特許第6589983号(P6589983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6589983-弾性波装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6589983
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】弾性波装置
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/145 20060101AFI20191007BHJP
【FI】
   H03H9/145 Z
   H03H9/145 C
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-526230(P2017-526230)
(86)(22)【出願日】2016年6月1日
(86)【国際出願番号】JP2016066247
(87)【国際公開番号】WO2017002513
(87)【国際公開日】20170105
【審査請求日】2017年10月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-133439(P2015-133439)
(32)【優先日】2015年7月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木間 智裕
【審査官】 ▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−022067(JP,A)
【文献】 特開平10−145171(JP,A)
【文献】 特開平04−294625(JP,A)
【文献】 特開2006−101082(JP,A)
【文献】 特開2003−115742(JP,A)
【文献】 特開2015−111845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007−H03H3/10
H03H9/00−H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられたIDT電極と、
を備え、
前記IDT電極が、最表層の電極層と、前記最表層の電極層よりも下側に形成されている第1電極層とを有する複数の電極層と、前記最表層の電極層を保護する保護電極層と、
を有しており、
前記保護電極層は、前記最表層の電極層より電気抵抗率が大きく、
前記最表層の電極層が、前記圧電基板側とは反対側に位置している第1の主面と、該第1の主面に連なる側面と、前記第1の主面と対向している第2の主面とを有し、
前記最表層の電極層における前記第1の主面と、前記第1の主面から前記側面の少なくとも一部に至る領域とが、前記保護電極層により覆われており、
前記保護電極層が、前記最表層の電極層の前記側面の下端を越えておらず、
前記第1電極層が、前記最表層の電極層を構成している金属よりも密度の大きい金属であるPt及びAuのうち少なくとも一方により構成されている、弾性波装置。
【請求項2】
前記最表層の電極層において、前記第1の主面と前記側面とのなす稜線が、前記保護電極層により覆われている、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項3】
前記最表層の電極層における前記側面が、前記保護電極層により覆われている、請求項1又は2に記載の弾性波装置。
【請求項4】
前記複数の電極層は、前記最表層の電極層と前記第1電極層の間に形成されている第2電極層を有し、
前記保護電極層がTiにより構成されており、
前記第2電極層の材料は、前記保護電極層の材料と同じであり、
前記最表層の電極層における前記第2の主面が、前記第2電極層により覆われている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項5】
前記最表層の電極層が、Al及びCuのうち少なくとも一方により構成されている、請求項1〜のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項6】
前記保護電極層が、Ti及びMoのうち少なくとも一方により構成されている、請求項1〜3または5のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項7】
前記側面が対向し合う一対の側面部分を有し、
前記第2の主面から前記第1の主面に向かうにつれて、前記対向し合う一対の側面部分間が狭くなるように、各側面部分が傾斜されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項8】
前記複数の電極層が、前記第1電極層と前記圧電基板との間に形成されたNiCr層を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振子や帯域フィルタなどに用いられる弾性波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、共振子や帯域フィルタとして弾性波装置が広く用いられている。
【0003】
下記の特許文献1,2には、圧電基板上に、IDT電極が設けられた弾性波装置が開示されている。特許文献1には、上記IDT電極として、NiCr、Pt、Ti、AlCu及びTiがこの順に積層された積層金属膜が記載されている。他方、特許文献2には、上記IDT電極として、Ti上にAlが積層された積層金属膜が記載されている。特許文献2では、上記積層金属膜が、被覆電極膜により覆われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5131117号公報
【特許文献2】特開2001−217672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
弾性波装置を構成しているIDT電極は、誘電体膜を形成する場合や、表面の有機残渣を除去する場合などに、しばしばプラズマ雰囲気中に曝されることがある。
【0006】
ここで、特許文献1のような積層構造を有するIDT電極が、プラズマ雰囲気下に曝されると、IDT電極の最表層に存在しているAl膜やCu膜等の電極膜がダメージを受けることがあった。その結果、電気特性が劣化することがあった。
【0007】
他方、特許文献2のように積層金属膜が被覆金属膜によって完全に覆われている場合、電極の特性が劣化することがあった。
【0008】
本発明の目的は、IDT電極がプラズマ雰囲気下に曝された場合においても、特性の劣化が生じ難い、弾性波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る弾性波装置は、圧電基板と、前記圧電基板上に設けられたIDT電極と、を備え、前記IDT電極が、最表層の電極層を有する少なくとも1以上の電極層と、前記最表層の電極層を保護する保護電極層と、を有しており、前記保護電極層は、前記最表層の電極層より電気抵抗率が大きく、前記最表層の電極層が、前記圧電基板側とは反対側に位置している第1の主面と、該第1の主面に連なる側面とを有し、前記最表層の電極層における前記第1の主面と、前記第1の主面から前記側面の少なくとも一部に至る領域とが、前記保護電極層により覆われており、前記保護電極層が、前記最表層の電極層の前記側面の下端を越えていない。
【0010】
本発明に係る弾性波装置のある特定の局面では、前記最表層の電極層において、前記第1の主面と前記側面とのなす稜線が、前記保護電極層により覆われている。この場合、最表層の電極層を効果的に保護することができ、特性の劣化がより一層生じ難い。
【0011】
本発明に係る弾性波装置の他の特定の局面では、前記最表層の電極層における前記側面が、前記保護電極層により覆われている。この場合、最表層の電極層をより一層確実に保護することができる。
【0012】
本発明に係る弾性波装置の別の特定の局面では、前記複数の電極層は、前記最表層の電極層と前記第1電極層の間に形成されている第2電極層を有し、前記保護電極層がTiにより構成されており、前記第2電極層の材料は、前記保護電極層の材料と同じであり、前記最表層の電極層における前記第2の主面が、前記第2電極層により覆われている。この場合、最表層の電極層をより一層確実に保護することができる。
【0013】
本発明に係る弾性波装置のさらに他の特定の局面では、前記最表層の電極層が、Al及びCuのうち少なくとも一方により構成されている。この場合、電極の抵抗を低くすることができ、低損失とすることができる。
【0014】
本発明に係る弾性波装置のさらに他の特定の局面では、前記保護電極層が、Ti及びMoのうち少なくとも一方により構成されている。この場合、最表層の電極層をより一層確実に保護することができる。
【0015】
本発明に係る弾性波装置のさらに他の特定の局面では、前記IDT電極が、前記最表層の電極層を有する複数の電極層と、前記最表層の電極層を保護する前記保護電極層と、を有する。
【0016】
本発明に係る弾性波装置のさらに他の特定の局面では、前記複数の電極層が、前記最表層の電極層の下に形成されている2層目の電極層を有し、前記2層目の電極層が、前記最表層の電極層を構成している金属よりも密度の大きい金属により構成されている。
【0017】
本発明に係る弾性波装置のさらに他の特定の局面では、前記2層目の電極層が、Pt及びAuのうち少なくとも一方により構成されている。
【0018】
本発明に係る弾性波装置のさらに他の特定の局面では、前記側面が対向し合う一対の側面部分を有し、前記第2の主面から前記第1の主面に向かうにつれて、前記対向し合う一対の側面部分間が狭くなるように、各側面部分が傾斜されている。
【0019】
本発明に係る弾性波装置のさらに他の特定の局面では、前記IDT電極が、NiCr層、前記2層目の電極層、Ti層、前記最表層の電極層及び前記保護電極層がこの順に積層された積層金属膜である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、IDT電極がプラズマ雰囲気下に曝された場合においても、特性の劣化が生じ難い、弾性波装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1(a)は、本発明の一実施形態に係る弾性波装置の模式的正面断面図であり、図1(b)は、その電極構造を示す模式的平面図である。
図2図2は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置のIDT電極部を拡大した模式的正面断面図である。
図3図3は、本発明の第2の実施形態に係る弾性波装置のIDT電極部を拡大した模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0023】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0024】
(第1の実施形態)
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の模式的正面断面図であり、図1(b)は、その電極構造を示す模式的平面図である。図2は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置のIDT電極部を拡大した模式的正面断面図である。
【0025】
弾性波装置1は、圧電基板2を有する。圧電基板2の主面上に、IDT電極3が設けられている。
【0026】
圧電基板2は、LiNbOからなる基板である。もっとも、圧電基板2としては、LiTaOなどの他の圧電単結晶からなる基板を用いてもよいし、圧電セラミックスからなる基板を用いてもよい。
【0027】
図1(a)では略図的に示しているが、圧電基板2上には、図1(b)に示す電極構造が形成されている。すなわち、IDT電極3と、IDT電極3の弾性波伝搬方向両側に配置された反射器4,5が形成されている。それによって、1ポート型弾性波共振子が構成されている。もっとも、本発明におけるIDT電極を含む電極構造は特に限定されない。複数の共振子を組み合わせて、フィルタが構成されていてもよい。このようなフィルタとしては、ラダー型フィルタ、縦結合共振子型フィルタ、ラチス型フィルタ等が挙げられる。
【0028】
IDT電極3は、第1,第2のバスバーと、複数本の第1,第2の電極指とを有する。上記複数本の第1,第2の電極指は、弾性波伝搬方向と直交する方向に延びている。上記複数本の第1の電極指と、上記複数本の第2の電極指とは、互いに間挿し合っている。また、複数本の第1の電極指は、第1のバスバーに接続されており、複数本の第2の電極指は、第2のバスバーに接続されている。
【0029】
図2に拡大して示すように、IDT電極3は、NiCr層3E、第3の電極層3C、Ti層3D、第1の電極層3A及び第2の電極層3Bがこの順に積層された積層金属膜である。
【0030】
第2の電極層3Bは、保護電極層である。第1の電極層3Aは、保護電極層である第2の電極層3B及びTi層3Dを除く積層金属膜において、最表層の電極層である。また、第3の電極層3Cは、保護電極層である第2の電極層3B及びTi層3Dを除く積層金属膜において、2層目の電極層である。なお、第3の電極層3Cは、第1の電極層3Aの下に形成されている。
【0031】
第1の電極層3Aは、互いに対向している第1及び第2の主面3a,3bを有する。また、第1の電極層3Aは、第1及び第2の主面3a,3bを結ぶ側面3cを有する。側面3cは、互いに対向している第1及び第2の側面部分3c1,3c2を有する。
【0032】
第1及び第2の側面部分3c1,3c2は、それぞれ、第2の主面3bから第1の主面3aに向かうにつれて、第1及び第2の側面部分3c1,3c2間が狭くなるように、傾斜されている。なお、図2に示すように、NiCr層3E、第3の電極層3C及びTi層3Dも、第1の電極層3Aと同様の形状とされている。
【0033】
第1の電極層3Aは、Alにより構成されている。第1の電極層3Aは、Cuなどの他の金属若しくはこれらの合金により構成されていてもよい。なかでも、第1の電極層3Aは、電気抵抗率の小さい金属により構成されていることが好ましい。この場合、IDT電極3の電気抵抗率をより一層低めることができ、より一層低損失とすることができる。なお、上記電気抵抗率の小さい金属としては、Al、Cu又はこれらの合金などが挙げられる。
【0034】
第1の電極層3Aの第1の主面3a上に、第2の電極層3Bが積層されている。第2の電極層3Bは、第1の電極層3Aの第1の主面3aと、第1の主面3aから側面3cの一部に至る領域とを覆っている。特に、弾性波装置1では、図2に示す稜線R1,R2についても、第2の電極層3Bにより覆われている。なお、上記稜線R1とは、第1の主面3aと、第1の側面部分3c1とのなす稜線である。また、上記稜線R2とは、第1の主面3aと、第2の側面部分3c2とのなす稜線である。
【0035】
第2の電極層3Bは、第3の主面3dを有する。第3の主面3dは、第2の電極層3Bにおいて、第1の主面3aと接する側の主面とは、反対側の主面である。ここで、第3の主面3dと、第2の電極層3Bの最も圧電基板2側の部分との間の距離をd1とする。また、第3の主面3dと、第1の主面3aとの間の距離をd2とする。本発明においては、上記d1とd2との比d1/d2が、1.0より大きく、7.0以下であることが好ましい。上記比d1/d2が、上記範囲内にある場合、第1の電極層3Aのプラズマによるダメージをより一層効果的に抑制することができる。しかも、後述するようにIDT電極3がさほど重たくならないので、特性の劣化がより一層生じ難い。d1及びd2は、例えば、d2が10nmのとき、d1は10nm〜70nmとすることができる。
【0036】
第2の電極層3Bは、Tiにより構成されている。第2の電極層3Bは、Moなどの他の金属若しくはこれらの合金により構成されていてもよい。なかでも、第2の電極層3Bは、第1の電極層3Aより電気抵抗率の大きい金属により構成されていることが好ましい。上記第1の電極層3Aより電気抵抗率の大きい金属としては、例えば、Ti、Mo又はこれらの合金などが挙げられる。
【0037】
第1の電極層3Aの第2の主面3bと圧電基板2との間には、第3の電極層3Cが配置されている。第3の電極層3Cは、Ptにより構成されている。もっとも、第3の電極層3Cは、Auなどの他の金属若しくはこれらの合金により構成されていてもよい。また、第3の電極層3Cは、第1の電極層3Aより密度の大きい金属により構成されていることが好ましい。上記第1の電極層3Aより密度の大きい金属としては、PtやAuなどの貴金属若しくはこれらの合金などが挙げられる。なお、第3の電極層3Cは設けなくともよい。
【0038】
弾性波装置1のように、第1の電極層3Aの下に、第1の電極層3Aよりも密度の大きい金属を主成分とする第3の電極層3Cが設けられている場合、第3の電極層3Cの密度が高くなるため、弾性波の反射係数を高めることができ、弾性波装置の電気的特性を高めることができる。なお、本明細書において、主成分とは、50重量%以上含まれている成分のことをいうものとする。
【0039】
ところで、弾性波装置を製造する際には、スパッタリング法により温度調整膜としてのSiO膜を形成したり、表面の有機残渣を除去したりすることがある。このような場合、弾性波装置を構成するIDT電極がプラズマ雰囲気下に曝されることがある。そのため、従来の弾性波装置においては、IDT電極の上部に位置している電極層がプラズマによりダメージを受け、特性が劣化することがあった。
【0040】
これに対して、本実施形態の弾性波装置1では、第1の電極層3Aの第1の主面3aと、第1の主面3aから側面3cの一部に至る領域とが、第2の電極層3Bにより覆われている。そのため、弾性波装置1では、プラズマ雰囲気下に曝された場合においても、上部に位置している第1の電極層3Aがダメージを受け難い。そのため、弾性波装置1では、プラズマ雰囲気下に曝されても、特性の劣化が生じ難い。
【0041】
また、第2の電極層3Bは、第1の電極層3Aの側面3cの下端Pを越えていない。すなわち、第2の電極層3Bは、NiCr層3E、第3の電極層3C及びTi層3Dを覆うようには設けられていない。そのため、第2の電極層3Bを設けてもIDT電極3はさほど重たくならず、エネルギー分布の状態や周波数が変化し難い。よって、この点からも、弾性波装置1は、特性の劣化が生じ難い。
【0042】
加えて、本実施形態においては、プラズマにより損傷を受けやすい稜線R1,R2が、第2の電極層3Bにより覆われている。そのため、弾性波装置1では、プラズマ雰囲気下に曝された場合における特性の劣化がより一層生じ難い。このように、本発明においては、稜線R1,R2が、第2の電極層3Bにより覆われていることが好ましい。
【0043】
なお、本発明において、第3の電極層3Cは設けなくともよい。IDT電極3は、例えば、Ti層3D、第1の電極層3A、第2の電極層3Bがこの順に積層された積層金属膜であってもよい。この場合、第1の電極層3Aとしては、例えば、Al、Cu又はAlCuなどを用いることができる。第2の電極層3Bとしては、TiやMoなどを用いることができる。
【0044】
また、IDT電極3は、第1の電極層3Aと、第1の電極層3A上に積層された第2の電極層3Bとからなる積層金属膜であってもよい。この場合においても、第1の電極層3Aとしては、例えば、Al、Cu又はAlCuなどを用いることができる。第2の電極層3Bとしては、TiやMoなどを用いることができる。
【0045】
このように、IDT電極3は、上記の第1及び第2の電極層3A及び3Bを有している限り、さまざまな積層構造を採ることができる。
【0046】
(製造方法)
弾性波装置1の製造方法は、特に限定されないが、例えば以下に示す方法により製造することができる。
【0047】
まず、圧電基板2としてのLiNbO基板を用意する。次に、フォトリソグラフィー法により、レジストのパターンを圧電基板2上に形成する。続いて、真空蒸着法によりNiCr、Pt、Ti、Al及びTiがこの順に積層された積層金属膜を形成する。しかる後、リフトオフ法により不要な部分の積層金属膜をレジストごと除去する。それによって、圧電基板2上にIDT電極3及び図示しない配線電極を形成する。なお、本製造方法では、IDT電極3を構成する積層金属膜として、Ti/Al/Ti/Pt/NiCr=10nm/150nm/10nm/80nm/10nmを作製した。
【0048】
また、真空蒸着で積層金属膜を形成するに際しては、最上層のTi層(第2の電極層3B)を成膜するときに、チャンバー内にガスを導入して真空度を悪化させる。それによって、蒸着粒子の垂直入射性を悪化させ、Al層(第1の電極層3A)の側面3cに蒸着粒子を回り込んで付着させる。これにより、第1の電極層3Aの第1の主面3aと、第1の主面3aから側面3cの一部に至る領域とを被覆するように、第2の電極層3Bを形成することができる。なお、チャンバー内に導入するガスとしては、例えば、Arガスを用いることができる。
【0049】
次に、圧電基板2及びIDT電極3に酸素プラズマを照射するアッシング処理を施す。それによって、圧電基板2及びIDT電極3上に残ったレジストやレジスト剥離液の残渣を除去する。
【0050】
また、IDT電極3を異物などから保護することを目的として、圧電基板2及びIDT電極3上にRFスパッタリング法を用いて、SiO膜からなる保護膜を設けてもよい。
【0051】
このように、本製造方法においては、アッシング処理や、スパッタリングに際して、IDT電極3がプラズマ雰囲気下に曝されることがある。しかしながら、弾性波装置1では、上記のように第1の電極層3Aの第1の主面3aと、第1の主面3aから側面3cの一部に至る領域とが、第2の電極層3Bにより覆われている。そのため、弾性波装置1では、プラズマ雰囲気下に曝された場合においても、特性の劣化が生じ難い。
【0052】
また、本製造方法においてIDT電極3は、上記のように、同一の蒸着設備で製造されるため、製造工程を簡略化することができる。
【0053】
(第2の実施形態)
図3は、本発明の第2の実施形態に係る弾性波装置のIDT電極部を拡大した模式的断面図である。図3に示すように、第2の実施形態に係る弾性波装置では、第1の電極層3Aにおいて、第1の主面3aと第1の主面3aから第2の主面3bに至る領域とが、第2の電極層3Bにより覆われている。すなわち、第2の実施形態に係る弾性波装置においては、第1の電極層3Aの側面3c全体が、第2の電極層3Bに覆われている。その他の点は、第1の実施形態と同様である。
【0054】
第2の実施形態に係る弾性波装置では、第1の電極層3Aの第1の主面3aと、側面3cとが、第2の電極層3Bにより覆われている。そのため、プラズマ雰囲気下に曝されても、IDT電極3の上部に位置している第1の電極層3Aがダメージを受け難い。従って、第2の実施形態に係る弾性波装置においても、プラズマ雰囲気下に曝された場合に、特性の劣化が生じ難い。
【0055】
また、第2の電極層3Bは、第1の電極層3Aの側面3cの下端Pを越えていない。すなわち、第2の電極層3Bは、NiCr層3E、第3の電極層3C及びTi層3Dを覆うようには設けられていない。そのため、第2の電極層3Bを設けてもIDT電極3はさほど重たくならず、エネルギー分布の状態や周波数が変化し難い。よって、この点からも、第2の実施形態に係る弾性波装置は、特性の劣化が生じ難い。
【0056】
加えて、第2の実施形態においても、プラズマにより損傷を受けやすい稜線R1,R2が、第2の電極層3Bにより覆われている。そのため、プラズマ雰囲気下に曝された場合における特性の劣化がより一層生じ難い。
【0057】
また、第2の実施形態では、第1の電極層3Aの第1の主面3aと、側面3c全体とが、第2の電極層3Bにより覆われているため、第1の電極層3Aの腐食を抑制することができる。
【0058】
なお、第2の実施形態では、第1の電極層3Aの第2の主面3bについても、第2の電極層3Bと同じTi層により覆われている。すなわち、第2の実施形態では、第1の電極層3AがTi層により完全に覆われている。このように、第1の電極層3AがTi層により完全に覆われている場合、第1の電極層3Aの腐食をより一層確実に抑制することができる。
【符号の説明】
【0059】
1…弾性波装置
2…圧電基板
3…IDT電極
3a,3b…第1,第2の主面
3c…側面
3d…第3の主面
3c1,3c2…第1,第2の側面部分
3A〜3C…第1〜第3の電極層
3D…Ti層
3E…NiCr層
4,5…反射器
図1
図2
図3