【文献】
吉川 正基,米村 直樹,谷内田 貴行,白井 康之,横山 彰一,高温超電導コイルの伝導冷却下励磁実験,平成27年電気学会全国大会講演論文集(第5分冊),2015年 3月,P.139-140
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0014】
(1)本発明の一態様に係る超電導マグネット装置(
図1および
図2参照)は、巻回された酸化物超電導線材を有する超電導コイル(10〜18)と、超電導コイルに電流を供給する電源(132)と、超電導コイルの通電電流を制御する制御装置(140)とを含む。本発明の一態様に係る超電導マグネット装置の運転方法は、超電導状態に冷却された超電導コイルに通電することにより、超電導コイルを励磁する工程(
図3の工程(S10))と、超電導コイルを励磁する工程の後に、超電導コイルに超電導マグネット装置の運転電流を保持する工程(
図3の工程(S20))とを備える。上記超電導コイルを励磁する工程は、通電電流を運転電流値まで増加させるとともに、超電導コイルの許容温度よりも低い第1の目標温度になるように超電導コイルを加熱する工程(
図3の工程(S12))を含む。上記運転電流を保持する工程は、第1の目標温度よりも低い第2の目標温度になるように超電導コイルを冷却する工程(
図3の工程(S22))を含む。
【0015】
このようにすれば、超電導コイルの励磁中に超電導コイルを加熱することで、酸化物超電導線材を昇温して超電導層に誘導される遮蔽電流を低減できる。そして、超電導コイルを励磁した後に超電導コイルに運転電流(一定電流)を流す過程において、超電導コイルを冷却することで、酸化物超電導線材の電気抵抗値を低減し、遮蔽電流の時間変化を減少させることができる。これにより、超電導コイルを励磁した後に短時間で遮蔽電流が低い電流値で安定するため、遮蔽電流磁場も強度が減少した状態で安定する。すなわち、コイルの中心磁場の強度の減少が抑えられるとともに中心磁場の時間的なドリフトが抑制されるため、短時間で遮蔽電流磁場の影響を低減することができる。
【0016】
また、超電導マグネット装置は、超電導コイルに供給する通電電流によって発生磁場の大きさを調整可能に構成されるため、発生磁場の大きさに応じて、遮蔽電流磁場の大きさも異なってくる。本発明の一態様に係る運転方法によれば、超電導コイルの温度を制御することで遮蔽電流磁場の影響を低減するように構成されるため、発生磁場の大きさが異なっていても、同等の均一性を有する磁場を生成することが可能となる。
【0017】
(2)好ましくは、上記超電導コイルを加熱する工程(工程(S12))では、超電導コイルの軸方向の端部が第1の目標温度になるまで加熱する。
【0018】
このようにすれば、超電導コイルの軸方向の中心部に比べて相対的に大きい遮蔽電流が誘導される端部を第1の目標温度になるまで加熱することで、遮蔽電流を効果的に低減することができる。
【0019】
(3)好ましくは、上記運転電流を保持する工程(工程(S20))は、超電導コイルを冷却する工程(工程(S22))の前に、運転電流値を中心として通電電流を振動させる工程を含む。
【0020】
このようにすれば、通電電流を振動させることで磁場の変化による交流損失(ヒステリシス損失)が増加するため、ヒータ等の加熱装置を用いずに超電導コイルを加熱することができる。
【0021】
(4)好ましくは、上記通電電流を振動させる工程では、超電導コイルが、超電導コイルの許容温度よりも低くかつ第1の目標温度よりも高い第3の目標温度に達した後に、通電電流の振動振幅を減衰させる。
【0022】
このようにすれば、超電導コイルの加熱に加えて、遮蔽電流磁場のヒステリシス効果を利用することにより、遮蔽電流磁場の強度をさらに減少させることができる。
【0023】
(5)好ましくは、上記超電導コイルを加熱する工程(工程(S12))では、通電電流を増加させることに起因する交流損失により超電導コイルを加熱する。
【0024】
このようにすれば、超電導コイルの励磁過程における通流電流の変化速度を上げることができるため、励磁時間を短くすることができる。この結果、超電導コイルの励磁を開始してから短時間で遮蔽電流磁場の影響を低減することができる。また、ヒータ等の加熱装置を用いずに超電導コイルを加熱することができる。
【0025】
(6)好ましくは、通電電流の変化速度は、超電導コイルに発生する交流損失に伴う単位時間当たりの発熱量が、超電導コイルの許容発熱量を超えないことを条件として設定される。
【0026】
このようにすれば、超電導コイルの発熱が超電導コイルの磁気的特性に影響を及ぼすことを防ぐことができる。
【0027】
(7)好ましくは、上記超電導コイルを加熱する工程(工程(S12))は、加熱装置(ヒータ10a,10b,12a,12b,14a,14b,16a,16b,18a,18b,20a,20b)を用いて超電導コイルを加熱する工程を含む。
【0028】
このようにすれば、超電導コイルの励磁中に酸化物超電導線材に誘導される遮蔽電流を低減できる。なお、冷却装置の冷却ヘッドに加熱装置を取付けて超電導コイルを加熱してもよい。
【0029】
(8)好ましくは、上記加熱装置は、超電導コイルの軸方向の端部に設けられる。
このようにすれば、超電導コイルの軸方向の中心部に比べて相対的に大きい遮蔽電流が誘導される端部を重点的に加熱することで、遮蔽電流を効果的に低減することができる。
【0030】
(9)好ましくは、上記超電導コイルを加熱する工程(工程(S12))では、さらに、通電電流を増加させることに起因する交流損失により超電導コイルを加熱する。
【0031】
このようにすれば、超電導コイルの励磁過程における通流電流の変化速度を上げることができるため、励磁時間を短くすることができる。この結果、超電導コイルの励磁を開始してから短時間で遮蔽電流磁場の影響を低減することができる。
【0032】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付し、その説明については繰り返さない。
【0033】
(超電導マグネット装置の構成)
図1は、実施の形態に係る超電導マグネット装置の構成を概略的に示す断面図である。実施の形態に超電導マグネット装置は、たとえばMRI装置に適用され得る。
図1を参照して、実施の形態に係る超電導マグネット装置100は、超電導コイル体91と、断熱容器111と、冷却装置121と、ホース122と、コンプレッサ123と、ケーブル131と、電源132と、制御装置140とを備える。
【0034】
断熱容器111は、中空円筒状の形状を有しており、その内部に超電導コイル体91を収容する。断熱容器111の内部は、真空状態に維持されている。真空状態とは、大気圧よりも断熱を維持できる程度の減圧状態であることを意味する。
【0035】
超電導コイル体91は、テープ状の形状を有する酸化物超電導線材を巻回して形成された超電導コイルを含む。酸化物超電導線材は、たとえば、その延在方向に延びるビスマス(Bi)系超電導体と、この超電導体を被覆するシースとを有する。シースは、たとえば銀や銀合金により形成されている。酸化物超電導線材は、テープ状面に垂直な磁場が印加されるほど交流損失が増大するような特性を有する。超電導コイルの詳細な構成については後述する。
【0036】
超電導コイル体91は、超電導コイルと冷却装置121とを伝熱可能に繋ぐ伝熱板をさらに含む。超電導コイルは、冷却装置121によって冷却される。冷却装置121は、超電導コイルに熱的に接続された冷却ヘッド120を有する。冷却装置121は、たとえばギフォード・マクマホン式冷凍機、パルス管冷凍機またはスターリング式冷凍機である。冷却装置121は、ホース122を介して、コンプレッサ123につながっている。冷却装置121は、超電導コイルを構成する酸化物超電導材料の臨界温度以下の極低温を冷却ヘッド120に発生させる。冷却ヘッド120で得られた極低温は、伝熱板を介して超電導コイルに伝熱される。なお、超電導コイルを冷却する冷却部としては、冷却装置121を用いずに、断熱容器111内に収容された液体ヘリウムまたは液体窒素などの冷媒に超電導部を浸漬させる構成としてもよい。
【0037】
ケーブル131は、超電導コイル体91と電源132との間に配設される。電源132からケーブル131を経由して超電導コイルに通電電流が与えられることにより、超電導コイルは磁場(磁束)を発生する。断熱容器111の円筒中心部の空間には、図中の点線で示す範囲内に、MRI装置の撮像領域FOV(Field of View)が形成されている。撮像領域FOVは、断熱容器111に外側に位置し、室温かつ大気圧に保持可能であるため、被検者は、自身の被検査領域を撮像領域FOVの中に収めることができる。
【0038】
制御装置140は、超電導コイルの通電電流を制御する。一例として、制御装置140は、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶部とを含むマイクロコンピュータを主体として構成される。
【0039】
制御装置140は、超電導コイルの通電電流の制御に加えて、超電導コイルの温度(以下、コイル温度とも称する)を制御する。具体的には、制御装置140は、冷却装置121の運転を制御するとともに、ヒータ(
図2参照)の起動および停止を制御可能に構成される。
【0040】
図2は、
図1に示した超電導コイル体91の構成例を概略的に示す図である。
図2を参照して、超電導コイル体91は、複数の超電導コイルと、傾斜磁場コイル21と、シム22,24と、複数のヒータとを含む。
【0041】
図2の構成例では、複数の超電導コイルは、6個の超電導コイル10,12,14,16,18,20により構成されている。6個の超電導コイル10,12,14,16,18,20は、コイル中心軸を共通にして、互いに間隔を隔てて配置される。コイル中心軸は、赤道面8に垂直となるZ軸に一致するように設定されている。
【0042】
超電導コイル14,16は、赤道面8を対称面として対向配置されている。超電導コイル12,18は、赤道面8を対称面として対向配置されている。超電導コイル10,20は、赤道面8を対称面として対向配置されている。6個の超電導コイル10,12,14,16,18,20にそれぞれ一定電流を流すことにより、撮像領域FOVにZ軸方向の磁場を発生させることができる。
【0043】
超電導コイル10,12,14,16,18,20の内部には、コイル中心軸をZ軸に一致させて傾斜磁場コイル21が配置されている。傾斜磁場コイル21は、撮像領域FOV内の位置情報を得る目的で、撮像領域FOVの均一磁場に重畳する形で、磁場を空間的に変化させた傾斜磁場を生成する。
【0044】
シム22,24は、傾斜磁場コイル21と超電導コイル10,12,14,17,18,20との間に設けられる。シム22は、傾斜磁場コイル21の外周側の側壁に沿うように配置される。シム24は、断熱容器111の内周側の側壁に沿うように配置される。シム22,24は、撮像領域FOVの均一磁場の均一度をさらに向上させるための磁場調整用鉄材である。撮像領域FOVに発生している磁場の測定結果に基づいてシムを取り付ける位置およびシムの厚さを調整することにより、撮像領域FOVの均一度を調整することができる。
【0045】
超電導マグネット装置100が稼働すると、撮像領域FOVには、白矢印方向の静磁場Bcが発生する。超電導マグネット装置100がMRI装置である場合には、静磁場Bcは、3T程度の高強度であって、5ppm程度の高い均一度を有し、かつ、時間的に安定していることが求められる。
【0046】
しかしながら、酸化物超電導線材の平坦な超電導層に誘導される遮蔽電流がコイル内部に発生させる付加的な磁場(遮蔽電流磁場)の影響により、磁場分布に歪みが生じる、磁場が時間的に変動する、といった技術課題が存在する。
【0047】
詳細には、超電導コイルに内部に発生する静磁場Bcは、コイルの軸方向成分と径方向成分とに分けられる。
図3に示されるように、磁場の径方向成分(図中のベクトルBc1に相当)が、酸化物超電導線材30の超電導層に垂直方向に加わると、この径方向成分Bc1をはじくようにして、超電導層内に遮蔽電流Isが誘導される。
【0048】
遮蔽電流Isは、コイル内部に遮蔽電流磁場(図中のベクトルBs1)を発生させる。
図2に示されるように、遮蔽電流磁場Bsは、コイルの中心磁場Bcと反対向きに発生する。そのため、超電導コイルの励磁過程において発生する遮蔽電流磁場Bsにより、コイルの中心磁場Bcの値が設計値と比べて、遮蔽電流磁場Bsの分だけ小さくなる。すなわち、遮蔽電流磁場Bsがコイルの中心磁場Bcの強度を減少させるため、コイル中心近傍の磁場Bcの空間的な分布が不均一になる。
【0049】
また、超電導層内に誘導された遮蔽電流Isは永久電流として流れ続けるが、磁束クリープ現象などによって長い時間をかけて少しずつ緩和する。これにより、コイル中心部では、遮蔽電流磁場Bsが時間とともに減少する。この結果、中心磁場Bcが時間とともに正の方向にドリフトすることになる。
【0050】
上述のように、遮蔽電流磁場Bsは、酸化物超電導線材のテープ形状が原因で起こる物理現象であり、様々な低減方法が提案されているが、有効な手法が無いのが現状である。そこで、本実施の形態に係る超電導マグネット装置の運転方法では、超電導コイルの励磁過程および励磁後における超電導コイルの温度を制御することにより、遮蔽電流磁場Bsの影響を低減する。
【0051】
(超電導マグネット装置の運転方法)
以下、本実施の形態に係る超電導マグネット装置100の運転方法について説明する。
【0052】
図4は、本実施の形態に係る超電導マグネット装置の運転方法を説明するフローチャートである。なお、
図4に示すフローチャートは、制御装置140において予め格納したプログラムを実行することで実現できる。
【0053】
図4を参照して、超電導マグネット装置の運転方法は、超電導コイルを励磁する工程(S10)と、超電導コイルの運転電流を保持する工程(S20)とを備える。
【0054】
最初に、超電導コイルを励磁する工程(S10)が実施される。具体的には、超電導状態に冷却された超電導コイルに通電することにより、超電導コイルを励磁する。
図5に、超電導コイルの通電電流Iの時間変化を示す。
図5に示されるように、電源132(
図1)から超電導コイルに供給する通電電流Iを、0から超電導マグネット装置100の運転電流値Iopまで増加させる。本明細書では、通電電流Iが0の時点(時刻t=0)から通電電流Iが運転電流値Iopに到達する時点(時刻t1)までの時間を、励磁時間とも称する。
【0055】
超電導コイルの励磁中、酸化物超電導線材の超電導層には遮蔽電流Isが誘導される。遮蔽電流Isは、コイルの中心磁場Bcと反対向きに遮蔽電流磁場Bsを発生させる。
【0056】
通電電流Iが運転電流値Iopに達すると(時刻t1)、続いて、
図5に示されるように、超電導コイルの運転電流Iopを保持する工程(S20)が実施される。
【0057】
時刻t1以降、磁束クリープ現象などによって、遮蔽電流Isは時間とともに減衰する。超電導コイルのインダクタンスをLとし、電気抵抗値をRとすると、遮蔽電流Isは、L/Rで表わされる時定数に基づいて減衰する。
【0058】
超電導コイルを励磁する工程(S10)は、超電導コイルを加熱する工程(S12)を含む。超電導コイルを加熱する工程(S12)では、超電導コイルの許容温度よりも低い第1の目標温度T1*になるように超電導コイルを加熱する。これにより、超電導層に誘導される遮蔽電流Isの大きさを低減する。
【0059】
詳細には、超電導コイルに流れる遮蔽電流Isの大きさは、臨界電流Icに依存する。臨界電流Icは、酸化物超電導線材の温度が高いほど(臨界温度に近づくほど)小さくなるという温度依存性を有している。したがって、遮蔽電流Isも酸化物超電導線材の温度が高くなるほど小さくなる。そこで、超電導コイルを加熱する工程(S12)では、このような遮蔽電流Isの温度依存性を利用して超電導コイルを励磁する際に超電導コイルを加熱することにより、遮蔽電流Isの大きさを低減する。遮蔽電流Isの大きさを低減することにより、コイル内部に発生する遮蔽電流磁場Bs1(
図3参照)の大きさを低減することができる。
【0060】
なお、超電導コイルを加熱する工程(S12)では、超電導コイルの軸方向の端部が第1の目標温度T1*になるまで加熱することが好ましい。超電導コイルにおいて、遮蔽電流Isの大きさは、超電導コイルの軸方向の中央部から端部にいくほど大きくなる。本実施の形態においては、6個の超電導コイル10,12,14,16,18,20(
図2参照)の各々において、軸方向の中央部に比べて端部の方が遮蔽電流Isが大きくなる。これは、超電導コイルの軸方向の端部は、軸方向の中央部に比べて垂直磁場の強度が大きくなるため、この垂直磁場をはじくために、より大きな遮蔽電流Isが誘導されることによる。したがって、超電導コイルの軸方向の端部を第1の目標温度T1*になるまで加熱することで、遮蔽電流Isを効果的に低減することができる。
【0061】
超電導コイルの運転電流Iopを保持する工程(S20)は、超電導コイルを冷却する工程(S22)を含む。超電導コイルを冷却する工程(S22)では、第1の目標温度T1*よりも低い第2の目標温度T2*になるように超電導コイルを冷却する。
【0062】
酸化物超電導線材は、臨界温度以下では電気抵抗が限りなく0に近い状態になるが、この状態においても、温度が低いほど(臨界温度から離れるほど)電気抵抗値が小さくなるという温度依存性を有している。超電導コイルを冷却する工程(S22)では、加熱によって遮蔽電流Isが低減された状態となっている酸化物超電導線材を冷却することで、酸化物超電導線材の電気抵抗値を低下させる。酸化物超電導線材の電気抵抗値が小さくなると、超電導コイルでは、インダクタンスLと電気抵抗値Rとの比で決まる時定数(L/R)が大きくなる。これにより、遮蔽電流Isはその大きさが低減された状態からの時間変化が減少するため、遮蔽電流Isが時間的に安定する。
【0063】
このように、本実施の形態に係る超電導マグネット装置の運転方法では、超電導コイルの励磁中に超電導コイルを加熱することで、酸化物超電導線材を昇温して超電導層に誘導される遮蔽電流Isを低減する。そして、超電導コイルを励磁した後に超電導コイルに運転電流(一定電流)を流す過程において、超電導コイルを冷却することで、酸化物超電導線材の電気抵抗値を低減し、遮蔽電流Isの時間変化を減少させる。これにより、超電導コイルを励磁した後に短時間で遮蔽電流Isが低い電流値で安定するため、遮蔽電流磁場Bsも強度が減少した状態で安定する。すなわち、コイルの中心磁場Bcの強度の減少が抑えられるとともに中心磁場Bcの時間的なドリフトが抑制されるため、短時間で遮蔽電流磁場の影響を低減することができる。
【0064】
以下では、本実施の形態に係る超電導マグネット装置の運転方法を実施例および比較例により詳細に説明する。ただし本実施の形態は、これらに限定されるものではない。
【0065】
<比較例>
図6は、比較例による超電導マグネット装置の運転方法を示す図である。
図6には、超電導コイルの励磁を開始した時点をt=0として、超電導コイルの通電電流、超電導コイルの温度(コイル温度)、撮像領域FOVにおける磁場変動の時間変化が示されている。さらに
図6には、ヒータの作動(オン)/停止(オフ)の時間変化が示されている。
【0066】
以下の説明では、比較例および実施例ともに、超電導マグネット装置の運転電流値Iopを200Aとする場合を想定する。また、比較例および実施例ともに、コイル温度は、超電導コイルの軸方向(
図1のZ軸方向)の端部における温度を示している。酸化物超電導線材は、テープ状面に垂直な磁場が印加されるほど交流損失が増大するような特性を有している。そのため、超電導コイルでは、軸方向の端部に位置するコイルは、軸方向の中央部に位置するコイルに比べて垂直磁場の強度が大きくなるため、交流損失が大きく、発熱が多くなりやすい。そこで、コイル温度として軸方向の端部の温度を管理することで、超電導コイルの端部が常伝導化してクエンチが生じることを防止している。
【0067】
比較例による運転方法は、超電導コイルを励磁する工程と、超電導コイルを励磁する工程の後に、超電導コイルの運転電流Iopを保持する工程とを備える。ただし、比較例では、超電導コイルを励磁する工程は、超電導コイルを加熱する工程を含まない。よって、ヒータはオフに固定されている。
【0068】
図6に示されるように、比較例では、超電導コイルの励磁時間を4時間とする。すなわち、制御装置140は、超電導コイルの通電電流を0Aから4時間かけて運転電流値(Iop)である200Aまで増加させる。
【0069】
通電電流を時間とともに増加させることにより、超電導コイルが発生する磁場が変化する。磁場の時間変化により、交流損失、特にヒステリシス損失による発熱が増加するため、コイル温度が時間とともに上昇する。その結果、コイル温度は励磁時間が経過した時点(時刻t=4H)で最も高くなり、14Kを示している。
【0070】
通電電流が運転電流値Iopに達した後、制御装置140は、通電電流を運転電流値Iopに保つことによって、磁場を一定値に固定させる。磁場の変化による発熱が抑えられるため、コイル温度は時間とともに低下する。制御装置140は、コイル温度を10Kに保つように冷却装置121を制御する。
【0071】
撮像領域FOVにおける磁場変動の大きさは、励磁時間が経過した時点(時刻t=4H)において、20ppmを超えている。図示しないが、この時点での磁場変動の大きさは30ppmに及んでいる。この時点以降、磁束クリープ現象によって遮蔽電流Isは時間とともに減少する。遮蔽電流Isの減少に伴い遮蔽電流磁場Bsも減少するため、磁場変動の大きさも時間とともに小さくなる。
【0072】
比較例では、励磁を開始した時点(時刻t=0)から9時間経過した時点において、言い換えれば、励磁を終了した時点(時刻t=4H)から5時間経過した時点において、磁場変動の大きさが0.5ppmに到達している。このように、比較例では、超電導コイルの励磁を開始してから撮像領域FOVにおける磁場変動が0.5ppm程度に安定するまでに、9時間程度の時間を要する。したがって、超電導コイルの励磁を開始してから、撮像領域FOVに、時間的かつ空間的に精密な静磁場が生成されて被検体の断層画像を撮像可能な状態となるまでに9時間程度を要することになる。
【0073】
<第1の実施例>
図7は、第1の実施例による超電導マグネット装置の運転方法を示す図である。
図7には、超電導コイルの励磁を開始した時点をt=0として、超電導コイルの通電電流、コイル温度、撮像領域FOVにおける磁場変動、およびヒータのオン/オフの時間変化が示されている。
【0074】
第1の実施例による運転方法は、超電導コイルを励磁する工程(
図3のS10)と、超電導コイルを励磁する工程の後に、超電導コイルの運転電流Iopを保持する工程(
図3のS20)とを備える。第1の実施例では、超電導コイルの励磁時間を、比較例と同様の4時間とする。すなわち、超電導コイルの通電電流を0Aから4時間かけて運転電流値Iopである200Aまで増加させる。
【0075】
第1の実施例ではさらに、励磁時間においてヒータをオンさせる。
図2に示されるように、各超電導コイルの軸方向の端部にはヒータが設けられている。詳細には、超電導コイル10の軸方向の両端部にはヒータ10a,10bがそれぞれ設けられる。超電導コイル12の軸方向の両端部にはヒータ12a,12bがそれぞれ設けられる。超電導コイル14の軸方向の両端部にはヒータ14a,14bがそれぞれ設けられる。超電導コイル16の軸方向の両端部にはヒータ16a,16bがそれぞれ設けられる。超電導コイル18の軸方向の両端部にはヒータ18a,18bがそれぞれ設けられる。超電導コイル20の軸方向の両端部にはヒータ20a,20bがそれぞれ設けられる。これらのヒータを冷却ヘッド120に取り付けることで各超電導コイルを加熱することができる。このように遮蔽電流Isが相対的に大きくなる超電導コイルの軸方向の端部にヒータを設けることで、当該端部を重点的に加熱することができる。よって、遮蔽電流Isを効果的に低減することができる。
【0076】
このように、第1の実施例では、超電導コイルを加熱する工程(
図3のS12)として、ヒータを用いて超電導コイルを加熱する。したがって、励磁過程において、超電導コイルは、交流損失(主にヒステリシス損失)による発熱の増加に加えて、ヒータから与えられる熱を受けて昇温する。コイル温度は励磁時間が経過した時点(時刻t=4H)で最も高くなり、23Kを示している。
【0077】
ここで、超電導コイルを加熱する工程(
図3のS12)における第1の目標温度T1*は、超電導コイルの許容温度以下の温度に設定される。超電導コイルの許容温度とは、超電導コイルの磁気的特性が超電導コイルの発熱の影響を受けない温度である。第1の実施例では許容温度は24Kに設定されており、第1の目標温度T1*は、許容温度よりも1K低い23Kに設定されている。励磁中の超電導コイルの発熱量が冷却装置121の冷却能力を超えた場合、コイル温度が許容温度を超えてしまう可能性がある。コイル温度を許容温度以下に抑えるために、励磁中における超電導コイルの発熱量がコントロールされている。
【0078】
第1の実施例において、撮像領域FOVにおける磁場変動の大きさは、励磁時間が経過した時点(時刻t=4H)において15ppmであり、比較例における磁場変動の約1/2の大きさに抑えられている。これは、第1の実施例では、励磁時間が経過した時点におけるコイル温度が比較例よりも高いために、比較例に比べて超電導層に誘導される遮蔽電流Isが小さくなり、結果的に遮蔽電流磁場Bsの強度が低減されたことを示している。
【0079】
第1の実施例では、超電導コイルを冷却する工程(
図3のS22)として、超電導コイルを励磁した後、ヒータをオフにし、コイル温度が第1の目標温度T1*(23K)よりも低い第2の目標温度T2*になるように冷却装置121を用いて超電導コイルを冷却する。第2の目標温度T2*はたとえば10Kに設定される。
【0080】
これにより、励磁後、コイル温度が第1の目標温度T1*(23K)から時間とともに低下することに伴い、超電導コイルの電気抵抗値も時間とともに低下する。電気抵抗値の低下に起因して時定数が時間とともに大きくなるため、遮蔽電流Isの時間変化が小さくなる。
【0081】
上述のように、励磁時間が経過した時点における遮蔽電流磁場Bsの強度が低減したこと、および、励磁後の遮蔽電流磁場Bsの強度が減少した状態で安定化したことにより、励磁を開始した時点(時刻t=0)から7.2時間経過した時点、言い換えれば、励磁を終了した時点(時刻t=4H)から3.2時間経過した時点において、磁場変動の大きさが0.5ppmに到達している。第1の実施例によれば、比較例に比べて、超電導コイルの励磁を開始してから撮像領域FOVにおける磁場変動が0.5ppm程度に安定するまでに要する時間が約2時間短くなっている。これにより、超電導コイルの励磁を開始してから、撮像領域FOVに時間的かつ空間的に均一度の高い磁場が生成されて被検体の断層画像を撮像可能な状態となるまでに要する時間を短くすることができる。
【0082】
<第2の実施例>
図8は、第2の実施例による超電導マグネット装置の運転方法を示す図である。
図8には、超電導コイルの励磁を開始した時点をt=0として、超電導コイルの通電電流、コイル温度、撮像領域FOVにおける磁場変動、およびヒータのオン/オフの時間変化が示されている。
【0083】
第2の実施例による運転方法は、第1の実施例による運転方法と同様に、超電導コイルを励磁する工程(
図3のS10)と、超電導コイルを励磁する工程の後に、超電導コイルの運転電流Iopを保持する工程(
図3のS20)とを備える。ただし、第2の実施例では、超電導コイルの励磁時間を、第1の実施例よりも短い、0.5時間とする。すなわち、超電導コイルの通電電流を0Aから0.5時間かけて運転電流値Iop(200A)まで増加させる。なお、通電電流の変化速度は、励磁時間中一定速度とする。
【0084】
第2の実施例では、第1の実施例と同様に、励磁時間において超電導コイルを加熱する。具体的には、超電導コイルを加熱する工程(
図3のS12)として、ヒータを用いて超電導コイルを加熱することに加えて、通電電流を増加させることに起因する交流損失(主にヒステリシス損失)により超電導コイルを加熱する。すなわち、ヒータによる加熱と超電導コイルに発生する交流損失との両方によって、第1の目標温度T1*になるように超電導コイルを加熱する。なお、第1の目標温度T1*は、第1の実施例と同じ温度(23K)とする。
【0085】
詳細には、第2の実施例では、励磁中における通電電流の変化速度を第1の実施例よりも高速化する。これにより、超電導コイルが発生する磁場の時間変化が大きくなるため、第1の実施例に比べて、交流損失(ヒステリシス損失)による発熱が増加して単位時間当たりの発熱量が多くなる。その結果、より短い励磁時間で超電導コイルを第1の目標温度T1*(23K)になるまで加熱することができる。
【0086】
ただし、単位時間当たりの発熱量が冷却装置121の冷却能力を超えた場合、コイル温度が許容温度を超えてしまう可能性がある。そのため、ヒータによる加熱と交流損失とによる単位時間当たりの発熱量が超電導コイルの許容発熱量を超えないように、通電電流の変化速度が設定される。
【0087】
第2の実施例においても、第1の実施例と同様に、超電導コイルを励磁した後は、ヒータをオフにし、コイル温度が第1の目標温度T1*(23K)よりも低い第2の目標温度T2*(10K)になるように冷却装置121を用いて超電導コイルを冷却する。
【0088】
図8に示されるように、第2の実施例では、第1の実施例に比べて励磁時間が大幅に短縮されるため、励磁を開始した時点(時刻t=0)から4時間経過した時点(時刻t=4H)において、磁場変動の大きさが0.5ppmに到達している。その結果、第2の実施例では、第1の比較例に比べて、超電導コイルの励磁を開始してから撮像領域FOVにおける磁場変動が0.5ppm程度に安定するまでに要する時間が約3時間短くなっている。これにより、第2の実施例によれば、超電導コイルの励磁を開始してから、撮像領域FOVに、時間的かつ空間的に高い均一度を有する磁場が生成されて被検体の断層画像を撮像可能な状態となるまでに要する時間をより一層短くすることができる。
【0089】
<第3の実施例>
図9は、第3の実施例による超電導マグネット装置の運転方法を示す図である。
図9には、超電導コイルの励磁を開始した時点をt=0として、超電導コイルの通電電流、コイル温度、撮像領域FOVにおける磁場変動、およびヒータのオン/オフの時間変化が示されている。
【0090】
第3の実施例による運転方法は、第1および第2の実施例による運転方法と同様に、超電導コイルを励磁する工程(
図3のS10)と、超電導コイルを励磁する工程の後に、超電導コイルの運転電流Iopを保持する工程(
図3のS20)とを備える。ただし、第3の実施例では、超電導コイルの励磁時間を、第2の実施例よりもさらに短い、0.25時間とする。すなわち、超電導コイルの通電電流を0Aから0.25時間かけて運転電流値Iop(200A)まで増加させる。なお、通電電流の変化速度は、励磁時間中一定速度とする。
【0091】
第3の実施例において、超電導コイルを励磁する工程(
図3のS10)では、第1および第2の実施例と同様に、励磁時間において超電導コイルを加熱する。ただし、第3の実施例では、第1および第2の実施例とは異なり、ヒータを用いず、通電電流を増加させることに起因する交流損失(主にヒステリシス損失)によって、第1の目標温度T1*になるように超電導コイルを加熱する。第1の目標温度T1*は、第1および第2の実施例よりも低い温度(たとえば20K)とする。
【0092】
第3の実施例では、励磁中における通電電流の変化速度を第2の実施例よりもさらに高速化する。これにより、超電導コイルが発生する磁場の時間変化が大きくなるため、第2の実施例に比べて、交流損失(ヒステリシス損失)による発熱が増加して単位時間当たりの発熱量が多くなる。ただし、交流損失による単位時間当たりの発熱量が超電導コイルの許容発熱量を超えないように、通電電流の変化速度が設定される。
【0093】
また、第3の実施例では、超電導コイルの運転電流Iopを保持する工程(
図3のS20)は、超電導コイルを冷却する工程(
図3のS22)の前に、運転電流値Iopを中心として通電電流を振動させる工程を含む。具体的には、
図9に示されるように、励磁時間が経過した時点(時刻t=0.25H)から所定時間、通電電流を振動させる。所定時間はたとえば0.25Hとする。通電電流をたとえば運転電流値Iop±5A(±2.5%)の範囲内で振動させるものとする。
【0094】
通電電流を振動させることにより、磁場の変化による交流損失(ヒステリシス損失など)が増加する。その結果、コイル温度は第1の目標温度T1*(20K)からさらに上昇する。
【0095】
通電電流を振動させる工程では、超電導コイルが、超電導コイルの許容温度よりも低くかつ第1の目標温度T1*(20K)よりも高い第3の目標温度T3*に達した後に、通電電流の振動振幅を減衰させる。第3の目標温度T3*は、超電導コイルの許容温度(24K)よりも1K低い23Kに設定されている。
【0096】
通電電流の振動振幅を減衰させることにより、通電電流は、運転電流値Iopに対してオーバーシュートとアンダーシュートとを繰り返しながら、運転電流値Iopに近づいていく。この操作により、酸化物超電導線材内の遮蔽電流ループを徐々に小さくしていくことができ、最終的に遮蔽電流磁場Bsがほぼ0の状態で運転電流値Iopに到達することができる。このような遮蔽電流磁場Bsを消失させる手法は、遮蔽電流磁場Bsのヒステリシス効果を利用したものであり、デマグネタイゼーション法(減磁法)とも呼ばれる。
【0097】
第3の実施例では、上記デマグネタイゼーション法を行なうことにより、所定時間(0.25H)が経過した時点(時刻t=0.5H)での磁場変動の大きさは、2ppm程度にまで低減されている。
【0098】
通電電流を振動させる工程の後、超電導コイルを冷却する工程(
図3のS22)が実施される。具体的には、通電電流を運転電流値Iopに固定するとともに、コイル温度が第1の目標温度T1*(23K)よりも低い第2の目標温度T2*(10K)になるように冷却装置121を用いて超電導コイルを冷却する。
【0099】
以上に示したように、第3の実施例では、超電導コイルを励磁する工程および通電電流を振動させる工程において、磁場の時間変化による交流損失(ヒステリシス損失)により超電導コイルを加熱する。これにより、超電導コイルを加熱するためのヒータの設置が不要となるため、超電導コイルを小型化することができる。
【0100】
また、通電電流を振動させる工程において通電電流を振動振幅を減衰させることにより、遮蔽電流磁場Bsをさらに低減することができる。これにより、第3の実施例では、励磁を開始した時点(時刻t=0)から1時間経過した時点(時刻t=1H)において、磁場変動の大きさが0.5ppmに到達している。その結果、第3の実施例では、第1の比較例に比べて、超電導コイルの励磁を開始してから撮像領域FOVにおける磁場変動が0.5ppm程度に安定するまでに要する時間が約6時間短くなっている。これにより、第3の実施例によれば、超電導コイルの励磁を開始してから、撮像領域FOVに、時間的かつ空間的に高い均一度を有する磁場が生成されて被検体の断層画像を撮像可能な状態となるまでに要する時間をより一層短くすることができる。
【0101】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。