(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リアクタンス素子は、内燃機関から排出される排気ガスの排出流路に設置されたディーゼルパティキュレートフィルタ内に配置され、前記一対の電線を介して前記第2抵抗器に並列に接続された一対の電極を含む、請求項3に記載のリアクタンス測定装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[測定原理]
まず、
図1を参照して、本実施形態に係るリアクタンス測定装置がリアクタンス素子のリアクタンスを測定する原理について説明する。
図1は、測定対象であるリアクタンス素子を含む回路を示す図である。本実施形態においては、リアクタンス素子が、静電容量Cを有するコンデンサ322である例を説明する。回路は、抵抗値R1を有する第1抵抗器311、抵抗値R2を有する第2抵抗器321、及び静電容量Cを有するコンデンサ322を含む。第1抵抗器311は、コンデンサ322に直列に接続される。第2抵抗器321は、コンデンサ322に並列に接続される。
【0012】
本実施形態においては、まず、式(1)で表される正弦関数の第1交流電圧V1を回路に印加する。
V1=a1・sin(ωt)・・・(1)
この場合、コンデンサ322の電圧VLは、式(2)で表される。
VL=b・sin(ωt+θ)・・・(2)
θは、コンデンサ322に起因する、第1交流電圧V1に対する電圧VLの位相変移量を示す。
【0013】
第1交流電圧V1に対する電圧VLの位相変移量θと、角周波数ωにおけるコンデンサ322のリアクタンスXとの間には、関係式(3)が成立する。
tanθ=−R1R2/{X(R1+R2)}・・・(3)
式(3)を変形することにより得られる式(4)に示すように、位相変移量θが分かれば、コンデンサ322のリアクタンスXを算出することができる。
X=−R1R2/{tanθ(R1+R2)}・・・(4)
【0014】
コンデンサ322のリアクタンスXと静電容量Cとの間には、関係式(5)が成立する。
X=1/(ωC)・・・(5)
従って、式(6)に示すように、位相変移量θが分かれば、コンデンサ322の静電容量Cを算出することができる。
C=−{tanθ(R1+R2)}/(ωR1R2)・・・(6)
【0015】
続いて、上述の位相変移量θを算出する方法について説明する。
まず、第1交流電圧V1と同一の角周波数ωを有し、且つ第1交流電圧V1に対する位相差αを有する第2交流電圧V2を生成する。
V2=a2・sin(ωt+α)・・・(7)
【0016】
続いて、第2交流電圧V2とコンデンサ322に印加される電圧VLとを乗算する。乗算の結果として得られる乗算電圧VXを式(8)に示す。
VX=(a2・b/2)・{cos(α−θ)−cos(2ωt+α−θ)}・・・(8)
乗算電圧VXは、時間に応じて角周波数2ωで変化する交流成分ACと、時間に応じては変化しない直流成分DCとを含む。
AC=−(a2・b/2)・cos(2ωt+α−θ)・・・(9)
DC=(a2・b/2)・cos(α−θ)・・・(10)
【0017】
続いて、乗算電圧VXから直流成分DCを取り出して直流成分DCの電圧を測定する。例えば、角周波数2ωよりも十分に低いカットオフ周波数を有するローパスフィルタを用いることにより、乗算電圧VXから交流成分ACを除去して、直流成分DCの電圧を測定する。
【0018】
式(10)から分かるように、直流成分DCの電圧は、(α−θ)の値に応じて、例えば以下のように変化する。
・(α−θ)=0のとき極大値を示す。
・(α−θ)=π/2の前後で正から負へDC=0のラインと交差する。
・(α−θ)=πのとき極小値を示す。
・(α−θ)=3π/2の前後で負から正へDC=0のラインと交差する。
従って、位相差αと直流成分DCの電圧との関係に基づいて、位相変移量θを算出することが可能である。例えば、直流成分DCの電圧が極大値を示す位相差αを探索して、位相変移量θを算出することができる。
【0019】
その他にも、位相差αを0〜2πの範囲で変化させた場合に得られる直流成分DCの電圧のデータを、最小二乗法などの方法で正弦関数に近似した結果に基づいて、位相変移量θを算出することもできる。
【0020】
上述の方法で算出した位相変移量θに基づいて、式(4)及び式(6)を用いてコンデンサ322のリアクタンスX及び静電容量Cを算出することができる。
【0021】
上述の方法によれば、位相差αと直流成分DCの電圧との間の相対的な関係に基づいて、位相変移量θを算出することができる。このため、位相変移量θの算出結果は、ノイズに起因する直流成分DCの電圧の変動の影響、及び、直流成分DCの電圧の測定誤差の影響を受けにくい。従って、コンデンサ322のリアクタンスX及び静電容量Cを精度良く算出することができる。
【0022】
[リアクタンス測定装置の構成]
以下、上述の測定原理に基づいてリアクタンス素子のリアクタンスを測定するリアクタンス測定装置の構成について説明する。
図2は、本実施形態に係るリアクタンス測定装置10を示すブロック図である。また、
図3は、本実施形態に係るリアクタンス測定装置10を示す回路図である。
【0023】
リアクタンス測定装置10は、第1電圧生成部21、第2電圧生成部22、直列回路30、乗算部41、測定部42、及び算出部43を備える。以下、リアクタンス測定装置10の各構成要素について説明する。
【0024】
第1電圧生成部21は、例えばダイレクトデジタルシンセサイザ(DDS)を含む。第1電圧生成部21は、所定の角周波数ωを有する第1交流電圧V1を生成して直列回路30に印加する。
【0025】
第2電圧生成部22は、第1交流電圧V1と同一の角周波数ωを有し、且つ、第1交流電圧V1に対する所定の位相差αを有する第2交流電圧V2を生成する。第2電圧生成部22は、例えば、後述のMPUがI/Oポートを介して出力する制御情報に基づいて、位相差αを0〜2πの任意の値に設定して、第2交流電圧V2を生成することができる。
複数のコアを含むDDSを用いる場合、第1のコアを用いて第1交流電圧V1を生成し、第2のコアを用いて第2交流電圧V2を生成することができる。
【0026】
直列回路30は、第1回路31及び第2回路32を含む。第2回路32は、第1回路31に直列に接続されている。
図3に示すように、第1回路31は、上述の第1抵抗器311を含む。第2回路32は、上述の第2抵抗器321及びリアクタンス素子としてのコンデンサ322を含む。
【0027】
乗算部41は、例えばアナログ乗算器である。乗算部41は、入力端子X1と入力端子X2との間の電圧と、入力端子Y1と入力端子Y2との間の電圧とを乗算して、乗算の結果として得られた乗算電圧VXを出力端子OUTから出力する。
【0028】
乗算部41の入力端子X1,X2は、コンデンサ322を含む第2回路32の電圧VLを測定するよう第2回路32に接続されている。なお、「第2回路32の電圧」とは、少なくともコンデンサ322を間に挟む第2回路32の2点の間の電圧のことである。例えば、乗算部41の入力端子X1,X2は、第2回路32のコンデンサ322の両端に接続されている。また、乗算部41の入力端子Y1,Y2は、第2電圧生成部22の両端に接続されている。このように接続された乗算部41を用いることにより、第2回路32の電圧(以下、第2回路電圧と称する)VLと第2電圧生成部22の第2交流電圧V2とを乗算した乗算電圧VXを得ることができる。
【0029】
測定部42は、例えばローパスフィルタ421及びADコンバータ422を含む。ローパスフィルタ421の入力端子は、乗算部41の出力端子OUTに接続されており、ローパスフィルタ421の出力端子は、ADコンバータ422の入力端子に接続されている。ローパスフィルタ421は、乗算電圧VXの角周波数2ωよりも低いカットオフ周波数を有する。このため、ローパスフィルタ421は、交流成分AC及び直流成分DCを有する乗算電圧VXから交流成分ACを除去して直流成分DCをADコンバータ422に入力することができる。ADコンバータ422は、直流成分DCの電圧を測定する。ADコンバータ422は、直流成分DCの電圧の測定結果をデジタル信号として算出部43に入力する。
【0030】
算出部43は、例えば、CPU及びI/Oポートを有するMCUにより実現される。算出部43は、図示しない記憶媒体に記憶されたプログラムを実行することにより、位相変移量算出部431、リアクタンス算出部432及び位相制御部433として機能する。
【0031】
位相変移量算出部431は、第1交流電圧V1に対する第2交流電圧V2の位相差αと乗算電圧VXの直流成分DCの電圧との関係に基づいて、第1交流電圧V1に対する第2回路32のコンデンサ322の第2回路電圧VLの位相変移量θを算出する。例えば、位相変移量算出部431は、直流成分DCの電圧が極大値を示す位相差αを探索して、位相変移量θを算出する。リアクタンス算出部432は、位相変移量算出部431が算出した位相変移量θに基づいて、上記の式(4)及び式(6)を用いてコンデンサ322のリアクタンスX及び静電容量Cを算出する。
【0032】
位相制御部433は、第1交流電圧V1に対する第2交流電圧V2の位相差を制御する。具体的には、位相制御部433は、第2電圧生成部22に対して、第2電圧生成部22が出力する第2交流電圧V2の位相差αを設定する。位相制御部433は、例えば、出力ポートを介して、位相差αに対応する制御情報を第2電圧生成部22に対して出力する。
【0033】
[リアクタンス測定装置の動作]
以下、リアクタンス測定装置10の動作について説明する。
まず、第1電圧生成部21は、第1交流電圧V1を生成して直列回路30に印加する。この結果、直列回路30の第2回路32には、第1交流電圧V1に対して位相変移量θを有する第2回路電圧VLが発生する。第2回路電圧VLは、乗算部41に入力される。
【0034】
続いて、第2電圧生成部22は、第2交流電圧V2を生成して乗算部41に入力する。乗算部41は、第1交流電圧V1と第2回路電圧VLとを乗算して乗算電圧VXを生成し、乗算電圧VXを測定部42のローパスフィルタ421に入力する。
【0035】
ローパスフィルタ421は、乗算電圧VXから交流成分ACを除去して直流成分DCを取り出して、直流成分DCをADコンバータ422に入力する。ADコンバータ422は、直流成分DCの電圧を測定し、測定結果を算出部43に入力する。
【0036】
算出部43の位相変移量算出部431は、直流成分DCの電圧が極大値を示す位相差αを探索して、位相変移量θを算出する。リアクタンス算出部432は、位相変移量算出部431が算出した位相変移量θに基づいて、上記の式(4)及び式(6)を用いてコンデンサ322のリアクタンスX及び静電容量Cを算出する。
【0037】
[リアクタンス測定装置の応用例]
次に、本実施形態に係るリアクタンス測定装置10の一応用例について説明する。ここでは、リアクタンス測定装置10を用いて、内燃機関から大気までの排気ガスの排出流路に設置されたディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、DPFと称する)における煤などの粒子状物質(以下、PMと称する)の堆積量を検出する例について説明する。
【0038】
図4は、リアクタンス測定装置10が組み込まれた車両1を示す図である。
図4に示す例においては、符号323で示す一対の電極が、リアクタンス測定装置10を用いてリアクタンス及び静電容量を測定する対象であるコンデンサ322に相当する。一対の電極は、例えば、DPFにおけるPMの堆積量を検出するためのセンサーの電極である。
【0039】
一対の電極323は、DPF63におけるPMの堆積量と一対の電極323の間の静電容量とが一対一に対応するよう、構成されている。例えば、一対の電極323は、本件発明者らによる先願である特開2011−153581号公報の場合と同様に、半径方向において対向するように同心状に配置された一対の円筒状の電極である。その他にも、一対の電極323は、排気ガスの流れ方向において対向するように配置されたメッシュ状の電極であってもよい。
【0040】
以下、車両1の構成、及び、リアクタンス測定装置10を車両1に組み込むことの利点について説明する。
車両1は、リアクタンス測定装置10、内燃機関61、排出経路62、及びDPF63を備える。リアクタンス測定装置10は、第1抵抗器311、第2抵抗器321などの構成要素が搭載された回路基板を含んで構成されている。
【0041】
内燃機関61は、例えばディーゼルエンジンである。排出経路62は、内燃機関61で発生した排気ガスを排出する。DPF63は、排出経路62に設置されている。DPF63は、排気ガスに含まれるPMを捕集する。DPF63を昇温させることにより、DPF63に堆積したPMを燃焼させて除去することができる。
【0042】
DPF63の内部には、一対の電極323が配置されている。一対の電極323は、一対の電線324を介して、リアクタンス測定装置10の回路基板上の第2抵抗器321に並列に接続されている。電線324は、例えばワイヤハーネスである。電線324を介して回路基板上の第2抵抗器321と電極323とを接続することにより、DPF63の熱の影響が回路基板上に搭載されたリアクタンス測定装置10の構成要素に及ぶことを抑制することができる。
【0043】
一対の電極323の間には、排出経路62を流れるPMが堆積する。この場合、一対の電極323の間の静電容量は、一対の電極323の間に堆積しているPMの堆積量に応じて変化する。従って、リアクタンス測定装置10を用いて一対の電極323の間の静電容量を測定することにより、一対の電極323の間におけるPMの堆積量を算出し、この結果に基づいて、DPF63の内部におけるPMの堆積量を推測することができる。また、DPF63の内部におけるPMの堆積量の推測値に基づいて、DPF63に堆積したPMを燃焼させるタイミングを適切に制御することができる。
【0044】
<本実施形態における効果>
本実施形態によるリアクタンス測定装置10は、まず、第1抵抗器311を含む第1回路31と、コンデンサ322を含む第2回路32と、を有する直列回路30に第1交流電圧V1を印加して、コンデンサ322に起因する位相変移量θが第1交流電圧V1に対して生じている第2回路電圧VLを得る。続いて、第2回路電圧VLと、第1交流電圧V1に対する位相差αを有する第2交流電圧V2とを乗算して、時間に応じて角周波数2ωで変化する交流成分ACと、時間に応じては変化しない直流成分DCとを含む乗算電圧VXを得る。続いて、ローパスフィルタなどを用いて、乗算電圧VXから交流成分ACを除去して直流成分DCを取り出し、直流成分DCの電圧を測定する。続いて、直流成分DCの電圧と、第1交流電圧V1に対する第2交流電圧V2の位相差αとの関係に基づいて、コンデンサ322に起因する第2回路電圧VLの位相変移量θを算出する。続いて、位相変移量θに基づいて、コンデンサ322のリアクタンスX及び静電容量Cを算出する。
【0045】
このようにVL、V2の位相を解析してリアクタンスX及び静電容量Cを算出する場合、リアクタンスの測定値は、V1、V2の振幅のばらつきに対して感度を持たない。したがって、十分なSN比が得られる大きさの信号を発生することができればよく、振幅を制御する必要も、また経年変化による振幅の変化も考慮する必要が無いため、発振器の構造を簡便なものとすることができる。
また、V1、V2の振幅を測定する必要も無いので、ハードウエア、ソフトウエアの構成を簡略化できる。
【0046】
また、直流成分DCの電圧のV1に対するV2のある位相差における個々の測定値それ自体は、リアクタンスX及び静電容量Cの値に直接反映されない。このため、ノイズに起因する直流成分DCの電圧の変動の影響によってリアクタンスX及び静電容量Cの算出値が変動することを抑制することができる。また、直流成分DCの電圧の個々の測定誤差の影響によってリアクタンスX及び静電容量Cの値の算出精度が低下することを抑制することができる。
【0047】
また、リアクタンス測定装置10の第2回路32は、コンデンサ322に並列に接続された第2抵抗器321を含む。このため、ノイズに対する第2回路32のインピーダンスを低減することができるので、直流成分DCに重畳するノイズの影響によってリアクタンスX及び静電容量Cの算出値が変動することを抑制することができる。このような第2抵抗器321の作用は、一対の電線324を介してコンデンサ322が回路基板に接続されており、このため、電線324を介してノイズが第2回路電圧VLに重畳しやすい場合に、特に顕著になる。
【0048】
また、一対の電線324を介してコンデンサ322を第2抵抗器321に並列に接続することにより、第1抵抗器311、第2抵抗器321などの回路素子を、コンデンサ322から遠ざけることができる。このため、第1抵抗器311、第2抵抗器321などの回路素子が、コンデンサ322及びコンデンサ322の周囲の熱の影響を受けることを抑制することができる。従って、車両1のDPF63などの高温の部品の内部に配置された一対の電極323の間のリアクタンスX及び静電容量Cを精度良く算出することができる。
【0049】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0050】
(リアクタンス素子がインダクタである例)
例えば、本実施形態においては、リアクタンスの測定対象となるリアクタンス素子が、静電容量Cを有するコンデンサ322である例を説明したが、これに限られることはない。リアクタンス測定装置10は、リアクタンス素子がインダクタである場合にも、そのリアクタンスX及びインダクタンスLを測定することができる。以下、本変形例について、
図5を参照して説明する。
図5は、本変形例に係るリアクタンス測定装置10の構成を示す回路図である。
【0051】
本変形例による回路は、抵抗値R1を有する第1抵抗器311、抵抗値R2を有する第2抵抗器321、及びインダクタンスLを有するインダクタ325を含む。第1抵抗器311は、インダクタ325に直列に接続される。第2抵抗器321は、インダクタ325に並列に接続される。インダクタ325の配置は、上述の本実施形態におけるコンデンサ322の配置と同一であるので、第1交流電圧V1に対する第2回路電圧VLの位相変移量θとインダクタ325のリアクタンスXとの間には、上記の関係式(4)が成立する。
【0052】
コンデンサ322のリアクタンスXと静電容量Cとの間には、関係式(11)が成立する。
X=ωL・・・(11)
従って、上述の式(4)及び式(11)を用いて、位相変移量θに基づいてインダクタ325のインダクタンスLを下記のように算出することができる。
L=−R1R2/{ωtanθ(R1+R2)}・・・(12)
【0053】
(リアクタンス測定装置のその他の応用例)
上述の本実施形態においては、リアクタンス測定装置10が車両1に組み込まれる例を示したが、リアクタンス測定装置10の応用例がこれに限られることはない。様々な用途において、リアクタンス測定装置10を用いてリアクタンス素子のリアクタンスを算出することができる。