特許第6590730号(P6590730)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6590730-重金属汚染土壌の処理方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6590730
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】重金属汚染土壌の処理方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/02 20060101AFI20191007BHJP
   B09C 1/08 20060101ALI20191007BHJP
   B03C 1/00 20060101ALI20191007BHJP
   B03C 1/18 20060101ALI20191007BHJP
   B01J 20/02 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   B09C1/02
   B09C1/08
   B03C1/00 A
   B03C1/00 B
   B03C1/18
   B01J20/02 A
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-33188(P2016-33188)
(22)【出願日】2016年2月24日
(65)【公開番号】特開2017-148732(P2017-148732A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2018年10月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100167597
【弁理士】
【氏名又は名称】福山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭二郎
(72)【発明者】
【氏名】川端 淳一
【審査官】 柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−051835(JP,A)
【文献】 特開平10−005738(JP,A)
【文献】 特開2008−110291(JP,A)
【文献】 特開2011−056482(JP,A)
【文献】 特開2011−190428(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0217585(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C 1/00
B09B 3/00−5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属を含有する汚染土壌を浄化する重金属汚染土壌の処理方法であって、
前記汚染土壌と水とを含むスラリーに抽出剤を添加する抽出剤添加工程と、
前記抽出剤添加工程の後に、前記スラリーに鉄を含有する鉄含有粒子を混合する混合工程と、
前記混合工程において前記スラリーに混合された前記鉄含有粒子を前記スラリーから磁気により分離して回収する磁気分離工程と、を有し、
前記抽出剤添加工程の前に、前記スラリーを篩に通過させる篩い工程を更に有し、
前記抽出剤は、リン酸である、重金属汚染土壌の処理方法。
【請求項2】
前記抽出剤の添加量は、前記スラリー中で生じるイオンの質量が、前記スラリー100質量部に対して0.003〜0.015質量部となる量とする、請求項1記載の重金属汚染土壌の処理方法。
【請求項3】
前記抽出剤添加工程の前に、前記汚染土壌に水を混合し、前記汚染土壌と前記水とを含むスラリーを生成するスラリー生成工程を更に有する、請求項1又は2記載の重金属汚染土壌の処理方法。
【請求項4】
前記鉄含有粒子の混合量は、前記汚染土壌の乾燥重量100質量部に対して、鉄として10〜30質量部であり、
前記磁気分離工程において回収された前記鉄含有粒子を、再度スラリーに混合するために返送する返送工程を更に有する、請求項1〜のいずれか一項記載の重金属汚染土壌の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属汚染土壌の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重金属は土に吸着しやすい性質を有するため、重金属に汚染された土壌を浄化することは容易ではない。重金属による土壌汚染は、人為的なもののほか、自然由来の有害物質を原因とするものもある。このような汚染土壌を含む領域において、例えばトンネル工事等を行う場合、切削に用いた水(泥水)に重金属が溶出して汚染が拡大する虞があるため、これを適切に無害化する必要がある。
【0003】
重金属により汚染された汚染土壌を効果的に浄化する方法として、汚染土壌と水とを含むスラリーに対して、鉄を含有する鉄含有粒子を混合する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。この方法は、鉄が重金属を吸着する性質を利用したものであり、重金属を吸着した鉄を磁気分離によって回収することで、汚染土壌に含まれていた重金属を土壌から取り除くものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−56482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、汚染土壌の土質によっては重金属が水中へ溶出しにくい場合がある。この場合、鉄が重金属を十分に吸着することができない、又は、十分に吸着させるために混合時間を長くする必要があり、非効率である。
【0006】
そこで本発明は、重金属により汚染された汚染土壌を対象とし、その土質に関わらず重金属を容易に取り除くことができる、重金属汚染土壌の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、重金属を含有する汚染土壌を浄化する重金属汚染土壌の処理方法であって、汚染土壌と水とを含むスラリーに抽出剤を添加する抽出剤添加工程と、抽出剤添加工程の後に、スラリーに鉄を含有する鉄含有粒子を混合する混合工程と、混合工程においてスラリーに混合された鉄含有粒子をスラリーから磁気により分離して回収する磁気分離工程と、を有する、重金属汚染土壌の処理方法を提供する。
【0008】
本発明においてスラリーに添加する抽出剤は、土に含まれる重金属を水中へ溶出しやすくする働きがある。汚染土壌の土質によっては重金属が水中へ溶出しにくく、鉄の重金属の吸着能力が十分に発揮されないことがあったが、本発明では抽出剤の働きによって重金属が容易に水中へ溶出するので、鉄が重金属を容易に吸着することができる。従って、本発明によれば、汚染土壌の土質に関わらず重金属を容易に取り除くことができる。
【0009】
抽出剤は、スラリー中において二価以上のイオンを生じる化学種であることが好ましい。抽出剤の添加によって土に含まれる重金属が溶出しやすくなる機構として、本発明者らは、抽出剤から生じたイオンが土表面の重金属と置換するものと推察している。このとき、イオンの価数が二価以上である場合は、特に置換する能力が高く、重金属の溶出促進に大きく寄与する。
【0010】
本発明は、抽出剤添加工程の前に、汚染土壌に水を混合し、汚染土壌と水とを含むスラリーを生成するスラリー生成工程を更に有していてもよい。汚染土壌が十分な水を含んでいない場合等、抽出剤の添加やその後の鉄含有粒子による処理に適した状態となっていない場合には、水を混合してスラリーを生成させる。
【0011】
また、本発明は、抽出剤添加工程の前に、スラリーを篩に通過させる篩い工程を更に有していてもよい。重金属は一般に、粒径が小さい土粒子に吸着しているので、スラリーを篩に通過させることで浄化処理すべき汚染土壌の容積を減らすことができ、効率的である。
【0012】
鉄含有粒子の混合量は、汚染土壌の乾燥重量100質量部に対して、鉄として10〜30質量部であり、磁気分離工程において回収された鉄含有粒子を、再度スラリーに混合するために返送する返送工程を更に有するようにしてもよい。鉄含有粒子のこの混合量は、一回のスラリーの処理量としては過剰であるが、その分、鉄による重金属の吸着が速くなるとともに、回収した鉄含有粒子を前工程に返送して再利用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、重金属により汚染された汚染土壌を対象とし、その土質に関わらず重金属を容易に取り除くことができる、重金属汚染土壌の処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の重金属汚染土壌の処理方法を実施する処理システムの概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
本明細書において、「重金属」とは、ヒ素、鉛、カドミウム、クロム、セレン、水銀等の重金属のほか、シアン、フッ素、ホウ素等の土壌汚染対策法で定められている物質をも包含するものとする。また、これらの単体に限られず、これらの元素を含む化合物やイオン(例えばヒ酸イオン(HAsO,HAsO2−等)、鉛イオン(Pb(OH)等))等も包含するものとする。
【0017】
図1は、本実施形態の重金属汚染土壌の処理方法を実施する処理システムの概要を示す図である。図1に示されているとおり、重金属汚染土壌の処理システム10は、例えば砒素や鉛に代表される重金属に汚染された土壌の浄化処理を行うシステムである。この重金属汚染土壌の処理システム10は、スラリー生成装置1と、スクリーン2と、反応槽3と、磁気分離装置4と、サイクロン5と、処理後泥水受け槽6とを備えている。また、スラリー生成装置1から反応槽3へと向かう途中においてラインミキサ7を備え、更に、スラリー生成装置1で生成されたスラリーに対して抽出剤を添加するための抽出剤槽8を備えている。
【0018】
重金属汚染土壌の処理システム10では、重金属汚染土壌がスラリー生成装置1においてスラリー化され、これがスクリーン2で濾過され、抽出剤が添加され、反応槽3においてスラリーに鉄粉(鉄含有粒子)が混合されて、鉄粉に重金属を付着させる。そして、重金属を付着した鉄粉を含むスラリーが磁気分離装置4に搬送され、磁気分離装置4において鉄粉が回収される。その後、磁気分離装置4において回収された鉄粉は、サイクロン5に搬送されて気液分離され、再度反応槽3に戻される。重金属汚染土壌の処理システム10では、このような処理工程により重金属汚染土壌を浄化している。以下、各構成要素について説明する。
【0019】
スラリー生成装置1は、内部に混練羽根を備えており、投入された重金属汚染土壌と水とを混練することによりスラリーを生成する装置である(スラリー生成工程)。スラリー生成装置1の出口は搬送管L1によってスクリーン2に接続されている。
【0020】
スクリーン2は、搬送管L1を通じてスラリーを受け入れるとともにこれを篩で濾過する装置であり、内部に所定の目開きを有する篩2aを備えている。この篩の目開きは、1〜5mmであることが好ましく、1〜3mmであることがより好ましい。ここでは2mmであるものとする。篩2aを通過したスラリーは搬送管L2に入り、ラインミキサ7へ向かう(篩い工程)。篩2aを通過しなかったスラリーは、別途設けられた排出管L3を通じて土砂ピット(図示せず)へ導かれ、その後の浄化処理はなされない。
【0021】
ラインミキサ7は、内部に乱流が生じるように構成されており、搬送管L2を通じてスラリーを受け入れるとともに、抽出剤槽8から添加される抽出剤を混合する配管の一種である。抽出剤は、抽出剤槽8に蓄えられており、抽出剤槽8から延びる配管L4を搬送管L2に接続することで添加してもよく、配管L4をラインミキサ7に接続することで添加してもよい(抽出剤添加工程)。ラインミキサ7の出口は、搬送管L5によって反応槽3に接続されている。
【0022】
抽出剤は、スラリー中においてイオンを生じる化学種であることが好ましい。当該イオンとしては、陰イオンと陽イオンのいずれでもよく、土から取り除くべき重金属の種類によってこれを決定する。陰イオンとしては、リン酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン等が挙げられ、陽イオンとしては、アルミニウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン等が挙げられる。土から重金属を溶出させる効果の大きさの観点から、二価以上のイオンであることが好ましい。
【0023】
上記イオンを生じる化学種としては、水中で電離して上記イオンを生じる酸(例えばリン酸、硫酸等)や塩(例えばリン酸カルシウム、硫酸マグネシウム)等が挙げられる。抽出剤をスラリーに添加するときは、抽出剤を直接添加してもよく、水溶液として添加してもよい。例えば、抽出剤としてリン酸を採用した場合、6%水溶液として添加することができる。
【0024】
抽出剤の添加量は、スラリー中で生じるイオンの質量が、スラリー100質量部に対して0.003〜0.015質量部となる量とすることが好ましい。重金属を土から溶出させる効果の観点から0.003質量部以上とすることが好ましく、経済性の観点から、0.015質量部以下とすることが好ましい。この数値範囲を1mのスラリーに対して6%リン酸水溶液を添加する場合に換算すると、6%リン酸水溶液の体積は0.5〜2.5Lとなる。
【0025】
反応槽3は、ラインミキサ7で十分に混合されたスラリーに鉄粉を投入し、スラリーと鉄粉(鉄含有粒子)とを混合して重金属汚染土壌に含まれる重金属を鉄粉に吸着させるための槽である。反応槽3は、内部に撹拌羽根と、スラリーを反応槽3外へ送出するための汲み上げポンプとを備えている。また、反応槽3には、鉄粉を投入するための鉄粉投入器13が取り付けられている。この鉄粉投入器13から、反応槽3内のスラリーに対して所定量の鉄粉を投入し、スラリーと混合する(混合工程)。
【0026】
鉄粉の混合量は、スラリーに含まれる土の乾燥質量100質量部に対して、鉄成分として10〜30質量部とすることが好ましい。この混合量は、一回処理に用いられる量(通常は0.1〜0.3質量部)と比べると過剰であるが、後述するとおり鉄粉は再利用するため上記範囲内の量が好ましい。混合量の上限は、期待する再利用回数のほか、混合効率や磁気分離装置4の負荷限度により決められる。上記の好ましい数値範囲は、100回以上の再利用を期待しているので、一回量の100倍の数値範囲となっている。なお、上記鉄粉の混合量の下限値は10質量部を超えていてもよく、10質量部を超え30質量部以下としてもよい。
【0027】
鉄粉の混合量の一例を示すと、スラリー6mに含まれる土の乾燥重量が2t(これを100質量部とする。)であるとき、鉄粉の混合量を200kg(10質量部)とすることができる。
【0028】
スラリーと鉄粉との混合時間は、均一な混合と重金属の吸着速度とを考慮して、1〜10分であることが好ましい。ここで下限の1分とは、均一な混合を確保するために必要と考えられる時間である。また、上限の10分とは、これ以上長く混合するとなると、より大きな反応槽が必要となるために、10分に抑えることが好ましい。
【0029】
なお、鉄成分として混合するものは必ずしも鉄粉である必要はなく、他の形態の鉄含有粒子、例えば重金属吸着剤に鉄を接着したもの等の形態であってもよい。
【0030】
反応槽3内の汲み上げポンプからは搬送管L6が延伸されており、磁気分離装置4へ接続されている。これにより、反応槽3内からスラリーを汲み上げて搬送管L6を介して磁気分離装置4に送出する。なお、汲み上げポンプは、毎分1m以上のスラリーを汲み上げる能力がある。
【0031】
磁気分離装置4は、スラリーから鉄粉を回収する装置である。磁気分離装置4には、上述の搬送管L6上に設けられたバルブが調整されることによって、毎分1〜3m程度のスラリーが反応槽3から搬送される。磁気分離装置4では、後述する実験例で示されるとおり、スラリーに含まれる鉄粉を99%以上回収することができる。なお、磁気分離装置4は、毎分1m以上の処理能力を有している。
【0032】
磁気分離装置4は、磁界発生部を有しており、これを駆動することによって鉄粉を引き寄せて、スラリーから鉄粉を分離する(磁気分離工程)。具体的には、前掲した特開2011−56482号公報に開示されているとおり、磁気分離装置4内において回転体に掛けられた無終端のベルトを回転させながら、これを磁界によって磁化してスラリー中の鉄粉をベルトに付着させる。そして、ブロア5aを駆動してその吸引力によって鉄粉を搬送する。吸引された鉄粉は、搬送管L7を通ってサイクロン5に導かれる。
【0033】
磁気分離装置4には、鉄粉が回収されたスラリーを搬出するための流出口が設けられており、この流出口には、スラリーを処理後泥水受け槽6に搬送する搬送管L9が接続されている。
【0034】
サイクロン5は、磁気分離装置4によってスラリーから分離された鉄粉と共に吸引される空気を分離し、鉄粉を回収する装置である。サイクロン5には、前述のブロア5aが接続されており、この吸引力によって搬送管L7を介して鉄粉が磁気分離装置4からサイクロン5へと搬送される。サイクロン5によって回収された鉄粉は、再度スラリーに混合するために、搬送管L8を通って反応槽3に返送され、再利用される(返送工程)。
【0035】
処理後泥水受け槽6は、磁気分離装置4によって鉄粉が回収された後のスラリーを貯留する部分である。処理後泥水受け槽6には、磁気分離装置4から送出されたスラリーが搬送管L9を介して搬送される。この処理後泥水受け槽6に貯留されるスラリーは、重金属が所定濃度以下、すなわち土については、土壌汚染対策法における指定基準以下であり、水については、水質汚濁防止法に定める水質汚濁に係わる基準値以下となっている。そして、処理後泥水受け槽6には、ポンプが設けてあり、ポンプにより汲み上げられたスラリーは、土と水との分離処理等が行われる。
【0036】
以上に示した処理システム10において、スラリーに添加する抽出剤は、土に含まれる重金属を水中へ溶出しやすくする働きがある。従来、汚染土壌の土質によっては重金属が水中へ溶出しにくく、鉄の重金属の吸着能力が十分に発揮されないことがあったが、本実施形態の処理システム10では抽出剤の働きによって重金属が容易に水中へ溶出するので、鉄が重金属を容易に吸着することができる。従って、処理システム10によれば、汚染土壌の土質に関わらず重金属を容易に取り除くことができる。
【0037】
また、抽出剤がスラリー中において二価以上のイオンを生じるものである場合は、重金属の溶出促進に大きく寄与する。
【0038】
また、処理システム10は、抽出剤添加工程の前にスラリー生成工程有しているので、汚染土壌が十分な水を含んでいない場合等、抽出剤の添加やその後の鉄含有粒子による処理に適した状態となっていない場合に、水を混合して適切なスラリーを生成することができる。
【0039】
また、処理システム10では、抽出剤添加工程の前に、スラリーを2mm篩に通過させる篩い工程(スクリーン2)を有している。重金属は一般に、粒径が2mm以下の土粒子に吸着しているので、スラリーを2mm篩に通過させることで浄化処理すべき汚染土壌の容積を減らすことができ、効率的である。
【0040】
また、反応槽3において鉄粉を10〜30質量部添加した場合、この混合量は一回のスラリーの処理量としては過剰であるが、その分、鉄による重金属の吸着が速くなるとともに、回収した鉄粉を前工程に返送し、鉄粉の吸着能力の限界まで繰り返し再利用することができる。
【0041】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、スラリー生成装置1を用いたスラリー生成工程を有する態様を示したが、シールド工法によるトンネル掘削工事において発生する泥水は、土と水との構成が抽出剤の添加及び鉄粉の混合に適した性状となっている場合が多いので、スラリー生成工程を省略することができる。
【0042】
また、上記実施形態では返送工程を有する態様を示したが、鉄粉の混合量を少なくして鉄粉を再利用しない場合は、返送工程を省略することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0044】
シールド工法によるトンネル掘削工事で発生する泥水をサンプルとし、処理システム10を用いた。泥水は、上記実施形態における「スラリー」に相当する。
【0045】
<鉄粉の混合量と浄化時間の検討>
環境省告示第18号(平成15年3月6日)に基づいた土壌溶出試験において初期濃度0.1mg/Lでヒ素に汚染された泥水(土の乾燥質量を100質量部とする。)に対して鉄粉を1質量部、3質量部、10質量部混合した。それぞれの泥水について、環境基準値(0.01mg/L)以下に浄化されるまでの時間を測定した。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
この結果から、鉄粉を多く混合すれば、浄化時間を短縮することができることが分かる。例えば、鉄粉の混合量を10倍にすれば、処理時間を10分の1に短縮することができることが分かる。
【0048】
<鉄粉の回収率の検討>
400kgの鉄粉を用意し、これを反応槽3、磁気分離装置4、サイクロン5の間を100回循環させた。回収後の鉄粉の質量は390kgであった。以下の計算式から、1回当たりの回収率は99.9%以上であることが分かる。
【0049】
鉄粉をn回再混合した場合の鉄粉質量(W)は、
=W×X
:初期の鉄粉の質量(kg)
X:鉄粉の回収率
n:鉄粉の混合回数
:n回再混合した後の鉄粉の質量(kg)
ここで、
=W/W
X=(W/W1/n=(390/400)1/100=0.9997…
である。
【0050】
<ヒ素が溶出しやすい土の浄化>
(評価方法)
・評価方法1…採取した泥水を遠心分離して土と水とに分離し、水部分についてヒ素濃度を分析した。泥水をそのまま遠心分離する場合と、泥水に鉄粉を混合した後に遠心分離する場合とがある。この評価方法を、以下の表では「泥水中の水」と表記している。
・評価方法2…環境省告示第18号(平成15年3月6日)に規定されている土壌溶出試験に基づいて行った。すなわち、採取した泥水を風乾させ、この土に対して10倍質量の蒸留水を加えて泥水とし、6時間振とうさせ、水部分についてヒ素濃度を分析した。泥水をそのまま風乾させる場合と、泥水に鉄粉を混合した上で風乾させる場合とがある。この評価方法を、以下の表では「土壌溶出試験」と表記している。
【0051】
処理システム10を用いて、ヒ素を含む泥水を連続処理した。泥水(土の乾燥質量を100質量部とする。)に対して鉄粉を30質量部混合した。この量は、通常混合される鉄粉量の約300倍に相当する量である。混合時間は20分とした。泥水の累積処理量とヒ素濃度との関係を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
この結果によれば、「泥水中の水」(評価方法1)において鉄粉混合後にヒ素濃度が十分に低下していることから、この土はヒ素が溶出しやすいといえる。つまり、抽出剤を使用することなく、鉄粉の混合処理のみで浄化可能である。また、この結果によれば、連続浄化の最中に、累積処理量が50mのときのようにヒ素濃度が高い状況が訪れた場合でも十分に浄化可能であることが分かる。
【0054】
<ヒ素が溶出しにくい土の浄化>
ヒ素を含む泥水をサンプルとして、鉄粉を混合する試験を行った。上記評価方法1及び2の双方に供するサンプルとして、鉄粉を混合しない泥水サンプルと、鉄粉を泥水(土の乾燥質量を100質量部とする。)に対して10質量部混合したサンプルとを準備し、それぞれヒ素濃度を測定した。鉄粉の混合量は、通常混合される鉄粉量の約100倍に相当する量である。泥水のサンプルとヒ素濃度との関係を表3に示す。評価方法は、上記<土質に問題のない土の浄化>と同様である。
【0055】
【表3】
【0056】
この結果から、同じサンプルであっても、「泥水中の水」(評価方法1)よりも「土壌溶出試験」(評価方法2)のほうがヒ素濃度が高くなっていることが分かる。また、「土壌溶出試験」では鉄粉処理した場合でもヒ素濃度が環境基準値以下にならなかった。また、「泥水中の水」の結果と併せると、そもそも土からヒ素が十分に溶出していない可能性も考えられる。
【0057】
そこで、当該泥水に対し、鉄粉を混合する前にリン酸を添加する試験を行った。泥水100質量部に対し、抽出剤としてのリン酸を0.0001質量部添加した。すなわち、泥水1mに対して6%リン酸水溶液を1.5〜2mL添加した。その後、鉄粉を泥水(土の乾燥質量を100質量部とする。)に対して10質量部混合した。混合時間は5分とした。リン酸添加前と、リン酸添加後と、その後の鉄粉混合後とのヒ素濃度の値を表4に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
この結果から、リン酸を添加することによって土からヒ素が溶出しやすくなったことが分かる。そして、リン酸添加後に鉄粉を混合することで、「土壌溶出試験」においてもヒ素濃度を環境基準値以下とすることができた。
【符号の説明】
【0060】
1…スラリー生成装置、2…スクリーン、2a…篩、3…反応槽、4…磁気分離装置、5…サイクロン、5a…ブロア、6…処理後泥水受け槽、7…ラインミキサ、8…抽出剤槽、10…処理システム、13…鉄粉投入器、L1〜L9…搬送管、排出管、配管。
図1