特許第6590675号(P6590675)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6590675
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】真空吸着装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20191007BHJP
【FI】
   H01L21/68 P
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-243569(P2015-243569)
(22)【出願日】2015年12月14日
(65)【公開番号】特開2017-112152(P2017-112152A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤間 大樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 敏彦
【審査官】 内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−028169(JP,A)
【文献】 特開2008−211098(JP,A)
【文献】 特開2010−274378(JP,A)
【文献】 特開2006−093492(JP,A)
【文献】 特開2012−178447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端面が平坦に形成され、かつ、外側面が上部から下部にかけて断続的または連続的に外側に拡張するように形成されているセラミックス/ガラス複合体からなる第1多孔質体と、
上端面が前記第1多孔質体の上端面と同一平面を構成するように平坦に形成され、内側面が前記第1多孔質体の外側面上部に対して全周にわたり接合され、かつ、下端面が存在する場合は当該下端面が前記第1多孔質体の下部に対して全周にわたり接合されている筒状のセラミックス/ガラス複合体からなる第2多孔質体と、
少なくとも前記第1多孔質体の外側面下部および前記第2多孔質体の外側面のそれぞれに対して接合され、かつ、前記第1多孔質体の気孔に連通する連通経路が形成されている緻密質体と、を備え
前記第2多孔質体の開気孔率は前記第1多孔質体の開気孔率よりも小さく、
複数の前記第1多孔質体が、その上端面が同一平面を構成するように隣接して配列され、
複数の前記第2多孔質体のそれぞれが、隣接する他の前記第2多孔質体と一部を相互に共通または隣接させるように連結されていることを特徴とする真空吸着装置。
【請求項2】
請求項1記載の真空吸着装置において、
前記第1多孔質体と前記第2多孔質体との接合界面の少なくとも一部にガラス層が存在することを特徴とする真空吸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体ウエハなどの基板を保持する真空吸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人により半導体ウエハなどの基板を吸着保持するための真空吸着装置が提案されている(特許文献1参照)。真空吸着装置を構成する載置部、環状載置部および支持部が直接的に密接されているので、装置全体の強度向上および基板吸着面の平坦度の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4405887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、環状載置部は、載置部と比較して気孔率が低くて硬度が高いため、基板が真空吸着された際に載置部のほうが環状載置部よりも沈み込み量が大きくなることにより、基板の平坦度がごく微少であるが低下する可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、基板の平坦度の向上を図りながら、当該基板を吸着保持することができる真空吸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の真空吸着装置は、上端面が平坦に形成され、かつ、外側面が上部から下部にかけて断続的または連続的に外側に拡張するように形成されているセラミックス/ガラス複合体からなる第1多孔質体と、上端面が前記第1多孔質体の上端面と同一平面を構成するように平坦に形成され、内側面が前記第1多孔質体の外側面上部に対して全周にわたり接合され、かつ、下端面が存在する場合は当該下端面が前記第1多孔質体の下部に対して全周にわたり接合されている筒状のセラミックス/ガラス複合体からなる第2多孔質体と、少なくとも前記第1多孔質体の外側面下部および前記第2多孔質体の外側面のそれぞれに対して接合され、かつ、前記第1多孔質体の気孔に連通する連通経路が形成され、前記第2多孔質体の開気孔率は前記第1多孔質体の開気孔率よりも小さいことを特徴とする。
【0007】
本発明の真空吸着装置によれば、基板がその内側領域を第1多孔質体の上端面に当接させ、かつ、当該内側領域に全周にわたり隣接するその環状の外側領域を第2多孔質体の上端面に当接させた状態で、真空吸着装置の上端面に載置される。この状態で、緻密質体に形成された連通経路を通じて第1多孔質体の気孔が減圧されることで基板が真空吸着装置により保持される。この際、基板から第1多孔質体および第2多孔質体のそれぞれに直接的に力が作用するが、第2多孔質体に作用した力はその内側面に接合されている第1多孔質体の外側面上部およびその下端面に接合されている第1多孔質体の外側面下部のうち少なくとも一方により受け止められる。このため、第2多孔質体の下端面の少なくとも一部が緻密質体に接合している場合と比較して、第1多孔質体の沈み込み量と第2多孔質体の沈み込み量との均等化が図られる。これにより、基板の平坦度の向上を図りながら、当該基板が真空吸着装置によって吸着保持される。
【0008】
なお、「上」および「下」は真空吸着装置の使用時における姿勢を表わすものではなく、上端面が横または下に向けられた姿勢で真空吸着装置が使用されてもよい。
【0009】
本発明の一態様の真空吸着装置において、前記第1多孔質体と前記第2多孔質体との接合界面の少なくとも一部にガラス層が存在する。
【0010】
当該構成の真空吸着装置によれば、ガラス層の介在により、第2多孔質体の上面からその開気孔を通じて空気が第1多孔質体に流入することが防止されるので、基板に対して吸着保持に十分な負圧を作用させることができる。
【0011】
本発明の真空吸着装置、複数の前記第1多孔質体が、その上端面が同一平面を構成するように隣接して配列され、複数の前記第2多孔質体のそれぞれが、隣接する他の前記第2多孔質体と一部を相互に共通または隣接させるように連結されている。
【0012】
本発明の真空吸着装置によれば、第1多孔質体の個数に応じた複数の基板が、前記のように複数の基板のそれぞれの平坦度の向上を図りながら、当該複数の基板のそれぞれが同時に吸着保持される。また、複数の第2多孔質体のそれぞれが、隣接する他の第2多孔質体と一部を相互に共通または隣接させるように連結されている。これにより、単独で複数の第2多孔質体が配置されている場合よりも全体的な剛性の維持を図りながら、隣接する第1多孔質体の間隔の短縮、ひいては複数の基板が載置されるスペースの確保が図られている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態としての真空吸着装置の上面図。
図2図1のII−II線断面図。
図3A】第1および第2多孔質体の他の接合態様その1に関する説明図。
図3B】第1および第2多孔質体の他の接合態様その2に関する説明図。
図3C】第1および第2多孔質体の他の接合態様その3に関する説明図。
図3D】第1および第2多孔質体の他の接合態様その4に関する説明図。
図4】本発明の変形実施形態としての真空吸着装置の上面図。
図5図4のV−V線断面図。
図6】本発明の他の実施形態としての真空吸着装置の図2に相当する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(構成)
図1に示されている本発明の一実施形態としての真空吸着装置は、厚さD1の略円板状の第1多孔質体1と、軸線方向の長さがD2(<D1)の略円筒状の第2多孔質体2と、内部に第1多孔質体1および第2多孔質体2が収容されている略有底円筒状の緻密質体4と、を備えている。
【0015】
第1多孔質体1は、第1セラミックス(たとえば、アルミナまたは炭化珪素)および第1ガラス(たとえばアルミノ珪酸塩系ガラス(軟化点:約1000[℃]))の複合体により構成されている。当該複合体は、外部に連通する開気孔が形成されている多孔質組織を有する。第1多孔質体1の上端面10は平坦に形成されている。第1多孔質体1の外側面12が上部121から下部122にかけて断続的に径方向外側に拡張するように形成されている。すなわち、第1多孔質体1は、小径の上部円板と大径の下部円板とが軸線を同一にして上下に連結された略段差付きの略円板状に形成されている。
【0016】
圧力損失の過大による吸着保持力および機械的強度の低下、ならびに真空吸着保持装置の上端面(吸着面)の平坦性の低下を防止する観点から、第1多孔質体1の開気孔率は20〜50%の範囲に含まれていることが好ましい。平均気孔径の過小による圧力損失の増大および吸着保持力の低下を防止し、かつ、平均気孔径の過大による吸着面の平坦度の低下を防止する観点から、第1多孔質体1の平均気孔径は10〜150[μm]の範囲に含まれていることが好ましい。
【0017】
第2多孔質体2は、第2セラミックス(たとえば、アルミナまたは炭化珪素)および第2ガラス(軟化点が第1ガラスよりも低温のホウ珪酸系ガラス(軟化点:900℃以下)などのガラス)の複合体により構成されている。当該複合体は、外部に連通する開気孔が形成されている多孔質組織を有する。第2多孔質体2の上端面20は、第1多孔質体1の上端面10と同一平面を構成するように平坦に形成されている。第2多孔質体2の内側面21は、第1多孔質体1の外側面上部121に対して全周にわたり接合され、かつ、下端面24が第1多孔質体の外側面下部122(または第1多孔質体1の外側面12の段差部分)に対して全周にわたり接合されている。第1多孔質体1を構成する第1ガラスと、第2多孔質体2を構成する第2ガラスとが融着されていることにより第1多孔質体1および第2多孔質体2が気密に接合されている。
【0018】
圧力損失の過大による吸着保持力および機械的強度の低下、ならびに真空吸着保持装置の上端面(吸着面)の平坦性の低下を防止する観点から、第2多孔質体2の開気孔率は20〜50%の範囲に含まれていることが好ましい。平均気孔径の過小による第1多孔質体1と第2多孔質体2の機械的強度の偏差または段差の過大を防止し、かつ、平均気孔径の過大による吸気漏れを防止する観点から、第2多孔質体2の平均気孔径は第1多孔質体1の平均気孔径の5〜60%の範囲に含まれていることが好ましい。第2多孔質体2の開気孔率は第1多孔質体1の開気孔率よりも小さい。
【0019】
緻密質体4は、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素およびジルコニアから選ばれた緻密質のセラミックス焼結体により構成されている。緻密質体4の内側面41は、第1多孔質体1の外側面下部122および第2多孔質体2の外側面22のそれぞれに対して接合されている。緻密質体4の底面44は、第1多孔質体1の下端面14に全面的に当接している。緻密質体4には、その底部を貫通して第1多孔質体1の気孔に連通する複数の連通経路46が形成されている。
【0020】
なお、前記実施形態では円形状の基板Wを吸着保持するため、第1多孔質体1が略円板状(段差付き円板状)に形成され、第2多孔質体2が略円筒状に形成されたが、基板Wの形状に応じて第1多孔質体1が楕円板状、矩形板状、台形板状または正多角形板状などの様々な形状に形成され、かつ、第2多孔質体2が楕円筒状、矩形筒状、台形筒状または正多角形筒状などの様々な形状に形成されてもよい。
【0021】
(製造方法)
前記構成の真空吸着装置を製造するため、まず、緻密質体4が作製される。具体的には、アルミナ等のセラミックス粉末に所定量のバインダが添加されて造粒処理され、当該造粒粉末が一軸プレス成形され、かつ、CIP成形されることによって略円板状の成形体が作製される。成形体の上側中央部が円柱状に窪んだ形状に加工され、中央部底部に貫通孔(連通経路46)が形成される。このように加工された成形体が、必要に応じて脱脂処理された後、所定の雰囲気、温度および時間で焼成されることにより、緻密質体4が作製される。なお、略円板状の成形体が仮焼されることで作製された仮焼結体の上側中央部が円柱状に窪んだ形状に加工され、中央部底部に貫通孔(連通経路46)が形成されてもよい。
【0022】
第1多孔質体1を形成するための第1スラリーが調製される。具体的には、第1セラミックス粉末および第1ガラス粉末に、水またはアルコール等の溶剤が加えられたうえで、ボールミルまたはミキサー等の公知の方法を用いて混合されることにより第1スラリーが作製される。水またはアルコール等の添加量は、第1セラミックス粉末の粒度、第1ガラス粉末の添加量を考慮して、第1スラリーの流動性の観点から適当に調節される。
【0023】
原料粉末である第1セラミックス粉末の粒度分布の調整によって第1多孔質体1の開気孔率および平均気孔径が調節される。そのほか、第1セラミックス粉末と第1ガラス粉末との配合比率、第1スラリーの粘度、第1スラリーの緻密質体4の窪みへの充填率、または、粒子状樹脂、繊維状樹脂もしくはカーボン粉末等の焼失材の添加量の調節によっても、第1多孔質体1の開気孔率および平均気孔径が調節されうる。
【0024】
第1ガラス粉末として、第1セラミックス粉末と比較して平均粒径が小さいものが用いられることが好ましい。具体的には、第1ガラス粉末の平均粒径は、第1セラミックス粉末の平均粒径の1/3以下であることが好ましく、1/5以下であることがより好ましい。これは、第1ガラス粉末の平均粒径が第1セラミックス粉末よりも大きいと、第1セラミックス粉末の充填が阻害されて焼成収縮が生じ、その結果として第1多孔質体1にクラックが発生し、かつ、組織の均一性が損なわれるためである。
【0025】
第1セラミックス粉末に対する第1ガラス粉末の添加量が過多である場合、第1セラミックス粉末の充填が阻害されて焼成収縮が生じる可能性がある。これとは逆に当該添加量が過少である場合、第1セラミックス粉末の結合強度が低下して脱粒または欠落等が生ずる可能性はある。このため、第1ガラス粉末の添加量は第1セラミックス粉末100質量部に対して5〜30質量部とすることが好ましい。
【0026】
第1ガラスとして、第1セラミックスと比較して熱膨張係数が小さいものが用いられることが好ましい。これにより、第1多孔質体1および緻密質体4の接合界面の気密性が確保され、かつ、第1多孔質体1において結合材としての役割を有する第1ガラスに圧縮応力が残留した状態が実現される。第1ガラスは一般的に引張強度が低いため、圧縮応力が残留した状態の実現により、第1多孔質体1の強度が高められ、研削加工時の脱粒または欠け等の発生が抑制される。
【0027】
緻密質体4の連通経路46に樹脂等の焼失材料が充填されたうえで、第1スラリーが緻密質体4の中央部(凹部)に充填される。必要に応じて、第1スラリーが真空脱泡処理されて残留気泡が除去され、または第1スラリーが振動されて充填率の向上が図られる。緻密質体4の中央部に充填された第1スラリーが十分に乾燥された後、第1ガラスの軟化点以上の温度で焼成されることにより、セラミックス/ガラス複合体が形成される。焼成温度が第1ガラスの軟化点より低い場合、セラミックス/ガラス複合体と緻密質体4とを気密に接合することができないが、焼成温度が過剰に高い場合、セラミックス/ガラス複合体の変形または収縮が生じるため、当該軟化点以上である範囲で可能な限り低温に焼成温度が調節されることが好ましい。
【0028】
セラミックス/ガラス複合体の外側面上部が機械加工により縮径されることにより、緻密質体4の中央に第1多孔質体1が形成される。これにより、第1多孔質体1の外側面上部と緻密質体4の内側面との間に、第1多孔質体1の厚さよりも浅い環状の溝が形成された状態になる。付加的に、緻密質体4の内側面が機械加工により除去されることで、当該除去箇所が当該環状溝を構成していてもよい。
【0029】
第2多孔質体2を形成するための第2スラリーが第1スラリーと同様に調整される。具体的には、第2セラミックス粉末および第2ガラス粉末に、水またはアルコール等の溶剤が加えられたうえで、ボールミルまたはミキサー等の公知の方法を用いて混合されることにより第2スラリーが作製される。第2多孔質体2の開気孔率および平均気孔率の調節の観点から、第2セラミックス粉末として平均粒径が10〜100[μm]のものが用いられる。
【0030】
第2ガラス粉末として、第2セラミックス粉末と比較して平均粒径が小さいものが用いられることが好ましい。具体的には、第2ガラス粉末の平均粒径は、第2セラミックス粉末の平均粒径の1/3以下であることが好ましく、1/5以下であることがより好ましい。第2ガラス粉末の添加量は第2セラミックス粉末100質量部に対して5〜30質量部とすることが好ましい。第2セラミックスに対して第2ガラスに要求される熱膨張性等の性質は、第1セラミックスに対して第1ガラスに要求される熱膨張性等の性質と同様である。
【0031】
第2スラリーが環状溝に充填され、乾燥後に第2ガラスの軟化点以上の温度で焼成されることにより略円筒状の第2多孔質体2が形成される。その上で、真空吸着装置の吸着面(第1多孔質体1の上端面10、第2多孔質体2の上端面20および緻密質体4の上端面)が研削または研磨処理されることにより、その平坦度がたとえば10[μm]未満に調節される。これらの手順を経て前記構成の真空吸着装置が作製される。環状溝の深さは第2多孔質体2の厚さに相当するため、第2多孔質体2を構成する成分とともに厚さによって吸着時の基板Wに作用する力が変化し、基板Wの平坦度に影響する。
【0032】
(機能)
前記構成の真空吸着装置によれば、基板Wがその内側領域を第1多孔質体1の上端面10に当接させ、かつ、当該内側領域に全周にわたり隣接するその環状の外側領域を第2多孔質体2の上端面20に当接させた状態で、真空吸着装置の上端面に載置される(図2参照)。この状態で、緻密質体4に形成された連通経路46を通じて第1多孔質体1の気孔が減圧されることで基板Wが真空吸着装置により保持される。この際、基板Wから第1多孔質体1および第2多孔質体2のそれぞれに直接的に力が作用するが、第2多孔質体2に作用した力はその内側面21に接合されている第1多孔質体1の外側面上部121およびその下端面24に接合されている第1多孔質体1の外側面下部122のうち少なくとも一方により受け止められる。このため、第2多孔質体2の下端面24の少なくとも一部が緻密質体4に接合している場合と比較して、第1多孔質体1の沈み込み量と第2多孔質体2の沈み込み量との均等化が図られる。これにより、基板Wの平坦度の向上を図りながら、当該基板Wが真空吸着装置によって吸着保持される。
【0033】
(実施例)
(実施例1)
緻密質体4が外径φ500[mm]、高さ(厚さ)50[mm]、内径φ450[mm]、凹部の深さ40[mm]の略有底円筒状のアルミナ焼結体(熱膨張係数:8.0×10−6/℃)により構成された。
【0034】
第1セラミックス粉末として平均粒径300[μm]のアルミナ粉末が用いられ、第1ガラス粉末として平均粒径50[μm]のアルミノ珪酸ガラス(熱膨張係数:45×10−7/℃、軟化点:950℃)の粉末が用いられて第1スラリーが調整された。第2セラミックス粉末として平均粒径80[μm]のアルミナ粉末が用いられ、第2ガラス粉末として平均粒径20[μm]のホウ珪酸ガラス(熱膨張係数:40×10−7/℃、軟化点:750℃)の粉末が用いられて第2スラリーが調整された。第1スラリー注型後の焼成温度が1000[℃]に調節されることで第1多孔質体1が作製された。第1多孔質体1は、厚さ40[mm](=D1)、上部厚さ20[mm]、下部厚さ20[mm]、上部外径φ440[mm]、下部外径φ450[mm]の略段差付き円板状に形成された。第2スラリー注型後の焼成温度が800[℃]に調節されることで第2多孔質体2が作製された。第2多孔質体2は、厚さ(軸線方向高さ)20[mm](=D2)、外径φ450[mm]、内径φ440[mm]の略円筒形状に形成された。吸着面の平坦度が10[μm]未満となるように研削および研磨加工が実施されることにより実施例1の真空吸着装置が製造された。
【0035】
(実施例2)
D2=5[mm]としたほかは実施例1と同様の条件下で実施例2の真空吸着装置が製造された。
【0036】
(比較例)
第1多孔質体1が、厚さ40[mm]、外径φ450[mm]の略円板状に形成された。第2多孔質体2は、厚さ40[mm]、外径φ450[mm]、内径φ440[mm]の略円筒形状に形成された。第2多孔質体2の下端面24が緻密質体4の底面44に接合している。そのほかは実施例1と同一条件下で比較例の真空吸着装置が製造された。
【0037】
(評価方法)
実施例および比較例のそれぞれの真空吸着装置の吸着面の平坦度が真直度測定装置により測定された。アスピレータを用いて0.05[MPa]の吸引圧で真空吸着装置に吸着保持された際のφ450[mm]の基板Wの平坦度が真直度測定装置により測定された。真空吸着装置が破壊され、第1多孔質体1および第2多孔質体2の破片が試験片として採取され、アルキメデス法によりその開気孔率が測定され、水銀圧入法によりその平均気孔径が測定された。当該評価結果が表1に示されている。
【0038】
【表1】
【0039】
表1から、実施例1および2の真空吸着装置によれば、比較例の真空吸着装置と比較して、吸着面および基板のそれぞれの平坦度が高くなっていることがわかる。
【0040】
(本発明の他の実施形態)
前記実施形態では第1多孔質体1の軸線方向に延在する外側面上部121と第2多孔質体2の内側面21とが接合され、かつ、第1多孔質体1の下部の径方向(水平方向)に延在する肩部と第2多孔質体2の下端面24とが接合されていたが(図2参照)、これ以外の接合態様で第1多孔質体1および第2多孔質体2が接合されていてもよい。
【0041】
たとえば、図3Aに示されているように、第1多孔質体1の軸線方向に延在する外側面上部121と第2多孔質体2の内側面21とが接合され、かつ、第1多孔質体1の下部の上から下にかけて徐々に拡径するように延在する肩部(傾斜面)と第2多孔質体2の下端面24とが接合されていてもよい。図3Bに示されているように、第1多孔質体1の上から下にかけて徐々に拡径するように延在する外側面上部121と第2多孔質体2の内側面21とが接合されていてもよい(この場合、第2多孔質体2に下端面は実質的に存在しない。)。図3Cに示されているように、第1多孔質体1の軸線方向に延在する外側面上部121と第2多孔質体2の内側面21とが接合され、かつ、第1多孔質体1の下部の肩部に形成された円環溝部と第2多孔質体2の下端面24とが接合されていてもよい。図3Dに示されているように、第1多孔質体1および緻密質体4の境界部分の全周にわたって第1多孔質体1および緻密質体4の両方が軸線方向に窪むように溝が加工され、当該溝に第2多孔質体2が形成されることで、第2多孔質体2の下端面または底面が第1多孔質体1および緻密質体4の両方に対してまたがるように接合されていてもよい。
【0042】
図4に示されているように、複数の第1多孔質体1が、その上端面10が同一平面を構成するように隣接して配列され、複数の第2多孔質体2のそれぞれが、隣接する他の第2多孔質体2と一部を相互に共通(または隣接)させるように連結されていてもよい。複数の第1多孔質体1のそれぞれの中心が正方格子をなすように配置されているが、複数の第1多孔質体1のそれぞれの中心が三角格子をなすように配置されるなど、さまざまな形態で配置されていてもよい。第1多孔質体1および第2多孔質体2のそれぞれの外縁形状が円形のほか、楕円形、三角形、矩形または正多角形などの様々な形状であってもよい。
【0043】
図5に示されているように、隣り合う第2多孔質体2の共有部分(または隣接部分)の厚さD2’が、緻密質体4に対して接合されている部分の厚さD2よりも大きくてもよい。当該共有部分の幅W2’は、緻密質体4に対して接合されている部分の幅W2に対してW2≦W2’<2W2の関係が実現されるように設計されることが好ましい。
【0044】
また、基板Wが第2多孔質体2の最外径より小さい場合は、基板Wが載せられた後、第2多孔質体2が露出している領域よりエアの流入が顕著に生じ、その結果吸着力が弱くなる。そこで、図6に示されているように、第2多孔質体2の内側面および下端面24のそれぞれと第1多孔質体1との間に、ガラス層51を介在させることが好ましい。ガラス層51の介在により、第2多孔質体2の上面からその開気孔を流れる空気が第1多孔質体1に流入することが防止されるので、基板Wに対して吸着保持に十分な負圧を作用させることができる。ガラス層51を構成するガラスとしては、溶融温度が第1多孔質体1および第2多孔質体2のそれぞれの焼成温度の中間温度となるガラスが選択される。ガラス層51は、第1多孔質体1と第2多孔質体2との境界界面の少なくとも一部に存在すればよい。
【符号の説明】
【0045】
1‥第1多孔質体、2‥第2多孔質体、4‥緻密質体、10‥第1多孔質体の上端面、12‥第1多孔質体の外側面、121‥第1多孔質体の外側面上部、122‥第1多孔質体の外側面下部、14‥第1多孔質体の下端面、20‥第2多孔質体の上端面、21‥第2多孔質体の内側面、22‥第2多孔質体の外側面、24‥第2多孔質体の下端面、42‥緻密質体の内側面、44‥緻密質体の底面、46‥連通経路、51‥ガラス層。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6