加物(BPA・EO)55量部を、撹拌機、温度計、冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応容器に入れ、反応容器中を乾燥窒素ガスで置換した後、チタンテトラブトキサイド0.1質量部を添加し、窒素ガス気流下において180℃で撹拌しながら9時間重合反応を行った。更にチタンテトラブトキサイド0.2質量部を添加し、温度を220℃に上げて撹拌しながら6時間重合反応を行った後、反応容器内を1333.2Paまで減圧し、減圧下で反応を行うことにより、非晶性樹脂(A1)を得た。
この非晶性樹脂(A1)のガラス転移点(Tg)は53℃、重量平均分子量(Mw)は25000であった。
【0127】
<非晶性樹脂微粒子(非晶性ポリエステル樹脂微粒子)の水系分散液の調製>
非晶性樹脂(A1)200質量部を酢酸エチル200質量部に溶解した後、イオン交換水800質量部にポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムを濃度が1.3質量%になるよう溶解させた水溶液と混合し、超音波ホモジナイザーを用い分散を行った。この溶液を減圧下、酢酸エチルを除去した後、固形分濃度を20質量%に調整した。これにより、水系媒体中に非晶性樹脂(A1)による微粒子が分散された非晶性樹脂微粒子分散液(AA−1)を調製した。分散液中の非晶性樹脂(A1)による微粒子の体積基準のメジアン径は200nmであった。
【0128】
<着色剤微粒子分散液(シアン)の調製>
銅フタロシアニン(C.I.Pigment Blue 15:3)50質量部を、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム1質量%の濃度となるようイオン交換水200質量部に溶解した界面活性剤水溶液に投入した後、超音波ホモジナイザーを用いて分散処理を行った。固形分濃度は20質量%に調整した。これにより、水系媒体中に着色剤微粒子が分散された着色剤微粒子分散液(1)を調製した。着色剤微粒子分散液(1)における着色剤微粒子の体積基準のメジアン径をマイクロトラック粒度分布測定装置「マイクロトラックUPA−150」(日機装社製)を用いて測定したところ、150nmであった。
【0129】
<離型剤微粒子分散液の調製>
離型剤として、ベヘン酸ベヘニル(融点72℃)200質量部を95℃に加温し溶解させた。これを、更にアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムが3質量%の濃度となるようイオン交換水800質量部に溶解された界面活性剤水溶液に投入した後、超音波ホモジナイザーを用いて分散処理を行った。固形分濃度は20質量%に調整した。これにより、水系媒体中に離型剤微粒子が分散された離型剤微粒子分散液(1)を調製した。
離型剤微粒子分散液(1)における離型剤微粒子の体積基準のメジアン径をマイクロトラック粒度分布測定装置「マイクロトラックUPA−150」(日機装社製)を用いて測定したところ、150nmであった。
【0130】
〔トナー1の作製〕
結晶性樹脂微粒子分散液(CA−1) 10質量部(固形分換算)
非晶性樹脂微粒子分散液(AA−1) 81質量部(固形分換算)
離型剤微粒子分散液(1) 10質量部(固形分換算)
着色剤微粒子分散液(1) 8質量部(固形分換算)
イオン交換水 295質量部
アニオン系界面活性剤(ダウケミカル社製、Dowfax2A1) 4.5質量部
【0131】
上記成分を、攪拌器、温度計、pH計、を具備した3リットルの反応容器に投入し、温度25℃にて、0.3M硝酸を加えてpHを2.5に調整した。
次いで、ホモジナイザー(IKAジャパン社製:ウルトラタラクスT50)にて5000rpmで分散しながら、凝集剤として、硫酸アルミニウム水溶液(凝集剤F1、0.2975質量%:固形分0.18g)62質量部を7分間かけて添加した。なお、硫酸アルミニウム水溶液は、硫酸アルミニウム粉末(浅田化学工業株式会社製:17%硫酸アルミニウム)35質量部と、イオン交換水1965質量部と、を2リットル容器へ投入し、30℃にて、沈殿物が消失するまで撹拌混合することで調製した。
その後、反応容器に撹拌器、マントルヒーターを設置し、スラリーが充分に撹拌されるように撹拌器の回転数を調整しながら、温度40℃までは0.2℃/分の昇温速度、40℃を超えてからは0.05℃/分の昇温速度で昇温し、10分ごとにマルチサイザー3(アパーチャー径:50μm、ベックマン・コールター社製)にて体積平均粒径を測定した。
【0132】
体積平均粒径が5.0μmになったところで昇温を停止し、シェル用樹脂微粒子分散液として、非晶性樹脂微粒子分散液(AA−1)9質量部(固形分換算)を1時間かけて滴下した。その後、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを8.5に調整した。その後、5℃ごとにpHが8.5になるように同様にして調整しながら、昇温速度1℃/分で85℃まで昇温し、85℃で保持し、FPIA−2000(Sysmex社製)を用いて、平均円形度が0、960になった時点で、60℃まで10℃/分で冷却し、その後、室温(25℃)まで0.1℃/分で冷却した。冷却後のスラリーを、目開き20μmのナイロンメッシュに通過させ粗大粉を除去し、メッシュを通過したトナースラリーに、硝酸を加えてpH6.0に調整した後、アスピレータで減圧ろ過した。濾紙上に残ったトナーを手でできるだけ細かく砕いて、温度30℃でトナー量の10倍のイオン交換水に投入し、30分間撹拌混合した後、再度アスピレータで減圧ろ過し、濾液の電気伝導度を測定した。濾液の電気伝導度が10μS/cm以下になるまでこの操作を繰り返し洗浄することで、母体トナーを得た。
母体トナーを湿式乾式整粒機(コーミル)で細かく砕いてから、35℃のオーブン中で36時間真空乾燥して、トナー粒子を得た。得られたトナー粒子100質量部に対して、外添剤として、平均粒径100nmの疎水性大径シリカ微粒子1.5部、平均粒径20nmの疎水性シリカ微粒子0.6部、平均粒径20nmの酸化チタン微粒子0.3部、平均粒径500nmのチタン酸ストロンチウム微粒子0.1部を、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。その後、目開き45μmの振動篩いで篩分することでトナー1を得た。得られたシアントナーは、体積平均粒径D50vが5.8μm、平均円形度が0.960であった。なお、トナーのSEM画像を観察したところ、滑らかな表面を持ち、離型剤の突き出しや表面層の剥がれなどの不具合は見られなかった。
【0133】
〔トナー2、5〜7、10〜12の作製〕
使用する結晶性樹脂微粒子分散液の種類、添加する硫酸アルミニウム水溶液(凝集剤F1)の量を表3に記載のものに変更したことを除いては、トナー1と同様の方法でトナーを作製した。
【0134】
〔トナー3、4、8、9の作製〕
使用する結晶性樹脂微粒子分散液の種類を表3に記載のものに変更し、結晶成長化工程を増やした以外はトナー1と同様の方法で作製した。結晶成長化工程とは、具体的には、室温に冷却した後、40℃まで1℃/分で昇温し、40℃に到達したところで、60分保持し、その後、室温(25℃)まで0.1℃/分で冷却した工程である。
【0135】
〔トナー13の作製〕
凝集剤を、硫酸アルミニウム水溶液(凝集剤F1)から塩化マグネシウム水溶液(凝集剤F2、塩化マグネシウム・6水和物の29.8質量%溶液)に変えたことを除いては、トナー2と同様の方法でトナー13を作製した。
【0136】
〔トナー14の作製〕
凝集剤を、硫酸アルミニウム水溶液(凝集剤F1)から塩化鉄(III)水溶液(凝集剤F3、塩化鉄(III)・6水和物の0.298質量%溶液)に変えたことを除いては、トナー2と同様の方法でトナー14を作製した。
【0137】
〔トナー15の作製〕
トナー2において、平均粒径100nmの大径シリカ微粒子を添加しなかったことを除いては、トナー2と同様にして、トナー15を作製した。
【0138】
〔トナー16の作製〕
トナー2において、平均粒径500nmのチタン酸ストロンチウム微粒子を添加しなかったことを除いては、トナー2と同様にして、トナー16を作製した。
【0139】
〔トナー17の作製〕
トナー2において、平均粒径100nmの疎水性大径シリカ微粒子、平均粒径500nmのチタン酸ストロンチウム微粒子を添加しなかったことを除いては、トナー2と同様にして、トナー17を作製した。
【0140】
〔トナー18の作製〕
結晶性樹脂微粒子分散液(CA−2) 10質量部(固形分換算)
非晶性樹脂微粒子分散液(AA−1) 90質量部(固形分換算)
離型剤微粒子分散液(1) 10質量部(固形分換算)
着色剤微粒子分散液(1) 8質量部(固形分換算)
イオン交換水 295質量部
アニオン系界面活性剤(ダウケミカル社製、Dowfax2A1) 4.5質量部
【0141】
上記成分を、攪拌器、温度計、pH計、を具備した3リットルの反応容器に投入し、温度25℃にて、0.3M硝酸を加えてpHを3.0に調整した。次いで、ホモジナイザー(IKAジャパン社製:ウルトラタラクスT50)にて5000rpmで分散しながら、硫酸アルミニウム水溶液(凝集剤F1、0.2975質量%:固形分0.18g)を62質量部を7分間かけて添加した。なお、前記硫酸アルミニウム水溶液は、硫酸アルミニウム粉末(浅田化学工業株式会社製:17%硫酸アルミニウム)35質量部と、イオン交換水1965質量部と、を2リットル容器へ投入し、30℃にて、沈殿物が消失するまで撹拌混合することで調製した。
【0142】
その後、反応容器に撹拌器、マントルヒーターを設置し、スラリーが充分に撹拌されるように撹拌器の回転数を調整しながら、温度40℃までは0.2℃/分の昇温速度、40℃を超えてからは0.05℃/分の昇温速度で昇温し、10分ごとにマルチサイザー3(アパーチャー径:50μm、ベックマン・コールター社製)にて体積平均粒径を測定した。
体積平均粒径が5.8μmになったところで昇温を停止し、その後、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを8.5に調整した。その後、5℃ごとにpHが8.5になるように同様にして調整しながら、昇温速度1℃/分で85℃まで昇温し、85℃で保持し、FPIA−2000(Sysmex社製)を用いて、平均円形度が0、960になった時点で、60℃まで10℃/分で冷却し、その後、室温(25℃)まで0.1℃/分で冷却した。冷却後のスラリーを、目開き20μmのナイロンメッシュに通過させ粗大粉を除去し、メッシュを通過したトナースラリーに、室温(25℃)で硝酸を加えてpH6.0に調整した後、アスピレータで減圧濾過した。濾紙上に残ったトナーを手でできるだけ細かく砕いて、温度30℃でトナー量の10倍のイオン交換水に投入し、30分間撹拌混合した後、再度アスピレータで減圧濾過し、濾液の電気伝導度を測定した。濾液の電気伝導度が10μS/cm以下になるまでこの操作を繰り返し洗浄することで、母体トナーを得た。
【0143】
母体トナーを湿式乾式整粒機(コーミル)で細かく砕いてから、35℃のオーブン中で36時間真空乾燥して、トナー粒子を得た。得られたトナー粒子100質量部に対して、外添剤として、平均粒径100nmの疎水性大径シリカ微粒子1.5部、平均粒径20nmの疎水性シリカ微粒子0.6部、平均粒径20nmの酸化チタン微粒子0.3部、平均粒径500nmのチタン酸ストロンチウム微粒子0.1部をヘンシェルミキサーを用いて混合した。その後、目開き45μmの振動篩いで篩分することでトナー18を得た。得られたシアントナーは、体積平均粒径D50vが5.8μm、平均円形度が0.960であった。なお、トナーのSEM画像を観察したところ、結晶性樹脂と思われる微細な物質が露出していた。
【0144】
〔トナー19の作製〕
結晶成長化工程において、室温に冷却した後、40℃まで1℃/分で昇温し、40℃に到達したところで、90分保持し、その後、室温(25℃)まで0.1℃/分で冷却したことを除いては、トナー4と同様の方法でトナー19を作製した。
【0145】
〔トナー20の作製〕
<結晶性樹脂微粒子と非晶性樹脂微粒子の水系分散液の調製>
非晶性樹脂(A1)81質量部と結晶性樹脂(C1)10質量部を酢酸エチル200質量部に溶解した後、イオン交換水800質量部にポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムを濃度が1.3質量%になるよう溶解させた水溶液と混合し、超音波ホモジナイザーを用い分散を行った。この溶液を減圧下、酢酸エチルを除去した後、固形分濃度を20質量%に調整した。これにより、水系媒体中に非晶性樹脂(A1)と結晶性樹脂(C1)が分散された樹脂微粒子分散液(BA−1)を調製した。この微粒子の体積基準のメジアン径は180nmであった。
【0146】
樹脂微粒子分散液(BA−1) 91質量部(固形分換算)
離型剤微粒子分散液(1) 10質量部(固形分換算)
着色剤微粒子分散液(1) 8質量部(固形分換算)
イオン交換水 295質量部
アニオン系界面活性剤(ダウケミカル社製、Dowfax2A1) 4.5質量部
【0147】
上記成分を、撹拌器、温度計、pH計、を具備した3リットルの反応容器に投入し、温度25℃にて、0.3M硝酸を加えてpHを2.5に調整した。次いで、ホモジナイザー(IKAジャパン社製:ウルトラタラクスT50)にて5000rpmで分散しながら、硫酸アルミニウム水溶液(凝集剤F1、0.2975質量%:固形分0.18g)62質量部を7分間かけて添加した。なお、前記硫酸アルミニウム水溶液は、硫酸アルミニウム粉末(浅田化学工業株式会社製:17%硫酸アルミニウム)35質量部と、イオン交換水1965質量部と、を2リットル容器へ投入し、30℃にて、沈殿物が消失するまで撹拌混合することで調製した。
その後、反応容器に撹拌器、マントルヒーターを設置し、スラリーが充分に撹拌されるように撹拌器の回転数を調整しながら、温度40℃までは0.2℃/分の昇温速度、40℃を超えてからは0.05℃/分の昇温速度で昇温し、10分ごとにマルチサイザー3(アパーチャー径:50μm、ベックマン・コールター社製)にて体積平均粒径を測定した。
【0148】
体積平均粒径が5.0μmになったところで昇温を停止し、シェル用樹脂微粒子分散液として、非晶性樹脂微粒子分散液(AA−1)9質量部(固形分換算)を1時間かけて滴下した。その後、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを8.5に調整した。その後、5℃ごとにpHが8.5になるように同様にして調整しながら、昇温速度1℃/分で85℃まで昇温し、85℃で保持し、FPIA−2000(Sysmex社製)を用いて、平均円形度が0、960になった時点で、60℃まで10℃/分で冷却し、その後、室温(25℃)まで0.1℃/分で冷却した。冷却後のスラリーを、目開き20μmのナイロンメッシュに通過させ粗大粉を除去し、メッシュを通過したトナースラリーに、硝酸を加えてpH6.0に調整した後、アスピレータで減圧濾過した。濾紙上に残ったトナーを手でできるだけ細かく砕いて、温度30℃でトナー量の10倍のイオン交換水に投入し、30分間撹拌混合した後、再度アスピレータで減圧濾過し、濾液の電気伝導度を測定した。濾液の電気伝導度が10μS/cm以下になるまでこの操作を繰り返し洗浄することで、母体トナーを得た。
【0149】
母体トナーを湿式乾式整粒機(コーミル)で細かく砕いてから、35℃のオーブン中で36時間真空乾燥して、トナー粒子を得た。得られたトナー粒子100質量部に対して、外添剤として、平均粒径100nmの疎水性大径シリカ微粒子1.5部、平均粒径20nmの疎水性シリカ微粒子0.6部、平均粒径20nmの酸化チタン微粒子0.3部、平均粒径500nmのチタン酸ストロンチウム微粒子0.1部をヘンシェルミキサーを用いて混合した。その後、目開き45μmの振動篩いで篩分することでトナー20を得た。得られたシアントナーは、体積平均粒径D50vが5.8μm、平均円形度が0.960であった。なお、トナーのSEM画像を観察したところ、結晶性樹脂と思われる微細な物質がわずかであるが露出していた。
【0150】
〔トナー21の作製〕
結晶性樹脂(C1) 10質量部
非晶性樹脂(A1) 90質量部
離型剤:「ベヘン酸ベヘニル(融点72℃)」5質量部
着色剤:銅フタロシアニン(C.I.Pigment Blue 15:3) 4.5質量部
【0151】
上記材料をヘンシェルミキサーを用いて、混合した後、温度120℃に設定した二軸混練機(PCM−30型)にて、吐出温度140℃で混練した。得られた混練物を15℃/分の冷却速度で冷却し、ハンマーミルにて1mm以下に粗粉砕し、粗砕物を得た。得られた粗砕物を機械式粉砕機(T−250 ターボ工業)にて微粉砕した後、分級し、トナー粒子を得た。得られたトナー粒子100質量部に対して、外添剤として、平均粒径100nmの疎水性大径シリカ微粒子1.5部、平均粒径20nmの疎水性シリカ微粒子0.6部、平均粒径20nmの酸化チタン微粒子0.3部、平均粒径500nmのチタン酸ストロンチウム微粒子0.1部をヘンシェルミキサーを用いて混合した。その後、目開き45μmの振動篩いで篩分することでトナー21を得た。得られたシアントナーは、体積平均粒径D50vが6.8μm、平均円形度が0.920であった。なお、トナーのSEM画像を観察したところ、結晶性樹脂と思われる微細な物質が露出していた。
【0152】
以上のように、トナー1〜20は乳化凝集法で、トナー21は粉砕法でトナーを製造した。
【0153】
【表3】
【0154】
<トナー粒子の断面観察>
下記に示す観察方法に従って、作製したトナー1〜トナー21のトナー粒子の断面を観察した。全てのトナーのトナー粒子断面において、結晶性樹脂の糸状結晶構造体が確認された。糸状結晶構造体の平均長径及び平均短径の測定結果を下記表4に示す。
【0155】
(観察条件)
装置:電子顕微鏡「JSM−7401F」(日本電子株式会社製)
試料:四酸化ルテニウム(RuO
4)によって染色したトナー母体粒子の切片(切片の厚さ:60〜100nm)
加速電圧:30kV
倍率:50000倍、明視野像
【0156】
(トナー母体粒子の切片の作製方法)
作製したトナーを3質量部、ポリオキシエチルフェニルエーテルの0.2%水溶液35質量部に添加して分散させた後、超音波(日本精機株式会社製、US−1200T)により25℃で5分間処理を行い、外添剤をトナー表面から取り除き、観察用のトナー母体粒子を得た。
上記で得られたトナー母体粒子1〜2mgを10mLサンプル瓶に広げるように入れ、下記で示す四酸化ルテニウム(RuO
4)蒸気染色条件下で染色後、光硬化性樹脂「D−800」(日本電子社製)中に分散させ、光硬化させてブロックを形成した。次いで、ダイヤモンド歯を備えたミクロトームを用いて、上記のブロックから厚さ60〜100nmの超薄片状のサンプルを切り出した。
【0157】
(四酸化ルテニウム染色条件)
四酸化ルテニウム染色は、真空電子染色装置VSC1R1(フィルジェン株式会社製)を用いて行った。装置手順に従い、染色装置本体に四酸化ルテニウムが入った昇華室を設置し、作製した上記超薄切片を染色チャンバー内に導入後、四酸化ルテニウムによる染色条件として、室温(24〜25℃)、濃度3(300Pa)、時間10分の条件下で染色した。
【0158】
(結晶構造の観察)
染色後、24時間以内に電子顕微鏡「JSM−7401F」(日本電子株式会社製)を用いて、透過電子検出器にて観察した。観察されるドメインの内、より薄く染色されたドメイン部分を離型剤のドメイン、より濃く染色されたドメイン部分を結晶性樹脂のドメイン(糸状結晶構造体)として観察した。染色度合いの区別が難しい場合は、結晶構造体の平均長径が平均短径に対して少なくとも10倍以上となっているドメインを結晶性樹脂のドメイン(糸状結晶構造体)として測定した。
【0159】
(糸状結晶構造体の平均長径、平均短径の測定方法)
上記と同様にして作製したトナー粒子の断面を撮影した写真画像を、スキャナーにより取り込んだ。次に、写真画像を画像処理解析装置LUZEX AP(ニレコ社製)を用いて解析し、糸状結晶構造体の長径(長軸)は最大長(MX LNG)を、短径(短軸)は幅(BR’DTH)を測定した。なお、幅(BR’DTH)は、最大長(MX LNG)に平行な2本の直線で画像を挟んだときの2直線間の最短距離である。測定は、トナー粒子100個について行い、測定した100個のトナー粒子の算術平均値として算出した。
ここで、平均長径と平均短径の測定の際に選ぶトナー粒子の断面は、トナー粒子の体積平均粒子径の±10%、つまり本実施例では、5.8μm±0.58μmとなるトナー粒子の断面を選択して観察した。
【0160】
<金属濃度の測定>
トナー粒子中の金属濃度は、以下の方法によって、酸分解/誘導結合プラズマ発光分光分析法で測定した。測定結果は、下記表4に示す。
【0161】
(前処理)
トナー粒子100mgを、密閉式マイクロ波分解装置「マイルストーンゼネラル社製、ETHOS1」にて硫酸、硝酸により分解した。さらに、未分解物を、塩酸、フッ化水素酸、過酸化水素を用いて目的成分を溶出した。分解液は、超純水を用いて適宜希釈した。これらの試薬は、関東化学社製の超高純度試薬を用いた。
【0162】
(測定)
高周波誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP−OES、株式会社日立ハイテクサイエンス製、SPS3520UV)を用いて、Alは167.079nm、Mgは279.553nm、Feは259.940nmにて、濃度を測定した。検量線は試料を含まない分解液に、関東化学社製の各元素の原子吸光用標準液を添加し、試料液と同じ酸濃度になるように調整し使用した。
【0163】
<現像剤の作製>
フェライトコア100質量部と、シクロヘキシルメタクリレート/メチルメタクリレート(共重合比5/5)の共重合体樹脂粒子5質量部とを、撹拌羽根付き高速混合機に投入し、120℃で30分間撹拌混合して機械的衝撃力の作用でフェライトコアの表面に樹脂コート層を形成し、体積基準メジアン径40μmのキャリアを得た。
キャリアの体積基準メジアン径は、湿式分散機を備えたレーザー回折式粒度分布測定装置「ヘロス(HELOS)」(シンパティック社製)により測定した。上記キャリアにトナー1〜21をそれぞれトナー濃度が7質量%になるように添加し、ミクロ型V型混合機(筒井理化学器械株式会社)に投入し、回転速度45rpmで30分間混合し、現像剤1〜21を作製した。
【0164】
<評価>
以下のとおり評価を行い、各トナーの低温定着性、定着分離性及びトナー飛散についての評価を行った。評価結果は、下記表4に示す。
【0165】
<画像形成方法>
以下の評価において、画像評価は、市販のカラー複合機「bizhub PRO C6500(コニカミノルタ社製)」において、定着温度、トナー付着量、及びシステム速度を自由に設定できるように改造した改造機の現像装置に、上記で作製したトナーと現像剤を順次装填して評価を行った。
【0166】
<低温定着性(アンダーオフセット)の評価>
常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)の環境下において、トナー付着量8g/m
2のベタ画像を定着させる定着実験を、定着下ローラの温度を定着上ベルトよりも20℃低く設定し、定着上ベルトの温度を110℃から5℃刻みで増加させるように変更しながら200℃まで繰り返し行った。この実験を、定着速度を300mm/secで実施した。A4サイズのNPI64.0g/m
2(日本製紙製)を用いて評価を行った。
ここで、アンダーオフセットとは、定着機を通過する際に与えられた熱によるトナー層の溶融が不十分であるために記録紙等の転写材から剥離してしまう画像欠陥をいう。目視でアンダーオフセットによる画像汚れが観察されない定着実験のうち、最低の定着温度に係る定着実験の当該定着温度を、最低定着温度として評価した。なお、本発明において、最低定着温度が低ければ低いほど定着性が優れており、下記の判定基準により◎〜△(最低定着温度160℃未満)を合格と判断した。
【0167】
(判定基準)
◎:最低定着温度(℃)が140℃未満
○:最低定着温度(℃)が140℃以上150℃未満
△:最低定着温度(℃)が150℃以上160℃未満
×:最低定着温度(℃)が160℃以上
【0168】
<定着分離性の評価>
上述したカラー複合機の改造機を使用し、一晩常温常湿環境(温度20℃、湿度50%RH)で調湿した紙「金藤85g/m
2T目」(王子製紙社製)における先端余白5mm、定着温度として上側加熱加圧部材の温度を先に求めた最低定着温度+20℃に設定し、下側加熱加圧部材の温度を上側加熱加圧部材の温度−60℃に設定し、全ベタ画像を、付着量を変化させて画出しし、紙詰まり(ジャム)が発生した直前のベタ画像の付着量(g/m
2)を測定し、それを分離限界付着量とし定着分離性能の尺度とした。この値が大きい方が、定着分離性能が良好であり、下記の判定基準により◎〜△(付着量が2.0g/m
2以上)を合格とした。
【0169】
(判定基準)
◎:分離限界付着量(g/m
2)が3.5g/m
2以上
○:分離限界付着量(g/m
2)が2.5g/m
2以上3.5g/m
2未満
△:分離限界付着量(g/m
2)が2.0g/m
2以上2.5g/m
2未満
×:分離限界付着量(g/m
2)が2.0g/m
2未満
【0170】
<トナー飛散の評価>
トナーの機内飛散は、市販のカラー複合機「bizhub PRESS C6500(コニカミノルタ社製)」により評価した。高温高湿(30℃・80%RH)環境下において、白紙を10万枚プリントした後、トナーの機内への飛散状況を目視で観察し、下記評価基準により評価した。下記の判定基準により、◎又は○であれば合格とした。
【0171】
(判定基準)
◎:機内がトナーにて汚れていない状態
○:僅かに機内へのトナー飛散が見られるが、出力画像には問題ない状態
×:トナー飛散が非常に多く、出力画像が画像不良として検出される状態
【0172】
【表4】
【0173】
表4に示した結果から明らかなように、本発明のトナー1〜17は、低温定着性、定着分離性及びトナー飛散の観点で、いずれも優れた性能を示すものであった。これに対して、比較例のトナー18〜21は、いずれかの項目において、劣るものであった。