(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動変速機の摩擦締結要素は、ハブの径方向外側にドラム部材を有し、ハブに取り付けられた複数の摩擦板と、ドラム部材に取り付けられた複数の摩擦板とが係合することで、上記摩擦締結要素が締結される。上記ドラム部材には、自動変速機の動力伝達経路の一部を構成する伝達経路構成部材(例えば、自動変速機の複数のプラネタリギヤセットのうちの或る1つのプラネタリギヤセットの或る1つの回転要素)が結合される。
【0005】
上記ドラム部材に結合される伝達経路構成部材が、特にギヤ(プラネタリギヤセットのリングギヤやサンギヤ等)である場合、そのギヤが他のギヤと噛み合うことで生じる振動が、上記ドラム部材に伝達される。このドラム部材に伝達された振動は、変速機ケース内の他の部材の振動と共に、変速機ケース内の種々の部材を介して変速機ケースに伝わった後、変速機ケースを支持する車体部材を介して、車室に伝わることになる。
【0006】
特に摩擦締結要素がブレーキである場合には、ブレーキの締結時に、ブレーキのドラム部材が変速機ケースに固定されるため、伝達経路構成部材からドラム部材に伝達された振動が摩擦板を介して変速機ケースに伝わる。しかも、ブレーキのドラム部材は、通常、変速機ケースの近傍に位置するので、伝達経路構成部材からドラム部材に伝わった振動による放射音が空気を介して変速機ケースを振動させる。
【0007】
そこで、上記伝達経路構成部材が結合されたドラム部材(特にブレーキのドラム部材)に、上記特許文献1に開示されているような制振装置を取り付けて、該ドラム部材の振動を減衰させるようにすることが考えられる。
【0008】
しかし、上記ドラム部材に上記特許文献1のような制振装置を取り付ける構成では、上記伝達経路構成部材を含むドラム部材の重量が増大するとともにコストアップを招き、自動変速機をより軽量化しかつコストアップを抑制するには、改善の余地がある。
【0009】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ドラム部材を有する摩擦締結要素と、該ドラム部材に結合された伝達経路構成部材とを備えた、自動変速機の動力伝達装置において、伝達経路構成部材が結合されたドラム部材を軽量化しかつコストアップを抑制しながら、該ドラム部材の振動を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明では、
有底筒状のドラム部材を有する摩擦締結要素と、該ドラム部材
の底部に、該ドラム部材の周方向に延びる結合部を介して結合され、自動変速機の動力伝達経路の一部を構成する伝達経路構成部材とを備えた、自動変速機の動力伝達装置を対象として、上記ドラム部材
の底部における、上記結合部に対して径方向外側及び内側の
両部分
のそれぞれにおいて、該ドラム部材の周方向の複数箇所に、
該ドラム部材の振動を低減するための低剛性部が設けられ
、上記低剛性部は、上記ドラム部材の周方向に延びかつ上記底部を貫通する長孔で構成されている、という構成とした。
【0011】
上記の構成により、伝達経路構成部材に生じる振動がドラム部材に伝わっても、ドラム部材の低剛性部においてその振動を減衰させることができ、この結果、ドラム部材の振動、延いては、変速機ケース全体の振動に起因して車室に生じる振動や騒音を低減することができる。また、低剛性部は、
ドラム部材の周方向に延びかつドラム部材の底部を貫通する長孔によって構成
されているので、ドラム部材の軽量化を図ることができるとともに、コストアップを抑制することができる。さらに、制振装置とは異なり、例えば、
長孔をドラム部材の周方向に配置する数や、
長孔の大き
さ等の調整によって、ドラム部材の振動の固有振動数を所望の振動数に設定できるようになる。
【0012】
上記自動変速機の動力伝達装置の一実施形態において、上記摩擦締結要素は、該摩擦締結要素の締結時に、上記伝達経路構成部材を変速機ケースに固定するブレーキである。
【0013】
すなわち、ブレーキの締結時には、伝達経路構成部材からドラム部材に伝わった振動が摩擦板を介して変速機ケースに伝わるので、変速機ケース全体の振動が大きくなり易い。しかし、ブレーキのドラム部材に低剛性部が設けられることで、ブレーキの締結時であっても、ドラム部材の振動の低減により、変速機ケース全体の振動を低減して、変速機ケース全体の振動に起因して車室に生じる振動や騒音を低減することができる。
【0014】
上記摩擦締結要素が上記ブレーキである上記一実施形態において、上記伝達経路構成部材は、プラネタリギヤセットのリングギヤであり、上記結合部は、溶接結合部であってもよい。
【0015】
すなわち、伝達経路構成部材が大径のリングギヤである場合には、伝達経路構成部材に生じる振動が大きくなり易く、この振動が溶接結合部を介して、殆ど減衰されることなくドラム部材に伝達される。しかし、ドラム部材に低剛性部が設けられることで、ドラム部材の低剛性部においてその振動を減衰させることができる。よって、ドラム部材の振動、延いては、変速機ケース全体の振動に起因して車室に生じる振動や騒音を低減することができる。
【0016】
上記自動変速機の動力伝達装置の別の実施形態において、上記自動変速機は、トルクコンバータを介さずに駆動源に直接接続される変速機であり、上記摩擦締結要素は、上記自動変速機が搭載された車両の発進時に締結される車両発進用摩擦締結要素である。
【0017】
すなわち、車両の発進時には、車両発進用摩擦締結要素がスリップ状態を経由して完全締結状態にされ、車両発進用摩擦締結要素がスリップ状態にあるときに、ドラム部材の振動が大きくなり易い。また、ドラム部材の振動が、摩擦板を介して変速機ケースに伝わり易い。しかし、ドラム部材に低剛性部が設けられることで、車両の発進時に、ドラム部材の振動の低減により、変速機ケース全体の振動を低減して、変速機ケース全体の振動に起因して車室に生じる振動や騒音を低減することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の自動変速機の動力伝達装置によると、摩擦締結要素のドラム部材
の底部における、結合部に対して径方向外側及び内側の
両部分
のそれぞれにおいて、該ドラム部材の周方向の複数箇所に、
該ドラム部材の振動を低減するための低剛性部が設けられ
、上記低剛性部が、上記ドラム部材の周方向に延びかつ上記底部を貫通する長孔で構成されていることにより、伝達経路構成部材が結合されたドラム部材を軽量化しかつコストアップを抑制しながら、該ドラム部材の振動を低減することができる。また、ドラム部材の振動の固有振動数を所望の振動数に設定できるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達装置が設けられた自動変速機10の一例を示す。この自動変速機10は、FR式の車両に搭載される縦置き式の自動変速機である。
【0022】
自動変速機10は、変速機ケース11と、該変速機ケース11内に挿入されかつ上記車両の駆動源(エンジン、モータ等)からの動力が入力される入力軸12と、変速機ケース11内に収容されかつ入力軸12を介して上記駆動源からの動力が伝達される変速機構14と、変速機ケース11内に挿入されかつ変速機構14からの動力をプロペラシャフトに出力する出力軸13とを有している。
【0023】
自動変速機10は、トルクコンバータを介さずに上記駆動源に直接接続される変速機である。すなわち、入力軸12は、上記駆動源の出力軸に直接接続されている。
【0024】
入力軸12と出力軸13とは、車両前後方向に沿って同軸上に配置されており、自動変速機10が上記車両に搭載された状態で、入力軸12が車両前側に位置しかつ出力軸13が車両後側に位置している。以下の説明では、入力軸12の軸方向(出力軸13の軸方向)における上記駆動源側(
図1の左側)を前側といい、入力軸12の軸方向における上記駆動源とは反対側(
図1の右側)を後側という。
【0025】
変速機構14は、入力軸12の軸方向に並ぶ、第1プラネタリギヤセットPG1(以下、第1ギヤセットPG1という)、第2プラネタリギヤセットPG2(以下、第2ギヤセットPG2という)、第3プラネタリギヤセットPG3(以下、第3ギヤセットPG3という)、及び、第4プラネタリギヤセットPG4(以下、第4ギヤセットPG4という)を有している。これら第1ギヤセットPG1、第2ギヤセットPG2、第3ギヤセットPG3及び第4ギヤセットPG4は、前側からこの順に並んでいて、入力軸12から出力
軸13への複数の動力伝達経路を形成する。第1〜第4ギヤセットPG1〜PG4は、入力軸12及び出力軸13と同一軸線上に配置されている。
【0026】
第1ギヤセットPG1は、回転要素として、第1サンギヤS1、第1リングギヤR1及び第1キャリヤC1を有する。第1ギヤセットPG1は、シングルピニオン型であって、第1キャリヤC1に支持されかつ第1ギヤセットPG1の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP1が第1サンギヤS1及び第1リングギヤR1の両方に噛み合わされている。
【0027】
第2ギヤセットPG2は、回転要素として、第2サンギヤS2、第2リングギヤR2及び第2キャリヤC2を有する。第2ギヤセットPG2も、シングルピニオン型であって、第2キャリヤC2に支持されかつ第2ギヤセットPG2の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP2が第2サンギヤS2及び第2リングギヤR2の両方に噛み合わされている。
【0028】
第3ギヤセットPG3は、回転要素として、第3サンギヤS3、第3リングギヤR3及び第3キャリヤC3を有する。第3ギヤセットPG3も、シングルピニオン型であって、第3キャリヤC3に支持されかつ第3ギヤセットPG3の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP3が第3サンギヤS3及び第3リングギヤR3の両方に噛み合わされている。
【0029】
第4ギヤセットPG4は、回転要素として、第4サンギヤS4、第4リングギヤR4及び第4キャリヤC4を有する。第4ギヤセットPG4も、シングルピニオン型であって、第4キャリヤC4に支持されかつ第4ギヤセットPG4の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP4が第4サンギヤS4及び第4リングギヤR4の両方に噛み合わされている。
【0030】
第1ギヤセットPG1の第1サンギヤS1は、入力軸12の軸方向に2分割されており、相対的に前側に配置された前側第1サンギヤS1aと相対的に後側に配置された後側第1サンギヤS1bとを有している。つまり、第1ギヤセットPG1は、ダブルサンギヤ型のギヤセットである。前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bは、同じ歯数の歯を有して、第1キャリヤC1に支持されたピニオンP1に噛合しているため、これら前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bの回転数は常に等しくなる。すなわち、前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bは、常に同じ回転速度で回転し、一方のギヤの回転が停止しているときには他方のギヤの回転も停止する。
【0031】
第1サンギヤS1(厳密には、後側第1サンギヤS1b)と第4サンギヤS4とが常時連結され、第1リングギヤR1と第2サンギヤS2とが常時連結され、第2キャリヤC2と第4キャリヤC4とが常時転結され、第3キャリヤC3と第4リングギヤR4とが常時連結されている。また、入力軸12は第1キャリヤC1に常時連結され、出力軸13は第4キャリヤC4に常時連結されている。具体的には、入力軸12は、前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bの間を通る動力伝達部材18を介して第1キャリヤC1と連結されている。後側第1サンギヤS1bと第4サンギヤS4とは、動力伝達軸15を介して連結されている。第2キャリヤC2と第4キャリヤC4とは、動力伝達部材16を介して連結されている。
【0032】
変速機構14はまた、第1〜第4ギヤセットPG1〜PG4により形成される上記複数の動力伝達経路の中から1つを選択して動力伝達経路を切り換えるための5つの摩擦締結要素(第1クラッチ20、第2クラッチ21、第3クラッチ22、第1ブレーキ23及び第2ブレーキ24)を有している。
【0033】
第1クラッチ20は、入力軸12及び第1キャリヤC1と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。第1クラッチ20は、第1ギヤセットPG1の前側に配設されている。
【0034】
第2クラッチ21は、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。第2クラッチ21は、第1クラッチ20の前側に配設されている。
【0035】
第3クラッチ22は、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。第3クラッチ22は、第2クラッチ21の前側に配設されている。
【0036】
第3サンギヤS3と、第1クラッチ20、第2クラッチ21及び第3クラッチ22の全てとが、連結部材5及び連結部材8を介して連結され、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2と第2クラッチ21とが、第2クラッチ21のドラム部材6を介して連結され、第2リングギヤR2と第3クラッチ22とが、第3クラッチ22のドラム部材7を介して連結されている。
【0037】
第1ブレーキ23は、第1サンギヤS1(厳密には前側第1サンギヤS1a)と変速機ケース11との間を断接するように構成されている。第1ブレーキ23は、第3クラッチ22の前側における変速機ケース11の近傍に配置されている。第1ブレーキ23の締結時には、第1サンギヤS1が変速機ケース11に固定される。
【0038】
第2ブレーキ24は、第3リングギヤR3と変速機ケース11との間を断接するように構成されている。第2ブレーキ24の締結時には、第3リングギヤR3が変速機ケース11に固定される。
【0039】
上記各摩擦締結要素は、該各摩擦締結要素の締結油圧室への作動油の供給により締結される。
図2の締結表に示すように、5つの摩擦締結要素から3つの摩擦締結要素を選択的に締結することにより、前進の1速〜8速及び後退速が形成される。尚、
図2の締結表では、○印が、摩擦締結要素が締結していることを示し、空欄が、摩擦締結要素が締結を解除(解放)していることを示す。
【0040】
具体的には、第1クラッチ20、第1ブレーキ23及び第2ブレーキ24の締結により、1速が形成される。第2クラッチ21、第1ブレーキ23及び第2ブレーキ24の締結により、2速が形成される。第1クラッチ20、第2クラッチ21及び第2ブレーキ24の締結により、3速が形成される。第2クラッチ21、第3クラッチ22及び第2ブレーキ24の締結により、4速が形成される。第1クラッチ20、第3クラッチ22及び第2ブレーキ24の締結により、5速が形成される。第1クラッチ20、第2クラッチ21及び第3クラッチ22の締結により、6速が形成される。第1クラッチ20、第3クラッチ22及び第1ブレーキ23の締結により、7速が形成される。第2クラッチ21、第3クラッチ22及び第1ブレーキ23の締結により、8速が形成される。第3クラッチ22、第1ブレーキ23及び第2ブレーキ24の締結により、後退速が形成される。6速では、入力軸12の回転速度と出力軸13の回転速度が同じになる。
【0041】
図3に、本発明の実施形態に係る動力伝達装置の具体的な構成の例を示す。この動力伝達装置は、摩擦締結要素としての第2ブレーキ24と、自動変速機10の動力伝達経路の一部を構成する伝達経路構成部材としての第3リングギヤR3とを備えている。
【0042】
第2ブレーキ24は、前側に開放する有底筒状のドラム部材31を有している。このドラム部材31の外周面は、変速機ケース11の近傍に位置している。ドラム部材31の底部31aの中心部には、連結部材5及び動力伝達軸15,16が挿通される貫通孔31b(
図4〜
図6参照)が形成されている。尚、
図3中、Cは、入力軸12の中心軸(出力軸13の中心軸)であり、ドラム部材31の中心軸でもある。ドラム部材31の軸方向は、入力軸12の軸方向(出力軸13の軸方向)と一致する。
【0043】
ドラム部材31の内周面には、複数の摩擦板32が取り付けられている。これらの摩擦板32は、第2ブレーキ24の締結時に、変速機ケース11に固定されかつドラム部材31の径方向内側に位置する固定部材30において摩擦板32と交互に並ぶように取り付けられた複数の摩擦板33と係合する。固定部材30には、中心軸C側から延びてきた油路(図示せず)に連通する開口部が設けられており、この油路により、摩擦板32,33に潤滑油が供給される。上記油路が摩擦板32,33よりも径方向内側に位置するので、遠心力によって多量の潤滑油(後述の如くスリップ状態とされているときに多量の潤滑油を必要とする)をスムーズに摩擦板32,33に供給することができる。
【0044】
第2ブレーキ24は、ピストン34と、該ピストン34を挟んで両側にそれぞれ設けられた締結油圧室35及び解放油圧室36と、スプリング37とを更に有している。ピストン
34は、第2ブレーキ24を締結する際に、締結油圧室35に供給された作動油により、摩擦板32及び摩擦板33を互いに係合するようにドラム部材31の軸方向に押圧する。スプリング37は、締結油圧室35内に設けられていて、ピストン
34を、摩擦板32と摩擦板33とが互いに接触する程度の付勢力でもって付勢する。
【0045】
第2ブレーキ24は、上記車両の発進時に締結される車両発進用摩擦締結要素(車両発進用ブレーキ)である。すなわち、車両の発進時に、第1クラッチCL1及び第1ブレーキBR1が締結された状態で、第2ブレーキBR2の締結油圧室35に作動油が供給されることにより、第2ブレーキBR2が、摩擦板32と摩擦板33とが互いに接触した状態からスリップ状態を経由して完全締結状態にされる。第2ブレーキ24がスリップ状態にあるとき、摩擦板32と摩擦板33とが互いに摺動する。第2ブレーキ24の非締結時には、第2ブレーキ24の締結油圧室35に作動油が供給されずに、解放油圧室36に作動油が供給される。
【0046】
ドラム部材31の後側に第3ギヤセットPG3が配置されている。ドラム部材31の外径は、第3ギヤセットPG3の第3リングギヤR3の外径よりも大きくされている。ドラム部材31及び第3リングギヤR3は共に、金属製である。
【0047】
図4〜
図6に示すように、第3リングギヤR3は、ドラム部材31の底部31aに、ドラム部材31の周方向に延びる結合部41を介して結合されている。尚、
図5及び
図6では、第3リングギヤR3の歯部の記載は省略している。
【0048】
本実施形態では、結合部41は、プロジェクション溶接結合部である。すなわち、結合部41は、第3リングギヤR3の前側の面にリング状に突出するように設けられた突起部で構成され、該突起部を介して第3リングギヤR3がドラム部材31の底部31aにおける後側の面にプロジェクション溶接されている。結合部41は、本実施形態では、ドラム部材31の底部31aにおける外周部において、ドラム部材31の全周に亘って設けられている。尚、結合部41は、ドラム部材31の全周(第3リングギヤR3の全周)に亘って設けられている必要はなく、周方向の複数箇所に、周方向に延びるようにそれぞれ設けられていてもよい。
【0049】
ドラム部材31の底部31aにおける、結合部41に対して径方向外側及び内側の両部分のそれぞれにおいて、ドラム部材31の周方向の複数箇所(本実施形態では、該両部分のそれぞれにおいて4箇所)に、低剛性部としての、ドラム部材31の周方向に延びる長孔31cが、底部31aを貫通して設けられている。以下、結合部41に対して径方向外側に位置する長孔31cと、径方向内側に位置する長孔31cとを区別する場合には、径方向外側に位置する長孔31cを外側長孔31dといい、径方向内側に位置する長孔31cを内側長孔31eという。これらを区別しない場合には、単に長孔31cという。
【0050】
4つの外側長孔31dは、ドラム部材31の周方向において、互いに等間隔をあけて配置されている。4つの内側長孔31eも、ドラム部材31の周方向において、互いに等間隔をあけて配置されている。本実施形態では、4つの外側長孔31dは、ドラム部材31の周方向において、4つの内側長孔31eとそれぞれ同じ位置に位置しているが、これには限られず、例えば、各外側長孔31dが、ドラム部材31の周方向において、隣り合う内側長孔31eの間の位置に位置していてもよい。また、外側長孔31dの数が内側長孔31eの数と異なっていてもよい。
【0051】
さらに、結合部41が周方向の複数箇所にそれぞれ設けられている場合、外側長孔31dが結合部41と同じ数だけあって、ドラム部材31の周方向において、結合部41とそれぞれ同じ位置に位置していてもよく、例えば、各外側長孔31dが、ドラム部材31の周方向において、隣り合う結合部41の間の位置に位置していてもよい。また、外側長孔31dの数が結合部41の数と異なっていてもよい。内側長孔31eについても、外側長孔31dと同様である。
【0052】
4つの外側長孔31dの長さは同じであり、4つの外側長孔31
dの幅も同じである。また、4つの内側長孔31eの長さは同じであり、4つの内側長孔31eの幅も同じである。本実施形態では、4つの外側長孔31dの長さが、4つの内側長孔31eの長さよりも僅かに長くされているが、4つの内側長孔31eの長さと同じであってもよい。また、4つの外側長孔31dの幅が、4つの内側長孔31eの幅と同じであるが、4つの内側長孔
31eの幅と異なっていてもよい。
【0053】
外側長孔31d及び内側長孔31eの数、長さ及び幅は、ドラム部材31の振動の固有振動数が所望の振動数になるように決定される
。
【0054】
第3リングギヤR3には、複数のピニオンP3と噛み合っていることで振動が生じる。この振動が結合部41(プロジェクション溶接結合部)を介して、殆ど減衰されることなくドラム部材31に伝達される。このドラム部材31に伝達された振動は、変速機ケース11内の他の部材の振動と共に、変速機ケース11内の種々の部材を介して変速機ケース11に伝わる。また、ドラム部材31に伝達された振動は、第2ブレーキ24の締結時には、摩擦板32,33を介して変速機ケース11に伝わる。さらに、第2ブレーキ24のドラム部材31が、変速機ケース11の近傍に位置するので、ドラム部材31に伝わった振動による放射音が空気を介して変速機ケース11を振動させる。変速機ケース11に伝わった振動は、変速機ケース11を支持する車体部材(例えば左右のフロントサイドフレーム)を介して、車室に伝わることになる。本実施形態の自動変速機10では、ドラム部材31に長孔31cが設けられていない場合、自動変速機10の中で特にドラム部材31の振動が、車室に生じる振動や騒音に大きく影響する。このため、ドラム部材31に長孔31cが設けられていない場合には、車室内に居る乗員に不快な振動や騒音を与えることになる。
【0055】
本実施形態では、ドラム部材31に、低剛性部としての長孔31cが設けられているので、該長孔31cによって、第3リングギヤR3からドラム部材31に伝達された振動を減衰させることができ、この結果、ドラム部材31の振動、延いては車室に生じる振動や騒音を低減することができる。また、長孔31cによって、ドラム部材31の軽量化を図ることができるとともに、コストアップを抑制することができる。さらに、長孔31cの数、長さ及び幅の調整によって、ドラム部材31の振動の固有振動数を所望の振動数に設定できるようになる。
【0056】
図7は、ドラム部材31に上記長孔31cを設けた場合と、長孔31cを設けない場合とにおいて、変速機ケース11全体の振動に起因して車室内に生じる音の周波数特性を示す。ここでは、第3リングギヤR3は締結状態にある。
【0057】
図7より、ドラム部材31に長孔31c(外側長孔31d及び内側長孔31e)を設けた場合には、長孔31cを設けない場合に比べて、全体的に音圧レベルが低下していることが分かる。特に、車室内に居る乗員にとって不快となるような音圧レベルであった、約2200Hz及び約3500Hzのピーク値が低下している。
【0058】
また、ドラム部材31に長孔31cを設けた場合、長孔31cを設けない場合にピークとなっていた約1400Hzの固有振動数が、約1800Hzに移動していることが分かる。
【0059】
したがって、本実施形態では、第2ブレーキ24のドラム部材31の底部31aにおける、結合部41に対して径方向外側及び内側の両部分のそれぞれにおいて、ドラム部材31の周方向の複数箇所に、低剛性部としての長孔31c(外側長孔31d及び内側長孔31e)が設けられているので、第3リングギヤR3が結合されたドラム部材31を軽量化しかつコストアップを抑制しながら、該ドラム部材31の振動を低減することができる。これにより、変速機ケース11全体の振動に起因して車室に生じる振動や騒音を低減することができる。また、ドラム部材31の振動の固有振動数を所望の振動数に設定できるようになる。
【0060】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0061】
例えば、上記実施形態では、本発明を、第2ブレーキ24(車両発進用摩擦締結要素)のドラム部材31に適用した例を示したが、伝達経路構成部材が結合されるドラム部材を有する摩擦締結要素であれば、どの摩擦締結要素にも本発明を適用することができる。例えば、本発明を、第2クラッチ21のドラム部材6(第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2が結合される)に適用してもよく、第3クラッチ22のドラム部材7(第2リングギヤR2が結合される)に適用してもよい。
【0062】
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。