特許第6590790号(P6590790)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6590790生体サンプルにおける定量的細胞組成を特定する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6590790
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】生体サンプルにおける定量的細胞組成を特定する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20191007BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   C12Q1/68ZNA
   C12N15/11 Z
【請求項の数】11
【全頁数】124
(21)【出願番号】特願2016-508191(P2016-508191)
(86)(22)【出願日】2014年4月22日
(65)【公表番号】特表2016-515397(P2016-515397A)
(43)【公表日】2016年5月30日
(86)【国際出願番号】EP2014058087
(87)【国際公開番号】WO2014170497
(87)【国際公開日】20141023
【審査請求日】2017年3月24日
(31)【優先権主張番号】61/813,802
(32)【優先日】2013年4月19日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13173442.8
(32)【優先日】2013年6月24日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511145937
【氏名又は名称】エピオンティス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100152319
【弁理士】
【氏名又は名称】曽我 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】オレク,スフェン
(72)【発明者】
【氏名】ホフミュラー,ウルリッヒ
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/014122(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/147578(WO,A1)
【文献】 特開2000−329685(JP,A)
【文献】 特開平10−319010(JP,A)
【文献】 特表2012−511917(JP,A)
【文献】 Epigenetics,2011年,Vol. 6, No. 2,pp. 236-246
【文献】 Epigenetics,2006年,Vol. 1, No. 1,pp. 55-60
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/68
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピジェネティック白血球像又はエピジェネティックTリンパ球像を作成する方法であって、該方法が以下の工程:
a)qPCRアッセイの正規化を達成し、アッセイ効率の差を補正するために、qPCRアッセイ特異的補正因子を決定し提供する工程と、
b)検出対象の各血液細胞に特異的な少なくとも1つのマーカー領域のバイサルファイト変換を含む、生体サンプル中の血液細胞をエピジェネティクス検出し提供する工程と、
c)バイサルファイト変換DNAの相対量をqPCRによって評価することを含み、前記相対量の正規化し、検出された前記血液細胞を、正規化標準を用いて定量化する工程とを含み、
前記正規化標準が検出対象の各血液細胞に特異的な少なくとも1つのマーカー領域と細胞非特異的な少なくとも1つの制御領域とを含む核酸分子であり、該領域が前記分子及び/又は既知の組成の天然血液細胞サンプルに同じコピー数で存在し、
特定の細胞型及び/又は少なくとも1つの特定の細胞亜集団を白血球像、Tリンパ球像の他の細胞から区別する細胞型マーカー領域が検出され、および
配列番号685記載の細胞型マーカー領域における少なくとも1つのCpG位置のバイサルファイト変換が好中性顆粒球の指標となるか、又は配列番号687〜688に記載の細胞型マーカー領域のいずれか1つにおける少なくとも1つのCpG位置のバイサルファイト変換が好酸性顆粒球の指標となる、
方法。
【請求項2】
前記天然血液細胞サンプルが、細胞組成が既知の及び/又は血液及び免疫細胞型の組成が既知の血液サンプルであり、又は予め作製される該血液サンプルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
各細胞型特異的及び非特異的アッセイの前記アッセイ補正因子が、前記天然血液細胞サンプルの定量的組成と、該天然血液細胞サンプルのバイサルファイト変換性クロマチンの相対量とを前記正規化標準を用いて比較することによって得られる、および/または前記生体サンプル中の細胞の相対量の前記補正が前記アッセイ補正因子を用いて得られ、該生体サンプル中の細胞の絶対量及び含有率の指標となる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの細胞非特異的な制御領域が検出対象の全細胞で発現される遺伝子、例えばハウスキーピング遺伝子等から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記正規化標準がバイサルファイト非変換であり、少なくとも1つのバイサルファイト変換性CpG位置を含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記生体サンプルにおける前記細胞型の定量化が、バイサルファイト非変換正規化標準を用いた又はバイサルファイト変換正規化標準を用いた細胞型特異的及び非特異的なクロマチンの相対量の正規化に基づく、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記バイサルファイト非変換正規化標準を用いた正規化が、前記生体サンプル中の細胞の絶対量及び/又は含有率の指標となる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記生体サンプルが未知の細胞組成のサンプルである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記バイサルファイト変換性及び/又は非バイサルファイト変換性DNA又は核酸の相対量の決定が、特異的酵素消化又は色素排除技術、バイサルファイトシークエンシング、次世代シークエンシング、ナノポアシークエンシング、単一分子リアルタイムシークエンシング、バイサルファイト変換DNAに特異的なプライマーを用いた、バイサルファイト変換DNAに特異的なブロッキングオリゴヌクレオチドを用いた、蛍光標識された消光オリゴヌクレオチドプローブを用いた、バイサルファイト変換DNAに特異的な単一ヌクレオチドプライマー伸長用のプライマーを用いたプロモーター領域におけるエピジェネティック修飾の分析、デジタル又は定量的PCR分析、及び特異的選択的(核酸及び/又はクロマチン)沈殿から選択される方法を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
作成された前記組成及び/又はヘモグラムと、同じ哺乳動物から採取された以前のサンプルにおける組成及び/又は対照サンプルにおける組成とを比較することによって、特定された前記生体サンプルにおける前記細胞組成をモニタリングする工程を更に含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
疾患若しくは疾患の素因を診断する又は疾患を発症するリスクを評価する方法であって、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法を行うことと、サンプルを健常被験体のサンプル又は医療参照範囲と比較する場合に特定された前記生体サンプルにおける細胞組成の改善及び変化に基づいて疾患又は該疾患の素因を結論付けることとを含み、
該疾患は、免疫疾患又は病態、移植片拒絶反応、感染性疾患、癌、神経疾患、アレルギー、原発性及び続発性免疫不全、血液悪性腫瘍、リンパ系新生物、成熟B細胞新生物、成熟T細胞新生物及びNK細胞新生物、ホジキンリンパ腫、移植後のリンパ球増殖プロセス、HIV及びAIDS、移植片対宿主病、関節リウマチ、エリテマトーデス、乳癌、大腸癌、食道癌、胃癌、白血病/リンパ腫、肺癌、前立腺癌、子宮癌、皮膚癌、内分泌癌、腎臓癌、膀胱癌、膵臓癌、他の消化管癌、卵巣癌、子宮頸癌、頭頸部癌、腺腫、出生異常、ミオパシー、精神遅滞、肥満、糖尿病、妊娠性糖尿病、多発性硬化症、および喘息からなる群から選択される、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は正規化標準を有利に使用する、生体サンプルにおける細胞組成の定量的な包括的像を特定するエピジェネティック血液細胞計数とも称されるエピジェネティックヘモグラムを提供する。正規化標準は、検出対象の血液及び/又は免疫細胞の各々に特異的な少なくとも1つのマーカー領域と、細胞非特異的な少なくとも1つの制御領域とを含む核酸分子であり、該領域は上記分子及び/又は既知の組成の天然血液細胞サンプルに同じコピー数で存在する。さらに、本発明は生体サンプルの包括的な定量的細胞組成のエピジェネティック評価を行うキット及びキットの使用に関する。生体サンプルは、末梢血単核細胞若しくは末梢血単球等の末梢血、毛細血管血若しくは静脈血のサンプル若しくはその亜画分、又は組織サンプル、器官サンプル、若しくは凍結、乾燥、包埋、保管した若しくは新鮮な体液若しくは組織サンプルを含む、例えば哺乳動物の体液に由来する。
【背景技術】
【0002】
「血球数」、「全血球数」又は「血液細胞プロファイル」は一般に、血液細胞及び/又はそれらの細胞サブグループ(例えば好中球、好酸球、好塩基球、CD19又はCD3細胞、並びにCD3+CD4+細胞及び/又はCD3+/CD8+細胞等のそれらのサブグループ)の数、比率及び外観を決定する一連の試験を表す。かかる血球数は、障害の広域スクリーニング試験又は個体の全身健康状態の決定のような臨床診断法に使用される。概して、「血球数」はヘマトクリット値、ヘモグロビン、総血液細胞及び赤色血液細胞指数(例えば平均赤血球容積、平均赤血球ヘモグロビン、平均赤血球ヘモグロビン濃度、赤色血液細胞分布)の定量化を対象とするアッセイを含む。
【0003】
白色血液細胞(白血球とも称される)は細胞免疫系(細胞免疫系としてB細胞を含む全ての免疫細胞を明示的に規定する)の一部であり、異物(例えば特にウイルス、細菌、寄生生物等)だけでなく、腫瘍細胞等の罹患自己細胞の異常にも起因する病理学的影響から哺乳動物を守る上で重要な役割を果たす。加えて、免疫細胞自体もIPEX症候群等の原発性(先天性)免疫疾患又は例えばAIDS、HIV等の続発性(後天性)免疫疾患のような疾患にかかる。前者の場合は免疫系自体が損なわれるが、後者の場合は外部因子(ウイルス感染、放射線、化学療法又は環境因子等)が免疫系の低下を引き起こす。幾つかのタイプの白血球が存在し、それらは骨髄細胞系列、例えば好中性、好酸性及び好塩基性顆粒球、マスト細胞並びにマクロファージに由来するか、又は全リンパ球亜集団、例えばT細胞、B細胞、NK細胞等を含むリンパ系に由来する。免疫系及びその細胞成員の組成は多くの分析に供されているため、この正常免疫細胞の数(又は比率)の異常は容易に認識することができ、診断に使用され、臨床決定に用いることができる。このため、これらの細胞の比率及び数は、疾患又は疾患の治療又は他の内部若しくは外部因子に起因し得る任意の異常又は明らかな変化を検出するために日常診断又は分析ツールとして、また臨床研究又は試験において臨床状況で定期的に分析されている。例えば、血球数は白血球減少症若しくはリンパ球減少症又は白血球増加症若しくはリンパ球増加症、例えば顆粒球増加症の発症/発生の診断に用いられている。さらに、血球数は、全体的又は特定の白血球又はリンパ球数の変化に起因する、該変化をもたらす又はその治療が該変化を引き起こし得る全ての疾患の治療成功をモニタリングするために行われる。例えば感染、貧血、白血病又は化学療法の影響の診断又はモニタリングには、いわゆる「差次的」全血球数が免疫細胞及びその亜集団を分析及び特定するために用いられる。一部の原発性及び続発性免疫障害では、この手順が唯一の利用可能な診断ツールであり得る。差次的血球数は総白色血液細胞、好中性顆粒球、リンパ球、単球、好酸性顆粒球及び好塩基性顆粒球の定量化を対象とするアッセイを含む。
【0004】
日常的には可溶性細胞、すなわち主に血液だけでなく可溶化組織又は体液についても、かかる特異的免疫細胞プロファイルはフローサイトメトリー又は固形組織の免疫組織化学(IHC)によって測定される。どちらの技術も、細胞亜集団の各サブタイプに特異的な細胞膜上に露出したタンパク質エピトープに基づいて行われる。近年、研究は白血球亜集団の生物学的役割に重点を置いており、かかる集団の特定を可能にする臨床用途及び研究用途に強い需要が生じている。
【0005】
技術的には、日常診断ではヘマトクリット値、ヘモグロビン及び総白血球数は光検出及び電気インピーダンスに基づく自動細胞計数器によって決定される。好中性、好酸性、好塩基性顆粒球、単球及びマスト細胞を含む差次的な白血球数は、血液塗抹標本における顕微鏡を用いた手動計数又は自動計数によって決定される。
【0006】
T細胞集団の検出を可能にする付加的な方法はMHCマルチメトリック分析、サイトカイン捕捉アッセイ、個別T細胞検出(ELISPOTアッセイ)、又は免疫細胞の単なる定性的検出及び局在化(免疫組織化学的分析)である。フローサイトメトリーと同様に、これらのアッセイはタンパク質の検出に基づき、特異的発現レベルとは無関係のマーカーは使用されない。これら全てのアッセイ及びmRNAの検出に基づく全てのアッセイは細胞によって異なることに注目すべきである。これは或る特定のタンパク質に対して明らかに陽性の細胞であっても時間的に変化する量のタンパク質を提示するためである。したがって、「陽性」の閾値を所与の抗体の親和性及び非特異的結合特性、並びに標的タンパク質の表面発現の平均量に応じて各々全てのタンパク質マーカーについて決定する必要がある。
【0007】
個体中の殆どの細胞が全く同じ相補性/組成のDNAコードを含有するにもかかわらず、高等生物では様々なタイプの組織で異なるパターンの遺伝子発現が与えられ、維持される。殆どの遺伝子調節は細胞の現状及び外部刺激の変化に応じて一過性である。一方で、持続性の調節がDNAの基本的な遺伝コードを変更しない遺伝性の制御パターンであるエピジェネティクスにおいて主要な役割を果たす。DNAメチル化はエピジェネティック調節の原型的な形態であり、安定な細胞記憶として働き、様々な細胞型の長期同一性の維持において重要な役割を果たす。近年、エピジェネティック調節の他の形態が発見されている。「5番目の塩基」である5-メチルシトシン(mC)に加えて、6番目(5-ヒドロキシメチルシトシン、hmC)、7番目(5-ホルミルシトシン、fC)及び8番目(5-カルボキシシトシン、cC)を見ることができる(非特許文献1)。上述のDNA修飾の主要な標的は2ヌクレオチド配列シトシン−グアニン(「CpG部位」)であり、この状況下でシトシン(C)は単純な化学修飾を受けてホルミル化、メチル化、ヒドロキシメチル化又はカルボキシル化し得る。ヒトゲノムにおいては、CG配列は「CpGアイランド」と呼ばれる幾つかの比較的密なクラスターを除いて予期されていたよりもはるかに稀である。CpGアイランドは遺伝子プロモーターと関連することが多く、ヒト遺伝子の半数超がCpGアイランドを有すると推定されている(非特許文献2)。
【0008】
近年記載されているシトシン修飾の1つである5-ヒドロキシメチル化では、CpGアイランドの5hmCをマッピング及び定量化する酸化的バイサルファイトシークエンシングの有用性が示されている(非特許文献1)。
【0009】
本発明において、「バイサルファイト変換性クロマチン」という用語は、バイサルファイトによりシトシンを化学修飾するクロマチン構造(例えば十分に開かれた構造)を意味するものとする。したがって、「DNAバイサルファイト変換性」という用語は、上記クロマチン及び/又は該クロマチンの一部であるそれぞれの核酸におけるバイサルファイト処理を用いて変換され得る(又は変換された)シトシン塩基の範囲に関する。この用語は、参照核酸(プラスミド等)におけるバイサルファイト処理を用いて変換され得る(又は変換された)シトシン塩基の範囲にも関する。また、「非バイサルファイト変換性クロマチン」又は「非バイサルファイト変換性核酸」という用語は、バイサルファイト処理を用いて変換することができない(又は変換することができなかった)シトシン塩基の範囲に関する。
【0010】
上述のように、新たな3つのシトシン修飾が近年発見された。したがって、今後の科学的知見から以前に記載されたバイサルファイト変換性のエピジェネティックパターンのより正確な解釈がもたらされることが予期される。これらの以前のシトシン修飾の結果は、バイサルファイト変換性(非メチル化、非修飾)及び非変換性(メチル化、修飾)シトシンを包含する。どちらの用語も記載のように再解釈する必要がある。新規の科学的知見によると、(i)非バイサルファイト変換性シトシンは5-メチルシトシン(mC)及び5-ヒドロキシメチルシトシン(hmC)を包含し、(ii)バイサルファイト変換性シトシンは5-ホルミルシトシン(fC)、5-カルボキシシトシン(cC)及び非修飾シトシンを包含する。
【0011】
さらに、以前の発明は、(i)全クロマチン量に対するバイサルファイト変換性シトシンの比率(細胞型に依存しない、100%のバイサルファイト変換性DNA遺伝子座)、又は(ii)非バイサルファイト変換性シトシン(hmC及びmC)に対するバイサルファイト変換性シトシン(fC、cC、非修飾シトシン)の比率に基づくものである。これらの比率は細胞型、細胞分化、細胞段階及び病理学的細胞段階の特性化に用いられる。したがって、新たな技法によって新規のより特異的な比率が得られ、現在のエピジェネティック修飾の細胞特異的な、細胞状態特異的な病理学的パターンが補完され、それにより潜在的な新規のバイオマーカーが規定される。バイオマーカーとして発見される新規の比率は以下のように規定され得る:
【数1】
ここで、a及びbは1種〜4種の修飾で互いに異なる。新規のDNA修飾の発見によりこの列挙が確実に拡大される。
【0012】
本出願の目的上、DNA配列におけるエピジェネティック修飾は、(i)バイサルファイト変換性シトシン(5-ホルミルシトシン、(fC)及び/又は5-カルボキシシトシン(cC))及び(ii)非バイサルファイト変換性シトシン(5-メチルシトシン(mC)、5-ヒドロキシメチルシトシン、(hmC)を含む)という専門用語で称される。どちらの種類のメチル化についても、mC及びhmCはバイサルファイト変換性でなく、これら2つを区別することは可能ではない。同様に、fC、cC及び非修飾シトシンはバイサルファイト変換性であり、同様に互いに区別することはできない。
【0013】
さらに、DNAの修飾以外にヒストンもDNA及び核タンパク質との相互作用を変更する翻訳後修飾を受ける。修飾としては、メチル化、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化、SUMO化、シトルリン化及びADPリボシル化が挙げられる。ヒストンH2A、H2B及びH3のコアも修飾され得る。ヒストン修飾は遺伝子調節、DNA修復、染色体凝縮(有糸分裂)及び精子形成(減数分裂)等の多様な生物学的プロセスで作用する。これらの修飾についても、特定の修飾パターンが異なる細胞型、細胞段階、分化状態に特異的であり、かかるパターンをバイサルファイト変換性について又は同様の方法で分析し、幾つかの細胞及び細胞段階を特定することができる。本発明はこれらの修飾の使用も包含する。
【0014】
DNA修飾の更なる変形が将来発見されることが予期されている。各タイプの修飾はバイサルファイト変換性又は非変換性である。これら新規の修飾はバイオマーカー読み取り値としても用いることができる。さらに、バイサルファイト修飾の新規の方法が確立され、異なるセットの変換性及び非変換性DNAが得られることが予期されている。
【0015】
細胞免疫状態の報告が臨床的又は分析的に有用である指標の多様性は非常に大きい。ほぼ全ての疾患で細胞免疫状態は直接関連するか、又は癌のように続発性免疫障害及び異常を引き起こし得る薬物の影響により関連する。この疾患状況における全身免疫状態の広範な重要性はこれらのパラメーター、すなわち白血球サブタイプ及び亜集団を測定する方法の顕著な需要を生じる。
【0016】
この需要に対応する現在の方法は、十分に確立され、病院用のハイスループットシステムに開発され、参照試験所における標準的な手順であり、より単純な用途で実行者が利用可能であるフローサイトメトリー法及び免疫組織化学法によるものである。しかしながら、幾つかの問題及び要件によりフローサイトメトリー及び免疫組織化学の適用性が限られている。
【0017】
a)フローサイトメトリーでは細胞は無傷である必要がある。これは血液サンプルを「新鮮な」状態で測定する必要があり、任意の測定の遅延が結果の偏差を生じ得ることを意味する。経験則からサンプルは8時間以内に測定するべきであり、これはその期間後に顆粒球(血液中の主要な一細胞画分)が分解し始めるためである。新鮮な取扱いの代替手段として血液サンプルを凍結保存することが可能であるが、パフォーマンス及び再現性に関連した重要な問題がある。結果として、臨床日常におけるフローサイトメトリーは回避され、多くの潜在的に重要な分析が除外されており、免疫マーカーが治療予測の主なバイオマーカー候補である臨床試験では無視されることが多く、又は規則により義務付けられる場合に追加の機器を配置する必要がある。
【0018】
b)抗原発現はデジタル(オン−オフ)ではなく、アナログ(低、中、高)のプロセスである。したがって、陽性対陰性のシグナルを規定する閾値を決定しなければならない。これは幾つかのマーカーでは問題ではないが、他の閾値については非常に困難及び不正確である。
【0019】
c)フローサイトメトリーについては、多くの細胞型が表面(分化クラスター−CD)分子によっては簡単に特定されず、一部の細胞型が細胞内又は細胞外の可溶性タンパク質、例えば転写因子又はサイトカインを特徴とするという問題がある。現在のTfh、Th1、Th2細胞及びTregのマーカーはこのカテゴリーの細胞型に属し、完全に標準化された手順の適用は更に困難である。これは細胞に結合させるために細胞型特異的マーカーを捕捉する必要があるためである。
【0020】
d)さらに、フローサイトメトリーは分析される基質(細胞懸濁液)の溶解性に依存する。これに関して、組織細胞は酵素消化によって可溶化することができるが、これにより多くの場合、それらの表面分子の喪失が生じ、フローサイトメトリー分析の主要標的であるCDマーカーが無用となる。
【0021】
e)多くの場合、表面マーカーも細胞内又は細胞外マーカーも100 %細胞型特異的ではない。定量化を幾らか不正確とする、幾つかの遺伝子産物の「漏出」発現が報告されている(非特許文献3)。
【0022】
f)免疫組織化学はフローサイトメトリーと同じ原理に基づくため、特異性の問題が共通する。しかしながら、この技術の主な問題は半定量的でしかないとみなされていることである。特に、正確に区別及び計数することが困難な様々な異なる細胞層の存在のために総細胞計数が実行可能でないということが特定の問題である。
【0023】
態様e)に関する限り、本発明者らは以前に発現された表面エピトープを検出するフローサイトメトリーを提供する公報を公開したが、細胞型特異的エピトープ発現と細胞型とは無関係のエピトープ発現の誘導とを区別することはできず、幾つかの表面マーカーを現在発現していない又は発現の低い特定の細胞を検出することができなかった。CD4+CD25+CD45RA+ T細胞のin vitro刺激は例えばFOXP3の高発現レベルをもたらすため、FOXP3遺伝子は依然としてメチル化されており、したがって不活性化される(非特許文献4)。さらに、in vitroで分化されたTh17細胞では、高レベルのIL-17A転写産物にもかかわらずIL-17Aプロモーターの脱メチル化は観察されなかった(非特許文献5)。一方、メチル化がマーカー発現と関連することが開示されている(非特許文献6、非特許文献5、非特許文献7、非特許文献8及び非特許文献9)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Michael J. Booth et al. Quantitative Sequencing of5-Methylcytosine and 5-Hydroxymethylcytosine at Single-Base Resolution Science18 May 2012, Vol. 336 no. 6083 pp. 934-937
【非特許文献2】Antequera and Bird, Proc Natl Acad Sci USA 90: 11995-9,1993
【非特許文献3】Wiezcorek et al., Cancer Res. 2009 Jan 15;69(2):599-608
【非特許文献4】Baron et al., Epigenetics. 2006 Jan-Mar;1(1):55-60
【非特許文献5】Janson P.C.J. et al. Profiling of CD4+ T cells with epigeneticimmune lineage analysis. The Journal of Immunology. 2010, 92-102
【非特許文献6】Hamerman, Page, Pullen. Distinct methylation states of the CD8&szlig; gene in peripheralT cells and Intraepithelial Lymphocytes. The Journal of Immunology 1997,P1240-1246
【非特許文献7】Melvin et al. Hypomethylation in IFN-Gamma Gen correlates withexpression of IFN-G, including CD8 cells., Eur J Immunol. 1995 Feb;25(2):426-30
【非特許文献8】Landolfi MM et al. CD2-CD4-CD8-lymph node T lymphocytes in MRL lpr/lpr mice are derived from a CD2+CD4+CD8+thymic precursor J Immunol. 1993 Jul 15; 151(2):1086-96
【非特許文献9】Carbone AM et al. Demethylation in CD8 suggests that CD4+ derivesfrom CD8+ cells. Role of methylation pattern during celldevelopment. Science. 1988 Nov 25;242(4882):1174-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
臨床診断及び製薬研究の両方における上述の需要を鑑みると、より正確な、ひいては著しく改善されたヘモグラムを確立するために、サンプル中の様々な細胞型の正確かつ包括的な定量化を提供する新たな方法が所望されている。本開示、特に下記実施例を読むことで更なる目的及び利点が当業者に明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0026】
その第1の態様では、この目的は、エピジェネティックヘモグラムを作成する方法であって、該方法が生体サンプル中の血液細胞をエピジェネティクス検出する工程と、検出された前記血液細胞を、正規化標準を用いて定量化する工程とを含み、前記正規化標準が検出対象の各血液細胞に特異的な少なくとも1つのマーカー領域と細胞非特異的な少なくとも1つの制御領域とを含む核酸分子であり、該領域が前記分子及び/又は既知の組成の天然血液細胞サンプルに同じコピー数で存在する、方法による本発明によって解決される。
【0027】
本発明の要点及び基礎は様々な異なる細胞型特異的バイサルファイト変換性DNAマーカーの使用である。これらのマーカーは単一の血液及び免疫細胞型の特定及び定量化に用いられる。
【0028】
原則として、既知のエピジェネティック手順に基づく細胞型の定量化及び血液細胞計数を行う方法は以前に示されている(非特許文献3、Sehouli et al. Epigenetics. 2011 Feb;6(2):236-46.)。簡潔に述べると、いずれの細胞型特異的に修飾された遺伝子領域も特異的に(増幅され)計数されるため、細胞型特異的遺伝子領域の反対の種とともに定量化される。独立した定量化をもたらすために、続いてこれら2つの測定を関連付け、所与の(血液)サンプルにおける細胞型のパーセンタイル部を得る。
細胞型特異的ゲノム領域のバイサルファイト変換性DNAのコピー数/(細胞型特異的ゲノム領域のバイサルファイト変換性DNAのコピー数)+(細胞型特異的ゲノム領域の非バイサルファイト変換性DNAのコピー数)=%細胞型
【0029】
代替的には、細胞型特異的遺伝子領域のバイサルファイト変換性DNAのコピー数を測定し、所与のサンプルにおける細胞型非特異的遺伝子領域のバイサルファイト変換性DNAのコピー数で除算する。後者は、完全にバイサルファイト変換性の細胞非特異的な遺伝子領域、又は全細胞型において一様にバイサルファイト非変換性若しくはバイサルファイト変換性であることが知られる領域を用いて全てのDNAコピーを測定することによって決定することができる。
細胞型特異的ゲノム領域のバイサルファイト変換性DNAのコピー数/細胞型非特異的ゲノム領域のバイサルファイト変換性DNAのコピー数=%細胞型
【0030】
したがって、単一の特異的バイサルファイト変換性ゲノムマーカーが既知である場合、以前に確立されたシステムにより所与のサンプルにおけるいずれか1つの細胞型の相対的(パーセンタイル(%))定量化が可能である。これに関し、コピー数又はコピー当量の任意の所与の標準化を使用することができる。得られる問題の細胞型のパーセンタイル占有率は異なる方法で測定される細胞の占有率と相関する。ここで、「相関する」とはスピアマン相関によると、エピジェネティック技術によって測定された最低の占有率が、例えばフローサイトメトリーによって測定された最低の占有率と一致することを意味する。かかるシステムは非常に安定し、技術的にロバストであり、信頼性があることが示されている。したがって、高度に細胞特異的なバイサルファイト変換性DNAマーカーが達成される場合には、理論上は特異的なバイサルファイト変換性ゲノムマーカー領域を有するこれらの細胞の量の精密かつ正確な決定が可能である。
【0031】
リアルタイム(RT-)PCRシステムの効率及びパフォーマンスがプライマー、プローブを含むRT-PCR成分及びDNAの純度に応じて異なることが知られている。したがって、どのCp(交点)又はCt(サイクル閾値)の値で標準DNAの所与の(既知の)量を検出することができるかを知るという問題を説明するために標準が用いられる。上記標準DNAの希釈系列は標準曲線をもたらし、異なる方法で行われる/効率的なRT-PCRシステムの正規化を可能にする。定量化は等価システムで行われるため、パフォーマンスの差が正規化される。しかしながら、対処される問題は生物学的及び/又は化学的に変更されたDNAの検出を目的とするDNAに対して行われる(RT-)PCRに関する。この生物学的及び/又は化学的に変更されたDNAの複雑さは正常/天然のゲノムDNAとは異なる(プラスミドが4塩基(CTGA)の二本鎖DNAからなる一方で、ゲノムDNAが二本鎖5塩基(CTGACm)からなり、バイサルファイト変換DNAが一本鎖3塩基(TGA)のみからなるためにDNA分子の複雑さが異なるという単純な事実による)。このため、増幅効率は標準がプラスミド又はゲノムDNAである場合に標的DNA(すなわち、ヒト染色体ゲノム又はバイサルファイト変換DNA)と標準DNAとで異なるが、より重要なことには、(プラスミド)標準と標的DNAとの「増幅効率の差」は増幅標的(すなわちプライマー対、プローブ等)間で異なる。これによりqPCRを、バイサルファイト処理し、増幅したDNAに対して行う場合に例えば以下のような多数の観察結果が生じる。
【0032】
サンプル中の異なる血液細胞を測定する場合、用いられる方法とは無関係に総細胞数は同等であるものとする。しかしながら、異なるqPCRアッセイのパフォーマンスについて均等に分布した所与のサンプルでは、各反応への個々の標準の使用にかかわらず検出される総コピー数は異なる。これにより、(例えば)異なるRT-PCRシステムを用いて測定される血液サンプルの場合に以下の問題が生じる(ここでは例としてCD3が示される)。
【0033】
【表1】
表1:血液サンプルのバイサルファイト処理した増幅DNAを用いたエピジェネティックqPCRに続く全DNAコピー数及び定量的細胞含量の算出。(CP)交点、(CN-BC)バイサルファイト変換CD3+マーカーDNA領域のコピー数、(CN-NBC)非バイサルファイト変換CD3+マーカーDNA領域のコピー数、(CN-GAPDH)バイサルファイト変換GAPDHマーカーDNA領域のコピー数。
【0034】
表1に示されるように、算出された全CD3+ DNAコピー数は使用される2つの標準化システム間で異なる:バイサルファイト変換対非変換DNA及びバイサルファイト変換CD3+マーカー領域対バイサルファイト変換GAPDH(全細胞)マーカー領域。第1の血液サンプル(WBL02)については、GAPDHバイサルファイト変換DNA数によって算出されたCD3+ DNAコピー数(1420コピー)は、非バイサルファイト変換CD3+ DNAコピー数に加えたバイサルファイト変換CD3+DNAコピー数によって算出されたもの(1678コピー)より小さい。第2のサンプル(WBL03)についても状況は同様である。これらの算出されたコピー数をこれら2つの血液サンプルにおけるCD3+細胞の定量化に用いた場合に差はより明らかとなる。サンプルWBL02については、バイサルファイト変換対非変換DNAのコピー数による定量化では36.6 %のCD3+細胞という結果になり、バイサルファイト変換CD3+DNAコピー数対バイサルファイト変換GAPDH DNAコピー数による定量化では50.1 %のCD3+細胞という結果となった。両方の結果及び方法は大きく異なる。
【0035】
上述のように、バイサルファイト変換プラスミド標準の正規化を行う場合であっても、異なるアッセイの異なるパフォーマンス/効率は同じコピー数につながる訳ではない。
【0036】
この問題は、精製細胞型を「それらに」特異的なエピジェネティック細胞型マーカーを用いて測定し、サンプルにおける細胞の総量(細胞型非特異的マーカー(GAPDH)によって測定される)と比較し、細胞型特異的マーカー領域(ここではFOXP3)の非バイサルファイト変換性DNAによって測定する場合に特に明らかとなる。
【0037】
【表2】
表2:精製Tregの2つのサンプルにおける制御性T細胞(Treg)の定量的量の評価。DNAを単離し、バイサルファイト処理し、バイサルファイト変換及び非変換DNAの相対量をqPCRによって評価した。細胞特異的FOXP3領域中のバイサルファイト変換DNAのコピー数を、細胞非特異的GAPDH領域中のバイサルファイト変換DNA及び細胞型特異的FOXP3領域中のバイサルファイト非変換DNAのコピー数に関連付け、定量的なTregの数を得た。(CP)交点)、(CN-BC)バイサルファイト変換細胞型特異的FOXP3 DNA領域のコピー数、(CN-NBC)非バイサルファイト変換細胞型特異的FOXP3 DNA領域のコピー数、(CN-GAPDH)バイサルファイト変換GAPDHDNA領域のコピー数。
【0038】
表2からも明らかなように、両方の定量化方法の結果は大きく異なる(97 %対102 %及び97 %対106 %)。
【0039】
最後に、総合すると存在するサンプル中の全細胞となる異なる細胞画分、例えば血液の白血球を測定する場合、上記の問題のために正しい「全血球数」を得ることは不可能である。この一例として、2つの血液サンプルで白血球を定量化した(表3、サンプル04及びサンプル08)。ここで、白血球という用語は、5つ全ての白色血液細胞型:顆粒球、単球、Bリンパ球(lymphocytes)、ナチュラルキラー細胞及びCD3+ Tリンパ球をまとめたものである。したがって、単細胞数は合計100 %となり、(完全な)白血球像を表すことが予期されていた。しかしながら、エピジェネティックqPCR分析を用いた場合、これに当てはまらないことが多い(表3を参照されたい)。白血球の個々の量の総計は多くの場合、100 %とは異なる。
【0040】
【表3】
表3:2つの血液サンプルの定量的細胞組成の評価。DNAを単離し、バイサルファイト処理し、バイサルファイト変換DNAの相対量をqPCRによって評価した。細胞特異的領域中のバイサルファイト変換DNAのコピー数を、GAPDHの細胞非特異的DNA領域のバイサルファイト変換コピー数に関連付け、定量的な白血球数を得た。(CN-BC)バイサルファイト変換細胞型特異的マーカーDNA領域のコピー数、(CN-GAPDH)バイサルファイト変換GAPDHマーカーDNA領域のコピー数。
【0041】
上述のエピジェネティック細胞定量化の問題をまとめると、正確な血球計数ツールは以下のことをもたらす:
1.正確な包括的血液及び免疫細胞数の評価を可能とする、
2.使用される標準と分析対象の生体サンプルとの間のアッセイのパフォーマンス及び/又は効率の差を克服する、
3.計数される細胞(無傷の又は無傷ではない細胞)の膜統合性とは無関係である、及び、
4.細胞を含有するサンプルのタイプ(新鮮、凍結、包埋、保管、体液(fluids)、固形組織)とは無関係である。
【0042】
本発明はかかるツール及びそれぞれの方法を提供する。本発明によると、エピジェネティックヘモグラムの評価は、バイサルファイト非変換又は変換正規化標準に対するqPCR結果の正規化による細胞の絶対量の測定を含む。正規化標準は、検出対象の各血液細胞に特異的な少なくとも1つのマーカー領域と、細胞非特異的な少なくとも1つの制御領域とを含む核酸分子からなり、該領域は上記分子及び/又は既知の組成の天然血液細胞サンプルに同じコピー数で存在する。
【0043】
本方法の好ましい実施の形態の第1の工程では、qPCRアッセイ特異的補正因子を決定することで全qPCRアッセイの正規化及び比較性を達成し、アッセイ効率の差を補正する。第2の工程では、生体サンプルのDNAを単離、精製及びバイサルファイト処理する。その後、バイサルファイト変換された細胞型特異的及び/又は細胞型非特異的ゲノムマーカー領域に特異的なqPCRを行う。次いで、qPCR増幅結果をマーカーDNAコピーの相対量、ひいては特定の細胞の相対量を表す上記正規化標準を用いて正規化する。正規化標準はバイサルファイト変換ゲノムマーカー領域を含有するか、又は天然のバイサルファイト非変換マーカー領域を含有する。qPCRを始める前に、後者の場合は分析対象の生体サンプルの処理と並行して、核酸をバイサルファイト処理する。qPCRに続く次の工程では、正規化されたマーカーDNAコピーの相対量を本明細書に記載のアッセイ特異的な補正因子で補正することで、細胞の絶対量を示すアッセイ効率の差を補正する。
【0044】
本方法は、例えば乾燥、凍結、包埋、保管した及び新鮮な体液、乾燥血斑、血餅及び組織サンプル等の生体サンプル中の無傷でない血液細胞だけでなく無傷の血液細胞の定量化も可能にする。サンプルは精製又は富化した細胞を含有しない。さらに、本発明の方法は、細胞の同一性及び量がタンパク質発現レベルとは無関係のゲノムレベルでの明確な有無(yes/no)情報に基づく血球数を提供する。
【0045】
したがって、本発明は医学的用途の分析及び診断ツール並びに療法の決定根拠として使用される血液及び/又は免疫細胞数を提供する。
【0046】
上記検出及び定量化に基づいて包括的血液像を得る工程を更に含む、本発明による方法が好ましい。これにより、血液細胞数から多数のエピジェネティックパラメーターに基づく細胞組成の包括的像が特定される。これらのエピジェネティックパラメーターの組合せを用いて血液又は組織サンプルの細胞組成、すなわちエピジェネティックヘモグラムが特定され、該エピジェネティックヘモグラムは細胞特異的ゲノム領域のバイサルファイト変換性の分析に基づいて提供される。
【0047】
前記エピジェネティックヘモグラムは白血球像、及び/又はTリンパ球像、及び/又は顆粒球像、及び/又は単球像、及び/又はBリンパ球像、及び/又はNK細胞像を含むのが好ましい。
【0048】
本発明による方法は、例えばqPCR結果の正規化へのバイサルファイト非変換又は変換正規化標準の使用を更に含むのが好ましい。「バイサルファイト非変換」正規化標準という用語は、ホルミル化、カルボキシル化、メチル化又はヒドロキシメチル化等の元の/一次生物学的修飾を含有する、すなわちバイサルファイト処理していない、したがってバイサルファイト非変換の天然DNA分子を包含する。「バイサルファイト変換」正規化標準という用語は、既にバイサルファイト変換された細胞型特異的及び非特異的マーカー領域に対応する(ゲノム)マーカー配列を含有するDNA分子を包含する。
【0049】
前記バイサルファイト非変換又はバイサルファイト変換核酸分子はプラスミド、酵母人工染色体(YAC)、ヒト人工染色体(HAC)、P1由来人工染色体(PAC)、細菌人工染色体(BAC)及びPCR産物から選択されるのが好ましい。バイサルファイト変換正規化標準はプラスミド、酵母人工染色体(YAC)、ヒト人工染色体(HAC)、P1由来人工染色体(PAC)、細菌人工染色体(BAC)又はPCR産物である。
【0050】
天然血液細胞サンプルは、好ましくは細胞組成が既知の及び/又は血液細胞型の組成が既知の血液サンプルであり、好ましくは予め作製される、すなわち組み合わされる血液細胞型の量及び数が予め決定されている。
【0051】
本発明による方法の好ましい実施の形態では、正規化標準、すなわちプラスミド、YAC、HAC、PAC、BAC及びPCR産物は細胞特異的及び非特異的なゲノムマーカー領域(エピジェネティックヘモグラムにより分析される)を上記分子に同じ既知のコピー数で含有する。一実施の形態では、これらの標準は各々、確立されるエピジェネティックヘモグラムにおいて同じ数の全細胞型特異的及び非特異的なゲノムマーカー関心領域を含有する単一分子である。バイサルファイト非変換正規化標準として使用される天然血液細胞サンプル(好ましくはヒト等の哺乳動物)は既知の組成及び量の細胞を含有するため、細胞を予め精製及び予め混合して、同様に予め決定された既知の組成のサンプルを得ることができる。
【0052】
分析処理において、バイサルファイト非変換正規化標準は分析対象の生体サンプルのバイサルファイト処理と並行して、同じ方法でバイサルファイト処理される。
【0053】
次に、未知の生体サンプル及び(今回)バイサルファイト処理されるバイサルファイト非変換正規化標準に対するqPCRを、細胞型特異的又は非特異的なバイサルファイト変換ゲノム領域の検出を助ける特異的プライマーを用いて行う。対照的に、バイサルファイト変換正規化標準はバイサルファイト変換ゲノム領域に特異的なqPCRプライマーによって認識されるバイサルファイト変換マーカー配列に対応する特異的マーカー配列を既に含有するため、(明らかに)バイサルファイト処理されていない。
【0054】
好ましい実施の形態では、正規化標準はヘモグラムによって検出及び分析される血液細胞型を所定量含む。規定のコピー数及び同じ化学量論量の特定の細胞及び/又は細胞型特異的及び/又は細胞型非特異的マーカー領域からなる正規化標準を使用するのが好ましい。ヘモグラムの対象の全細胞型について同じコピー数及び/又は化学量論量の細胞型特異的及び/又は細胞型非特異的マーカー領域を含有する単一プラスミドが好ましい。
【0055】
本発明による方法の好ましい実施の形態は、作成された上記エピジェネティックヘモグラムをアッセイ特異的補正因子で補正する工程を更に含む。(検出及び分析される細胞の)上記アッセイ特異的補正因子は、準備された上記哺乳動物の天然細胞サンプル中の細胞の既知の定量的量と、正規化標準を用いたqPCRによって評価された上記哺乳動物の天然細胞サンプルのバイサルファイト変換細胞型特異的マーカーDNAのコピー数の相対量とを比較することによって決定される。このアプローチを用いることで、起こり得る任意のアッセイ特異的変動が考慮されるため、本方法は細胞の精密な定量化を可能とする。アッセイ特異的補正因子は使用する正規化標準の種類に応じて異なり得る。生体サンプル及びその処置と適合する正規化標準及びその分析処理が多いほど、アッセイ特異的補正因子がより1に近づき、又は更には無視することができる。好ましい実施の形態では、天然細胞サンプルに複雑さ及び不純さが似ているためにバイサルファイト非変換正規化標準を使用し、したがってqPCR効率を生体サンプルと標準との間で調整するものとする。本明細書に記載の既知の細胞組成及び量の哺乳動物の天然細胞サンプルの使用が最も好ましい。
【0056】
次に、本発明による方法は、未知の組成の生体サンプル中の細胞型特異的及び非特異的なDNAの(コピーの)相対量を決定する工程を含む。これは、バイサルファイト変換された細胞型特異的及び非特異的なDNAマーカー配列に特異的なプライマーを用いる上記生体サンプルの単離、精製及びバイサルファイト変換されたDNAに対するqPCRによって達成される。全ての標的細胞型のqPCR増幅結果を、標的細胞の相対量を示す上記バイサルファイト非変換又は変換標準に対して正規化する。使用する標準及びアッセイに応じて、特定のアッセイ補正因子を標的細胞の相対量に適用し、確立される上記ヘモグラムによる細胞の絶対量及び含有率を得る。それにより、上記生体サンプルにおける絶対的な包括的細胞組成が決定される。使用する正規化標準に応じて、アッセイ補正因子は1とは異なるか、又はおよそ1であり、無視することができる。細胞型特異的及び非特異的なDNAの(コピーの)相対量を決定する他の方法は、特異的酵素消化又は色素排除技術、バイサルファイトシークエンシング、次世代シークエンシング、ナノポアシークエンシング、単一分子リアルタイムシークエンシング、バイサルファイト変換DNAに特異的なプライマーを用いた、バイサルファイト変換DNAに特異的なブロッキングオリゴヌクレオチドを用いた、蛍光標識された消光オリゴヌクレオチドプローブを用いた、バイサルファイト変換DNAに特異的な単一ヌクレオチドプライマー伸長用のプライマーを用いたプロモーター領域におけるエピジェネティック修飾の分析、デジタル又は定量的PCR分析、及び特異的選択的(核酸及び/又はクロマチン)沈殿から選択される方法を含む。
【0057】
標的細胞の相対量の決定が、決定される上記バイサルファイト変換細胞特異的領域のコピー量と、決定される細胞型に非特異的なバイサルファイト変換領域のコピー量との比較に基づき、それによりサンプル中に存在する全細胞に対する特定の細胞型の相対量が特定される、本発明による方法が好ましい。
【0058】
本発明による一実施の形態では、標的細胞の相対量は決定される上記バイサルファイト変換細胞特異的領域のコピー量と、決定されるバイサルファイト非変換細胞特異的領域のコピー量との比較に基づいて決定され、それによりサンプル中に存在する他の全ての細胞に対する標的細胞の相対量が特定される。
【0059】
本発明による方法の好ましい実施の形態では、エピジェネティックアッセイの以前の評価において推定/算出された細胞特異的アッセイ補正因子に関する情報を含む更なる知識ベースを生成する。これらの値は特に好適な正規化標準を選択するために有利に使用することができる。
【0060】
本発明による方法の特に好ましい実施の形態では、特定の細胞型及び/又は少なくとも1つの特定の細胞亜集団を白血球像、Tリンパ球像、顆粒球像、単球像、Bリンパ球像及び/又はNK細胞像の他の細胞から区別する細胞型マーカー領域を検出する。a)前記白血球像がTリンパ球、ナチュラルキラー細胞、Bリンパ球、単球及び/又は顆粒球からなり、b)前記Tリンパ球像がCD3+CD4+細胞、CD3+CD8+細胞、+CD8-CD4-細胞、及び/又はCD8+CD4+細胞からなり、c)前記顆粒球像が好塩基性顆粒球、好酸性顆粒球、好中性顆粒球、及び/又は顆粒球性骨髄由来サプレッサー細胞からなり、d)前記単球像がCD14+単球、CD14-単球、マクロファージ、単球性骨髄由来サプレッサー細胞、形質細胞様樹状細胞、骨髄樹状細胞、及び/又は全樹状細胞からなり、e)前記Bリンパ球像がナイーブB細胞、プレB細胞、記憶B細胞、移行性B細胞及び/又は未熟B細胞からなり、f)前記NK細胞像がCD56dim及び/又はCD56brightNK細胞からなる。
【0061】
好ましくは、決定されたヘモグラムにおいてサブヘモグラム(又は亜集団)を決定することができる。好ましいものは、例えば、Th1、Th2、Th9、Th17、Th19、Th21、Th22、Tfh、CD4+ナチュラルキラー細胞(NKT)、ナイーブCD4+細胞、記憶CD4+細胞、エフェクターCD4+細胞、及び/又はCD4+制御性T細胞を含むヘルパーT細胞像、又は例えば、ナイーブCD8+細胞、エフェクターCD8+細胞、記憶CD8+細胞、CD8+ナチュラルキラー細胞(NKT)、及び/又はCD8+制御性T細胞を含む細胞傷害性T細胞像(T-cytotoxogram)である。さらに、古典的単球(CD14-)、中間型単球(CD14+)及び/又は非古典的単球(CD14++)を含む単球の亜群、又は骨髄樹状細胞、及び形質細胞様樹状細胞を含む樹状細胞像を求めることができる。今後の科学研究では、更なる未知の血液細胞及び白血球サブグループが発見及び特定され、幾つかの血液細胞に新たな機能が割り当てられ、及び/又は既知の血液細胞に異なる白血球亜集団が割り当てられる可能性がある。
【0062】
バイサルファイト変換性及び/又は非バイサルファイト変換性DNA又は核酸の相対量の決定は、特異的酵素消化又は色素排除技術、バイサルファイトシークエンシング、次世代シークエンシング、ナノポアシークエンシング、単一分子リアルタイムシークエンシング、バイサルファイト変換DNAに特異的なプライマーを用いた、バイサルファイト変換DNAに特異的なブロッキングオリゴヌクレオチドを用いた、蛍光標識された消光オリゴヌクレオチドプローブを用いた、バイサルファイト変換DNAに特異的な単一ヌクレオチドプライマー伸長用のプライマーを用いたプロモーター領域におけるエピジェネティック修飾の分析、デジタル又は定量的PCR分析、及び特異的選択的(核酸及び/又はクロマチン)沈殿から選択される方法を含む。
【0063】
前記正規化標準がバイサルファイト非変換であり、少なくとも1つのバイサルファイト変換性CpG位置を含有する、本発明による方法が更に好ましい。
【0064】
前記生体サンプルにおける前記細胞型の定量化が、バイサルファイト非変換正規化標準を用いた又はバイサルファイト変換正規化標準を用いた細胞型特異的及び非特異的なクロマチンの相対量の正規化に基づく、本発明による方法が更に好ましい。
【0065】
前記バイサルファイト非変換正規化標準を用いた正規化が、前記生体サンプル中の細胞の絶対量及び/又は含有率の指標となる、本発明による方法がより一層好ましい。
【0066】
前記生体サンプルが未知の細胞組成のサンプルである、本発明による方法がより一層好ましい。
【0067】
本発明に関連して分析される生物サンプルは、分析対象の細胞、すなわち、血液系及び/又は免疫系の細胞、例えば、Tリンパ球、ナチュラルキラー細胞、Bリンパ球、単球及び/又は顆粒球、並びにそれらの組合せから選択される白血球像、CD3+CD4+細胞、CD4+記憶細胞、CD4+エフェクター細胞、CD4+ナイーブ細胞、CD3+CD8+細胞、CD8+記憶細胞、CD8+エフェクター細胞、CD8+ナイーブ細胞、CD3+CD8-CD4-細胞、CD3+CD8+CD4+細胞、NKT細胞、iTreg細胞、Treg細胞、Tfh細胞、Th1細胞、Th2細胞、TH9細胞、Th17細胞、Th19細胞、Th21細胞、Th22細胞、記憶細胞及び/又はエフェクターヘルパーT細胞、並びにそれらの組合せから選択されるTリンパ球像、好塩基性顆粒球、好酸性顆粒球、好中性顆粒球、全好中性顆粒球及び/又は顆粒球性骨髄由来サプレッサー細胞、並びにそれらの組合せから選択される顆粒球像、CD14+単球、CD14-単球(monocytes)、マクロファージ、形質細胞様樹状細胞、単球性骨髄由来サプレッサー細胞、中間型単球、古典的単球、非古典的単球及び/又は全樹状細胞、並びにそれらの組合せから選択される単球像、ナイーブB細胞、プレB細胞、記憶B細胞、移行性B細胞及び/又は未熟B細胞、並びにそれらの組合せから選択されるBリンパ球像、並びにCD56dim及び/又はCD56bright NK細胞から選択されるNK細胞像の細胞を含有する任意のサンプルである。
【0068】
本明細書の「細胞特異的領域(複数の場合もあり)」という用語は、エピジェネティックレベルで或る細胞型及び/又は細胞の亜集団を他の全ての細胞型及び/又は細胞の亜集団から区別するために選択される細胞及び/又は核酸のゲノム内の遺伝領域を意味するものとする。これらの領域としては、5'非翻訳領域、プロモーター領域、イントロン、エクソン、イントロン/エクソン境界、3'領域、CpGアイランド等の幾つかのマーカー(例えば幾つかのタンパク質マーカー等)の遺伝子が挙げられ、特に或る細胞型及び/又は細胞の亜集団に関する「情報を与える」バイサルファイト処理後に増幅される特定の領域(アンプリコン)が挙げられる。これらの細胞特異的領域の例は文献から既知であり、例えば遺伝子CD3 γ、δ及びε(国際公開第2010/069499号)、グラニュライシン(granulysin)遺伝子(国際公開第2010/125106号)、CCR6遺伝子(国際公開第2011/135088号)、FOXP3遺伝子(国際公開第2004/050706号及びWieczorek et al. QuantitativeDNA methylation analysis of FOXP3 as a new method for counting regulatory Tcells in peripheral blood and solid tissue. Cancer Res. 2009 Jan 15;69(2):599-608)である。
【0069】
細胞特異的マーカー領域は通常、特定の細胞型でのみバイサルファイト変換性である単一のCpG又はCpGアイランドを含有するDNA領域であり、したがって特定の細胞型の指標となる。さらに、これらの細胞特異的マーカー領域により或る細胞型が他の全ての血液細胞及び他の組織細胞から区別される。
【0070】
本発明によると、エピジェネティックヘモグラムの細胞は、上記細胞特異的ゲノム領域中の少なくとも1つの(one)CpG位置のバイサルファイト変換性を分析することによって特定及び定量化される。
【0071】
このため、以下の表4に挙げられる領域内の少なくとも1つのCpG位置のバイサルファイト変換が上記表に挙げられるそれぞれの血液細胞型の指標となる、本発明による方法が好ましい。これらは例えば所与の細胞型の以下のゲノムマーカー領域である。
【0072】
【表4-1】
【表4-2】


【表4-3】
【表4-4】
【表4-5】
【表4-6】
【表4-7】
【表4-8】
【表4-9】
【表4-10】
【表4-11】
【表4-12】
【表4-13】
【表4-14】
【表4-15】
【表4-16】
【表4-17】
【表4-18】
【表4-19】
【表4-20】
【表4-21】
【表4-22】
【表4-23】
【表4-24】
【表4-25】
【表4-26】
【表4-27】
【表4-28】
【表4-29】
【表4-30】
【表4-31】
【表4-32】
【表4-33】
【表4-34】
【表4-35】
【表4-36】
【表4-37】
【表4-38】
【表4-39】
【表4-40】
【表4-41】
【表4-42】
【表4-43】
【表4-44】
【表4-45】
【表4-46】
【表4-47】
【表4-48】
【表4-49】
【表4-50】
【表4-51】
【表4-52】
【表4-53】
【表4-54】
【表4-55】
【表4-56】
【表4-57】
【表4-58】
【表4-59】
【表4-60】
【表4-61】
【表4-62】
【表4-63】
【表4-64】
【表4-65】
【表4-66】
【表4-67】
【表4-68】
【表4-69】
【表4-70】
【表4-71】
【表4-72】
【表4-73】
【表4-74】
【表4-75】
【表4-76】
【表4-77】
【表4-78】
【表4-79】
【表4-80】
【表4-81】
【表4-82】
【表4-83】
【表4-84】
【表4-85】
【表4-86】
【表4-87】
【0073】
表4には血液細胞型である顆粒球、単球、CD4+細胞、細胞傷害性T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞及びナチュラルキラーT細胞に特異的なCpGを含有する領域を、いわゆる「発見フラグメント」(好ましい領域)及び差別的な「関心領域」(より好ましい領域)の配列番号とともに挙げる。発見フラグメントは指定の細胞型に特異的な少なくとも1つのCpGを含むため、この細胞型をヘモグラムの他の全細胞型から区別するのに好適である。差別的な関心領域(ROI)配列は発見領域の周囲に位置し、指定の特定の細胞型に特異的なアッセイの設計の基礎となり、付加的な関連CpG、すなわち同様に指定の細胞(cell)型間の区別に使用することができるCpGの配列を含有する領域である。
【0074】
表4A〜表4Jには、各表の見出しに示されるそれぞれの血液細胞型に特異的なCpGを含有する領域が挙げられる。「発見フラグメント」の欄に提示される配列は好ましい領域であり、それぞれの表の細胞型に特異的な少なくとも1つのCpGを含む(示されるデータにより識別可能である)。各マーカーに対するヒトゲノム内の「発見フラグメント」の配列の500塩基対上流及び下流(したがって「周囲」)の領域も本発明の様々な実施の形態及び態様に含まれる。「発見フラグメント」の500塩基対上流及び下流の領域は表4A〜表4Jのマーカーの差別的なROIである。
【0075】
したがって、また、本発明は表4に挙げられるそれぞれの細胞型の指標となる、上に示される表4及び表4A〜表4Jのいずれか1つの「発見フラグメント」又はROI(ヒトゲノム内の各々の「発見フラグメント」の500 bp上流及び下流)のいずれか1つにおける少なくとも1つのCpG位置のバイサルファイト変換に関する。したがって、本発明の全ての実施の形態及び態様におけるTリンパ球像は、上記の表4及び表4A〜表4Jに挙げられる細胞型のいずれか及びこれらの細胞型の任意の組合せを含み得る。
【0076】
好中性顆粒球(nGRC)の付加的な領域は、本明細書でAMP1730と表されるリポカリン-2、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(LCN2)ゲノム領域(Ensembl-ID:ENSG00000148346)に由来する。AMP 1730のゲノム配列及び差別的なROI 1132はそれぞれ配列番号686及び配列番号685である。図2も参照されたい。
【0077】
好酸性顆粒球(eGRC)の付加的な領域は、本明細書でそれぞれAMP 2034及び2035と表されるプロテオグリカン2(PRG2)ゲノム領域(Ensembl-ID:ENSG00000186652)に由来する。AMP 2034及び2035のゲノム配列並びに差別的なROI 1403はそれぞれ配列番号687、配列番号688,及び配列番号689である。図3も参照されたい。
【0078】
本明細書に記載の細胞特異的遺伝子領域は、或る細胞型又は細胞の亜集団を本明細書に記載の白血球像、Tリンパ球像、顆粒球像、単球像、Bリンパ球像及び/又はNK細胞像等の他の全ての細胞型から区別するために選択されるのが好ましい。このため、高度に特異的な細胞型マーカーを、タンパク質発現レベルではなく細胞型特異的エピジェネティック情報に基づく特定及び定量化の基礎として使用する。細胞特異的CpGリッチゲノム領域がバイサルファイト変換性であり、又はqPCRによって検出可能でなく、又はゲノムコピーと同様に変化しないため、本方法は明らかな有無情報を提供し、閾値化(thresholding)とは無関係である。また、本方法により潜在的に無限数の細胞の亜集団が検出及び特定され、更には定量化され、例えば制御性T細胞の検出限界は0.3 %である。
【0079】
検出される、ひいてはエピジェネティックヘモグラム用の細胞が白血球像、及び/又はTリンパ球像、及び/又は顆粒球像、及び/又は単球像、及び/又はBリンパ球像、及び/又はNK細胞像から選択される、本発明による方法が好ましい。
【0080】
分析される上記マーカー領域は、予め選択したヘモグラムの細胞に特異的であることが好ましく、これらの細胞は、白血球像に対して、Tリンパ球、ナチュラルキラー細胞、Bリンパ球、単球、顆粒球、及びそれらの組合せから選択され、Tリンパ球像に対して、CD3+CD4+細胞、CD4+記憶細胞、CD4+エフェクター細胞、CD4+ナイーブ細胞、CD3+CD8+細胞、CD8陽性細胞、CD8+記憶細胞、CD8+エフェクター細胞、CD8+ナイーブ細胞、CD3+CD8-CD4-細胞、CD3+CD8+CD4+細胞、NKT細胞、iTreg細胞、Treg細胞、Tfh細胞、Th1細胞、Th2細胞、TH9細胞、Th17細胞、Th19細胞、Th21細胞、Th22細胞、記憶細胞及びエフェクターヘルパーT細胞、並びにそれらの組合せから選択され、顆粒球像に対して、好塩基性顆粒球、好酸性顆粒球、好中性顆粒球及び/又は顆粒球性骨髄由来サプレッサー細胞、並びにそれらの組合せから選択され、単球像に対して、CD14+単球、CD14-単球、マクロファージ、形質細胞様樹状細胞、骨髄樹状細胞、中間型単球、古典的単球、非古典的単球及び/又は全樹状細胞、並びにそれらの組合せから選択され、B細胞像に対して、ナイーブB細胞、プレB細胞、記憶B細胞、移行性B細胞及び/又は未熟B細胞、並びにそれらの組合せから選択され、NK細胞像に対して、CD56dim及び/又はCD56bright NK細胞から選択されることが好ましい。
【0081】
「細胞特異的領域」という用語とは対照的に、本明細書の「細胞非特異的領域」という用語は非特異的となるように選択される、すなわち2つ以上、好ましくは全ての細胞型及び/又は細胞の亜集団に特異的な細胞のゲノム及び/又は核酸内の遺伝領域を意味するものとする。これらの細胞非特異的領域には5'非翻訳領域、プロモーター領域、イントロン、エクソン、イントロン/エクソン境界、3'領域、CpGアイランド等の幾つかのマーカー(例えば幾つかのタンパク質マーカー等)の遺伝子も含まれ、特に2つ以上の細胞型及び/又は細胞の亜集団に関する「情報を与える」バイサルファイト処理後に増幅される特定の領域(アンプリコン)が含まれる。これらの細胞非特異的領域の例は文献から既知であり、例えばGAPDH、ACTB(βアクチン)、UBC(ユビキチンC)、リボソームタンパク質(例えばRPS27A、RPS20、RPL11、RPL38、RPL7、RPS11、RPL26L1)、CALR(カルレチクリン)、ACTG1(γアクチン)、RPS20(リボソームタンパク質S20)、HNRPD(リボ核タンパク質D)、NACA(新生ポリペプチド結合複合体サブユニットα)、NONO(オクタマー結合タンパク質)、PTMAP7(プロチモシン)、GFRA4(GDNF受容体α-4)、CDC42(GTP結合タンパク質)、EIF3H(翻訳開始因子)、UBE2D3(ユビキチン結合酵素)、及び例えば、She et al.(Definition, conservation and epigenetics of housekeeping andtissue-enriched genes. BMC Genomics. 2009 Jun 17;10:269.)及び国際出願PCT/EP2011/051601号に記載の遺伝子等のハウスキーピング遺伝子を含む領域から選択される。
【0082】
本発明による方法は概して生体サンプルの定量的細胞組成を特定するものである。上記生体サンプルが未知の細胞組成のサンプルである、本発明による方法が好ましい。しかしながら、細胞組成が既知の、又は更には組成が部分的に既知のサンプルを定量化することもできる。
【0083】
サンプル中の細胞は無傷である必要がないため、分析対象の生体サンプルは新鮮凍結、パラフィン包埋、又はヘパリン、クエン酸塩若しくはEDTAで安定化して保管することができる。本方法は非常にロバストであり、フローサイトメトリーとは対照的に細胞の同一性及び量並びにサンプル組成の並行独立評価を可能にする。FACSとの非常に良好な相関も得られる。
【0084】
分析対象の生体サンプルは1つ又は複数の細胞型を含む、又は定量化対象の1つ又は複数の細胞型を含むと疑われる任意のサンプルであり得る。好ましい材料/生体サンプルは血液サンプル、特に末梢血、毛細血管血又は静脈血のサンプル、血餅、又は血液細胞を含有すると考えられるサンプル、例えば滑液、リンパ液、唾液、尿、腫瘍サンプル、並びに他の体液及び組織サンプル、組織調製物、DBS、人工的に生成させた細胞、並びにそれらの混合物(例えば細胞培養物サンプル)から選択される。
【0085】
次に、本発明の更に別の態様は、作成された上記エピジェネティックヘモグラムに基づいて哺乳動物の免疫状態を結論付ける工程を更に含む、本発明による方法に関する。
【0086】
次に、本発明の更に別の態様は、特定された上記生体サンプルにおける上記細胞組成を特定された上記組成及び/又はヘモグラムと、同じ哺乳動物から採取された以前の生体サンプルにおける組成及び/又は対照サンプルにおける組成とを比較することによってモニタリングする工程を更に含む、本発明による方法に関する。本態様では、例えば患者における細胞組成の改善及び変化を医療処置中にモニタリングすることができる。
【0087】
次に、本発明の更に別の態様は、疾患又は疾患の素因を診断する方法であって、上記の本発明による方法と、特定された上記生体サンプルにおける細胞組成に基づいて疾患又は該疾患の素因を結論付ける工程とを含む、方法に関する。この態様では、例えば患者における細胞組成の改善及び変化を用いて、特にサンプルを健常被験体のサンプル又は医療参照範囲と比較する場合に疾患又は疾患の素因を診断することができる。好ましくは、上記生体サンプルは血液サンプル、特に全血又は末梢血サンプルであり、上記サンプル中の細胞のゲノム内の上記細胞特異的領域は血液細胞型に特異的な領域から選択される。診断対象の疾患は免疫疾患又は病態、移植片拒絶反応、感染性疾患、癌、神経疾患、アレルギー、原発性及び続発性免疫不全、並びに血液悪性腫瘍、例えばリンパ系新生物、成熟B細胞新生物、成熟T細胞新生物及びNK細胞新生物、ホジキンリンパ腫、移植後のリンパ球増殖プロセス、HIV及びAIDS、移植片対宿主病、関節リウマチ、エリテマトーデス、乳癌、大腸癌、食道癌、胃癌、白血病/リンパ腫、肺癌、前立腺癌、子宮癌、皮膚癌、内分泌癌、腎臓癌、膀胱癌(urinary cancer)、膵臓癌、他の消化管癌、卵巣癌、子宮頸癌、頭頸部癌、腺腫、出生異常、ミオパシー、精神遅滞、肥満、糖尿病、妊娠性糖尿病、多発性硬化症、並びに喘息からなる群から選択することができる。
【0088】
本発明の好ましい一実施の形態では、エピジェネティックヘモグラムの診断使用は、上記エピジェネティックヘモグラムによる異なる集団及び/又は/対異なる亜集団(サブヘモグラム)及び/又は/対或るサブヘモグラムに属する細胞の比率の使用にも基づく。かかる比率は、例えば、全てTリンパ球像の亜集団として、CD3+ Tリンパ球に対する制御性T細胞、若しくはCD4+ Tリンパ球の集団に対する制御性T細胞、若しくはCD8+ Tリンパ球の集団に対する制御性T細胞、若しくはCD4+ヘルパーT細胞に対するCD3+ Tリンパ球、若しくはCD8+細胞障害性T細胞に対するCD3+ Tリンパ球、若しくはCD8+細胞障害性T細胞に対するCD4+ヘルパーT細胞、若しくはTh2に対するTh1、若しくはTh17に対するTh1、若しくはTh17に対するTh2、若しくはCD3+ Tリンパ球に対する記憶若しくはナイーブCD4+ヘルパーT細胞、若しくはCD3+ Tリンパ球に対する記憶CD8+細胞障害性T細胞;又は全て様々なサブヘモグラムの細胞間の関係として、好中性顆粒球に対するCD3+Tリンパ球、若しくはCD4+ヘルパーT細胞に対するマクロファージ;好中性顆粒球に対するCD4+ Tリンパ球、若しくは好中性顆粒球に対するCD8+ Tリンパ球;又は全て白血球像の集団中の比率として、顆粒球に対するCD3+ Tリンパ球、若しくはCD3+ Tリンパ球に対するBリンパ球、若しくはCD3+ Tリンパ球に対する単球、若しくはBリンパ球に対する単球;又は全白血球に対するCD3+ Tリンパ球若しくは単球若しくはBリンパ球、若しくは顆粒球若しくはNK細胞の集団であるが、これらに限定されない。しかしながら、本発明に従い、エピジェネティックヘモグラムによって評価された亜集団の他の比率も診断方法として使用することができる。疾患は、免疫疾患又は病態、移植片拒絶反応、感染性疾患、癌、神経疾患、アレルギー、原発性及び続発性免疫不全、並びに血液悪性腫瘍、例えばリンパ系新生物、成熟B細胞新生物、成熟T細胞新生物及びNK細胞新生物、ホジキンリンパ腫、移植後のリンパ球増殖プロセス、HIV及びAIDS、移植片対宿主病、関節リウマチ、エリテマトーデス、乳癌、大腸癌、食道癌、胃癌、白血病/リンパ腫、肺癌、前立腺癌、子宮癌、皮膚癌、内分泌癌、腎臓癌、膀胱癌、膵臓癌、他の消化管癌、卵巣癌、子宮頸癌、頭頸部癌、腺腫、出生異常、ミオパシー、精神遅滞、肥満、糖尿病、妊娠性糖尿病、多発性硬化症、並びに喘息からなる群から選択することができる。診断使用は、疾患及び/又は疾患の経過観察及び/又は疾患の素因の診断、及び/又は化学的若しくは生物学的物質の影響のモニタリングを包含するが、これらに限定されない。
【0089】
本発明のエピジェネティックヘモグラムは、別の実施の形態では患者の疾患を発症するリスクの評価、したがって診断目的で使用される。本発明の好ましい一実施の形態では、疾患を発症するリスクの評価へのエピジェネティックヘモグラムの使用は、上記エピジェネティックヘモグラムによる異なる集団及び/又は/対異なる亜集団(サブヘモグラム)及び/又は/対或るサブヘモグラムに属する細胞の比率の使用にも基づく。かかる比率は、例えば、全てTリンパ球像の亜集団として、CD3+ Tリンパ球に対する制御性T細胞、若しくはCD4+ Tリンパ球の集団に対する制御性T細胞、若しくはCD8+ Tリンパ球の集団に対する制御性T細胞、若しくはCD4+ヘルパーT細胞に対するCD3+ Tリンパ球、若しくはCD8+細胞障害性T細胞に対するCD3+ Tリンパ球、若しくはCD8+細胞障害性T細胞に対するCD4+ヘルパーT細胞、若しくはTh2に対するTh1、若しくはTh17に対するTh1、若しくはTh17に対するTh2、若しくはCD3+ Tリンパ球に対する記憶若しくはナイーブCD4+ヘルパーT細胞、若しくはCD3+ Tリンパ球に対する記憶CD8+細胞障害性T細胞;又は全て様々なサブヘモグラムの細胞間の関係として、好中性顆粒球に対するCD3+Tリンパ球、若しくはCD4+ヘルパーT細胞に対するマクロファージ;好中性顆粒球に対するCD4+ Tリンパ球、若しくは好中性顆粒球に対するCD8+ Tリンパ球;又は全て白血球像の集団中の比率として、顆粒球に対するCD3+ Tリンパ球、若しくはCD3+ Tリンパ球に対するBリンパ球、若しくはCD3+ Tリンパ球に対する単球、若しくはBリンパ球に対する単球;又は全白血球に対するCD3+ Tリンパ球若しくは単球若しくはBリンパ球、若しくは顆粒球若しくはNK細胞の集団であるが、これらに限定されない。
【0090】
本発明に従い、エピジェネティックヘモグラムによって評価された亜集団の他の比率も、疾患を発症するリスクの評価に用いることができる。本明細書中に記載される実施の形態の疾患は、免疫疾患又は病態、移植片拒絶反応、感染性疾患、癌、神経疾患、アレルギー、原発性及び続発性免疫不全、並びに血液悪性腫瘍、例えばリンパ系新生物、成熟B細胞新生物、成熟T細胞新生物及びNK細胞新生物、ホジキンリンパ腫、移植後のリンパ球増殖プロセス、HIV及びAIDS、移植片対宿主病、関節リウマチ、エリテマトーデス、乳癌、大腸癌、食道癌、胃癌、白血病/リンパ腫、肺癌、前立腺癌、子宮癌、皮膚癌、内分泌癌、腎臓癌、膀胱癌、膵臓癌、他の消化管癌、卵巣癌、子宮頸癌、頭頸部癌、腺腫、出生異常、ミオパシー、精神遅滞、肥満、糖尿病、妊娠性糖尿病、多発性硬化症、並びに喘息からなる群から選択することができる。診断使用は、疾患及び/又は疾患の経過観察及び/又は疾患の素因の診断、疾患のリスクの評価及び/又は化学的若しくは生物学的物質の影響のモニタリングを包含するが、これらに限定されない。
【0091】
上記のように、本発明に従って評価された上述の比率により、例えば被験体が生涯で或る特定の疾患を発症するリスクが示される可能性がある。リスク評価の臨床的役割はCD3+ Tリンパ球に対する制御性Tリンパ球の比率について見られた。CD3+ Tリンパ球に対する制御性Tリンパ球の比率の増大が生涯で癌(癌性疾患)を発症するリスクを示すのが本発明において特に好ましい。癌は本明細書で上に提示されるリストから選択されるが、これに限定されず、CD3+ Tリンパ球に対する制御性Tリンパ球の比率の増大の強い影響が肺癌の発症に関して予期され、これが特に好ましい。さらに、比率により移植片対宿主病の発症が予測される可能性があり、幹細胞移植後最初の2週間以内のCD4+ Tリンパ球に対する制御性Tリンパ球の比率の増大により移植片対宿主病の発症が予測される。
【0092】
次に、本発明の更に別の態様は、細胞の組成に対する化学的若しくは生物学的物質又は薬物の影響を特定する方法であって、好ましくは上記物質で処理した又は上記物質に曝露した哺乳動物から得られた血液サンプルに対して上記の本発明による方法を行うことと、上記サンプルにおける細胞の組成と処理前のサンプルの組成又は非処理サンプルの組成とを比較することとを含む、方法に関する。上記化学的若しくは生物的物質又は薬物で処理した哺乳動物は、健康であっても、又は免疫疾患若しくは病態、移植片拒絶反応、感染性疾患、癌、神経疾患、アレルギー、原発性及び続発性免疫不全、並びに血液悪性腫瘍、例えばリンパ系新生物、成熟B細胞新生物、成熟T細胞新生物及びNK細胞新生物、ホジキンリンパ腫、移植後のリンパ球増殖プロセス、HIV及びAIDS、移植片対宿主病、関節リウマチ、エリテマトーデス、乳癌、大腸癌、食道癌、胃癌、白血病/リンパ腫、肺癌、前立腺癌、子宮癌、皮膚癌、内分泌癌、腎臓癌、膀胱癌、膵臓癌、他の消化管癌、卵巣癌、子宮頸癌、頭頸部癌、腺腫、出生異常、ミオパシー、精神遅滞、肥満、糖尿病、妊娠性糖尿病、多発性硬化症、並びに喘息からなる群から選択される疾患に罹患していてもよい。
【0093】
次に、本発明の更に別の態様は、本明細書に記載の本発明による方法を行うための材料を任意に使用説明書とともに含む診断キット及びその使用に関する。診断キットは特に関心領域に特異的なオリゴヌクレオチド(例えばアンプリコンの作製用)、バイサルファイト試薬、及び/又はPCR用の成分を含有する。診断キット及びその使用は、疾患及び/又は疾患の経過観察及び/又は疾患の素因の診断及び/又は疾患リスクの評価、及び/又は化学的若しくは生物学的物質の影響のモニタリングを包含するが、これらに限定されない。
【0094】
上述のように、現在、臨床診断及び研究並びに薬物開発のいずれにおいても、生体サンプルが無傷でなくとも正確かつ包括的な白血球及びそれらの亜集団の定量化をもたらす新たな方法が望まれている。本発明は現在の日常的に使用される定量的方法、フローサイトメトリー及び免疫組織化学の殆どの問題を克服し、より重要なことには、標的細胞の絶対的定量化に関するqPCRの幾つかの生化学的及び技術的な問題を克服する。したがって、本発明は異なる細胞集団を効果的に検出及び定量化する方法を提供する。特に、本方法は包括的血液細胞像を評価する発現に依存しない方法を初めて可能にする。さらに、本発明は迅速なサンプルの処置に依存せず、長期のサンプル貯蔵及びサンプル採集とサンプル処置との間の個々の調整を可能にする柔軟な時間枠を可能にする。
【0095】
ここで、本発明を以下の実施例及び図面で更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の目的上、本明細書に引用される全ての参照文献はその全体が引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【図面の簡単な説明】
【0096】
図1】エピジェネティックヘモグラムの概略図である。ヘモグラムはB細胞、単球、顆粒球、CD3+ Tリンパ球及びNK細胞を含む白血球像を含む。各亜集団は付加的な細胞像、すなわちそれぞれBリンパ球像、単球像、顆粒球像、Tリンパ球像及びNK細胞像を確立する。これら5つの亜細胞像について対応する細胞型が示される。これら5つの亜細胞像は各々、付加的な亜集団に分けることができる、例えばT細胞像はCD4+ヘルパーT細胞像及びCD8+細胞傷害性細胞像(cytotoxogram)に更に分けることができる。
図2】細胞型特異的ゲノムマーカー領域におけるバイサルファイト非変換性を示すマトリクスを示す図である。異なる細胞型を分析することで、ゲノム領域AMP1730内のCpGがバイサルファイト処理によって完全に変換可能であり、0 %のバイサルファイト非変換性に対応することが示された。顆粒球の全画分が好中性顆粒球に相当する。好中性顆粒球は顆粒球の約90 %を占め、好酸性顆粒球は約7 %を占め、好塩基性顆粒球は約3 %を占める(実施例4を参照されたい)。
図3】細胞型特異的ゲノムマーカー領域におけるバイサルファイト非変換性を示すマトリクスを示す図である。異なる細胞型を分析することで、ゲノム領域AMP2034及び2035内のCpGが他の所与の細胞型とは対照的に、バイサルファイトによって高度に変換可能であり、この特定の細胞型の指標となることが示された(実施例5を参照されたい)。
図4】実施例7に従って増幅させた試験鋳型の結果を示す図である。unM(TpG鋳型):バイサルファイト変換試験DNA、Meth(CpG鋳型):非バイサルファイト変換試験DNA、NTC:無鋳型対照、左パネル:Mg2+濃度3.2 mM、右パネル:Mg2+濃度3.6mM。
【発明を実施するための形態】
【0097】
配列番号1〜689は本発明において使用される配列を示す。
【実施例】
【0098】
本実施例は白血球及びTリンパ球の組成が既知及び未知のサンプルに対して行った。過度の負担及び/又は進歩性を有する必要なしにエピジェネティックヘモグラムにおいて他の細胞型、特に血液細胞を特定及び定量化するために実験を変更する方法を当業者であれば理解するであろう。
【0099】
実施例1−既知の組成のサンプルを用いた細胞特異的アッセイ補正因子の評価
白血球及びTリンパ球の組成が既知のヒト血液サンプルを準備した。この血液サンプルの組成をフローサイトメトリーによって分析した。サンプルは61 %の顆粒球、12 %の単球、3 %のBリンパ球、4 %のナチュラルキラー細胞及び19 %のTリンパ球を含有していた(表5)。T細胞集団は13 %のCD4+ヘルパーT細胞、1.4 %の制御性T細胞、5 %のCD8+細胞傷害性細胞及び2 %のナイーブCD8+細胞からなるものであった。
【0100】
次の工程では、この白血球及びTリンパ球の組成が既知のサンプルを、細胞型特異的遺伝子領域におけるバイサルファイト変換性クロマチンの相対量について分析し、例えば顆粒球については好中球ゼラチナーゼ関連リポカリンの遺伝子の領域、単球については白血球免疫グロブリン様受容体遺伝子の領域、B細胞についてはIgEの低親和性受容体の遺伝子の領域、ナチュラルキラー細胞についてはオキシステロール結合タンパク質様タンパク質5アイソフォームの遺伝子の領域、Tリンパ球についてはCD3D/G遺伝子の領域、CD4+ヘルパーT細胞についてはCD4遺伝子の領域、制御性T細胞についてはFOXP3遺伝子の領域、CD8+細胞傷害性T細胞についてはCD8A/B遺伝子の領域、ナイーブCD8+細胞についてはエンドシアリン遺伝子の領域のバイサルファイト変換性クロマチンの独特の差別的な細胞型特異的パターンを得た。分析はバイサルファイト変換正規化標準を用いたqPCRによって行い、上述のバイサルファイト変換性の独特の細胞型特異的パターンを含有する遺伝子コピー数の相対量が示された。これらの細胞特異的遺伝子コピーの相対数から上記の特定の細胞の相対量が示される。
【0101】
この特定の細胞(上記白血球及びTリンパ球)の相対数をフローサイトメトリーの結果と比較した。両方の結果を関連付け、補正因子を決定した(表1)。フローサイトメトリーから61 %、qPCRから91.6 %の顆粒球が明らかとなり、したがって細胞特異的顆粒球アッセイ補正因子は1.502であった。
【0102】
補正因子を各々の評価セットで別個に決定し、アッセイ特異的補正因子のデータベースに組み入れた。個々及び別個の補正因子の決定(各々の評価セット)に加えて、これまでの補正因子の平均も使用することができる。
【0103】
【表5】
表5.細胞特異的アッセイ補正因子の評価。ヒト血液サンプルの細胞組成を白血球及びTリンパ球についてフローサイトメトリー及びqPCRによって評価した。qPCRはバイサルファイト変換正規化標準を用いて行った。未知の組成のサンプルに対する以下のqPCRの補正因子をqPCR/FC比によって決定した。(C因子)補正因子、(FC)フローサイトメトリー、(GRK01)内部サンプル番号。(qPCR)リアルタイム定量的ポリメラーゼ連鎖反応。
【0104】
実施例2−既知の組成のサンプルを用いて決定されたアッセイ補正因子を使用する健常ボランティアの未知の血液サンプルにおける絶対的細胞組成の評価(実施例1に示される)
健常ボランティアの白血球及びTリンパ球の組成が未知のヒト血液サンプルを、qPCRによる白血球及びTリンパ球の絶対的組成の評価のために得た。実施例1と同様に、血液サンプルのDNAを単離し、バイサルファイト変換し、バイサルファイト変換DNAの相対量を、バイサルファイト変換正規化標準を使用するqPCRによって評価した。細胞特異的遺伝子領域におけるバイサルファイト変換性DNAの量を、細胞非特異的DNA領域のバイサルファイト変換性DNA(常に、細胞とは無関係の一定のバイサルファイト変換性パターン)と関連付け、評価された細胞の相対量を得た。
【0105】
細胞特異的アッセイ補正因子を顆粒球、単球、Bリンパ球、ナチュラルキラー細胞、Tリンパ球、CD4+ヘルパーT細胞、制御性T細胞及びCD8+細胞傷害性T細胞のアッセイの並行実験セットでヒト血液サンプルに対するフローサイトメトリーを用いて決定した(方法については実施例1を参照されたい、実施例2のヒト血液サンプルは実施例1と比べて異なる)。得られる評価された細胞の相対量を、細胞特異的アッセイ補正因子を用いて補正した。例えば、単球患者サンプルS04のqPCRでは7.94 %の単球の相対量が得られたが、補正により3.69 %の単球という絶対細胞量が明らかとなった。
【0106】
白血球像に属する細胞の総和は100 %であり、Tリンパ球像に属する細胞の総和は白血球像のTリンパ球について決定されたものと全く同じ細胞量を有すると予期される。上記のようにフローサイトメトリー定量化であっても制限がない訳ではないことが知られている。
【0107】
フローサイトメトリー測定の誤差はqPCR補正に反映される。一方、本明細書に記載のエピジェネティクスベースのqPCRでは、マーカー発現とは独立して細胞型が検出された。細胞特異的マーカーが非常に少量しか発現されない又は全く存在しない場合であっても、エピジェネティックqPCRによってこれらの細胞を検出することができる(例えばTh17細胞に見られる、上記を参照されたい)。加えて、幾つかの細胞は、これらの細胞がマーカー発現と関連することが知られる特定の細胞状態にならなかった場合であっても細胞特異的マーカーを発現している(例えば制御性T細胞に見られる、上記を参照されたい)。かかる細胞はエピジェネティックベースのqPCRでは検出されない。さらに、この例についてはTリンパ球(CD4+ヘルパーT細胞、CD8+細胞傷害性細胞)の選択は完全なTリンパ球セットを示さない(図1を参照されたい)。細胞像は科学知識の現状を表し、更なる細胞型の存在又はその亜集団の不正確な定義を排除することができない。
【0108】
【表6】
表6.健常ボランティアに由来する血液の絶対的細胞組成の評価。ヒト血液サンプルの細胞組成を白血球及びTリンパ球についてqPCRによって評価した。qPCRはバイサルファイト変換正規化標準を用いて行った。qPCRの補正因子を並行実験セットで決定した(本明細書では詳細に記載しない、C因子の評価の例については実施例1を参照されたい)。(C因子)補正因子、(FC)フローサイトメトリー、(S04)(S08)内部サンプル番号。(qPCR)リアルタイム定量的ポリメラーゼ連鎖反応。
【0109】
実施例3−既知の組成のサンプルを用いて決定されたアッセイ補正因子を使用する自己免疫疾患ボランティアの未知の血液サンプルにおける絶対的細胞組成の評価(実施例1に示される)
自己免疫疾患ボランティアの白血球及びTリンパ球の組成が未知のヒト血液サンプルを、qPCRによる白血球及びTリンパ球の絶対的組成の評価のために得た。実施例1と同様に、血液サンプルのDNAを単離し、バイサルファイト変換し、バイサルファイト変換DNAの相対量をqPCRによって評価した。細胞特異的遺伝子領域におけるバイサルファイト変換性DNAの量を、細胞非特異的DNA領域のバイサルファイト変換性DNA(常に、細胞とは無関係の一定のバイサルファイト変換性パターン)と関連付け、評価された細胞の相対量を得た。
【0110】
細胞特異的アッセイ補正因子を顆粒球、単球、Bリンパ球、ナチュラルキラー細胞、Tリンパ球、CD4+ヘルパーT細胞、制御性T細胞及びCD8+細胞傷害性T細胞のアッセイの並行実験セットでヒト血液サンプルに対するフローサイトメトリーを用いて決定した(方法については実施例1を参照されたい、実施例3のヒト血液サンプルは実施例1と比べて異なる)。得られる評価された細胞の相対量を、これらの細胞特異的アッセイ補正因子を用いて補正した。例えば、Tリンパ球のqPCRにより、患者M06では、8.49 %というTリンパ球の相対量が評価され、患者M10では、23.94 %というTリンパ球の相対量が評価された。補正からそれぞれ5.4 %及び15.3 %のT細胞という絶対細胞量が明らかとなった。
【0111】
健常患者のデータ(実施例2を参照されたい)と比較して、自己免疫疾患患者M06では白血球像に含まれる5つの白血球サブタイプのうち4つの明らかな減少が観察された。患者M10については、Bリンパ球及び単球の絶対数の明らかな減少のみが観察された。
【0112】
さらに、Tリンパ球サブタイプについても両患者間の差が観察された。患者M06の3つのTリンパ球サブタイプのqPCR分析から、CD4+ヘルパーT細胞及びCD8+細胞傷害性細胞の強い減少が明らかとなったが、制御性T細胞レベルの低下はあまり顕著ではなかった。患者M10については、3つ全ての細胞レベルが実施例2の2人の健常患者の平均と比較して同時に約50 %〜60 %低下した。
【0113】
これら全ての差は例えばこれら両方の患者の異なる医療処置及び/又は病期に関連付けられ、疾患診断、予測及び付随するモニタリング用の臨床日常機器をもたらす。
【0114】
【表A】
表A.自己免疫疾患患者に由来する血液の絶対的細胞組成の評価。ヒト血液サンプルの細胞組成を白血球及びTリンパ球についてqPCRによって評価した。qPCRはバイサルファイト変換正規化標準を用いて行った。自己免疫疾患で既知の幾つかの細胞集団のレベルの明らかな減少が見られた。qPCRの補正因子を並行実験セットで決定した(本明細書では詳細に記載しない、C因子の評価の例については実施例1を参照されたい)。(C因子)補正因子、(FC)フローサイトメトリー、(S04)(S08)内部サンプル番号。(qPCR)リアルタイム定量的ポリメラーゼ連鎖反応。
【0115】
実施例4−好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(LCN2)の遺伝子におけるAMP1730に基づく好中性顆粒球の検出(図2を参照されたい)
図2は、細胞型特異的ゲノムマーカー領域におけるバイサルファイト非変換性を示すマトリクスを示す。異なる細胞型を分析することで、ゲノム領域AMP1730内のCpGがバイサルファイト処理によって完全に変換可能であり、0 %のバイサルファイト非変換性に対応することが示された。好塩基性顆粒球及び好酸性顆粒球において、AMP1730の特定のCpGはバイサルファイトによって変換可能でない。したがって、図中の「(全)顆粒球」という用語が好中性顆粒球に相当する。好中性顆粒球は顆粒球の約90 %を占め、好酸性顆粒球は約7 %を占め、好塩基性顆粒球は約3 %を占める。
【0116】
【表7】
表7−AMP1730の差別的品質:「サンプル」に示されるAMP1730のアッセイ特異的プライマーを用いたqPCRを細胞に対して行い、AMP1730によって得られるゲノム領域中に存在するバイサルファイト変換性のCpGの量を分析した。精製細胞サンプルに由来するDNAを単離し、バイサルファイト処理し、qPCRアッセイを、バイサルファイト変換正規化標準を用いて行った。細胞の相対量を、「TpG/CpGシステム」と称される、AMP1730のバイサルファイト(正:bisulfite)変換性DNAとAMP1730のバイサルファイト非変換性DNAとのコピー数の比較によって評価した(変換性コピー数/(変換性コピー数+非変換性コピー数)=%細胞型)。細胞をフローサイトメトリーによって精製及び選別した。好中球細胞サンプルにおいて、95 %超の細胞がAMP1730を用いて好中球(正:neutrophils)として検出された。(bGRAN)好塩基球、(eGRAN)好酸球、(nGRAN)好中球、(MOC)単球、(THC)CD3+CD4+Tリンパ球(正:lymphocytes)、(CTL)細胞傷害性CD3+CD8+ Tリンパ球、(NKC)CD3-ナチュラルキラー細胞、(NKT)CD3+ナチュラルキラー細胞、(BLC)Bリンパ球。
【0117】
実施例5−AMP 2034及び/又は2035(PRG2)に基づく好酸性顆粒球の検出
細胞型特異的ゲノムマーカー領域におけるバイサルファイト非変換性を示すマトリクス。異なる細胞型を分析することで、ゲノム領域AMP2034及び2035内のCpGが他の所与の細胞型とは異なり、バイサルファイトによって高度に変換可能であり、この特定の細胞型の指標となることが示された(図3を参照されたい)。
【0118】
実施例6−非バイサルファイト変換核酸分子(プラスミド標準)を正規化標準として用いた細胞特異的アッセイ補正因子の評価
非バイサルファイト変換ゲノムプラスミド標準を正規化標準として開発した。これらのゲノムプラスミド標準の1つは安定な制御性T細胞(TSDR領域)に特異的なマーカー領域(Treg細胞)と、細胞型非特異的なマーカー領域(GAPDH、ハウスキーピング遺伝子、全細胞で検出される、100 %の細胞)とを含む。このプラスミド標準を使用して、未知の血液サンプルにおける安定なTregの絶対量の評価を可能にするTreg特異的アッセイ補正因子を決定する。
【0119】
第1の工程では未知の組成のヒト血液サンプルを準備し、DNAを単離し、バイサルファイト処理した。続いて、バイサルファイト変換TSDRコピー及びGAPDHコピーの量を評価した(表8、セクション2)。これらのqPCR分析を、バイサルファイト変換正規化標準(表8、セクション1)を用いて行うことで、TSDRマーカー領域及びGAPDHマーカー領域を含有するバイサルファイト変換DNAコピーの数が示された(表8、セクション2)。安定なTregの相対量を、バイサルファイト変換GAPDHコピーに対するバイサルファイト変換TSDRコピーの数として算出する(%)。
バイサルファイト変換TSDRコピーの数/バイサルファイト変換GAPDHコピーの数×100=% Treg
67.70/6026.67×100=1.123 %
【0120】
安定な制御性T細胞TSDRの細胞型特異的領域はX染色体上に位置する。女性ではエピジェネティックサイレンシングがX染色体の一方の対立遺伝子で既知である。この影響は安定なTregの相対量を算出する場合の倍数2を用いて推論される(最終結果=2.25 %の安定なTreg)(表8、セクション2)。
【0121】
第2の工程では、上記ゲノムプラスミド標準に基づくTreg特異的アッセイ補正因子を評価した。上記プラスミド標準をバイサルファイト変換し、プラスミドコピー数をTreg細胞及びGAPDHのバイサルファイト変換マーカー領域に特異的なプライマーを用いたqPCRによって評価した。これらのqPCR分析は同様にバイサルファイト変換正規化標準を用いて行った(表8、セクション1)。Treg細胞及びGAPDHのqPCRの効率は、新規のゲノム非バイサルファイト変換プラスミド標準(基質)が等モル量のTreg細胞特異的及びGAPDH特異的ゲノムコピーを含有することから、等しくなるはずである。したがって、評価されたGAPDHコピー数からのTregコピー数の偏差はアッセイ効率の差に相当する。
Treg(TSDR)コピー数=6760対GAPDHコピー数=6273.33
【0122】
この偏差により細胞型アッセイ特異的補正因子が規定される。例えば、
Treg(TSDR)コピー数/GAPDHコピー数/100=6760/6273.33=1.077。
【0123】
Treg細胞については1.1(平均、n=3)というアッセイ補正因子が評価された(表8、セクション3)。Treg細胞の相対量を因子1.1によって補正すると、未知の血液サンプルWB01において2.05 %のTreg細胞という絶対量が得られる。
Treg細胞の相対量/特異的アッセイ補正因子=Tregの絶対量
2.25 %/1.1=2.05 % Treg細胞
【0124】
【表8】
表8:バイサルファイト非変換核酸分子をプラスミド標準として用いたTreg特異的アッセイ補正因子の評価。
【0125】
実施例7−好中性顆粒球を検出及び区別する細胞特異的qPCRアッセイの開発
細胞型特異的な差次的バイサルファイト変換性の検出:
精製好中性顆粒球(好中球)、単球、CD4+細胞、CD8+細胞、B細胞、NK細胞及びNKT細胞に由来するDNAをバイサルファイト処理し、バイサルファイト変換DNAを様々なCpGジヌクレオチドモチーフで分析した。次に、これらのCpGジヌクレオチド(表4を参照されたい、259位)のバイサルファイト変換性を比較した(元の配列においてメチル化しなかったシトシンについてTが見られるのに対し、元の(ゲノム)配列においてメチル化したシトシンについてCが見られる)。
【0126】
驚くべきことに、リポカリン-2のゲノム領域の特定の部分が、試験された他の全ての血液細胞型と比較して好中性顆粒球において差次的にメチル化されることが見出された。これらの部分、例えば好中球については配列番号517(表4、259位)を発見フラグメントとして規定した。
【0127】
バイサルファイト変換性の検証:
次に、差次的バイサルファイト変換性が見られた場合、バイサルファイトシークエンシングを用いてより大きなゲノム領域を分析した。この後者の手順は発見された差次的にメチル化される部分の探索及び拡張に役立ち、例えば本明細書に開示される遺伝子リポカリン-2内の差次的にバイサルファイト変換される発見フラグメントである配列番号517を用いて行った(表4を参照されたい、配列番号517の発見フラグメント及び配列番号518の差別的な関心領域(ROI))。
【0128】
配列番号518として規定される差別的なROIにおいて、分析対象の好ましいCpG位置を含む好ましい関心領域を特定した(アンプリコン(AMP)1730、図2及び配列番号685を参照されたい)。
【0129】
細胞型特異的qPCRアッセイの開発:
AMP 1730において、増幅プライマー及びプローブの使用に基づく高度に特異的なqPCRアッセイを開発するために詳細な分析を行った。バイサルファイト変換好中球特異的なAMP 1730の増幅プライマー(フォワード及びリバース)及びプローブを設計し、試験した(データは示さない)。
【0130】
アッセイに特に好ましい「完全な」プライマーシステムを開発するために、元のバイサルファイト変換配列に100 %一致せず、特異性を驚くほど増大させる特定のミスマッチを含むプライマーを開発した。プライマー配列中のミスマッチは下線及び太字で示す。
TpGシステム(バイサルファイト変換DNA中のTpGの位置の検出):
フォワードプライマー: q1730 nm2Fw2_M1: ACCAAAAATACAACACTTCAA;
リバースプライマー: q1730 nm2R2: GGTAATTGTTAGTAATTTTTGTG;
加水分解プローブ: q1730 nm2P4: FAM-CACTCTCCCCATCCCTCTATC-BHQ1.
CpGシステム(バイサルファイト変換DNA中のCpGの位置の検出):
フォワードプライマー: q1730_m2F1: TACCAAAAATACAACACTCCG
リバースプライマー: q1730_m2R2_M1: AGGTAATTGTTAGTAATTTTTACG
加水分解プローブ: q1730 m2P1: HEX-CTCACTCTCCCCGTCCCTCTATC-BHQ1
【0131】
TpG特異的PCRシステムの技術的特異性を試験鋳型に基づいて試験した(図4を参照されたい)。TpG及びCpG特異的PCRシステムは、それぞれバイサルファイト変換及び非バイサルファイト変換鋳型に高度に特異的であることが見出された。さらに、TpG特異的及びCpG特異的PCRシステムは、それぞれCpG鋳型及びTpG鋳型と交差反応性を示さない(TpG特異的PCRシステムについて図4に示される)。qPCRプライマーシステムの特異性を更に増大するために、Mg2+濃度を3.2 mM(通常適用される)から3.5 mMまで増大させた(図4を参照されたい)。
【0132】
好中球特異的qPCRシステムの生物学的特異性を、選別された幾つかの細胞画分及び全血サンプルを使用して試験した(表9を参照されたい)。確立されたqPCRアッセイは好中球に高度に特異的であることが見出された。
【0133】
【表9】
【0134】
表9に選別された免疫細胞及び全血サンプルのqPCR分析の結果をまとめる。各々のバイサルファイト変換好中球特異的マーカーコピー(TpG PCRシステム)及び非バイサルファイト変換好中球特異的マーカーコピー(CpG PCRシステム)のシステムについてのプラスミド標準、免疫細胞型及び全血サンプルのCP値が示される。プラスミド標準に基づき、対応するコピー数(プラスミドコピー)を測定されたCP値から算出した。(NTC)無鋳型対照、(nGRC)好中性顆粒球。
【0135】
サンプルにおける好中球の相対量をバイサルファイト変換好中球特異的マーカーのコピー数、並びにサンプル中のバイサルファイト変換及び非バイサルファイト変換好中球特異的マーカーコピーの総数から以下のように算出する:
%好中球=バイサルファイト変換好中球コピーの数/非バイサルファイト変換好中球コピーの数×100;
%好中球=253.67/(253.67+152.67)×100=62.43
【0136】
本アッセイは、「一般的な」適合プライマー及び標準PCRプロトコルを用いたバイサルファイト変換好中球標的DNAの増幅が十分な結果をもたらさないという点で特別である。突然変異(「ミスマッチ」)を本明細書で特定された戦略的部位に有する設計された増幅プライマーを使用し、遙かに高いMg2+濃度をPCRに用いた場合にのみ好中球標的領域の効率的な増幅が可能となる。
【0137】
次の工程では、ゲノムプラスミド標準を設計することができ、細胞特異的アッセイ補正因子を評価することができる(実施例6を参照されたい)。
【0138】
実施例8−非バイサルファイト変換核酸分子(ゲノムプラスミド標準)を、1マイクロリットル当たりの細胞の絶対数を定量化するための正規化標準として用いた細胞特異的アッセイ補正因子の評価
非バイサルファイト変換ゲノムプラスミド標準を正規化標準として開発した。これらのゲノムプラスミド標準の1つはTリンパ球に特異的なマーカー領域と、細胞型非特異的なマーカー領域(GAPDH、ハウスキーピング遺伝子、全細胞で検出される、100 %の細胞)とを含む。各々の単一プラスミドは同じコピー数のこれら2つのマーカー領域(等モル)を含有し、これらのプラスミドのうち2つが1つの単一免疫細胞当たりのDNAコピー数に対応し、したがって1つの単細胞として計数される。規定数の上記ゲノムプラスミド分子を含有する原液を使用して、Tリンパ球特異的アッセイ補正因子を決定し、未知の血液サンプルにおける1マイクロリットル当たりのTリンパ球の絶対数を評価した。
【0139】
第1の工程では、4つの未知の組成のヒト血液サンプルに由来するDNAを単離した。この単離DNA及びゲノムプラスミド標準のゲノムプラスミドをバイサルファイト処理した。続いて、バイサルファイト変換Tリンパ球特異的及びGAPDH特異的マーカー領域のコピー量をqPCRによって評価した(表10、セクションB、セクションC)。これらのqPCR分析はバイサルファイト変換正規化標準を用いて行い(表10、セクションA)、Tリンパ球特異的マーカー領域及びGAPDHマーカー領域を含有するバイサルファイト変換DNAの相対数及びゲノムプラスミドコピーの相対数が示された(表10、セクションB、セクションC)。
【0140】
未知の血液サンプルにおけるTリンパ球の相対量(%)を、バイサルファイト変換GAPDHコピーに対するバイサルファイト変換Tリンパ球特異的マーカーコピー数として算出する(表10、セクションB)。
% Tリンパ球=バイサルファイト変換Tリンパ球特異的マーカーコピー数/バイサルファイト変換GAPDHコピー数×100
(例えばRD260314):1896.7/6570.0×100=28.87 %
【0141】
次の工程では、上記ゲノムプラスミド標準に基づくTリンパ球特異的アッセイ補正因子を評価した(表GR、セクションC)。上記のように、上記ゲノムプラスミド標準をバイサルファイト変換し、プラスミドコピー数をTリンパ球及びGAPDHについてバイサルファイト変換マーカー領域に特異的なプライマーを用いるqPCRによって評価した。これらのqPCR分析を、同様にバイサルファイト変換正規化標準を用いて行った(表10、セクションA)。Tリンパ球及びGAPDHのqPCRの効率は、新規のゲノム非バイサルファイト変換プラスミド標準が等モル量のTリンパ球特異的及びGAPDH特異的マーカー領域コピーを含有することから、等しくなるはずである。したがって、評価されたGAPDHコピー数からのゲノムTリンパ球コピー数の偏差はqPCRアッセイ効率の差に相当する。
例えば、平均Tリンパ球コピー数=6058対平均GAPDHコピー数=5483
【0142】
この偏差により細胞型アッセイ特異的補正因子が規定される:
平均Tリンパ球コピー数/GAPDHコピー数=6058/5483=1.1。
【0143】
Tリンパ球については、1.1(平均、n=2)というアッセイ補正因子が評価された(表10、セクションC)。Tリンパ球の相対量を因子1.1によって補正すると、例えば、未知の血液サンプルRD260314において26.24 %のTリンパ球という絶対量が得られる(表10、セクションD)。
Tリンパ球の絶対量=Tリンパ球の相対量/特異的アッセイ補正因子
例えば、28.87 %/1.1=26.24 % Treg細胞
【0144】
さらに、未知の血液サンプルにおける1マイクロリットル当たりのTリンパ球の絶対数を評価した(表10、セクションE)。上記のように、上記ゲノムプラスミド標準(1マイクロリットル当たり6250コピーの原液)をバイサルファイト変換し、プラスミドコピー数をTリンパ球のバイサルファイト変換マーカー領域に特異的なプライマーを用いるqPCRによって評価した(セクションC)。これらのqPCRはバイサルファイト変換正規化標準を用いて行った(セクションA)。
【0145】
未知の血液サンプルにおける1マイクロリットル当たりのTリンパ球の量を、原液の既知の初期ゲノムプラスミド数(6250コピー)及びqPCRによって評価された未知の血液サンプルにおけるTリンパ球特異的マーカーのコピー数(セクションBを参照されたい)とqPCRによって評価されたゲノムプラスミド標準のコピー数(セクションCを参照されたい)との関係から算出した。
Tリンパ球/μl=プラスミドコピー数/μl×バイサルファイト変換Tリンパ球特異的マーカーコピー数/qPCRによって評価された平均プラスミドコピー数×2
(例えば、RD260314):(6250×1896.7)/(6058.3×2)=978 Tリンパ球/μl
(下記表10を参照されたい)
【0146】
【表10】
表10:バイサルファイト非変換核酸分子をプラスミド標準として用いたTreg特異的アッセイ補正因子の評価。
【符号の説明】
【0147】
図1
Haemogram ヘモグラム
Leukocytogram 白血球像
B-Lymphocytogram Bリンパ球像
B-cells B細胞
Monocytogram 単球像
Monocytes 単球
macrophage マクロファージ
Granulocytogram 顆粒球像
Granulocytes 顆粒球
neutrophils 好中球
eosinophils 好酸球
basophils 好塩基球
T-Lymphocytogram Tリンパ球像
CD3+ T cells CD3+ Tリンパ球
CD8+T cytotoxogram CD8+細胞傷害性T細胞像
CD4+T helper cytogram CD4+ヘルパーT細胞像
NK cytogram NK細胞像
NK-cells NK細胞
memory 記憶
naive ナイーブ
plasma cell 形質細胞
transitionalB-cells 移行性B細胞
Classicalmonocytes 古典的単球
intermediatemonocytes 中間型単球
non-classicalmonocytes 非古典的単球
plasmacytoiddendritic cell 形質細胞様樹状細胞
myeloiddendritic cell 骨髄樹状細胞
granulocyticmyeloid-derived suppressor cells 顆粒球性骨髄由来サプレッサー細胞
monocyticmyeloid-derived suppressor cells 単球性骨髄由来サプレッサー細胞

図2
Bisulfite-unconvertibility バイサルファイト非変換性
B Lymphocytes Bリンパ球
Cytotoxic TLymphocytes 細胞傷害性Tリンパ球
(Total)Granulocytes (全)顆粒球
Monocytes 単球
NaturalKiller Cells ナチュラルキラー細胞
T HelperCells ヘルパーT細胞
BasophilGranulocytes 好塩基性顆粒球
EosinophilGranulocytes 好酸性顆粒球

図3
Bisulfite-unconvertibility バイサルファイト非変換性
B Lymphocytes Bリンパ球
Basophils 好塩基球
Cytotoxic TCells 細胞傷害性T細胞
Eosinophils 好酸球
Monocytes 単球
NK Cells NK細胞
Neutrophils 好中球
T HelperCells ヘルパーT細胞
TotalGranulocytes 全顆粒球
NKT Cells NKT細胞

図4
TpG-specificPCR System (TaqMan-Mode) TpG特異的PCRシステム(TaqManモード)
Template 鋳型
Plasmid プラスミド
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]