(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スポット溶接電源の一方の極に接続され、かつ下端に溶接チップがセットされる電極棒本体を囲んで把持機構を設け、さらに前記把持機構を囲んで前記電極棒本体と軸心を一致させて加圧ピストン・シリンダ機構を設け、前記加圧ピストン・シリンダ機構におけるピストンにはその軸心に沿って前記電極棒本体が貫通する貫通孔が設けられ、前記電極棒本体の外周に前記把持機構の一部を構成する絶縁性を備える可撓性筒状体を嵌め合わせ、さらに、前記可撓性筒状体の外周面の少なくとも一部に高圧空気溜り凹所を形成し、この高圧空気溜り凹所に注入された高圧空気により前記可撓性筒状体を半径方向に膨突させて前記電極棒本体を把持し、次に前記加圧ピストン・シリンダ機構に注入された高圧空気により、前記電極棒本体を降下させて前記溶接チップにより被溶接材を加圧通電して溶接するスポット溶接電極を備えたスポット溶接機において、
前記電極棒本体と前記把持機構との間の滑りを検知する滑り検知部と、
光ファイバを有し、該光ファイバの一部分を前記把持機構側に露出させ、該一部分に油が付着することによる前記光ファイバの受光端側での光量の減少から油を検知する油検知部と、
第1の警報と該第1の警報と異なる内容の第2の警報を出力する警報出力部と、
前記被溶接材が加圧通電されたときに前記滑り検知部にて前記電極棒本体と前記把持機構との間の滑りが検知され、且つ前記油検知部にて油が検知された場合、前記警報出力部から前記第1の警報を出力させ、前記被溶接材が加圧通電されたときに前記滑り検知部にて前記電極棒本体と前記把持機構との間の滑りが検知され、且つ前記油検知部にて油が検知されない場合、前記警報出力部から前記第2の警報を出力させる制御部と、
を備える、
スポット溶接機。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るスポット溶接機1を示す側面図である。同図において、本実施形態に係るスポット溶接機1は、冷却装置2と、電源装置(スポット溶接電源)3と、導電ケーブル4と、溶接機フレーム5と、支持アーム6と、スポット溶接電極7と、バランサ8と、板状の下電極(“テーブル電極”とも呼ばれる)9と、操作パネル10とを備える。
【0013】
冷却装置2は、溶接時にスポット溶接電極7等から発生する熱を冷却するための冷却水を供給する。冷却装置2は、電源が投入されている間は常時動作してスポット溶接電極7との間で冷却水を循環させる。電源装置3は、受電設備(図示略)から供給される三相の交流電力を整流素子(図示略)にて直流に変換し、変換後の直流から高周波交流を生成して出力する。導電ケーブル4は、スポット溶接電極7への電力供給に用いられ、一端が電源装置3を構成する溶接トランス(図示略)の2次側出力端のプラス電極に接続され、他端がスポット溶接電極7の上端に配設される給電装置75に接続される。
【0014】
溶接機フレーム5は、冷却装置2及び電源装置3の近傍にて垂直方向に立設され、支持アーム6を水平方向に回動可能に支持する。支持アーム6は、溶接機フレーム5に対して水平方向に延びる第1支持アーム6Aと、第1支持アーム部6Aの先端部分から水平方向に延び、先端部分でスポット溶接電極7を支持する第2支持アーム部6Bと、第1支持アーム部6Aと第2支持アーム部6Bを回動自在に繋ぐ回動軸6Cとを備える。
【0015】
スポット溶接電極7は、上述した給電装置75の他に、電極棒本体70と、ハンドル71と、押しボタン式の起動スイッチ72と、溶接ガン73と、溶接チップ(“チップ電極”とも呼ばれる)74と、加圧装置76とを備える。電極棒本体70は、長尺棒状を成し、支持アーム6の先端部において、該支持アーム6に対して直角方向に上下動自在に配設される。電極棒本体70の下端部にはハンドル71及び溶接ガン73がそれぞれ配設され、上端部には給電装置75が配設され、さらに給電装置75の下方で、支持アーム6の直上部には加圧装置76が配設される。
【0016】
溶接チップ74は、溶接ガン73の先端部分に配設される。なお、前述した各種部品が設けられた電極棒本体70は、第2アーム6Bの先端部分に設けられるバランサ8によって一定の張力で引き上げられた状態で保持される。バランサ8による昇降機構の作用により、溶接ガン73を上下方向の任意の位置に停止させることができる。なお、バランサ8にはワイヤ8aが収容されており、ワイヤ8aの先端がスポット溶接電極7のハンドル71の根元部分に接続される。
【0017】
給電装置75は、2枚の導電性金属板(図示略)を内蔵し、高圧空気の供給を受けることで接触状態になる開閉器である。加圧装置76は、高圧空気の供給を受けることで電極棒本体70を把持し、さらに電極棒本体70を下方へ押圧する。加圧装置76の詳細につては後述する。ハンドル71は、リング形状を成し、人手による溶接ガン73の回転を補助する。ハンドル71には、前述した起動スイッチ72が配設されており、この起動スイッチ72を押下することで電源装置3に起動信号Spが出力される。電源装置3は、起動スイッチ72からの起動信号Spを受け取ることで溶接ガン73に対する加圧と電流供給を行う。即ち、電源装置3は、起動信号Spを受け取ることで加圧装置76を作動させて溶接ガン73を被溶接物に向かう方向に加圧するとともに、給電装置75を作動させて溶接ガン73への給電を行う。
【0018】
図2は、加圧装置76を示す縦断面図である。また、
図3は、
図2の加圧装置76のA−A線断面図である。
図2及び
図3において、加圧装置76は、電極棒本体70を囲み、それを把持する把持機構761と、把持機構761を囲んで電極棒本体70と軸心を一致させた加圧ピストン・シリンダ機構762とから構成される。把持機構761は、加圧ピストン・シリンダ機構762のピストン763の一部を利用して、一体に電極棒本体70を把持する。加圧ピストン・シリンダ機構762においては、先に把持機構761が作動し、把持機構761の作動によってピストン763と一体となった電極棒本体70及び先端部にセットした溶接チップ74(
図1参照)が空気圧により下向きに引き出され、下部電極として働く下電極9上の載置された被溶接材15(
図4参照)を加圧するとともに、通電させてスポット溶接する。
【0019】
電極棒本体70は、銅又はその合金材から成り、筒状に形成されている。電極棒本体70そのものは通常棒状に構成するのが好ましいが、本実施形態では、円筒状のパイプで構成し、その軸心に沿った軸孔に水冷ケーブルなどの冷却部を構成している。つまり、筒状の電極棒本体であると、溶接機として必須の水冷ケーブルなどを取り付ける必要がなく、これらは電極棒本体70の中に収納でき、電極構造として一体化を図ることができる。
【0020】
加圧ピストン・シリンダ機構762のピストン763には、軸心に沿って電極棒本体70が貫通するように、貫通孔764(
図3参照)が設けられている。加圧ピストン・シリンダ機構762は、ピストン763とシリンダ765とから成って、ピストン763の先端に金属状のピストンヘッド766を備える点は、内燃機関などにおけるピストン・シリンダ機構と同様に構成される。
【0021】
ピストン763の軸心を通って貫通孔764が形成されており、この貫通孔764内には上述した電極棒本体70が収納される。電極棒本体70は、導電性金属の銅から成る管状に構成され、その中には水冷ケーブルや導電ケーブル等を挿通可能な構造を有している。要するに、全体として極めてコンパクトな構造であって、外部に装備されていると危険でもある水冷ケーブルや導電ケーブルが外部に露出することなく作業性もよく安全性が高められる。なお、電極棒本体70は、一般にシャンク、ホルダと言われる。
【0022】
また、加圧ピストン・シリンダ機構762におけるシリンダ765も筒状のピストン763を覆ってその内部にピストンヘッド766を挟んで高低下の圧力の異なる空気室が形成されるところも内燃機関などと同様に通常の往復動機構であるが、本発明においては、
図2に示すように、往復動機構は2つの機構の一方の機構であり、もう一方の機構はピストン763を含めた把持機構761である。つまり、電源装置3の溶接トランス(図示略)の一方の電極に接続される電極棒本体70とピストン763とが一体になる把持機構761と、加圧ピストン・シリンダ機構762との一体化を達成したものである。
【0023】
空気圧入口767,768から注入された高圧空気により電極棒本体70が可撓性筒状体769に把持される。そして、電極棒本体70が可撓性筒状体769に把持された状態で、空気圧入口770に高圧空気が注入される。これにより、ピストン763が下降し、同時に把持され一体となった電極棒本体70も下降する。
【0024】
このように、電極棒本体70を空気圧により下降させて被溶接材15(
図4参照)を所定の加圧力で加圧し通電させて抵抗発熱し、スポット溶接を完了させる。所定の加圧力を与えるピストン・シリンダ機構762は、その動力源が空気圧であるところから、同じ動力源を用いる機構として把持機構761を構成すると、共通の動力源によって把持機構761も同時に作動させることができる。電極構造としてみてもピストン・シリンダ機構762と把持機構761は構造的に単一ユニットとして構成できる。
【0025】
また、一方において、把持機構761そのものが空気圧を動力源とする場合には、溶接作業終了時には、動力源は常に大気圧より高い高圧空気であることから、把持機構761の空気圧入口767,768への高圧空気の供給を停止し、それを開放するだけで把持状態が消失し、電極棒本体70を手動でも又は別の昇降手段でも容易に昇降させることができる。
【0026】
また、このように一体化を図るのには、次の通りに構成できる。即ち、加圧ピストン・シリンダ機構762におけるピストン763を筒状に構成し、その軸心に沿って電極棒本体70が貫通する貫通孔764を設ける。そして、電極棒本体70を囲んで絶縁性を具える可撓性筒状体769を嵌め合わせる。可撓性筒状体769の外周面の少なくとも一部に又は略全表面に近く高圧空気溜り凹所771を形成する。この高圧空気溜り凹所771は、その長さに応じて
図2に示す通り、少なくとも2つ以上に分割して構成することもでき、分割した場合には、各分割凹所771に高圧空気の空気注入口767,768を設ける。
【0027】
可撓性筒状体769は、可撓性を有する材料であれば、いずれのものからも構成できるが、好ましいのはウレタン、強化樹脂から構成し、特に、高圧空気溜り凹所771に注入された高圧空気によって可撓性筒状体769が半径方向に膨突して電極棒本体70を外周から均一に把持することが必要であり、併せて高圧空気を開放したときには元の状態に復元できることが必要である。高圧空気溜り凹所771は、図示のように絶縁性を具える可撓性筒状769の表面を覆い、円形断面の環状でかつ筒状の空気溜りで構成する。
【0028】
可撓性筒状体769を2個の構成としたときは、
図2のように電極棒本体70との間には仕切り環772を介在させることもできる。この仕切り環772は、可撓性筒状体769の変形を防止し、電極棒本体70の外周からの把持の均一性を達成するものである。
【0029】
このように、電源装置(スポット溶接電源)3の一方の極に接続され、かつ下端に溶接チップ74がセットされる電極棒本体70を囲んで設けられる加圧ピストン・シリンダ機構762におけるピストン763そのものに軸心に沿って電極棒本体70が貫通する貫通孔を具える筒状体として構成し、この筒状のピストンそのものを利用して電極棒本体70の把持機構761を構成するため、電極棒本体70の把持と加圧とを一体化したユニットによって達成できる。
【0030】
電極棒本体70の把持機構761は加圧ピストン・シリンダ機構762の貫通孔の軸心に沿って貫通する電極棒本体70を囲んで絶縁性を具える可撓性筒状体769を嵌め合わせ、この可撓性筒状体769を半径方向に膨突させて電極棒本体70を把持して成るよう構成する。このため、電極棒本体70は高圧空気により周囲から把持できるところから、その把持は均一に行われ、この把持は高圧空気の開放によって解消できるところから、作業性が向上し、その制御も容易となり、溶接作業の自動化、ロボット化も容易に達成できる。
【0031】
上述した加圧装置76における動作を図で示すと以下のようになる。
図4は、スポット溶接電極7を、下電極9上に載置した被溶接材15まで持ってきた状態を示す図である。また、
図5〜
図8は、加圧装置76の動作を示す図である。
図4に示す状態は、溶接チップ74が被溶接材15に接しているものの、起動スイッチ72はまだ押下されていない状態である。また、この状態のときの加圧装置76は、
図5に示すように、加圧ピストン・シリンダ機構762の空気圧入口773に高圧空気が注入されていて、ピストン763が上昇状態に保持されている。なお、同図における矢印Y1は高圧空気の注入方向を示しており、矢印Y2はピストン763の移動方向を示している。この状態で、起動スイッチ72が押下されると、
図6に示すように、把持機構761の高圧空気溜り凹所771に空気圧入口767,768から高圧空気が注入されて、可撓性筒状体769が半径方向に膨突し、電極棒本体70を外周から均一に把持する。なお、同図における矢印Y3,Y4は高圧空気の注入方向を示している、矢印Y5は可撓性筒状体769の膨突方向を示している。
【0032】
把持機構761が電極棒本体70を把持した後、高圧空気溜り凹所771への高圧空気の注入が継続している状態で、加圧ピストン・シリンダ機構762の空気圧入口773への高圧空気の注入が停止し、替わって加圧ピストン・シリンダ機構762の空気圧入口770に高圧空気が注入される。空気圧入口770に高圧空気が注入されることで、
図7に示すように、ピストン763が下降を開始し、同時に把持され一体となった電極棒本体70も下降を開始して、被溶接材15(
図4参照)を加圧する。また、このとき通電されてスポット溶接が行われる。なお、同図における矢印Y6は高圧空気の注入方向を示しており、矢印Y7はピストン763の移動方向を示している。
【0033】
なお、本実施形態では、下電極9を板状のものとして構成した例を中心として説明したが、位置決め、加圧通電を必要とするスポット溶接機一般に適用できることは明らかである。
【0034】
ところで、本実施形態に係るスポット溶接機1が設置された作業環境の空気中に油分が含まれていて、その油分がスポット溶接電極7の把持機構761内に浸入した場合、加圧時に電極棒本体70と把持機構761との間で滑りが発生することがある。このような滑りが発生した場合、設定した通りの加圧力が被溶接材15に加わらなくなり、溶接不良となってしまう。なお、電極棒本体70と把持機構761との間における滑りを抑えるために、電極棒本体70の把持機構761にて把持される部分に、滑り防止用のローレット又は滑り防止用の樹脂コーティング等の滑り防止層を施すようにしているが、油分による滑りを十分に抑制することはできない。
【0035】
電極棒本体70と把持機構761との間の滑りは、可撓性筒状体769がクラックした場合でも発生することがある。スポット溶接機1を長期に亘って使用することで把持機構761の可撓性筒状体769が劣化し、クラックの発生に至ると、把持機構761が電極棒本体70を強固に把持することができなくなり(即ち、設定した通りの加圧力が被溶接物に加わらなくなり)、溶接不良となってしまう。
【0036】
本実施形態に係るスポット溶接機1は、作業環境の空気中に含まれる油分がスポット溶接電極7の把持機構761内に浸入した場合に起こり得る電極棒本体70と把持機構761との間の滑りと、把持機構761の可撓性筒状体769がクラックした場合に起こり得る電極棒本体70と把持機構761との間の滑りのそれぞれを検知して、ユーザに報知することで溶接不良品の発生を最小限に抑えることを可能にしている。
【0037】
図1に戻り、操作パネル10は、「電流値」、「通電時間」、「加圧力」、「
被溶接材の材質」、「
被溶接材の板厚」等の溶接条件の設定に用いられる。操作パネル10は、液晶(LCD:Liquid Crystal Display)又は有機EL(OLED:Organic Electro Luminescence)等の表示器を有する表示部(図示略)と、該表示部の表示器に取り付けられたタッチパネル(図示略)とを有し、該タッチパネルで設定された「電流値」、「通電時間」、「加圧力」、「
被溶接材の材質」、「
被溶接材の板厚」等の溶接条件が電源装置3に取り込まれる。なお、操作パネル10は、クラウドコンピューティング(以下、“クラウド“と呼ぶ)への接続を可能とする通信機能も有しており、設定された溶接条件や、測定された「電流値」、「通電時間」、「加圧力」等のクラウド上のデータベースサーバ(図示略)への蓄積を可能にしている。勿論、電極棒本体70と把持機構761との間で発生した滑りに関する情報もデータベースサーバに蓄積される。このデータベース
サーバにアクセスすることで、スポット溶接機1を製造したメーカのみならず、スポット溶接機1を販売した販売店でもスポット溶接機1の状態を把握することができ、迅速な対処が可能となる。
【0038】
図8は、本実施形態に係るスポット溶接機1の滑り検知・警報装置16の概略構成を示すブロック図である。同図において、本実施形態に係るスポット溶接機1の滑り検知・警報装置16は、油検知部100と、滑り検知部105と、警報部106と、表示部107と、インタフェース部108と、制御部109とを備える。制御部109は、CPU(Central Processing Unit)110と、ROM(Read Only Memory)111と、RAM(Random Access Memory)112とを備える。
【0039】
油検知部100は、光ファイバ101と、LED
(Light Emitting Diode)等の発光素子を有する発光回路102と、フォトダイオード等の受光素子を有する受光回路103とを備える。光ファイバ101は、その全体の一部分である検知エリア101aを有し、該検知エリア101aが電極棒本体70側に露出するように配置される。
図9は、油検知部100及び滑り検知部105それぞれの配置を示す図である。同図に示すように、油検知部100は、加圧装置76のピストンカバー775の電極棒本体70と対向する面側に形成された凹部775a内に配置される。なお、ピストンカバー775は、ピストン763の上端に取り付けられるものである。
【0040】
図8に戻り、油検知部100の発光回路102は、光ファイバ101の一端側に配置され、光ファイバ101に光を入射する。受光回路103は、光ファイバ101の他端側(受光端側)に配置され、発光回路102にて入射されて光ファイバ101内を通過してきた光を受光し、そのときの光量に応じた信号を出力する。光ファイバ101の検知エリア101aに油300が付着すると、光ファイバ101内を通過してきた光が屈折率の違いによって外に漏れるため、受光回路103における受光量が減少する。
この受光量の減少の有無を判定することで、油300の付着を検知することができる。なお、油検知部100は、例えば特開2012−037453号(特許第5755853号)で開示されている“液体検知器及び液体識別システム”を応用することで実現することができる。
【0041】
滑り検知部105は、
図9に示すように、加圧装置76のピストンカバー775の上端面に配置され、電極棒本体70と把持機構761との間の滑り(電極棒本体70に対する把持機構761の滑り)を検知する。滑り検知部105には、例えばロータリーエンコーダ(図示略)が用いられ、該ロータリーエンコーダの回転軸に取り付けたゴム付きローラー105aを電極棒本体70に接触させることで、把持機構761の電極棒本体70に対する滑り応じた信号が出力される。なお、ロータリーエンコーダ以外にリニアエンコーダでも滑りを検知することができ、また光を利用しても滑りを検知することができる。
【0042】
なお、滑り検知・警報装置16において、油検知部100と滑り検知部105以外の各部は、前述した操作パネル10に内蔵される。
【0043】
図8に戻り、警報部106は、サイレン吹鳴パターンの異なる(少なくとも)2つの警報音を発生し出力する。サイレンは、単なるブザー音でも良いし、音声合成によるアナウンスであっても良い。なお、2つの警報音のうち一方は第1の警報に対応し、他方は第2の警報に対応する。また、用意するサイレン吹鳴パターンは、2つに限定されるものではなく、それ以上であってもよい。
【0044】
表示部107は、操作パネル10の表示部そのものであり、溶接条件等を設定するための各種表示の他、文字や絵等で構成した警報情報の表示を行う。警報情報には、少なくとも警報部106が出力する第1の警報に対応する第1の警報情報と、警報部106が出力する第2の警報に対応する第2の警報情報とがある。なお、警報部106と表示部107は、警報出力部115を構成する。
【0045】
インタフェース部108は、制御部109と各部(油検知部100、滑り検知部105、警報部106及び表示部107)との接続を行う。制御部109では、CPU110がROM110及びRAM111と協同して各部(油検知部100、滑り検知部105、警報部106及び表示部107)を制御する。なお、ROM110には、CPU109を制御するプログラムが記憶されており、RAM111は、CPU109の動作において使用される。
【0046】
制御部109は、スポット溶接電極7のハンドル71に設けられた起動スイッチ72から出力される起動信号Spをインタフェース部108経由で取り込むことで、以下に示す制御を行う。
(1)滑り検知部105の出力信号を取り込み、電極棒本体70と把持機構761との間の滑りの有無を判定する。
(2)油検知部100の発光回路102を制御して発光させるとともに、油検知部100の受光回路103からの出力信号を取り込んで、油の浸入の有無を判定する。
(3)電極棒本体70と把持機構761との間で滑りが発生しと判定し
た場合、その原因が把持機構761内への油の浸入か、または把持機構761の可撓性筒状体769のクラックかを判定し、把持機構761内への油の浸入と判定した場合、警報部106から第1の警報音を出力させるとともに、表示部107に第1の警報情報を表示させる。これに対し、把持機構761の可撓性筒状体769
にクラック
が発生したと判定した場合、警報部106から第2の警報音を出力させるとともに、表示部107に第2の警報情報を表示させる。
【0047】
このように、制御部109は、起動スイッチ72が押下されて被溶接材15(
図4参照)が加圧通電される際に、上記(1)〜(3)の処理を行う。即ち、制御部109は、滑り検知部105の出力信号を取り込むことで、電極棒本体70と把持機構761との間の滑りの有無を判定し、且つ油検知部100の出力信号を取り込むことで、把持機構761内への油の浸入の有無を判定し、電極棒本体70と把持機構761との間で滑りが発生していて、把持機構761内への油の浸入が有る場合、第1の警報音を出力するとともに、第1の警報情報を表示し、把持機構761と把持機構761との間で滑りが発生しているが、把持機構761内への油の浸入が無い場合、第2の警報音を出力するとともに、第2の警報情報を表示する。
【0048】
スポット溶接機1を使用して溶接作業を行っているユーザは、第1の警報音を聞く、及び/又は第1の警報情報の表示を見ることで、電極棒本体70と把持機構761との間で滑りが発生していることを認識でき、さらにその滑りの原因が把持機構761内への油の浸入であると認識できる。また、該ユーザは、第2の警報音を聞く、及び/又は第2の警報情報の表示を見ることで、電極棒本体70と把持機構761との間で滑りが発生していることを認識でき、さらにその滑りの原因が把持機構761の可撓性筒状体769のクラックであると認識できる。
【0049】
なお、本実施形態に係るスポット溶接機1の油検知部100は、受光量に応じた信号を出力するだけで、油の検知を行っておらず、それを制御部109に任せていたが、制御部109のその機能(油検知機能)を油検知部100に持たせるようにしてもよい。
【0050】
また、本実施形態に係るスポット溶接機1の滑り検知部105は、把持機構761の電極棒本体70に対する滑りに応じた信号を出力するだけで、電極棒本体70と把持機構761との間の滑りの検知を行っておらず、それを制御部109に任せていたが、制御部109のその機能(滑り検知機能)を滑り検知部105に持たせるようにしてもよい。
【0051】
次に、本実施形態に係るスポット溶接機1の滑り検知・警報装置16の動作を説明する。
図10は、滑り検知・警報装置16の動作を説明するためのフローチャートである。同図において、制御部109は、スポット溶接機1の導入後の最初の立ち上げ時に油検知部100の出力信号(受光量を示す信号)を取り込み、初期値として記憶する(ステップS10)。なお、この初期値はいつでもリセットできるようにしてもよい。制御部109は、油検知部100の最初の出力信号を初期値として記憶した後、起動スイッチ72からの起動信号Spが有るかどうか判定する(ステップS11)。制御部109は、起動信号Spが無いと判定した場合(即ち、ステップS11で「NO」と判定した場合)、起動信号Spが有ると判定するまで同ステップを繰り返す。これに対し、制御部109は、起動信号Spが有ると判定した場合(即ち、ステップS11で「YES」と判定した場合)、滑り検知部105の出力信号を取り込む(ステップS12)。
【0052】
次いで、制御部109は、滑り検知部105の出力信号に基づき、把持機構761の電極棒本体70に対する滑りが生じているかどうか判定する(ステップS13)。制御部109は、把持機構761の電極棒本体70に対する滑りが生じていないと判定した場合(即ち、ステップS13で「NO」と判定した場合)、ステップS11に戻り、次の起動信号Spの有無を判定する。これに対し、制御部109は、把持機構761の電極棒本体70に対する滑りが生じていると判定した場合(即ち、ステップS13で「YES」と判定した場合)、油検知部100の出力信号を取り込み、記憶する(ステップS14)。この場合、上述した初期値を上書きするのではなく、初期値とは異なる記憶領域に今回の油検知部100の出力信号を記憶する。
【0053】
次いで、制御部109は、今回の油検知部100の出力信号を前回値(又は初期値)と比較する(ステップS15)。そして、今回の油検知部100の出力が前回値(又は初期値)未満かどうか判定する(ステップS16)。制御部109は、今回の油検知部100の出力が前回値(又は初期値)未満であると判定した場合(即ち、ステップS16で「YES」と判定した場合)、警報部106を制御して第1の警報音を出力させ(ステップS17)、さらに表示部107を制御して第2の警報情報を表示させる(ステップS18)。ここで、今回の油検知部100の出力信号が前回値(又は初期値)未満である場合とは、油検知部100の受光回路103における受光量が前回より減少した場合である。即ち、油を検知した場合である。制御部109は、ステップS18の処理を行った後、ステップS11の処理に戻る。
【0054】
一方、制御部109は、今回の油検知部100の出力信号が前回値(又は初期値)未満でないと判定した場合(即ち、ステップS16で「NO」と判定した場合)、警報部106を制御して第2の警報音を出力させ(ステップS19)、さらに表示部107を制御して第2の警報情報を表示させる(ステップS20)。ここで、今回の油検知部100の出力信号が前回値(又は初期値)未満でない場合とは、油検知部100の受光回路103における受光量が前回と変らない場合である。即ち、油を検知しない場合である。制御部109は、ステップS20の処理を行った後、ステップS11の処理に戻る。
なお、一度でも油検知部100の光ファイバ101の検知エリア101aに油300が付着した場合、拭き取らない限り付着したままになるが、メンテナンス時等で拭き取るようにすればよい。また、拭き取ることで、スポット溶接機1の導入後の最初の立ち上げ時と略同じ状態になるので、拭き取った場合はステップS10の処理から始めるとよい。
【0055】
このように、本実施形態に係るスポット溶接機1は、滑り検知部105の出力信号より電極棒本体70と把持機構761との間の滑りを検知し、且つ油検知部100の出力信号より把持機構761内への油の浸入を検知した場合、第1の警報音を出力するとともに、第1の警報情報を表示し、滑り検知部105の出力信号より電極棒本体70と把持機構761との間の滑りを検知し、且つ油検知部100の出力信号より把持機構761内への油の浸入を検知しない場合、第2の警報音を出力するとともに、第2の警報情報を表示するので、スポット溶接機1を使用して溶接作業を行っているユーザは、電極棒本体70と把持機構761との間で滑りが生じたことを把握することができ、しかもそれが作業環境の空気中に含まれる油分によるものなのか、把持機構761の一部を構成する可撓性筒状体769のクラックによるものなのかを容易に判別することができる。
【0056】
そして、該ユーザは、警報音を聞いた時点(及び/又は警報情報を見た時点)で溶接作業を止めることで、溶接不良品の発生を最小限に抑えることができる。また、該ユーザは、製造メーカ(又は販売店)に対していち早くメンテナンスを依頼することで、本発明のスポット溶接機の使用不能期間を最小限に抑えることができる。
【0057】
なお、本発明を特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
【0058】
例えば、上記実施形態に係るスポット溶接機1では、光ファイバの一部分に油が付着することによる受光量の変化から油を検知するようにしたが、2枚の導電板間に油が付着することによる静電容量の変化から油を検知することも可能である。
【0059】
また、上記実施形態に係るスポット溶接機1では、電極棒本体70と把持機構761との間の滑りの検知を加圧装置76のピストンカバー775の上端面に配置した滑り検知部105で行うようにしたが、電極棒本体70の軸心と加圧装置76の軸心を一致させることで、電極棒本体70の可撓性筒状体769に対する接触を防止しつつ、高圧空気溜り凹所771を確保可能にする転がりガイドを使用し、この転がりガイドに滑り検知部を設けて、電極棒本体70と把持機構761との間の滑りを検知するようにしてもよい。
図11は、上述した転がりガイド800を示す平面図、
図12は、
図11の転がりガイド800のB−B線断面図である。
【0060】
図11及び
図12において、転がりガイド800は、略円筒状に形成されており、内部には90度間隔で4個のガイドローラー801が配設されている。各ガイドローラー801は、軸802にて回動可能に支持されている。これらのガイドローラー801のうちの1つに対して滑り検知部115を設ける。滑り検知部115には、前述した滑り検知部105と同様に、例えばロータリーエンコーダ(図示略)が用いられ、該ロータリーエンコーダの回転軸に取り付けたゴム付きローラー115aをガイドローラー801に接触させることで、電極棒本体70と把持機構761との間の滑りを検知する。なお、滑り検知部115においても、ロータリーエンコーダ以外にリニアエンコーダを用いることができる。また、ロータリーエンコーダやリニアエンコーダのように機械的に滑りを検知するもの以外に、カメラを用いて滑りを検知するものなどが考えられる。因みに、カメラを用いて滑りを検知する場合、加圧装置76側にカメラ(図示略)を配置し、電極棒本体70側に目盛りを刻印(又は塗布)し、該目盛りをカメラで撮影することで、電極棒本体70と把持機構761との間の滑りを検知する。
【0061】
また、上記実施形態に係るスポット溶接機1は、加圧力を直接検知する手段(以下、“加圧力検知部”と呼ぶ)を有していないが、該加圧力検知部を設けることも可能である。但し、この加圧力検知部だけでは、電極棒本体70と把持機構761との間に滑りが生じた場合、その原因が油によるものか、把持機構769の可撓性筒状体769のクラックによるものなのかを判別することはできないが、加圧力が正常に加わっているかどうかを認識することができる。
【0062】
図13は、加圧装置76の下部の縦断面と加圧力検知部900とを示す図である。同図において、加圧力検知部900は、加圧装置76の下端側のピストンカバー776とハウジングプレート777との間に配設される。加圧力検知部900は、スプリング(ばね)901と、スプリング901の外径と同型で円板状の圧電素子902を有する。圧電素子902は、ハウジングプレート777に形成された凹部に内挿され、スプリング901は、その一端がピストンカバー776に固定され、他端が自由になっている。スプリング901の他端には、圧電素子902と略同径の円板状部材(図示略)が取り付けられ、この円板状部材が圧電素子902に接触するようになっている。
【0063】
起動スイッチ72が押下されて、ピストン763が下降を開始し、同時に把持され一体となった電極棒本体70も下降を開始することで、スプリング901を介して圧電素子902に圧力が加わり、その大きさに応じた電圧が圧電素子902から発生する。加圧力検知部900を制御部109に接続することで、制御部109が検知する。なお、スプリング901には、ピストン763の降下に影響を与えない程度の弾性力を有するものを用いることは言うまでもない。
【解決手段】制御部109は、滑り検知部105の出力信号より電極棒本体70と把持機構761との間の滑りを検知し、且つ油検知部100の出力信号より把持機構761内への油の浸入を検知した場合は、第1の警報音を出力するとともに、第1の警報情報を表示し、滑り検知部105の出力信号より電極棒本体70と把持機構761との間の滑りを検知し、且つ油検知部100の出力信号より把持機構761内への油の浸入を検知しない場合は、第2の警報音を出力するとともに、第2の警報情報を表示する。