(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー粉末が、早強ポルトランドセメントクリンカー粉末、及び普通ポルトランドセメントクリンカー粉末から選ばれる1種又は2種以上の粉末である、請求項1又は2に記載のアーウィン系水硬性組成物。
成分(C)100質量部に対し、クエン酸、ヘプトン酸、コハク酸、酒石酸、及びこれら塩の中から選ばれる1種又は2種以上の凝結遅延剤を合計で0.5質量部以下含むか、或いはクエン酸、ヘプトン酸、コハク酸、酒石酸、及びこれら塩の中から選ばれる1種又は2種以上の凝結遅延剤を含まない、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアーウィン系水硬性組成物。
成分(C)100質量部に対し、炭酸リチウム、亜硝酸カルシウム、及び乳酸カルシウムから選ばれる1種又は2種以上の凝結促進剤を5質量部以下含むか、或いは炭酸リチウム、亜硝酸カルシウム、及び乳酸カルシウムから選ばれる1種以上の凝結促進剤を含まない、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアーウィン系水硬性組成物。
一般廃棄物焼却灰、亜鉛スラグ、及び亜鉛メッキ廃液から選ばれる1種又は2種以上の亜鉛源を用いて亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー及び/又は亜鉛含有エコセメントクリンカーを製造する工程(X)を経た後、粉砕工程を経ることにより、成分(C)に含まれる亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー粉末及び/又は亜鉛含有エコセメントクリンカー粉末を製造する工程を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のアーウィン系水硬性組成物の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来より、主成分としてアーウィン(3CaO・3Al
2O
3・CaSO
4)を含むとともに、エーライト(3CaO・SiO
2)、ビーライト(2CaO・SiO
2)、アルミネート相(3CaO・Al
2O
3)、フェライト相(4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3)、及び無水石膏(CaSO
4)をも含み得るアーウィン系水硬性組成物は、速硬性に優れ、低アルカリ性である。かかるアーウィン系水硬性組成物は、こうした特徴を生かして、GRC(ガラス繊維強化コンクリート)用セメント、放射性廃棄物の固化埋設処理用セメント、泥炭等の高有機質土軟弱地盤の地盤改良用固化材などに使用されている。
また、アーウィン系クリンカーは、ポルトランドセメントクリンカーと比べて焼成温度や石灰石原単位が低く、クリンカーの製造に消費されるエネルギーが少ないため、省エネルギー型のセメントクリンカーとして注目されている。
【0003】
ところが、アーウィンは水和活性が高いため、アーウィン系水硬性組成物を用いたモルタルやコンクリートにおいては、その可使時間の確保及び調整が難しいという課題がある。すなわち、コンクリート等の凝結の調整には、通常、凝結遅延剤が用いられるが、ポルトランドセメント系水硬性組成物に一般に使用されているグルコン酸、クエン酸、酒石酸などのオキシカルボン酸系凝結遅延剤、リグニンスルホン酸、フミン酸などの高分子有機酸系凝結遅延剤、ケイフッ化マグネシウム、ホウ酸等の無機系等の凝結遅延剤は、アーウィン系水硬性組成物においては十分な凝結遅延効果が得られないばかりか、凝結遅延剤の種類によっては強度発現性が大きく低下する場合がある。なかでも、例えばクエン酸は、その添加量によっては、凝結時間が短くなるおそれがある。
【0004】
こうしたアーウィン系水硬性組成物の凝結の調整等を改善すべく、種々の技術が開発されている。例えば、特許文献1には、アーウィン系水硬性組成物100重量部に対し、凝結遅延剤としてアルドン酸及び/又はその塩を0.1〜5重量部添加する凝結遅延方法が開示されている。また、特許文献2には、クエン酸及びその塩の中から選ばれる少なくとも1種の第1成分と、ヘプトン酸及びその塩の中から選ばれる少なくとも1種の第2成分とを含む凝結遅延剤であって、アーウィン系水硬性組成物100重量部に対して第1成分を0.01〜3.0重量部、第2成分を第1成分100重量部に対して40〜150重量部添加する凝結遅延剤が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のアーウィン系水硬性組成物は、
次の成分(C)、(S)並びに(W):
(C)アーウィン系クリンカー粉末100質量部に対し、亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー粉末及び/又は亜鉛含有エコセメントクリンカー粉末を合計で80〜150質量部、並びに無水石膏粉末を20〜50質量部含み、かつ亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー粉末及び亜鉛含有エコセメントクリンカー粉末の合計量中に亜鉛を酸化亜鉛換算量で0.3〜1.5質量%含む水硬性材料、
(S)骨材、並びに
(W)水
を含有する。
【0012】
本発明のアーウィン系水硬性組成物は、成分(C)として、アーウィン系クリンカー粉末100質量部に対し、亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー粉末及び/又は亜鉛含有エコセメントクリンカー粉末を合計で80〜150質量部、並びに無水石膏粉末を20〜50質量部含み、かつ亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー粉末及び亜鉛含有エコセメントクリンカー粉末の合計量中に亜鉛を酸化亜鉛換算量で0.3〜1.5質量%含む水硬性材料を含有する。
【0013】
成分(C)の水硬性材料に含まれるアーウィン系クリンカー粉末は、主成分としてアーウィン(3CaO・3Al
2O
3・CaSO
4)を含むクリンカー粉末であり、アーウィン系クリンカーを粉砕することによって得られる粉末である。かかるアーウィン系クリンカー粉末は、さらにビーライト(2CaO・SiO
2)を含むのが好ましい。具体的には、アーウィンを40〜90質量%含むのが好ましく、50〜80質量%含むのがより好ましい。アーウィンの含有量が40質量%未満であると、アーウィン系水硬性組成物の速硬性が低下する可能性があり、90質量%を超えると、アーウィン系水硬性組成物の長期強度発現性が低下する可能性がある。また、ビーライトを10〜60質量%含むのが好ましく、20〜50質量%含むのがより好ましい。ビーライトの含有量が10質量%未満であると、アーウィン系水硬性組成物の長期強度発現性が低下する可能性があり、60質量%を超えると、アーウィン系水硬性組成物の速硬性が低下する可能性がある。
【0014】
さらに、アーウィン系クリンカー粉末は、アルミネート相(3CaO・Al
2O
3)を0質量%超7質量%以下、フェライト相(4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3)を0質量%超20質量%以下、無水石膏(CaSO
4)を0質量%超5質量%以下含むのが好ましい。これらの成分を含むことにより、アーウィン系クリンカー粉末の製造時における易焼成性が一層向上し、アーウィン系水硬性組成物の可使時間を短縮させ、また強度発現性を低下させることもなく、アーウィン系クリンカーの製造に消費されるエネルギーを低減することができる。
【0015】
成分(C)の水硬性材料は、アーウィン系クリンカー粉末100質量部に対し、亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー粉末及び/又は亜鉛含有エコセメントクリンカー粉末を合計で80〜150質量部、好ましくは90〜140質量部、より好ましくは100〜130質量部含む。これら亜鉛含有粉末の合計量が80質量部未満であると、アーウィン系水硬性組成物の長期強度発現性が低下するおそれがあり、150質量部を超えるとアーウィン系水硬性組成物の早期強度発現性が低下するおそれがある。なお、亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー粉末と亜鉛含有エコセメントクリンカー粉末は、一方のみを用いてもよく、双方を併用してもよく、これらの合計量が上記量であればよい。
なお、これら亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー粉末及び/又は亜鉛含有エコセメントクリンカー粉末は、亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー及び/又は亜鉛含有エコセメントクリンカーを粉砕することによって得られる粉末である。
【0016】
亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー粉末及び亜鉛含有エコセメントクリンカー粉末は、これらの粉末の合計量中に、亜鉛を酸化亜鉛換算量で0.3〜1.5質量%、好ましくは0.5〜1.5質量%、より好ましくは0.6〜1.3質量%含む。酸化亜鉛の含有量が0.3質量%未満であると、アーウィン系水硬性組成物の可使時間の延長効果が小さくなるおそれがあり、酸化亜鉛の含有量が1.5質量%を超えると、アーウィン系水硬性組成物の早期強度発現性が低下するおそれがある。
【0017】
本発明において、亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー粉末及び亜鉛含有エコセメントクリンカー粉末の双方を用いてもよいが、アーウィン系水硬性組成物の強度発現性の観点から、亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー粉末を用いるのが好ましい。かかる亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー粉末としては、亜鉛含有普通ポルトランドセメントクリンカー粉末、亜鉛含有早強ポルトランドセメントクリンカー粉末が挙げられる。
【0018】
成分(C)の水硬性材料は、アーウィン系クリンカー粉末100質量部に対し、無水石膏粉末を20〜50質量部、好ましくは25〜45質量部含む。無水石膏粉末の含有量が、上記範囲外であると、アーウィン系水硬性組成物の長期強度発現性が低下するおそれがある。なお、かかる無水石膏粉末には、アーウィン系クリンカーに含まれる無水石膏由来の無水石膏粉末を含まない。
【0019】
無水石膏粉末は、無水石膏を粉砕することによって得られる粉末であり、かかる無水石膏としては、可溶性無水石膏(III型無水石膏)と不溶性無水石膏(II型無水石膏)が挙げられるが、強度発現性の観点から、好ましくは不溶性無水石膏であり、また無水石膏粉末のブレーン比表面積は、好ましくは2500〜12000cm
2/gであり、より好ましくは3500〜8000cm
2/gであり、さらに好ましくは3700〜5000cm
2/gである。ここで、無水石膏粉末の全てが細粒であると、水硬性組成物硬化体の膨張によるひび割れや反りが生じ易くなるため、一部の無水石膏粉末を粗粒にすることが好ましい。具体的には、例えば、無水石膏粉末100質量%中、ブレーン比表面積が4500〜12000cm
2/gである細粒分の含有量を50〜80質量%とし、かつブレーン比表面積が2500〜4000cm
2/gである粗粒分の含有量を20〜50質量%とするのが好ましい。
【0020】
本発明のアーウィン系水硬性組成物において、アーウィン系クリンカー粉末及び無水石膏粉末の双方に含まれるSO
3の合計量と、アーウィン系クリンカー粉末に含まれるAl
2O
3量とのモル比(SO
3/Al
2O
3)は、可使時間及び強度発現性を確保する観点から、好ましくは1.0〜1.5であり、より好ましくは1.05〜1.3である。
【0021】
成分(C)の水硬性材料のブレーン比表面積は、早期及び長期の強度発現性を確保する観点から、好ましくは4000〜5000cm
2/gである。アーウィン系クリンカー粉末、亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー粉末、及び亜鉛含有エコセメントクリンカー粉末のブレーン比表面積も、上記範囲内にあることが好ましい。
【0022】
本発明のアーウィン系水硬性組成物は、成分(S)として骨材を含有する。かかる骨材としては、JIS A 5308「レディーミクストコンクリート」付属書A記載の、砕石、砕砂、スラグ骨材、人工軽量骨材、再生骨材、砂利及び砂が挙げられる。かかる骨材の含有量は、アーウィン系水硬性組成物の用途によっても変動し得るが、作業性等の観点から、成分(C)の水硬性材料100質量部に対し、通常100〜1500質量部である。
【0023】
本発明のアーウィン系水硬性組成物は、成分(W)として水を含有する。水としては、JIS A 5308「レディーミクストコンクリート」付属書C記載の、上水道水、上水道水以外の水及び回収水が挙げられる。かかる水の含有量は、アーウィン系水硬性組成物の用途によっても変動し得るが、作業性等の観点から、成分(C)の水硬性材料100質量部に対し、通常20〜100質量部である。
【0024】
本発明のアーウィン系水硬性組成物は、早期強度発現性の低下を回避する観点、及び可使時間の調整の観点から、さらにクエン酸、ヘプトン酸、コハク酸、酒石酸、及びこれら塩の中から選ばれる1種又は2種以上の凝結遅延剤を含んでもよい。かかる凝結遅延剤の含有量は、成分(C)の水硬性材料100質量部に対し、好ましくは0.5質量部以下であり、より好ましくは0.01〜0.45質量部であり、さらに好ましくは0.05〜0.4質量部であり、より好ましくは0.1〜0.35質量部であり、或いは本発明のアーウィン系水硬性組成物は、上記凝結遅延剤を含まなくともよい。
【0025】
上記凝結遅延剤の平均粒径は、凝結遅延剤の遅延効果の発現性の観点から、好ましくは0.1〜1000μmであり、より好ましくは1〜500μmであり、さらに好ましくは3〜300μmである。
【0026】
本発明のアーウィン系水硬性組成物は、早期強度発現性を増進させる観点から、さらに炭酸リチウム、亜硝酸カルシウム、及び乳酸カルシウムから選ばれる1種又は2種以上の凝結促進剤を含んでもよい。かかる凝結促進剤の含有量は、成分(C)の水硬性材料100質量部に対し、好ましくは5質量部以下であり、より好ましくは0.1〜4.5質量部であり、さらに好ましくは0.5〜4質量部であり、よりさらに好ましくは1〜3.5質量部であり、或いは本発明のアーウィン系水硬性組成物は、上記凝結促進剤を含まなくともよい。
【0027】
また、凝結促進剤として、炭酸リチウム及び亜硝酸カルシウムを併用する場合、強度発現性の観点から、炭酸リチウム及び亜硝酸カルシウムの混合割合は、質量比(炭酸リチウム:亜硝酸カルシウム)で、好ましくは50:50〜15:85であり、より好ましくは40:60〜20:80である。また、凝結促進剤として、炭酸リチウム及び乳酸カルシウムを併用する場合、炭酸リチウム及び乳酸カルシウムの混合割合は、質量比(炭酸リチウム:乳酸カルシウム)で、好ましくは50:50〜15:85であり、より好ましくは40:60〜20:80である。
【0028】
上記凝結促進剤の平均粒径は、凝結促進剤の促進効果の発現性の観点から、好ましくは0.1〜1000μmであり、より好ましくは1〜500μmであり、さらに好ましくは3〜300μmである。
【0029】
本発明のアーウィン系水硬性組成物は、上記成分のほか、必要に応じて適宜、減水剤、消泡剤や収縮低減剤等の、JIS A 6204「コンクリート用化学混和剤」記載の化学混和剤を含有することができる。
【0030】
本発明のアーウィン系水硬性組成物の製造方法は、一般廃棄物焼却灰、亜鉛スラグ、及び亜鉛メッキ廃液から選ばれる1種以上の亜鉛源を用いて亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー及び/又は亜鉛含有エコセメントクリンカーを製造する工程(X)を経た後、粉砕工程を経ることにより、成分(C)に含まれる亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー粉末及び/又は亜鉛含有エコセメントクリンカー粉末を製造する工程を含む。すなわち、本発明のアーウィン系水硬性組成物の製造方法は、下記に示す亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー及び/又は亜鉛含有エコセメントクリンカーを製造する工程(X)を経た後、さらに、次の粉砕工程を含む工程である工程(a)〜工程(d)のうちのいずれかの工程を経ればよく、これによって亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー及び/又は亜鉛含有エコセメントクリンカーを成分(C)に含まれる亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー粉末及び/又は亜鉛含有エコセメントクリンカー粉末として得ることができ、また後述するように、無水石膏も成分(C)に含まれる無水石膏粉末として得ることができる。
【0031】
工程(X)は、一般廃棄物焼却灰、亜鉛スラグ、及び亜鉛メッキ廃液から選ばれる1種又は2種以上の亜鉛源を用いて亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー及び/又は亜鉛含有エコセメントクリンカーを製造する工程である。これらの亜鉛源は、特に限定されず、原料及び/又は燃料に含まれていればよい。
【0032】
また、上記亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー及び亜鉛含有エコセメントクリンカーの製造には、ロータリーキルン等の、通常のセメントクリンカーの製造設備を用いることができ、その焼成温度(最高温度)は、好ましくは1350〜1600℃である。焼成温度が1350℃未満であると、クリンカーの焼成度が不足するおそれがあり、また焼成温度が1600℃を超えると、過焼成となるおそれがあり、共に凝結や強度発現性等の主要な品質特性が低下する要因となり得る。
【0033】
そして、上記工程(X)で得られた亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー及び/又は亜鉛含有エコセメントクリンカーを用い、次の工程(a)〜工程(d)の粉砕工程・混合工程のいずれかの工程を経ることにより、これら亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー及び/又は亜鉛含有エコセメントクリンカーを各々粉末として得ることができる。なお、アーウィン系クリンカー、亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー及び/又は亜鉛含有エコセメントクリンカー、並びに無水石膏の配合量は、各々上記アーウィン系水硬性組成物におけるアーウィン系クリンカー粉末、亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー粉末及び/又は亜鉛含有エコセメントクリンカー粉末、並びに無水石膏粉末の含有量と同じである。
【0034】
工程(a)は、アーウィン系クリンカー、上記工程(X)で得られた亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー及び/又は亜鉛含有エコセメントクリンカー、並びに無水石膏を、粉末全体のブレーン比表面積が4000〜5000cm
2/gとなるまで、同時に粉砕する工程である。
【0035】
工程(b)は、アーウィン系クリンカー、上記工程(X)で得られた亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー及び/又は亜鉛含有エコセメントクリンカー、並びに無水石膏の一部(無水石膏全量のうちの50〜80質量%の量が好ましい。)を、ブレーン比表面積4000〜5000cm
2/gになるまで粉砕してクリンカーと無水石膏の粉砕物を得た後、かかる粉砕物に、ブレーン比表面積2500〜4000cm
2/gである無水石膏粉末を、無水石膏粉末の残部として混合する工程である。
【0036】
工程(c)は、アーウィン系クリンカー、及び無水石膏全量のうちの50〜80質量%の量を、ブレーン比表面積4000〜5000cm
2/gに粉砕してクリンカーと無水石膏の粉砕物を得る一方、上記工程(X)で得られた亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー及び/又は亜鉛含有エコセメントクリンカー、並びに無水石膏の残部を、ブレーン比表面積3000〜4000cm
2/gに粉砕して、クリンカーと無水石膏の粉砕物を得た後、これら2種類のクリンカーと無水石膏の粉砕物を混合する工程である。
【0037】
工程(d)は、アーウィン系クリンカー及び無水石膏全量のうちの50〜80質量%の量を、ブレーン比表面積4000〜5000cm
2/gに粉砕してクリンカーと無水石膏の粉砕物を得る一方、上記工程(X)で得られた亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカー又は亜鉛含有エコセメントクリンカーを、ブレーン比表面積3000〜4000cm
2/gに粉砕してクリンカー粉砕物を得るとともに、さらに、無水石膏粉末の20〜50質量%を、ブレーン比表面積2500〜4000cm
2/gに粉砕して無水石膏の粉砕物を得た後、これら3種類の粉砕物を混合する工程である。
なお、凝結遅延剤及び凝結促進剤は、細粒化のために粉砕が必要な場合には、前記いずれかの粉砕処理時に添加して同時に粉砕すればよく、また、十分に細粒である場合には、前記いずれかのクリンカー粉砕物に所定量を添加すればよい。
上記工程(a)〜工程(d)の粉砕工程を含む工程のうち、工程(a)は、一つの粉砕処理のみで完了するため、本発明のアーウィン系水硬性組成物を簡便に製造できる。一方、工程(b)〜工程(d)は、ブレーン比表面積の異なる2種類の無水石膏粉末が得られることから、特に水硬性組成物硬化体の膨張抑制に優れる本発明のアーウィン系水硬性組成物を製造することができる。
【0038】
得られた本発明のアーウィン系水硬性組成物は、可使時間を適度に延長して良好な作業性を確保することができるとともに、速硬性のある優れた強度発現性を示すため、モルタルやコンクリート等として極めて有用である。例えば、本発明のアーウィン系水硬性組成物を用いた水セメント比が45%のモルタルの場合、フレッシュ状態における可使時間が、各成分を混合した後、好ましくは30分以上であり、より好ましくは45分以上であり、さらに各成分を混合した後、1日間封かん養生後の、水中養生が2時間経過した時点での圧縮強さが、好ましくは10N/mm
2以上であり、より好ましくは12.5N/mm
2以上である。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
なお、表中の鉱物組成の略記号は、以下の化学成分を示す。
C=CaO
S=SiO
2
A=Al
2O
3
F=Fe
2O
3
S’=SO
3
【0040】
また、表中の鉱物組成は、文献(星野他;セメント・コンクリート論文集,No.59,pp.14-21(2005))に記載のXRD−リートベルト法により測定し、下記に示す装置及び解析ソフトウェアを用いた。
X線回折装置:D8 ADVANCE,ブルカー・エイエックスエス製
解析ソフトウェア:DIFFRACplus TOPAS(Ver.3),ブルカー・エイエックスエス製
【0041】
[製造例1:亜鉛含有ポルトランドセメントクリンカーの製造]
石灰石、珪石、建設発生土、石炭灰、スラグ及び酸化亜鉛(試薬特級、関東化学社製)を、表1のa−1〜a−4に示す化学組成になるように混合して圧密し、ペレットを作製した。次に、該ペレットを超高速昇温電気炉に入れ、1000℃で30分保持して脱水分及び脱炭酸を行った後、昇温速度1000℃/時間で1500℃まで昇温して、1500℃で20分間焼成した。その後、炉外で放冷して、表2のa−1〜a−4に示す鉱物組成を有する普通ポルトランドセメントクリンカーを作製した。
また、亜鉛を上記所定の量で含有しないクリンカーとして、表1のa−5に示す化学組成になるように、石灰石、珪石、建設発生土、石炭灰、及びスラグを混合して圧密し、a−1〜a−4と同様にして、表2のa−5に示す鉱物組成を有する普通ポルトランドセメントクリンカーを製造した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
[製造例2:水硬性材料(C)の製造]
製造例1で得られたa−1〜a−5の各普通ポルトランドセメントクリンカーと、表3に示すアーウィン系クリンカー、無水石膏及び炭酸リチウムを用いて、上記工程(b)を経ることにより、水硬性組成物(C)を製造した。すなわち、表4の「粉砕」の欄に示す配合量に従って、アーウィン系クリンカー、上記ポルトランドセメントクリンカー、無水石膏(無水石膏全量中の74質量%)、及び炭酸リチウム(関東化学株式会社製試薬特級)を粉砕して粉砕物を得た後、表4の「混合」の欄に示す配合量に従って、残部の無水石膏を予め粉砕して得られた無水石膏粉末(無水石膏全量中の26質量%)を得られた粉砕物に添加して混合し、水硬性材料(C)を製造した。各水硬性材料(C)に使用したポルトランドセメントクリンカーを表5に示す。また、得られた水硬性材料(C)のブレーン比表面積を表5に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
【表5】
【0048】
[実施例1〜5、比較例1〜5]
表6に示す配合量に従い、凝結遅延剤の配合量を3パターンに変動させたアーウィン系水硬性組成物としてモルタルを作製した。なお、表6に示す材料として、以下のものを用いた。
・水硬性材料:表5に示す水硬性材料
・砂:セメント強さ試験用標準砂(一般社団法人セメント協会販売)
・水:千葉県佐倉市上水
・減水剤:ナフタレンスルホン酸系減水剤(マイティ150、花王株式会社製)
・凝結遅延剤:クエン酸(関東化学株式会社製、試薬1級)
【0049】
【表6】
【0050】
《評価試験1:可使時間の測定》
可使時間はモルタルの0打フローで評価した。具体的には、JIS R 5201「セメントの物理試験」に記載のフローテーブルを用い、φ51×26mmのプラスチック製円柱筒に擦り切れまでモルタルをつめ、該筒を引き抜いた後のフロー値(0打)を測定した。なお、本測定で100mm以上のフロー値を示すモルタルを、可使状態にあるモルタルとして判定した。
測定結果を表7に示す。
【0051】
【表7】
【0052】
表7に示すように、実施例1、3及び5の可使時間は、従来のアーウィン系水硬性組成物に相当する比較例3の可使時間と同程度である。ここで、凝結遅延剤の使用量を対比してみると、実施例1及び3では、比較例3での半分の量で足り、さらに特筆すべきは、凝結遅延剤を使用しなかった実施例5の可使時間は、凝結遅延剤を使用した比較例3の可使時間と同程度である点である。このように、本発明のアーウィン系水硬性組成物は、凝結遅延剤の使用量を低減しても、または使用しなくとも、充分な可使時間を確保できることがわかる。
【0053】
《評価試験2:圧縮強さの測定》
実施例1〜5及び比較例1〜5のモルタルを用いて圧縮強さを測定した。具体的には、JIS R 5201「セメントの物理試験」に記載のテーブルバイブレーター上に設置した20×20×30mmの型枠にモルタルを1層詰めて、30秒間加振した後、表面を平滑に仕上げた後、材齢1日まで封かん養生した後モルタルを脱型し、その後、該モルタルを水中養生して、水中養生開始からの材齢が2時間、3時間、1日、及び7日の時点でのモルタルの圧縮強さを測定した。
測定結果を表8及び
図1に示す。
【0054】
【表8】
【0055】
表8及び
図1に示すように、各材齢において、実施例1、3及び5の圧縮強さは、比較例3の圧縮強さと同程度に優れる。したがって、本発明のアーウィン系水硬性組成物は、凝結遅延剤を多量に使用しなくても、充分な可使時間を確保できるとともに、強度発現性にも優れていることがわかる。