特許第6589975号(P6589975)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

<>
  • 特許6589975-二酸化バナジウム 図000003
  • 特許6589975-二酸化バナジウム 図000004
  • 特許6589975-二酸化バナジウム 図000005
  • 特許6589975-二酸化バナジウム 図000006
  • 特許6589975-二酸化バナジウム 図000007
  • 特許6589975-二酸化バナジウム 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6589975
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】二酸化バナジウム
(51)【国際特許分類】
   C01G 31/02 20060101AFI20191007BHJP
   C04B 35/495 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   C01G31/02
   C04B35/495
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-502405(P2017-502405)
(86)(22)【出願日】2016年2月24日
(86)【国際出願番号】JP2016055340
(87)【国際公開番号】WO2016136773
(87)【国際公開日】20160901
【審査請求日】2017年7月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-39343(P2015-39343)
(32)【優先日】2015年2月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 左京
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−163510(JP,A)
【文献】 DU, Jing et al.,Significant changes in phase-transition hysterisis for Ti-doped VO2 films prepared by polymer-assisted deposition,Sol. Energy Mater. Sol. Cell,NL,Elsevier B.V.,2010年11月 5日,Vol. 95, No. 2,pp. 469-475
【文献】 TAKAHASHI, Ikuya et al.,Thermochromic Properties of Double-Doped VO2 Thin Films Prepared by a Wet Coating Method Using Polyvanadate-Based Sols Containing W and Mo or W and Ti,Jpn. J. Appl. Phys. ,日本,The Japan Society of Applied Physics,2001年 3月15日,Vol. 40, No. 3A, Pt. 1,pp. 1391-1395
【文献】 TAKAHASHI, Ikuya et al. ,Thermochromic properties of double-doped VO2 thin films fabricated from polyvanadate-based solutions,Proc. SPIE,米国,SPIE - The International Society for Optical Engineering,1999年 6月18日,Vol. 3788,pp. 26-33
【文献】 JIANG, Meiping et al. ,Preparation of Ta-Ti co-doped VO2 polycrystal thin film with High resistance temperature coefficient and without hysteresis,Avd. Mater. Res. ,2011年,Vol. 284-286,pp. 2177-2181
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 31/00−41/04
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tiがドープされた二酸化バナジウムまたはさらにW、Ta、MoおよびNbからなる群から選択される他の原子がドープされた二酸化バナジウムであって、
他の原子がWである場合、バナジウム、Tiおよび他の原子の合計100モル部に対して、他の原子の含有モル部が、0モル部より大きく5モル部以下であり、
他の原子がTa、MoまたはNbである場合、バナジウム、Tiおよび他の原子の合計100モル部に対して、他の原子の含有モル部が、0モル部より大きく15モル部以下であり、
バナジウム、Tiおよび他の原子の合計100モル部に対して、チタンの含有モル部は、2モル部以上30モル部以下であることを特徴とする、二酸化バナジウム、ならびに
樹脂およびゴムから選択されるバインダーを含んで成る冷却デバイス。
【請求項2】
Tiがドープされた二酸化バナジウムまたはさらにW、Ta、MoおよびNbからなる群から選択される他の原子がドープされた二酸化バナジウムであって、
他の原子がWである場合、バナジウム、Tiおよび他の原子の合計100モル部に対して、他の原子の含有モル部が、0モル部より大きく5モル部以下であり、
他の原子がTa、MoまたはNbである場合、バナジウム、Tiおよび他の原子の合計100モル部に対して、他の原子の含有モル部が、0モル部より大きく15モル部以下であり、
バナジウム、Tiおよび他の原子の合計100モル部に対して、チタンの含有モル部は、2モル部以上30モル部以下であることを特徴とする、二酸化バナジウム、および
流動性を有する樹脂を含み、ペースト状である冷却デバイス。
【請求項3】
Tiがドープされた二酸化バナジウムまたはさらにW、Ta、MoおよびNbからなる群から選択される他の原子がドープされた二酸化バナジウムであって、
他の原子がWである場合、バナジウム、Tiおよび他の原子の合計100モル部に対して、他の原子の含有モル部が、0モル部より大きく5モル部以下であり、
他の原子がTa、MoまたはNbである場合、バナジウム、Tiおよび他の原子の合計100モル部に対して、他の原子の含有モル部が、0モル部より大きく15モル部以下であり、
バナジウム、Tiおよび他の原子の合計100モル部に対して、チタンの含有モル部は、2モル部以上30モル部以下であることを特徴とする、二酸化バナジウムを含み、
該二酸化バナジウムは、金属箔またはシートで、ラミネートされるか、または包まれている、冷却デバイス。
【請求項4】
前記二酸化バナジウムにおいて、バナジウム、Tiおよび他の原子の合計100モル部に対して、チタンの含有モル部が、5モル部以上10モル部以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の冷却デバイス。
【請求項5】
式:V1−x−yTi
[式中、Mは、W、Ta、MoまたはNbであり、
xは0.02以上0.3以下であり、
yは0以上であって、
MがWである場合、yは0.05以下であり、
MがTa、MoまたはNbである場合、yは0.15以下である。]
で表される二酸化バナジウム、ならびに
樹脂およびゴムから選択されるバインダーを含む、冷却デバイス。
【請求項6】
式:V1−x−yTi
[式中、Mは、W、Ta、MoまたはNbであり、
xは0.02以上0.3以下であり、
yは0以上であって、
MがWである場合、yは0.05以下であり、
MがTa、MoまたはNbである場合、yは0.15以下である。]
で表される二酸化バナジウム、ならびに
流動性を有する樹脂を含み、ペースト状である冷却デバイス。
【請求項7】
式:V1−x−yTi
[式中、Mは、W、Ta、MoまたはNbであり、
xは0.02以上0.3以下であり、
yは0以上であって、
MがWである場合、yは0.05以下であり、
MがTa、MoまたはNbである場合、yは0.15以下である。]
で表される二酸化バナジウムを含み、
該二酸化バナジウムは、金属箔またはシートで、ラミネートされるか、または包まれている、冷却デバイス。
【請求項8】
xが0.05以上0.1以下であることを特徴とする、請求項5〜7のいずれかに記載の冷却デバイス。
【請求項9】
さらに、保護カバー、熱伝導性部、絶縁性シート、または電子機器に設置するための部材を含む、請求項1〜8のいずれかに記載の冷却デバイス。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の冷却デバイスを有して成る電子部品。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の冷却デバイスまたは請求項10に記載の電子部品を有して成る電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化バナジウムまたは他の原子がドープされた二酸化バナジウムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の性能向上を背景に、熱源となるCPU(中央処理装置)、パワーアンプ、FET(電界効果トランジスタ)、IC(集積回路)、ボルテージレギュレータなどの電子部品の数が増加し、投入されるエネルギーの増加も重なって、発熱の問題が顕著化している。特に、スマートフォンやタブレット型端末のようなモバイル機器では、この熱により、電池の容量が劣化したり、構成する電子機器の信頼性に深刻な影響を与えたりする問題がある。したがって、機器の内部の温度を、より高度に制御することが求められている。
【0003】
上記のような熱源から生じた熱の制御は、既存の熱マネジメントソリューションである冷却ファン、ヒートパイプ、ヒートシンク、サーマルシート、ペルチェ素子などにより行われており、例えば、特許文献1には、ヒートシンクとファンまたはペルチェ素子を組み合わせた冷却装置が記載されている(特許文献1を参照)。
【0004】
しかしながら、上記のようなヒートシンクとファンまたはペルチェ素子を組み合わせた冷却装置は、構造が比較的複雑であることに加え、機器が大きくなり、特にスマートフォンやタブレット型端末等の薄型の機器には使用しにくい。さらには、電力を消費するので、低消費電力(バッテリーの持ち時間)の観点からも不利である。
【0005】
したがって、スマートフォンやタブレット型端末等の薄型の機器では、現状、温度の制御は、筺体を介する放熱による手段しかなく、熱源と筺体をサーマルシートなどで熱結合し熱を逃がしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−223497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような筺体を介する放熱は、筺体の表面積が限られていることから、限界がある。したがって、各熱源の温度を測定し、温度が所定の温度以上になった場合に、CPUなどのパフォーマンスを制限する(発熱自体を抑制する)ことで対応している。即ち、筺体の温度上昇が、CPU等のパフォーマンスの妨げになっていることがある。当然、このような筐体を介した放熱、換言すれば機器全体への伝熱による放熱においては、バッテリーにも熱が伝わることになり、電池容量の経時的な低下に繋がっているともいえる。
【0008】
そこで、本発明者は、結晶構造相転移や磁気相転移等に伴い熱を吸収するセラミック材料である酸化バナジウム(具体的には二酸化バナジウム)を、電子機器の熱源付近に配置することにより、無電源で使用可能な冷却デバイスとすることを検討した。しかしながら、本発明者の研究により、一般的な二酸化バナジウム(VO)は、初期においては良好な吸熱効果を示すが、高湿度環境下では、吸熱効果が次第に低下することが明らかになった。従って、二酸化バナジウムを冷却デバイスとして用いる場合には、水分(水蒸気)との接触を避けるために強固なパッケージングが必要であり、そのためコストが増大し、また、デバイスの形状等が大きく制約されるという問題が生じる。
【0009】
従って、本発明の目的は、耐湿性に優れ、水分による吸熱特性の劣化が抑制された二酸化バナジウムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題について検討した結果、高湿度環境下での吸熱特性の劣化は、二酸化バナジウムが水分に曝されることにより酸化、水酸化されることが一因であることを見出した。即ち、良好な吸熱特性を示すバナジウムは4価(V4+)であり、これが水蒸気により酸化、水酸化されて一部が5価(V5+)となることにより、吸熱特性が劣化する。そこで、本発明者は、耐湿性を改善するためにはV4+を安定化することが効果的であると考え、さらに鋭意検討した結果、同価数であるTi4+が安定なTiを二酸化バナジウムにドープすることにより、耐湿性が大幅に向上することを見出した。
【0011】
本発明の第1の要旨によれば、Tiがドープされた二酸化バナジウムまたはさらにW、Ta、MoおよびNbからなる群から選択される他の原子がドープされた二酸化バナジウムであって、
他の原子がWである場合、バナジウム、Tiおよび他の原子の合計100モル部に対して、他の原子の含有モル部が、0モル部より大きく5モル部以下であり、
他の原子がTa、MoまたはNbである場合、バナジウム、Tiおよび他の原子の合計100モル部に対して、他の原子の含有モル部が、0モル部より大きく15モル部以下であり、
バナジウム、Tiおよび他の原子の合計100モル部に対して、チタンの含有モル部は、2モル部以上30モル部以下であることを特徴とする、二酸化バナジウムが提供される。
【0012】
本発明の第2の要旨によれば、式:
1−x−yTi
[式中、Mは、W、Ta、MoまたはNbであり、
xは0.02以上0.3以下であり、
yは0以上であって、
MがWである場合、yは0.05以下であり、
MがTa、MoまたはNbである場合、yは0.15以下である。]
で表される二酸化バナジウムが提供される。
【0013】
本発明の第3の要旨によれば、上記の二酸化バナジウムを含有するセラミック材料が提供される。
【0014】
本発明の第4の要旨によれば、上記二酸化バナジウムあるいは上記セラミック材料を含んで成る冷却デバイスが提供される。
【0015】
本発明の第5の要旨によれば、上記冷却デバイスを有して成る電子部品が提供される。
【0016】
本発明の第6の要旨によれば、上記冷却デバイスまたは上記電子部品を有して成る電子機器が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、二酸化バナジウムに所定量のTiをドープすることにより、耐湿性が高く、かつ、吸熱性に優れた二酸化バナジウムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、試料番号2の耐湿試験前のDSC測定の結果を示す。
図2図2は、試料番号2の耐湿試験におけるDSC測定の結果を示す。
図3図3は、試料番号2の耐湿試験前の走査型電子顕微鏡観察の結果を示す。
図4図4は、試料番号2の耐湿試験後の走査型電子顕微鏡観察の結果を示す。
図5図5は、試料番号10の耐湿試験前の走査型電子顕微鏡観察の結果を示す。
図6図6は、試料番号10の耐湿試験後の走査型電子顕微鏡観察の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のTiがドープされた二酸化バナジウムおよびさらに他の原子がドープされた二酸化バナジウム(以下、これらを総称して「本発明の二酸化バナジウム」とも言う)は、潜熱により熱を吸収する。本発明の二酸化バナジウムは、過剰な熱を潜熱により一時的に吸収し、温度が低下した際に吸収した熱を放出することにより、時間的な熱の平準化をすることで、高い冷却効果を得ることが可能になる。
【0020】
本発明の二酸化バナジウムは、通常、これを主成分とするセラミック材料として用いられる。
【0021】
上記「主成分」とは、セラミック材料中に60質量%以上含まれる成分を意味し、特に80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、例えば98.0質量%以上99.8質量%以下あるいは実質的に100%含まれる成分を意味する。
【0022】
本発明において、「Tiがドープされた二酸化バナジウム」とは、X線構造解析(典型的には、粉末X線回折法を用いる)により対応する結晶構造を示す酸化バナジウムを意味する。本明細書において、「さらに他の原子がドープされた二酸化バナジウム」とは、Tiに加え他の原子がドープされた二酸化バナジウムであり、X線構造解析により対応する結晶構造を示す酸化バナジウムを意味する。
【0023】
本発明の二酸化バナジウムは、Tiがドープされた二酸化バナジウムまたはさらに他の原子がドープされた二酸化バナジウム以外の不純物を含み得る。不純物としては、特に限定されないが、上記以外の酸化バナジウム、例えばドープされていないVO、V、V等、他のセラミック材料、例えばガラス、ならびにNa、Al、Cr、Fe、Ni、Mo、Sb、Ca、Siおよびこれらの酸化物等が挙げられる。
【0024】
上記不純物の量は、可能な限り少ないことが好ましく、例えば5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、さらにより好ましくは0.2質量%以下、最も好ましくは実質的に0質量%(即ち、実質的に不純物を含まない)である。
【0025】
本発明の二酸化バナジウムにドープされるTiの含有量は、バナジウム、Tiおよび他の原子の合計100モル部に対して、2モル部以上30モル部以下、好ましくは5モル部以上10モル部以下である。このような範囲のチタン原子を二酸化バナジウムにドープすることにより、二酸化バナジウムの耐湿性が大幅に改善される。
【0026】
上記他の原子としては、ドープ元素として酸化バナジウムに含ませ得るものであれば特に限定されないが、好ましくはW、Ta、MoおよびNbであり、より好ましくはWであり得る。尚、他の原子は、本発明の二酸化バナジウムにおいて必須成分ではなく、含まれていなくてもよい。この場合、本発明の二酸化バナジウムは、「Tiがドープされた二酸化バナジウム」である。
【0027】
他の原子がWである場合、バナジウム、Tiおよび他の原子の合計100モル部に対する、他の原子の含有モル部は、好ましくは0モル部より大きく5モル部以下である。
【0028】
他の原子がTa、MoまたはNbである場合、バナジウム、Tiおよび他の原子の合計100モル部に対する、他の原子の含有モル部は、好ましくは0モル部より大きく15モル部以下である。
【0029】
一の要旨において、本発明の二酸化バナジウムは、式:
1−x−yTi
[式中、Mは、W、Ta、MoまたはNbであり、
xは0.02以上0.3以下であり、
yは0以上であって、
MがWである場合、yは0.05以下であり、
MがTa、MoまたはNbである場合、yは0.15以下である。]
で表される二酸化バナジウムであり得る。なお、Mは「他の原子」に相当し、必須成分ではなく、Mの含有モル部は0であってもよい。この場合、上記式で表される化合物はチタンのみがドープされた二酸化バナジウムとなる。
【0030】
好ましい態様において、xは0.05以上0.1以下である。このような範囲とすることにより、本発明の二酸化バナジウムの耐湿性をより改善することができる。
【0031】
一の態様において、本発明の二酸化バナジウムは、xが0である上記式で表される化合物、即ちTiのみがドープされた二酸化バナジウムである。
【0032】
別の態様において、本発明の二酸化バナジウムは、yが0より大きく、MがWである化合物、即ちチタンおよびタングステンドープ二酸化バナジウムである。
【0033】
本発明の二酸化バナジウムが相転移する温度は、冷却対象物、冷却目的などに応じて適宜選択され、例えば冷却対象物がCPUである場合、昇温時20〜100℃、好ましくは40〜60℃で相転移することが好ましい。上記本発明の二酸化バナジウムが相転移する温度、即ち、この本発明の二酸化バナジウムが潜熱を示す温度は、他の原子を添加(ドープ)し、その原子の添加量を調節することにより調整することができる。
【0034】
本発明の二酸化バナジウムは、好ましくは35J/g以上、より好ましくは40J/g以上、さらに好ましくは43J/g以上の初期潜熱量を有する。また、本発明の二酸化バナジウムは、耐湿試験(85℃、相対湿度85%で、500時間保存)後であっても、好ましくは30J/g以上、より好ましくは35J/g以上、さらに好ましくは40J/g以上の潜熱量を有する。このように水分に曝された場合であっても高い潜熱量を有することにより、デバイス化を行う場合などに水分に対する対策を行う必要がなく、コスト面、形状面等で有利である。また、より大きな潜熱量を有することにより、より小さな体積で大きな冷却効果を発揮できるので、小型化の点で有利である。ここに、「潜熱」とは、物質の相が変化するときに必要とされる熱エネルギーの総量であり、本明細書においては、固体−固体の相転移、例えば電気・磁気・構造相転移に伴う吸発熱量の事をいう。
【0035】
本発明の二酸化バナジウムは、粒子(粉末)状であることが好ましい。本発明の二酸化バナジウムのコア部の平均粒径(D50:体積基準で粒度分布を求め、全体積を100%とした累積曲線において、累積値が50%となる点の粒径)は、特に限定されないが、例えば、0.1μm以上数百μm以下、具体的には0.1μm以上900μm以下、代表的には約0.2μm以上50μm以下であり、好ましくは、0.5μm以上50μm以下である。かかる平均粒径は、レーザー回折・散乱式 粒子径・粒度分布測定装置または電子走査顕微鏡を用いて測定することができる。平均粒径は、取り扱いの容易性および耐湿性の観点から、0.2μm以上であることが好ましく、より緻密に成形できるという観点から、50μm以下であることが好ましい。
【0036】
上記した本発明の二酸化バナジウムまたはセラミック材料は、所望の形状、例えばシート状、ブロック状、その他種々の形状に成形することができる。成形方法は、特に限定されず、圧縮、焼結等を用いることができる。また、樹脂、ゴムまたはガラス等のバインダーと混合して成形してもよい。さらに、流動性を有する樹脂等と混合して、ペーストとしてもよい。
【0037】
上記した本発明の二酸化バナジウムまたはセラミック材料は、絶縁性材料、例えば樹脂、ガラス等により、一部または全部がコーティングされていてもよい。絶縁性材料によりコーティングすることにより、本発明の二酸化バナジウムを、電流が流れ得る熱源付近や、回路基板上に直接設置することが可能になる。
【0038】
本発明の二酸化バナジウムまたはセラミック材料は、上記したように、潜熱が大きく、即ち、吸熱量が大きく、また、吸発熱が速やかに生じることから、冷却デバイスとして好適に用いることができる。
【0039】
従って、本発明は、上記した本発明の二酸化バナジウムまたはセラミック材料を含んで成る冷却デバイスをも提供する。
【0040】
本発明の冷却デバイスの形状は、特に限定されず、任意の形状とすることができる。
【0041】
一の態様において、本発明の冷却デバイスは、ブロック状であり得る。ブロック状とすることにより、全体の体積が大きくなり、より多くの熱を吸収することができる。また、別の態様において、本発明の冷却デバイスは、シート状であり得る。シート状とすることにより、表面積が増加するので、吸収した熱を外部に放出しやすくなる。また粉体を金属箔、シートなどでラミネートした形状もしくは包んだ形状でもよい。
【0042】
本発明の冷却デバイスは、他の部材、例えば冷却デバイスを保護する保護カバー、伝熱性を高めるための金属等の熱伝導性部、絶縁性を確保するための絶縁性シート、電子機器に設置するための部材(例えば、粘着シート、ピン、爪等)などを有していてもよい。
【0043】
また、本発明は、本発明の冷却デバイスを有して成る電子部品、ならびに冷却デバイスまたは電子部品を有して成る電子機器をも提供する。
【0044】
電子部品としては、特に限定するものではないが、例えば、中央処理装置(CPU)、パワーマネージメントIC(PMIC)、パワーアンプ(PA)、トランシーバーIC、ボルテージレギュレータ(VR)などの集積回路(IC)、発光ダイオード(LED)、白熱電球、半導体レーザーなどの発光素子、電界効果トランジスタ(FET)などの熱源となり得る部品、および、その他の部品、例えば、リチウムイオンバッテリー、基板、ヒートシンク、筐体等の電子機器に一般的に用いられる部品が挙げられる。
【0045】
電子機器としては、特に限定するものではないが、例えば、携帯電話、スマートフォン、パーソナルコンピュータ(PC)、タブレット型端末、ハードディスクドライブ等が挙げられる。
【0046】
以上、本発明について説明したが、本発明は上記の態様に限定されるものではなく、種々の改変を行うことができる。
【実施例】
【0047】
出発原料として、下記の材料を準備した。
・バナジウム原料
二酸化バナジウム(VO2。Dalian Bolong New Materials社製)
・添加(ドープ)原料
酸化チタン(TiO
酸化タングステン(WO
酸化タンタル(Ta
酸化ニオブ(Nb
酸化モリブデン(MoO
【0048】
下記表1に示す組成となるように、各原料を秤量し、IKAミルを用いて乾式調合した。その後、窒素/水素/水、または窒素/大気/水素/水の雰囲気中で、二酸化バナジウムが安定になるように雰囲気をコントロールしながら、900℃〜1100℃で熱処理した。雰囲気は二酸化バナジウムが安定になればどのような雰囲気でもよく、素原料の状態によって最適条件は変化するが、ここでは酸素分圧が1×10−8MPa〜1×10−1MPaの範囲となるように制御した。出来上がったこれらの試料について、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析法によって、V、W、Ta、Nb、Moの組成を求めた。また粉末X線回折法により、目的とする二酸化バナジウムが主成分であることを確認した。
【0049】
・耐湿試験
作製した試料の初期の潜熱量を、DSC(示差走査熱量測定)法により、窒素雰囲気中、昇温速度:10K/分、0℃から100℃、そして0℃へと掃引して、昇温時の吸熱量を潜熱量とした。代表して試料番号2のDSC測定結果を図1に示す。
【0050】
また、得られた粉体試料を、85℃、相対湿度85%の環境下で500時間放置することにより、耐湿試験に付した。その後、再度潜熱量を測定した。代表して耐湿試験における試料番号2のDSC測定結果(吸熱のみ)を図2に示す。
【0051】
上記潜熱量の測定結果を表1に示す。尚、*を付した番号は比較例である。
【0052】
【表1】
【0053】
図1および図2に示されるように、チタンを含まない試料番号2の酸化バナジウムは、耐湿試験前は、昇温時に大きな吸熱ピークを示しているが、耐湿試験の経過に伴い、吸熱ピークは低下し、500時間後にはピークが確認できなくなった。そこで、X線粉末回折により耐湿試験後の試料を調べたところV0.9950.005とは異なる結晶相がメインとなっており、湿気により別の物質へ変化し、吸熱特性が失われたものと推察される。
【0054】
表1に示されるように、チタンを含まない試料番号1〜6およびチタン含有量が0.01モル部である試料番号7の試料は、いずれも耐湿試験後、吸熱ピークが確認できなかった。また、チタン含有量が0.4モル部である試料番号13は、耐湿試験後も吸熱ピークは消失しなかったが、チタン含有量が多いため、潜熱量が30J/g未満となった。一方、チタン含有量が0.02〜0.3モル部である試料番号8〜12および14〜21は、耐湿試験後も30J/g以上の潜熱量を有しており、高い潜熱量と優れた耐湿性を有していることが確認された。尚、上記は粉末形態で試験したが、焼結体であっても、緩やかにではあるが同様に水分により劣化が起こることが確認された。
【0055】
・表面観察
さらに、試料を代表して、試料番号2および10の粒子の耐湿試験前後の状態を、走査型電子顕微鏡で観察した。試料番号2の結果を図3(耐湿試験前)および図4(耐湿試験後)に、試料番号10の結果を図5(耐湿試験前)および図6(耐湿試験後)に示す。
【0056】
図3および4に示されるように、チタンを含んでいない二酸化バナジウムである試料番号2の粒子は、表面状態が大きく変化しており、水分により水酸化等が起こったものと考えられる。一方、図5および6に示されるように、本発明の二酸化バナジウムである試料番号10の粒子は、耐湿試験前後において、表面状態に大きな変化は見られなかった。これは、耐湿性が向上したことにより、水酸化などの反応が抑制されたためであると考えられる。
【0057】
本発明はいかなる理論にも拘束されないが、Tiをドープすることにより耐湿性が向上する理由は、以下のように考えられる。二酸化バナジウムの水分による劣化は、V4+の不安定さに由来している可能性がある。酸化雰囲気である高湿度雰囲気により、二酸化バナジウム中のV4+がV5+に変化しやすくなり、二酸化バナジウムが酸化または水酸化を受け変質したものと考えられる。そして、4価(Ti4+)で安定である二酸化チタンを適量二酸化バナジウムに固溶させることにより、V4+が安定化され、高湿度雰囲気においてV4+からV5+への酸化を抑制できたと考えられる。
なお、本明細書において、便宜上、化学式における酸素量を2(バナジウム、Tiおよび他の原子Mの合計1モル部に対して、酸素2モル部)として説明しているが、結晶構造的に安定に形成できた二酸化バナジウムであれば、2から若干のずれが許容される。この若干のずれは、化学分析結果より求められる酸素量からは、VOxにおいて、おおよそ1.9〜2.1である。この場合であっても、本発明と同様の作用効果を発揮し、耐湿性が高く、吸熱性に優れた二酸化バナジウムを得ることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の冷却デバイスは、例えば、熱対策問題が顕著化している小型通信端末の冷却デバイスとして利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6