【実施例】
【0056】
次に、本発明に係る実施例について比較例と共に説明する。
【0057】
(1)OPGWの構成
以下の表1に示すように、実施例および比較例のOPGWを製造した。なお、実施例のOPGWを、
図1に示すような上記実施形態のOPGW10として製造した。一方、比較例OPGWを、
図6に示すようなOPGW90(すなわち、従来の「OPGW60mm
2」)として製造した。
【0058】
【表1】
【0059】
(2)評価内容
上記した実施例および比較例のOPGWにおいて、以下のような評価を行った。
【0060】
(直流アーク試験)
冬季雷正極性を模擬した直流アーク試験を行った。架線張力は、標準径間での常時張力想到の12.7kNとして、素線溶断特性を評価した。また、直流アーク試験の後に、実施例および比較例のOPGWの引張試験を行った。これにより、直流アーク試験時の電荷量に対する、直流アーク試験後のOPGWの引張荷重を比較評価した。さらに、直流アーク試験前後の光伝送損失を測定した。
【0061】
(その他評価)
(単位長さ当たりの)質量、弛度を測定した。また、光ユニット部および素線に対して、引張荷重、弾性係数、線膨張係数、クリープ、瞬時耐熱特性などを測定した。また、OPGWに対しても、引張荷重、弾性係数、線膨張係数、クリープを測定するとともに、凍結試験、振動試験を行った。
【0062】
また、耐張クランプ、懸垂クランプ等の付属品をOPGWに装着したとき、光ユニット部の許容変形量を確認するため、平板圧潰試験を行った。平板圧潰試験では、2枚の平板でOPGWを上下から挟み、圧縮荷重を付加することにより、伝送損失が増加し始めるときの荷重、および光ユニット部の変形量を求めた。
【0063】
また、従来の「OPGW60mm
2」で使用される付属品(例えば、耐張クランプ、懸垂クランプ、ジャンパクランプ、クリート、ダブルトーショナルダンバ、ボルトレスカウンタウエイト、難着雪リング等)を、実施例のOPGWに対しても使用し、実施例のOPGWの線条掌握力および把持力を測定した。
【0064】
また、OPGWは延線時に撚り戻し方向に回転するため、OPGWの延線時の回転数を比較評価した。なお、延線時の回転数をω(rad/m)、撚線のねじり剛性をG(N・m
2/rad)、撚り戻りトルクをT(N・m)としたとき、延線時の回転数は、ω=T/Gで求められる。
【0065】
(3)評価結果
表1に示すように、実施例のOPGWでは、光ユニット部の外径を3.8mmとすることにより、実施例のOPGWの外径を比較例のOPGWと同等(11.4mm)としつつ、素線の外径を3.8mmとした。これにより、実施例のOPGWでは、素線の単位長さ当たりの溶融エネルギーが800J/cm/本であり、OPGW全体の単位長さ当たりの溶融エネルギーが4800J/cmであった。
【0066】
(直流アーク試験の結果)
次に、
図2〜
図5を用い、直流アーク試験の結果について説明する。
【0067】
図2は、実施例および比較例における直流アーク試験後の素線溶断特性を示す図である。
図2に示すように、比較例のOPGWでは、素線切れが発生する最小電荷量が201Cであった。これに対して、実施例のOPGWでは、最小電荷量が485Cであった。素線溶断特性の観点から、実施例のOPGWの耐雷性は、従来のOPGWの耐雷性に対して、約2.4倍向上していることを確認した。
【0068】
図3は、実施例および比較例における、直流アーク試験時の電荷量に対する直流アーク試験後の引張荷重を示す図である。
図3に示すように、同一電荷量で比較したとき、実施例のOPGWでの引張荷重は、比較例のOPGWでの引張荷重に対して大きな値を示すことを確認した。すなわち、同一電荷量の直流アークを印加したときに、実施例のOPGWは、比較例のOPGWよりも切れにくいことを確認した。
【0069】
ここで、OPGWの最大使用張力に対する安全率は2.5以上を確保することが電気設備の技術基準(「電技」と呼ぶ)に規定されている。実施例および比較例のOPGWにおいて、電技で定められる最大使用張力に対して安全率2.5を確保する引張荷重は、45.9kNである。そこで、
図3での曲線と、最大使用張力に対して安全率2.5を確保する引張荷重(45.9kN)との交点を求めるため、以下のように横軸を対数表示した図を用いた。
【0070】
図4(a)は、
図3の実施例の結果について横軸を対数表示した図であり、
図4(b)は、
図3の比較例の結果について横軸を対数表示した図である。
図4(a)および(b)に示すように、横軸を対数表示とすることにより、電荷量に対する引張荷重特性は、直線で近似することができる。
図4(a)および(b)には、対数近似式(による直線)とともに、その誤差範囲も記載した。対数近似式およびマイナス側の誤差範囲と、最大使用張力に対して安全率2.5を確保する引張荷重45.9kNとの交点を、以下の表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
図4(a)および(b)と、表2とに示すように、比較例のOPGWにおける対数近似式と45.9kNとの交点は116Cであった。これに対して、実施例のOPGWにおける対数近似式と45.9kNとの交点は366Cであった。引張荷重の観点から、実施例のOPGWの耐雷性は、比較例のOPGWの耐雷性に対して、約3.2倍向上していることを確認した。
【0073】
また、比較例のOPGWにおけるマイナス側の誤差範囲と45.9kNとの交点は76Cであった。これに対して、実施例のOPGWにおけるマイナス側の誤差範囲と45.9kNとの交点は214Cであった。マイナス側の誤差範囲による評価においても、実施例のOPGWの耐雷性は、比較例のOPGWの耐雷性に対して、約2.8倍向上していることを確認した。
【0074】
図5は、実施例における直流アーク試験前後の光伝送損失を示す図である。なお、
図5は、冬季雷正極性405Cの直流アークを実施例のOPGWに与えた前後の伝送損失変動を示している。
図5に示すように、実施例のOPGWでは、直流アーク発生前後において、伝送損失の変動がないことを確認した。よって、実施例のOPGWが雷撃を受けた場合であっても、通信回路は正常に確保されることを確認した。
【0075】
(その他評価結果)
表1に示すように、比較例のOPGWの(単位長さ当たりの)質量は450.2kg/kmであった。これに対して、実施例のOPGWの質量は526.1kg/kmであった。本実施例のOPGWの質量は、比較例のOPGWの質量に対して、約1.2倍であり、同等程度であった。したがって、本実施例のOPGWの質量は、従来の「OPGW60mm
2」で使用される付属品を用いて、本実施例のOPGWを架線することが可能な範囲内であることを確認した。
【0076】
表1に示すように、300m径間、電線温度20℃における、比較例のOPGWの弛度は5.47mであった。これに対して、実施例のOPGWの弛度は6.29mであった。実施例のOPGWの弛度は、比較例のOPGWの弛度よりも1.22m大きいが、比較例のOPGWの弛度と同等程度である。したがって、実施例のOPGWと電力線との電気的な離隔は充分に確保可能であることを確認した。仮に、実施例のOPGWに雷撃があったとしても、絶縁破壊によってOPGWから電力線に雷撃電流が流れ込むことを抑制可能であることを確認した。また、電力線がギャロッピング振動した際に、電力線とOPGWとの間で絶縁破壊による地絡が発生することを抑制可能であることを確認した。
【0077】
その他、実施例のOPGWを構成する光ユニット部および素線について、引張強度、弾性係数、線膨張係数、クリープ、瞬時耐熱特性等を測定した結果、実施例のOPGWを構成する光ユニット部および素線における各データは、全て、比較例のOPGWを構成する光ユニット部および素線における各データよりも良好な設計値を満足することを確認した。また、実施例のOPGW(の撚線全体)について、引張荷重、弾性係数、線膨張係数、クリープを測定するとともに、凍結試験、振動試験を行った結果、実施例のOPGWにおける各データは、全て、比較例のOPGWにおける各データよりも良好な設計値を満足することを確認した。
【0078】
平板圧潰試験の結果を以下の表3に示す。
【0079】
【表3】
【0080】
平板圧潰試験では、比較例のOPGWの伝送損失が増加し始める荷重は9kNであり、光ユニット部の変形量は0.79mmであった。これに対して、実施例のOPGWの伝送損失が増加し始める荷重は8.25kNであり、光ユニット部の変形量は1.13mmであった。実施例のOPGWの伝送損失が増加し始める荷重は、比較例のOPGWの荷重よりも大きいことを確認した。このことから、実施例のOPGWにおいて、クランプなどの線条掌握試験(定格荷重×10分間保持)で管理される金属管(光ユニット部)の変形量は、従来の「OPGW60mm
2」と同様に、0.3mmとすることができることを確認した。
【0081】
実施例のOPGWの線条掌握力および把持力を測定した結果、実施例のOPGWの線条掌握力および把持力は、従来の「OPGW60mm
2」の規格値を満足した。各種クランプの線条掌握力試験後における、実施例の光ユニット部の変形量は、0.3mm以下であり、比較例の光ユニット部(すなわち、従来の「OPGW60mm
2」の光ユニット部)の変形量と同等であった。したがって、従来の「OPGW60mm
2」で使用される付属品を、実施例のOPGWに対しても適用可能であることを確認した。
【0082】
OPGWの延線時の回転数を比較した結果、以下のような結果を得た。実施例のOPGWのねじり剛性Gは7.5N・m
2/radであり、比較例のOPGWのねじり剛性Gの4.3N・m
2/radに対して、約1.7倍大きかった。一方で、実施例のOPGWの撚り戻りトルクTは、比較例のOPGWの撚り戻りトルクTと同等であった。これらの条件をω=T/Gの式に代入することにより得られた、実施例のOPGWの延線時の回転数ωは、比較例のOPGWの延線時の回転数ωよりも小さかった。すなわち、延線時に、実施例のOPGWは、比較例のOPGWよりも回転しにくいことを確認した。したがって、実施例のOPGWの延線時には、従来の「OPGW60mm
2」で使用されるランニングボードを使用することが可能であることを確認した。
【0083】
なお、実施例のOPGWの延線クランプの形状は、従来の「OPGW60mm
2」で使用される延線クランプの形状と同一とすることが可能であることを確認した。但し、実施例の光ユニット部の外径が3.8mmであり、比較例の光ユニット部(すなわち、従来の「OPGW60mm
2」の光ユニット部)(5.0mm)と異なるため、アルミダミー棒のサイズを変更することが必要である。
【0084】
以上のように、実施例のOPGWでは、外径を従来の「OPGW60mm
2」と同等としつつ、耐雷性を顕著に向上させることが可能であることを確認した。また、実施例のOPGWは、従来の「OPGW60mm
2」の規格に準拠しており、従来の「OPGW60mm
2」で使用される付属品を、実施例のOPGWに対しても適用可能であることを確認した。
【0085】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0086】
(付記1)
本発明の一態様によれば、
外径が10mm以上13mm以下である光ファイバ複合架空地線であって、
光ファイバ心線と、前記光ファイバ心線を収容する金属管と、を有する光ユニット部と、
前記光ユニット部の外周を覆うように複数の素線が撚り合わされて設けられる素線層と、を有し、
前記光ユニット部の外径は、5.0mm未満であり、
前記複数の素線のそれぞれの外径は、3.2mm超である光ファイバ複合架空地線が提供される。
【0087】
(付記2)
好ましくは、付記1に記載の光ファイバ複合架空地線であって、
光ファイバ複合架空地線60mm
2の規格に準拠するよう構成される。
【0088】
(付記3)
好ましくは、付記1又は2に記載の光ファイバ複合架空地線であって、
前記光ユニット部の外径は、3.0mm以上4.5mm以下であり、
前記複数の素線のそれぞれの外径は、3.4mm以上4.2mm以下である。
【0089】
(付記4)
好ましくは、付記1〜3のいずれかに記載の光ファイバ複合架空地線であって、
前記複数の素線のそれぞれの単位長さ当たりの溶融エネルギーは、498J/cm超であり、
全体の単位長さ当たりの溶融エネルギーは、3984J/cm超である。
【0090】
(付記5)
好ましくは、付記4に記載の光ファイバ複合架空地線であって、
前記複数の素線のそれぞれの単位長さ当たりの溶融エネルギーは、700J/cm以上900J/cm以下であり、
全体の単位長さ当たりの溶融エネルギーは、4200J/cm以上5400J/cm以下である。
【0091】
(付記6)
好ましくは、付記1〜5のいずれかに記載の光ファイバ複合架空地線であって、
前記金属管は、
前記光ファイバ心線を収容するステンレス管と、
前記ステンレス管の外周を覆うように設けられるアルミニウム層と、を有する。
【0092】
(付記7)
好ましくは、付記6に記載の光ファイバ複合架空地線であって、
前記アルミニウム層の厚さは、0.4mm以上0.6mm以下である。
【0093】
(付記8)
好ましくは、付記1〜7のいずれかに記載の光ファイバ複合架空地線であって、
前記光ユニット部は、前記金属管の内部に金属製部材を有しない。
【0094】
(付記9)
好ましくは、付記1〜8のいずれかに記載の光ファイバ複合架空地線であって、
前記金属管の内壁と前記光ファイバ心線との間には、ジェリが充填される。
【0095】
(付記10)
好ましくは、付記9に記載の光ファイバ複合架空地線であって、
前記金属管内の前記ジェリの充填率は、60%以上である。
【0096】
(付記11)
好ましくは、付記1〜10のいずれかに記載の光ファイバ複合架空地線であって、
前記素線は、6本設けられる。
【0097】
(付記12)
好ましくは、付記1〜11のいずれかに記載の光ファイバ複合架空地線であって、
前記光ユニット部は、径方向の中心に設けられる。
【0098】
(付記13)
好ましくは、付記1〜12のいずれかに記載の光ファイバ複合架空地線であって、
前記光ファイバ心線は、
1本の光ファイバと、
前記光ファイバの外周を覆うように設けられるファイバ被覆層と、を有する。