(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記主表面に対して垂直な方向から見て、前記環状欠陥の最大径は、0.03mm以上である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の炭化珪素エピタキシャル基板。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示の実施形態の概要]
まず本開示の実施形態の概要について説明する。本明細書の結晶学的記載においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示す。結晶学上の指数が負であることは、通常、数字の上に”−”(バー)を付すことによって表現されるが、本明細書では数字の前に負の符号を付すことによって結晶学上の負の指数を表現する。
【0008】
(1)本開示に係る炭化珪素エピタキシャル基板100は、炭化珪素基板10と、炭化珪素エピタキシャル膜20とを備えている。炭化珪素エピタキシャル膜20は、炭化珪素基板10上にある。炭化珪素基板10および炭化珪素エピタキシャル膜20のポリタイプは、4Hである。主表面14は、{0001}面または{0001}面に対して5°以下のオフ角で傾斜した面である。主表面14の最大径は、150mm以上である。炭化珪素エピタキシャル膜20は、円弧状または環状の複数の基底面転位3と、複数の貫通転位4とを有している。複数の貫通転位4は、主表面14に対して垂直な方向から見て、複数の基底面転位3に取り囲まれた第1貫通転位1と、複数の基底面転位3に取り囲まれていない第2貫通転位2とを有している。複数の基底面転位3と第1貫通転位1とは、環状欠陥5を構成している。主表面14における複数の貫通転位4の面密度は、50cm
−2以上である。主表面14に対して垂直な方向から見た環状欠陥5の面密度を、主表面14における複数の貫通転位4の面密度で除した値は、0.00002以上0.004以下である。
【0009】
(2)上記(1)に係る炭化珪素エピタキシャル基板100において、主表面14は、(0001)面または(0001)面に対して5°以下のオフ角で傾斜した面であってもよい。
【0010】
(3)上記(1)または(2)に係る炭化珪素エピタキシャル基板100において、主表面14に対して垂直な方向から見て、環状欠陥5の最大径は、0.2mm以下であってもよい。
【0011】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに係る炭化珪素エピタキシャル基板100において、主表面14に対して垂直な方向から見て、環状欠陥5の最大径は、0.03mm以上であってもよい。
【0012】
(5)本開示に係る炭化珪素エピタキシャル基板100は、炭化珪素基板10と、炭化珪素エピタキシャル膜20とを備えている。炭化珪素エピタキシャル膜20は、炭化珪素基板10上にある。炭化珪素基板10および炭化珪素エピタキシャル膜20のポリタイプは、4Hである。主表面14は、(0001)面または(0001)面に対して5°以下のオフ角で傾斜した面である。主表面14の最大径は、150mm以上である。炭化珪素エピタキシャル膜20は、円弧状または環状の複数の基底面転位3と、複数の貫通転位4とを有している。複数の貫通転位4は、主表面14に対して垂直な方向から見て、複数の基底面転位3に取り囲まれた第1貫通転位1と、複数の基底面転位3に取り囲まれていない第2貫通転位2とを有している。複数の基底面転位3と第1貫通転位1とは、環状欠陥5を構成している。主表面14に対して垂直な方向から見て、環状欠陥5の最大径は、0.03mm以上0.2mm以下である。主表面14における複数の貫通転位4の面密度は、50cm
−2以上である。主表面14に対して垂直な方向から見た環状欠陥5の面密度を、主表面14における複数の貫通転位4の面密度で除した値は、0.00002以上0.004以下である。
【0013】
(6)本開示に係る炭化珪素半導体装置300の製造方法は以下の工程を備えている。上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の炭化珪素エピタキシャル基板100が準備される。炭化珪素エピタキシャル基板100が加工される。
【0014】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態の詳細について説明する。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。
【0015】
(炭化珪素エピタキシャル基板100)
図1、
図2および
図3に示されるように、本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板100は、炭化珪素基板10と、炭化珪素エピタキシャル膜20とを有している。炭化珪素エピタキシャル膜20は、炭化珪素基板10上にある。炭化珪素基板10は、第1主面11と、第1主面11と反対側の第2主面12とを有する。炭化珪素エピタキシャル膜20は、第1主面11と接する。炭化珪素エピタキシャル膜20は、第1主面11と接する第3主面13と、第3主面13と反対側の主表面14とを有する。炭化珪素基板10および炭化珪素エピタキシャル膜20のポリタイプは、4Hである。
図1に示されるように、炭化珪素エピタキシャル基板100には、第1方向101に延在する第1フラット17が設けられていてもよい。炭化珪素エピタキシャル基板100には、第2方向102に延在する第2フラット(図示せず)が設けられていてもよい。
【0016】
第2方向102は、たとえば<1−100>方向である。第1方向101は、主表面14に対して平行であり、かつ第2方向102に対して垂直な方向である。第1方向101は、たとえば<11−20>方向成分を含む方向である。
図1に示されるように、主表面14の最大径111(直径)は、たとえば150mm以上である。最大径111は、200mm以上でもよいし、250mm以上でもよい。最大径111の上限は特に限定されない。最大径111は、たとえば300mm以下であってもよい。
【0017】
炭化珪素基板10は、たとえば炭化珪素単結晶から構成される。炭化珪素基板10は、たとえば窒素(N)などのn型不純物を含んでいる。炭化珪素基板10の導電型は、たとえばn型である。第1主面11は、{0001}面または{0001}面に対して5°以下のオフ角で傾斜した面である。第1主面11が{0001}面に対して傾斜している場合、第1主面11の傾斜方向は、たとえば<11−20>方向である。炭化珪素基板10の厚みは、たとえば350μm以上500μm以下である。
【0018】
炭化珪素エピタキシャル膜20は、たとえば窒素などのn型不純物を含んでいる。炭化珪素エピタキシャル膜20の導電型は、たとえばn型である。炭化珪素エピタキシャル膜20主表面14は、{0001}面または{0001}面に対して5°以下のオフ角θで傾斜した面である。具体的には、主表面14は、(0001)面または(0001)面に対して5°以下のオフ角θで傾斜した面である。主表面14は、(000−1)面または(000−1)面に対して5°以下のオフ角θで傾斜した面であってもよい。オフ方向は、たとえば<11−20>方向である。なお、オフ方向は、<11−20>方向に限定されない。オフ方向は、たとえば<1−100>方向であってもよいし、<1−100>方向成分と<11−20>方向成分とを有する方向であってもよい。オフ角θは、主表面14が{0001}面に対して傾斜している角度である。オフ角θは、たとえば0°より大きく5°以下である。オフ角θは、1°以上であってもよいし、2°以上であってもよい。オフ角は、4°以下であってもよい。
【0019】
図3において破線で記載された面は、たとえば{0001}面である。第3方向103は、{0001}面に対して垂直な方向である。第3方向103は、たとえば[0001]方向である。第4方向104は、第3方向103に対して垂直な方向である。第4方向104は、たとえば<11−20>方向である。第4方向104は、たとえばオフ方向である。主表面14の法線方向は、第5方向105である。第5方向は、たとえば[0001]方向に対してオフ方向にオフ角θだけ傾斜した方向である。
【0020】
図3に示されるように、炭化珪素エピタキシャル膜20は、第1層21と、第2層22とを含む。第1層21は、たとえばバッファ層である。第2層22は、たとえばドリフト層である。第1層21は、第1主面11に接している。第1層21は、第3主面13を構成する。第2層22は、第1層21上にある。第2層22は、主表面14を構成する。第1層21の厚みは、たとえば0.5μm以上2μm以下である。第2層22の厚みは、たとえば5μm以上30μm以下である。
【0021】
第1層21および第2層22の各々は、たとえば窒素などのn型不純物を含んでいる。第1層21が含むn型不純物の濃度は、たとえば1×10
17cm
−3以上1×10
19cm
−3以下である。第2層22が含むn型不純物の濃度は、たとえば1×10
15cm
−3以上1×10
16cm
−3以下である。第1層21が含むn型不純物の濃度は、炭化珪素基板10が含むn型不純物の濃度より低くてもよい。第1層21が含むn型不純物の濃度は、第2層22が含むn型不純物の濃度より高くてもよい。n型不純物の濃度は、たとえば水銀プローブ方式のC−V測定装置により測定される。プローブの面積は、たとえば0.005cm
2である。
【0022】
図2および
図3に示されるように、炭化珪素エピタキシャル膜20は、複数の基底面転位3と、複数の貫通転位4とを有している。複数の基底面転位3の各々は、{0001}面と平行な平面内にある。別の観点から言えば、複数の基底面転位3の各々は、{0001}面と平行な方向に延在している。複数の貫通転位4の各々は、主表面14に対してほぼ垂直な方向に沿って延在している。複数の貫通転位4の各々は、第2主面から主表面14まで延在している。複数の貫通転位4の各々は、炭化珪素エピタキシャル膜20および炭化珪素基板10の各々を貫通するように設けられている。複数の貫通転位4の各々は、第2主面12および主表面14の双方に露出している。貫通転位は、貫通刃状転位であってもよいし、貫通螺旋転位であってもよい。
【0023】
図2に示されるように、複数の貫通転位4は、第1貫通転位1と、第2貫通転位2とを有している。第1貫通転位1は、主表面14に対して垂直な方向から見て、複数の基底面転位3に取り囲まれている。第2貫通転位2は、複数の基底面転位3に取り囲まれていない。
【0024】
図2に示されるように、複数の基底面転位3は、主表面14に対して垂直な方向から見て、第1貫通転位1を取り囲むように設けられている。複数の基底面転位3は、第1貫通転位1を完全に取り囲んでいてもよいし、部分的に取り囲んでいてもよい。基底面転位3は、たとえば完全な環状である。基底面転位3は、主表面14に対して垂直な方向から見て、略円形状または略楕円形状であってもよい。基底面転位3は、完全な環状ではなく、部分的に環状であってもよい。基底面転位3は、たとえば円弧状の部分を有していてもよい。
【0025】
複数の基底面転位3は、たとえば第1基底面転位31と、第2基底面転位32と、第3基底面転位33と、第4基底面転位34と、第5基底面転位35とを有している。
図2に示されるように、第1基底面転位31と、第3基底面転位33と、第4基底面転位34とは、完全な環状である。第2基底面転位32と、第5基底面転位35とは、部分的に環状である。
【0026】
複数の基底面転位3と第1貫通転位1とは、環状欠陥5を構成している。具体的には、
図2に示されるように、第1貫通転位1と、第1基底面転位31と、第2基底面転位32とが、1つの環状欠陥5を構成している。また第1貫通転位1と、第3基底面転位33と、第4基底面転位34と、第5基底面転位35とが、1つの環状欠陥5を構成している。
図2の視野においては、環状欠陥5の数は2個である。
【0027】
第1貫通転位1は、複数の基底面転位3の各々に取り囲まれている。主表面14に対して垂直な方向から見て、複数の基底面転位3の各々は、第1貫通転位1を中心として同心円状に設けられていてもよい。複数の基底面転位3の各々は、同じ平面内に位置していてもよい、異なる平面内に位置していてもよい。
図3に示されるように、第1基底面転位31は、第2基底面転位32と異なる平面内に位置していてもよい。第1基底面転位31が位置する平面は、第2基底面転位32が位置する平面から離間しており、かつ平行であってもよい。
【0028】
図4は、環状欠陥5の第1変形例を示す平面模式図である。
図4に示されるように、基底面転位3が部分的に環状である場合、主表面14に対して垂直な方向から見て、第1貫通転位1から延びかつ基底面転位3の一端を通る第1線分41と、第1貫通転位1から延びかつ基底面転位3の他端を通る第2線分42とがなす角度φは、たとえば270°以上である。別の観点から言えば、基底面転位3は、第1貫通転位1の外周の270°以上を取り囲んでいる。複数の基底面転位3において、全ての基底面転位3が部分的に環状であってもよいし、一部の基底面転位3が部分的に環状であってもよいし、全ての基底面転位3が完全に環状であってもよい。
【0029】
図5は、環状欠陥5の第2変形例を示す平面模式図である。
図5に示されるように、複数の基底面転位3は、たとえば、第6基底面転位36と、第7基底面転位37と、第8基底面転位38と、第9基底面転位39と、第10基底面転位40とを有している。第6基底面転位36は、第1貫通転位1の外側にある。第7基底面転位37は、第6基底面転位36の外側にある。第8基底面転位38は、第7基底面転位37の外側にある。第9基底面転位39は、第8基底面転位38の外側にある。第10基底面転位40は、第9基底面転位39の外側にある。
【0030】
主表面14に対して垂直な方向から見て、第1貫通転位1と、最外周に位置する第10基底面転位40とを結ぶ線分43を想定する。当該線分43と第10基底面転位40と接点を第1位置44とし、第1位置44と第1貫通転位1との中間位置を第2位置45とする。第1貫通転位1から第2位置45までの距離114は、第2位置45から第1位置44までの距離113と同じである。
図5に示す環状欠陥5においては、第1貫通転位1から第2位置45までの領域には、3つの基底面転位(第6基底面転位36、第7基底面転位37および第8基底面転位38)が存在し、第2位置45から第1位置44までの領域には、2つの基底面転位(第9基底面転位39および第10基底面転位40)が存在する。第1貫通転位1から第2位置45までの領域における基底面転位の線密度は、第2位置45から第1位置44までの領域における基底面転位の線密度よりも高くてもよい。別の観点から言えば、環状欠陥5の内周側の基底面転位3の線密度は、環状欠陥5の外周側の基底面転位3の線密度よりも高くてもよい。
【0031】
図2に示されるように、主表面14における複数の貫通転位4の面密度は、50cm
−2以上である。貫通転位4は、第1貫通転位1と、第2貫通転位2とを含む。主表面14における複数の貫通転位4の面密度の下限は特に限定されないが、当該面密度は、たとえば100cm
−2以上であってもよいし、200cm
−2以上であってもよい。主表面14における複数の貫通転位4の面密度の上限は特に限定されないが、当該面密度は、たとえば5000cm
−2以下であってもよいし、1000cm
−2以下であってもよい。
【0032】
主表面14に対して垂直な方向から見た環状欠陥5の面密度を、主表面14における複数の貫通転位4の面密度で除した値は、0.00002以上0.004以下である。当該値の下限は特に限定されないが、当該値は、たとえば0.00004以上であってもよいし、0.00008以上であってもよい。当該値の上限は特に限定されないが、当該値は、たとえば0.002以下であってもよいし、0.001以下であってもよい。
【0033】
図2に示されるように、主表面14に対して垂直な方向から見て、環状欠陥5の最大径112は、たとえば0.2mm以下である。最大径112の上限は特に限定されないが、たとえば0.1mm以下であってもよいし、0.05mm以下であってもよい。主表面14に対して垂直な方向から見て、環状欠陥5の最大径112は、たとえば0.03mm以上である。最大径112の下限は特に限定されないが、たとえば0.05mm以上であってもよいし、0.08mm以上であってもよい。
【0034】
後述のように、炭化珪素基板10の第1主面11においては、スクラッチ(研磨痕)がほとんど形成されていない。そのため、第1主面11に多数のスクラッチが形成されている場合と比較して、第1主面11上に形成される炭化珪素エピタキシャル膜20の主表面14の表面粗さは小さくなる。具体的には、第1主面11の算術平均粗さ(Sa)は、たとえば0.5nm以下である。算術平均粗さ(Sa)は、二次元の算術平均粗さ(Ra)を三次元に拡張したパラメータである。算術平均粗さ(Sa)は、たとえば白色干渉顕微鏡により測定することができる。具体的には、炭化珪素エピタキシャル膜20を炭化珪素基板10から除去した後、炭化珪素基板10の第1主面11が白色干渉顕微鏡により観察される。白色干渉顕微鏡として、たとえばニコン社製のBW−D507を用いることができる。算術平均粗さ(Sa)の測定範囲は、たとえば255μm×255μmの正方形領域である。正方形領域の対角線の中心は、たとえば第1主面11の中心とされる。
【0035】
(環状欠陥の面密度の測定方法)
次に、環状欠陥5の面密度の測定方法について説明する。基底面転位3を有する環状欠陥5の観察には、たとえば株式会社フォトンデザイン社製のフォトルミネッセンスイメージング装置(型番:PLIS−100)が用いられる。炭化珪素エピタキシャル基板100の被測定領域に対して励起光が照射されると、被測定領域からフォトルミネッセンス光が観測される。励起光源としては、たとえば水銀キセノンランプが使用される。光源からの励起光は、313nmのバンドパスフィルターを通過した後、被測定領域に照射される。フォトルミネッセンス光は、たとえば750nmのローパスフィルタを通過した後、カメラ等の受光素子に到達する。以上のように、被測定領域のフォトルミネッセンス画像が撮影される。測定温度は、室温である。
【0036】
たとえば炭化珪素エピタキシャル膜20の主表面14と平行な方向に炭化珪素エピタキシャル基板100を移動させながら、主表面14のフォトルミネッセンス画像が撮影される。これにより、主表面14の全領域におけるフォトルミネッセンス画像がマッピングされる。取得されたフォトルミネッセンス画像において環状の基底面転位が特定される。略同心円状に設けられた複数の基底面転位3の集まりが1つの環状欠陥5を構成する。環状欠陥5の合計数を全測定面積で除することにより、環状欠陥5の面密度が算出される。
【0037】
(貫通転位の面密度の測定方法)
次に、貫通転位4の面密度の測定方法について説明する。貫通転位4は、たとえばエッチピット法によって確認することができる。エッチピット法によれば、たとえば次のようにして、貫通転位4に起因するピットを判別できる。エッチングには、たとえば水酸化カリウム(KOH)融液が用いられる。KOH融液の温度は、500℃以上550℃以下程度とする。エッチング時間は、5分以上10分以下程度とする。エッチング後、ノルマルスキー微分干渉顕微鏡によって主表面14を観察する。貫通らせん転位に由来するエッチピットは、たとえば平面形状が六角形状であり、かつ六角形の対角線の長さは、典型的には30μm以上50μm以下程度となる。貫通刃状転位に由来するエッチピットは、たとえば平面形状が六角形状であり、かつ貫通らせん転位に由来するエッチピットよりも小さい。貫通刃状転位に由来するエッチピットにおいて、六角形の対角線の長さは、典型的には15μm以上20μm以下程度となる。
【0038】
上述の通り、複数の貫通転位4の各々は、炭化珪素エピタキシャル膜20および炭化珪素基板10の各々を貫通している。そのため、炭化珪素エピタキシャル膜20の主表面14における貫通転位4の面密度は、炭化珪素基板10の第1主面11における貫通転位4の面密度と同じであると推定することができる。特に、主表面14が(000−1)面または(000−1)面に対して5°以下のオフ角θで傾斜した面である場合には、KOH融液によって主表面14にエッチピットが出現しづらい。この場合、炭化珪素基板10から炭化珪素エピタキシャル膜20を除去した後、炭化珪素基板10の第1主面11における貫通転位4の面密度を測定してもよい。第1主面11における貫通転位4の面密度が、主表面14における貫通転位4の面密度と同じであると推定される。
【0039】
(炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法)
次に、本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の製造方法について説明する。
【0040】
まず、炭化珪素単結晶基板準備工程が実施される。たとえば昇華法により、ポリタイプ4Hの炭化珪素単結晶が製造される。次に、たとえばワイヤーソーによって、炭化珪素単結晶をスライスすることにより、炭化珪素基板10が準備される(
図6参照)。炭化珪素基板10は、たとえば窒素などのn型不純物を含んでいる。炭化珪素基板10の導電型は、たとえばn型である。
【0041】
図6に示されるように、炭化珪素基板10は、第1主面11と、第1主面11の反対側にある第2主面12とを有する。第1主面11は、たとえば(0001)面に対してオフ角θだけオフ方向に傾斜した面である。オフ方向は、たとえば<11−20>方向である。炭化珪素基板10の第1主面11の最大径は、たとえば150mm以上である。炭化珪素基板10には、たとえば貫通転位4が存在する。貫通転位4は、第1主面11および第2主面12の双方に露出している。
【0042】
次に、機械研磨工程が実施される。機械研磨工程においては、炭化珪素基板10の第1主面11に対して機械研磨が行われる。具体的には、第1主面11が定盤に対向するように炭化珪素基板10が研磨ヘッドに保持される。定盤と第1主面11との間に砥粒を含むスラリーが供給される。砥粒は、たとえばダイヤモンド砥粒である。貫通転位4付近は、その周りの部分と比較して機械的に弱い。そのため、機械研磨工程後、第1主面11において貫通転位4に連なる凹部15が形成される(
図7参照)。
【0043】
次に、化学的機械研磨工程が実施される。化学的機械研磨工程においては、炭化珪素基板10の第1主面11に対して化学的機械研磨が行われる。具体的には、第1主面11が定盤に対向するように炭化珪素基板10が研磨ヘッドに保持される。定盤と第1主面11との間に砥粒を含むスラリーが供給される。砥粒は、たとえばナノダイヤモンド砥粒である。ナノダイヤモンド砥粒の平均粒径は、たとえば3nmから4nmである。スラリーは、たとえば過酸化水素水(酸化剤)を含む。
【0044】
一般的に、炭化珪素基板10に対して化学的機械研磨が行われる場合、コロイダルシリカを含むスラリーと酸化剤とを含む研磨液が用いられる。当該研磨液の場合には、酸化などの化学反応を利用して炭化珪素基板10の表面を酸化物に変え、当該酸化物が炭化珪素よりも硬度の低いコロイダルシリカによって除去される。つまり、酸化剤の化学的作用を主に利用して、炭化珪素基板10の第1主面11が研磨される。酸化剤の化学的作用が原因で、貫通転位4が露出している第1主面11の部分に突起16(
図8参照)が形成される。当該突起16の上に炭化珪素エピタキシャル膜20が成長すると、突起16に起因した環状欠陥5(
図3参照)が炭化珪素エピタキシャル膜20に形成されやすくなる。
【0045】
本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の製造方法においては、ナノダイヤモンドの物理的作用を主に利用して、炭化珪素基板10の第1主面11が研磨される。つまり、本実施形態の化学的機械研磨工程においては、濃度の低い過酸化水素水が使用される。過酸化水素水の濃度は、たとえば5%である。そのため、本実施形態の化学的機械研磨方法を用いた場合、主に物理的作用により第1主面11が研磨される。仮に過酸化水素水の化学的作用により第1主面11に突起16が形成された場合であっても、ナノダイヤモンドの物理的作用により当該突起16は除去される。結果として、第1主面11において、貫通転位に連なる突起16が形成されることを抑制することができる(
図8参照)。そのため、上記突起16に起因して発生する環状欠陥5を低減することができる。
【0046】
なお、環状欠陥5をさらに低減するためには、過酸化水素水の化学的作用を利用することなく、ナノダイヤモンドの物理的作用のみで機械研磨を行うことが考えられる。しかしながら、ナノダイヤモンドの物理的作用のみで機械研磨を行うと、炭化珪素基板10の第1主面11にスクラッチ(研磨痕)が発生しやすくなる。そのため、ある程度、過酸化水素水を含む研磨液を使用することが望ましい。第1主面11に、ある程度突起16が残っていてもよい。
【0047】
次に、炭化珪素基板10上に炭化珪素エピタキシャル膜20が形成される。具体的には、炭化珪素基板10が、たとえば1630℃程度に昇温される。次に、炭化珪素基板10が水素ガスによってエッチングされる。次に、たとえばシラン(SiH
4)とプロパン(C
3H
8)とアンモニア(NH
3)と水素とを含む混合ガスを用いて、炭化珪素基板10上にバッファ層21が形成される。シランガスの流量は、たとえば46sccmとなるように調整される。プロパンガスの流量は、たとえば29sccmとなるように調整される。アンモニアガスの流量は、たとえば1.5sccmとなるように調整される。水素ガスの流量は、100slmとなるように調整される。バッファ層21の厚みは、たとえば1μmである。
【0048】
次に、たとえばシランとプロパンとアンモニアと水素とを含む混合ガスを用いて、バッファ層21上にドリフト層22が形成される。具体的には、シランガスの流量は、たとえば115sccmとなるように調整される。プロパンガスの流量は、たとえば57.6sccmとなるように調整される。アンモニアガスの流量は、たとえば2.5×10
−2sccmとなるように調整される。水素ガスの流量は、100slmとなるように調整される。ドリフト層22の厚みは、たとえば10μmである。バッファ層21とドリフト層22とが、炭化珪素エピタキシャル膜20を構成する。これにより、炭化珪素基板10と、炭化珪素エピタキシャル膜20とを有する炭化珪素エピタキシャル基板100が製造される(
図3参照)。
【0049】
(炭化珪素半導体装置の製造方法)
次に、本実施形態に係る炭化珪素半導体装置300の製造方法について説明する。
【0050】
本実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法は、エピタキシャル基板準備工程(S10:
図9)と、基板加工工程(S20:
図9)とを主に有する。
【0051】
まず、エピタキシャル基板準備工程(S10:
図9)が実施される。具体的には、前述した炭化珪素エピタキシャル基板100の製造方法によって、炭化珪素エピタキシャル基板100が準備される(
図3参照)。
【0052】
次に、基板加工工程(S20:
図9)が実施される。具体的には、炭化珪素エピタキシャル基板100を加工することにより、炭化珪素半導体装置が製造される。「加工」には、たとえば、イオン注入、熱処理、エッチング、酸化膜形成、電極形成、ダイシング等の各種加工が含まれる。すなわち基板加工ステップは、イオン注入、熱処理、エッチング、酸化膜形成、電極形成およびダイシングのうち、少なくともいずれかの加工を含むものであってもよい。
【0053】
以下では、炭化珪素半導体装置の一例としてのMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)の製造方法を説明する。基板加工工程(S20:
図9)は、たとえばイオン注入工程(S21:
図9)、酸化膜形成工程(S22:
図9)、電極形成工程(S23:
図9)およびダイシング工程(S24:
図9)を含む。
【0054】
まず、イオン注入工程(S21:
図9)が実施される。開口部を有するマスク(図示せず)が形成された主表面14に対して、たとえばアルミニウム(Al)等のp型不純物が注入される。これにより、p型の導電型を有するボディ領域132が形成される。次に、ボディ領域132内の所定位置に、たとえばリン(P)等のn型不純物が注入される。これにより、n型の導電型を有するソース領域133が形成される。次に、アルミニウム等のp型不純物がソース領域133内の所定位置に注入される。これにより、p型の導電型を有するコンタクト領域134が形成される(
図10参照)。
【0055】
炭化珪素エピタキシャル膜20の第2層22において、ボディ領域132、ソース領域133およびコンタクト領域134以外の部分は、ドリフト領域131となる。ソース領域133は、ボディ領域132によってドリフト領域131から隔てられている。イオン注入は、炭化珪素エピタキシャル基板100を300℃以上600℃以下程度に加熱して行われてもよい。イオン注入の後、炭化珪素エピタキシャル基板100に対して活性化アニールが行われる。活性化アニールにより、炭化珪素エピタキシャル膜20に注入された不純物が活性化し、各領域においてキャリアが生成される。活性化アニールの雰囲気は、たとえばアルゴン(Ar)雰囲気である。活性化アニールの温度は、たとえば1800℃程度である。活性化アニールの時間は、たとえば30分程度である。
【0056】
次に、酸化膜形成工程(S22:
図9)が実施される。たとえば炭化珪素エピタキシャル基板100が酸素を含む雰囲気中において加熱されることにより、主表面14上に酸化膜136が形成される(
図11参照)。酸化膜136は、たとえば二酸化珪素等から構成される。酸化膜136は、ゲート絶縁膜として機能する。熱酸化処理の温度は、たとえば1300℃程度である。熱酸化処理の時間は、たとえば30分程度である。
【0057】
酸化膜136が形成された後、さらに窒素雰囲気中で熱処理が行なわれてもよい。たとえば、一酸化窒素の雰囲気中、1100℃程度で1時間程度、熱処理が実施される。さらにその後、アルゴン雰囲気中で熱処理が行なわれる。たとえば、アルゴン雰囲気中、1100℃以上1500℃以下程度で、1時間程度、熱処理が行われる。
【0058】
次に、電極形成工程(S23:
図9)が実施される。具体的には、ゲート電極141は、酸化膜136上に形成される。ゲート電極141は、たとえばCVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成される。ゲート電極141は、たとえば導電性を有するポリシリコン等から構成される。ゲート電極141は、ソース領域133およびボディ領域132に対面する位置に形成される。
【0059】
次に、ゲート電極141を覆う層間絶縁膜137が形成される。層間絶縁膜137は、たとえばCVD法により形成される。層間絶縁膜137は、たとえば二酸化珪素等から構成される。層間絶縁膜137は、ゲート電極141と酸化膜136とに接するように形成される。次に、酸化膜136および層間絶縁膜137の一部がエッチングによって除去される。これにより、ソース領域133およびコンタクト領域134が、酸化膜136から露出する。
【0060】
次に、たとえばスパッタリング法により当該露出部にソース電極142が形成される。ソース電極142は、たとえばチタン、アルミニウムおよびシリコン等から構成される。ソース電極142が形成された後、ソース電極142と炭化珪素エピタキシャル基板100が、たとえば900℃以上1100℃以下程度の温度で加熱される。これにより、ソース電極142と炭化珪素エピタキシャル基板100とがオーミック接触するようになる。次に、ソース電極142に接するように、配線層138が形成される。配線層138は、たとえばアルミニウムを含む材料から構成される。次に、第3主面13にドレイン電極143が形成される。ドレイン電極143は、たとえばニッケルおよびシリコンを含む合金(たとえばNiSi等)から構成される。
【0061】
次に、ダイシング工程(S24:
図9)が実施される。たとえば炭化珪素エピタキシャル基板100がダイシングラインに沿ってダイシングされることにより、炭化珪素エピタキシャル基板100が複数の半導体チップに分割される。以上より、炭化珪素半導体装置300が製造される(
図12参照)。
【0062】
なお上記において、MOSFETを例示して、本開示に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を説明したが、本開示に係る製造方法はこれに限定されない。本開示に係る製造方法は、たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、SBD(Schottky Barrier Diode)、サイリスタ、GTO(Gate Turn Off thyristor)、PiNダイオード等の炭化珪素半導体装置に適用可能である。
【0063】
次に、本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板100および炭化珪素半導体装置の製造方法の作用効果について説明する。
【0064】
一般的に、炭化珪素基板10には貫通転位4が存在している。貫通転位4を有する炭化珪素基板10に対して化学的機械研磨が実施されると、スラリーに含まれる酸化剤の化学的作用によって、貫通転位4が露出している炭化珪素基板の表面に突起16(
図8参照)が形成される場合がある。当該突起16の上に炭化珪素エピタキシャル膜20が成長すると、突起16に起因した環状欠陥5(
図3参照)が炭化珪素エピタキシャル膜20に形成されやすくなる。当該環状欠陥5は、炭化珪素半導体装置の信頼性を低下させる。
【0065】
本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板100によれば、主表面14に対して垂直な方向から見た環状欠陥5の面密度を、主表面14における複数の貫通転位4の面密度で除した値は、0.004以下である。これにより、ある程度多数の貫通転位4を有する炭化珪素エピタキシャル基板100に場合において、環状欠陥5の割合を低減することができる。そのため、炭化珪素半導体装置300の信頼性を向上させることができる。
【0066】
また本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板100によれば、主表面14に対して垂直な方向から見た環状欠陥5の面密度を、主表面14における複数の貫通転位4の面密度で除した値は、0.00002以上である。上述のように、環状欠陥5をさらに低減するためには、ナノダイヤモンドの物理的作用の割合をさらに高めて化学的機械研磨を行うことが考えられる。しかしながら、物理的作用の割合を高めると、炭化珪素基板10にスクラッチが発生しやすくなる。上記値を0.00002以上とすれば、ナノダイヤモンドの物理的作用をさらに高める必要がないため、炭化珪素基板10にスクラッチが発生することを抑制することができる。
【0067】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。