(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記類似度出力部は、前記訓練動作を反復して試行する場合に、一旦選択された前記相関第1筋電信号を出力した前記第1筋電センサの出力を継続して前記相関第1筋電信号とする請求項1に記載のリハビリ評価装置。
前記選択部は、前記センサ信号取得部が取得した前記センサ信号から前記比較動作の動作周波数を算出し、前記筋電信号取得部が取得した複数の前記第2筋電信号のうち前記動作周波数に対して所定値以上の強度を有する筋電信号を、前記センサ信号と相関を有する前記相関第2筋電信号として選択する請求項1または2に記載のリハビリ評価装置。
前記選択部は、前記動作周波数に対する強度に、対象となる前記第2筋電信号のフィルタ処理後のサンプリング値から算出される二乗平均平方根を加算して前記所定値と比較する請求項3に記載のリハビリ評価装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
あるリハビリ訓練を試行する場合において、その試行に伴って動作する筋肉や、それぞれの筋肉が連動して動作する割合は、試行する人ごとに、更には試行するときの環境や条件ごとに異なることがわかってきた。したがって、試行に応じてどの筋肉の筋電位に着目するかを統一的に予め決めておくことは困難である。筋電位を計測する箇所が少ないと、その試行の動作に対して大きく作用する筋肉を見逃す可能性が高くなり、一方で計測する箇所を増やしすぎると、その試行の動作に対してあまり作用しない筋肉のデータが支配的となってしまう。いずれにしても、麻痺側から得られた筋電信号と非麻痺側から得られた筋電信号とを比較することにより、患部の回復度合を正確に評価することは難しかった。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、リハビリ訓練のたびに筋電位センサの位置を調整し直す試行錯誤の手間をかけることなく、患部の回復度合を短時間で正確に評価できるリハビリ評価装置等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様におけるリハビリ評価装置は、リハビリ訓練による訓練者の回復度合を評価するためのリハビリ評価装置であって、訓練者の肢体を左右に区分したときにリハビリ対象部位を含む一方側である第1側部の複数箇所に取り付けられた第1筋電センサがそれぞれ出力する第1筋電信号と、リハビリ対象部位を含まない他方側である第2側部に、第1筋電センサのそれぞれと肢体に対して左右対称の箇所に取り付けられた第2筋電センサがそれぞれ出力する第2筋電信号とを取得する筋電信号取得部と、第1側部で行われるリハビリ訓練の訓練動作に対応する比較動作を第2側部で行う訓練者を検出対象として当該比較動作に伴う第2側部の
加速度を検出する
加速度センサが出力するセンサ信号を取得するセンサ信号取得部と、筋電信号取得部が取得した複数の第2筋電信号から、センサ信号取得部が取得したセンサ信号と相関を有する一つ以上の相関第2筋電信号を選択する選択部と、筋電信号取得部が取得した複数の第1筋電信号から、選択部が選択した相関第2筋電信号を出力した第2筋電センサと肢体に対して左右対称の箇所に取り付けられた第1筋電センサが出力した相関第1筋電信号を選択し、相関第1筋電信号と相関第2筋電信号との類似度を算出して出力する類似度出力部とを備える。
【0007】
このように構成したリハビリ評価装置によれば、リハビリ訓練の訓練動作に対して大きく作用する筋肉からの筋電信号を選んで比較するので、患部の回復度合を正確に評価することができる。つまり、多くの箇所に筋電センサを取り付けても、その訓練動作にあまり関係のない筋電信号は排除されるので、正しい評価結果を得ることができる。同時に、その訓練動作に対して大きく作用する筋肉からの筋電信号が得られないという可能性も小さい。さらに、多めに筋電センサを取り付けることができるので、出力を観察しながらの試行錯誤により一つ一つの筋電センサの位置を微調整する必要がない。したがって、リハビリ訓練に要する全体の時間を短縮することができる。
【0008】
上記のリハビリ評価装置において、類似度出力部は、訓練動作を反復して試行する場合に、一旦選択された相関第1筋電信号を出力した第1筋電センサの出力を継続して相関第1筋電信号としても良い。このように相関第1信号を定めれば、試行のたびに非麻痺側の比較動作を訓練者に課す必要がなく、リハビリ訓練を効率的に遂行することができる。
【0009】
また、選択部は、センサ信号取得部が取得したセンサ信号から比較動作の動作周波数を算出し、筋電信号取得部が取得した複数の第2筋電信号のうち動作周波数に対して所定値以上の強度を有する筋電信号を、センサ信号と相関を有する相関第2筋電信号として選択することができる。このように、筋電信号を周波数領域で評価することにより、筋電信号のオフセット値や振幅の揺らぎなどの不確定要素を排除することができる。さらに、動作周波数に対する強度に、対象となる第2筋電信号のフィルタ処理後のサンプリング値から算出される二乗平均平方根を加算して所定値と比較しても良い。このように、筋電信号の時間経過に対する振幅値も考慮することにより、訓練動作に対してより影響の大きい筋肉の筋電信号を選択することができる。
【0010】
また、類似度出力部は、m個の選択された相関第1筋電信号のそれぞれを、検出されたt個の筋電位を要素として時系列順に並べた横ベクトルM
1(1),M
1(2), ... ,M
1(m)で表し、選択された相関第1筋電信号の全体を、横ベクトルを縦に並べた第1筋電位行列M
1として表した場合に、それぞれがm個の要素を有するn個の単位縦ベクトルW
1(1),W
1(2), ... ,W
1(n)を横に並べた第1筋シナジ行列W
1と、それぞれがt個の要素を有するn個の横ベクトルC
1(1),C
1(2), ... ,C
1(n)を縦に並べた第1制御行列C
1と、第1誤差行列E
1とを
M
1=W
1C
1+E
1
を満たすように非負値行列因子分解(non−negative matrix factorization)を用いて算出し、
m個の選択された相関第2筋電信号のそれぞれを、検出されたt個の筋電位を要素として時系列順に並べた横ベクトルM
2(1),M
2(2), ... ,M
2(m)で表し、選択された相関第2筋電信号の全体を、横ベクトルを縦に並べた第2筋電位行列M
2として表した場合に、それぞれがm個の要素を有するn個の単位縦ベクトルW
2(1),W
2(2), ... ,W
2(n)を横に並べた第2筋シナジ行列W
2と、それぞれがt個の要素を有するn個の横ベクトルC
2(1),C
2(2), ... ,C
2(n)を縦に並べた第2制御行列C
2と、第2誤差行列E
2とを
M
2=W
2C
2+E
2
を満たすように非負値行列因子分解(non−negative matrix factorization)を用いて算出し、第1筋シナジ行列W
1と第2筋シナジ行列W
2に対して予め定められた類似度指標演算を行って類似度を算出すると良い。このように、相互に連携する筋肉同士の関係性をそれぞれ表す第1筋シナジ行列W
1と第2筋シナジ行列W
2を類似度指標演算の基礎とするので、患部の回復度合を忠実に反映する評価値が得られる。
【0011】
本発明の第2の態様における
リハビリ評価装置の作動方法は、リハビリ訓練による訓練者の回復度合を評価するための
リハビリ評価装置の作動方法であって、
筋電信号取得部が、訓練者の肢体を左右に区分したときにリハビリ対象部位を含む一方側である第1側部の複数箇所に取り付けられた第1筋電センサがそれぞれ出力する第1筋電信号と、リハビリ対象部位を含まない他方側である第2側部に、第1筋電センサのそれぞれと肢体に対して左右対称の箇所に取り付けられた第2筋電センサがそれぞれ出力する第2筋電信号とを取得する筋電信号取得ステップと、
センサ信号取得部が、第1側部で行われるリハビリ訓練の訓練動作に対応する比較動作を第2側部で行う訓練者を検出対象として比較動作に伴う第2側部の
加速度を検出する
加速度センサが出力するセンサ信号を取得するセンサ信号取得ステップと、
選択部が、筋電信号取得ステップで取得した複数の第2筋電信号から、センサ信号取得ステップで取得したセンサ信号と相関を有する一つ以上の相関第2筋電信号を選択する選択ステップと、
類似度出力部が、筋電信号取得ステップで取得した複数の第1筋電信号から、選択ステップで選択した相関第2筋電信号を出力した第2筋電センサと肢体に対して左右対称の箇所に取り付けられた第1筋電センサが出力した相関第1筋電信号を選択し、相関第1筋電信号と相関第2筋電信号との類似度を算出して出力する類似度出力ステップとを有する。このような態様であっても、第1の態様と同様に、患部の回復度合を正確に評価することができ、また、リハビリ訓練に要する全体の時間を短縮することができる。
【0012】
また、本発明の第3の態様におけるリハビリ評価プログラムは、リハビリ訓練による訓練者の回復度合を評価するためのリハビリ評価プログラムであって、訓練者の肢体を左右に区分したときにリハビリ対象部位を含む一方側である第1側部の複数箇所に取り付けられた第1筋電センサがそれぞれ出力する第1筋電信号と、リハビリ対象部位を含まない他方側である第2側部に、第1筋電センサのそれぞれと肢体に対して左右対称の箇所に取り付けられた第2筋電センサがそれぞれ出力する第2筋電信号とを取得する筋電信号取得ステップと、第1側部で行われるリハビリ訓練の訓練動作に対応する比較動作を第2側部で行う訓練者を検出対象として当該比較動作に伴う第2側部の
加速度を検出する
加速度センサが出力するセンサ信号を取得するセンサ信号取得ステップと、筋電信号取得ステップで取得した複数の第2筋電信号から、センサ信号取得ステップで取得したセンサ信号と相関を有する一つ以上の相関第2筋電信号を選択する選択ステップと、筋電信号取得ステップで取得した複数の第1筋電信号から、選択ステップで選択した相関第2筋電信号を出力した第2筋電センサと肢体に対して左右対称の箇所に取り付けられた第1筋電センサが出力した相関第1筋電信号を選択し、相関第1筋電信号と相関第2筋電信号との類似度を算出して出力する類似度出力ステップとをコンピュータに実行させる。このような態様であっても、第1の態様と同様に、患部の回復度合を正確に評価することができ、また、リハビリ訓練に要する全体の時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、リハビリ訓練のたびに筋電位センサの位置を調整し直す試行錯誤の手間をかけることなく、患部の回復度合を短時間で正確に評価できるリハビリ評価装置等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲に係る発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。
【0016】
図1は、本実施携帯に係るリハビリ訓練システム100の全体構成を示す概略図である。リハビリ訓練システム100は、訓練者がリハビリ訓練を行うための装置である。訓練者は、肢体のうち眉間から股間までを結ぶ中心線によって左右に区分されたいずれか一方側の部位が麻痺する症状である片麻痺を患う患者である。本実施形態においては、訓練者として左腕に麻痺を有する患者を想定する。図示するように、リハビリ対象部位である左腕が属する左半身を麻痺側または第1側部と称し、他方側である右半身を非麻痺側または第2側部と称する。
【0017】
訓練者は、リハビリ訓練の訓練動作として、例えば左腕の前腕部を持ち上げる動作を行う。この訓練動作に伴って変動する筋電位を計測するための第1筋電センサ310が、麻痺側の複数の筋肉部位にそれぞれ取り付けられている。第1筋電センサ310は、例えば表面筋電図計測(EMG計測)を行うセンサであり、計測結果である第1筋電信号を無線通信により出力することができる。
【0018】
本実施形態においては、訓練者は、訓練動作と同等の比較動作を非麻痺側でも行う。訓練者は、訓練動作として左腕の前腕部を持ち上げる動作を行うのであれば、比較動作として、右腕の前腕部を持ち上げる動作を行う。この比較動作に伴って変動する筋電位を計測するための第2筋電センサ320が、非麻痺側の複数の筋肉部位にそれぞれ取り付けられている。より具体的には、第2筋電センサ320のそれぞれは、肢体の中心線に対して第1筋電センサ310のそれぞれと左右対称となる箇所に取り付けられている。第2筋電センサ310は、第1筋電センサ310と同一のセンサであり、計測結果である第2筋電信号を無線通信により出力することができる。
【0019】
また、訓練者は、比較動作に伴う第2側部の変化量を検出する検出センサとして、加速度センサ330を装着している。ここでは、比較動作として右腕の前腕部を持ち上げる動作を行うので、その変化が顕著に表れる右手首に加速度センサ330を装着している。加速度センサ330は、比較動作に伴って変化する右手首の加速度を検出し、検出結果である加速度信号を無線通信により出力することができる。
【0020】
リハビリ訓練システム100の全体をコントロールするコンピュータであるPC200は、第1筋電信号、第2筋電信号および加速度信号を受け取って、麻痺部の回復度合を演算する。その演算結果等はディスプレイ400に表示される。ディスプレイ400は、表示部として例えば液晶パネルを備える。訓練者や訓練補助者等は、ディスプレイ400の表示を見て、リハビリ訓練の成果を確認したり、トレーニングメニューの確認をしたりすることができる。
【0021】
図2は、リハビリ訓練システム100の全体のブロック図である。リハビリ訓練システム100は、PC200、第1筋電センサ310、第2筋電センサ320、加速度センサ330、ディスプレイ400およびPC200とネットワークを介して接続されたデータ蓄積部500を含む。
【0022】
第1筋電センサ310のそれぞれは、麻痺側筋肉の筋電位を計測して、その計測結果である第1筋電信号をPC200へ送信する。第2筋電センサ320は、非麻痺側筋肉の筋電位を計測して、その計測結果である第2筋電信号をPC200へ送信する。加速度センサ330は、加速度を検出し、その検出結果である加速度信号をPC200へ送信する。なお、本実施形態においてはそれぞれの信号の通信手段として例えば無線LANを用いるが、通信形態は無線LANに限らず、他の無線通信手段であっても良いし、有線通信であっても良い。
【0023】
PC200は、第1筋電信号と第2筋電信号を受信する受信部として機能する筋電信号取得部220を備える。筋電信号取得部220は、受信した筋電信号を整形するフィルタ回路や、通信IFがアナログIFである場合にはAD変換回路などを含んでも良い。筋電信号取得部220は、受信し、構成によってはフィルタ処理した第1筋電信号および第2筋電信号を制御演算部210へ引き渡す。
【0024】
PC200は、加速度信号を受信する受信部として機能する加速度信号取得部230を備える。加速度信号取得部230は、受信した加速度信号を整形するフィルタ回路や、通信IFがアナログIFである場合にはAD変換回路などを含んでも良い。加速度信号取得部230は、受信し、構成によってはフィルタ処理した加速度信号を制御演算部210へ引き渡す。
【0025】
PC200は、訓練者や訓練補助者の指示操作を受け付ける操作受付部240を備える。操作受付部240は、例えばディスプレイ400に重畳して設けられたタッチパネルや、接続されたマウスやキーボードからの信号を受信する。操作受付部240は、訓練者や訓練補助者からトレーニングのメニュー選択や、訓練開始の準備完了指示を受け付けて制御演算部210へ引き渡す。
【0026】
PC200は、例えばSSD(ソリッドステートドライブ)で構成される、記憶部250を備える。記憶部250は、リハビリ訓練システム100を制御するための制御プログラムや、制御に用いられる様々なパラメータ値、関数、ルックアップテーブル等を記憶している。また、後述する類似度や回復度合を表す評価値等を記憶する。
【0027】
PC200は、表示する映像信号を生成して接続されたディスプレイ400に送信する表示制御部260を備える。制御演算部210は、訓練者や訓練補助者に視認させる情報を、表示制御部260を介して視認可能にディスプレイ400に表示する。
【0028】
PC200は、例えばCPUであり、制御プログラムに従ってリハビリ訓練システム100の全体を制御する。また、制御部200は、制御に関わる様々な演算を実行する機能演算部としての役割も担う。選択部211は、筋電信号取得部220が取得した第2筋電信号から、加速度信号取得部230が取得した加速度信号と相関を有する一つ以上の相関第2筋電信号を選択する。また、類似度演算部212は、筋電信号取得部220が取得した第1筋電信号から、選択部211が選択した相関第2筋電信号を出力した第2筋電センサ320と肢体に対して左右対称の箇所に取り付けられた第1筋電センサ310が出力した相関第1筋電信号を選択する。そして、相関第1筋電信号と相関第2筋電信号との類似度を算出する。これらの具体的な演算処理については、後に詳述する。
【0029】
データ蓄積部500は、例えばイントラネットに接続されたハードディスクドライブなどの記録媒体であり、制御演算部210が演算した類似度や評価値等を蓄積する。例えば、医師は、イントラネットを介してデータ蓄積部500にアクセスすれば、特定患者の回復度合を自室の端末等で確認することができる。すなわち、類似度演算部212等が出力する情報は、視認可能にディスプレイ400へ出力されたり、今後の利用のためにデータ蓄積部500へ出力されたりする。つまり、類似度演算部212は、ディスプレイ400へ出力するための表示制御部260やそのインタフェースと協働すれば、演算した類似度を可視可能に出力する類似度出力部として機能するし、データ蓄積部500へ出力するためのインタフェースと協働すれば、演算した類似度を事後利用可能に出力する類似度出力部として機能する。類似度演算部212は、他の出力形態にも対応し、適宜接続されるハードウェアと協働して類似度出力部を構成し得る。なお、PC200は、これからトレーニングを行う訓練者の情報をデータ蓄積部500から取得することもできる。
【0030】
次に、訓練者が行う一連のトレーニングにおいて、制御演算部210が実行する処理について説明する。
図3は、制御演算部210が実行する処理の手順を示すフローチャートである。フローは、第1筋電センサ310のそれぞれが麻痺側の所定箇所に取り付けられ、第2筋電センサ320のそれぞれが非麻痺側に、第1筋電センサ310のそれぞれと左右対称となる箇所に取り付けられ、加速度センサ330が、非麻痺側の手首に取り付けられた状態で開始される。
【0031】
制御演算部210は、ステップS101で、訓練者等から操作受付部240を介してトレーニングメニューの選択を受け付ける。訓練者等は、ディスプレイ400に表示されたトレーニングメニューの中からこれから行うものを選択する。なお、訓練者は、選択するトレーニングメニューに合わせて、事前に第1筋電センサ310、第2筋電センサ320および加速度センサ330を適切な箇所に取り付けている。ここでは、左腕の前腕部を持ち上げる訓練動作を複数回繰り返すトレーニングメニューを選択するものと想定する。したがって、第1筋電センサ310は、麻痺側である左上半身に分散して取り付けられており、第2筋電センサ320は、非麻痺側である右上半身に分散して取り付けられている。また、加速度センサ330は、非麻痺側である右手首に取り付けられている。
【0032】
制御演算部210は、ステップS102へ進み、非麻痺側で比較動作を試行するように、ディスプレイ400あるいは発声機能などを通じて訓練者に指示する。比較動作は、訓練動作に対応する肢体に対して左右対称の動作である。ここでは訓練動作として左腕の前腕部を持ち上げる動作を想定しているので、比較動作は、右腕の前腕部を持ち上げる動作である。訓練者は、この試行指示に従って比較動作を行う。
【0033】
制御演算部210は、ステップS103へ進み、訓練者の比較動作に伴う第2筋電信号を、筋電信号取得部220を介して取得する。また、並行して、当該比較動作に伴う加速度信号を、加速度信号取得部230を介して取得する。そして、ステップS104へ進み、制御演算部210の機能演算部である選択部211は、取得した第2筋電信号の中から、取得した加速度信号と相関を有するものを相関第2筋電信号として選択する。相関第2筋電信号として選択する第2筋電信号の数は、予め定められた固定数であっても良いし、一定の相関度合以上のものを選択する不定数であっても良い。いずれにしても、相関第2筋電信号の数は、1つ以上であって、第2筋電信号の数以下である。具体的な演算手法等については後に詳述する。
【0034】
制御演算部210は、ステップS105へ進み、麻痺側で訓練動作を試行するように、ディスプレイ400あるいは発声機能などを通じて訓練者に指示する。訓練者は、この試行指示に従って訓練動作を行う。制御演算部210は、ステップS106へ進み、訓練者の訓練動作に伴う第1筋電信号を、筋電信号取得部220を介して取得する。
【0035】
そして、ステップS107へ進み、制御演算部210の機能演算部である類似度演算部212は、取得した第1筋電信号の中から、ステップS104で選択部211が選択した相関第2筋電信号を出力した第2筋電センサ320と肢体に対して左右対称の箇所に取り付けられた第1筋電センサ310が出力したものを相関第1筋電信号として選択する。なお、ここでは、ステップS106で全ての第1筋電信号を一旦取得してから、ステップS107で相関第1筋電信号を選択しているが、ステップS106で対象となる第1筋電センサ310から相関第1筋電信号のみを取得するようにしても良い。さらに、類似度演算部212は、相関第1筋電信号と相関第2筋電信号の類似度を算出する。具体的な演算手法等については後に詳述する。
【0036】
制御演算部210は、ステップS108へ進み、ステップS108で算出した類似度を、表示制御部260を介してディスプレイ400に表示する。そして、ステップS109へ進み、トレーニングメニューが終了したか、すなわち訓練動作の試行回数が設定された回数に到達したか否かを判断する。設定された回数に到達していなければ、ステップS105へ戻り、訓練動作を反復する。なお、訓練動作を反復して試行する場合には、ステップS107で既に選択した第1筋電センサ310の出力を継続して相関第1筋電信号とすれば良い。このように2回目以降の訓練動作において相関第1筋電信号を出力する第1筋電センサ310を固定すれば、訓練者に毎回比較動作を行わせる煩わしさを省くことができる。また、同一の反復試行に対して比較する信号を統一できるので、それぞれ算出される類似度の変化や、平均値等の統計値も回復度合を示す指標として活用することもできる。
【0037】
設定された回数に到達していれば、ステップS110へ進む。制御演算部210は、ステップS110で、一連のトレーニングに対する結果を、表示制御部260を介してディスプレイ400に表示する。また、データ蓄積部500へ出力する。データ蓄積部500は、当該トレーニング結果を受け取り、トレーニングを行った訓練者の情報として格納する。制御演算部210は、ステップS111へ進み、訓練者等から操作受付部240を介してトレーニング続行の指示を受けたか否かを判断する。続行の指示を受けたと判断したら、ステップS101へ戻り、さらに一連のトレーニングプログラムを継続する。続行の指示を受けなかったと判断したら、一連の処理を終了する。
【0038】
次に、ステップS104の処理について詳述する。
図4は、ステップS104の詳細な処理手順を示すフローチャートである。本実施形態においては、上述のように、複数の第1筋電信号から選択された相関第1筋電信号と、複数の第2筋電信号から選択された相関第2筋電信号とを比較して類似度を算出する。すなわち、全ての筋電信号を使って類似度を算出しているわけではない。まず、この意義について説明する。
【0039】
訓練者がリハビリ訓練を試行する場合に、その試行に伴って動作する筋肉や、それぞれの筋肉がどれ程連動して動作するかは、訓練者ごとに、更には試行するときの環境や条件ごとに異なることがわかってきた。したがって、訓練動作に伴って麻痺側から検出される筋電信号を、同じ動作である比較動作を非麻痺側で行ったときに検出される筋電信号と比較して麻痺側の回復度合を評価する場合に、筋電位を計測する箇所が少ないと回復度合を正しく評価できない。すなわち、その比較動作に対して大きく作用する筋肉の筋電信号を取得できていない可能性が高く、その筋肉が適切に動作しているのか評価できない。筋電センサを取り付ける位置を試行錯誤により調整する方法も考えられるが、その手間は膨大であり多くの時間を要する。そこで、一度に多くの箇所から筋電信号を取得できるように、取り付ける筋電センサの数を増やす。
【0040】
しかし、取り付けた多くの筋電センサから出力される全ての筋電信号を用いて比較すると、その訓練動作に対してあまり作用しない筋肉からの筋電信号が支配的になり、類似度としては常に高い値が算出されてしまう。すなわち、回復度合を評価するための数値としては適切ではない。そこで、本実施形態においては、多く取り付けた筋電センサから取得される筋電信号のうち、麻痺していないならばその訓練動作に対して大きく作用するはずの筋肉に取り付けられた筋電センサからの筋電信号を選択して評価演算に用いる。
【0041】
そこでまず、非麻痺側で比較動作の試行を行い、その比較動作に対して大きく作用する筋肉に取り付けられた筋電センサからの筋電信号を選択する。具体的には、第2筋電センサ320からの第2筋電信号のうち、比較動作に対して大きく反応しているものを相関第2筋電信号として選択する。ただし、第2筋電センサ320からのそれぞれの第2筋電信号はいずれも経時と共に変化し得るので、いずれの第2筋電信号が比較動作に対応しているのか、それぞれの第2筋電信号を互いに比較するだけでは判断が難しい。そこで、本実施形態においては、比較動作に伴う動作部位の物理的な変化量を検出する検出センサとして加速度センサ330を利用する。すなわち、第2筋電信号のうち、加速度センサ330の出力である加速度信号と大きな相関を有するものが、比較動作に対して大きく反応した筋肉からの信号であるとする。このように選択された第2筋電信号を相関第2筋電信号とする。以下に説明する処理手順は、相関第2筋電信号を選択するまでの一例である。
【0042】
選択部211は、ステップS1041で、加速度信号から比較動作である右腕の前腕部を持ち上げる動作の動作周波数を解析する。具体的には、加速度信号をフーリエ変換し、最大の強度を示す周波数を動作周波数とする。選択部211は、ステップS1042へ進み、第2筋電信号のそれぞれをフーリエ変換により周波数領域に変換し、ステップS1041で解析した動作周波数における強度をそれぞれ抽出する。
【0043】
選択部211は、ステップS1043へ進み、フーリエ変換する前の第2筋電信号のそれぞれに対して二乗平均平方根を算出する。具体的には、第P番目の第2筋電信号M
2(p)の個々の信号値bをサンプリング順に1番目からt番目まで、
【数1】
と表したときに、第2筋電信号M
2(p)の二乗平均平方根R
(p)は、
【数2】
と計算される。
【0044】
選択部211は、ステップS1044へ進み、ステップS1042で抽出したそれぞれの第2筋電信号の強度に、ステップS1043で算出したそれぞれの第2筋電信号二乗平均平方根を足して重み付けした比較算定値を算出する。例えば、第P番目の第2筋電信号M
2(p)の動作周波数における強度がF
(p)であるとき、第2筋電信号M
2(p)の比較算定値Q
(p)は、
【数3】
である。
【0045】
選択部211は、ステップS1045へ進み、算出したそれぞれの第2筋電信号の比較算定値から上位S
0個を選択し、これらに対応する第2筋電信号を相関第2筋電信号と定める。例えば、第2側部に第2筋電センサ320を9個取り付けている場合には、第2筋電信号の数は9個であり、S
0=5と予め定めておけば、5個の相関第2筋電信号が決定される。以上の一連の処理によって、相関第2筋電信号が選択される。なお、選択部211は、基準とする比較算定値Q
0を予め定めておき、この値以上の比較算定値となった第2筋電信号を相関第2筋電信号としても良い。この場合には、相関第2筋電信号の数は、その都度変動し得る。
【0046】
次に、ステップS107の処理について詳述する。
図5は、ステップS107の詳細な処理手順を示すフローチャートである。類似度演算部212は、ステップS1071で、対応する相関第1筋電信号を、ステップS106で取得した第1筋電信号から選択する。ステップS107で例えば5個の相関第2筋電信号が選択されたなら、ここで選択される相関第1筋電信号も5個である。
【0047】
類似度演算部212は、ステップS1072へ進み、それぞれの筋シナジ行列を算出する。ステップS1071でm個の相関第1筋電信号が選択された場合に、1個目の相関第1筋電信号からm個目の相関第1筋電信号までのそれぞれを、個々の筋電位の信号値aをサンプリング順に1番目からt番目まで時系列順に並べた横ベクトルで表すと、
【数4】
となる。それぞれ横ベクトルで表されるこれら相関第1筋電信号を縦に並べて相関第1筋電信号の全体を表す行列を第1筋電位行列M
1とすると、
【数5】
と表される。
【0048】
この第1筋電位行列M
1を、非負値行列因子分解(non−negative matrix factorization)を用いて、以下に示すように分解する。
【数6】
【0049】
ここで、W
1は、第1筋シナジ行列である。第1筋シナジ行列W
1は、それぞれが1番目からm番目までm個の要素jを有する、以下のように表される1個目からn個目までの単位縦ベクトルW
1(1),W
1(2),…,W
1(n)を、
【数7】
横に並べた行列
【数8】
である。
【0050】
また、C
1は、第1制御行列である。第1制御行列C
1は、それぞれが1番目からt番目までt個の要素gを有する、以下のように表される1個目からn個目までの横ベクトルC
1(1),C
1(2),…,C
1(n)を、
【数9】
縦に並べた行列
【数10】
である。また、E
1は、誤差行列である。誤差行列E
1は、第1筋電位行列M
1と同様に、m×t個の要素を有する。
【0051】
これと同様に、相関第2筋電信号に対しても同様の演算を行う。1個目の相関第2筋電信号からm個目の相関第2筋電信号までのそれぞれを、個々の筋電位の信号値bをサンプリング順に1番目からt番目まで時系列順に並べた横ベクトルで表すと、
【数11】
となる。それぞれ横ベクトルで表されるこれら相関第2筋電信号を縦に並べて相関第2筋電信号の全体を表す行列を第2筋電位行列M
2とすると、
【数12】
と表される。
【0052】
この第2筋電位行列M
2を、非負値行列因子分解(non−negative matrix factorization)を用いて、以下に示すように分解する。
【0054】
ここで、W
2は、第2筋シナジ行列である。第2筋シナジ行列W
2は、それぞれが1番目からm番目までm個の要素kを有する、以下のように表される1個目からn個目までの単位縦ベクトルW
2(1),W
2(2),…,W
2(n)を、
【数14】
横に並べた行列
【数15】
である。
【0055】
また、C
2は、第2制御行列である。第2制御行列C
2は、それぞれが1番目からt番目までt個の要素hを有する、以下のように表される1個目からn個目までの横ベクトルC
2(1),C
2(2),…,C
2(n)を、
【数16】
縦に並べた行列
【数17】
である。また、E
2は、誤差行列である。誤差行列E
2は、第2筋電位行列M
2と同様に、m×t個の要素を有する。なお、これらの演算については、例えば同一出願人の特開2015−73805に詳しい。
【0056】
このように、第1筋シナジ行列W
1および第2筋シナジ行列W
2を算出したら、類似度演算部212は、ステップS1073へ進み、これらの行列を用いる類似度指標演算により類似度を算出する。類似度SIは、以下の式によって算出する。
【数18】
【0057】
ここで、W
1(i)は、第1筋シナジ行列W
1のi番目の単位縦ベクトルであり、W
2(i)は、第2筋シナジ行列W
2のi番目の単位縦ベクトルである。nは、上述の通り、それぞれの単位縦ベクトルの個数である。また、r(W
1(i),W
2(i))は、i番目の単位縦ベクトルにおけるピアソンの相関係数を表し、
【数19】
である。ここで、mは、上述の通り、それぞれの単位縦ベクトルの要素数である。また、
【数20】
は、順にそれぞれ、W
1(i)の要素の平均値、W
2(i)の要素の平均値、W
1(i)の要素の標準偏差、W
2(i)の要素の標準偏差を表す。このようにして算出される類似度SIは、0から1の間の値を取り、1に近いほど互いの筋シナジ行列が類似している、すなわち麻痺側と非麻痺側の筋活動が互いに似通っていることを示す。以上の一連の処理によって、類似度が算出される。
【0058】
図6は、ディスプレイ400に表示される、訓練者の回復度合を示す表示画面の一例である。図示するように、訓練動作の試行のたびに算出される類似度をそれぞれグラフ上にプロットして折れ線グラフで呈示し、一連のトレーニングに対する総合判定を回復度判定として呈示する。回復度判定は、算出された複数の類似度を用いて決定される。例えば、類似度の平均値を算出し、その平均値に対応付けられた評価(図の例では「C+」)とする。表示画面の表示項目としては、図示するように、トレーニング名称や過去のトレーニング履歴を加えても良い。
【0059】
以上説明した本実施形態においては、訓練動作として前腕部を持ち上げる動作を例としたが、もちろん他の動作であっても良い。例えば、ステアリングホイールを用意しておき、訓練動作としてこれを回転させる動作であっても良い。このとき、訓練者に両手で回転させれば、時計回りでの回転操作と反時計回りでの回転操作は互いに対称な動きを成すので、一方を訓練動作とし他方を比較動作として、それぞれ連続的に麻痺側と非麻痺側の筋電信号を取得することもできる。
【0060】
また、麻痺の部位は上半身に限らず、下半身であっても構わない。例えば、右脚に障害を持つ患者がリハビリ訓練を行う場合に、トレッドミル上を麻痺側の右脚と非麻痺側の左脚を交互に運脚する歩行動作に対して、上述の手法により右脚の回復度合を評価することができる。リハビリ訓練システム100を制御する制御プログラムは、訓練者等が項目を選択することにより、様々なトレーニングメニューを実施できるように構成され得る。
【0061】
また、上述の本実施形態においては、加速度センサ330を利用したが、比較動作に伴う動作部位の物理的な変化量を検出する検出センサは、これに限らない。加速度センサのように直接的に動作部位に装着できるものであれば、精度良く変化量を検出できるので好ましいが、非接触形式のセンサであれば、装着する手間や訓練時の煩わしさを軽減できる。例えば、非接触形式のセンサとしてデジタルカメラを採用することができる。側方に設置したカメラで動作部位を撮影し、撮影画像に映る動作部位の変化を解析することにより、動作部位の物理的な変化量を検出し、比較動作の動作周波数を算出することができる。また、検出センサは、比較動作に伴う動作部位の物理的な変化量を直接的に検出するものに限らない。例えば、比較動作に伴う動作部位の物理的な位置を時系列的に検出し、これら位置の時系列データを加工して変化量を算出することによって、変化量を検出するようにしても良い。
【0062】
また、上述の本実施形態においては、選択部211は、相関第2筋電信号を選択する場合に、動作周波数に対する強度に、対象となる第2筋電信号のフィルタ処理後のサンプリング値から算出される二乗平均平方根を加算して比較算定値を算出したが、より簡易的には、二乗平均平方根の加算を省いても構わない。もちろん、他の要素を加えて評価精度を向上させても良い。また、選択部211は、比較動作の動作周波数を基準として相関第2筋電信号を選択したが、他の物理量に着目して選択しても良い。
【0063】
また、上述の本実施形態において類似度の算出は、ピアソンの相関係数を利用したが、他の評価式を利用することもできる。第1筋シナジ行列W
1と第2筋シナジ行列W
2の類似度を評価するものであれば、公知の評価式を利用することができる。
【0064】
また、フローにおける各処理の実行順序は、特に言及しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでなければ、任意の順序で構わない。便宜上「まず」、「次に」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。