(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6590263
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】自動車用ホイールナット
(51)【国際特許分類】
B60B 3/16 20060101AFI20191007BHJP
F16B 37/00 20060101ALI20191007BHJP
F16B 39/282 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
B60B3/16 E
B60B3/16 D
F16B37/00 D
F16B39/282 Z
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-41208(P2017-41208)
(22)【出願日】2017年3月6日
(65)【公開番号】特開2018-144625(P2018-144625A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2018年12月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】711005259
【氏名又は名称】山本 建三
(72)【発明者】
【氏名】山本 建三
【審査官】
高橋 武大
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭59−042701(JP,U)
【文献】
特表昭62−500678(JP,A)
【文献】
実開昭63−037814(JP,U)
【文献】
特開2015−180840(JP,A)
【文献】
特開昭51−068002(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3174781(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3139548(JP,U)
【文献】
独国特許出願公開第102009031974(DE,A1)
【文献】
米国特許第4832413(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 3/16
F16B 37/00−39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用ホイールナットを有する自動車用ホイールの取り付け構造において、
ホイールボルトに被締結部材であるホイールをホイールナットで取り付け状態にしたときに、
ハブのナット側端面からホイールナットの第1ねじ山までの長さを伸びボルト長Lとして、
伸びボルト長Lとホイールボルトの呼び径dとの比をQ=L/dで表したときに、Q値が少なくとも1以上になるように選定し、ホイールナットの座ぐり深さDをD=Q×d−(ハブのナット側端面からホイールナット先端面までの長さ)より求めて、
該ホイールナットの先端面から、ホイールボルトの呼び径dに対応したボルト穴径d2で、座ぐり深さDを設け、ホイールボルトの伸びボルト長Lを延長したことを特徴とする自動車用ホイールの取り付け構造。
【請求項2】
請求項1の自動車用ホイールナットを有する自動車用ホイールの取り付け構造において、
Q値が1≦Q≦3を満足することを特徴とする自動車用ホイールの取り付け構造。
【請求項3】
請求項1又は2の自動車用ホイールナットを有する自動車用ホイールの取り付け構造において、
ホイールナットのナット座形状はテーパ座、球面座、平面座のいずれかのもので、頭部形状を貫通型又は袋型であることを特徴とする自動車用ホイールの取り付け構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車の車輪支持部の構造に関するもので、タイヤを支持するディスクホイールをハブへ締結するためのホイールナットの回転緩みを改善するためのホイールナットの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大型車の車輪脱落事故が多発し、市民生活や車社会の安全性を脅かす大きな社会問題となり、車輪取付構造の見直しと、安全確保のための実施要綱が示されたが、車輪脱落事故の減少は一時的なものに過ぎず、最近再び事故が増加傾向にある。そこで、車輪の確実締付け、増し締めの実施、更に、日常点検の実施などの重要性について、国土交通省から、関係団体に対して、車輪脱落事故防止の徹底を要請する通達(非特許文献1)が出されている。
【0003】
大型車とは、国土交通省によれば、車両総重量8トン以上のトラック(トレーラ)または乗車定員30人以上のバスである。
車輪脱落事故の統計によれば、車輪脱落事故のほとんどは後輪で発生しており、その内の約2/3は左側の後輪で発生している。また、ボルトの締めすぎによる破断が事故の原因になったものもある。
車輪脱落事故のほとんどは、車軸端部のハブと呼ばれる部分に車輪を取付けられるために使用されているホイールボルトの疲労破壊により発生している。(非特許文献2、非特許文献3)
【0004】
大型トラックの車輪脱落事故についての分析資料(非特許文献2、非特許文献3)からは、ホイールボルトの軸力の減少が発生すれば、ホイールボルトに発生する応力振幅が大幅に大きくなることが示されている。この大きな応力振幅は、疲労破壊の発生を引き起こしホイールボルトの破断、そして、車輪の脱落へと発展していくものと考えられている。
【0005】
上記ホイールボルトの軸力の減少は、ホイールナットの回転緩みによって発生する。
一般論としては、ホイールナットは回転慣性によって緩みにくいように右車輪には右ねじを採用し、左車輪には左ねじを採用するのがよいとされていたが、至近では、全てのホイールナットに右ねじを採用する傾向が多い。
一方、ねじの緩みは軸直角に作用する外力により生じるとの見解もある。
即ちホイールナットの回転緩みは、車の走行中に路面などから受ける衝撃力、又、運転操作などから発生する衝撃力がハブ部に加振力として伝達され、ホイールボルト締結部において、ホイールボルト部に軸直角に作用することで生じるとも考えられる。
上記衝撃力は、一般的には、車のサスペンション装置により緩和されるように設計されているが、その緩和される状況は車の種別によって異なる。
乗用車の場合には、総車両重量は車両重量の30%増程度であり、通常使用状態からみれば、重量変動は±15%程度であり、サスペンションによる衝撃吸収能力効果を期待できる範囲内にあると推定される。
商用車の場合には、総車両重量は車両重量の50%増程度であり、大型トラックの場合には、総車両重量は車両重量の100%増程度であり、通常使用状態からみれば、重量変動が大幅に変化しすぎるので、貨物重量が大きい場合には、サスペンションによる衝撃吸収能力効果はほとんど期待できなくなると推定される。
そこで、大型車の車輪脱落事故が特に問題されているものと推測される。
更に、事故統計からは、左車輪のホイールナットを左ねじから右ねじに変更したことも要因の一つになっているものと推測される。
【0006】
従来の、ホイールナットの緩み対策としては、ホイールナットの緩み回転を機械的に抑えるために、ワッシャによってホイールナットを保持させる爪状のもので把持すると共に、ホイールに設けた溝などに把持させるようにしたもの(特許文献1)がある。
また、ホイールキャップにホイールナットの外周面に係合する凹部を設け、機械的にナットの回転を防止する構造にしたもの(特許文献2)がある。
今一つ、ホイールナットの確実な締付けのためには、軸力の安定化を図る必要がある。そのために、締結関連部に特殊な表面処理を施した部品の組み合わせによって締付けトルクの安定化を図ることにした提案(特許文献3)がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開 昭57−91602
【特許文献2】実開 昭57−37602
【特許文献3】特開 2000−85305
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】国自整第196号の2(平成27年9月10日) 大型自動車のホイール・ボルト折損による車輪の脱落事故による防止について
【非特許文献2】日本機械学会論文集(C編),75巻,750号,pp.446〜453(2009)
【非特許文献3】日本機械学会論文集(C編),76巻,772号,pp.3768〜3775(2010)
【非特許文献4】JIS D 4220:2015 自動車部品-ホイール-取付方式及び寸法
【非特許文献5】JIS B1001:1985 ボルト穴径及びざぐり径
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
自動車のホイール脱落事故を防止するために、ホイールナットの回転緩みを改善する方法として、ホイールナットの改造により、伸びボルト長Lを延長するホイールナットに関するものである。
本発明の伸びボルト長Lとは、ホイール取付状態にて、ホイールボルトの座面からホイールナットの第一ねじ山までの長さである。
【0010】
従来のホイールの取付構造例(非特許文献4)から、ホイールの脱落事故が発生しにくいホイール取付構造例と発生しやすいホイール取付構造例との差の有無を推測するために、ホイールボルトの伸びボルト長Lを比較する。そのために、係数Q値(伸びボルト長L/ホイールボルトの呼び径d)を定義する。
乗用車の場合には、Q値は、約1程度となるものが多いが、一方、大型トラックの場合には、単輪取付構造例ではQ値は約0.5〜0.8程度となり、複輪取付構造例の場合には、Q値は約0.9〜1.5程度となっているものが多い。
上記係数Q値は、非特許文献4の表に掲載された図、及び、特許文献1、特許文献3の明細書の図から試算したものである。
【0011】
乗用車の場合には、応力振幅も小さく、ねじ緩みの影響は小さいと推察されるが、一方、大型トラックの場合には、応力振幅によるねじ緩みに大きく影響すると推測したが、更に、ホイールボルトの伸びボルト長Lも、ねじ緩みの要因であると推測される。
即ち、ホイールナットの確実な締付だけではなく、ホイールナットの利用技術にもねじ緩みの原因があると推測した。
ホイールナットの利用技術とは、ホイールボルトの伸びボルト長Lが短いこと、即ち、Q値が小さいことが、ねじの緩みに大きく影響すると推測したことである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ホイールボルトの伸びボルト長Lを大きくするために、ホイールナットのねじ部にざぐりを設けたことである。 大幅な設計変更を行なうことなく実施できる方法であり、安全性の向上とコスト低減を図るものである。
尚、ホイールナットの改造にともない、従属的に、ホイールボルトの延長改造は必要である。
【0013】
ホイールナットのねじ部にざぐりとは、ホイールナットの先端面から、ホイールボルトの呼び径dに対応したボルト穴径d
2(非特許文献5の付表に基づく)でざぐりしたホイールナットである。特に、ざぐり深さDは、伸びボルト長Lが、d≦L≦3dを満足するホイールナットを推奨する。
尚、本案で述べる“ざぐり”は、一般的に云われる“ばか穴”の貫通していないものと同様であるが、敢えて、本案では“ざぐり”と定義した。
更に、ボルト穴径d
2は2級を標準として推奨する。
ざぐり深さは、取付構造により考慮すべき寸法が異なるために、実施例にて、別途詳細に説明するものとする。
また、伸びボルトの座面位置も取り付け構造により異なるために、実施例にて、別途詳細に説明するものとする。
【0014】
本発明のホイールナットについて、簡単に構造の説明を行なう。
該ホイールナットは、一部を改造することで、ホイールナットの回転緩みの改善を行なうものであり、特に、ホイールナットの外形の変更箇所は、全長寸法の延長を行なうが、その他のホイールナットの仕様は残したままで、ホイールナットの先端面から、ざぐりをすることで伸びボルト長Lだけを延長するものである。従って、改造のために発生するものは、ホイールナットの全長寸法の延長と、ホイールボルトの延長を行なうことである。
従って、外観上の変更はホイールナットが長くなったようにみえるだけである。
【0015】
本発明の特長は、ホイールボルトの伸びボルト長Lを大きくすることにより、ボルトのバネ定数を小さくしたことを利用するものである。
即ち、伸びボルト長Lが大きい程、軸力変化に鈍感になることを利用する。
伸びボルト長LにFの軸力が作用したときには、以下の式が成立する。
F=S・σ=S・ε・E=S・δ/L・E=(S・E/L)・δ (a)
F:軸力、S:ボルトの有効断面積、σ:応力
ε:ひずみ、E:縦弾性係数、L:伸びボルト長
伸びボルト長L1と伸びボルト長L2にFの軸力が作用したときには
F=(S・E/L1)δ1=(S・E/L2)δ2 (b)
また、伸びボルト長L1と伸びボルト長L2のバネ定数をK1,K2とすれ
ば
F=K1・δ1=K2・δ2 (c)
(b)式、(c)式より
K1/K2=(S・E/L1)/(S・E/L2)=L2/L1 (d)
従って、伸びボルト長Lとバネ定数Kとは逆比例関係となる。
具体的には、伸びボルト長Lが2倍になれば、バネ定数Kは、1/2となる。
別の云いかたをすれば、伸びボルト長Lが大きいほど、軸力変化に対して鈍感になるといえる。
【0016】
バネ定数の異なる3種類の伸びボルトについて、伸びボルトの伸びと伸びボルトの軸力との関係について、
図3に示すグラフにて説明する。
尚、横軸は、伸びボルト長の伸び縦軸は伸びボルトの軸力である。
但し、伸びボルトの伸びとホイールナットの回転角は比例関係にあるので、横軸は、ホイールナットの回転角で表すことにする。
伸びボルトのバネ定数はバネ定数の小さいものから(A),(B),(C)
の3種とし、そのバネ定数は、K
1:K
2:K
3=1:1.5:2とした。
また、伸びボルトの軸力が締結定格トルクのときにT
100,1/2締結トルクのときにT
50としたとき、(A),(B),(C)伸びボルト特性線とT
100,T
50との交点となるホイールナットの回転角を求める。
伸びボルトの軸力がT
100からT
50まで減少したときのホイールナットの回転角度を求めると共に、その差を求める。
(A)伸びボルト特性線の場合には、θ
A100−θ
A50=θ
AW
(B)伸びボルト特性線の場合には、θ
B100−θ
B50=θ
BW
(C)伸びボルト特性線の場合には、θ
C100−θ
C50=θ
CW
θ
AW とθ
BWとθ
CWとの関係を求める。
(A)伸びボルト特性線では
T
100=K
1・θ
A100・
T
50=K
1・θ
A50
θ
A100―θ
A50=1/K
1・(θ
A100−θ
A50)
K
1(θ
A100−θ
A50)=(T
100−T
50)=const
(B)伸びボルト特性線、(C)伸びボルト特性線も同様に
K
2(θ
B100−θ
B50)=(T
100−T
50)=const
K
3(θ
C100−θ
C50)=(T
100−T
50)=const
従って、
K
1(θ
A100−θ
A50)=K
2(θ
B100−θ
B50)=K
3(θ
C100−θ
C50)
即ち、K
1・θ
AW=K
2・θ
BW=K
3・θ
CW より
K
1・θ
AW=1.5・K
1・θ
BW=2・K
1・θ
CW
θ
AW=1.5・θ
BW=2・θ
CW となる。
従って、伸びボルトのバネ定数とホイールナットの回転角度余裕とは逆比例することになり、伸びボルトのバネ定数Kを小さくすること、即ち、伸びボルト長Lを大きくすれば、ホイールナットの回転角度余裕が大きくなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、伸びボルト長Lを延長したことにより、ねじが緩むときのホイールナットの回転角度余裕を大きくできるので、ホイールナットの緩みに対応した軸力の低下速度を抑えることができるので、メンテナンス時間間隔を拡大することができることである。
更に、ホイールナットの回転角度に対する軸力の変化率を低減したことで締結トルクのばらつきを低く抑え易くすると共に、ホイールナットの締結トルク過剰によるホイールボルトの折損事故防止も容易にできることである。
今一つ、大幅な設計変更を行なうことなく実施できる方法であり、安全性の向上とコスト低減を図ることができる点である。
但し、ホイールナットの改造にともない、従属的に、ホイールボルトの延長改造は必要である。
【0018】
また、本発明によれば、伸びボルト長Lの下限値をホイールボルトの呼び径dとしたのは、Q値(L/d)が1未満のものに対する対策であり、ホイールナットの回転緩み防止効果を得るための条件としたことである。
伸びボルト長Lの上限値をホイールボルトの呼び径dの3倍(3d)としたのは、ホイールナットの全長寸法が大きくなるためで、ホイールナットの慣性モーメントの過大化制限としたことによる。更に、自動車には、車幅規制などもあり、車体設計制限の可能性もあるためである。
【0019】
更に、本発明によれば、あらゆるタイプのホイール構造、又、ディスク片側取付構造、ディスク両面取付構造、更に、単輪構造取付及び複輪構造取付にも対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のホイールナットの座面構造とざぐり説明図
【
図2】本発明のホイールナットによる伸びボルト長Lの延長方法説明図
【
図3】伸びボルトの伸びと伸びボルトの軸力との関係について示すグラフ
【
図4】軽自動車、乗用車、小型トラック対応用のディスク片側取付用テーパ座ホイールナット取付詳細図
【
図5】軽自動車、乗用車、小型トラック対応用のディスク片側取付用テーパ座ホイールナットの現状と改良ホイールナットの寸法比較関係図
【
図6】軽自動車、乗用車、小型トラック対応用のディスク片側取付用球面座ホイールナット取付詳細図
【
図7】大型トラック・バス対応用の単輪対応のディスク両側取付用球面座ホイールナット取付詳細図
【
図8】大型トラック・バス対応用の単輪対応のディスク両側取付用球面座ホイールナットにおける現状と改良ホイールナットの寸法比較関係図
【
図9】大型トラック・バス対応用の単輪対応のディスク両側取付用平面座ホイールナット取付詳細図
【
図10】大型トラック・バス対応用の複輪対応のディスク両側取付用球面座ホイールナットにおける現状と改良ホイールナットの寸法比較関係図
【
図11】大型トラック・バス対応用の複輪対応のディスク両側取付用平面座ホイールナット取付詳細図
【
図12】大型トラック・バス対応用の複輪対応のディスク両側取付用平面座ホイールナットにおける現状と改良ホイールナットの寸法比較関係図
【
図13】大型トラック・バス対応用の複輪対応のディスク両側取付用球面座ホイールナット取付詳細図(独自方式の提案)
【
図14】大型トラック・バス対応用の複輪対応のディスク両側取付用球面座ホイールナットにおける現状と改良ホイールナットの寸法比較関係図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のホイールナットは、現状の問題点の一つであるホイールナットの回転緩みを、改善をするものであり、特に、ホイールナットの外形の変更箇所は、全長寸法の延長を行なうが、その他のホイールナットの仕様は残したままで、ホイールナットの先端面から、ざぐりをすることで伸びボルト長Lだけを延長するものである。 従って、改造のために発生するものは、ホイールナットの全長寸法の延長とホイールナットの全長寸法の延長に対応してホイールボルトの延長を行なうことである。
尚、ホイールナットの基本的な仕様は変更していないので、ホイールナットの組込みは従来通りであり、規定の締付トルクで確実に締付けることである。
【0022】
具体的なホイールナットの改造例は、ディスクホイールの取付け例に対応した実施例にて示すこととし、実施例は、非特許文献4の表に掲載された図、及び、特許文献1、特許文献3の明細書の図の中から抽出した。更に、現状では規定にない独自方式を提案したものを示す。
尚、ホイールナットの改造目標としては、現状のQ値の1.5〜2倍とし、ホイールナットの改造方法であるざぐり深さDの求め方を示すと共に、改造に伴って発生した寸法増大状態を示す。
【実施例1】
【0023】
本発明のホイールナットは、従来から使用されているホイールナットの全長寸法の延長を行なうが、その他の仕様は残したままで、ホイールナットの先端面から、ざぐりをしたものである。
従って、テーパ座、球面座、平面座のナット座形状のものに対応することができるものである。
図1に本発明のねじ部にざぐりを施したテーパ座、球面座、平面座のホイールナットの概略構造を示す。
(a)テーパ座形状で頭部形状は貫通型のホイールナットを示す。
(b)球面座形状で頭部形状は貫通型のホイールナットを示す。
(c)平面座形状で頭部形状は貫通型のホイールナットを示す。
この段階では、ホイールナットの全長Z,ざぐり深さDは決定できない。
実施例2以降にて、ホイールナットの延長に基づく寸法変更方法を具体的に詳述する。
【0024】
球面座ホイールナットにて、全長寸法を延長した場合の概略外観を
図2に示す。
(a)現状のホイールナットを示す。
(b)ざぐり深さDをホイールボルトの呼び寸法dに等しいとしたときのホイールナットの外観を示す。但し、ここでは、ねじ長さL
Nを現状のホイールナットの全長Zの2/3と仮定した。
(c)ざぐり深さDをホイールボルトの呼び寸法dの2倍に等しいとしたときのホイールナットの外観を示す。但し、ここでは、ねじ長さL
Nを現状のホイールナットの全長Zの2/3と仮定した。
【実施例2】
【0025】
軽自動車、乗用車、小型トラック対応用のディスクホイール片側取付用テーパ座ホイールナットによる取付状態例を
図4に示す。
ざぐり深さDを求める。
現状の伸びボルト長Lを
図4から求める。
ここで注意すべきことは、ホイールボルト2はハブ4の穴に圧入固定にて一体化されているので、ホイールボルト2の座面はハブ4のブレーキディスク7との接触面になる。
現状のL=T
B+Tとなり、現状のQ=L/d=(TB+T)/dとなる。
改良ホイールナットを現状のQ値の1.5倍とするならば、改良型のL=T
B+T+Dより
(T
B+T+D)/(TB+T)=1.5
従って、D=1.5(TB+T)となる。
次に、ホイールナットの全長Zを求める。
ホイールナットのねじ長さは、一般的に、小型車の場合には、10mm以上
又は、有効ねじ山数が8以上程度に見積もられている。従って、いずれか大きい方の値を採用することが必要である。
(L
N≧10mm 又は、L
N≧8×ねじピッチ の大きい方を採用する)
ホイールナットの全長Z=D+L
N
軽自動車、乗用車、小型トラック対応用のテーパ座ホイールナット、及び、テーパ座ホイールナットの改善による寸法関係の影響を
図5に示す。
(a)現状のホイールナットの寸法関係を示す。
Q=1.07と読み取ることができる。
(b)改良型ホイールナットの寸法関係を示す。
Q=1.6と読み取ることができる。
ここで注意すべきことは、ハブのディスク取付面からホイールボルト先端までの長さ
L
Zは車幅制限などの範囲に収まっていることが必要である。
【実施例3】
【0026】
軽自動車、乗用車、小型トラック対応用のディスクホイール片側取付用球面座ホイールナットによる取付状態例を
図6に示す。
実施例2と同様に求めることができる。
【実施例4】
【0027】
大型トラック・バス対応用の単輪対応のディスク両側取付用球面座ホイールナットによる取付状態例を
図7に示す。
ざぐり深さDを求める。
現状の伸びボルト長Lを
図7から求める。
ここで注意すべきことは、ホイールボルト2はブレーキディスク締結ナット8により、ブレーキディスク7、ハブ4は一体化されているので、ホイールボルト2の座面はハブ4のディスクホイール内5との接触面になる。
現状のL=Tとなり、現状のQ=L/d=T/dとなる。
改良ホイールナットを現状のQ値の1.5倍とするならば、
改良型のL=T+Dより
(T+D)/T=1.5
従って、D=0.5Tとなる。
但し、現状のQ値は、約0.4程度であり、Q値の目標を達成するためには
最低でも、Q値を1として、ざぐり深さDを求める必要がある。
改良型のL=T+D=dとなり
D≧d−Tとなる。
次に、ホイールナットの全長Zを求める。
ホイールナットのねじ長さは、一般的に、大型車の場合には、有効ねじ山数が10以上程度に見積もられている。(L
N≧10×ねじピッチを採用する)
ホイールナットの全長Z=D+L
N
大型トラック・バス対応用の単輪対応のディスク両側取付用球面座ホイールナットにおける現状と改良ホイールナットの寸法比較関係寸法関係影響を
図8に示す
図8に示す。
(a)現状のホイールナットの寸法関係を示す。
Q=0.4と読み取ることができる。
(b)改良型ホイールナットの寸法関係を示す。
Q=1と読み取ることができる。
ここで注意すべきことは、ハブのディスク取付面からホイールボルト先端までの長さ
L
Zは車幅制限などの範囲に収まっていることが必要である。
【実施例5】
【0028】
大型トラック・バス対応用の単輪対応のディスク両側取付用平面座ホイールナットによる取付状態例を
図9に示す。
ざぐり深さDを求める。
現状の伸びボルト長Lを
図9から求める。
ここで注意すべきことは、ホイールボルト2はブレーキディスク締結ナット8により、ブレーキディスク7、ハブ4は一体化されているので、ホイールボルト2の座面はハブ4のディスクホイール内5との接触面になる。
現状のL=T+T
Wとなり、現状のQ=(T+T
W)/dとなる。
改良ホイールナットを現状のQ値の1.5倍とするならば、改良型のL=T+T
W+Dより
(T+T
W+D)/(T+T
W)=1.5
従って、D=0.5(T+T
W)となる。
次に、ホイールナットの全長Zを求める。
ホイールナットのねじ長さは、一般的に、大型車の場合には、有効ねじ山数が10以上程度に見積もられている。(L
N≧10×ねじピッチを採用する)
ホイールナットの全長Z=D+L
N
大型トラック・バス対応用の単輪対応のディスク両側取付用平面座ホイールナットにおける現状と改良ホイールナットの寸法比較関係寸法関係影響を
図10に示す。
(a)現状のホイールナットの寸法関係を示す。
Q=0.84と読み取ることができる。
(b)改良型ホイールナットの寸法関係を示す。
Q=1.6と読み取ることができる。
ここで注意すべきことは、ハブのディスク取付面からホイールボルト先端までの長さ
L
Zは車幅制限などの範囲に収まっていることが必要である。
【実施例6】
【0029】
大型トラック・バス対応用の複輪対応のディスク両側取付用平面座ホイールナットによる取付状態例を
図11に示す。
ざぐり深さDを求める。
現状の伸びボルト長Lを
図11から求める。
ここで注意すべきことは、ホイールボルト2はブレーキディスク締結ナット8により、ブレーキディスク7、ハブ4は一体化されているので、ホイールボルト2の座面はハブ4のディスクホイール内5との接触面になる。
現状のL=T+T
Wとなり、現状のQ=(T+T
W)/dとなる。
改良ホイールナットを現状のQ値の1.5倍とするならば、改良型のL=T+T
W+Dより
(T+T
W+D)/(T+T
W)=1.5
従って、D=0.5(T+T
W)となる。
次に、ホイールナットの全長Zを求める。
ホイールナットのねじ長さは、一般的に、大型車の場合には、有効ねじ山数が10以上程度に見積もられている。(L
N≧10×ねじピッチを採用する)
ホイールナットの全長Z=D+L
N
大型トラック・バス対応用の単輪対応のディスク両側取付用平面座ホイールナットにおける現状と改良ホイールナットの寸法比較関係寸法関係影響を
図12に示す。
(a)現状のホイールナットの寸法関係を示す。
Q=1.47と読み取ることができる。
(b)改良型ホイールナットの寸法関係を示す。
Q=2.2と読み取ることができる。
ここで注意すべきことは、ハブのディスク取付面からホイールボルト先端までの長さ
L
Zは車幅制限などの範囲に収まっていることが必要である。
【実施例7】
【0030】
大型トラック・バス対応用の複輪対応のディスク両側取付用球面座ホイールナットによる取付状態例を
図13に示す。(独自方式の提案)
ざぐり深さDを求める。
現状の伸びボルト長Lを
図13から求める。
ここで注意すべきことは、ホイールボルト2はブレーキディスク締結ナット8により、ブレーキディスク7、ハブ4は一体化されているので、ホイールボルト2の座面はハブ4のディスクホイール内5との接触面になる。
現状のL=Tとなり、現状のQ=T/dとなる。
改良ホイールナットを現状のQ値の1.5倍とするならば、改良型のL=T+Dより
(T+D)/T=1.5
従って、D=0.5×Tとなる。
次に、ホイールナットの全長Zを求める。
ホイールナットのねじ長さは、一般的に、大型車の場合には、有効ねじ山数が10以上程度に見積もられている。(L
N≧10×ねじピッチを採用する)
ホイールナットの全長Z=D+L
N
大型トラック・バス対応用の単輪対応のディスク両側取付用平面座ホイールナットにおける現状と改良ホイールナットの寸法比較関係寸法関係影響を
図12に示す。
(a)現状のホイールナットの寸法関係を示す。
Q=0.87と読み取ることができる。
(b)改良型ホイールナットの寸法関係を示す。
Q=1.3と読み取ることができる。
ここで注意すべきことは、ハブのディスク取付面からホイールボルト先端までの長さ
L
Zは車幅制限などの範囲に収まっていることが必要である。
【実施例8】
【0031】
図示しないが、大型車のJIS方式ダブルナット構成におけるインナーナット、アウターナットに対して、ざぐりによる伸びボルトの延長方法は回転緩み改善効果が期待できるものと推測する。
【実施例9】
【0032】
ホイールナットの慣性モーメントを小さくするための形状提案
図2(c)に想像線で示すように、ホイールナット軽量化のための切欠き径d
5で六角ナット面を削除することも慣性モーメントを小さくするためには有効になる。ここに切欠き径d
5は六角ナット面の対辺長さである。又、切欠き長さはホイールナットの全長Zから六角ナット長さ部L
Nを差し引いた長さである。六角ナット長さ部L
Nは、現状のホイールナットの六角ナット長さ部L
Nとする。実施例では、すべてホイールナットの頭部形状を貫通型で示したが、袋型でも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のホイールナットのざぐりによる伸びボルト長Lの延長方法は、一般工業用製品の締結用のナットにも利用することができる。更に、工業用製品に限定することなく、締結部のナットへ応用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 ホイールナット
2 ホイールボルト
3 ワッシャ
4 ハブ
5 ディスクホイール内
6 ディスクホイール外
7 ブレーキディスク
8ブレーキディスク締結ナット
21 ホイールナット座面
22 ホイールナットの先端面
23 六角ナット面
24 ナットのねじ部
25 ざぐり部
26 軽量化のための切欠き部
d ホイールボルトの呼び径、
d
2 ホイールボルトの呼び径に対応するボルト穴径
d
5 ホイールナット軽量化のための切欠き径
D 座繰り深さ
Z ホイールナットの全長
L
Z ハブのディスク取付面からホイールボルト先端までの長さ
L
N ねじ長さ
L
S 六角ナット部長さ
L ホイールボルトの伸びボルト長
T 総ホイールディスクの実行板厚
T
H1 内側ディスクホイールの板厚
T
H2 外側ディスクホイールの板厚
T
B ブレーキディスクの板厚
T
W ワッシャ板厚