特許第6590515号(P6590515)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6590515光学素子の製造方法、成形型、及び光学素子の製造装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6590515
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】光学素子の製造方法、成形型、及び光学素子の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 11/00 20060101AFI20191007BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   C03B11/00 E
   G02B3/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-95757(P2015-95757)
(22)【出願日】2015年5月8日
(65)【公開番号】特開2016-210650(P2016-210650A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2018年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕介
【審査官】 中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−162386(JP,A)
【文献】 特開2000−063131(JP,A)
【文献】 特開平08−081229(JP,A)
【文献】 特開2003−238173(JP,A)
【文献】 特開平03−218932(JP,A)
【文献】 特開2011−116610(JP,A)
【文献】 特開2007−277060(JP,A)
【文献】 特開2002−020130(JP,A)
【文献】 特開2005−314146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 11/00
G02B 1/00− 1/08
G02B 3/00− 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形室内で、光学素子の光学機能面に対して反転する凸状をなす領域が設けられた成形型を加熱し、該成形型の中心軸を有する転写面を加熱された光学素子の材料に当接させて押圧することにより、前記転写面の形状を前記材料に転写する押圧工程と、
前記成形型及び前記光学素子を冷却させる冷却工程と、
前記成形型の周囲を減圧状態にして、前記成形型から前記材料を離型する離型工程と、
を含み、
前記押圧工程は、前記材料に対して前記転写面を、前記凸状をなす領域の中央部から外周部に向かって、前記光学機能面よりも外周側の少なくとも1箇所において非連続となるように順次当接させることにより、前記少なくとも1箇所に気体を閉じ込めた密閉空間を形成する工程であり、
前記離型工程は、前記減圧状態にすることにより前記成形室内において相対的に陽圧になった密閉空間から前記中心軸に対して非対称の押し出し力を生じさせる工程である、
ことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
成形室内で、プレス成形による光学素子の製造方法において用いられる成形型であって、
光学素子の光学機能面に対して反転する凸状をなす光学機能面反転領域が設けられた中心軸を有する転写面を有し、
前記転写面のうち、前記光学機能面反転領域よりも外周側であって、プレス成形時に前記光学素子の材料が到達する範囲の内側に、前記光学素子の材料と当接しない逃げ部として前記光学機能面反転領域の外周に沿って形成された溝部が設けられており、
前記溝部は、前記プレス成形後に成形室内を減圧して当該成形室内において相対的に陽圧になった前記溝部の密閉空間から前記中心軸に対して非対称の押し出し力を生じさせるよう、その内周が前記中心軸を中心とし、その外周が前記中心軸に対して偏心するように設けられており、
前記溝部の幅は、非対称或いは不均一である、
ことを特徴とする成形型。
【請求項3】
前記溝部の開口端面は、当該成形型に対するプレス方向と直交する向きに設けられていることを特徴とする請求項2に記載の成形型。
【請求項4】
前記転写面のうちの前記光学機能面反転領域が設けられた第一部材と、
前記転写面のうちの前記光学機能面反転領域の外周側の領域が設けられた第二部材と、
を備えることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の成形型。
【請求項5】
請求項2〜のいずれか1項に記載の成形型と、
前記成形型と対をなす第2の成形型と、
前記成形型及び前記第2の成形型が配置される成形室と、
前記成形型を保持する保持具と、
前記第2の成形型を固定する台座と、
前記成形型及び前記第2の成形型を加熱する加熱手段と、
前記保持具を前記台座に向けて押圧する押圧手段と、
前記成形室内を減圧する減圧手段と、
を備えることを特徴とする光学素子の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス等の熱可塑性の光学素子材料を成形型により加熱及び押圧することによって光学素子を製造する光学素子の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス等の熱可塑性の光学素子材料を成形型により加熱及び押圧し、成形型の形状を光学素子材料の光学機能面に転写する、所謂プレス成形による光学素子の製造方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
プレス成形による光学素子の製造方法においては、プレス成形後、光学素子が成形型に密着してしまい、光学素子を成形型から離型させることが困難という問題がある。この問題に対し、特許文献1には、プレス成形後に光学素子の周囲を減圧状態とすることで、ガラス成形体を成形型から離形し易くする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−81229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
凹状の光学機能面を有する光学素子をプレス成形により作製する場合、即ち、成形型の転写面が凸状である場合、光学素子と成形型の転写面との間が真空状態になって密着するだけでなく、ガラスと成形型(金属)との熱収縮差に起因して、成形型の凸状の部分を光学素子の凹状の面が締め付けている状態となり、これが、離型が困難になる一因となる。光学素子が成形型を締め付けている場合、上記特許文献1のように、単に光学素子の周囲を減圧状態にしただけでは、光学素子を離型することはできない。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、凹状の光学機能面を有する光学素子をプレス成形により製造する場合において、光学素子を成形型から容易に離形することができる光学素子の製造方法、成形型、及び光学素子の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る光学素子の製造方法は、光学素子の光学機能面に対して反転する凸状をなす領域が設けられた成形型を加熱し、該成形型の転写面を加熱された光学素子の材料に当接させて押圧することにより、前記転写面の形状を前記材料に転写する押圧工程と、前記成形型及び前記光学素子を冷却させる冷却工程と、前記成形型の周囲を減圧状態にして、前記成形型から前記材料を離型する離型工程と、を含み、前記押圧工程は、前記材料に対して前記転写面を、前記凸状をなす領域の中央部から外周部に向かって、前記光学機能面よりも外周側の少なくとも1箇所において非連続となるように順次当接させることにより、前記少なくとも1箇所に気体を閉じ込めた密閉空間を形成する、ことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る成形型は、プレス成形による光学素子の製造方法において用いられる成形型であって、光学素子の光学機能面に対して反転する凸状をなす光学機能面反転領域が設けられた転写面を有し、前記転写面のうち、前記光学機能面反転領域よりも外周側であって、プレス成形時に前記光学素子の材料が到達する範囲の内側に、前記光学素子の材料と当接しない逃げ部が設けられている、ことを特徴とする。
【0009】
上記成形型において、前記逃げ部は、前記光学機能面反転領域の外周に沿って形成された溝部であることを特徴とする。
【0010】
上記成形型において、前記溝部の幅が不均一であることを特徴とする。
【0011】
上記成形型において、前記溝部の開口端面は、当該成形型に対するプレス方向と直交する向きに設けられていることを特徴とする。
【0012】
上記成形型において、前記溝部の開口端面は、当該成形型に対するプレス方向と平行な向きに設けられていることを特徴とする。
【0013】
上記成形型において、前記逃げ部は、前記光学機能面反転領域の外周側の領域に形成された凹部であることを特徴とする。
【0014】
上記成形型において、前記逃げ部は、前記光学機能面反転領域の端部が該光学機能面反転領域の外周側の領域と接続する境界であることを特徴とする。
【0015】
上記成形型は、前記転写面のうちの前記光学機能面反転領域が設けられた第一部材と、前記転写面のうちの前記光学機能面反転領域の外周側の領域が設けられた第二部材と、を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る光学素子の製造装置は、前記成形型と、前記成形型と対をなす第2の成形型と、前記成形型及び前記第2の成形型が配置される成形室と、前記成形型を保持する保持具と、前記第2の成形型を固定する台座と、前記成形型及び前記第2の成形型を加熱する加熱手段と、前記保持具を前記台座に向けて押圧する押圧手段と、前記成形室内を減圧する減圧手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、押圧工程において、光学素子の材料に対して成形型の転写面を光学機能面よりも外周側の少なくとも1箇所において非連続となるように順次当接させることにより、少なくとも1箇所に気体を閉じ込めた密閉空間を形成するので、離型工程の際に成形型の周囲を減圧することにより、上記密閉空間が相対的に陽圧状態となり、成形型から光学素子を押し出す力が生じる。従って、光学素子を成形型から容易に離形することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の実施の形態1に係る光学素子の製造装置の構成例を示す模式図である。
図2図2は、図1に示す光学素子の製造装置によって作製される光学素子の一例を示す断面図である。
図3図3は、図1に示す一方の成形型を示す模式図である。
図4図4は、本発明の実施の形態1に係る光学素子の製造方法を示すフローチャートである。
図5A図5Aは、本発明の実施の形態1に係る光学素子の製造方法を説明するための模式図である。
図5B図5Bは、本発明の実施の形態1に係る光学素子の製造方法を説明するための模式図である。
図5C図5Cは、本発明の実施の形態1に係る光学素子の製造方法を説明するための模式図である。
図5D図5Dは、本発明の実施の形態1に係る光学素子の製造方法を説明するための模式図である。
図5E図5Eは、本発明の実施の形態1に係る光学素子の製造方法を説明するための模式図である。
図5F図5Fは、本発明の実施の形態1に係る光学素子の製造方法を説明するための模式図である。
図6図6は、図1に示す成形型を用いた光学素子材料のプレス成形工程を示す断面図である。
図7図7は、図6に示す領域Aの拡大図である。
図8A図8Aは、一般的な成形型を用いた光学素子材料のプレス成形工程を示す断面図である。
図8B図8Bは、一般的な成形型を用いた光学素子材料のプレス成形工程を示す断面図である。
図9図9は、本発明の実施の形態1の変形例1に係る成形型を示す模式図である。
図10図10は、本発明の実施の形態1の変形例2に係る成形型を示す模式図である。
図11図11は、本発明の実施の形態2に係る成形型を示す模式図である。
図12図12は、図11に示す成形型により光学素子材料をプレス成形した状態を示す断面図である。
図13図13は、本発明の実施の形態3に係る成形型を示す模式図である。
図14図14は、本発明の実施の形態4に係る成形型を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態に係る光学素子の製造方法及び製造装置について、図面を参照しながら説明する。なお、これらの実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る光学素子の製造装置の構成例を示す模式図である。図1に示す光学素子製造装置1は、ガラス等の熱可塑性の光学素子材料を、成形型を用いて加熱しながら押圧する、所謂プレス成形により光学素子を製造する装置であり、成形室10と、光学素子材料100をプレスする対をなす成形型11、12(第1及び第2の成形型)と、上側の成形型11を保持する保持具13と、下側の成形型12を成形室10内に固定する台座14と、成形型11、12の内部にそれぞれ設けられたカートリッジヒータ15、16と、成形型11、12の周囲にそれぞれ設けられたランプヒータ17、18と、保持具13を介して成形型11を成形型12に向けて押圧する押圧手段としてのシリンダ19と、成形室10内を減圧する減圧手段としての真空ポンプ20とを備える。成形型11、12にはそれぞれ、熱電対等の温度センサ(図示せず)が設けられている。
【0021】
光学素子材料100としては、予め両端面が研磨されたプレス成形用のガラス材料が用いられる。このような光学素子材料100は、プリフォームと呼ばれる。光学素子材料100の両面に、成形型11、12の転写面の形状を転写することにより、レンズ機能を発揮する光学機能面が形成された光学素子を作製することができる。ここで、光学機能面とは、レンズ等の光学素子のうち、光学系において使用される際に実際に光線を通過させる範囲のことである。
【0022】
成形室10には、光学素子材料100を出し入れする搬入出口21と、成形室10内に窒素ガス(N2)等の不活性ガスを循環させるためのガス導入管22及びガス導出管23と、成形室10と真空ポンプ20とを連通するガス排出管24とが設けられている。ガス導入管22、ガス導出管23、及びガス排出管24には、バルブ22a、23a、24aがそれぞれ設けられており、これらのバルブ22a、23a、24aを開閉することにより、成形室10内の雰囲気が調整される。
【0023】
成形型11、12は、タングステンカーバイド(WC)等の超硬合金やシリコンカーバイド(SiC)等の高硬度のセラミックスによって形成され、それぞれ、研削及び研磨により仕上げられた転写面11a、12aを有する。
【0024】
図2は、図1に示す光学素子製造装置1によって作製される光学素子の一例を示す断面図である。図2に示す光学素子110においては、一方の端面のうちの光学機能面111の直径をD1とし、他方の端面のうちの光学機能面112の直径をD2としている。一方の光学機能面111が凹状をなし、他方の光学機能面112が凸状をなす光学素子110を作製する場合、一方の成形型11の転写面11aに、凹状の光学機能面111に対して反転した形状(即ち、凸状)をなす領域を設け、他方の成形型12の転写面12aに、凸状の光学機能面112に対して反転した形状(即ち、凹状)をなす領域を設ける。
【0025】
図3は、図1に示す一方の成形型11を拡大して示す模式図である。このうち、図3の(a)は成形型11の断面図であり、図3の(b)は成形型11の上面図である。図3に示すように、成形型11の転写面11aは、光学素子110の凹状の光学機能面111に対して反転した形状をなす光学機能面反転領域11bと、外周側領域11cとを含んでいる。外周側領域11cは、転写面11aのうち光学機能面反転領域11b以外の領域である。
【0026】
外周側領域11cには、プレス成形時に光学素子材料100と当接しない逃げ部として、光学機能面反転領域11bを囲むように、円状をなす溝部11dが形成されている。本実施の形態1において、溝部11dは、光学機能面反転領域11bの外周を、深さ方向が中心軸Rと平行になるように穿設することにより形成されている。
【0027】
溝部11dを設ける位置は、完成した光学素子の光学機能面に影響を与えることなく、且つ、プレス成形した際に溝部11dが光学素子材料100によって確実に密閉される位置であれば、特に限定されない。つまり、外周側領域11cのうち、プレス成形時に光学素子材料100が到達する範囲の内側であれば良い。また、溝部11dの幅は、軟化した光学素子材料100が進入しない程度であれば特に限定されない。
【0028】
カートリッジヒータ15、16は、それぞれ、成形型11、12を内部から直接加熱する。ランプヒータ17、18は、略円環状をなし、成形型11、12をそれぞれ囲むように配置されている。ランプヒータ17、18は、成形型11、12を加熱すると共に、成形室10内全体を加熱する。
【0029】
シリンダ19は、例えばエアシリンダである。シリンダ19内の空気の圧力を制御することにより、成形型11、12が光学素子材料100に加える押圧力が調整される。
【0030】
真空ポンプ20は、成形室10内のガスを外気(空気)から窒素ガスに置換する際、及び、後述する離型工程において成形室10内を減圧する際に用いられる。
【0031】
次に、本発明の実施の形態1に係る光学素子の製造方法を説明する。図4は、本実施の形態1に係る光学素子の製造方法を示すフローチャートである。また、図5A図5Fは、本実施の形態1に係る光学素子の製造方法を説明するための模式図である。
【0032】
まず、工程S1において、図5Aに示すように、成形型12に光学素子材料100を配置する。詳細には、搬入出口21を開き、ロボットハンド等を用いて光学素子材料100を成形型12の転写面12a上に載置する。光学素子材料100としては、上述したように、予め両端面が研磨されたガラスのプリフォームが用いられる。図5Aにおいては、平凸形状の光学素子材料100を示しているが、光学素子材料100の形状は平凸形状に限定されず、例えば球状であっても良い。
【0033】
続く工程S2において、図5Bに示すように、成形室10内の空気を窒素ガスに置換する。即ち、真空ポンプ20を作動させて成形室10内を真空引きした後、バルブ22aを開放して、ガス導入管22から窒素ガス(N2)を導入する。これは、後の工程で成形室10内を加熱した際に、成形型11、12等が酸化して劣化するのを防ぐためである。成形室10内の酸素濃度は、例えば5ppm以下に維持することが好ましい。
【0034】
続く工程S3において、カートリッジヒータ15、16及びランプヒータ17、18に通電することにより、成形型11、12を加熱する。この際、図5Cに示すように、バルブ22a、23aを開放し、成形室10において窒素ガスを常時循環させても良い。加熱された成形型11、12からの伝熱により、光学素子材料100も加熱される。
【0035】
続く工程S4において、光学素子材料100が変形可能な温度(即ち、ガラス転移点以上)に至ると、図5D及び図5Eに示すように、シリンダ19を作動させて成形型11を成形型12に向けて下げることにより、光学素子材料100を押圧する。なお、光学素子材料100の温度は、成形型11、12に設けられた温度センサの測定値によって推定することができる。
【0036】
この押圧工程は、光学素子材料100の中心肉厚が所定の厚さに達するまで行われる。光学素子材料100の厚さは、成形型11と成形型12との相対的な位置関係によって制御される。光学素子製造装置1の場合、成形型12の位置は固定されているので、実際には、成形型11の上下方向における変位量によって光学素子材料100の厚さを制御することができる。
【0037】
図6は、図5Eに示す光学素子材料100及び成形型11、12の拡大図であり、図7は、図6に示す領域Aの拡大図である。光学素子材料100に対して凸状の光学機能面反転領域11bが設けられた成形型11の転写面11aを押し付ける場合、まず、転写面11aの中央部が光学素子材料100に当接し、そこから外周部に向かって徐々に転写面11aと光学素子材料100との接触面が拡がっていく。この転写面11aと光学素子材料100との接触面は、溝部11dにおいて一旦非連続になるが、その後、溝部11dよりも外側の外周側領域11cにおいて両者は再び接触する。それにより、図7に示すように、溝部11dに気体が閉じ込められ、密閉空間が形成される。
【0038】
続く工程S5において、光学素子材料100及び成形型11、12を冷却する。具体的には、カートリッジヒータ15、16及びランプヒータ17、18の出力を下げる、或いは、これらのヒータへの通電を停止させる。それにより、光学素子材料100及び成形型11、12の温度が室温に向けて徐々に低下する。
【0039】
続く工程S6において、光学素子材料100が変形しない温度(即ち、ガラス転移点未満)に至ると、図5Fに示すように、バルブ22a、23aを閉じて窒素ガスの循環を停止させ、真空ポンプ20を作動させることにより、成形室10内を減圧する。
【0040】
続く工程S7において、シリンダ19を作動させて成形型11を上昇させ、プレス成形済みの光学素子を成形型11、12から離型する。
【0041】
続く工程S8において、搬入出口21から光学素子を搬出する。それにより、両面に光学機能面が形成された光学素子を得ることができる。
【0042】
次に、本実施の形態1において、成形型11に溝部11dを形成する効果を説明する。図8A及び図8Bは、従来の成形型31、32を用いた光学素子材料のプレス成形工程を示す断面図である。このうち、上側の成形型31には凸状の転写面が設けられ、下側の成形型32には凹状の転写面が設けられている。プレス成形により光学素子を作製する場合、まず、図8Aに示すように、成形型31、32によって光学素子材料30を加熱しつつ押圧することにより、軟化した光学素子材料30に成形型31、32の転写面の形状を転写する。そして、光学素子材料30及び成形型31、32を冷却して光学素子材料30を硬化させた後、光学素子材料30を成形型31、32から離型する。
【0043】
ここで、成形型31、32の材料として用いられるタングステンカーバイドやシリコンカーバイドの線膨張係数は3〜7×10-6(K-1)程度である。それに対し、ガラスの線膨張係数は7〜14×10-6(K-1)程度であり、成形型31、32の線膨張係数に対して非常に大きい。このように、線膨張係数が大きく異なる材料同士が接触した状態で温度変化が生じると、図8Bに示すように、線膨張係数が大きい方の光学素子材料30が大幅に収縮して、矢印の方向に締め付ける力が発生する。つまり、光学素子材料30の凹面が成形型31の凸状の部分を強く締め付けている状態となり、その結果、光学素子材料30の成形型31からの離型が非常に困難となってしまう。
【0044】
それに対し、図6及び図7に示すように、成形型11の転写面11aに溝部11dを設けた場合、軟化した光学素子材料100を成形型11、12によって押圧すると(工程S4参照)、溝部11dの周囲においては転写面11aと光学素子材料100とが密着するが、光学素子材料100は溝部11dの内部には侵入せず、溝部11dは気体が閉じ込められた密閉空間となる。
【0045】
その後、光学素子材料100及び成形型11、12を冷却し(工程S5参照)、成形室10内を減圧すると(工程S6参照)、成形室10内の雰囲気に対して溝部11dの密閉空間が相対的に陽圧状態となり、成形型11から光学素子材料100を押し出す力が発生する。それにより、光学素子材料100を成形型11から容易に離形することが可能となる。
【0046】
以上説明したように、本発明の実施の形態1によれば、光学素子材料100をプレス成形する際に成形型11の転写面11aと光学素子材料100との間に密閉空間を形成するので、プレス成形後に成形室10内を減圧することにより、光学素子材料100を成形型11から容易に離型することが可能となる。
【0047】
(変形例1)
次に、本発明の実施の形態1の変形例1について説明する。図9は、本変形例1に係る成形型を示す模式図である。図9に示すように、本変形例1に係る成形型26は、凸状をなす光学機能面反転領域26b及び外周側領域26cを含む転写面26aを有する。外周側領域26cには、光学機能面反転領域26bの外周に沿って複数(図9においては4つ)の溝部26dが形成されている。これらの溝部26dの数や、各溝部26dの長さは、任意に設定することができる。
【0048】
また、溝部26dの位置についても任意に設定することができる。溝部26dは、必ずしも光学機能面反転領域26bの外周と接している必要はなく、外周側領域26cのうち、プレス成形時に光学素子材料100が到達する範囲の内側であれば、光学機能面反転領域26bの外周と離れた位置に形成しても良い。
【0049】
溝部26dの端面形状についても、必ずしも光学機能面反転領域26bの外周に沿った円形状又は円弧形状の溝とする必要はなく、任意の端面形状を有する凹部とすれば良い。
【0050】
(変形例2)
次に、本発明の実施の形態1の変形例2について説明する。図10は、本変形例2に係る成形型を示す模式図である。図10に示すように、本変形例2に係る成形型27は、凸状をなす光学機能面反転領域27b及び外周側領域27cを含む転写面27aを有する。外周側領域27cには、光学機能面反転領域27bに沿って溝部27dが形成されている。
【0051】
溝部27dは、内周が中心軸Rを中心とし、外周が中心軸Rに対して偏心するように設けられている。このように溝部27dの幅を非対称或いは不均一にすることにより、成形室10内を減圧して光学素子材料100を離型する際に(図5F参照)、相対的に陽圧になった溝部27dの密閉空間から、中心軸Rに対して非対称の押し出し力が生じる。その結果、偏荷重の作用により光学素子材料100を成形型27から離型し易くすることができる。
【0052】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。図11は、本実施の形態2に係る成形型を示す模式図である。図11に示すように、本実施の形態2に係る成形型40は、凹状の光学機能面に対して反転した形状(凸状)をなす光学機能面反転領域40b及び外周側領域40cを含む転写面40aを有する。このうち、外周側領域40cは平面状をなしている。光学機能面反転領域40bの端部は外周側領域40cに対し、境界40dにおいて略直交するように接続している。この境界40dが、プレス成形の際に光学素子材料100と当接しない逃げ部となる。
【0053】
図12は、成形型40により光学素子材料100をプレス成形した状態を示す断面図である。図12に示すように、成形型40の転写面40aを光学素子材料100に向けて押し付けると、まず、光学機能面反転領域40bの中央部が光学素子材料100に当接し、そこから外周部に向かって徐々に転写面40aと光学素子材料100との接触面が拡がっていく。しかし、上述したように、光学機能面反転領域40bの端部は外周側領域40cに対して略直交するように接続しているため、光学素子材料100は境界40dやその近傍の隅の領域に入り込むよりも先に、外周側領域40cと接触する。その結果、境界40dの周囲に気体が閉じ込められた密閉空間40eが形成される。
【0054】
なお、光学機能面反転領域40bの端部と外周側領域40cとの接続角度θは、90°に限定されず、鋭角であっても良いし、多少鈍角であっても良い。また、境界40dにアールが設けられていても良い。要は、軟化した光学素子材料100の粘度との関係から、光学素子材料100が境界40dに到達するより先に外周側領域40cと接触してしまう角度にすれば良い。
【0055】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3について説明する。図13は、本実施の形態3に係る成形型を示す模式図である。図13に示すように、本実施の形態3に係る成形型50は、凸状をなす光学機能面反転領域51aが設けられた第一部材51と、該光学機能面反転領域51aを囲むように第一部材51に嵌め込まれた第二部材52とを備える。この第二部材52のうち、光学機能面反転領域51aの外周側に位置する端面52aと、光学機能面反転領域51aとが、プレス成形する際に光学素子材料100と当接する転写面50aとなる。
【0056】
このように、複数の部材を組み合わせて成形型50を構成することで、光学機能面反転領域51aの端部と端面52aとの接続角度θを小さく(例えば90°又はそれ以下)することができる。
【0057】
(変形例3)
上述した実施の形態3の変形例3として、第二部材52の内径を光学機能面反転領域51aの外径よりも大きくすることで、実施の形態1と同様に溝部を形成することも可能である。
【0058】
(実施の形態4)
次に、本発明の実施の形態4について説明する。図14は、本実施の形態4に係る成形型を示す模式図である。図14に示すように、本実施の形態4に係る成形型60は、凸状をなす光学機能面反転領域60b及び外周側領域60cを含む転写面60aを有する。転写面60aには、光学機能面反転領域60bの外周を、深さ方向が中心軸Rと直交するように穿設することにより形成された溝部60dが形成されている。この溝部60dが、プレス成形時に光学素子材料と当接しない逃げ部である。溝部60dは、少なくとも開口端面が光学機能面反転領域60bの外周に位置していれば、完成した光学素子の光学機能面に影響を与えることはない。
【0059】
このような成形型60においては、溝部60dの開口端面がプレス成形の際のプレス方向(図5Dの白抜き矢印参照)とほぼ平行になるため、溝部の開口面がプレス方向と直交する場合と比較して、光学素子材料が溝部60dに進入し難くなる。
【0060】
ここで、成形室10(図1参照)内を減圧して光学素子材料100を成形型から離型する際(図5F参照)には、溝部の開口面積を大きくする方が、光学素子材料100を成形型から押し出す力が大きくなるため好ましい。そこで、溝部60dの開口面をプレス方向とほぼ平行に設けることで、溝部60dの開口面積を広く取ることができる。従って、光学素子材料100をより簡単に離型することが可能となる。
【0061】
なお、本実施の形態4においても実施の形態3と同様に、複数の部材によって成形型60を構成しても良い。一例として、半球状の部材を円柱状の部材の一端面に、螺合等により一体化させることにより、光学機能面反転領域60b及び外周側領域60cを含む転写面60aを形成しても良い。また、溝部60dの深さ方向は、中心軸Rと直交する方向であっても良いし、中心軸Rに対して傾斜する方向であっても良い。
【0062】
以上説明した実施の形態1〜4及び変形例1〜3においては、成形室内の1つのステージ上で加熱工程、プレス成形工程、冷却工程、及び離形工程を順次行う、所謂一軸型の光学素子製造装置を例示して説明した。しかし、上記実施の形態1〜4及び変形例は、光学素子材料がセットされた成形型を複数のステージに順次搬送し、搬送先のステージにおいて、加熱工程、プレス成形工程、冷却工程、離型工程をそれぞれ行う、所謂循環型の光学素子製造装置に適用しても良い(例えば特開2005−126325号公報参照)。
【0063】
以上説明した本発明は、実施の形態1〜4及び変形例1〜3に限定されるものではなく、仕様等に応じて種々変形することが可能であり、例えば上記実施の形態1〜4及び変形例1〜3に示される全構成要素からいくつかの構成要素を除外して形成しても良い。本発明の範囲内において、他の様々な実施の形態が可能であることは、上記記載から自明である。
【符号の説明】
【0064】
1 光学素子製造装置
10 成形室
11、12 成形型
11a、12a、26a、27a、40a、50a、60a 転写面
11b、26b、27b、40b、51a、60b 光学機能面反転領域
11c、26c、27c、40c、60c 外周側領域
11d、26d、27d、60d 溝部
13 保持具
14 台座
15、16 カートリッジヒータ
17、18 ランプヒータ
19 シリンダ
20 真空ポンプ
21 搬入出口
22 ガス導入管
22a、23a、24a バルブ
23 ガス導出管
24 ガス排出管
26、27、31、32、40、50、60 成形型
40d 境界
40e 密閉空間
51 第一部材
52 第二部材
52a 端面
100 光学素子材料
110 光学素子
111、112 光学機能面
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14