(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記演算部は、予めコイルに流す電流と電流値設定との関係が記憶された記憶部を含み、当該記憶部に予め記憶されたデータに基づいて前記第2の磁束値を推定することを特徴とする請求項1に記載のぶれ補正装置。
前記演算部は、非線形領域においてコイルに流す電流と前記電流設定値との関係がリニアに変化する電流推定曲線を演算し、当該電流推定曲線に基づいて前記第3の磁束値を決定することを特徴とする請求項1に記載のぶれ補正装置。
前記演算部は、前記電流設定値と前記第2の磁束値との関係を記憶した記憶部を含み、前記記憶部に予め記憶された前記関係に基づいて前記第2の磁束値を推定することを特徴とする請求項5に記載のぶれ補正装置。
前記演算部は、前記電流設定値が前記非線形領域に属している場合には、前記電流設定値と前記第2の磁束値との関係を表す推定曲線を演算し、前記推定曲線に基づいて前記第3の磁束値を決定することを特徴とする請求項6に記載のぶれ補正装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
図1は、本実施形態に係るぶれ補正装置を備えた撮像装置の概略の構成を示す図である。
図1に示す撮像装置1は、交換レンズ100と、本体200とを有している。交換レンズ100は、本体200に設けられたマウント202を介して本体200に装着される。交換レンズ100が本体200に装着されることによって、交換レンズ100と本体200とは通信自在に接続される。これにより、交換レンズ100と本体200とは協働して動作する。なお、撮像装置1は、必ずしもレンズ交換式の撮像装置でなくて良い。例えば、撮像装置1は、レンズ一体型の撮像装置であっても良い。
【0012】
交換レンズ100は、光学系102を有している。光学系102は、例えば複数のレンズ及び絞りを含み、図示しない被写体からの光束を本体200のぶれ補正ユニット206に入射させるための光学部材である。
図1の光学系102は、複数のレンズによって構成されているが、光学系102は、1枚のレンズで構成されていても良い。また、光学系102は、フォーカスレンズを有していても良いし、ズームレンズとして構成されていても良い。これらの場合、光学系102の少なくとも一部のレンズは、光軸Oに沿った方向であるZ方向に沿って移動自在に構成されている。
【0013】
本体200は、シャッタ204と、ぶれ補正ユニット206と、モニタ208と、操作部210とを有している。
【0014】
シャッタ204は、例えばぶれ補正ユニット206の前側(Z方向の正の側とする)に配置されるフォーカルプレーンシャッタである。このシャッタ204は、開かれることにより、ぶれ補正ユニット206を露出状態にする。また、シャッタ204は、閉じられることにより、ぶれ補正ユニット206を遮光状態にする。
【0015】
ぶれ補正ユニット206は、撮像素子を有し、図示しない被写体を撮像することによって被写体に係る撮像画像を生成する。また、ぶれ補正ユニット206は、コイルと磁石とを用いたVCM(ボイスコイルモータ)により、撮像素子が搭載された可動部材を固定部材に対して移動させることにより、手ぶれ等によって撮像画像に生じる像ぶれを補正する。ぶれ補正ユニット206の構成については後で詳しく説明する。
【0016】
モニタ208は、例えば液晶ディスプレイであり、ぶれ補正ユニット206で生成された撮像画像に基づく画像を表示する。また、モニタ208は、ユーザが撮像装置1の各種の設定を行うためのメニュー画面を表示する。なお、モニタ208は、タッチパネルを有していても良い。
【0017】
操作部210は、例えばレリーズボタンである。レリーズボタンは、ユーザが撮像装置1による撮影開始を指示するためのボタンである。なお、操作部210は、レリーズボタン以外の各種の操作部も含む。
【0018】
次に、ぶれ補正ユニット206の特に像ぶれの補正に関する構成について説明する。ぶれ補正ユニット206は、概略的には、固定部材と、可動部材とを有している。このような構成において、ぶれ補正ユニット206は、可動部材を光軸Oに対して垂直な面内(
図1のX方向及びY方向)で平行移動させる。また、ぶれ補正ユニット206は、可動部材を光軸Oの周りの回転方向に移動させる。以下、固定部材と可動部材とに分けて説明する。
図2は、ぶれ補正ユニット206における固定部材の構成図である。また、
図3は、ぶれ補正ユニット206における可動部材の構成図である。
【0019】
まず、固定部材の構成について説明する。
図2に示すように、固定部材300は、固定枠302と、抑え板304とを有している。固定枠302は、略正方形状の板部材であり、中心OAが光学系102の光軸Oと一致するように本体200に固定されている。この固定枠302には、3つの駆動コイル306a、306b、306cが設けられている。これらの駆動コイル306a、306b、306cは、例えば、固定枠302の中心OAを基準として120度ずつの点対称の位置に配置されている。また、駆動コイル306a、306b、306cのそれぞれの重心位置には、ホールセンサ308a、308b、308cが配置されている。ホールセンサ308a、308b、308cは、周辺の磁束密度に応じた信号を出力する。
【0020】
抑え板304は、固定枠302と同様、略正方形状の板部材であり、固定枠302との間に可動部材を挟むように例えば固定枠302に固定されている。この抑え板304には、3つの補助コイル310a、310b、310cが設けられている。補助コイル310aは、駆動コイル306aに対して反時計方向の60度の位置に配置されている。同様に、補助コイル310bは、駆動コイル306bに対して反時計方向の60度の位置に配置され、補助コイル310cは、駆動コイル306cに対して反時計方向の60度の位置に配置されている。これらの補助コイル310a、310b、310cは、可動部材400を駆動するための磁束を補うために設けられている。駆動コイル306a、306b、306cで十分な磁束を発生させることができるのであれば、補助コイル310a、310b、310cはなくてもよい。
【0021】
ここで、
図2の例では、3つの駆動コイル306a、306b、306cは、固定枠302の中心OAを基準として120度ずつの点対称の位置に配置されている。しかしながら、3つの駆動コイル306a、306b、306cは、必ずしも、固定枠302の中心OAを基準として120度ずつの点対称の位置に配置されていなくてもよい。同様に、補助コイル310a、310b、310cの位置も駆動コイル306a、306b、306cに対して60度の回転位置に配置されていなくてもよい。
【0022】
次に、可動部材の構成について説明する。
図3に示すように、可動部材400は、磁石406aN、406aSと、磁石406bN、406bSと、磁石406cN、406cSとを有している。磁石406aNと磁石406aSとは、駆動コイル306aと対応する磁石である。磁石406bNと磁石406bSとは、駆動コイル306bと対応する磁石である。磁石406cNと磁石406cSとは、駆動コイル306cと対応する磁石である。
【0023】
図4は、可動部材400が中立状態にあるときの可動部材400と固定部材300との関係を示している。ここで、可動部材400の中立状態とは、可動部材400の中心OBが固定部材300の中心OAと一致している状態である。
【0024】
可動部材400が中立状態にあるときには、
図4に示すように、ホールセンサ308aは、磁石406aNと磁石406aSとの境界部に位置される。この状態では、駆動コイル306aの半分が磁石406aNと対向し、駆動コイル306bのもう半分が磁石406aSと対向する。また、ホールセンサ308bは、磁石406bNと磁石406bSとの境界部に位置される。この状態では、駆動コイル306bの半分が磁石406bNと対向し、駆動コイル306bのもう半分が磁石406bSと対向する。同様に、ホールセンサ308cは、磁石406cNと磁石406cSとの境界部に位置される。この状態では、駆動コイル306cの半分が磁石406cNと対向し、駆動コイル306bのもう半分が磁石406cSと対向する。
【0025】
また、可動部材400は、磁石410aN、410aSと、磁石410bN、410bSと、磁石410cN、410cSとを有している。磁石410aNと磁石410aSとは、補助コイル310aと対応する磁石である。磁石410bNと磁石410bSとは、補助コイル310bと対応する磁石である。磁石410cNと磁石410cSとは、補助コイル310cと対応する磁石である。
【0026】
以下、ぶれ補正ユニット206の動作について説明する。なお、説明を簡単にするために、補助コイル310a、310b、310cがない場合のぶれ補正ユニット206の動作を説明する。
【0027】
図2及び
図3で説明したような構成において、駆動コイル306aと磁石406aN及び406aSとの組、駆動コイル306bと磁石406bN及び406bSとの組、駆動コイル306cと磁石406cN及び406cSとの組によって3つのボイスコイルモータ(VCM)が形成されている。これらの3つのVCMは、駆動力の作用方向が異なっている。例えば、駆動コイル306aと磁石406aN及び406aSとの組によって形成されるVCM(以下、VCM Xとする)は、X軸と一致した駆動力Xhを発生させるとする。このとき、駆動コイル306bと磁石406bN及び406bSとの組によって形成されるVCM(以下、VCM Y1とする)は、X軸に対するなす角がθ´である駆動力Y1hを発生させる。また、駆動コイル306cと磁石406cN及び406cSとの組によって形成されるVCM(以下、VCM Y2とする)は、X軸に対するなす角がθ´´(−θ´)である駆動力Y2hを発生させる。これら3つのVCMの駆動力の合力で、可動部材400は、固定部材300に対して相対的に移動する。
【0028】
例えば、X軸方向に沿って可動部材400をXだけ駆動させる場合を考える。このためには、VCM X、VCM Y1及びVCM Y2のそれぞれによってX軸方向にXcの駆動力を発生させればよい。
【0029】
VCM XはX軸方向に沿った駆動力を発生させる。このため、VCM Xについては、駆動力Xh=Xcだけ駆動すればよい。これに対し、VCM Y1及びVCM Y2は、X軸方向だけでなくY軸方向も含む駆動力を発生させる。したがって、X軸方向についてXcの駆動力が発生するように駆動力Y1h及びY2hを設定する必要がある。例えば、駆動力Y1については次のように算出される。まず、
図4より、以下の(式1)の関係が成立する。
Y1h=Xc・cosθ´ (式1)
ここで、(式1)の関係を撮像装置1の座標系であるXY座標系上の関係に置き換えるために、θ´をY1hとY軸とのなす角θに置き換える。
図4からも明らかなように、θ´は、π/2−θである。この関係を利用して(式1)をθの式に置き換える。これにより、Y1hは、以下の(式2)のようになる。
Y1h=Xc・sinθ (式2)
同様の手法により、駆動力Y2hは、以下の(式3)のように算出される。
Y2h=−Xc・sinθ (式3)
ただし、(式3)のθは、Y2hとY軸とのなす角である。
【0030】
このようにして、VCM X、VCM Y1及びVCM Y2の駆動力を適切に制御することにより、可動部材400は、
図4に示したXY平面内で平行移動又は回転する。このような可動部材400の位置の変化が生じると、ホールセンサ308a、308b、308cのそれぞれで検出される磁束の大きさが変化する。ホールセンサ308a、308b、308cは、磁束の変化(磁束密度の変化)を信号として出力する。この信号に従って可動部材400の位置制御がなされる。
【0031】
図5は、本実施形態に係る撮像装置1におけるぶれ補正ユニット206の可動部材400の位置制御に係るブロック図である。
図5に示すように、ぶれ補正ユニット206は、駆動指示入力部502と、位置算出部504と、電流設定部506と、駆動部508と、磁束検出部512と、アンプ514と、アナログ/デジタル(A/D)変換部516と、演算部518とを有している。ここで、
図5は、可動部材400において形成されている3つのVCMに関連する構成をまとめて示したブロック図である。実際の撮像装置1は、VCMの数だけ、すなわち3つのVCMのそれぞれに対応した
図5と同様の構成を有している。
【0032】
駆動指示入力部502は、可動部材400の位置制御の目標となる目標位置を示す目標位置信号を生成する。
【0033】
位置算出部504は、入力された磁束信号に基づいて可動部材400の現在の位置を表す現在位置信号を出力する。詳細は後で説明するが、位置算出部504は、駆動部508の非線形特性に伴って磁束検出部512で検出される磁束の非線形特性が除去された状態の磁束信号(第3の磁束信号)に基づく現在位置信号を出力する。
【0034】
電流設定部506は、複数のIIR(Infinite Impulse Response)フィルタの組み合わせによって構成されるデジタルフィルタを有し、駆動指示入力部502から出力された目標位置信号と位置算出部504から出力された現在位置信号との偏差信号に基づいて生成された電流設定値を駆動部508に対して出力する。電流設定値は、可動部材400を目標位置まで駆動するために駆動コイルに流す必要のある電流値を表しており、偏差信号に対してデジタルフィルタを適用することで生成される。
【0035】
駆動部508は、電流設定部506から出力された電流設定値に基づいて、可動部材400の対応する駆動コイルに電流を供給する。本実施形態の駆動部508は、電流設定部506から出力された電流設定値に基づいて駆動コイルをPWM(Pulse Width Modulation)駆動する。この場合、電流設定値は、例えばPWM駆動のデューティパーセントを表す値である。また、電流設定値は、可動部材400の駆動方向に応じた正負の符号を持つものとする。例えば、駆動コイルに対して駆動部508で供給可能な最大の正の電流を供給する場合には、電流設定値は+100%に設定される。このようにして電流設定部506で設定された電流設定値に従って駆動コイルに流す電流を制御することにより、可動部材400の位置は制御され得る。
【0036】
磁束検出部512は、ホールセンサ308a、308b、308cのうちの対応するものから出力された磁束信号を取り込んで第1の磁束信号を出力する。磁束検出部512から出力される第1の磁束信号は、可動部材400に設けられた磁石からの磁束に基づく磁束信号を含む。さらに、本実施形態のように駆動コイルの近傍に磁束検出部512が設けられている場合、磁束検出部512から出力検出される第1の磁束信号は、駆動コイルに電流が流れることによって生じた第2の磁束に基づく信号を含む。
図5では、第2の磁束は、駆動コイルに対応した仮想的な第2の磁束発生部510から発生されるものとして示されている。そして、磁束検出部512は、可動部材400からの磁束に第2の磁束発生部510で発生された第2の磁束が重畳された状態の第1の磁束信号を出力するものとして示されている。
【0037】
アンプ514は、磁束検出部512から出力された第1の磁束信号を増幅する。アンプ514の増幅率は、例えば予め定められている。A/D変換部516は、アンプ514で増幅された第1の磁束信号をデジタル値に変換する。
【0038】
演算部518は、磁束検出部512で検出された第1の磁束信号(実際には、A/D変換部516から出力された第1の磁束信号のA/D変換値)から第2の磁束の成分を除いた第3の磁束信号を生成し、生成した第3の磁束信号を位置算出部504に出力する。演算部518の演算の詳細については後で説明する。
【0039】
以下、
図5で示した撮像装置1の動作を説明する。例えば、手ぶれが発生したときに駆動指示入力部502は、目標位置信号を出力する。すなわち、駆動指示入力部502は、手ぶれ等に起因する像ぶれを打ち消す位置に可動部材400が駆動されるように目標位置信号を生成する。
【0040】
電流設定部506は、目標位置信号と現在位置信号との偏差に基づいて電流設定値を生成し、生成した電流設定値を駆動部508に対して設定する。駆動部508は、電流設定値に対応した電流を固定部材300の駆動コイルに出力する。駆動コイルに供給された電流に基づく駆動力により、可動部材400は移動する。
【0041】
可動部材400が移動すると、磁束検出部512は、可動部材400の移動に伴う磁束と駆動コイルへの電流の供給に伴う第2の磁束とを含む第1の磁束を検出する。このような第1の磁束に基づいて可動部材400の位置制御がされると、第2の磁束の分だけ誤った位置制御がされてしまうことになる。このため、本実施形態では、演算部518において、第1の磁束から第2の磁束を除く処理が行われる。
【0042】
磁束検出部512から第1の磁束信号が出力されると、アンプ514は、第1の磁束信号を所定の増幅率で増幅する。そして、A/D変換部516は、アンプ514で増幅された第1の磁束信号をサンプリングしてデジタル値に変換する。
【0043】
A/D変換部516において第1の磁束信号が取り込まれると、演算部518は、第1の磁束信号から第2の磁束の成分を除去するための処理を行う。以下この処理について説明する。
【0044】
まず、駆動コイルに流れる電流とそれによって発生する磁束との関係を説明する。一般に、電流Iが流れている長さdlの微小の駆動コイルから位置rに存在する磁束検出部512に発生する微小磁場dHは、ビオ・サバールの法則から以下の(式4)に示すように与えられる。
【0046】
(式4)からも分かるように、物理法則としては、駆動コイルに流れる電流とそれによって発生する磁場とは正比例する。このことは、駆動コイルに流れる電流と磁束検出部512において検出される第2の磁束も比例することを意味している。したがって、駆動コイルに流れる電流を検出することができれば、第2の磁束値を推定することが可能である。また、電流設定値と駆動コイルに流れる電流とが比例関係にあれば、駆動コイルに流れる電流を検出することができなくとも、電流設定値から第2の磁束値を推定することが可能である。
【0047】
実際には、駆動コイルに流れる電流は必ずしも電流設定値とは比例しない。例えば、駆動部508は、その構成によっては電流設定値に比例した電流を駆動コイルに出力しないことがある。
図6は、PWM駆動の駆動部508の出力電流特性を示した図である。ここで、
図6の横軸は電流設定値であり、縦軸は出力電流値である。すなわち、
図6の例では、駆動部508は、電流設定値が0%から±15%未満である場合には、電流設定値の値によらずに電流を出力しない。また、駆動部508は、電流設定値が±15%から±30%未満である場合には、電流設定値に応じて出力されるべき大きさよりも少ない電流を出力する。さらに、駆動部508は、電流設定値が±30%以上になった場合に、電流設定値に応じて出力されるべき大きさの電流を出力する。このように、PWM駆動の駆動部508の出力電流特性は、電流設定値に応じて出力されるべき大きさよりも少ない電流が出力される電流設定値の領域を有している。以下、この領域のことを非線形領域と言う。
図6は一例であるが、PWM駆動の駆動部508は、
図6と同様の非線形特性を有するものである。このような駆動部508の特性の他、種々の要因により、駆動コイルに流れる電流は必ずしも電流設定値とは比例しない。
【0048】
電流設定値と出力電流との関係が
図6のような関係となるとき、電流設定値と第2の磁束とは、
図7のような特性曲線で表される。ここで、
図7の横軸は電流設定値であり、縦軸は磁束密度値(第2の磁束値)である。
図7では、電流設定値が正である領域についての特性が示されている。電流設定値が負の領域についても電流設定値が正の領域についての特性と同様の特性になる。
図6で示した電流設定値と出力電流との関係からも分かるように、
図7において、電流設定値が+15%である未満である場合には駆動コイルに電流が流れないので第2の磁束は発生しない。また、電流設定値が±15%から+30%である)未満である場合には、電流設定値に応じて出力されるべき大きさよりも少ない電流が出力されるので、結果として、第2の磁束値も期待よりも少ない値になる。そして、電流設定値が+30%以上になった場合には、電流設定値に応じて出力されるべき大きさの電流が出力されるので、第2の磁束値も電流設定値に応じた値となる。
【0049】
このように、種々の要因により、電流設定値と第2の磁束値とは比例しないので、単純な線形推定で第2の磁束値を推定してしまうと位置制御に大きな誤差を与えることになる。これに対し、本実施形態では、非線形領域の特性を考慮することにより、正確な第2の磁束値が推定される。このような第2の磁束値の推定手法としては、
図7で示した特性曲線を表す推定式を利用する手法が考えられる。推定式を以下のように仮定する。なお、以下の仮定においては、
図7で示した特性曲線において電流設定値はある第1の閾値以上の値であるとする。この第1の閾値は、ある一定の電流値が駆動部508から出力される電流設定値である。この場合、電流設定値が設定された時点で駆動部508から電流から出力されることになる。
【0050】
まず、前述したように、線形領域では電流設定値と第2の磁束値とが比例するから、線形領域の直線はY=AXと表すことができる。ここで、Xは電流設定値、Yは第2の磁束値である。また、Aは、ある電流の変化が与えられたときの磁束の変化量であり、駆動コイルの個体毎の調整値又は理論値として得られる。例えば、Aは、実際に駆動コイルに電流を流したときの磁束を測定することで得られる。
【0051】
次に、非線形領域においては線形領域とは傾きが異なるものの、第2の磁束値は電流設定値に対してほぼリニアに変化すると仮定し、この特性曲線を表す推定式をY=A´X+B´と仮定する。B´は、オフセットである。また、
図7からも分かるように、非線形領域の直線の傾きは、線形領域の直線の傾きをある所定量だけ小さくすることによっても得られる。したがって、非線形領域の直線は以下のように表すこともできる。
Y=aAX+B´ (式5)
ここで、aは、線形領域の直線の傾きと非線形領域の直線の傾きとの比を示す減衰係数である。このとき、線形領域の直線と非線形領域の交点である第2の閾値のX座標をX
THとすると、オフセットB´は、以下のように表される。
AX
TH=aAX
TH+B´
B´=(1−a)AX
TH (式6)
閾値X
THは、撮像装置1の製造段階において、電流設定値に応じて駆動コイルに流れる電流値を測定できるような調整機を用いることにより、駆動部508から出力される電流値が電流設定値に比例した値となる電流設定値を測定することによって決定される。閾値X
THが決定されれば、オフセットB´が算出される。これにより、線形領域の直線式及び非線形領域の直線式はそれぞれ以下のように表される。
Y=A´X+B´ (−X
TH<X,X<+X
TH)
=aAX+A(1−a)X
TH
(式7)
Y=AX (X≦−X
TH,+X
TH≦X) (式8)
【0052】
ここで、非線形領域は、1つの直線だけを用いて近似されていなくてもよい。すなわち、非線形領域は、複数の直線を用いて近似されてもよい。また、曲線で近似がされてもよい。
【0053】
図8は、線形領域の直線式及び非線形領域の直線式の推定式に基づいて推定された第2の磁束値の推定曲線を示している。演算部518は、入力された電流設定値の大きさに応じた推定式を選択して第2の磁束値を推定する。そして、演算部518は、推定した第2の磁束値をA/D変換後の値に修正した上で、第1の磁束信号のA/D変換後の値(第1の磁束値)から第2の磁束値を減算することによって第3の磁束値を演算する。
【0054】
図9は、演算部518によって行われる一連の処理を示すフローチャートである。ここで、前述した(式7)及び(式8)の推定式は、演算部518の図示しないメモリに予め記憶されているものとする。
【0055】
ステップS101において、演算部518は、電流設定値が閾値X
TH以上であるか否かを判定する。ステップS101において電流設定値が閾値X
TH以上でないと判定された場合に、処理はステップS102に移行する。ステップS101において電流設定値が第2の閾値以上であると判定された場合に、処理はステップS106に移行する。
【0056】
ステップS101において電流設定値が閾値X
TH以上でないと判定された場合、電流設定値は非線形領域に属している。したがって、非線形領域の推定式を用いて第2の磁束値の推定が行われる。このために、ステップS102において、演算部518は、(式7)の推定式における係数A及び減衰係数aを電流設定値に乗算する。
【0057】
ステップS103において、演算部518は、ステップS102の結果の正負を判定する。ステップS103においてステップS102の結果が正の値である場合には、処理はステップS104に移行する。ステップS104において、演算部518は、(式7)の推定式におけるオフセットをステップS102の結果に加算する。ステップS103においてステップS102の結果が負の値である場合には、処理はステップS105に移行する。ステップS105において、演算部518は、(式7)の推定式におけるオフセットをステップS102の結果から減算する。ステップS104又はステップS105の処理の後、処理はステップS107に移行する。
【0058】
ステップS101において電流設定値が閾値X
TH以上であると判定された場合、電流設定値は線形領域に属している。したがって、線形領域の推定式を用いて第2の磁束値の推定が行われる。このために、ステップS106において、演算部518は、(式8)の推定式における係数Aを電流設定値に乗算する。その後、処理はステップS107に移行する。
【0059】
ステップS107において、演算部518は、リミット処理を行う。リミット処理は、推定された第2の磁束値が最大の電流設定値が設定された場合に期待される値(第2の磁束値の最大値)よりも大きい場合に、推定された第2の磁束値を最大値に制限する処理である。
【0060】
ステップS108において、演算部518は、入力された第1の磁束値から推定された第2の磁束値を減算することによって第3の磁束値を演算する。そして、演算部518は、演算した第3の磁束値を位置算出部504に出力する。その後、
図9の処理は終了される。
【0061】
以上説明したように本実施形態によれば、駆動部508の非線形特性等を考慮して駆動コイルに流れる電流によって発生する第2の磁束値を推定することにより、駆動コイルに流れる電流を実際に測定できなくとも、第1の磁束値から正確に偽の信号である第2の磁束値の影響が除かれた第3の磁束値を求めることが可能である。このような第3の磁束値に従って算出された現在位置信号と目標位置信号と偏差に基づいて位置制御が行われることにより、精度よい追従駆動とその安定性の確保が可能となる。
【0062】
ここで、前述した実施形態では、推定式から直接的に第2の磁束値を推定している。これに対し、一旦、駆動コイルに流れる電流値を推定してから、それに比例定数を乗じることによって第2の磁束値は推定されてもよい。
【0063】
また、前述した例では推定式によって第2の磁束値を推定するようにしている。しかしながら、第2の磁束値の推定手法は、推定式に限るものではない。例えば、電流設定値と第2の磁束値との関係とをテーブルデータとして演算部518のメモリに記憶させておく手法が用いられてもよい。
【0064】
また、前述の実施形態では、固定部材300に駆動コイル及び磁束検出部が設けられ、可動部材400に磁石が設けられる構成を例に説明している。本実施形態の技術は、固定部材に磁石が設けられ、可動部材に駆動コイル及び磁束検出部が設けられる構成であっても適用され得る。
【0065】
また、前述の実施形態では、可動部材400によって撮像素子を移動させる手振れ補正ユニットが示されている。本実施形態の技術は、可動部材400によって光学系102を移動させるぶれ補正ユニット206に対しても適用可能である。
【0066】
以上実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能なことは勿論である。また、前述の各動作フローチャートの説明において、便宜上「まず」、「次に」等を用いて動作を説明しているが、この順で動作を実施することが必須であることを意味するものではない。
【0067】
また、前述した実施形態による各処理は、コンピュータとしてのCPU等に実行させることができるプログラムとして記憶させておくこともできる。この他、メモリカード、磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等の外部記憶装置の記憶媒体に格納して配布することができる。そして、CPU等は、この外部記憶装置の記憶媒体に記憶されたプログラムを読み込み、この読み込んだプログラムによって動作が制御されることにより、上述した処理を実行することができる。
【0068】
さらに、前記した実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件の適当な組合せにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、上述したような課題を解決でき、上述したような効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成も発明として抽出され得る。