【文献】
Daniel J. B. Stark. "The Use of a Microelectroporator to Study Poration of Jurlat Cells", A thesis s
【文献】
Innovative Food Science and Emerging Technologies, 2011, Vol.12, pp.499-504, Available online 8 July 2011
【文献】
IEEE Transactions on Plsma Science, 2006, Vol.34, No.6, pp.2630-2636
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記少なくとも1つの細胞により放出される核酸の配列を増幅することをさらに含み、ここで前記増幅は、その後の核酸抽出または精製ステップの不在下で行われる、請求項6〜9のいずれか1項に記載の方法。
前記上部電極と前記下部電極の間を流れる電流を監視するステップと、前記液体の前記温度を制御するためのフィードバックパラメーターとして電流を用いるステップとをさらに含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の種々の実施形態及び態様を、下記の詳細を参照しながら説明する。以下の説明及び図面は、本開示の例示であり、本開示を限定するものとして解釈されるべきではない。本開示の種々の実施形態を十分に理解できるように数多くの具体的な詳細を記載する。ただし、本開示の実施形態を簡潔に論じるために、特定の実例において、よく知られている又は従来からあることの詳細は説明しない。本明細書に開示された方法のステップの順序は、方法が機能できる限りは重要でないことを理解されたい。さらに、別段の定めがない限り、同時又は本明細書に記載されたものとは異なる順序で二つ以上のステップが実施されてもよい。
【0013】
本明細書で使用される場合、用語「含む(comprises)」及び「備える(comprising)」は、包含的且つオープンエンドであると解釈されるべきであり、排他的と解釈されるべきではない。具体的には、本明細書及び特許請求の範囲で使用されるとき、用語「含む(comprises)」及び「備える(comprising)」並びにその活用形は、特定の特徴、ステップ、又は構成要素が含まれることを意味する。これらの用語は、他の特徴、ステップ又は構成要素の存在を排除すると解釈されるべきではない。
【0014】
本明細書で使用される場合、用語「例示的な」は、「例、実例、又は例示として機能する」ことを意味するものであり、本明細書に開示された他の構成に対して好ましい又は有利なものと解釈されるべきではない。
【0015】
本明細書で使用される場合、用語「約」及び「およそ」は、粒子、混合物の組成又は他の物理的な特性若しくは特徴の大きさ範囲とともに使用されるとき、平均して大きさの大部分が満たされるが、統計的にこの領域の外に大きさが存在し得る実施形態を排除しないように、大きさ範囲の上限及び下限に存在し得るわずかな変動を包含することを意味する。これらをはじめとする実施形態を本開示から排除することは意図していない。
【0016】
以下に開示する選択された実施形態では、試料を細胞の電気溶解及び/又は試料内の分子種の電気的処理に供するための方法及びデバイスを提供する。以下に開示する方法は、細胞溶解及び/又は高分子の処理のための密閉流体チャネル内における振幅変調された電気パルス列に液体試料をさらすことを伴う。パルス列は、チャネルの厚さ全体にわたってパルス電界を生じさせ、厚さがチャネルの少なくとも一つの他の寸法と比べて小さいチャネル内で応答性良く熱を生じさせる。チャネルは、チャンバ又は反応槽などの閉じた流体容量であってもよく、又は流体の流れに適した開チャネルであってもよい。
【0017】
試料が細胞を含んでいてもいなくてもよい選択された実施形態では、電界が一連のパルスとして印加され、それによって試料内の高分子が処理又は加工される。理論に制限されることは意図しないが、電圧パルス列がチャネル内の液体に作用するので、かなりのイオン電流が生じると考えられる。これにより液体培地(一般に、水培地)はジュール発熱によって速やかに加熱され、それによって、電気的処理メカニズムが液体培地内の高分子にもたらされる。最大温度は、電気パルス列の時間尺度、印加電圧、液体のイオン強度、チャネルの電気特徴及び熱特徴、並びにチャネルの圧力調整に依存する。
【0018】
チャネルの温度は、液体-気体の相転移から生じる導電率変化による受動フィードバック、又は電流測定による能動フィードバックによって、本明細書において滞留時間と呼ぶ期間の間、所望の温度に維持され得る。
【0019】
チャネル内に閉じ込められている液体の体積に対する表面の比が大きいこと、チャネルの熱特性(以下により詳細に記載)、パルス列の持続時間が1秒未満であることによって、液体の加熱及び冷却が速やかである。本開示の中では、1秒未満の時間尺度でのこの加熱及び冷却プロセスを「急速加熱(フラッシュ加熱)」と呼ぶ。いくつかの実施形態において、加熱速度は熱拡散の時間尺度よりも速い。
【0020】
チャネル内に供給される液体試料が細胞を含む一実施形態において、電気パルスの印加によって細胞は不可逆的電気穿孔を受ける。微生物の不可逆的電気穿孔のメカニズムは、文献中では完全に明らかにされていない。十分に高い強度のパルスが細胞懸濁液に印加され、それによって1Vを超える電圧が細胞膜全体に生じるとき、膜に孔が生じると仮定されている。この方法は電気穿孔法として知られている。パルス数及び/又はパルス幅が十分に大きいとき、細胞膜が裂け、細胞膜の完全性が永続的に損なわれる。この方法は不可逆的電気穿孔として知られており、細胞から細胞の中身がある程度放出されることを伴う。一般に、微生物の不可逆的電気穿孔を実現するために必要な電界強度は、約10kV/cmを上回る。たとえば、多くの微生物は、およそ12〜45kV/cmの範囲内の電界で不可逆的電気穿孔に供することができる。懸濁液培地内でのそのような強力な電界の作用によってかなりのイオン電流が生じることで、本明細書において開示されたデバイスは、ジュール発熱によって培地の温度を上昇させる。加熱は細胞膜の流動性及び安定性に大きな影響を及ぼすので、これは不可逆的電気穿孔の効果を高めることができ、不可逆的電気穿孔の閾値を低下させ、細胞膜/壁の損傷に貢献することになる。
【0021】
理論に制限されることを望まないが、不可逆的電気穿孔と、熱が引き起こす細胞崩壊との効果は、一緒になって作用して細胞の中身の放出を強めると考えられる。所望の高分子を細胞から放出させるこの組み合わせた方法は、これ以降、「電気溶解(電気的溶解)」と呼ぶ。
【0022】
細胞膜に加えて保護細胞壁をもつ微生物の場合、不可逆的電気穿孔単独での影響では、この加熱による補助がなければ対象細胞の中身をある程度放出させるには不十分なことがある。この加熱は、より大きい分子量の細胞の中身の放出を可能にする程度まで細胞壁を崩壊させる役割を担っていてもよい。
【0023】
いずれの理論にも縛られないが、強力な電界は、タンパク質などの高分子の元の構造を維持する力の均衡の修正によって、それらの構造上の修正を生じさせ得ると考えられる。コンフォメーションの変化は、高分子の化学反応性官能基を分離させ、その触媒機能又は他の指定された機能を実施できなくしてもよい。しかしながら、高分子は一般に、比較的大きい微生物よりも電界に対して抵抗性がある。最大100msの間作用する余分な熱は、構造の過度の熱変動を生じさせ、高分子の一部からそれらの官能性を奪うことができる。一般に、急速加熱及び強力な電界は、本明細書に記載の電気的処理メカニズムに寄与し、これが、液体内の高分子種に不可逆的コンフォメーション変化を生じさせる。選択された実施形態では、試料(たとえばライセートなど)が、診断アッセイなどの下流での用途に適したものになるように、上記の電気的処理方法が使用される。細胞の電気溶解及びその後のライセートの電気的処理は、単独で、又は組み合わせて、本開示全体を通して電気的処理と呼ぶ。
【0024】
以下にさらに記載するように、電気的処理をもたらすのに適切な時間尺度で効果的な電界の確立を助けるために、試料のイオン強度は、最大値未満に選択され得る。イオン強度の特定の最大値又は適切な値の範囲は、処理が起こるのが望ましい時間尺度の間に、印加電圧源が、対応する電流とともに高い電圧を送達する能力に主として依存する。所与の応用例においてイオン強度の適切な上限又は値の範囲を決定するために、当業者は手順の決まった実験を実施できることを理解されたい。電気溶解及び電気的処理の両方が、選択された実施形態に従って、イオン強度が低い培地で追加の試薬なしで実施されるので、従来の試料調製方法で一般に必要となる溶解培地平衡化の後工程は必要なくてもよい。他の応用例では、その後の工程に適したイオン強度は、イオンの適切な濃度を、処理された試料又はライセートに追加することによって容易に変化させることができる。
【0025】
いくつかの実施形態においては、試料浄化及び試料濃縮などの追加の試料処理工程をデバイスに容易に組み込むことができ、これは可能性としては大きな複雑性又はコストをデバイス又は製造方法に課すことなく、できる。そのような追加の処理工程を組み込む例は、以下でさらに詳細に説明する。したがって、本明細書において提供される選択された各実施形態は、追加の試薬及び追加の処理工程を必要とせずに試料の直接的且つ迅速な処理を可能にするデバイス及び方法を含む。
【0026】
選択された実施形態において、限定はしないが、診断アッセイ用の血液、尿又は増殖培地などの微生物を含む試料を調製するためのデバイス及び方法を提供する。使い捨てカートリッジの形で提供されてもよいデバイスは、場合により、標的分子が検出処理又は識別処理を受ける反応容器に接続されてもよい。
【0027】
次に
図1を参照すると、電気的試料処理を実施するためのデバイスの例示的な実施形態が示してある。
図1は、デバイス1の例示的構成を示すが、
図2の概略断面図の中でより詳しく示してある。デバイスは、一方の側が、基部プレート5、絶縁層9及び電極7によって画定され、反対側が頂部プレート6、絶縁層10及び電極8によって画定された薄い(チャネルの厚さがチャネルの横方向の寸法と比較して小さい)チャネル2を有する。上部と下部は薄いスペーサによって隔てられ、ここは、チャネル空洞部を形成するために材料が取り除かれている。通常、スペーサは、印加されるクランプ圧力を受けてわずかに変形可能であってもよいか、又はチャネル空洞部の上面及び下面に接着された誘電体材料でできている。したがって、スペーサは、チャネルの側壁を画定し、流体封止をもたらし、頂部電極と底部電極を互いに電気的に隔離する。
【0028】
代替実施形態において、デバイスは個別のスペーサを含む必要はなく、チャネルの横方向の部分を画定する側壁が、少なくとも一部は基材内に形成されていてもよく、したがって基材は、チャネルの少なくとも一部分を形成するように構成された底部表面及び横方向の側壁を有する凹部を備える。
【0029】
下部電極7及び上部電極8は、上下の電気絶縁層9及び10によって、基部プレート及び頂部プレート(基材)から電気的に隔てられている。代替実施形態において、上下のプレートの一方又は両方は非導電性であり、電気絶縁層は省略されてもよい。熱要件に従って、電気絶縁材料から隔てられているか、又はその少なくとも一部分であってもよい熱絶縁層を設けることもできる。
【0030】
チャネルは入口ポート3を備えており、このポートは、そこから流体試料及び他の流体を導入することができ、事前フィルタリングが場合により実施されてもよい上流チャンバと流体連通していてもよく、流体が貯蔵されるチャンバを備えていてもよい。デバイスはまた、排液チャンバ又は下流のアッセイ反応容器などの回収装置又はチャンバと流体連通していてもよい出口ポート4を備える。チャネルに沿った流れは、入口ポートと出口ポートの差圧によってもたらされる。デバイスは、ポート3及び4を開閉するための弁などのさらに別の流体特徴を備えていてもよい。
【0031】
チャネルは寸法H×W×Lを有し、ある例示的な実施形態では、おおよそ0.1×5×10mm
3であり得るが、動作要件に従ってそれより大きくても小さくてもよい。二つの電極7及び8は、チャネル全体に電界を誘導するためのものである。
【0032】
マイクロ流体チャネルは、1ミリメートル未満(すなわちミクロン)のサイズの厚さを有する。チャネル厚さの範囲例は5μm<H<1000μmである。いくつかの実施形態において、実用上の電圧源(たとえば、10〜200Vの範囲)で、効果的な電気的溶解及び電気的処理を得るための適切なチャネル厚さは、およそ50μm〜500μmであり得る。チャネルの長さ及び幅は、適切なチャネル容積と、場合により、チャネル内の適切な流速とをもたらすように選択されてもよい。チャネルの長さ及び幅も1ミリメートル未満のサイズ(尺度)である、マイクロ流体用途用の本明細書に記載の方法及びデバイスの使用は排除せず、チャネルの長さ及び幅の範囲のより典型的な例は、およそ1mm<W<10mm及び5mm<L<50mmである。
【0033】
ある例示的な実施形態においては、第1及び第2の電極の1以上が、上部及び下部のチャネル表面に設けられた電気絶縁層上に蒸着された金属被覆として設けられていてもよい。蒸着された電極の厚さの例は1nm<h<1μmなどであるが、より厚い層が実現されてもよい。
【0034】
別の例においては、第1及び第2の電極の1以上が、材料の特性及び寸法を電気要件及び熱要件に従って選択する金属箔として設けられていてもよい。金属箔の厚さの例は10μm<h<500μm、又は20μm<h<200μmなどである。
【0035】
本明細書ではまとめて細胞と呼ぶ、細胞又はウイルスを含む試料のための各実施形態において、チャネルは、電気溶解の前に細胞を集中させるように操作されてもよい。時間依存性の単極の電圧を電極に印加すると、チャネル内で電界が確立され、これが、帯電した細胞に効果的な力をかけ、その細胞をアノードの電極のすぐ近くの薄い領域に運び、その一方で余分な流体は出口ポートから運び出される。細胞の保持を向上させるために、アノードの電極を、保持するのに望ましい細胞の種類に特異的な捕獲リガンドで被覆してもよい。チャネルの下部端に集中させられた細胞は電極上をゆっくり動くので、細胞は、それらの対応する捕獲リガンドに特異的に結合するか又はそのリガンドとハイブリダイゼーションする。この試料濃縮モードは、同時係属中のPCT国際特許出願WO/2011/014946A1に開示されている。
【0036】
デバイスが濃縮機能及び浄化機能に適応した代替実施形態を
図3(a)に示してある。チャネル(すなわち、チャネルスペーサ)の厚さよりも薄いフィルタ16、たとえばメンブレンフィルタがチャネル内に固定されており、その結果、チャネルが二つの部分14と15に分割され、それによって、試料が入口ポート12と出口ポート13の間を流れる際に試料内の細胞(又は他の粒子状物質)がフィルタによって保持されることが可能になる。いくつかの実施形態において、フィルタの少なくとも一部は上下の電極の間に配置されている。
【0037】
ある例示的な実施形態において、フィルタは、高密度ポリエチレン、又はポリカーボネート膜などの耐薬品性及び/又は耐熱性材料でできていてもよい。たとえば、耐熱性フィルタは、電気的処理中にフィルタが劣化するのを避けるために迅速な熱処理が必要な用途において有益であり得る。そのようなメンブレンフィルタは、通常は極めて薄く、たとえば、およそ10〜20ミクロンなので、デバイス内の流体の流れを妨げることがある、流体圧力によるチャネル表面上へのフィルタの崩落を防ぐために、支持体が必要となり得る。フィルタ支持部は、上部電極と下部電極の電気的隔離を保持し、試料の流れを実質的に妨げない、チャネルに導入される構造の形で追加できる。一実施形態において、適切なフィルタ支持部は、
図3(b)の断面図に示されるように、メンブレンフィルタ又はチャネル表面に結合された単分散のマイクロスフィア17である。別の実施形態において、フィルタ支持部は、フィルタのいずれかの側に位置する追加のスペーサ構造体によって設けられてもよく、追加のスペーサは、チャネル内の液体の流れをほとんど妨げないように配置される。フィルタ支持部及び/又はフィルタは、液体をバイパスし、フィルタ及びフィルタ支持部内を流すのとは対照的に、チャネル内で液体を流すための電界を誘導するのに適した誘電体特性を有する材料から形成されるように選択されてもよい。
【0038】
デバイスが濃縮機能及び浄化機能に適応した代替実施形態を
図4(a)の断面
図A-A及び
図4(b)の平面図に示してある。すでに説明したように、フィルタ38、たとえばメンブレンフィルタが、入口ポート3、電気チャネル2及びフィルタ出口ポート34に流体接続したチャンバ33内に固定されている。ディフューザ支持部39は、必要に応じてフィルタのために設けられている。チャネル入口弁36が閉じ、入口ポート弁35及びフィルタ出口ポート弁37が開いているとき、試料流体はフィルタを通って入口ポート3からフィルタ出口ポート34に、次いで出口ポート34と流体接続した排液チャンバに流れることができ、それによって試料内の細胞はフィルタによって保持される。次いで、試料流体がフィルタ出口ポート34を通って十分に除去されるまで、その後の電気的処理及び下流での処理のための適切な組成及びイオン強度の再懸濁流体が入口ポート3から通過させられる。次いでフィルタ出口ポート37が閉じられ、チャネル入口ポート36が開かれ、再懸濁流体が入口ポートから流れ、それによって、保持された細胞が、その後の電気的処理用に電気チャネルに運ばれる。別法として、保持された細胞は、再懸濁させられ、フィルタ出口ポート37が開き、入口ポート35が閉じられている間、フィルタ出口ポート34からの流れによって電気チャネルに運ばれる。電界の印加のために電気接触部41が設けられている。
【0039】
大きい体積の試料流体を、保持された細胞を電気チャネルに運ぶために使用される比較的小さい体積の再懸濁流体とともにフィルタ内を通過させることで、その後の溶解及び処理用の細胞濃度を、最初の試料濃度から任意に増加できるようになる。この通過によって、試料流体を、電気溶解及び電気的処理並びにその後のアッセイを含む下流の処理に適切な懸濁液流体で置換することも可能になる。上記は、本開示に基づいて当業者が変更できる等価な機能を生み出す、弁と流体移動のいくつかの異なる構成のうちの一つである。
【0040】
振幅変調された適切な電気パルス列の二つの電極への印加によって、細胞の溶解が生じる。得られる電界の大きさ及び持続時間に応じて、電界とそれに関連する温度上昇が、タンパク質や核酸などの分子を、ライセートとして細胞から放出させるか、又はその放出を誘導する。放出した分子にはさらに、放出と液体の冷却の間に形質転換が起こる。これらの方法は、診断又は他の目的の細胞生体試料の調製において有用な工程を実現できる、電気溶解及び電気的処理として本明細書において扱うものを構成する。すでに検討したように、これらの電気的処理工程を可能にする基礎を成すメカニズムは、規定のパルス列の印加により、チャネル内での電気応答及び熱応答から得られると考えられる。
【0041】
デバイスの動作は、チャネル流体内で高分子の細胞の電気溶解及び/又は電気的処理を引き起こすのに十分な大きさの電流を、チャネル内に結果として生じさせる電界を確立することを含むと考えられる。性能の向上のためには、気体の生成及び泡の形成が付随する、電極の界面における流体の電気分解を最小限にすべきである。本明細書で提供されるいくつかの実施形態では、電極のうちの1以上を誘電体被膜の薄い層で試料から隔離することで、チャネル内の液体に電気的に直接連絡していないブロッキング電極を形成することによって上記を達成し、このことは、任意の電荷移動プロセスを、電極と電解質の界面にわたって生じさせないようにするのに役立つ。
【0042】
他の実施形態において、チャネルは、液体に直接接触し、それによってファラデー電流をサポートすることが可能な非ブロッキング電極を備えていてもよい。電気分解産物は、双極性の高周波パルス列を使用してデバイスを動作させることにより回避される。液体と電極の界面で発生するイオンは、バルク培地内に著しく拡散する前に、交互のサイクルの中で顕著に中性化される。残念ながら、界面にファラデー電流が存在すると、電極付近の高分子を損傷させることがある酸化還元反応がサポートされる。この効果は、保護浸透層を設けることによって軽減できる。一般に、浸透層は、高分子が電解質と電極の界面に達するのを防ぎながら、溶質イオンが電極に移動できるようにするために設けられてもよい。
【0043】
浸透層を備えた固体支持体を調製する例示的な方法をこれ以降に記載する。これらの例は非限定的であることを意図しており、高分子の輸送を制限しながら、電極への溶質イオンの輸送を可能にする任意の適切な材料又は被覆が提供され得ることを理解されたい。浸透層材料は、場合により、層の所望の選択的輸送機能を実現するための官能基を含んでいてもよい。
【0044】
表面調製の例は、共有結合の相互作用によるオルガノシランやチオールリンカーなどの低分子の堆積、又は物理吸着によるポリ-L-リジンやPEIなどの高分子の堆積である。
【0045】
例示的であるが限定的ではない実施形態において、官能基X-Si-X'を含むヘテロ二官能性シラン層を、Y-O-Si-X'を形成するためにシラン層を塗布できる任意の表面(Y)に堆積させ得る。X'は、トリメトキシ(-OCH
3)
3、トリエトキシ(-OC
2H
5)
3又はトリクロロ(Cl
3)であってもよく、加水分解するとY-O-Si-X'の化学構造を形成することができる。
【0046】
そのような表面の一例は、天然又は人工的に処理された酸化物層と、Al-O-Si-X'の形成によって生成されたヘテロ二官能性シラン層とを備える、アルミニウムのヒドロキシル化した表面である。Xは変化してもよく、任意の適切な化学反応によってシラン層に結合される任意の追加分子の各官能基と、共有結合により相互作用する。たとえば、Xは、グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(GOPTS)のグリシジル官能基であっても、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTS)のアミノ官能基であってもよい。GOPTSのグリシジル官能基は、結合される分子のアミノ官能基と容易に相互作用する。任意の架橋化学反応、たとえば、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)(EDC)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)での、APTSのアミノ官能基のさらなる活性化が行われて、結合される分子のカルボキシル官能基と共有結合で相互作用することができる。場合により、APTSのアミノ官能基は、任意の知られている化学反応、たとえば、グルタルアルデヒドホモ二官能性架橋剤で予め活性化されて、固定化される分子のアミノ官能基と容易に相互作用することができる。
【0047】
別法として、アビジン又はストレプトアビジンなどの高い親和性及び特異性をもつタンパク質分子が、官能化された表面に任意の適切な化学反応を介して固定化されてもよく、また、ビオチン化分子が、ビオチン-アビジン親和性相互作用によって表面に容易に固定化され得る。
【0048】
表面は、以下の非限定的な例に示す手順によって調製することができる。磨かれたアルミニウム支持プレートを、水で洗浄し、次いでメタノールで2回すすぎ、風乾した。2%の3-アミノプロピルトリエトキシシランを95%のメタノール、5%の水の中で調製し、プレートをシランに5分間浸漬した。次いで、プレートをメタノール中で2回すすぎ、風乾し、110℃で10分間焼いた。冷却後、プレートを室温で1時間、pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水中の2.5%のグルタルアルデヒドホモ二官能性架橋剤に浸漬した。プレートを水で完全にすすぎ、風乾した。
【0049】
別の実施形態において、浸透層は、ポリアクリルアミド系網状ヒドロゲル(たとえば、Yuら、BioTechniques 34:1008〜1022、2003)などのヒドロゲル又は、たとえば、米国特許第6,994,964に開示されたヒドロゲルなどのブラシ様のヒドロゲルであり得る。上記のように、電解溶液で隔てられた二つの電極間に電位差を印加すると、印加電圧が閾値を超えた場合に、電極と電解質の界面において電気化学反応が生じ得る。そのような場合には、水の電気分解又は電解質のイオンの電気化学反応によって、電極に気泡が生じることがある。気体形成はすぐにチャネルを塞ぎ、通常の流れの特徴に乱れを生じさせる可能性がある。さらに、チャネルの圧力上昇が、デバイスの機械的損傷を招き得る。最後に、ファラデー電流による酸化還元反応の生成物が、溶液内の生体分子を劣化させ、試料調製を下流でのアッセイに不適にすることがある。
【0050】
そのような問題を回避する一つの方法が、すでに検討したように気泡の形成が最小限になるように、周波数が十分に高い交流電圧を印加することである。別の手法では、酸素及び水素の泡の生成は、電極に沿って流れる試料に酸化還元対を加えることによって抑制することができる。一例として、電子供与体として機能するヒドロキノン(H
2Q)と、電子受容体として機能するp-ベンゾキノン(Q)との複合体であるキンヒドロンを、流れに加えることができる。酸素及び水素を生じさせる水の酸化及び還元の代わりに、ここでは、泡を発生させることなくH
2Qを酸化させ、Qを還元させる。前述の両方法の欠点は、高分子を伴う界面の電気化学反応が十分に避けられないことである。大半の高分子は水性培地に導入され、したがって、電気溶解に通常は使用される高電界の影響下で界面にドリフトし得ることにさらに留意されたい。
【0051】
上記のように、気泡の発生及び界面の電気化学反応は、ファラデー電流を抑制するためのブロッキング電極を組み込んだチャネルを設けることによって回避することができる。しかしながら、ファラデー電流を抑制するようにチャネルが構成されているイオン水溶液を含むチャネル内に一定の電界を印加すると、チャネルの内側領域の印加された電界を速やかにスクリーニングする、電極の近くに電気二重層が形成されることがよく知られている。したがって、「実効電界(effective field)」と呼ぶ、懸濁細胞が受ける実際の電界は、電界がオンに切り替えられるとすぐに、印加されたことになる電界のごく一部まで低下し得る。
【0052】
一実施形態において、液体内の電界のスクリーニングに関連する上記の欠点は、以下のように回避される。上記のように、印加電圧は、振幅変調されたパルスの列として提供される。パルスの持続時間が電極の特徴的な帯電時間を超えない場合、実効電界に対する遮蔽効果は許容できる。したがって、一実施形態において、電極(たとえば、
図1〜3の電極7及び8)は、薄い導電性の基材として、またチャネル流体に接触している薄い誘電体被膜を備えて提供され、ここで、導体及び誘電体の表面プロフィールは表面積を増大させるために微細構造になっており、その結果、ブロッキング電極の表面積は、対応する平らな表面の表面積を実質的に超える。それによって実現される大きい静電容量が、数十マイクロ秒程度などの1マイクロ秒を超える帯電時間を可能にする。
【0053】
ブロッキング層の静電容量はまた、高い誘電率をもつ薄い誘電体層を設けることによって高めることができる。ある例示的な実施形態では、金属の基材がアルミニウムであり、誘電体層が酸化アルミニウム(Al
2O
3)である。この酸化アルミニウム(Al
2O
3)の誘電体層は、アルミニウムを電気化学的に酸化させることによって形成される(陽極酸化処理アルミニウム)。有効表面を100倍も大きくし、単位公称面積当たり静電容量の対応する増加をもたらすために、電極には、微小な空洞部とトンネルの網状の密集をエッチングする。
【0054】
本開示の中では、これらのタイプの電極は、用語SEOA(表面増大酸化アルミニウム:surface enhanced oxidized aluminum)によって識別する。誘電体層の厚さは、電気化学的な形成(陽極酸化)処理中の印加電圧によって決定される。ある例示的な実施形態においては、厚さは、電極に安全に印加できる1ボルトにつき2nmとして選択される。印加電圧が約200Vである例では、長い持続時間のパルスを受けながら安全に動作するための誘電体層の厚さは、そのことから約400nmであると推定される。場合によっては、この厚さにより、帯電時間が短くなり過ぎ、したがってチャネル内の実効電界の持続時間が望ましくない短さに減少することがある。また、かなりの量の印加電圧が、一般に、水と比べて遥かに低い誘電率をもつ誘電体層において低下させられる。実際上は、パルス列t
p内のパルスの持続時間が1msを超えないとき、電極への陽極酸化処理の開始によってファラデー電流を生じさせる危険を伴わずに、約50nmの遥かに小さい誘電体の厚さが使用できる。本発明者らによる研究によって、酸化アルミニウム層の厚さ50〜200nmが本明細書に記載のほとんどの用途に適していることが示された。たとえば、グラム陽性菌の電気溶解の場合、10kV/cmを超える電界が望ましく、電気的故障を避けるためには50nmを超える厚さが望まれる。いくつかの実施形態において、誘電体の厚さ及び表面積の増大は、およそ0.5μF/cm
2〜200μF/cm
2の範囲の静電容量を実現するために選択されてもよい。他の実施形態において、誘電体層の静電容量は、およそ2μF/cm
2〜50μF/cm
2であり得る。選択される誘電率は、懸濁液のイオン強度及び駆動電子の周波数応答の制約に依存し得る。たとえば、この液体のイオン強度が1mM未満であり、コストの検討から駆動電子の最大動作周波数に10kHz未満が要求されるとき、静電容量は5μF/cm
2を超えるように選択されてもよい。
【0055】
本開示の各態様は表面増大酸化アルミニウム(SEOA)を参照しながら説明するが、SEOAは本明細書の各実施形態を実施するための一つの例示的材料に過ぎないことを理解されたい。別の例では、タンタルや酸化タンタルなどの異なる金属(大きい表面積を有する)や酸化物層を備えた基材が使用されてもよい。別の実施形態において、ケイ素及び二酸化ケイ素を使用してもよく、ここでは、ケイ素を適切な導電率を実現するのに適した濃度にドープしてもよい。
【0056】
ケイ素及び二酸化ケイ素から形成されたブロッキング電極を使用するある例示的実施形態では、ケイ素は、マクロ多孔質シリコン又はミクロ多孔質シリコンなどの多孔質シリコンであってもよい。ある例においては、ケイ素は、導電性のあるケイ素の下にある層を維持しながらナノメートルサイズの厚さを有する酸化物層の成長を支えるのに十分な厚さの孔壁を備える、マクロ多孔質シリコンである。酸化物層の適切な厚さ及び表面の増大は、SEOAの例の中ですでに説明したように選択される。
【0057】
多孔質シリコンの調製においては、通常はケイ素基材をドープすることによって、本方法で使用する導電性の電極を実現する。いくつかの実装では、ケイ素の多孔性は、エッチング条件を変化させる、且つ/又は構造物を適切なエッチング液(フッ化水素酸など)の中で事後エッチングすることによって制御することができる。酸化物層をエッチング後に追加してもよく、その場合は、適切な熱環境における酸化によって酸化物を生成する。当業者には明らかとなるように、酸化物層の厚さは、熱インキュベーションの時間及び温度に従って制御することができる。孔は、たとえばフォトリソグラフィで孔の核形成場所を画定することによって、整列した二次元アレイの孔として形成されてもよく、又は、孔は乱雑な構造として形成されてもよい。
【0058】
チャネルの電気特性は、
図5(a)に示した等価電気回路によってモデル化することができる。静電容量C
DLは、誘電体層とチャネル内の液体の界面における動的な二重層の静電容量に対応する。R
DLは、二重層内の漏れ電流に対応する(チャネルの厚さ方向の)並列の抵抗である。
【0059】
一般に、平らな金属表面のC
DLの値は、電極のタイプ、溶液のイオン強度と組成、温度及び電圧に応じて、5〜50μF/cm
2の範囲になる。ただし、表面の粗度によって、静電容量がより大きい値に増加することがある。静電容量C
DEは、誘電体層の静電容量であり、その値は層の厚さ及び電極の有効面積に依存する。本明細書に記載の実験で使用したSEOA電極の静電容量は6又は36μF/cm
2であった。これらの電極は、それぞれSEOA1及びSEOA2と称した。
【0060】
抵抗R
DEは誘電体層の等しい並列抵抗であり、キャパシタの漏れ電流を考慮している。この抵抗は、静電容量、温度及び電圧が上昇するにつれて低下する。R
DEの典型的な値は、μFのC
DEでは100/C
DEMΩ程度である。R
CHはバルク溶液抵抗を表し、C
CHはバルク静電容量を表す。C
CHの値は、開回路で近似できるほど小さい。高さが100μmのチャネルでは、液体のイオン強度が0.5mMであるとき、抵抗R
CHは電極の1cm
2当たり約200Ωである。R
LOADは、電源の出力抵抗と電極の入力抵抗の和である。R
LOAD、R
DE及びC
DEを除く全電気パラメータ値は、担体溶液のイオン強度に依存する。負荷抵抗は、回路部品間の電圧の分割を修正するものであり、イオン強度がより大きくなると特に重要になる。
【0061】
電気パラメータの典型的な値を考慮すると、等価回路は
図5(b)に示したように単純化できる。抵抗R
DE、及びR
DLは、開として近似できるほど十分に大きい。二重層の静電容量と誘電体層の静電容量は、C
Effとして直列に組み合わされている。この回路モデルによる二重層の帯電時間は、以下のように得られる。
【数1】
【0062】
この帯電時間は、電極の表面増大なしで実現可能なものより、1〜2桁大きいことに留意されたい。したがって、デバイス内の電極のうちの1以上としてSEOAを使用することで、帯電時間の実質的な増加がもたらされる。たとえば、一実施形態において、帯電時間は、約10mM未満のイオン強度を有する液体では少なくとも1マイクロ秒であってもよく、それによって、電気溶解及び試料処理の上記の方法を補助する。
図5(c)は、電極SEOA1及びSEOA2での印加された双極性の方形波に対するチャネルの典型的な電流応答を表す。わかるように、50μsの方形波の持続時間の間、実効電界の指標である電流の減少は十分に小さい。0.4mMのリン酸緩衝液で満たされたチャネルは、28×3.17×0.1mm
3の寸法を有していた。
【0063】
ここで、試料処理のための本デバイスを使用するある例示的方法について
図2を参照して説明する。外部電圧源20は、二つの電極7と8の間に、振幅変調されたパルス列の形で電位差を印加する。ある例においては、パルスは双極性の方形波である。駆動電子装置の設計を容易にし得る他のパルス形状を使用することもできる。しかしながら、食物試料中の微生物の不活性化についての公開されたデータには、方形波が不可逆的電気穿孔の点でより効果的であることが示されている。
【0064】
チャネルの電気的特徴は、水溶液のイオン強度に依存する。したがって、例示的な各実施形態において、適切な印加電圧、パルス持続時間及びパルス数の選択は、試料溶液のイオン強度の従来知識に基づいて、又は別法として、パルス列のパラメータを設定するための原位置(in situ)での電気測定に基づいて実施することができる。ある例においては、これは、制御フィードバックループ22及び制御ユニット23を介して計器21によって監視される電流に基づくフィードバックに従ってなされてもよい。
【0065】
電極に電圧を印加すると、イオン電流が試料液体内を通過することで、パルス列が存在する間、熱が生成されることになり、パルス列が途絶えた後は速やかな冷却が起こる。以下に示す実験例に見られるように、電気的処理中のチャネルの性能はその熱特徴に依存し、チャネルの外形、寸法、及び熱材料特性は、電圧パルスが電極に印加されている間、急速加熱をサポートするのに(たとえば、液体の温度がおよそ毎秒250℃を超える速度で上昇するように)十分な断熱性となり、印加電圧パルスの除去後、1秒未満の速やかな冷却時間を実現するのに十分な熱伝導性となるように選択される。言い換えれば、適切な熱伝導率、並びにチャネルの表面対体積の比に対して適切な熱容量(すなわち、適切なサーマルマス(thermal mass)又は放熱能力)をもたらすチャネル寸法及び外形を有するチャネル材料を選択することによって、最初の熱上昇の後に速やかな冷却サイクルが来ることができる。適切な熱応答を示すであろうチャネル寸法及び外形の多くの異なる構成並びにチャネル材料の選択肢が存在することが理解されよう。したがって、本明細書及び以下の実施例において提供される特定の例は、ヒューリスティック且つ非限定的な例として提供される。他の構成及び材料の選択は、本開示の範囲から逸脱することなく手順の決まった実験によって成され得る。
【0066】
チャネルの熱特性は、多くの異なるチャネルパラメータに依存している。たとえば、チャネルの導電率及び熱容量は、金属の電極の外形及び/又は厚さに従って制御することができる。多くの電極は高い熱伝導率をもつが、チャネルの熱特性は、適切な熱容量及び電極が支持される適切な(たとえば断熱)基材を実現するのに適切な電極厚さを選択することによって調整することができる。
【0067】
したがって、電気的処理後に速やかな冷却を促し、同時に、急速加熱によって、電圧パルスの印加中にチャネル内で速やかな温度上昇(たとえば、およそ毎秒250℃を上回る温度上昇)が生じ得るのに十分に小さな熱容量をもたらすために、チャネル電極のうち1以上は、チャネル内の流体の全体積に対する高い熱伝導率及び/又は大きい熱容量を有する金属箔又は金属被膜として設けられていてもよい。
【0068】
代替又は追加で、チャネルは側面の放熱要素を備えていてもよい。一実施形態において、チャネルの側壁の熱伝導率は、側壁が側面のヒートシンクとして働くように選択されてもよい。別の例において、一方又は両方の電極が、チャネル画定領域を越えて延在することで、側面の別の放熱経路を設けていてもよい。
【0069】
ここで、チャネルの電気的挙動及び熱的挙動を、典型的なチャネル実験中に行った測定の例で示す。
図6は、入口ポート及び出口ポートが大気圧に開放され、n=800のパルス、196Vの振幅及び10kHzの周波数の双極性方形波列の形の印加電圧にさらされたチャネル内の、測定された電流パルスの包絡線を示す(
図5b内の負荷抵抗R
LOADは10オームだった)。チャネル構造は、アルミニウムの上部プレート、ガラスの下部プレートを備え、各プレートの内側面は0.1mmのポリイミド絶縁層を有し、SEOA電極(SEOA1)が各ポリイミド絶縁層上に設けられ、それによって、酸化電極がチャネル内の流体に接触し、0.1mmのポリイミドスペーサがチャネル高さを規定していた。
【0070】
28×3.17×0.1mm
3の寸法を有するチャネルを、0.4mMのリン酸緩衝液で満たした。チャネル電流応答の目立つ特徴は、
図6に示すように、まず電流が最大値まで単調に増加し、次いで時間t
cの最小値まで速やかに低下し、場合により、準周期的な変動を伴うことである。
【0071】
一般に、水溶液の導電率は、直線的に増加する温度の関数なので(Aqueous Systems at Elevated Temperatures and Pressures、第10章、エルセビア(Elsevier)、2004)、最初の増加電流はチャネル内の流体のジュール発熱によるものと結論付けてもよい。チャネルは大気に開放されているので、流体温度は、使用される溶液についてはおよそ100℃である、大気圧での液体飽和状態の温度に制限されることが予期されよう。理論に制限されることは意図せず、さらにエネルギーを加えると、この温度に達したチャネル領域では相転移が起こることになると考えられる。相転移の結果、チャネル内の蒸気の存在によって、チャネルのコンダクタンスが著しく低下し、電流の減少が観察されることになる。
【0072】
電気パルス列が存在する間及び存在後の両方のチャネルの温度を推定するために、チャネル内の過渡伝熱の有限差分解析を使用した。熱伝導のフーリエの法則は、層になったチャネル組立体の厚さ及び幅全体にわたって空間的に離散したチャネルのエネルギー保存と併せて数的に解いた。チャネル流体のジュール発熱は、流体のコンダクタンスの直線的な熱依存を仮定して計算し、その直線パラメータは、電気パルスの開始時に実験で測定された電流と、実験で測定された
図6の曲線上にある100℃での電流の反復解とから求められる。それにより、相変化の開始は、
図6に特定されるように、t=0.024sにおいてチャネルの中央で起こると推定される。
【0073】
t=0.024sにおける、シミュレーションしたチャネル内の空間温度分布を
図7に示してある。
図8は、空間最大温度の計算された時間依存を示してあり、t=0.024msにおいて印加電圧が0に設定されるものと仮定している。このモデルでは、さらに時間t
rの間電圧が印加され続けた場合、ピーク温度が維持され、100℃に達した流体の部分は相転移を生じることになる。
【0074】
相転移の開始後に起こる液体-蒸気混合相の存在は、導電率の局所的な低下を招くと考えられ、これが今度はチャネル内の電流の再分配を生じさせる。さらに、相転移の開始後、混合相領域は、蒸発領域の外部で流体温度が引き続き上昇していることにより膨張が生じると考えられる。したがって、混合相領域がさらに膨張するので、チャネルの正味の導電率が低下する際、チャネル内の電流は大幅に減少することが予想される。
【0075】
次に
図6を参照すると、時間依存性の電流プロフィールが、上記の解釈と矛盾しない形の挙動を示す。具体的には、電流はまず、相転移が開始すると予想される最大値に向かって増加し、その後、電流は混合相モデルによって予測されるように減少する。
【0076】
さらに、最大電流の後の準周期的な特徴は、導電率及び電流の対応する増減を伴ったさらなる相転移サイクルに起因する可能性がある。これらの相転移サイクルは、電流の減少とその後の冷却及び凝結の結果であると考えられ、これが今度は、電流の増加及び蒸発と凝結のまた別のサイクルを再び招く。
【0077】
チャネル流体の温度は、相転移サイクルの間準定常状態にあると予想される。その結果、このメカニズムは、電気的処理の間ピーク温度の受動制御をもたらし得る。これは温度制御に関して自ら制限する受動フィードバックメカニズムを構成する。
【0078】
別の例示的実施形態において、デバイス電極間を流れる電流は、時間依存性の電流の(液体の相転移の開始に対応し得る)最初のピークを特定し、ピーク未満への電流の減少が検出された後、規定の持続時間の間、電圧パルスに適用し続けることによって監視されてもよい。電流はさらに、又は別法として、たとえば局所的な電流の最小値又は最大値などの、時間依存性の電流における1以上の特徴の存在を検出するように監視されてもよく、電圧パルスの印加は、これらの特徴のうちの1以上に対応する時間間隔の間維持され得る。
【0079】
図8を再び参照すると、電圧の除去後、チャネル流体が、チャネル流体の比較的小さな体積からフローセルの近傍材料への熱拡散によって速やかに冷えて、1秒未満のうちに最初の温度近くに戻ることがシミュレーションで示されている。これは、高温にさらされるのが長引くことで高分子に生じる熱損傷を避けるために利用できる有用なメカニズムである。
【0080】
別の実施形態において、電気的処理の間にチャネル内の流体を過熱するために、チャネル内の圧力を制御することができる。たとえば、チャネルは、内容積を密閉し、それによって、電気的に誘導された温度上昇に応答してチャネル内の圧力を上昇させるための弁を備えることができる。
【0081】
図9は、上記の構成を有するが、入口ポート及び出口ポートに遮断弁をさらに備えるチャネル内における、実験で測定された電流パルスの包絡線を示す。チャネルは、n=400のパルス、200Vの振幅及び10kHzの周波数の双極性方形波列の形の印加電圧にさらした。
図9に見られるように、チャネルの入口ポート及び出口ポートを閉じているとき、電流はまず開ポートチャネルの挙動を辿るが、最大値に達してその後は電流の減少を伴うのではなく、パルス列の終わりまで電流は単調に増加する。
【0082】
したがって、電気加熱中、大気圧を超える圧力が閉チャネル内に蓄積し、それによってチャネル流体は液相に留まり、その温度が大気中の液体飽和状態の温度を超えるので、過熱状態になる。有限差分熱解析から得られる推定では、閉チャネル内に閉じ込められた液体は、この例の開チャネルよりも平均およそ35℃高い温度に達することが示唆される。熱解析ではまた、印加電圧を除去した後、過熱された流体が速やかに冷え、1秒以内に最初の温度近くに戻ることが示される。
【0083】
チャネル内の圧力を調整することによって、ピーク温度を制限する、且つ/又はピーク温度近くの温度を維持するように、過熱された流体の温度を制御することができる。具体的には、圧力が固定値に維持されるとき、ピーク電流値(すなわち相転移開始時点の近く)に達した後に電圧パルスを印加し続けると、電流、温度及び導電率が各値の範囲内で上下し得る準定常状態が維持されることになる。
【0084】
図10を参照すると、そのような圧力調整メカニズム(たとえば、能動圧力調整メカニズム、又は受動圧力調整メカニズム)を組み込んだチャネルデバイスの例示的な実施形態が示してある。このデバイスは、すでに説明したデバイスと他の点で類似しており、入口ポート3に遮断弁31を、チャネルの出口ポート4部分に遮断弁32を備える。また、圧力調整メカニズム30は、入口遮断弁と出口遮断弁の間のチャネル2と流体連通している。この圧力調整メカニズムは、当技術分野でよく知られているそのような背圧調整装置又は圧力逃し弁の形態であってもよく、ここでは、ばね付きプランジャと膨張空洞部によって表されている。
【0085】
ある例示的な実施形態においては、圧力調整デバイスはばね付きプランジャ又は膜であり、このばねには、調整装置が所望の過熱流体温度に対応する所定の最小圧力で作動するように、事前に負荷がかけられている。流体の加熱により、チャネル内でこの最小圧力に到達したとき、プランジャは膨張チャンバ内に移動して、圧力のさらなる増加に応答して有効チャネル容積を膨張させる。ばね定数が十分に低く、十分に大きい膨張空洞部が設けられている場合、圧力はほぼ一定のピーク値に維持され、必要量のエネルギーがチャネルに供給されるとき、流体内で飽和液体状態が実現される。さらにエネルギーが加えられると、液体飽和状態を実現したチャネルの領域で相転移が起こり、ほぼ一定の温度において液体-蒸気混合相が生じる。
【0086】
代替実施形態において、ばねは事前に力がかかっていなくてもよく、圧力が温度とともに、ただし所定の温度で液体が飽和に到達できるようにする速度で上昇するように、ばね剛性を選択してもよい。したがって、得られる温度は一定とはならず、制御されるか、又は所定の形で印加電圧に応答する。
【0087】
この後者の実施形態の例は、チャネル壁の一方若しくは両方の全体のうちの一部か、又はチャネルと流体連通している封止された空洞部の壁のうちの1以上としての、所定の剛性をもつ膜である。この実施形態のさらなる例は、気体は通すが液体は通さない気体透過性の膜によって主チャネルとは隔てられた、空洞部又はチャネルである。したがって、空気又は気体の圧縮性がコンプライアンスをもたらして、説明した方法で圧力を制御する。
【0088】
さらに別の実施形態において、デバイスは、外部から制御可能な能動圧力調整メカニズムを備えていてもよい。そのような能動圧力調整デバイスは、印加電圧のタイミングと同期して圧力がチャネル内で調整されるように制御されてもよい。別の例では、デバイスは、制御可能な圧力調整デバイス及び圧力センサの両方を備えていてもよく、ここでは圧力センサ信号が入力(フィードバック)信号としてコントローラに供給され、コントローラは、チャネル内の圧力を制御するための圧力調整デバイスと接続されている。
【0089】
一般に、デバイスは、広範なイオン強度において動作するように設計され得る。しかしながら、およそ1mMを超えるイオン強度などの高いイオン強度では、一般に、より大きい電流を供給可能な回路構成が要求される。この結果、複雑性を増したより大きい電力要件になる。したがって、電圧の印加の前にイオン強度の低減を実施してもよい。
【0090】
図3及び
図4に示したように細胞をフィルタリングし、電気的処理の前に低イオン強度の液体をチャネル内に流すことによって試料液体が細胞を含んでいる場合、イオン強度の低減は容易に達成できる。
図4(c)は、
図4に記載のようにまず細胞をフィルタ上に捕捉した後、細胞の電気的処理を実施する方法を示すフローチャートである。ステップ100において、試料液体を(たとえば
図4の第1のポート3から第2のポート34に)流し、(
図4のフィルタ33などの)フィルタを通す。ステップ105に記載したように、液体内の細胞試料がフィルタによって捕捉される。細胞を捕捉した後、ステップ110のように、追加の液体を場合により流し、フィルタを通して、細胞及び試料流体の流体経路を洗浄する。次いで、ステップ115のように、電気溶解及び電気的処理の実施に適し、また場合によっては下流での処理に適当な流体を流して細胞を再懸濁させ、それらを電気チャネルに運搬する。細胞を電気チャネルに運搬し、この液体に懸濁させた後、ステップ120に示すように、電気的処理を実施することができる。次いで、ステップ125のように、追加の液体をチャネル内に流し、流出物を集めることによって、ライセートを抽出することができる。この電気的処理工程を実施した後、チャネル内に残る追加の液体のイオン強度を上昇させることができる。たとえば、これは、塩含有試薬を追加の液体に加えるか、又は別の例では、所望のイオン強度を実現するために溶解できる乾燥塩を含むさらに別のチャネル内に追加の液体を流すことによって、実現されてもよい。
【0091】
別の実施形態において、試料内のイオン低減は、デバイス(
図1参照)の入口ポート3に、又は入口ポートの上流で流体接続したチャンバに統合することができる
図11の試料浄化モジュール65によって実施することができる。試料浄化モジュール6は、入口60、出口61、オプションのプレフィルタ62、詰め込まれたイオン交換樹脂63、及びフィルタ64からなる。オプションのプレフィルタ62は、ベクトン・ディッキンソン(Becton Dickinson)の血液培養システムの血液培地などのいくつかの試料で使用されるカチオン交換樹脂や非イオン吸着樹脂などの大きい粒子を排除する。
【0092】
イオン交換樹脂(63)は、試料からイオンを除去するように、且つ、試料内に存在し得るより小さなイオン性粒子を場合により捕獲するように機能するカチオンとアニオンの混合樹脂を含む。血液培養試料の場合、たとえばビオメリュー(BioMerieux)のシステムのように、活性炭及びフラー土粉末を含む血液培地もある。フィルタ64は、イオン性樹脂及び束縛イオン及びイオン性粒子を留めて、それらがデバイスに入るのを防ぐ。
【0093】
イオン及びイオン性粒子の除去のために、H
+の形態のカチオン交換樹脂とOH
-の形態のアニオン樹脂とが混合して使用されてもよい。溶液中のNa
+及びCl
-のイオンを伴う具体的な例では、培地中のNa
+がH
+と交換してカチオン樹脂に結合し、Cl
-がOH
-と交換してアニオン樹脂に結合する。取り去られたH
+とOH
-は水分子を形成する。この方法は、水の脱イオン用途において広く適用される。ある例示的な実施形態においては、細菌のサイズより大きな孔サイズの微孔性のゲル樹脂が使用されてもよい。また、細菌を伴う用途では、負に帯電した細菌が依然としてアニオン樹脂の表面に結合し、樹脂の表面に非特異的に結合することがあり、これは、両タイプの樹脂をTritonX-100などの非イオン性界面活性剤で処理することによって防ぐことができる。混合樹脂の例としては、ローム・アンド・ハース(Rohm & Hass)のAmberlite MB-150及び粒子サイズが500〜700μmの範囲であるダウ・ケミカル(Dow Chemicals)のDowex-Marathon MR-3がある。
【0094】
イオン低減デバイスの動作を以下、
図3を参照しながら説明するが、これは、16S rRNAハイブリダイゼーションアッセイ用のアッセイしやすいライセートを得るために細菌細胞を含む尿試料の処理に適用されるものである。試料液体がすべてチャネル内を通過し、懸濁細胞がメンブレンフィルタ上に保持される(すなわちフィルタ上に集中させられる)と、洗浄液体をチャネル内に注入することでオプションの洗浄工程が実施できる。洗浄液体の流れは余分なイオンを運び去る(たとえば本工程は試料浄化を実現する)。その後チャネルは、0.5mMリン酸緩衝液などの低イオン強度の液体で満たすことができる。
【0095】
細胞の中身の放出は、パルス列を電極に印加し、それによって電気溶解を生じさせることによって達成される。放出される細胞の中身には、リボソームタンパク質と絡み合った16S rRNAを含むリボソームがある。一実施形態において、持続的なパルスと急速加熱された培地の作用が合わさることで、おそらくはリボソームタンパク質を変性させることによって、rRNAをタンパク質から分離/変性させるように、電気パルスは印加される。さらに、培地の急速加熱はまた、ハイブリダイゼーションのアッセイに適するrRNA分子のコンフォメーション変化(re-conformation)を実現する役割を担っていてもよい。さらに、RNアーゼ酵素が、電界効果及び急速加熱を含む上記の電気的処理メカニズムによって不活性化されてもよい。最後に、アッセイが実施され得る下流チャンバに、出口ポートを介してライセートを送達するように、チャネルに差圧を印加してもよい。ハイブリダイゼーションのアッセイを実施する前に、ライセートのイオン強度を、適切なレベルに上昇させてもよい。上記のように、これは、塩含有試薬をライセートに加えるか、又は別の例では、所望のイオン強度を実現するためにライセートによって溶解できる乾燥塩を含むチャネルにライセートを流すことによって、実現されてもよい。
【0096】
上記のように、本発明の各デバイス及び各方法は、広範な診断方法及び他の試料処理用途に使用することができる。いくつかの例示的な用途では、電気溶解及び電気的処理工程が、細胞が溶解され、ライセートが処理される単一の工程で実施され得る。別法として、電気溶解を最初に実施することができ、ここでは、効率的な溶解を行うように各電気溶解工程の電気パラメータが選択される。次いでライセートの電気的処理をその後の一工程で実施することができ、ここでは、効率的又は十分な電気的処理を行うように電気的処理工程の電気パラメータが選択される。
【0097】
他の例示的な実施形態では、試料が、前述の又は別個の溶解工程に基づくライセートの形でチャネルに送達されてもよい。別法として、試料は、上記の電気的処理方法に従って処理されるべき分子を含み得るが、ここで分子は、前述の一溶解工程から発生しなくてもよい。
【0098】
ある例示的な実施形態においては、本デバイス及び本方法は、PCRのための細菌の速やかな溶解及び溶解した細菌の調製を含む用途に使用することができる。特に、本方法は、コロニーPCRのための試料調製方法として使用することができ、ここでは、挿入遺伝子をプラスミドにうまく導入した形質転換細菌のコロニーをスクリーニングするためにPCRが用いられる。本電気的処理方法は、PCR阻害物質及び/又は汚染物質を変性又は不活性化するために使用することができ、それによって、核酸の抽出又は精製工程を事前に実施することなくPCRを実施できる。たとえば、細菌のコロニーから得られる細菌を、低イオン強度の緩衝液に懸濁させ、上記のようにデバイスに供給することができ、その結果、緩衝液はチャネル内に流れる。次いで、溶解及びライセートの電気的処理を得るために、適切な電圧パルス列を印加する(適切な値の例は前の開示に記載されている)。次いで、ダイレクトPCRを行うために、処理したライセートを適切なPCR試薬と直接混合することができる。
【0099】
別の例示的用途では、本電気的処理方法は、核酸の消化又は修飾に使用される酵素の変性に使用することができる。本デバイス及び本方法は、酵素を変性又は不活性化するために試料の電気的処理に使用されてもよい。しかしながら、この方法の有効性は、試料のイオン強度と、イオン交換樹脂を使用して試料の脱イオンを行う能力とによって制限され得ることが理解されよう。核酸の完全性を損なうことなく特定の酵素を不活性化するために要求される電気パラメータは、一連の実験を実施することによって決定できる。
【0100】
電気溶解及び電気的処理に使用される種々のパラメータの適切な値は、デバイス内で処理されることになる対象の液体、細胞、及び高分子の特性に依存する。また、適切な値は用途にも依存し得る。たとえば、いくつかの用途では、大幅な変性又は分解を引き起こすことなく、細胞を溶解し、細胞内高分子(核酸又はタンパク質など)を放出するのが好ましいことがある。そのような場合には、高分子を変性又は分解させることなく細胞を溶解するように、熱環境、電界、及び処理の時間尺度が選択される電気的処理プロトコールが好ましいことがある。
【0101】
他の応用例において、細胞を溶解し、選択される細胞内高分子(核酸など)を放出しながら、放出される他の細胞内高分子(ヌクレアーゼなど)の大幅な変性又は分解を引き起こすのが好ましいことがある。そのような場合には、細胞を溶解し、後者の高分子を変性又は分解させるように、熱環境、電界及び処理の時間尺度が選択される異なる電気的処理プロトコールが好ましいことがある。
【0102】
一般に、細胞の電気的処理には以下の範囲が使用され得る。電圧パルスの印加によって発生するチャネル内の電界強度は、処理されることになる細胞のタイプ及び所望の電気的処理の程度に応じて、およそ200V/cm<E<50kV/cmの範囲であり得る。およそ2kV/cm<E<30kV/cmの範囲が、微生物の溶解及び放出された核酸の診断検査を実施するためのライセートの使用にとって好ましいことがある。
【0103】
異なる例示的な実施形態によれば、個々の電圧パルスのパルス幅は、処理されることになる細胞のタイプ及び所望の電気的処理の程度に応じて、およそ1μs<t
p<10msの範囲であり得る。ブロッキング電極の場合に誘電体被膜の絶縁破壊を避け、非ブロッキング電極の場合に電気化学的生成物の蓄積を最小限にするには、およそt
p<1msの範囲が好ましいことがある。駆動電子の高周波要求を低下させるには、およそt
p>10μsの範囲が好ましい。
【0104】
他の例示的な実施形態によれば、電圧パルスが印加される持続時間は、処理されることになる細胞のタイプ及び所望の電気的処理の程度に応じて、約5s未満であり得る。場合によっては、熱が引き起こす標的高分子の分解を最小限にしたり、駆動電子の電力要求を低下させたりなどするために、電気的処理に効果的な持続時間は約100ms未満であり得る。
【0105】
他の例示的な実施形態によれば、細胞を含む液体のイオン強度は、処理されることになる最初の試料のイオン組成及び所望の電気的処理の程度に応じて、およそ0.1mM<I<100mMの範囲であり得る。場合によっては、フィルタリングが使用され、流体の交換が可能になるとき、イオン強度のより適切な範囲は、およそ0.1mM<I<10mM、又は0.2mM<I<1mMであり得る。
【0106】
他の例示的な実施形態によれば、電圧パルス印加中のチャネル内の液体ピーク温度は、処理されることになる細胞のタイプ及び所望の電気的処理の程度に応じて、およそ30℃<T
p<250℃の範囲であり得る。微生物の溶解及び放出された核酸の診断検査を実施するためのライセートの使用など、用途によっては、温度範囲がおよそ80℃<T
p<200℃になるのが好ましいことがある。
【0107】
電気的処理での液体の加熱速度は、処理されることになる細胞のタイプ及び所望の電気的処理の程度に応じて、およそ250℃/sを超えることがある。グラム陽性菌、真菌、及び胞子の溶解など、場合によっては、適切な範囲は、約2000℃/sを超える速度を含み得る。
【0108】
電気的処理後の液体の冷却時間は、標的高分子の熱感度に応じて、およそ1s未満であり得る。標的高分子が特に高感度であるときなど、場合によっては、好ましい範囲は、約100ms未満の時間を含み得る。
【0109】
ここまで説明したように、またこの後の実施例で説明するように、本デバイス及び本電気的処理方法は、広範囲の試料タイプの調製に使用することができる。多くの場合、同じデバイス特性で広範囲の細胞タイプを処理できるが、電気的処理の間は、異なる電気パラメータ及び/又は圧力調整で処理することがある。特定のタイプの細胞を以下で簡単に検討する。
【0110】
前述のパラメータ範囲は例として示したものであり、本開示の範囲を限定することは意図していない。本開示を参考にした当業者であれば、手順の決まった実験によって、さらに別の適切なパラメータ範囲又はパラメータの組み合わせを特定できることが理解されよう。
【0111】
以下の実施例において、パルス列は、10又は20kHzの周波数を有するnサイクルの双極性方形波からなっていた。以下の寸法(H×W×L)を有する3タイプのチャネルを使用した:0.1×6.4×28mm
3(幅広で長く、容積は約18μl)、0.1×6.4×16mm
3(幅広で、容積は約10μl)及び0.1×3.2×28mm
3(幅が狭く、容積は約9μl)。パルス振幅V、列持続時間t、及びイオン強度の組が、本開示の中で検査パラメータとして知られている。
【0112】
以下の実施例は、当業者が本開示の実施形態を理解し、実践できるようにするために提示される。この実施例は、本実施形態の範囲を限定するものではなく、それらの単なる例示であり、代表的なものに過ぎないと解釈されるべきである。実施例はまた、さまざまな用途におけるデバイスの動作のためのパラメータの例示的且つ/又は適切な範囲を示す役割を担っていてもよい。
【0113】
(実施例)
[実施例1]
酵素の不活性化
本実施例において説明する実験は、選択された例示酵素の不活性化(完全又は部分的)を示すことによって、タンパク質の構造及び機能を変化させるデバイスの静電容量に対する電気及び熱パラメータの影響を示すことを意図している。実験は、タンパク質コンフォメーションの変更を伴う、本明細書において開示されたデバイスの電気的処理機能及び能力の一態様を示す。
【0114】
三つの酵素、すなわち、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)(G-8629、シグマ(Sigma))1unit/mLと、β-グルクロニダーゼ(G-7396、シグマ(Sigma))100unit/mLと、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)の1:500,000希釈物(A-0168、シグマ(Sigma))との混合物を0.1及び0.4mMリン酸緩衝液(pH7.4)中で調製した。200μLの試料体積を、150Vの振幅及び10kHzの周波数を有する単一のパルス列を印加する10s間隔で5μLずつ、狭いチャネル内に通した。
【0115】
処理した試料を、酵素活性について未処理の試料と比較して試験した。酵素活性は、以下の各基質、すなわち、G6PDHにトリス20mM(pH5.0)中グルコース-6-リン酸(G6P)6.6mM、ニコチンイミドアデニンジヌクレオチド(NAD)4.0mM、塩化ナトリウム90mM、ウシ血清アルブミン(BSA)1%、アジ化ナトリウム0.09%、グルクロニダーゼに50mMリン酸緩衝液(pH7.4)中4-ニトロフェニルβ-D-グルクロニド(N-1627、シグマ(Sigma))1mM、及びHRPに3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMB)、次いで反応停止液を使用して測定した。吸光度を、340nm、405nm及び450nmにおいてそれぞれ測定した。
【0116】
異なるイオン強度に対応する電流の包絡線を
図12(a)に示す。パルス列持続時間とイオン強度の異なる組み合わせについて、酵素の残存活性を
図12(b)に示す。観察されるように、酵素活性は、約40msの臨界持続時間t
cを超える列持続時間において、激しい低下が生じている。この結果によって、t
cの後の滞留時間が、この持続時間以降に酵素活性の低下に対して顕著な影響は及ぼさないことが示唆される。より低いイオン強度0.1mMの場合、たとえおよそ70msの臨界時間t
cが経過しても、活性の低下は穏やかで、加熱速度と酵素の不活性化の間の相関関係の可能性を示唆している。
【0117】
[実施例2]
大腸菌の電気溶解
本実施例において説明する実験は、大腸菌細胞を溶解するデバイスの有効性に対する電気パラメータの影響を示すことを意図している。アンピシリン耐性遺伝子及びβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を含むpUC19プラスミドで形質転換されたNEB 5-α形質転換受容性大腸菌細胞を、100μg/mLのアンピシリン、60μg/mLのX-gal及び0.1mMのイソプロピルチオ-β-D-ガラクトシダーゼ(IPTG)を添加したLB寒天プレート上で生育させた。大腸菌の単一の青色コロニーを、100μg/mLのアンピシリンを添加したLB液体培地において37℃で一晩培養した。細胞を7000rpmで5分間遠心分離した。細胞ペレットを2回洗浄し、0.5〜1×10
9CFU/mLの濃度で0.1〜0.4mMリン酸緩衝液(pH7.4)に再懸濁させた。
【0118】
電気溶解を実施するために、200μLの試料を10sごとに5μLずつチャネルに通した。次いで、細胞溶解の有効性を評価するために、三つの異なる分析検査、すなわち、全タンパク質アッセイ、定量的全核酸アッセイ、及び16S rRNAハイブリダイゼーションのアッセイを実施した。
【0119】
細胞ライセート内に放出された全タンパク質をブラッドフォード試薬(B-6916、シグマ(Sigma))によってアッセイした。細胞ライセートを7000rpmで5分間遠心分離し、50μLの上清を、等量のブラッドフォードタンパク質アッセイ試薬と混合した。色の発現を595nmの吸光度で分光光度計によって測定した。参照細胞溶解対照として、細胞を、等量のガラスビーズ(106μm、シグマ(Sigma))で2分間破砕することによって機械的に溶解し、遠心分離後にガラスビーズ細胞ライセート(GB)の上清をアッセイした。ブラッドフォードアッセイを異なる濃度のBSAに行うことによって用意した
図13の用量反応曲線を参照することによって、タンパク質濃度を計算した。
【0120】
放出された核酸を定量的に測定するために、細胞ライセートを7000rpmで5分間遠心分離し、50μLの上清を、0.1mMリン酸緩衝液(pH7.4)中2.5μMの濃度の等量のSYTO-9核酸染色(S-34854、インビトロゲン(Invitrogen))と混合した。蛍光シグナルを、励起波長485nm及び発光波長515nmにおいて蛍光分光光度計によって測定した。
【0121】
細胞ライセート内の細菌に特異的な16S rRNAを、固相間の核酸ハイブリダイゼーションのアッセイによって検出した。アッセイしやすい試料として全細胞ライセートを使用できるが、細胞からのrRNAの効率的な放出を示すために、細胞ライセートの上清をアッセイで使用した。細胞ライセートを7000rpmで5分間遠心分離して、放出したrRNAを含む上清を集めた。5μMビオチン化捕獲プローブ及び20μg/mLストレプトアビジン(R1)をスポッティングによって固定化し、PBS(pH7.4)中0.2% BSA及び0.1% Tween-20で非特異的な結合部位をブロッキングしたイモビライザーアミノプレート(Nunc)のアッセイウェルに、体積50μLの上清を加えた。1Mリン酸緩衝液(pH7.4)中の0.2μM FITC共役検出器プローブである体積50μLのR2試薬を、アッセイウェルに加え、55℃で20分間インキュベートした。洗浄後、ブロッキング緩衝液中のHRP共役抗FITC抗体の1:1000希釈物である100μLのR3試薬を、ウェルに加え、室温で10分間インキュベートした。洗浄後、体積100μLのTMB基質を追加し、次いで停止液を加えた。色の発現を450nmの波長において分光光度計によって測定した。
【0122】
2.1 電気溶解効率に対するパルス振幅の影響
0.1mMリン酸緩衝液(pH7.4)中5×10
8CFU/mLの細菌懸濁液を5μL/10sで狭いチャネルに通し、異なる持続時間及び振幅を有する10kHzのパルス列を懸濁液に印加した。二つの異なる任意のパラメータセットである(t
1、V
1)と(t
2、V
2)の持続時間tと振幅Vを、いずれの場合もほぼ等しい電力を確実にチャネルに供給するように、t
1/t
2=(V
2/V
1)
2によって関連付けた。さらに、0.1mMの低いイオン強度を選択することに加えて、生体温度を大きく上回るほど液体を加熱しない程度に持続時間を短く選択した。チャネルが実現した平均温度T
mを推定し、異なる検査パラメータでの電流の包絡線を示す
図14(a)の凡例にそれを記録した。
【0123】
三つの分析アッセイ、すなわち、全タンパク質、全核酸及び16S rRNAの検出の結果を
図14(b)〜14(d)に示す。振幅は細胞内物質の放出に確定的な影響があるが、全タンパク質及び核酸の放出によって判断する溶解度は、GB溶解の比較用方法の場合と比べて遥かに低い。しかしながら、16S rRNAアッセイの場合、全核酸放出の効率が劣るにもかかわらず、(190Vでの)電気溶解について、GB溶解と比べて16S rRNAの強い信号が検出された。この発見は、細胞ライセートのrRNA濃度に加えて、rRNA上の特定のハイブリダイゼーション領域の接近容易性の有意性を示す。高分子のコンフォメーションを修正する電気方法の能力によって、rRNAアッセイのためのより効果的な、アッセイしやすい細胞ライセートの調製が実現されるようである。
【0124】
2.2 電気溶解効率に対する列持続時間及びイオン強度の影響
0.1又は0.4mMリン酸緩衝液(pH7.4)中1×10
9CFU/mLの細菌懸濁液を5μL/10sで狭いチャネルに通し、異なる持続時間を有する10kHz及び155Vのパルス列を懸濁液に印加した。電流の包絡線を
図15(a)に示す。
【0125】
三つの分析アッセイの結果を
図15(b)〜15(d)に示す。一般に、細胞内物質の放出は、パルス列持続時間が臨界持続時間t
cに近づくときに激しく増加する。0.1mMのイオン強度の場合、パルス持続時間がt
cに近づいても、分子の放出の程度は、イオン強度がそれより大きい対応するケースよりも十分に低い。これは、加熱速度が電気的溶解及び電気的処理に確定的な影響を及ぼし得ることを示唆する。
【0126】
2.3 電気的に調製されたライセート中のタンパク質の状態
生体分子に対する電気的処理の作用を示すために、pUC19プラスミドベクターによって表される内因性酵素β-ガラクトシダーゼの活性を測定した。β-ガラクトシダーゼの酵素活性を検出するために、直前の実施例の細胞ライセートを7000rpmで5分間遠心分離し、50μLの上清を、0.1mMリン酸緩衝液(pH7.4)中4mg/mLの等量の2-ニトロフェニルβ-D-ガラクトピラノシド(N-1127、シグマ(Sigma))と混合した。色の発現を420nmの吸光度で分光光度計によって測定した。GB溶解の場合の活性に対して正規化した、測定された酵素の残存活性を
図15(e)に示す。また、t
c近くとそれを超えるパルス列持続時間の増加は、酵素の不活性化に対して有意な影響を及ぼす。この発見は、電気溶解によって高分子のコンフォメーションが修正されることを示す。
【0127】
2.4 電気的に調製されたライセート中の核酸の状態
電気溶解によって放出される異なるタイプの核酸のスペクトルを評価するために、セクション2.2の実施例における細胞ライセートを10000rpmで5分間遠心分離し、上清中の核酸を、0.5×TBE緩衝液及び0.5μg/mL臭化エチジウム(EtBr)中の0.5%アガロースゲルで、150ボルトで45分間のゲル電気泳動によって分離した。電気溶解によるゲノムDNA、プラスミドDNA及び全RNAの放出を
図15(f)に示した。
【0128】
GB溶解と比較すると、電気溶解によって放出されたゲノムDNAは、主として、低い蛍光強度を有するスローな移動バンドとして観察された。この観察結果をさらに明確にするために、GenElute Bacterial Genomic DNAキット(NA2100、シグマ(Sigma))を使用して調製した精製ゲノムDNAに電気的処理を加え、結果を
図16に示した。
【0129】
DH5-α形質転換受容性大腸菌細胞をLB寒天プレート上で生育させ、大腸菌の単一のコロニーを、LB液体培地において37℃で一晩培養した。製造業者のプロトコールに従って、細胞溶解液を加える前に細胞をRNアーゼA及びプロテイナーゼKの溶液で前処理し、55℃で10分間インキュベーションした。スピンカラムを使用して精製し、ヌクレアーゼを含まない水に溶出したゲノムDNAを、0.5×10
9CFU/mLの等しい濃度まで、0.2mMリン酸緩衝液(pH7.4)中に再懸濁させた。
【0130】
精製されたゲノムDNAを、10μL/10sで幅広で長いチャネルに通し、34又は44msのパルス列持続時間及び140Vのパルス振幅で電気的に処理した。電流プロフィールを
図16(a)に示す。電気的に処理した、又は電気的に処理していないゲノムDNAをアガロースゲル電気泳動によって分離した。結果を
図16(b)(左)に示す。電気的処理は、
図15fで観察されたようなゲノムDNAの移動シフトを生じさせ、電気溶解中におけるゲノムDNAのコンフォメーション変化を示した。
【0131】
電気溶解によって放出されたプラスミドDNAも、
図15(f)におけるよりスローな移動バンドとして分離した。この観察結果をさらに明確にするために、GenElute Plasmid Miniprep kit(PLN10、シグマ(Sigma))を使用して調製した精製pUC19プラスミドDNAに電気的処理を加え、結果を
図16に示した。
【0132】
pUC19プラスミドで形質転換されたNEB5-α形質転換受容性大腸菌細胞を、100μg/mLアンピシリンを添加したLB寒天プレート上で生育させた。大腸菌の単一の青色コロニーを、100μg/mLのアンピシリンを添加したLB液体培地において37℃で一晩培養した。製造業者のプロトコールに従って、細胞を水酸化ナトリウムの溶解緩衝液中で溶解し、中和/結合緩衝液中に再懸濁させた。スピンカラムを使用して精製し、ヌクレアーゼを含まない水に溶出したプラスミドを、1×10
9CFU/mLの等しい濃度まで、0.2mMリン酸緩衝液(pH7.4)中に再懸濁させた。
【0133】
精製されたpUC19プラスミドを、10μL/10sで幅広で長いチャネルに通し、34又は44msのパルス列持続時間及び140Vのパルス振幅で電気的に処理した。電流プロフィールを
図16(a)に示す。電気的に処理した、又は電気的に処理していないプラスミドDNAをアガロースゲル電気泳動によって分離し、
図16(b)(右)に示されるように、電気的処理は、
図15(f)における電気溶解後に観察されたものに類似する移動シフトを生じさせ、電気溶解中におけるプラスミドDNAのコンフォメーション変化を示した。
【0134】
2.5 ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)用の試料を調製するデバイスの能力
本実施例は、PCRの阻害因子を低減して、追加の試薬又は処理を必要とせずにダイレクトPCR処理を可能にすることに関する、デバイスの電気的処理作用の有効性を示す。細菌に特異的な16S rRNA遺伝子(rDNA)を、Bacteria Identification Kit(バイオチェーン・インスティテュート・インコーポレイテッド(BioChain Institute, Inc.))を使用して、PCRによって増幅させた。実験は、0.1及び0.4mMリン酸緩衝液(pH7.4)中に再懸濁させたNEB5-α形質転換受容性大腸菌細胞を溶解することによって実施した。
【0135】
全細胞ライセートをアッセイしやすい試料として使用することができるが、細胞の外へのゲノムDNAの効率的な放出を示すために、細胞ライセートの上清をPCRに使用した。電気溶解によって調製した細胞ライセートを7000rpmで5分間遠心分離し、放出したゲノムDNAを含む上清を集めた。参照細胞溶解対照として、細胞を、等量のガラスビーズで撹拌することによって機械的に溶解した。1μLの細胞ライセート上清、1μLのユニバーサルコントロールプライマーミックス、12.5μLの2×PCR mix及び10.5μLのTE緩衝液を混合することによって、PCR反応物を調製した。普遍的な細菌(universal bacteria)に特異的な475塩基対の16S rRNA遺伝子断片を、95℃120秒間の1サイクルと、95℃30秒間、56℃45秒間、72℃40秒間の35サイクルと、72℃600秒間の1サイクルとによって増幅させた。得られたPCR産物を、0.5×TBE緩衝液及び0.5μg/mL臭化エチジウム中の1.2%アガロースゲルで、150ボルトで30分間のゲル電気泳動によって分離した。
【0136】
16S rDNAの断片を、
図15(g)に示したように異なる電気パラメータによって調製したすべての電気ライセートから効率的に増幅させたが、ガラスビーズライセートについてはわずかな増幅しか観察されなかった。
【0137】
細菌の細胞成分に関連する阻害物質によるPCR阻害効果はよく知られているメカニズムであり、この効果は通常、PCR増幅の前に、試料希釈又はPCR阻害物質除去キットを使用することによって克服される。細菌同定キットのプロトコールで勧められている通りにPCR反応の前にガラスビーズライセートを連続的に希釈したとき、PCR増幅の成功が
図16(c)において観察されて、GBライセート中にPCR阻害因子の存在が示された。電気溶解による、PCRに用いやすい試料の処理の能力をさらに示すために、ライセートを幅広で長いチャネルに通し、34又は44msの持続時間で140Vのパルス及び10kHzのパルス列を印加することによって、PCR阻害因子を含む可能性のあるGBライセートの上清に電気的処理を加えた。その対応する電流プロフィールを
図16(a)に示す。
図16(c)に示したように、電気的処理によって、GBライセート中に存在するPCR阻害効果が除去される。
【0138】
2.6 下流での用途のためのインタクトなプラスミドDNAを放出するデバイスの能力
本実施例は、下流での用途のための、完全性が保存されたプラスミドDNAを放出するデバイスの能力を示す。
【0139】
アンピシリン耐性遺伝子及びβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を含むpUC19プラスミドで形質転換されたNEB5-α形質転換受容性大腸菌細胞を、100μg/mLのアンピシリンを添加したLB液体培地において37℃で一晩培養した。細胞を7000rpmで5分間遠心分離した。細胞ペレットを2回洗浄し、1×10
9CFU/mLの濃度で、0.4mMリン酸緩衝液(pH7.4)に再懸濁させた。
【0140】
参照プラスミド精製方法として、GenElute Miniprep kit(シグマ(Sigma))を使用してpUC19プラスミドを精製した。製造業者のプロトコールに従って、細胞を水酸化ナトリウムの溶解緩衝液中で溶解し、中和/結合緩衝液中に再懸濁させた。細胞溶解中、ゲノムDNA及びプラスミドDNAの両方の2本鎖核酸をアルカリpHによって変性させる。中和工程中、プラスミドDNAは2本鎖構造に復元し得るが、変性したゲノムDNA沈殿物は遠心分離によって除去する。上清中のプラスミドは、スピンカラムを使用して精製し、ヌクレアーゼを含まない水に溶出した。ガラスビーズ又は電気溶解の場合、細胞ライセートの上清をGenElute Miniprep kitの中和/結合緩衝液と混合し、参照プラスミド精製方法として精製を継続した。
【0141】
三つの異なるタイプの細胞溶解から精製されたプラスミドを、アガロースゲル電気泳動によって分離し、ガラスビーズ破砕又は電気溶解によるプラスミドの放出を
図16(d)に示した。デバイスの電気溶解によるゲノムDNA構造の修正は、水酸化ナトリウムによる危険な化学的溶解及び高分子の変性を必要としないプラスミドDNA精製に有利なことがある。たとえば、ライセートの電気的処理後、(
図15(f)、16(b)、及び16(d)により明らかなように)コンフォメーションの状態が変化したゲノムDNAは、分離方法によってプラスミドDNAから分離できる。分離方法は、スピンカラムでの精製及び/又はフィルタを使用してのプラスミドDNAからの変化したゲノムDNAの分離を含み得る。
【0142】
プラスミドDNAの完全性を、その下流での可能性のある用途について評価するために、GB溶解又は電気溶解から精製したpUC19プラスミドと、GenEluteキットによって精製した参照プラスミドとを、TransformAid Bacteria transformation kit(フェルメンタス(Fermentas))を使用して、形質転換受容性大腸菌細胞のDH5-α株に形質転換した。形質転換体を、100μg/mLのアンピシリン、60μg/mLのX-gal及び0.1mMのイソプロピルチオ-D-ガラクトシダーゼ(IPTG)を添加したLB寒天プレート上において37℃で一晩培養した。
【0143】
図16(e)に見られるように、三つの異なる試料調製方法から得られたプラスミドについて類似の形質転換効率で、形質転換した大腸菌細胞の生育をアンピシリン及びX-galを含むLB培地において観察した。これは、E-溶解によってインタクトなクローニング品質のプラスミドが放出されることを示す。
【0144】
[実施例3]
肺炎レンサ球菌の電気溶解
本実施例で説明する実験は、肺炎レンサ球菌細胞を溶解するデバイスの有効性に対する電気パラメータの影響を示すことを意図している。ATCC 6303株肺炎レンサ球菌細胞を、5%のヒツジ血液を含むトリプチケースソイ寒天で生育させ、肺炎レンサ球菌の単一のコロニーをTryptic Soy Brothにおいて37℃で一晩培養した。溶解実験では、細胞を10000rpmで5分間遠心分離した。細胞ペレットを2回洗浄し、1×10
9CFU/mLの濃度で0.2〜0.4mMリン酸緩衝液(pH7.4)に再懸濁させた。
【0145】
細胞溶解効率を全タンパク質アッセイ及び定量的全核酸アッセイによって評価した。参照細胞溶解対照として、細胞を、等量のガラスビーズ(106μm、シグマ(Sigma))で2分間破砕することによって機械的に溶解し、遠心分離後にガラスビーズ細胞ライセートの上清をアッセイした。
【0146】
3.1 パルス振幅及びパルス列持続時間並びにイオン強度の電気溶解効率に対する影響
0.2及び0.4mMリン酸緩衝液(pH7.4)中1×10
9CFU/mLの濃度の細菌懸濁液を10μL/10sで幅広のチャネルに通し、異なる持続時間及び振幅を有する20kHzのパルス列を懸濁液に印加した。二つの異なる任意のパラメータセットである(t
1、V
1)と(t
2、V
2)の持続時間と振幅を、いずれの場合もほぼ等しい電力を確実にチャネルに供給するように、t
1/t
2=(V
2/V
1)
2によって関連付けた。実験は、五つの異なる値の振幅について繰り返した。二つの振幅範囲の電流の包絡線を
図17(a)に示す。両方のイオン強度において、パルス列持続時間は対応するt
cよりも長い。
【0147】
二つの分析アッセイ、すなわち、全タンパク質及び全核酸の検出の結果を
図17(b)〜17(c)に示す。溶解効率は、パルス振幅及び加熱速度を増加させることによって向上する。
【0148】
3.2 電気的に調製されたライセート中の核酸の状態
電気溶解によって放出される異なるタイプの核酸のスペクトルを評価するために、細胞ライセートを10000rpmで5分間遠心分離し、上清中の核酸を、0.5×TBE緩衝液及び0.5μg/mL臭化エチジウム(EtBr)中の0.5%アガロースゲルで、150ボルトで45分間のゲル電気泳動によって分離した。電気溶解によるゲノムDNA及び全RNAの放出が
図17(d)(左)において観察された。ガラスビーズ溶解と比較すると、電気溶解によって放出されたゲノムDNAは、主として、低い蛍光強度を有するスローな移動バンドとして観察された。大腸菌の場合と類似して、この観察は、ゲノムDNAのコンフォメーションが緩んだ状態に変化したことが原因だった。
【0149】
3.3 ポリメラーゼ連鎖反応(肺炎レンサ球菌)用の試料を調製するデバイスの能力
本実施例は、PCRの阻害因子を低減して、追加の試薬を必要とせずにダイレクトPCR処理を可能にすることに関する、デバイスのライセート処理作用の有効性を示す。細菌に特異的な16S rRNA遺伝子(rDNA)を、Bacteria Identification Kit(バイオチェーン・インスティテュート・インコーポレイテッド(BioChain Institute, Inc.))を使用して、PCRによって増幅させた。実験は、(0.4mM、240V)に類似するパラメータセットで肺炎レンサ球菌細胞を溶解することによって実施したものであり、このケースの対応する電流を
図17(a)に示してある。
【0150】
全細胞ライセートをアッセイしやすい試料として使用することができるが、細胞の外へのゲノムDNAの効率的な放出を示すために、細胞ライセートの上清をPCRに使用した。細胞ライセートを7000rpmで5分間遠心分離し、放出したゲノムDNAを含む上清を集めた。細胞ライセートの上清1μLをPCR増幅に使用した。16S rDNAの475塩基対の断片の得られたPCR産物を、0.5×TBE緩衝液及び0.5μg/mL臭化エチジウム中の1.2%アガロースゲルで、150ボルトで30分間のゲル電気泳動によって分離した。
図17(d)(右)に示してあるように、16S rDNAの断片を、電気ライセートの上清から効率的に増幅させた。
【0151】
3.4 デバイス溶解性能の電極材料への依存
本研究は、電気溶解中に高分子の完全性を保存することに関して、SEOAを電極材料として使用することの利点を示す。0.4mMリン酸緩衝液(pH7.4)中に懸濁した肺炎レンサ球菌細胞を、一方のチャネルがSEOA2電極を備え、他方のチャネルが銅電極を備える形状的に類似した幅広のチャネル内で溶解した。パルス振幅及び周波数はそれぞれ200V及び20kHzであった。これらのケースに対応する電流の包絡線を
図18(a)に示す。
【0152】
実施例3.1のプロトコールに従って、ブラッドフォードタンパク質アッセイ及び全核酸アッセイを行うことによってデバイスの性能を評価した。結果を
図18(b)に示す。タンパク質を放出することに関しては二つのチャネルは類似しているが、銅電極の方は全核酸シグナルが極めて低く、電気溶解中の核酸分子が分解している可能性を示している。この観察をさらに検証するために、二つのデバイスが溶解した試料にPCRを実施し、結果を
図18(c)に示した。
【0153】
[実施例4]
出芽酵母の電気溶解
本実施例で説明する実験は、出芽酵母の真菌細胞を溶解するデバイスの有効性に対する電気パラメータの影響を示すことを意図している。細胞を、5%のヒツジ血液を含むトリプチケースソイ寒天で生育させ、出芽酵母の単一のコロニーをTryptic Soy Brothにおいて37℃で一晩培養した。溶解実験では、細胞を10000rpmで5分間遠心分離した。細胞ペレットを2回洗浄し、2.5×10
7CFU/mLの濃度で0.4mMリン酸緩衝液(pH7.4)に再懸濁させた。
【0154】
細胞溶解効率を全タンパク質アッセイ及び定量的全核酸アッセイによって評価した。参照細胞溶解対照として、細胞を、等量のガラスビーズ(710〜1180μm、G1152 シグマ(Sigma))で2分間破砕することによって機械的に溶解し、遠心分離後にGBの上清をアッセイした。
【0155】
細胞懸濁液を10μL/10sで幅広のチャネルに通し、20kHzのパルス列は29msの持続時間及び190Vのパルス振幅とした。二つの条件、すなわち開ポートと制限ポートの下で実験を繰り返した。後者の場合、入口ポート及び出口ポートにおける液体の動きの制限によって過熱が可能になった。二つのケースの電流の包絡線を
図19(a)に示す。制限チャネル内の過熱された液体の推定平均温度は、およそ160℃であった。
【0156】
二つの分析アッセイ、すなわち、全放出タンパク質と核酸の測定の結果を
図19(b)に示す。溶解効率は過熱によって大幅に向上される。
【0157】
[実施例5]
rRNAの逆転写(RT)-PCR用のアッセイしやすい試料を調製するデバイスの機能
本実施例は、ライセートをrRNAの一部について酵素の転写にかけ、次いで、得られたcDNAをPCR増幅することによってデバイス内で調製されたライセートのアッセイ容易性を示す。異なる高さ、h=100μm、h=200μm、及びh=400μmを有する三つの幅広のチャネルを使用して検査を実施した。これらのチャネル内で溶解した細胞懸濁液のイオン強度は、それぞれ0.4、0.8及び1.6mMであり、これにより、所与の印加電圧において初期イオン電流がチャネル内で確実にほぼ類似するようにした。さらに、液体を三つのチャネル内に、それぞれ5μL/10s(h=100μmの場合)、10μL/10s(h=200mMの場合)及び20μL/10s(h=400μmの場合)で、各細胞が10kHz及び160Vのパルス列を2回受けるように注入した。三つのケースについての電流の包絡線を
図20(a)に示す。
【0158】
細菌に特異的な16S rRNAを、Superscript III One-Step RT-PCR system with Platinum Taq DNAポリメラーゼ(インビトロゲン(Invitrogen)、ライフテクノロジーズ(Life Technologies))を使用して、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によって検出した。0.4〜1.6mMリン酸緩衝液(pH7.4)中10
4CFU/mLのNEB5-α大腸菌細胞をE-溶解によって溶解した。参照細胞溶解方法として、細胞を、等量のガラスビーズで機械的に破砕すること、又は95℃で5分間のインキュベーションによる熱によって溶解した。陰性RT-PCR対照として、RT-PCR Grade Water(インビトロゲン(Invitrogen)、ライフテクノロジーズ(Life Technologies))を試料の代わりに使用した。1μLの試料(Tで示すライセート、又はSで示すライセートの上清)、12.5μLの2×Reaction mix、0.5μlのフォワードプライマー(16S rRNAフォワード、10μM、インテグレーテッド・ディー・エヌ・エー・テクノロジー(Integrated DNA Technology))、0.5μlのリバースプライマー(BU1.3R、10μM)、0.5μlのSuperscript III RT/Platinum Taq Mix、10μlのRT-PCR Grade Waterを混合することにより、体積25μLのRT-PCR反応物を調製した。16S rRNAフォワードプライマー(5'-AGAGTTTGATCCTGGCTAG-3')は市販されているプライマーであり、BU1.3R(5'-TAAGGTTCTTCGCGTTGCTT-3')は、配列アライメントソフトウェア(Bioedit、アイビス・バイオサイエンシーズ(Ibis Biosciences)、USA)及びプライマー設計ソフトウェア(Primer3、アメリカ国立衛生研究所)によって指定される細菌用のユニバーサルプライマーである。逆転写を55℃で10分間、逆転写酵素の不活性化を94℃で2分間、次いで30サイクルのcDNA増幅を94℃で15秒間、55℃で30秒間、及び68℃で45秒間、並びに最後の伸長を68℃で5分間行うことで、1工程のRT-PCRによって992塩基対の16S rRNA遺伝子断片を増幅させた。
【0159】
得られたPCR産物を、0.5×TBE緩衝液及び0.5μg/mL臭化エチジウム中1%アガロースゲルで、150ボルトで30分間のゲル電気泳動によって分離した。NEB5-α大腸菌細胞のE-溶解に由来するrRNAのRT-PCR産物が
図20(b)で観察された(図中、「S」はライセートの上清に実施されたPCRを示し、「T」は全ライセートに実施されたPCRを示す)。この結果は、チャネルが高いと(h=200及び400μm)ガラスビーズ破砕に類似する性能となる一方で、h=100μmチャネルに対応する信号は遥かに強く、デバイスを細菌細胞の高感度の検出により適したものにすることを示した。
【0160】
上記の特定の実施形態は一例として示したものであり、これらの実施形態はさまざまな修正及び代替が可能であってもよいことを理解されたい。特許請求の範囲は、開示された特定の形に限定することは意図されておらず、本開示の趣旨及び範囲に含まれるあらゆる修正、均等物、及び代替を包含することが意図されていることがさらに理解されるべきである
。
[1] マイクロ流体デバイス内の液体を電気的に処理して、少なくとも一つの高分子を前記液体内の少なくとも一つの細胞から放出させる方法であって、
前記マイクロ流体デバイスが、
上部チャネル表面、下部チャネル表面、側壁、及び1ミリメートル未満のサイズの厚さを有する流体チャネルと、
前記上部チャネル表面上の上部電極と、
前記下部チャネル表面上の下部電極とを備え、
前記チャネルが、前記電極に電圧パルスが印加されている間、前記液体の急速加熱をサポートするように構成されており、
前記方法が、
前記液体を前記チャネル内に流すステップと、
一連の双極性電圧パルスを前記上部電極と前記下部電極の間に印加するステップであって、前記電圧パルスの振幅、パルス幅、及び持続時間が、前記液体を急速加熱し、前記液体内の前記細胞を不可逆的に電気穿孔し、それによって前記高分子を前記細胞から放出させるのに十分なものである、ステップと
を含む、方法。
[2] 前記電圧パルスが、少なくともおよそ毎秒250度の速度で前記液体のジュール発熱が生じるように印加される、1に記載の方法。
[3] 前記電圧パルスが印加されている間、前記液体が、前記チャネルからの熱拡散の時間尺度よりも速く加熱される、1又は2に記載の方法。
[4] 前記チャネル表面の熱特性が、印加される電圧パルスに応答して、前記液体のジュール発熱が少なくともおよそ毎秒2000度の速度で生じるように選択される、1から3のいずれか一項に記載の方法。
[5] 前記液体を少なくとも所定の温度に加熱するための効果的な振幅及び持続時間で前記電圧パルスが供給される、1から4のいずれか一項に記載の方法。
[6] 前記液体の温度が相転移温度の値にほぼ等しい値まで増加するような効果的な振幅及び持続時間で前記電圧パルスが供給される、1から5のいずれか一項に記載の方法。 [7] 前記電圧パルスが印加される規定の持続時間の間、前記液体の温度が相転移温度のものとほぼ等しくなるような効果的な振幅及び持続時間で前記電圧パルスが供給される、1から6のいずれか一項に記載の方法。
[8] 前記上部電極と前記下部電極の間を流れる電流を監視するステップと、前記電流の変化に応答して前記電圧パルスの前記振幅及び前記持続時間のうち1以上を制御するステップとをさらに含む、1から7のいずれか一項に記載の方法。
[9] 前記電流の最初のピークを前記液体の相転移の開始として識別するステップと、前記相転移の開始後、規定の持続時間の間、前記電圧パルスを印加し続けるステップとをさらに含む、8に記載の方法。
[10] 前記電流の前記最初のピーク後、電流の減少を検出するステップと、その後のある期間の間、前記電圧パルスを印加し続けるステップとをさらに含む、9に記載の方法。
[11] 前記電圧パルスを印加している間は前記チャネル内の圧力が増加するように、前記電圧パルスを印加している間、チャネル容積を密閉するステップをさらに含む、1から10のいずれか一項に記載の方法。
[12] 前記電圧パルスを印加している間、前記チャネル内の前記液体の圧力を調整するステップをさらに含む、11に記載の方法。
[13] 前記マイクロ流体デバイスが受動圧力調整デバイスを備え、前記液体の前記圧力を調整するステップが、前記液体の前記圧力を受動的に調整するステップを含む、12に記載の方法。
[14] 前記液体の前記圧力を調整するステップが、前記液体を過熱しながら前記チャネル内の圧力を維持するステップを含む、12に記載の方法。
[15] 前記液体のイオン強度を低下させるように前記液体を処理するステップをさらに含む、1から14のいずれか一項に記載の方法。
[16] 前記液体のイオン強度がおよそ0.1mM〜100mMである、1から15のいずれか一項に記載の方法。
[17] 前記液体のイオン強度がおよそ0.1mM〜10mMである、1から15のいずれか一項に記載の方法。
[18] 前記液体のイオン強度がおよそ0.2mM〜2mMである、1から15のいずれか一項に記載の方法。
[19] 前記マイクロ流体デバイスが、
前記チャネルの第1の側と流れ連通する第1のポートと、
前記チャネルの第2の側と流れ連通する第2のポートと、
前記チャネル内で支持されるフィルター、ここで前記フィルターは前記第1のポートと前記第2のポートの間を流れる液体が前記フィルターを通過するように位置し、かつ、前記フィルタの少なくとも一部分が前記上部電極と前記下部電極の間に位置する、前記フィルタとを備え、
液体を前記チャネル内に流すステップが、前記電圧パルスの印加の前に、前記液体内の細胞が前記フィルタ上に集中させられるように、前記液体を前記第1のポートから前記第2のポートに流すステップを含む、1から18のいずれか一項に記載の方法。
[20] 前記マイクロ流体デバイスが、
前記チャネルの第1の側と流れ連通する第1のポートと、
前記チャネルの第2の側と流れ連通する第2のポートと、
前記チャネル内で支持されるフィルター、ここで前記フィルターは前記第1のポートと前記第2のポートの間を流れる液体が前記フィルターを通過するように位置し、かつ、前記フィルタの少なくとも一部分が前記上部電極と前記下部電極の間に位置する、前記フィルタとを備え、
前記方法が、
前記液体を前記チャネル内に流すステップの前に、前記試料内の細胞が前記フィルタ上に保持されるように、前記第1のポートから前記第2のポートに試料を流すステップをさらに含み、
前記細胞を前記フィルタ上に保持した後に、前記液体が前記チャネル内に流される、1から18のいずれか一項に記載の方法。
[21] 前記液体が、前記細胞の効果的な電気的処理に適したイオン強度を有する、20に記載の方法。
[22] 前記液体が、前記試料よりも低いイオン強度を有する、20又は21に記載の方法。
[23] 前記液体を前記チャネル内に流すステップの前に、混合イオン交換樹脂内を通過するように前記液体を流すステップをさらに含む、1から22のいずれか一項に記載の方法。
[24] 前記高分子が2本鎖DNAを含む、1から23のいずれか一項に記載の方法。
[25] 前記高分子が、リボソームRNAとリボソームタンパク質の複合体を含み、リボソームRNA及び前記リボソームタンパク質が変性させられるような振幅及び持続時間で前記電圧パルスが供給される、1から23のいずれか一項に記載の方法。
[26] 前記高分子が酵素を含み、前記酵素の活性を低下させるための振幅及び持続時間で前記電圧パルスが供給される、1から23のいずれか一項に記載の方法。
[27] 前記酵素がヌクレアーゼである、26に記載の方法。
[28] 前記高分子がPCR阻害物質を含み、前記PCR阻害物質の阻害作用を低減又は除去するための振幅及び持続時間で前記電圧パルスが供給される、1から23のいずれか一項に記載の方法。
[29] 前記高分子が核酸を含み、前記方法が、後に核酸の抽出又は精製工程を実施することなく、PCRを実施して前記核酸の配列を増幅するステップをさらに含む、1から23のいずれか一項に記載の方法。
[30] 前記電圧パルスの大きさが、およそ200V/cm〜50kV/cmである、1から29のいずれか一項に記載の方法。
[31] 前記電圧パルスの大きさが、およそ2kV/cm〜30kV/cmである、1から29のいずれか一項に記載の方法。
[32] 前記電圧パルスのパルス幅が、およそ1マイクロ秒〜10ミリ秒である、1から31のいずれか一項に記載の方法。
[33] 前記電圧パルスのパルス幅が、およそ1ミリ秒未満である、32に記載の方法。 [34] 前記電圧パルスのパルス幅が、およそ10マイクロ秒を超える、32に記載の方法。
[35] 液体を処理して、少なくとも一つの高分子を前記液体内の少なくとも一つの細胞から放出させるマイクロ流体デバイスであって、
上部チャネル表面、下部チャネル表面、側壁、及びミクロンサイズの厚さを有する流体チャネルと、
前記チャネルの第1の側と流れ連通する第1のポートと、
前記チャネルの第2の側と流れ連通する第2のポートと、
前記上部チャネル表面上に設けられる上部電極と、
前記下部チャネル表面上に設けられる下部電極と、
前記上部電極と前記下部電極の間に双極性電圧パルスを印加するように構成されている電源であって、前記液体が前記チャネル内に供給されているときに、前記電圧パルスの振幅及びパルス幅が、前記細胞を不可逆的に電気穿孔するのに十分である、電源とを備え、 前記チャネルの熱特性及び寸法が、前記電極に電圧パルスが印加されている間、前記液体の急速加熱を誘導するように選択される、マイクロ流体デバイス。
[36] 前記上部チャネル表面及び前記下部チャネル表面の熱特性が、前記電圧パルスが印加されている間、少なくともおよそ毎秒250度の速度で前記液体中にジュール発熱が生じるように選択される、35に記載のマイクロ流体デバイス。
[37] 前記電圧パルスが存在しない場合、前記チャネルの冷却時間が1秒未満の時間尺度であるように、前記チャネル表面の熱特性がさらに選択される、35に記載のマイクロ流体デバイス。
[38] 前記上部電極及び前記下部電極の1以上が金属電極である、35から37のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[39] 前記上部電極及び前記下部電極の1以上が、誘電体層で被覆されることによって前記チャネル内の液体に電気的に直接連絡していないブロッキング電極である、35から37のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[40] 前記ブロッキング電極が微細構造の表面を有する、39に記載のマイクロ流体デバイス。
[41] 前記微細構造の表面が、少なくともおよそ100の表面積増大係数を有する、40に記載のマイクロ流体デバイス。
[42] 前記ブロッキング電極に関連する静電容量が、1平方センチメートル当たり約0.5マイクロファラッドと、1平方センチメートル当たり約200マイクロファラッドとの間になるように、前記誘電体層の厚さ及び前記誘電体層の誘電率が選択される、41に記載のマイクロ流体デバイス。
[43] 前記ブロッキング電極に関連する静電容量が、1平方センチメートル当たり約1マイクロファラッドと、1平方センチメートル当たり約100マイクロファラッドとの間になるように、前記誘電体層の厚さ及び前記誘電体層の誘電率が選択される、41に記載のマイクロ流体デバイス。
[44] およそ10mM未満のイオン強度を有する液体で前記チャネルが満たされているとき、前記上部電極及び前記下部電極の帯電時間が1マイクロ秒を超えるように前記誘電体層の厚さ及び前記誘電体層の誘電率が選択される、41に記載のマイクロ流体デバイス。 [45] 前記ブロッキング電極が、ナノメートルサイズの厚さを有する酸化アルミニウム層で被覆された微細構造のアルミニウムを含む、39から44のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[46] 前記酸化アルミニウム層で被覆された前記微細構造のアルミニウムが、陽極酸化処理によって形成される、45に記載のマイクロ流体デバイス。
[47] 前記ブロッキング電極が、ナノメートルサイズの厚さを有する二酸化ケイ素の層で被覆された多孔質シリコンを含む、39から44のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[48] 前記チャネル内で支持されるフィルタをさらに含み、前記フィルタが、前記第1のポートと前記第2のポートの間を流れる流体が前記フィルタを通過するように位置する、35から47のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[49] 前記フィルタの少なくとも一部分が、前記上部電極と前記下部電極の間に位置する、48に記載のマイクロ流体デバイス。
[50] 前記フィルタが前記チャネル内で複数のビーズによってサポートされ、前記ビーズが、前記チャネル内の前記フィルタのいずれかの側に設けられている、48又は49に記載のマイクロ流体デバイス。
[51] 前記フィルタが、前記チャネル内で前記フィルタの第1の側に設けられた第1の支持構造と、前記フィルタの第2の側に設けられた第2の支持構造とによって、前記チャネル内で支持され、前記第1の支持構造及び前記第2の支持構造が、前記フィルタ内を通る流体の流れを可能にする、48又は49に記載のマイクロ流体デバイス。
[52] 前記フィルタがメンブレンフィルタである、48又は51に記載のマイクロ流体デバイス。
[53] 前記チャネルと流れ連通する、前記チャネル内の圧力を制御するための圧力調整デバイスをさらに備える、35から52のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。 [54] 前記電源が、およそ200V/cm〜50kV/cmの大きさを有する電圧パルスを供給するように構成されている、35から52のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[55] 前記電源が、およそ2kV/cm〜30kV/cmの大きさを有する電圧パルスを供給するように構成されている、35から52のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[56] 前記電源が、およそ1マイクロ秒〜10ミリ秒のパルス幅を有する電圧パルスを供給するように構成されている、35から55のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
[57] 前記電源が、およそ1ミリ秒未満のパルス幅を有する電圧パルスを供給するように構成されている、56に記載のマイクロ流体デバイス。
[58] 前記電源が、およそ10マイクロ秒を超えるパルス幅を有する電圧パルスを供給するように構成されている、56に記載のマイクロ流体デバイス。