(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記営業・調査補助手段は、所定の納入先訪問時期が到来している場合に、前記納入先への訪問指示を送信することを特徴とする、請求項1に記載の医薬品在庫管理システム。
前記営業・調査補助手段は、訪問担当者等が有する端末から送付された、納入先への訪問時期かどうかの問い合わせである所定の納入先訪問伺い通知を受信した場合に、前記納入先への訪問指示を送信することを特徴とする、請求項1に記載の医薬品在庫管理システム。
【背景技術】
【0002】
近年、抗がん剤、血友病治療剤、バイオ製剤、血漿分画製剤、ワクチン製剤、コンパニオン診断薬、希少疾病用製剤、再生医療等製品といった、スペシャリティ領域の医薬品と呼ばれる医薬品の取扱量が増加している。これらのスペシャリティ領域の医薬品は、例えば2〜8℃、15〜25℃、0℃以下といった厳格な温度管理を含む周囲環境管理や、高度なトレーサビリティが求められる場合が多い。一方で、これらの医薬品は、需要予測が困難である、使用期限が短いといった特性を有する傾向があるため、医療機関や保険薬局(以下、これらをまとめて医療機関等ともいう。)においてこれらの医薬品が予定どおりに消費されないことも多い。また、これらの医薬品は製品単価が高額である傾向がある。
【0003】
このような事情により、医療機関等において上記のような医薬品の在庫管理やトレーサビリティ管理業務負荷の増大、不動・廃棄在庫の増加によるキャッシュフローの悪化が問題となっており、流通業者においては医療機関等からの至急の配達要請への対応や、在庫管理に関するコスト増加などが課題となっている。また、流通業者や保険薬局において、医療機関等で不動もしくは余剰となった医薬品を受け入れる場合、医療機関等において当該医薬品の適切な管理(温度管理等)がなされていたかを判別する明確な根拠がなく、特にスペシャリティ領域の医薬品に関しては、医療機関等の間においても不動もしくは余剰医薬品の処理が円滑に進まない状況がある。
【0004】
しかしながら、医薬品のメーカーや流通業者においては、医療機関、保険薬局、患者の居宅や居住する施設及び移動中における上記のような医薬品の周囲環境をリアルタイムに把握・記録し、その結果を物流・受発注・返品・請求システムと連動させるシステムや方法が充分に確立されているとは言えないのが現状である。
【0005】
また、上記のスペシャリティ領域の医薬品に関しては、製品特性上、市販後に市販直後調査や使用成績調査、特定成績調査という、市販後における医薬品の効果や、副作用の発現状況の調査を行うことが医薬品メーカーには求められることが多い。具体的には、上記の調査は医療機関等において製品が消費された段階でメーカーや流通業者の担当者が訪問することにより実施される。しかしながら、メーカーや流通業者で把握しているデータはあくまで医療機関等への納品実績に留まっており、医療機関等で消費されたかどうかをメーカーや流通業者、またはその業務を第三者として受託するCRO(Contract Research Organization)やCSO(Contract Sales Organization)などの企業として、システム
的に把握する仕組みは存在しない。また、医薬品の消費状況について医療機関等に問い合わせたとしても、必ずしも正確な回答がなされるとは限らない。そのため、メーカーや流通業者、またはCROやCSOの担当者が、調査対象の医薬品が消費されていない状況にも関わらず医療機関等を訪問する、または医療機関等の窓口担当者から報告を受けた処方医等の情報と実際の内容に相違があり再訪問が必要になるなどといった営業活動の非効率が発生しているのが実情である。また、流通業者から医療機関等への調査対象の医薬品の増減データはその納品実績データから取得可能であるが、その要因が患者数の増減なのか、一患者あたりの処方量の増減なのかの判別を一元的に捉えることは、医療機関等自身も十分にできていない。さらに、適応追加や再審査により、調査期間がより長期にわたる場合は、メーカーや流通業者、またはCROやCSOなどの調査受託企業にとって、そのコスト負担が増加するという課題がある。
【0006】
また、医薬品や医療機器等の承認前の臨床治験や、市販後の調査および臨床研究については、その社会的意義や、人の生命に直接関わることから、倫理性や安全性、信頼性などを担保するため、様々なガイドラインや法律に準拠した実施が求められる。例えば、承認前における臨床治験や承認後を含めた臨床研究においては、医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(GCP:Good Clinical Practice)、市販直後調査については医薬品の製造販売後安全管理の基準に関する省令(GVP:Good Post-Marketing Surveillance Practice)、使用成績調査や特定使用成績調査においては医薬品の製造販売後の調査及び
試験の実施の基準に関する省令(GPSP:Good Post-marketing Study Practice)など
に準拠した実施が求められる。
【0007】
上記においては、患者の服薬・使用状況(服用量、服用時間など)を医療機関等の従事者や、メーカーの治験実施担当者、もしくは第三者委託企業であるCROやCSO、SMO(Site Management Organization)の担当者(以下、治験実施担当者ともいう。)が管理するが、その管理は病院や診療所内だけでなく、外来診療を通じて、患者が自らの居宅で該当する治験薬等を自ら管理し、服用するケースがある。この場合、治験実施担当者が対象患者の服薬・使用状況を正確かつタイムリーに把握する手法は現段階で存在せず、患者の来院、来局に応じて直接ヒアリングを実施し、そのデータを把握し、記録しているという実態がある。そのため、データの正確性の担保とデータ収集に要するコストが課題となっている実情がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、医薬品に義務付けられる市販後調査に必要な、医療機関等や患者の居宅における医薬品の消費情報をメーカーならびに流通業者またはCROやCSOなどの調査受託企業がタイムリーに把握し、その情報をメーカーや流通業者またはCROやCSOなどの調査受託企業の販売、市販後調査、EDC(Electronic Data Capture:臨床検査値等の治験データを初期段階から
電子的に収集し、管理すること)システム等と連動することで、メーカーや流通業者またはCROやCSOなどの調査受託企業における営業・調査業務の効率化を図り、結果として社会的コストである医療財源の効率化を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、医薬品を該医薬品に応じた環境条件を維持しつつ保管する環境維持保管手段と、
前記環境維持保管手段における前記環境条件に関する情報を取得する保管環境検知手段と、
前記医薬品が前記環境維持保管手段によって保管されていることを検知する保管状態検知手段と、
前記医薬品を該医薬品に応じた環境条件を維持しつつ運搬することが可能な環境維持運搬手段と
前記環境維持運搬手段における前記環境条件に関する情報を取得する運搬環境検知手段
と、
前記医薬品が前記環境維持運搬手段によって運搬されていることを検知する運搬状態検知手段と、
前記保管状態検知手段からの検知情報を取得し、前記医薬品の納入先において過去に納入した所定の医薬品が前記環境維持保管手段から出庫されたことが検知された場合に、前記納入先への訪問指示を送信する営業・調査補助手段と、を備えることを特徴とする医薬品在庫管理システムである。
【0011】
ここで前述のように、スペシャリティ領域の医薬品においては、厳格な周囲環境管理が求められている。そして、その医薬品について求められる環境条件から外れた環境に晒された医薬品については、品質保証が困難となるので、医療機関等における使用が困難となる場合がある。
【0012】
それに対し、本発明に係る医薬品在庫管理システムは、医薬品を所定の環境条件を維持しつつ保管する環境維持保管手段と、環境維持保管手段における前記環境条件に関する情報を取得する保管環境検知手段と、医薬品が環境維持保管手段によって保管されていることを検知する保管状態検知手段と、医薬品を所定の環境条件を維持しつつ運搬する環境維持運搬手段と、環境維持運搬手段における前記環境条件に関する情報を取得する運搬環境検知手段と、医薬品が環境維持運搬手段によって運搬されていることを検知する運搬状態検知手段と、を備えている。
【0013】
すなわち、医薬品を該医薬品に応じた環境条件を維持しつつ保管する環境維持保管手段に保管することが前提となっている。そして、環境維持保管手段における環境条件に関する情報を取得する保管環境検知手段と、医薬品が環境維持保管手段によって保管されていることを検知する保管状態検知手段からの情報によって、医薬品が求められる環境条件から外れた環境に晒された時間と、求められる環境条件から外れた程度についての情報を取得し、これらの情報に基づいて、医薬品の使用の可否を判断する。
【0014】
また、本発明では、医薬品を該医薬品に応じた環境条件を維持しつつ運搬する環境維持運搬手段によって運搬することが前提となっている。そして、環境維持運搬手段における環境条件に関する情報を取得する運搬環境検知手段と、医薬品が環境維持運搬手段によって運搬されていることを検知する運搬状態検知手段からの情報によって、医薬品が求められる環境条件から外れた環境に晒された時間と、求められる環境条件から外れた程度についての情報を取得し、これらの情報も考慮の上で、医薬品の使用の可否を判断する。
【0015】
これらの構成により、医薬品の品質の劣化を、明確なデータに基づいて客観的に評価することが可能となり、品質保持の観点からの正確な根拠に基づいて医薬品の使用または移動の可否を判断することが可能となる。なお、本発明において、環境条件としては、例えば、周囲の温度、湿度、照度、気圧、衝撃、振動などが挙げられる。
【0016】
上記の構成及び機能の存在を前提とした上で、さらに本発明においては、営業・調査補助手段が保管状態検知手段からの検知情報を取得し、医薬品の納入先において過去に納入した所定の医薬品が環境維持保管手段から出庫されたことが検知された場合に、納入先への訪問指示を所定の端末に送信する。ここで所定の端末とは、医薬品メーカーや流通業者、またはCROやCSOなどの調査受託企業において、納入先への訪問時期を司る施設や担当者の有する端末であり、その送信手段は電話、FAX、メールなど特に限定されない。これにより、担当者は、より確実かつ迅速に、納入先の医療機関等において納入した医薬品が消費されたことを確認でき、その情報に基づいて、医療機関等を効率的に訪問することが可能となる。
【0017】
その結果、過去に納入した医薬品がまだ使用されないうちに、担当者が、市販直後調査や使用成績調査、特定成績調査のための医療機関等への訪問や、医療機関等に納入した医薬品の使用状況の確認のみを目的とした訪問を行う等の非効率を改善することが可能である。
【0018】
また、本発明においては、営業・調査補助手段は、所定の納入先訪問時期が到来している場合に、前記納入先への訪問指示を送信するようにしてもよい。これによれば、医薬品メーカーや流通業者またはCROやCSOなどの調査受託企業において、納入先を訪問すべき時期が到来してから、営業・調査補助手段により、納入先で過去に納入した医薬品が消費されたことを確認した上で、担当者に訪問指示を送信することができ、過度に短期間のうちに納入先への訪問指示が送信されることを防止できる。
【0019】
また、本発明においては、前記営業・調査補助手段は、所定の納入先訪問伺い通知を受信した場合に、医薬品の納入先において過去に納入した所定の医薬品が環境維持保管手段から出庫されたことを検知し、前記納入先への訪問指示を送信するようにしてもよい。すなわち、例えば担当者から納入先への訪問時期かどうかの問い合わせがあった場合に、納入先において過去に納入した所定の医薬品が環境維持保管手段から出庫されたことを確認し、その上で、納入先への訪問指示を送信する。そうすれば、各担当者の業務上の都合に沿い、且つ、過去に納入した医薬品が消費されたタイミングを選んで納入先を訪問することが可能である。その結果、より確実に営業・調査業務の効率を向上させることが可能である。
【0020】
また、本発明においては、前記納入先には複数の前記環境維持保管手段が設置され、前記営業・調査補助手段は、前記保管状態検知手段からの検知情報を取得し、前記納入先において過去に納入した所定の医薬品が前記納入先に設置された全ての前記環境維持保管手段から出庫されていることが検知された場合に、前記納入先への訪問指示を送信するようにしてもよい。
【0021】
ここで、複数の環境維持保管手段が設置された医療機関等においては、管理対象となる一つの環境維持保管手段(例えば、病院の薬剤部における環境維持保管手段)に着目し、過去に納入した医薬品が当該環境維持保管手段から出庫された場合に、営業・調査補助手段が納入先への訪問指示を送信することが考えられる。しかしながら、この場合には、管理対象である環境維持保管手段から出された医薬品が該当患者の体調変化による治療方針の変更や死亡等の理由により、実際には消費されておらず、当該医療機関等の別の環境維持保管手段に移されただけであるといったことが起き得た。そして、このような場合には、医療機関等への請求の実施後、当該医薬品が管理対象の環境維持保管手段に戻されることで、担当者による無駄な訪問、営業・調査活動が発生するという不都合が起き得た。
【0022】
これに対し、本発明においては、営業・調査補助手段は、保管状態検知手段からの検知情報を取得し、納入先において過去に納入した所定の医薬品が納入先に設置された全ての環境維持保管手段から出庫されていることが検知された場合に、納入先への訪問指示を送信する。よって、納入先である医療機関等において、管理対象の環境維持保管手段から他の環境維持保管手段に移されただけで、過去に納入した医薬品が実際には消費されていない場合には、訪問指示は送信されない。これにより、納入先である医療機関等への訪問時期を、納入先の医療機関等において実際に医薬品が消費された時期に限ることができ、営業・調査活動の効率をより確実に高めることが可能となる。
【0023】
また、本発明は、医薬品を該医薬品に応じた環境条件を維持しつつ保管する環境維持保管手段と、
前記環境維持保管手段における前記環境条件に関する情報を取得する保管環境検知手段
と、
前記医薬品が前記環境維持保管手段によって保管されていることを検知する保管状態検知手段と、
前記医薬品を該医薬品に応じた環境条件を維持しつつ運搬することが可能な環境維持運搬手段と
前記環境維持運搬手段における前記環境条件に関する情報を取得する運搬環境検知手段と、
前記医薬品が前記環境維持運搬手段によって運搬されていることを検知する運搬状態検知手段と、を備えた医薬品在庫管理システムを用いた、前記医薬品の納入先への訪問時期決定方法であって、
前記医薬品の納入先に設置された前記環境維持保管手段における前記保管状態検知手段により、過去に納入した所定の医薬品が前記納入先の前記環境維持保管手段から出庫されたことが検知された場合に、前記納入先への訪問を決定することを特徴とする医薬品の納入先への訪問時期決定方法であってもよい。
【0024】
また、本発明は、所定の納入先訪問時期が到来したことを条件に、前記納入先への訪問を決定することを特徴とする、上記の医薬品の納入先への訪問時期決定方法であってもよい。また、本発明は、前記納入先には複数の前記環境維持保管手段が設置され、前記納入先において過去に納入した所定の医薬品が前記納入先に設置された全ての前記環境維持保管手段から出庫されていることが検知された場合に、前記納入先への訪問を決定することを特徴とする、上記の医薬品の納入先への訪問時期決定方法であってもよい。
【0025】
なお、本発明においては、できる限り上記の各手段を組み合わせて使用することが可能である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、医薬品に義務付けられる市販後調査に必要な、医療機関等や患者の居宅における医薬品の消費情報をメーカーならびに流通業者またはCROやCSOなどの調査受託会社がタイムリーに把握し、その情報をメーカーや流通業者またはCROやCSOなどの調査受託会社の販売、市販後調査、EDCシステム等と連動することで、メーカーや流通業者またはCROやCSOなどの調査受託会社における営業・調査業務の効率化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は従来の医薬品の流通及び請求の態様について示した図である。
図1においてブロック1は医薬品メーカー、ブロック2は流通業者、ブロック3は病院、診療所または保険薬局といった医療機関等を示す。また、ブロック4は医療機関等3において治療や投薬を受ける患者(及びその居宅)を示す。なお、
図1における流通業者とは、卸業者や運搬業者等、医薬品メーカー1と医療機関等3の間に介入する業者の全てが含まれ得る。なお、医薬品メーカー1や保険薬局が自ら流通業者2としての役割を担うことがあってもよい。
【0029】
従来より、医薬品メーカー1が生産したスペシャリティ領域の医薬品5については、厳しい温度管理が求められるため、移動中の温度管理が可能な保冷コンテナ6に収納された状態で流通業者2に仕入れられていた。また、流通業者2によって販売されるまでの期間は、医薬品5は冷蔵保管庫7にて温度管理がなされた状態で、流通業者2において保管される。そして、販売先の医療機関等3が決まれば、医薬品5は冷蔵保管庫7から出庫され、再び保冷コンテナ16に収納された状態で医療機関等3まで運搬される。
【0030】
そして、医療機関等3においては、医薬品5は保冷コンテナ16から取り出されて冷蔵保管庫17に入庫・保管される。さらに、患者に投薬される際には冷蔵保管庫17から出庫されて投薬される。また、医薬品5が患者に渡され、患者の居宅等4において患者自らによって投薬される場合には、医薬品5は医療機関等3の冷蔵保管庫17から出庫され、保冷コンテナ36に収納された状態で患者の居宅等4まで運搬される。そして、患者の居宅等4においては、医薬品5は保冷コンテナ36から取り出されて冷蔵保管庫37に入庫・保管される。その後、必要に応じて患者自身によって医薬品5が冷蔵保管庫37から出庫され投薬される。
【0031】
図1で示した従来の医薬品の流通の態様では、例えば医薬品メーカー1は、流通業者2や医療機関等3、患者の居宅等4において、あるいは、医療品メーカー1から流通業者2への流通経路、流通業者2から医療機関等3への流通経路、または医療機関等3から患者の居宅等4への流通経路において、医薬品5の温度管理が適切に行われていたか否かが不明であった。同様に、流通業者2は、医療機関等3や患者の居宅等4において、あるいは、流通業者2から医療機関等3への流通経路、医療機関等3から患者の居宅等4への流通経路において、医薬品5の温度管理が適切に行われていたか否かが不明であった。
【0032】
そのため、医療機関等3または患者の居宅等4における医薬品5の品質の保証をすることが困難であった。また、例えば、患者の転院、体調の急変、死亡等の理由で医療機関等3において医薬品5が余剰となり、返品の要求が生じたとしても、医薬品メーカー1及び流通業者2は、返品された医薬品5が使用可能なものか否か判断できないため、返品要求に応じたり、再販売することができない場合があった。
【0033】
図2には、上記のような不都合を改善するための、本実施例に係る医薬品在庫管理システムにおける医薬品5の流通の態様を示す。
図2において医薬品5の実際の流通経路は実線矢印で、情報の経路は破線矢印で示されている。本実施例においては、医薬品5(医薬品自体若しくは医薬品の梱包)にその医薬品5のIDが記録された識別素子5aを取り付ける。また、識別素子5aによる医薬品5の識別情報を検知可能な読取センサ6a及び内部の温度履歴情報の取得が可能な温度センサ6bを、環境維持運搬手段としての保冷コンテナ6に取り付ける。そして、読取センサ6a及び温度センサ6bの出力信号は、無線通信により情報管理装置8に送信され、必要に応じ記録される。これにより、所定のIDを有する医薬品5が、保冷コンテナ6内に収納されているか否かの情報と、保冷コンテナ6内の温度履歴情報がリアルタイムに記録可能となっている。
【0034】
その結果、医薬品メーカー1から流通業者2への医薬品の移動中に医薬品5が保冷コン
テナ6内に確実に収納されていることが検知可能となり、また、保冷コンテナ6内の温度履歴が検知可能となっている。同様に、読取センサ16a、36a及び温度センサ16b、36bにより、流通業者2と医療機関等3との間または、医療機関等3と患者の居宅等4との間の医薬品5の移動中に、医薬品5が保冷コンテナ16、36内に確実に収納されていることが検知可能となり、また、保冷コンテナ16、36内の温度履歴が検知可能となっている。
【0035】
また、
図2に示す医薬品在庫管理システムでは、流通業者2、医療機関等3及び患者の居宅等4に備えられている冷蔵保管庫7、17、37にも識別素子5aによる医薬品5の識別情報を検知可能な読取センサ7a、17a,37a及び温度履歴情報の取得が可能な温度センサ7b、17b、37bが取り付けられる。そして、読取センサ7a、17a,37a及び温度センサ7b、17b、37bの出力信号は、無線通信により情報管理装置8にリアルタイムに送信・記録される。これにより、所定のIDを有する医薬品5が、冷蔵保管庫7、17、27内に保管されているか否かの情報と、冷蔵保管庫7、17、37内の温度履歴情報がリアルタイムに記録可能となっている。
【0036】
なお、上記において識別素子5aと読取センサ7a、17a、37aとは、保管状態検知手段を構成する。識別素子5aと読取センサ6a、16a,36aとは、運搬状態検知手段を構成する。また、温度センサ6b、16b、36bは、運搬環境検知手段に相当する。また、温度センサ7b、17b、37bは、保管環境検知手段に相当する。本実施例における冷蔵保管庫7、17、37は、箱型タイプに限定されず、例えば保冷室などの部屋単位もしくはフロア単位とするようにしてもよい。
【0037】
ここで、識別素子5aは、例えばICタグやRFIDタグ(アクティブ方式及びパッシブ方式の双方を含む)であってもよく、この場合には読取センサ6a、16a、36a、7a、17a,37aはRFIDリーダーであってもよい。また、識別素子5a及び、読取センサ6a、16a、36a、7a、17a、37aは、互いにブルートゥース(登録商標)等の近距離ワイヤレス通信が可能な機器で構成してもよい。また、識別素子5aは、医薬品5のIDが識別可能な磁界や光を発信するデバイスであってもよく、この場合には読取センサ6a、16a、36a、7a、17a、37aは磁気センサや光センサであってもよい。さらに、識別素子5aはアクティブに電磁界や光等の信号を発信するものでなくても良く、例えば、バーコードやQRコード(登録商標)が印刷されたラベル等でもよい。この場合には読取センサ6a、16a、36a、7a、17a,37aはバーコードリーダーやQRコード(登録商標)リーダーであってもよい。
【0038】
また、前述のように、読取センサ6a、16a、36a、7a、17a、37a及び温度センサ6b、16b、36b、7b、17b、37bには通信機能を付け、情報管理装置8に医薬品5のID及び所在に関する情報と温度履歴情報とをリアルタイムに送信し、情報管理装置8において各情報を受信、記録してもよいが、読取センサ6a、16a、36a、7a、17a、37a及び温度センサ6b、16b、36b、7b、17b、37b自体、保冷コンテナ6、16、36または冷蔵保管庫7、17、37に記憶機能を備えて各情報を独立に記録、蓄積するようにしてもよい。
【0039】
本実施例においては上記の構成により、医薬品5が医薬品メーカー1により製造、保管、出荷(流通業者2より仕入)された後の、医療品メーカー1から流通業者2までの流通過程、流通業者2における保管過程、流通業者2から医療機関等3までの流通過程、医療機関等3における保管過程、医療機関等3から患者の居宅等4までの流通過程、患者の居宅等4における保管過程において、医薬品5が確実に、保冷コンテナ6、16、36か冷蔵保管庫7、17、37に保管され、適切な温度管理がなされていたか否かが確認可能となる。
【0040】
なお、上記において、患者が患者の居宅等4において自ら投薬する場合の例としては、がんや自己免疫疾患、血友病、関節リウマチ、骨粗しょう症、成長ホルモン分泌不全性低身長症やその他希少疾病や特定疾患等における自己注射のように、在宅で患者自身またはその家族が直接医薬品5を自ら投与、管理する場合を想定している。この場合には、医薬品5は、例えば、より小単位に小分けされたものであってもよく、一枚、一錠または一本(バイアル、アンプル、シリンジ等の場合)等、または小分けされた複数種類の医薬品が複数個セットでパッケージになった形態であってもよい。
【0041】
また、この場合、識別素子5aは、例えば小分けされた医薬品毎あるいは、小分けされたケース毎に取り付けられても良い。また、本実施例における保冷コンテナ36は、保冷コンテナ6、16と比較して、より小型のものであってもよい。また、保冷コンテナ36内に、小型ケース(不図示)を収納し、当該ケース内に小分けされた医薬品毎あるいは、小分けされたケースに医薬品5をさらに収納することとし、読取センサ36aは当該小型ケースに設けることとしてもよい。
【0042】
また、患者の居宅等における冷蔵保管庫37は、冷蔵保管庫7、17と比較してより小型のものであってもよい。また、冷蔵保管庫37内に、小型ケース(不図示)を収納し、当該ケース内に小分けされた薬剤毎あるいは、小分けされたケース毎に医薬品5をさらに収納することとし、読取センサ37aは当該小型ケースに設けることとしてもよい。さらに、読取センサ37aは、小分けされた医薬品5の袋に設けてもよい。
【0043】
ここで、
図2の情報管理装置8には、流通業者2における医薬品5の流通に関する情報を管理するサーバとして基幹サーバ8aと中間サーバ8bが備えられている。基幹サーバ8aは、流通業者2による医療機関等3からの医薬品5の受注から医療機関等3への医薬品5の納品までの処理に関する情報、流通業者2の在庫に関する情報、包装変更やリコールに関する情報、請求処理に関する情報を管理するサーバである。また、医療機関3からの返品に際する自動補充、払出し請求等に関する情報も管理する。
【0044】
一方、中間サーバ8bは、流通業者2の基幹サーバ8aから得られる情報である販売情報(販売価格、顧客情報、取引条件等)の他、後述する保冷コンテナサーバ8c、冷蔵保管庫サーバ8dからの情報を管理するサーバである。中間サーバ8bは、保冷コンテナサーバ8c、冷蔵保管庫サーバ8dからの、医薬品5のID、所在または存否(運搬中の位置情報や冷蔵保管庫7における入庫、払出しによる在庫情報も含む)等に関する情報及び温度履歴情報と、本実施例における医薬品5の返品・再販売の処理に関わる情報の処理が行われ、基幹サーバ8aとの間で販売情報等の授受が行われる。
【0045】
さらに、中間サーバ8bは、医薬品メーカー1に対して、必要に応じて情報提供を行う。例えば、保冷コンテナサーバ8c、冷蔵保管庫サーバ8dからの、医薬品5のID、所在または存否(運搬中の位置情報や冷蔵保管庫7における入庫、払出しによる在庫情報も含む)等に関する情報及び温度履歴情報が中間サーバ8bと医薬品メーカー1との間で共有される。従って、医薬品5の使用の可否判断において医薬品メーカー1による判断、助言、追加情報等の提供を受けることが可能となる。その結果、使用可否の判断の精度を向上し、判断に要する期間を短縮化することができる。
【0046】
また、保冷コンテナサーバ8cは、保冷コンテナ6、16、36からの情報を収集するサーバであって、読取センサ6a、16a、36a及び、温度センサ6b、16b、36bからの出力信号をリアルタイムで受信・記憶する。例えば、本実施例の、流通業者2から医療機関等3までの間の医薬品5の流通経路において、より具体的には、保冷コンテナ16から保冷コンテナサーバ8cに対して、コンテナID、商品識別子ID、時刻情報、
位置情報、温度履歴情報が送信される。さらに、衝撃、ネットワーク情報等が送信されるようにしてもよい。これらの情報は、保冷コンテナサーバ8cから流通業者が保有する中間サーバ8bに送信される。
【0047】
一方、冷蔵保管庫サーバ8dは、冷蔵保管庫7、17、37からの情報を収集するサーバであって、読取センサ7a、17a,37a及び、温度センサ7b、17b、37bからの出力信号をリアルタイムで受信・記憶する。例えば、本実施例においては、医療機関等3の冷蔵保管庫17の読取センサ17aから、冷蔵保管庫サーバ8dに対して、保管庫ID、商品識別子ID、時刻情報、位置情報、温度、ネットワーク情報、入庫、消費情報が送信される。そして、冷蔵保管庫サーバ8dから流通業者が保有する中間サーバ8bには、同様の情報が送信される。
【0048】
なお、情報管理装置8における各サーバが設置される場所については特に限定されない。例えば、全てのサーバ8a〜8dが流通業者2の施設内に設置されてもよいし、
図2に示すように、基幹サーバ8a及び中間サーバ8bは流通業者2の施設内に設置され、保冷コンテナサーバ8cは、保冷コンテナ6、16の管理会社の施設内に設置され、冷蔵保管庫サーバ8dは、冷蔵保管庫7、17の管理会社に設置されるようにしてもよい。また、情報管理装置8における各々のサーバは、医療機関等が使用しているシステム(電子カルテ、オーダリングシステム、レセプト処理システム、電子薬歴、電子お薬手帳等)と同じ回線、もしくは独自回線で接続されてもよいし、その手段はインターネット回線、電話回線で接続されてもよい。また、全てまたは一部のサーバをクラウド上に設置するようにしてもよい。
【0049】
なお、上記の医薬品在庫管理システムにおいては、医薬品メーカー1と流通業者2、流通業者2と医療機関等3の間の医薬品5の移動時には、保冷コンテナ6、16を用いて医薬品5の温度管理を行うこととしたが、本発明における環境維持運搬手段はこれに限られない。例えば、冷蔵車の冷蔵庫、冷凍車の冷凍庫、保冷専用車両または航空機または船舶の荷台等に直接、医薬品5を収納して運搬しても構わない。しかしながら、この場合には、冷蔵車、冷凍車と、冷蔵保管庫7、17の間の医薬品5の移換え時間、温度を管理し、記録可能としておくことが望ましい。また、医療機関等3が購入し、且つ所有権を持つ医薬品5の流通業者2または医薬品メーカー1への返品、または保険薬局から保険薬局間への医薬品5の移動等における運搬等は、上記の設備やシステムを備える道路運送法や貨物自動車運送事業法に基づく貨物自動車運送事業者が実施することが望ましい。なお、識別素子5aの医薬品5への取付け場所については、医薬品メーカー1の製造工場や保管施設であってもよく、その国については特に限定されない。
【0050】
図3は、基幹サーバ8aのハードウェア構成を示す概略構成図である。基幹サーバ8aは、
図3に示すように、Central Processing Unit(CPU)80a、Random Access Memory(RAM)80b、Hard Disk Drive(HDD)80c、例えばNetwork Interface Card(NIC)80d等のネットワークインターフェース機器を備える。HDD80cにOS(Operating System)やアプリケーションソフトウェアのプログラムが格納されており、CPU80aがこれらのプログラムを実行することで、本明細書で説明する機能が提供される。なお、基幹サーバ8aは1台のコンピュータによって構成される必要はなく、複数台のコンピュータがネットワークを介して連携することで基幹サーバ8aが実現されて
もよい。中間サーバ8b、保冷コンテナサーバ8c、冷蔵保管庫サーバ8dも基本的には同様のハードウェア構成を有する。
【0051】
次に、流通業者2と医療機関等3との間の流通を中心に本実施例における医薬品5及び情報、処理の流れについて説明する。なお、以下の説明において流通業者2は、オペレーションセンター2aと流通センター2bに分けて説明される。
<受注〜納品業務>
まず、医療機関等3による医薬品5の受注から流通業者2による納品までの流れについて簡単に説明する。医療機関等3において、様々な医療品5に関する在庫数(設定数および発注点)が設定され、リストの形で流通業者2の流通センター2aに送付される。この情報は、基幹サーバ8a及び中間サーバ8bに送信される。これにより医療機関等3における在庫数の目標値が決定される。本リストの提供手段については電話、メール、FAXなど、特に限定されない。
【0052】
そして、医療機関等3の冷蔵保管庫7から医薬品5が取り出された場合には、その情報が冷蔵保管庫サーバ8dに送信される。さらにその情報は冷蔵保管庫サーバ8dから基幹サーバ8a及び中間サーバ8bに送付される。そうすると、中間サーバ8bにおいて、在庫設定情報に基づき発注数が計算され、医療機関等3に受注連絡がなされるとともに、中間サーバ8bから基幹サーバ8aを経由し、流通センター2bにおいて出庫処理が行われる。出庫処理された医薬品5は、保冷コンテナ16に収納され医療機関等3に発送される。その際、識別素子5aに医薬品5のIDに関する情報等が入力された後、当該識別素子5aが医薬品5に取付けられる。
【0053】
また、保冷コンテナ16に収納された際に、医薬品5のID等に関する情報が保冷コンテナ16の読取センサ16aに読み取られて保冷コンテナサーバ8cに送信される。さらに、保冷コンテナ16内の温度履歴情報の、温度センサ16aから保冷コンテナサーバ8cへの送信が開始される。これらの情報は、保冷コンテナサーバ8cから中間サーバ8bにも送信される。これにより、医療機関等3に納品すべき数と種類の医薬品5が確実に保冷コンテナ16に収納されていることと、保冷コンテナ16内の温度が上記ID情報に含まれる適正な温度範囲に維持されていることが確認される。
【0054】
そして、保冷コンテナ16が医療機関等3に到着すると、医薬品5が保冷コンテナ16から冷蔵保管庫17に移される。この情報は冷蔵保管庫17の読取センサ17aから冷蔵保管庫サーバ8dに送信され、保管庫サーバ8dから中間サーバ8b、基幹サーバ8aにも送信される。この際に、中間サーバ8bにおける医療機関等3の在庫数が更新される。その後も、冷蔵保管庫17内の温度履歴情報が温度センサ17aから冷蔵保管庫サーバ8dに送信され、さらに中間サーバ8bにも送信される。これにより、医療機関等3による在庫設定数に応じた数と種類の医薬品5が確実に冷蔵保管庫17に収納されていることと、冷蔵保管庫17内の温度が上記ID情報に含まれる適正な温度範囲に維持されていることが中間サーバ8bにリアルタイムに送信され記録される。
【0055】
<使用〜請求>
医療機関等3において医薬品5が患者に投与される際には、冷蔵保管庫17に設けられた入力装置によって取り出し者および処理区分、患者ID情報が入力されるとともに医薬品5が取り出される。そうすると、その情報は冷蔵保管庫サーバ8d及び中間サーバ8bに送信される。その際に中間サーバ8bにおいては、医薬品5が使用された情報が記録されるとともに在庫数が更新される。さらに医薬品5が使用された情報は基幹サーバ8aに送信され、各医療機関等の請求締日単位での請求書の発行処理がなされる。
【0056】
次に、本システム例における返品処理の流れについて
図4及び
図5を用いて詳細に説明する。
図4及び
図5は、本実施例における返品処理の流れを示す流れ図である。横軸は処理の順番を示す。縦軸は各処理の主体を示している。返品処理においては、まず、医療機関等3において、冷蔵保管庫17中で保管している医薬品5についての返品の要望が発生した時点(図中のステップS1)において、医療機関等3から流通業者2のオペレーションセンター2aに返品依頼の連絡がなされる。この返品依頼は、流通業者2から医療機関等3への能動的返品提案通知から開始されるものでもよく、その手段については電話、メ
ール、FAXなど、特に限定されない。また、流通業者2のオペレーションセンター2aから、医療機関等3に電話、メール、FAXなどの手段を用いて、返品候補品リストをあらかじめ提供してもよい。
【0057】
流通業者2のオペレーションセンター2aにおいて返品依頼を受ける(ステップS2)と、ステップS3に示すように流通業者2のオペレーションセンター2aから流通センター2bに連絡され、流通センター2bにおいて当該医薬品5について自動補充に関わる発注点/設定数の修正が行われる。すなわち、このステップでは医療機関等3により返品の要求があった場合に、医薬品5が冷蔵保管庫17から出されたことを検知して、補充のため発注が自動的に行われないようにしている。これにより、ステップS4に示すようにBOXID(医薬品5のパッケージ毎のID)、設定数、発注点、商品コード等の情報が中間サーバ8bに送信され記録される。
【0058】
次に、ステップS5に示すように、流通業者2の流通センター2bに所属する担当者が、保冷コンテナ16を携えて医療機関等3に向かう。そして、ステップS6に示すように、医療機関等3に設置されている冷蔵保管庫17の入力装置によって返品についての入力が行われる。なお、この入力はステップS7に示すように医療機関等3によって行われてもよい。そして、流通業者2の流通センター2bに所属する担当者によって、ステップS8に示すように冷蔵保管庫17から医薬品が取り出され保冷コンテナ16に移される。
【0059】
そうすると、ステップS9に示すように冷蔵保管庫サーバ8dには、冷蔵保管庫17から取り出された医薬品5のBOXID、処理区分、商品コードの他、時刻情報及び識別素子データが冷蔵保管庫17の読取センサ17aより送信される。その際、冷蔵保管庫サーバ8dにおいてはステップS10に示すように返品登録がなされる。
【0060】
また、ステップS11に示すように冷蔵保管庫サーバ8dから中間サーバ8bにも、BOXID、処理区分、商品コード、時刻情報、識別素子データが送信され、中間サーバ8bにおいては、ステップS12に示すように返品データが実績情報メモリに書き込まれるとともに、ステップS13に示すように在庫数メモリにおける在庫数が更新される。
【0061】
次に、医薬品5は冷蔵保管庫17から保冷コンテナ16に移され収納された状態で流通業者2の流通センター2bまで移動する。ここで、その移動中にも、保冷コンテナ16の読取センサ16a、温度センサ16bからの情報は保冷コンテナサーバ8c及び、中間サーバ8bに送信及び記録され続ける。そして、流通業者2の流通センター2bにおいて、ステップS14に示すように、保冷コンテナ16のIDが入力される。そうすると、ステップS15に示すように、保冷コンテナサーバ8cには、医療機関等3から流通業者2の流通センター2bまでの配送時における温度履歴情報の他、BOXID、時刻情報、識別素子データ等が送信される。
【0062】
次に、流通業者2のオペレーションセンター2aにおいて、ステップS16に示すように温度履歴情報のチェックが行われる。その際、ステップS17に示すように保冷コンテナサーバ8cにおいて受信されている情報と紐づけられるとともに、温度履歴情報が実績情報メモリに記憶される。
【0063】
次に、
図5におけるステップS18に示すように、流通センター2bにおいて返品(入帳)可否判断が行われる。ここでは、温度履歴情報の他、使用期限情報や流通情報等を基に返品の可否が判断される。例えば、温度履歴情報において医薬品5の周囲温度がそのID情報で定められた温度範囲(例えば2〜8℃)から外れた時間が4時間以下で、外れた際の温度が25℃以下(この場合、外れた程度は17℃以下ということになる)であった場合であって、且つ、使用期限までの残存期間が6カ月以上であって、且つ、包装変更や
リコール対象の医薬品でない場合に、返品を可としてもよい。
【0064】
具体的な数値はこの数値に限定されないが、定められた温度範囲から外れた時間、外れた程度及び、使用期限までの残存期間の少なくとも一の条件に基づいて、返品の可否を判断してもよい。例えば、温度履歴情報において医薬品5の周囲温度がそのID情報で定められた温度範囲(例えば2〜8℃、1〜30℃、15〜25℃等)から外れた時間がある場合には、他の条件に関わらず返品不可としても構わない。なお、上記における返品の可否判断の条件は、医薬品5の添付文書(仕様)やGDP(Good Distribution Practice)に
基づいて定めることが望ましい。
【0065】
また、ステップS18における返品の可否判断は、中間サーバ8bにおいて自動的に行われるようにし、可否の結果が自動的に表示されるようにしてもよい。この判断に必要な情報は全て、保冷コンテナサーバ8c及び、冷蔵保管庫サーバ8dから送信されているので、送信された情報と、別途記憶された閾値とを比較することで返品の可否判断を行ってもよい。その場合には、中間サーバ8bが本発明における判定手段に相当する。
【0066】
ここで、ステップS18において返品不可と判断された場合には、再度、医薬品5はステップS19において保冷コンテナ16に収納され医療機関等3の冷蔵保管庫17に戻される。そして、ステップS20に示すように冷蔵保管庫サーバ8dには、医薬品5のBOXID、処理区分、商品コードの他、時刻情報及び識別素子データが入庫情報として送信され、ステップS21に示すように返品処理が取り消される。
【0067】
さらに、ステップS22に示すように冷蔵保管庫サーバ8dから中間サーバ8bにも、医薬品5のBOXID、処理区分、商品コードの他、時刻情報及び識別素子データが入庫情報として送信される。そうするとステップS23に示すように、中間サーバ8bにおいて実績情報メモリに入庫データが書き込まれるとともに、ステップS24に示すように、在庫数メモリにおける在庫数が更新される。
【0068】
一方、ステップS18において返品可と判断された場合には、ステップS25に示すように流通業者2のオペレーションセンター2aによって返品対応がなされ、ステップS26に示すように流通業者2の流通センター2bにおいて返品完了の入力がなされる。これにより、ステップS27に示すように医療機関等3から流通業者2の流通センター2bまでの配送時における温度情報の他、BOXID、時刻情報、識別素子データ等が中間サーバ8bに送信される。そして、ステップS28に示すように操作実績ログが記録される。
【0069】
以上、説明したように、本発明の前提となる医薬品在庫管理システムによれば、スペシャリティ領域の医薬品について医療機関等3から返品要請があった場合にも、品質維持の観点による明確な根拠をもって、返品の可否を判断することが可能である。これにより、医療機関等3の返品要請に答えることができ、流通業者2及び、医療機関等3における医薬品5の廃棄による無駄を低減することができ、経済的に大きな効果を生じるとともに、全国民が負担する社会保障資源の節約を実現することが可能となる。
【0070】
また、上記の医薬品在庫管理システムにおいて中間サーバ8bは、保冷コンテナサーバ8c、冷蔵保管庫サーバ8dからの、医薬品5のID、所在等に関する情報及び温度履歴情報を医薬品メーカー1との間で共有する。従って、医薬品5の返品の可否判断において医薬品メーカー1による判断、助言、追加情報等の提供を受けることが可能となる。その結果、返品可否の判断の精度を向上し、判断に要する期間を短縮化することができる。本実施例においては、返品可否の判断の処理(ステップS18)を、医薬品メーカー1に委託してもよいし、医薬品メーカー1のサーバシステムと連動させ、当該システムからの自動回答の提供を受けることとしてもよい。
【0071】
なお、上記の医薬品在庫管理システムにおいては、医薬品メーカー1と流通業者2、流通業者2と医療機関等3の間の医薬品5の移動時には、保冷コンテナ6、16を用いて医薬品5の温度管理を行うこととしたが、本発明における環境維持運搬手段はこれに限られない。例えば、冷蔵車の冷蔵庫、冷凍車の冷凍庫、保冷専用車両または航空機または船舶の荷台等に直接、医薬品5を収納して運搬しても構わない。しかしながら、この場合には、冷蔵車、冷凍車と、冷蔵保管庫7、17の間の医薬品5の移換え時間、温度を管理し、記録可能としておくことが望ましい。また、医療機関等3が購入し、且つ所有権を持つ医薬品5の流通業者2または医薬品メーカー1への返品、または保険薬局から保険薬局間への医薬品5の移動等における運搬等は、上記の設備やシステムを備える道路運送法や貨物自動車運送事業法に基づく貨物自動車運送事業者が実施することが望ましい。
【0072】
次に、上記において説明した医薬品在庫管理システムにおける営業・調査補助手段について説明する。
図6には、本実施例における医薬品5の流通の態様について示されている。
【0073】
本実施例においては、医療機関等3における冷蔵保管庫17あるいは、患者の居宅等4における冷蔵保管庫37からの出庫情報が、冷蔵保管庫サーバ8dに送信される。そうすると、冷蔵保管庫サーバ8dから中間サーバ8bにも、同情報が送付される。その際、中間サーバ8bから、メーカー施設または担当者(CROやCSO含む)の有する端末1xあるいは、流通業者施設または担当者の有する端末2xに、納入先である医療機関等3への訪問指示の通知が送付される。メーカー1(CROやCSO含む)の担当者あるいは流通業者2の担当者は、この訪問指示の通知に基づき、医療機関等3に訪問し、冷蔵保管庫17の内容を確認し、市販直後調査や使用成績調査、特定成績調査という、市販後における製品の効果や副作用の発現状況を把握する作業を行う。これによれば、メーカー1の担当者あるいは流通業者2の担当者へは、自動的に、医療機関等3において冷蔵保管庫17からの医薬品5の出庫(消費)があったときに、初めて訪問指示の通知が送付される。
【0074】
よって、市販直後調査や使用成績調査、特定成績調査を行う際に、医療機関等3において医薬品5が消費されていないにも拘らず訪問してしまうという非効率を抑制し、営業・調査効率を向上させることが可能である。
【0075】
また、医薬品5の消費単位で、消費した患者と医薬品5の温度や衝撃などの品質管理状況、ロット、期限の紐付けおよびデータ収集をより正確かつ効率的に把握できるため、より信頼性の高い調査結果を担保することが可能である。そのため、本プログラムは市販直後調査や使用成績調査、特定成績調査のみならず、臨床研究や臨床治験における実施計画書内のSOP(標準業務手順書: Standard Operation Procedure)等に適応してもよいし、複数医療機関等3を同時に管理するような国内外における共同治験に適応しても構わない。
【0076】
図7には、医療機関の訪問指示通知プログラムのフローチャートを示す。本プログラムは中間サーバ8b内にも設けられたHDD80cに記憶されており、中間サーバ8b内のCPU80aにおいて所定時間毎に実行される。本プログラムが実行されると、先ず、ステップS101において、調査対象の医薬品5について、医療機関等訪問時期が当該しているか否かが判定される。この医療機関等訪問時期は、例えば、各月の月初に設定されてもよいし、都度実施してもよい。ステップS101において医療機関等訪問時期が到来していないと判定された場合には、そのまま本ルーチンを一旦終了する。一方、ステップS101において医療機関等訪問時期が到来していると判定された場合にはステップS102に進む。なお、本実施例における医薬品在庫管理システムにおいては、各月の月初において担当者が医療機関等3に訪問し、市販直後調査や使用成績調査、特定成績調査を終え
た場合には、その旨の情報が中間サーバ8bに送信され、医療機関等訪問時期は当月において終了したと判断される。
【0077】
次に、ステップS102においては、冷蔵保管庫17からの在庫情報が受信される。具体的には、この時点における読取センサ17aの出力が冷蔵保管庫サーバ8dを介して中間サーバ8bに送信される。ステップS102の処理が終了するとS103に進む。
【0078】
次に、ステップS103においては、調査対象の医薬品5が消費されたか否かが判定される。より具体的には、冷蔵保管庫17内に調査対象の医薬品5が収納された状態か否かが判定される。ステップS103において、調査対象の医薬品5が未だ消費されていないと判定された場合には、そのまま本ルーチンを一旦終了する。一方、調査対象の医薬品5が消費されていると判定された場合には、ステップS104に進む。
【0079】
ステップS104においては、医薬品メーカー施設または担当者(CROやCSO含む)の端末1xあるいは、流通業者施設または担当者の端末2xに、医療機関等3を訪問すべきとする訪問指示の通知が送信される。ここで、この訪問指示の通知は、電子メール等によって通知されてもよいし、各端末が光る、アラームが鳴るなどのコマンドが送信されることで通知されてもよい。ステップS104が終了すると本ルーチンを一旦終了する。
【0080】
このように、本実施例においては、医療機関等3に納入された医薬品5の市販直後調査や使用成績調査、特定成績調査を行う際には、当該医薬品5が、冷蔵保管庫17から出庫されたことを確認後に、自動的に担当者に医療機関等3の訪問指示が通知される。これにより、医薬品メーカー1(CROやCSO含む)または流通業者2の担当者は、当該訪問指示の通知があったことを確認した上で、医療機関等3を訪問でき、折角納入先を訪問したが、調査対象の医薬品5が未だ消費されていなかったというような非効率を防止することができるとともに、実施期間が予め定められた市販後調査における進捗確認業務の効率化を図ることができる。また、医療機関等3(SMO含む)にとっては、医薬品メーカー1(CROやCSO含む)または流通業者2の担当者から、納入された医薬品5の消費情報の確認を求められるという業務負荷の軽減が可能となる。
【0081】
なお、上記においては、所定の医療機関等訪問時期が到来した時点で自動的に、調査対象の医薬品5が納入先の医療機関等3において消費されたか否かが判定され、担当者に訪問指示が通知されたが、これは、医薬品メーカー1(CROやCSO含む)または流通業者2の担当者が使用する端末から中間サーバ8bに、納入先訪問伺い通知が送付された時点で、冷蔵保管庫17からの在庫情報を受信し、調査対象の医薬品5が消費されたか否かの情報を、医薬品メーカー施設または担当者(CROやCSO含む)の端末1xあるいは、流通業者施設または担当者の端末2xに送信するようにしても構わない。
【0082】
図8には、本実施例にかかる医薬品在庫管理システムの機能ブロック図を示す。医薬品在庫管理システム10は、上述したように、医薬品5を環境条件を維持しつつ保管する環境維持保管手段と、環境維持保管手段における環境条件に関する情報を取得する保管環境検知手段と、医薬品5が環境維持保管手段によって保管されていることを検知する保管状態検知手段と、医薬品5を該医薬品に応じた環境条件を維持しつつ運搬することが可能な環境維持運搬手段と、環境維持運搬手段における環境条件に関する情報を取得する運搬環境検知手段と、医薬品5が前記環境維持運搬手段によって運搬されていることを検知する運搬状態検知手段と、記保管環境検知手段、保管状態検知手段、運搬環境検知手段及び、運搬状態検知手段等からの検知情報に基づいて、医薬品の納入先への訪問指示の通知を送信する営業・調査補助手段と、を備えている。
【0083】
そして、前述したように、環境維持保管手段は、一例として冷蔵保管庫7、17、37
によって実現される。保管環境検知手段は、一例として温度センサ7b、17b、37bによって実現される。保管状態検知手段は、一例として読取センサ7a、17a、37aと識別素子5aとによって実現される。環境維持運搬手段は、一例として保冷コンテナ6、16、36によって実現される。運搬環境検知手段は、一例として温度センサ6b、16b、36bによって実現される。運搬状態検知手段は、一例として読取センサ6a、16a、36aと識別素子5aとによって実現される。さらに、営業・調査補助手段は、情報管理装置8の各サーバのCPU80a等を含んで実現される。そして、営業・調査補助手段によって利用される各種データ、テーブル、プログラムは、各サーバのHDD80c等に記憶されている。
【0084】
次に、本実施例に係る医薬品在庫管理システム10の、医療機関等3に冷蔵保管庫が複数設置された場合への適用例について
図9を用いて説明する。この場合は、
図9に示すように、医療機関等3内には、薬剤部等に設置され消費判断をするための冷蔵保管庫Aの他、冷蔵保管庫B〜Dが設置されている。このような場合は、従来より、営業・調査補助手段は、医療機関等訪問時期が到来した際に、冷蔵保管庫Aにおける医薬品5の在庫を確認して、医薬品5が冷蔵保管庫Aから出庫されている場合には、医薬品メーカー1(CROやCSO含む)または流通業者2の担当者の端末に、医療機関等訪問指示の通知を送信することが考えられる。
【0085】
しかしながら、上記のような場合、実際には、冷蔵保管庫Aから、冷蔵保管庫B〜Dのいずれかに医薬品5が移されているだけであって、消費されていないにもかかわらず、冷蔵保管庫Aから出庫された事実をもって医薬品5が消費されたと認識され、医療機関等訪問指示の通知がされてしまうことがあり得る。
【0086】
これに対し、本実施例にかかる営業・調査補助手段としての情報管理装置8では、冷蔵保管庫Aを消費判断の基準とすることは上記の場合と同等であるが、医療機関等訪問指示の通知を送信するか否かの判定においては、冷蔵保管庫B〜Dにおける読取センサ17aの信号に基づき、冷蔵保管庫B〜D内の保管内容をも確認した上で、医療機関等3全体として調査対象の医薬品等5が消費されている場合についてのみ医療機関等訪問指示の通知を送信する。これにより、実際には調査対象の医薬品5が消費されていないにも関わらず、医薬品メーカー1(CROやCSO含む)や流通業者2の担当者が医療機関等3を訪問する非効率を防止でき、営業活動をより効率化することが可能となる。
【0087】
なお、上記の実施例においては、医薬品5の管理に求められている環境条件が、医薬品5の周囲温度である例について説明したが、本発明は、医薬品5の管理に求められている環境条件が他の条件である場合に適用されてもよい。例えば、湿度、照度、衝撃、振動、気圧または、これらに温度を含めた条件の組合せを、医薬品5の管理に求められている環境条件とした場合に対し本発明を適用しても構わない。
【0088】
また、上記の実施例における処理は、可能な限り、予め定められたプログラムに基づいて、上記した各サーバによってシステム的に自動処理されるようにしてもよいが、本発明は、上記の実施例に係る処理の一部を人的資源によってマニュアルで実行する、方法としての発明をも含む趣旨である。
【0089】
また、本明細書の説明においては、医薬品5が、抗がん剤、血友病治療剤、バイオ製剤、血漿分画製剤、ワクチン製剤、コンパニオン診断薬、希少疾病用製剤、再生医療等製品といった、スペシャリティ領域の医薬品である前提で説明を行ったが、本発明が適用される対象は、スペシャリティ領域以外の医薬品、医療材料、医療機器、検査試薬、治験薬に適用されてもよい。