(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記学習手段は、前記発音指示信号が複数音の同時発生を指示する場合、複数音に対応する複数の帰還音響信号のうち予め定められた1つの帰還音響信号に基づいて類似関係を学習する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電子楽器。
前記切り替え手段は、前記入力手段への帰還音響信号の入力が正常でない状態から前記入力手段への帰還音響信号の入力が正常な状態への移行に応答して、前記第2の状態を前記第1の状態に切り替える、請求項5記載の電子楽器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された演奏補助システムにおいて、和音情報発生装置または演奏補助装置の音源・効果回路を電子楽器の外部音源として用いることも可能である。例えば、電子楽器の演奏操作子の操作による演奏情報を外部音源に供給し、外部音源により得られる音響信号に基づく楽音を電子楽器から発生することが可能である。
【0006】
しかしながら、電子楽器と外部音源とが切断された場合または外部音源に不具合が生じた場合には、外部音源から電子楽器に音響信号が正常に供給されなくなる。そのような場合に、使用者の違和感を抑制しつつ発音を継続することが望まれる。
【0007】
本発明の目的は、外部音源から供給される音響信号に不調が生じた場合に使用者の違和感を抑制しつつ発音を継続することが可能な電子楽器および電子楽器システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電子楽器は、内部音響信号を生成する内部音源と、発音指示信号を発生する発生手段と、外部音響信号を生成する外部音源に接続され、発音指示信号を外部音源に出力する出力手段と、外部音源により生成される外部音響信号を帰還音響信号として受ける入力手段と、発音指示信号に応答して外部音源により外部音響信号が生成される第1の状態を発音指示信号に応答して内部音源により内部音響信号が生成される第2の状態へ切り替える切り替え手段と、第1の状態の所定のタイミングにおいて、内部音源により内部音響信号を生成させるとともに、生成される内部音響信号と帰還音響信号との類似度に基づいて、外部音響信号の態様と内部音響信号の態様との類似関係を学習する学習手段と、第1の状態が第2の状態に切り替えられた場合に、学習により得られた類似関係に基づいて、第1の状態において生成される外部音響信号の態様に所定の類似度を有する態様で内部音響信号を生成するように内部音響信号の態様を設定する設定手段とを備える。
【0009】
この電子楽器においては、第1の状態で発音指示信号に応答して外部音源により外部音響信号が生成される。また、第1の状態の所定のタイミングにおいて、内部音響信号と帰還音響信号との類似度に基づいて、外部音響信号の態様と内部音響信号の態様との類似関係が学習される。第1の状態で外部音源から供給される外部音響信号に不調が生じた場合には、第1の状態が第2の状態に切り替えられる。第2の状態では、発音指示信号に応答して内部音源により内部音響信号が生成される。この場合、学習により得られた類似関係に基づいて、外部音響信号の態様に所定の類似関係を有する態様で内部音響信号が内部音源により生成される。したがって、外部音響信号に不調が生じた場合でも使用者の違和感を抑制しつつ発音を継続することができる。
【0010】
内部音響信号および外部音響信号の態様は音色、音響効果および遅延時間のうち少なくとも1つを含んでもよい。この構成によれば、外部音響信号に不調が生じた場合に、外部音響信号の音色に所定の類似関係を有する内部音響信号または外部音響信号の音響効果に所定の類似関係を有する内部音響信号が内部音源により生成される。あるいは、外部音響信号の遅延時間に所定の類似関係を有する遅延時間で内部音響信号が内部音源により生成される。これにより、外部音響信号に不調の発生の前後での発生音の音色、発生音の音響効果および発音タイミング類似性を確保することができる。
【0011】
帰還音響信号には、音響効果が付与され、学習手段は、帰還音響信号の音響効果を推定することにより類似関係を学習してもよい。この構成によれば、帰還音響信号に音響効果が付与されている場合でも、推定された音響効果に基づいて、外部音響信号の態様に高い類似度を有する態様で内部音響信号の態様を設定することができる。
【0012】
学習手段は、発音指示信号が複数音の同時発生を指示する場合、複数音に対応する複数の帰還音響信号のうち予め定められた1つの帰還音響信号に基づいて類似関係を学習してもよい。この構成によれば、発音指示信号が複数音の同時発生を指示する場合でも、外部音響信号の態様と内部音響信号の態様との類似関係を容易に学習することができる。
【0013】
電子楽器は、入力手段への帰還音響信号の入力の状態を検出する検出手段をさらに備え、切り替え手段は、入力手段への帰還音響信号の入力が正常な状態から入力手段への帰還音響信号の入力が正常でない状態への移行に応答して、第1の状態を第2の状態に切り替えてもよい。この構成によれば、外部音源から供給される外部音響信号に不調が生じた場合に、第1の状態を第2の状態に確実に切り替えることができる。
【0014】
切り替え手段は、入力手段への帰還音響信号の入力が正常でない状態から入力手段への帰還音響信号の入力が正常な状態への移行に応答して、第2の状態を第1の状態に切り替えてもよい。この構成によれば、外部音源から供給される外部音響信号の不調が解消された場合に、第2の状態を第1の状態に確実に切り替えることができる。
【0015】
切り替え手段は、使用者の操作に基づいて第1の状態を第2の状態に切り替えてもよい。この構成によれば、使用者は、外部音響信号の不調に気付いた場合に、第1の状態を第2の状態に切り替えることができる。
【0016】
本発明に係る電子楽器システムは、上記の電子楽器と、電子楽器に接続される1または複数の外部音源と、電子楽器の内部音源により生成される内部音響信号および1または複数の外部音源により生成される外部音響信号に基づいて音を発生する音発生手段とを備える。
【0017】
この電子楽器システムにおいては、第1の状態で電子楽器からの発音指示信号に応答して外部音源により外部音響信号が生成される。また、第1の状態の所定のタイミングにおいて、内部音響信号と帰還音響信号との類似度に基づいて、外部音響信号の態様と内部音響信号の態様との類似関係が学習される。第1の状態で外部音源から供給される外部音響信号に不調が生じた場合には、第1の状態が第2の状態に切り替えられる。第2の状態では、発音指示信号に応答して内部音源により内部音響信号が生成される。この場合、学習により得られた類似関係に基づいて、外部音響信号の態様に所定の類似関係を有する態様で内部音響信号が電子楽器の内部音源により生成される。したがって、外部音響信号に不調が生じた場合でも使用者の違和感を抑制しつつ発音を継続することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、外部音響信号に不調が生じた場合に使用者の違和感を抑制しつつ発音を継続することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係る電子楽器および電子楽器システムについて図面を用いて詳細に説明する。
【0021】
(1)電子楽器システムの構成
図1は本発明の一実施の形態に係る電子楽器システムの構成を示すブロック図である。
図1の電子楽器システム100は、電子楽器1および1以上の外部音源20により構成される。本実施の形態では、電子楽器1に複数の外部音源20a,20bが接続される。以下、複数の外部音源20の各々を区別する場合には、各外部音源20を外部音源20aまたは外部音源20bと呼ぶ。
【0022】
電子楽器1は、演奏操作子2、検出回路3、設定操作子4、検出回路5、ディスプレイ6および表示回路7を備える。演奏操作子2は、鍵盤またはドラムパッド等を含む。演奏操作子2は、検出回路3を介してバス19に接続され、使用者の演奏動作に基づく演奏データが演奏操作子2により入力される。設定操作子4は、オンオフ操作されるスイッチ、回転操作されるロータリエンコーダ、またはスライド操作されるリニアエンコーダ等を含み、検出回路5を介してバス19に接続される。この設定操作子4は、音色の切り替え、音量の調整、電源のオンオフおよび各種設定を行うために用いられる。
【0023】
ディスプレイ6は、表示回路7を介してバス19に接続される。ディスプレイ6には、楽曲名、チャンネル番号、音色名、パラメータ値、楽譜、またはその他の各種情報が表示される。ディスプレイ6がタッチパネルディスプレイであってもよい。この場合、使用者は、ディスプレイ6を操作することにより各種操作を指示することができる。
【0024】
電子楽器1は、RAM(ランダムアクセスメモリ)9、ROM(リードオンリメモリ)10、CPU(中央演算処理装置)11、タイマ12、記憶装置13および通信I/F(インタフェース)14をさらに備える。RAM9、ROM10、CPU11、記憶装置13および通信I/F14はバス19に接続され、タイマ12はCPU11に接続される。外部記憶装置15等の外部機器が通信I/F14を介してバス19に接続されてもよい。RAM9、ROM10およびCPU11が音源制御部8を構成する。
【0025】
RAM9は、例えば揮発性メモリからなり、CPU11の作業領域として用いられるとともに、各種データを一時的に記憶する。ROM10は、例えば不揮発性メモリからなり、システムプログラムおよび音源制御プログラム等のコンピュータプログラムを記憶する。CPU11は、ROM10に記憶された音源制御プログラムをRAM9上で実行することにより後述する音源制御処理を行う。タイマ12は、現在時刻等の時間情報をCPU11に与える。
【0026】
記憶装置13は、ハードディスク、光学ディスク、磁気ディスクまたはメモリカード等の記憶媒体を含む。この記憶装置13には、一または複数の楽曲データが記憶される。楽曲データは、楽曲を表す音響信号(オーディオ信号)である。ここで、音響信号は、音の変化を表す波形信号を所定のサンプリング周期でサンプリングすることにより得られる複数のサンプリング値からなる。演奏操作子2から入力される演奏データに基づいて楽曲データが生成され、記憶装置13に記憶されてもよい。演奏データおよび楽曲データは、後述する発音指示信号を含む。上記の音源制御プログラムが記憶装置13に記憶されてもよい。外部記憶装置15は、記憶装置13と同様に、ハードディスク、光学ディスク、磁気ディスクまたはメモリカード等の記憶媒体を含み、楽曲データ等の各種データまたは音源制御プログラムを記憶してもよい。
【0027】
なお、本実施の形態における音源制御プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に格納された形態で提供され、ROM10または記憶装置13にインストールされてもよい。また、通信I/F14が通信網に接続されている場合、通信網に接続されたサーバから配信された音源制御プログラムがROM10または記憶装置13にインストールされてもよい。
【0028】
電子楽器1は、内部音源16およびサウンドシステム17をさらに備える。内部音源16はバス19に接続され、サウンドシステム17は内部音源16およびバス19に接続される。内部音源16は、演奏操作子2から入力される演奏データまたは記憶装置13から与えられる楽曲データ等に基づいて音響信号を生成するとともにその音響信号に音響効果を付与する。
【0029】
各外部音源20は、通信I/F14に接続され、演奏操作子2から入力される演奏データまたは記憶装置13から与えられる楽曲データ等に基づいて音響信号を生成するとともにその音響信号に音響効果を付与する。また、各外部音源20は、生成された音響信号を通信I/F14に出力する。サウンドシステム17は、D/A(デジタル/アナログ)変換回路、増幅器およびスピーカを含み、内部音源16または外部音源20から与えられる音響信号に基づく楽音を発生する。
【0030】
本実施の形態では、通信I/F14は、MIDI(Musical Instrument Digital Interface)入力端子、MIDI出力端子、オーディオ入力端子およびオーディオ出力端子等を含む。通信I/F14と各外部音源20とは、MIDIケーブルおよびオーディオケーブルにより接続され、MIDI規格に基づく通信を行う。また、本実施の形態では、電子楽器1が複数のMIDIチャンネル(以下、単にチャンネルと呼ぶ。)を有する。複数の外部音源20a,20bにそれぞれ異なるチャンネルCH1,CH3が割り当てられ、内部音源16にチャンネルCH2が割り当てられる。
【0031】
(2)音源制御部8の動作
図1の電子楽器1の使用者は、設定操作子4を操作することにより、複数の音色から選択された所望の音色を内部音源16および外部音源20に設定することができる。音色には、“Cutoff”(カットオフ)または“Attack Time”(アタックタイム)等の音響効果パラメータが付与されてもよい。また、“Attack Time”または“Release Time”(リリースタイム)等のパラメータは、外部音源20と内部音源16とで統一されていてもよいし、規定値に設定されていてもよい。内部音源16は、発音指示信号が与えられると、設定された音色の音響信号を生成する。外部音源20は、発音指示信号が与えられると、設定された音色の音響信号を生成する。
【0032】
内部音響信号および外部音響信号がそれぞれサウンドシステム17に入力されることにより、サウンドシステム17から内部音響信号に基づく音および外部音響信号に基づく音が発生される。これにより、使用者は、種々の音色の楽音をサウンドシステム17から再生させつつ電子楽器1を演奏することができる。以下、内部音源16により生成される音響信号を内部音響信号と呼び、外部音源20により生成される音響信号を外部音響信号と呼ぶ。
【0033】
外部音源20に割り当てられたチャンネルについて、外部音源20と通信I/F14との間の接続不良、外部音源20と通信I/F14との間の通信の切断、外部音源20の不具合等が生じた場合、外部音源20から電子楽器1に外部音響信号が与えられない状態、外部音源20から電子楽器1に与えられる外部音響信号が途切れる状態、または外部音源20から電子楽器1に与えられる外部音響信号が不安定となる状態等の外部音響信号の不調が生じることがある。このような外部音響信号の不調時(外部音響信号の入力の状態が正常でない場合)には、所望の楽音をサウンドシステム17から発生することができない。
【0034】
そこで、音源制御部8は、外部音源20に割り当てられたチャンネルについて、外部音響信号の入力の状態が正常であるときの所定のタイミングにおいて、外部音源20から外部音響信号を取得する。また、音源制御部8は、内部音源16により内部音響信号を順次異なる音色で生成させ、内部音響信号と外部音響信号との類似度に基づいて、外部音響信号の音色と内部音響信号の音色との類似関係を学習する。
【0035】
その後、音源制御部8は、外部音源20に割り当てられたチャンネルについて、外部音響信号の不調時に、外部音響信号を内部音源16の内部音響信号に切り替える。この場合、音源制御部8は、外部音響信号の音色に所定の類似度を有する音色で内部音響信号を生成するように、学習結果に基づいて内部音源16の内部音響信号の音色を設定する。また、音源制御部8は、外部音源20に与えられるべき発音指示信号を内部音源16に与える。これにより、外部音響信号の音色に類似する音色の内部音響信号が内部音源16により生成される。その結果、使用者は、外部音響信号の不調時でも所望の音色の楽音をサウンドシステム17から発生させつつ電子楽器1の演奏を続行することができる。なお、外部音響信号の音色に類似する音色には、外部音響信号の音色と同一の音色も含まれる。
【0036】
(3)音源制御部8の機能的な構成
図2は
図1の音源制御部8の機能的な構成を示すブロック図である。
図2に示すように、音源制御部8は、指示信号発生部81、音源切替部82、指示信号出力部83、帰還音響信号入力部84、帰還音響信号検出部85、切替制御部86、帰還音響信号記憶部87、類似関係学習部88および音色設定部89を含む。
図1のCPU11がROM10または記憶装置13に記憶された音源制御プログラムを実行することにより
図2の音源制御部8の各部の機能が実現される。
【0037】
指示信号発生部81は、演奏操作子2の操作または楽曲データに基づいてチャンネルごとに発音指示信号等の各種指示信号を発生する。指示信号発生部81により発生された発音指示信号のうち、内部音源16に与えられるべき発音指示信号は、内部音源16に与えられる。指示信号発生部81により発生された発音指示信号のうち外部音源20に与えられるべき発音指示信号は、音源切替部82および指示信号出力部83に与えられる。
【0038】
本実施の形態では、チャンネルCH2の発音指示信号が内部音源16に与えられ、チャンネルCH1,CH3の発音指示信号が外部音源20に与えられる。内部音源16または外部音源20への発音指示信号の供給は、例えばMIDI規格のローカルオンコマンドおよびローカルオフコマンドにより切り替えられる。音源切替部82は、取得した発音指示信号を内部音源16に与える接続状態と、内部音源16に与えない非接続状態との間でチャンネルごとに切り替え可能である。
【0039】
指示信号出力部83は、通信I/F14に接続され、指示信号発生部81により発生された発音指示信号を外部音源20に出力する。外部音源20は、発音指示信号に応答して外部音響信号を生成し、生成された外部音響信号を通信I/F14に入力する。帰還音響信号入力部84は、通信I/F14から外部音響信号を帰還音響信号(オーディオリターン)として取得する。帰還音響信号検出部85は、帰還音響信号入力部84への帰還音響信号の入力の状態を検出する。
【0040】
切替制御部86は、帰還音響信号検出部85により検出される帰還音響信号の入力の状態が正常である場合には、音源切替部82を非接続状態にする。それにより、サウンドシステム17から外部音響信号に基づく楽音が発生される。一方、切替制御部86は、帰還音響信号検出部85により検出される帰還音響信号の入力の状態が正常でない場合には、音源切替部82を接続状態に切り替える。それにより、サウンドシステム17から内部音響信号に基づく楽音が発生される。このとき、帰還音響信号入力部84からの帰還音響信号の入力をオフにしてもよい。
【0041】
使用者による設定操作子4の操作に基づいて、音源切替部82を接続状態または非接続状態に切り替えることも可能である。そのため、使用者は、外部音響信号の不調に気付いた場合に、音源切替部82を非接続状態から接続状態に切り替えることができる。また、使用者は、外部音響信号の不調が解消されたことに気付いた場合に、音源切替部82を接続状態から非接続状態に切り替えることができる。
【0042】
帰還音響信号記憶部87は、帰還音響信号入力部84に入力される帰還音響信号を記憶する。類似関係学習部88は、音源切替部82が非接続状態である場合における所定のタイミングにおいて、帰還音響信号入力部84に入力される帰還音響信号を取得する。所定のタイミングは、例えば指示信号発生部81により生成された発音指示信号が単数音の発生を指示するタイミング(複数音の同時発生を指示しないタイミング)であってもよい。類似関係学習部88は、帰還音響信号記憶部87に記憶される帰還音響信号を取得してもよい。
【0043】
また、類似関係学習部88は、発音指示信号を生成するように指示信号発生部81に指示を与える。指示信号発生部81は、類似関係学習部88による指示に基づいて、内部音源16が順次異なる音色を有する内部音響信号を生成するように発音指示信号を生成する。類似関係学習部88は、異なる音色を有する内部音響信号を内部音源16から順次取得する。その後、類似関係学習部88は、外部音響信号の音色と内部音響信号の音色との類似関係を学習する。類似関係の学習では、外部音響信号の音色に所定の類似関係を有する内部音響信号の音色として、外部音響信号の音色に最も類似する内部音響信号の音色を判定する。学習結果は、記憶装置13に記憶される。学習結果としては、所定の類似関係を有する外部音響信号の音色および内部音響信号の音色の対応関係が記憶される。
【0044】
類似関係の学習においては、外部音響信号の遅延時間と内部音響信号の遅延時間との差が考慮されることが好ましい。本実施の形態においては、類似関係学習部88は、同一の音高およびベロシティを有する発音指示信号により生成された外部音響信号および内部音響信号を取得する。ここで、類似関係学習部88は、単一音の発音状態で外部音響信号の波形と複数の内部音響信号の各々の波形とを、立ち上がり時間を揃えた状態で比較することにより、外部音響信号の音色に最も類似する音色を有する内部音響信号を判定する。外部音響信号の波形に最も類似する波形を有する内部音響信号の音色を選択する。
【0045】
指示信号発生部81により生成された発音指示信号が複数音の同時発生を指示する場合、類似関係学習部88は、複数音に対応する複数の帰還音響信号のうち予め定められた1つの帰還音響信号に基づいて類似関係を学習してもよい。予め定められた1つの帰還音響信号は、例えば最も低い音高を有する帰還音響信号であってもよいし、最も高い音高を有する帰還音響信号であってもよいし、他の音高を有する帰還音響信号であってもよい。この構成によれば、発音指示信号が複数音の同時発生を指示する場合でも、外部音響信号の態様と内部音響信号の態様との類似関係を容易に学習することができる。また、上記の所定のタイミングとして、帰還音響信号を取得する機会を増加させることができる。
【0046】
なお、互いに最も類似する波形を有する外部音響信号と内部音響信号との時間差を変化させながら両波形の一致度を判定し、両波形の一致度が最も高くなるときの時間差を外部音響信号の遅延時間と内部音響信号の遅延時間との差として検出することができる。ここで、外部音響信号の遅延時間とは、発音指示信号の発生から外部音響信号に基づく楽音の発生までの時間であり、内部音響信号の遅延時間とは、発音指示信号の発生から内部音響信号に基づく楽音の発生までの時間である。
【0047】
音色設定部89は、類似関係学習部88による学習結果に基づいて、音源切替部82が非接続状態にあるときに(サウンドシステム17から外部音響信号に基づく楽音が発生されているときに)外部音響信号の音色に類似する音色の内部音響信号を生成するように内部音源16の音色を設定する。ここで、帰還音響信号入力部84に入力される帰還音響信号に音響効果が付与されていない場合には、類似関係学習部88による学習結果に基づいて、外部音響信号の態様に高い類似度を有する態様で内部音響信号を生成することができる。
【0048】
一方で、帰還音響信号入力部84に入力される帰還音響信号に音響効果が付与されている場合には、類似関係学習部88は、当該音響効果を推定することにより類似関係を学習してもよい。これにより、帰還音響信号に音響効果が付与されている場合でも、推定された音響効果に基づいて、外部音響信号の態様に高い類似度を有する態様で内部音響信号の態様を設定することができる。音響効果の推定は、例えば、帰還音響信号入力部84に音響効果が付与された帰還音響信号と音響効果が付与されていない帰還音響信号とが入力されている場合において、これらの帰還音響信号を比較することにより行うことができる。
【0049】
(4)音源制御処理
図3および
図4は音源制御部8により行われる音源制御処理を示すフローチャートである。
図3および
図4の音源制御処理は、
図1のCPU11がROM10または記憶装置13に記憶された音源制御プログラムを実行することにより行われる。以下の音源制御処理は、外部音源20に割り当てられた各チャンネルについて行われる。初期状態においては、
図2の音源切替部82は非接続状態にある。
【0050】
まず、指示信号発生部81は、演奏操作子2の操作が検出されたか否かを判定する(ステップS21)。演奏操作子2の操作が検出されていない場合には、指示信号発生部81は、演奏操作子2の操作が検出されるまで待機する。演奏操作子2の操作が検出された場合には、指示信号発生部81は、発音指示信号を生成し、指示信号出力部83および通信I/F14を介して発音指示信号を外部音源20へ供給する(ステップS22)。外部音源20は、発音指示信号が供給されると、設定された音色の外部音響信号を生成する。生成された外部音響信号は、通信I/F14を通してサウンドシステム17へ供給される。
【0051】
次に、類似関係学習部88は、設定操作子4の操作に基づいて音色設定指示信号が発生されたか否かを判定する(ステップS23)。音色設定指示信号には、外部音源20に設定されるべき音色を示す情報が含まれる。音色設定指示信号は、電子楽器の音色設定メニューにおける設定操作子4の操作に基づいて発生されてもよい。あるいは、音色設定指示信号は、MIDIメッセージの監視によるプログラムチェンジ(Program Change)、バンクセレクト(Bank Select)MSB、バンクセレクトLSBまたは機種依存のシステムエクスクルーシブ(SysEx)のメッセージの一部等の音源設定関連メッセージの検出時に発生されてもよい。
【0052】
音色設定指示信号が発生された場合には、類似関係学習部88は、チャンネルを示すチャンネル番号と変更後の音色を示す音色情報とを記憶する(ステップS24)。この場合、外部音源20に設定された音色が変更されるので、類似関係学習部88はステップS21に戻る。音色設定指示信号が発生されない場合には、類似関係学習部88は、現時点が類似関係の学習タイミングであるか否かを判定する(ステップS25)。
【0053】
現時点が類似関係の学習タイミングである場合、類似関係学習部88は、帰還音響信号入力部84または帰還音響信号記憶部87から帰還音響信号を取得する(ステップS26)。また、指示信号発生部81は、内部音源16が順次異なる音色で内部音響信号を生成するように発音指示信号を内部音源16に順次供給する(ステップS27)。類似関係学習部88は、異なる音色を有する内部音響信号を内部音源16から順次取得する(ステップS28)。
【0054】
その後、類似関係学習部88は、取得された帰還音響信号および内部音響信号に基づいて、帰還音響信号の音色と内部音響信号の音色との類似関係を学習する(ステップS29)。この場合、ステップS24で記憶されたチャンネル番号および音色情報に基づいて、外部音源20に設定されている音色とこれに最も類似する内部音源16の音色との対応関係が記憶装置13に記憶される。また、音色設定部89は、類似関係学習部88による類似関係の学習結果に基づいて内部音源16の音色を設定し(ステップS30)、ステップS21に戻る。これより、外部音響信号の音色に最も類似する音色が内部音源16に設定される。ステップS30の処理は、後述するステップS31〜S33の処理の間のいずれかの時点で実行されてもよい。この場合には、処理ループは、ステップS29の後にステップS21に戻る。
【0055】
ステップS25で現時点が類似関係の学習タイミングでない場合、帰還音響信号検出部85は、帰還音響信号入力部84への帰還音響信号の入力の状態を検出し(ステップS31)、帰還音響信号の入力の状態が正常であるか否かを判定する(ステップS32)。帰還音響信号の入力の状態が正常である場合には、帰還音響信号検出部85はステップS21に戻る。この場合、外部音源20からの外部音響信号に基づく楽音の発生が続行される。
【0056】
ステップS32においては、帰還音響信号の入力が適切なタイミングで存在する(例えば、発音指示信号に対応したタイミングで帰還音響信号が入力される)場合等に帰還音響信号の入力の状態が正常であると自動的に判断されてもよい。あるいは、使用者が発生される音を聞くことにより帰還音響信号の入力の状態が正常であるか否かを判断し、その結果を例えば設定操作子4を用いて入力(設定)可能であってもよい。後述するステップS37においても同様である。
【0057】
一方、帰還音響信号の入力の状態が正常でない場合には、切替制御部86は、音源切替部82を接続状態に切り替え(ステップS33)、ステップS34に進む。これにより、外部音源20に代えて内部音源16からの内部音響信号に基づく楽音の発生が続行される。内部音源16には、外部音源20の音色に最も類似した音色が設定されているので、電子楽器から発生される楽音の音色の連続性が確保される。音源切替部82の接続状態への切り替え時には、楽音の音量が徐々に大きくなるようにサウンドシステム17が制御されてもよい(フェードイン機能)。
【0058】
ステップS34で、指示信号発生部81は、演奏操作子2の操作が検出されたか否かを判定する(ステップS34)。演奏操作子2の操作が検出されていない場合には、指示信号発生部81は、演奏操作子2の操作が検出されるまで待機する。演奏操作子2の操作が検出された場合には、指示信号発生部81は、発音指示信号を生成し、音源切替部82を介して発音指示信号を内部音源16へ供給する(ステップS35)。内部音源16は、発音指示信号が供給されると、設定された音色の内部音響信号を生成する。内部音源16により生成された内部音響信号は、サウンドシステム17へ供給される。
【0059】
次に、帰還音響信号検出部85は、帰還音響信号入力部84への帰還音響信号の入力の状態を検出し(ステップS36)、帰還音響信号の入力の状態が正常であるか否かを判定する(ステップS37)。帰還音響信号の入力の状態が正常でない場合には、帰還音響信号検出部85はステップS34に戻る。この場合、内部音源16からの内部音響信号に基づく楽音の発生が続行される。
【0060】
一方、帰還音響信号の入力の状態が正常である場合には、切替制御部86は、音源切替部82を非接続状態に切り替え(ステップS38)、ステップS21に戻る。これにより、再度外部音源20からの外部音響信号に基づく楽音の発生が続行される。ステップS38の処理は、全ての発音指示信号が発生されていない時点で実行されてもよい。
【0061】
(5)パラメータの領域(ゾーン)設定
使用者は、演奏操作子2を操作することにより、音源制御部8に発音指示信号を発生させることができる。発音指示信号は、音高およびベロシティ等のパラメータを含む。また、使用者は、発音指示信号に含まれるパラメータの値の範囲に対して複数の領域を設定することができる。ここで、設定される複数の領域は、互いに重なっていてもよい。設定された複数の領域の各々にチャンネルを割り当てることができる。これにより、内部音源16および各外部音源20に個別に発音指示信号を与えることができる。領域設定は、例えばMIDI規格のローカルオンコマンドによるローカルオンの状態で用いられる。
【0062】
図5はパラメータの領域設定の一例を説明するための図である。
図5に示すように、演奏操作子2は、鍵盤200を含む。鍵盤200は、左右方向に並ぶように配列された複数の鍵2aを含む。複数の鍵2aは、複数の音高にそれぞれ対応する。使用者は、所望の鍵2aを押すことにより、対応する音高を含む発音指示信号を発生させることができる。
【0063】
図5の例においては、発音指示信号の音高に対して3つの領域Z1,Z2,Z3が設定される。具体的には、鍵盤200に4つの位置P1,P2,P3,P4が左から右にこの順で並ぶように設定される。領域Z1は、位置P1,P3間に配置される鍵2aに対応する音高の領域である。領域Z2は、位置P2,P3間に配置される鍵2aに対応する音高の領域である。領域Z3は、位置P3,P4間に配置される鍵2aに対応する音高の領域である。
【0064】
例えば、領域Z1,Z2,Z3にそれぞれチャンネルCH1,CH2,CH3が割り当てられる。この場合、位置P1,P2間のいずれかの鍵2aが押された場合、対応する音高の発音指示信号がチャンネルCH1の外部音源20aに与えられる。位置P2,P3間のいずれかの鍵2aが押された場合、対応する音高の発音指示信号がチャンネルCH2の内部音源16およびチャンネルCH1の外部音源20aに与えられる。位置P3,P4間のいずれかの鍵2aが押された場合、対応する音高の発音指示信号がチャンネルCH3の外部音源20bに与えられる。
【0065】
本例では、領域Z1,Z3に割り当てられたチャンネルCH1,CH3の各々について、
図2の音源制御部8による
図3および
図4の音源制御処理が行われる。
【0066】
図6はパラメータの領域設定の他の例を説明するための図である。
図6の例においては、発音指示信号の音高とベロシティとの組み合わせに対して3つの領域Z1,Z2,Z3が設定される。具体的には、
図5の4つの位置P1,P2,P3,P4に加えて、3つのベロシティの値V1,V2,V3がさらに設定される。値V2は値V1よりも大きく、値V3は値V2よりも大きい。
【0067】
領域Z1は、位置P1,P2間に配置される鍵2aに対応する音高でかつ値V1,V3間のベロシティの領域と、位置P2,P3間に配置される鍵2aに対応する音高でかつ値V2,V3間のベロシティの領域とを含む。領域Z2は、位置P2,P3間に配置される鍵2aに対応する音高でかつ値V2,V3間のベロシティの領域である。領域Z3は、位置P3,P4間に配置される鍵2aに対応する音高でかつ値V1,V3間のベロシティの領域である。
【0068】
図5の例と同様に、領域Z1,Z2,Z3にそれぞれチャンネルCH1〜CH3が割り当てられる。この場合、位置P1,P2間のいずれかの鍵2aが値V1,V3間のベロシティで押された場合、対応する音高でかつそのベロシティの値を有する発音指示信号がチャンネルCH1の外部音源20aに与えられる。位置P2,P3間のいずれかの鍵2aが値V1,V2間のベロシティで押された場合、対応する音高でかつそのベロシティの値を有する発音指示信号がチャンネルCH1の外部音源20aに与えられる。位置P2,P3間のいずれかの鍵2aが値V2,V3間のベロシティで押された場合、対応する音高でかつそのベロシティの値を有する発音指示信号がチャンネルCH2の内部音源16に与えられる。位置P3,P4間のいずれかの鍵2aが値V1,V3間のベロシティで押された場合、対応する音高でかつそのベロシティの値を有する発音指示信号がチャンネルCH3の外部音源20bに与えられる。
【0069】
本例においても、領域Z1,Z3に割り当てられたチャンネルCH1,CH3の各々について、
図2の音源制御部8による
図3および
図4の音源制御処理が行われる。
【0070】
(6)効果
本実施の形態に係る電子楽器1においては、音源切替部82の非接続状態の所定の学習タイミングにおいて、内部音響信号と帰還音響信号との類似度に基づいて、外部音響信号の音色と内部音響信号の音色との類似関係が学習される。音源切替部82の非接続状態において、外部音源20から供給される外部音響信号に不調が生じた場合には、音源切替部82が接続状態に切り替えられる。それにより、発音指示信号に応答して内部音源16により内部音響信号が生成される。この場合、学習により得られた類似関係に基づいて、外部音響信号の音色に類似する音色を有する内部音響信号が内部音源16により生成される。これにより、発生音の連続性を確保することができる。したがって、外部音響信号に不調が生じた場合でも使用者の違和感を抑制しつつ発音を継続することができる。
【0071】
(7)他の実施の形態
(a)上記実施の形態において、内部音響信号および外部音響信号の態様は音色であるが、本発明はこれに限定されない。内部音響信号および外部音響信号の態様は、音色、音響効果および遅延時間のうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0072】
(b)本実施の形態では、外部音源20に設定された音色が変更されるごとに変更後の音色について類似関係の学習が行われるので、ステップS23〜S29の処理が繰り返し行われるごとに、記憶装置13に記憶される音色の対応関係の数が増加する。外部音源20に設定可能な全ての音色について対応関係が記憶装置13に記憶された後に、ステップS23〜S29の学習が行われずに、記憶装置13に記憶された対応関係に基づいてステップS29における内部音源16への音色の設定が行われてもよく、あるいは、外部音源20に設定可能な全ての音色について対応関係が記憶装置13に記憶された後も、ステップS23〜S29の学習が行われ、学習結果が更新されてもよい。
【0073】
(c)内部音源16または外部音源20への発音指示信号の供給の切り替え、および音源切替部82の非接続状態と接続状態との切り替えは、MIDI規格のローカルオンコマンドおよびローカルオフコマンドにより行われてもよく、ローカルオンコマンドおよびローカルオフコマンドとは独立なモードの切り替えにより行われてもよい。
【0074】
(d)電子楽器1と外部音源20とはUSB(Universal Serial Bus)またはBluetooth(登録商標)により接続されてもよく、OSC(OpenSound Control)等の他の規格に基づく通信を行ってもよい。
【0075】
(e)上記実施の形態では、
図2の音源制御部8がCPU11等のハードウエアおよび音源制御プログラム等のソフトウエアにより実現されるが、音源制御部8の各構成要素が電子回路等のハードウエアにより実現されてもよい。
【0076】
(8)請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の要素を用いることができる。
【0077】
上記実施の形態では、指示信号発生部81が発生手段の例であり、指示信号出力部83が出力手段の例であり、帰還音響信号入力部84が入力手段の例であり、音源切替部82が切り替え手段の例である。類似関係学習部88が学習手段の例であり、音色設定部89が設定手段の例であり、帰還音響信号検出部85が検出手段の例であり、サウンドシステム17が音発生手段の例である。