(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1記載のマグネットチャックにおいて、前記複数個の永久磁石の各々が、前記ワーク磁着面に対して直交する方向に着磁されたものであることを特徴とするマグネットチャック。
請求項2〜4のいずれか1項に記載のマグネットチャックにおいて、前記永久磁石は、ヨークを介して前記ピストンに支持されていることを特徴とするマグネットチャック。
請求項1記載のマグネットチャックにおいて、前記ワーク磁着面に対して直交する方向に着磁された2個の永久磁石を含んでハルバッハ配列された少なくとも3個の永久磁石を有し、前記2個の永久磁石中の1個のN極と、残余の1個のS極とがワーク磁着面に露呈していることを特徴とするマグネットチャック。
請求項1記載のマグネットチャックにおいて、前記永久磁石がU字型磁石からなり、前記U字型磁石の各々のN極及びS極がワーク磁着面に露呈していることを特徴とするマグネットチャック。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
重量が大きなワークを吸引するときには、永久磁石として磁力が大きなものを選定すればよいと考えられる。この場合、吸引力も大きくなると期待されるからである。しかしながら、特に、ワークが薄板の場合、ワークの内部で磁気飽和が起こるため、吸引力を大きくすることが容易ではない。
【0007】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、ワークに対して大きな吸引力が発現するマグネットチャックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明は、複数個の永久磁石の磁力によって、ワークに臨むワーク磁着面で前記ワークを吸引保持するマグネットチャックであって、
シリンダチューブ内に収容されたピストンを有し、
前記複数個の永久磁石は、前記ピストンが圧力流体から押圧力を受けて変位することに追従して、前記ピストンの変位方向と同一方向に変位し、
且つ前記複数個の永久磁石は、前記ワーク磁着面に、N極とS極の組み合わせが1組以上存在するように配列されていることを特徴とする。
【0009】
永久磁石は、1個でもよい。すなわち、本発明は、1個の永久磁石の磁力によって、ワークに臨むワーク磁着面で前記ワークを吸引保持するマグネットチャックであって、
シリンダチューブ内に収容されたピストンを有し、
前記永久磁石は、前記ピストンが圧力流体から押圧力を受けて変位することに追従して、前記ピストンの変位方向と同一方向に変位し、
且つ前記永久磁石は、前記ワーク磁着面にN極とS極の組み合わせが1組以上存在するように着磁されていることを特徴とする。
【0010】
上記の各構成において、ワーク磁着面に露呈したN極から出発した磁束は、同じくワーク磁着面に露呈したS極に向かう。このため、ワーク磁着面の磁極がN極又はS極のいずれか一方、すなわち、1極である従来技術に係るマグネットチャックに比して、ワーク内で磁路(磁束量)が多くなる。すなわち、ワーク内で磁気飽和が生じる点では従来技術と同様であるものの、ワークを通る磁束が従来技術に比して顕著に増加する。その結果として、ワークに対して大きな吸引力が発現する。従って、ワークが薄肉鋼板であるような場合であっても、ワークを有効に磁着することが可能となる。
【0011】
以上から諒解されるように、本発明では、永久磁石の素材や特性等が、従来技術に係るマグネットチャックの永久磁石と同一であれば、寸法を同一としたときにはワークに対する吸引力を大きくすることができる。一方、吸引力を従来技術に係るマグネットチャックの永久磁石と同等とする場合、永久磁石の寸法を小さくすることができるので、マグネットチャックの小型化(コンパクト化)を図ることができる。
【0012】
永久磁石を複数個用いる場合、該永久磁石としては、例えば、ワーク磁着面に対して直交する方向に着磁されたものを採用することができる。この場合、永久磁石では、ワーク磁着面(ワーク対向面)とその裏面で磁極が異なる。従って、複数個の永久磁石を用いることにより、1組以上のN極とS極の組み合わせをワーク磁着面に形成することができる。
【0013】
しかも、この構成では、ワーク磁着面に露呈したN極を出発した磁束が、ワーク磁着面に露呈したS極と、ワーク磁着面の裏面であるS極との双方に向かう。すなわち、磁路(磁束量)が一層増加する。このことも相俟って、吸引力がさらに向上する。
【0014】
この構成において、ワーク磁着面には、N極とS極が1極ずつ(換言すれば、N極とS極の組み合わせが1組)存在すれば十分である。ただし、N極とS極が2極ずつ(N極とS極の組み合わせが2組)存在すると、吸引力がさらに大きくなるので好適である。
【0015】
以上の構成の永久磁石を、ヨークを介してピストンに支持するようにしてもよい。この場合、ヨークの存在下に永久磁石の吸引力が一層強力になる。従って、ワークを一層有効に吸引保持することができるようになる。
【0016】
永久磁石として、ハルバッハ配列された少なくとも3個の永久磁石を用いるようにしてもよい。すなわち、この場合、ワーク磁着面に対して直交する方向に着磁された2個と、これら2個の間に、ワーク着磁面に対して平行な方向に着磁された少なくとも1個とでハルバッハ配列を形成する。そして、ワーク磁着面に対して直交する方向に着磁された2個中の1個のN極と、残余の1個のS極とをワーク磁着面に露呈させればよい。
【0017】
複数個の永久磁石の各々がU字型磁石であってもよい。U字型磁石は、2本の先端の一方がN極、他方がS極である。従って、各U字型磁石の双方をワークに臨ませることにより、2組以上のN極とS極をワーク磁着面に露呈し得る。
【0018】
一方、永久磁石の個数を単一個とするときには、該永久磁石として、例えば、U字型に着磁されたものを用いればよい。この場合、ワーク磁着面にN極とS極の双方が露呈する。なお、このような永久磁石は、一端面にU字型磁石を近接させて着磁を行うことで作製することができる。
【0019】
又は、ワーク磁着面に対して直交する方向に着磁がなされた永久磁石であってもよい。すなわち、この場合、ワーク磁着面にN極とS極の双方が露呈するとともに、その裏面にも、S極とN極の双方が露呈する。なお、このような永久磁石は、一端面にU字型磁石を近接させるとともに、その裏面に別のU字型磁石を近接させて着磁を行うことで作製することができる。
【0020】
以上の構成において、永久磁石が回転すると、オートスイッチの近傍で磁束密度が変化し、その結果としてオートスイッチが誤作動を起こす可能性があるとも考えられる。そこで、
本発明では、シリンダチューブに、永久磁石が回転することを防止するための回転防止部材を設け
る。これにより、上記のような事態が惹起される懸念を払拭することができる。
【0021】
回転防止部材を設けるときには、回転防止部材を強磁性体金属から構成し、且つワーク磁着面で隣接するN極とS極との境界に配設することが好ましい。この配置では、他の位置に回転防止部材を設けるときに比して永久磁石が最も回転し難くなる。
【0022】
回転防止部材は、シリンダチューブとヘッドカバーを連結するための連結部材
からなる。この場合、マグネットチャックを組み立てるための連結部材が回転防止部材となるので、連結部材とは別に回転防止部材を用いる必要がない。従って、部品点数が増加することを回避し得るので、マグネットチャックの一層のコンパクト化を図ることができる。また、コスト的に有利である。
【0023】
また、ピストンの側壁にシール部材を設け、該シール部材によってピストンとシリンダチューブとの間をシールすることが好ましい。この場合、永久磁石が前進又は後退するときのいずれにおいても、ピストンが圧縮流体からの押圧力を受ける。永久磁石が前進するときのピストンの受圧面積と、後退するときのピストンの受圧面積とが略同等であることから、前進・後退時における推進力が略同等となる。従って、例えば、ワークの磁着時と解放時の応答速度を略同等とすることができる。
【0024】
さらに、シリンダチューブに取り付けられて永久磁石を覆うマグネットカバーを設けるとともに、該マグネットカバーに、緩衝部材を着脱可能に取り付けるとよい。この構成では、永久磁石がワークを吸引するときに緩衝部材が該ワークに当接して干渉する。従って、マグネットチャックに作用する応力が緩和される。すなわち、緩衝部材が緩衝作用を営む。このため、マグネットチャックが振動することを抑制することができる。
【0025】
緩衝部材は、同時に、滑り止めとしても機能する。すなわち、緩衝部材と、磁着されたワークとの間に摩擦抵抗が生じる。このためにワークが緩衝部材に対して滑動することが困難となるので、ワークがマグネットチャックから離脱することが有効に防止される。
【0026】
この構成においては、緩衝部材を複数個とし、且つ緩衝部材同士を、マグネットカバーからの突出厚みが互いに相違するものとすることが好ましい。この場合、緩衝部材を交換することによってワークに対する吸引力を変化させることができる。緩衝部材の、マグネットカバーから突出した部位は、ワークに干渉する。従って、緩衝部材のマグネットカバーからの突出厚みが大きくなるほど永久磁石とワークとの間の距離が大きくなる。その結果として、永久磁石による磁力の影響がワークに及び難くなるからである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ワーク磁着面に、N極とS極との組み合わせを1組以上形成するようにしている。このような構成とすることにより、ワーク磁着面の磁極がN極又はS極のいずれか一方、すなわち、1極である従来技術に係るマグネットチャックに比して、ワーク内で磁路(磁束量)が多くなる。その結果、ワークに対して大きな吸引力が発現するので、ワークを有効に磁着することができるようになる。これは、異なる磁極同士(N極とS極)を隣接させたときに特に顕著となる。
【0028】
このように吸引力が大きくなることから、ワークが、内部で磁気飽和が起こり易い薄肉のもの(例えば、薄肉鋼板)であるような場合であっても、十分に保持することができる。すなわち、ワークの厚みが小さいときに特に有効である。
【0029】
従って、永久磁石の素材や特性等が、従来技術に係るマグネットチャックの永久磁石と同一であれば、寸法を同一としたときにはワークに対する吸引力を大きくすることができる。一方、吸引力を従来技術に係るマグネットチャックの永久磁石と同等とする場合、永久磁石の寸法を小さくすることができるので、マグネットチャックの小型化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係るマグネットチャックにつき、好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明中の「下」、「上」は、
図1、
図3及び
図4における下、上に対応する。また、本実施の形態では、圧縮エアを動作流体として用いる場合を例示する。
【0032】
図1〜
図3は、それぞれ、本実施の形態に係るマグネットチャック10の要部概略斜視図、
図1中の矢印A方向からの矢視平面図、
図2中のIII−III線矢視断面図である。マグネットチャック10は、
図3に示すワーク12を吸引保持する。勿論、ワーク12は強磁性体からなり、その具体例としては薄肉鋼板が挙げられる。ワーク12の厚みT1は、例えば、0.5〜2mm程度であり、典型的には約0.6mmである。
【0033】
マグネットチャック10は、シリンダチューブ14に対してマグネットカバー16、ヘッドカバー18が取り付けられることで構成されたハウジング20を有する。以下、
図3を主に参照して説明すると、先ず、マグネットカバー16は、その長手方向に沿って第1摺動孔22が延在する中空体からなる。第1摺動孔22は、後述するヨーク64のフランジ部66(保持部)とプレート部材42(区画部材)によって、下室23と第1中室24に区画されている。すなわち、下室23は、マグネットカバー16の底壁部とフランジ部66の下端面との間の空間である。また、第1中室24は、フランジ部66の上端面とプレート部材42の下端面との間である。
【0034】
マグネットカバー16の下端面には中空円柱部25が突出形成されており、該中空円柱部25には、第1摺動孔22(下室23)を囲繞する位置に第1環状溝26が形成されている。該第1環状溝26には、緩衝部材28を構成して直径方向外方に突出した若干大径なフランジ部29aが圧入される。フランジ部29aが第1環状溝26に収容された後、弾性作用によって元の形状に戻ることにより、フランジ部29aの第1環状溝26からの抜け止めがなされている。その結果として、緩衝部材28がマグネットカバー16から脱落することが防止される。
【0035】
フランジ部29aは、緩衝部材28を弾性変形させることによって、第1環状溝26に対して容易に挿入又は離脱させることができる。換言すれば、緩衝部材28は、マグネットカバー16に対して着脱可能に取り付けられている。
【0036】
フランジ部29aに比して小径な緩衝部材28の円筒部29bは、中空円柱部25を覆う。さらに、円筒部29bの一部は、中空円柱部25(マグネットカバー16)からリング状に突出している。また、緩衝部材28には、スリット29(
図2参照)が複数個形成される。
【0037】
このような構成の緩衝部材28は、好ましくは耐油性が良好な素材からなる。そのような素材の好適な例としては、フッ素系ゴム、シリコーンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム等が挙げられる。なお、緩衝部材28の素材は樹脂であってもよい。
【0038】
緩衝部材28は、複数個を用意することが好ましい。この場合、複数個の緩衝部材28として、円筒部29bの中空円柱部25からの突出量Dが互いに相違するものを選定するとよい。この点については後述する。
【0039】
マグネットカバー16は、長手方向の中腹部30(
図3参照)が略中空直方体形状に形成されるとともに、上端部32が略円筒体形状に形成される。この形状の相違に基づき、マグネットカバー16には、中腹部30と上端部32で段部34が形成される。上端部32の側壁には、第1シール部材36が設けられる。
【0040】
また、中腹部30の一側面には第1ポート37が形成される。該第1ポート37は、下室23に連通する。
【0041】
シリンダチューブ14には、その長手方向に沿って延在する第2摺動孔38が形成される。該第2摺動孔38の、長手方向に直交する方向の断面は略真円形状をなす。また、第2摺動孔38は、シリンダチューブ14の下端及び上端で開口している。すなわち、シリンダチューブ14は、外形が略直方体形状をなす中空体である。
【0042】
第2摺動孔38の下端側の開口近傍においては、その内壁が外壁側に向かって陥没することで薄肉部40が形成されている。このため、薄肉部40は他の部位に比して厚みが小さく設定されている。薄肉部40の下端面は、マグネットカバー16の段部34に当接する。また、マグネットカバー16の上端部32は、第2摺動孔38に挿入されるとともに薄肉部40に嵌合される。薄肉部40と、マグネットカバー16の上端部32との間は、第1シール部材36によってシールされる。
【0043】
マグネットカバー16の上端面と、薄肉部40の天井面との間には、プレート部材42の外縁部が挟まれる。換言すれば、プレート部材42は、マグネットカバー16とシリンダチューブ14で挟持されている。なお、プレート部材42については後述する。
【0044】
シリンダチューブ14の上端側の開口は、ヘッドカバー18によって閉塞される。ヘッドカバー18の下端面には、略円柱体形状の進入部44が突出形成されている。この進入部44がシリンダチューブ14内に進入することで、ヘッドカバー18がシリンダチューブ14に嵌合される。進入部44の側壁には第2シール部材46が設けられており、この第2シール部材46によって、シリンダチューブ14とヘッドカバー18の間がシールされる。
【0045】
ヘッドカバー18の一側面には、第2ポート50が形成される。該第2ポート50は、第1ポート37が形成された側面と同一側面に位置する。これら第1ポート37及び第2ポート50には、図示しない給排気機構が接続される。
【0046】
ハウジング20の四方の隅角部には、ヘッドカバー18からシリンダチューブ14を介してマグネットカバー16の中腹部30の下端近傍に至るまで、有底のロッド孔52がそれぞれ形成される。各ロッド孔52に挿入された第1タイロッド54a〜第4タイロッド54d(連結部材)のネジ部は、ロッド孔52の底部近傍に刻設されたネジ部に螺合される。また、頭部は、ヘッドカバー18に設けられた環状段部55に堰止される。第1タイロッド54a〜第4タイロッド54dの螺合に伴い、ヘッドカバー18、シリンダチューブ14及びマグネットカバー16が緊締及び連結されてハウジング20が形成される。
【0047】
以上の構成において、ヘッドカバー18、シリンダチューブ14及びマグネットカバー16は、例えば、アルミニウム合金等の常磁性体金属からなる。一方、第1タイロッド54a〜第4タイロッド54dは、鋳鉄(例えば、日本工業規格に規定されるSS400相当材)等の強磁性体金属からなり、後述するように、吸引保持手段である第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dが回転することを防止する回転防止部材、すなわち、いわゆる回り止めとして機能する。
【0048】
ハウジング20内において、第1摺動孔22と第2摺動孔38はプレート部材42によって区画されている。さらに、第2摺動孔38は、ピストン58及びヘッドカバー18によって第2中室60と上室62に区分される。
【0049】
一方、上室62は、ピストン58とヘッドカバー18の進入部44との間に形成される。この上室62には、前記第2ポート50が連通する。
【0050】
マグネットチャック10は、ワーク12(
図3参照)を吸引保持するための第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dを有する。これら第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dの各々は、例えば、それ自体の磁力、又は保持ボルト等の連結部材を介してヨーク64に保持されている。
【0051】
図2に示すように、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dは、それぞれ、平面視で中心角が略90°である略扇形をなす。このような形状の柱体が円形状に配置されることにより、全体として円柱形状の永久磁石が構成される。すなわち、第1永久磁石56aは、該第1永久磁石56aに隣接する第2永久磁石56b及び第4永久磁石56dに接触し、且つ第3永久磁石56cに対向する。
【0052】
第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dの半径は、例えば、10〜30mm程度に設定すればよい。半径の典型的な一例は約15mmであり、このとき、永久磁石全体としての直径は約30mmである。また、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dの高さ(下端面から上端面までの距離)の典型的な一例は、約10mmである。
【0053】
なお、理解を容易にするべく、
図2においてはマグネットカバー16の底壁部を割愛している。しかしながら、実際には、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dはマグネットカバー16の底壁部で覆われている(
図3参照)。
【0054】
これら第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dがヨーク64及びピストン58と一体的にワーク12に接近するように変位した際、
図3に示すワーク12が引き寄せられる。すなわち、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dにおいては、ワーク12に対向する対向面が、ワーク12を磁着するワーク磁着面(吸引保持面)である。
【0055】
第1永久磁石56a及び第3永久磁石56cのワーク磁着面の磁極は、ともにN極である。これに対し、第2永久磁石56b及び第4永久磁石56dのワーク磁着面の磁極は、いずれもS極である。従って、ワーク磁着面の磁極は、時計回りにN極(第1永久磁石56a)、S極(第2永久磁石56b)、N極(第3永久磁石56c)、S極(第4永久磁石56d)となっている。すなわち、この場合、ワーク磁着面では、N極とS極との組み合わせが2組形成され、且つ異なる磁極であるN極とS極が隣接するように磁極面が露呈している。
【0056】
なお、ヨーク64に保持された被保持面側では、上記とは逆に、時計回りにS極(第1永久磁石56a)、N極(第2永久磁石56b)、S極(第3永久磁石56c)、N極(第4永久磁石56d)の順で並んでいる。
【0057】
第1永久磁石56aと第2永久磁石56bとの境界の外周側、換言すれば、ワーク磁着面におけるN極(第1永久磁石56a)とS極(第2永久磁石56b)との境界の外周側には、第1タイロッド54aが位置する。同様に、第2永久磁石56bと第3永久磁石56cとの境界の外周側、第3永久磁石56cと第4永久磁石56dとの境界の外周側、第4永久磁石56dと第1永久磁石56aとの境界の外周側には、第2タイロッド54b、第3タイロッド54c、第4タイロッド54dがそれぞれ位置する。結局、第1タイロッド54a〜第4タイロッド54dは、ワーク磁着面において隣接する磁極同士の境界に配設されている。
【0058】
第1タイロッド54a〜第4タイロッド54dが強磁性体金属からなるため、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dの磁力は、第1タイロッド54a〜第4タイロッド54dにも及ぶ。すなわち、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dと第1タイロッド54a〜第4タイロッド54dの間に吸引力が生じる。
【0059】
第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dと第1タイロッド54a〜第4タイロッド54dの間に上記したような吸引相互作用が起こるため、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dが回転動作することが防止される。結局、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56d、ピストン58及びヨーク64の回り止めがなされる。このように、ハウジング20を形成するための第1タイロッド54a〜第4タイロッド54dにより、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dの回転トルクを略0とすることができる。
【0060】
第1タイロッド54a〜第4タイロッド54dを上記した位置とすると、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dに発生する回転トルクが最低となる。すなわち、回り止めが一層有効なものとなる。
【0061】
上記したように、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dはヨーク64に保持される(
図3参照)。すなわち、ヨーク64は大径なフランジ部66と小径な軸部68とを有し、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dは、この中のフランジ部66に自身の磁力で、又は保持ボルト等の連結部材によって保持されている。すなわち、フランジ部66と軸部68は、ヨーク64(同一の部材)に一体的に形成されている。なお、ヨーク64は、鋳鉄(例えば、SS400相当材)等の強磁性体金属からなり、このため、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dがフランジ部66に磁着することが可能である。
【0062】
フランジ部66の厚みは、例えば、約10mm程度に設定し得る。フランジ部66は、バックアップヨークとして機能する。また、フランジ部66の側壁にはウェアリング70が設けられる。このウェアリング70により、フランジ部66の中心が第1摺動孔22の中心に対して位置ズレを起こすことが回避されるとともに、該フランジ部66、ひいてはヨーク64が第1摺動孔22内を案内される。
【0063】
その一方で、フランジ部66の上端面には、下端面側に向かって陥没した環状凹部72が形成される。また、軸部68の上端部には、連結ボルト74を螺合するためのボルト穴76が形成されている。
【0064】
前記プレート部材42は、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56d(ヨーク64のフランジ部66)と、ピストン58との間に配設される。このため、プレート部材42の略中心部には、ヨーク64の軸部68を通すための挿通孔78が貫通形成される。挿通孔78の内径がピストン58の外径に比して小さいことは勿論である。
【0065】
また、プレート部材42の下端面には、フランジ部66に向かって円盤状突部80が突出形成されている。ピストン58、ヨーク64及び第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dが上死点に位置するとき(
図3参照)、円盤状突部80は、ヨーク64のフランジ部66に形成された前記環状凹部72に進入する。
【0066】
プレート部材42の上端面には幅広の第2環状溝82が形成され、この第2環状溝82には、リング形状の第1ダンパ84が収容されている。第1ダンパ84には、下死点に到達したピストン58の下端面が当接する(
図4参照)。
【0067】
さらに、プレート部材42には、挿通孔78の近傍に、第1中室24と第2中室60を連通するための連通溝85が形成される。この連通溝85により、第1中室24内の圧縮エアが第2中室60に移動することや、第2中室60内の圧縮エアが第1中室24に移動することが可能である。
【0068】
プレート部材42の挿通孔78に通された軸部68の上端面は、ピストン58の下端面に形成された挿入穴86に挿入されている。ピストン58には、上端面側から挿入穴86にかけてボルト堰止孔88が形成されており、このボルト堰止孔88に堰止された連結ボルト74がボルト穴76に螺合される。これによりピストン58とヨーク64が互いに連結され、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dがヨーク64を介してピストン58に間接的に保持される。
【0069】
ピストン58の側壁には、第3シール部材90が設けられる。この第3シール部材90により、ピストン58とシリンダチューブ14との間がシールされる。すなわち、上室62内の圧縮エアが、ピストン58の側壁とシリンダチューブ14の第2摺動孔38の内壁との間から第2中室60に漏洩することが防止される。同様の理由から、第2中室60内の気体が上室62に漏洩することも防止される。
【0070】
ピストン58の上端面には、幅広の第3環状溝92が形成されている。この第3環状溝92には、リング形状の第2ダンパ94が収容される。ピストン58が上死点に到達したとき、第2ダンパ94は、ヘッドカバー18の進入部44の下端面に当接する(
図3参照)。
【0071】
本実施の形態に係るマグネットチャック10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果について、マグネットチャック10の動作との関係で説明する。
【0072】
マグネットチャック10は、例えば、図示しないロボットの先端アームに設けられる。そして、ロボットが所定の動作を営むことにより、
図3に示すように、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dのワーク磁着面がワーク12に対向する。このとき、ピストン58、ヨーク64及び第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dは上死点に位置しており、従って、この時点では、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dの磁力がワーク12に及ぶことはない。
【0073】
次に、前記給排気機構から第2ポート50を介して上室62に圧縮エアが供給される。圧縮エアは、ピストン58をその上端面側から押圧する。同時に、前記給排気機構の作用下に、第1ポート37を介して下室23から圧縮エアが排出される。ここで、第2中室60内の圧縮エアは連通溝85を介して第1中室24に移動し、また、第1中室24内の圧縮エアは、フランジ部66の側壁と第1摺動孔22の内壁との間を通過して下室23に移動する。その後、これらの圧縮エアも、第1ポート37を介して排出される。
【0074】
上室62内の圧縮エアから押圧を受けたピストン58は、プレート部材42に接近する方向に変位(下降)する。下室23、第1中室24及び第2中室60が負圧となっているため、ピストン58は容易に変位する。
【0075】
ピストン58の下降と同時に、ピストン58に連結されたヨーク64と、該ヨーク64に保持された第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dが下降し、その結果、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dがワーク12に接近する。最終的に、ピストン58、ヨーク64及び第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dが下死点に到達して
図4に示す状態となる。
【0076】
ピストン58は、下死点に到達する際、プレート部材42に設けられた第1ダンパ84に当接する。第1ダンパ84によって当接時の振動や衝突が緩和されるので、マグネットチャック10が振動することが十分に抑制される。また、ピストン58やプレート部材42が破損することが回避されるので、マグネットチャック10の耐久性を向上させることができる。
【0077】
第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dが下死点に到達すると、各々のワーク磁着面がワーク12に対して十分に接近するので、その磁力がワーク12に及ぶようになる。すなわち、ワーク12が、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dの磁力によって引き寄せられ、マグネットカバー16の底壁部を介して第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dに吸引保持される。ヨーク64のフランジ部66がバックアップヨークとして機能するため、ワーク12が一層良好に吸引保持される。
【0078】
マグネットカバー16が常磁性体金属からなるため、該マグネットカバー16はヨークとして機能し得ない。すなわち、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dとワーク12との間にヨークは介在しない。このため、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dとワーク12との間の磁路形成に影響が及ぶことが回避される。
【0079】
なお、マグネットカバー16の下端面に緩衝部材28が設けられているため、マグネットカバー16の底壁部にワーク12が磁着される際、緩衝部材28がワーク12に当接して干渉する。この干渉により、マグネットカバー16、ひいてはマグネットチャック10に作用する応力が緩和される。すなわち、緩衝部材28は緩衝作用を営む。従って、マグネットチャック10が振動することが十分に抑制されるとともに、マグネットカバー16や第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dが破損することが回避される。
【0080】
緩衝部材28と、磁着されたワーク12との間には摩擦抵抗が生じる。このためにワーク12が緩衝部材28に対して滑動することが困難となることから、ワーク12がマグネットチャック10から離脱することが防止される。このように、緩衝部材28は、緩衝作用と同時に滑り止め作用を営む。すなわち、緩衝部材28は、滑り止めとしても機能する。
【0081】
ここで、
図5A及び
図5Bに、ワーク磁着面がN極の1極のみである従来技術における磁束と、磁気飽和を起こした領域とを模式的に示す。この場合、ワーク磁着面をなすN極から出発した磁束は、ワーク12内を通過して、その裏面のS極に向かう。磁気飽和を起こした領域は、略円周形状となる。
【0082】
一方、
図6A及び
図6Bは、ワーク磁着面にN極とS極の組み合わせが1組形成されたときの磁束と、磁気飽和を起こした領域とを示す模式図である。この構成では、ワーク磁着面をなすN極から出発した磁束は、ワーク12内を通過して、ワーク磁着面で隣接するS極と、その裏面のS極に向かう。また、ワーク磁着面の裏面に位置するN極から出発した磁束は、ワーク12内を通過して、ワーク磁着面のS極に向かうとともに、ヨーク64内を通過して、ワーク磁着面の裏面で隣接するS極に向かう。従って、磁気飽和は、円周形状に併せ、直径に沿った位置でも生じる。
【0083】
図7は、ワーク磁着面にN極とS極の組み合わせが2組形成されたときの磁気飽和を起こした領域を示す模式図である。この場合、磁気飽和は、円周形状に併せ、2本の直径に沿った位置で生じる。以上を対比し、ワーク磁着面にN極とS極の組み合わせを形成することに伴い、ワーク12内を通る磁束量が多くなることが分かる。
【0084】
図8は、1個の永久磁石を用い且つワーク磁着面をN極のみとしたマグネットチャック(■のプロット)、2個の永久磁石を用い且つワーク磁着面を1個のN極及び1個のS極とした、N極とS極との組み合わせが1組であるマグネットチャック(◆のプロット)、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dの4個を用い、ワーク磁着面におけるN極とS極の組み合わせが2組である本実施の形態に係るマグネットチャック10(▲のプロット)の各々における、永久磁石の外径と吸引力との関係を示すグラフである。勿論、各マグネットチャッ
クにおける永久磁石の材質や保持力、永久磁石全体の寸法等は互いに同一である。
【0085】
この
図8からも、ワーク磁着面における磁極の個数が多くなるほど、吸引力が大きくなることが分かる。特に、永久磁石全体の外径が20mmを超えるときや、ワーク12の厚みがさらに小さくなるときに吸引力の差が顕著となる。このことから、ワーク磁着面にN極とS極との組み合わせを1組以上、より好ましくは2組以上形成することにより十分な吸引力が発現し、ワーク12が薄肉鋼板からなり且つ重量物であっても吸引保持し得ることが明らかである。上記したように、ワーク磁着面にN極とS極との組み合わせを形成したことによってワーク12内を通る磁束量が多くなるからである。
【0086】
以上のように、ワーク磁着面にN極とS極との組み合わせを形成することにより、ワーク12に対する吸引力が大きくなる。特に、本実施の形態では、N極とS極の組み合わせがワーク磁着面に2組形成されているので、十分な吸引力が発現する。
【0087】
従って、本実施の形態によれば、
永久磁石の素材や特性等が同一であれば、外径を同一としたときにはワーク12に対する吸引力を大きくすることができる。このことは、重量が一層大きなワーク12を吸引保持し得ることを意味する。
【0088】
又は、吸引力を同等とする場合、永久磁石全体を小径に設定することができる。すなわち、マグネットチャック10のコンパクト化を図ることができる。
【0089】
ワーク12に対する吸引力は、緩衝部材28を構成する円筒部29bの中空円柱部25(マグネットカバー16)からの突出量Dを変更することによっても調節することができる。この点につき、
図9A〜
図9C及び
図10を参照して説明する。なお、説明の便宜上、
図9A〜
図9Cの各々に示す緩衝部材の参照符号を28A、28B、28Cとする。
【0090】
緩衝部材28A、28B、28Cは、それぞれ、円筒部29bA、29bB、29bCを有する。そして、
図9A〜
図9Cを対比して諒解されるように、円筒部29bA、29bB、29bCの中空円柱部25からの突出量D1、D2、D3は、この順に大きくなる。すなわち、D1〜D3の間には、D1<D2<D3の関係が成り立っている。
【0091】
上記したように、緩衝部材28A〜28Cは、マグネットカバー16の底壁部にワーク12が磁着されるときに該ワーク12に干渉する。従って、下死点に到達した第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dとワーク12との距離は、緩衝部材28A、28B、28Cの順で大きくなる。中空円柱部25から突出した円筒部29bA、29bB、29bCのそれぞれにワーク12が当接することによって、該ワーク12が第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dにそれ以上近接することが抑制されるからである。
【0092】
図10に、ワーク12と第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dとの離間距離と、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dによるワーク12に対する吸引力の変化との関係をグラフにして示す。
図10では、突出量がD1、D2又はD3であるときの離間距離を、横軸中でD1、D2、D3として示している。
【0093】
この
図10から、前記離間距離が大きいほど、吸引力が小さくなることが分かる。この理由は、前記離間距離が大きくなるにつれて、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dの磁力がワーク12に及び難くなるからである。
【0094】
以上のような理由から、突出量Dが相違する緩衝部材28に交換することにより、ワーク12に対する吸引力を適宜調節することができる。従って、例えば、ワーク12が大重量のものであるときには吸引力を大きくして搬送中に脱落し難くすればよい。逆に、軽量のものであるときには、搬送中に脱落を回避し得る一方で搬送後に第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dの磁着力から容易に解放し得る程度に吸引力を小さくしてもよい。
【0095】
すなわち、緩衝部材28として、中空円柱部25からの突出量Dが相違するものを複数個用意し、例えば、搬送するワーク12の軽重等に合わせて緩衝部材28を適宜のものに交換すること等により、汎用性が向上する。
【0096】
以上のように複数個の緩衝部材28を用いるときには、突出量Dが相違するもの毎に色を相違させるとよい。すなわち、上記の例では、突出量がD1となる緩衝部材28A、D2となる緩衝部材28B、D3となる緩衝部材28Cを別色とすることが好ましい。これにより、所望の突出量となる緩衝部材28を、該緩衝部材28の色に基づいて速やかに認識することができる。従って、緩衝部材28の誤着用が回避される。
【0097】
なお、突出量Dが相違する緩衝部材28同士の識別を容易にする手段は、色を相違させることに特に限定されるものではない。例えば、マーキング等の適宜の識別子を設け、各緩衝部材28の外観を相違させるようにしてもよい。
【0098】
上記のようにしてワーク12を吸引(磁着)した後、ロボットが所定の動作を営むことにより、先端アーム及びマグネットチャック10が適宜の位置に移動する。これに伴い、ワーク12も移動する。
【0099】
次に、前記給排気機構の作用下に、第2ポート50を介して上室62から圧縮エアが排出される。同時に、前記給排気機構から第1ポート37を介して下室23に圧縮エアが供給される。この圧縮エアの一部は、フランジ部66と第1摺動孔22の側壁の間から第1中室24に進入し、さらに、連通溝85を通過して第2中室60に進入する。従って、ヨーク64のフランジ部66が下室23内の圧縮エアから押圧を受けるとともに、ピストン58が第1中室24内の圧縮エアから押圧を受ける。上室62が負圧となっていることも相俟って、ピストン58がプレート部材42から離間する方向に変位(上昇)する。
【0100】
ここで、本実施の形態では、ピストン58の側壁に第3シール部材90を設けるようにしている。すなわち、ヨーク64と第2中室60の内壁との間にはシール部材が設けられていない。このため、上記した過程において、上室62に供給された圧縮エアの押圧力、第2中室60に移動した気体の押圧力を受ける部材はいずれも、ピストン58である。しかも、ピストン58の下端面に、軸部68によって覆われている部位があるものの、フランジ部66も圧縮エアの押圧をうける。すなわち、ピストン58を下降させるときの受圧面積と、上昇させるときの受圧面積とが略同等となる。これにより、ピストン58の上昇に要する推力が低下することを回避することができる。
【0101】
ピストン58が上昇することに追従し、ヨーク64及び第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dが一体的に上昇する。すなわち、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dがワーク12から物理的に離間し、その結果、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dの磁力がワーク12に及ばなくなる。従って、ワーク12が第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dの磁力による拘束から解放される。
【0102】
ピストン58、ヨーク64及び第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dは、最終的に上死点に到達する。すなわち、
図3に示す状態に戻る。
【0103】
ピストン58が上死点に到達する際、ヨーク64のフランジ部66に形成された環状凹部72に、プレート部材42の円盤状突部80が進入する。また、該ピストン58に設けられた第2ダンパ94がヘッドカバー18の進入部44に当接する。第2ダンパ94によって当接時の振動や衝突が緩和されるので、マグネットチャック10が振動することが十分に抑制される。また、ピストン58やヘッドカバー18が破損することが回避されるので、マグネットチャック10の耐久性を向上させることができる。
【0104】
また、上記の過程が進行する最中に第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dが回転することが防止される。上記したように、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dの近傍に第1タイロッド54a〜第4タイロッド54dがそれぞれ配設されているからである。このように第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dの回転が規制されるため、例えば、オートスイッチ近傍の磁束密度が変化することが回避される。従って、このことに起因してオートスイッチが誤作動を起こすことを回避することもできる。
【0105】
第1タイロッド54a〜第4タイロッド54dは、ヘッドカバー18、シリンダチューブ14及びマグネットカバー16を緊締してハウジング20を形成するための部材である。すなわち、第1永久磁石56a〜第4永久磁石56dの回転を防止するために何らかの部材を別途用いる必要はない。従って、部品点数が増加することを回避し得るとともにマグネットチャック10のコンパクト化を図ることができ、しかも、コスト的に有利である。
【0106】
本発明は、上記した実施の形態に特に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0107】
例えば、
図11に示すように、U字型永久磁石100を2個以上組み合わせ(
図11では3個)、ワーク磁着面に2個以上のN極と2個以上のS極とが存在するようにしてもよい。このような組み合わせ以外にも、下方からの平面視で磁極面が
図12に示すような配列となるようにU字型永久磁石100(
図12では2個)を組み合わせることも可能である。
【0108】
又は、
図13に示すように、棒形磁石102を3個以上組み合わせて(
図13では3個)いわゆるハルバッハ配列を形成し、ワーク磁着面に1組のN極とS極との組み合わせを設けるようにすることもできる。
【0109】
以上の実施の形態では、複数個の永久磁石を用いるようにしているが、ワーク磁着面にN極とS極との組み合わせが2組以上存在するような着磁がなされることで作製された1個の永久磁石を用いるようにしてもよい。
【0110】
このような永久磁石の一例としては、
図14に示すように、円柱形状体98等の所定の物体に対して磁極の方向がU字型となるような着磁を行ったものが挙げられる。このような永久磁石は、円柱形状体98の一底面にU字型磁石を近接させることで作製することができ、該一底面にN極及びS極が形成される。すなわち、該一底面がワーク磁着面となり、残余の他底面には磁極は形成されない。
【0111】
なお、円柱形状体98等の一底面にU字型磁石を近接させる一方で、他底面に別のU字型磁石を近接させることにより、
図15に示すように、ワーク磁着面となる一底面にN極及びS極が形成され、その裏面にS極及びN極が形成された永久磁石を作製することができる。すなわち、この場合、ワーク磁着面に対して直交する方向に磁極が向くように着磁がなされる。
【0112】
さらにまた、ピストン58の下端面に第1ダンパ84を設けるようにしてもよい。一方、第2ダンパ94も、ヘッドカバー18の進入部44の下端面に設けるようにしてもよい。
【0113】
そして、第1ダンパ84又は第2ダンパ94のいずれか一方を割愛するようにしてもよい。
【0114】
さらに、緩衝部材は、上記した緩衝部材28、28A〜28Cに特に限定されるものではない。例えば、
図16に示すように、直径方向内方に突出したフランジ部29cを有する緩衝部材110であってもよい。この場合、中空円柱部25に、直径方向内方に指向して陥没した第1環状溝112を形成し、該第1環状溝112に前記フランジ部29cを圧入すればよい。
【0115】
また、
図17及び
図18に示すように、厚み方向断面がテーパー形状をなす緩衝部材114又は緩衝部材116を用いることもできる。この場合、第1環状溝118又は第1環状溝120を、中空円柱部25の端面に形成するか(
図17参照)、又は、側壁に形成すればよい(
図18参照)。いずれの場合においても、テーパー形状によって緩衝部材114、116の第1環状溝118、120からの抜け止めがなされる。
【0116】
マグネットカバー16に対する取り付けも、フランジ部29a等の第1環状溝26への圧入に特に限定されるものではない。すなわち、
図19に示すように、緩衝部材122を、ネジ124によってマグネットカバー16に取り付けるようにしてもよい。この場合、緩衝部材122はリング形状である必要は特になく、円弧状のものを複数個取り付けるようにすることもできる。