【文献】
Chemistry & Biology,2003年,Vol. 10,pp. 149-159
【文献】
J. Am. Chem. Soc.,2013年 1月29日,Vol. 135,pp. 3474-3484
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記環化したペプチドは、それが誘導され得る線状ペプチドよりアミロイドベータ種に対して高い結合親和性を有することを特徴とする、請求項1または2に記載のペプチド。
前記環化したペプチドは、それが誘導され得る線状ペプチドよりアミロイドベータオリゴマーの生成阻害および/または無毒化および/または除去において高い効果を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のペプチド。
少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上のそれぞれ効果的にAベータ種に結合する線状ペプチド構成要素であって、それにより得られる全ペプチドが共有結合し、それにより環化した形態で存在することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載のペプチド。
アミロイドベータオリゴマーの生成を阻害するおよび/またはそれを分解するおよび/またはそれを無毒化するための、請求項1〜13のいずれか一項に記載の少なくとも1種のペプチドを含む組成物。
【背景技術】
【0002】
DE69930164T2から、ペプチドのインテイン媒介環化が知られている。
【0003】
DeMattosら(非特許文献1)から、アルツハイマー型認知症治療用の抗Aβ抗体が知られている。
【0004】
しかし、アルツハイマー型認知症(AD、アルツハイマー型認知症、ラテン語、アルツハイマー病)治療用の原因に作用する医薬はまだ存在しない。使用されている医薬は、せいぜい幾つかの症状を軽減できる程度であり、その疾患の進行を停止するどころか遅らせることもできない。
【0005】
動物実験でアルツハイマー型認知症の予防に幾らかの成果を収めることができる物質は幾つか存在するが、必ずしもその治療で成果を収めることはできない。
【0006】
アルツハイマー病の特徴は、アミロイドベータペプチド(Aベータペプチド、AβまたはAβペプチド)の細胞外沈着である。このようなAベータペプチドのプラークの沈着が死後のAD患者の脳内で特徴的に認められる。そのため、例えば、フィブリルなどの様々な形態のAベータペプチドがアルツハイマー病の発症および進行の原因になると考えられる。さらに数年前から自由拡散性の小さいAベータオリゴマーがADの発症および進行の主因と考えられている。Aベータモノマーは体内で絶えず生成し、おそらくそれ自体は毒性がないと思われる。Aベータモノマーが、最終的には体内での生成速度と分解速度により生じるそれらの濃度に依存して、偶発的に、従って加齢に伴い自然発生的にAベータオリゴマーになり集まって蓄積する可能性が次第に高くなると推測される。一度生じたAベータオリゴマーはその後プリオンと同様の機構により増加し、最終的にアルツハイマー病を引き起こす可能性がある。
【0007】
現在、例えば、ガンマセクレターゼ阻害または調整などの様々な方法でAベータモノマーの濃度を減少させる幾つかの物質、およびAベータ結合性抗体等が存在し、それは動物実験で(ここでは、動物はたいていの場合、その疾患の症状が十分現れる前に予め処置される)、予防効果を発揮するために十分なようである。ヒトの第II相および第III相臨床試験では、アルツハイマー型認知症と明確に診断された人しか処置してはならない。この点でこれまでこれらの物質は全て、所期の成果を収めることができなかった。おそらく、生じるAベータオリゴマー量が次第に増加することを阻止するためには、アルツハイマー病の発症後、Aベータモノマー濃度の少しのまたはある程度の減少ではもはや十分ではないからである。
【0008】
これまで、症状の発症前にアルツハイマー型認知症を診断する方法はなかった。アルツハイマー型認知症は、今日は主に、既に認知症の症状が現れている人の精神心理学的試験で判定される。さらに、心的外傷などの他の疾患は様々な検査方法により排除することができる。しかし、症状が現われる前に最長20年患者の脳内でAベータオリゴマーおよびその後プラークが生じ、不可逆的な障害を引き起こすことが分かっている。患者に静脈内注射され、血液脳関門通過後にAベータオリゴマーおよびプラークに結合する分子プローブは、画像法により視認可能にすることができ、それによりアルツハイマー型認知症をより早期に診断することが可能となる。
【0009】
既存のAベータ結合性物質は、不都合なことには、それによりAベータオリゴマーの増加を阻止するのに十分な親和性がない。
【0010】
不都合なことには、Aベータ種に特異的に結合し、これを視認可能にするin−vivo画像法用のプローブもない。Aベータオリゴマーはその病歴において非常に重要且つ早期の役割を果たすため、まさにこのようなものが望ましい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のペプチドは、例えば、従来技術から公知のD3などの、アミロイドベータ種に結合する少なくとも1種のペプチドを含み、そのペプチドはAベータに結合することができる線状のアミノ酸配列を有し、この特性はその線状ペプチドが共有結合により環化した形態で存在するため、維持されるかまたは増強される。
【0017】
前記ペプチドD3は、国際公開第02/081505A2からその線状配列が知られている。
【0018】
本発明のペプチドは、有利には、実質的にD−エナンチオマー型のアミノ酸からなる。本発明の目的では、「実質的にD−エナンチオマー型のアミノ酸から」という用語は、使用されるアミノ酸が少なくとも60%以上、好ましくは75%以上、80%以上、特に好ましくは85%以上、90%以上、95%以上、特に96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、100%、D−エナンチオマー型のアミノ酸から構成されていることを意味する。
【0019】
本発明の一実施形態では、本発明の環化したペプチドは、アミロイドベータ種に1μM以下、好ましくは800nM以下、600nM以下、400nM以下、200nM以下、100nM以下、10nM以下、特に好ましくは1000pM以下、900pM以下、800pM以下、700pM以下、600pM以下、500pM以下、400pM以下、300pM以下、200pM以下、100pM以下、特に好ましくは50pM以下、最も好ましくは25pM以下、20pM以下、15pM以下、10pM以下、9pM以下、8pM以下、7pM以下、6pM以下、5pM以下、4pM以下、3pM以下、2pM以下、1pM以下から1pM未満までの解離定数(K
D値)で結合し、全ての中間値を取ることができる。
【0020】
環化したペプチドの解離定数(K
D値)は、本発明の有利な実施形態では、線状配列を有する結合性ペプチドと比較して、特に、とりわけ環状ペプチドが誘導され得るどの線状ペプチドと比較しても低いことが有利である。結合親和性ならびに毒性のあるアミロイドベータ種の分解および/または生成阻害の効果などの本発明のペプチドの改善された特性は、それと結び付けられる。これは、特に、Aベータ(モノマー、オリゴマーおよびフィブリル)の高親和性部位の低いK
D値に関連するが、それに限定されるものではない。
【0021】
本発明のペプチドは、有利には、線状分子の環化が、例えば、最初のアミノ酸と最後のアミノ酸との共有結合により、例えば、縮合反応で行われるアミノ酸配列を有する。例えば、他のアミノ酸が互いに結合することによる他の環化の可能性も勿論存在する。単に例として、2番目のアミノ酸と最後のアミノ酸との結合が挙げられる。他の可能な、どの結合も同様に考えられる。
【0022】
ペプチドの最初のアミノ酸と最後のアミノ酸が互いに結合する場合、有利には、ペプチド鎖(アミノ酸配列)に開放端が存在しなくなる。
【0023】
この手段により、さらに、環化の後、もはや区別できない同じアミノ酸の順序が得られる線状アミノ酸配列を有するペプチドは全て、この目的では同一になる。
【0024】
例:既知のペプチドであるD3の線状アミノ酸配列はrprtrlhthrnrである。N末端のアミノ基とC末端のカルボキシル基とのアミド結合により結合した、対応する環化したペプチド「cD3」は、環化したペプチドであるprtrlhthrnrr、rtrlhthrnrrp、trlhthrnrrpr、rlhthrnrrprt、lhthrnrrprtr、hthrnrrprtrl、thrnrrprtrlh、hrnrrprtrlht、rnrrprtrlhth、nrrprtrlhthr、またはrrprtrlhthrnと、もはや区別することができない。
【0025】
環化したペプチドの製造は従来技術であり、例えば、DE102005049537A1に記載の方法に従って行うことができる。
【0026】
有利には、ペプチドの最初のアミノ酸と最後のアミノ酸での環化により、細胞内、動物または人における、例えば、アミノペプチダーゼおよびカルボキシペプチダーゼによるペプチド分解作用の開始点となることが多いペプチド鎖の「開放」端はもはや存在しなくなる。
【0027】
環化したペプチドは有利には、対応する線状ペプチドより、動物および人において安定性が大きい。確かに、この作用は、後述するように本発明だけに重要なのではない。それは、その他の点では、示したように、それに応じて線状ペプチドの両端が互いに結合される頭尾環化または尾頭環化の場合のみにも当てはまる。
【0028】
本発明の範囲では、むしろ、本発明の環化したペプチドの方が、環化したペプチドが誘導され得る線状の結合性ペプチドと比較して、Aベータ種に、それもとりわけ、特に毒性のあるアミロイドベータオリゴマーにもより高い親和性で結合することが判明した。即ち、環化したペプチドの方が線状ペプチドより、特にそれらが誘導され得る線状ペプチドよりK
D値が低い。
【0029】
そのため、本発明の別の好ましい実施形態では、本発明の環化したペプチドの結合親和性は、それらが誘導され得る線状ペプチドと比較して、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、特に10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、特に100%、101%、102%、103%、104%、105%、106%、107%、108%、109%、110%、111%、112%、113%、114%、115%、116%、117%、118%、119%、120%、121%、122%、123%、124%、125%、126%、127%、128%、129%、130%、131%、132%、133%、134%、135%、136%、137%、138%、139%、140%、141%、142%、143%、144%、145%、146%、147%、148%、149%、150%、151%、152%、153%、154%、155%、156%、157%、158%、159%、160%、161%、162%、163%、164%、165%、166%、167%、168%、169%、170%、171%、172%、173%、174%、175%、176%、177%、178%、179%、180%、181%、182%、183%、184%、185%、186%、187%、188%、189%、190%、191%、192%、193%、194%、195%、196%、197%、198%、199%、特に200%、201%、202%、203%、204%、205%、206%、207%、208%、209%、210%、211%、212%、213%、214%、215%、216%、217%、218%、219%、220%、221%、222%、223%、224%、225%、226%、227%、228%、229%、230%、231%、232%、233%、234%、235%、236%、237%、238%、239%、240%、241%、242%、243%、244%、245%、246%、247%、248%、249%、250%、251%、252%、253%、254%、255%、256%、257%、258%、259%、260%、261%、262%、263%、264%、265%、266%、267%、268%、269%、270%、271%、272%、273%、274%、275%、276%、277%、278%、279%、280%、281%、282%、283%、284%、285%、286%、287%、288%、289%、290%、291%、292%、293%、294%、295%、296%、297%、298%、299%、特に300%、301%、302%、303%、304%、305%、306%、307%、308%、309%、310%、311%、312%、313%、314%、315%、316%、317%、318%、319%、320%、321%、322%、323%、324%、325%、326%、327%、328%、329%、330%、331%、332%、333%、334%、335%、336%、337%、338%、339%、340%、341%、342%、343%、344%、345%、346%、347%、348%、349%、350%、351%、352%、353%、354%、355%、356%、357%、358%、359%、360%、361%、362%、363%、364%、365%、366%、367%、368%、369%、370%、371%、372%、373%、374%、375%、376%、377%、378%、379%、380%、381%、382%、383%、384%、385%、386%、387%、388%、389%、390%、391%、392%、393%、394%、395%、396%、397%、398%、399%、特に400%、401%、402%、403%、404%、405%、406%、407%、408%、409%、410%、411%、412%、413%、414%、415%、416%、417%、418%、419%、420%、421%、422%、423%、424%、425%、426%、427%、428%、429%、430%、431%、432%、433%、434%、435%、436%、437%、438%、439%、440%、441%、442%、443%、444%、445%、446%、447%、448%、449%、450%、451%、452%、453%、454%、455%、456%、457%、458%、459%、460%、461%、462%、463%、464%、465%、466%、467%、468%、469%、470%、471%、472%、473%、474%、475%、476%、477%、478%、479%、480%、481%、482%、483%、484%、485%、486%、487%、488%、489%、490%、491%、492%、493%、494%、495%、496%、497%、498%、499%、有利にはさらに、500%、501%、502%、503%、504%、505%、506%、507%、508%、509%、510%、511%、512%、513%、514%、515%、516%、517%、518%、519%、520%、521%、522%、523%、524%、525%、526%、527%、528%、529%、530%、531%、532%、533%、534%、535%、536%、537%、538%、539%、540%、541%、542%、543%、544%、545%、546%、547%、548%、549%、550%、551%、552%、553%、554%、555%、556%、557%、558%、559%、560%、561%、562%、563%、564%、565%、566%、567%、568%、569%、570%、571%、572%、573%、574%、575%、576%、577%、578%、579%、580%、581%、582%、583%、584%、585%、586%、587%、588%、589%、590%、591%、592%、593%、594%、595%、596%、597%、598%、599%、特に有利には、600%、601%、602%、603%、604%、605%、606%、607%、608%、609%、610%、611%、612%、613%、614%、615%、616%、617%、618%、619%、620%、621%、622%、623%、624%、625%、626%、627%、628%、629%、630%、631%、632%、633%、634%、635%、636%、637%、638%、639%、640%、641%、642%、643%、644%、645%、646%、647%、648%、649%、650%、651%、652%、653%、654%、655%、656%、657%、658%、659%、660%、661%、662%、663%、664%、665%、666%、667%、668%、669%、670%、671%、672%、673%、674%、675%、676%、677%、678%、679%、680%、681%、682%、683%、684%、685%、686%、687%、688%、689%、690%、691%、692%、693%、694%、695%、696%、697%、698%、699%、特に有利には、700%、701%、702%、703%、704%、705%、706%、707%、708%、709%、710%、711%、712%、713%、714%、715%、716%、717%、718%、719%、720%、721%、722%、723%、724%、725%、726%、727%、728%、729%、730%、731%、732%、733%、734%、735%、736%、737%、738%、739%、740%、741%、742%、743%、744%、745%、746%、747%、748%、749%、750%、751%、752%、753%、754%、755%、756%、757%、758%、759%、760%、761%、762%、763%、764%、765%、766%、767%、768%、769%、770%、771%、772%、773%、774%、775%、776%、777%、778%、779%、780%、781%、782%、783%、784%、785%、786%、787%、788%、789%、790%、791%、792%、793%、794%、795%、796%、797%、798%、799%、同様に特に有利には、800%、801%、802%、803%、804%、805%、806%、807%、808%、809%、810%、811%、812%、813%、814%、815%、816%、817%、818%、819%、820%、821%、822%、823%、824%、825%、826%、827%、828%、829%、830%、831%、832%、833%、834%、835%、836%、837%、838%、839%、840%、841%、842%、843%、844%、845%、846%、847%、848%、849%、850%、851%、852%、853%、854%、855%、856%、857%、858%、859%、860%、861%、862%、863%、864%、865%、866%、867%、868%、869%、870%、871%、872%、873%、874%、875%、876%、877%、878%、879%、880%、881%、882%、883%、884%、885%、886%、887%、888%、889%、890%、891%、892%、893%、894%、895%、896%、897%、898%、899%、同様に特に有利には、900%、901%、902%、903%、904%、905%、906%、907%、908%、909%、910%、911%、912%、913%、914%、915%、916%、917%、918%、919%、920%、921%、922%、923%、924%、925%、926%、927%、928%、929%、930%、931%、932%、933%、934%、935%、936%、937%、938%、939%、940%、941%、942%、943%、944%、945%、946%、947%、948%、949%、950%、951%、952%、953%、954%、955%、956%、957%、958%、959%、960%、961%、962%、963%、964%、965%、966%、967%、968%、969%、970%、971%、972%、973%、974%、975%、976%、977%、978%、979%、980%、981%、982%、983%、984%、985%、986%、987%、988%、989%、990%、991%、992%、993%、994%、995%、996%、997%、998%、999%、またはさらには1000%も、またはさらには10000%も高く、またはさら
には最大100000%または1000000%も高く、全ての中間値を取ることができる。これは、特に、Aベータ(モノマー、オリゴマー、およびフィブリル等)の高親和性部位に対する高い親和性に関するが、それらに限定されるものではない。
【0030】
これは、それに応じて低下したK
D値により示される。アミロイドベータ種、特にアミロイドベータオリゴマーに対する環化したペプチドの結合親和性の尺度としてのK
D値は、線状の結合性ペプチドと比較して、とりわけ、環化したペプチドが誘導され得るどの線状の結合性ペプチドと比較しても、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、特に10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、特に99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%、最大99.99%またはさらには99.999%も低下する。
【0031】
これらの低下したK
D値は、有利には、特に、Aベータ(モノマー、オリゴマー、およびフィブリル等)の高親和性部位に関連するが、それらに限定されるものではない。
【0032】
本発明の環化したペプチドは、そのため、診断用のプローブとして、線状の結合性ペプチドより効率的に、特にそれらが誘導され得るその線状ペプチド対応物(同じアミノ酸配列)よりも効率的に使用することができる。
【0033】
それらは特に治療薬としても、線状ペプチドより効率的に、特に、それらが誘導され得るその線状ペプチド対応物より効率的に使用することができる。
【0034】
即ち、本発明の範囲ではさらに、本発明の環化したペプチドは線状ペプチドと比較して、特に、それらが誘導され得る線状の配列を有するそのペプチド対応物と比較して、さらには、特に毒性のあるアミロイドベータオリゴマーの生成を阻止する、またはその分解および/または無毒化を引き起こす効果あるいは効率も高いことが判明した。この効果は特に1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、特に10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.9%、特に有利には100%も高い。
【0035】
様々なAβ配座異性体(Konformeren)を有する試料を、このために試験的に、最も簡単な場合、例えば画分する。各分画では、画分工程に応じて、モノマー、オリゴマー、フィブリルまたはより高度の凝集体などの様々な配座異性体が濃縮され、次いで、それを正確に測定することができる。
【0036】
「正確に測定する」という用語は、既知の種類および特性の分子により画分を行う際の較正工程を含む。画分後、各分画には、例えば、モノマー、オリゴマーまたはフィブリル等の、特定の種類のAβ配座異性体しか存在しない。
【0037】
例えば、配座異性体は、画分工程として密度勾配遠心法を行う場合、そのs値または沈降係数に応じて分離される。異なるサイズの分子は同一の流体力学的半径を有することもあるが、それにもかかわらず異なるs値を有し、それに応じて分離される。既知のs値を有する分子で較正することにより、密度勾配遠心法で得られたAβ配座異性体はそのs値に応じて正確に測定される。
【0038】
さらに、得られた分画を、作用物質を用いておよびそれを用いずに処理し、例えば、RP−HPLCで測定する。このようにして、作用物質の効果を調べることができる。
【0039】
他の方法について以下に説明する。作用物質を定量分析するために、いわゆるQIAD試験を使用することができる(Aβ凝集体の粒度分布に対する干渉の定量測定)。試料中のアミロイドペプチドおよび/またはタンパク質の粒度分布に及ぼす作用物質の影響の定量分析方法は、この場合、以下の工程を有する。まず、それぞれ様々なAベータ凝集体が生じるように、Aベータを制御された条件下で凝集させる。この条件は、特に多くの、小さい、特に細胞毒性のあるAベータオリゴマーが生成されるように選択される。次に、被検物質、例えば、本発明の環化したペプチドの1種を試料に添加する。作用物質は試料中の粒度分布を変化させる。この変化を定量する。この変化は、特定の粒度の特定の毒性のある種の低減のまたはさらには完全な除去の尺度でもある。QIAD法により、特定の粒度のAベータ凝集体の増加または減少を測定する。特定のサイズを有する幾つかのAベータ凝集体が最初は試料中に存在したが、これらは作用物質の影響下で低減するまたはさらには完全に除去される。他の粒度は作用物質の影響下で増大するまたは一定のままである。Aベータから形成された粒子は、とりわけ粒子のその流体力学的半径に応じて互いに分離される。このようにして、有利には、試料から複数の分画が得られることになる。分画中に、特定の凝集体サイズを有するアミロイドペプチドおよび/またはタンパク質の粒子が濃縮されている。このような粒子の分離は、密度勾配遠心法で行うことができる。分画は、例えば、ピペットで取ることにより空間的に互いに分離される。最後に、画分に続いて行われる逆相(RP−)HPLC中にAベータ種を完全に変性させることにより各分画中のAベータの濃度を測定する。凝集体の変性は、例えば、30%アセトニトリルおよび0.1%トリフルオロ酢酸を用いて80℃のカラム温度で完全に行い、C8カラムで疎水性に応じて分離することができる。溶出するAベータを215nmのUV吸収で検出する。ピーク面積積分は、Agilent Chemstation Softwareで行うことができる。それらから得られた値を、予め較正を行って補正すると、各分画中に存在するAベータの濃度の算出が可能となる。分画毎に、複数の、例えば6つの、互いに独立して行われる実験の平均値をその結果得られる標準偏差と共に算出することができる。HPLC分析の利点は、凝集状態および溶媒に関わらず非常に高感度で検出し(例えば、約20nMまたは1.8ng Aβ1−42)、高信頼性に定量できることにある。この方法の重要な利点は、Aβオリゴマーも高信頼性に定量することを可能にする密度勾配遠心法と逆相HPLCの連結にある。
【0040】
アミロイドベータ種、特にアミロイドベータオリゴマー(あるいはその生成)を除去する効果が高い本発明の作用は、これらの方法で行うことができるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0041】
本発明の特に好ましい実施形態では、前述の高い親和作用および除去効果、無毒化(あるいはその生成)効果がin vitroおよび/またはin vivoでも生じる。
【0042】
環化したペプチドはリンカー基を有してもよい。リンカー基という用語は、とりわけ、Aベータ成分に結合するための、例えば、それ自体、アルツハイマー型認知症の治療に使用することができるD3などの分子中の追加の個々のアミノ酸を意味する。追加のアミノ酸により、Aベータへの環化したペプチドの結合が妨げられてはならない。
【0043】
本発明により使用可能な環状ペプチドの幾つかの例示的な配列を下記に示す:
cD3:rprtrlhthrnr(配列番号:8)、
cRD2:ptlhthnrrrrr(配列番号:3)またはこれらの多量体(Vielfache)および相同体。
【0044】
効果的にAベータに結合する他の全ての線状ペプチドは環化した形態で本発明により含まれることが有利である。
【0045】
本発明の特に有利な実施形態では、本発明のペプチドは、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上のそれぞれ別々に効果的にAベータに結合するペプチド構成要素を有し、ペプチド構成要素は同一であってもまたは同一でなくてもよい。これらのペプチド構成要素は、頭頭、尾尾または頭尾で線状に結合しており、全体として共有結合により、追加のリンカー構成要素(例えば、1種または2種以上のアミノ酸)を用いてまたは用いずに、例えば、その両端で環化される。
【0046】
その場合、2種以上のペプチドモノマー単位は、ここでも共有結合または非共有結合で、例えば、ビオチン基およびストレプトアビジンテトラマーを介して互いに結合していてもよい。ペプチドは、頭頭、尾尾、または頭尾で線状に結合している単位を特徴とする。
【0047】
単に、例として、以下のものが挙げられる:
cRD2D3:ptlhthnrrrrrrprtrlhthrnr(配列番号:1)
cD3D3:rprtrlhthrnrrprtrlhthrnr(配列番号:2)
cRD2:ptlhthnrrrrr(配列番号:3)
cRD2RD2、ptlhthnrrrrrptlhthnrrrrr(配列番号:4)
cD3r、rprtrlhthrnrr(配列番号:5)
cD3p、rprtrlhthrnrp(配列番号:6)
cD3a、rprtrlhthrnra(配列番号:7)
cD3:rprtrlhthrnr(配列番号:8)
cDB3、rpitrlrthqnr(配列番号:9)
cDB3DB3、rpitrlrthqnrrpitrlrthqnr(配列番号:10)
cD3(p2k)、rkrtrlhthrnr(配列番号:11)
またはこれらの多量体および相同体。
【0048】
環化した形態の前述の配列の2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上からのどのような任意の組み合わせも本発明のペプチドを構成することができる。
【0049】
治療処置の標的分子はとりわけAベータオリゴマー、従って当然のことながら多価の標的であるため、本発明の特に好ましい実施形態では、容易に効率的にAベータオリゴマーに結合する1種の単位の複数のコピーから、または容易に効率的にAベータオリゴマーに結合する複数種の様々な単位から構成されるものが治療に、即ち、既存のAベータオリゴマー物質をなくすために使用される。これらのペプチドも同様に環化されている。従って、この場合、本発明のペプチドは、複数の、それ自体、効果的にAベータ種、特にAベータオリゴマーに結合するペプチド構成要素を含み、それらはそれぞれアミノ酸から構成され、全体として共有結合により環化されている。
【0050】
別の変形形態では、ペプチド構成要素は前述の配列の断片を有するか、または前述の配列と相同性を有する配列を有する。
【0051】
「相同性を有する配列」または「相同体」は、本発明の目的では、あるアミノ酸配列と前述のモノマーのアミノ酸配列の1つとの同一性が、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、100%であることを意味する。「同一性」という用語の代わりに、本明細書では「相同性を有する」または「相同体」という用語を同義的に使用する。2つの核酸配列またはポリペプチド配列間の同一性は、次のアミノ酸パラメータ:ギャップ作成ペナルティ(Gap creation penalty):8およびギャップ伸長ペナルティ:2;ならびに次の核酸パラメータ:ギャップ作成ペナルティ:50およびギャップ伸長ペナルティ:3を使用してSmith,T.F.und Waterman,M.S(Adv.Appl.Math.2:482−489(1981))のアルゴリズムに基づいたプログラムであるBESTFITを用いて比較することにより算出される。好ましくは2つの核酸配列またはポリペプチド配列間の同一性は、各全配列長にわたる核酸配列/ポリペプチド配列の同一性により決定され、例えば、次のアミノ酸パラメータ:ギャップ作成ペナルティ:8およびギャップ伸長ペナルティ:2;ならびに次の核酸パラメータ、ギャップ作成ペナルティ:50およびギャップ伸長ペナルティ:3を使用して、Needleman,S.B.und Wunsch,C.D.(J.Mol.Biol.48:443−453)のアルゴリズムに基づいたプログラムGAPを用いて比較することにより算出される。
【0052】
2つのアミノ酸配列は、本発明の目的では、それらが同じアミノ酸配列を有する場合、同じである。
【0053】
特に、環化後、もはや区別可能ではない同じアミノ酸の順序を生じるアミノ酸配列を有する線状ペプチドは全て、この目的では同一である。例:線状アミノ酸配列D3は、rprtrlhthrnrである。N末端のアミノ基とC末端のカルボキシル基とのアミド結合により結合した、対応する環化したペプチド「cD3」は、環化したペプチドprtrlhthrnrr、rtrlhthrnrrp、trlhthrnrrpr、rlhthrnrrprt、lhthrnrrprtr、hthrnrrprtrl、thrnrrprtrlh、hrnrrprtrlht、rnrrprtrlhth、nrrprtrlhthr、またはrrprtrlhthrnともはや区別できない。その他に、本発明の環化したペプチドは、少なくとも1つの線状の結合性ペプチドと比較して、とりわけそれが誘導され得るどの線状の結合性ペプチドと比較しても、親和性および効果に関して有益な作用を生じる。従って、環化したD3の場合、配列prtrlhthrnrr、rtrlhthrnrrp、trlhthrnrrpr、rlhthrnrrprt、lhthrnrrprtr、hthrnrrprtrl、thrnrrprtrlh、hrnrrprtrlht、rnrrprtrlhth、nrrprtrlhthr、またはrrprtrlhthrnを有する線状の結合性ペプチドと比較して有益な作用を生じる。本発明の環化したペプチドは、これに関して、a)少なくとも1種の線状ペプチド、とりわけそれが誘導され得るどの線状ペプチドよりもアミロイドベータ種に対して高い結合親和性を示す。本発明の環化したペプチドは、b)少なくとも1種の線状の結合性ペプチド、とりわけ環化したペプチドが誘導され得るどの線状の結合性ペプチドよりも、特にアミロイドベータオリゴマーの生成阻害および/または無毒化において高い効果を示す。前述の環化したD3は、その場合、単に例示に過ぎないものと理解されたい。従って、その作用は、特に、配列番号:1−11を有する環化したペプチドで生じるが、それに限定されるものではない。
【0054】
相同体とは、一変形形態では、前述の構成要素の対応するレトロ−インバース配列と理解されたい。「レトロ−インバース配列」という用語は、本発明により、アミノ酸からそのエナンチオマーの形態に構成され(インバース(invers):α−C原子のキラリティーが反対)、さらに配列順序を元のアミノ酸配列に反転させた(レトロ(retro)=逆戻り)アミノ酸配列を示す。
【0055】
本発明のペプチド構成要素およびペプチドポリマー、一般的に言えば、本発明のペプチドは、医薬に使用するのに適している。
【0056】
一実施形態は、アルツハイマー病治療用の本発明のペプチドに関する。別の実施形態は、パーキンソン病、CJD(クロイツフェルト・ヤコブ病)、ALS(筋萎縮性側索硬化症)または他の神経変性疾患、または糖尿病の治療に使用できる本発明のペプチドに関する。
【0057】
本発明の他の対象は、本発明のペプチドを含むキットである。このようなキットでは、本発明のペプチドは、場合により緩衝液または溶液と共に/それに混合して容器に包装されていてもよい。キットの構成成分は全て、同じ容器に包装されていてもまたは互いに別々に包装されていてもよい。さらに、キットは、それを使用するための使用説明書を含んでもよい。このようなキットは、例えば、栓および/またはセプタムを備える注射瓶に入った本発明のペプチドを含むことができる。さらに、その中に、例えば、使い捨て注射器も含まれていてもよい。
【0058】
本発明は、特にアミロイドベータオリゴマーを同定、定性測定および/または定量測定するためのプローブとしての本発明のペプチドの使用にも関する。本発明の対象はまた、特にアミロイドベータオリゴマーを同定、定性測定および/または定量測定するための本発明のペプチドを含む、プローブ自体である。
【0059】
このようなプローブは、アルツハイマー型認知症の早期診断を可能にするため、非常に重要である。それによりこの疾患を既に非常に早い段階で抑制することができる。さらに、従って、疾患または治験(Therapie−Versuches)または治療の進行を追跡することができる。
【0060】
このような分子プローブは本発明のペプチドを含み、患者に、例えば、静脈内注入することができる。プローブの他の成分は、着色剤、蛍光色素、放射性同位体(例えば、PET用)、ガドリニウム(MRI用)、および/または画像法のプローブに使用される成分であってもよい。血液脳関門の通過前または通過後に、プローブは特にAベータオリゴマーおよび/またはプラークに結合することができる。このように標識されたアミロイドベータ種、特にAベータオリゴマーおよび/またはプラークは、例えば、SPECT、PET、CT、MRT、NIR(近赤外)、およびプロトンMR分光法等の画像法により視認可能になり得る。
【0061】
本発明の他の対象は、毒性のあるアミロイドベータオリゴマーの増加および/または生成を阻害するおよび/またはそれを無毒化するための環化したペプチドの使用である。本発明のペプチドは、従って、非毒性のペプチドアミロイドベータオリゴマー複合体の生成にも使用される。
【0062】
本発明の対象はまた、特にアルツハイマー病を治療または予防するための本発明のペプチドを含む組成物である。
【0063】
本発明の対象はさらに、特に毒性のあるAベータオリゴマーを阻害するためのまたはそれから生成されるポリマーもしくはフィブリルを分解するための本発明のペプチドを含む組成物である。
【0064】
本発明の「組成物」は、例えば、本発明のペプチドを専門知識に基づいて製造され得る製剤として含む、ワクチン、医薬(例えば、錠剤の形態)、注射液、食品または栄養補助食品であってもよい。
【0065】
本発明のペプチドは、Aベータオリゴマーまたはそれから形成される凝集体およびフィブリルを、それらに結合して非毒性の化合物に変換することにより無毒化する。既に形成したAベータ−フィブリルは非常に安定であり、元のように分解するのが非常に困難で時間がかかるため、フィブリルの生成を阻害できる物質は必ずしも、既に形成したフィブリルを分解できるわけではない。
【0066】
従って、本発明の対象はまた、Aベータオリゴマー、それから生成されるポリマーまたはフィブリルを無毒化する方法である。
【0067】
既にAβオリゴマーが存在する場合、Aベータに対してできるだけ高い親和性を有する物質によりこれらに対処することを治療の目的としなければならないことが判明した。事実上、親和性が全く十分に大きくないことがあるが、本発明のペプチドの対応する解離定数はpMの範囲またはさらに低い範囲にある。
【0068】
さらに、予防と治療との重要な違いは次の点にある。最初のAベータオリゴマーの生成を阻止するためには、親和性および効果が低いAベータリガンドでも十分な場合があることが判明した。複数のAベータモノマーからのAベータオリゴマーの生成は反応次数が非常に高いため、それは、高い数で、Aベータモノマー濃度に依存する。活性Aベータモノマー濃度の少しの減少でも最初のAベータオリゴマーの生成を阻止することができる。これは予防の場合である。
【0069】
しかし、既にAベータオリゴマーが生じている場合、これは(プリオンと同様に)増加する可能性があるが、それは高次の反応ではなく、従って、あまりAベータモノマー濃度に依存しない。これは、治療の場合である。従って、Aベータオリゴマーが既に生じている場合、Aβオリゴマーに対する親和性ができるだけ高い物質によりこれに対処する、および/またはこれを特に効率的に除去する、および/またはその生成を特に効率的に阻止することを治療の目的としなければならない。対応する解離定数は、この目的ではμM未満、nMもしくはpMの範囲またはさらに低い範囲になければならない。本発明ではこれに該当し、本発明の環化したペプチドは、療法の目的で、アミロイドベータ種、特にAベータオリゴマーに、それに応じて低い解離定数で結合する。
【0070】
自由に拡散できる小さいAベータオリゴマーから、大きいAベータオリゴマー、フィブリルにまで結合するそれらの特性により、本発明のペプチドはアルツハイマー型認知症の全ての段階で使用可能である。本発明の教示に基づいて、様々な形態のAベータオリゴマーに選択的に結合するペプチドを製造することもできる。
【0071】
既に前述した本発明のペプチドの製造方法の他に、例えば、ペプチド合成方法、タンパク質の組換え製造および任意のいわゆる低分子量化合物の一般に認められている有機合成方法も可能である。
【0072】
特にこれらの線状分子の共有結合による環化が考えられる。それにより、特にペプチド鎖の開放端の1つ、有利にはペプチド鎖の開放端が両方とも回避される。これにより一方では動物および人におけるペプチドの安定性が高くなり、それにより著しく有利な薬物動態学的特性がもたらされる。しかし、環化により、特に有利には非結合状態のペプチドの可能な立体配座の数が著しく低減することになる。これによりまた、自由状態でのエントロピーも低減し、それによりまた結合反応のエントロピー部分を標的分子であるAベータとの複合体形成に有利になるようにすることがさらに有利である。それにより最終的に標的分子に対する親和性は、環化したペプチドが誘導され得る線状の結合性ペプチドと比較して著しく高くなる。同様のことが、毒性のあるアミロイドベータ種、特にアミロイドベータオリゴマーを除去するおよび/またはその生成を阻害する効果についても言える。これらの本発明の効果が、その場合、重要であり、単に環化の有益な副次的作用である安定性向上の可能性はそれほど重要ではない。
【0073】
この環化は、例えば、線状ペプチドの頭尾環化または尾頭環化または他の環化により行われる。ここでは、可能などのような環化も考慮に入れることができる。
【0074】
治療処置の標的分子は、特にAベータオリゴマーおよび当然のことながら多価の標的であるため、有利にはさらに環化されている、容易に効率的にAベータオリゴマーに結合するペプチド単位の複数のコピーから、治療(存在するAベータオリゴマーを無くすこと)に使用できる物質を製造することが考えられる。この場合、ペプチドは、それ自体、容易に効果的にAベータオリゴマーに結合するペプチド構成要素を複数含み、それらはそれぞれアミノ酸から線状に構成され、その残存する両端の間で全体として共有結合により環に結合している。
【0075】
この手段により、有利にはKDがさらに低下する。従って、有利には、少なくとも理論的に且つ妨害する影響がない場合、例えば、立体障害による影響がない場合、Aベータオリゴマーに解離定数(KD)xで結合するAベータオリゴマー結合性単位のn量体は、見掛けのKDがxのn乗の高さに達することになる。
【0076】
その場合、これを達成する様々な方法があり:Aベータオリゴマー結合性単位、即ち、ペプチドモノマー単位は、共有結合または非共有結合により、例えば、ビオチン基およびストレプトアビジンテトラマーを介して互いに結合することができる。
【0077】
共有結合は、モノマー単位を頭頭、尾尾または頭尾で、しかもリンカー基を用いずにまたはリンカー基を用いて線状に結合することにより達成することができる。その場合、同一でないモノマー単位を組み合わせて、本発明により環化することもできる。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下も包含し得る。
1.アミロイドベータ種に結合する少なくとも1つのペプチドを含むペプチドであって、Aベータに結合することができる線状アミノ酸配列を有し、共有結合により環化した形態で存在するために、この特性が維持されるか、または増強されるペプチド。
2.実質的にD−エナンチオマー型のアミノ酸からなることを特徴とする、上記1に記載のペプチド。
3.前記環化したペプチドは、それが誘導され得る線状ペプチドよりアミロイドベータ種に対して高い結合親和性を有することを特徴とする、上記1または2に記載のペプチド。
4.前記環化したペプチドは、それが誘導され得る線状ペプチドよりアミロイドベータオリゴマーの生成阻害および/または無毒化および/または除去において高い効果を有することを特徴とする、上記1〜3のいずれか一項に記載のペプチド。
5.高くても解離定数(KD値)1μM以下、好ましくは800nM以下、600nM以下、400nM以下、200nM以下、100nM以下、10nM以下、特に好ましくは1,000pM以下、900pM以下、800pM以下、700pM以下、600pM以下、500pM以下、400pM以下、300pM以下、200pM以下、100pM以下、特に好ましくは50pM以下、最も好ましくは20pM以下、好ましくはpM未満でアミロイドベータオリゴマーに結合することを特徴とする、上記1〜4のいずれか一項に記載のペプチド。
6.前記ペプチド鎖の開放端を有していないことを特徴とする、上記1〜5のいずれか一項に記載のペプチド。
7.前記ペプチド鎖に開放端がないため、動物および人において薬理学的に特に安定であることを特徴とする、上記1〜6のいずれか一項に記載のペプチド。
8.前記環化したペプチド内の任意の位置に1種または2種以上のリンカー基を有するまたは有していない、上記1〜7のいずれか一項に記載のペプチド。
9.少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上のそれぞれ効果的にAベータ種に結合する線状ペプチド構成要素であって、それにより得られる全ペプチドが共有結合し、それにより環化した形態で存在することを特徴とする、上記1〜8のいずれか一項に記載のペプチド。
10.同一のまたは同一ではないペプチド構成要素の結合を特徴とする、上記9に記載のペプチド。
11.互いに共有結合しているペプチド構成要素を特徴とする、上記9または10に記載のペプチド。
12.頭頭、尾尾、または頭尾で線状に結合しているペプチド構成要素を特徴とする、上記9〜11のいずれか一項に記載のペプチド。
13.環化した形態の配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3または配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10、または配列番号:11を有する配列の1つによる少なくとも1つの構造を特徴とする、上記1〜12のいずれか一項に記載のペプチド。
14.医薬において使用するための、上記1〜13のいずれか一項に記載のペプチド。
15.上記1〜14のいずれか一項に記載の少なくとも1種のペプチドを含むキット。
16.上記1〜14のいずれか一項に記載の少なくとも1種のペプチドを含むプローブ。
17.好ましくはアルツハイマー病を治療するための、上記1〜14のいずれか一項に記載の少なくとも1種のペプチドを含む組成物。
18.アミロイドベータ種を同定、定性測定および/または定量測定するためのプローブとしての、上記1〜17のいずれか一項に記載のペプチドの使用。
19.アミロイドベータオリゴマーの生成を阻害するおよび/またはそれを分解するおよび/またはそれを無毒化するための、上記1〜17のいずれか一項に記載のペプチドの使用。
20.非毒性のポリマー−アミロイドベータオリゴマー−複合体を生成するための、上記1〜17のいずれか一項に記載のペプチドの使用。
【実施例】
【0078】
さらに、実施例および添付の図面を参照して本発明をより詳細に説明する。これは決して本発明を限定しようとするものではない。むしろ、当業者には、専門知識の範囲内で、効果的にAベータ種に結合することが証明された他のペプチドを環化した形態で製造し、アルツハイマー型認知症の予防および治療に使用できることが明らかになるであろう。
【0079】
D3の名称を有するD−エナンチオマー型の線状ペプチドは、国際公開第02081505A2から知られている。それは主モノマーのAベータ(1−42)に対する鏡像−ファージディスプレイ−選択により同定され、これを結合により安定化させて、毒性のあるAベータ凝集体へのその変換を阻止することを意図している。現在の知識によればD3は好ましくは特に毒性のあるAベータオリゴマーに結合し、これらを沈殿させ、この時、それを非毒性で、非アミロイド形成性で、ThT−陰性の無定形の凝集体に変換する。動物モデルでは、D3を飲料水と共に経口投与する方法でも、処置されたトランスジェニックADマウスはプラークが著しく少なく、認知能力が著しく向上する。
【0080】
第1の実施例:
第1の実施例は、環化による、アミロイドベータオリゴマーの分解におけるD3の効果あるいは効率の向上を示すことに関する。このために、線状の結合性ペプチドD3の最初と最後のアミノ酸のN末端とC末端をペプチド結合により共有結合した。
【0081】
本発明により環化したD3(「cD3」)はpeptides & elephants GmbH社(Am Muehlenberg 11,14476 Potsdam−Golm、独国)から入手した。
【0082】
密度勾配遠心法からの画分を製造するために、次の方法を使用した。配座異性体はそのs値または沈降係数に応じて分離した。サイズの異なる分子は同一の流体力学的半径を有することもあるが、それにもかかわらずs値が異なり、それに応じて分離される。s値が既知の分子を用いて較正することにより、密度勾配遠心法で得られたAベータ−配座異性体をそのs値により正確に測定した。密度勾配遠心法は、その場合、これにより全てのAベータ−配座異性体を単一の方法工程で互いに分離することができるという利点を有する。予め形成された密度勾配上にオリゴマーまたはより重合度の高いAベータ形態を積層させ、その中に含まれる凝集体粒子をそのs値に応じて超遠心分離により分離する、密度勾配遠心法工程を固定化の前に使用することにより、この遠心分離中に異なるAベータ凝集体(オリゴマーおよびフィブリルまたは無定形凝集体)を、とりわけその粒度に依存するその沈降係数に応じて互いに分離し、画分することができる。続いて、所望のAベータ−配座異性体を有する分画を、固定化のためにストレプトアビジンを負荷したセンサ表面に直接注入することができる。密度勾配の準備は、以下のように50%(260μl)、40%(260μl)、30%(260μl)、20%(260μl)、10%(260μl)、および5%(100μl)(v/v)の濃度の密度勾配溶液(10mMリン酸ナトリウム緩衝液pH7.4で希釈したイオジキサノール)を重層することにより行った。続いて、試料をピペットで取って密度勾配上に移し、4℃および259000gで3時間遠心分離を行った。密度勾配から全部で14分画を140μlずつ上から下に採取した。モノマーは最初の分画に存在し、オリゴマーは特に分画4以降に、フィブリルは典型的には分画11〜13に存在する。
【0083】
密度勾配遠心法から得られた分画は処理しなかった(対照:それぞれ左側の塗りつぶしていない棒)か、または、従来技術から公知のD3(D3、20μM:それぞれ中央のハッチングを施した棒)を用いてもしくは最初のアミノ酸と最後のアミノ酸のN末端とC末端をペプチド結合により共有結合させた分子D3の環化した変形形態(cD3、20μM:それぞれ右側の黒色の棒)を用いて処理した。
【0084】
結果を
図1に示す。環化したcD3は有利には分画1〜2のAベータモノマー濃度には影響を及ぼさないことが明らかになる。
【0085】
しかし、分画4〜8あるいは4〜10に関して、有利にはAベータオリゴマー濃度の著しい低下が認められる。
【0086】
その他の本発明のペプチドでも同等の作用が生じる。
【0087】
第2の実施例:
次の工程は、親和性試験および特に毒性のあるアミロイドベータオリゴマーの分解試験に関する。
【0088】
Aβモノマー、オリゴマーおよびフィブリルの製造
凍結乾燥したAβ1−42およびN末端をビオチン化したAβ1−42各1mgを100%ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)1mlに溶解し、室温で終夜溶解させた。オリゴマーおよびフィブリルの調製には、非ビオチン化AβをN末端ビオチン化Aβと1:10の比で使用し、HFIPを蒸発させた(Eppendorf製のConcentrator 5301)。得られたAβ膜を最終濃度80μMでリン酸ナトリウム緩衝液(10mM、pH7.4)に加え、インキュベートした(RT、600rpm)。インキュベート時間はオリゴマー調製では3時間、フィブリル調製では24時間であった。モノマーの調製には100%N末端ビオチン化Aβ1−42をインキュベートなしで使用した。
【0089】
密度勾配遠心法
各Aβ種をそのサイズに応じて精製するために、密度勾配遠心法をAβの調製に続いて行った。そのために、10mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.4中のイオジキサノール勾配を使用し、イオジキサノールの濃度が50%から5%v/vに上昇するように積層した。Aβ試料100μlを重層し、超遠心分離により分離した(3時間、4℃、259,000g)。続いて、勾配を140μlずつ14分画に画分した。モノマーAβは上部の最初の2つの分画に、Aβオリゴマーは分画4〜6に、Aβフィブリルは分画11〜13に存在した。
【0090】
SPR分光法(表面プラズモン共鳴)のための固定化
SPR分光法には、BiacoreのT200(GE Healthcare)を使用した。密度勾配遠心法により精製したAβ種を製造業者の指示に従ってセンサーチップ(Series S Sensor Chips SA)上にビオチンストレプトアビジン結合により直接固定化した。ランニングバッファーとして1X PBSを使用した。負荷は25℃および5μl/分の流速で行った。続いて、フローセルを終夜、30μl/分の一定流量で非特異的に結合したリガンドから遊離させた。
【0091】
結合速度
結合速度も同様にSPR分光法によりBiacoreのT200装置(GE Healthcare)で測定した。標準条件は25℃および流速30μl/分である。D体のペプチドの様々な凍結乾燥物をランニングバッファー1X PBSに加え、系列希釈した。方法として「シングルサイクル」カイネティクスを使用し、固定化されたフローセルに上昇する5つのアナライト濃度をポンプで送液した。接触時間はアナライトに応じて、会合および解離には90〜120秒を、最終解離には1800〜5400秒を選択した。センサーグラムは負荷されていないフローセルおよび使用したランニングバッファーを用いて二重参照した。結合曲線の解析は、反応速度用フィッティングモデル(不均一結合モデル)を用い、Biacore T200 Evaluation Software(Version 2.0)を使用して行った。
【0092】
図2〜
図4は、本発明の環化したペプチドの結合特性(親和性試験)の結果を示す。図に、アミロイドベータモノマー(
図2)、アミロイドベータオリゴマー(
図3)およびアミロイドベータフィブリル(
図4)に対する様々な候補の結合強度の反応速度解析データを示している。それぞれ不均一結合モデルのフィッティングで得られる2つの結合定数を示し、それぞれ白色の棒と黒色の棒として示されている。ここで、対数目盛が示されていることが重要であり、それは棒のサイズの差が小さくても解離定数K
Dの差は大きくなることを意味する。白色の棒はそれぞれ低親和性部位、従って、低親和性結合部位およびその結合強度であり、黒色の棒は高親和性結合部位およびその結合強度を示す。
【0093】
線状ペプチドD3の場合だけ、結合曲線のフィッティングに1:1の均一結合モデルで十分であることが分かる。
【0094】
さらに、ほぼ全ての場合、使用した環化したペプチドでは、低親和性の結合部位に対する白色の棒は同様の高さであることも分かる。むしろ、黒色の棒として示されている高親和性結合部位で大きい差が生じている。
【0095】
さらに、モノマーでは、環状のcD3r(配列番号:5)は非常に良い成果を収めている(
図2)、従って、特に高い親和性を有することが明らかになる。
【0096】
特に対象となるオリゴマーでは、cD3rは本発明の他の環化したペプチドより2桁も強く結合する(
図3)。
【0097】
またフィブリルでも、cD3rは本発明の他のペプチドと比較して非常に良い成果を収めており、特徴として、本発明のペプチドcD3P2K(配列番号:11)は極めて良い成果を収めており、pM未満の結合範囲まで推し下げている(
図4)。
【0098】
図2〜
図4のR
max値は、全負荷容量に対する各K
Dの寄与の大きさを示している。オリゴマーに関する例(
図3)では、ペプチドcD3zについてR
max79/21%が示されている。cD3zは、cD3ゼロ、即ち他のアミノ酸が結合していない環化したD3を表す。白色の棒は、低親和性部位が全部でRU全負荷強度の79%となり、K
D2が全部でRUの21%となり得ることを示す。それは、これらのペプチドでは、結合部位の比が約1:4となる、即ち、高親和性部位の約4倍多くの低親和性部位が存在することを意味する。
【0099】
線状ペプチドD3の実験結合データのフィッティングでは高親和性部位が得られないのは、それが高親和性部位に結合しないか、または高親和性部位に対する親和性と低親和性部位に対する親和性が区別できないということで説明できる。
【0100】
これらのデータから、アミロイドベータオリゴマーでは線状のD3が結合するのは低親和性部位だけであり、高親和性部位には結合しないことが明らかになる。
【0101】
図5は、MWW試験のin vivoデータを示す。この試験で、動物、ここでは改変されたAPPsDIマウスの空間記憶を測定する。これらのマウスは行動障害や生化学的変化を示し、それによりアルツハイマー型認知症の一態様、即ち、記憶障害が現れる。
【0102】
その場合、動物が水槽内の水面の直ぐ下に隠されたプラットフォームを探索するのに要する時間(単位:秒)を測定する。これは、1日当たり複数の実験で数日間連続して測定する。統計解析から、処置された動物が対照群と比較してプラットフォームを探索し学習する能力が高いかが判明する。プラセボ実験(生理食塩水)と比較した、本発明のペプチドcD3rで処置されたマウスについての探索時間(単位:秒)を5日間連続で示している。
【0103】
環化したペプチドcD3rで処置された動物は学習能力が有意に高かった(ノンパラメトリック法フリードマン検定、漸近有意確率cD3r=0.014;生理食塩水での漸近有意確率=0.238)。