(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸方向の一方が開口する筒状部を有した第一の回転部材であって、前記筒状部には径方向の内方および外方のうち一方に開放され前記軸方向に沿って延びた複数の溝が周方向に間隔をあけて設けられ、前記溝が、前記軸方向の一方に向かうほど幅が増加する第一の部分と、前記第一の部分に対して前記軸方向の一方に位置され当該軸方向の一方に向かうほど幅が増加する第二の部分と、を含む、第一の回転部材と、
周方向に間隔をあけて設けられた複数の第一の突起を有し、前記第一の突起が前記第一の部分に収容された、第二の回転部材と、
周方向に間隔をあけて設けられた複数の第二の突起を有し、前記第二の突起が前記第二の部分に収容された、第三の回転部材と、
を備え、
前記第二の部分の幅の、前記軸方向の単位長さあたりの第二の増加率が、前記第一の部分の幅の、前記軸方向の単位長さあたりの第一の増加率よりも、小さい、動力伝達装置。
前記第二の突起のうち前記第二の部分に収容されている部分の前記軸方向の第二の長さが、前記第一の突起のうち前記第一の部分に収容されている部分の前記軸方向の第一の長さよりも長い、請求項1に記載の動力伝達装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、それらの構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0010】
図1は、変速装置である自動変速機25を含む動力伝達装置20の概略構成図である。この動力伝達装置20は、前輪駆動車両に搭載される。動力伝達装置20は、不図示のエンジンのクランクシャフトに接続され、エンジンからの動力を不図示の左右の駆動輪(前輪)に伝達する。動力伝達装置20は、トランスミッションケース22や、当該トランスミッションケース22の内部に収容される発進装置23(流体伝動装置)、オイルポンプ24、自動変速機25、ギヤ機構40(ギヤ列)、デファレンシャルギヤ50(差動機構)、トランスミッションケース22に取り付けられる油圧制御装置60等を含む。
【0011】
発進装置23は、例えば、トルクコンバータとして構成される。発進装置23は、ポンプインペラ23pや、タービンランナ23t、ステータ23s、ワンウェイクラッチ23o、ロックアップクラッチ23c、ダンパ機構23d等を有する。ポンプインペラ23pは、入力側に配置され、エンジンのクランクシャフトに接続される。タービンランナ23tは、自動変速機25の入力軸(入力部材)26に接続される。ステータ23sは、タービンランナ23tの内側に配置され、タービンランナ23tからポンプインペラ23pへの作動油の流れを整流する。ワンウェイクラッチ23oは、ステータ23sの回転方向を一方向に制限する。なお、発進装置23は、ステータ23sを有さない流体継手として構成されてもよい。
【0012】
オイルポンプ24は、例えば、ギヤポンプとして構成され、ポンプアッセンブリや、外歯ギヤ、内歯ギヤ等を有する。ポンプアッセンブリは、ポンプボディとポンプカバーとを含む。外歯ギヤは、ハブを介して発進装置23のポンプインペラ23pに接続される。内歯ギヤは、外歯ギヤと噛み合う。オイルポンプ24は、エンジンからの動力により駆動され、不図示のオイルパンから作動油(ATF)を吸引し、発進装置23や油圧制御装置60へ供給する。油圧制御装置60は、自動変速機25により要求される油圧を生成する。
【0013】
自動変速機25は、8段変速式の変速機として構成されている。
図1に示されるように、自動変速機25は、入力軸26や、ダブルピニオン式の第一遊星歯車機構30、ラビニヨ式の第二遊星歯車機構35、入力側から出力側までの動力伝達経路を変更するための四つのクラッチC1〜C4、二つのブレーキB1,B2、およびワンウェイクラッチF1を有する。
【0014】
第一遊星歯車機構30は、サンギヤ31と、リングギヤ32と、二つのピニオンギヤ33a,33bと、プラネタリキャリヤ34と、を有する。サンギヤ31は、外歯歯車である。リングギヤ32は、サンギヤ31と同心円上に配置される内歯歯車である。二つのピニオンギヤ33a,33bは、互いに噛み合う。二つのピニオンギヤ33a,33bのうち一方はサンギヤ31と噛み合い、他方はリングギヤ32と噛み合う。プラネタリキャリヤ34は、ピニオンギヤ33a,33bの複数の組を自転可能(回転可能)かつ公転可能に保持する。
【0015】
第一遊星歯車機構30のサンギヤ31は、トランスミッションケース22に固定され、第一遊星歯車機構30のプラネタリキャリヤ34は、入力軸26と一体に回転可能に連結されている。第一遊星歯車機構30は、いわゆる減速ギヤとして構成されており、入力要素としてのプラネタリキャリヤ34に伝達された動力を減速して、出力要素としてのリングギヤ32から出力する。
【0016】
第二遊星歯車機構35は、第一サンギヤ36aと、第二サンギヤ36bと、リングギヤ37と、ショートピニオンギヤ38aと、ロングピニオンギヤ38bと、プラネタリキャリヤ39と、を有する。第一サンギヤ36aおよび第二サンギヤ36bは、外歯歯車である。リングギヤ37は、第一サンギヤ36aおよび第二サンギヤ36bと同心円上に配置される内歯歯車である。ショートピニオンギヤ38aは、第一サンギヤ36aと噛み合う。ロングピニオンギヤ38bは、第二サンギヤ36b、ショートピニオンギヤ38a、およびリングギヤ37と噛み合う。プラネタリキャリヤ39は、ショートピニオンギヤ38aおよびロングピニオンギヤ38bの複数の組を自転可能(回転自在)かつ公転可能に保持する。
【0017】
第二遊星歯車機構35のリングギヤ37は、自動変速機25の出力部材として機能する。入力軸26からリングギヤ37に伝達された動力は、ギヤ機構40、デファレンシャルギヤ50、およびドライブシャフト51を介して左右の駆動輪に伝達される。また、プラネタリキャリヤ39は、ワンウェイクラッチF1を介してトランスミッションケース22に支持されている。プラネタリキャリヤ39の回転方向は、ワンウェイクラッチF1により一方向に制限される。
【0018】
クラッチC1〜C4は、複数の摩擦プレートやセパレータプレートを有した多板摩擦式油圧クラッチ(摩擦係合要素)である。クラッチC1〜C4は、作動油が供給される油室が設けられるシリンダとシリンダに移動可能に収容されるピストンとを含む油圧サーボ機構を有する。
【0019】
クラッチC1は、第一遊星歯車機構30のリングギヤ32と第二遊星歯車機構35の第一サンギヤ36aとの接続および遮断を切り替える。
【0020】
クラッチC2は、入力軸26と第二遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ39との接続および遮断を切り替える。
【0021】
クラッチC3は、第一遊星歯車機構30のリングギヤ32と第二遊星歯車機構35の第二サンギヤ36bとの接続および遮断を切り替える。
【0022】
クラッチC4は、第一遊星歯車機構30のプラネタリキャリヤ34と第二遊星歯車機構35の第二サンギヤ36bとの接続および遮断を切り替える。
【0023】
ブレーキB1,B2は、複数の摩擦プレートやセパレータプレートとを有した多板摩擦式油圧ブレーキである。ブレーキB1,B2は、作動油が供給される油室が設けられるシリンダとシリンダに移動可能に収容されるピストンとを含む油圧サーボ機構を有する。
【0024】
ブレーキB1は、第二遊星歯車機構35の第二サンギヤ36bとトランスミッションケース22との接続および遮断を切り替える。第二サンギヤ36bとトランスミッションケース22とが接続された状態では、第二サンギヤ36bの回転が停止され、第二サンギヤ36bとトランスミッションケース22とが遮断された状態では、第二サンギヤ36bの回転が許容される。
【0025】
ブレーキB2は、第二遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ39とトランスミッションケース22との接続および遮断を切り替える。プラネタリキャリヤ39とトランスミッションケース22とが接続された状態では、プラネタリキャリヤ39の回転が停止され、プラネタリキャリヤ39とトランスミッションケース22とが遮断された状態では、プラネタリキャリヤ39の回転が許容される。
【0026】
ワンウェイクラッチF1は、インナーレースや、アウターレース、スプラグ、スプリング(板バネ)、保持器等を含む。インナーレースは、第二遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ39に連結(固定)される。インナーレースに対してアウターレースが一方向に回転した場合には、インナーレースとアウターレースとの間で各スプラグを介してトルクが伝達される。インナーレースに対してアウターレースが他方向に回転した場合には、それらを相対回転させ、インナーレースとアウターレースとの間でトルクを伝達しない。なお、ワンウェイクラッチF1は、ローラ式のようなスプラグ式以外の構成を有するものであってもよい。
【0027】
クラッチC1〜C4、ブレーキB1,B2は、油圧制御装置60から供給された作動油により動作する。
図2は、自動変速機25の各変速段とクラッチC1〜C4、ブレーキB1,B2、およびワンウェイクラッチF1の作動状態との関係を表した作動表である。表の各セル内において、白抜きの丸印は接続状態を示し、空白は遮断状態を示し、黒い丸印はエンジンブレーキ時の接続状態を示す。自動変速機25は、クラッチC1〜C4、ブレーキB1,B2を
図2の作動表に示す状態とすることで前進1〜8速の変速段と後進1速および2速の変速段とを提供する。なお、ブレーキB1を除くクラッチC1〜C4、およびブレーキB2の少なくともいずれかは、ドグクラッチのような噛み合い係合要素であってもよい。
【0028】
ギヤ機構40は、カウンタドライブギヤ41と、カウンタドリブンギヤ43と、ドライブピニオンギヤ44(ファイナルドライブギヤ)と、デフリングギヤ45(ファイナルドリブンギヤ)と、を有する。カウンタドライブギヤ41は、自動変速機25の第二遊星歯車機構35のリングギヤ37に連結される。カウンタドリブンギヤ43は、自動変速機25の入力軸26と平行に延在するカウンタシャフト42に固定され、カウンタドライブギヤ41と噛み合う。ドライブピニオンギヤ44は、カウンタドリブンギヤ43から軸方向に離間するようにカウンタシャフト42と一体に成形されるか、あるいはカウンタシャフト42と固定される。デフリングギヤ45は、ドライブピニオンギヤ44と噛み合うとともにデファレンシャルギヤ50と連結される。
【0029】
図3は、動力伝達装置20の一部の例示的かつ模式的な断面図である。
図3は、動力伝達装置20の自動変速機25に含まれるクラッチC3およびその近傍の構成を示している。
図3において、矢印Yが示すY方向は軸方向の一方とする。また、矢印Rが示すR方向は径方向の外方である。
【0030】
クラッチC3は、
図1を参照しながら説明したように、第一遊星歯車機構30のリングギヤ32と第二遊星歯車機構35の第二サンギヤ36bとの接続および遮断を切り替える。リングギヤ32は、クラッチハブ14と一体に回転し、第二サンギヤ36bは、クラッチドラム11およびドラム12と一体に回転する。
図3の例では、クラッチC3は、クラッチハブ14とクラッチドラム11との接続と遮断とを切り替えることにより、リングギヤ32と第二サンギヤ36bとの接続と遮断とを切り替える。
【0031】
クラッチハブ14は、筒状部14a(側壁部)を有する。筒状部14aは、複数(
図3の例では4枚)の摩擦プレート13bを支持している。筒状部14aと摩擦プレート13bとは、スプライン構造を介して接続されている。具体的に、筒状部14aの外周面には、軸方向(Y方向)に沿って延びた複数の溝14bが設けられている。溝14bは、径方向の外方(R方向、
図3の上方)に開放され、すなわち径方向の内方(R方向の反対方向、
図3の下方)に凹んでいる。複数の溝14bが、周方向に略一定の間隔で配置されている。摩擦プレート13bは、軸方向に薄く径方向に沿って広がる円環状の板である。摩擦プレート13bの軸方向の両面には、摩擦材が貼り付けられている。摩擦プレート13bの内縁には、径方向の内方に突出し、溝14bに収容される突起(不図示)が設けられている。複数の突起が、周方向に略一定の間隔で配置されている。摩擦プレート13bの突起は、溝14bに沿って、すなわち軸方向に沿って、移動することができる。また、摩擦プレート13bの突起の周方向への移動は、筒状部14aの溝14bの周方向両側の側面によって、制限される。このような構成により、複数の摩擦プレート13bは、クラッチハブ14に軸方向に移動可能に支持されるとともに、クラッチハブ14と一体的に回転可能に支持されている。なお、換言すれば、クラッチハブ14の外周面には、径方向の外方に突出し軸方向に沿って延びた複数の凸部(不図示)が、周方向に略一定の間隔で配置され、摩擦プレート13bの内縁には、径方向の外方に開放され、すなわち径方向の内方に凹み、クラッチハブ14の凸部を収容する凹部が、設けられている。
【0032】
クラッチドラム11は、円盤状の底壁部11aと、底壁部11aの外縁部から軸方向の一方に向けて延びた筒状部11b(側壁部)と、を有し、ドラム状に形成されている。筒状部11bは、複数(
図3の例では4枚)のセパレータプレート13aを支持している。筒状部11bとセパレータプレート13aとは、スプライン構造を介して接続されている。具体的に、筒状部11bの内周面には、軸方向(Y方向)に沿って延びた複数の溝11cが設けられている。溝11cは、径方向の内方(R方向の反対方向)に開放され、すなわち径方向の外方(R方向)に凹んでいる。複数の溝11cが、周方向に略一定の間隔で配置されている。セパレータプレート13aは、軸方向に薄く径方向に沿って広がる円環状の板である。セパレータプレート13aの軸方向の両面は、平滑面である。セパレータプレート13aの外縁には、径方向の外方に突出し溝11cに収容される突起13a1が設けられている。複数の突起13a1が、周方向に略一定の間隔で配置されている。セパレータプレート13aの突起13a1は、溝11cに沿って、すなわち軸方向に沿って、移動することができる。また、セパレータプレート13aの突起13a1の周方向への移動は、筒状部11bの溝11cの周方向両側の側面によって制限される。このような構成により、複数のセパレータプレート13aは、クラッチドラム11に軸方向に移動可能に支持されるとともに、クラッチドラム11と一体的に回転可能に支持されている。なお、換言すれば、クラッチドラム11の筒状部11bの内周面には、軸方向に沿って延びた複数の凸部(不図示)が、周方向に略一定の間隔で配置され、セパレータプレート13aの外縁には、筒状部11bの凸部を収容する凹部が設けられている。クラッチドラム11は、第一の回転部材の一例であり、セパレータプレート13aは、第二の回転部材の一例である。突起13a1は、第一の突起の一例である。
【0033】
クラッチドラム11には、ピストン15を軸方向に移動可能に収容したシリンダ16が設けられている。ピストン15およびシリンダ16は円環状に構成されている。ピストン15およびシリンダ16は、セパレータプレート13aおよび摩擦プレート13bに対して軸方向の他方(Y方向の反対方向)に配置されている。シリンダ16内が加圧されると、ピストン15は、軸方向の一方(Y方向)に移動する。シリンダ16内の加圧が解除されると、ピストン15は、リターンスプリング17によって軸方向の他方に移動する。ピストン15の軸方向の一方の端部には、径方向の外方に突出する爪部15aが設けられている。
【0034】
ピストン15の軸方向の一方かつ径方向の外方の端部には、径方向の外方に突出し筒状部11bの溝11cに収容される複数の爪部15aが設けられている。複数の爪部15aは、周方向に略一定の間隔で配置されている。ピストン15の爪部15aは、筒状部11bに設けられた溝11cに沿って、すなわち軸方向に沿って、移動することができる。
【0035】
クラッチドラム11は、円環状かつ板状のバッキングプレート13cを支持している。バッキングプレート13cの外縁には、径方向の外方に突出し筒状部11bの溝11cに収容される複数の突起13c1が設けられている。複数の突起13c1は、周方向に略一定の間隔で配置されている。また、バッキングプレート13cは、周方向に延びるスナップリング13dにより、筒状部11bに、軸方向に固定されている。バッキングプレート13cは、第二の回転部材の一例である。筒状部11bの内周面には、周方向に沿って延びた溝11f(周方向溝、
図4参照)が設けられ、スナップリング13dは、溝11fに嵌合されている。
【0036】
また、
図3に示されるように、ピストン15の爪部15aとバッキングプレート13cの突起13c1との間に、4枚のセパレータプレート13aと4枚の摩擦プレート13bとが軸方向に交互に配置されている。
【0037】
さらに、
図3に示されるように、ドラム12(ドラム部材)の軸方向の一方(Y方向)の端縁には、軸方向の他方(Y方向の反対方向)に突出した複数の突起12aが設けられている。突起12aは、クラッチドラム11の溝11cの軸方向の一方の開口部、すなわち筒状部11bの軸方向の一方の端部11dに設けられた溝11cの開口部から、軸方向の他方へ突出して溝11c内に進入し、溝11c内に収容されている。複数の突起12aは、周方向に略一定の間隔で配置されている。突起12aは、溝11c内においてY方向には移動しない。また、突起12aの周方向への移動は、筒状部11bの溝11cの周方向両側の側面によって制限される。突起12aと溝11cとは、スプライン嵌合されている。このような構成により、ドラム12は、クラッチドラム11と一体的に回転可能に連結されている。ドラム12は、不図示の他の回転部材と連結された第三の回転部材の一例である。突起12aは、第二の突起の一例である。
【0038】
このような構成において、ピストン15が軸方向の一方(Y方向)に移動すると、ピストン15の爪部15aとバッキングプレート13cの突起13c1とが、Y方向に交互に配置された4枚のセパレータプレート13aと4枚の摩擦プレート13bとを挟む。これにより、セパレータプレート13aと摩擦プレート13bとが、ピストン15からの加重による摩擦力によって相互に回転不能な状態、すなわち、接続状態となる。上述したように、摩擦プレート13bはクラッチハブ14すなわちリングギヤ32と一体に回転し、セパレータプレート13aはクラッチドラム11すなわち第二サンギヤ36bと一体に回転している。よって、クラッチC3におけるピストン15のY方向への移動および加重により、リングギヤ32と第二サンギヤ36bとの接続状態が得られる。セパレータプレート13aおよび摩擦プレート13bは、クラッチC3の摩擦係合要素である。クラッチC3の接続状態において、ドラム12とクラッチハブ14との間で、クラッチドラム11およびクラッチC3の摩擦係合要素、すなわちセパレータプレート13aおよび摩擦プレート13bを介して、トルクが伝達される。セパレータプレート13aは、摩擦板とも称されうる。
【0039】
図4は、
図3のIV−IV断面図である。
図4は、クラッチドラム11の筒状部11bの溝11cを、R方向の外方に見た図でもある。
図4に示されるように、溝11c内には、Y方向に沿って、ピストン15の爪部15a、複数(
図4では4枚)のセパレータプレート13aの突起13a1、バッキングプレート13cの突起13c1、およびドラム12の突起12aが、この順に収容されている。
【0040】
クラッチドラム11は、例えば、アルミニウム合金の鋳造(ダイキャスト)により構成される。この場合、鋳造の型抜きのため、
図4に示されるように、溝11cの側面には抜き勾配が生じ、溝11cの幅が軸方向の一方(Y方向)、すなわち型抜き方向に向かうにつれて、漸増する。換言すれば、筒状部11bの開放側の端部11dに近い位置であるほど、溝11cの幅は大きい。なお、本明細書において、溝11c、突起13a1,13c1,12a、および爪部15aの「幅」とは、径方向の外方(
図3のR方向、
図4の紙面と垂直な方向)または径方向の内方(
図3のR方向の反対方向)に見た場合の、当該R方向およびY方向と直交する方向の両端間の寸法、すなわち、
図4における上下方向の両端間の寸法を、示す。溝11cの幅は、溝11cの二つの開放端間の寸法とする。
【0041】
本実施形態では、溝11cの幅に合わせて、爪部15aおよび突起13a1,13c1,12aの幅が設定されている。すなわち、突起13a1の幅は、爪部15aの幅よりも大きく、突起13c1の幅は、突起13a1の幅よりも大きく、突起12aの幅W4は、突起13c1の幅よりも大きい。これにより、爪部15aおよび突起13a1,13c1,12aと溝11cの周方向(
図4の上下方向)の側面との隙間が、爪部15aおよび突起13a1,13c1,12aの幅が同じ寸法である場合に比べて、より狭く設定されやすい。
【0042】
また、
図4に示すように、溝11cは、第一の部分A1(第一の区間)と、第一の部分A1よりも軸方向の一方(Y方向)に位置された第二の部分A2(第二の区間)とを含んでいる。第一の部分A1は、スナップリング13dが嵌合された溝11fの軸方向の他方側から、当該溝11fを越えて、軸方向の一方まで延びている。また、第一の部分A1の幅および第二の部分A2の幅の双方とも、軸方向の一方(Y方向)に向かうにつれて、すなわち端部11dに近付くにつれて増加している。ただし、
図4から明らかとなるように、第二の部分A2の幅の、軸方向の単位長さあたりの増加率(第二の増加率)は、第一の部分A1の幅の、軸方向の単位長さあたりの増加率(第一の増加率)よりも小さい。より詳しくは、第一の部分A1の幅W1の位置をP1、第一の部分A1と第二の部分A2との境界点11eの位置をP2、筒状部11bの端部11dの位置をP3とし、位置P1における溝11cの幅をW1、位置P2における溝11cの幅をW2、位置P3における幅をW3、位置P1と位置P2とのY方向の距離をL12、位置P2と位置P3とのY方向の距離をL23としたとき、第一の増加率α1は、α1=(W2−W1)/L12であり、第二の増加率α2は、α2=(W3−W2)/L23であり、α2<α1である。ここで、仮に、第二の部分A2における幅の増加率がより大きい構成であったとすると、第二の部分A2に収容されている突起12aにおける溝11cの側面との接触部分は、軸方向の他方(
図4の右方)の先端近傍のより狭い領域となり、突起12aと溝11cの側面との片当たり、すなわち比較的狭い領域での局所的な接触が生じやすくなる。このような片当たりが生じると、突起12aまたは溝11cの側面が摩耗しやすくなり、ひいては、クラッチドラム11とドラム12との周方向のがたつきの増大が早まる虞がある。この点、本実施形態では、第二の部分A2における溝11cの幅の軸方向の単位長さあたりの増加率(第二の増加率)が、第一の部分A1における溝11cの幅の軸方向の単位長さあたりの増加率(第一の増加率)よりも小さい。よって、第二の部分A2における突起12aと溝11cの側面との接触面積がより大きくなり、これにより、突起12aと溝11cの側面との面圧が低下しやすくなり、ひいては、突起12aと溝11cの側面との接触部分がより摩耗し難くなる。
【0043】
また、本実施形態では、
図4に示されるように、突起12aのうち第二の部分A2に収容されている部分の、軸方向(Y方向)に沿った長さL2(第二の長さ)は、突起13a1のうち第一の部分A1に収容されている部分の、軸方向に沿った長さL1(第一の長さ)よりも長い。このような構成によっても、突起12aと第二の部分A2の側面との接触部分の面圧がより低くなりやすい。
【0044】
上述したように、クラッチC3の接続状態にあっては、ドラム12とクラッチハブ14との間で、クラッチドラム11およびクラッチC3の摩擦係合要素、すなわちセパレータプレート13aおよび摩擦プレート13bを介して、トルクが伝達される。また、
図3から明らかとなるように、一つの溝11cに収容されている部分に関しては、ドラム12の一つの突起12aと、複数のセパレータプレート13aの突起13a1との間で、クラッチドラム11を介してトルクが伝達される。また、動力伝達装置20では、ドラム12のイナーシャは、セパレータプレート13aのイナーシャよりも大きい。このような構成にあっては、突起12aと溝11cの第二の部分A2の側面との接触部分の面圧は、セパレータプレート13aと溝11cの第一の部分A1の側面との接触部分の面圧よりも大きくなりやすい。このため、当該構成に対しては、上述した、第二の部分A2の幅の軸方向の増加率α2が、第一の部分A1の幅の軸方向の増加率α1よりも低いという本実施形態の技術的特徴や、突起12aの長さL2が突起13a1の長さL1よりも長いという本実施形態の技術的特徴は、第二の部分A2に収容されている突起12aの面圧を低減しうるという点で、効果的である。
【0045】
また、本実施形態では、ドラム12は、例えばプレスにより構成される。これにより、本実施形態では、
図3に示されるように、突起12aの幅W4は、第二の部分A2に収容されている範囲で、略一定である。このような構成は、上述した、第二の部分A2の幅の軸方向の増加率α2が、第一の部分A1の幅の軸方向の増加率α1よりも低いという本実施形態の技術的特徴を適用した場合に、突起12aの側面と溝11c(第二の部分A2)の側面との角度差を小さくすることができる。よって、当該構成は、第二の部分A2に収容されている突起12aの面圧を低減しうるという点で、効果的である。
【0046】
以上、説明したように、本実施形態では、例えば、溝11cの第二の部分A2の幅の、軸方向の単位長さあたりの増加率α2(第二の増加率)が、溝11cの第一の部分A1の幅の、軸方向の単位長さあたりの増加率α1(第一の増加率)よりも、小さい。よって、本実施形態によれば、例えば、突起12a(第二の突起)と溝11cの第二の部分A2の側面との接触面積をより大きくでき、これにより接触部分の面圧をより低減することができる。
【0047】
また、本実施形態では、例えば、突起12a(第二の突起)のうち第二の部分A2に収容されている部分の長さL2が、突起13a1(第一の突起)のうち第一の部分A1に収容されている部分の長さL1よりも長い。よって、本実施形態によれば、例えば、突起12a(第二の突起)と溝11cの第二の部分A2の側面との接触面積をより大きくでき、これにより接触部分の面圧をより低減することができる。
【0048】
また、本実施形態では、複数のセパレータプレート13a(第二の回転部材)と一つのドラム12(第三の回転部材)との間で、クラッチドラム11(第一の回転部材)を介してトルクが伝達される。当該構成にあっては、ドラム12の突起12aと溝11cの第二の部分A2との間の面圧が、セパレータプレート13aの突起13a1と溝11cの第一の部分A1との間の面圧よりも高くなる。よって、上述した、第二の部分A2の幅の軸方向の増加率α2が、第一の部分A1の幅の軸方向の増加率α1よりも低いという本実施形態の技術的特徴や、突起12aの長さL2が突起13a1の長さL1よりも長いという本実施形態の技術的特徴は、ドラム12の突起12aと溝11cの第二の部分A2との間の面圧をより低減することができる点で、効果的である。
【0049】
また、本実施形態では、ドラム12の突起12a(第二の突起)の幅W4は、溝11cの第二の部分A2に収容されている範囲において、略一定である。このような構成に、上述した、第二の部分A2の幅の軸方向の増加率α2が、第一の部分A1の幅の軸方向の増加率α1よりも低いという本実施形態の技術的特徴を適用した場合、突起12aの側面と溝11c(第二の部分A2)の側面との角度差が小さくなる。よって、当該構成は、ドラム12の突起12aと溝11cの第二の部分A2との間の面圧をより低減することができるという点で、効果的である。
【0050】
以上、本発明の実施形態を例示したが、上記実施形態は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各例の構成や形状は、部分的に入れ替えて実施することも可能である。また、各構成や形状等のスペック(構造や、種類、方向、形状、大きさ、長さ、幅、高さ、数、配置、位置等)は、適宜に変更して実施することができる。例えば、溝は、筒状部の外周面に設けられ、径方向の外方に開放された溝であり、突起は、外周面の径方向の外方に設けられ、径方向の内方に突出した突起であってもよい。また、上記実施形態の動力伝達装置は、AT(automatic transmission)ではなく、遊星歯車機構を有した他の動力伝達装置、例えば、CVT(continuously variable transmission)やAMT(automated manual transmission)等であってもよい。また、本開示の構成は、クラッチとは異なる構成に適用してもよい。