(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6590218
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】双安定性ブーム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/40 20060101AFI20191007BHJP
B64G 1/44 20060101ALI20191007BHJP
B64G 1/22 20060101ALI20191007BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20191007BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20191007BHJP
B29C 61/06 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
B32B27/40
B64G1/44 C
B64G1/22
B32B5/28 A
B32B27/30 D
B29C61/06
【請求項の数】11
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-131423(P2016-131423)
(22)【出願日】2016年7月1日
(65)【公開番号】特開2018-1601(P2018-1601A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2018年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】591051874
【氏名又は名称】サカセ・アドテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100096873
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 廣泰
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155871
【弁理士】
【氏名又は名称】森廣 亮太
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 秋人
(72)【発明者】
【氏名】堀 利行
【審査官】
松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−008929(JP,A)
【文献】
実開昭57−181105(JP,U)
【文献】
特表平02−504452(JP,A)
【文献】
特開昭53−067907(JP,A)
【文献】
特開2014−015183(JP,A)
【文献】
国際公開第96/008671(WO,A1)
【文献】
米国特許第03387414(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2016/0177567(US,A1)
【文献】
米国特許第06050048(US,A)
【文献】
国際公開第2013/107855(WO,A1)
【文献】
特開2015−18748(JP,A)
【文献】
米国特許第6431271(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B29C 61/06
B64G 1/22
B64G 1/44
H01Q 1/08
E04C 3/30
F16M 11/40
F21V 21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性を有する長尺の樹脂製板材によって構成され、長手方向と直交する方向には開断面形状に曲付けされた形態で、一方で、長手方向には円筒状に巻き取られた巻き取り形態に曲付けされた形態で、初期状態では、長手方向に延びる伸展形態と巻き取り形態のいずれかの形態で安定して保持される双安定性のブーム本体を備えた双安定性ブームにおいて、
前記ブーム本体の長手方向に沿って延びる側縁部に、ゴム状弾性を有する軟質樹脂材を有する補強材を被覆し、前記補強材を、前記軟質樹脂材の表面に積層される低摩擦特性を有する樹脂材を備えた積層構造としたことを特徴とする双安定性ブーム。
【請求項2】
軟質樹脂材はウレタン系樹脂である請求項1に記載の双安定性ブーム。
【請求項3】
低摩擦特性を有する樹脂材はフッ素系樹脂である請求項1に記載の双安定性ブーム。
【請求項4】
ブーム本体は、繊維基材に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂によって構成される請求項1乃至3のいずれかの項に記載の双安定性ブーム。
【請求項5】
前記繊維基材は、組紐組織である請求項4に記載の双安定性ブーム。
【請求項6】
前記繊維基材は、2軸織物組織であり、一方の長手方向に沿った長軸線に対して第1軸糸及び第2軸の糸は、互いに反対方向に所定角度傾斜する構成となっている請求項4に記載の双安定性ブーム。
【請求項7】
前記繊維基材を構成する糸は、開繊糸である請求項6に記載の双安定性ブーム。
【請求項8】
前記ブーム本体は、繊維基材に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂シートを複数層積層した積層構造である請求項6又は7に記載の双安定性ブーム。
【請求項9】
前記繊維基材の構成する糸は、炭素繊維である請求項4乃至8に記載の双安定性ブーム。
【請求項10】
巻き取り形態で安定しているブーム本体を、一部伸展形態とすると、巻き取り形態部が、伸展形態の境界部分から、ブーム本体の短手方向の断面形状が、弾性復元力によって、順次直線状態から開断面形状に戻り、巻き取り形態から伸展形態へ移行して自己伸展する自己伸展ブームである請求項1乃至9のいずれかの項に記載の双安定性ブーム。
【請求項11】
巻き取り形態部と伸展形態部の両方の形態が共存する形態が安定して保持される請求項1乃至9のいずれかの項に記載の双安定性ブーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、人工衛星や探査機のアンテナや太陽電池パネル等の宇宙構造物や地上構造物等、種々の構造物の構造材に用いられるブームに関し、特に、巻き取り状態と、伸展状態を安定して保持することが可能な双安定性ブームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の双安定性ブームとしては、たとえば、特許文献1に記載のような伸縮性部材が知られている。
すなわち、ブーム本体は弾性を有する長尺の板材によって構成され、長手方向と直交する方向(以下、短手方向という)に開断面形状に曲付けすると共に、一方で、長手方向に円筒状に巻き取った巻き取り取り形態に曲付けし、初期形態で、伸展形態と巻き取り形態のいずれかの形態で安定して保持される構成となっている。
巻き取り形態では、ブーム本体は、短手方向の開断面形状が直線状に延ばされており、開断面方向に戻ろうとする弾性復元力が巻き取られた円筒形状の剛性によって保持されている。
巻き取り形態で安定しているブーム本体を、一部伸展形態とすると、巻き取り形態部が、伸展形態の境界部分から、ブーム本体の短手方向の断面形状が、弾性復元力によって、順次直線状態から開断面形状に戻り、巻き取り形態から伸展形態へ移行して、自己伸展するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2000−507890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、伸展形態から巻き取り形態に巻き取る際、あるいは巻き取り形態から自己伸展する間に、ブーム本体の側縁に裂け目が生じる場合があった。
ブーム本体は、巻き取り形態では、短手方向に円筒形状の母線に沿って直線状に延ばされているので、開断面形状に戻ろうとする方向の曲げ応力が作用しており、巻き取り形態から伸展形態に移行する際に、剛性の高い円筒状の巻き取り形態から伸展形態に移行する境界部、特に短手方向両端に応力が集中して屈曲し、屈曲部から裂け目が生じるものと考えられる。特に、ブーム本体の素材として、繊維基材を用いた繊維強化プラスチック(FRP)で成形している場合、裂け目は基材繊維の配向方向に沿って生じやすい。
そこで、ブーム本体の強度を高めることが考えられるが、巻き取り形態でのブーム本体に発生する曲げ応力も大きくなってしまう。また、巻き取りに要する力が大きくなり、巻き取り作業に支障が生じる。さらに、自己伸展する力が大きくなり、衝撃的に伸展形態に移行し、ブーム本体を支持する部材に衝撃力が作用する。
本発明は、斯かる実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ブーム本体の側縁に生じる裂け目を防止し、かつ巻き取り状態と伸展状態との移行を円滑に進行させることができる双安定性ブームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、弾性を有する長尺の樹脂製板材によって構成され、長手方向と直交する方向には開断面形状に曲付けされた形態で、一方で、長手方向には円筒状に巻き取られた巻き取
り形態に曲付けされた形態で、初期状態では、長手方向に延びる伸展形態と巻き取り形態のいずれかの形態で安定して保持される双安定性のブーム本体を備えた双安定性ブームにおいて、
前記ブーム本体の長手方向に沿って延びる側縁部に、ゴム状弾性を有する軟質樹脂材を有する補強材を被覆し
、前記補強材を、前記軟質樹脂材の表面に積層される低摩擦特性を有する樹脂材を備えた積層構造としたことを特徴とする。
ブーム本体の巻き取り状態から伸展状態への移行領域の境界付近において、巻き取り状態における短手方向の曲げ応力が一気に開放されるが、補強材よって衝撃が緩和され、裂け目の発生が阻止される。
また、側縁部のみを覆うだけなので、ブーム本体の巻き取り状態と伸展状態への移行は円滑に進行する。
【0006】
低摩擦特性を有する樹脂材としては、低摩擦特性と柔軟性、剥がれ難さを兼ね備える材料、たとえは、薄膜PTFE粘着テープを用いることができる。
低摩擦特性を有する樹脂材を備えることにより、巻き取り状態と伸展状態の移行が、より円滑に進行する。
軟質樹脂材としてはウレタン系樹脂を使用することができ、低摩擦特性を有する樹脂材としては、フッ素系樹脂を使用することができる。
ブーム本体は、繊維基材に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂によって構成されることが好適である。
繊維基材としては、組紐組織や2軸織物組織を使用することができる。
2軸織物組織としては、一方の長手方向に沿った長軸線に対して第1軸の糸及び第2軸の糸は、互いに反対方向に所定角度傾斜する構成とすることが可能である。
2軸織物組織を構成する糸としては、開繊糸とすることができる。
また、ブーム本体は、2軸織物組織の繊維基材に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂シートを複数層積層した積層構造とすることができる。
また、繊維基材を構成する糸については、炭素繊維とすることができる。
本発明の双安定性ブームは、巻き取り状態のブーム本体の先端を伸展状態に引き出すこ
とによって、引き出した部分が巻き取り状態から伸展状態に移行し、巻き取り状態から引き出し部分への移行部分において断面形状が開断面形状に弾性復帰する弾性復元力によって、巻き取り状態から伸展状態に自己伸展する自己伸展ブームとすることができる。
また、巻き取り状態と伸展状態の移行途中で安定して停止するような双安定性ブームとすることもできる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の双安定性ブームによれば、ブーム本体の側縁部に生じる亀裂を防止し、かつ巻き取り状態と伸展状態との移行を円滑に進行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は本発明の実施の形態に係る双安定性ブームの一例を示すもので、(A)は一部伸展状態の斜視図、(B)は巻き取り形態の斜視図、(C)は伸展形態の斜視図である。
【
図2】(A)はブーム本体の短手方向の断面図、(B)は補強材の部分の拡大断面図、(C)はバランス型の双安定性ブームのモータ駆動の概念図である。
【
図3】
図1のブーム本体を構成するFRPシートを示すもので、(A)は繊維基材の糸の配向方向の説明図、(B)は積層される複数のFRPシートを示す斜視図、(C)は積層構造の概略断面図である。
【
図4】
図3のFRPシートの繊維基材の他の組織構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
[実施形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る双安定性ブームを示す図である。
すなわち、この双安定性ブーム1は、弾性を有する長尺の樹脂製板材によって構成されるブーム本体10を有し、このブーム本体10は、長手方向と直交する方向には開断面形状に曲付けされた形態で、一方で、長手方向には円筒状に巻き取られた巻き取り取り形態に曲付けされた形態となっており、外力が作用しない初期状態では、長手方向に延びる伸展形態と巻き取り形態のいずれかの形態で安定して保持される双安定性を有している。
以下の説明では、ブーム本体10の巻き取り形態部については符号10A,伸展形態部については符号10Bを付して説明する。
この双安定性ブーム1は、一部伸展形態とすると、巻き取り形態部10Aが、伸展形態の境界部分から、ブーム本体10の短手方向の断面形状が、弾性復元力によって、順次直線状態から開断面形状に戻り、巻き取り形態から伸展形態へ移行して伸展するようになっている。
【0010】
すなわち、
図1(A)に示すように、巻き取り形態部10Aから伸展形態部10Bに移行する移行領域10Cが存在し、伸展形態部10Bと移行領域10Cに移行する境界位置10Dから、ブーム本体10の短手方向の断面形状が、弾性復元力によって、順次直線状態から開断面形状に戻り、巻き取り形態部10Aから伸展形態部10Bへ移行して自己伸展するようになっている。
本発明では、開断面形状のブーム本体10の長手方向に沿って延びる両側縁部に、ゴム状弾性を有する軟質樹脂材を備えた補強材30を、全長に縄って被覆した構成となっている。
【0011】
ブーム本体の構成
ブーム本体10は、その短手方向の開断面形状が、円の一部を構成する断面円弧形状で、円弧の両端と曲率中心を結んだ線の成す開口角αは、160°程度に設定される。この開口角度が大きいと、開断面形状を直線状に変形させた場合の弾性復元力が小さく、大きいと弾性復元力が大きくなる。大きくし過ぎると、弾性復元力が過大となって巻き取れない状態となるので、40°〜180°程度に設定される。
この例では、ブーム本体10の短手方向の断面形状を真円の一部をなす円弧形状としているが、真円の一部である必要はなく、楕円の一部であってもよいし、一部が開いた非円形断面の湾曲形状であってもよい。
【0012】
ブーム本体10は、
図3に示すように、繊維強化樹脂シート(FRPシート)13を、複数枚積層した積層構造となっている。各繊維強化樹脂シート13は同一構成で、繊維基材11にマトリックス樹脂12を含浸させた構成である。
繊維基材11は、2軸織物組織であり、一方の長手方向に沿った長軸線N1に対して第1軸糸11a及び第2軸糸11bは、互いに反対方向に所定角度θ(配向角)だけ傾斜する構成となっている。配向角としては、45°としている。
この実施形態では、第1軸糸11a、第2軸糸11bは炭素繊維が用いられ、特に、繊維束を扁平に束ねた開繊糸によって構成され、一枚の繊維強化樹脂シート13の厚さを薄く設定し、複数枚の繊維強化樹脂シート13を張り合わせてブーム本体10を構成している。この例では、この繊維強化樹脂シート13は、2層から4層構成とすることが好適であるが、積層数を増やすことによって、伸展力が段階的に強くなる。
シート厚さやブーム本体10の断面形状、さらに弾性率等によっても異なるが、たとえば、2層(2ply)では、巻き取り状態から先端を引き出しても、自己伸展力が弱く、完全に伸展状態に戻らない。
3層(3ply)では、自己伸展力が強く、時間が経過すると応力緩和が生じるものの、短期的には、巻き取り状態から完全に伸展状態に戻る自己伸展が発現する。
4層(4ply)では、自己伸展力が強すぎて、巻き取りに相当の力が必要となる。
【0013】
自己伸展させるためには、3層構成とすることが好ましいが、自己伸展力が弱く伸展仕切らない構成でも有用である。すなわち、巻き取り形態と伸展形態が保持した状態でバランスして安定する形態については、伸展方向と巻き取り方向の力がバランスした状態を維持するので、たとえば、
図2(C)に示すように、モータ100で巻き取り、伸展させるようにすれば、必要なトルクが小さくてすみ、必要に応じて伸縮させることができる。
自己伸展する構成の場合、伸展させるための動力が不要であるが、巻き取りをモータで行うとすると、大きなトルクが必要となる。
なお、上記した繊維強化樹脂シート13の積層数について、3層が自己伸展する構成、2層は巻き取り形態と伸展形態がバランスする構成、4層は巻き取りが困難な構成、として説明したが、ブーム本体の開口角、板厚、材料の弾性率等の条件によって異なるもので、条件によって、自己伸展タイプ、巻き取り形態と伸展形態がバランスするバランスタイプのシートの積層数は1層構成を含み、適宜選択することができる。
【0014】
補強材の構造
補強材30は、
図2(A),(B)に拡大して示すように、ゴム状弾性を有する軟質樹脂よりなる本体部31と、本体部31の表面を覆う低摩擦特性を有する樹脂材よりなる表面層32とを備えた積層構造となっている。
本体部31は、ブーム本体10の側縁部が差し込まれる溝部31aが開いた断面U字形状で、ブーム本体10の側縁部の内側面に接着される内側片31bと、外側面に接着される外側片31cと、内側片と外側片を連結して側縁部の端面に接着される連結部31dとを備えている。
本体部31を構成する軟質樹脂としては、熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU)等のエラストマーが好適である。TPUは柔軟性や接着性に優れると共に、双安定性ブーム端末部の引裂き強度を高め、繊維強化樹脂CFRPの繊維配向方向への亀裂を防止する効果がある。TPUの物性値としては、JISK7311に準拠した試験法で、硬度(JIS A)90以上、引張伸度500%以上のポリエステル系又はポリエーテル系TPU(熱可塑性ポリウレタン樹脂)が好ましい。たとえば、シーダム株式会社製のポリウレタンエラストマーフィルム(品番:DUS 202、DUS213、DUS501、DUS601、DUS605、DUS220、DUS451等を使用することができる。因みに、品番DUS202IFLでは、0.55μm厚で、硬度(JISA)が90、引張深度は520%、引張強度が80(MPa)、引張強度が9(N)である。
TPUは、柔軟性に優れるので、双安定性ブームの収納や伸展特性への悪影響を抑えることができる。ただし、タック性があるのでTPU同士が接触すると滑りが悪くなることがある。そこで、滑りを良くするために、低摩擦特性を有する樹脂材からなる表面層32で被覆している。
表面層32は、低摩擦で耐摩耗性を備えた樹脂材、たとえば四フッ化エチレン樹脂(PTFE)で構成される。特に、低摩擦特性の他に、柔軟性、剥がれ難さを兼ね備える材料が好ましく、たとえば、中興化成工業株式会社製の薄膜のPTFE粘着テープ(品番:ASF−116T)を用いることができる。このテープは、総厚43μm(PTFE基材厚21μm,粘着材厚22μm)のテープである。このように本体部31を、低摩擦の表面層32によって被覆することで、双安定性ブーム端末部の摩擦抵抗を減らし、収納および伸展がスムーズになる効果がある。また、薄膜なので、質量増加を抑えると共に、剥離し難い性質がある。
もちろん、表面層32の材料としては、四フッ化エチレン樹脂に限定されるものではなく、低摩擦特性と柔軟性、剥がれ難さを兼ね備える材料であればよい。
【0015】
次に、本実施形態の双方向安定ブームの補強材の作用について説明する。
ブーム本体10の巻き取り状態から伸展状態への移行領域の境界付近において、巻き取り状態における短手方向の曲げ応力が解放され、境界付近に大きなせん断力が作用するが
、補強材30の本体部31のゴム状弾性によってせん断力が分散、緩和され、裂け目の発生が阻止される。特に、ブーム本体10が繊維強化樹脂シート13の積層構造とする場合、各シートの繊維基材11の糸の位相が重なっていると、重なった糸に沿って裂け目が生じやすいが、補強材30を被覆することで、裂け目を防止することができる。
さらに、補強材30の表面は低摩擦の表面層32によって覆われているので、巻き取った際に補強材30同士が接触しても、接触面が滑り、スムーズに巻き取り形態と伸展形態への移行が進行する。
また、補強材30が側縁部のみを覆っているだけなので、巻き取り、伸展への変形に対する抵抗が小さく、補強材30の表面の平滑性と相まって、巻き取り形態から伸展状態への移行は円滑に進行する。
【0016】
他の実施形態
上記実施形態では、ブーム本体10を構成する繊維強化樹脂として、平織の織物組織を使用しているが、
図4に示すような組紐組織を使用することもできる。
図示例は丸組組織の繊維基材51で、縦軸に対して互いに逆方向に交差する多数本の組糸51a、51aを交互に絡ませたバイアス構成である。縦糸が入っていてもよい。組紐組織を使用すれば、組糸の配向角を任意に設定することができる。
この配向角については、配向角が大きくなるにつれて巻き取り収納性が良く、小さくなるにつれて収納状態が不安定になることがわかっており、繊維配向角としては、30°〜60°程度の範囲、特に60°付近に設定することが好ましい。組紐組織の場合には、開繊繊維ではなく、複数層構成とはしていないが、上記実施形態のように複数層構成としてもよい。
裂け目は繊維配向角が大きい方が生じやすいが、本願発明のように、補強材30を設けることによって、最適な配向角度を選択することができる。
【0017】
なお、繊維基材の組織としては、上記した織物、組紐組織に限定されるものではなく、編物組織、網物組織、不織布等、種々の基材を利用することが可能である。
また、本発明の双安定性伸展構造物は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0018】
1 双安定性ブーム
10 ブーム本体
10A 巻き取り形態部
10B 伸展形態部
10C 移行領域
10D 境界位置
11 繊維基材
11a :第1軸糸、11b 第2軸糸
12 マトリックス樹脂
13 繊維強化樹脂シート
30 補強材
31 本体部
31a 溝部、31b 内側片、31c 外側片、31d 連結部
32 :表面層