特許第6590559号(P6590559)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シチズンホールディングス株式会社の特許一覧

特許6590559時計又は装飾物の外装部品用のチタン−マンガン合金、時計又は装飾物の外装部品、及び腕時計バンド
<>
  • 特許6590559-時計又は装飾物の外装部品用のチタン−マンガン合金、時計又は装飾物の外装部品、及び腕時計バンド 図000002
  • 特許6590559-時計又は装飾物の外装部品用のチタン−マンガン合金、時計又は装飾物の外装部品、及び腕時計バンド 図000003
  • 特許6590559-時計又は装飾物の外装部品用のチタン−マンガン合金、時計又は装飾物の外装部品、及び腕時計バンド 図000004
  • 特許6590559-時計又は装飾物の外装部品用のチタン−マンガン合金、時計又は装飾物の外装部品、及び腕時計バンド 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6590559
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】時計又は装飾物の外装部品用のチタン−マンガン合金、時計又は装飾物の外装部品、及び腕時計バンド
(51)【国際特許分類】
   G04B 37/22 20060101AFI20191007BHJP
   A44C 5/00 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   G04B37/22 A
   A44C5/00 E
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-132602(P2015-132602)
(22)【出願日】2015年7月1日
(65)【公開番号】特開2017-15561(P2017-15561A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126583
【弁理士】
【氏名又は名称】宮島 明
(72)【発明者】
【氏名】小川 剛主
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】小林 資昭
(72)【発明者】
【氏名】三浦 紗葵
【審査官】 平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04350673(US,A)
【文献】 特開昭49−098710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 5/00−5/24
G04B 37/00,37/18,37/22
A44C 5/00−5/24
C22C 14/00,22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンとマンガンとの二元合金であり、
マンガンの配合比は、25重量%から90重量%であり、
CIELab(L*a*b*表色系)における明度は、100%マンガンの明度よりも高い
ことを特徴とする時計又は装飾物の外装部品用のチタン−マンガン合金。
【請求項2】
ビッカース硬度は、400以上であることを特徴とする請求項1に記載の時計又は装飾物の外装部品用のチタン−マンガン合金。
【請求項3】
マンガンの配合比は、50重量%から90重量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の時計又は装飾物の外装部品用のチタン−マンガン合金。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のチタン−マンガン合金によって形成されたことを特徴とする時計又は装飾物の外装部品。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載のチタン−マンガン合金によって形成された腕時計バンドの複数のコマと、
請求項1から3のいずれか一項に記載のチタン−マンガン合金によって形成され、前記コマを連結する連結板と、
を有することを特徴とする腕時計バンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計又は装飾物の外装部品用のチタン(Ti)−マンガン(Mn)合金時計又は装飾物の外装部品、及び腕時計バンドに関する。
【背景技術】
【0002】
腕時計の外装である腕時計ケースは、擦れや衝撃に対しての堅牢性と装飾物としての装飾性が要求され、特に高級品にはプラスチックより金属外装が採用されている。さらに金属外装の場合は皮膚に長時間、直接接触しているので、皮膚に金属アレルギーを生じさせにくい金属が望ましい。
【0003】
腕時計ケースに使用されている金属としては、ステンレス等の金属に比較して、チタンは重量が軽くて装着性が良く、また皮膚についた汗へのイオン溶出量が少ないので皮膚に金属アレルギーを引き起こしにくいことが知られており、肌にやさしい金属外装として着目されている。
【0004】
さらに、チタンは、長時間肌に接触するブレスレットや指輪等、装飾物の材料としても関心が持たれている。
【0005】
しかし従来から、腕時計ケースに使用されていた純チタンは、その表面が軟らかくて傷が付きやすいという問題があり、また、腕時計ケースの主流であるステンレスと比較して明度が低く装飾性が劣る欠点があった。
【0006】
チタンの傷つき易さを改良して硬くする手法として、硬い金属であるマンガンをチタンに溶解させた、チタン−マンガン合金を使用する方法が考えられている。(例えば特許文献1)
【0007】
以下、特許文献1に示すチタン−マンガン合金について説明する。
特許文献1は、外科医療の人工関節や歯科治療の人工歯根等、生体に埋め込まれる金属製インプラント用の材料を対象としている。
【0008】
インプラントに用いる金属または合金は、生体の体液へ溶出した場合、その元素によっては、何らかの疾患を引きおこすことが懸念され、溶出元素と疾患の種類との関係について多くの研究がなされた結果、チタンおよびチタン合金が選ばれている。
【0009】
特許文献1では、母材のチタンにマンガン、銀等を混ぜたチタン合金を多種作製し、それぞれのチタン合金の硬度と融点を評価し、インプラント用のチタン合金として、その硬度が300以下、融点が1900以下の条件を課し、この条件を満足する配合比である、マンガンが3〜15%、銀が5〜30%としている。
【0010】
上述のように、特許文献1は生体インプラント材のチタン合金を対象にして、その低融点化を目的とする発明ではあるが、チタン−マンガン合金の硬度と融点が、マンガン配合比によりどのように変化するかを検討し、マンガン配合比が3から15%のとき、そのチタン合金は生体インプラント材に適しているとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−106852号公報(第3頁、表1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1による生体へ埋め込まれる金属製インプラント材は、実装時には人間の目に触れる事がないので、美しさへの要求はまったくなく、特許文献1では、部材の美しさを作る、表面の明るさの視点での検討は、まったくなされていない。
【0013】
したがって、特許文献1に記載のチタンにマンガンを配合比20%で溶解したチタン−マンガン合金は硬度の点では良いが、硬さに加えて装飾性としての明るさが要求される時計又は装飾物の外装部品として用いるには不十分である、という欠点を有する。
【0014】
すなわち本発明による時計又は装飾物の外装部品は、擦れや衝撃に対しての堅牢性の評価を受ける、皮膚に接する面と、装飾物としての評価を受ける面を有する。
そのために、時計又は装飾物の外装部品としては、衣服とこすれたり、物に当たったり、時には落下して床への衝突等、外部からの力に対して、擦れ傷や表面の形状変形が生じないような硬さが要求される。
【0015】
さらに、時計又は装飾物の外装部品は常に目にさらされるので、美しさ、すなわち、表面のきらびやかさ、明るさが要求され、くすんだ感じの印象を与える金属材料は敬遠され、ステンレスのような明るい表面特性を呈する金属が要求されている。
【0016】
本発明の目的は、上記課題を解決するためにある。すなわち、人体に装着しての使用中に、衣服や物との接触で生じる擦れ傷や表面の形状変形を防止する硬度と、表面のくすみ感を感じさせない明るい質感を持つ装飾性と、皮膚に金属アレルギーを生じさせない、親和性とを有する時計又は装飾物の外装部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため本発明の時計又は装飾物の外装部品用のチタン−マンガン合金は、チタンとマンガンとの二元合金であり、マンガンの配合比は25重量%から90重量%であり、CIELab(L*a*b*表色系)における明度が、100%マンガンの明度よりも高いことを特徴とする。
【0018】
上記構成により、皮膚に金属アレルギーを生じさせず、表面のくすみ感を感じさせない明るい質感のチタン−マンガン合金を提供できる。
【0019】
さらに、チタンとマンガンとの合金のビッカース硬度は、400以上であると良い。
【0021】
このようにすれば、明るい質感を保ったまま、擦れ傷や形状変形を生じにくいチタン−マンガン合金となる。
さらに、時計又は装飾物の外装部品は、上述したチタン−マンガン合金によって形成されていても良い。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、装着中に衣類や物との接触で生じる擦れ傷や表面の形状変形を防止し、表面のくすみ感を感じさせない明るい質感も持ち、皮膚に金属アレルギーを生じさせない時計又は装飾物の外装部品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態におけるチタン−マンガン合金の明度とマンガン配合比との関係を示すグラフ及び表である。
図2】本発明の実施形態におけるチタン−マンガン合金のビッカース硬度とマンガン配合比との関係を示すグラフ及び表である。
図3】本発明の実施形態における時計の外装部品としての腕時計バンドのコマと腕時計バンドの一部を示す斜視図である。
図4】本発明で使用される真空アーク溶融装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を用いて本発明の時計又は装飾物の外装部品の具体的な実施形態を詳述する。
説明にあっては、腕時計バンドを例にして説明する。
【0025】
(チタン−マンガン合金の製造手順の説明)
図4を用いて本発明のチタン−マンガン合金の製造手順を説明する。まず、本発明のチタン−マンガン合金における、マンガン配合比とチタン−マンガン合金の特性を明らかにするために、チタンに対するマンガン配合比を0重量%から100重量%まで変化させたチタン−マンガン合金を、真空アーク溶解法を用いて作製した。
【0026】
サンプル数は各配合比毎に5個の試験片を作製した。それぞれの試験片では、チタンとマンガンとの合計重量が10gとなるようチタンとマンガンを秤量した。例えばマンガン配合比が30重量%の場合は、チタンを7g、マンガンを3gである。
【0027】
図4は真空アーク溶解炉40の概略構成図である。主たる構成物は、真空槽41、真空槽41の内部に配置される、アーク放電用電極42とチタン−マンガン合金の材料を載置する銅製ハース43、真空槽41の外部に配置されるアーク放電用電源45、真空槽41のガス導入口に接続されるガス導入用配管48、真空槽41の排気口に接続される排気用配管50である。
【0028】
以下の手順でチタン−マンガン合金を作製した。まず、水冷された銅製ハース43に、全体重量が10gとなるように秤量したチタンとマンガンとの混合物44を入れた。チタンは、その多孔質の形状にちなみ名づけられたスポンジチタンを、マンガンは粒状マンガンを用いた。
【0029】
真空槽41の中の空気を、真空槽41の排気口に接続された排気用配管50、排気用バルブ51を介して接続された真空ポンプ(図示せず)を用いて排気し、真空槽41内を10kPaまで減圧した後、排気用バルブ51を閉じて、排気を止め、真空槽41のガス導入口に接続されたガス導入用配管48に取り付けられたガス導入用バルブ49を開け、ガス導入用バルブ49に接続されたアルゴンガスボンベ(図示せず)からアルゴンガスを真空槽41の中に導入した。アルゴンガスの導入量を調節して、真空槽41内のアルゴンガスの圧力を35kPaに設定した。
【0030】
上記の手順で真空槽41へガス導入が終了した後、アーク放電用の電源45から配線46で接続されたアーク放電用電極42と、配線47に接続された水冷された銅製ハース43の間に電圧を印加して、アーク放電を発生させた。アーク放電はいわゆる負性抵抗の振舞をして電流が暴走するが、電源45は電流制御回路にて電流を一定に制御して、電流暴走を防いでいる。
【0031】
アーク放電の電流は、銅製ハース43に置かれたチタン−マンガン合金の原料を流れ、合金の原料は高温となって溶解する。原料の全体が溶けた時点でアーク放電を止める。合金が冷えたら合金の上下を反転し、再度アーク放電を発生して合金の材料を溶解させ全体を溶かす。上下反転、溶解を3回繰り返して、チタンとマンガンとの原材料を均一に溶解
させた。
【0032】
(上記の方法で作製したチタン−マンガン合金の特性を知るための評価)
次に、上記の方法で作製したチタン−マンガン合金の特性を知るために評価を行った。まず、作製したチタン−マンガン合金の明るさの測定実験方法を述べる。
【0033】
一般に明るさや色を表現する方法として、RGB、CMYK、CIELab(L*a*b*表色系)が知られている。CIEは国際照明委員会の略号である。CIELab(L*a*b*表色系)は人間の視覚を近似するように設計されている。いっぽう、RGBやCMYKはディスプレイやプリンター等出力機器の都合が優先されている。
【0034】
本発明の時計又は装飾物の外装部品は、人間の視覚に訴える物なので、評価系として、人間の視覚を近似しているCIELab(L*a*b*表色系)が適している。CIELab(L*a*b*表色系)では、明度をL*で、色合いをa*、b*で表現している。L*=0は黒、L*=100は白であり、L*の大きな値は物体が明るく見えることを意味する。
そこで本発明では、チタン−マンガン合金の明るさを、CIELab(L*a*b*表色系)による明度(L*)で評価した。
【0035】
CIELab(L*a*b*表色系)による明度(L*)は、以下の方法で求めた。まず、分光測色計を用いて、試験片からの反射光の分光スペクトルを測定した。次に、測定で得た分光スペクトルデータをもとに、CIEが、標準観察者の目が有する分光感度として規定した等色関数x(λ)、y(λ)、z(λ)を用いて積分計算を行い、三刺激値X、Y、Zの3個の値を算出し、この3個の数値をもとにして明度(L*)を得た。
【0036】
なお、等色関数は視角(物体の大きさ)に依存しており、CIEは2度視野の等色関数と10度視野の等色関数を規定している。本発明では、時計又は装飾物を見るときにふさわしい10度視野の等色関数を採用した。
【0037】
(明度のマンガン配合比依存性の測定)
図1(a)及び図1(b)を用いて、測定実験結果に基づくCIELab(L*a*b*表色系)における明度(L*)とマンガン配合比との関係について説明する。
図1(b)は、チタン−マンガン合金において、マンガン配合比を0重量%から100重量%まで変化させて作製したチタン−マンガン合金の配合比とそれぞれの明度(L*)を示した表である。図1(b)の表で示した数値は、マンガンの配合比毎に作成した5個の合金試験片について、上記の測定方法で測定して得た明度(L*)の平均値が記入されている。
【0038】
図1(a)のグラフは、図1(b)の表から、マンガン配合比の数値と明度(L*)の平均値の数値を用いて、プロットしたグラフである。グラフの横軸は、マンガン配合比(重量%)、縦軸は、明度(L*)である。特性曲線L1は各マンガン配合比に対する明度を示すものである。
【0039】
特性曲線L1を見ると、明度(L*)は、マンガン配合比が増加するとともに増加し、マンガン配合比が50重量%で飽和して、明度(L*)=82となる。マンガン配合比が50重量%から90重量%の間は、明度(L*)=82と一定である。なお、この明度(L*)=82は、ステンレスの明度に匹敵する明るさである。
【0040】
本発明では、腕時計ケースに要求される美しさに必要な明度を知るために、見た目の美しさ、すなわち官能的な視点で試験を行った。具体的には、選定した5名の官能試験担当
者に、マンガン配合比を開示することなく、作製したチタン−マンガン合金を目視させ、各試験片に関して、腕時計ケースの美しさを感じられる明るさかどうかの判断をさせた。
【0041】
この試験の結果、外観品質の合格品は、マンガン配合比が25重量%から90重量%のチタン−マンガン合金であり、図1(b)の表に合格品を○で示し、不合格品を×で示した。すなわち、明度(L*)が80以上となるマンガン配合比が25重量%から90重量%のチタン−マンガン合金が外観品質に優れているという結果となった。
【0042】
合格品、不合格品を図1(a)の特性曲線L1の上で区別すると、合格品は特性曲線L1の実線部分であり、不合格品は特性曲線L1の点線部分である。100%マンガンの明度(L*)が79であり、これを基準線L2として、図1(a)に点線で示しているが、合格品は、基準線L2で示す100%マンガンの明度より高い明度を有していることが分る。
【0043】
(各マンガン配合比の硬度の測定)
次に図2(a)及び図2(b)を用いて、測定実験結果に基づくビッカース硬度とマンガン配合比との関係について説明する。
【0044】
腕時計ケースは、装着中に着衣に擦れたり、近くの物に接触したり、取り外しのときに床に落下したり、と外力が加わり、腕時計ケースの表面に擦れ傷が出来たり、表面の形状が変形して、表面の輝きや明るさが低下し、美しさが損なわれる恐れがある。これらの不具合を防止するには、チタン−マンガン合金が硬いことが有効である。
【0045】
本発明では、硬さを評価する方法として、広く使用されているビッカース硬度(Hv)を硬さの指標として採用した。ビッカース硬度(Hv)は、正四角錐の形状を持ったダイヤモンドで作られた圧子に荷重を加えて、チタン−マンガン合金の試験片の表面に押し込み、荷重を除いたあとに残ったへこみの面積(平方mm単位で表現)で荷重(kgf単位もしくはN単位で表現)を割った数値で表現される。材料が硬いほど上記へこみの面積は小さく、したがって、硬い材料ほど、ビッカース硬度(Hv)は大きな値になる。
【0046】
図2(a)及び図2(b)は、マンガン配合比を10重量%から90重量%まで変化させて作製したチタン−マンガン合金とビッカース硬度(Hv)との関係を示すグラフ及び表である。図2(b)は、各配合比で作成した5個のチタン−マンガン合金について、上記の測定方法で測定して得たビッカース硬度(Hv)の平均値を記した。
【0047】
図2(a)は、図2(b)の表から、マンガン配合比の数値とビッカース硬度(Hv)の平均値の数値を用いて、プロットしたグラフである。図2(a)のグラフの横軸は、マンガン配合比(重量%)、縦軸は、ビッカース硬度(Hv)であり、特性曲線H1はマンガン配合比に対する硬度を示すものである。
【0048】
特性曲線H1を見ると、ビッカース硬度(Hv)は、マンガン配合比が増加するとともに、ほぼ直線的に増加している。
【0049】
本発明では、腕時計ケースに要求される硬さを知るために、チタン−マンガン合金の試験片の表面を布でこする実験を行った。毛足が2mmの綿の布を直径10cmの円筒に巻き付け、毛足を0.5mm試験片に押し込んだ状態で円筒を1秒間に5回転させる形で試験片の表面を綿の布で擦った。連続して1時間擦ったのちに試験片を取り出し、試験片の表面の美しさが損なわれていると感じるかどうかを判断した。
【0050】
上記試験によってキズ耐性を評価し、図2(b)に美しさが損なわれていないと判断さ
れた合格品を○で示し、不合格品を×で示した。すなわち、ビッカース硬度が400以上となるマンガン配合比が25重量%以上のチタン−マンガン合金がキズ耐性に優れているという結果となった。
【0051】
図2(a)のグラフの特性曲線H1において、実線部分が合格品、点線部分が不合格品となる。なお、点線H2はビッカース硬度が400を示す基準線である。
【0052】
以上の結果から、外観品質に優れた明度を有する25重量%から90重量%のマンガン配合比のチタン−マンガン合金が、キズ耐性においても優れているということがわかった。
【0053】
図3は本発明の実施形態を示す腕時計バンドの斜視図であり、図3(a)は腕時計バンドのコマ30を示し、図3(b)は腕時計の本体と腕時計の尾錠(バックル)を結ぶ腕時計バンドの一部31の斜視図である。
図3に示す腕時計バンドは上記の実験結果を踏まえて、ステンレスのように明るい表面を持ち、衣服に擦れても傷がつきにくい硬度を有する、マンガン配合比が50重量%のチタン−マンガン合金を作製し、その合金を鍛造成型したものであり、腕時計バンドのコマ30を連結する連結板32も皮膚に接触するので同じ材料を用いて作製した。
【0054】
作製した腕時計バンドは、生体への親和性が高いチタン合金であるので、長時間腕に装着しても、皮膚に金属アレルギーが生じない。また、明度が82とステンレスに匹敵する値なので、チタンのくすんだ灰色ではなく明るい質感である。さらに、ビッカース硬度は750と高いので、腕時計バンドの外側の面が衣類で擦れたり、物に当たっても擦れ傷や変形の発生が少なく、腕時計バンドとしての装飾性の低下を防止することができた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の時計又は装飾物の外装部品は、皮膚への金属アレルギーの発生がなく、装着中に衣類や物との接触で生じる擦れ傷や表面の形状変形を防止し、表面のくすみ感を感じさせない明るい質感を呈するので、人体に装着する全ての時計又は装飾物の外装部品に適応することができる。
【符号の説明】
【0056】
30 腕時計バンドのコマ
31 腕時計バンドの一部
32 連結板
40 真空アーク溶融炉
41 真空槽
42 アーク放電用電極
43 銅製ハース
44 チタン−マンガン合金材料
45 アーク放電用電源
図1
図2
図3
図4