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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6590950
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】放射線検出器
(51)【国際特許分類】
   H04N 5/32 20060101AFI20191007BHJP
   H04N 5/374 20110101ALI20191007BHJP
   H04N 5/353 20110101ALI20191007BHJP
   G01T 7/00 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   H04N5/32
   H04N5/374
   H04N5/353
   G01T7/00 A
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-560077(P2017-560077)
(86)(22)【出願日】2016年12月14日
(86)【国際出願番号】JP2016087259
(87)【国際公開番号】WO2017119251
(87)【国際公開日】20170713
【審査請求日】2018年6月12日
(31)【優先権主張番号】特願2016-838(P2016-838)
(32)【優先日】2016年1月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(72)【発明者】
【氏名】鬼橋 浩志
【審査官】 鈴木 明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−157793(JP,A)
【文献】 特開2012−95201(JP,A)
【文献】 特表2014−526178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 5/30−5/378
G01T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に設けられ、第1の方向に延びる複数の制御ラインと、
前記基板に設けられ、前記第1の方向に交差する第2の方向に延びる複数のデータラインと、
前記複数の制御ラインと、前記複数のデータラインと、により画された複数の領域のそれぞれに設けられ、対応する前記制御ラインと対応する前記データラインとに電気的に接続された薄膜トランジスタおよび光電変換素子を有する光電変換部と、
前記複数の制御ラインと電気的に接続され、複数の前記薄膜トランジスタのオン状態とオフ状態を切り替える制御回路と、
前記複数のデータラインと電気的に接続された信号検出回路と、
前記信号検出回路と電気的に接続された基準電位部と、
前記信号検出回路と電気的に接続された判定部と、
を備え、
前記信号検出回路は、前記薄膜トランジスタがオフ状態の時に、前記データラインを介して第1の電流積分値を検出するとともに、前記基準電位部からの第2の電流積分値を検出し、
前記判定部は、検出された前記第1の電流積分値と前記第2の電流積分値との差に基づいて放射線の入射開始時を判定する放射線検出器。
【請求項2】
前記基準電位部は、前記制御ラインと前記データラインとに電気的に接続された前記薄膜トランジスタを有する請求項1記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記基準電位部は、マトリクス状に並べられた前記複数の光電変換部のうち、前記複数の制御ラインが並ぶ方向に並べて設けられた一列の前記複数の光電変換部を有する請求項1記載の放射線検出器。
【請求項4】
前記基準電位部は、前記基準電位部に設けられた前記薄膜トランジスタ、または前記基準電位部に設けられた前記複数の光電変換部を覆う遮蔽部材をさらに有する請求項2または3に記載の放射線検出器。
【請求項5】
前記基準電位部は、電源、または、フロート電位と電気的に接続されている請求項1記載の放射線検出器。
【請求項6】
前記信号検出回路は、前記薄膜トランジスタがオン状態の時のサンプリング幅と、前記薄膜トランジスタがオフ状態の時のサンプリング幅とを変更する請求項1〜5のいずれか1つに記載の放射線検出器。
【請求項7】
前記薄膜トランジスタがオフ状態の時のサンプリング幅は、前記薄膜トランジスタがオン状態の時のサンプリング幅よりも長い請求項6記載の放射線検出器。
【請求項8】
前記判定部により前記放射線の入射が開始されたと判定された場合には、
前記制御回路は、一定期間経過後に前記複数の薄膜トランジスタをオン状態にする請求項1〜7のいずれか1つに記載の放射線検出器。
【請求項9】
前記判定部により前記放射線の入射が開始されていないと判定された場合には、
前記制御回路は、前記複数の薄膜トランジスタをオフ状態に維持し、
前記信号検出回路は、前記第1の電流積分値と、前記第2の電流積分値とを再度検出し、
前記判定部は、前記第1の電流積分値と前記第2の電流積分値との差に基づいて放射線の入射開始時を再度判定する請求項1〜7のいずれか1つに記載の放射線検出器。
【請求項10】
前記判定部は、前記判定の回数および経過時間の少なくともいずれかを検出し、検出された前記判定の回数および前記経過時間の少なくともいずれかが規定値を超えた場合には、
前記判定の回数、前記経過時間、前記第1の電流積分値、および前記第2の電流積分値に関するデータを初期化する請求項9記載の放射線検出器。
【請求項11】
前記判定部は、前記複数のデータライン毎の前記第1の電流積分値を平均し、前記平均された前記第1の電流積分値と前記第2の電流積分値との差に基づいて前記放射線の入射開始時を判定する請求項1〜10のいずれか1つに記載の放射線検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線検出器の一例にX線検出器がある。X線検出器には、例えば、複数の光電変換部(画素などとも称される)を有するアレイ基板と、複数の光電変換部の上に設けられX線を蛍光に変換するシンチレータとが設けられている。また、光電変換部には、シンチレータからの蛍光を信号電荷に変換する光電変換素子、信号電荷の蓄積および放出のスイッチングを行う薄膜トランジスタ、信号電荷を蓄積する蓄積キャパシタなどが設けられている。
【0003】
一般的には、X線検出器は、以下のようにして信号電荷を読み出す。まず、外部から入力された信号によりX線の入射を認識する。次に、予め定められた時間(信号電荷が蓄積されるために必要となる時間)の経過後に、読み出しを行う光電変換部の薄膜トランジスタをオン状態にして、蓄積された信号電荷を積分アンプで電圧に変換し読み出す。
しかしながら、この様にすると、X線検出器の動作の開始が外部機器からの信号に依存することになるので、外部機器からの信号(例えば、X線源などからのX線照射がされたことを知らせる信号)と同期させる外部回路が必要になる。外部回路を設けるとノイズなどの影響を受けやすくなり、X線照射との回路同期できない場合には、X線画像を取得できなくなるおそれがある。
【0004】
ここで、半導体素子である薄膜トランジスタにX線を照射すると、光電効果によりドレイン電極とソース電極との間に電流が流れる。また、薄膜トランジスタのソース電極はデータラインと電気的に接続されている。そこで、X線が照射された時にデータラインに流れる電流積分値と、X線が照射されていない時にデータラインに流れる電流積分値との差を検出して、X線の入射開始時を検出する技術が提案されている。
【0005】
しかしながら、この様にすると、検出された電流積分値と、一つ前に検出された電流積分値との差を求めることになる。一つ前に検出された電流積分値が閾値よりやや低い値であった場合には、データラインに流れる電流積分値の差が小さくなり、X線を検出できない場合がある。また、電圧に変換する際に、低周波ノイズなどの外乱ノイズがあると各積分アンプの電圧値がオフセットする。そのため、低周波ノイズなどの外乱ノイズの影響が大きくなり、X線の入射開始時を精度良く検出することが困難となるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2014−526178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、放射線の入射開始時を精度良く検出することができる放射線検出器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係る放射線検出器は、基板と、前記基板に設けられ、第1の方向に延びる複数の制御ラインと、前記基板に設けられ、前記第1の方向に交差する第2の方向に延びる複数のデータラインと、前記複数の制御ラインと、前記複数のデータラインと、により画された複数の領域のそれぞれに設けられ、対応する前記制御ラインと対応する前記データラインとに電気的に接続された薄膜トランジスタおよび光電変換素子を有する光電変換部と、前記複数の制御ラインと電気的に接続され、複数の前記薄膜トランジスタのオン状態とオフ状態を切り替える制御回路と、前記複数のデータラインと電気的に接続された信号検出回路と、前記信号検出回路と電気的に接続された基準電位部と、前記信号検出回路と電気的に接続された判定部と、を備えている。
前記信号検出回路は、前記薄膜トランジスタがオフ状態の時に、前記データラインを介して第1の電流積分値を検出するとともに、前記基準電位部からの第2の電流積分値を検出する。前記判定部は、検出された前記第1の電流積分値と前記第2の電流積分値との差に基づいて放射線の入射開始時を判定する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】X線検出器1を例示するための模式斜視図である。
図2】X線検出器1のブロック図である。
図3】X線検出器1の回路図である。
図4】比較例に係るX線検出器101のブロック図である。
図5】比較例に係るX線の入射開始時の検出方法における電流積分値の差の変化を例示するためのグラフ図である。
図6】(a)、(b)は、X線検出器1における処理工程を例示するためのタイミングチャートである。
図7】X線の入射開始時の検出を例示するためのフローチャートである。
図8】他の実施形態に係る基準電位部6a1を例示するためのブロック図である。
図9】他の実施形態に係る基準電位部6a2を例示するためのブロック図である。
図10】入射放射線検出部6の効果を例示するためのグラフ図である。
図11】薄膜トランジスタ2b2をオフ状態にして光電変換部2bからの電流を検出する工程におけるサンプリング幅と、求められた電流積分値の差との関係を例示するためのグラフ図である。
図12】薄膜トランジスタ2b2をオフ状態にして光電変換部2bからの電流を検出する工程におけるサンプリング幅と、求められた電流積分値の差との関係を例示するためのグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、実施の形態について例示をする。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
本実施の形態に係る放射線検出器は、X線のほかにもγ線などの各種放射線に適用させることができる。ここでは、一例として、放射線の中の代表的なものとしてX線に係る場合を例にとり説明をする。したがって、以下の実施形態の「X線」を「他の放射線」に置き換えることにより、他の放射線にも適用させることができる。
【0011】
また、以下に例示をするX線検出器1は、放射線画像であるX線画像を検出するX線平面センサである。X線平面センサには、大きく分けて直接変換方式と間接変換方式がある。
直接変換方式は、入射X線により光導電膜内部に発生した光導電電荷(信号電荷)を高電界により電荷蓄積用の蓄積キャパシタに直接導く方式である。
間接変換方式は、X線をシンチレータにより蛍光(可視光)に変換し、蛍光をフォトダイオードなどの光電変換素子により信号電荷に変換し、信号電荷を蓄積キャパシタに導く方式である。
以下においては、一例として、間接変換方式のX線検出器1を例示するが、本発明は直接変換方式のX線検出器にも適用することができる。
すなわち、X線検出器は、X線を直接的またはシンチレータと協働して検出する検出部を有するものであれば良い。
また、X線検出器1は、例えば、一般医療用途などに用いることができるが、用途に限定はない。
【0012】
図1は、X線検出器1を例示するための模式斜視図である。
なお、図1においては、バイアスライン2c3などを省いて描いている。
図2は、X線検出器1のブロック図である。
図3は、X線検出器1の回路図である。
図1図3に示すように、X線検出器1には、アレイ基板2、信号処理部3、画像処理部4、シンチレータ5、および入射放射線検出部6が設けられている。
【0013】
アレイ基板2は、シンチレータ5によりX線から変換された蛍光(可視光)を電気信号に変換する。
アレイ基板2は、基板2a、光電変換部2b、制御ライン(又はゲートライン)2c1、データライン(又はシグナルライン)2c2、およびバイアスライン2c3を有する。
なお、光電変換部2b、制御ライン2c1、データライン2c2、およびバイアスライン2c3の数などは例示をしたものに限定されるわけではない。
【0014】
基板2aは、板状を呈し、無アルカリガラスなどの透光性材料から形成されている。
光電変換部2bは、基板2aの一方の表面に複数設けられている。
光電変換部2bは、矩形状を呈し、制御ライン2c1とデータライン2c2とにより画された領域に設けられている。複数の光電変換部2bは、マトリクス状に並べられている。
なお、1つの光電変換部2bは、1つの画素(pixel)に対応する。
【0015】
複数の光電変換部2bのそれぞれには、光電変換素子2b1と、スイッチング素子である薄膜トランジスタ(TFT;Thin Film Transistor)2b2が設けられている。
また、図3に示すように、光電変換素子2b1において変換した信号電荷を蓄積する蓄積キャパシタ2b3を設けることができる。蓄積キャパシタ2b3は、例えば、矩形平板状を呈し、各薄膜トランジスタ2b2の下に設けることができる。ただし、光電変換素子2b1の容量によっては、光電変換素子2b1が蓄積キャパシタ2b3を兼ねることができる。
【0016】
光電変換素子2b1は、例えば、フォトダイオードなどとすることができる。
薄膜トランジスタ2b2は、蛍光が光電変換素子2b1に入射することで生じた電荷の蓄積および放出のスイッチングを行う。薄膜トランジスタ2b2は、アモルファスシリコン(a−Si)やポリシリコン(P−Si)などの半導体材料を含むものとすることができる。薄膜トランジスタ2b2は、ゲート電極2b2a、ソース電極2b2b及びドレイン電極2b2cを有している。薄膜トランジスタ2b2のゲート電極2b2aは、対応する制御ライン2c1と電気的に接続される。薄膜トランジスタ2b2のソース電極2b2bは、対応するデータライン2c2と電気的に接続される。薄膜トランジスタ2b2のドレイン電極2b2cは、対応する光電変換素子2b1と蓄積キャパシタ2b3とに電気的に接続される。また、光電変換素子2b1のアノード側と蓄積キャパシタ2b3は、対応するバイアスライン2c3と電気的に接続される(図3を参照)。
【0017】
制御ライン2c1は、所定の間隔を開けて互いに平行に複数設けられている。制御ライン2c1は、例えば、行方向(第1の方向の一例に相当する)に延びている。
1つの制御ライン2c1は、基板2aの周縁近傍に設けられた複数の配線パッド2d1のうちの1つと電気的に接続されている。1つの配線パッド2d1には、フレキシブルプリント基板2e1に設けられた複数の配線のうちの1つが電気的に接続されている。フレキシブルプリント基板2e1に設けられた複数の配線の他端は、信号処理部3に設けられた制御回路31とそれぞれ電気的に接続されている。
【0018】
データライン2c2は、所定の間隔を開けて互いに平行に複数設けられている。データライン2c2は、例えば、行方向に直交する列方向(第2の方向の一例に相当する)に延びている。
1つのデータライン2c2は、基板2aの周縁近傍に設けられた複数の配線パッド2d2のうちの1つと電気的に接続されている。1つの配線パッド2d2には、フレキシブルプリント基板2e2に設けられた複数の配線のうちの1つが電気的に接続されている。フレキシブルプリント基板2e2に設けられた複数の配線の他端は、信号処理部3に設けられた信号検出回路32とそれぞれ電気的に接続されている。
【0019】
図3に示すように、バイアスライン2c3は、データライン2c2とデータライン2c2との間に、データライン2c2と平行に設けられている。
バイアスライン2c3には、図示しないバイアス電源が電気的に接続されている。図示しないバイアス電源は、例えば、信号処理部3などに設けることができる。
なお、バイアスライン2c3は、必ずしも必要ではなく、必要に応じて設けるようにすればよい。バイアスライン2c3が設けられない場合には、光電変換素子2b1のアノード側と蓄積キャパシタ2b3は、バイアスライン2c3に代えてグランドに電気的に接続される。
【0020】
制御ライン2c1、データライン2c2、およびバイアスライン2c3は、例えば、アルミニウムやクロムなどの低抵抗金属を用いて形成することができる。
【0021】
保護層2fは、光電変換部2b、制御ライン2c1、データライン2c2、およびバイアスライン2c3を覆っている。
保護層2fは、例えば、酸化物絶縁材料、窒化物絶縁材料、酸窒化物絶縁材料、および樹脂材料の少なくとも1種を含む。
酸化物絶縁材料は、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウムなどである。
窒化物絶縁材料は、例えば、窒化シリコン、窒化アルミニウムなどである。
酸窒化物絶縁材料は、例えば、酸窒化シリコンなどである。
樹脂材料は、例えば、アクリル系樹脂などである。
【0022】
信号処理部3は、アレイ基板2の、シンチレータ5側とは反対側に設けられている。
信号処理部3には、制御回路31と、信号検出回路32とが設けられている。
制御回路31は、薄膜トランジスタ2b2のオン状態とオフ状態を切り替える。
図2に示すように、制御回路31は、複数のゲートドライバ31aと行選択回路31bとを有する。
行選択回路31bには、画像処理部4などから制御信号S1が入力される。行選択回路31bは、X線画像の走査方向に従って、対応するゲートドライバ31aに制御信号S1を入力する。
ゲートドライバ31aは、対応する制御ライン2c1に制御信号S1を入力する。
例えば、制御回路31は、フレキシブルプリント基板2e1と制御ライン2c1とを介して、制御信号S1を各制御ライン2c1毎に順次入力する。制御ライン2c1に入力された制御信号S1により薄膜トランジスタ2b2がオン状態となり、光電変換素子2b1からの信号電荷(画像データ信号S2)が受信できるようになる。
【0023】
信号検出回路32は、薄膜トランジスタ2b2がオフ状態の時に、データライン2c2を介して電流積分値を検出するとともに、基準電位部6aからの電流積分値を検出する。
信号検出回路32は、薄膜トランジスタ2b2がオン状態の時に、画像処理部4からのサンプリング信号に従って光電変換素子2b1から信号電荷(画像データ信号S2)を読み出す。
画像処理部4は、配線4aおよび判定部6bを介して、信号検出回路32と電気的に接続されている。なお、画像処理部4は、信号処理部3と一体化されていてもよい。
【0024】
X線画像は、以下のようにして構成される。
まず、制御回路31によって薄膜トランジスタ2b2が順次オン状態となる。薄膜トランジスタ2b2がオン状態となることで、バイアスライン2c3を介して一定の電荷が光電変換素子2b1に蓄積される。次に、薄膜トランジスタ2b2をオフ状態にする。X線が照射されると、シンチレータ5によりX線が蛍光に変換される。蛍光が光電変換素子2b1に入射すると、光電効果によって電荷(電子およびホール)が発生し、発生した電荷と、蓄積されている電荷(異種電荷)とが結合して蓄積されている電荷が減少する。次に、制御回路31は、薄膜トランジスタ2b2を順次オン状態にする。信号検出回路32は、サンプリング信号に従って各光電変換素子2b1に蓄積されている減少した電荷(画像データ信号S2)をデータライン2c2を介して読み出す。
【0025】
画像処理部4は、読み出された画像データ信号S2を受信し、受信した画像データ信号S2を順次増幅し、増幅された画像データ信号S2(アナログ信号)をデジタル信号に変換する。そして、画像処理部4は、デジタル信号に変換された画像データ信号S2に基づいて、X線画像を構成する。構成されたX線画像のデータは、画像処理部4から外部の機器に向けて出力される。
【0026】
シンチレータ5は、複数の光電変換素子2b1の上に設けられ、入射するX線を可視光すなわち蛍光に変換する。シンチレータ5は、基板2a上の複数の光電変換部2bが設けられた領域(有効画素領域)を覆うように設けられている。
シンチレータ5は、例えば、ヨウ化セシウム(CsI):タリウム(Tl)、あるいはヨウ化ナトリウム(NaI):タリウム(Tl)などを用いて形成することができる。この場合、真空蒸着法などを用いて、シンチレータ5を形成すれば、複数の柱状結晶の集合体からなるシンチレータ5が形成される。
シンチレータ5の厚み寸法は、例えば、600μm程度とすることができる。
【0027】
また、シンチレータ5は、例えば、酸硫化ガドリニウム(GdS)などを用いて形成することもできる。この場合、例えば、以下のようにしてシンチレータ5を形成することができる。まず、酸硫化ガドリニウムからなる粒子をバインダ材と混合する。次に、混合された材料を、有効画素領域を覆うように塗布する。次に、塗布された材料を焼成する。次に、ブレードダイシング法などを用いて、焼成された材料に溝部を形成する。この際、複数の光電変換部2bごとに四角柱状のシンチレータ5が設けられるように、マトリクス状の溝部を形成することができる。溝部には、大気(空気)、あるいは酸化防止用の窒素ガスなどの不活性ガスが満たされるようにすることができる。また、溝部が真空状態となるようにしてもよい。
【0028】
その他、蛍光の利用効率を高めて感度特性を改善するために、シンチレータ5の表面側(X線の入射面側)を覆うように図示しない反射層を設けることができる。
また、空気中に含まれる水蒸気により、シンチレータ5の特性と図示しない反射層の特性が劣化するのを抑制するために、シンチレータ5と図示しない反射層を覆う図示しない防湿体を設けることができる。
【0029】
ここで、一般的なX線検出器は、以下のようにして信号電荷を読み出す。まず、X線源などの外部機器からの信号により、X線が入射したのを認識する。次に、予め定められた時間(信号電荷が蓄積されるために必要となる時間)の経過後に、読み出しを行う光電変換部2bの薄膜トランジスタ2b2をオン状態にして、蓄積された信号電荷を読み出す。
すなわち、一般的なX線検出器の場合は、X線が実際にX線検出器に入射したのを検出しているわけではない。
そのため、外部機器からの信号が入力された時点と、読み出し動作を開始する時点との間に所定の時間を設ける必要がある。またさらに、外部機器からの信号(例えば、X線源などからのX線照射がされたことを知らせる信号)と同期させる外部回路が必要になる。外部回路を設けるとノイズなどの影響を受けやすくなり、X線照射との回路同期できない場合には、X線画像を取得できなくなるおそれがある。
【0030】
ここで、物質にX線を照射すると、電子(X線光電子)が物質の表面から放出される(光電効果)。そのため、絶縁材料や半導体材料などからなる部材にX線を照射して、光電効果により部材内に電子を発生させ、部材の両端に電圧を印加し、部材の内部に電界をかけると、X線が照射されている期間に電流(X線光導電流)を取り出すことができる。前述した直接変換方式のX線検出器は、これを利用したものである。
【0031】
間接変換方式のX線検出器においても、半導体素子である薄膜トランジスタ2b2にX線を照射すると、光電効果によりドレイン電極2b2cとソース電極2b2bとの間に電流が流れる。すなわち、薄膜トランジスタ2b2にX線を照射すると、抵抗値が下がり、見掛け上、薄膜トランジスタ2b2がオン状態になる。そのため、これを利用すれば、X線の入射開始時を直接検出することができる。
【0032】
図4は、比較例に係るX線検出器101のブロック図である。
図4に示すように、X線検出器101には、アレイ基板2および信号処理部3が設けられている。また、図示は省略するが、画像処理部4およびシンチレータ5も設けられている。ただし、X線検出器101には、入射放射線検出部6が設けられていない。
X線検出器101においては、以下のようにしてX線の入射開始時を検出する。
まず、各薄膜トランジスタ2b2をオフ状態にする。信号処理部3などにより、各データライン2c2の電流積分値を検出する。電流積分値は、データライン2c2に電気的に接続された複数の光電変換部2b毎に順次検出する。この様な電流積分値の検出を反復して行う。そして、検出された電流積分値と、一つ前に検出された電流積分値との差を比較回路などにより求め、電流積分値の差が変化した時点を検出し、電流積分値の差が変化した時点をX線の入射開始時と判定する。この様にすれば、X線の入射開始時を直接検出することができる。
ところが、光電変換部2bからの電流積分値を検出している期間に(信号電荷を読み出している期間に)、低周波ノイズなどの外乱ノイズがあると、外乱ノイズが検出された電流積分値に重なる。外乱ノイズの影響は、例えば、X線画像上において行画素単位で現れる。この様な外乱ノイズの影響は、横引きノイズと呼ばれている。
【0033】
比較例に係るX線の入射開始時の検出方法においては、検出された電流積分値と、一つ前に検出された電流積分値との差を求める。この場合、前述の横引きノイズがあると、検出された電流積分値にさらにオフセットが重畳する。その結果、X線の入射開始時の判定において誤判定が生じる要因となる。この場合、信号を大きくするために求められた電流積分値の差を積分すると、横引きノイズの影響も大きくなり、さらに誤判定が生じるおそれがさらに高くなる。
【0034】
図5は、比較例に係るX線の入射開始時の検出方法における電流積分値の差の変化を例示するためのグラフ図である。
図5中のX1は、入射したX線のパルス幅である。N1は、ノイズである。S1はX線の入射開始時の判定に用いることができる有効電気信号である。
図5から分かるように、X線が入射すると、電流積分値の差が増加する。そのため、電流積分値の差の変化を検出すればX線の入射開始時を検出することができる。
ところが、前述したように、外乱ノイズの影響が大きくなる。この場合、同じ光電変換部2bにおける電流積分値同士の差を求めるため、求められた電流積分値の差が小さくなる。そのため、有効電気信号S1の値が小さくなりやすくなるので、X線の入射開始時の判定において誤判定がさらに生じやすくなる。
【0035】
そこで、本実施の形態に係るX線検出器1には、入射放射線検出部6が設けられている。
図1および図2に示すように、入射放射線検出部6は、基準電位部6aおよび判定部6bを有する。
基準電位部6aは、例えば、定電圧電源や定電流電源などの電源と電気的に接続されたものとすることができる。基準電位部6aは、電源などと電気的に接続せず、フロート電位と電気的に接続することもできる。
判定部6bは、信号検出回路32を介して基準電位部6aと電気的に接続されている。
基準電位部6aおよび判定部6bは、X線が入射しない領域に設けることができる。基準電位部6aおよび判定部6bは、例えば、信号処理部3または画像処理部4が設けられる領域に設けることができる。基準電位部6aおよび判定部6bは、信号処理部3または画像処理部4と一体化することもできる。
【0036】
図6(a)、(b)は、X線検出器1における処理工程を例示するためのタイミングチャートである。
図6(a)は、X線の入射開始時の検出を例示するためのタイミングチャートである。
図6(b)は、X線の入射が開始された後の処理工程を例示するためのタイミングチャートである。
図7は、X線の入射開始時の検出を例示するためのフローチャートである。
【0037】
図6(a)および図7に示すように、X線の入射開始時を検出する場合には、まず、制御回路31は、全ての制御ライン2c1に制御信号S1(電圧)を入力しないようにする。すなわち、全ての薄膜トランジスタ2b2をオフ状態にする。続いて、画像処理部4から信号処理部3に順次サンプリング信号を入力し、サンプリングを開始する。前述したように、X線が光電変換部2bに照射されると、光電効果により、ドレイン電極2b2cとソース電極2b2bとの間に電流が流れる。各光電変換部2bからの電流積分値の検出は、それぞれのサンプリング幅内で終了させる。また、それぞれのサンプリング幅内で基準電位部6aからの電流積分値を検出する(図7のステップST1)。
【0038】
次に、判定部6bは、各光電変換部2bからの電流積分値と、基準電位部6aからの電流積分値との差を求める(図7のステップST2)。
次に、判定部6bは、求められた電流積分値の差が所定の判定基準を満たしているか否かを判定する(図7のステップST3)。
判定基準を満たしている場合には、判定部6bは、X線が入射したと判定する。判定基準を満たしていない場合には、判定部6bは、X線が入射していないと判定する。
【0039】
判定部6bによりX線が入射したと判定された場合には、図6(b)に例示をするX線画像を構成するための処理を行う(図7のステップST4)。
例えば、図6(b)に示すように、画像処理部4から信号処理部3に順次サンプリング信号を入力し、サンプリングを開始する。
次に、制御回路31は、一定期間経過後に、それぞれのサンプリング幅内において、制御ライン2c1に制御信号S1を入力する。すなわち、制御回路31は、一定期間経過後に、サンプリングを行う薄膜トランジスタ2b2をオン状態にする。
なお、「一定期間」は、実験やシミュレーションにより予め求められた時間とすることができる。この場合、「一定期間」は、固定的に設定することもできるし、X線の照射の前にその都度設定することもできる。
また、「一定期間」は、検出値が第1の閾値を超え、第2の閾値を下回った時とすることもできる。
入力された制御信号S1は、サンプリング幅内において終了させる。制御信号S1により薄膜トランジスタ2b2がオン状態となると、光電変換素子2b1からの信号電荷(画像データ信号S2)が受信できるようになる。信号検出回路32により読み出された画像データ信号S2は、判定部6bを通過して、画像伝送部4に入力される。画像伝送部4は、入力された画像データ信号S2を順次増幅し、デジタル信号に変換する。そして、画像伝送部4は、デジタル信号に変換された画像データ信号S2に基づいて、X線画像を構成する。構成されたX線画像のデータは、画像伝送部4から外部の機器に向けて出力される。
【0040】
判定部6bによりX線が入射していないと判定された場合には、判定までの工程(ステップST1〜ステップST3)を繰り返し行った回数(判定の回数)、および経過時間の少なくともいずれかを検出する(図7のステップST5)。
次に、検出された判定の回数および経過時間の少なくともいずれかが規定値を超えているか否かを判定する(図7のステップST6)。
検出された判定の回数などが規定値を超えていなければ、ステップST1に戻り前述した工程を再度行う。
すなわち、制御回路31は、複数の薄膜トランジスタ2b2をオフ状態に維持する。
信号検出回路32は、各光電変換部2bからの電流積分値と、基準電位部6aからの電流積分値とを再度検出する。
判定部6bは、各光電変換部2bからの電流積分値と、基準電位部6aからの電流積分値との差に基づいてX線の入射開始時を再度判定する。
検出された判定の回数などが規定値を超えていれば、判定にかかわるデータ(判定の回数、経過時間、検出した電流積分値などに関するデータ)を初期化(消去)し、ステップST1に戻り前述した工程を再度行う。
【0041】
図8は、他の実施形態に係る基準電位部6a1を例示するためのブロック図である。
図8に示すように、基準電位部6a1には、薄膜トランジスタ2b2と、蓄積キャパシタ2b3が設けられている。すなわち、基準電位部6a1は、光電変換部2bから光電変換素子2b1を除いた構成を有している。
なお、基準電位部6a1は、薄膜トランジスタ2b2のみを有するものであってもよい。
また、基準電位部6a1は、ドレイン電極2b2cとバイアスライン2c3を電気的に接続せず、光電変換素子2b1の代わりに絶縁物を成膜したものとすることもできる。
【0042】
基準電位部6a1は、アレイ基板2の周縁領域において、制御ライン2c1とデータライン2c2とにより画された領域に設けられている。複数の基準電位部6a1は、制御ライン2c1が並ぶ方向に並べて設けられている。薄膜トランジスタ2b2および蓄積キャパシタ2b3の電気的な接続は、光電変換部2bの場合と同様とすることができる。
【0043】
前述したように、薄膜トランジスタ2b2にX線を照射すると、光電効果によりドレイン電極2b2cとソース電極2b2bとの間に電流が流れる。この場合、光電変換素子2b1が設けられていないと、ドレイン電極2b2cとソース電極2b2bとの間に流れる電流は、ほぼ一定となる。基準電位部6a1は、この現象を利用したものである。
【0044】
基準電位部6a1と光電変換部2bの構成上の違いは、光電変換素子2b1の有無のみであるため、光電変換部2bを形成する工程において基準電位部6a1を形成することができる。そのため、製造コストの低減や生産性の向上を図ることができる。
また、基準電位部6a1は、アレイ基板2に設けることができる。そのため、省スペース化、ひいてはX線検出器1の小型化を図ることができる。
【0045】
また、マトリクス状に並べられた複数の光電変換部2bの内、任意の列に設けられた複数の光電変換部2bを基準電位部とすることもできる。
すなわち、基準電位部は、マトリクス状に並べられた複数の光電変換部2bのうち、複数の制御ライン2c1が並ぶ方向に並べて設けられた一列の複数の光電変換部2bとすることができる。
この場合、X線画像を検出するための光電変換部2bと、基準電位部となる光電変換部2bとが異なるものとなるので、前述した比較例に係るX線の入射開始時の検出方法のように、電流積分値の検出時期がずれることがない。そのため、外乱ノイズの影響が大きくなることはない。
この様にすれば、X線画像を検出するための光電変換部2bと、基準電位部となる光電変換部2bとが全く同じ構成となるので、製造コストの低減や生産性の向上をさらに図ることができる。
【0046】
図9は、他の実施形態に係る基準電位部6a2を例示するためのブロック図である。
図9に示すように、基準電位部6a2は、前述した基準電位部となる複数の光電変換部2bと、それらを覆う遮蔽部材6a2aを有する。
基準電位部6a2となる光電変換部2bの上にシンチレータ5が設けられない場合には、遮蔽部材6a2aは、X線吸収率が高い材料から形成される。X線吸収率が高い材料は、例えば、鉛、銅、鉄等の重金属とすることができる。基準電位部6a2となる光電変換部2bの上にシンチレータ5が設けられる場合には、X線吸収率が高い材料からなる遮蔽部材6a2aをシンチレータ5のX線の入射側に設けることができる。遮蔽部材6a2aがシンチレータ5とアレイ基板2との間に設けられる場合には、遮蔽部材6a2aはシンチレータ5からの蛍光を遮光することができる材料から形成することができる。蛍光を遮光することができる材料は、例えば、金属材料、無機材料、有機材料などから適宜選択することができる。
なお、光電変換部2bを覆う遮蔽部材6a2aを例示したが、図8に例示をした基準電位部6a1を覆う遮蔽部材6a2aを設けることもできる。
【0047】
遮蔽部材6a2aを設ければ、その下にある光電変換部2bにX線または蛍光が入射することがない。または、遮蔽部材6a2aの下にある基準電位部6a1にX線が入射することがない。そのため、X線がX線検出器1に照射された際に、遮蔽部材6a2aの下に設けられた光電変換部2bや基準電位部6a1において電流が発生するのを抑制することができる。すなわち、基準となる電位をほぼゼロにすることができる。
【0048】
なお、アレイ基板2の上に基準電位部を設ける場合には、得られるX線画像への影響を考慮して、アレイ基板2の周縁領域に基準電位部を設ける様にすることが好ましい。X線画像の撮影においては、中央領域がより重要な部分の撮影に用いられ、周縁領域は位置決めなどの比較的重要度の低い撮影に用いられるからである。
【0049】
図10は、入射放射線検出部6の効果を例示するためのグラフ図である。
なお、図10は、図9に例示をした基準電位部6a2、すなわち、遮蔽部材6a2aを設けた場合である。
図10中のX2は、入射したX線のパルス幅である。N2は、ノイズである。S2はX線の入射開始時の判定に用いることができる有効電気信号である。
図10から分かるように、X線が入射すると、電流積分値の差が増加する。そのため、電流積分値の差の変化を検出すればX線の入射開始時を検出することができる。
【0050】
また、前述したように、比較例に係るX線の入射開始時の検出方法においては、検出された電流積分値と、一つ前に検出された電流積分値との差を求める。そのため、横引きノイズ等による外乱ノイズの影響が増大されることになる。
これに対して、入射放射線検出部6(基準電位部6a、6a1、6a2)を設けるようにすれば、ほぼ同時に検出された光電変換部2bからの電流積分値と、基準電位部6aからの電流積分値との差を求めることができる。ほぼ同時に電流積分値を検出するようにすれば、検出された電流積分値に含まれる外乱ノイズが同等となるので、電流積分値の差を求めた際に外乱ノイズを相殺することができる。すなわち、同相ノイズを除去することができる。
その結果、例えば、図10図5とを比較すれば明らかな様に、ノイズN2はノイズN1にくらべて小さくなる。そのため、有効電気信号S2の値を大きくすることが可能となる。図5に例示をしたものの場合には、図10に例示をしたものと比較するとS/N比が5倍になった。
【0051】
図11は、薄膜トランジスタ2b2をオフ状態にして光電変換部2bからの電流を検出する工程におけるサンプリング幅と、求められた電流積分値の差との関係を例示するためのグラフ図である。
また、横軸はサンプリング幅、縦軸は求められた電流積分値の差を表している。
図11中の条件2は、条件1におけるX線管電流の2倍のX線管電流をX線源に流した場合である。
図11から分かるように、X線管電流に比例して求められた電流積分値の差が増加する。また、サンプリング幅を大きくすることによっても求められた電流積分値の差を増加させることができる。
そのため、信号検出回路32は、S/N比を向上させるために、薄膜トランジスタ2b2がオン状態の時のサンプリング幅と、薄膜トランジスタ2b2がオフ状態の時のサンプリング幅とを変更する。
この場合、信号検出回路32は、薄膜トランジスタ2b2がオフ状態の時のサンプリング幅が、薄膜トランジスタ2b2がオン状態の時のサンプリング幅よりも長くなるようにする。
【0052】
比較例に係るX線の入射開始時の検出方法においては、この現象をドレイン電極2b2cとソース電極2b2b間の浮遊結合静電容量の変化としている。すなわち、X線が照射された場合の浮遊結合静電容量の変化を電圧として検出し、このときの求められた電流積分値の差は、X線が照射されている制御ライン2c1に電気的に接続されている光電変換部2bの数に比例して増加するとしている。
【0053】
ところが、実際には、図11に示すように、サンプリング幅に比例して求められた電流積分値の差が増加している。このことは、薄膜トランジスタ2b2がオフ状態でも薄膜トランジスタ2b2にX線が照射されると、光電効果によりドレイン電極2b2cとソース電極2b2bとの間に電流が流れ、データライン2c2に電流が流れ続けるため、サンプリング幅に比例して求められた電流積分値の差が増加すると理解できる。
【0054】
図12は、薄膜トランジスタ2b2をオフ状態にして光電変換部2bからの電流を検出する工程におけるサンプリング幅と、求められた電流積分値の差との関係を例示するためのグラフ図である。
図12中の条件3は、図8に例示をした基準電位部6a1において、ドレイン電極2b2cとバイアスライン2c3を電気的に接続しない場合である。この場合、基準電位部6a1は、光電変換素子2b1の代わりに絶縁物を成膜したものとしている。条件4は、複数の制御ライン2c1が並ぶ方向に並べて設けられた一列の複数の光電変換部2bを基準電位部とした場合である。
なお、X線の照射条件は同じとしている。
【0055】
図12から分かるように、ドレイン電極2b2cに接続される要素の構成によっても求められた電流積分値の差が変化する。ドレイン電極2b2cとバイアスライン2c3を電気的に接続しない条件3では、求められた電流積分値の差は非常に小さくなる。これは、バイアスライン2c3からの電圧印加がないため、電流が流れにくかったためと考えられる。
このように、光電変換素子2b1が設けられていない基準電位部6a1を用いれば、求められた電流積分値の差のレベルはほとんど変わらず、かつ、同相ノイズを除去することができる。そのため、S/N比の向上を図ることができ、ひいては誤検出を抑制することができる。
【0056】
なお、以上のことは、基準電位部6aおよび基準電位部6a2の場合も同様である。
【0057】
一般的に、X線強度は中央領域から周縁領域に向かうに従い低下する傾向がある。そのため、周縁領域にある光電変換部2bの列を基準電位部とすれば、図12に例示をした効果が得られる。
また、中央領域にある光電変換部2bの列を基準電位部とする場合には、判定基準を工夫することによって同様の効果を得ることは十分可能である。
また、基準電位部6aとしても同相ノイズを除去することができる。
【0058】
また、図11において説明したように、求められた電流積分値の差はサンプリング幅に比例する。そのため、サンプリング幅を長くすれば、求められた電流積分値の差を大きくすることができるので、S/N比をさらに向上させることができる。
【0059】
また、信号検出回路32において、データライン2c2毎に電流積分値が異なるものとなる場合がある。
この場合、判定部6bは、複数のデータライン2c2毎の電流積分値を平均し、平均された電流積分値と基準電位部からの電流積分値との差に基づいてX射線の入射開始時を判定するようにする。
【0060】
以上に説明したように、本実施の形態に係るX線検出器1は、入射放射線検出部6を備えているので、ほぼ同時に検出された光電変換部2bからの電流積分値と、基準電位部6aからの電流積分値との差を求めることができる。ほぼ同時に検出するようにすれば、検出された電流積分値に含まれる外乱ノイズが同等となるので、電流積分値同士の差を求めた際に外乱ノイズを相殺することができる。すなわち、同相ノイズを除去することができる。そのため、S/N比を大幅に向上させることができるので、誤判定を抑制することができる。
【0061】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12