特許第6589866号(P6589866)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6589866
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20191007BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/36 A
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-537735(P2016-537735)
(86)(22)【出願日】2015年7月14日
(86)【国際出願番号】JP2015003550
(87)【国際公開番号】WO2016017093
(87)【国際公開日】20160204
【審査請求日】2018年3月6日
(31)【優先権主張番号】特願2014-154464(P2014-154464)
(32)【優先日】2014年7月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104732
【弁理士】
【氏名又は名称】徳田 佳昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116078
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 浩希
(72)【発明者】
【氏名】地藤 大造
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 毅
(72)【発明者】
【氏名】河北 晃宏
【審査官】 小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/145846(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/125444(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/086277(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/056834(WO,A1)
【文献】 特開2014−029782(JP,A)
【文献】 特開2007−059142(JP,A)
【文献】 特開2013−235666(JP,A)
【文献】 特開2004−220909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム含有遷移金属酸化物からなる一次粒子が凝集して形成された二次粒子において、
前記二次粒子の表面において隣接する一次粒子間に形成された凹部に、希土類化合物の粒子が凝集して形成された希土類化合物の二次粒子が付着しており、且つ、前記希土類化合物の二次粒子は、前記凹部において隣接し合う一次粒子の両方に付着しており、
リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の内部における一次粒子の界面に、タングステンを含む化合物が付着している、非水電解質二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム含有遷移金属酸化物に占めるニッケルの割合が、リチウムを除く金属元素の総モル量に対して80%以上であって
前記希土類化合物が、水酸化物、オキシ水酸化物、酸化物、炭酸化合物、リン酸化合物及びフッ素化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物であって、
前記タングステンを含む化合物が、三酸化タングステン、二酸化タングステ及びタングステン酸リチウムから選択される少なくとも1種の化合物である、
非水電解質二次電池用正極活物質
【請求項2】
前記希土類化合物は希土類元素を含み、前記希土類元素が、ネオジム、サマリウム及びエルビウムから選ばれる少なくとも1種の元素である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記希土類化合物が、水酸化物及びオキシ水酸化物から選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記タングステンを含む化合物は、タングステン酸リチウムを含む、請求項1〜3の何れか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記リチウム含有遷移金属酸化物に占めるコバルトの割合が、リチウムを除く金属元素の総モル量に対して7モル%以下である、請求項1〜4の何れか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非水電解質二次電池には、長時間の使用が可能となるような高容量化や、比較的短時間に大電流充放電を繰り返す場合の出力特性の向上が求められている。
【0003】
下記特許文献1には、正極活物質としての母材粒子の表面に周期律表の第3族の元素を存在させることにより、充電電圧を高くした場合においても正極活物質と電解液の反応を抑制することができ、充電保存特性の劣化を抑制できることが示唆されている。
【0004】
下記特許文献2には、一次粒子表面にタングステン酸リチウムを含む微粒子を形成させた正極活物質を用いることにより、初期放電容量が高くなり、正極抵抗が低くなることが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/008812号
【特許文献2】特開2013−125732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1及び2に開示されている技術を用いても、高温サイクル後の直流抵抗(DCR:Direct Current Resistance、以降、DCRと呼ぶことがある)が上昇する、即ち出力特性が低下するという課題があることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明に係る非水電解質二次電池用正極活物質は、リチウム含有遷移金属酸化物からなる一次粒子が凝集して形成された二次粒子において、前記二次粒子表面において隣接する一次粒子間に形成された凹部に、希土類化合物の粒子が凝集して形成された希土類化合物の二次粒子が付着しており、且つ、前記希土類化合物の二次粒子は、前記凹部において隣接し合う一次粒子の両方に付着しており、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の内部における一次粒子の界面に、タングステンを含む化合物が付着している。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温サイクル時のDCRの上昇が抑制される非水電解質二次電池用正極活物質を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態の一例及び実験例1における正極活物質粒子及び該正極活物質の一部を拡大した模式的断面図である。
図2】実験例3における正極活物質の一部を拡大した模式的断面図である。
図3】実験例5における正極活物質の一部を拡大した模式的断面図である。
図4】参考実験例1における正極活物質の一部を拡大した模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について以下に説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。実施形態や実験例の説明で参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された構成要素の寸法や量などは、現物と異なる場合がある。
【0011】
本発明の実施形態の一例である非水電解質二次電池は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、非水溶媒を含む非水電解質と、セパレータと、を備える。非水電解質二次電池の一例としては、正極及び負極がセパレータを介して巻回されてなる電極体と非水電解質とが外装体に収容された構造が挙げられる。
【0012】
[正極]
正極活物質は、リチウム含有遷移金属酸化物からなる一次粒子が凝集して形成された二次粒子において、上記二次粒子表面において隣接する一次粒子間に形成された凹部に、希土類化合物の一次粒子が凝集して形成された希土類化合物の二次粒子が付着しており、且つ、上記希土類化合物の二次粒子は、上記凹部において隣接し合う一次粒子の両方に付着している。また、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の内部における一次粒子の界面には、タングステンを含む化合物が付着している。
【0013】
以下に、上記非水電解質二次電池用正極活物質の構成について図1を用いて詳細に説明する。図1に示すように、正極活物質は、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20が凝集して形成されたリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21を備え、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面において隣接するリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20と一次粒子20との間に形成された凹部23に、希土類化合物の一次粒子24が凝集して形成された希土類化合物の二次粒子25が付着している。さらに、希土類化合物の二次粒子25は、凹部23において隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20と一次粒子20の両方に付着している。また、正極活物質は、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の内部において、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の界面にタングステンを含む化合物27が付着している。タングステンを含む化合物27は、隣接し合うまたは向かい合う一次粒子20同士の両方に付着していることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、希土類化合物の二次粒子25が、凹部23において隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の両方に付着しているので、高温での充放電サイクル時における、これら隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20のいずれの表面においても、表面変質が抑制され、また、凹部23における一次粒子界面からの割れを抑制できる。加えて、希土類化合物の二次粒子25は、隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20同士を固定(接着)する効果も有しているので、高温での充放電サイクル時において正極活物質が膨張収縮を繰り返しても、凹部23において一次粒子界面から割れが生じるのが抑制される。
【0015】
また、上記構成によれば、高温になっても、タングステンを含む化合物27が、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の内部において一次粒子界面に付着しているので、高温での充放電サイクル時において、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の内部における一次粒子の表面変質及び一次粒子界面からの割れが抑制される。さらに、希土類化合物の二次粒子25が、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の凹部23において隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の両方に付着しているので、高温となった場合でも、タングステンを含む化合物27が溶出するのが抑制される。
【0016】
上述したように、上記構成によれば、高温での充放電サイクル時における、正極活物質の表面変質及び割れが、正極活物質の表面及び内部の両方から抑制される。
【0017】
希土類化合物の二次粒子が、凹部において隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子の両方に付着している、とは、リチウム含有遷移金属酸化物粒子の断面を見たとき、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面において隣接するリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子間に形成された凹部において、隣接し合うこれらリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子の両方の表面に、希土類化合物の二次粒子が付着した状態のことである。
【0018】
希土類化合物としては、希土類の水酸化物、オキシ水酸化物、酸化物、炭酸化合物、リン酸化合物及びフッ素化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物であることが好ましい。これらの中でも、特に希土類の水酸化物及びオキシ水酸化物から選ばれた少なくとも1種の化合物であることが好ましく、これらの希土類化合物を用いると、一次粒子界面で生じる表面変質の抑制効果が一層発揮される。
【0019】
希土類化合物に含まれる希土類元素としては、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムが挙げられる。これらの中でも、ネオジム、サマリウム、エルビウムが特に好ましい。これは、ネオジム、サマリウム、エルビウムの化合物が、他の希土類化合物に比べて一次粒子界面で生じる表面変質の抑制効果が大きいためである。
【0020】
希土類化合物の具体例としては、水酸化ネオジム、オキシ水酸化ネオジム、水酸化サマリウム、オキシ水酸化サマリウム、水酸化エルビウム、オキシ水酸化エルビウム等の水酸化物やオキシ水酸化物の他、リン酸ネオジム、リン酸サマリウム、リン酸エルビウム、炭酸ネオジム、炭酸サマリウム、炭酸エルビウム等のリン酸化合物や炭酸化合物、酸化ネオジム、酸化サマリウム、酸化エルビウム、フッ化ネオジム、フッ化サマリウム、フッ化エルビウム等の酸化物やフッ素化合物等が挙げられる。
【0021】
希土類化合物の一次粒子の平均粒径としては、5nm以上100nm以下であることが好ましく、5nm以上80nm以下であることがより好ましい。
【0022】
希土類化合物の二次粒子の平均粒径としては、100nm以上400nm以下であることが好ましく、150nm以上300nm以下であることがより好ましい。平均粒径が400nmを超えると、希土類化合物の二次粒子の粒径が大きくなりすぎるために、希土類化合物の二次粒子が付着するリチウム含有遷移金属酸化物の凹部の数が減少する。その結果、希土類化合物の二次粒子によって保護されないリチウム含有遷移金属酸化物の凹部が多く存在することになり、DCR上昇の抑制効果が小さくなることがあるためである。一方、平均粒径が100nm未満になると、希土類化合物の二次粒子がリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子間で接触する面積が小さくなるため、隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子同士を固定(接着)する効果が小さくなり、二次粒子表面の一次粒子界面からの割れを抑制する効果が小さくなることがあるためである。
【0023】
リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の平均粒径としては、2μm以上40μm以下であることが好ましく、4μm以上20μm以下であることがより好ましい。平均粒径が2μm未満になると、二次粒子として小さすぎて、正極としての密度が高く出来なくなり、高容量化しにくくなることがあるためである。一方、平均粒径が40μmを超えると、特に低温での出力が十分に得られなくなることがあるためである。リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子は、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子が結合(凝集)して形成される。
【0024】
リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子の平均粒径としては、100nm以上5μm以下であることが好ましく、300nm以上2μm以下であることがより好ましい。平均粒径が100nm未満になると、二次粒子内部も含めた一次粒子界面が多くなりすぎて、サイクル時の膨張収縮による割れの影響が出やすくなることがある。一方、平均粒径が5μmを超えると、二次粒子内部も含めた一次粒子界面の量が少なくなりすぎて、特に低温での出力が低下することがある。なお、一次粒子が凝集して生成しているのが二次粒子であるため、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子がリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子よりも大きいことはない。
【0025】
希土類化合物の割合(付着量)は、リチウム含有遷移金属酸化物の総質量に対して希土類元素換算で、0.005質量%以上0.5質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.3質量%以下であることがより好ましい。上記割合が0.005質量%未満になると、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子間に形成された凹部に付着する希土類化合物の量が少なくなるために、希土類化合物による上述の効果が十分に得られず、サイクル後のDCR上昇が抑制できないことがある。一方、上記割合が0.5質量%を超えると、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子間のみならず、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面を過剰に覆ってしまうため、初期充放電特性が低下することがある。
【0026】
タングステンを含む化合物としては、三酸化タングステン(WO)、二酸タングステン(WO)及びタングステン酸リチウムが例示される。特に、タングステン酸リチウムは、タングステン酸化物に比べ、リチウムイオン伝導性が高いため好ましい。タングステン酸リチウムとしては、LiWO4、LiWO及びLiが例示される。
【0027】
タングステンを含む化合物は、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子内部の一次粒子界面に付着しているが、さらに、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面の一次粒子界面に付着していても良い。
【0028】
タングステンを含む化合物の割合は、リチウム含有遷移金属酸化物の総質量に対して、タングステン元素換算で、0.1質量%以上、5.0質量%以下が好ましく、特に0.3質量%以上、3.0%以下であることがより好ましい。タングステン化合物が0.1質量%未満であると、二次粒子内部の一次粒子表面の変質を抑制する効果が十分に得られなくなる傾向にある。また5.0質量%以上になると、リチウム含有遷移金属酸化物と電解液の間のリチウムイオンの拡散が阻害されやすくなる傾向がある。なお、本明細書において、リチウム含有遷移金属酸化物の総質量に対するタングステンを含む化合物の割合とは、リチウム含有遷移金属酸化物の総質量に対する、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の内部及び表面に付着している、タングステンを含む化合物が、全てタングステンとして存在した場合の質量の割合のことである。
【0029】
本発明におけるタングステン化合物は、二次粒子内部の一次粒子界面に存在している。例えば、ニッケルーコバルトーアルミニウムの酸化物と水酸化リチウムと、タングステン酸化物を混ぜて、焼成した場合には、タングステン元素が、ニッケルやコバルトと一部置換して、固溶することがある。これは本発明における、タングステン化合物が一次粒子界面に存在している状態ではない。
【0030】
リチウム含有遷移金属複合酸化物としては、正極容量をより増大させ得るだけでなく、後述する一次粒子界面でのプロトン交換反応がより生じやすいという観点から、リチウム含有遷移金属酸化物中に占めるNiの割合が、リチウムを除く金属元素の総量に対して80%以上であるものを用いることが好ましい。即ち、リチウム含有遷移金属酸化物中におけるLiを除く金属全体のモル量を1としたときのニッケルの比率が80%以上であることが好ましい。リチウム含有遷移金属複合酸化物として具体的には、リチウム含有ニッケルマンガン複合酸化物や、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物、リチウム含有ニッケルコバルト複合酸化物、リチウム含有ニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物等を用いることができる。リチウム含有ニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物としては、ニッケルとコバルトとアルミニウムとのモル比が8:1:1、82:15:3、94:3:3等の組成のものを用いることができる。尚、これらは単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0031】
リチウム含有遷移金属複合酸化物として、特に好ましい組成は、リチウム含有遷移金属酸化物中に占めるコバルトの割合が、リチウムを除く金属元素の総モル量に対して7%モル%以下である。より好ましくは、5モル%以下である。コバルトが過少になると、充放電時の構造変化がしやすくなって、粒子界面での割れが生じやすくなる傾向がある。そのため、コバルト比率が7モル%以下のリチウム含有遷移金属複合酸化物は高温サイクル時のDCRが上昇しやすくなる。ここで、コバルト比率が7モル%以下のリチウム含有遷移金属複合酸化物粒子に、図1に示すように希土類化合物及びタングステンを含む化合物を付着させると、リチウム含有遷移金属複合酸化物粒子の表面変質及び割れが、粒子の表面及び内部の両方から抑制され、DCR上昇が抑制されるという効果が顕著になる。
【0032】
Ni割合(Ni比率)が80%以上であるリチウム含有遷移金属複合酸化物では、3価のNiの割合が多くなるため、水中で水とリチウム含有遷移金属酸化物中のリチウムとのプロトン交換反応が起こりやすくなり、プロトン交換反応により生成したLiOHが、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子界面の内部から二次粒子表面に大量に出てくる。これにより、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面において隣接するリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子間におけるアルカリ(OH)濃度が周囲より高くなるために、一次粒子間に形成された凹部に、アルカリに引き寄せられるようにして希土類化合物の一次粒子が凝集して二次粒子を形成しながら析出しやすくなる。一方、Ni割合が80%未満であるリチウム含有遷移金属複合酸化物では、3価のNiの割合が少なく、上記プロトン交換反応が起こりにくくなるため、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子間におけるアルカリ濃度は周囲と殆ど変わらない。このため、析出した希土類化合物の一次粒子が結合して二次粒子を形成したとしても、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に付着する際には、衝突しやすいリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子の凸部に付着しやすくなる。
【0033】
リチウム含有遷移金属酸化物は、さらに他の添加元素を含んでいてもよい。添加元素の例としては、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、錫(Sn)、タングステン(W)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、ビスマス(Bi)等が挙げられる。
【0034】
リチウム含有遷移金属酸化物は、高温保存特性に優れた電池を得るという観点からは、リチウム含有遷移金属酸化物をある程度の水の中で攪拌し、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に付着しているアルカリ成分を除去することが好ましい。
【0035】
本実施形態の一例である非水電解質二次電池用正極活物質を製造するにあたっては、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面に希土類化合物を付着させた後、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子内部の一次粒子界面にタングステンを付着させても良いし、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子内部の一次粒子界面にタングステンを付着させた後、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面に希土類化合物を付着させても良い。リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面に希土類化合物を付着させるには、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物を含む懸濁液に、希土類元素を含む水溶液を加える方法が挙げられる。リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子内部の一次粒子界面にタングステンを付着させるには、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物あるいはリチウム含有遷移金属酸化物を含む懸濁液に、タングステンが含まれる水溶液を加える方法が挙げられる。
【0036】
リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面に希土類化合物を付着させるにあたり、希土類元素を含む化合物を溶解した水溶液を上記懸濁液に加える間、懸濁液のpHを11.5以上、好ましくはpH12以上の範囲に調整することが望ましい。この条件下で処理することで希土類化合物の粒子がリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面に偏在して付着した状態となりやすいためである。一方、懸濁液のpHを6以上10以下にすると、希土類化合物の粒子がリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面全体に均一に付着した状態となってしまい、二次粒子表面における一次粒子界面で生じる表面変質による活物質の割れを十分に抑制することができない恐れがある。また、pHが6未満になると、リチウム含有遷移金属酸化物の少なくとも一部が溶解してしまうことがある。
【0037】
また、懸濁液のpHは14以下、好ましくはpH13以下の範囲に調整することが望ましい。これは、pHが14より大きくなると、希土類化合物の一次粒子が大きくなりすぎるだけでなく、リチウム含有遷移金属酸化物の粒子内部にアルカリが過剰に残留してしまい、スラリー作製時にゲル化しやすくなったり、電池の保存時に過剰にガス発生するなどの恐れがあるからである。
【0038】
リチウム含有遷移金属酸化物を含む懸濁液に、希土類元素を含む化合物を溶解した水溶液を加える際、単に水溶液を用いた場合には希土類の水酸化物として析出し、十分にフッ素源を懸濁液に加えておいた場合には希土類のフッ化物として析出することができる。十分に二酸化炭素を溶解した場合には希土類の炭酸化合物として析出し、十分に燐酸イオンを懸濁液に加えた場合には希土類の燐酸化合物として析出し、リチウム含有遷移金属酸化物の粒子表面に希土類化合物を析出することができる。また、懸濁液の溶解イオンを制御することで、例えば、水酸化物とフッ化物が混じった状態の希土類化合物も得られる。
【0039】
希土類化合物が表面に析出したリチウム含有遷移金属酸化物の粒子は熱処理することが好ましい。熱処理温度としては、80℃以上500℃以下であることが好ましく、80℃以上400℃以下であることがより好ましい。80℃未満であると、熱処理により得られた正極活物質を十分に乾燥するのに過剰な時間がかかる恐れがあり、500℃を超えると、表面に付着した希土類化合物の一部がリチウム含有遷移金属複合酸化物の粒子内部に拡散してしまい、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面における一次粒子界面で生じる表面変質の抑制効果が低下する恐れがある。一方、熱処理温度が400℃以下である場合には、リチウム含有遷移金属複合酸化物の粒子内部に希土類元素は殆ど拡散せず、一次粒子界面に強固に付着するため、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面における一次粒子界面で生じる表面変質の抑制効果、及びこれら一次粒子同士の接着効果が大きくなる。また、希土類の水酸化物を一次粒子界面に付着させた場合には、約200℃から約300℃で水酸化物の殆どがオキシ水酸化物に変化し、さらに約450℃から約500℃で殆どが酸化物に変化する。このため、400℃以下で熱処理した場合には、表面変質の抑制効果が大きい希土類の水酸化物やオキシ水酸化物をリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子界面に選択的に配置することができるため、優れたDCRの抑制効果が得られる。
【0040】
希土類化合物が表面に析出したリチウム含有遷移金属酸化物の熱処理は、真空下で行うことが好ましい。希土類化合物を付着させる際に用いた懸濁液の水分は、リチウム含有遷移金属酸化物の粒子内部にまで浸透する。リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面において、一次粒子界面に形成された凹部に希土類化合物の二次粒子が付着していると、乾燥時に内部からの水分が抜けにくくなるため、熱処理を真空下で行わないと水分が効果的に除去されず、電池内に正極活物質から持ち込まれる水分量が増加して、水分と電解質との反応で生成した生成物により活物質表面が変質することがあるためである。
【0041】
タングステン化合物が付着したリチウム含有遷移金属酸化物の熱処理は、真空下で行うことが好ましい。これは、上記の理由と同様、熱処理を真空下で行わないと水分が効果的に除去されず、電池内に正極活物質から持ち込まれる水分量が増加して、水分と電解質との反応で生成した生成物により活物質表面が変質することがあるためである。また、真空下で熱処理を行うことにより、タングステン化合物が二次粒子内部に吸入され、二次粒子内部の一次粒子界面に効率的にタングステン化合物を配置することが可能となる。
【0042】
希土類元素を含む水溶液としては、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酸化物又は塩化物等を水や有機溶媒に溶解したもの用いることができる。溶解度が高いことなどから水に溶解したものを用いることが好ましい。特に、希土類の酸化物を用いる場合、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸などの酸にこれを溶解して得られた希土類の硫酸塩、塩化物、硝酸塩が溶解した水溶液も、上記で水に化合物を溶解したものと同様のものになるため用いることができる。
【0043】
なお、リチウム含有遷移金属酸化物と希土類化合物とを乾式で混合する方法を用いて、希土類化合物をリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面に付着させた場合、希土類化合物の粒子が、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面にランダムに付着するため、二次粒子表面の一次粒子界面に選択的に付着させることは困難である。乾式で混合する方法を用いた場合は、リチウム含有遷移金属酸化物に希土類化合物を強固に付着されないので、一次粒子同士を固着(接着)する効果が発現せず、また、導電剤や結着剤などと混合して正極合剤を作製する際に、希土類化合物がリチウム含有遷移金属酸化物から脱落しやすくなる。
【0044】
正極活物質としては、上記正極活物質の粒子を単独で用いる場合に限定されない。上記正極活物質と他の正極活物質とを混合させて使用することも可能である。当該正極活物質としては、可逆的にリチウムイオンを挿入・脱離可能な化合物であれば特に限定されず、例えば、安定した結晶構造を維持したままリチウムイオンの挿入脱離が可能であるコバルト酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムなどの層状構造を有するものや、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物などのスピネル構造を有するものや、オリビン構造を有するもの等を用いることができる。尚、同種の正極活物質のみを用いる場合や異種の正極活物質を用いる場合において、正極活物質としては、同一の粒径のものを用いても良く、また、異なる粒径のものを用いてもよい。
【0045】
上記正極活物質を含む正極は、正極集電体と、正極集電体上に形成された正極合剤層とで構成されることが好適である。正極合剤層には、正極活物質粒子の他に、結着剤、導電剤を含むことが好ましい。正極集電体には、例えば、導電性を有する薄膜体、特にアルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属箔や合金箔、アルミニウムなどの金属表層を有するフィルムが用いられる。
【0046】
結着剤としては、フッ素系高分子、ゴム系高分子等が挙げられる。例えば、フッ素系高分子としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはこれらの変性体等、ゴム系高分子としてエチレンープロピレンーイソプレン共重合体、エチレンープロピレンーブタジエン共重合体等が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。結着剤は、カルボキシルメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)等の増粘剤と併用されてもよい。
【0047】
導電剤としては、例えば、炭素材料としてカーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、気相成長炭素(VGCF)等の炭素材料が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0048】
[負極]
負極は、例えば、負極活物質と、結着剤とを水あるいは適当な溶媒で混合し、負極集電体に塗布し、乾燥し、圧延することにより得られる。負極集電体には、導電性を有する薄膜体、特に銅などの負極の電位範囲で安定な金属箔や合金箔、銅などの金属表層を有するフィルム等を用いることが好適である。結着剤としては、正極の場合と同様にPTFE等を用いることもできるが、スチレンーブタジエン共重合体(SBR)又はこの変性体等を用いることが好ましい。結着剤は、CMC等の増粘剤と併用されてもよい。
【0049】
上記負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、例えば、炭素材料や、SiやSn等のリチウムと合金化する金属或いは合金材料や、SiO(0<X<2)などの金属酸化物等を用いることができる。また、これらは単独でも2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
[非水電解質]
非水電解質の溶媒としては、例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステルなどが用いられる。環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)などが挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)などが挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、γ−ブチロラクトン(GBL)、γ−バレロラクトン(GVL)などが挙げられる。非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
非水電解質の溶質としては、例えば、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(FSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CSO、及びLiAsFなどを用いることができる。また、オキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩を用いることもできる。例として、LiBOB〔リチウム−ビスオキサレートボレート〕、Li[B(C)F]、Li[P(C)F]、Li[P(C]が挙げられる。上記溶質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
[セパレータ]
セパレータとしては、従来から用いられてきたセパレータを用いることができる。例えば、ポリプロピレン製やポリエチレン製のセパレータ、ポリプロピレン−ポリエチレンの多層セパレータや、セパレータの表面にアラミド系の樹脂等の樹脂が塗布されたものを用いることができる。
【0053】
また、正極とセパレータとの界面、又は、負極とセパレータとの界面には、従来から用いられてきた無機物のフィラーからなる層を形成することができる。フィラーとしては、チタン、アルミニウム、ケイ素、マグネシウム等を単独もしくは複数用いた酸化物やリン酸化合物、またその表面が水酸化物等で処理されているものを用いることができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施するための形態について実験例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実験例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
【0055】
〔第1実験例〕
(実験例1)
[正極活物質の作製]
LiOHと、共沈により得られたNi0.94Co0.03Al0.03(OH)で表されるニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を500℃で酸化物にしたものとを、Liと遷移金属全体とのモル比が1.05:1になるように、石川式らいかい乳鉢にて混合した。次に、この混合物を酸素雰囲気中にて760℃で20時間熱処理後に粉砕することにより、平均二次粒径が約15μmのLi1.05Ni0.94Co0.03Al0.03で表されるリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の粒子を得た。
【0056】
このようにして得られたリチウム含有遷移金属酸化物としてのリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物粒子を1000g用意し、この粒子を1.5Lの純水に添加して攪拌し、純水中にリチウム含有遷移金属酸化物が分散した懸濁液を調製した。次に、この懸濁液に、酸化エルビウムを硫酸に溶解して得た0.1 mol/Lの濃度の硫酸エル
ビウム塩水溶液を複数回にわけて加えた。懸濁液に硫酸エルビウム塩水溶液を加えている間の懸濁液のpHは11.5〜12.0であった。
【0057】
次いで、懸濁液を濾過し、得られた粉末に、純水460mlに酸化タングステン(WO)59gと水酸化リチウム(無水)24gを溶解させた水溶液(以下、本実験例の中ではこの溶液のことをタングステン水溶液と示すことがある)を噴霧し、真空中200℃で乾燥して正極活物質を作製した。
【0058】
得られた正極活物質の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、平均粒径20〜30nmの水酸化エルビウムの一次粒子が凝集して形成された平均粒径100〜200nmの水酸化エルビウムの二次粒子が、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面に付着していることが確認された。また、水酸化エルビウムの二次粒子の殆どは、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面において隣接するリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子間に形成された凹部に付着しており、凹部において隣接し合うこれらの一次粒子の両方に接するように付着していることが確認された。また、エルビウム化合物の付着量を誘導結合プラズマイオン化(ICP)発光分析法により測定したところ、エルビウム元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.15質量%であった。
【0059】
得られた正極活物質の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、二次粒子内部の一次粒子界面に、タングステン化合物が存在していることが確認された。またタングステン化合物の付着量を誘導結合プラズマイオン化(ICP)発光分析法により測定したところ、タングステン元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.67質量%であった。
【0060】
実験例1では、懸濁液のpHが11.5〜12.0と高いために、懸濁液中で析出した水酸化エルビウムの一次粒子同士が結合(凝集)して二次粒子を形成したと考えられる。また、実験例1では、Niの割合が94%と高く、3価のNiの割合が多くなるために、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子界面でLiNiOとHOの間でプロトン交換が起こりやすくなり、プロトン交換反応により生成した多量のLiOHが、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面にある一次粒子と一次粒子が隣接している界面の内部から出てくる。これにより、リチウム含有遷移金属酸化物の表面において隣接する一次粒子間におけるアルカリ濃度が高くなるため、懸濁液中で析出した水酸化エルビウム粒子が、アルカリに引き寄せられるようにして、上記一次粒子界面に形成された凹部に凝集するように二次粒子を形成しながら析出したと考えられる。
【0061】
[正極の作製]
上記正極活物質粒子に、導電剤としてのカーボンブラックと、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンを溶解させたN−メチル−2−ピロリドン溶液とを、正極活物質粒子と導電剤と結着剤との質量比が100:1:1となるように秤量し、T.K.ハイビスミックス(プライミクス社製)を用いてこれらを混練して正極合剤スラリーを調製した。
【0062】
次いで、上記正極合剤スラリーを、アルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、これを乾燥させた後、圧延ローラーにより圧延し、さらにアルミニウム製の集電タブを取り付けることにより、正極集電体の両面に正極合剤層が形成された正極極板を作製した。尚、この正極における正極活物質の充填密度は3.60g/cmであった。
【0063】
[負極の作製]
負極活物質としての人造黒鉛と、分散剤としてのCMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)と、結着剤としてのSBR(スチレン−ブタジエンゴム)とを、100:1:1の質量比で水溶液中において混合し、負極合剤スラリーを調製した。次に、この負極合剤スラリーを銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗布した後、乾燥させ、圧延ローラーにより圧延し、さらにニッケル製の集電タブを取り付けた。これにより、負極集電体の両面に負極合剤層が形成された負極極板を作製した。なお、この負極における負極活物質の充填密度は1.75g/cmであった。
【0064】
[非水電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(MEC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、2:2:6の体積比で混合した混合溶媒に対して、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1.3モル/リットルの濃度になるように溶解した。さらに、ビニレンカーボネート(VC)を上記混合溶媒に対して2.0質量%溶解させた非水電解液を調製した。
【0065】
[電池の作製]
このようにして得た正極および負極を、これら両極間にセパレータを配置して渦巻き状に巻回した後、巻き芯を引き抜いて渦巻状の電極体を作製した。次に、この渦巻状の電極体を押し潰して、扁平型の電極体を得た。この後、この偏平型の電極体と上記非水電解液とを、アルミニウムラミネート製の外装体内に挿入し、電池A1を作製した。尚、当該電池のサイズは、厚み3.6mm×幅35mm×長さ62mmであった。また、当該非水電解質二次電池を4.20Vまで充電し、3.0Vまで放電したときの放電容量は950mAhであった。
【0066】
(実験例2)
上記実験例1の正極活物質の作製において、濾過後得られた粉末にタングステン水溶液を噴霧せずに、真空中200℃で乾燥させたこと以外は、上記実験例1と同様にして電池A2を作製した。
【0067】
(実験例3)
上記実験例1の正極活物質の作製において、懸濁液に硫酸エルビウム塩水溶液を加えている間の懸濁液のpHを9で一定に保持したこと以外は、上記実験例1と同様にして正極活物質を作製したこと以外は、上記実験例1と同様にして電池A3を作製した。なお、上記懸濁液のpHを9に調整するために、適宜10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を加えた。
【0068】
得られた正極活物質の表面をSEMにより観察したところ、平均粒径10nm〜50nmの水酸化エルビウムの一次粒子が、二次粒子化することなくリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面全体に(凸部にも凹部にも)均一に分散して付着していることが確認された。また、エルビウム化合物の付着量を誘導結合プラズマイオン化(ICP)発光分析法により測定したところ、エルビウム元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.15質量%であった。
【0069】
得られた正極活物質の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、二次粒子内部の一次粒子界面に、タングステン化合物が存在していることが確認された。またタングステン化合物の付着量を誘導結合プラズマイオン化(ICP)発光分析法により測定したところ、タングステン元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.67質量%であった。
【0070】
実験例3では、懸濁液のpHを9にしているために、懸濁液中における水酸化エルビウムの粒子の析出速度が遅くなり、このために水酸化エルビウムの粒子が二次粒子化することなくリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面全体に均一に析出した状態になったと考えられる。
【0071】
(実験例4)
上記実験例3の正極活物質の作製において、濾過後得られた粉末にタングステン水溶液を噴霧せずに、真空中200℃で乾燥させたこと以外は、上記実験例1と同様にして電池A4を作製した。
【0072】
(実験例5)
上記実験例1の正極活物質の作製において、硫酸エルビウム塩水溶液を加えず、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面に水酸化エルビウムを付着させなかったこと以外は、上記実験例1と同様にして電池A5を作製した。
【0073】
得られた正極活物質の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、二次粒子内部の一次粒子界面に、タングステン化合物が存在していることが確認された。またタングステン化合物の付着量を誘導結合プラズマイオン化(ICP)発光分析法により測定したところ、タングステン元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.67質量%であった。
【0074】
(実験例6)
上記実験例1の正極活物質の作製において、硫酸エルビウム塩水溶液を加えず、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面に水酸化エルビウムを付着させず、またタングステン溶液を噴霧しなかったこと以外は、上記実験例1と同様にして電池A6を作製した。
【0075】
(実験)
〔DCRの測定〕
上述のようにして作製した電池A1〜A6の各電池について、下記条件で充放電サイクル前及び100サイクル後のDCRの測定を行った。
【0076】
<サイクル前のDCRの測定>
SOC50%まで475mAの電流で充電した後、SOCが50%に到達した電池電圧で電流値が30mAとなるまで定電圧充電を行った。充電終了後120分間休止した時点のOCVを測定し、475mAで10秒間放電を行い放電10秒後の電圧を測定した。下記式(1)によりサイクル前のDCR(SOC50%)を測定した。
DCR(Ω)
=(120分休止後のOCV(V)− 放電10秒後の電圧(V))/(電流値(A))・・・(1)
【0077】
その後、下記条件での充放電を1サイクルとして、この充放電サイクルを100回繰り返し行った。サイクル前のDCRの測定と充放電サイクル試験の間の休止時間は10分間とした。
【0078】
<充放電サイクル試験>
・充電条件
475mAの電流で電池電圧が4.2V(正極電位はリチウム基準で4.3V)となるまで定電流充電を行い、電池電圧が4.2Vに達した後は、4.2Vの定電圧で電流値が30mAとなるまで定電圧充電を行った。
・放電条件
950mAの定電流で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流放電を行った。
・休止条件
上記充電と放電の間の休止間隔は10分間とした。
【0079】
<100サイクル後のDCRの測定>
上述した、サイクル前のDCRの測定と同様の方法で、100サイクル後のDCR値測定を行った。なお、充放電サイクル試験とサイクル後のDCR測定の間の休止時間は10分間とした。
DCR測定、充放電サイクル試験ともに60℃の恒温槽内で行った。
【0080】
〔DCR上昇率の算出〕
下記式(2)により100サイクル後のDCR上昇率を算出した。結果を表1に示す。
DCR上昇率(SOC50%)
=(100サイクル後のDCR(SOC50%)/ (サイクル前のDCR(SOC50%)×100 ・・・(2)
【0081】
【表1】
【0082】
電池A1について以下考察する。電池A1の正極活物質は、図1に示すように、希土類化合物の二次粒子25が凹部23において隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の両方に付着している。これにより、高温での充放電サイクル時において、これら隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20のいずれの表面においても、表面変質及び一次粒子界面からの割れが抑制できたと考えられる。加えて、希土類化合物の二次粒子25は、隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20同士を固定(接着)する効果も有しているので、凹部23において、一次粒子界面から割れが生じるのを抑制できたと考えられる。
【0083】
さらに、電池A1においては、凹部23において隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の両方に付着している希土類化合物の二次粒子25が存在するため、高温になっても、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の内部からタングステンを含む化合物27は溶出されにくくなっている。このため、電池A1においては、高温になっても、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の内部において一次粒子界面に付着しているので、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の内部における一次粒子の表面変質及び一次粒子界面からの割れが抑制されたと考えられる。
【0084】
このように、電池A1においては、正極活物質の表面変質及び割れが、正極活物質の表面及び内部の両方から抑制され、正極抵抗の上昇が抑制されたため、高温サイクル後のDCR上昇率が最も小さかったと考えられる。
【0085】
電池A3及びA5について以下考察する。電池A3で用いた正極活物質は、図2に示すように、希土類化合物の一次粒子24が、二次粒子を形成することなく、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面全体に均一に付着している。また、電池A3で用いた正極活物質は、タングステンを含む化合物27が、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の内部において、一次粒子界面に付着している。電池A5で用いた正極活物質は、図3に示すように、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面に希土類は付着しておらず、また、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の内部において、タングステンを含む化合物27が一次粒子界面に付着している。
【0086】
電池A3及び電池A5においては、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面の凹部23において、希土類化合物の二次粒子が付着していないため、隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の表面変質及び一次粒子界面からの割れを抑制できないと考えられる。加えて、電池A3及びA5においては、高温になった際、凹部23に希土類化合物の二次粒子25が付着していないため、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の内部から、タングステンを含む化合物27が溶出するのを抑制することができないと考えられる。
【0087】
タングステンを含む化合物27が溶出することにより、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の内部の一次粒子界面の変質を抑制する効果が失われ、正極抵抗が増加する。さらに、溶出したタングステンを含む化合物27の一部は負極表面に堆積されるので、負極抵抗も増加する。タングステンを含む化合物27が溶出することにより、正極抵抗及び負極抵抗が共に増加するため、電池A3及びA5は、タングステンを含む化合物27を含まない電池A4及びA6よりも、高温サイクル後のDCR上昇率が高くなったと考えられる。
【0088】
電池A2、A4及びA6について考察する。電池A2、電池A4、電池A6においては、それぞれ、図1図2図3に示す正極活物質において、タングステンを含む化合物27が付着していない正極活物質を用いている。
【0089】
電池A2においては、希土類化合物の二次粒子25が、凹部23において隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の両方に付着している。これにより、上述した電池A1と同じ理由で、隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20のいずれの表面においても、表面変質や一次粒子界面からの割れが抑制できると考えられる。しかし、電池A2においては、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の内部にタングステンを含む化合物は付着していないので、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の内部における一次粒子の表面変質及び一次粒子界面からの割れを抑制することができない。このため、電池A2においては、正極抵抗が増加して、高温サイクル後のDCR上昇率は電池A1よりも高くなったと考えられる。
【0090】
電池A4及び電池A6においては、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の表面の凹部23において、希土類化合物の二次粒子が付着していないため、隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の表面変質及び一次粒子界面からの割れが抑制できない。加えて、電池A4及び電池A6においては、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の内部にタングステンを含む化合物は付着していないので、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子21の内部における一次粒子の表面変質及び一次粒子界面からの割れを抑制することができない。このため、電池A4及び電池A6においては、正極抵抗が電池A2よりも高くなって、高温サイクル後のDCR上昇率が電池A2よりも高くなったと考えられる。
【0091】

〔第2実験例〕
(参考例1)
LiOHと、共沈により得られたNi0.35Co0.35Mn0。30(OH)で表されるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を500℃で酸化物にしたものとを、Liと遷移金属全体とのモル比が1.05:1になるように、石川式らいかい乳鉢にて混合した。次に、この混合物を空気雰囲気中にて1000℃で20時間熱処理後に粉砕することにより、平均二次粒径が約15μmのLi1.05Ni0.35Co0.35Mn0.30で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。
【0092】
正極活物質を作製するにあたり、実験例1におけるLi1.05Ni0.94Co0.03Al0.03で表されるリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に代えて、上記で作製したLi1.05Ni0.35Co0.35Mn0.30で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を用いたこと以外は、上記実験例1と同様にして正極活物質を作製し、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面にエルビウム化合物の粒子が付着した正極活物質を得た。
【0093】
得られた正極活物質の表面をSEMにて観察したところ、平均粒径20nm〜30nmの水酸化エルビウムの一次粒子が凝集して形成された平均粒径100〜200nmの水酸化エルビウムの二次粒子が、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面に付着していることが確認された。参考例1で得られた正極活物質は、図4に示すように、希土類化合物の一次粒子24が凝集して形成された希土類化合物の二次粒子25が、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面の凸部26や、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子間の凹部23であっても、凹部23において隣接し合うリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子20の片方にのみ付着していることが確認された。また、エルビウム化合物の付着量を誘導結合プラズマイオン化(ICP)発光分析法により測定したところ、エルビウム元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.15質量%であった。
【0094】
参考例1では、Niの割合が35%と低く、3価のNiの割合が少なくなるために、プロトン交換反応により生成したLiOHが、リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子界面を通って、リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の表面に出てくる反応が殆ど生じなかったと考えられる。参考例1では、懸濁液のpHが11.5〜12.0と高く、懸濁液中で析出した水酸化エルビウムの一次粒子同士が結合(凝集)して二次粒子が形成されやすいが、実験例1とは異なり、水酸化エルビウムの二次粒子がリチウム含有遷移金属酸化物の表面に付着する際には、衝突しやすいリチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子表面の凸部に殆ど付着したと考えられる。水酸化エルビウムの二次粒子の一部は、凹部に付着することもあるが、この場合、水酸化エルビウムの二次粒子は、凹部において隣接しあうリチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子の片方にのみ付着する。
【0095】
上記実験例においては、希土類元素としてエルビウムを用いたが、同じ希土類元素として、サマリウム、ネオジムを用いた場合について検討した。
【0096】
〔第3実験例〕
(実験例7)
上記実験例1の正極活物質の作製において、硫酸エルビウム塩水溶液の代わりに、硫酸サマリウム溶液を用いた以外は、上記実験例1と同様にして電池A7を作製した。サマリウム化合物の付着量を誘導結合プラズマイオン化(ICP)発光分析法により測定したところ、サマリウム元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.13質量%であった。
【0097】
(実験例8)
上記実験例1の正極活物質の作製において、硫酸エルビウム塩水溶液の代わりに、硫酸ネオジム溶液を用いた以外は、上記実験例1と同様にして電池A8を作製した。ネオジム化合物の付着量を誘導結合プラズマイオン化(ICP)発光分析法により測定したところ、ネオジム元素換算で、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物に対して0.13質量%であった。
【0098】
上述のようにして作製した電池A7、A8について、実験例1と同様の条件で、100サイクル後のDCR上昇率を算出した。
【0099】
【表2】
【0100】
表2からわかるように、エルビウムと同じ希土類元素であるサマリウム、ネオジムを用いた場合においても、DCR上昇率が抑制される。従って、エルビウム、サマリウム及びネオジム以外の希土類元素を用いた場合においても、同様にDCR上昇率が抑制されると考えられる。
【符号の説明】
【0101】
20 リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子
21 リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子
23 凹部
24 希土類化合物の一次粒子
25 希土類化合物の二次粒子
26 凸部
27 タングステンを含む化合物
図1
図2
図3
図4